(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139271
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】メタン発酵設備の操業最適化装置、操業最適化方法および操業最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20241002BHJP
G06Q 10/04 20230101ALI20241002BHJP
G06Q 50/06 20240101ALI20241002BHJP
【FI】
B09B3/65 ZAB
G06Q10/04
G06Q50/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050138
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517349027
【氏名又は名称】株式会社Jバイオフードリサイクル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】戸村 啓二
(72)【発明者】
【氏名】河野 敬行
(72)【発明者】
【氏名】牧田 晟洋
(72)【発明者】
【氏名】蔭山 佳秀
(72)【発明者】
【氏名】海老澤 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小長谷 耕平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大誠
(72)【発明者】
【氏名】中久喜 隆輔
【テーマコード(参考)】
4D004
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
4D004AA03
4D004BA03
4D004CA18
4D004DA16
4D004DA17
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】
【課題】メタン発酵槽からのメタンガス発生量を目標の所定値に制御できるメタン発酵設備の操業最適化装置、操業最適化方法および操業最適化プログラムを提供すること。
【解決手段】少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備の操業最適化において、前記メタン発酵設備が備えるメタン発酵槽によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデルと、前記第1操業計画として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画とをもとに、前記メタン発酵設備の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出し、前記操業状態の予測値をもとに、前記複数の第2操業計画の各々について評価点数を算出する。前記複数の第2操業計画のうち前記評価点数の最も高い第2操業計画が、前記第1操業計画として適用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備の操業最適化装置において、
前記メタン発酵設備が備えるメタン発酵槽によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデルと、前記第1操業計画として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画とをもとに、前記メタン発酵設備の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する予測処理部と、
導出された前記操業状態の予測値をもとに、前記複数の第2操業計画の各々について評価点数を算出する評価処理部と、
を備え、
前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画が、前記第1操業計画として適用される、
ことを特徴とするメタン発酵設備の操業最適化装置。
【請求項2】
前記メタン発酵設備から実際に計測された少なくともメタンガス発生量を含む実測値を収集するデータ収集部と、
前記メタン発酵反応モデルと前記実測値とをもとに、前記メタン発酵槽の現在の内部状態を推定する推定処理部と、
をさらに備え、
前記予測処理部は、推定された前記メタン発酵槽の現在の内部状態を反映した前記メタン発酵反応モデルと前記複数の第2操業計画とをもとに、前記操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載のメタン発酵設備の操業最適化装置。
【請求項3】
前記複数の第2操業計画を作成して前記予測処理部に提供する操業計画部と、
前記評価処理部による前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理部と、
をさらに備え、
前記判定処理部は、前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画部に指示する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のメタン発酵設備の操業最適化装置。
【請求項4】
少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備の操業最適化方法において、
前記メタン発酵設備が備えるメタン発酵槽によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデルと、前記第1操業計画として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画とをもとに、前記メタン発酵設備の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する予測処理ステップと、
導出された前記操業状態の予測値をもとに、前記複数の第2操業計画の各々について評価点数を算出する評価処理ステップと、
を含み、
前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画が、前記第1操業計画として適用される、
ことを特徴とするメタン発酵設備の操業最適化方法。
【請求項5】
前記メタン発酵設備から実際に計測された少なくともメタンガス発生量を含む実測値を収集するデータ収集ステップと、
前記メタン発酵反応モデルと前記実測値とをもとに、前記メタン発酵槽の現在の内部状態を推定する推定処理ステップと、
をさらに含み、
前記予測処理ステップでは、推定された前記メタン発酵槽の現在の内部状態を反映した前記メタン発酵反応モデルと前記複数の第2操業計画とをもとに、前記操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する、
ことを特徴とする請求項4に記載のメタン発酵設備の操業最適化方法。
【請求項6】
前記複数の第2操業計画を作成する操業計画作成ステップと、
前記評価処理ステップによる前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理ステップと、
をさらに含み、
前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画作成ステップを繰り返し行い、前記操業計画作成ステップ以降の処理ステップを繰り返し行う、
ことを特徴とする請求項4または5に記載のメタン発酵設備の操業最適化方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載のメタン発酵設備の操業最適化方法をコンピュータに実行させる、
ことを特徴とするメタン発酵設備の操業最適化プログラム。
【請求項8】
コンピュータに、
前記複数の第2操業計画を作成する操業計画作成ステップと、
前記評価処理ステップによる前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理ステップと、
をさらに実行させ、
前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画作成ステップを繰り返し行い、前記操業計画作成ステップ以降の処理ステップを繰り返し行う、
ことを特徴とする請求項7に記載のメタン発酵設備の操業最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵設備の操業最適化装置、操業最適化方法および操業最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品廃棄物や生ごみ等の有機性の廃棄物を原料として用い、微生物を利用したメタン発酵によってメタンガスを生成するメタン発酵設備が提案されている。メタン発酵は、生物分解性を有する原料(バイオマス資源等の有機物)を、嫌気性下でメタン生成菌によって発酵処理することにより、メタンガスと水とに分解するプロセスである。一般に、メタン発酵設備は、原料のメタン発酵を行うためのメタン発酵槽を備え、メタン発酵によるメタンガスをメタン発酵槽から発生させる。このように生成されたメタンガスは、メタン発酵槽からガスホルダー等の貯蔵設備に一時貯留された後、発電機のガスエンジン等、メタンガスを利用して駆動する設備(以下、ガス運転設備という)に供給される。これにより、メタン発酵設備によるメタンガスは、ガス運転設備のエネルギーとして有効利用される。
【0003】
このようなメタン発酵を利用したメタンガス生成の従来技術として、例えば、複数種類の有機性廃棄物を受け入れて湿式メタン発酵処理する湿式メタン発酵処理施設が開示されている(特許文献1参照)。この特許文献1に記載の湿式メタン発酵処理施設においては、湿式メタン発酵槽内のpH、アルカリ度および有機酸濃度を指標値とし、当該指標値が所定範囲となるように、原料(有機性廃棄物)の供給量または混合比が制御されている。
【0004】
また、上記メタン発酵を利用したメタンガス生成の従来技術として、例えば、原料である有機性廃棄物をスラリー化してスラリー調整槽内に受け入れ、この受け入れたスラリーをメタン発酵槽内でメタン発酵させてメタンガスを発生させるメタン発酵処理装置が開示されている(特許文献2参照)。この特許文献2に記載のメタン発酵処理装置においては、スラリー調整槽へのスラリーの予定受入量と、スラリー調整槽の容量および現在水位と、メタン発酵槽の処理能力とに基づいて、メタン発酵槽への供給スラリー量の計画値が算出され、当該供給スラリー量の計画値および上限値をもとに、原料であるスラリーのメタン発酵槽に対する供給量が制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7035572号公報
【特許文献2】特許第4218486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、上述したメタン発酵設備においては、メタン発酵槽に流入する有機物量の増加に伴ってメタンガスの発生量が増加する傾向にある。この場合、メタン発酵設備からガス運転設備に対して、より多くのメタンガスを供給することが可能である。
【0007】
しかしながら、ガス運転設備の駆動能力には上限があるため、ガス運転設備の駆動時にエネルギーとして消費され得るメタンガスの消費量には上限がある。それ故、たとえメタン発酵槽からのメタンガスの発生量が増加しても、当該メタンガスの発生量がガス運転設備による消費量の上限を超えてしまうと、当該消費量の上限を超える分のメタンガスは、ガス運転設備に供給できず、有効利用されずに燃焼処理される場合がある。
【0008】
さらに、メタン発酵槽からのメタンガスの発生量が、ガス運転設備の駆動能力の上限で消費されるメタンガスの消費量よりも少ない場合、ガス運転設備の稼働率が低下し、ガス運転設備がメタン発酵槽からのメタンガスをエネルギーとして有効利用する機会を損失することになる。
【0009】
なお、メタン発酵設備には、上述したようにメタン発酵槽から発生したメタンガスを貯留する貯蔵設備が設けられている。しかし、当該貯蔵設備は、ガス運転設備へのメタンガスの供給を安定化することを目的としたものであり、ガス運転設備の駆動能力の上限で消費されるメタンガスの消費量を超えて発生したメタンガスを常時貯蔵できるほどの容量は無い。
【0010】
また、上述した従来技術では、メタン発酵槽に対する原料の供給量を制御しているが、メタン発酵槽内の実際の状態を正しく把握することは困難である。このため、当該原料の供給量を制御しても、メタン発酵槽からのメタンガスの発生量を、ガス運転設備による消費量の上限付近に制御することは困難である。
【0011】
したがって、メタン発酵槽から発生したメタンガスの有効利用されない燃焼処理およびガス運転設備の稼働率低下を抑制して、当該メタンガスを最大限に有効活用するためには、メタン発酵槽からのメタンガスの発生量を、ガス運転設備による消費量の上限付近を目標とする所定値に制御することが望ましい。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、メタン発酵槽からのメタンガス発生量を目標の所定値に制御することができるメタン発酵設備の操業最適化装置、操業最適化方法および操業最適化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化装置は、少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備の操業最適化装置において、前記メタン発酵設備が備えるメタン発酵槽によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデルと、前記第1操業計画として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画とをもとに、前記メタン発酵設備の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する予測処理部と、導出された前記操業状態の予測値をもとに、前記複数の第2操業計画の各々について評価点数を算出する評価処理部と、を備え、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画が、前記第1操業計画として適用される、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化装置は、上記の発明において、前記メタン発酵設備から実際に計測された少なくともメタンガス発生量を含む実測値を収集するデータ収集部と、前記メタン発酵反応モデルと前記実測値とをもとに、前記メタン発酵槽の現在の内部状態を推定する推定処理部と、をさらに備え、前記予測処理部は、推定された前記メタン発酵槽の現在の内部状態を反映した前記メタン発酵反応モデルと前記複数の第2操業計画とをもとに、前記操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する、ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化装置は、上記の発明において、前記複数の第2操業計画を作成して前記予測処理部に提供する操業計画部と、前記評価処理部による前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理部と、をさらに備え、前記判定処理部は、前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画部に指示する、ことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化方法は、少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備の操業最適化方法において、前記メタン発酵設備が備えるメタン発酵槽によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデルと、前記第1操業計画として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画とをもとに、前記メタン発酵設備の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する予測処理ステップと、導出された前記操業状態の予測値をもとに、前記複数の第2操業計画の各々について評価点数を算出する評価処理ステップと、を含み、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画が、前記第1操業計画として適用される、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化方法は、上記の発明において、前記メタン発酵設備から実際に計測された少なくともメタンガス発生量を含む実測値を収集するデータ収集ステップと、前記メタン発酵反応モデルと前記実測値とをもとに、前記メタン発酵槽の現在の内部状態を推定する推定処理ステップと、をさらに含み、前記予測処理ステップでは、推定された前記メタン発酵槽の現在の内部状態を反映した前記メタン発酵反応モデルと前記複数の第2操業計画とをもとに、前記操業状態の予測値を、前記複数の第2操業計画の各々について導出する、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化方法は、上記の発明において、前記複数の第2操業計画を作成する操業計画作成ステップと、前記評価処理ステップによる前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理ステップと、をさらに含み、前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画作成ステップを繰り返し行い、前記操業計画作成ステップ以降の処理ステップを繰り返し行う、ことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化プログラムは、上記のいずれか一つに記載のメタン発酵設備の操業最適化方法をコンピュータに実行させる、ことを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化プログラムは、上記の発明において、コンピュータに、前記複数の第2操業計画を作成する操業計画作成ステップと、前記評価処理ステップによる前記複数の第2操業計画の評価点数化を終了するか否かを判定する判定処理ステップと、をさらに実行させ、前記評価点数化を終了する場合、前記複数の第2操業計画のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画を前記第1操業計画として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、前記複数の第2操業計画の少なくとも一つを作り変えるように前記操業計画作成ステップを繰り返し行い、前記操業計画作成ステップ以降の処理ステップを繰り返し行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、メタン発酵槽からのメタンガス発生量を目標の所定値に制御することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るメタン発酵設備の操業最適化装置の一構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態におけるメタン発酵反応モデルの概要の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態におけるメタン発酵反応モデルを構成する式の具体例を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係るメタン発酵設備の操業最適化方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明に係るメタン発酵設備の操業最適化装置、操業最適化方法および操業最適化プログラムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実のものとは異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0024】
図1は、本発明の実施形態に係るメタン発酵設備の操業最適化装置の一構成例を示すブロック図である。
図1には、本実施形態に係る操業最適化装置200の他に、操業最適化装置200が適用されるメタン発酵設備110等が図示されている。この
図1において、物質の流れは実線矢印で示され、信号の流れは破線矢印で示されている。以下では、まず、メタン発酵設備110等を備えるメタン発酵プラント100について説明し、その後、操業最適化装置200について説明する。
【0025】
(メタン発酵プラント)
まず、メタン発酵プラント100について説明する。メタン発酵プラント100は、原料からメタン発酵によってメタンガスを生成するためのプラントであり、
図1に示すように、メタン発酵設備110と、制御装置120とを備えている。
【0026】
メタン発酵設備110は、原料のメタン発酵によってメタンガスを生成するための各種処理を行う設備である。例えば
図1に示すように、メタン発酵設備110は、原料を受け入れる受入部101と、受け入れた原料を破砕する破砕部102と、原料の中から不適物を除去する除去部103と、原料を希釈水と混合して調整する混合調整槽104と、原料のメタン発酵を行うメタン発酵槽105と、を備える。
【0027】
受入部101は、ホッパー等によって構成され、外部からメタン発酵の原料を受け入れるものである。例えば、受入部101には、収集車等によって収集された多種多様な原料が投入される。受入部101は、このように投入された原料を受け入れ、受け入れた原料を後段の設備へ送出する。本実施形態においては、
図1に示すように、受入部101が受け入れた原料は、搬送装置等(図示せず)により、後段の破砕部102へ送出される。
【0028】
本実施形態におけるメタン発酵の原料としては、例えば、食品廃棄物や生ごみ等、生物分解性を有する有機性の廃棄物が挙げられる。また、当該原料の種類としては、例えば、タンパク質を主体とする有機性の廃棄物、脂質を主体とする有機性の廃棄物、炭水化物を主体とする有機性の廃棄物等、複数挙げられる。
【0029】
破砕部102は、
図1に示すように、受入部101よりも原料の搬送方向の下流側に配置され、受入部101から送出された原料を破砕する。破砕部102によって破砕された原料は、搬送装置等(図示せず)により、後段の除去部103へ送出される。
【0030】
除去部103は、
図1に示すように、破砕部102よりも原料の搬送方向の下流側に配置され、破砕部102によって破砕された原料を受け入れる。除去部103は、上記のように受け入れた原料の中から、メタン発酵に不適な物質(以下、不適物という)を選り分ける。これにより、除去部103は、受け入れた原料を、上記不適物と、メタン発酵に適した物質(生物分解性を有する原料)とに選別する。なお、上記不適物としては、例えば、ポリ袋、プラスチック製容器および紙類等、メタン発酵に寄与しない物質が挙げられる。除去部103によって選り分けられた不適物は、メタン発酵設備110から排出され、外部の施設等によって処分される。また、上記不適物が除去された原料(すなわち生物分解性を有する原料)は、
図1に示すように、除去部103から搬送装置等(図示せず)によって後段の混合調整槽104へ送出される。
【0031】
混合調整槽104は、対象とする原料をスラリー状に調整するものである。詳細には、
図1に示すように、混合調整槽104は、除去部103よりも原料の搬送方向の下流側に配置され、除去部103から送出された原料(生物分解性を有する原料)を受け入れる。また、混合調整槽104には、給水設備(図示せず)から希釈水が供給される。混合調整槽104は、上記原料と希釈水とを混合し、これにより、固形状の上記原料を、生物分解性の原料を含有するスラリー(以下、原料スラリーという)に調整する。混合調整槽104によって調整された原料スラリーは、ポンプおよび配管等(いずれも図示せず)により、後段のメタン発酵槽105へ送出される。
【0032】
メタン発酵槽105は、原料のメタン発酵によってメタンガスを生成するものである。詳細には、
図1に示すように、メタン発酵槽105は、混合調整槽104よりも原料スラリーの搬送方向(流通方向)の下流側に配置され、混合調整槽104から供給された原料スラリーを受け入れる。メタン発酵槽105は、受け入れた原料スラリー中の原料を、槽内の微生物の作用によってメタン発酵する。具体的には、メタン発酵槽105内において、供給された原料(上記原料スラリー中の原料)は、嫌気性の環境下で、微生物によってバイオガスと水とに分解される。
【0033】
上記のようにメタン発酵によって生成されたメタンガスは、例えば、メタン発酵槽105から配管を通じてガスホルダー等の貯蔵設備(図示せず)に一時貯留され、その後、ガス運転設備(図示せず)に供給される。なお、ガス運転設備は、発電機のガスエンジン等、メタンガスを利用して駆動する設備である。メタン発酵槽105からのメタンガスは、ガス運転設備のエネルギーとして消費される。一方、上記メタン発酵における発酵残渣は、当該メタン発酵によって生成された水等とともにメタン発酵槽105からメタン発酵設備110の外部へ排出される。当該発酵残渣は、堆肥等として活用することが可能であり、或いは、脱水された後、外部の施設等によって処分される場合もある。当該発酵残渣の脱水によって得られた水は、排水処理設備(図示せず)により、外部の施設等へ排出可能な水質に浄化処理された後、処理水として排出される。当該処理水は、例えば、上記混合調整槽104に供給される希釈水として再利用されてもよい。
【0034】
制御装置120は、メタン発酵設備110の操業を制御するものである。詳細には、
図1に示すように、制御装置120は、メタン発酵設備110の第1操業計画S1を有し、この第1操業計画S1に基づいて、メタン発酵設備110の操業を制御する。
【0035】
第1操業計画S1は、メタン発酵設備110の操業において実際に適用される操業計画であり、メタン発酵設備110における少なくとも原料の投入計画を規定する。例えば、第1操業計画S1は、メタン発酵設備110に対する複数種類の原料の投入量および投入タイミングと、メタン発酵槽105に対する原料スラリーの供給量および希釈水量とを規定する。本実施形態において、上記複数種類の原料の投入量および投入タイミングは、メタン発酵設備110の受入部101に投入される原料の投入量および投入タイミングである。これら原料の投入量および投入タイミングは、受入部101から後段の設備(例えば破砕部102または除去部103)に送出される原料の量およびタイミングに相当する。上記原料スラリーの希釈水量は、原料と混合して原料スラリーを調整するために混合調整槽104までの間に供給される希釈水の供給量である。上記原料スラリーの供給量は、混合調整槽104からメタン発酵槽105に供給される原料スラリーの供給量である。
【0036】
本実施形態において、制御装置120は、第1操業計画S1に示される複数種類の原料の投入量および投入タイミングに基づいて、メタン発酵設備110の受入部101に投入される原料の投入量と、当該原料が投入される年月日および日時等の投入タイミングとを原料の種類毎に制御する。また、制御装置120は、第1操業計画S1に示される希釈水量に基づいて、混合調整槽104までの間に供給される希釈水の供給量を制御する。さらに、制御装置120は、第1操業計画S1に示される原料スラリーの供給量に基づいて、混合調整槽104からメタン発酵槽105に供給される原料スラリーの供給量を制御する。このような制御装置120によるメタン発酵設備110の操業の制御により、メタン発酵設備110は、第1操業計画S1に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成する。なお、上記各制御は、例えば、制御装置120がメタン発酵設備110の搬送装置等の設備を駆動制御することにより、実行することができる。
【0037】
(操業最適化装置)
つぎに、本発明の実施形態に係る操業最適化装置200について説明する。操業最適化装置200は、上述したメタン発酵設備110の操業を最適化する装置であり、
図1に示すように、データ収集部210と、演算処理部220とを備える。
【0038】
データ収集部210は、メタン発酵設備110の実測値を収集するものである。メタン発酵設備110の実測値は、メタン発酵設備110の操業において実際に計測(観測)することが可能なデータの値であり、少なくともメタンガス発生量を含む。本実施形態では、当該実測値の具体例として、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量およびメタン発酵槽105内の有機酸濃度等が挙げられる。当該メタンガス発生量は、メタン発酵槽105内での原料のメタン発酵によるメタンガスの発生量(生成量)であり、メタン発酵槽105から送出されるメタンガスの流量に相当する。メタン発酵槽105内の有機酸濃度は、メタン発酵槽105内に含まれる有機酸の濃度である。例えば、メタン発酵設備110には、各種データを時系列に沿って各々計測する複数の計測装置(図示せず)が設けられている。データ収集部210は、メモリ等によって構成され、メタン発酵設備110において実際に計測された実測値を、時系列に沿って連続的または所定の時間間隔で断続的にメタン発酵設備110から収集する。データ収集部210は、収集した実測値を、当該実測値が計測されたタイミング(年月日や日時等)と対応付けて順次蓄積する。
【0039】
演算処理部220は、メタン発酵設備110の操業を最適化するための各種演算処理を実行するものであり、
図1に示すように、推定処理部221と、操業計画部222と、予測処理部223と、評価処理部224と、判定処理部225とを備える。また、演算処理部220は、
図1に示すように、メタン発酵槽105によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデル230を有する。
【0040】
推定処理部221は、メタン発酵反応モデル230とメタン発酵設備110の実測値とをもとに、メタン発酵槽105の現在の内部状態を推定するものである。詳細には、
図1に示すように、推定処理部221は、メタン発酵設備110の実測値を、データ収集部210から取得する。この際、推定処理部221は、例えば、データ収集部210から当該実測値を時系列に沿って順次読み込む。推定処理部221は、メタン発酵反応モデル230から導出される推定値と上記取得した実測値とのデータ同化を実行し、これにより、メタン発酵槽105の現在の内部状態を推定する。
【0041】
本実施形態において、メタン発酵反応モデル230は、メタン発酵槽105の内部状態を表す状態変数と、メタン発酵設備110の操業において観測可能な観測変数とによって構成される状態空間モデルである。上記状態変数によって表されるメタン発酵槽105の内部状態の具体例としては、基質濃度、有機酸濃度、酸生成菌濃度、およびメタン生成菌濃度等が挙げられる。上記状態変数において、基質濃度は、メタン発酵槽105内に含まれる有機性の原料(すなわち生物分解性の有機物)の濃度である。有機酸濃度は、メタン発酵槽105内に含まれる揮発性脂肪酸の濃度である。酸生成菌濃度は、メタン発酵槽105内に含まれる酸生成菌の濃度である。メタン生成菌濃度は、メタン発酵槽105内に含まれるメタン生成菌の濃度である。また、上記観測変数の具体例としては、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量、メタン発酵槽105内の有機酸濃度等が挙げられる。
【0042】
例えば、推定処理部221は、上記取得した実測値の計測タイミングと同じ時刻の状態変数に対応する観測変数を、メタン発酵反応モデル230から導出する。推定処理部221は、上記取得した実測値と上記導出した観測変数(推定値)との誤差を修正するように、上記計測タイミングと同じ時刻の状態変数の値、すなわち、メタン発酵槽105の現在の内部状態を推定する。推定処理部221は、このように推定したメタン発酵槽105の現在の内部状態を、メタン発酵反応モデル230の状態変数に反映させる。
【0043】
操業計画部222は、メタン発酵設備110の操業を最適化するための演算処理に用いられる第2操業計画S2を作成するものである。本実施形態において、第2操業計画S2は、上述したメタン発酵設備110の第1操業計画S1(実際の操業計画)として適用される操業計画の候補である。第2操業計画S2の計画項目としては、例えば、メタン発酵設備110に対する複数種類の原料の投入量および投入タイミング、メタン発酵槽105に対する原料スラリーの希釈水量および供給量等が挙げられる。第2操業計画S2に含まれる計画項目自体は、上述した第1操業計画S1の計画項目と同じである。例えば、操業計画部222は、このような第2操業計画S2を、各計画項目の値を適宜変更して複数作成する。操業計画部222は、作成した複数の第2操業計画S2を予測処理部223に提供する。操業計画部222によって作成された第2操業計画S2としては、評価処理部224によって評価される前の第2操業計画S2(以下、初期の第2操業計画と適宜いう)と、評価処理部224による評価結果に基づいて作り変えられた第2操業計画S2(以下、改変後の第2操業計画と適宜いう)とが挙げられる。
【0044】
予測処理部223は、上述したメタン発酵反応モデル230と複数の第2操業計画S2とをもとに、メタン発酵設備110の将来の操業状態を予測するものである。例えば、予測処理部223は、メタン発酵反応モデル230に第2操業計画S2を入力することにより、この入力した第2操業計画S2に対応するメタン発酵設備110の操業状態の予測値をメタン発酵反応モデル230から算出する。本実施形態において、予測処理部223が演算処理に用いるメタン発酵反応モデル230は、上述した推定処理部221によって推定されたメタン発酵槽105の現在の内部状態を反映したモデルである。予測処理部223は、操業計画部222によって提供された複数の第2操業計画S2の各々について、上記予測値の演算処理を順次実行する。これにより、予測処理部223は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値を、これら複数の第2操業計画S2の各々について導出する。予測処理部223は、導出した操業状態の予測値を、複数の第2操業計画S2の各々に対応付けて評価処理部224に入力する。
【0045】
予測処理部223によるメタン発酵設備110の操業状態の予測値は、メタン発酵反応モデル230に入力された第2操業計画S2に従ってメタン発酵設備110の操業が行われた場合のメタン発酵設備110の将来の操業状態を示す値である。当該操業状態の予測値には、メタン発酵設備110の少なくともメタンガス発生量が含まれる。例えば、当該操業状態の予測値としては、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量(メタン発酵反応モデル230の観測変数)、メタン発酵槽105の内部状態(メタン発酵反応モデル230の状態変数)等が挙げられる。
【0046】
評価処理部224は、複数の第2操業計画S2の各々について導出されたメタン発酵設備110の操業状態の予測値をもとに、これら複数の第2操業計画S2を評価するものである。詳細には、評価処理部224は、予測処理部223から取得した予測値をもとに、評価対象である複数の第2操業計画S2を点数化して評価する。例えば、評価処理部224は、評価対象の第2操業計画S2について、予測処理部223によるメタンガス発生量の予測値に基づく点数(以下、基準点数という)と、メタンガス発生量の目標値と予測値との誤差が生じる要素(以下、誤差要素という)に基づく点数(以下、要素点数という)とを算出する。評価処理部224は、上記基準点数から上記要素点数を減算することにより、当該評価対象の第2操業計画S2の評価点数を算出する。評価処理部224は、このような評価点数の算出処理を、評価対象である複数の第2操業計画S2の各々について順次実行し、これにより、これら複数の第2操業計画S2の各評価点数を算出する。評価処理部224は、上記算出した各評価点数を、これら複数の第2操業計画S2と対応付けて判定処理部225に入力する。
【0047】
本実施形態において、メタンガス発生量の目標値は、メタン発酵設備110からのメタンガスを消費して駆動するガス運転設備の仕様に基づいて、当該ガス運転設備のメタンガス消費量の上限付近(好ましくは上限と同値)に設定される所定値である。上記誤差要素は、例えば、メタン発酵反応モデル230によって導出されるメタン発酵設備110の操業状態の予測値と設定値との誤差によって表される。メタン発酵設備110の操業状態の設定値は、メタン発酵設備110の操業状態についてメタンガス発生量が目標値となるように設定された値であり、かつメタン発酵設備110が不具合を起こさず安定して運転できるように設定された値である。上記誤差要素としては、例えば、メタンガス発生量を目標値に制御するための要素と、メタン発酵設備を安定運転するための要素と、メタンガス発生量を目標値に制御しかつメタン発酵設備を安定運転するための両方に関わる要素とが挙げられる。メタンガス発生量を目標値に制御するための要素としては、例えば、メタンガス発生量の予測値に関する要素等が挙げられる。メタン発酵設備を安定運転するための要素としては、例えば、メタン発酵槽105内の窒素濃度の予測値に関する要素、メタン発酵槽105内の有機酸濃度の予測値に関する要素等が挙げられる。メタンガス発生量を目標値に制御しかつメタン発酵設備を安定運転するための両方に関わる要素としては、例えば、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリーの供給量の予測値に関する要素、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリー中の固形分量の予測値に関する要素、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリー中の成分濃度の予測値に関する要素、メタン発酵槽105へ投入される原料の種類毎の供給量の予測値に関する要素等が挙げられる。
【0048】
判定処理部225は、評価処理部224による複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かを判定するものである。例えば、判定処理部225は、評価処理部224によって評価された複数の第2操業計画S2と、これら複数の第2操業計画S2の各評価点数とを取得する。判定処理部225は、予め設定された終了条件に基づいて、これら複数の第2操業計画S2の評価点数化(すなわち点数化による第2操業計画S2の評価)を終了するか否かを判定する。当該終了条件としては、例えば、複数の第2操業計画S2の各評価点数に関する終了条件、複数の第2操業計画S2の評価回数に関する終了条件が挙げられる。判定処理部225は、評価点数化を終了すると判定した場合、これら複数の第2操業計画S2のうち、評価点数の最も高い第2操業計画S2をメタン発酵設備110の第1操業計画S1として適用する。また、判定処理部225は、評価点数化を終了しないと判定した場合、これら複数の第2操業計画S2の少なくとも一つを作り変えるように操業計画部222を指示する。これにより、操業計画部222による改変後の第2操業計画S2について、上述した予測処理部223、評価処理部224および判定処理部225の各処理が繰り返し実行される。
【0049】
(メタン発酵反応モデル)
つぎに、本発明の実施形態におけるメタン発酵反応モデル230について説明する。
図2は、本発明の実施形態におけるメタン発酵反応モデルの概要の一例を示す図である。
図2には、説明の便宜上、投入される原料の種類を複数化したメタン発酵反応モデル230の一例として当該原料を5種類とした場合のモデルの概要が示されているが、メタン発酵反応モデル230は、これに限定されるものではない。
【0050】
図2に示すように、メタン発酵反応モデル230は、複数種類の原料(
図2では5種類の各原料1~5)が投入されるメタン発酵槽105のメタン発酵によるメタンガス生成過程を模擬している。例えば、メタン発酵反応モデル230は、混合調整槽104からメタン発酵槽105内へ流入(供給)される原料に関する変数と、メタン発酵槽105の内部状態に関する変数と、メタン発酵槽105から流出される生成物に関する変数とを含んでいる。
【0051】
上記原料に関する変数としては、例えば
図2に示すように、流入液流量F
feed[L/d]、各原料1~5の流入基質濃度S
bvsin_1~S
bvsin_5[g/L]、各原料1~5の総流入基質濃度S
bvsin[g/L]、各原料1~5の流入有機酸濃度S
vfain_1~S
vfain_5[g/L]、各原料1~5の総流入有機酸濃度S
vfain[g/L]等が挙げられる。流入液流量F
feedは、混合調整槽104からメタン発酵槽105へ流入される原料スラリーの流量である。流入基質濃度S
bvsin_1~S
bvsin_5は、混合調整槽104からメタン発酵槽105へ流入される原料スラリー中の各原料1~5の基質濃度である。総流入基質濃度S
bvsinは、上記流入基質濃度S
bvsin_1~S
bvsin_5の合計値である。流入有機酸濃度S
vfain_1~S
vfain_5は、混合調整槽104からメタン発酵槽105へ流入される原料スラリー中の各原料1~5の有機酸濃度である。総流入有機酸濃度S
vfainは、上記流入有機酸濃度S
vfain_1~S
vfain_5の合計値である。
【0052】
上記メタン発酵槽105の内部状態に関する変数としては、例えば
図2に示すように、槽内液量V[L]、槽内温度T
reac[℃]、各原料1~5の槽内基質濃度S
bvs_1~S
bvs_5[g/L]、合計の槽内基質濃度S
bvs[g/L]、槽内有機酸濃度S
vfa[g/L]、酸生成菌濃度X
acid[g/L]、メタン生成菌濃度X
meth[g/L]等が挙げられる。槽内液量Vは、メタン発酵槽105内の液量である。槽内温度T
reacは、メタン発酵槽105内の温度である。槽内基質濃度S
bvs_1~S
bvs_5は、メタン発酵槽105内に含まれる各原料1~5の基質濃度である。合計の槽内基質濃度S
bvsは、上記槽内基質濃度S
bvs_1~S
bvs_5の合計値である。槽内有機酸濃度S
vfaは、メタン発酵槽105内の有機酸濃度である。酸生成菌濃度X
acidは、メタン発酵槽105内に含まれる酸生成菌の濃度である。メタン生成菌濃度X
methは、メタン発酵槽105内に含まれるメタン生成菌の濃度である。
【0053】
上記生成物に関する変数としては、例えば
図2に示すように、メタンガス発生量F
meth、流出液流量F
out等が挙げられる。メタンガス発生量F
methは、メタン発酵槽105から送出(流出)されるメタンガスの流量である。流出液流量F
outは、メタン発酵槽105から流出される液体の流量である。
【0054】
図3は、本発明の実施形態におけるメタン発酵反応モデルを構成する式の具体例を示す図である。本実施形態において、メタン発酵反応モデル230は、例えば
図3に示す数式(1)~(9)によって構成される。
図3において、数式(1)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、複数種類の原料i(例えば原料1~5)の各々における基質(生物分解性の有機物)のマスバランスを表す。数式(2)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、有機酸のマスバランスを表す。数式(3)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、酸生成菌のマスバランスを表す。数式(4)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、メタン生成菌のマスバランスを表す。数式(5)は、メタン発酵反応によるメタンガスの生成を表す。数式(6)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、複数種類の原料iの全基質合計における酸生成菌の増殖速度を表す。数式(7)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、複数種類の原料iの各々における酸生成菌の増殖速度を表す。数式(8)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、メタン生成菌の増殖速度を表す。数式(9)は、メタン発酵反応によるメタンガス生成過程での、メタン生成菌の最大増殖速度を表す。
【0055】
図3に示す数式(1)~(9)において、μ
iは、複数種類の原料iの各々に対応する酸生成菌比増殖速度[l/d]である。μ
mは、酸生成菌最大比増殖速度[l/d]である。K
dは、酸生成菌死滅速度[l/d]である。μ
cは、メタン生成菌比増殖速度[l/d]である。μ
mcは、メタン生成菌最大比増殖速度[l/d]である。K
dcは、メタン生成菌死滅速度[l/d]である。K
sは、酸生成菌半飽和定数[g BVS/L]である。K
scは、メタン生成菌半飽和定数[g VFA/L]である。k
1_iは、複数種類の原料iの各々に対応する酸生成菌のBVS収率[g BVS/(g acidogens/L)]である。k
2は、酸生成菌のVFA収率[g VFA/(g acidogens/L)]である。k
3は、メタン生成菌のVFA収率[g VFA/(g methanogens/L)]である。k
5は、メタン生成菌のメタンガス収率[L/(g methanogens/L)]である。a
_iは、複数種類の原料iの各々における反応速度比[-]である。bは、汚泥滞留時間(SRT)と水理学的滞留時間(HRT)との比SRT/HRT[d/d]である。なお、上記BVSは、生物分解性の有機物を表す。上記VFAは、有機酸を表す。
【0056】
なお、メタン発酵反応モデル230は、
図2、3に示したものに限定されず、メタン発酵槽105への原料投入、メタン発酵槽105内の有機酸濃度、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量等を含むメタン発酵反応モデルであれば、本発明に適用可能である。例えば、国際水協会(IWA)の嫌気性消化モデル(ADM1)も、メタン発酵反応モデル230として本発明に適用可能である。
【0057】
また、上述したメタン発酵反応モデル230は、非線形であるため、状態モデルと観測モデルとによって構成される状態空間モデルを構築して、離散時間非線形システムとして表すことができる。メタン発酵反応モデル230において、状態モデルは下記の状態方程式(10)によって表すことができ、観測モデルは下記の観測方程式(11)によって表すことができる。
xk+1=f(xk)+wk ・・・(10)
yk+1=h(xk+1)+vk+1 ・・・(11)
【0058】
状態方程式(10)および観測方程式(11)において、kおよびk+1は、時系列に沿った時刻を表す。すなわち、時刻k+1は、時刻kよりも後の時刻である。xkは状態変数のベクトル(以下、状態ベクトルという)であり、yk+1は観測変数のベクトル(以下、観測ベクトルという)である。f(xk)は状態方程式(10)を構成する非線形関数であり、h(xk+1)は観測方程式(11)を構成する非線形関数である。また、wkはシステムノイズであり、vk+1は観測ノイズである。
【0059】
例えば、状態ベクトルxkは、時刻kでのメタン発酵槽105における、各原料iの槽内基質濃度Sbvs_i_k、槽内有機酸濃度Svfa_k、酸生成菌濃度Xacid_kおよびメタン生成菌濃度Xmeth_kを用いて、下記の式(12)のように表される。観測ベクトルyk+1は、時刻k+1でのメタン発酵槽105における、メタンガス発生量Fmeth_k+1および槽内有機酸濃度Svfa_k+1を用いて、下記の式(13)のように表される。
xk=(Sbvs_i_k,Svfa_k,Xacid_k,Xmeth_k) ・・・(12)
yk+1=(Fmeth_k+1,Svfa_k+1) ・・・(13)
【0060】
また、メタン発酵反応モデル230において、状態方程式(10)を構成する非線形関数f(x
k)は、上述したメタン発酵槽105の槽内基質濃度S
bvs_i_k、槽内有機酸濃度S
vfa_k、酸生成菌濃度X
acid_kおよびメタン生成菌濃度X
meth_kの時間発展を記述し、基質、有機酸、酸生成菌およびメタン生成菌の各マスバランス式(
図3の数式(1)~(4)参照)を用いて、下記の式(14)のように表される。
【0061】
【0062】
観測方程式(11)を構成する非線形関数h(xk+1)は、状態方程式(10)によって算出された、時刻k+1でのメタン発酵槽105のメタン生成菌濃度Xmeth_k+1および槽内有機酸濃度Svfa_k+1を用いて、下記の式(15)のように表される。
【0063】
【0064】
なお、メタン発酵反応モデル230を構成する状態空間モデルにおいて、状態ベクトルは、メタン発酵槽105の槽内基質濃度、槽内有機酸濃度、酸生成菌濃度およびメタン生成菌濃度の少なくとも一つを含む関数とすることができる。観測ベクトルは、メタン発酵槽105のメタンガス発生量および槽内有機酸濃度のうち、少なくともメタンガス発生量を含む関数とすることができる。
【0065】
(操業最適化方法)
つぎに、本発明の実施形態に係るメタン発酵設備の操業最適化方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係るメタン発酵設備の操業最適化方法の一例を示すフロー図である。このメタン発酵設備110の操業最適化方法において、上述した操業最適化装置200(
図1参照)は、
図4に示すステップS101~S107の各処理手順を順次実行し、これにより、メタン発酵設備110の操業を最適化する。
【0066】
詳細には、
図4に示すように、操業最適化装置200は、まず、操業最適化の対象であるメタン発酵設備110の実測値を収集する(ステップS101)。ステップS101において、データ収集部210は、メタン発酵設備110の各計測装置によって実際に計測された実測値を、時系列に沿って順次メタン発酵設備110から収集する。例えば、データ収集部210は、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量およびメタン発酵槽105内の有機酸濃度等の実測値を収集する。データ収集部210は、収集した実測値を、当該実測値の計測タイミングと対応付けて順次蓄積する。
【0067】
上述したステップS101の処理手順を実行後、操業最適化装置200は、メタン発酵設備110の現在の内部状態を推定する(ステップS102)。ステップS102において、推定処理部221は、ステップS101におけるメタン発酵設備110の実測値をデータ収集部210から時系列に沿って順次読み込み、これにより、上記実測値をデータ収集部210から取得する。続いて、推定処理部221は、上記取得した実測値の計測タイミングと同じ時刻の状態変数に対応する観測変数を、メタン発酵反応モデル230から導出し、導出した観測変数と上記取得した実測値との誤差を修正する。
【0068】
具体的には、推定処理部221は、上記観測変数としてメタンガス発生量の推定値をメタン発酵反応モデル230から導出し、互いに同じ時刻におけるメタンガス発生量の実測値と推定値との誤差を修正する。さらに、推定処理部221は、上記観測変数として有機酸濃度の推定値をメタン発酵反応モデル230から導出し、互いに同じ時刻における有機酸濃度の実測値と推定値との誤差を修正してもよい。推定処理部221は、上記誤差を修正することによってメタン発酵反応モデル230の状態変数を修正し、これにより、メタン発酵反応モデル230を更新する。推定処理部221は、この更新後のメタン発酵反応モデル230の状態変数によって表されるメタン発酵槽105の内部状態を、メタン発酵槽105の現在の内部状態として推定する。
【0069】
上述したステップS102の処理手順を実行後、操業最適化装置200は、メタン発酵設備110の実際の操業計画(
図1に示す第1操業計画S1)に適用される候補として、複数の第2操業計画S2を作成する(ステップS103)。
【0070】
ステップS103において、操業計画部222は、メタン発酵設備110の操業計画の計画項目について予め設定された条件の範囲内において、各計画項目の値を決定して第2操業計画S2を複数作成する。例えば、操業計画部222は、上記計画項目として、メタン発酵設備110に対する複数種類の原料の投入量および投入タイミング、並びにメタン発酵槽105に対する原料スラリーの希釈水量および供給量等の値を上記条件の範囲内でランダムに決定する。この際、操業計画部222は、各第2操業計画S2の間で計画項目の値が互いに異なるように、複数の第2操業計画S2を作成する。操業計画部222によって作成される第2操業計画S2の個数は、予め設定された所定数(例えば100個)である。操業計画部222は、上記のように作成した複数の第2操業計画S2の各々を、初期の第2操業計画として予測処理部223に提供する。
【0071】
上述したステップS103の処理手順を実行後、操業最適化装置200は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値を導出する(ステップS104)。ステップS104において、予測処理部223は、初期の第2操業計画としての複数の第2操業計画S2を操業計画部222から取得する。予測処理部223は、これら取得した複数の第2操業計画S2の各々をメタン発酵反応モデル230に順次入力する。このとき、当該メタン発酵反応モデル230は、上述したステップS102において推定処理部221がメタン発酵槽105の内部状態の推定結果を反映させたモデル(更新後のメタン発酵反応モデル)である。予測処理部223は、入力した複数の第2操業計画S2の各々について、メタン発酵設備110の操業状態の予測値をメタン発酵反応モデル230から導出する。予測処理部223は、導出した操業状態の予測値を、複数の第2操業計画S2の各々に対応付けて評価処理部224に入力する。
【0072】
例えば、予測処理部223は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値として、メタン発酵槽105からのメタンガス発生量、メタン発酵槽105内の基質濃度、有機酸濃度、窒素濃度、酸生成菌濃度およびメタン生成菌濃度を導出する。また、予測処理部223は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値として、メタン発酵槽105内への原料スラリーの供給量、当該供給量の変動率、固形分濃度、固形分の容積負荷、および当該容積負荷の変動率を導出する。当該供給量の変動率は、メタン発酵槽105内に対する原料スラリーの供給量の単位時間当たりの変動率である。上記固形分の容積負荷は、メタン発酵槽105内へ1日当たりに供給される原料スラリー中の固形分の含有量(固形分量)をメタン発酵槽105内の液量によって除算した値である。当該容積負荷の変動率は、当該容積負荷の単位時間当たりの変動率である。
【0073】
また、予測処理部223は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値として、メタン発酵槽105内へ供給される原料スラリー中の成分濃度を導出する。当該成分濃度としては、例えば、タンパク質濃度、脂質濃度、炭水化物濃度および塩分濃度等が挙げられる。また、予測処理部223は、メタン発酵設備110の操業状態の予測値として、メタン発酵槽105内へ1日当たりに供給される原料スラリーに含まれる複数種類の原料の種類毎の供給量、および当該供給量の変動率を導出する。当該供給量の変動率は、上記原料の種類毎の供給量における単位時間当たりの変動率である。
【0074】
上述したステップS104の処理手順を実行後、操業最適化装置200は、複数の第2操業計画S2の各評価点数を算出する(ステップS105)。ステップS105において、評価処理部224は、評価対象である複数の第2操業計画S2と、これら複数の第2操業計画S2の各々に対応するメタン発酵設備110の操業状態の予測値とを予測処理部223から取得する。評価処理部224は、取得した複数の第2操業計画S2の各々を評価対象とし、これら複数の第2操業計画S2の各々について、評価点数を算出する。
【0075】
詳細には、評価処理部224は、予測処理部223から取得したメタン発酵設備110の操業状態の予測値のうち、メタンガス発生量の予測値をもとに、上述した基準点数を算出する。例えば、評価処理部224は、下記の式(16)によって基準点数を算出する。式(16)において、係数J1は、メタンガス発生量の予測値を点数化するための所定の係数である。
基準点数=メタンガス発生量の予測値×係数J1・・・(16)
【0076】
また、評価処理部224は、予測処理部223から取得したメタン発酵設備110の操業状態の予測値と設定値とをもとに、上述した要素点数を算出する。当該設定値は、上述したように、メタン発酵設備110の操業状態についてメタンガス発生量が目標値となるように設定された値であり、かつメタン発酵設備110が不具合を起こさず安定して運転できるように設定された値である。評価処理部224は、複数の第2操業計画S2の各々について得られた基準点数と要素点数とをもとに、下記の式(17)によって評価点数を算出する。
評価点数=基準点数-要素点数P1 ・・・(17)
【0077】
ここで、上記要素点数P1は、メタンガス発生量の目標値と予測値との誤差要素に基づく点数である。このような要素点数P1には、例えば、メタンガス発生量の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリーの供給量の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリー中の固形分量の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105へ投入される原料スラリー中の成分濃度の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105へ投入される原料の種類毎の供給量の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105内の窒素濃度の誤差要素に基づく点数と、メタン発酵槽105内の有機酸濃度の誤差要素に基づく点数と、が含まれる。
【0078】
具体的には、メタンガス発生量の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(18)が挙げられる。式(18)において、メタンガス超過量は、メタンガス発生量の設定値から予測値が超過した値であり、メタンガス発生量の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。係数J2は、メタンガス超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P2=メタンガス超過量×係数J2 ・・・(18)
【0079】
上記原料スラリーの供給量の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(19)、(20)が挙げられる。式(19)、(20)において、原料スラリー超過量は、メタン発酵槽105内へ供給される原料スラリーの供給量の設定値から予測値が超過した値であり、上記原料スラリーの供給量の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。原料スラリー供給量の変動率超過量は、上記原料スラリー供給量の変動率の設定値から予測値が超過した値であり、上記変動率の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。係数J3は原料スラリー超過量を点数化するための所定の係数であり、係数J4は原料スラリー供給量の変動率超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P3=原料スラリー超過量×係数J3 ・・・(19)
要素点数P4=原料スラリー供給量の変動率超過量×係数J4・・・(20)
【0080】
上記原料スラリー中の固形分量の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(21)~(23)が挙げられる。式(21)~(23)において、固形分濃度超過量は、メタン発酵槽105内へ供給される原料スラリー中の固形分濃度の設定値から予測値が超過した値であり、上記固形分濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。固形分の容積負荷超過量は、上記原料スラリーに含まれる固形分の容積負荷の設定値から予測値が超過した値であり、上記容積負荷の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。固形分の容積負荷の変動率超過量は、上記容積負荷の変動率の設定値から予測値が超過した値であり、上記変動率の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。また、係数J5は、固形分濃度超過量を点数化するための所定の係数である。係数J6は、固形分の容積負荷超過量を点数化するための所定の係数である。係数J7は、固形分の容積負荷超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P5=固形分濃度超過量×係数J5 ・・・(21)
要素点数P6=固形分の容積負荷超過量×係数J6 ・・・(22)
要素点数P7=固形分の容積負荷の変動率超過量×係数J7・・・(23)
【0081】
上記原料スラリー中の成分濃度の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(24)~(27)が挙げられる。式(24)~(27)において、第1成分濃度超過量は、メタン発酵槽105内へ供給される原料スラリー中の第1成分濃度(例えばタンパク質濃度)の設定値から予測値が超過した値であり、上記第1成分濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。第2成分濃度超過量は、上記原料スラリー中の第2成分濃度(例えば脂質濃度)の設定値から予測値が超過した値であり、上記第2成分濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。第3成分濃度超過量は、上記原料スラリー中の第3成分濃度(例えば炭水化物濃度)の設定値から予測値が超過した値であり、上記第3成分濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。第4成分濃度超過量は、上記原料スラリー中の第4成分濃度(例えば塩分濃度)の設定値から予測値が超過した値であり、上記第4成分濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。また、係数J8は、第1成分濃度超過量を点数化するための所定の係数である。係数J9は、第2成分濃度超過量を点数化するための所定の係数である。係数J10は、第3成分濃度超過量を点数化するための所定の係数である。係数J11は、第4成分濃度超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P8=第1成分濃度超過量×係数J8 ・・・(24)
要素点数P9=第2成分濃度超過量×係数J9 ・・・(25)
要素点数P10=第3成分濃度超過量×係数J10 ・・・(26)
要素点数P11=第4成分濃度超過量×係数J11 ・・・(27)
【0082】
上記原料の種類毎の供給量の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(28)、(29)が挙げられる。式(28)、(29)において、原料種別超過量は、メタン発酵設備110の受入部101へ1日当たりに投入される原料の種類毎の供給量(以下、原料種別供給量と略記する)の設定値から予測値が超過した値であり、上記原料種別供給量の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。原料種別供給量の変動率超過量は、原料種別供給量の設定値から予測値が超過した値であり、上記変動率の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。また、係数J12は、原料種別超過量を点数化するための所定の係数である。係数J13は、原料種別供給量の変動率超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P12=原料種別超過量×係数J12 ・・・(28)
要素点数P13=原料種別供給量の変動率超過量×係数J13・・・(29)
【0083】
メタン発酵槽105内の窒素濃度の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(30)が挙げられる。式(30)において、窒素濃度超過量は、メタン発酵槽105内の窒素濃度の設定値から予測値が超過した値であり、上記窒素濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。また、係数J14は、窒素濃度超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P14=窒素濃度超過量×係数J14 ・・・(30)
【0084】
メタン発酵槽105内の有機酸濃度の誤差要素に基づく要素点数の算出式としては、下記の式(31)が挙げられる。式(31)において、有機酸濃度超過量は、メタン発酵槽105内の有機酸濃度の設定値から予測値が超過した値であり、上記有機酸濃度の予測値と設定値との差(絶対値)によって表される。また、係数J15は、有機酸濃度超過量を点数化するための所定の係数である。
要素点数P15=有機酸濃度超過量×係数J15 ・・・(31)
【0085】
評価処理部224は、上述した式(18)~(31)に基づいて要素点数P2~P15を各々算出し、これら要素点数P2~P15を足し合わせる(合計する)ことにより、式(17)の要素点数P1を算出する。なお、上述した式(16)~(31)において、係数J1~J15は、互いに異なる値である。評価処理部224は、式(16)、(17)に基づき、上記メタンガス発生量の予測値に基づく基準点数と、上記要素点数P2~P15の総和による要素点数P1との減算により、複数の第2操業計画S2の各評価点数を算出する。評価処理部224は、このように算出した各評価点数を、これら複数の第2操業計画S2と対応付けて判定処理部225に入力する。
【0086】
上述したステップS105の処理手順を実行後、操業最適化装置200は、複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かを判定する(ステップS106)。ステップS106において、判定処理部225は、ステップS105において評価された複数の第2操業計画S2と、これら複数の第2操業計画S2の各評価点数とを評価処理部224から取得する。判定処理部225は、予め設定された終了条件に基づいて、これら複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かを判定する。
【0087】
例えば、判定処理部225には、複数の第2操業計画S2の各評価点数に関する終了条件として、最高点数の変化率の閾値と当該閾値未満の変化率の基準回数とが、予め設定されている。
【0088】
上記最高点数は、本発明の最適化操業方法における一連の処理手順において、評価処理部224によって算出された複数の第2操業計画S2の各評価点数のうち、最も高い評価点数である。特に、判定処理部225が評価処理部224から今回取得した複数の第2操業計画S2の各評価点数のうち、最も高い評価点数は、現在の最高点数として過去の最高点数と区別する。過去の最高点数は、現在の最高点数よりも前に評価処理部224によって算出された複数の第2操業計画S2の各評価点数のうち、最も高い評価点数(例えば前回の最高点数)である。なお、上記一連の処理手順は、初回の第2操業計画S2が作成されてからメタン発酵設備110の第1操業計画S1として第2操業計画S2が適用されるまでの処理手順、すなわち、
図4に示すステップS103~S107の処理手順である。
【0089】
上記最高点数の変化率は、過去の最高点数に対する現在の最高点数の変化率である。当該変化率は、例えば、現在の最高点数Pmaと過去の最高点数Pmbとの差をもとに、次式によって算出される。また、上記基準回数は、最高点数の変化率が連続して当該変化率の閾値未満となった回数(以下、閾値未満回数という)の基準値である。
最高点数の変化率[%]=(Pma-Pmb)÷Pmb×100
【0090】
判定処理部225は、評価処理部224から今回取得した複数の第2操業計画S2の各評価点数同士を比較し、これにより、これら各評価点数のうち最も高い評価点数を現在の最高点数として選出する。判定処理部225は、この選出した現在の最高点数と以前取選出した過去の最高点数とをもとに、最高点数の変化率を算出し、この算出した変化率(以下、今回の変化率という)と予め設定された閾値とを比較する。
【0091】
今回の変化率が閾値未満である場合、判定処理部225は、上述した閾値未満回数を+1加算するインクリーズ処理を行って、今回の閾値未満回数を算出し、この算出した今回の閾値未満回数と予め設定された基準回数とを比較する。上述した各比較処理の結果、今回の変化率が閾値未満であり且つ今回の閾値未満回数が基準回数以上である場合、例えば最高点数の変化率が10回連続して1%未満である場合、判定処理部225は、複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了すると判定する。なお、評価点数が過去に算出されていない場合、判定処理部225は、予め設定された評価点数のデフォルト値を過去の最高点数として用いてもよい。
【0092】
一方、今回の変化率が閾値以上である場合、判定処理部225は、上述した閾値未満回数をリセットして、当該閾値未満回数を初期値(例えば零値)にする。この場合、判定処理部225は、複数の第2操業計画S2の評価回数について、複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かの判定を行ってもよい。
【0093】
例えば、判定処理部225には、複数の第2操業計画S2の評価回数に関する終了条件として、基準評価回数が予め設定されている。上記評価回数は、初回の第2操業計画S2が作成されてからメタン発酵設備110の第1操業計画S1として第2操業計画S2が適用されるまでの一連の処理手順が実行された回数である。本実施形態において、当該一連の処理手順は、
図4に示すステップS103~S107の処理手順である。上記基準評価回数は、上記評価回数の基準値である。
【0094】
判定処理部225は、評価処理部224から複数の第2操業計画S2の各評価点数を取得する都度、これら複数の第2操業計画S2の評価回数を+1加算するインクリーズ処理を行って、今回の評価回数を算出する。判定処理部225は、この算出した今回の評価回数と予め設定された基準評価回数とを比較し、今回の評価回数が基準評価回数を超過する場合、すなわち、上記一連の処理手順が基準評価回数を超えて繰り返された場合、複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了すると判定する。
【0095】
また、上述した今回の変化率が閾値以上である、上述した今回の閾値未満回数が基準回数未満である、あるいは、上述した今回の評価回数が基準評価回数以下である場合、判定処理部225は、複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了しないと判定する。なお、判定処理部225は、上述した複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かの判定を、複数の第2操業計画S2の各評価点数について行ってから複数の第2操業計画S2の評価回数について行ってもよいし、複数の第2操業計画S2の評価回数について行ってから複数の第2操業計画S2の各評価点数について行ってもよい。
【0096】
上述したステップS106において、判定処理部225が複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了しないと判定した場合(ステップS106,No)、操業最適化装置200は、上述したステップS103の処理手順に戻り、このステップS103以降の処理手順を繰り返し実行する。この場合、判定処理部225は、複数の第2操業計画S2の少なくとも一つを作り変えるように操業計画部222を指示する。
【0097】
ステップS106後のステップS103において、操業計画部222は、判定処理部225の指示に基づき、評価処理部224による評価後の第2操業計画S2を、例えば遺伝的アルゴリズム等の公知のアルゴリズムによって作り変える。
【0098】
詳細には、操業計画部222は、判定処理部225から複数の第2操業計画S2と、これら複数の第2操業計画S2の各評価点数とを取得し、取得した複数の第2操業計画S2(評価後のもの)を評価点数の高い順に順位付けする。操業計画部222は、これら複数(例えば100個)の第2操業計画S2のうち、評価点数の高い方から上位所定数(例えば10個)の第2操業計画S2(以下、高評価の第2操業計画群という)を選出する。操業計画部222は、選出した高評価の第2操業計画群の各々における計画項目の内容を維持する。続いて、操業計画部222は、残る下位所定数(例えば90個)の第2操業計画S2のうち、評価点数の高い方から上位所定数(例えば20個)の第2操業計画S2(以下、改変対象の第2操業計画群という)を選出する。操業計画部222は、選出した改変対象の第2操業計画群をもとに、各計画項目の数値を適宜変更して、互いに内容が異なる新規の第2操業計画群を作成する。当該新規の第2操業計画群に含まれる第2操業計画の個数は、上述した下位所定数の第2操業計画S2と同じである。なお、上述した上位所定数は、1個でもよいし、2個以上でもよい。
【0099】
操業計画部222は、上述した高評価の第2操業計画群と新規の第2操業計画群とを組み合わせることにより、計画項目が改変された複数の第2操業計画S2を得る。これら改変後の第2操業計画S2の個数は、改変前の第2操業計画S2(例えば初期の第2操業計画S2)の個数と同じである。操業計画部222は、上記のように改変した複数の第2操業計画S2を改変後の第2操業計画として予測処理部223に提供する。その後、これら複数の第2操業計画S2(改変後の第2操業計画)について、上述したステップS104以降の処理手順が順次行われる。
【0100】
一方、上述したステップS106において、判定処理部225が複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了すると判定した場合(ステップS106,Yes)、操業最適化装置200は、複数の第2操業計画S2のうち評価点数の最も高い第2操業計画S2をメタン発酵設備110の第1操業計画S1に適用する(ステップS107)。
【0101】
ステップS107において、判定処理部225は、評価処理部224から今回取得した複数の第2操業計画S2のうち、最高点数の第2操業計画S2を、メタン発酵設備110の第1操業計画S1として適用するようにメタン発酵プラント100の制御装置120に提供する。当該最高点数の第2操業計画S2は、制御装置120により、第1操業計画S1として更新され、メタン発酵設備110の実際の操業に適用される。これにより、メタン発酵設備110の操業が現在の内部状態に合わせて最適化される。
【0102】
また、ステップS107において、判定処理部225は、上述した最高点数の変化率の閾値未満回数と複数の第2操業計画S2の評価回数とを、各々リセットして初期値にする。操業最適化装置200は、上述したステップS107の処理手順を実行後、ステップS101の処理手順に戻り、このステップS101以降の処理手順を繰り返し実行する。
【0103】
(操業最適化プログラム)
つぎに、本発明の実施形態に係る操業最適化プログラムについて説明する。この操業最適化プログラムは、上述した操業最適化後方法と同じ処理手順(
図4に示すステップS101~S107参照)をコンピュータに実行させるプログラムである。例えば、
図1に示す操業最適化装置200は、CPUおよびメモリ等を備えるコンピュータによって構成される。操業最適化プログラムは、当該コンピュータのメモリに格納され、当該CPUによって実行される。
【0104】
以上、説明したように、本発明の実施形態では、少なくとも原料の投入計画を規定する第1操業計画S1に従い、投入された原料のメタン発酵を行ってメタンガスを生成するメタン発酵設備110の操業の最適化において、メタン発酵槽105によるメタンガスの生成過程を表すメタン発酵反応モデル230と、第1操業計画S1として適用される操業計画の候補である複数の第2操業計画S2とをもとに、メタン発酵設備110の少なくともメタンガス発生量を含む操業状態の予測値を、複数の第2操業計画S2の各々について導出し、導出された前記操業状態の予測値をもとに、複数の第2操業計画S2の各々について評価点数を算出し、複数の第2操業計画S2のうち、前記評価点数の最も高い第2操業計画が第1操業計画S1として適用されるようにしている。このため、メタン発酵槽105からのメタンガスの発生量を、ガス運転設備による消費量の上限付近を目標とする所定値(目標の所定値)に制御することができ、メタン発酵槽105から発生したメタンガスを上記ガス運転設備へ安定供給できるとともに、当該メタンガスの無駄な燃焼処理を抑制して、当該メタンガスを最大限に有効活用することができる。
【0105】
また、本発明の実施形態では、メタン発酵設備110から実際に計測された少なくともメタンガス発生量を含む実測値を収集し、メタン発酵反応モデル230と前記実測値とをもとに、メタン発酵槽105の現在の内部状態を推定し、推定されたメタン発酵槽105の現在の内部状態を反映したメタン発酵反応モデル230と複数の第2操業計画S2とをもとに、前記操業状態の予測値を、複数の第2操業計画S2の各々について導出するようにしている。このため、メタン発酵槽105の現在の内部状態に合わせて、メタン発酵槽105からのメタンガスの発生量を目標の所定値に精度よく制御することができる。
【0106】
また、本発明の実施形態では、前記操業状態の予測値の導出処理に供する複数の第2操業計画S2を作成し、作成した複数の第2操業計画S2の評価点数化を終了するか否かを判定するようにし、前記評価点数化を終了する場合、複数の第2操業計画S2のうち最高点数の第2操業計画を第1操業計画S1として適用し、前記評価点数化を終了しない場合、複数の第2操業計画S2の少なくとも一つを作り変えるようにしている。このため、複数の第2操業計画S2の作成(改変を含む)から評価点数化の終了判定に至る一連の処理手順を、複数の第2操業計画S2のうち最高点数の第2操業計画を第1操業計画S1として適用するまで繰り返し実行することができる。これにより、上記最高点数の第2操業計画を、メタン発酵設備110の実際の操業計画に適用するものとして、より最適化することができる。
【0107】
なお、上述した実施形態では、評価対象である複数の第2操業計画S2を操業計画部222によって自動的に作成していたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、初期の第2操業計画群を予め設定しておき、当該初期の第2操業計画群を複数の第2操業計画S2として操業最適化装置200の演算処理部220(詳細には予測処理部223)に入力してもよい。
【0108】
また、上述した実施形態では、1度評価した複数の第2操業計画S2を改変し、改変した複数の第2操業計画S2の評価点数化を繰り返し実行しているが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、1度評価した複数の第2操業計画S2の改変処理を行わず、これら複数の第2操業計画S2のうち最高点数の第2操業計画をメタン発酵設備110の実際の操業計画として適用してもよい。
【0109】
また、上述した実施形態では、メタンガス発生量の目標値と予測値との誤差要素に基づく要素点数(評価点数の減点材料)として、メタン発酵設備110の操業状態の設定値に対する予測値の超過量を点数化したものを用いていたが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば、上記要素点数は、メタン発酵設備110の操業状態の設定値と予測値との誤差量を点数化したものでもよく、当該誤差量は、上記設定値から上記予測値が超過した値であってもよいし、下回った値であってもよい。
【0110】
また、上述した実施形態により本発明が限定されるものではなく、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。その他、上述した実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0111】
100 メタン発酵プラント
101 受入部
102 破砕部
103 除去部
104 混合調整槽
105 メタン発酵槽
110 メタン発酵設備
120 制御装置
200 操業最適化装置
210 データ収集部
220 演算処理部
221 推定処理部
222 操業計画部
223 予測処理部
224 評価処理部
225 判定処理部
230 メタン発酵反応モデル
S1 第1操業計画
S2 第2操業計画