(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139272
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ダイヤモンド砥粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/28 20170101AFI20241002BHJP
B24D 3/00 20060101ALI20241002BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C01B32/28
B24D3/00 320B
B24D3/00 340
C09K3/14 550F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050139
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
【テーマコード(参考)】
3C063
4G146
【Fターム(参考)】
3C063AB01
3C063BB02
3C063CC30
3C063FF23
4G146AA04
4G146AB01
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AD26
4G146BA01
4G146CB01
(57)【要約】
【課題】加熱処理とは異なる手段で、ダイヤモンド砥粒の内部応力を制御し、加工対象に応じた所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を製造する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む。これによって、ダイヤモンド砥粒の内部応力を所望の値に変化させることができるため、所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を製造できる。また、ここに開示される製造方法は、熱処理よりも低コストである超音波印加処理を実施しているため、ダイヤモンド砥粒の製造コストの低減にも貢献できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む、ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項2】
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1331cm-1以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記内部応力制御工程は、前記ダイヤモンド砥粒に内部応力を導入する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、前記ピーク位置の平均値が1329cm-1以上1331cm-1以下である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記内部応力制御工程は、前記ダイヤモンド砥粒の内部応力を開放する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、前記ピーク位置の平均値が1329cm-1未満である、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記内部応力制御工程において、前記ダイヤモンド砥粒のラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値を減少させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記内部応力制御工程における前記ラマンピークの半値幅の平均値の減少量が0.05cm-1以上である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記内部応力制御工程において、前記ラマンピークの半値幅の平均値を4.8cm-1以下に制御する、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ダイヤモンド砥粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイヤモンド砥粒は、様々な材料の研削・研磨に広く使用されている。このダイヤモンド砥粒には、加工対象に応じた適切な微小破砕性が要求される。例えば、加工中に微小なスケールで高頻度に破砕する(微小破砕性が高い)ダイヤモンド砥粒は、切れ刃が鋭い状態を維持できるため、優れた加工効率を有している。一方、微小破砕性が低いダイヤモンド砥粒は、優れた強度を有しているため、高硬度の製品を適切に加工できる。
【0003】
また、ダイヤモンド砥粒は、内部応力(引張応力)が大きくなるにつれて破砕しやすくなることが知られている。ここで、ダイヤモンド砥粒の内部応力は、ラマン分光法に基づいて評価できる。具体的には、ダイヤモンド砥粒のラマンスペクトルを取得すると、ダイヤモンド結晶の格子振動に由来するピークが1333cm-1付近に確認される。そして、このダイヤモンド砥粒は、内部応力の導入や結晶中への不純物の混入などによって、上記ラマンピーク位置が低波数側にシフトする。非特許文献1では、加熱処理によって内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒では、ラマンピーク位置が低波数側にシフトして微小破砕性が向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】角谷均,他5名,”切削工具用各種単結晶ダイヤモンドの内部歪み分布と微小破壊挙動”,精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,2019年,P644-P645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここに開示される技術は、加熱処理とは異なる手段で、ダイヤモンド砥粒の内部応力を制御し、加工対象に応じた所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、種々の実験と検討を行った結果、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、驚くべきことに、当該ダイヤモンド砥粒の内部応力が変化することを発見した。例えば、強い内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が開放されてラマンピーク位置が高波数側にシフトする。一方、内部応力が弱いダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が導入されてピーク位置が低波数側にシフトする。本発明者は、かかる現象を利用すれば、ダイヤモンド砥粒の内部応力を制御し、加工対象に応じた所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を容易に製造できると考えた。
【0007】
ここに開示される製造方法は、上述の知見に基づいてなされたものであり、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む。これによって、ダイヤモンド砥粒の内部応力を変化させることができるため、所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を製造できる。また、ここに開示される製造方法は、熱処理よりも低コストである超音波印加処理を実施しているため、ダイヤモンド砥粒の製造コストの低減にも貢献できる。
【0008】
ここに開示される製造方法の一態様では、内部応力制御工程の実施前のダイヤモンド砥粒は、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1331cm-1以下である。かかるダイヤモンド砥粒を使用することによって、超音波印加による内部応力の制御が容易になる。
【0009】
ここに開示される製造方法の一態様では、内部応力制御工程は、ダイヤモンド砥粒に内部応力を導入する。上述した通り、内部応力が弱いダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が導入されるため、製造後のダイヤモンド砥粒の微小破砕性を向上できる。一例として、ダイヤモンド砥粒は、ラマンピークのピーク位置の平均値が1329cm-1以上1331cm-1以下であることが好ましい。このような内部応力が弱いダイヤモンド砥粒を使用すると、内部応力制御工程において適切な内部応力を導入できる。
【0010】
ここに開示される製造方法の一態様では、内部応力制御工程は、ダイヤモンド砥粒の内部応力を開放する。上述した通り、内部応力が強いダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が開放されるため、製造後のダイヤモンド砥粒の微小破砕性を低下できる。一例として、ダイヤモンド砥粒は、ラマンピークのピーク位置の平均値が1329cm-1未満であることが好ましい。このような内部応力が強いダイヤモンド砥粒を使用すると、内部応力制御工程において内部応力が開放される。
【0011】
ここに開示される製造方法の一態様では、内部応力制御工程において、ダイヤモンド砥粒のラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値を減少させる。本発明者の実験によると、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると当該砥粒の結晶性も変化し、ラマンピークの半値幅の平均値が減少することが確認されている。
【0012】
また、上記のように、ラマンピークの半値幅の平均値を減少させる場合には、ラマンピークの半値幅の平均値の減少量を0.05cm-1以上に制御することが好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の結晶性を好適に向上できる。また、内部応力制御工程後のラマンピークの半値幅の平均値は、4.8cm-1以下に制御することが好ましい。これによって、特に優れた結晶性を有するダイヤモンド砥粒を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、ここに開示される技術の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。なお、図面は模式的に描かれており、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0014】
ここに開示される製造方法は、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む。以下、かかる製造方法について具体的に説明する。
【0015】
(1)ダイヤモンド砥粒
ダイヤモンド砥粒は、所定の硬度を有するダイヤモンド粒子である。なお、ダイヤモンド砥粒は、天然ダイヤモンドでもよいし、人工ダイヤモンドでもよい。また、ダイヤモンド砥粒は、不純物として金属元素を含んでいてもよい。このときの金属元素としては、Fe、Ni、Co、Mn、Al、Ti、Cr、Zr、Vなどが挙げられる。また、ダイヤモンド砥粒は、上述した金属元素以外の不純物を含んでいてもよい。かかる不純物の他の例として、N、B、Si、Pなどが挙げられる。なお、これらの不純物は、製造工程中に不可避的に混入したものでもよいし、意図的に砥粒中に導入されたものでもよい。これらの金属元素を含むダイヤモンド砥粒は、ラマンピーク位置が低波数側にシフトして微小破砕性が向上するため、好適な微小破砕性への制御が容易になる。なお、不純物の好適例は、金属(典型的には金属粒子)であり、その構成元素としては、上述の金属元素が挙げられる。また、ダイヤモンド砥粒の総重量(100wt%)に対する金属元素の含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.2wt%以上がより好ましく、0.3wt%以上がさらに好ましく、0.5wt%以上が特に好ましい。一方、金属元素の含有量の上限は、特に限定されず、3wt%以下でもよく、2wt%以下でもよく、1wt%以下でもよい。なお、ダイヤモンド砥粒中の金属元素の含有量は、蛍光X線分析(XRF:X-Ray Fluorescence)に基づいて測定することができる。
【0016】
また、ダイヤモンド砥粒は、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1331cm-1以下(好適には1330cm-1以下)であることが好ましい。ここに開示される製造方法では、金属元素の導入によってラマンピーク位置がある程度低波数側にシフトしたダイヤモンド砥粒を予め準備することが好ましい。これによって、後述の内部応力制御工程において、ダイヤモンド砥粒の内部応力を所望の値まで制御することが容易になる。
【0017】
なお、本明細書における「ラマンピーク位置」は、以下の条件で測定したものである。まず、測定装置としては、市販の顕微ラマン分光光度計を使用できる。また、測定条件は、例えば、測定温度を24℃、校正試料をSi、励起レーザ波長を532nmに設定した上で、明確な測定結果が得られるように他の条件を適宜調節するよい。上記の条件でダイヤモンド砥粒のラマン分光分析を行うと、ダイヤモンド結晶の格子振動に由来するピークがラマンシフトの1333cm-1付近に存在するラマンスペクトルが検出される。そして、このラマンスペクトルに対して、所定の波形解析ソフト(Labspec6など)を用いて、ベースライン補正とピーク検索とフィッティングを行い、ピークトップの位置(ラマンシフト)を「ラマンピーク位置」とみなす。そして、本明細書では、ダイヤモンド砥粒の内部応力を評価する際に「ラマンピーク位置の平均値」を採用する。この「ラマンピーク位置の平均値」は、無作為に選んだ100個以上のダイヤ砥粒について、少なくとも500点の測定点(同一粒子内での測定点数は一定)にて得られたラマンピーク位置の算術平均である。
【0018】
また、ダイヤモンド砥粒の大きさは、ここに開示される技術を限定するものではなく、使用目的や使用態様に応じて適宜変更できる。例えば、ダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、0.1μm以上でもよく、0.5μm以上でもよく、1μm以上でもよく、5μm以上でもよく、10μm以上でもよい。一方、ダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、1000μm以下でもよく、500μm以下でもよく、250μm以下でもよく、100μm以下でもよい。なお、本明細書における「D50粒子径」は、一般的なレーザ回折・光散乱法(分散媒:水)に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径である。
【0019】
また、ダイヤモンド砥粒形状も、特に限定されず、従来公知の形状から適宜選択できる。例えば、ダイヤモンド砥粒は、球状、板状、不定形状(金平糖形状など)等であってもよい。また、ダイヤモンド砥粒の平均アスペクト比は、1以上2以下でもよく、1.1以上1.8以下でもよい。なお、本明細書における「アスペクト比」は、電子顕微鏡画像において砥粒に外接する矩形を描き、当該矩形の短辺の長さ(a)と長辺の長さ(b)との比率(b/a)を計算することによって求めることができる。そして、「平均アスペクト比」は、100個以上の粒子のアスペクト比の算術平均値である。
【0020】
(2)内部応力制御工程
ここに開示される製造方法は、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む。本発明者が行った実験によると、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、当該ダイヤモンド砥粒の内部応力が変化することが確認されている。例えば、強い内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が開放されてラマンピーク位置が高波数側にシフトする。一方、内部応力が弱いダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が導入されてラマンピーク位置が低波数側にシフトする。このため、ここに開示される方法を利用すれば、所望の内部応力を有するダイヤモンド砥粒を容易に製造できる。なお、ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、このような現象が生じる理由は、内部応力が小さなダイヤモンド砥粒では超音波印加によって加えられた圧力変動が砥粒内部に応力として残留する一方で、内部応力が大きなダイヤモンド砥粒では超音波印加によって加えられた圧力変動が内部応力を開放する力として作用するためと推測される。
【0021】
そして、上述の作用機序を考慮すると、超音波印加前のラマンピーク位置によって、超音波印加後のラマンピーク位置の変化の方向が変化すると解される。例えば、超音波印加前のラマンピーク位置が比較的に高い(内部応力が小さい)場合には、超音波印加後のラマンピーク位置は、低波数側(内部応力の導入)に向かって変化する。一方、超音波印加前のラマンピーク位置が比較的に低い(内部応力が大きい)場合には、超音波印加後のラマンピーク位置は、高波数側(内部応力の開放)に向かって変化する。すなわち、ここに開示される製造方法では、超音波印加前のラマンピーク位置が判明していれば、超音波印加後のダイヤモンド砥粒に導入される内部応力を特定の範囲に制御し、所望の微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を製造できる。
【0022】
なお、本発明者が行った実験では、ダイヤモンド砥粒の種類によっては、超音波印加後のラマンピーク位置が特定の範囲に収束するように変化するという現象も確認されている。ここで開示される技術を限定するものではないが、後述する試験例では、ある特定のダイヤモンド砥粒に対して所定の条件の超音波を印加した場合に、当該砥粒のラマンピーク位置が1329.0~1329.5cm-1の範囲に収束することが確認されている。具体的には、ラマンピーク位置が1329cm-1未満の(内部応力が強い)ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が開放されてラマンピーク位置が高波数側にシフトしていた。一方、1329cm-1以上1331cm-1以下の(内部応力が弱い)ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が導入されてラマンピーク位置が低波数側にシフトしていた。そして、何れの場合でも、超音波印加後のダイヤモンド砥粒のラマンピーク位置は、1329.0~1329.5cm-1の範囲に収束していた。このように、ダイヤモンド砥粒の種類によっては、超音波印加後のダイヤモンド砥粒の内部応力が特定の範囲に収束する可能性がある。
【0023】
なお、本工程で使用される超音波印加装置の一例として、超音波分散装置や超音波洗浄装置などの液体用の超音波印加装置が挙げられる。この液体用の超音波印加装置を使用する場合には、所定の分散媒にダイヤモンド砥粒を分散させた砥粒分散液を調製するとよい。これによって、砥粒分散液中のダイヤモンド砥粒に超音波を均一に印加することができる。なお、このときの分散媒は、低粘度の液状媒体であることが好ましい。これによって、砥粒分散液中のダイヤモンド砥粒に超音波が印加されやすくなる。具体的には、分散媒の常温(20℃)の粘度は、100mPa・s以下でもよく、10mPa・s以下が好ましく、7mPa・s以下がより好ましく、5mPa・s以下がさらに好ましく、3mPa・s以下が特に好ましい。一方、分散媒の粘度の下限値は、特に限定されず、0.05mPa・s以上でもよく、0.1mPa・s以上でもよく、0.3mPa・s以上でもよい。このような粘度を有する分散媒の一例として、水、エタノール、2-プロパノール、1-プロパノール、エチレングリコールなどが挙げられる。なお、本工程で使用される超音波印加装置は、上述した液体用の装置に限定されず、従来公知の超音波発生機器を特に制限なく使用できる。例えば、本工程では、粉体材料に超音波を直接印加する装置(超音波篩分機など)を使用することもできる。
【0024】
また、本発明者の実験によると、超音波印加処理によってダイヤモンド砥粒の内部応力を制御すると、熱処理による内部応力の導入と異なり、砥粒の結晶性が向上することが確認されている。具体的には、ここに開示される製造方法によると、内部応力制御工程において、ダイヤモンド砥粒のラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値が減少する。これによって、優れた結晶性を有し、硬度が非常に高いダイヤモンド砥粒を実現することもできる。なお、内部応力制御工程では、ラマンピークの半値幅の平均値の減少量が0.05cm-1以上(好適には0.10cm-1以上、より好適には0.15cm-1以上、さらに好適には0.20cm-1以上、特に好適には0.30cm-1以上、例えば040cm-1以上)になるように超音波の印加条件を調節するとよい。これによって、ダイヤモンド砥粒の結晶性を好適に向上できる。より好適には、超音波印加後のダイヤモンド砥粒のラマンピークの半値幅が4.8cm-1以下になるように、種々の条件(超音波の出力、印加時間など)を調節することが好ましい。これによって、特に優れた結晶性を有する砥粒を製造できる。なお、本明細書における「ラマンピーク半値幅」は、上述の手順で取得したラマンスペクトルのピークトップの半分の強度におけるピークの波数幅のことをいう。また、「ラマンピーク半値幅の平均値」は、無作為に選んだ100個以上のダイヤ砥粒について、少なくとも500点の測定点(同一粒子内での測定点数は一定)にて得られたラマンピーク半値幅の算術平均である。
【0025】
また、超音波の印加時間は、処理対象であるダイヤモンド砥粒の量によって適宜設定することが好ましい。一例として、印加時間は、1分以上が好ましく、2分以上がより好ましく、3分以上がより好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の内部応力を目的の範囲に十分にシフトさせることができる。一方、照射時間の上限は、30分以下が好ましく、10分以下がより好ましく、7分以下が特に好ましい。これによって、製造効率の低下や過度の温度上昇を抑制できる。なお、超音波は、継続して印加し続けてもよいし、所定の間隔を空けて間欠的に印加してもよい。例えば、印加時間が1分の超音波印加処理を複数回(例えば2回~10回)実施してもよい。これによって、超音波を継続して印加し続けることによる温度上昇を抑制できる。なお、超音波印加処理は、適宜冷却しながら継続して実施してもよい。
【0026】
また、超音波発生機器の出力も、ダイヤモンド砥粒の処理量によって適宜設定される。この出力を大きくするにつれて、内部応力の変化に要する時間を短縮できる傾向がある。一例として、超音波発生機器の出力は、100W以上が好ましく、200W以上がより好ましく、300W以上がさらに好ましく、400W以上が特に好ましい。一方、超音波発生機器の最大出力を用いる場合、当該出力は、2000W以下が好ましく、1500W以下がより好ましく、1000W以下がさらに好ましく、800W以下が特に好ましい。これによって、短時間で効率的に処理しつつ、砥粒の破壊や過熱を抑制できる。
【0027】
また、超音波の周波数は、15kHz以上が好ましく、20kHz以上がより好ましく、22kHz以上がさらに好ましく、25kHz以上が特に好ましい。これによって、様々な粒子径の砥粒を短時間で効率的に処理しつつ、砥粒の破壊や過熱を抑制できる。一方、超音波の周波数は、1000kHz以下でもよく、500kHz以下が好ましく、120kHz以下がより好ましく、80kHz以下がさらに好ましく、40kHz以下が特に好ましい。これによって、超音波処理を短時間で効率的に実施できる。
【0028】
また、ここに開示される製造方法では、上述の内部応力制御工程を実施する前に、処理対象であるダイヤモンド砥粒の内部応力を検査する検査工程を実施してもよい。この検査工程において処理対象の内部応力を認識すれば、内部応力制御工程後のラマンピーク位置を予測することができる。また、検査工程を実施した後に、所望のラマンピーク位置に変化するダイヤモンド砥粒を選別する選別工程を実施することによって、目的の微小破砕性を有したダイヤモンド砥粒を安定的に製造できる。なお、この内部応力検査工程では、上述した手順に従って、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルのラマンピーク位置を測定するとよい。これによって、ダイヤモンド砥粒の内部応力を正確に検査できる。また、この内部応力検査工程は、内部応力制御工程に供給される全てのダイヤモンド砥粒に対して実施する必要はない。例えば、内部応力検査工程は、内部応力制御工程に供給されるダイヤモンド砥粒のロットが変わった際に実施するとよい。これによって、製造効率を大きく低下させることなく、内部応力制御工程の条件を適切な条件に設定できる。
【0029】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0030】
[試験例]
次に、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0031】
1.サンプルの準備
(1)比較例1
本試験の比較例1は、市販のダイヤモンド砥粒(株式会社グローバルダイヤモンド製、FRM-DN 40-60)である。なお、レーザ回折分析を行った結果、このダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、40μmであった。また、XRF二基づいた成分分析の結果、このダイヤモンド砥粒は、不純物として、0.176wt%のNiと、0.389wt%のMnを含んでいた。
【0032】
(2)実施例1
実施例1では、ダイヤモンド砥粒に対して超音波印加処理を実施した。具体的には、比較例1と同じダイヤモンド砥粒を3g秤量し、100mlの純水とを混合して砥粒分散液を調製した。次に、超音波分散機(株式会社エスエムテー製、型式:UH-600S)を用いて、分散液中のダイヤモンド砥粒に超音波を印加した。この超音波分散機は、出力600W、発振周波数20kHz、振動子照射部の直径36mmである。そして、超音波分散機のOUTPUTを10(最大)に設定し、1分間の超音波処理と1分間のインターバルを含む処理サイクルを5回繰り返した。その後、ろ過処理によって分散液からダイヤモンド砥粒を分離し、エタノールで洗浄した後に室温で乾燥した。これによって、超音波印加処理済のダイヤモンド砥粒(実施例1)を得た。
【0033】
(3)比較例2
比較例2では、ダイヤモンド砥粒に対して熱処理を実施した。具体的には、比較例1と同じダイヤモンド砥粒を、還元雰囲気(3%H2含有N2ガス)中で加熱した。この熱処理における昇温速度は100℃/hに設定し、最高温度は700℃に設定した。そして、加熱時間(最高温度での保持時間)を3時間に設定した。これによって、熱処理済のダイヤモンド砥粒(比較例2)を作製した。
【0034】
(4)比較例3
比較例3では、比較例2と同様に、ダイヤモンド砥粒に対して熱処理を実施した。具体的には、最高温度を1000℃に変更した点を除いて、比較例2と同じ手順に従ってダイヤモンド砥粒を加熱した。
【0035】
(5)実施例2
実施例2では、熱処理後のダイヤモンド砥粒に対して超音波印加処理を実施した。具体的には、比較例3と同じ手順に従って熱処理(最高温度:1000℃)を実施した後に、実施例1と同じ手順に従って超音波処理を実施した。これによって、熱処理後に超音波処理を実施したダイヤモンド砥粒(実施例2)を作製した。
【0036】
2.評価試験
本試験では、各例で500個のラマンスペクトルを取得した。そして、各々のラマンスペクトルから1325cm-1~1334cm-1にピーク位置を有するラマンピークの位置と半値幅を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
なお、本試験では、以下の手順に従ってラマンピークの位置と半値幅を測定した。まず、測定装置としては、顕微ラマン分光光度計(株式会社堀場製作所製のLabRAM HR Evolution)を使用した。なお、測定条件は、例えば、測定温度を24℃、校正試料をSi、励起レーザ波長を532nm、グレーティングを1800gr/mmに設定した上で、露光時間を8秒、積算回数を2回に設定した。そして、得られたラマンスペクトルに対して、波形解析ソフト(Labspec6)を用いて、ベースライン補正とピーク検索とフィッティングを行った。そして、ピークトップの位置を「ラマンピークの位置」とみなし、ピークトップの半分の強度におけるピークの波数幅を「ラマンピークの半値幅」とみなした。そして、無作為に選択した100個のダイヤモンド砥粒の各々に対して、重ならない5点の測定点におけるピーク位置と半値幅を測定し、各々の平均値(ラマンピーク位置の平均値およびラマンピーク半値幅の平均値)を求めた。すなわち、表1中の「ラマンピーク位置」と「ラマンピーク半値幅」は、500点の測定位置における測定結果の平均値である。
【0038】
【0039】
まず、比較例1のラマンピーク位置は、1329.64cm-1であった。このことから、本試験で使用したダイヤモンド砥粒は、不純物の混入や製造中の応力導入によって、ダイヤモンド結晶の基準ピーク位置(1333cm-1)から低波数側にシフトしていることが分かった。
【0040】
次に、実施例1のラマンピーク位置は、1329.42cm-1に低下していた。このことから、超音波が印加されたダイヤモンド砥粒は、700℃の熱処理を実施したダイヤモンド砥粒(比較例2)と同等程度の内部応力が導入されることが分かった。次に、比較例3のラマンピーク位置は、1328.66cm-1まで低下していた。これは、1000℃という高温の熱処理によって、非常に強い内部応力がダイヤモンド砥粒に導入されたためと解される。一方で、実施例2では、ラマンピーク位置が1329.10cm-1まで上昇していた。このことから、非常に強い内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、内部応力が開放されるという驚くべき結果が得られた。以上の結果から、ダイヤモンド砥粒に超音波を印加すると、超音波印加前のダイヤモンド砥粒の内部応力の状態に応じて内部応力が変化することが分かった。
【0041】
なお、実施例1と比較例2を比較すると、ラマンピークの位置が同程度であった一方で、半値幅に有意な差異が見られた。具体的には、比較例2では、ラマンピークの半値幅が増大していた。これは、700°の熱処理を行った比較例2では、熱による結晶性の低下が生じたためと解される。一方、超音波印加によって内部応力を導入した実施例1では、ラマンピークの半値幅の増大が生じておらず、結晶性が高いであった。このことから、超音波印加を用いてダイヤモンド砥粒の内部応力の制御を行うと、従来よりも硬度が高いダイヤモンド砥粒の実現が期待できる。
【0042】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目7に記載の形態を包含する。
【0043】
<項目1>
ダイヤモンド砥粒に超音波を印加する内部応力制御工程を含む、ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【0044】
<項目2>
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピーク位置が1331cm-1以下である、項目1に記載の製造方法。
【0045】
<項目3>
前記内部応力制御工程は、前記ダイヤモンド砥粒に内部応力を導入する、項目1または2に記載の製造方法。
【0046】
<項目4>
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、前記ラマンピーク位置が1329cm-1以上1331cm-1以下である、項目3に記載の製造方法。
【0047】
<項目5>
前記内部応力制御工程は、前記ダイヤモンド砥粒の内部応力を開放する、項目1または2に記載の製造方法。
【0048】
<項目6>
前記内部応力制御工程の実施前の前記ダイヤモンド砥粒は、前記ラマンピーク位置が1329cm-1未満である、項目5に記載の製造方法。
【0049】
<項目7>
前記内部応力制御工程において、前記ダイヤモンド砥粒のラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値を減少させる、項目1~6のいずれか一項に記載の製造方法。
【0050】
<項目8>
前記内部応力制御工程における前記ラマンピークの半値幅の平均値の減少量が0.05cm-1以上である、項目7に記載の製造方法。
【0051】
<項目9>
前記内部応力制御工程において、前記ラマンピークの半値幅の平均値を4.8cm-1以下に制御する、項目7または8に記載の製造方法。