(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139233
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 7/345 20060101AFI20241002BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20241002BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C04B7/345
C04B22/14 D
C04B28/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050083
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】515181409
【氏名又は名称】MUマテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】森本 健斗
(72)【発明者】
【氏名】森 裕克
(72)【発明者】
【氏名】蒔田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MB33
4G112PB11
4G112PB12
4G112PC08
4G112PD02
(57)【要約】
【課題】低温においても初期の流動性を充分に有し、かつ優れた速硬性を有するセメント組成物を提供すること。
【解決手段】カルシウムサルフォアルミネートセメントを含む水硬性成分を含有するセメント組成物が開示される。カルシウムサルフォアルミネートセメント全量中の、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)の含有量は、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、かつC2S(2CaO・SiO2)の含有量は、20.0質量%以上50.0質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムサルフォアルミネートセメントを含む水硬性成分を含有し、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメント全量中の、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)の含有量が、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、かつC2S(2CaO・SiO2)の含有量が、20.0質量%以上50.0質量%以下である、
セメント組成物。
【請求項2】
前記水硬性成分が、ポルトランドセメント及び石膏をさらに含み、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメントに対する前記ポルトランドセメントの質量比が、0.1以上3.0以下であり、
前記水硬性成分全量中の石膏の含有量が、5.0質量%以上40.0質量%以下である、
請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記セメント組成物が、増粘剤をさらに含有する、
請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記セメント組成物が、セルフレベリング材に用いられる、
請求項1~3のいずれか一項に記載のセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルフレベリング材、断面修復材、グラウト等に利用されるセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウムサルフォアルミネートセメントは、主に膨張材、速硬系セメント組成物等の原材料の一つとして使用されている。カルシウムサルフォアルミネートセメントは、水和反応によって針状結晶のエトリンガイトを生成する過程で、混練水を大量に消費することで、収縮低減、早期の強度発現、及び速乾性を可能にしている。このような特徴を活かすことで、セルフレベリング材等の速硬性及び速乾性が求められる製品の原材料として使用されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/206824号
【特許文献2】特開2019-059651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、水硬性成分として、C4A3Sの含有量が比較的高いカルシウムサルフォアルミネートセメントを用いたセメント組成物は、低温(例えば、5℃程度)において充分な速硬性が得られない場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、低温においても初期の流動性を充分に有し、かつ優れた速硬性を有するセメント組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、カルシウムサルフォアルミネートセメント(以下、「CSA」という場合がある。)全量中のC4A3Sの含有量に着目したところ、CSAを含むセメント組成物において、CSA全量中のC4A3Sの含有量を特定の範囲に調整することで、低温においても良好な速硬性を得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、[1]~[4]のセメント組成物、及び、[5]、[6]の水硬性組成物を提供する。
[1]カルシウムサルフォアルミネートセメントを含む水硬性成分を含有し、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメント全量中の、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)の含有量が、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、かつC2S(2CaO・SiO2)の含有量が、20.0質量%以上50.0質量%以下である、
セメント組成物。
[2]前記水硬性成分が、ポルトランドセメント及び石膏をさらに含み、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメントに対する前記ポルトランドセメントの質量比が、0.1以上3.0以下であり、
前記水硬性成分全量中の石膏の含有量が、5.0質量%以上40.0質量%以下である、
[1]に記載のセメント組成物。
[3]前記セメント組成物が、増粘剤をさらに含有する、
[1]又は[2]に記載のセメント組成物。
[4]前記セメント組成物が、セルフレベリング材に用いられる、
[1]~[3]のいずれかに記載のセメント組成物。
[5]カルシウムサルフォアルミネートセメントを含み、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメント中の、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)の含有量が、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、C2S(2CaO・SiO2)の含有量が、20.0質量%以上50.0質量%以下である、
水硬性組成物。
[6]前記水硬性組成物が、ポルトランドセメント及び石膏をさらに含み、
前記カルシウムサルフォアルミネートセメントに対する前記ポルトランドセメントの質量比が、0.1以上3.0以下であり、
前記水硬性組成物中の石膏の含有量が、5.0質量%以上40.0質量%以下である、
[5]に記載の水硬性組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温においても初期の流動性を充分に有し、かつ優れた速硬性を有するセメント組成物が提供される。また、本発明のセメント組成物によれば、硬化中の体積変化(長さ変化)が少ない硬化体を得ることができる傾向がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、セメント組成物の硬化体の長さ変化測定装置を模式的に示す図である。
【
図2】
図2(a)、
図2(b)、及び
図2(c)は、セメント組成物が硬化する過程の試料の長さ変化の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本明細書中、以下で例示する材料は、特に断らない限り、条件に該当する範囲で、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
[セメント組成物]
本実施形態のセメント組成物は、水硬性成分を含有する。セメント組成物は、無機粉末、細骨材、再乳化樹脂粉末、減水剤、増粘剤、消泡剤、硬化促進剤、硬化遅延剤等をさらに含有していてもよい。
【0014】
<水硬性成分>
水硬性成分は、カルシウムサルフォアルミネートセメント(CSA)を含み、ポルトランドセメント及び石膏をさらに含んでいてもよい。水硬性成分は、好ましくは、CSA、ポルトランドセメント、及び石膏の三成分からなるものである。水硬性成分が三成分からなることにより、優れた流動性及び速硬性を有し、硬化中の体積変化(長さ変化)が少ない硬化体を得ることができる傾向がある。
【0015】
CSAは、例えば、石灰等の石灰質原料、石膏等の硫酸塩原料、ボーキサイト等のアルミナ原料などを原料とし、キルン等を用いて、1300℃程度で焼成し、粉砕して製造されるものである。CSAは、例えば、市販品を用いることができる。
【0016】
CSAは、主成分(主要鉱物)として、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)及びC2S(2CaO・SiO2)を含む。CSA全量中のC4A3S及びC2Sの合計の含有量は、例えば、好ましくは60.0質量%以上、より好ましくは70.0質量%以上、さらに好ましくは80.0質量%以上、特に好ましくは85.0質量%以上であってよい。CSAは、その他の成分(鉱物)として、CT(CaO・TiO2)等を含み得る。
【0017】
CSAの鉱物組成(CSA全量中のC4A3Sの含有量及びC2Sの含有量)は、粉末X線解析の測定結果より、リートベルト法に準拠して算出することができる。なお、CSAの鉱物組成は、CSAの粉末X線回折データをプロファイルフィッティング法により解析して測定する。プロファイルフィッティング法は、リートベルト解析法又はWPF(Whole pattern fitting)解析法を用いることができる(参考文献1:粉末X線回折の実際-リートベルト法入門、2002年、日本分析化学会X線分析研究懇談会)。
【0018】
より具体的には、CSAの鉱物組成は、粉末X線回折を利用したWPF解析法を用いて測定することができる。粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置RINT-2500((株)リガク製)を用い、管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10~60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°、及び受光スリット:0.15mmの条件で行うことができる。
【0019】
WPF解析法は、粉末X線回折パターン総合解析ソフトであるJADE6.0(Materials Data Inc.製)を使用することができる。表1に示す鉱物組成について、参考文献を初期値とし、各結晶相を精密化してフィッティングを行い、各鉱物の合計量を100としたときの鉱物組成を算出する。
【0020】
【0021】
参考文献2:Saalfeld H, Depmeier W Kristall und Technik 7 p229-233(1972)
参考文献3:Louisnathan, S.J. Can. Mineral., v10 p822(1971)
参考文献4:Ponomarev V.I., Kheiker D.M., Belov N.V. Sov. Phys. Crystallogr.,15, p995-998(1971)
参考文献5:Natl. Bur. Stand.(U.S.), Circ. 539, v9 p20(1960)
参考文献6:Wong-Ng, W., McMurdie, H., Paretzkin, B., Hubbard, C., Dragoo, A.,NBS(USA). ICDD Grant-inAid(1987)
参考文献7:Colville, A.A., Geller, S. Acta Crystallogr., Sec. B, v27p2311(1971)
参考文献8:Natl. Bur. Stand.(U.S.) Monogr. 25, v19 p29(1982)
【0022】
CSA全量中のC4A3Sの含有量は、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、かつCSA全量中のC2Sの含有量は、20.0質量%以上50.0質量%以下である。CSA全量中のC4A3Sの含有量及びC2Sの含有量がそれぞれこのような範囲にあることにより、セメント組成物において、低温における初期の流動性及び速硬性に優れる傾向がある。このような効果を奏する理由は、必ずしも定かではないが、本発明者らは、以下のように考えている。セメント組成物における速硬性を得る観点においては、水和反応が速いC4A3Sの含有量がCSA全量中に多いほど、有利になると考えられる。しかし、低温の場合、過剰に多くなると極初期に急激に水和反応が進行して、CSA粒子が水和生成物で急激に被覆されてしまうことにより、その後のCSAの水和反応が抑制され、その結果として、速硬性が低下することが推察される。そのため、CSA全量中のC4A3Sの含有量が適度であるCSAを用いることにより、低温における初期のCSAの水和反応を適切に調整することで、速硬性が得られると考えられる。なお、C4A3Sの含有量が多いCSAを用いる場合には、たとえ水硬性成分中のCSA量を減量したとしても、CSA粒子自体は急激に反応するため、速硬性は得られ難いと考えられる。
【0023】
CSA全量中のC4A3Sの含有量は、好ましくは35.0質量%以上、より好ましくは40.0質量%以上、さらに好ましくは45.0質量%以上であり、好ましくは62.0質量%以下、より好ましくは60.0質量%以下である。
【0024】
CSA全量中のC2Sの含有量は、好ましくは22.0質量%以上、より好ましくは25.0質量%以上であり、好ましくは45.0質量%以下、より好ましくは40.0質量%以下である。
【0025】
CSAのブレーン比表面積は、好ましくは2000cm2/g以上6000cm2/g以下、より好ましくは3000cm2/g以上5500cm2/g以下、さらに好ましくは4000cm2/g以上5000cm2/g以下である。CSAのブレーン比表面積がこのような範囲にあることにより、低温における初期の流動性及び速硬性により優れる傾向がある。
【0026】
本明細書において、ブレーン比表面積は、JIS R 5201:1997に準拠して測定した値を意味する。
【0027】
ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等が挙げられる。また、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメントをその代替として使用することもできる。ポルトランドセメントは、速硬性の観点から、好ましくは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、又は超早強ポルトランドセメントである。
【0028】
ポルトランドセメントのブレーン比表面積は、好ましくは3000cm2/g以上6000cm2/g以下、より好ましくは4000cm2/g以上5000cm2/g以下、さらに好ましくは4200cm2/g以上4800cm2/g以下である。ポルトランドセメントのブレーン比表面積がこのような範囲にあることにより、CSA、ポルトランドセメント、及び石膏を組み合わせときの強度発現性及び凝結時のバランスに優れる傾向がある。
【0029】
石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。また、排煙脱硫工程、フッ酸製造工程等で副産される石膏、又は、天然に産出される石膏のいずれも使用することができる。石膏は、流動性及び強度発現の観点から、好ましくは無水石膏である。
【0030】
石膏のブレーン比表面積は、好ましくは2000cm2/g以上6000cm2/g以下、より好ましくは2500cm2/g以上5500cm2/g以下、さらに好ましくは3000cm2/g以上5000cm2/g以下である。石膏のブレーン比表面積がこのような範囲にあることにより、その取扱いが容易となり、汎用性が高く、さらには安価なコストで入手し易くなる傾向がある。
【0031】
CSAに対するポルトランドセメントの質量比(ポルトランドセメントの質量/CSAの質量)は、0.1以上3.0以下である。当該質量比がこのような範囲にあることにより、セメント組成物において、低温における初期の流動性及び速硬性により一層優れる傾向がある。当該質量比は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.25以上であり、好ましくは2.8以下、より好ましくは2.6以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0032】
水硬性成分全量中のCSA及びポルトランドセメントの合計の含有量は、好ましくは60.0質量%以上95.0質量%以下である。水硬性成分全量中のCSA及びポルトランドセメントの合計の含有量は、より好ましくは65.0質量%以上、さらに好ましくは68.0質量%以上であり、より好ましくは92.0質量%以下、さらに好ましくは90.0質量%以下である。
【0033】
水硬性成分全量中の石膏の含有量は、好ましくは5.0質量%以上40.0質量%以下である。水硬性成分全量中の石膏の含有量は、より好ましくは8.0質量%以上、さらに好ましくは10.0質量%以上であり、より好ましくは35.0質量%以下、さらに好ましくは32.0質量%以下である。
【0034】
セメント組成物全量中の水硬性成分の含有量は、好ましくは15.0質量%以上50.0質量%以下である。セメント組成物全量中の水硬性成分の含有量は、より好ましくは18.0質量%以上、さらに好ましくは20.0質量%以上であり、より好ましくは45.0質量%以下、さらに好ましくは40.0質量%以下である。
【0035】
<無機粉末>
無機粉末としては、高炉スラグ微粉末、炭酸カルシウム微粉末、フライアッシュ微粉末等が挙げられる。これらの中でも、無機粉末は、潜在水硬性を有することから、好ましくは高炉スラグ微粉末である。
【0036】
高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積は、好ましくは3000cm2/g以上、より好ましくは3000cm2/g以上8000cm2/g以下、さらに好ましくは3500cm2/g以上6000cm2/g以下、特に好ましくは4000cm2/g以上5000cm2/g以下である。高炉スラグ微粉末のブレーン比表面積がこのような範囲にあることにより、優れた流動性、寸法安定性、及び強度発現性が得られる傾向がある。
【0037】
無機粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上135質量部以下、より好ましくは45質量部以上130質量部以下、さらに好ましくは50質量部以上120質量部以下である。無機粉末の含有量がこのような範囲にあることにより、優れた流動性、寸法安定性、及び強度発現性が得られる傾向がある。
【0038】
<細骨材>
細骨材は、珪砂、川砂、海砂、山砂、砕砂等の砂類、アルミナクリンカー、シリカ粉、粘土鉱物、廃FCC(流動接触分解)触媒、石灰石等の無機材料などが挙げられる。細骨材は、好ましくは砂類である。
【0039】
細骨材は、流動性の観点から、好ましくは、最大粒子径が0.85mm以下であり、細骨材全量中に0.6mm超の粒子径を有する粗粒分を5質量%未満含む細骨材である。細骨材全量中の粗粒分の割合は、好ましくは0質量%以上3質量%以下、より好ましくは0質量%以上0.5質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上0.2質量%以下である。
【0040】
細骨材の粒子径は、JIS A 1102:2014に規定される骨材のふるい分け試験方法に準じて求めることができる。また、本明細書において、「粒子径0.6mm超の粗粒分」とは、公称目開きが0.6mmの篩いを用いたときに、その篩にとどまる細骨材の質量分率(%)を意味する。
【0041】
細骨剤の吸水率は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.95%以下、さらに好ましくは2.90%以下、特に好ましくは2.80%以下である。これにより、より優れた流動性を得ることができる傾向がある。本明細書において、「吸水率」とは、JIS A 1109:2020に規定されている骨材の吸水率(%)の測定方法に準拠して測定した値を意味する。
【0042】
細骨材の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは90質量部以上300質量部以下、より好ましくは95質量部以上275質量部以下、さらに好ましくは100質量部以上250質量部以下である。細骨材の含有量がこのような範囲にあることにより、優れた流動性及び優れた速硬速乾性を得ることができる傾向がある。
【0043】
<再乳化形樹脂粉末>
再乳化形樹脂粉末は、公知の製造方法で製造された粉末を用いることができる。再乳化形樹脂粉末の主成分の組成は、特に限定されないが、紫外線に対する抵抗性等の耐候性をより向上させる点から、再乳化形樹脂粉末の主成分は、好ましくはアクリル系共重合体、より好ましくは酢酸ビニル/アクリル共重合体である。
【0044】
再乳化形樹脂粉末の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上15質量部以下、より好ましくは2質量部以上12質量部以下、さらに好ましくは3質量部以上10質量部以下である。再乳化形樹脂粉末の含有量が下限以上であると、硬化体の表面強度がより向上する傾向がある。再乳化形樹脂粉末の含有量が上限以下であると、粘度も過度に大きくなり難い傾向がある。
【0045】
<減水剤>
減水剤としては、例えば、減水効果を合わせ持つ、メラミンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、カゼイン、カゼインカルシウム、ポリカルボン酸系、ポリエーテル系、ポリエーテルポリカルボン酸系等の市販の減水剤が挙げられる。減水剤は、その種類を問わず使用できる。
【0046】
減水剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.03質量部以上1.5質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上1.0質量部以下である。減水剤の含有量がこのような範囲にあることにより、鏝塗り施工性及び接着性がより良好になる傾向がある。
【0047】
<増粘剤>
増粘剤は、好ましくはメチルセルロース系増粘剤である。増粘剤がメチルセルロース系増粘剤であることにより、水硬性成分、細骨材等の分離抑制、気泡発生の抑制、及び硬化体表面性状の改善を実現することができる傾向がある。メチルセルロース系増粘剤は、その種類を問わず用いることができるが、好ましくは、ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤又はヒドロキシプロピルメチルセルロース系増粘剤である。
【0048】
増粘剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上1.5質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上1.4質量部以下、さらに好ましくは0.04質量部以上1.3質量部以下である。増粘剤の含有量がこのような範囲にあることにより、各成分が分離し難くなり、優れた流動性が得られ、かつより良好な表面性状の硬化体を得ることができる傾向がある。
【0049】
<消泡剤>
消泡剤としては、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系等の合成物質、植物由来の天然物質等の公知の物質が挙げられる。消泡剤は、価格及び入手のし易さの観点から、好ましくはポリエーテル系消泡剤である。消泡剤を用いることで、水硬性組成物の施工性の向上が期待できる。
【0050】
消泡剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上5.0質量部以下、より好ましくは0.10質量部以上3.0質量部以下、さらに好ましくは0.12質量部以上2.0質量部以下である。消泡剤の含有量がこのような範囲にあることにより、施工性をより向上させることができる傾向がある。
【0051】
<硬化促進剤>
硬化促進剤は、流動性を保持しつつ優れた速硬性が得られる観点から、好ましくはリチウム塩である。
【0052】
リチウム塩のとしては、例えば、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩、シュウ酸リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウム等の有機リチウム塩などが挙げられる。リチウム塩は、硬化促進効果、入手容易性及び価格の面から、好ましくは炭酸リチウムである。
【0053】
硬化促進剤としては、リチウム塩以外に、公知の硬化を促進する成分を併用して用いることができる。このような成分としては、例えば、アルミン酸ナトリウム等のアルミン酸塩、硫酸アルミニウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、蟻酸カルシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
【0054】
硬化促進剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.03質量部以上1.0質量部以下、さらに好ましくは0.04質量部以上0.5質量部以下である。
【0055】
<硬化遅延剤>
硬化遅延剤としては、例えば、オキシカルボン酸類等の有機酸、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0056】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α-オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m-オキシ安息香酸、p-オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸、トロパ酸等の芳香族オキシ酸などが挙げられる。
【0057】
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩等)が挙げられる。オキシカルボン酸の塩は、好ましくはナトリウム塩である。
【0058】
硬化遅延剤は、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から、好ましくは酒石酸ナトリウムである。硬化遅延剤は、酒石酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムとを併用して使用することがより好ましい。
【0059】
硬化遅延剤の含有量は、水硬性成分100質量部に対して、好ましくは0.10質量部以上2.0質量部以下、より好ましくは0.20質量部以上1.5質量部以下、さらに好ましくは0.30質量部以上1.2質量部以下である。硬化遅延剤の含有量がこのような範囲にあることにより、より優れた流動性を有し、好適な流動性保持時間を得ることができる傾向がある。
【0060】
本実施形態のセメント組成物は、水硬性成分、無機粉末、細骨材、再乳化樹脂粉末、減水剤、増粘剤、消泡剤、硬化促進剤、硬化遅延剤等を混合・混練することによって得ることができる。
【0061】
本実施形態のセメント組成物によれば、低温においても初期の流動性を充分に有し、かつ優れた速硬性を有する。そのため、本実施形態のセメント組成物は、セルフレベリング材として好適に用いることができる。
【0062】
本実施形態のセメント組成物は、所定量の水と混合・混練することによって、モルタル組成物を調製することができる。すなわち、モルタル組成物は、セメント組成物と水とを含有する。水としては、例えば、水道水、蒸留水、脱イオン水等が挙げられる。モルタル組成物において、水の配合量は、セメント組成物100質量部に対して、好ましくは5質量部以上80質量部以下、より好ましくは10質量部以上60質量部以下、さらに好ましくは15質量部以上40質量部以下である。
【0063】
本実施形態のセメント組成物から得られるモルタル組成物を硬化させることによってモルタル硬化体を得ることができる。
【0064】
[水硬性組成物]
本実施形態のセメント組成物は、カルシウムサルフォアルミネートセメント(CSA)を含む。CSA全量中の、C4A3S(4CaO・3Al2O3・SO3)の含有量は、30.0質量%以上65.0質量%以下であり、かつC2S(2CaO・SiO2)の含有量は、20.0質量%以上50.0質量%以下である。
【0065】
水硬性組成物は、ポルトランドセメント及び石膏をさらに含んでいてもよい。CSAに対するポルトランドセメントの質量比は、0.1以上3.0以下である。水硬性組成物全量中の石膏の含有量は、5.0質量%以上40.0質量%以下である。
【0066】
水硬性組成物に含まれる各成分、好ましい態様等は、上記の水硬性成分に含まれる各成分、好ましい態様等と同様である。したがって、ここでは、重複する説明を省略する。
【実施例0067】
以下、本発明について、実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0068】
[使用材料]
(1)水硬性成分
(a)カルシウムサルフォアルミネートセメント(CSA)
・A(鉱物組成:C4A3S 70.0%、C2S 19.5%、ブレーン比表面積:4990cm2/g)
・B(鉱物組成:C4A3S 59.0%、C2S 26.7%、ブレーン比表面積:4900cm2/g)
・C(鉱物組成:C4A3S 49.0%、C2S 37.8%、ブレーン比表面積:4800cm2/g)
(b)ポルトランドセメント(PC)
・早強ポルトランドセメント(UBE三菱セメント(株)製、ブレーン比表面積:4540cm2/g)
(c)石膏(GG)
・無水石膏(タイ産天然無水石膏、ブレーン比表面積:3950cm2/g)
(2)無機粉末
・高炉スラグ微粉末(リバーメント、UBE三菱セメント(株)製、ブレーン比表面積:4870cm2/g)
(3)細骨材
・6号珪砂(高野商事(株)製、粒子径0.6mm超の粗粒分:0.1質量%、吸水率:2.16%)
(4)再乳化樹脂粉末
・酢酸ビニル/アクリル共重合体
(5)減水剤
・ポリカルボン酸系減水剤
(6)増粘剤
・ヒドロキシエチルメチルセルロース系増粘剤
(7)消泡剤
・ポリエーテル系消泡剤
(8)硬化促進剤
・炭酸リチウム
(9)硬化遅延剤
・A(酒石酸ナトリウム)
・B(重炭酸ナトリウム)
【0069】
CSAの鉱物組成は、粉末X線回折を利用したWPF解析法を用いて測定した。粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置RINT-2500((株)リガク製)を用い、管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10~60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°、及び受光スリット:0.15mmの条件で行った。WPF解析法は、粉末X線回折パターン総合解析ソフトであるJADE6.0(Materials Data Inc.製)を使用した。表1に示す鉱物組成について、参考文献を初期値とし、各結晶相を精密化してフィッティングを行い、各鉱物の合計量を100としたときの鉱物組成を算出した。
【0070】
[水硬性成分及びセメント組成物の配合量]
水硬性成分の各成分の配合量(単位:質量%(水硬性成分全量基準))を表2に示す。また、セメント組成物の配合量(単位:質量部)を表3に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
[モルタル組成物の調製]
上記のセメント組成物(総量1.5kg)に水を加えて混合・混練することで、実施例1~10及び比較例1~8のモルタル組成物を調製した。より具体的には、上記のセメント組成物に水330gを加え、ケミスターラーを用いて3分混練した。混練は、温度5℃、65%RHに設定した恒温恒湿室内で実施した。
【0074】
[モルタル組成物の評価試験]
養生及び測定は、温度5℃、65%RHに設定した恒温恒湿室内で実施した。
【0075】
(1)流動性試験:フロー値の測定
モルタル組成物のフロー値は、社団法人日本建築学会JASS 15M-103「セルフレベリング材の品質基準」に準拠した方法にて測定した。結果を表4~表6に示す。
【0076】
(2)速硬性試験:硬化表面硬度の測定
130×190mmの樹脂製の型枠に厚さ10mmでモルタル組成物を流し込み、スプリング式硬度計タイプD型にて各時間での値を硬化表面硬度として測定した。結果を表4~表6に示す。なお、硬化表面硬度が10以上(≧10)であると、軽歩行可能の状態であるといえる。表中、「-」は硬化が未だ始まっておらず測定が不可能であったことを意味している。
【0077】
(3)圧縮強度
JASS・15M-103「社団法人日本建築学会:セルフレベリング材の品質基準」に準拠して圧縮強度を各材齢にて測定した。
【0078】
(4)初期膨張率及び収縮率
図1(a)及び
図1(b)は、セメント組成物の硬化体の長さ変化測定装置を模式的に示す図である。長さ変化測定装置71は、型枠72と、SUS製円盤75a,75b,75cと、緩衝材73と、渦電流式変位センサー74と、SUS製円盤75a及びSUS製円盤75bを連結するSUS棒76aと、型枠72及びSUS製円盤75cを連結するSUS棒76bとを有している。SUS製円盤75cは、SUS棒76bにより型枠72に固定されている。SUS製円盤75a及びSUS製円盤75bは、型枠72に固定されておらず、型枠72(フッ素樹脂シート77)内部にセメント組成物を充填し、セメント組成物の硬化時の膨張又は収縮と共に移動する。SUS製円盤75a及びSUS製円盤75bは、膨張の場合矢印y方向に移動し、収縮の場合x方向に移動する。渦電流式変位センサー74は、SUS製円盤75bのx方向又はy方向の移動の変位量を測定するセンサーである。
【0079】
セメント組成物を
図1(b)に示す長さ変化測定装置71の型枠72(フッ素樹脂シート77)内部に、型枠72の高さc(10mm)まで満たして成型し、成型直後より長さ変化の測定を開始した。測定間隔は5分毎に行い、材齢28日まで気温5℃、相対湿度65%の環境下にて長さ変化率を測定した。長さ変化率は、測定間隔毎における、
図1(a)に示すSUS製円盤75bと渦電流式変位センサー74の端部(SUS製円盤75b側の端部)との間隔の変化量(mm)を、測定開始時のSUS製円盤75aとSUS製円盤75cとの間隔b(480mm)で除して求めた。
【0080】
<初期膨張率の評価>
長さ変化率が
図2(a)に示すように、初期膨張点(b点)を有する場合、b点の長さ変化率を初期膨張率とした。長さ変化率が
図2(b)に示すように、基長を超えて膨張することなく収縮する場合、a点を初期膨張率とした。長さ変化率が
図2(c)に示すように、基長を超えて収縮することなく膨張する場合、初期膨張率は無しとした。結果を表3及び表4に示す。
【0081】
<収縮率の評価>
長さ変化率が
図2(a)に示すように、初期膨張点(b点)を有する場合、b点の長さ変化率からc点の長さ変化率を差し引いた値を収縮率(28日)とした。長さ変化率が
図2(b)に示すように、基長を超えて膨張することなく収縮する場合、a点の長さ変化率からc点の長さ変化率を差し引いた値を収縮率(28日)とした。長さ変化率が
図2(c)に示すように、基長を超えて収縮することなく膨張する場合、収縮率は無しとした。結果を表3及び表4に示す。
【0082】
[評価試験結果]
(1)水硬性成分の配合量を同一にしたときの流動性、速硬性、及び硬化物性の比較
水硬性成分の配合量を同一にしたときの各評価試験結果を表4に示す。実施例1及び2については4h(時間)で軽歩行可能の状態(硬化表面硬度:≧10)を満たしていた。一方で、比較例1においては、フロー値が同等程度でありながら6h経過時点で軽歩行可能の状態を満たしていなかった。また、実施例1及び2のモルタル組成物は、比較例1のモルタル組成物に比べて、硬化中の体積変化(長さ変化)が少ないことが判明した。
【0083】
【0084】
(2)C4A3Sの含有量を調整したときの流動性、速硬性、及び硬化物性の比較
水硬性成分として、C4A3Sの含有量が比較的高いCSAを用いたセメント組成物は、低温において充分な速硬性が得られない場合がある。表4に示す評価結果は、水硬性成分全量中のC4A3Sの含有量が減少したために速硬性が向上したと推察することができる。そこで、水硬性成分全量中のC4A3Sの含有量をほぼ同一に調整して各評価試験を実施した。各評価試験結果を表5に示す。比較例2においては、実施例2及び実施例3に比べて、著しい硬化遅延が確認された。これらの結果から、流動性及び速硬性に優れるという効果が、水硬性成分全量中のC4A3Sの含有量に依存するものでないことが示唆される。
【0085】
【0086】
(3)三成分を様々な配合量に調整したときの流動性及び速硬性の比較
CSAとして、A及びCを用いて、水硬性成分の配合量を変化させて、各評価試験を実施した。各評価試験結果を表6に示す。表6に示すとおり、CSAとして、Aを用いた場合は、Cを用いた場合に比べて、速硬性に優れる配合が得られなかった。これらの結果から、低温における速硬性に関しては、CSA全量中のC4A3Sの含有量が重要な影響因子であることが判明した。
【0087】
【0088】
以上の評価結果より、本発明のセメント組成物は、低温においても初期の流動性を充分に有し、かつ優れた速硬性を有することが確認された。
71…長さ変化測定装置、72…型枠、73…緩衝材、74…渦電流式変位センサー、75a,75b,75c…SUS製円盤、76a,76b…SUS棒、77…フッ素樹脂シート。