(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139315
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】触媒層及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241002BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20241002BHJP
H01M 8/1051 20160101ALI20241002BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M8/1051
H01M4/86 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050198
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】津坂 恭子
(72)【発明者】
【氏名】北野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】星川 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 数馬
(72)【発明者】
【氏名】川角 明人
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB08
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE11
5H018EE12
5H018HH01
5H018HH05
5H126AA05
5H126BB06
5H126GG11
(57)【要約】
【課題】ヒドロキシラジカルによる劣化を抑制することが可能な触媒層、及び、このような触媒層を備えた固体高分子形燃料電池を提供すること。
【解決手段】触媒層は、固体高分子電解質と、前記固体高分子電解質内に分散している電極触媒と、前記固体高分子電解質内に分散しているタングステン酸化物とを備えている。前記タングステン酸化物は、WO
x・nH
2O(2≦x≦3、0≦n<3、x及びnはそれぞれ非整数を含む)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含む。さらに、触媒層は、0.0001<W'/A≦5.0を満たす。但し、W'/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記タングステン酸化物に含まれるタングステンのモル数(W')の比。固体高分子形燃料電池は、このような触媒層をアノード触媒層及び/又はカソード触媒層として用いたものからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している電極触媒と、
前記固体高分子電解質内に分散しているタングステン酸化物と
を備え、
前記タングステン酸化物は、WOx・nH2O(2≦x≦3、0≦n<3、x及びnはそれぞれ非整数を含む)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
次の式(1)を満たす触媒層。
0.0001<W'/A≦5.0 …(1)
但し、W'/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記タングステン酸化物に含まれるタングステンのモル数(W')の比。
【請求項2】
前記タングステン酸化物の含有量が0.1μg/cm2以上50.0μg/cm2以下である請求項1に記載の触媒層。
【請求項3】
前記タングステン酸化物は、平均一次粒子径が10nm以上500nm以下である請求項1に記載の触媒層。
【請求項4】
(a)前記固体高分子電解質内に分散している、金属元素を含む化合物(タングステン酸化物を除く)、
(b)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している前記金属元素のイオン、及び/又は、
(c)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している前記金属元素を含むイオン
をさらに備えている請求項1に記載の触媒層。
【請求項5】
次の式(2)を満たす請求項4に記載の触媒層。
0.0005≦M/A≦0.15 …(2)
但し、M/Aは、前記酸基のモル数(A)に対する、前記金属元素のモル数(M)の比。
【請求項6】
固体高分子電解質Bを含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層の外側に配置されたアノードガス拡散層と、
前記カソード触媒層の外側に配置されたカソードガス拡散層と
を備え、
前記アノード触媒層及び/又は前記カソード触媒層は、請求項1に記載の触媒層からなる固体高分子形燃料電池。
【請求項7】
(a)前記電解質膜に添加されたCeイオン、
(b)前記電解質膜に添加されたCe化合物A、
(c)前記アノードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物B、及び、
(d)前記カソードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物C
からなる群から選ばれるいずれか1以上をさらに含む請求項6に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項8】
前記アノード触媒層は、請求項1に記載の触媒層からなり、
前記Ceイオン、前記Ce化合物A、及び、前記Ce化合物Bからなる群から選ばれるいずれか1以上を含む請求項7に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項9】
前記カソード触媒層は、請求項1に記載の触媒層からなり、
前記Ceイオン、前記Ce化合物A、及び、前記Ce化合物Cからなる群から選ばれるいずれか1以上を含む請求項7に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項10】
前記電解質膜は、前記Ceイオン及び/又は前記Ce化合物Aを含み、
前記固体高分子電解質Bの酸基のモル数(S)に対する、Ceのモル数(C)の比(=C/S)が0.0005以上0.15以下である
請求項7に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項11】
前記アノードガス拡散層の撥水層は、前記Ce化合物Bを含み、
前記Ce化合物Bの含有量が0.1μg/cm2以上100.0μg/cm2以下である
請求項7に記載の固体高分子形燃料電池。
【請求項12】
前記カソードガス拡散層の撥水層は、前記Ce化合物Cを含み、
前記Ce化合物Cの含有量が0.1μg/cm2以上100.0μg/cm2以下である
請求項7に記載の固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層及び固体高分子形燃料電池に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質の劣化を抑制する作用がある添加物を含む触媒層及びこれを用いた固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ソーダ電解装置、水電解装置、燃料電池などにおいて、電気化学反応を生じさせる部位に膜電極接合体(MEA)が用いられている。MEAは、酸素と水素の直接反応若しくは電気化学反応によって直接的に生成するラジカル、又は、過酸化水素を経て生成するラジカルにより、電解質が攻撃され劣化すると言われている。
例えば、燃料電池においては、ラジカル攻撃により電解質膜の抵抗増加、クロスリークの増加、薄膜化による短寿命化などが起こることが知られている。さらには、ラジカル攻撃により生成する劣化生成物により触媒被毒が起こり、電解性能や電池性能が低下するおそれがある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)ナフィオン(登録商標)中のスルホン酸基のモル数に対して0.25倍モルのH2WO4、及び、0.05倍モルのCe(NO3)3を添加した触媒インク、又は、
(b)ナフィオン(登録商標)中のスルホン酸基のモル数に対して0.25倍モルのH2WO4、及び、0.05倍モルのMn(NO3)3を添加した触媒インク
を用いて作製されたMEAが開示されている。
同文献には、劣化抑制剤(H2WO4、Ce(NO3)3、Mn(NO3)3)を含む触媒インクを用いて作製されたMEAは、劣化抑制剤を含まない触媒インクを用いて作製されたMEAに比べて、固体高分子電解質の分子量維持率が高い点が記載されている。
【0004】
特許文献2には、パーフルオロスルホン酸樹脂と、一次粒子径が10nmであるジルコニアとを含み、ジルコニアの質量(B)に対するパーフルオロスルホン酸樹脂の質量(A)の比(=A/B比)が99/1である高分子電解質膜が開示されている。
同文献には、
(A)パーフルオロスルホン酸樹脂に過酸化水素を接触分解するジルコニアを添加する場合において、ジルコニアの一次粒子径を1nm~50nmに調整すると、ジルコニアの比表面積が増加し、過酸化水素分解反応点が飛躍に増加する点、及び
(B)これによって、高分子電解質膜の劣化が抑制される点
が記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、
(a)ナフィオン(登録商標)からなる電解質膜を0.1Mのタングステン酸ナトリウム水溶液に90℃で30分間浸漬し、
(b)次いで、電解質膜を水溶液から取り出して水洗し、
(c)さらに、電解質膜を0.5Mの硫酸に90℃で30分間浸漬する
ことにより得られる遷移金属酸化物含有固体高分子電解質膜が開示されている。
同文献には、
(A)このような方法により、2wt%の酸化タングステン水和物を含む遷移金属酸化物含有固体高分子電解質膜が得られる点、及び、
(B)酸化タングステン水和物を含む電解質膜は、酸化タングステン水和物を含まない電解質膜に比べて、フッ素溶出速度が小さくなる点
が記載されている。
【0006】
特許文献1~3に記載されているように、固体高分子電解質にある種の劣化抑制剤を添加すると、固体高分子電解質の耐久性が向上する。一般に、劣化抑制剤の添加量が多くなるほど、固体高分子電解質の耐久性が向上する。
しかしながら、固体高分子電解質に固体の劣化抑制剤を添加する場合において、劣化抑制剤の種類、平均粒径、及び/又は、添加量が不適切であると、十分な劣化抑制効果が得られない場合がある。これは、劣化抑制剤の酸化や凝集に起因すると考えられる。
【0007】
また、電解質膜の劣化を抑制するには、劣化を促進するヒドロキシラジカルを消去する作用があるCeイオンの添加が有効と言われている。しかしながら、Ceイオンのみを添加する方法は、燃料電池の作動中にCeイオンが電解質膜内を移動し、Ceイオンが偏在するために、十分な劣化抑制効果が得られなくなる場合があった。
さらに、特許文献1では、難溶性のW化合物を劣化抑制剤として用いているが、W以外の遷移金属の塩の添加を必須要件としている。また、W以外の遷移金属の塩を添加しない場合であっても十分な劣化抑制効果を得るのに必要な条件は、明確にされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5194448号公報
【特許文献2】特許第5354935号公報
【特許文献3】特許第4326271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、ヒドロキシラジカルによる劣化を抑制することが可能な触媒層を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、このような触媒層を備えた固体高分子形燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る触媒層は、
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している電極触媒と、
前記固体高分子電解質内に分散しているタングステン酸化物と
を備え、
前記タングステン酸化物は、WOx・nH2O(2≦x≦3、0≦n<3、x及びnはそれぞれ非整数を含む)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
次の式(1)を満たす。
0.0001<W'/A≦5.0 …(1)
但し、W'/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記タングステン酸化物に含まれるタングステンのモル数(W')の比。
【0011】
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、
固体高分子電解質Bを含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層の外側に配置されたアノードガス拡散層と、
前記カソード触媒層の外側に配置されたカソードガス拡散層と
を備え、
前記アノード触媒層及び/又は前記カソード触媒層は、本発明に係る触媒層からなる。
【発明の効果】
【0012】
電解質膜にタングステン酸化物を添加する場合において、タングステン酸化物の添加量が相対的に過剰であるとき(すなわち、W'/Aが大きいとき)には、電解質膜の劣化がかえって促進される場合があった。これは、
(a)電解質膜内においてタングステン酸化物が凝集し、タングステン酸化物の濃度が低い領域において劣化が進行したため、あるいは、
(b)タングステン酸化物の凝集によって電解質膜の膨潤が不均一となり、電解質膜が割れやすくなったため
と考えられる。
【0013】
これに対し、触媒層にタングステン酸化物を添加する場合、触媒層内のW'/Aが電解質膜内のそれに比べて大きいときでも、触媒層の劣化が抑制される。これは、触媒層内に含まれる電極触媒によってタングステン酸化物の凝集が抑制され、タングステン酸化物の添加量が相対的に多い場合であっても、タングステン酸化物が触媒層内に均一に分散しやすいためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】W'/Aと規格化総F
-溶出量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 触媒層]
本発明に係る触媒層は、以下の構成を備えている。
【0016】
[構成1]
固体高分子電解質と、
前記固体高分子電解質内に分散している電極触媒と、
前記固体高分子電解質内に分散しているタングステン酸化物と
を備え、
前記タングステン酸化物は、WOx・nH2O(2≦x≦3、0≦n<3、x及びnはそれぞれ非整数を含む)からなる群から選ばれるいずれか1以上を含み、
次の式(1)を満たす触媒層。
0.0001<W'/A≦5.0 …(1)
但し、W'/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記タングステン酸化物に含まれるタングステンのモル数(W')の比。
【0017】
[構成2]
前記タングステン酸化物の含有量が0.1μg/cm2以上50.0μg/cm2以下である構成1に記載の触媒層。
【0018】
[構成3]
前記タングステン酸化物は、平均一次粒子径が10nm以上500nm以下である構成1又は2に記載の触媒層。
【0019】
[構成4]
(a)前記固体高分子電解質内に分散している、金属元素を含む化合物(タングステン酸化物を除く)、
(b)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している前記金属元素のイオン、及び/又は、
(c)前記固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している前記金属元素を含むイオン
をさらに備えている構成1から3のいずれか1つに記載の触媒層。
【0020】
[構成5]
次の式(2)を満たす構成4に記載の触媒層。
0.0005≦M/A≦0.15 …(2)
但し、M/Aは、前記酸基のモル数(A)に対する、前記金属元素のモル数(M)の比。
【0021】
[1.1. 固体高分子電解質]
触媒層は、固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)を含む。本発明において、固体高分子電解質の材料は、特に限定されない。固体高分子電解質は、フッ素系電解質又は炭化水素系電解質のいずれであっても良い。触媒層は、これらのいずれか1種の固体高分子電解質を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
また、固体高分子電解質の酸基の種類についても、特に限定されない。酸基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、スルホンイミド基等がある。固体高分子電解質は、これらの酸基のいずれか1種類のみを含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
【0022】
フッ素系電解質としては、例えば、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などがある。
フッ素系電解質は、高分子の構造内にC-H結合を含まない全フッ素系電解質の他に、高分子の構造内にC-H結合とC-F結合とを含む部分フッ素系電解質も含まれる。
【0023】
炭化水素系電解質としては、例えば、
(a)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(b)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0024】
[1.2. 電極触媒]
触媒層は、電極触媒を含む。電極触媒は、触媒粒子のみからなるものでも良く、あるいは、担体表面に触媒粒子が担持されているものでも良い。
【0025】
[1.2.1. 触媒粒子]
[A. 材料]
本発明において、触媒粒子の材料は、特に限定されない。触媒粒子の材料としては、
(a)貴金属(Pt、Au、Ag、Pd、Rh、Ir、Ru、Os)、
(b)2種以上の貴金属元素を含む合金、
(c)1種又は2種以上の貴金属元素と、1種又は2種以上の卑金属元素(例えば、Fe、Co、Ni、Cr、V、Tiなど)とを含む合金、
などがある。
【0026】
これらの中でも、触媒粒子は、Pt又はPt合金が好ましい。これは、燃料電池の電極反応に対して高い活性を有するためである。
Pt合金としては、例えば、Pt-Fe合金、Pt-Co合金、Pt-Ni合金、Pt-Pd合金、Pt-Cr合金、Pt-V合金、Pt-Ti合金、Pt-Ru合金、Pt-Ir合金などがある。
【0027】
[B. 粒径]
触媒粒子の粒径は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な粒径を選択することができる。一般に、触媒粒子の粒径が小さすぎると、触媒粒子が溶解しやすくなる。従って、触媒粒子の粒径は、1nm以上が好ましい。
一方、触媒粒子の粒径が大きくなりすぎると、質量活性が低下する。従って、触媒粒子の粒径は、20nm以下が好ましい。触媒粒子の粒径は、好ましくは、10nm以下、さらに好ましくは、5nm以下である。
【0028】
[1.2.2. 担体]
[A. 材料]
触媒粒子は、そのままの状態で各種用途に用いても良く、あるいは、担体表面に担持された状態で用いても良い。触媒粒子を担体表面に担持させると、微細な触媒粒子を安定して分散させることができるので、触媒使用量を低減することができる。
担体の材料は、特に限定されないが、カーボン担体が好ましい。カーボン担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、活性炭、天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、ガラス状炭素粉末などがある。
【0029】
[B. 触媒担持量]
触媒粒子が担体表面に担持されている場合、触媒担持量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な担持量を選択することができる。一般に、触媒担持量が少なすぎると、十分な活性が得られない。一方、触媒担持量を必要以上に多くしても、効果に差がなく、実益がない。
例えば、カーボン担体表面にPt又はPt合金からなる触媒粒子を担持させる場合、触媒担持量は、5wt%~70wt%が好ましい。
【0030】
[1.2.3. 電極触媒の含有量]
触媒層に含まれる電極触媒の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な含有量を選択することができる。
例えば、電極触媒がカーボン担体表面に触媒粒子が担持されたものである場合、カーボン担体の質量(C)に対する固体高分子電解質(I)の比(=I/C)は、0.5~1.5が好ましい。
【0031】
[1.3. タングステン酸化物]
[1.3.1. 材料]
触媒層は、タングステン酸化物を含む。本発明において、「タングステン酸化物」とは、WOx・nH2O(2≦x≦3、0≦n<3、x及びnはそれぞれ非整数を含む)をいう。触媒層は、これらのいずれか1種のタングステン酸化物を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
タングステン酸化物は、主として、過酸化水素を分解して無害化する作用がある。そのため、触媒層に適量のタングステン酸化物を添加すると、触媒層又はこれに隣接する電解質膜に含まれる固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
【0032】
[1.3.2. W'/A]
本発明に係る触媒層は、次の式(1)を満たす。
0.0001<W'/A≦5.0 …(1)
但し、W'/Aは、前記固体高分子電解質に含まれる酸基のモル数(A)に対する、前記タングステン酸化物に含まれるタングステンのモル数(W')の比。
【0033】
式(1)は、W'/A比の範囲を表す。W'/A比が小さくなりすぎると、固体高分子電解質の劣化を抑制する効果が小さくなる。従って、W'/A比は、0.0001以上である必要がある。W'/A比は、好ましくは、0.001以上、0.01以上、0.10以上、あるいは、0.25超である。
【0034】
触媒層内にタングステン酸化物を添加する場合、電解質膜にタングステン酸化物を添加する場合と異なり、添加量が相対的に多い場合であっても、相対的に高い劣化抑制効果が得られる。しかしながら、タングステン酸化物の添加量を必要以上に多くすると、触媒層内の物質移動が阻害される場合がある。従って、W'/Aは、5.0以下である必要がある。W'/Aは、好ましくは、4.0以下、3.0以下、あるいは、2.0以下である。
【0035】
[1.3.3. 平均一次粒子径]
「平均一次粒子径」とは、顕微鏡観察下において無作為に選択された100個以上の一次粒子について測定された、一次粒子径の平均値をいう。
「一次粒子径」とは、一次粒子の長さが最大となる方向の長さ(長径)をいう。
【0036】
一般に、タングステン酸化物の平均一次粒子径が小さくなるほど、少量の添加で、高い過酸化水素分解効果が得られる。しかしながら、タングステン酸化物の平均一次粒子径が小さくなりすぎると、電解質によって触媒層内が酸性雰囲気となっているために、タングステン酸化物が溶解しやすくなる。従って、タングステン酸化物の平均一次粒子径は、10nm以上が好ましい。平均一次粒子径は、さらに好ましくは、20nm以上、50nm以上、70nm以上、100nm以上、あるいは、150nm以上である。
【0037】
一方、タングステン酸化物の平均一次粒子径が大きくなりすぎると、触媒層内での物質移動が阻害される場合がある。従って、タングステン酸化物の平均一次粒子径は、500nm以下が好ましい。平均一次粒子径は、さらに好ましくは、400nm以下、300nm以下、あるいは、200nm以下である。
【0038】
[1.3.4. タングステン酸化物の含有量]
「タングステン酸化物の含有量(μg/cm2)」とは、触媒層1cm2当たりのタングステン酸化物の質量をいう。
【0039】
一般に、タングステン酸化物の含有量が多くなるほど、触媒層又はこれに隣接する電解質膜に含まれる固体高分子電解質の劣化が抑制される。このような効果を得るためには、タングステン酸化物の含有量は、0.1μg/cm2以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.5μg/cm2以上、1.0μg/cm2以上、5.0μg/cm2以上、あるいは、10.0μg/cm2以上である。
一方、タングステン酸化物の含有量を必要以上に多くすると、触媒層内の物質移動が阻害される場合がある。従って、タングステン酸化物の含有量は、50.0μg/cm2以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、40.0μg/cm2以下、あるいは、30.0μg/cm2以下である。
【0040】
[1.4. 金属元素を含む化合物又はイオン]
[1.4.1. 材料]
触媒層は、固体高分子電解質、電極触媒、及び、タングステン酸化物のみからなるものでも良く、あるいは、これらに加えて、金属元素を含む化合物又はイオンをさらに含むものでも良い。
【0041】
ここで、「金属元素を含む化合物又はイオン」とは、
(a)固体高分子電解質内に分散している、金属元素を含む化合物(タングステン酸化物を除く)、
(b)固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している金属元素のイオン、又は、
(c)固体高分子電解質に含まれる酸基のプロトンとイオン交換している金属元素を含むイオン
をいう。
【0042】
「金属元素のイオン」とは、金属元素のみからなるイオンをいう。
「金属元素を含むイオン」とは、金属元素と、非金属元素とを含むイオンをいう。金属元素を含むイオンとしては、例えば、Ce(CH3COO)3
+、Ce(CF3COCOOCH3)3
+、WO2
2+、WO2(OH)+などがある。
【0043】
ある種の金属元素を含む化合物及びイオンは、主として、ラジカルを消去する作用がある。そのため、触媒層に適量の金属元素を含む化合物(以下、「金属化合物」ともいう)、金属元素のイオン、及び/又は、金属元素を含むイオンを添加すると、固体高分子電解質の劣化を抑制することができる。
触媒層には、これらのいずれか1種の化合物又はイオンが含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
【0044】
金属元素としては、例えば、Ce、Ag、W、Cs、Sn、Mn、Ti、Co、Ni、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、Pt、Prなどがある。触媒層は、これらのいずれか1種の金属元素を含むものでも良く、あるいは、2種以上を含むものでも良い。
金属元素は、特に、Ce、Ag、Cs、Sn、Mn、及びWからなる群から選ばれるいずれか1以上の元素が好ましい。これは、これらはいずれもラジカルの生成を抑制する作用、又は、ラジカルを消去する作用が大きいためである。
【0045】
金属化合物は、水溶性の化合物であっても良く、あるいは、難溶性の化合物であっても良い。水溶性の金属化合物を用いた場合、触媒層内において金属化合物が解離し、固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部が金属元素のイオン、又は、金属元素を含むイオンに置換される。一方、難溶性の金属化合物を用いた場合、金属化合物は、触媒層内に分散した状態となる。
金属化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、酸化物、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、塩化物、フッ化物、水酸化物、アセチルアセトネート化合物などがある。
【0046】
[1.4.2. M/A]
触媒層は、次の式(2)を満たすものが好ましい。
0.0005≦M/A≦0.15 …(2)
但し、M/Aは、前記酸基のモル数(A)に対する、前記金属元素のモル数(M)の比。
【0047】
触媒層にタングステン酸化物のみを添加した場合であっても、固体高分子電解質の劣化を効果的に抑制することができる。しかしながら、タングステン酸化物に加えて、触媒層にある種の金属化合物、金属元素のイオン、及び/又は、金属元素を含むイオンをさらに添加すると、これらの相乗効果により、固体高分子電解質の劣化がさらに抑制される。このような効果を得るためには、M/A比は、0.0005以上が好ましい。M/A比は、さらに好ましくは、0.001以上、さらに好ましくは、0.005以上である。
【0048】
一方、M/A比が大きくなりすぎると、固体高分子電解質の伝導度が低下する場合がある。従って、M/A比は、0.15以下が好ましい。M/A比は、さらに好ましくは、0.10以下、さらに好ましくは、0.05以下、さらに好ましくは、0.04以下、さらに好ましくは、0.03以下である。
【0049】
[2. 触媒層の製造方法]
本発明に係る触媒層は、
(a)固体高分子電解質、電極触媒、及び、タングステン酸化物、並びに、必要に応じて金属化合物、金属元素のイオン、及び/又は、金属元素を含む触媒インクを調製し、
(b)触媒インクを適当な基板表面に塗工し、溶媒を除去する
ことにより製造することができる。
あるいは、電解質膜の表面に触媒インクを塗布や又はスプレーし、溶媒を除去することにより触媒層を形成しても良い。
【0050】
[3. 固体高分子形燃料電池]
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、以下の構成を備えている。
【0051】
[構成6]
固体高分子電解質Bを含む電解質膜と、
前記電解質膜の一方の面に接合されたアノード触媒層と、
前記電解質膜の他方の面に接合されたカソード触媒層と、
前記アノード触媒層の外側に配置されたアノードガス拡散層と、
前記カソード触媒層の外側に配置されたカソードガス拡散層と
を備え、
前記アノード触媒層及び/又は前記カソード触媒層は、構成1から5までのいずれか1つに記載の触媒層からなる固体高分子形燃料電池。
【0052】
[構成7」
(a)前記電解質膜に添加されたCeイオン、
(b)前記電解質膜に添加されたCe化合物A、
(c)前記アノードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物B、及び、
(d)前記カソードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物C
からなる群から選ばれるいずれか1以上をさらに含む構成6に記載の固体高分子形燃料電池。
【0053】
[構成8]
前記アノード触媒層は、構成1から5までのいずれか1つに記載の触媒層からなり、
前記Ceイオン、前記Ce化合物A、及び、前記Ce化合物Bからなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成7に記載の固体高分子形燃料電池。
【0054】
[構成9]
前記カソード触媒層は、構成1から5までのいずれか1つに記載の触媒層からなり、
前記Ceイオン、前記Ce化合物A、及び、前記Ce化合物Cからなる群から選ばれるいずれか1以上を含む構成7又は8に記載の固体高分子形燃料電池。
【0055】
[構成10]
前記電解質膜は、前記Ceイオン及び/又は前記Ce化合物Aを含み、
前記固体高分子電解質Bの酸基のモル数(S)に対する、Ceのモル数(C)の比(=C/S)が0.0005以上0.15以下である
構成7から9までのいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【0056】
[構成11]
前記アノードガス拡散層の撥水層は、前記Ce化合物Bを含み、
前記Ce化合物Bの含有量が0.1μg/cm2以上100.0μg/cm2以下である
構成7から10までのいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【0057】
[構成12]
前記カソードガス拡散層の撥水層は、前記Ce化合物Cを含み、
前記Ce化合物Cの含有量が0.1μg/cm2以上100.0μg/cm2以下である
構成7から11までのいずれか1つに記載の固体高分子形燃料電池。
【0058】
[3.1. 電解質膜]
電解質膜は、固体高分子電解質Bを含む。本発明において、電解質膜に含まれる固体高分子電解質Bの種類は、特に限定されない。
固体高分子電解質Bとしては、例えば、
(a)ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)、アシプレックス(登録商標)などのフッ素系電解質、
(b)スルホン酸基などの酸基が導入されたポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリアミド、ポリアミドイミド、又は、これらの誘導体からなる全芳香族炭化水素系電解質、
(c)脂肪族炭化水素系電解質の高分子鎖の一部に芳香環を有する部分芳香族炭化水素系電解質、
などがある。
【0059】
電解質膜は、固体高分子電解質Bのみを含むものでも良く、あるいは、固体高分子電解質Bと補強材との複合体であっても良い。
補強材としては、例えば、
(a)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)などのフッ素系樹脂の多孔膜や不織布、
(b)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などの炭化水素系樹脂の多孔膜や不織布、
などがある。
【0060】
[3.2. アノード触媒層、カソード触媒層]
電解質膜の一方の面には、アノード触媒層が接合されている。電解質膜の他方の面には、カソード触媒層が接合されている。本発明において、アノード触媒層又はカソード触媒層の少なくとも一方は、本発明に係る触媒層からなる。アノード触媒層又はカソード触媒層の一方のみが本発明に係る触媒層である場合、他方の触媒層の構成は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。本発明に係る触媒層の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0061】
[3.3. アノードガス拡散層、カソードガス拡散層]
MEAの両面には、アノードガス拡散層及びカソードガス拡散層が配置される。本発明において、ガス拡散層の構造は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な構造を選択することができる。
ガス拡散層は、通常、カーボンペーパー等からなる基材と、基材の表面に形成された撥水層(マイクロポーラス層)とを備えている。撥水層は、通常、カーボン等の導電性粒子と、ポリテトラフルオロエチレン等の撥水性樹脂との複合体からなる。
【0062】
[3.4. Ceイオン、Ce化合物A~C]
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、触媒層に含まれるタングステン化合物に加えて、
(a)前記電解質膜に添加されたCeイオン、
(b)前記電解質膜に添加されたCe化合物A、
(c)前記アノードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物B、及び、
(d)前記カソードガス拡散層の撥水層に添加されたCe化合物C
からなる群から選ばれるいずれか1以上をさらに含む。
【0063】
[3.4.1. Ce化合物の組成]
Ceイオン及びCe化合物は、いずれも、・OHラジカルを消去する作用がある。そのため、これらを電解質膜及び/又は撥水層に添加すると、触媒層に含まれるタングステン化合物により分解しきれなかった過酸化水素から・OHラジカルが発生した場合であっても、Ceイオン又はCe化合物により・OHラジカルを消去することができる。
【0064】
Ce化合物は、水溶性の化合物であっても良く、あるいは、難溶性の化合物であっても良い。水溶性のCe化合物を用いた場合、Ce化合物が解離し、固体高分子電解質の酸基のプロトンの一部がCeイオンに置換される。一方、難溶性のCe化合物を用いた場合、Ce化合物は、電解質膜内又は撥水層内に分散した状態となり、Ce化合物から徐々にCeイオンが溶出する。
Ce化合物としては、例えば、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、塩化物、フッ化物、酸化物、水酸化物、アセチルアセトネート化合物、セリウムアルコキシドなどがある。
【0065】
電解質膜にCe化合物Aを添加する場合、電解質膜には、1種類のCe化合物Aが含まれていても良く、あるいは、2種以上のCe化合物Aが含まれていても良い。
同様に、アノードガス拡散層の撥水層にCe化合物Bを添加する場合、撥水層には、1種類のCe化合物Bが含まれていても良く、あるいは、2種以上のCe化合物Bが含まれていても良い。
同様に、カソードガス拡散層の撥水層にCe化合物Cを添加する場合、撥水層には、1種類のCe化合物Cが含まれていても良く、あるいは、2種以上のCe化合物Cが含まれていても良い。
さらに、固体高分子形燃料電池がCe化合物A~Cのいずれか2以上を含む場合、これらは同一組成の化合物であっても良く、あるいは、異なる組成の化合物であっても良い。
【0066】
[3.4.2. Ceイオン及びCe化合物A~Cが添加される部材]
Ceイオン及びCe化合物が添加される部材は、特に限定されないが、電解質膜及び/又はガス拡散層の撥水層が好ましい。
例えば、アノード触媒層にタングステン化合物を添加した場合、
(a)電解質膜にCeイオンを添加し、
(b)電解質膜にCe化合物Aを添加し、及び/又は、
(c)アノードガス拡散層の撥水層にCe化合物Bを添加する
のが好ましい。
あるいは、カソード触媒層にタングステン化合物を添加した場合、
(a)電解質膜にCeイオンを添加し、
(b)電解質膜にCe化合物Aを添加し、及び/又は、
(c)カソードガス拡散層の撥水層にCe化合物Cを添加する
のが好ましい。
【0067】
タングステン化合物が添加される部材とは異なる部材にCeイオン又はCe化合物A~Cを添加すると、両者を同一部材(例えば、電解質膜)に添加した場合に比べて、固体高分子電解質の劣化が抑制される場合がある。これは、それぞれの部材で劣化抑制剤としての機能を奏することに加え、Ceイオンが触媒層に拡散し、触媒層にあるタングステン化合物との相乗効果による劣化抑制効果を発現するためと考えられる。
【0068】
[3.4.3. Ceイオン又はCe化合物A~Cの含有量]
[A. C/S比]
「C/S比」とは、電解質膜に含まれるCeイオン又はCe化合物Aの含有量を表す指標であって、電解質膜に含まれる固体高分子電解質Bの酸基のモル数(S)に対する、電解質膜に含まれるすべてのCeのモル数(C)の比をいう。
【0069】
電解質膜がCeイオン及び/又はCe化合物Aを含む場合、C/S比は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。一般に、C/S比が小さくなりすぎると、十分な劣化抑制効果が得られない場合がある。従って、C/S比は0.0005以上が好ましい。C/S比は、さらに好ましくは、0.001以上、さらに好ましくは、0.005以上である。
【0070】
一方、C/S比が大きくなりすぎると、電池性能が低下する場合がある。従って、C/S比は、0.15以下が好ましい。C/S比は、さらに好ましくは、0.10以下、さらに好ましくは、0.05以下である。
【0071】
[B. Ce化合物Bの含有量]
「Ce化合物Bの含有量(μg/cm2)」とは、アノードガス拡散層のMEA側表面に形成された撥水層の単位面積当たりのCe化合物Bの質量をいう。
【0072】
本発明において、Ce化合物Bの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な含有量を選択することができる。一般に、Ce化合物Bの含有量が少なくなりすぎると、十分な劣化抑制効果が得られない場合がある。従って、Ce化合物Bの含有量は、0.1μg/cm2以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.5μg/cm2以上、さらに好ましくは、1.0μg/cm2以上である。
【0073】
一方、Ce化合物Bの含有量が過剰になると、電池性能が低下する場合がある。従って、Ce化合物Bの含有量は、100.0μg/cm2以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、50.0μg/cm2以下、さらに好ましくは、25.0μg/cm2以下である。
【0074】
[C. Ce化合物Cの含有量]
「Ce化合物Cの含有量(μg/cm2)」とは、カソードガス拡散層のMEA側表面に形成された撥水層の単位面積当たりのCe化合物Cの質量をいう。
【0075】
本発明において、Ce化合物Cの含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて、最適な含有量を選択することができる。一般に、Ce化合物Cの含有量が少なくなりすぎると、十分な劣化抑制効果が得られない場合がある。従って、Ce化合物Cの含有量は、0.1μg/cm2以上が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、0.5μg/cm2以上、さらに好ましくは、1.0μg/cm2以上である。
【0076】
一方、Ce化合物Cの含有量が過剰になると、電池性能が低下する場合がある。従って、Ce化合物Cの含有量は、100.0μg/cm2以下が好ましい。含有量は、さらに好ましくは、50.0μg/cm2以下、さらに好ましくは、25.0μg/cm2以下である。
【0077】
[4. 固体高分子形燃料電池の製造方法]
本発明に係る固体高分子形燃料電池は、種々の方法により製造することができる。
例えば、タングステン化合物を含む触媒層は、
(a)固体高分子電解質、電極触媒、及び、タングステン化合物が溶媒に溶解又は分散している分散液を調製し、
(b)分散液を基材表面に塗工し、溶媒を揮発させる
ことにより製造することができる。
【0078】
また、例えば、Ceイオン及び/又はCe化合物Aを含む電解質膜は、
(a)固体高分子電解質B、及び、水溶性又は難溶性のCe化合物Aが溶媒に溶解又は分散している分散液を調製し、
(b)分散液を基材表面に塗工し、又は、分散液を補強材の細孔内に含浸させ、溶媒を揮発させる
ことにより製造することができる。
【0079】
また、例えば、Ce化合物B又はCe化合物Cを含む撥水層は、
(a)撥水性樹脂、導電性粒子、及び、Ce化合物B又はCe化合物Cが溶媒に溶解又は分散している分散液を調製し、
(b)分散液をガス拡散層基材の表面に塗布し、焼成する
ことにより製造することができる。
【0080】
得られた電解質膜の両面に触媒層を接合すると、膜電極接合体(MEA)が得られる。また、MEAの両面にガス拡散層を配置すると、膜-電極-ガス拡散層接合体(MEGA)が得られる。さらに、MEGAの両面に、ガス流路を備えたセパレータを配置すると、本発明に係る固体高分子形燃料電池が得られる。
【0081】
[5. 作用]
電解質膜にタングステン酸化物を添加する場合において、タングステン酸化物の添加量が相対的に過剰であるとき(すなわち、W'/Aが大きいとき)には、電解質膜の劣化がかえって促進される場合があった。これは、
(a)電解質膜内においてタングステン酸化物が凝集し、タングステン酸化物の濃度が低い領域において劣化が進行したため、あるいは、
(b)タングステン酸化物の凝集によって電解質膜の膨潤が不均一となり、電解質膜が割れやすくなったため
と考えられる。
【0082】
これに対し、触媒層にタングステン酸化物を添加する場合、触媒層内のW'/Aが電解質膜内のそれに比べて大きいときでも、触媒層の劣化が抑制される。これは、触媒層内に含まれる電極触媒によってタングステン酸化物の凝集が抑制され、タングステン酸化物の添加量が相対的に多い場合であっても、タングステン酸化物が触媒層内に均一に分散しやすいためと考えられる。
【実施例0083】
(実施例1~4、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1(WO3・H2O 10.0μg/cm2含有アノード触媒層]
電解質溶液(D2020、ナフィオン(登録商標)分散液、1000EW、ケマーズ社製)、Pt担持カーボン、及び、WO3・H2O(EM Japan製、平均粒径概算値:0.05μm)を所定の比率で配合し、第1触媒インクを得た。得られた第1触媒インクを基材表面に塗工し、アノード触媒層を得た。アノード触媒層中のタングステン酸化物の含有量は、10.0μg/cm2であった。また、アノード触媒層のW'/Aは、0.29であった。
【0084】
WO3・H2Oを添加しなかった以外は、第1触媒インクと同様にして第2触媒インクを作製した。得られた第2触媒インクを基材表面に塗工し、カソード触媒層を得た。
電解質膜には、劣化促進剤としてFe2+イオンを2μg/cm2添加したナフィオン(登録商標)膜(NR211)を用いた。電解質膜の両面に、それぞれ、アノード触媒層及びカソード触媒層を転写し、膜電極接合体を得た。
【0085】
[1.2. 実施例2(WO3・H2O 50.0μg/cm2含有アノード触媒層]
アノード触媒層中のタングステン酸化物の含有量が50.0μg/cm2となるように、第1触媒インクへのWO3・H2Oの添加量を変えた以外は実施例1と同様にして、アノード触媒層を得た。アノード触媒層のW'/Aは、1.4であった。以下、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0086】
[1.3. 実施例3(WO3・H2O 10.0μg/cm2含有カソード触媒層]
実施例1と同様にして、WO3・H2Oを含む第1触媒インクを作製した。得られた第1触媒インクを基材表面に塗工し、カソード触媒層を得た。カソード触媒層中のタングステン酸化物の含有量は、10.0μg/cm2であった。また、カソード触媒層のW'/Aは、0.11であった。
次に、実施例1と同様にして、WO3・H2Oを含まない第2触媒インク用を作製した。得られた第2触媒インクを基材表面に塗工し、アノード触媒層を得た。以下、実施例1と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0087】
[1.4. 実施例4(WO3・H2O 50.0μg/cm2含有カソード触媒層]
カソード触媒層中のタングステン酸化物の含有量が50.0μg/cm2となるように、第1触媒インクへのWO3・H2Oの添加量を変えた以外は実施例3と同様にして、カソード触媒層を得た。カソード触媒層のW'/Aは、0.53であった。以下、実施例3と同様にして、膜電極接合体を作製した。
【0088】
[1.5. 比較例1(WO3・H2O無添加触媒層]
第1触媒インクにWO3・H2Oを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして第1触媒インクを作製した。以下、実施例1と同様にして、アノード触媒層及びカソード触媒層の双方ともWO3・H2Oを含まない膜電極接合体を得た。
【0089】
[2. 試験方法]
作製した膜電極接合体を用いて、定電流耐久試験を行った。定電流耐久試験の試験条件は、電流密度:0.05A/cm2、温度:90℃、相対湿度:40%RH、アノードガス/カソードガス:H2/Air、試験時間:100時間とした。
耐久試験中に膜電極接合体から排出される水を回収し、回収水に含まれるフッ素イオン量を測定し、総F-溶出量を算出した。さらに、各試料の総F-溶出量を比較例1のそれで除すことで規格化し、規格化総F-溶出量を算出した。
【0090】
[3. 結果]
図1に、W'/Aと規格化総F
-溶出量との関係を示す。
図1より、以下のことが分かる。
(1)WO
3・H
2Oをアノード触媒層又はカソード触媒層に添加すると、規格化総F
-溶出量が著しく低下した。
(2)実施例2は、実施例1に比べて、規格化総F
-溶出量が若干増加した。これは、実施例2は比較例1に比べてWO
3・H
2Oの添加量が多いために、触媒層内においてWO
3・H
2Oの凝集が多少進み、偏析が生じたためと考えられる。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。