(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139251
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
F04C18/02 311Q
F04C18/02 311M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050108
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 詩織
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】並木 謙
【テーマコード(参考)】
3H039
【Fターム(参考)】
3H039AA02
3H039AA12
3H039BB01
3H039BB05
3H039CC03
3H039CC08
3H039CC13
(57)【要約】
【課題】旋回基板の強度を確保しつつも、旋回スクロールの公転運動を妨げること無く旋回スクロールの重心の調整を行うこと。
【解決手段】旋回スクロール26は、ボス部28の外周面に、ボス部28の径方向外側に向けて突出する旋回スクロール26の重心調整用の凸部53を有している。したがって、旋回基板26aにおける巻き終わり部52側に位置する部分の厚みを薄くし過ぎること無く、旋回スクロール26の重心の調整が行われる。ボス部28の外周面と軸支ハウジングの周壁との間のクリアランスが凸部53の配置スペースとして利用されている。よって、ボス部28の外周面に凸部53を突出させても、旋回スクロール26が固定スクロールに対して公転運動したときに、凸部53が軸支ハウジングの周壁に干渉することが回避されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転可能に支持される回転軸と、
固定基板、及び前記固定基板から起立する固定渦巻壁を有するとともに前記ハウジングに固定された固定スクロールと、
前記固定基板に対向する旋回基板、及び前記旋回基板から前記固定基板に向けて起立して前記固定渦巻壁と噛み合う旋回渦巻壁を有するとともに前記回転軸の回転によって公転する旋回スクロールと、
前記固定基板、前記固定渦巻壁、前記旋回基板、及び前記旋回渦巻壁によって区画され、前記固定渦巻壁と前記旋回渦巻壁との噛み合わせによって流体を圧縮する圧縮室と、
前記回転軸の端面から突出するとともに前記回転軸の軸線に対して偏心した位置で前記回転軸と平行に延びる偏心軸と、
前記旋回基板の背面から筒状に突出するとともに前記偏心軸が内側に挿入されるボス部と、
前記ボス部の内側に配置されるとともに前記偏心軸を前記ボス部に対して回転可能に支持する軸受と、を備え、
前記旋回スクロールは、前記回転軸の回転が前記偏心軸及び前記軸受を介して伝達されることにより、前記固定スクロールに対して公転するスクロール型圧縮機であって、
前記旋回スクロールは、前記ボス部の外周面に、前記ボス部の径方向外側に向けて突出する前記旋回スクロールの重心調整用の凸部を有していることを特徴とするスクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記背面における前記旋回渦巻壁の巻き終わり部側に位置する部分には、重心調整用凹部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されているように、スクロール型圧縮機は、ハウジングと、回転軸と、を備えている。回転軸は、ハウジングに回転可能に支持されている。スクロール型圧縮機は、固定スクロールと、旋回スクロールと、圧縮室と、を備えている。固定スクロールは、ハウジングに固定されている。固定スクロールは、固定基板、及び固定渦巻壁を有している。固定渦巻壁は、固定基板から起立している。旋回スクロールは、旋回基板、及び旋回渦巻壁を有している。旋回基板は、固定基板に対向している。旋回渦巻壁は、旋回基板から固定基板に向けて起立している。旋回渦巻壁は、固定渦巻壁と噛み合う。旋回スクロールは、回転軸の回転によって公転する。圧縮室は、固定基板、固定渦巻壁、旋回基板、及び旋回渦巻壁によって区画されている。圧縮室は、固定渦巻壁と旋回渦巻壁との噛み合わせによって流体を圧縮する。
【0003】
スクロール型圧縮機は、偏心軸を備えている。偏心軸は、回転軸の端面から突出している。偏心軸は、回転軸の軸線に対して偏心した位置で回転軸と平行に延びている。スクロール型圧縮機は、ボス部を備えている。ボス部は、旋回基板の背面から筒状に突出している。ボス部の内側には、偏心軸が挿入されている。スクロール型圧縮機は、軸受を備えている。軸受は、ボス部の内側に配置されている。軸受は、偏心軸をボス部に対して回転可能に支持している。そして、旋回スクロールは、回転軸の回転が偏心軸及び軸受を介して伝達されることにより、固定スクロールに対して公転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなスクロール型圧縮機において、旋回スクロールの重心は、旋回基板の中心に対して、旋回渦巻壁の巻き終わり部側にずれる。旋回スクロールの重心が旋回基板の中心に対してずれたままであると、回転軸の回転に伴う旋回スクロールの自転モーメントが変動してしまうことが既に知られている。この旋回スクロールにおける自転モーメントの変動は、例えば、騒音の発生の要因となる。したがって、旋回スクロールの重心が旋回基板の中心に近づくように、旋回スクロールの重心の調整を行う必要がある。
【0006】
旋回スクロールの重心の調整の方法としては、例えば、旋回基板における旋回渦巻壁の巻き終わり部側に位置する部分の厚みを薄くすることが考えられる。しかしながら、旋回基板の厚みを薄くし過ぎると、旋回基板の強度が低くなり過ぎてしまう虞があるため、旋回基板の厚みを薄くするにも限界がある。
【0007】
一方で、旋回スクロールの重心の調整の方法として、例えば、旋回基板における旋回渦巻壁の巻き終わり部とは反対側に位置する部分の厚みを厚くすることも考えられる。しかしながら、旋回基板における旋回渦巻壁の巻き終わり部とは反対側に位置する部分の厚みを厚くすると、旋回スクロールが固定スクロールに対して公転運動したときに、旋回基板において厚みを厚くした部分が旋回スクロールの周囲に存在する部品に干渉する虞がある。よって、旋回基板における旋回渦巻壁の巻き終わり部とは反対側に位置する部分の厚みを厚くすることによって、旋回スクロールの公転運動を妨げてしまう虞がある。したがって、旋回基板の強度を確保しつつも、旋回スクロールの公転運動を妨げること無く旋回スクロールの重心の調整を行うことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するスクロール型圧縮機は、ハウジングと、前記ハウジングに回転可能に支持される回転軸と、固定基板、及び前記固定基板から起立する固定渦巻壁を有するとともに前記ハウジングに固定された固定スクロールと、前記固定基板に対向する旋回基板、及び前記旋回基板から前記固定基板に向けて起立して前記固定渦巻壁と噛み合う旋回渦巻壁を有するとともに前記回転軸の回転によって公転する旋回スクロールと、前記固定基板、前記固定渦巻壁、前記旋回基板、及び前記旋回渦巻壁によって区画され、前記固定渦巻壁と前記旋回渦巻壁との噛み合わせによって流体を圧縮する圧縮室と、前記回転軸の端面から突出するとともに前記回転軸の軸線に対して偏心した位置で前記回転軸と平行に延びる偏心軸と、前記旋回基板の背面から筒状に突出するとともに前記偏心軸が内側に挿入されるボス部と、前記ボス部の内側に配置されるとともに前記偏心軸を前記ボス部に対して回転可能に支持する軸受と、を備え、前記旋回スクロールは、前記回転軸の回転が前記偏心軸及び前記軸受を介して伝達されることにより、前記固定スクロールに対して公転するスクロール型圧縮機であって、前記旋回スクロールは、前記ボス部の外周面に、前記ボス部の径方向外側に向けて突出する前記旋回スクロールの重心調整用の凸部を有している。
【0009】
これによれば、旋回スクロールが、ボス部の外周面に、ボス部の径方向外側に向けて突出する旋回スクロールの重心調整用の凸部を有していることにより、旋回スクロールの重心を旋回基板の中心に近づけることができる。したがって、旋回基板における巻き終わり部側に位置する部分の厚みを薄くし過ぎること無く、旋回スクロールの重心の調整を行うことができる。また、ボス部が旋回基板の背面から筒状に突出している構成は、スクロール型圧縮機において既存の構成である。ここで、旋回スクロールが固定スクロールに対して公転運動したときに、ボス部が周囲に存在する部品に干渉しないように、ボス部の外周面と周囲に存在する部品との間には比較的余裕のあるクリアランスを持たすことが一般的である。よって、ボス部の外周面と周囲に存在する部品との間のクリアランスを凸部の配置スペースとして利用することができる。したがって、ボス部の外周面に凸部を突出させても、旋回スクロールが固定スクロールに対して公転運動したときに、凸部がボス部の周囲に存在する部品に干渉することが回避されている。よって、ボス部の外周面に凸部を突出させても、旋回スクロールの公転運動を妨げることが無い。以上により、旋回基板の強度を確保しつつも、旋回スクロールの公転運動を妨げること無く旋回スクロールの重心の調整を行うことができる。
【0010】
上記スクロール型圧縮機において、前記背面における前記旋回渦巻壁の巻き終わり部側に位置する部分には、重心調整用凹部が形成されているとよい。
このように、旋回基板の背面における旋回渦巻壁の巻き終わり部側に位置する部分に重心調整用凹部を形成することにより、旋回スクロールの重心を旋回基板の中心に近づけることが考えられる。しかしながら、重心調整用凹部を深くし過ぎると、旋回基板の強度が低くなり過ぎてしまうため、重心調整用凹部を深くするにも限界がある。そこで、旋回スクロールが、ボス部の外周面に、ボス部の径方向外側に向けて突出する凸部を有している。これによれば、重心調整用凹部を深くしなくても、旋回スクロールの重心を旋回基板の中心に近づけることができる。よって、旋回基板の背面における旋回渦巻壁の巻き終わり部側に位置する部分に重心調整用凹部が形成されている旋回スクロールにおいて、旋回基板の強度を確保しつつも、旋回スクロールの重心の調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、旋回基板の強度を確保しつつも、旋回スクロールの公転運動を妨げること無く旋回スクロールの重心の調整を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態におけるスクロール型圧縮機を示す断面図である。
【
図2】
図2は、固定スクロール及び旋回スクロールを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、スクロール型圧縮機を具体化した一実施形態を
図1~
図5にしたがって説明する。本実施形態のスクロール型圧縮機は、例えば、車両空調装置に用いられる。
<スクロール型圧縮機の全体構成>
図1に示すように、スクロール型圧縮機10は、筒状のハウジング11を備えている。ハウジング11は、モータハウジング12と、軸支ハウジング13と、吐出ハウジング14と、を有している。モータハウジング12、軸支ハウジング13、及び吐出ハウジング14は金属材料製である。モータハウジング12、軸支ハウジング13、及び吐出ハウジング14は、例えば、アルミニウム製である。スクロール型圧縮機10は、回転軸15を備えている。回転軸15は、ハウジング11内に収容されている。
【0014】
モータハウジング12は、端壁12aと、周壁12bと、を有している。端壁12aは、円板状である。周壁12bは、端壁12aの外周部から円筒状に延びている。周壁12bの軸方向は、回転軸15の軸方向に一致している。モータハウジング12は、吸入口12hを有している。吸入口12hは、流体である冷媒ガスを吸入する。吸入口12hは、周壁12bにおける端壁12a寄りに位置する部分に形成されている。吸入口12hは、モータハウジング12内とモータハウジング12の外部とを連通している。
【0015】
モータハウジング12は、軸受保持部12dを有している。軸受保持部12dは、端壁12aの内面の中央部から突出する円筒状である。回転軸15の第1端部は、軸受保持部12d内に挿入されている。
【0016】
スクロール型圧縮機10は、第1軸受16を備えている。第1軸受16は、軸受保持部12dの内周面と回転軸15の第1端部の外周面との間に設けられている。そして、回転軸15の第1端部は、第1軸受16を介してモータハウジング12に回転可能に支持されている。
【0017】
軸支ハウジング13は、端壁17と、周壁18と、を有している。端壁17は、円板状である。周壁18は、端壁17の外周部から円筒状に延びている。周壁18の軸方向は、回転軸15の軸方向に一致している。軸支ハウジング13は、フランジ壁19を有している。フランジ壁19は、周壁18の外周面における端壁17とは反対側の端部から回転軸15の径方向外側に向けて延びる円環状である。フランジ壁19の外周部は、モータハウジング12の周壁12bの開口端に接触している。軸支ハウジング13は、モータハウジング12の周壁12bの開口を閉塞している。
【0018】
端壁17は、円孔状の挿通孔17aを有している。挿通孔17aは、端壁17の中央部に形成されている。挿通孔17aは、端壁17を厚み方向に貫通している。挿通孔17aには、回転軸15が挿通されている。回転軸15の第2端部側に位置する端面15eは、周壁18の内側に位置している。
【0019】
スクロール型圧縮機10は、第2軸受21を備えている。第2軸受21は、周壁18の内周面と回転軸15の外周面との間に設けられている。そして、回転軸15は、第2軸受21を介して軸支ハウジング13に回転可能に支持されている。したがって、回転軸15は、ハウジング11に回転可能に支持されている。
【0020】
スクロール型圧縮機10は、モータ室20を備えている。モータ室20は、モータハウジング12と軸支ハウジング13とによって区画されている。したがって、ハウジング11は、モータ室20を区画する。モータ室20内には、吸入口12hからの冷媒ガスが吸入される。
【0021】
スクロール型圧縮機10は、モータ22を備えている。モータ22は、モータ室20内に収容されている。モータ22は、筒状のステータ23と、筒状のロータ24と、を有している。ロータ24は、ステータ23の内側に配置されている。ロータ24は、回転軸15と一体的に回転する。ステータ23は、ロータ24を取り囲んでいる。
【0022】
ロータ24は、回転軸15に固定されたロータコア24aと、ロータコア24aに設けられた図示しない複数の永久磁石と、を有している。ステータ23は、モータハウジング12の周壁12bの内周面に固定された筒状のステータコア23aと、ステータコア23aに巻回されたコイル23bと、を有している。そして、図示しないインバータによって制御された電力がコイル23bに供給されることによりロータ24が回転する。これにより、回転軸15がロータ24と一体的に回転する。したがって、モータ22は、回転軸15を回転させる。
【0023】
吐出ハウジング14は、端壁14aと、周壁14bと、を有している。端壁14aは、円板状である。周壁14bは、端壁14aの外周部から円筒状に延びている。周壁14bの軸方向は、回転軸15の軸方向に一致している。周壁14bの開口端は、フランジ壁19の外周部に接触している。
【0024】
フランジ壁19の外周部は、モータハウジング12の周壁12bの開口端に連結されるとともに、吐出ハウジング14の周壁14bの開口端は、フランジ壁19の外周部に連結されている。これにより、軸支ハウジング13がモータハウジング12の周壁12bに連結されるとともに、吐出ハウジング14が軸支ハウジング13のフランジ壁19に連結されている。したがって、モータハウジング12、軸支ハウジング13、及び吐出ハウジング14は、この順序で、回転軸15の軸方向に並んで配置されている。
【0025】
スクロール型圧縮機10は、圧縮機構C1を備えている。圧縮機構C1は、固定スクロール25と、旋回スクロール26と、を有している。したがって、スクロール型圧縮機10は、固定スクロール25と、旋回スクロール26と、を備えている。
【0026】
固定スクロール25及び旋回スクロール26は、吐出ハウジング14の周壁14bの内側に配置されている。固定スクロール25は、軸支ハウジング13の端面13eと吐出ハウジング14の端壁14aとによって挟み込まれている。これにより、固定スクロール25は、ハウジング11に固定されている。固定スクロール25は、回転軸15の軸方向において、旋回スクロール26よりも吐出ハウジング14の端壁14a寄りに位置している。
【0027】
図1及び
図2に示すように、固定スクロール25は、固定基板25a、固定渦巻壁25b、及び固定外周壁25cを有している。固定基板25aは、円板状である。固定基板25aは、吐出ポート25hを有している。吐出ポート25hは、固定基板25aの中央に形成されている。吐出ポート25hは、円孔状である。吐出ポート25hは、固定基板25aを厚み方向に貫通している。
【0028】
固定渦巻壁25bは、固定基板25aから端壁14aとは反対側に向けて起立している。固定外周壁25cは、固定基板25aの外周部から円筒状に起立している。固定外周壁25cは、固定渦巻壁25bを囲繞している。固定外周壁25cの開口端面は、固定渦巻壁25bの先端面よりも固定基板25aとは反対側に位置している。
【0029】
図1及び
図3に示すように、旋回スクロール26は、旋回基板26a、及び旋回渦巻壁26bを有している。旋回基板26aは、円板状である。旋回基板26aは、固定基板25aに対向している。旋回渦巻壁26bは、旋回基板26aから固定基板25aに向けて起立している。旋回渦巻壁26bは、固定渦巻壁25bと噛み合っている。旋回スクロール26は、回転軸15の回転によって公転する。
【0030】
旋回渦巻壁26bは、固定外周壁25cの内側に位置している。旋回渦巻壁26bは、固定外周壁25cの内側で公転する。固定渦巻壁25bの先端面は旋回基板26aに接触しているとともに、旋回渦巻壁26bの先端面は固定基板25aに接触している。そして、固定基板25a、固定渦巻壁25b、旋回基板26a、及び旋回渦巻壁26bによって、冷媒ガスを圧縮する圧縮室27が区画されている。したがって、スクロール型圧縮機10は、固定渦巻壁25bと旋回渦巻壁26bとの噛み合わせによって吸入された冷媒ガスを圧縮する圧縮室27を備えている。
【0031】
図1及び
図4に示すように、スクロール型圧縮機10は、ボス部28を備えている。ボス部28は、旋回基板26aの背面26eから円筒状に突出している。旋回基板26aの背面26eは、旋回基板26aにおける固定基板25aとは反対側の端面である。ボス部28の軸方向は、回転軸15の軸方向に一致している。ボス部28は、旋回基板26aの背面26eに対して凹む円孔状の空間を区画する内周面を含む。ボス部28は、軸支ハウジング13の周壁18の内側に突出している。
【0032】
旋回基板26aは、自転防止孔29を複数有している。複数の自転防止孔29は、旋回基板26aの背面26eにおけるボス部28の周囲にそれぞれ形成されている。複数の自転防止孔29は、回転軸15の周方向に所定の間隔を置いて配置されている。旋回基板26aの背面26eには、自転防止孔29が6つ形成されている。6つの自転防止孔29は、回転軸15の周方向で等間隔置きに配置されている。したがって、6つの自転防止孔29は、回転軸15の周方向で60度置きに配置されている。
【0033】
図1に示すように、各自転防止孔29内には、円環状のリング部材30が嵌め込まれている。各リング部材30内には、自転防止ピン31が挿入されている。各自転防止ピン31は、軸支ハウジング13における吐出ハウジング14側に位置する端面13eから突出した状態で、軸支ハウジング13に設けられている。
【0034】
スクロール型圧縮機10は、弁機構25vを備えている。弁機構25vは、固定基板25aにおける旋回スクロール26とは反対側の面に取り付けられている。弁機構25vは、吐出ポート25hを開閉可能に構成されている。
【0035】
スクロール型圧縮機10は、第1溝35、第1孔36、第2溝37、及び第2孔38を備えている。第1溝35は、モータハウジング12の周壁12bの内周面の一部に形成されている。第1溝35は、周壁12bの開口端に開口している。第1孔36は、軸支ハウジング13のフランジ壁19の外周部に形成されている。第1孔36は、フランジ壁19を厚み方向に貫通している。第1孔36は、第1溝35に連通している。第2溝37は、吐出ハウジング14の周壁14bの内周面の一部に形成されている。第2溝37は、第1孔36に連通している。第2孔38は、固定スクロール25の固定外周壁25cに形成されている。第2孔38は、固定外周壁25cを厚み方向に貫通している。第2孔38は、第2溝37に連通している。
【0036】
モータ室20内の冷媒ガスは、第1溝35、第1孔36、第2溝37、及び第2孔38を通過して、圧縮室27に吸入される。圧縮室27に吸入された冷媒ガスは、旋回スクロール26の公転運動により圧縮室27内で圧縮される。
【0037】
スクロール型圧縮機10は、吐出室39を備えている。吐出室39は、ハウジング11内に区画されている。吐出室39は、吐出ハウジング14と固定スクロール25とによって区画されている。吐出室39は、吐出ポート25hに連通している。そして、吐出室39には、圧縮室27で圧縮された冷媒ガスが吐出ポート25hを介して吐出される。
【0038】
スクロール型圧縮機10は、吐出口14hを備えている。吐出口14hは、吐出ハウジング14の端壁14aに形成されている。吐出口14hは、吐出室39に連通している。吐出口14hと吸入口12hとは外部冷媒回路40を介して接続されている。圧縮室27内で圧縮されて吐出ポート25hを介して吐出室39内に吐出された冷媒ガスは、吐出口14hを介して外部冷媒回路40に流出する。外部冷媒回路40へ流出した冷媒ガスは、外部冷媒回路40の凝縮器、膨張弁、及び蒸発器を通過して、吸入口12hを介してモータ室20内に還流する。スクロール型圧縮機10及び外部冷媒回路40は、車両空調装置41を構成している。
【0039】
スクロール型圧縮機10は、偏心軸42を備えている。偏心軸42は、回転軸15の端面15eから突出している。偏心軸42は、回転軸15の軸線L1に対して偏心した位置で回転軸15と平行に延びている。偏心軸42は、回転軸15の端面15eから旋回スクロール26に向けて突出している。偏心軸42は、回転軸15に一体的に設けられている。偏心軸42の軸方向は、回転軸15の軸方向に一致している。偏心軸42は、ボス部28内に挿入されている。したがって、ボス部28には、偏心軸42が内側に挿入される。
【0040】
スクロール型圧縮機10は、ブッシュ43を備えている。ブッシュ43は、偏心軸42の外周面に嵌合されている。また、スクロール型圧縮機10は、バランスウェイト44を備えている。バランスウェイト44は、ブッシュ43に一体化されている。バランスウェイト44は、ブッシュ43に一体形成されている。バランスウェイト44は、軸支ハウジング13の周壁18内に収容されている。
【0041】
スクロール型圧縮機10は、軸受45を備えている。軸受45は、例えば、転がり軸受である。軸受45は、ボス部28の内側に配置されている。軸受45は、ボス部28の内周面とブッシュ43との間に設けられている。軸受45は、偏心軸42をブッシュ43を介してボス部28に対して回転可能に支持している。旋回スクロール26は、ブッシュ43及び軸受45を介して偏心軸42と相対回転可能に偏心軸42に支持されている。
【0042】
回転軸15の回転は、偏心軸42、ブッシュ43、及び軸受45を介して旋回スクロール26に伝達される。これにより、旋回スクロール26は自転する。そして、各自転防止ピン31と各リング部材30の内周面とが接触することにより、旋回スクロール26の自転が阻止される。これにより、旋回スクロール26の公転運動のみが許容される。そして、旋回スクロール26は、旋回渦巻壁26bが固定渦巻壁25bに接触しながら公転運動する。これに伴い、圧縮室27の容積が減少することにより冷媒ガスが圧縮される。旋回スクロール26は、回転軸15の回転に伴い、固定外周壁25cの内側で公転する。このように、旋回スクロール26は、回転軸15の回転が偏心軸42及び軸受45を介して伝達されることにより、固定スクロール25に対して公転する。バランスウェイト44は、旋回スクロール26が公転運動する際に旋回スクロール26に作用する遠心力を相殺する。これにより、旋回スクロール26のアンバランス量が低減される。
【0043】
ボス部28の外周面と軸支ハウジング13の周壁18との間には、旋回スクロール26が固定スクロール25に対して公転運動したとき、ボス部28が軸支ハウジング13の周壁18に干渉しないように、比較的余裕のあるクリアランスを有している。
【0044】
<巻き終わり部>
図3に示すように、旋回渦巻壁26bは、巻き始め部51と、巻き終わり部52と、を有している。巻き始め部51は、旋回渦巻壁26bにおける渦巻の中心側に位置する端部である。巻き終わり部52は、旋回渦巻壁26bにおける渦巻の外周側に位置する端部である。したがって、旋回渦巻壁26bは、巻き始め部51から巻き終わり部52に向かって渦巻状に延びている。旋回渦巻壁26bは、インボリュート曲線に基づいて形成されている。
【0045】
旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52は、旋回基板26aの外周部に繋がっている。したがって、巻き終わり部52は、旋回渦巻壁26bにおける旋回基板26aの外周部に繋がる部分である。巻き終わり部52の外側面52aは、旋回基板26aの外周面に沿って延びている。巻き終わり部52は、旋回渦巻壁26bのうち、外側面52aが旋回基板26aの外周面に沿って延びている部分である。巻き終わり部52の外側面52aは、旋回基板26aの外周部に連続している。
【0046】
<凸部>
図4及び
図5に示すように、旋回スクロール26は、ボス部28の外周面に、ボス部28の径方向外側に向けて突出する凸部53を有している。凸部53は、旋回スクロール26の重心調整用である。凸部53は、ボス部28の外周面において、旋回渦巻壁26bにおける旋回基板26aの外周部に繋がる巻き終わり部52とは逆側に位置する部分から突出している。
【0047】
図5に示すように、旋回渦巻壁26bにおける旋回基板26aの外周部に繋がる巻き終わり部52の終端52eと旋回基板26aの中心P1とを通過する直線を仮想直線L10とする。凸部53は、ボス部28の外周面において、仮想直線L10を基準にして、巻き終わり部52とは逆側に位置する部分から突出している。凸部53は、旋回基板26aの背面26eに連続している。凸部53における旋回基板26aの背面26eとは反対側に位置する端面は、ボス部28の開口端面と同一面上に位置している。
【0048】
旋回基板26aを背面26e側から平面視したとき、凸部53は、6つの自転防止孔29のうち、仮想直線L10を基準にして、巻き終わり部52とは逆側に位置する3つの自転防止孔29に対して、回転軸15の径方向内側に位置している。凸部53における回転軸15の周方向の長さは、ボス部28の外周面において、回転軸15の周方向で略120度の領域で回転軸15の周方向に延びる長さになっている。凸部53の側面53aは、回転軸15の周方向に延びている。凸部53の側面53aは、ボス部28の外周面に沿って延びている。凸部53の側面53aは、6つの自転防止孔29のうち、仮想直線L10を基準にして、巻き終わり部52とは逆側に位置する3つの自転防止孔29の内側を通過するように延びている。凸部53の側面53aにおける回転軸15の周方向の両端部は、ボス部28の外周面に連続している。
【0049】
なお、凸部53におけるボス部28の外周面からのボス部28の径方向外側への突出量は、旋回スクロール26が固定スクロール25に対して公転運動したとき、凸部53の側面53aが軸支ハウジング13の周壁18に干渉しない突出量に設定されている。軸支ハウジング13の周壁18は、ボス部28の周囲に存在する部品である。
【0050】
<重心調整用凹部>
旋回基板26aの背面26eにおける旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52側に位置する部分には、重心調整用凹部54が2つ形成されている。各重心調整用凹部54は、旋回基板26aの背面26eにおいて、仮想直線L10を基準にして、巻き終わり部52側に位置する部分に形成されている。各重心調整用凹部54は、回転軸15の周方向で隣り合う自転防止孔29の間に配置されている。
【0051】
[実施形態の作用]
次に、実施形態の作用について説明する。
ところで、このようなスクロール型圧縮機10においては、旋回スクロール26の重心が旋回基板26aの中心P1に近づくように、旋回スクロール26の重心の調整を行っている。本実施形態の旋回スクロール26では、凸部53におけるボス部28の外周面からのボス部28の径方向外側への突出量や凸部53における回転軸15の周方向の長さ等を調整することにより、旋回スクロール26の重心の調整を行っている。また、本実施形態の旋回スクロール26では、2つの重心調整用凹部54の深さを調整することによっても、旋回スクロール26の重心の調整を行っている。これにより、回転軸15の回転に伴う旋回スクロール26の自転モーメントが変動してしまうことが抑制されている。
【0052】
[実施形態の効果]
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)旋回スクロール26が、ボス部28の外周面に、ボス部28の径方向外側に向けて突出する旋回スクロール26の重心調整用の凸部53を有していることにより、旋回スクロール26の重心を旋回基板26aの中心P1に近づけることができる。したがって、旋回基板26aにおける巻き終わり部52側に位置する部分の厚みを薄くし過ぎること無く、旋回スクロール26の重心の調整を行うことができる。また、ボス部28が旋回基板26aの背面26eから筒状に突出している構成は、スクロール型圧縮機10において既存の構成である。ここで、旋回スクロール26が固定スクロール25に対して公転運動したときに、ボス部28が軸支ハウジング13の周壁18に干渉しないように、ボス部28の外周面と周壁18との間には比較的余裕のあるクリアランスを持たすことが一般的である。よって、ボス部28の外周面と軸支ハウジング13の周壁18との間のクリアランスを凸部53の配置スペースとして利用することができる。したがって、ボス部28の外周面に凸部53を突出させても、旋回スクロール26が固定スクロール25に対して公転運動したときに、凸部53が軸支ハウジング13の周壁18に干渉することが回避されている。よって、ボス部28の外周面に凸部53を突出させても、旋回スクロール26の公転運動を妨げることが無い。以上により、旋回基板26aの強度を確保しつつも、旋回スクロール26の公転運動を妨げること無く旋回スクロール26の重心の調整を行うことができる。
【0053】
(2)旋回基板26aの背面26eにおける旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52側に位置する部分に重心調整用凹部54を形成することにより、旋回スクロール26の重心を旋回基板26aの中心P1に近づけることが考えられる。しかしながら、重心調整用凹部54を深くし過ぎると、旋回基板26aの強度が低くなり過ぎてしまうため、重心調整用凹部54を深くするにも限界がある。そこで、旋回スクロール26が、ボス部28の外周面に、ボス部28の径方向外側に向けて突出する凸部53を有している。これによれば、重心調整用凹部54を深くしなくても、旋回スクロール26の重心を旋回基板26aの中心P1に近づけることができる。よって、旋回基板26aの背面26eに重心調整用凹部54が形成されている旋回スクロール26において、旋回基板26aの強度を確保しつつも、旋回スクロール26の重心の調整を行うことができる。
【0054】
[変更例]
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0055】
○ 実施形態において、凸部53の一部分が、ボス部28の外周面において、旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52側に位置する部分から突出していてもよい。
○ 実施形態において、凸部53が、ボス部28の外周面において、旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52とは逆側に位置する部分から突出しておらず、旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52側に位置する部分から突出していてもよい。要は、旋回スクロール26が、ボス部28の外周面に、ボス部28の径方向外側に向けて突出する旋回スクロール26の重心調整用の凸部53を有している構成であればよい。
【0056】
○ 実施形態において、旋回基板26aの背面26eに形成される重心調整用凹部54の数は特に限定されるものではない。
○ 実施形態において、旋回基板26aの背面26eにおける旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52とは逆側に位置する部分にも重心調整用凹部54が形成されていてもよい。
【0057】
○ 実施形態において、旋回基板26aの背面26eにおける旋回渦巻壁26bの巻き終わり部52側に位置する部分に重心調整用凹部54が形成されていなくてもよい。
○ 実施形態において、凸部53におけるボス部28の外周面からのボス部28の径方向外側への突出量は、適宜変更してもよい。
【0058】
○ 実施形態において、凸部53における回転軸15の周方向の長さは、適宜変更してもよい。
○ 実施形態において、軸受45は、転がり軸受ではなく、例えば、滑り軸受であってもよい。要は、軸受45の種類は特に限定されるものではない。
【0059】
○ 実施形態において、スクロール型圧縮機10は、モータ22によって駆動されるタイプでなくてもよく、例えば、車両のエンジンによって駆動されるタイプであってもよい。
【0060】
○ 実施形態において、スクロール型圧縮機10は、車両空調装置以外に用いられていてもよい。要は、スクロール型圧縮機10は、冷媒ガスを圧縮するために用いられるものに限らず、流体を圧縮するものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
10…スクロール型圧縮機、11…ハウジング、15…回転軸、15e…端面、25…固定スクロール、25a…固定基板、25b…固定渦巻壁、26…旋回スクロール、26a…旋回基板、26b…旋回渦巻壁、26e…背面、27…圧縮室、28…ボス部、42…偏心軸、45…軸受、52…巻き終わり部、53…凸部、54…重心調整用凹部。