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特開2024-139273ダイヤモンド砥粒、粉体材料、およびダイヤモンド砥粒の製造方法
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  • 特開-ダイヤモンド砥粒、粉体材料、およびダイヤモンド砥粒の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139273
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ダイヤモンド砥粒、粉体材料、およびダイヤモンド砥粒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20241002BHJP
   C01B 32/28 20170101ALI20241002BHJP
   B24D 3/00 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
H01L21/304 622B
C01B32/28
B24D3/00 320B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050141
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 慶樹
【テーマコード(参考)】
3C063
4G146
5F057
【Fターム(参考)】
3C063AA02
3C063BB02
3C063BC05
3C063CC04
3C063EE10
3C063FF30
4G146AA04
4G146AA16
4G146AB01
4G146AC02B
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146AC23A
4G146AC23B
4G146AC27A
4G146AC27B
4G146AD36
4G146CB11
5F057AA14
5F057AA28
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA03
5F057EA01
5F057EA06
(57)【要約】
【課題】加工時に適切な頻度で破砕し、鋭い切れ刃を維持できるダイヤモンド砥粒を提供する。
【解決手段】
ここに開示される技術では、ダイヤモンド砥粒の製造において、200℃以上900℃以下の温度でダイヤモンド砥粒を加熱する熱処理工程を実施する。これによって、圧縮破壊点歪が0.3以上0.9以下であるダイヤモンド砥粒が製造される。かかる圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒は、非常に優れた微小破砕性を有しているため、加工時に鋭い切れ刃が容易に形成することができる。このため、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、優れた加工効率を発揮することができる。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮破壊点歪が0.3以上0.9以下である、ダイヤモンド砥粒。
【請求項2】
炭素元素を除くドーパントを含有する、請求項1に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項3】
前記ダイヤモンド砥粒の総重量に対する前記ドーパントの含有量は、0.1wt%以上である、請求項2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項4】
前記ドーパントの熱膨張率は、前記ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高い、請求項2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項5】
圧縮破壊強度が1.5Gpa以上4.0Gpa以下である、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項6】
圧縮破壊点試験力が6.5N以上20N以下である、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項7】
圧縮破壊点応力が3Gpa以上10Gpa以下である、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項8】
ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1329.5cm-1以下である、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項9】
ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値が4.5cm-1以下である、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項10】
SiC加工用工具に用いられる、請求項1または2に記載のダイヤモンド砥粒。
【請求項11】
複数のダイヤモンド砥粒を含む粉体材料であって、
前記ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪の平均値が0.3以上0.8以下である、粉体材料。
【請求項12】
前記圧縮破壊点歪が0.2以上0.9以下であるダイヤモンド砥粒の個数が50個数%以上である、請求項11に記載の粉体材料。
【請求項13】
200℃以上900℃以下の温度でダイヤモンド砥粒を加熱する熱処理工程を含む、ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理工程における加熱雰囲気が酸化雰囲気である、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理工程における加熱温度が400℃以上600℃以下である、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記ダイヤモンド砥粒は、炭素元素を除くドーパントを含有する、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ダイヤモンド砥粒の総重量に対する前記ドーパントの含有量は、0.1wt%以上である、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記ドーパントの熱膨張率は、前記ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高い、請求項17に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、ダイヤモンド砥粒、粉体材料、およびダイヤモンド砥粒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ダイヤモンド砥粒は、様々な材料の研削に広く使用されている。例えば、ダイヤモンド砥粒は、SiCなどの難研削材を研削する加工用工具(ビトリファイド砥石など)の製造に使用される(特許文献1参照)。このダイヤモンド砥粒には、加工対象に応じた適切な微小破砕性が要求される。例えば、加工中に微小なスケールで高頻度に破砕する(微小破砕性が高い)ダイヤモンド砥粒は、切れ刃が鋭い状態を維持できるため、優れた加工効率を有している
【0003】
ダイヤモンド砥粒は、内部応力(引張応力)が大きくなるにつれて破砕しやすくなることが知られている。ここで、ダイヤモンド砥粒の内部応力は、ラマン分光法に基づいて評価できる。具体的には、ダイヤモンド砥粒のラマンスペクトルを取得すると、ダイヤモンド結晶の格子振動に由来するピークが1333cm-1付近に確認される。そして、このダイヤモンド砥粒は、内部応力の導入や結晶中への不純物の混入などによって、上記ラマンピーク位置が低波数側にシフトする。非特許文献1では、加熱処理によって内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒で、ラマンピーク位置が低波数側にシフトして微小破砕性が向上することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-80847号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】角谷均,他5名,”切削工具用各種単結晶ダイヤモンドの内部歪み分布と微小破壊挙動”,精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,2019年,P644-P645
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では、半導体ウエハの需要増大に伴い、SiCなどの難研削材を高い効率で研削加工や研磨加工することが要求されている。ここに開示される技術は、かかる要求に応じてなされたものであり、加工時に適切な頻度で破砕し、鋭い切れ刃を維持できるダイヤモンド砥粒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、圧縮破壊点歪が0.3以上0.9以下である。本発明者は、種々の検討と実験を重ねた結果、この非常に高い圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒を実現することに成功した。詳しくは後述するが、一般的なダイヤモンドの圧縮破壊点歪は0.1以下、高くても0.25未満である。すなわち、0.3以上という高い圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒は、未だ報告されていない。そして、かかる構成のダイヤモンド砥粒は、非常に優れた微小破砕性を有しているため、加工時に鋭い切れ刃が容易に形成される。このため、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、優れた加工効率を発揮することができる。
【0008】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、炭素元素を除くドーパントを含有する。これによって、後述する熱処理工程においてダイヤモンド砥粒に内部応力が導入されやすくなるため、より好適に微小破砕性を向上できる。ダイヤモンド砥粒の総重量に対するドーパントの含有量は、0.1wt%以上が好ましい。これによって、熱処理工程において、ダイヤモンド砥粒に強い内部応力を容易に導入することができる。さらに、このドーパントの熱膨張率は、ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高いことが好ましい。これによって、さらに容易に内部応力を導入できる。
【0009】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、圧縮破壊強度が1.5Gpa以上4.0Gpa以下である。これによって、ダイヤモンド砥粒の加工持続性と微小破砕性とを高いレベルで両立できる。
【0010】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、圧縮破壊点試験力が6.5N以上20N以下である。これによって、ダイヤモンド砥粒の加工持続性と微小破砕性とを高いレベルで両立できる。
【0011】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、圧縮破壊点応力が3Gpa以上10Gpa以下である。これによって、ダイヤモンド砥粒の加工持続性と微小破砕性とを高いレベルで両立できる。
【0012】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1329.5cm-1以下である。これによって、ダイヤモンド砥粒の微小破砕性をさらに向上できる。
【0013】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒の一態様では、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値が4.5cm-1以下である。これによって、ダイヤモンド砥粒の耐久性を向上できる。
【0014】
ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、例えば、SiC加工用工具に用いられる。かかるSiC加工用工具は、砥粒の切れ刃が鋭い状態に維持されやすいため、効率良くSiCを加工することができる。
【0015】
また、ここに開示される技術の他の側面として、複数のダイヤモンド砥粒を含む粉体材料が提供される。かかる粉体材料では、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪の平均値が0.3以上0.8以下である。かかる構成の粉体材料は、優れた微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒を含んでいるため、SiCなどの難研削材を効率良く加工することができる。
【0016】
ここに開示される粉体材料の一態様では、圧縮破壊点歪が0.2以上0.9以下であるダイヤモンド砥粒の個数が50個数%以上である。かかる粉体材料は、優れた微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒が砥粒の半数以上を占めているため、さらに優れた加工性を発揮できる。
【0017】
また、ここに開示される技術の他の側面として、ダイヤモンド砥粒の製造方法が提供される。かかる製造方法は、200℃以上900℃以下の温度でダイヤモンド砥粒を加熱する熱処理工程を含む。本発明者が実施した実験によると、上述の条件で熱処理を行うことによって、圧縮破壊点歪が0.3以上0.9以下のダイヤモンド砥粒を製造できる。
【0018】
ここに開示される製造方法の一態様では、熱処理工程における加熱雰囲気が酸化雰囲気である。一般的なダイヤモンド砥粒の熱処理は、ダイヤモンドの酸化を防止するために、不活性雰囲気で行われる。しかし、本発明者が実施した実験では、酸化雰囲気でダイヤモンド砥粒を加熱すると、加熱後の砥粒の圧縮破壊点歪が急激に上昇し、微小破砕性が顕著に改善されることが確認されている。
【0019】
ここに開示される製造方法の一態様では、熱処理工程における加熱温度が400℃以上600℃以下である。これによって、圧縮破壊点歪が高いダイヤモンド砥粒をより容易に製造できる。
【0020】
ここに開示される製造方法の一態様では、ダイヤモンド砥粒は、炭素元素を除くドーパントを含有する。これによって、ダイヤモンド砥粒に内部応力が導入されやすくなるため、より好適に微小破砕性を向上することができる。また、ダイヤモンド砥粒の総重量に対するドーパントの含有量は、0.1wt%以上が好ましい。これによって、熱処理工程において、ダイヤモンド砥粒に強い内部応力を容易に導入することができる。さらに、このドーパントの熱膨張率は、ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高いことが好ましい。これによって、さらに容易に内部応力を導入できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、SiC研削試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、ここに開示される技術の一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。なお、図面は模式的に描かれており、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
【0023】
<ダイヤモンド砥粒>
以下、ここに開示されるダイヤモンド砥粒について説明する。ダイヤモンド砥粒は、所定の硬度を有するダイヤモンド粒子である。このダイヤモンド砥粒は、天然ダイヤモンドでもよいし、人工ダイヤモンドでもよい。
【0024】
そして、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、圧縮破壊点歪が0.3以上である。この圧縮破壊点歪は、試料高さに対する破壊点変位量の比率(破壊点変位量/試料高さ)である。そして、これらの試料高さと破壊点変位量は、それぞれ、カメラや顕微鏡による試料観察や圧縮破壊試験機の変位センサーによって測定できる。そして、この圧縮破壊点歪が大きくなるにつれて、ダイヤモンド砥粒の微小破砕性が向上する傾向がある。具体的には、ダイヤモンド砥粒は、所定方向に加圧した場合、当該加圧方向に沿って、一定量変位(変形)した後に破壊する。ここで、圧縮破壊点歪は、どの程度変位した際に破壊が生じるかという物性を示す破壊点変位量を砥粒の寸法(試料高さ)で除したパラメータである。この圧縮破壊点歪が大きい砥粒は、微小破砕しやすいという性質を有している。そして、微小破砕性が高い砥粒は、一般的に加工効率が高い傾向があり、特に難研削材の研削においてその傾向は顕著である。ここで、一般的なダイヤモンドの圧縮破壊点歪は、0.1以下であり、高くても0.25未満である。このため、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、従来の砥粒と比べて微小破砕性が大きく向上しているといえる。なお、このような圧縮破壊点歪が大きなダイヤモンド砥粒を実現する手段は後述する。また、ここに開示されるダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪は、0.33以上が好ましく、0.35以上が特に好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の微小破砕性をさらに向上することができる。一方、圧縮破壊点歪が大きくなりすぎる(微小破砕性が高すぎる)場合、砥粒の耐久性が低下する要因になり得る。かかる観点から、ここに開示されるダイヤモンド砥粒では、圧縮破壊点歪の上限値が0.9以下(好適には0.85以下、より好適には0.82以下)に設定されている。
【0025】
また、ここに開示されるダイヤモンド砥粒の圧縮破壊強度は、1.5Gpa以上が好ましく、1.8Gpa以上がより好ましく、2.5Gpa以上がさらに好ましく、2.8Gpa以上が特に好ましい。この圧縮破壊強度は、所定の方向に沿って圧力が加えられた際に、砥粒の破壊が生じる圧力のことを示す。前述の圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒において圧縮破壊強度が大きいことは、微小破砕を繰り返しつつも砥粒が完全には破壊されにくいことを意味する。すなわち、ここに開示されるダイヤモンド砥粒において、圧縮破壊強度が大きくなると、研削・研磨中の加工持続性が向上する傾向がある。一方、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊強度は、4.0Gpa以下が好ましく、3.5Gpa以下がより好ましく、3.3Gpa以下が特に好ましい。これによって、ある程度の頻度でダイヤモンド砥粒の微小破砕を生じさせることができるため、加工効率をさらに向上できる。なお、本明細書における「圧縮破壊強度」は、JIS R1639-5の計算式に基づいて計算される値である。
【0026】
また、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点試験力は、6.5N以上が好ましく、7.0N以上がより好ましく、7.2N以上がさらに好ましく、7.3N以上が特に好ましい。この圧縮破壊点試験力は、ダイヤモンド砥粒に荷重を加えた際に、砥粒の破壊が生じた荷重のことを示す。圧縮破壊点歪とこの圧縮破壊点試験力が大きい砥粒も、微小破砕を繰り返しつつも砥粒が完全には破壊されにくいという性質を有する。すなわち、ここに開示されるダイヤモンド砥粒において、圧縮破壊点試験力が大きくなると、研削・研磨中の加工持続性が向上する傾向がある。一方、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点試験力は、20N以下が好ましく、15N以下がより好ましく、12N以下が特に好ましい。これによって、ある程度の頻度でダイヤモンド砥粒の微小破砕を生じさせることができるため、加工効率をさらに向上できる。
【0027】
そして、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点応力は、3Gpa以上が好ましく、3.2Gpa以上がより好ましく、3.5Gpa以上がさらに好ましく、4Gpa以上が特に好ましい。この圧縮破壊点応力は、砥粒の形状を円柱形と仮定した上で、当該円柱の高さ方向に沿って応力を加えた際に、砥粒が破壊される応力を示している。圧縮破壊点歪と圧縮破壊点応力が大きい砥粒も、微小破砕を繰り返しつつも砥粒が完全には破壊されにくいことを意味する。すなわち、ここに開示されるダイヤモンド砥粒において、圧縮破壊点応力が大きくなると、研削・研磨中の加工持続性が向上する傾向がある。一方、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点応力は、10Gpa以下が好ましく、7.5Gpa以下がより好ましく、5Gpa以下が特に好ましい。これによって、ある程度の頻度でダイヤモンド砥粒の微小破砕を生じさせることができるため、加工効率をさらに向上できる。
【0028】
なお、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、所定のドーパントを含むことが好ましい。これによって、後述する熱処理工程において砥粒に内部応力が導入されやすくなる。なお、ここでのドーパントとは、炭素(C)以外の元素のことをいう。なお、ドーパントは、ダイヤモンド(炭素元素)と反応して化学結合を形成していてもよく、ダイヤモンドの結晶格子中に拡散していてもよい。ドーパントの一例としては、Fe、Ni、Co、Mn、Al、Ti、Cr、Zr、Vなどの金属元素が挙げられる。また、ドーパントは、金属元素以外の元素でもよい。金属元素以外のドーパントの一例として、N、B、Si、Pなどが挙げられる。なお、これらのドーパントは、製造工程中に不可避的に混入したものでもよいし、意図的に砥粒中に導入されたものでもよい。また、ドーパントは、ダイヤモンドよりも熱膨張率が高いものが好ましい。この場合、ダイヤモンドとドーパントとの熱膨張差によって、熱処理工程中の砥粒に内部応力をより容易に導入できるため、微小破砕性が向上する。なお、ドーパントの好適例は、金属(典型的には金属粒子)であり、その構成元素としては、上述の金属元素が挙げられる。また、ダイヤモンド砥粒の総重量(100wt%)に対するドーパントの含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.2wt%以上がより好ましく、0.3wt%以上がさらに好ましく、0.5wt%以上が特に好ましい。これによって、熱処理工程における内部応力の導入がさらに容易になる。一方、ダイヤモンド砥粒の強度を考慮すると、ドーパントの含有量の上限は、10wt%以下が好ましく、5wt%以下がより好ましく、3wt%以下がさらに好ましく、1wt%以下が特に好ましい。なお、ダイヤモンド砥粒中のドーパントの含有量は、蛍光X線分析(XRF:X-Ray Fluorescence)に基づいて測定することができる。
【0029】
また、ダイヤモンド砥粒は、ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1329.5cm-1以下(より好適には1329.4cm-1以下)であることが好ましい。ラマンピーク位置が低波数側にシフトしたダイヤモンド砥粒は、大きな内部応力が導入されているため、研削・研磨加工中により好適な微小破砕性を発揮できる。一方、ラマンピークのピーク位置の平均値の下限は、1328.8cm-1以上が好ましく、1328.9cm-1以上がより好ましい。ラマンピーク位置が高くなるにつれて、ダイヤモンド砥粒の内部応力が小さくなるため、過度の破砕が抑制される傾向がある。
【0030】
なお、本明細書における「ラマンピーク位置」は、以下の条件で測定したものである。まず、測定装置としては、市販の顕微ラマン分光光度計を使用できる。また、測定条件は、例えば、測定温度を24℃、校正試料をSi、励起レーザ波長を532nmに設定した上で、明確な測定結果が得られるように他の条件を適宜調節するとよい。上記の条件でダイヤモンド砥粒のラマン分光分析を行うと、ダイヤモンド結晶の格子振動に由来するピークがラマンシフトの1333cm-1付近に存在するラマンスペクトルが検出される。そして、このラマンスペクトルに対して、所定の波形解析ソフト(Labspec6など)を用いて、ベースライン補正とピーク検索とフィッティングを行い、ピークトップの位置(ラマンシフト)を「ラマンピーク位置」とみなす。これによって、ラマンピーク位置を測定できる。また、「ラマンピーク位置の平均値」は、無作為に選んだ100個以上のダイヤ砥粒について、少なくとも500点の測定点(同一粒子内での測定点数は一定)にて得られたラマンピーク位置の算術平均である。
【0031】
ダイヤモンド砥粒は、ラマンスペクトルにおけるラマンピーク半値幅の平均値が4.5cm-1以下(より好適には4.4cm-1以下、さらに好適には4.3cm-1以下)であることが好ましい。これによって、優れた結晶性を有し、硬度が非常に高いダイヤモンド砥粒を実現できる。なお、本明細書における「ラマンピーク半値幅」は、上述の手順で取得したラマンスペクトルのピークトップの半分の強度におけるピークの波数幅のことをいう。また、「ラマンピーク半値幅の平均値」は、無作為に選んだ100個以上のダイヤ砥粒について、少なくとも500点の測定点(同一粒子内での測定点数は一定)にて得られたラマンピーク半値幅の算術平均である。
【0032】
ダイヤモンド砥粒の大きさは、ここに開示される技術を限定するものではなく、使用目的や使用態様に応じて適宜変更できる。例えば、ダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、0.1μm以上でもよく、0.5μm以上でもよく、1μm以上でもよく、5μm以上でもよく、10μm以上でもよい。一方、ダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、1000μm以下でもよく、500μm以下でもよく、250μm以下でもよく、100μm以下でもよい。なお、本明細書における「D50粒子径」は、一般的なレーザ回折・光散乱法(分散媒:水)に基づく体積基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50体積%に相当する粒径である。
【0033】
ダイヤモンド砥粒の形状も、特に限定されず、従来公知の形状から適宜選択できる。例えば、ダイヤモンド砥粒は、球状、板状、不定形状(金平糖形状など)等であってもよい。また、ダイヤモンド砥粒の平均アスペクト比は、1以上2以下でもよく、1.1以上1.8以下でもよい。なお、本明細書における「アスペクト比」は、電子顕微鏡画像において砥粒に外接する矩形を描き、当該矩形の短辺の長さ(a)と長辺の長さ(b)との比率(b/a)を計算することによって求めることができる。そして、「平均アスペクト比」は、100個以上の粒子のアスペクト比の算術平均値である。
【0034】
また、ここに開示されるダイヤモンド砥粒は、例えば、SiC加工用工具に用いられる。かかる構成のSiC加工用工具は、砥粒の切れ刃が鋭い状態に維持されやすいため、効率良くSiCを加工できる。なお、SiC加工用工具の一例として、ビトリファイド砥石が挙げられる。このビトリファイド砥石は、複数のダイヤモンド砥粒と、当該複数のダイヤモンド砥粒を結合するビトリファイドボンドとを含んでいる。ビトリファイドボンドは、ガラスを主成分とした結合剤である。そして、ビトリファイド砥石は、ビトリファイドボンドとダイヤモンド砥粒とを混合した坏土を焼成することによって製造される。そして、焼成後のビトリファイド砥石では、ビトリファイドボンドを介して複数の砥粒が結合された結合ネットワークが形成される。
【0035】
<粉体材料>
次に、上記構成のダイヤモンド砥粒を含む粉体材料について説明する。上記構成のダイヤモンド砥粒は、当該砥粒を主体とする粉体材料(微粒子の集団(particles))の状態で使用され得る。ここでの「砥粒を主体とする」とは、粉体材料に含まれる微粒子のうち、重量基準で最も多く含まれる微粒子がダイヤモンド砥粒であることを意味する。より具体的には、ここに開示される粉体材料は、ダイヤモンド砥粒を50重量%以上(好適には60重量%以上、より好適には70重量%以上、さらに好適には80重量%以上、特に好適には90重量%以上)含んでいることが好ましい。なお、この粉体材料は、ここに開示される技術による効果を著しく損なわない限りにおいて、上記構成の砥材以外の微粒子を含んでいてもよい。このような副成分としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子、有機バインダ粒子などが挙げられる。
【0036】
そして、ここに開示される粉体材料に含まれたダイヤモンド砥粒は、圧縮破壊点歪の平均値が0.3以上0.8以下である。上述した通り、0.3以上という高い圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒は、優れた微小破砕性を有している。なお、粉体材料における圧縮破壊点歪の平均値は、0.32以上が好ましく、0.35以上が特に好ましい。これによって、粉体材料中のダイヤモンド砥粒の微小破砕性をより高い状態にできる。一方、圧縮破壊点歪の平均値は、0.7以上が好ましく、0.6以下がより好ましく、0.5以下が特に好ましい。これによって、粉体材料中のダイヤモンド砥粒が過剰な頻度で破砕することを抑制できる。
【0037】
なお、ここでの「圧縮破壊点歪の平均値」は、例えば、粉体材料に含まれる複数のダイヤモンド砥粒から、無作為に砥粒を100個以上選択し、各々の砥粒の圧縮破壊点歪を測定し、測定結果の平均値を求めることによって得ることができる。なお、圧縮破壊点歪の平均値を測定する際には、粒径が5μm以上の砥粒を測定対象とすることが好ましい。本願出願時の技術では、粒径5μm未満の砥粒の圧縮破壊点歪を正確に測定することが難しいためである。但し、測定対象の粒径は、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、5μm未満の砥粒の圧縮破壊点歪を測定できる場合には、当該技術を利用して粒径5μm未満の砥粒を含んだ圧縮破壊点歪の平均値を測定してもよい。
【0038】
また、ここに開示される粉体材料は、圧縮破壊点歪が0.2以上0.9以下であるダイヤモンド砥粒の個数が50個数%以上(好適には60個数%以上、より好適には70個数%以上、さらに好適には80個数%以上、特に好適には90個数%以上)であることが好ましい。かかる粉体材料は、好適な粉砕性を有するダイヤモンド砥粒を多量に含んでいるため、より高い加工性を発揮することができる。一方、0.2以上0.9以下という圧縮破壊点歪を満たすダイヤモンド砥粒の個数%の上限値は、特に限定されず、100個数%以下でもよく、99個数%以下でもよく、98個数%以下でもよい。なお、本明細書における「個数%」とは、粉体材料に含まれる複数の粒子の中から、100個のダイヤモンド砥粒を無作為に選択し、当該100個の砥粒を分母として算出した割合である。
【0039】
また、粉体材料に含まれるダイヤモンド砥粒の圧縮破壊強度の平均値は、1.8Gpa以上が好ましく、2.0Gpa以上が特に好ましい。これによって、粉体材料全体として好適な加工持続性が得られる。一方、粉体材料における圧縮破壊強度の平均値は、3.5Gpa以下が好ましく、3.2Gpa以下がより好ましく、3.0Gpa以下が特に好ましい。これによって、粉体材料に含まれる砥粒の破砕頻度が増加するため、加工効率をさらに向上できる。
【0040】
また、ここに開示される粉体材料は、圧縮破壊強度が1.5Gpa以上4.0Gpa以下(好適には1.8GPa以上3.5GPa以下)であるダイヤモンド砥粒の個数%が50個数%以上であることが好ましい。かかる構成の粉体材料は、圧縮破壊点歪と圧縮破壊強度の両方が大きなダイヤモンド砥粒を多量に含んでいるため、好適な加工持続性を得ることができる。なお、上述した範囲の圧縮破壊強度を有するダイヤモンド砥粒の個数%は、60個数%以上がより好ましく、70個数%以上がさらに好ましく、80個数%以上が特に好ましく、90個数%以上が最も好ましい。一方、上述の圧縮破壊強度を満たすダイヤモンド砥粒の個数%の上限値は、特に限定されず、100個数%以下でもよく、99個数%以下でもよく、98個数%以下でもよい。
【0041】
また、ここに開示される粉体材料は、粉体材料中のダイヤモンド砥粒を対象とした顕微ラマン分光法による複数の測定点におけるラマンスペクトルのうち、ラマンピーク位置が1327cm-1以上1329.8cm-1未満の範囲内にあるものが50測定点%以上(好適には60%測定点以上、より好適には70測定点%以上、さらに好適には80測定点%以上、特に好適には90測定点%以上)であることが好ましい。かかる構成の粉体材料は、好適な内部応力が導入されたダイヤモンド砥粒を多く含んでいるため、より高い加工性を発揮することができる。一方、上記所定のラマンピーク位置を示す測定点の数の上限は、特に限定されず、100測定点%以下でもよく、99%測定点以下でもよく、98測定点%以下でもよい。なお、本明細書における「測定点%」とは、粉体材料に含まれる複数の粒子の中から、100個以上のダイヤモンド砥粒を無作為に選択し、選択した砥粒1個につき1か所以上(同一粉体材料の評価において砥粒ごとに同数とする)の測定点でラマンスペクトルを取得し、取得したラマンスペクトルの合計数を分母として算出した割合である。なお、正確なラマンスペクトルを測定するという観点から、顕微ラマン分光装置の空間分解能(例えば0.3μm)以上の粒径を有する砥粒を選択して測定することが好ましい。また、ラマンスペクトルには粒径依存性があるため、適切に内部応力を評価するという観点から、選択する砥粒の粒径は10μm以上が好ましい。しかし、ラマンスペクトルを測定する対象の粒径も、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0042】
また、ここに開示される粉体材料は、100点以上の測定点においてダイヤモンド砥粒のラマンスペクトルを取得したとき、ラマンピーク半値幅が4.2cm-1以下である測定点が50%以上(好適には60%以上、より好適には70%以上、さらに好適には80%以上、特に好適には90%以上)であることが好ましい。かかる構成の粉体材料は、好適な結晶性を有するダイヤモンド砥粒を多く含んでいるため、より高い硬度を有し、高い加工効率と耐久性を発揮することができる。一方、上述の結晶性が確認された測定点の割合の上限値は、特に限定されず、100%以下でもよく、99%以下でもよく、98%以下でもよい。
【0043】
<ダイヤモンド砥粒の製造方法>
次に、上記構成のダイヤモンド砥粒を製造する方法について説明する。ここに開示される製造方法は、少なくとも熱処理工程を含む。
【0044】
この熱処理工程では、所定の温度でダイヤモンド砥粒を加熱する。これによって、ダイヤモンド砥粒に内部応力が導入される。ここに開示される技術における微小破砕性の向上(圧縮破壊点歪の増大)の要因の一つとして、熱処理によって適切な内部応力が導入されたためが考えられる。そして、ここに開示される製造方法では、熱処理工程における加熱温度を200℃以上900℃以下の範囲に設定している。本発明者が行った実験によると、この範囲の温度の加熱処理を行うと、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪が0.3以上に増大する。一般的なダイヤモンドの圧縮破壊点歪が0.15程度(最大でも0.25未満)であることを考慮すると、かかる圧縮破壊点歪の増大は顕著なものと言える。なお、ここでの「加熱温度」とは、加熱処理における最高温度のことをいう。
【0045】
なお、熱処理工程における加熱温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がより好ましく、350℃以上がさらに好ましく、400℃以上が特に好ましい。これによって、加熱後のダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪をより確実に増大させることができる。一方、加熱温度の上限は、800℃以下が好ましく、700℃以下がより好ましく、650℃以下がさらに好ましく、600℃以下が特に好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の変性(表面性状の変化や酸化など)を抑制できる。
【0046】
ところで、一般的なダイヤモンド砥粒の製造工程では、ダイヤモンドの酸化を抑制するために、非酸化雰囲気(Nガス雰囲気、Arガス雰囲気など)での加熱が行われる。これに対して、ここに開示される製造方法では、熱処理工程における加熱雰囲気を酸化雰囲気に設定することが好ましい。この酸化雰囲気での加熱は、ダイヤモンドの酸化という観点からは不適当と考えられていたが、本発明者が行った実験によると、圧縮破壊点歪の増大(微小破砕性の向上)という観点からは非常に有効な加熱条件であることが分かった。具体的には、熱処理工程を酸化雰囲気で実施すると、圧縮破壊点歪が0.3以上のダイヤモンド砥粒が生じる頻度が極端に向上することが実験で確認されている。また、上述した通り、ここに開示される製造方法では、ダイヤモンド砥粒の変性(酸化)を抑制するという観点で、加熱温度の上限値が900℃以下(好適には600℃以下)に設定されている。このため、ダイヤモンド砥粒の酸化を十分に抑制した上で、圧縮破壊点歪を増大させることができる。
【0047】
なお、加熱雰囲気における酸素濃度は、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、15%以上が特に好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪をさらに効率良く増大できる。一方、酸素濃度の上限値は、90%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましく、25%以下が特に好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の酸化をより好適に抑制できる。
【0048】
また、加熱時間は、例えば、0.1時間以上でもよく、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.5時間以上がさらに好ましく、2時間以上が特に好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪をより確実に増大させることができる。一方、加熱時間の上限は、5.5時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、4.5時間以下がさらに好ましく、4時間以下が特に好ましい。これによって、熱処理工程を短縮して製造効率を向上できる。なお、ここでの「加熱時間」とは、上述した加熱温度(最高温度)を維持する時間のことをいう。
【0049】
さらに、ここに開示される製造方法では、炭素元素以外のドーパントを含むダイヤモンド砥粒を熱処理工程に供することが好ましい。上述した通り、この種のドーパントを含むダイヤモンド砥粒は、熱処理工程中にドーパントを起点とした内部応力が導入されやすい。これによって、加熱後のダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪をより確実に増大させることができる。
【0050】
また、ダイヤモンド砥粒の加熱は、軟化ガラスや溶融ガラスがダイヤモンド砥粒の表面に存在しない状態で実施するとよい。このようなガラス(典型的にはビトリファイドボンド)と共にダイヤモンド砥粒を加熱すると、微小破砕性を付与し得る程度の内部応力が砥粒に導入されなくなる場合がある。そのメカニズムは、ダイヤモンド砥粒の加熱過程において、圧縮方向の力がかかり、内部応力(典型的には引張応力)が導入されにくくなる傾向があるためと考えられる。すなわち、ここに開示される製造方法では、圧縮方向の外力をダイヤモンド砥粒に加えずに熱処理工程を実施することが好ましい。これによって、ダイヤモンド砥粒の微小破砕性をより効率良く向上することができる。なお、ここでの「圧縮方向の外力をダイヤモンド砥粒に加えない」とは、上述のガラスがダイヤモンド砥粒表面に存在しない様態だけではなく、ダイヤモンド砥粒より加熱温度域における熱膨張率が小さい材料がダイヤモンド砥粒表面に存在する様態や、加圧装置等による外力印加を行わない態様を含む。
【0051】
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。但し、上述の実施形態は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。すなわち、ここに開示される技術は、上述した実施形態に対して種々の変更を行ったものを包含し得る。
【0052】
例えば、ここに開示される製造方法では、熱処理工程後にダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪を検査する検査工程を実施してもよい。この検査工程を実施することによって、所望の圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒が製造されているか否かを判断できる。また、検査工程を実施した後に、所望の圧縮破壊点歪を示すダイヤモンド砥粒を選別する選別工程を実施してもよい。これによって、優れた微小破砕性を有するダイヤモンド砥粒をより安定的に製造できる。また、選別工程において除外されたダイヤモンド砥粒は、再度熱処理工程に供してもよい。これによって、製造工程における歩留まり低下を防止できる。なお、検査工程では、上述した手順に従って、ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪を測定するとよい。また、この検査工程は、熱処理工程後のダイヤモンド砥粒の全てに対して実施する必要はない。例えば、検査工程は、熱処理工程に供給されるダイヤモンド砥粒のロットが変わった際や、熱処理工程の条件を変化させた際などに実施するとよい。これによって、製造効率を大きく低下させることなく、所望の圧縮破壊点歪を有するダイヤモンド砥粒を安定的に製造できる。
【0053】
[試験例]
次に、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、ここに開示される技術は、以下の試験例に限定されるものではない。
【0054】
1.サンプルの準備
(1)実施例1
実施例1では、ダイヤモンド砥粒に対して、所定の条件の熱処理を実施した。具体的には、まず、市販のダイヤモンド砥粒(株式会社グローバルダイヤモンド製、FRM-DN 40-60)を準備した。なお、レーザ回折分析を行った結果、このダイヤモンド砥粒のD50粒子径は、40μmであった。また、XRFに基づいた成分分析の結果、このダイヤモンド砥粒は、不純物として、0.176wt%のNiと、0.389wt%のMnを含んでいた。次に、上述のダイヤモンド砥粒を、酸化雰囲気(大気中)で加熱した。この熱処理における昇温速度は100℃/hに設定し、最高温度は400℃に設定した。そして、加熱時間(最高温度での保持時間)を3時間に設定した。これによって、熱処理済みのダイヤモンド砥粒(実施例1)を作製した。なお、熱処理前後でのダイヤモンド砥粒の重量減少率は、1%以下であった。
【0055】
(2)実施例2
実施例2では、熱処理中の最高温度を500℃に変更した点を除いて、実施例1と同じ手順でダイヤモンド砥粒を作製した。
【0056】
(3)実施例3
実施例3では、熱処理中の最高温度を600℃に変更した点を除いて、実施例1と同じ手順でダイヤモンド砥粒を作製した。
【0057】
(4)比較例1
比較例1では、熱処理を実施していないダイヤモンド砥粒を準備した。なお、比較例1で準備したダイヤモンド砥粒は、実施例1で使用した市販のダイヤモンド砥粒と同じものである。
【0058】
(5)比較例2
比較例2では、熱処理中の雰囲気を非酸化雰囲気(Nガス)に変更した点を除いて、実施例2と同じ手順でダイヤモンド砥粒を作製した。
【0059】
(6)比較例3
比較例3では、熱処理中の最高温度を1000℃に変更した点を除いて、比較例2と同じ手順でダイヤモンド砥粒を作製した。
【0060】
2.評価試験
(1)SiC研削試験
まず、ガラス粉(TOMATEC株式会社製、TMX-501F)を含むペーストを表面に印刷したアルミナ基板を基材として準備した。そして、各例のダイヤモンド砥粒を基材のペーストの上に振り撒き、ペーストを乾燥させた。その後、大気雰囲気で焼成処理(最高焼成温度:570℃、焼成時間:2h)を実施した後に室温まで冷却した。この結果、ガラスによって砥粒がアルミナ基板上に固着した。そして、基板を切断した後に砥粒の一部を除去し、アルミナ基板上に1個の砥粒が固着した試験用の研削治具を作成した。なお、この研削治具では、基板表面から砥粒の上端までの高さ(砥粒高さ)が18~30μmであった。
【0061】
次に、この研削治具を用いてSiCウエハの研削加工を行った。この研削加工では、切込み深さの目標値を2μm、加工速度を6mm/s、加工距離を5mm/pass×20に設定した。この加工試験を砥粒の摩耗によって研削が困難になるまで、SiCウエハを交換して繰り返した。そして、研削加工を一回実施する度にレーザ顕微鏡で砥粒高さを測定し、試験開始前の砥粒高さと測定時の砥粒高さの差分(砥粒摩耗高さ)を算出した。また、研削加工後の各SiCウエハの研削痕の深さを測定し、各々の研削痕の深さの合計値(SiC累積加工深さ)を算出した。なお、「SiCウエハの研削痕の深さ」の測定では、レーザ顕微鏡を用いて研削痕の両端の深さを測定し、当該両端の深さの平均値を算出した。そして、本試験では、各例で4個の研削治具を作製し、各々の「砥粒摩耗高さ」と「SiC累積加工深さ」を測定して平均値を求めた。結果を図1に示す。
【0062】
図1に示すように、実施例1~3では、砥粒摩耗高さに対して深い研削痕が形成されていた。特に、実施例1、2では3回目、実施例3では2回目の研削加工において、研削痕の累積深さが急激に増大するという現象が確認された。これは、実施例1~3では、研削中にダイヤモンド砥粒が破砕して鋭い切れ刃が形成されたためと予想される。以上のことから、実施例1~3のように所定の条件の熱処理を実施すると、優れたSiC加工性をダイヤモンド砥粒に付与できることが分かった。また、実施例1~3の砥粒は、摩耗量が15μm以上に達するまでに実施できた研削加工の回数が比較例1~3よりも多くなっていた。このことから、実施例1~3の砥粒は、耐久性も改善されていることがわかった。
【0063】
なお、本試験の比較例1(未処理のダイヤモンド砥粒)は、ガラスを介して砥粒をアルミナ基板上に固着させる際に加熱(570℃、2h)されている。しかし、この比較例1では、実施例1~3のようなSiC加工性の向上が確認されなかった。かかる現象が生じた原因は、次のように推測される。砥粒の一部または全部が他の材料(ガラス)で覆われた状態で熱処理が行われると、熱処理中のダイヤモンド砥粒に圧縮方向の外力が掛かり、当該砥粒に内部応力(典型的には引張応力)が導入されにくくなる。すなわち、一般的なビトリファイド砥石を製造する際の熱処理(ビトリファイドボンドとダイヤモンド砥粒との混合物の焼成)では、ダイヤモンド砥粒に微小破砕性を付与できるような内部応力が導入されにくいと推測される。
【0064】
(2)圧縮破壊試験
次に、本試験では、熱処理後のダイヤモンド砥粒に生じている物性変化を調べるために、実施例2と比較例1と比較例2の砥粒に対して圧縮破壊試験を実施した。そして、本試験では、「試料高さ」と「試料粒径」と「破壊点変位量」と「圧縮破壊点試験力」と「圧縮破壊点応力」と「圧縮破壊点歪」と「ヤング率」と「圧縮破壊強度」の8項目を測定した。測定結果を表1~3に示す。詳細な測定条件を以下に示す。
【0065】
[圧縮試験条件]
試験装置:マイクロオートグラフMST-I HR
ロードセル容量:500N(50Nレンジ)
負荷速度:2μm/sec
ストローク原点試験力:0.02N
圧縮治具:平面φ200μmのダイヤモンド圧子
下部加圧台:硬度700の加圧板
測定方法:試料1粒を下部加圧台に載せ,1粒子ずつ圧縮
測定数n:5個
【0066】
[試料高さ]
圧子が試料(砥粒)に接触した時の圧縮治具のストローク位置から下部加圧板までの距離を変位センサーで測定し、測定結果を「試料高さ(μm)」とした。
【0067】
[試料粒径]
試料(砥粒)を実体顕微鏡で観察し,X-Yステージに取り付けたマイクロメーターで測定した長径を「試料粒径(μm)」とした。
【0068】
[圧縮破壊点試験力・圧縮破壊点応力]
本試験では、砥粒が破壊された際の圧力を「圧縮破壊点試験力P」として測定した。そして、砥粒の形状を円柱形と仮定した上で、以下の式(1)に圧縮破壊点試験力Pを代入して「圧縮破壊点応力」を計算した。
圧縮破壊点応力=P/(πr) (1)
P=圧縮破壊点試験力
r=粒子半径(試料粒径dの1/2)
【0069】
[破壊点変位量・圧縮破壊点歪]
本試験では、破壊が生じた際の砥粒の変位量(変形量)を「破壊点変位量」として測定した。そして、以下の式(2)に破壊点変位量と試料高さを代入して「圧縮破壊点歪」を計算した。
圧縮破壊点歪=破壊点変位量/試料高さ (2)
【0070】
[ヤング率]
次に、以下の式(3)に圧縮破壊点応力と圧縮破壊点歪を代入してヤング率を計算した。
ヤング率=圧縮破壊点応力/圧縮破壊点歪 (3)
【0071】
[圧縮破壊強度]
次に、以下の式(4)に圧縮破壊点試験力と試料粒径を代入して「圧縮破壊強度」を計算した。
Cs=2.48P/(πd) (4)
Cs:圧縮破壊強度
P:圧縮破壊点試験力
d:試料粒径
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
表1~表3に示すように、実施例2は、比較例1、2と比較して、様々な物性が改善されていた。特に、実施例2では、比較例1、2に対して圧縮破壊点歪の顕著な向上が確認された。このことから、低温で酸化雰囲気の熱処理を行った砥粒は、微小破砕性が増し、鋭い切れ刃が維持されるという特性が付与されることがわかった。そして、この圧縮破壊試験の結果は、図1に示すSiC研削試験において実施例1~3で非常に深い研削痕が形成されたことと整合すると解される。
【0076】
また、実施例2では、圧縮破壊点歪だけでなく、圧縮破壊強度などの向上も確認された。このことから、低温で酸化雰囲気の熱処理を行った砥粒は、優れた強度も付与されていることがわかった。この結果は、図1に示すSiC研削試験において実施例1~3の摩耗量が少ないことと整合すると解される。
【0077】
(3)ラマン分光解析
本試験では、各例で500個のラマンスペクトルを取得した。そして、各々のラマンスペクトルから1325cm-1~1334cm-1の波形を分離し、ラマンピークの位置と半値幅を測定した。なお、本試験では、以下の手順に従ってラマンピークの位置と半値幅を測定した。まず、測定装置としては、顕微ラマン分光光度計(株式会社堀場製作所製のLabRAM HR Evolution)を使用した。なお、測定条件は、例えば、測定温度を24℃、校正試料をSi、励起レーザ波長を532nm、グレーティングを1800gr/mmに設定した上で、露光時間を8秒、積算回数を2回に設定した。そして、得られたラマンスペクトルに対して、波形解析ソフト(Labspec6)を用いて、ベースライン補正とピーク検索とフィッティングを行った。そして、ピークトップの位置を「ラマンピークの位置」とみなし、ピークトップの半分の強度におけるピークの波数幅を「ラマンピークの半値幅」とみなした。そして、無作為に選択した100個のダイヤモンド砥粒の各々に対して、5点の重ならない測定点におけるピーク位置と半値幅を測定した。なお、本評価において選択した全てのダイヤモンド砥粒は、円相当径が25μm~75μmの範囲内であった。そして、本試験では、500点の測定位置における「ラマンピーク位置」と「ラマンピーク半値幅」の平均値を算出した。算出結果を表4に示す。
【0078】
また、本試験では、各例におけるラマンピーク位置の分布も作成した。結果を表5に示す。この「ラマンピーク位置の分布」の測定では、500個のラマンスペクトルを0.2cm-1刻みの複数の波数範囲に分割し、各々の波数範囲でピーク位置が確認された頻度(%)を作成した。また、本試験では、各例におけるラマンピーク半値幅の分布も作成した。結果を表6に示す。この「ラマンピーク半値幅の分布」の作成では、ラマンピーク半値幅を0.2cm-1刻みの複数の範囲に分割し、各々の範囲に属するラマンスペクトルの頻度(%)を作成した。
【0079】
【表4】
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
まず、表4に示すように、実施例1~3およびのラマンピーク位置の平均値は、比較例1、2よりも低くなっていた。このことから、所定の温度条件の下、酸化雰囲気で熱処理が行われたダイヤモンド砥粒は、適切な内部応力が導入されるため、ラマンピーク位置が低波数側にシフトすることが分かった。この適切な応力導入が微小破砕性向上の一因となっていると予想される。また、加熱温度を1000℃まで昇温した比較例3では、過剰な内部応力が導入されていた。
【0083】
また、表5に示すように、実施例1~3では、ラマンピーク位置が1327cm-1以上1329.8cm-1未満の範囲内にある測定点の数が50測定点%以上であった。このことから、実施例1~3は粉体材料としてみた場合も、全体として適切な内部応力が導入されているといえる。さらに、表6に示すように、実施例1~3では、ラマンピークの半値幅が4.2cm-1未満である測定点の数が50測定点%以上であった。このことから、実施例1~3は粉体材料としてみた場合も、全体として好適な結晶性を有しているといえる。
【0084】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目7に記載の形態を包含する。
【0085】
<項目1>
圧縮破壊点歪が0.3以上0.9以下である、ダイヤモンド砥粒。
【0086】
<項目2>
炭素元素を除くドーパントを含有する、項目1に記載のダイヤモンド砥粒。
【0087】
<項目3>
前記ダイヤモンド砥粒の総重量に対する前記ドーパントの含有量は、0.1wt%以上である、項目2に記載のダイヤモンド砥粒。
【0088】
<項目4>
前記ドーパントの熱膨張率は、前記ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高い、項目2または3に記載のダイヤモンド砥粒。
【0089】
<項目5>
圧縮破壊強度が1.5Gpa以上4.0Gpa以下である、項目1~4のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0090】
<項目6>
圧縮破壊点試験力が6.5N以上20N以下である、項目1~5のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0091】
<項目7>
圧縮破壊点応力が3Gpa以上10Gpa以下である、項目1~6のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0092】
<項目8>
ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークのピーク位置の平均値が1329.5cm-1以下である、項目1~7のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0093】
<項目9>
ラマン分光法に基づいたラマンスペクトルの1325cm-1から1334cm-1の範囲にラマンピーク位置が存在するラマンピークの半値幅の平均値が4.5cm-1以下である、項目1~8のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0094】
<項目10>
SiC加工用工具に用いられる、項目1~9のいずれか一項に記載のダイヤモンド砥粒。
【0095】
<項目11>
複数のダイヤモンド砥粒を含む粉体材料であって、
前記ダイヤモンド砥粒の圧縮破壊点歪の平均値が0.3以上0.8以下である、粉体材料。
【0096】
<項目12>
前記圧縮破壊点歪が0.2以上0.9以下であるダイヤモンド砥粒の個数が50個数%以上である、項目11に記載の粉体材料。
【0097】
<項目13>
200℃以上900℃以下の温度でダイヤモンド砥粒を加熱する熱処理工程を含む、ダイヤモンド砥粒の製造方法。
【0098】
<項目14>
前記熱処理工程における加熱雰囲気が酸化雰囲気である、項目13に記載の製造方法。
【0099】
<項目15>
前記熱処理工程における加熱温度が400℃以上600℃以下である、項目13または14に記載の製造方法。
【0100】
<項目16>
前記ダイヤモンド砥粒は、炭素元素を除くドーパントを含有する、項目13~15のいずれか一項に記載の製造方法。
【0101】
<項目17>
前記ダイヤモンド砥粒の総重量に対する前記ドーパントの含有量は、0.1wt%以上である、項目16に記載の製造方法。
【0102】
<項目18>
前記ドーパントの熱膨張率は、前記ダイヤモンド砥粒の熱膨張率よりも高い、項目16または17に記載の製造方法。

図1