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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139308
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】グラニュラー薄膜
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/032 20060101AFI20241002BHJP
   G01R 15/24 20060101ALI20241002BHJP
   H01F 10/16 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01R33/032
G01R15/24 D
H01F10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050187
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000166948
【氏名又は名称】シチズンファインデバイス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】宮本 光教
(72)【発明者】
【氏名】久保 利哉
(72)【発明者】
【氏名】饗場 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 伸聖
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢司
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 忠義
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【テーマコード(参考)】
2G017
2G025
5E049
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD12
2G017AD15
2G017BA05
2G025AB10
5E049AA01
5E049AA04
5E049BA22
(57)【要約】
【課題】性能指数FOM〔°/Oe・dB〕が高く、電流検出感度が高いグラニュラー薄膜を提供することを目的とする。
【解決手段】グラニュラー薄膜1は、誘電体マトリックスに磁性ナノ粒子が分散されたグラニュラー薄膜1であって、磁性ナノ粒子3は、Co及びFeから構成され、磁性ナノ粒子3に含有されるCoの原子量を磁性ナノ粒子3に含有されるFeの原子量で除した(Co/Fe)原子比は、1.2以上17.0以下であり、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体マトリックスに磁性ナノ粒子が分散されたグラニュラー薄膜であって、
前記磁性ナノ粒子は、Co及びFeから構成され、
前記磁性ナノ粒子に含有されるCoの原子量を前記磁性ナノ粒子に含有されるFeの原子量で除した(Co/Fe)原子比は、1.2以上17.0以下であり、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上であることを特徴とするグラニュラー薄膜。
【請求項2】
前記(Co/Fe)原子比は、3.5以上10.0以下であり、性能指数FOMが1.25×10-4〔°/Oe・dB〕以上である、請求項1に記載のグラニュラー薄膜。
【請求項3】
前記誘電体マトリックスはBaFを含み、
前記グラニュラー薄膜における前記BaFの含有率は、75at%以上90at%以下である、請求項1~2の何れか一項に記載のグラニュラー薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラニュラー薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ファラデー効果とも称され、直線光を磁場に透過させたときに偏光面が回転する磁気光学効果を示す透光性磁性体薄膜が知られている(例えば特許文献1を参照)。特許文献1に記載される磁性体薄膜は、LをFe、Co及びNiから選択される1種以上の元素、MをLi、Be、Mg、Al、Si、Ca、Sr、Ba及びBi、希土類元素から選択される少なくとも1種以上の元素、並びにFを含有する組成を有する。特許文献1に記載される磁性体薄膜では、Mの原子比率が10%以上40%以下で、Fの原子比率が20%以上70%以下で、且つMとFの合計の原子比率が60%以上である。特許文献1に記載される磁性体薄膜は、このような組成を有することで、高い磁化特性及び良好な透光性を有し、且つ近赤外領域で優れた磁気光学特性を示し、種々の光通信デバイスに適用可能となる。
【0003】
また、特許文献2には、FeNi合金、FeCo合金、FeNiCo合金、及びNiCo合金等の磁性体粒子、並びに磁性体粒子と安定的に分離するフッ化物である誘電体を含有するグラニュラー薄膜を磁界センサ素子として使用する磁界センサが記載される。特許文献2に記載される磁界センサ素子は、グラニュラー薄膜を電流検出用の磁界センサ素子として使用することで、磁界センサ素子の小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-98423号公報
【特許文献2】特開2020-126006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2において電流検出用の磁界センサ素子として使用されるグラニュラー薄膜は、単位磁界、単位光透過損失当たりのファラデー回転角で定義される性能指数FOM〔°/Oe・dB〕が十分では無いため、電流検出感度が低いことが課題である。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、性能指数FOMが高く、高感度に電流検出可能なグラニュラー薄膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るグラニュラー薄膜は、誘電体マトリックスに磁性ナノ粒子が分散されたグラニュラー薄膜であって、磁性ナノ粒子は、Co及びFeから構成され、磁性ナノ粒子に含有されるCoの原子量を磁性ナノ粒子に含有されるFeの原子量で除した(Co/Fe)原子比は、1.2以上17.0以下であり、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上である。
【0008】
また、本発明に係るグラニュラー薄膜では、(Co/Fe)原子比は、3.5以上10.0以下であり、性能指数FOMが1.25×10-4〔°/Oe・dB〕以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係るグラニュラー薄膜では、誘電体マトリックスはBaFを含み、
グラニュラー薄膜におけるBaFの含有率は、75at%以上90at%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るグラニュラー薄膜は、性能指数FOMが高く、高感度に電流検出可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るグラニュラー薄膜のTEM画像を示す図である。
図2】(a)は図1に示すグラニュラー薄膜を磁界センサ素子とした磁界センサ装置の斜視図であり、(b)は(a)に示す破線Aで囲まれた部分の拡大断面図である。
図3図2(a)に示す電流演算装置の内部ブロック図である。
図4】実施例5を電流検出用の磁界センサ素子として使用する磁界センサ装置によってパルス電流を測定した結果である。
図5】横軸は実施例1~9及び比較例1~3グラニュラー薄膜の(Co/Fe)原子比と性能指数FOMとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、各図において同一、又は相当する機能を有するものは、同一符号を付し、その説明を省略又は簡潔にすることもある。
【0013】
(実施形態に係るグラニュラー薄膜の概要)
本願発明の発明者等は、Co及びFeから構成される磁性ナノ粒子において、(Co/Fe)原子比を所定の範囲内とすることで、グラニュラー薄膜を電流検出用の磁界センサ素子として使用したときに、性能指数FOMを高くできることを見出した。(Co/Fe)原子比は、磁性ナノ粒子に含有されるCoの原子量を磁性ナノ粒子に含有されるFeの原子量で除した値である。(Co/Fe)原子比は、1.2以上17.0以下であることが好ましく、3.5以上10.0以下であることが更に好ましい。(Co/Fe)原子比を1.2以上17.0以下とすることで、グラニュラー薄膜の性能指数FOMは、1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上となり、電流検出した場合のノイズレベルが10〔A〕以下に低下して、SN比が高い電流検出用の磁界センサ素子を実現できる。また、(Co/Fe)原子比を3.5以上10.0以下とすることで、性能指数FOMは、1.25×10-4〔°/Oe・dB〕以上となり、電流検出した場合のノイズレベルが5〔A〕以下と更に低下して、SN比が更に高い電流検出用の磁界センサ素子を実現できる。
【0014】
(実施形態に係るグラニュラー薄膜の構成)
図1は、実施形態に係るグラニュラー薄膜の透過電子顕微鏡(Transmission Electron Microscopy、TEM)画像を示す図である。
【0015】
グラニュラー薄膜1は、誘電体マトリックス2と、誘電体マトリックス2から安定的に相分離した状態で誘電体マトリックス2中に分散している磁性ナノ粒子3とを有するグラニュラー膜である。
【0016】
誘電体マトリックス2の材料は、フッ化バリウム(BaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化イットリウム(YF)等のフッ化物(金属フッ化物)が好ましく、フッ化バリウム(BaF)が特に好ましい。なお、誘電体マトリックス2の材料は、酸化タンタル(Ta)、二酸化ケイ素(SiO)、二酸化チタン(TiO)、五酸化二ニオビウム(Nb)、二酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化ハフニウム(HfO)、及び三酸化二アルミニウム(Al)等の酸化物であってもよい。誘電体マトリックス2の材料は、誘電体マトリックス2と磁性ナノ粒子3との良好な相分離のためには、酸化物よりもフッ化物の方が好ましい。
【0017】
磁性ナノ粒子3の材料は、強磁性金属である鉄(Fe)及びコバルト(Co)から構成されることが好ましい。なお、磁性ナノ粒子3の材料は、ファラデー効果を生じるものであればよく、FeNi合金、FeCo合金、FeNiCo合金、NiCo合金等のニッケル(Ni)並びに鉄(Fe)、コバルト(Co)及びニッケル(Ni)の合金であってもよい。
【0018】
磁性ナノ粒子に含有されるCoの原子量を磁性ナノ粒子に含有されるFeの原子量で除した(Co/Fe)原子比は、1.2以上17.0以下であることが好ましく、3.5以上10.0以下であることが更に好ましい。
【0019】
(グラニュラー薄膜1の製造方法)
グラニュラー薄膜1は、蒸着装置及びRFスパッタ装置において、誘電体マトリックス2及び磁性ナノ粒子3のそれぞれの原材料をターゲットとして5.0×10-4〔Pa〕以下の真空度中で500〔℃〕に加熱された基板上に成膜される。磁性ナノ粒子3に含有されるCoとFe原子の含有比は、磁性ナノ粒子3を構成するCoおよびFeを含有するターゲットの含有量を調整することで制御される。得られたグラニュラー薄膜1は500℃以上で真空熱処理される。
【0020】
(グラニュラー薄膜1を磁界センサ素子とした磁界センサ装置)
図2(a)はグラニュラー薄膜1を磁界センサ素子とした磁界センサ装置の斜視図であり、図2(b)は図2(a)に示す破線Aで囲まれた部分の拡大断面図である。
【0021】
磁界センサ装置10は、グラニュラー薄膜1と、ミラー素子11と、光ファイバ12と、電流演算装置13とを有し、φが0.5〔mm〕である導線14に流れる直流電流の電流値を検出する。グラニュラー薄膜1は、光ファイバ12の先端に配置され、導線14に電流が流れることで導線14の周囲に発生する磁界に応じて、光ファイバ12を介して入射する光が変調される。
【0022】
ミラー素子11は、グラニュラー薄膜1上に形成されており、グラニュラー薄膜1を透過した光をグラニュラー薄膜1に向けて反射して戻り光を発生する。ミラー素子11は、グラニュラー薄膜1を透過した円偏波光と回転方向が反対の円偏波光をグラニュラー薄膜1に出射する。ミラー素子11としては、例えば、銀(Ag)膜、金(Au)膜、アルミニウム(Al)膜又は誘電体多層膜ミラー等を用いることができる。
【0023】
光ファイバ12は、第1光ファイバ15と、第2光ファイバ16とを有し、グラニュラー薄膜1と電流演算装置13との間を光学的に接続する。第1光ファイバ15及び第2光ファイバ16は、PANDA(Polarization-maintaining AND Absorption-reducing)ファイバであり、入射光及び戻り光の偏波面を保持しながら入射光及び戻り光を伝搬する。第1光ファイバ15は、ビート長Lの4分の1の長さを有し、接続部17において、遅相軸及び進相軸が第2光ファイバ16の遅相軸及び進相軸に対して45度傾くように第2光ファイバ16に接続される。第1光ファイバ15は、第2ファイバから導入された直線偏波光を円偏波光に変換すると共に、グラニュラー薄膜1から導入された円偏光を直線偏光に変換する1/4波長板として機能する。第2光ファイバ16は、第1光ファイバ15と電流演算装置13との間を光学的に接続する。
【0024】
図3は、電流演算装置13の内部ブロック図である。
【0025】
電流演算装置13は、発光部20と、サーキュレータ30と、第1光学素子40と、光路部50と、検出信号発生部60とを有する。発光部20、サーキュレータ30、第1光学素子40、光路部50及び検出信号発生部60の間の光路は、PANDAファイバ80によって形成される。なお、第1光学素子30、光路部40、圧力センサ50及び検出信号発生部60の間の光路は、ボウタイ(Bow-tie)ファイバ及び楕円ジャケット(Elliptical Jacket)ファイバ等の偏波保持型の光ファイバによって形成されてもよい。
【0026】
発光部20は、発光素子21と、アイソレータ22と、偏光子23とを有する。発光素子21は、例えば半導体レーザ又は発光ダイオードである。具体的には、発光素子21として、ファブリペローレーザー、スーパールミネッセンスダイオード等を好ましく用いることができる。
【0027】
アイソレータ22は、発光素子21から入射された光をサーキュレータ30側に透過すると共に、サーキュレータ30から入射された光を発光素子21側に透過しないことで、発光素子21を保護する。アイソレータ22は、例えば偏光依存型光アイソレータであり、偏光無依存型光アイソレータであってもよい。
【0028】
偏光子23は、発光素子21が発した光を直線偏波光にするための光学素子であり、その種類は特に限定されない。偏光子23で得られる第1直線偏波光は、サーキュレータ30を介して第1光学素子40に入射される。
【0029】
サーキュレータ30は、発光部20から出射された第1直線偏波光を第1光学素子40に透過すると共に、第1光学素子40から出射された第2直線偏波光を検出信号発生部60に分岐する光分岐部である。サーキュレータ30は、例えばファラデー回転子、1/2波長板、偏光ビームスプリッタ、及び反射ミラーによって形成される。
【0030】
第1光学素子40は、例えばサーキュレータ30から入射される第1直線偏波光の偏光面に対して方位角が22.5度になるように配置された1/2波長板である。第1光学素子40は、サーキュレータ30から入射される第1直線偏波光の偏光面を45度回転し、光路部50に第1直線偏波光を出射する。第1光学素子40で偏光面が45度回転した第1直線偏波光は、P偏光である第1直線偏光CW1と、第1直線偏光CW1に直交するS偏光である第2直線偏光CCW1とを有する。
【0031】
また、第1光学素子40は、光路部50から入射される直線偏波光である第2直線偏波光の偏光面を45度回転し、サーキュレータ30に出射する。
【0032】
光路部50は、第1ビームスプリッタ51と、第2ビームスプリッタ52と、第1光路53と、第2光路54と、第2光学素子55とを有する。
【0033】
第1ビームスプリッタ51は、第1直線偏光CW1を第1光路43に出射すると共に、第2直線偏光CCW1を第2光路54に出射する。また、第1ビームスプリッタ51は、第3直線偏光CW2が第2光路54から入射されると共に、第4直線偏光CCW2が第1光路53から入射される。第3直線偏光CW2及び第4直線偏光CW2は、第1光学素子40に出射される第2直線偏波光の互いに直交する偏光成分である。
【0034】
第2ビームスプリッタ52は、第1直線偏光CW1が第1光路43から入射されると共に、第2直線偏光CCW1が第2光路44から入射され、入射された第1直線偏光CW1及び第2直線偏光CCW1を第2光ファイバ16に出射する。また、第2ビームスプリッタ52は、第2光ファイバ16から入射された第3直線偏光CW2を第2光路54に出射すると共に、第2光ファイバ16から入射された第4直線偏光CCW2を第1光路53に出射する。
【0035】
第1ビームスプリッタ51及び第2ビームスプリッタ52は、入射光をP偏光成分とS偏光成分とに分離し、且つ、P偏光成分とS偏光成分とを合成し出射する。第1ビームスプリッタ51及び第2ビームスプリッタ52は、例えばプリズム型ビームスプリッタであるが、平面型ビームスプリッタ又はウェッジ型ビームスプリッタであってもよい。
【0036】
第1光路53は、第1ビームスプリッタ51から導入された第1直線偏光CW1を第2ビームスプリッタ52に導出すると共に、第2ビームスプリッタ52から導入された第4直線偏光CCW2を第1ビームスプリッタ51に導出する。第2光路54は、第1ビームスプリッタ51から導入された第2直線偏光CCW2を第2ビームスプリッタ52に導出すると共に、第2ビームスプリッタ52から導入された第3直線偏光CW2を第1ビームスプリッタ51に導出する。
【0037】
第1光路53は、一端が第1ビームスプリッタ51に光学的に接続され且つ他端が第2ビームスプリッタ52に光学的に接続されたPANDAファイバである。第2光路54は、一端が第1ビームスプリッタ51に光学的に接続され且つ他端が第2ビームスプリッタ52に光学的に接続されたPANDAファイバである。なお、第1光路53及び第2光路54は、ボウタイファイバ及び楕円ジャケットファイバ等の偏波保持ファイバであってもよい。第2光路54には、第2光学素子55が配置される。
【0038】
第2光学素子55は、第1(1/4)波長板56と、第2(1/4)波長板57と、45度ファラデー回転子58とを有する。
【0039】
第1(1/4)波長板56は、第2光路54を形成するPANDAファイバの遅相軸及び進相軸に対して光学軸が45度傾斜して配置される1/4波長板である。第1(1/4)波長板56は、直線偏光を円偏光に変換すると共に、円偏光を直線偏光に変換する。
【0040】
第2(1/4)波長板57は、第2光路54を形成するPANDAファイバの遅相軸及び進相軸に対して光学軸が-45度傾斜して配置される1/4波長板である。第2(1/4)波長板57は、45度ファラデー回転子58から円偏光を直線偏光に変換すると共に、直線偏光を円偏光に変換する。
【0041】
45度ファラデー回転子58は、第1(1/4)波長板56及び第2(1/4)波長板57のそれぞれから入射される円偏光の位相を変化させるファラデー回転子である。
【0042】
45度ファラデー回転子58は、第2(1/4)波長板57から出射される第2直線偏光CCW1の位相が第1(1/4)波長板56に入射される直線偏光である第2直線偏光CCW1の位相から45度シフトするように、第1(1/4)波長板46から入射される円偏光の位相を変化させる。また、45度ファラデー回転子58は、第1(1/4)波長板56から出射される第3直線偏光CW2の位相が第2(1/4)波長板57に入射される第3直線偏光CW2の位相から-45度シフトするように、円偏光の位相を変化させる。
【0043】
検出信号発生部60は、第3ビームスプリッタ61と、第1受光素子62と、第2受光素子63と、信号処理回路70とを有し、サーキュレータ30で分岐された第2直線偏波光を受光する。検出信号発生部60は、第2直線偏波光をS偏光成分及びP偏光成分に分離し、S偏光成分及びP偏光成分を受光して電気信号に変換して差動増幅することで、グラニュラー薄膜1に印加される磁界に応じた検出信号Edを出力する。第3ビームスプリッタ61は、プリズム型、平面型、ウェッジ基板型及び光導波路型等の偏光ビームスプリッタ(PBS)であり、サーキュレータ30で分岐された第2直線偏波光をS偏光成分64とP偏光成分65とに分離する。
【0044】
第1受光素子62及び第2受光素子63のそれぞれは、例えばPINフォトダイオードである。第1受光素子62はS偏光成分64を受光し、第2受光素子63はP偏光成分65を受光する。第1受光素子62及び第2受光素子63のそれぞれは、受光した光を光電変換して、受光した光の光量の応じた電気信号を出力する。信号処理回路70は、S偏光成分を示す電気信号及びP偏光成分を示す電気信号を差動増幅することで、グラニュラー薄膜1に印加される磁界に応じた検出信号Edを出力する。
【0045】
(グラニュラー薄膜1の評価方法)
グラニュラー薄膜1は、ファラデー回転角の大きさと、グラニュラー薄膜1を透過する光の損失との比である性能指数FOM(Figure of merit)によって評価される。グラニュラー薄膜1は、膜厚が厚くなるほど、印加される磁界に応じたファラデー回転角は大きくなるが、グラニュラー薄膜1を透過する光の損失も大きくなる。性能指数FOMをファラデー回転角の大きさと、グラニュラー薄膜1を透過する光の損失との比によって定義することで、膜厚に依存せず、磁性ナノ粒子のCo及びFeの含有比率に応じたグラニュラー薄膜1の性能を評価することができる。
【0046】
(グラニュラー薄膜1の性能指数FOMの算出方法)
グラニュラー薄膜1の性能指数FOM〔°/Oe・dB〕は、以下の式(1)で示される。ここで、Mはグラニュラー薄膜1に印加される磁界〔Oe〕であり、θは磁界Mが印加されたときのグラニュラー薄膜1におけるファラデー回転角〔°〕であり、Plossはグラニュラー薄膜1を透過する光の損失〔dB〕である。
【0047】
【数1】
【0048】
グラニュラー薄膜1を透過する光の損失Plossは、以下の式(2)で示される。ここで、Tは、グラニュラー薄膜1を透過する光の透過率である。
【0049】
【数2】
【0050】
(グラニュラー薄膜1のファラデー回転角θの測定方法)
グラニュラー薄膜1のファラデー回転角θは、当該磁界センサ装置を使用し、グラニュラー薄膜1に1〔kOe〕の磁界を印加して測定される。この時、使用する光の波長は1550〔nm〕である。
【0051】
(グラニュラー薄膜1の透過率Tの測定方法)
グラニュラー薄膜1の透過率Tは、分光光度計によって測定される。グラニュラー薄膜1の透過率Tの測定に使用される分光光度計は日立製作所製の分光光度計U4100であり、グラニュラー薄膜1の透過率Tが測定されるときにグラニュラー薄膜1に入射される光の波長は1550〔nm〕である。
【0052】
(グラニュラー薄膜1における(Co/Fe)原子比の測定方法)
グラニュラー薄膜1における(Co/Fe)原子比は、EDX(蛍光X線分析)を用いて定量された各元素量から原子比を計算によって求めた。他にもEPMA(電子プローブマイクロアナライザー)やAES(オージェ電子分光法)、XPS(X線光電分光法)などの一般的表面分析手法によっても同様の測定が可能である。
【0053】
(グラニュラー薄膜1におけるMgFの含有率の測定方法)
グラニュラー薄膜1におけるMgFの含有率についても、前述したものと同様の方法で計算した。
【0054】
(グラニュラー薄膜1の評価)
磁性ナノ粒子3の主成分をCo及びFeとし、誘電体マトリックス2の主成分をBaFとしたグラニュラー薄膜を複数製造し、磁性ナノ粒子の(Co/Fe)原子比、及びBaFの含有率を変化させたときのFOMを評価した。
【0055】
製造するグラニュラー薄膜では、磁性ナノ粒子の(Co/Fe)原子比が、0.7、1.2、3.5、5.0、5.5、6.0、8.5、10.0、15.0、17.0、18.0及び21.0となるように、Co及びFeの含有量を調整した。併せて、BaFの含有率が75〔at%〕以上90〔at%〕以下となるようにCo及びBaFの含有量を調整した。製造された複数のグラニュラー薄膜について、前述した「グラニュラー薄膜1のファラデー回転角θの測定方法」及び「グラニュラー薄膜1の透過率Tの測定方法」によって測定されたに基づいてファラデー回転角θ及び透過率Tを測定した。測定されたファラデー回転角θ及び透過率Tを使用して、前述した式(1)に基づいてグラニュラー薄膜のそれぞれの性能指数FOMを算出した。
【0056】
表1は、製造した12種類のグラニュラー薄膜について、グラニュラー薄膜の組成、磁性ナノ粒子の組成(Co/Fe)原子比、BaFの含有率〔at%〕及び性能指数FOM〔°/Oe・dB〕を示す表である。
【0057】
なお、表1では、製造した12種類のグラニュラー薄膜について、性能指数FOM〔°/Oe・dB〕を評価した。前述した様に、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上である場合、ノイズレベルが10〔A〕以下に低下すると考えられることから「〇」と記入した。また、性能指数FOMが1.25×10-4〔°/Oe・dB〕以上である場合、ノイズレベルが5〔A〕以下に低下すると考えられることから「◎」と記入した。なお、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕未満である場合、ノイズレベルが高くなりSN比が高い電流検出用の磁界センサ素子が実現されないおそれがあるため、「×」と記入した。
【0058】
表1では、「FOM」に「〇」及び「◎」が記入されるグラニュラー薄膜を実施例1~9とし、「FOM」に「×」が記入されるグラニュラー薄膜を比較例1~3とした。
【0059】
ここで、本発明の組成範囲で性能指数FOMが向上する理由を説明する。一般的にファラデー回転角の大きさは磁性膜の飽和磁化の大きさに比例する。従ってCo/Fe比が1付近において飽和磁化が最大となり、ファラデー回転角が最大化する。しかし、Feの含有量が増加すると光の透過損失も大きくなるため、結果的に性能指数FOMは低下する。逆に、Feの含有量が極端に少なくCoが主体とした場合、飽和磁化が小さくファラデー回転角が小さくなるため、性能指数FOMは低下する。一方、FeCo合金は磁歪(外部磁界を印加して磁性体を磁化させると、形状が変化する現象)の性質があり、Co/Fe比が4以上になると磁歪が大幅に減少し、Co/Fe比が15付近でゼロ磁歪になることが知られている。特に高温で処理された場合、Co/Fe比が4~15の範囲で磁歪が小さくなる。磁歪が小さくなるCo/Fe比の範囲と本発明の性能指数FOMが上昇するCo/Fe比の範囲が概ね合致していることから、磁歪を抑制することが性能指数FOMの向上に寄与しているものと考えられる。
【0060】
【表1】
【0061】
図4は、実施例5を電流検出用の磁界センサ素子として使用する磁界センサ装置10によって測定される電流Iの経時変化を示す図である。図4において、横軸は時間を示し、縦軸は電流値を示し、波形W101は、導線14に流れる電流の測定結果である。
【0062】
磁界センサ装置10は、導線14に流れる電流を0〔A〕から100〔A〕に遷移させたときの電流値を検出する。導線14に流れる電流にグラニュラー薄膜1を介して重畳されるノイズは、導線14に流れる電流が0〔A〕である-2〔μs〕から0〔μs〕の間に検出された電流値の3σの値として算出された。
【0063】
実施例5を電流検出用の磁界センサ素子として使用する磁界センサ装置10によって測定される電流Iにおいて、ノイズは3.68Aであり、SN比が高い電流検出用の磁界センサ素子が実現されることが確認された。
【0064】
図5は、実施例1~9及び比較例1~3に示すグラニュラー薄膜の(Co/Fe)原子比と性能指数FOMとの関係を示す図である。図5において、横軸は実施例1~9及び比較例1~3の(Co/Fe)原子比を示し、縦軸はグラニュラー薄膜の性能指数FOM〔°/Oe・dB〕を示す。図5において、実施例1~9は符号P1~P9で示され、比較例1~3は符号P1~P3で示される。
【0065】
表1及び図5に示すように、実施例1~9のそれぞれは、性能指数FOMが1.00×10-4〔°/Oe・dB〕以上であり、ノイズレベルが10〔A〕以下であるSN比が高い電流検出用の磁界センサ素子を実現することができる。また、実施例2~7のそれぞれは、性能指数FOMが1.25×10-4〔°/Oe・dB〕以上であり、ノイズレベルが5〔A〕以下であるSN比が更に高い電流検出用の磁界センサ素子を実現することができる。一方、比較例1~3のそれぞれは、1.00×10-4〔°/Oe・dB〕未満であり、ノイズレベルが10〔A〕以上となり、SN比が高い電流検出用の磁界センサ素子を実現することができない。
【符号の説明】
【0066】
1 グラニュラー薄膜
2 誘電体マトリックス
3 磁性ナノ粒子
10 磁界センサ装置
図1
図2
図3
図4
図5