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特開2024-139254固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサ
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  • 特開-固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139254
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/028 20060101AFI20241002BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20241002BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01G9/028 E
H01G9/00 290H
H01G9/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050114
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博晶
(72)【発明者】
【氏名】谷口 智之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 公平
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(57)【要約】
【課題】固体電解コンデンサ素子が高温に晒された場合の容量の低下を抑制する。
【解決手段】固体電解コンデンサ素子は、少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、前記陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む。前記固体電解質層は、前記誘電体層を有する前記陽極体において前記多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、前記誘電体層を有する前記陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含む。前記ポリグリセリン誘導体は、前記第1部分に偏在している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、
前記陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含み、
前記固体電解質層は、前記誘電体層を有する前記陽極体において前記多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、前記誘電体層を有する前記陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含み、
前記ポリグリセリン誘導体は、前記第1部分に偏在している、固体電解コンデンサ素子。
【請求項2】
前記第1部分は、部分IAと、前記部分IAと前記誘電体層との間に存在する部分IBと、を含み、
前記ポリグリセリン誘導体は、前記部分IAに偏在している、請求項1に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項3】
前記第2部分および前記部分IAは、非自己ドープ型の導電性高分子を含み、
前記部分IBは、自己ドープ型の導電性高分子を含む、請求項2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項4】
前記ポリグリセリン誘導体は、ポリグリセリンに対応する部位を有するエーテル化合物、およびポリグリセリンに対応する部位を有するエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項5】
前記エーテル化合物は、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含む、請求項4に記載の固体電解コンデンサ素子。
【請求項6】
請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ素子を少なくとも1つ含む固体電解コンデンサ。
【請求項7】
少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、前記陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む固体電解コンデンサ素子の製造方法であって、
前記固体電解質層は、前記誘電体層を有する前記陽極体において前記多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、前記誘電体層を有する前記陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含み、
前記製造方法は、
第1共役系高分子またはその前駆体および前記ポリグリセリン誘導体を用いて前記第1部分の少なくとも一部を形成する第1工程と、
第2共役系高分子またはその前駆体を用いて前記第2部分を形成する第2工程と、
を含む、固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項8】
前記第1工程において、前記第1共役系高分子またはその前駆体と、第1ドーパントと、前記ポリグリセリン誘導体とを含む第1処理液を用いて前記第1部分の少なくとも一部を形成する、請求項7に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項9】
前記第1処理液中の前記ポリグリセリン誘導体の濃度は、10質量%未満である請求項8に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1工程は、
前記第1共役系高分子またはその前駆体と第1ドーパントを含む第2処理液を用いて非自己ドープ型の導電性高分子を形成するサブステップAと、
前記ポリグリセリン誘導体を含む第3処理液を前記非自己ドープ型の導電性高分子に付与することによって、前記第1部分の少なくとも一部を形成するサブステップBと、
を含む、請求項7に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項11】
前記第3処理液中の前記ポリグリセリン誘導体の濃度は、10質量%以上である請求項10に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1工程に先立って、自己ドープ型の導電性高分子を含む第4処理液を前記誘電体層に付与して、前記第1部分の一部を形成する工程を含む、請求項7~11のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
固体電解コンデンサは、固体電解コンデンサ素子と、固体電解コンデンサ素子を封止する樹脂外装体またはケースと、固体電解コンデンサ素子に電気的に接続される外部電極とを備える。固体電解コンデンサ素子は、例えば、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部とを備える。陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う導電性高分子を含む。導電性高分子は、固体電解質とも称される。
【0003】
特許文献1は、導電性ポリマーと添加剤を含有する固体電解コンデンサであって、添加剤としてポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルからなる群より選ばれる1種以上を含有することを特徴とする固体電解コンデンサを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-125410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体電解コンデンサには、高温環境に晒された場合でも高容量を維持できる高い信頼性が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1側面は、少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、
前記陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、
前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含み、
前記固体電解質層は、前記誘電体層を有する前記陽極体において前記多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、前記誘電体層を有する前記陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含み、
前記ポリグリセリン誘導体は、前記第1部分に偏在している、固体電解コンデンサ素子に関する。
【0007】
本開示の第2側面は、上記の固体電解コンデンサ素子を少なくとも1つ含む固体電解コンデンサに関する。
【0008】
本開示の第3側面は、少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、前記陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、前記誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む固体電解コンデンサ素子の製造方法であって、
前記固体電解質層は、前記誘電体層を有する前記陽極体において前記多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、前記誘電体層を有する前記陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含み、
前記製造方法は、
第1共役系高分子またはその前駆体および前記ポリグリセリン誘導体を用いて前記第1部分の少なくとも一部を形成する第1工程と、
第2共役系高分子またはその前駆体を用いて前記第2部分を形成する第2工程と、
を含む、固体電解コンデンサ素子の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
固体電解コンデンサまたは固体電解コンデンサ素子が高温に晒された場合の容量の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
固体電解コンデンサは、用途によって高温環境下で使用されたり、リフロー工程で高温に晒されたりすることがある。固体電解コンデンサが高温に晒されると、陽極体の表面に形成された誘電体層の劣化が進み、誘電体層に欠陥が生じて、漏れ電流が増加する。漏れ電流が増加すると、誘電体層の近傍の導電性高分子が絶縁化して、容量が減少するため、高容量を維持し難い。よって、固体電解コンデンサが高温に晒された場合に、高い信頼性を確保することが難しい。
【0012】
特許文献1は、高い耐熱性および高い破壊電圧の観点から、添加剤としてポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルまたはポリグリセリン脂肪酸エステルを含む固体電解コンデンサを提案している。しかし、これらのポリグリセリン誘導体の分布状態によっては、固体電解コンデンサまたは固体電解コンデンサ素子が高温に晒された場合に容量が大きく低下することが明らかとなった。
【0013】
上記に鑑み、(1)本開示の第1側面に係る固体電解コンデンサ素子は、少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む。固体電解質層は、誘電体層を有する陽極体において多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、誘電体層を有する陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含む。ポリグリセリン誘導体は、第1部分に偏在している。
【0014】
上記第1側面によれば、多孔質部の空隙内に充填された第1部分にポリグリセリン誘導体が偏在することで、固体電解コンデンサ素子(または固体電解コンデンサ)が高温に晒された場合の容量の低下を抑制できる。これによって固体電解コンデンサの高い信頼性を確保することができる。一方、第2部分にポリグリセリン誘導体が偏在していても、固体電解コンデンサ素子が高温に晒された場合に高容量を維持することは難しく、その効果は、ポリグリセリン誘導体を全く用いない場合とほとんど変わらない。つまり、第2部分にポリグリセリン誘導体が多く含まれていても、容量の低下を抑制する効果はほとんど得られない。加えて、ポリグリセリン誘導体が絶縁性であることから、第2部分にポリグリセリン誘導体が多く含まれている場合には、初期の容量が低下したり、等価直列抵抗(ESR)が増加したりするなど、初期特性が低下する。
【0015】
本開示において、第1部分にポリグリセリン誘導体が偏在することにより容量の低下が抑制されるメカニズムの詳細は定かではないが、次のような理由によると推測される。ポリグリセリン誘導体はそれ自体の耐熱性が高いため、第1部分に偏在することで、第1部分の耐熱性が向上する。耐熱性の向上により、第1部分の劣化が抑制され、劣化に伴う応力が誘電体層に加わることが抑制されることで、誘電体層に欠陥が生じることが軽減される。誘電体層の欠陥が軽減されるとともに、第1部分の耐熱性が高まることで、漏れ電流が低減され、漏れ電流によって第1部分の導電性高分子が絶縁化することが抑制される。これらの結果、固体電解コンデンサの容量低下が抑制され、高い信頼性が得られると考えられる。
【0016】
また、本開示では、室温(例えば、20℃以上35℃以下の温度)で固体電解コンデンサの充放電を繰り返した場合の容量の低下も抑制できる。このような観点からも、本開示の固体電解コンデンサでは高い信頼性が得られる。充放電による劣化メカニズムとしては、固体電解質への水分等の吸着および固体電解質からの水分等の脱着に伴い、固体電解質が膨張収縮(膨潤収縮など)することによって化成膜から剥離するモードが推定されている。本開示では、第1部分にポリグリセリン誘導体が偏在することで、第1部分の膨張収縮が抑制され、容量低下が抑制されると考えられる。
【0017】
(2)上記(1)において、第1部分は、部分IAと、部分IAと誘電体層との間に存在する部分IBと、を含んでもよい。この場合、ポリグリセリン誘導体は、部分IAに偏在していることが好ましい。部分IAにポリグリセリン誘導体が偏在していることで、固体電解コンデンサ素子(または固体電解コンデンサ)が高温に晒された場合の容量の低下をより効果的に抑制できる。固体電解コンデンサの充放電を繰り返した場合の容量の低下もさらに抑制できる。よって、固体電解コンデンサの、より高い信頼性を確保することができる。多孔質部の空隙の中でも、誘電体層に近い部分IBより、誘電体層から離れた部分IAにポリグリセリン誘導体が偏在する方が、ポリグリセリン誘導体による導電性高分子の劣化抑制効果が発揮され易いと考えられる。
【0018】
(3)上記(2)において、第2部分および部分IAは、非自己ドープ型の導電性高分子を含んでもよい。部分IBは、自己ドープ型の導電性高分子を含んでもよい。部分IBは、自己ドープ型の導電性高分子を含む処理液(例えば、後述の第4処理液)を、誘電体層を有する陽極体に付与することによって形成される。自己ドープ型の導電性高分子を含む処理液は、比較的粘度が低いため、多孔質部の空隙内に染み込み易く、空隙の内壁の表面に比較的均一に被膜を形成し易い。空隙の内壁を含めて、誘電体層を有する陽極体の表面に比較的均一な導電性の被膜が形成されるため、この表面を覆うように自己ドープ型の導電性高分子の被膜を形成し易い。これにより、誘電体層と固体電解質層との界面における抵抗が低くなり、高い初期特性(初期容量など)を確保することができる。また、ポリグリセリン誘導体が非自己ドープ型の導電性高分子の近傍に偏在することで、導電性高分子の劣化を抑制し易く、より高い信頼性が得られ易い。
【0019】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、ポリグリセリン誘導体は、ポリグリセリンに対応する部位を有するエーテル化合物、およびポリグリセリンに対応する部位を有するエステル化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。この場合、固体電解コンデンサのより高い信頼性が得られ易い。
【0020】
(5)上記(4)において、エーテル化合物は、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含んでもよい。この場合、固体電解コンデンサのより高い信頼性が得られ易い。
【0021】
(6)本開示には、上記(1)~(5)のいずれか1つに記載の固体電解コンデンサ素子を少なくとも1つ含む固体電解コンデンサも包含される。
【0022】
(7)本開示には、固体電解コンデンサ素子の製造方法も包含される。製造方法において、固体電解コンデンサ素子は、少なくとも表層に多孔質部を有する陽極体と、陽極体の少なくとも一部を覆う誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、を含む。固体電解質層は、誘電体層を有する陽極体において多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、誘電体層を有する陽極体の主面からはみ出した第2部分とを含むとともに、ポリグリセリン誘導体を含む。製造方法は、第1共役系高分子またはその前駆体およびポリグリセリン誘導体を用いて第1部分の少なくとも一部を形成する第1工程と、第2共役系高分子またはその前駆体を用いて第2部分を形成する第2工程と、を含む。
【0023】
上記(7)によれば、多孔質部の空隙内に充填された固体電解質層の第1部分にポリグリセリン誘導体を偏在させることができる。そのため、固体電解コンデンサ素子(または固体電解コンデンサ)が高温に晒された場合の容量の低下を抑制できる。また、固体電解コンデンサの充放電を繰り返した場合の容量の低下も抑制できる。よって、固体電解コンデンサの高い信頼性を確保することができる。
【0024】
(8)上記(7)について、第1工程において、第1共役系高分子またはその前駆体と、第1ドーパントと、ポリグリセリン誘導体とを含む処理液(第1処理液)を用いて第1部分の少なくとも一部を形成してもよい。この場合、ポリグリセリン誘導体が含まれる部分には、非自己ドープ型の導電性高分子が含まれる。そのため、ポリグリセリン誘導体によって、非自己ドープ型の導電性高分子の劣化が効果的に抑制され、固体電解コンデンサを高温に晒した場合または繰り返し充放電した場合の容量の低下がさらに抑制される。
【0025】
(9)上記(8)において、第1処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、10質量%未満であってもよい。この場合、固体電解コンデンサを高温に晒した場合または繰り返し充放電した場合の容量の低下がさらに抑制される。
【0026】
(10)上記(7)において、第1工程は、第1共役系高分子またはその前駆体と第1ドーパントを含む処理液(第2処理液)を用いて非自己ドープ型の導電性高分子を形成するサブステップAと、ポリグリセリン誘導体を含む処理液(第3処理液)を非自己ドープ型の導電性高分子に付与することによって、第1部分の少なくとも一部を形成するサブステップBと、を含んでもよい。この場合、ポリグリセリン誘導体を非自己ドープ型の導電性高分子を含む第1部分の少なくとも一部に偏在させることができる。非自己ドープ型の導電性高分子の近傍にポリグリセリン誘導体を存在させることで、非自己ドープ型の導電性高分子の劣化を抑制し易い。そのため、固体電解コンデンサを高温に晒した場合または繰り返し充放電した場合の容量の低下がさらに抑制される。
【0027】
(11)上記(10)において、第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、10質量%以上であってもよい。この場合、固体電解コンデンサを高温に晒した場合または繰り返し充放電した場合の容量の低下がさらに抑制される。
【0028】
(12)上記(7)~(10)のいずれか1つにおいて、固体電解コンデンサ素子の製造方法は、第1工程に先立って、自己ドープ型の導電性高分子を含む処理液(第4処理液)を誘電体層に付与して、第1部分の一部を形成する工程を含んでもよい。第4処理液は、比較的粘度が低いため、多孔質部の空隙内に染み込み易く、空隙の内壁の表面に比較的均一に被膜を形成し易い。空隙の内壁を含めて、誘電体層を有する陽極体の表面に比較的均一な導電性の被膜が形成されるため、この表面を覆うように導電性高分子の被膜を形成し易い。また、ポリグリセリン誘導体が第1部分に偏在することで、ポリグリセリン誘導体の近傍に位置する導電性高分子の劣化を抑制し易く、誘電体層に応力が加わりにくいため、高い信頼性が得られ易い。
【0029】
上記(1)~(12)を含めて、以下に、本開示の固体電解コンデンサ素子およびその製造方法、ならびに固体電解コンデンサについてより具体的に説明する。技術的に矛盾のない範囲で、上記(1)~(12)の少なくとも1つと、以下に記載する要素の少なくとも1つとを組み合わせてもよい。固体電解コンデンサ素子を単にコンデンサ素子と称する場合がある。
【0030】
[固体電解コンデンサ]
固体電解コンデンサに含まれるコンデンサ素子は、陽極部および陰極部を含む。本開示の固体電解コンデンサおよびコンデンサ素子では、陰極部を構成する固体電解質層を除く構成要素に特に限定はなく、公知の固体電解コンデンサに用いられる構成要素を適用してもよい。
【0031】
(コンデンサ素子)
コンデンサ素子は、陽極体と、陽極体の表面に形成された誘電体層と、誘電体層の少なくとも一部を覆う陰極部と、を含む。陽極体は陽極部を構成している。
【0032】
(陽極部)
陽極部は、陽極体を含む。陽極部は、陽極体と、陽極ワイヤとを含んでもよい。
【0033】
(陽極体)
陽極体は、弁作用金属、弁作用金属を含む合金、および弁作用金属を含む化合物などを含んでもよい。陽極体は、これらの材料を、一種含んでもよく、二種以上を組み合わせて含んでもよい。弁作用金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましい。
【0034】
陽極体は、少なくとも表層に多孔質部を有する。陽極体は多孔質部に微細な空隙を多数有する。このような多孔質部によって、陽極体は、微細な凹凸形状を有する。
【0035】
表層に多孔質部を有する陽極体は、例えば、弁作用金属を含む基材(シート状(例えば、箔状、板状)の基材など)の表面を、粗面化することで得られる。粗面化は、例えば、エッチング処理(電解エッチング、化学エッチングなど)などにより行ってもよい。このような陽極体は、例えば、芯部と芯部の双方の表面に芯部と一体化して形成された多孔質部とを有している。
【0036】
陽極体は、弁作用金属を含む粒子の多孔質の成形体または多孔質の焼結体(多孔質の成形体の焼結体など)でもよい。成形体および焼結体のそれぞれは、シート状の形状であってもよく、直方体、立方体またはこれらに類似の形状などであってもよい。多孔質焼結体としては、例えば、タンタルを含む多孔質焼結体であってもよい。
【0037】
陽極体は、通常、第1端部を含む陽極引出部と、第1端部とは反対側の第2端部を含む陰極形成部とを有していてもよい。陽極体の陰極形成部の表面には、固体電解質層を含む陰極部が形成される。陽極引出部は、例えば、陽極側の外部電極と電気的接続に利用される。陽極引出部には、陽極リード端子を接続してもよい。
【0038】
(陽極ワイヤ)
陽極体が多孔質焼結体または多孔質成形体である場合、陽極部は、陽極ワイヤを含んでもよい。陽極ワイヤは、金属からなるワイヤであってもよい。陽極ワイヤの材料の例は、上記の弁作用金属、銅、または銅合金などである。陽極ワイヤの一部は陽極体に埋設され、残りの部分は陽極体の端面から外方に突き出している。外方に突出した陽極ワイヤの端部が第1端部に相当し、第1端部とは反対側の陽極体の端部が第2端部に相当する。
【0039】
(誘電体層)
誘電体層は、例えば、陽極体(より具体的には多孔質部)の少なくとも一部の表面を覆うように形成される。誘電体層は、誘電体として機能する絶縁性の層である。誘電体層は、陽極体の表面の弁作用金属を、化成処理などにより陽極酸化することで形成される。誘電体層は、陽極体の多孔質の表面に形成されるため、誘電体層の表面は、多孔質部の形状に沿って微細な凹凸形状を有する。
【0040】
誘電体層は弁作用金属の酸化物を含む。例えば、弁作用金属としてタンタルを用いた場合の誘電体層は酸化タンタルを含み、弁作用金属としてアルミニウムを用いた場合の誘電体層は酸化アルミニウムを含む。尚、誘電体層はこれらの例に限らず、誘電体として機能すればよい。
【0041】
(陰極部)
陰極部は、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層を少なくとも含む。固体電解質層は、陽極体の第2端部側の部分(換言すると、陰極形成部)において、誘電体層を介して形成されている。陰極部は、通常、誘電体層の少なくとも一部を覆う固体電解質層と、固体電解質層の少なくとも一部を覆う陰極引出層とを含む。以下、固体電解質層および陰極引出層について説明する。
【0042】
(固体電解質層)
コンデンサ素子において、固体電解質層は、誘電体層の少なくとも一部を覆うように形成されている。固体電解質層は、誘電体層を有する陽極体において、多孔質部の空隙内に充填された第1部分と、誘電体層を有する陽極体の主面からはみ出した第2部分とに区分される。固体電解質層は、ポリグリセリン誘導体を含む。本開示では、固体電解質層において、ポリグリセリン誘導体が第1部分に偏在していることで、コンデンサ素子が高温に晒された場合または固体電解コンデンサを繰り返し充放電した場合の容量の低下を抑制できる。
【0043】
ポリグリセリン誘導体が第1部分に偏在していることは、第1部分におけるポリグリセリン誘導体の含有率C1が、第2部分におけるポリグリセリン誘導体の含有率C2よりも高いことを意味する。第2部分にポリグリセリン誘導体が多く含まれていても、ポリグリセリン誘導体による容量の低下を抑制する効果はほとんど得られず、初期の容量が低く、初期のESRも高い傾向がある。含有率C2の含有率C1に対する比(=C2/C1)は、1未満であり、0.5以下であってもよく、0.1以下であってもよい。第2部分にポリグリセリン誘導体が含まれない場合(つまり、C2/C1=0の場合)も好ましい。
【0044】
各部分におけるポリグリセリン誘導の含有率C1およびC2は、サンプルの断面から採取した第1部分の固体電解質の試料(以下、試料S1と称する)および第2部分の固体電解質の試料(以下、試料S2と称する)を用いて求めることができる。より具体的には、断面において、複数箇所(例えば、5箇所)について空隙内から第1部分の固体電解質を掻き取り、所定量の試料A1を採取する。断面において、陽極体の主面からはみ出た第2部分の複数箇所(例えば、5箇所)について固体電解質を掻き取り、所定量の試料A2を採取する。これらの試料の質量を測定する。各試料から20℃以上40℃以下の温度の溶剤でポリグリセリン誘導体を抽出する。抽出物を濃縮し、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)またはガスクロマトグラフィー質量分析法(GC-MS)によってポリグリセリン誘導体を同定する。検量線法で、抽出物中のポリグリセリン誘導体の濃度を求める。この濃度と試料A1およびA2のそれぞれの質量とから、第1部分および第2部分のそれぞれにおけるグリセリン誘導体の含有率(質量%)を求める。
【0045】
上記のサンプルは、固体電解コンデンサまたはコンデンサ素子をアクリル樹脂に埋め込み、コンデンサ素子の幅方向の中央で、長さ方向に平行な方向に切断して断面を露出させ、研磨することによって準備される。陽極体が平らな状態で、第1端部から第2端部に向かう方向を、陽極体の長さ方向と称することがある。第1端部側から第2端部側に向かう方向とは、第1端部の端面の中心と第2端部の端面の中心とを結ぶ直線方向に平行な方向である。この方向を、陽極体またはコンデンサ素子の長さ方向と称する場合がある。また、陽極体(またはコンデンサ素子)の長さ方向および厚さ方向と垂直な方向を、陽極体(またはコンデンサ素子)の幅方向と称することがある。
【0046】
固体電解質層において、第1部分は、部分IAと、部分IAと誘電体層との間に存在する部分IBと、を含んでもよい。この場合、ポリグリセリン誘導体は、部分IAに偏在していることが好ましい。ポリグリセリン誘導体が誘電体層から離れた状態で第1部分に含まれることで、隣接する導電性高分子の劣化を効果的に抑制して、誘電体層に応力が加わり、漏れ電流が増加することが抑制される。
【0047】
固体電解質層は、導電性高分子を含む。導電性高分子は、自己ドープ型の導電性高分子であってもよく、非自己ドープ型の導電性高分子であってもよく、必要に応じてこれらを組み合わせてもよい。ポリグリセリン誘導体が第1部分において非自己ドープ型の導電性高分子の近傍に存在すると、導電性高分子の劣化が抑制される傾向がある。そのため、第1部分は、少なくとも非自己ドープ型の導電性高分子を含むことが好ましく、非自己ドープ型の導電性高分子の近傍にポリグリセリン誘導体を含むことが好ましい。
【0048】
自己ドープ型の導電性高分子は、これを含む処理液(第4処理液)の粘度が比較的低いため、多孔質部の空隙内に染み込んで、薄い被膜を形成し易い。そのため、誘電体層を覆うように自己ドープ型の導電性高分子を付着させることが好ましい。例えば、第1部分を部分IAと部分IBとに区分する場合、誘電体層側の部分IBが自己ドープ型の導電性高分子を含んでもよい。この場合に、ポリグリセリン誘導体が非自己ドープ型の導電性高分子が含まれる部分IAに偏在していると、コンデンサ素子が高温に晒された場合または固体電解コンデンサを繰り返し充放電した場合の容量低下をさらに抑制することができる。
【0049】
ポリグリセリン誘導体が部分IAに偏在していることは、部分IAにおけるポリグリセリン誘導体の含有率CIAが、部分IBにおけるポリグリセリン誘導体の含有率CIBよりも高いことを意味する。なお、ポリグリセリン誘導体の含有率CIBが含有率CIAよりも低いことが好ましい。
【0050】
第1部分および第2部分のそれぞれを構成する各固体電解質の区別、あるいは部分IAと部分IBとの区別は、例えば、断面画像の電子線マイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)分析により行うことができる。例えば、固体電解質層全体の断面画像において等間隔でEPMA分析を行い、各測定点における特性X線の波長の違いから第1部分または第2部分を構成する各固体電解質の隣接する固体電解質間の境界、および部分IAと部分IBとの境界を定めることができる。
【0051】
第2部分は、自己ドープ型の導電性高分子を含んでもよく、非自己ドープ型の導電性高分子を含んでもよい。第2部分のある程度の厚さを確保して、初期の高容量および耐電圧性を確保し易い観点からは、第2部分は、少なくとも、非自己ドープ型の導電性高分子を含むことが好ましい。第2部分を構成する固体電解質に占める非自己ドープ型の導電性高分子の比率(共役系高分子およびドーパントの合計の比率)は、例えば、75質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。第2部分を構成する固体電解質に占める非自己ドープ型の導電性高分子の比率は、100質量%以下である。第2部分を構成する固体電解質に含まれる導電性高分子を、非自己ドープ型の導電性高分子のみで構成してもよい。
【0052】
(ポリグリセリン誘導体)
ポリグリセリン誘導体には、例えば、ポリグリセリンに対応する部位を有する化合物が含まれ、ポリグリセリンは包含されない。上記の化合物としては、例えば、ポリグリセリンに対応する部位を有するエーテル化合物、ポリグリセリンに対応する部位を有するエステル化合物が挙げられる。ポリグリセリン誘導体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
ポリグリセリンに対応する部分において、グリセリン単位の数(平均重合度)は、2以上20以下であってもよく、2以上14以下(例えば、4以上12以下)であってもよく、2以上10以下であってもよい。
【0054】
エーテル化合物は、例えば、ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテルを含んでもよい。ポリオキシアルキレン部位におけるアルキレン部位の炭素数は、2以上4以下であってもよい。ポリオキシアルキレン部位としては、ポリオキシエチレン部位、ポリオキシプロピレン部位、ポリオキシトリメチレン部位などが挙げられる。ポリオキシアルキレン部位は、炭素数が異なるオキシアルキレン単位を2つ以上含んでもよい。例えば、ポリオキシアルキレン部位は、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを含んでもよい。1分子に含まれるポリオキシアルキレン部位におけるオキシアルキレン単位の合計は、2以上140以下であってもよく、4以上120以下であってもよく、4以上100以下であってもよく、10以上100以下(例えば、30以上100以下)であってもよい。
【0055】
エステル化合物としては、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。ポリグリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。脂肪酸の炭素数は、2以上24以下であってもよく、4以上20以下であってもよく、6以上16以下であってもよい。脂肪酸としては、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。
【0056】
(導電性高分子)
導電性高分子としては、自己ドープ型の導電性高分子、非自己ドープ型の導電性高分子などが挙げられる。
【0057】
自己ドープ型導電性高分子は、例えば、共役系高分子の骨格と、この骨格に共有結合によって直接的または間接的に結合したドーパントとして機能する官能基(アニオン性基など)とを有する。
【0058】
アニオン性基としては、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基、ホスホン酸基などが挙げられる。自己ドープ型導電性高分子は、アニオン性基を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。自己ドープ型導電性高分子のより高い導電性を確保し易い観点からは、自己ドープ型導電性高分子は少なくともスルホ基を含んでもよい。
【0059】
固体電解質層において、自己ドープ型導電性高分子のアニオン性基は、アニオン、遊離、エステル、および塩などのいずれの形態で含まれていてもよく、固体電解質層に含まれる成分と相互作用または複合化した形態で含まれていてもよい。本明細書では、これらの全ての形態を含めて、単にアニオン性基と称する。
【0060】
自己ドープ型導電性高分子の骨格を構成する共役系高分子としては、例えば、π共役系高分子(ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフラン、ポリアセチレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアセン、およびポリチオフェンビニレンなど)を基本骨格とする高分子が挙げられる。上記の高分子は、基本骨格を構成する少なくとも一種のモノマー単位を含んでいればよい。上記の高分子には、単独重合体、二種以上のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体(置換基を有する置換体など)も含まれる。例えば、ポリチオフェンには、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)などが含まれる。自己ドープ型導電性高分子は、これらの共役系高分子の骨格に、アニオン性基を有している。アニオン性基は、共役系高分子の骨格に直接導入されていてもよく、連結基を介して導入されていてもよい。連結基としては、アルキレン基を含む多価基(二価基)などが好ましい。連結基としては、例えば、アルキレン基などの脂肪族多価基(二価基など)、-R-X-R-基(Xは、酸素元素または硫黄元素であり、RおよびRは同一または異なって、アルキレン基である。)が挙げられる。連結基に含まれる各アルキレン基の炭素数は、例えば、1以上10以下であり、1以上6以下であってもよい。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。連結基は、例えば、炭素数2以上のアルキレン基を少なくとも含んでもよい。このようなアルキレン基の炭素数は、2以上(または3以上)10以下であってもよく、2以上(または3以上)6以下であってもよい。例えば、Rが炭素数1以上6以下のアルキレン基であり、Rが炭素数2以上(または3以上)10以下のアルキレン基であってもよい。しかし、連結基はこれらのみに限定されない。
【0061】
自己ドープ型導電性高分子の骨格を構成する共役系高分子は、ポリピロール、ポリチオフェンまたはポリアニリンであってもよい。高い導電性等が得られ易い観点から、自己ドープ型導電性高分子としては、チオフェン化合物に対応するモノマー単位を含む共役系高分子の骨格と、この骨格に導入されたアニオン性基とを有する高分子が好ましい。
【0062】
チオフェン化合物としては、チオフェン環を有し、対応するモノマー単位の繰り返し構造を形成可能な化合物が挙げられる。チオフェン化合物は、チオフェン環の2位および5位で連結してモノマー単位の繰り返し構造を形成することができる。
【0063】
チオフェン化合物は、例えば、チオフェン環の3位および4位の少なくとも一方に置換基を有していてもよい。3位の置換基と4位の置換基とは連結してチオフェン環に縮合する環を形成していてもよい。チオフェン化合物としては、例えば、3位および4位の少なくとも一方に置換基を有していてもよいチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン化合物(エチレンジオキシチオフェン化合物などのC2-4アルキレンジオキシチオフェン化合物など)が挙げられる。アルキレンジオキシチオフェン化合物には、アルキレン基の部分に置換基を有する化合物も含まれる。
【0064】
置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基などのC1-4アルキル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基などのC1-4アルコキシ基など)、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基(ヒドロキシメチル基などのヒドロキシC1-4アルキル基など)などが好ましいが、これらに限定されない。チオフェン化合物が、2つ以上の置換基を有する場合、それぞれの置換基は同じであってもよく、異なってもよい。チオフェン環(アルキレンジオキシチオフェン環では、チオフェン環およびアルキレン基の少なくとも一方)は、置換基として、上記のアニオン性基またはアニオン性基を含有する基(例えば、スルホアルキル基など)を有していてもよい。
【0065】
自己ドープ型導電性高分子は、少なくとも3,4-エチレンジオキシチオフェン化合物(3,4-エチレンジオキシチオフェン(EDOT)など)に対応するモノマー単位を含む共役系高分子(PEDOTなど)の骨格を有していてもよい。少なくともEDOTに対応するモノマー単位を含む共役系高分子の骨格は、EDOTに対応するモノマー単位のみを含んでもよく、当該モノマー単位に加え、EDOT以外のチオフェン化合物に対応するモノマー単位を含んでもよい。
【0066】
自己ドープ型導電性高分子の重量平均分子量(Mw)は、1,000以上1,000,000以下であってもよく、1,000以上50,000以下であってもよい。
【0067】
なお、本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるポリスチレン換算の値である。なお、GPCは、通常は、ポリスチレンゲルカラムと、移動相としての水/メタノール(体積比8/2)とを用いて測定される。
【0068】
非自己ドープ型の導電性高分子は、例えば、共役系高分子(非自己ドープ型の共役系高分子(例えば、アニオン性基を有さない共役系高分子)など)とドーパントとを含む。
【0069】
共役系高分子としては、自己ドープ型の導電性高分子の骨格を構成する共役系高分子として例示した共役系高分子(π-共役系高分子など)などが挙げられる。共役系高分子は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。初期の高い容量および耐電圧性などを確保し易い観点から、チオフェン化合物のモノマー単位を含む非自己ドープ型の共役系高分子を用いてもよい。非自己ドープ型の共役系高分子のモノマー単位に対応するチオフェン化合物としては、自己ドープ型導電性高分子について説明したチオフェン化合物が挙げられる。非自己ドープ型の共役系高分子は、少なくとも3,4-エチレンジオキシチオフェン化合物(EDOTなど)に対応するモノマー単位を含む共役系高分子(PEDOTなど)を含んでもよい。少なくともEDOTに対応するモノマー単位を含む共役系高分子は、EDOTに対応するモノマー単位のみを含んでもよく、当該モノマー単位に加え、EDOT以外のチオフェン化合物に対応するモノマー単位を含んでもよい。
【0070】
ドーパントとしては、アニオンおよびポリアニオン(ポリマーアニオンなど)からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。アニオンとしては、例えば、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン、硼酸イオン、有機スルホン酸イオン、カルボン酸イオンなどが挙げられる。スルホン酸イオンを生成するドーパントとしては、例えば、p-トルエンスルホン酸、およびナフタレンスルホン酸などが挙げられる。より高い安定性およびより高い耐電圧性が得られ易い観点から、ポリマーアニオンを用いてもよい。スルホ基を有するポリマーアニオンとしては、例えば、高分子タイプのポリスルホン酸が挙げられる。ポリマーアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸(PSS(共重合体および置換基を有する置換体なども含む))、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリルスルホン酸、ポリメタクリルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸)、ポリイソプレンスルホン酸、ポリエステルスルホン酸(芳香族ポリエステルスルホン酸など)、フェノールスルホン酸ノボラック樹脂が挙げられる。ただし、ドーパントは、これらの具体例に限定されない。ドーパントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
非自己ドープ型の導電性高分子(例えば、部分1Aまたは第2部分)において、ドーパントの量は、共役系高分子100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下であってもよく、20質量部以上500質量部以下であってもよい。
【0072】
第1部分および第2部分のそれぞれが、複数の層を含む場合、隣接する各層間には、凝集剤(カチオン成分、またはカチオン成分およびアニオン成分など)が介在していてもよい。第1部分と第2部分との間に、凝集剤が介在していてもよい。
【0073】
固体電解質層または各部分は、必要に応じて添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、固体電解質層に添加される公知の添加剤(例えば、カップリング剤、シラン化合物)、導電性高分子以外の公知の導電性材料が挙げられる。固体電解質層、または各部分は、これらの添加剤を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。添加剤としての導電性材料としては、例えば、マンガン化合物(二酸化マンガンなど)の導電性無機材料、およびTCNQ錯塩からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0074】
各部分において、隣接する固体電解質同士は、組成が異なっていてもよく、同じであってもよい。「組成が異なる」場合には、各固体電解質に含まれる成分(共役系高分子、ドーパントおよび添加剤からなる群より選択される少なくとも1つなど)が異なる場合、各層に含まれる成分の含有率が異なる場合などが包含される。
【0075】
(固体電解質層の形成)
固体電解質層は、例えば、第1共役系高分子またはその前駆体およびポリグリセリン誘導体を用いて第1部分の少なくとも一部を形成する第1工程と、第2共役系高分子またはその前駆体を用いて第2部分を形成する第2工程と、を経ることによって形成できる。第1工程および第2工程のそれぞれでは、必要に応じて、さらにドーパントを用いてもよい。各共役系高分子の前駆体を用いる場合には、必要に応じてドーパントの存在下で、共役系高分子の前駆体をその場重合(化学重合または電解重合など)を利用して重合することによって各部分を構成する導電性高分子を形成する。各共役系高分子を用いる場合には、共役系高分子と、必要に応じてドーパントとを含む溶液または液状分散体を用いて各部分を構成する導電性高分子を形成する。
【0076】
第1工程に先立って、自己ドープ型の導電性高分子を誘電体層に付与して第1部分の一部を形成する工程(第3工程)を行ってもよい。
【0077】
第1工程および第3工程で形成される各固体電解質は、連続または非連続の層であってもよい。第2工程で形成される第2部分は、全体として層状である。
【0078】
(第1工程)
第1工程では、第1共役系高分子またはその前駆体およびポリグリセリン誘導体を用いて第1部分の少なくとも一部が形成される。第1工程において、第1部分が形成される際に、導電性高分子が誘電体層を有する陽極体の主面からはみ出して、第2部分の一部が形成される場合もある。また、第1工程で形成される導電性高分子(または固体電解質)は、部分IAの少なくとも一部を構成してもよい。
【0079】
第1工程では、例えば、第1共役系高分子またはその前駆体と、第1ドーパントと、ポリグリセリン誘導体と、を含む第1処理液を用いて第1部分の少なくとも一部を形成してもよい(方法a)。
【0080】
第1処理液は、液状媒体を含んでもよい。液状媒体とは、例えば、室温(例えば、20℃以上35℃以下)で液状の媒体である。液状媒体としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0081】
第1処理液は、第1共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第1処理液が前駆体を含む場合、第1処理液は、前駆体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第1処理液は、第1ドーパントを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第1処理液は、ポリグリセリン誘導体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0082】
第1処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、0.5質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよい。ポリグリセリン誘導体の濃度がこのような範囲である場合、第1部分においてポリグリセリン誘導体のある程度の含有率で偏在させ易く、コンデンサ素子が高温に晒された場合または固体電解コンデンサの充放電を繰り返した場合の容量の低下をさらに抑制することができる。第1処理液中のグリセリン誘導体の濃度は、20質量%以下であってもよい。固体電解コンデンサの容量低下をさらに抑制する観点からは、第1処理液中のグリセリン誘導体の濃度は、10質量%未満であることが好ましく、7質量%以下または5質量%以下であってもよい。第1処理液中のグリセリン誘導体の濃度は、例えば、0.5質量%以上20質量%以下、1質量%以上20質量%以下、または1質量%以上10質量%未満であってもよい。
【0083】
第1工程では、必要に応じて、陽極体への第1処理液の付与と乾燥とを繰り返してもよい。陽極体への第1処理液の付与と、乾燥と、凝集剤の付与と、乾燥と、を繰り返してもよい。また、第1処理液を用いた重合を1回行ってもよく、複数回繰り返してもよく、重合の適当なタイミング(例えば、最後の重合が終了した後)で、洗浄、乾燥などを行ってもよい。
【0084】
方法a以外に、導電性高分子を形成した後に、導電性高分子にポリグリセリン誘導体を付与することによって第1部分の少なくとも一部を形成してもよい(方法b)。方法bでは、例えば、第1工程は、第1共役系高分子またはその前駆体と第1ドーパントを含む第2処理液を用いて非自己ドープ型の導電性高分子を形成するサブステップAと、ポリグリセリン誘導体を含む第3処理液を非自己ドープ型の導電性高分子に付与することによって、第1部分の少なくとも一部を形成するサブステップBと、を含んでもよい。
【0085】
第2処理液および第3処理液のそれぞれは、液状媒体を含んでもよい。液状媒体については第1処理液についての説明を参照できる。液状媒体としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0086】
第2処理液は、第1共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第2処理液が前駆体を含む場合、第2処理液は、前駆体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第2処理液は、第1ドーパントを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第3処理液は、ポリグリセリン誘導体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0087】
第2処理液が第1共役系高分子および第1ドーパントを含む場合、第2処理液中の第1共役系高分子および第1ドーパントの合計濃度は、0.5質量%以上5質量%以下であってもよく、1質量%以上4質量%以下であってもよい。
【0088】
第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、1質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。ポリグリセリン誘導体の濃度がこのような範囲である場合、第1部分においてポリグリセリン誘導体のある程度の含有率で偏在させ易く、コンデンサ素子が高温に晒された場合または固体電解コンデンサの充放電を繰り返した場合の容量の低下をさらに抑制することができる。非自己ドープ型の導電性高分子の近傍にポリグリセリン誘導体を保持し易い観点からは、第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、10質量%以上が好ましい。第3処理液中のグリセリン誘導体の濃度は、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよい。第3処理液中のグリセリン誘導体の濃度は、例えば、1質量%以上30質量%以下、10質量%以上30質量%以下、または10質量%以上25質量%以下であってもよい。
【0089】
第1工程では、必要に応じて、陽極体への第2処理液の付与と乾燥とを繰り返してもよい。陽極体への第2処理液の付与と、乾燥と、凝集剤の付与と、乾燥と、を繰り返してもよい。また、第2処理液を用いた重合を1回行ってもよく、複数回繰り返してもよい。この場合、重合の適当なタイミング(例えば、最後の重合が終了した後)で、洗浄、乾燥などを行ってもよい。これらの作業の適当なタイミングで第3処理液の付与が行われる。第3処理液の付与は1回行ってもよく、複数回行ってもよい。必要に応じて、第2処理液の付与と第3処理液との付与とを繰り返してもよい。各処理液の付与の後、必要に応じて、乾燥を行ってもよく、第2処理液の付与の前に、凝集剤の付与を行ってもよい。
【0090】
第1工程において、第1共役系高分子および第1ドーパントは、それぞれ、非自己ドープ型の導電性高分子について例示した共役系高分子およびドーパントに対応する。第1共役系高分子の前駆体としては、モノマー、オリゴマー、およびプレポリマーなどが挙げられる。
【0091】
(第3工程)
第3工程は、第1工程に先立って行われる。より具体的には、第3工程では、自己ドープ型の導電性高分子を含む処理液(第4処理液)を誘電体層に付与して、第1部分の一部が形成される。誘電体層の表面に付着した自己ドープ型の導電性高分子は、部分IBを構成してもよい。第3工程で用いられる自己ドープ型の導電性高分子は、固体電解質層について説明した自己ドープ型の導電性高分子に対応する。
【0092】
第4処理液は、自己ドープ型導電性高分子と液状媒体とを含む。液状媒体については第1処理液についての説明を参照できる。液状媒体としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0093】
第4処理液は、自己ドープ型の導電性高分子の粒子が液状媒体中に分散した液状分散体であってもよく、自己ドープ型の導電性高分子が液状媒体中に溶解した溶液であってもよい。自己ドープ型の導電性高分子では、高分子鎖が比較的フレキシブルであり、アニオン性基などの官能基の位置がランダムであることに加えて、高分子鎖の配向性が低く、結晶性が低い。そのため、非自己ドープ型の導電性高分子に比較すると、液状媒体に溶解したり、微粒子状に分散したりし易い。そのため、第4処理液の粘度が比較的低く、多孔質部の空隙内に高い浸透性で含浸させ易い。
【0094】
第4処理液中の自己ドープ型の導電性高分子の濃度は、0.5質量%以上5質量%以下であってもよく、1質量%以上4質量%以下であってもよい。
【0095】
第4処理液は、ポリグリセリン誘導体を含んでもよいが、より高い初期容量を確保する観点からは、ポリグリセリン誘導体を含まないことが好ましい。第4処理液がポリグリセリン誘導体を含む場合、第4処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、第1処理液または第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度よりも低いことが好ましい。より高い初期容量を確保する観点から、第4処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、5質量%以下であってもよく、1質量%未満または0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。第4処理液がポリグリセリン誘導体を含まない場合には、第4処理液中のポリグリセリン誘導体が検出限界以下の濃度である場合が包含される。
【0096】
また、第3工程は、自己ドープ型の導電性高分子を形成した後に、ポリグリセリン誘導体を含む処理液(第5処理液)を付与するサブステップを含まないことが好ましい。この場合にも、より高い初期容量を確保し易い。
【0097】
(第2工程)
第2工程は、第1工程の後に行われる。第2工程では、第2共役系高分子またはその前駆体を用いて第2部分が形成される。第2工程において、第2部分の形成とともに、多孔質部の空隙内に導電性高分子が入り込んで第1部分の一部が形成される場合もある。
【0098】
第2工程では、例えば、第2共役系高分子またはその前駆体と、第2ドーパントと、を含む処理液(第6処理液)を用いて第2部分を形成してもよい。
【0099】
第6処理液は、液状媒体を含んでもよい。液状媒体については第1処理液についての説明を参照できる。液状媒体としては、例えば、水、有機溶媒、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0100】
第6処理液は、第2共役系高分子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第6処理液が前駆体を含む場合、第6処理液は、前駆体を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。第6処理液は、第2ドーパントを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0101】
第2工程において、第2共役系高分子および第2ドーパントは、それぞれ、非自己ドープ型の導電性高分子について例示した共役系高分子およびドーパントに対応する。第2共役系高分子の前駆体としては、モノマー、オリゴマー、およびプレポリマーなどが挙げられる。
【0102】
第6処理液が第2共役系高分子および第2ドーパントを含む場合、第6処理液中の第2共役系高分子および第2ドーパントの合計濃度は、1質量%以上10質量%以下であってもよく、3質量%以上8質量%以下であってもよい。
【0103】
第6処理液は、ポリグリセリン誘導体を含んでもよいが、ポリグリセリン誘導体を含んでも、容量低下を抑制する効果はほとんど得られず、初期特性は低下する傾向がある。そのため、第6処理液は、ポリグリセリン誘導体を含まないことが好ましい。第6処理液がポリグリセリン誘導体を含む場合、第6処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、第1処理液または第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度よりも低いことが好ましい。より高い初期特性(初期容量など)を確保する観点から、第6処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度は、5質量%以下であってもよく、1質量%未満または0.5質量%未満であってもよく、0.1質量%以下であってもよい。第6処理液がポリグリセリン誘導体を含まない場合には、第6処理液中のポリグリセリン誘導体が検出限界以下の濃度である場合が包含される。
【0104】
また、第2工程は、導電性高分子を形成した後に、ポリグリセリン誘導体を含む処理液を付与するサブステップを含まないことが好ましい。この場合にも、より高い初期特性を確保し易い。なお、第2工程の後にも、ポリグリセリン誘導体を含む処理液を付与する工程を含まないことが好ましい。
【0105】
第2工程では、必要に応じて、第1工程で形成された固体電解質を有する陽極体への第6処理液の付与と乾燥とを繰り返してもよい。あるいは、陽極体への第6処理液の付与と、乾燥と、凝集剤の付与と、乾燥と、を繰り返してもよい。また、第6処理液を用いた重合を1回行ってもよく、複数回繰り返してもよい。この場合、重合の適当なタイミング(例えば、最後の重合が終了した後)で、洗浄、乾燥などを行ってもよい。
【0106】
本開示の固体電解コンデンサは、上記の第1工程および第2工程を含む製造方法によって製造される。製造方法は、さらに第3工程を含んでもよい。
【0107】
(陰極引出層)
陰極引出層は、例えば、固体電解質層と接触するとともに固体電解質層の少なくとも一部を覆う第1層を少なくとも備えていてもよい。陰極引出層は、第1層と第1層の少なくとも一部を覆う第2層とを備えていてもよい。
【0108】
第1層としては、例えば、導電性粒子を含む層、金属箔などが挙げられる。導電性粒子としては、例えば、導電性カーボンおよび金属粉から選択される少なくとも一種が挙げられる。陰極部(より具体的には陰極引出層)は、金属粉を含む層(金属粒子含有層など)を含んでもよい。陰極引出層は、例えば、第1層としての導電性カーボンを含む層(カーボン層)と、第2層としての金属粉を含む層(金属粒子含有層など)または金属箔とで構成してもよい。
【0109】
陰極引出層が金属箔または金属粒子含有層を含む場合、陰極引出層全体を金属箔または金属粒子含有層で構成してもよい。また、第1層および第2層の少なくとも一方を金属粒子含有層で構成してもよい。
【0110】
導電性カーボンとしては、例えば、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)が挙げられる。
【0111】
第2層としての金属粉を含む層は、例えば、金属粉を含む組成物を第1層の表面に積層することにより形成できる。このような第2層としては、例えば、金属粉と樹脂バインダとを含むペーストを用いて形成される金属粒子含有層が挙げられる。樹脂バインダとしては、熱可塑性樹脂を用いることもできるが、イミド系樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。第2層の高い導電性が得られ易い観点から、金属粉としては、銀含有粒子を用いてもよい。銀含有粒子としては、銀粒子、および銀合金粒子などが挙げられる。第2層は、銀含有粒子を一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。銀粒子は、少量の不純物を含んでもよい。
【0112】
第1層として金属箔を用いる場合、金属の種類は特に限定されない。金属箔には、弁作用金属(アルミニウム、タンタル、ニオブなど)または弁作用金属を含む合金を用いることが好ましい。必要に応じて、金属箔の表面を粗面化してもよい。金属箔の表面には、化成皮膜が設けられていてもよく、金属箔を構成する金属とは異なる金属(異種金属)や非金属の被膜が設けられていてもよい。異種金属や非金属としては、例えば、チタンのような金属またはカーボン(導電性カーボンなど)のような非金属などを挙げることができる。
【0113】
上記の異種金属または非金属(例えば、導電性カーボン)の被膜を第1層として、上記の金属箔を第2層としてもよい。
【0114】
陰極引出層は、その層構成に応じて、公知の方法により形成される。例えば、陰極引出層が第1層または第2層として金属箔を含む場合には、固体電解質層または第1層の少なくとも一部を覆うように金属箔を積層することによって、第1層または第2層が形成される。導電性粒子を含む第1層は、例えば、導電性粒子と必要に応じて樹脂バインダ(水溶性樹脂、硬化性樹脂など)とを含む導電性ペーストまたは液状分散体を、固体電解質層の表面に付与することによって形成される。金属粉を含む第2層は、例えば、金属粉と樹脂バインダとを含むペーストを第1層の表面に付与することによって形成される。陰極引出層の形成過程では、必要に応じて、乾燥処理、加熱処理などを行ってもよい。
【0115】
(セパレータ)
金属箔を陰極引出層に用いる場合、金属箔と陽極体としての陽極箔との間にはセパレータを配置してもよい。セパレータとしては、特に制限されず、例えば、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ビニロン、ポリアミド(例えば、脂肪族ポリアミド、アラミドなどの芳香族ポリアミド)の繊維を含む不織布などを用いてもよい。
【0116】
(その他)
固体電解コンデンサは、少なくとも1つのコンデンサ素子を含む。固体電解コンデンサは、巻回型であってもよく、チップ型または積層型のいずれであってもよい。例えば、固体電解コンデンサは、積層された複数のコンデンサ素子を含んでもよい。また、固体電解コンデンサは、2つ以上の巻回型のコンデンサ素子を含んでもよい。コンデンサ素子の構成は、固体電解コンデンサのタイプに応じて、選択すればよい。
【0117】
コンデンサ素子において、陰極引出層には、陰極リード端子の一端部を電気的に接続してもよい。陰極リード端子は、例えば、陰極引出層に導電性接着剤を塗布し、この導電性接着剤を介して陰極引出層に接合される。陽極体の陽極引出部には、陽極リード端子の一端部を電気的に接続してもよい。陽極リード端子の他端部および陰極リード端子の他端部は、それぞれ樹脂外装体またはケースから引き出される。樹脂外装体またはケースから露出した各端子の他端部は、固体電解コンデンサを搭載すべき基板との半田接続などに用いられる。また、リード端子を引き出す場合に限らず、陽極部および陰極部の少なくとも一方の端面を封止体の外面から露出させて、外部電極と電気的に接続してもよい。
【0118】
コンデンサ素子は、樹脂外装体またはケースを用いて封止される。例えば、コンデンサ素子および外装体の材料樹脂(例えば、未硬化の熱硬化性樹脂およびフィラー)を金型に収容し、トランスファー成型法、圧縮成型法等により、コンデンサ素子を樹脂外装体で封止してもよい。このとき、コンデンサ素子から引き出された陽極リードに接続された陽極リード端子および陰極リード端子の他端部側の部分を、それぞれ金型から露出させる。また、コンデンサ素子を、陽極リード端子および陰極リード端子の他端部側の部分が有底ケースの開口側に位置するように有底ケースに収納し、封止体で有底ケースの開口を封口することにより固体電解コンデンサを形成してもよい。リードは、ワイヤ状であってもよく、フレーム状(リードフレームなど)であってもよい。
【0119】
図1は、本開示の一実施形態に係る固体電解コンデンサの断面模式図である。
固体電解コンデンサ20は、陽極部6および陰極部7を含むコンデンサ素子10と、コンデンサ素子10を封止する外装体11と、陽極部6に電気的に接続した陽極リードフレーム13と、陰極部7と電気的に接続した陰極リードフレーム14と、を含む。
【0120】
陽極部6は、陽極体1と陽極ワイヤ2とを有する。陽極ワイヤ2の一部は、陽極体1内に埋没した状態であり、残部は陽極体1の外面より外側に突出している。この陽極ワイヤ2の突出した部分に、陽極リードフレーム13の第1部分の一部が溶接等によって接合され、電気的に接続している。
【0121】
陽極体1の表面には誘電体層3が形成されている。陰極部7は、誘電体層3の少なくとも一部を覆う固体電解質層4と、固体電解質層4の少なくとも一部の表面を覆う陰極引出層5とを有する。陰極引出層5は、固体電解質層4の少なくとも一部の表面を覆うように形成されたカーボン層と、カーボン層の少なくとも一部を覆うように形成された金属粒子含有層とを有している。そして、陰極リードフレーム14の第1部分の一部は、導電性接着層8を介して、陰極引出層5と接着され、電気的に接続されている。
【0122】
[実施例]
以下、本開示を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は以下の実施例のみに限定されない。
【0123】
《実施例1~2および比較例1》
下記の要領で、コンデンサ素子を作製し、その特性を評価した。
【0124】
(1)誘電体層を有する陽極体の準備
陽極体として、陽極ワイヤの一部が埋設されたタンタル焼結体(多孔質体)を準備した。このタンタル焼結体の表面を陽極酸化することによって、陽極体の表面に酸化タンタルを含む誘電体層を形成した。
【0125】
(2)固体電解質層の形成
(2-1)第3工程
まず、自己ドープ型のポリチオフェン系高分子を含む水性分散液(第4処理液)を準備した。第4処理液中のポリチオフェン系高分子の濃度は1~4質量%とした。自己ドープ型のポリチオフェン系高分子としては、PEDOT骨格にブチレン基を含む連結基を介して結合したスルホ基を有するPEDOT(Mw:約10,000)を用いた。
【0126】
第4処理液に上記(1)で準備したタンタル焼結体を30~60秒程度浸漬した後、分散液からタンタル焼結体を引き上げた。次に、分散液から引き上げたタンタル焼結体を140~180℃で10~20分間加熱(乾燥)することによって、第1部分の一部を構成する固体電解質を形成した。
【0127】
(2-2)第1工程
液状分散体を用いて第1部分の残部を構成する固体電解質を形成した。具体的には、まず、液状分散体に(2-1)で固体電解質を形成したタンタル焼結体を30~60秒程度浸漬した後、液状分散体からタンタル焼結体を引き上げた。次に、液状分散体から引き上げたタンタル焼結体を140~180℃で10~20分間加熱(乾燥)することによって、固体電解質を形成した。実施例1および2では、液状分散体(第1処理液)として、1~4質量%の濃度で非自己ドープ型の導電性高分子(PSSがドープされたPEDOT)を含むとともに、表1に示す濃度でポリグリセリン誘導体(ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル(ポリオキシアルキレン部位は、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位とを含む。オキシアルキレン単位の合計は40~80。グリセリン単位数は6~10。))を含む水性分散液を用いた。比較例1では、液状分散体(第1処理液)として、2質量%の濃度で非自己ドープ型の導電性高分子(PSSがドープされたPEDOT)を含む水性分散液を用いた。
【0128】
(2-3)第2工程
液状分散体(第6処理液)を用いて主に第2部分を構成する固体電解質を形成した。具体的には、まず、液状分散体に(2-2)で固体電解質を形成したタンタル焼結体を30~60秒程度浸漬した後、液状分散体からタンタル焼結体を引き上げた。次に、液状分散体から引き上げたタンタル焼結体を140~180℃で10~20分間加熱(乾燥)することによって、固体電解質を形成した。液状分散体(第6処理液)としては、導電性高分子(PSSがドープされたPEDOT)を1~4質量%の濃度で含む水性分散液を用いた。
このようにして、固体電解質層を有する陽極体を形成した。
【0129】
(3)陰極引出層の形成
上記(2)で得られた固体電解質層が形成されたタンタル焼結体を、黒鉛粒子を水に分散した分散液に浸漬し、分散液から取り出し後、乾燥することにより、固体電解質層の表面にカーボン層(第1層)を形成した。乾燥は、180℃で10~30分間行った。
【0130】
次いで、カーボン層の表面に、銀粒子とバインダ樹脂(エポキシ樹脂)とを含む銀ペーストを塗布し、60~80℃で20~40分間乾燥した後、さらに180℃で30~60分間加熱することでバインダ樹脂を硬化させ、金属粒子含有層(第2層)を形成した。こうして、カーボン層と金属粒子含有層とで構成される陰極引出層を形成した。
このようにして、固体電解質層と陰極引出層とで構成された陰極部を含むコンデンサ素子を合計20個作製した。
【0131】
《実施例3》
上記(2-2)第1工程において、比較例1と同様の組成の液状分散体を第2処理液として用いて固体電解質を形成した(サブステップA)。次いで、固体電解質が形成されたタンタル焼結体を、ポリグリセリン誘導体(ポリオキシアルキレンポリグリセリルエーテル、オキシアルキレン単位の合計は40~80。グリセリン単位数は6~10。)を表1に示す濃度で含む水溶液(第3処理液)に減圧下で10~20分程度浸漬し、大気圧に戻した後にさらに5~10分程度浸漬し、第3処理液からタンタル焼結体を引き上げた。次に、第3処理液から引き上げたタンタル焼結体を100~150℃で10~30分間加熱することによって、乾燥処理を行った。これら以外は、実施例1と同様にして、コンデンサ素子を作製した。
【0132】
《実施例4~5》
第1処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度を表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてコンデンサ素子を作製した。
【0133】
《実施例6~8》
第3処理液中のポリグリセリン誘導体の濃度を表2に示すように変更した以外は、実施例3と同様にしてコンデンサ素子を作製した。
【0134】
《実施例9~12》
第3工程の後、第1工程の前に、ポリグリセリン誘導体を表2に示す濃度で含む水溶液(第5処理液)に、第3工程で得られた固体電解質が形成されたタンタル焼結体を、減圧下で10~20分程度浸漬し、大気圧に戻した後にさらに5~10分程度浸漬し、第5処理液からタンタル焼結体を引き上げた。次に、第5処理液から引き上げたタンタル焼結体を100~150℃で10~30分間加熱することによって、乾燥処理を行った。これ以外は、比較例1と同様にしてコンデンサ素子を作製した。
【0135】
《評価》
実施例1~3および比較例1で得られたコンデンサ素子を用いて下記の評価を行った。実施例4~12で得られたコンデンサ素子を用いて初期の静電容量を測定した。
【0136】
(1)初期の静電容量およびESR
20℃の環境下で、4端子測定用のLCRメータを用いて、コンデンサ素子の周波数120Hzにおける初期の静電容量C0(μF)および周波数100kHzにおける初期のESR(mΩ)をそれぞれ測定した。そして、20個のコンデンサ素子における平均値を求めた。
【0137】
(2)初期の耐電圧
コンデンサ素子に、1.0V/秒のレートで昇圧しながら電圧を印加し、0.5Aの過電流が流れる破壊耐電圧(V)を測定した。そして、20個のコンデンサ素子における平均値を求めた。
【0138】
(3)高温負荷時の容量減少率
初期特性(1)を測定したコンデンサ素子のうち、10個について、125℃で50Vの電圧を24時間印加した後の静電容量(Cx)を、初期の静電容量C0と同様の手順で測定した。そして、高温負荷による容量減少率を、下記式より求めた。
容量減少率(%)=(C0-Cx)/C0×100
【0139】
(4)充放電時の容量減少率
初期特性(1)を測定したコンデンサ素子のうち、残る10個について、25℃で50Vまで充電し、0Vまで放電した。この充電と放電とのサイクルを800サイクル繰り返した。800サイクルにおける静電容量Cy(放電容量)を、初期の静電容量と同様の手順で測定した。そして、充放電による容量減少率を下記式により求めた。
容量減少率(%)=(C0-Cy)/C0×100
【0140】
評価結果を表1および表2に示す。表1および表2において、E1~E12は実施例1~12であり、R1は比較例1である。表1および表2において、初期特性は、比較例1の値を1.00としたときの規格値(相対値)で示した。
【0141】
【表1】
【0142】
表1に示されるように、固体電解質層において第1部分にポリグリセリン誘導体が偏在している実施例では、高温負荷による容量減少率および充放電による容量減少率ともに、比較例に比べて低くなった。また、実施例では、比較的高い初期特性も確保できた。
【0143】
【表2】
【0144】
表2に示されるように、比較的高い初期容量が得られ易い観点からは、第1部分において、誘電体層側の部分IBよりも誘電体層から離れた部分IAにポリグリセリン誘導体が偏在している方が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本開示の固体電解コンデンサおよびコンデンサ素子では、高温に晒された場合の容量の低下を抑制できる。また、固体電解コンデンサを繰り返し充放電した場合の容量の低下を抑制できる。よって、高い信頼性が求められる用途に適している。しかし、固体電解コンデンサの用途はこれのみに限定されない。
【符号の説明】
【0146】
20:固体電解コンデンサ
10:コンデンサ素子
1:陽極体
2:陽極ワイヤ
3:誘電体層
4:固体電解質層
5:陰極引出層
6:陽極部
7:陰極部
8:導電性接着層
11:外装体
13:陽極リードフレーム
14:陰極リードフレーム
図1