(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139260
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】試料ホルダーおよび試料加工装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20241002BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20241002BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20241002BHJP
G01N 1/32 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 E
H01J37/305 A
G01N1/28 W
G01N1/32 B
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050125
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 潤
(72)【発明者】
【氏名】木村 達人
(72)【発明者】
【氏名】福田 知久
(72)【発明者】
【氏名】根岸 勉
【テーマコード(参考)】
2G052
5C101
【Fターム(参考)】
2G052AD32
2G052DA33
2G052EB11
2G052EB13
2G052EC14
2G052EC18
5C101AA34
5C101FF01
5C101FF16
5C101FF22
5C101FF58
5C101FF59
(57)【要約】
【課題】荷電粒子線の照射による試料の熱ダメージを低減して良好な平滑面を作製できる試料ホルダーを提供する。
【解決手段】試料ホルダー100は、試料Sに荷電粒子線を照射して、試料Sを加工する試料加工装置用の試料ホルダーであって、冷却源に熱的に接続されるホルダーベース20と、ホルダーベース20に回転可能に支持され、試料Sを保持する回転体としてのホルダー30と、回転体を回転させる駆動部としてのモーター50と、を含み、回転体は、ホルダーベース20に摺動可能に面接触する摺動面30aを有している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に荷電粒子線を照射して、前記試料を加工する試料加工装置用の試料ホルダーであって、
冷却源に熱的に接続されるホルダーベースと、
前記ホルダーベースに回転可能に支持され、前記試料を保持する回転体と、
前記回転体を回転させる駆動部と、
を含み、
前記回転体は、前記ホルダーベースに摺動可能に面接触する摺動面を有している、試料ホルダー。
【請求項2】
請求項1において、
磁力によって前記回転体を前記ホルダーベースに密着させる磁石を含む、試料ホルダー。
【請求項3】
請求項2において、
前記回転体には、前記磁石が固定され、
前記ホルダーベースには、磁性体が固定されている、試料ホルダー。
【請求項4】
請求項2において、
前記ホルダーベースには、前記磁石が固定され、
前記回転体には、磁性体が固定されている、試料ホルダー。
【請求項5】
請求項3または4において、
前記磁石と前記磁性体との間の距離は、可変である、試料ホルダー。
【請求項6】
請求項1において、
前記駆動部の回転によって回転する第1回転伝達部材を含み、
前記回転体は、
前記試料を保持する試料保持部と、
前記第1回転伝達部材から動力が伝達されて回転する第2回転伝達部材と、
を含む、試料ホルダー。
【請求項7】
請求項6において、
前記摺動面は、前記第2回転伝達部材が有する面である、試料ホルダー。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記第1回転伝達部材は、第1歯車であり、
前記第2回転伝達部材は、前記第1歯車に噛み合う第2歯車である、試料ホルダー。
【請求項9】
請求項8において、
前記回転体の回転軸に沿った方向から見て、前記第2歯車の最大径は、前記試料保持部の最大幅よりも大きい、試料ホルダー。
【請求項10】
請求項8において、
前記第2歯車の複数の歯は、前記摺動面の周囲に形成されている、試料ホルダー。
【請求項11】
請求項8において、
前記第2歯車は、前記第1歯車から動力が伝達されることによって前記摺動面を前記ホルダーベースに押圧する力を発生させる、試料ホルダー。
【請求項12】
請求項1において、
前記ホルダーベースは、第1壁部および第2壁部を有し、
前記第1壁部および前記第2壁部との間に、前記試料が配置される、試料ホルダー。
【請求項13】
請求項12において、
前記回転体に取り付けられたヒーターを含む、試料ホルダー。
【請求項14】
請求項1において、
前記回転体は、
前記試料を保持するホルダーと、
前記ホルダーを脱着可能に保持し、前記ホルダーベースに回転可能に支持された回転ベースと、
表面が前記摺動面となる多層箔と、
を含む、試料ホルダー。
【請求項15】
請求項14において、
前記回転ベースは、ベアリングを介して前記ホルダーベースに回転可能に支持されている、試料ホルダー。
【請求項16】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記駆動部は、前記回転体を一定の方向に連続回転させる、試料ホルダー。
【請求項17】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
前記冷却源に熱的に接続されたベースを含み、
前記ホルダーベースは、前記ベースを介して前記冷却源に熱的に接続され、
前記ホルダーベースは、前記ベースに傾斜可能に接続されている、試料ホルダー。
【請求項18】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載された試料ホルダーと、
前記試料ホルダーに保持された前記試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子線源と、
を含む、試料加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダーおよび試料加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームを用いて試料を加工する試料加工装置として、試料の断面を加工するためのクロスセクションポリッシャ(登録商標)や、薄膜試料を作製するためのイオンスライサ(登録商標)などが知られている。
【0003】
特許文献1には、試料に対するイオンビームの入射角度を変更可能な試料ホルダーを備えた試料加工装置が開示されている。
【0004】
イオンビームを用いて試料を加工する手法として、平面ミリングが知られている。平面ミリングでは、回転している試料の表面に対してイオンビームを斜めから照射することによって、機械研磨で生じた研磨傷や結晶歪みを広範囲に除去でき、良好な平滑面を作製できる。平面ミリングを用いて作製された試料を走査電子顕微鏡で観察することによって、試料最表面の結晶情報を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、熱に弱い高分子や低融点金属試料などでは、イオンビームを照射することによって熱ダメージが発生するため、試料を平面ミリングしても、良好な平滑面を作製できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る試料ホルダーの一態様は、
試料に荷電粒子線を照射して、前記試料を加工する試料加工装置用の試料ホルダーであって、
冷却源に熱的に接続されるホルダーベースと、
前記ホルダーベースに回転可能に支持され、前記試料を保持する回転体と、
前記回転体を回転させる駆動部と、
を含み、
前記回転体は、前記ホルダーベースに摺動可能に面接触する摺動面を有している。
【0008】
このような試料ホルダーでは、回転体がホルダーベースに摺動可能に面接触する摺動面を有しているため、ホルダーを回転させつつ、ホルダーを効率よく冷却できる。したがって、このような試料ホルダーでは、荷電粒子線の照射による試料の熱ダメージを低減できるため、平面ミリングにより良好な平滑面を作製できる。
【0009】
本発明に係る試料加工装置の一態様は、
上記試料ホルダーと、
前記試料ホルダーに保持された前記試料に荷電粒子線を照射する荷電粒子線源と、
を含む。
【0010】
このような試料加工装置では、上記試料ホルダーを含むため、荷電粒子線の照射による試料の熱ダメージを低減でき、平面ミリングにより良好な平滑面を作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す斜視図。
【
図2】第1実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す斜視図。
【
図3】第1実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図4】第1実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す平面図。
【
図5】第1変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図6】第2変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図7】第3変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図9】第4変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図10】第5変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す斜視図。
【
図11】第6変形例に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図12】第2実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す斜視図。
【
図13】第2実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す斜視図。
【
図14】第2実施形態に係る試料ホルダーを模式的に示す断面図。
【
図15】第3実施形態に係る試料加工装置の構成を示す図。
【
図16】試料加工方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
1. 第1実施形態
1.1. 試料ホルダーの構成
まず、第1実施形態に係る試料ホルダーについて図面を参照しながら説明する。
図1および
図2は、第1実施形態に係る試料ホルダー100を模式的に示す斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る試料ホルダー100を模式的に示す断面図である。
図4は、試料ホルダー100を模式的に示す平面図である。なお、
図3は、
図4のIII-III線断面図である。
【0014】
試料ホルダー100は、試料Sにイオンビームを照射して試料Sを加工する試料加工装置用の試料ホルダーである。試料ホルダー100は、
図1~
図4に示すように、ベース10と、ホルダーベース20と、ホルダー30と、モーターベース40と、モーター50と、第1歯車60と、磁石70と、磁性体80と、を含む。
【0015】
ベース10は、壁部12と、壁部14と、壁部12と壁部14とを接続する底部16と、を有している。壁部12と壁部14は、対向している。壁部12と壁部14との間に、ホルダーベース20が配置されている。
【0016】
ベース10は、試料加工装置に脱着可能に構成されている。例えば、ベース10の底部16には、凹部15が形成されている。凹部15が試料加工装置のステージに設けられた凸部に嵌めあわせることによって、ベース10を試料加工装置に取り付けることができる。なお、ベース10を試料加工装置に取り付ける方法は特に限定されない。
【0017】
ベース10は、
図3に示すように、冷却源2に熱的に接続され、熱伝導により冷却される。ベース10の底部16は、冷却源2に面接触している。試料加工装置では、ベース1
0が取り付けられるステージが液体窒素などの冷媒で冷却されており、ステージが冷却源2となる。
【0018】
ホルダーベース20は、第1壁部22と、第2壁部24と、第1壁部22と第2壁部24とを接続する底部26と、を有している。第1壁部22と第2壁部24は、対向している。第1壁部22と第2壁部24との間には、試料Sを保持するホルダー30が配置されている。
【0019】
ベース10の壁部12とホルダーベース20の第1壁部22とは対向しており、壁部12と第1壁部22との間には隙間がある。ベース10の壁部14とホルダーベース20の第2壁部24とは対向しており、壁部14と第2壁部24との間には隙間がある。ベース10の底部16とホルダーベース20の底部26とは、対向しており、底部16と底部26との間には隙間がある。
【0020】
ホルダーベース20は、ベース10に熱的に接続されている。ホルダーベース20は、ベース10を介して冷却源2に熱的に接続され、熱伝導により冷却される。第1壁部22には、ベース10の壁部12に向かって突出する第1突出部23が設けられている。第1突出部23の先端の面23aは、壁部12に摺動可能に面接触している。第2壁部24には、ベース10の壁部14に向かって突出する第2突出部25が設けられている。第2突出部25の先端の面25aは、壁部14に摺動可能に面接触している。第1突出部23および第2突出部25がベース10に面接触していることによって、ホルダーベース20はベース10に熱的に接続される。したがって、ホルダーベース20は、ホルダーベース20を介して冷却源2に熱的に接続される。
【0021】
ホルダーベース20の底部26には、ホルダー30の軸部36をガイドする孔28が形成されている。また、底部26は、ホルダー30の摺動面30aが摺動可能に面接触する底面27を有している。
【0022】
ホルダーベース20は、ベース10に傾斜可能に接続されている。ホルダーベース20は、
図3に示す軸Aを傾斜軸として傾斜する。第1突出部23および第2突出部25は、それぞれ軸Aに沿って延びる棒状の軸部材によってベース10に回転可能に接続されている。そのため、ホルダーベース20を、軸Aを傾斜軸として傾斜させることができる。ホルダーベース20の傾斜は、手動で行われてもよいし、図示しないモーターを動力として行われてもよい。ホルダーベース20を傾斜させることによって、ホルダー30、モーターベース40、およびモーター50を傾斜させることができる。ホルダーベース20を傾斜させることによって、試料Sを傾斜させることができる。
【0023】
ホルダー30は、加工対象となる試料Sを保持する。ホルダー30は、ホルダーベース20に回転可能に支持されている。ホルダー30は、モーター50の駆動により回転する回転体である。ホルダー30は、ホルダーベース20に摺動可能に面接触する摺動面30aを有している。
【0024】
ホルダー30は、試料保持部32と、柱状部33と、第2歯車34と、軸部36と、を有している。試料保持部32、柱状部33、第2歯車34、および軸部36は、例えば、一体に構成されている。
【0025】
試料保持部32は、試料Sを保持する。試料保持部32は、ホルダーベース20の第1壁部22と第2壁部24との間に位置している。ホルダーベース20の傾斜軸となる軸Aが試料Sの表面Saを通るように試料Sは試料保持部32に固定される。試料Sは、例えば、樹脂や接着剤を用いて試料保持部32に固定されてもよいし、バネやネジなどを用い
て試料保持部32に固定されてもよい。試料保持部32の形状は、軸Bに沿った方向から見て、円である。なお、試料保持部32の形状は、特に限定されず、軸Bに沿った方向から見て多角形であってもよい。
【0026】
柱状部33は、軸Bに沿って延びる柱状の部分である。柱状部33の形状は、例えば、軸Bを中心軸とする円柱状である。柱状部33の一端には試料保持部32が接続され、柱状部33の他端には第2歯車34および軸部36が接続されている。
【0027】
第2歯車34は、第1歯車60に噛み合っている。第2歯車34は、第1歯車60から動力が伝達されて回転する。第2歯車34は、例えば、平歯車である。第2歯車34の中心は、ホルダー30の回転軸となる軸B上に位置している。第2歯車34は、ホルダーベース20に摺動可能に面接触する摺動面30aを有している。摺動面30aは、軸Bを中心とする円環状の領域である。第2歯車34を構成する複数の歯は、摺動面30aの周囲に形成されている。
【0028】
図4に示す第2歯車34の最大径(最大直径)Dは、試料保持部32の最大幅Wよりも大きい。試料保持部32の最大幅Wは、試料保持部32の軸Bに直交する方向の大きさである。ここでは、試料保持部32の形状は、軸Bに沿った方向から見て円であり、最大幅Wは、試料保持部32の最大径である。
【0029】
軸Bに沿った方向から見て、第2歯車34は、ホルダー30において最も幅(軸Bに直交する方向の大きさ)が大きい。すなわち、軸Bに沿った方向から見て、第2歯車34の最大径Dは、試料保持部32の最大幅W、柱状部33の最大幅(最大径)、および軸部36の最大幅(最大径)よりも大きい。第2歯車34の最大径Dを大きくすることによって、摺動面30aの面積を大きくできる。これにより、ホルダー30とホルダーベース20が面接触する面積を大きくでき、冷却効率を高めることができる。
【0030】
軸部36は、ホルダーベース20の孔28に挿入されている。軸部36を孔28に挿入することによって、ホルダー30をホルダーベース20に装着できる。ホルダー30は、軸部36が挿入された孔28をガイドとして回転する。軸部36の中心軸は、軸Bと重なる。ホルダー30は、軸Bを回転軸として回転する。
【0031】
軸部36には、磁石70が固定されている。図示の例では、磁石70は、ナット72によって軸部36に固定されている。ナット72は、軸部36に形成された雄ネジに螺合する。磁石70の形状は、例えば、軸Bに沿った方向から見て、円環状であり、円環の中心を軸部36が通る。また、ホルダーベース20の孔28には、磁性体(強磁性体)80が固定されている。磁性体80の形状は、例えば、軸Bに沿った方向から見て、円環状であり、円環の中心を軸部36が通る。
【0032】
磁石70が発生させる磁力によって、ホルダー30の摺動面30aはホルダーベース20の底面27に密着する。磁石70と磁性体80との間に働く引力によって、摺動面30aが底面27に押圧され、摺動面30aが底面27に密着する。摺動面30aは、磁石70の磁力によって底面27に一定の力で押圧される。
【0033】
ホルダー30は、磁石70と磁性体80との間の引力によってホルダーベース20に保持されている。そのため、ホルダー30は、ホルダーベース20に対して脱着可能である。したがって、試料ホルダー100では、ホルダーベース20からホルダー30を取り外した状態でホルダー30に試料Sを固定できる。また、ホルダー30が摩耗した場合に、ホルダー30を交換できる。
【0034】
ベース10およびホルダーベース20の材質は、例えば、アルミニウムであり、ホルダー30の材質は、例えば、銅である。ホルダーベース20の材質とホルダー30の材質を異なる種類の金属とすることによって、かじりを防止できる。なお、ベース10、ホルダーベース20、およびホルダー30の材質は、熱伝導性の高い材料であれば特に限定されない。例えば、ホルダーベース20の母材やホルダー30の母材をメッキ層で被覆して、ホルダーベース20の底面27や、ホルダー30の摺動面30aをメッキ層の表面としてもよい。例えば、摺動性が高く、かつ、熱伝導性の高いメッキ層の表面を、ホルダーベース20の底面27や、ホルダー30の摺動面30aとしてもよい。
【0035】
モーターベース40は、モーター50を保持している。モーターベース40は、ホルダーベース20に接続されている。モーター50は、第1歯車60に接続されている。モーター50は、第1歯車60を回転させる。モーター50は、ホルダー30を回転させるための駆動部として機能する。第1歯車60は、例えば、平歯車である。
【0036】
1.2. 試料ホルダーの動作
試料ホルダー100では、ホルダーベース20を軸Aを傾斜軸として傾斜させることによって、試料Sの表面Saに対するイオンビームの入射角度を調整できる。
【0037】
モーター50の回転によって第1歯車60が回転すると、第1歯車60に噛み合う第2歯車34が回転する。これにより、ホルダー30が軸Bを回転軸として回転し、試料保持部32に保持された試料Sが軸Bを回転軸として回転する。モーター50は、例えば、ホルダー30を一定の方向に連続回転させる。すなわち、モーター50は、ホルダー30を同じ方向に複数回転させる。
【0038】
ホルダー30が回転することによって、ホルダー30の摺動面30aは、底面27に面接触した状態で摺動する。ここで、ベース10は、冷却源2に接触しているため、熱伝導により冷却される。ベース10が冷却されることによって、ベース10に熱的に接続されたホルダーベース20が冷却される。ホルダー30の摺動面30aは、ホルダーベース20に摺動可能に面接触しているため、ホルダー30を回転させつつ、ホルダー30を冷却できる。このとき、ホルダー30に固定された磁石70とホルダーベース20に固定された磁性体80との間に働く引力によって、摺動面30aは底面27に一定の力で押圧されている。そのため、摺動面30aと底面27とを密着させることができる。
【0039】
1.3. 作用効果
試料ホルダー100は、冷却源2に熱的に接続されたホルダーベース20と、ホルダーベース20に回転可能に支持され、試料Sを保持するホルダー30と、ホルダー30を回転させるモーター50と、を含む。また、ホルダー30は、ホルダーベース20に摺動可能に面接触する摺動面30aを有している。このように、試料ホルダー100では、ホルダー30がホルダーベース20に摺動可能に面接触する摺動面30aを有しているため、ホルダー30を回転させつつ、ホルダー30を効率よく冷却できる。したがって、試料ホルダー100では、イオンビームの照射による試料Sの熱ダメージを低減できるため、熱に弱い高分子や低融点金属試料などの試料であっても平面ミリングにより良好な平滑面を作製できる。
【0040】
例えば、ホルダー30がホルダーベース20にベアリングを介して回転可能に支持されている場合、ホルダーベース20とホルダー30との間には、ベアリングのボールによって点接触する箇所が含まれる。そのため、ホルダー30がホルダーベース20にベアリングを介して支持されている場合、熱伝導が悪く、ホルダー30を効率よく冷却できない。これに対して、試料ホルダー100では、ホルダー30とホルダーベース20は、面接触しているため、熱伝導が良く、ホルダー30を効率よく冷却できる。
【0041】
試料ホルダー100は、ホルダー30を磁力によってホルダーベース20に密着させる磁石70を含む。試料ホルダー100では、磁石70は、ホルダー30に固定され、ホルダーベース20には、磁性体80が固定されている。このように、試料ホルダー100では、磁力によってホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に密着させることができるため、摺動面30aとホルダーベース20との間の接触熱抵抗を低減でき、ホルダー30を効率よく冷却できる。
【0042】
また、試料ホルダー100では、磁石70の磁力によってホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に密着させるため、摺動面30aを一定の力で押圧できる。これにより、摺動面30aに生じる摩擦力の変動を小さくすることができ、かつ、摺動面30aと底面27との間の接触熱抵抗の変動を小さくすることができる。
【0043】
例えば、バネなどの弾性部材で摺動面30aをホルダーベース20に密着させる場合、バネの復元力の大きさは、ばねの自然長からの伸び縮みの量に比例するため、摺動面30aを一定の力で押圧することは困難である。これに対して、試料ホルダー100では、磁力によってホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に密着させるため、摺動面30aを一定の力で押圧できる。これにより、摺動面30aに生じる摩擦力の変動を小さくすることができる。さらに、摺動面30aとホルダーベース20との接触熱抵抗の変動を小さくすることができる。したがって、試料ホルダー100では、ホルダー30を一定の速度で回転させることができ、かつ、ホルダー30の温度を一定に保つことができる。
【0044】
試料ホルダー100は、モーター50の回転によって回転する第1歯車60を含む。また、ホルダー30は、試料Sを保持する試料保持部32と、第1歯車60から動力が伝達されて回転する第2歯車34と、を含む。そのため、試料ホルダー100では、ホルダー30を一定の方向に連続回転させることができる。
【0045】
試料ホルダー100では、摺動面30aは、第2歯車34が有する面である。また、第2歯車34の複数の歯は、摺動面30aの周囲に形成されている。そのため、試料ホルダー100では、ホルダー30が回転することによって、摺動面30aはホルダーベース20に面接触した状態で摺動する。したがって、試料ホルダー100では、ホルダー30を回転させつつ、ホルダー30をホルダーベース20に面接触させることができる。
【0046】
試料ホルダー100では、軸Bに沿った方向から見て、第2歯車34の最大径Dは、試料保持部32の最大幅Wよりも大きい。そのため、試料ホルダー100では、例えば、第2歯車34の最大径Dが試料保持部32の最大幅W以下の場合と比べて、摺動面30aの面積を大きくでき、ホルダー30の冷却効率を高めることができる。
【0047】
試料ホルダー100では、モーター50は、ホルダー30を一定の方向に連続回転させる。そのため、試料ホルダー100では、平面ミリングにおいて、試料Sの表面Saの加工ムラを低減でき、良好な平滑面を作製できる。
【0048】
例えば、ホルダー30と冷却源2を平編線などで接続してホルダー30を冷却する場合、ホルダー30を一定の方向に連続回転させると平編線が捻じれてしまうため、ホルダー30を一定の方向に連続回転させることができない。これに対して、試料ホルダー100では、ホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に面接触させた状態で摺動できるため、ホルダー30を冷却しながら、ホルダー30を一定の方向に連続回転させることができる。
【0049】
試料ホルダー100は、冷却源2に熱的に接続されたベース10を含み、ホルダーベー
ス20はベース10を介して冷却源2に熱的に接続され、ホルダーベース20はベース10に傾斜可能に接続されている。そのため、試料ホルダー100では、試料Sの表面Saに対するイオンビームの入射角度を調整できる。
【0050】
1.4. 変形例
1.4.1. 第1変形例
図5は、第1変形例に係る試料ホルダー101を模式的に示す断面図である。以下、試料ホルダー101において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
上述した試料ホルダー100では、
図3に示すように、磁石70はホルダー30に固定され、磁性体80はホルダーベース20に固定されていた。これに対して、試料ホルダー101では、
図5に示すように、磁石70はホルダーベース20に固定され、磁性体80はホルダー30に固定されている。
【0052】
試料ホルダー101では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
1.4.2. 第2変形例
図6は、第2変形例に係る試料ホルダー102を模式的に示す断面図である。以下、試料ホルダー102において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0054】
上述した試料ホルダー100では、
図3に示すように、磁石70はホルダー30に固定され、磁性体80はホルダーベース20に固定されていた。したがって、試料ホルダー100では、磁石70と磁性体80との間の距離は一定であった。
【0055】
これに対して、試料ホルダー102では、
図6に示すように、磁性体80は軸Bに沿って移動可能である。そのため、試料ホルダー102では、磁石70と磁性体80との間の距離を可変にできる。磁石70は、ホルダー30に固定されている。
【0056】
ホルダーベース20の底部26に形成された孔28の内面には雌ネジが形成され、磁性体80の外面には雄ネジが形成されている。このように、磁性体80と孔28をネジ構造にすることによって、磁性体80を軸Bに沿って移動可能にできる。これにより、磁石70と磁性体80との間の距離を可変にできる。
【0057】
また、図示はしないが、磁性体80を、軸Bに直交する方向からビス止めしてもよい。また、磁石70と磁性体80との間の距離を調整した後に、磁性体80を接着して固定してもよい。
【0058】
試料ホルダー102では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。さらに、試料ホルダー102では、磁石70と磁性体80との間の距離が可変である。そのため、試料ホルダー102では、磁石70と磁性体80との間の引力の大きさを調整できる。したがって、試料ホルダー102では、ホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に押圧する力を調整できる。
【0059】
なお、
図5に示すように磁性体80をホルダー30に固定し、磁石70を軸Bに沿って移動可能としてもよい。これにより、磁石70と磁性体80との間の距離を可変にできる。
【0060】
1.4.3. 第3変形例
図7は、第3変形例に係る試料ホルダー103を模式的に示す断面図である。以下、試料ホルダー103において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0061】
上述した試料ホルダー100では、磁石70の形状は、軸Bに沿った方向から見て、円環状であった。これに対して、試料ホルダー103では、磁石70は円環状の保持部材74に保持されて、軸部36の周囲に複数配置されている。
【0062】
図8は、保持部材74を模式的に示す斜視図である。保持部材74の形状は、軸Bに沿った方向から見て、円環状であり、円環の中心を軸部36が通る。保持部材74は、ナット72によって軸部36に固定されている。保持部材74は、
図8に示すように、複数の磁石70を保持している。磁石70は、例えば、軸Bまわりに等間隔に配置される。図示の例では、保持部材74は、4つの磁石70を保持しているが、保持部材74が保持する磁石70の数は特に限定されない。また、磁石70の配置も特に限定されず、磁石70は任意の位置に配置できる。
【0063】
試料ホルダー103では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。
【0064】
1.4.4. 第4変形例
図9は、第4変形例に係る試料ホルダー104を模式的に示す断面図である。以下、試料ホルダー104において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0065】
上述した試料ホルダー100では、
図3に示すように、ホルダー30の摺動面30aは、ホルダー30の回転軸となる軸Bを中心とする円環状の領域であった。これに対して。試料ホルダー104では、
図9に示すように、ホルダー30の摺動面30aは軸Bを中心とする円である。
【0066】
摺動面30aは、軸部36に設けられている。摺動面30aは、軸部36の端面である。磁石70の形状は、例えば軸Bに沿った方向から見て、円環状であり、円環の中心を軸部36が通る。摺動面30aは、軸Bに沿った方向から見て、磁石70で囲まれている。すなわち、摺動面30aは、軸Bに沿った方向から見て、円環状の磁石70の内側に位置している。磁石70は、固定部材76によってホルダー30に固定されている。なお、磁石70の固定方法は特に限定されず、例えば、接着剤などで磁石70をホルダー30に固定してもよい。
【0067】
磁性体80は、磁石70と対向する領域に配置されている。軸Bに沿った方向から見て、磁性体80は、磁石70と重なる。図示の例では、磁性体80の形状は、例えば軸Bに沿った方向から見て、円環状である。磁石70の直径と磁性体80の直径は、例えば、等しい。ホルダー30の摺動面30aと面接触するホルダーベース20の底面27は、磁性体80で囲まれている。すなわち、ホルダーベース20の底面27は、軸Bに沿った方向から見て、円環状の磁性体80の内側に位置している。
【0068】
試料ホルダー104では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。
【0069】
1.4.5. 第5変形例
図10は、第5変形例に係る試料ホルダー105を模式的に示す斜視図である。以下、
試料ホルダー105において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0070】
試料ホルダー105では、
図10に示すように、第1歯車60および第2歯車34は、傘歯車である。
【0071】
第1歯車60および第2歯車34は、円錐台の側面に複数の歯が形成された傘歯車である。第1歯車60と第2歯車34とは、上下が逆になっている。図示の例では、第1歯車60は面積が小さい天面が下、面積が大きい底面が上に配置され、第2歯車34は天面が上、底面が下に配置されている。第1歯車60の回転軸となる軸Cと、第2歯車34の回転軸となる軸Bは、平行である。
【0072】
このように、上下が逆の第1歯車60および第2歯車34を用いることによって、第1歯車60から動力が伝達された第2歯車34には、ホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に押圧する力が働く。したがって、試料ホルダー105では、磁石70による磁力に加えて、第1歯車60から動力が伝達されることによって第2歯車34が発生させる力によって、摺動面30aをホルダーベース20に密着させることができる。
【0073】
試料ホルダー105では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。さらに、試料ホルダー105では、第2歯車34は、第1歯車60から動力が伝達されることによってホルダー30の摺動面30aをホルダーベース20に押圧する力を発生させる。そのため、試料ホルダー105では、摺動面30aをよりホルダーベース20に密着させることができ、ホルダー30の冷却効率を向上できる。
【0074】
なお、上記では、第1歯車60および第2歯車34が傘歯車である場合について説明したが、第1歯車60および第2歯車34は、第2歯車34が摺動面30aをホルダーベース20に押圧する力を発生させるものであれば特に限定されない。
【0075】
例えば、第1歯車60および第2歯車34は、歯筋が回転軸に対して螺旋状であるヘリカルギヤ(はすば歯車)であってもよい。これにより、第1歯車60および第2歯車34が傘歯車である場合と同様に、第2歯車34が摺動面30aをホルダーベース20に押圧する力を発生させることができる。さらに、第1歯車60および第2歯車34をヘリカルギヤとすることによって、ホルダー30を脱着可能にできる。
【0076】
1.4.6. 第6変形例
図11は、第6変形例に係る試料ホルダー106を模式的に示す断面図である。以下、試料ホルダー106において、上述した試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0077】
試料ホルダー106は、
図11に示すように、ホルダー30に配置されたヒーター38を含む。
【0078】
第1壁部22および第2壁部24は、冷却源2に熱的に接続されたベース10に熱的に接続されているため、熱伝導により冷却される。ここで、試料保持部32に保持された試料Sは、第1壁部22および第2壁部24の間に配置される。そのため、第1壁部22および第2壁部24を、試料Sの汚染源となるハイドロカーボン等の分子を吸着させて試料汚染を低減する冷却トラップとして機能させることができる。
【0079】
ヒーター38は、試料Sを加熱するためのヒーターである。ヒーター38は、ホルダー30に取り付けられている。図示の例では、ヒーター38は、試料保持部32に接するよ
うに配置されているが、ヒーター38を取り付ける位置は特に限定されない。ヒーター38は、ホルダー30に取り付けられているため、試料保持部32に保持された試料Sの温度を、第1壁部22および第2壁部24よりも先に上昇させることができる。図示はしないが、ホルダー30には、試料Sの温度を測定するための温度計が取り付けられていてもよい。これにより、試料Sの温度を知ることができる。
【0080】
図示はしないが、試料加工装置のステージには、試料ホルダー100を加熱するためのヒーターが取り付けられている。
【0081】
試料ホルダー106では、試料Sを冷却しながら、試料Sにイオンビームを照射して試料Sを加工するときに、第1壁部22および第2壁部24を冷却トラップとして機能させることができる。そのため、試料Sの汚染を低減できる。
【0082】
試料ホルダー106では、ホルダー30に取り付けられたヒーター38を含むため、ホルダー30を独立して加熱できる。したがって、冷却トラップとして機能する第1壁部22および第2壁部24に吸着した汚染源となる分子が試料Sに再付着することを防ぐことができる。
【0083】
例えば、試料ホルダー106では、第1壁部22および第2壁部24を冷却して冷却トラップとして機能させつつ、試料Sにイオンビームを照射して試料Sを加工できる。加工が終了した後、試料Sを室温に戻す場合には、まず、ホルダー30に取付けられたヒーター38で試料Sを加熱する。次に、ステージに取付けられたヒーターでベース10およびホルダーベース20を加熱する。これにより、試料Sを室温に戻す際に、試料Sの温度を、常に第1壁部22および第2壁部24の温度よりも高くできる。この結果、第1壁部22および第2壁部24に吸着した汚染源となる分子が試料Sに再付着することを防ぐことができる。
【0084】
1.4.7. 第7変形例
図3に示す試料ホルダー100において、ホルダー30の摺動面30aおよびホルダーベース20の底面27に潤滑剤を塗布してもよい。摺動面30aと底面27で潤滑剤を挟んでもよい。潤滑剤としては、例えば、イオン液体などの導電性潤滑剤を用いることができる。これにより、ホルダー30とホルダーベース20との間の摩擦を低減でき、かつ、ホルダー30の冷却効率を向上できる。
【0085】
1.4.8. 第8変形例
図1~
図4に示す試料ホルダー100では、モーター50の回転によって第1歯車60が回転し、第1歯車60から動力が伝達されて第2歯車34が回転したが、モーター50の回転によって回転する第1回転伝達部材、および第1回転伝達部材から動力が伝達されて回転する第2回転伝達部材は、第1歯車60および第2歯車34に限定されない。
【0086】
図示はしないが、モーター50に接続された第1回転伝達部材およびホルダー30に設けられた第2回転伝達部材を滑車とし、第1回転伝達部材と第2回転伝達部材をベルトで接続してもよい。これにより、モーター50の駆動を、第1回転伝達部材および第2回転伝達部材を介してホルダー30に伝達でき、ホルダー30を回転させることができる。
【0087】
2. 第2実施形態
2.1. 試料ホルダーの構成
次に、第2実施形態に係る試料ホルダーについて、図面を参照しながら説明する。
図12および
図13は、第2実施形態に係る試料ホルダー200を模式的に示す斜視図である。
図14は、第2実施形態に係る試料ホルダー200を模式的に示す断面図である。以下
、第2実施形態に係る試料ホルダー200において、第1実施形態に係る試料ホルダー100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0088】
上述した試料ホルダー100では、ホルダーベース20に回転可能に支持された回転体が、ホルダー30で構成されていた。これに対して、試料ホルダー200では、
図12~
図14に示すように、回転体202は、ホルダー30と、回転ベース210と、多層箔220と、を含む。
【0089】
試料ホルダー200は、回転ベース210と、多層箔220と、ベアリング230と、を含む。ホルダー30、回転ベース210、および多層箔220は、モーター50の駆動によって回転する回転体202を構成している。
【0090】
回転ベース210は、軸Bを回転軸として回転可能にホルダーベース20に支持されている。回転ベース210は、ホルダーベース20の孔28に、ベアリング230を介して固定されている。これにより、回転ベース210は、ホルダーベース20に回転可能に支持される。回転ベース210は、軸Bを回転軸として回転する。
【0091】
回転ベース210には、軸Bを中心軸とする孔211が形成されている。孔211には、ホルダー30の軸部36が挿入される。ホルダー30は、回転ベース210に面接触している。ホルダー30の第2歯車34の複数の歯で囲まれた面35は、回転ベース210の上面212に面接触している。回転ベース210には、磁性体80が固定されている。ホルダー30には、磁石70が固定されている。ホルダー30に固定された磁石70と回転ベース210に固定された磁性体80との間に働く引力によって、ホルダー30の面35は、回転ベース210の上面212に密着している。
【0092】
ホルダー30は、磁石70が発生させる磁力によって回転ベース210に固定されているため、ホルダー30は回転ベース210に対して脱着可能である。ホルダー30と回転ベース210は、一体となって軸Bを回転軸として回転する。
【0093】
多層箔220は、回転ベース210に固定されている。多層箔220は、回転ベース210とともに回転する。多層箔220の表面の形状は、軸Bを中心とする円環状である。多層箔220は、例えば、銅箔を多層に重ねたものである。多層箔220は、回転ベース210とホルダーベース20との間に配置される。
【0094】
多層箔220の表面は、摺動面30aとなる。すなわち、多層箔220の表面は、ホルダーベース20の底面27に摺動可能に面接触する。多層箔220は、例えば、バルク金属と比べて、弾性変形しやすい。そのため、摺動面30aを多層箔220の表面とすることによって、摺動面30aをホルダーベース20に密着させつつ、回転体202を回転させることができる。
【0095】
例えば、剛性が高いバルク金属の表面を摺動面30aとすると、回転ベース210の位置がホルダーベース20に近い場合には摩擦抵抗が大きくなり、回転体202は回転できない。また、回転ベース210の位置がホルダーベース20から離れている場合には、回転体202をホルダーベース20に密着させることができずに、ホルダー30を冷却できない。このように、剛性が高いバルク金属の表面を摺動面30aとする場合、摺動面30aをホルダーベース20に密着させつつ、回転体202を回転させることは困難である。これに対して、弾性変形しやすい多層箔220の表面を摺動面30aとすることによって、摺動面30aをホルダーベース20に密着させつつ、回転体202を回転させることができる。
【0096】
なお、多層箔220は、回転ベース210とホルダーベース20との間に配置されればよい。そのため、多層箔220をホルダーベース20に固定し、ホルダーベース20の底面27を多層箔220の表面としてもよい。
【0097】
また、ここでは、摺動面30aとなる部材として多層箔220を用いた場合について説明したが、摺動面30aとなる部材は多層箔220に限定されない。摺動面30aとなる部材は、熱伝導性が高く、かつ、弾性変形しやすい弾性体であればよく、例えば、銅などからなる平編線であってもよい。
【0098】
試料ホルダー200では、回転体202をベアリング230を介してホルダーベース20に固定するときに、回転体202を固定する位置によって、回転体202の摺動面30aがホルダーベース20を押圧する力を調整できる。
【0099】
2.2. 動作
試料ホルダー200の動作は、ホルダー30、回転ベース210、および多層箔220を含む回転体202がモーター50の駆動によって回転する点を除いて、試料ホルダー100の動作と同様であり、その説明を省略する。
【0100】
2.3. 作用効果
試料ホルダー200では、回転体202は、試料Sを保持するホルダー30と、ホルダー30を脱着可能に保持し、ホルダーベース20に回転可能に支持された回転ベース210と、表面が摺動面30aとなる多層箔220と、を含む。また、試料ホルダー200では、回転ベース210は、ベアリング230を介してホルダーベース20に回転可能に支持されている。そのため、試料ホルダー200では、回転体202をベアリング230を介して回転可能に支持しつつ、回転体202の摺動面30aをホルダーベース20に摺動可能に面接触させることができる。したがって、試料ホルダー200では、試料ホルダー100と同様の作用効果を奏することができる。
【0101】
3. 第3実施形態
3.1. 試料加工装置
次に、第3実施形態に係る試料加工装置について、図面を参照しながら説明する。
図15は、第3実施形態に係る試料加工装置300の構成を示す図である。
【0102】
試料加工装置300は、イオンビームIBを照射して試料Sを加工し、走査電子顕微鏡用の試料を作製できる。試料加工装置300では、試料Sの表面Saに対してイオンビームIBを斜めに照射する平面ミリングにより試料Sを加工できる。
【0103】
試料加工装置300は、
図1~
図4に示す試料ホルダー100と、ステージ310と、液体窒素タンク320と、イオン源330と、真空チャンバー340と、カメラ350と、を含む。
【0104】
試料ホルダー100は、ステージ310に取り付けられている。
図15に示す例では、ステージ310の試料ホルダー100が取り付けられる取付面312は、水平方向を向いている。試料ホルダー100は、ベース10の底部16が取付面312に面接触するように取付面312に取り付けられる。試料ホルダー100は、
図3に示す傾斜軸となる軸Aが水平となるようにステージ310の取付面312に取り付けられる。軸Aと軸Bの交点にイオンビームIBが照射される。
【0105】
ステージ310は、冷媒としての液体窒素を貯留する液体窒素タンク320との間に熱
伝導部を介して熱的に接続されている。そのため、ステージ310を冷却することができ、ステージ310を冷却源2として機能させることができる。また、図示はしないが、ステージ310には、液体窒素タンクに接続している熱伝導部において接続と遮断を切り替えるための接続・遮断機構と、ステージ310を加熱するためのヒーターが取り付けられている。そのため、試料加工装置300では、ステージ310の温度を所望の温度に制御できる。
【0106】
試料ホルダー100では、軸Aを傾斜軸として、ホルダーベース20を傾斜させることができる。そのため、ホルダーベース20を傾斜させることによって、試料Sの表面Saに対するイオンビームIBの入射角度を調整できる。
【0107】
イオン源330は、イオンビームIBを試料Sに照射する。イオン源330は、真空チャンバー340の上部に取り付けられている。イオン源330は、例えば、所定の加速電圧でイオンビームIBを加速させて放出するイオン銃である。イオン源330は、例えば、アルゴンガスをイオン化させてアルゴンイオンビームIBを放出する。
【0108】
真空チャンバー340内には、試料ホルダー100が収容されている。真空チャンバー340内において、試料ホルダー100に保持された試料SにイオンビームIBが照射される。真空チャンバー340内は、図示しない排気装置で真空排気される。
【0109】
カメラ350は、試料ホルダー100に保持された試料Sを観察するためのカメラである。カメラ350によって、試料Sの加工状況を確認できる。
【0110】
3.2. 試料加工方法
3.2.1. 平面ミリング
試料加工装置300では、平面ミリングにより試料Sの表面Saを加工できる。平面ミリングは、回転している試料Sの表面Saに対して、イオンビームIBを斜めから照射することによって試料Sの表面Saを加工する手法である。例えば、機械研磨で前処理を行った試料Sの表面Saには、研磨傷や結晶歪みなどが生じたり、研磨剤の残差物が付着したりするため、走査電子顕微鏡で試料最表面の状態や凹凸の情報を得ることは難しい。機械研磨した試料表面を最終仕上げとして平面ミリングを行うことで、研磨傷や、研磨剤の残差物、結晶歪みなどを広い範囲で除去できる。
【0111】
例えば、試料Sの表面Saに対して10度以下の浅い角度でイオンビームIBを照射した場合、結晶方位や組成によるエッチングレート差が低減された凹凸の少ない表面が得られる。これにより、走査電子顕微鏡においてチャネリングコントラストが強調された像を観察できる。また、試料表面に対して30度以上の深い角度でイオンビームIBを照射した場合、結晶方位や組成によるエッチングレート差が生じるため、走査電子顕微鏡において凹凸が強調された像を観察できる。
【0112】
3.2.2. 試料加工の流れ
図16は、試料ホルダー100を含む試料加工装置300を用いた試料加工方法の一例を示すフローチャートである。以下では、
図1~
図4、
図15を参照しながら、試料Sを平面ミリングする場合について説明する。
【0113】
まず、試料ホルダー100に試料Sをセットする(S100)。試料ホルダー100では、ホルダー30がホルダーベース20に対して脱着可能である。そのため、ホルダー30をホルダーベース20から取り外して試料Sをホルダー30に固定できる。具体的には、
図3に示すように、試料Sの表面Saの中心に、軸Aと軸Bの交点が位置するように、試料Sを試料保持部32に固定する。試料Sを試料保持部32に固定した後、ホルダー3
0をホルダーベース20に装着する。
【0114】
なお、試料ホルダー100では、ホルダー30は脱着可能であるため、高さの異なるホルダー30を複数準備して、試料Sの高さにあったホルダー30を用いてもよい。
【0115】
次に、
図15に示すように、試料ホルダー100をステージ310に装着する(S102)。このとき、軸Aと軸Bの交点にイオンビームIBが照射されるように、イオン源330の光軸に対する試料ホルダー100の位置を調整する。また、試料Sの表面Saに対するイオンビームIBの入射角度を調整する。試料Sの表面Saに対するイオンビームIBの入射角度の調整は、ホルダーベース20を軸Aを傾斜軸として傾斜させることによって行う。
【0116】
次に、真空チャンバー340内を真空排気して、真空チャンバー340内を真空状態(減圧状態)にする(S104)。
【0117】
次に、試料Sの冷却を開始する(S106)。液体窒素タンク320に液体窒素を供給することによって、ステージ310を冷却できる。ステージ310が冷却されることによって、ステージ310に熱的に接続されたベース10、ベース10に熱的に接続されたホルダーベース20が冷却される。また、ホルダーベース20とホルダー30は、面接触しているため、ホルダー30も冷却される。これにより、試料Sを冷却できる。ステージ310に取り付けられたヒーターを動作させることによって、試料Sの温度を制御してもよい。
【0118】
次に、イオンビームIBで試料Sを加工する(S108)。モーター50を動作させて第1歯車60および第2歯車34を介して、ホルダー30を軸Bを回転軸として一定の方向に連続回転させる。ホルダー30が回転することによって、ホルダー30の摺動面30aは、ホルダーベース20の底面27に面接触した状態で摺動する。また、磁石70が発生させる磁力によって、摺動面30aは、底面27に押圧される。したがって、ホルダー30では、ホルダー30が回転してもホルダー30を効率よく冷却できる。さらに、磁石70が発生させる磁力によって、摺動面30aは底面27に一定の力で押圧されているため、接触熱抵抗の変動を小さくでき、試料Sの温度を一定に保つことができる。
【0119】
試料Sを回転させた状態で、イオン源330にイオンビームIBを放出させ、イオンビームIBを試料Sの表面Saに照射する。これにより、試料Sを回転させつつ試料Sを冷却しながら、試料SにイオンビームIBを照射して試料Sの表面Saを加工できる。以上の工程により、試料Sを平面ミリングできる。
【0120】
試料Sの加工が終了した後、ステージ310をステージ310に取り付けられたヒーターで加熱することによって、試料ホルダー100を室温に戻す。これにより、試料ホルダー100を真空チャンバー340内から取り出すことができる。
【0121】
なお、上記では、試料加工装置300を用いて平面ミリングにより試料Sを加工する場合について説明したが、試料加工装置300を用いて平面ミリング以外の手法により試料Sを加工することもできる。
【0122】
3.3. 作用効果
試料加工装置300では、試料ホルダー100を含むため、平面ミリングによって、熱に弱い高分子や低融点金属試料などの試料Sであっても良好な平滑面を作製できる。
【0123】
3.4. 変形例
3.4.1. 第1変形例
上述した第3実施形態では、試料加工装置300が試料ホルダー100を含む場合について説明したが、例えば、
図11に示す試料ホルダー106を含んでいてもよい。これにより、イオンビームIBで試料Sを加工する工程S108において、第1壁部22および第2壁部24を冷却トラップとして用いることができる。また、試料ホルダー100を真空チャンバー340から取り出すときには、ヒーター38でホルダー30の温度を上昇させた後に、ステージ310に取り付けられたヒーターでホルダーベース20を加熱することができる。これにより、第1壁部22および第2壁部24に吸着した汚染源となる分子が試料Sに再付着することを防ぐことができる。
【0124】
なお、試料加工装置300は、上述したその他の試料ホルダー101,102,103,104,105,200を含んでいてもよい。
【0125】
3.4.2. 第2変形例
上述した第3実施形態では、試料加工装置300が試料SにイオンビームIBを照射するイオン源330を含む場合について説明したが、試料加工装置300は、電子ビームなどのイオンビームIB以外の荷電粒子線を試料Sに照射する荷電粒子線源を含んでいてもよい。
【0126】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0127】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0128】
2…冷却源、10…ベース、12…壁部、14…壁部、15…凹部、16…底部、20…ホルダーベース、22…第1壁部、23…第1突出部、23a…面、24…第2壁部、25…第2突出部、25a…面、26…底部、27…底面、28…孔、30…ホルダー、30a…摺動面、32…試料保持部、33…柱状部、34…第2歯車、35…面、36…軸部、38…ヒーター、40…モーターベース、50…モーター、60…第1歯車、70…磁石、72…ナット、74…保持部材、76…固定部材、80…磁性体、100…試料ホルダー、101…試料ホルダー、102…試料ホルダー、103…試料ホルダー、104…試料ホルダー、105…試料ホルダー、106…試料ホルダー、200…試料ホルダー、202…回転体、210…回転ベース、211…孔、212…上面、220…多層箔、230…ベアリング、300…試料加工装置、310…ステージ、312…取付面、320…液体窒素タンク、330…イオン源、340…真空チャンバー、350…カメラ