(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139259
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】コークス強度の推定方法
(51)【国際特許分類】
C10B 45/00 20060101AFI20241002BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C10B45/00 Z
G01N33/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050124
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土肥 勇介
(72)【発明者】
【氏名】野間 洋人
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 寿幸
(72)【発明者】
【氏名】井川 大輔
【テーマコード(参考)】
4H012
【Fターム(参考)】
4H012GB02
4H012LA00
(57)【要約】
【課題】対象とするコークス試料の強度を、従来よりも簡便かつ迅速な方法で推定する技術を提供すること。
【解決手段】コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、粒径が15mm以下である粗粉の内に占める、この粗紛の粒径よりも小さい微粉の割合を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と微粉の割合との関係に基づいてコークス強度の推定を行うこと、またはコークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下であるコークス粉の平均粒径を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と前記コークス粉の平均粒径との関係に基づいてコークス強度の推定を行うこと。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、粒径が15mm以下である粗粉の内に占める、この粗紛の粒径よりも小さい微粉の割合を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と微粉の割合との関係に基づいてコークス強度の推定を行うことを特徴とするコークス強度の推定方法。
【請求項2】
前記粗粉の粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下であり、前記微粉の粒径が、前記粗粉の最大粒径の0.7倍以下かつ1mm以下のいずれかの粒径以下であることを特徴とする請求項1に記載のコークス強度の推定方法。
【請求項3】
コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下であるコークス粉の平均粒径を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と前記コークス粉の平均粒径との関係に基づいてコークス強度の推定を行うことを特徴とするコークス強度の推定方法。
【請求項4】
前記コークス粉の粒径が6mm以下であることを特徴とする請求項3に記載のコークス強度の推定方法。
【請求項5】
前記破壊粉が、コークスの乾式消火設備の循環ガスから回収された粉であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のコークス強度の推定方法。
【請求項6】
前記破壊紛の粒度分布をレーザー回折法により求め、得られたその粒度分布から、前記粗粉内に占める、この粗粉よりも小さい前記微粉の割合を求めることを特徴とする請求項1または2に記載のコークス強度の推定方法。
【請求項7】
前記破壊粉の粒度分布をレーザー回折法により求め、得られたその粒度分布から粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下である前記コークス粉の平均粒径を求めることを特徴とする請求項3または4に記載のコークス強度の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークスの最も重要な品質であるコークス強度を推定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製鉄用のコークスは、石炭をコークス炉で約900℃以上の温度まで乾留することによって製造され、主に高炉に用いられるものである。その高炉内に装入されるコークスは、製銑プロセスの主原料である鉄鉱石を還元する還元材としての機能が求められる。高炉は、固体・液体と気体との向流型反応装置であり、コークスは通気性や通液性を確保するためのスペーサーとしての役割も担っている。高炉を順調に稼働させるには、とりわけ上記スペーサーとしての役割が重要となる。そのスペーサーとしての機能が損なわれると、高炉内の通気性が悪くなり、還元ガスの高炉内での流通が阻害されたり、溶融した銑鉄やスラグの高炉内での滴下が阻害される等、操業不調の原因になる。スペーサーとしての機能を維持するためには、コークスの強度が高いことが求められる。もし、そのコークスの強度が低いと、高炉内で粉化し、発生したその粉が塊コークスの間に滞留して通気性や通液性を阻害することになる。
【0003】
コークスの強度の評価としては、例えば、JIS K 2151で規定されたドラム強度指数、特にドラムインデックス:DI(150/15)が知られている。このDI(150/15)値は、コークス工場におけるコークス強度の管理指標としても広く採用されている。そのため、日々、生産されたコークスを複数回サンプリングし、ドラム強度試験によって、このDI(150/15)値を求めている。
【0004】
このドラム強度試験は、まず、コークスをサンプリングし、縮分して、粒径が50mm以上または25mm以上のコークスを10kg以上準備する。そして、内径、奥行きともに1500mmで、高さ250mmの6枚の羽根を内包する円筒形状のドラム内で試料(コークス)に150回転の衝撃を与える。その後、回収したコークスの篩分けを行い、15mm以上のコークスの重量割合(×100)をDI(150/15)指数として算出する。
【0005】
このドラム強度試験は、作業に非常に手間がかかり、一日当たりの測定頻度には限界がある。しかし、高炉に供給されるコークス強度を迅速に測定し、高炉操業に当たって迅速にフィードフォワードすることができれば、高炉の安定操業に寄与することができる。また、コークス強度の時間的変動をより短い間隔で把握し、コークス操業へのフィードバックを行い、コークス強度の安定化ができれば、やはり高炉の安定操業に貢献することができる。その結果、省エネやCO2排出量の削減につなげるため、こうしたドラム強度指数を迅速かつ高頻度に測定することが求められている。
【0006】
そこで、従来より、コークス強度をより簡便な方法で測定したり、推定したりする試みがなされてきた。例えば、特許文献1では、搬送過程の少なくとも任意の2か所以上の位置で、コークスの粉率と粒径を測定し、搬送過程で受ける機械的な衝撃力とそれによって細粒化したコークスの粒度分布の変化からコークスのドラム強度を推定する方法を提案している。
また、特許文献2には、コークス乾式消火設備(CDQ)において、消火処理したコークスの破壊に伴って発生するコークス粉を、除塵機を用いて循環ガスから回収し、そのコークス粉の量からドラム強度を推定する方法が開示されている。この方法は、消火処理したコークスについて、捕集ダストの割合とコークス強度との相関関係を利用し、CDQで発生する粉歩留り(処理量当りの捕集ダストの割合)とドラム強度との検量線をあらかじめ作成しておき、粉歩留りの測定値からドラム強度を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平4-23736号公報
【特許文献2】特開平2-216455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、従来、コークスのドラム強度指数を、煩雑なドラム強度試験を省力化した方法で評価しているが、これらの従来技術には以下のような問題点があった。
【0009】
まず、特許文献1で提案している粒度測定に基づくドラム強度の推定方法は、比較的迅速かつ簡便に推定できるが、粒径が大きいコークスの測定には、多量のサンプリングが必要であり、装置が大掛かりになる。また、測定作業や残試料の処理に手間がかかるという問題がある。統計学的には、最大粒度が63mmのコークスの場合、代表性のある粒度測定を行うには、最低限250kgの試料に対して測定を行うことが求められている。特許文献1では、コークスの粒度分布をコークスの画像から求める可能性についても言及されている。しかし、コークスの画像から粒度を求めるには、粒径の大きな塊は分析することができても、粉状のものについては分析が困難であり、十分な精度が得られないという点に問題がある。その結果、特許文献1では、多量のコークス試料を採取し、篩い分けして粒度分布を測定することが必要となり、ドラム強度測定におけるドラムの回転作業を省略できているにすぎない。
【0010】
また、特許文献2に記載の、CDQの捕集粉から粉歩留りを測定してドラム強度を推定する方法は、比較的迅速かつ簡便に推定でき、特別な付帯設備の追加も不要であるという利点がある。しかし、粉の発生量および回収量は、コークスのドラム強度のみならず、CDQの操業条件、例えば、コークスの処理量や還流不活性ガスの流量に影響を受けることが知られている。そのため、操業条件が変動したような場合に、粉の発生量や回収量がCDQ操業条件により変動し、コークス強度の推定精度が下がるという問題点がある。また、粉の回収量は、ある程度の期間に亘って粉を捕集し、その捕集した粉の重量を測定しないと正確に求めることができない。そのため、特許文献2は、コークス強度の推定頻度を高めることが困難であり、また、粉を回収している期間のコークス処理量を正確に把握しておかないと、粉の歩留まりを精度よく算出することができないという問題点もあった。
【0011】
本発明は、従来技術が抱えている上述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、対象とするコークス試料の強度を、従来よりも簡便かつ迅速な方法で推定する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を有利に解決する、本発明に係るコークス強度の推定方法は、コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、15mm以下である粗粉の内に占める、この粗紛の粒径よりも小さい微粉の割合を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と微粉の割合との関係に基づいてコークス強度の推定を行うことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るコークス強度の測定方法は、コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの、粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下であるコークス粉の平均粒径を測定し、あらかじめ求めておいたコークス強度と前記コークス粉の平均粒径との関係に基づいてコークス強度の推定を行うことを特徴とする。
【0014】
なお、本発明のコークス強度の測定方法については、
(1)前記粗粉の粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下であり、前記微粉の粒径が、前記粗粉の最大粒径の0.7倍以下かつ1mm以下のいずれかの粒径以下であること、
(2)前記コークス粉の粒径が6mm以下であること、
(3)前記破壊粉が、コークスの乾式消火設備の循環ガスから回収された粉であること、
(4)前記破壊紛の粒度分布をレーザー回折法により求め、得られたその粒度分布から、前記粗粉内に占める、この粗紛よりも小さい前記微粉の割合を求めること、
(5)前記破壊粉の粒度分布をレーザー回折法により求め、得られたその粒度分布から粒径が10mm以下のいずれかの粒径以下である前記コークス粉の平均粒径を求めること、
がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
前記構成に係る本発明によれば、コークス強度を、コークスが破壊して発生した破壊粉の粒度分析結果から推定することができるので、大量のコークスを分析する必要がなく、従来よりも簡便かつ迅速に推定することができる。しかも、従来よりも高い頻度でコークス強度を測定することが可能となる。さらに、本発明によれば、コークス強度に基づいた操業条件による制御の頻度を上げることができ、コークス強度の安定化に寄与することができ、コークス製造プロセスや高炉の操業安定化に繋がって、コストの削減が可能になるという効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】粒径1mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下の微粉の割合とコークス強度との関係を示す図である。
【
図2】粒径が3mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下または1mm以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示す図である。
【
図3】粒径が6mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下、1mm以下または3mm以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示す図である。
【
図4】粒径が15mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下、1mm以下、3mm以下または6mm以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示す図である。
【
図5】粒径が25mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下、1mm以下、3mm以下、6mm以下または15mm以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示す図である。
【
図6】第2の粒径を0.5mmとした場合の、第1の粒径と決定係数との関係を示す図である。
【
図7】粒径が1mm以下、3mm以下、6mm以下、15mm以下または25mm以下のコークス粉の平均粒径と、コークス強度との関係を示す図である。
【
図8】実コークス炉において破壊粉を回収し、該破壊粉のうちの粒径が6mm以下の粗粉の内に占める、粒径が0.5mm以下の微粉の割合と、ドラム強度指数DI(150/15)との関係を示す図である。
【
図9】
図8に示すドラム強度指数:実測DI(150/15)と破壊粉のうちの粒径が6mm以下の粗粉の内に占める粒径が0.5mm以下の微粉の割合との関係に基づいて、本発明の方法により推定したドラム強度指数:推定DI(150/15)と、実測DI(150/15)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。
本発明に係るコークス強度の推定方法は、コークスの破壊によって発生する破壊粉の粒度分布に着目した点に特徴がある。従来のコークス強度の測定方法では、ドラム試験機などによってコークスに衝撃力を与えた後のコークス塊の残存量、または破壊粉の発生量に着目しており、発生した破壊粉の粒度分布については全く着目していなかった。そこで、発明者らは、コークスに衝撃力などの力を加えて破壊し、その際に発生する破壊粉の粒度分布を詳細に検討した。その結果、異なる強度を有するコークスに対して同一の衝撃を与え、該コークスの破壊によって発生する破壊粉の粒度の情報と、そのコークスのドラム強度指数との間に極めて強い相関関係があることを見い出し、本発明を開発するに至った。
【0018】
[コークス強度と破壊粉の粒度分布との関係]
まず、発明者らは、異なる強度を有する各コークスに対して同一の衝撃を与え、該コークスの破壊によって発生する破壊粉の粒度を詳細に検討した。その結果、破壊粉が特定の粒度の比率を示す場合や、特定の平均粒径を示す場合に、コークス強度と強い相関関係を示すことを見い出し、本発明を開発した。以下にその詳細を述べる。
【0019】
以下、基礎データの収集のために実施した実験の結果について説明する。
試験に供したコークスは次のように調製した。石炭化度の指標である石炭のビトリニット平均最大反射率(Ro)が0.65~1.59%の単味炭および配合炭の原料を、粒径が3mm以下の粒子の割合が65~100質量%の粒度となるように調整し、炉壁温度1050℃の小型乾留炉で6時間乾留した後、窒素ガス雰囲気中で冷却して、コークスを製造した(全39水準)。
【0020】
このようにして得られたコークスを、ドラム強度試験装置内に装入し、そのドラムを150回転させることで各コークスに対して同じ衝撃を与えた。そして、このときに発生した破壊粉を回収し、粒度分布を測定した。即ち、150回転後の粒径が15mm以上のコークス塊についての装入した量に対する比率から求められるドラム強度指数DI(150/15)と、回収した破壊粉の粒度分布との関係を調査した。その結果、コークス強度が高いほど、破壊粉に占める微粉の割合が増えることを知見した。しかし、コークスの強度が高い場合には、該コークスから発生する破壊粉の総量が少ないため、微粉の発生量のみを、コークス強度との相関関係の指標として用いることはできなかった。
【0021】
そこで、コークスの破壊によって生じた破壊粉の粒度分布を考慮するために、2つの粒径によって定義される破壊粉の割合を指標として用いた。具体的には、破壊粉のうちの、所定の粒径(以下、「第1の粒径」と言う。)以下である粗粉内に占める、該粗粉よりも小さい粒径(以下、「第2の粒径」と言う。)である微粉の割合を測定し、該微粉の割合とコークス強度との相関関係を調査した。ここで、第2の粒径以下である微粉が、第1の粒径以下である粗粉よりも小さいということは、微粉中の最大の粒径を有する粒子が、粗粉中の最大の粒径を有する粒子よりも小さい(粒径が小さい)ことを意味する。
その結果、発明者らは、粗粉に対する存在割合としての微粉の比率について、この比率を指標の1つとして用いることで、破壊粉の総量の影響を受けることなく、コークス強度を精度よく推定できることを見い出した。
【0022】
なお、本発明において粒径とは、その粒子が通過する最小の篩目の大きさとして定義する。その粒径は、レーザー回折式の分析計などの計測器を用いて求めてもよい。また、コークスの破壊粉では、粒子の長径と短径には大きな違いはないので、粒径の定義によって粒度分布の測定結果が大きく変わることはない。
【0023】
例えば、第1の粒径を1mmとし、第2の粒径を0.5mmとして、該第1の粒径以下である粗粉(比較的粗い粒も含む粉)の量と、該第2の粒径以下である微粉の量とを求め、そして、第1の粒径以下である粗粉の量に対する、第2の粒径以下である微粉の量の割合を求める。このようにして求めた粗粉に対する微粉の割合((粒径0.5mm以下の微粉の量)/(粒径1mm以下の粗粉の量)×100(質量%))と、コークス強度DI(150/15)との関係を
図1に示した。
【0024】
図1中には、第1の粒径以下である粗粉中における、第2の粒径以下である微粉の量と、コークス強度DI(150/15)との関係を表す線形の単回帰式も併せて示した。その結果、決定係数R
2は0.789となり、微粉の割合からコークス強度がかなり高い精度で推定できることがわかった。
【0025】
しかし、この第1の粒径と第2の粒径の選び方によっては、コークス強度の推定精度は変化することも分かった。そこで、第1の粒径と第2の粒径を変化させ、第1の粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合を求め、該割合とコークス強度との関係を調査した。
【0026】
図2は、第1の粒径を3mmとし、第2の粒径を0.5mmまたは1mmとした場合の、該第1の粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示した図である。
図2に示すとおり、この例でも比較的、良い相関関係が認められた。
【0027】
図3は、第1の粒径を6mmとし、第2の粒径を0.5mm、1mmまたは3mmとした場合の、該第1の粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示した図である。
【0028】
図3に示す例においても、微粉の割合からコークス強度を予測することが可能であるが、第2の粒径を3mmとした場合は相関関係がやや悪くなり、第2の粒径が大きくなるほど相関関係が悪くなる傾向が認められた。
【0029】
図4は、第1の粒径を15mmとし、第2の粒径を0.5mm、1mm、3mmまたは6mmとした場合の、該第1の粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示した図である。
【0030】
図4の例においても、第2の粒径以下の微粉の割合からコークス強度を予測することが可能であるが、
図3の場合と同様に、第2の粒径が大きくなるほど、相関関係が悪くなる傾向が認められた。
【0031】
図5に、第1の粒径を25mmとし、第2の粒径を0.5mm、1mm、3mm、6mmまたは15mmとした場合の、該第1粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合と、コークス強度との関係を示す。
図5の例では、いずれも相関関係が悪く、
図1~
図4の例とは逆の相関関係が観察された例(
図5の(2)~(5))もあった。従って、第1の粒径を25mmとした場合には、コークス強度の推定がうまくできないことが分かった。
【0032】
以上の結果より、コークス強度を推定するためには、第1の粒径および第2の粒径をどのように選べばよいかの指針が得られた。表1に、
図1~
図5に示した各相関関係において、第1の粒径および第2の粒径と、その条件で得られる決定係数R
2をまとめたものを示す。なお、決定係数R
2は、小数点以下第3位を四捨五入して示した。
【0033】
【0034】
表1より、第1の粒径については、粒径が小さいほど決定係数R
2が大きく、高い相関関係が認められる。第1の粒径を15mmとした場合、第2の粒径を0.5mmとすれば決定係数は十分に高く、第1の粒径は15mm以下であることが好ましい。
図6に、第2の粒径を0.5mmとした場合における第1の粒径と決定係数R
2の関係を示す。
図6より、第1の粒径が10mm以下では決定係数R
2が0.75以上になることが推定されることから、より好ましい第1の粒径は10mm以下である。さらに好ましい第1の粒径は6mm以下である。また、第2の粒径は、粒径が小さいほど相関関係が高く、1mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以下である。この結果より、第1の粒径が15mm以下であり、かつ第2の粒径が1mm以下という条件において、第1の粒径以下の粗粉中における、第2の粒径の微粉の比率と、コークス強度とが高い相関関係を有することがわかった。
【0035】
なお、破壊粉の粒度を表す数値としては、所定の粒径(以下、「第3の粒径」と言う。)以下のコークス粉の平均粒径を用いることもできる。破壊粉のうち、第3の粒径を1mm、3mm、6mm、15mmまたは25mmとし、
図7に、該第3の粒径以下のコークス粉の平均粒径と、コークス強度(DI(150/15))との関係を示した。なお、横軸の平均粒径は対数をとってある。ここで平均粒径は、各粒度範囲のコークス粉の質量割合から計算される算術平均粒径である。
【0036】
図7より、第3の粒径が1mm、3mmまたは6mmの場合には、平均粒径が小さいほどコークス強度が高くなる傾向が認められた。これは
図1~5に示した、第1の粒径以下の粗粉の内に占める、第2の粒径以下の微粉の割合が多いほど、コークス強度が高くなるという傾向と一致している。なお、第3の粒径を6mmとした場合(
図7の(3))3mmとした場合(
図7の(2))、1mmとした場合(
図7の(1))の、第3の粒径以下のコークス粉の平均粒径とコークス強度との間の相関関係の決定係数R
2はいずれも0.57以上であり、良好な相関関係を示すことがわかった。一方、第3の粒径を15mmとした場合(
図7の(4))および第3粒径を25mmとした場合(
図7の(5))には、決定係数R
2が小さくなり相関関係が低いことがわかった。
【0037】
以上の結果より、第3の粒径を10mmとすることで、該第3の粒径以下のコークス粉の平均粒径からコークス強度を予測することができることが分かった。なお、より好ましい第3の粒径の値としては、1mm~6mmである。
【0038】
従来の知見によると、粒径が0.5mm以下の破壊粉は、圧縮破壊によって発生したものが主体であり、粒径が6mm以上の破壊粉は体積破壊によって発生したものが主体である。また、粒径が0.5mm~6mmの破壊粉は、前記両破壊粉の中間のものであると考えられている。コークス強度と、コークスの破壊によって発生する破壊粉の大きさとの関係については、これまで未解明であったが、本発明者らが行った実験により、ドラム強度指数DI(150/15)が高いコークスほど、破壊粉において圧縮破壊に伴う微粉の割合が増加することが初めて明らかになった。なお、コークスの破壊により発生する破壊粉において、微粉の割合が多いということは、コークス塊の重量減少が少ない傾向となるため、衝撃を受けた後の塊歩留まりが高くなったものと考えられる。
【0039】
上記の検討結果から、発明者らは、第1の粒径以下の粗粉中に占める第2の粒径以下の微粉の割合や平均粒径のような破壊粉の粒度が分かれば、それを指標としてコークスのドラム強度を推定できることを見い出した。例えば、特許文献1に示すように、コークスの粒度分布を利用してコークス強度を推定する方法は従来より知られていたが、本発明の場合には、コークスが破壊して発生した破壊粉のうちの一部について粒度分布を求めることで、コークスの強度を推定することができる。そのため、少ない試料でコークス強度を推定することができるという利点がある。例えば、最大粒径が6mmの破壊粉であれば、数kg程度の試料があれば、十分にコークス強度を推定することができる。したがって、本発明に係る技術は、先行技術に比べてサンプリング、測定、後処理する試料量を減らすことができ、装置の小型化、作業の簡便化・迅速化を図ることができる。
【0040】
[コークス強度の推定方法]
以下に、コークス強度を、上記知見に基づいて推定する方法について説明する。
上述した本発明原理の確認では、ドラム試験機を用いてコークスの破壊を行ったが、コークスは様々な力、例えば衝撃力や圧縮力を受けることによって破壊が起こる。例えば、コークスの製造、搬送プロセスで受ける衝撃(コークス乾式消火設備(CDQ設備)への装入、荷下がりの過程で受ける衝撃、ベルトコンベアの乗り継ぎの際の落下衝撃、ホッパーに貯留する際の装入、荷下がりの過程で受ける衝撃など)によって破壊が起こる。したがって、本発明では、上記衝撃によって発生した破壊粉を回収して使用してもよい。また、専用の衝撃を与える機構を設け、該機構でサンプリングしたコークスから破壊粉を得てもよい。とくに、CDQ設備における衝撃は、従来の回転試験と比べて高炉で受ける衝撃の機構に原理的に近いため、その衝撃により発生した破壊粉の情報を利用することにより、従来の回転強度指数よりも正確に高炉操業におけるコークス強度を推定することができる。さらに、CDQ設備は、特別な装置の追加を必要としないためコスト面でも有利であり、とくに有効な方法である。
【0041】
破壊粉をサンプリングする位置は、コークス炉から高炉に至るまでの搬送過程における任意の場所でよいが、ある程度の衝撃を受けて、破壊粉が多く発生した状態の方が、該破壊粉の回収が容易なため望ましい。例えば、CDQ設備内やその出側、ベルトコンベア上、ベルトコンベアのジャンクション部、貯骸槽内やその出側、篩分け装置などが挙げられる。
【0042】
ところで、CDQ設備で発生した破壊粉を対象とする場合、該破壊粉の回収量は、コークスのドラム強度のみならずCDQ設備の操業条件にも依存すると考えられる。例えば、コークスの処理量の増減に伴って発生する破壊粉の量や還流ガスの流量が変われば、除塵機におけるダストの捕集効率が変わると想定される。
したがって、特許文献2のように集塵設備で捕集したダストの全量からドラム強度を推定する方法では、操業条件の影響を受けて、推定精度が低下する懸念がある。
【0043】
一方、本発明の推定方法において、CDQ設備内で受ける衝撃は主に、装置上部のプレチャンバーに装入される際の落下と、装置内での荷下がりの際の摩耗(コークス塊間、コークスと装置内壁との間)であり、何れも装置固有のものであり、CDQ設備の操業条件の影響は少ないものと考えられる。従って、本発明によればドラム強度の推定を安定して行うことが可能であり、加えて、発生した破壊粉のうち、ある特定の粒度の情報を得ることが必要であるものの、破壊粉の全量の情報は必ずしも必要ではない。したがって、本発明は、より簡便で優位性が高い方法であると言える。
【0044】
なお、粒度分布を表す値自体は、破壊粉の発生状況や、破壊粉の回収の方法などにより変化する可能性がある。したがって、実際に回収された破壊粉の粒度に関する情報を採取しておき、予め破壊粉の粒度分布に関する指標となる値と、コークス強度との相関関係を求めておく必要がある。その相関関係は、上述のドラム試験機を用いて破壊粉とコークス強度との関係を得る方法と同様にして求めればよい。このように、本発明では、破壊粉の粒度とコークス強度との相関関係をあらかじめ求めておくことで、回収した破壊粉の粒度分布から、前記相関関係に基づいてコークス強度を推定することができる。
【0045】
なお、推定すべきコークス強度は、JISに定められたDI(150/15)に限定されない。ドラムの回転数を変えてもよいし、ドラムの回転後に測定される篩目を異なるものとしてもよい。例えば、ASTMやマイカム試験においてもJISに定められた方法と類似の回転ドラムが用いられるので、本発明の推定方法を好適に適用することができる。また、本発明の推定方法は、I型ドラムなどの落下衝撃による粉化や、摩耗による粉化特性を表す強度指標にも用いることができる。本発明では、事前にコークス強度と本発明に例示した破壊粉の粒度分布を表す指標との相関関係を求めておくので、その良好な相関関係が得られる強度指標であれば、本発明を好適に適用させることができる。
【0046】
破壊粉の粒度に関する情報を得るための第1の粒径については、上述のドラム強度試験機による破壊粉の試験で明らかになったように15mm以下とすることが好ましく、より好ましくは10mm以下とする。第2の粒径は、第1の粒径よりも小さくなる。第2の粒径と第1の粒径が近接していると、第2の粒径以下の微粉の割合が100%に近くなり、第2の粒径以下の割合を測定する際の検出感度が下がる可能性がある。そのため、第2の粒径は第1の粒径の0.7倍以下とすることが好ましく、より好ましくは、0.5倍以下であり、具体的な値としては1mm以下とすることが好ましく、より好ましくは、0.5mm以下である。第3の粒径についても同様であり、上述のドラム強度試験機による破壊粉の試験で明らかになったように、第3の粒径は10mm以下、より好ましくは6mm以下とすればよい。実際には、予めコークス強度と破壊粉の粒度との相関関係を求める際に、該相関関係が高く表れるように第1、第2および第3の粒径を決めることができる。なお、平均粒径については算術平均径、調和平均径、中央値、最頻値等、種々の粒度分布の代表値を用いることもできる。
【0047】
破壊粉をサンプリングする方法は、サンプルの代表性を担保できるのであれば、とくに指定はない。例えば、CDQ設備で発生する破壊粉は、以下の方法でサンプリングすることができる。CDQ設備では、コークスを消火し、熱回収するために不活性ガス(窒素)が循環され、該循環ガス中に破壊粉が随伴する。したがって、循環ガスに随伴する破壊粉を吸引してサンプリングする方法が挙げられる。また上述した通り、その破壊粉は、一般的にCDQ設備の循環ガス流路に設けられた除塵機を用いて回収される。回収後の破壊粉から、適当なサンプラーを用いてサンプリングする方法も挙げられる。その他に、篩分け装置の後段や、篩下の破壊粉からサンプリングする方法が、好適な方法として挙げられる。
【0048】
破壊粉の粒度を測定する方法は、特定の粒度分布の範囲(本発明の場合、特に15mm以下の粒度分布)を精度良く測定できる方法であれば、とくに限定されない。例えば、破壊粉を篩い分けて各粒度の質量割合を求めても良いし、迅速かつ簡便な測定方法としては、自動篩分け装置の使用や画像処理による測定、レーザー回折による測定などが挙げられる。とくに、レーザー回折による粒度測定方法は、1分以内の短時間で、しかも簡便かつ精度よく測定できるため、とくに好ましい。
【0049】
レーザー回折法は、CDQ設備の還流ガスに随伴する破壊粉の粒度をインラインで測定することも可能であることから、破壊粉の粒度分布をリアルライムで測定することができる点でとくに好ましい。ただし、還流ガスは、場所によっては900℃を超える高温であるため、粒度分布測定装置に対して適切な耐熱性をもたせることが必要である。なお、微粉は凝集する性質があるため、精度よく粒度分布を測定するためには、適切に微粉の凝集状態を解消する必要がある。したがって、粒度分布の測定前に、試料を乾燥し、疑似粒子を解砕したり、分散させたりする等の事前処理を施して、凝集状態を解消することが望ましい。
【0050】
<実施例>
この実施例では、CDQ設備で断続的に回収した破壊粉の粒度分布から、コークスのドラム強度を推定した例を示す。CDQ設備に装入するコークスの量が約125t単位(およそ炭化室5窯分)を同一のロットとして取り扱い、そのロットのコークスを冷却している間に、循環ガスの流路から破壊粉を回収し、CDQ設備の出側でコークスをサンプリングした。冷却後のコークスについてドラム強度を調査した。なお、CDQ設備へのコークスの装入速度、循環ガスの流量などの条件は一定とした。
【0051】
破壊粉のサンプリングおよび粒度測定は、CDQ設備の循環ガスの配管を一部分岐し、該分岐配管に循環ガスを一部導入して冷却し、冷却後の該循環ガスに随伴する破壊粉に対し、レーザー回折により粒度測定を実施した。なお、CDQ設備の循環ガスに随伴する破壊粉は粒径が5mm程度のものを若干含んでいたが、全量が粒径6mm以下であった。また、乾燥状態であるため、凝集状態を解消する必要はなかった。
【0052】
ドラム強度測定用の塊コークスのサンプリングは、CDQ設備出側のベルトコンベア上に設置している自動サンプラーにより、各ロットにつき5インクリメント(採取試料)採取した。1インクリメント当たり、約250kg採取した。この試料を、JISに準拠した自動縮分機で縮分してドラム試験用の試料を作製し、該試料をドラム試験に供した。
【0053】
まず、10ロット分について、上述のドラム試験機による検討方法と同様にして、粒径6mm以下の粗粉の内に占める、粒径0.5mm以下の微粉の割合(質量%)と、ドラム強度指数DI(150/15)との相関関係を求めた。その結果を
図8に示す。
【0054】
図8に示したように、粒径6mm以下の粗粉の内に占める、粒径0.5mm以下の微粉の割合(質量%)と、ドラム強度指数DI(150/15)との間には高い正の相関関係が確認された。この関係から得られた回帰式は、下記(1)式のとおりであった。
推定DI(150/15)=(粒径6mm以下の粗粉の内に占める、粒径0.5mm以下の微粉の割合(質量%))×0.1192+78.162・・・(1)
なお、この相関関係は、
図3に示した相関関係とは異なっているが、それは試験に用いたコークスの違いや、破壊形態の違い、破壊粉の回収方法の違い等に基づくものと考えられる。
【0055】
次いで、別のロットのコークスについて、該コークスが冷却されている間に破壊粉を回収し、そのうちの、粒径が6mm以下の粗粉の内に占める、粒径0.5mm以下の微粉の割合(質量%)を測定した。また、冷却されて回収された塊コークスについて、上記相関関係を求めた時と同様に、コークス強度DI(150/15)を実測した(実測DI)。
【0056】
図8に示した相関関係に基づいて、粒径が6mm以下の粗粉の内に占める、粒径0.5mm以下の微粉の割合からコークス強度を推定(推定DI)し、該推定DIと上記実測DIとの関係をプロットした結果を
図9に示す。
図9の結果より、推定DIと実測DIとの間には良好な相関関係が確認され、本発明の方法によって、破壊粉の粒度の情報から、ドラム強度指数の推定が可能であることが確かめられた。