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特開2024-139327オイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139327
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】オイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20241002BHJP
   G01N 27/06 20060101ALI20241002BHJP
   F01M 11/10 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01N27/00 L
G01N27/06 A
F01M11/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050214
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】株式会社PILLAR
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】徳田 有佑
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】中津 彰
【テーマコード(参考)】
2G060
3G015
【Fターム(参考)】
2G060AA05
2G060AE30
2G060AF07
2G060FA15
2G060HC15
2G060HD03
3G015FC09
(57)【要約】
【課題】オイルの劣化度をより精度よく判定する。
【解決手段】オイルの温度を測定する温度測定部S2と、オイルの電気抵抗を測定する抵抗測定部S3と、温度測定部S2にて測定されるオイルの温度が特定温度であるときに抵抗測定部S3にて測定される電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する制御装置SGとを備え、制御装置SGは、オイルを少なくとも特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持制御と、温度維持制御の後に特定温度において抵抗測定部S3にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定制御とを実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルの温度を測定する温度測定部と、
オイルの電気抵抗を測定する抵抗測定部と、
前記温度測定部にて測定されるオイルの温度が特定温度であるときに前記抵抗測定部にて測定される電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する制御装置とを備えるオイル管理装置であって、
前記制御装置は、
オイルを少なくとも前記特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持制御と、
前記温度維持制御の後に前記特定温度において前記抵抗測定部にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定制御とを実行するオイル管理装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記温度維持制御において、前記温度維持制御における前記高温維持時間下限閾値を60分とし、且つ前記高温設定温度以上の温度範囲の下限値を60℃以上とする請求項1に記載のオイル管理装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記温度維持制御の後で前記劣化度判定制御の前にオイルを前記特定温度よりも低い環境温度の下で前記特定温度まで自然放冷する放冷制御を実行し、
前記劣化度判定制御において、前記特定温度を30℃以上50℃以下の温度とする請求項1又は2に記載のオイル管理装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のオイル管理装置と、オイルを貯留するオイル貯留部とエンジンのオイルパンとの間でオイルを通流させる連絡管とを備えたエンジンシステムであって、
前記連絡管を通流するオイルの温度を測定する形態で前記温度測定部を備えると共に、前記連絡管を通流するオイルの電気抵抗を測定する形態で前記抵抗測定部を備えるエンジンシステム。
【請求項5】
オイルの温度が特定温度であるときにオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定するオイル管理方法であって、
オイルを少なくとも前記特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持工程と、
前記温度維持工程の後に前記特定温度において測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定工程とを実行するオイル管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルの温度を測定する温度測定部と、前記オイルの電気抵抗を測定する抵抗測定部と、前記温度測定部にて測定される前記オイルの温度が特定温度であるときに前記抵抗測定部にて測定される電気抵抗に基づいて前記オイルの劣化度を判定する制御装置とを備えるオイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オイル貯留部内のオイルの温度を測定する温度測定部と、オイルの電気抵抗を測定する電気抵抗を測定する抵抗測定部とを備え、温度測定部にて測定されるオイル温度が特定温度であるときに、抵抗測定部にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいて、オイルの劣化度を判定するオイル管理システムが知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-200730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示のオイル管理システムでは、オイル温度が特定温度であるときのオイルの電気抵抗に基づいて、オイルの劣化度を判定しているのであるが、オイルの電気抵抗は、オイルの測定する時点でのオイル温度以外の条件においても、変化することについては開示も示唆もされておらず、より精度良くオイル劣化度を判定するために、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、オイルの劣化度をより精度よく判定できるオイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためのオイル管理装置は、
オイルの温度を測定する温度測定部と、
オイルの電気抵抗を測定する抵抗測定部と、
前記温度測定部にて測定されるオイルの温度が特定温度であるときに前記抵抗測定部にて測定される電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する制御装置とを備えるオイル管理装置であって、その特徴構成は、
前記制御装置は、
オイルを少なくとも前記特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持制御と、
前記温度維持制御の後に前記特定温度において前記抵抗測定部にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定制御とを実行する点にある。
【0007】
上記目的を達成するためのオイル管理方法は、
オイルの温度が特定温度であるときにオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定するオイル管理方法であって、その特徴構成は、
オイルを少なくとも前記特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持工程と、
前記温度維持工程の後に前記特定温度において測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定工程とを実行する点にある。
【0008】
エンジン等に用いられる所定の特定温度におけるオイルの電気抵抗は、オイルへの添加剤の影響により、例えば積算運転時間が所定の極大値発生時間までは積算運転時間の増加に伴って徐々に上昇し、極大値発生時間を超えると積算運転時間の増加に伴って徐々に低下する傾向がある。即ち、当該オイルの電気抵抗は、上昇するにせよ低下するにせよ、経時的に徐々に変化することが知られている。
しかしながら、本発明の発明者らは、図2に示すように、比較的頻繁に停止するエンジンにおけるオイルの電気抵抗の経時変化(図2でL1)においては、所定の特定温度で測定した場合であっても、従来想定されていた電気抵抗の経時変化(図2でL2)からズレた外れ値(図2でX)を示す場合があるという知見を得た。
発明者らが更に研究を進めた結果、図3に示すように、オイルを所定の温度(図3では80℃)まで加熱した後に、徐々に放冷した場合、オイルの温度がピーク温度(図3でYで示す温度)から低下し始めた時点(図3でtx時点)から、オイルの電気抵抗が上昇し始める時点(図3でty時点)がズレているという知見を得た。
これらの知見から、発明者らは、図4に示すように、オイルの電気抵抗を計測する前に、オイルの電気抵抗を計測する時点での特定温度(図4では40℃)よりも高い温度で維持する高温維持時間を変化させた場合、当該高温維持時間を一定時間以上維持し、その後にオイルを特定温度まで放冷してから測定した電気抵抗は、安定した電気抵抗を示すことを発見し、本発明を完成させた。
上記特徴構成の如く、オイルを少なくとも特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持制御と、温度維持制御の後に特定温度において抵抗測定部にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定制御とを実行することで、測定されるオイルの劣化度を、より精度良く判定することができる。
【0009】
オイル管理装置の更なる特徴構成は、
前記制御装置は、
前記温度維持制御において、前記温度維持制御における前記高温維持時間下限閾値を60分とし、且つ前記高温設定温度以上の温度範囲の下限値を60℃以上とする点にある。
【0010】
更に、発明者らは、図4に示すように、温度維持制御において、特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で温度を維持する時間の下限値である高温維持時間下限閾値を、60分以上(図4では、60分及び90分)とすることで、特定温度(図4では40℃)においてオイルの電気抵抗を略一定の安定した値へ導くことができ、当該温度に基づくオイルの劣化度をより精度良く判定できることを実験的に確認している。
また、発明者らは、高温設定温度以上の温度範囲の下限値を60℃以上とすることで、特定温度でのオイルの電気抵抗を、略一定の安定した値へ導くことができることを確認している。
【0011】
オイル管理装置の更なる特徴構成は、
前記制御装置は、
前記温度維持制御の後で前記劣化度判定制御の前にオイルを前記特定温度よりも低い環境温度の下で前記特定温度まで自然放冷する放冷制御を実行し、
前記劣化度判定制御において、前記特定温度を30℃以上50℃以下の温度とする点にある。
【0012】
上記特徴構成の如く、温度維持制御の後で劣化度判定制御の前にオイルを特定温度よりも低い環境温度の下で特定温度まで自然放冷する放冷制御を実行し、劣化度判定制御において、特定温度を30℃以上50℃以下の温度とすることで、特定温度まで徐々に温度低下したオイルの電気抵抗を、より安定した値へ導くことができ、当該電気抵抗に基づいて判定されるオイルの劣化度の判定精度をより向上できる。
【0013】
上記目的を達成するためのエンジンシステムは、
上述のオイル管理装置と、オイルを貯留するオイル貯留部とエンジンのオイルパンとの間でオイルを通流させる連絡管とを備えたエンジンシステムであって、その特徴構成は、
前記連絡管を通流するオイルの温度を測定する形態で前記温度測定部を備えると共に、前記連絡管を通流するオイルの電気抵抗を測定する形態で前記抵抗測定部を備える点にある。
【0014】
エンジン等の原動機では、図5に示すように、オイル貯留部に貯留されるオイル温度が、50℃以下の比較的低い温度で維持されることになる。このため、従来技術のように、オイル貯留部でのオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定しようとすると、上述した温度維持制御を実行できない、又はオイル貯留部に対してオイルを加熱する加熱機構を設ける必要があり、構成の複雑化が避けられない。
一方で、オイルパンは、エンジン等の原動機を一体的に構成する構成部品であり、加工することが難しいため、当該オイルパンでのオイルの電気抵抗を測定する構成を採用することは、現実的ではない。
上記特徴構成の如く、温度測定部及び抵抗測定部を、オイル貯留部とオイルパンとの間の連絡管に設けることで、図5に示すように、電気抵抗を測定するオイルの温度が、エンジンの運転過程で、特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲にまで昇温し、その温度が高温維持時間下限閾値以上の時間維持されるタイミングがあるため、そのタイミングでオイルを特定温度まで冷却した後に、オイルの電気抵抗を測定することで、オイルの劣化度を精度良く判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るオイル管理装置、及びエンジンシステムの概略構成図である。
図2】エンジンの運転時間とオイルの電気抵抗の関係を示すグラフ図である。
図3】オイル温度と、当該オイル温度におけるオイルの電気抵抗の経時変化を示すグラフ図である。
図4】温度維持工程において高温維持時間を変化させた夫々の場合に、その後の放冷工程においてオイル温度毎のオイルの抵抗値を示すグラフ図である。
図5】実施形態に係るエンジンシステムにおいて、エンジンを運転しているときのオイルパンでのオイル温度、オイル貯留部でのオイル温度、連絡管でのオイル温度、エンジン回転数の変化を経時的に示すグラフ図である。
図6】実施形態に係るエンジンシステムの制御フローである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るオイル管理方法、オイル管理装置、及びエンジンシステム100は、オイルの劣化度をより精度よく判定できるものに関する。
以下、図1~6に基づいて、当該実施形態に係るオイル管理方法、オイル管理装置、及びエンジンシステム100を説明する。
【0017】
当該実施形態に係るエンジンシステム100は、図1に示すように、ヒートポンプ装置(図示せず)の動力源としてのエンジン10に用いるエンジンオイル(以下、オイルと略称)を管理するための制御装置SGを含むオイル管理装置を備えるものである。
説明を加えると、当該エンジンシステム100は、基本構成としては一般的なガスエンジンの構成を有するものであり、例えば都市ガス13Aを燃料とするエンジン10の燃焼室11と、燃焼室11の下部にてオイルの一部を受けるオイルパン13と、オイルを外部から補充して貯留可能なオイル貯留部15と、オイルパン13とオイル貯留部15との間をオイルが通流可能な状態で連通接続する連絡管14とが備えられている。
当該構成により、オイルパン13からオイルが消費されるに伴い、オイルパン13のオイルの液面E2と、オイル貯留部15のオイルの液面E1との高さ位置が等しくなる状態を保って、オイルが徐々に消費される。
【0018】
尚、当該実施形態において後述する各種試験に用いるオイルは、ENEOS株式会社製のガスヒーポレクス10THを用いているが、当該実施形態に係るオイル管理方法等では、他のオイルに対しても好適に適用可能である。尚、当該オイルの代表性状は、以下の〔表1〕の通りである。
【0019】
【表1】
【0020】
更に、当該実施形態に係るエンジンシステム100にあっては、連絡管14を通流するオイルの温度を測定する温度センサS2(温度測定部の一例)と、連絡管14を通流するオイルの電気抵抗を測定する抵抗測定センサS3(抵抗測定部の一例)と、オイル貯留部15に貯留されるオイルの液位を測定可能な液位センサS1とを備えて構成されており、当該温度センサS2、抵抗測定センサS3、液位センサS1にて測定された値は、制御装置SGが有線又は無線にて受信可能に構成されている。
ここで、抵抗測定センサS3は、微小な間隔を隔てて対向した一対の電極が配置されたセンサ基板(図示せず)と、センサ基板に接続されたセンサ検出回路(図示せず)とを備えており、センサ基板からの信号に基づいてオイルの電気抵抗を測定可能に構成されている。説明を追加すると、抵抗測定センサS3は、センサ基板の一対の電極がオイルに浸漬した状態で測定される電極間の抵抗を、オイルの電気抵抗として測定している。
同じく、液位センサS1についても、微小な間隔を隔てて対向した一対の電極が配置されたセンサ基板(図示せず)と、センサ基板に接続されたセンサ検出回路(図示せず)とを備えており、センサ基板からの信号に基づいてオイルの液位を測定可能に構成されている。説明を追加すると、一対の電極のうちオイルに浸漬する部分に応じて、一対の電極間の静電容量が変化するため、当該静電容量に基づいてオイルの液位を測定する。
【0021】
制御装置SGは、ソフトウェアとCPUやメモリから成るハードウェアとが協働する形態で構成されており、オイル管理に用いる後述する各種閾値を記憶すると共に、経時的に抵抗測定センサS3から取得されるオイルの電気抵抗、経時的に温度センサS2にて取得されるオイルの温度、経時的に液位センサS1にて取得されるオイル貯留部15の液位を記憶する記憶部SG3と、各種オイル管理に係る制御を実行する制御部SG2、当該制御装置SGでのオイル管理に係る制御結果を、電気通信回線Nを介して管理サーバKへ送信する通信部SG1を備えて構成されている。
【0022】
さて、発明者らは、図2に示すように、比較的頻繁に停止するエンジンにおけるオイルの電気抵抗の経時変化(図2でL1)においては、所定の特定温度で測定した場合であっても、従来想定されていた電気抵抗の経時変化(図2でL2)からズレた外れ値(図2でX)を示す場合があるという知見を得た。
そこで、発明者らは、鋭意検討した結果、図4に示すように、オイルの電気抵抗を計測する前に、オイルの電気抵抗を計測する時点での特定温度(図4では40℃)よりも高い温度で維持する高温維持時間を変化させた場合、当該高温維持時間を一定時間以上維持し、その後にオイルを特定温度まで放冷してから測定した電気抵抗は、安定した電気抵抗を示すことを発見し、本発明を完成させた。
換言すると、当該高温維持時間が一定時間未満(図4では、0分、30分)では、その後にオイルを特定温度まで放冷してから測定した電気抵抗には数℃程度の誤差が生じ、一方で、高温維持時間を一定時間以上(図4では、60分、90分)維持し、その後にオイルを特定温度まで放冷してから測定した電気抵抗は、安定した電気抵抗(ほぼ、同一の電気抵抗)を示すことを発見し、本発明を完成させた。
【0023】
即ち、当該実施形態に係るオイル管理装置、それを備えるエンジンシステム100、及びオイル管理方法では、オイルを少なくとも前記特定温度よりも高い高温設定温度以上の温度範囲で所定の高温維持時間下限閾値以上の時間維持する温度維持制御(温度維持工程)と、当該温度維持制御の後でオイルを特定温度よりも低い環境温度の下で特定温度まで自然放冷する放冷制御(放冷工程)と、当該放冷制御の後に温度維持制御の後に特定温度において抵抗測定部にて測定されるオイルの電気抵抗に基づいてオイルの劣化度を判定する劣化度判定制御(劣化度判定工程)とを実行する。
【0024】
尚、温度維持制御における高温維持時間下限閾値は、図4に示す試験結果から60分とすることが好ましい。即ち、高温維持時間は60分以上の時間とすることが好ましく、その上限は、判定時間として許容される時間とすることができる。
因みに、劣化度判定制御における特定温度は、一般的にオイルの電気抵抗を測定する温度を好適に用いることができ、30℃以上50℃以下の温度とすることが好ましい。
更に、高温設定温度以上の温度範囲の下限値は、少なくとも特定温度よりも高い温度とすることが好ましく、60℃以上とすることが好ましい。
【0025】
ここで、図5に、エンジンシステム100が停止状態から起動状態へ移行した後に停止状態となるときの連絡管14のオイル温度、オイルパン13のオイル温度、オイル貯留部15のオイル温度、及びエンジンの回転数の経時変化を示す。
因みに、図5において、時刻t1はエンジンの起動直後にオイルの温度が徐々に上昇しているタイミングであり、時刻t2の近傍では、連絡管14にオイルパン13とオイル貯留部15のオイルが交互に流れ込み、連絡管14のオイル温度が上昇又は降下しているタイミングであり、時刻t3では、エンジンの一時的な停止に伴ってオイル貯留部15のオイルが連絡管14へ流れ込み、連絡管14のオイル温度が降下しているタイミングであり、時刻t4は、エンジンの停止に伴って連絡管14にオイルパン13からオイルが一時的に流入し連絡管14のオイル温度が上昇したタイミングであり、時刻t5は、エンジンが停止している状態でオイルの温度が徐々に降下している状態である。当該時刻t4での温度低下傾向から、連絡管14のオイルの温度低下傾向は、オイルパン13のオイルの温度低下傾向よりも大きく、自然放冷による温度低下が大きいことからも、当該実施形態においては、温度センサS2及び抵抗測定センサS3を連絡管14に設けている。
【0026】
図5から明らかなように、オイル貯留部15のオイルの温度は50℃未満の比較的低い温度が維持されており、上述した温度維持制御における高温設定温度まで上昇しないことがわかる。一方、連絡管14のオイルの温度は60℃以上の比較的高い温度に維持される時間帯が存在し、上述した温度維持制御における高温設定温度まで上昇していることがわかる。
そこで、当該実施形態に係るエンジンシステム100にあっては、温度センサS2と抵抗測定センサS3とを、従来技術のようにオイル貯留部15に設けるのではなく、連絡管14に設けている。
【0027】
次に、図6の制御フローに基づいて、オイル管理に係る制御について説明する。
制御部SG2は、温度センサS2にて測定される連絡管14のオイル温度である測定温度Tsが、記憶部SG3に記憶される高温設定温度Th以上か否かを判定し、測定温度Tsが高温設定温度Th未満である場合(#01でNo)、所定時間毎に、ステップ#01を実行する(#02)。一方、測定温度Tsが高温設定温度Th以上である場合(#01でYes)、図示しないタイマーにより計測時間tzの計測を開始する(#03)。
【0028】
次に、制御部SG2は、タイマーにより計測された計測時間tzが記憶部SG3に記憶される高温維持時間下限閾値tα以上であるか否かを判定し、計測時間tzが高温維持時間閾値tα未満である場合(#04でNo)、ステップ#01の判定を再度実行する。ここで、ステップ#01の判定にて測定温度Tsが高温測定温度Th未満となっていた場合、ステップ#02で計測時間tzをリセットし計測時間tzの計測を停止する(#02)。一方、ステップ#01の判定にて測定温度Tsが高温測定温度Th以上を維持している場合、計測時間tzの計測を継続しながら、ステップ#04の判定を所定時間毎に実行する。
制御部SG2は、計測時間tzが高温維持時間下限閾値tα以上である場合(#04でYes)、オイルを特定温度まで放冷する(#05)。
【0029】
制御部SG2は、オイルが特定温度まで放冷したタイミングで、特定温度にてオイルの電気抵抗を測定する(#06)。尚、当該ステップ#05以降の制御は、エンジンシステム100にあっては、エンジンを停止した場合に、ステップ#04でYesと判定される状態となっているときに実行される。
制御部SG2は、特定温度にて測定したオイルの電気抵抗が記憶部SG3に記憶される劣化限界電気抵抗以下である場合(#07でYes)、オイルの交換又は補充が必要である旨を報知する(#08)。
一方、制御部SG2は、特定温度にて測定したオイルの電気抵抗が記憶部SG3に記憶される劣化限界電気抵抗を超える場合(#07でNo)、更に、オイル貯留部15に設けられる液位センサS1にて測定される液位から導出される残オイル量が、予め定められた所定量以上であるか否かを判定し、残オイル量が予め定められた所定量未満である場合(#09でNo)、オイルの補充が必要である旨を報知する(#10)。一方、残オイル量が予め定められた所定量以上である場合(#09でYes)、ステップ#01の前へ戻る。
【0030】
尚、管理者がオイル2の補充を行った場合、補充したオイルの添加剤の影響により、抵抗測定センサS3により測定される電気抵抗が補充前よりも低下する場合がある。そのため、補充直後の電気抵抗が劣化限界電気抵抗以下となり、オイルを補充したにもかかわらず、オイルの交換やオイルの補充が必要であると判定される可能性がある。そこで、オイルを補充した場合には、少なくとも電気抵抗が補充前に測定された電気抵抗よりも高くなった時点から上述の制御フローで示したオイル管理に係る制御を実行することが好ましい。
【0031】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、形式的にオイルの温度を測定する温度センサS2と、オイルの電気抵抗を測定する電気抵抗センサS3とは、各別に備えられる例を示したが、これらが一体的に設けられる複合センサを備える構成を採用することができる。また、センサ部には、ヒートシンクを設けセンサ部の昇温を抑制する構成としても構わない。
【0032】
(2)上記実施形態において、オイル管理装置は、エンジンシステム100の一部として備えられる構成例を示したが、エンジンシステム100とは独立した構成であっても構わない。
【0033】
(3)上記実施形態では、温度維持制御の後で劣化度判定制御の前にオイルを特定温度よりも低い環境温度の下で特定温度まで自然放冷する放冷制御(放冷工程)を実行する制御例を示した。
しかしながら、当該放冷制御は、必ずしも自然放冷でなくても構わない。例えば、時短の観点からラジエター等により強制放冷する構成を採用しても構わない。
【0034】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のオイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステムは、オイルの劣化度をより精度よく判定できるオイル管理方法、オイル管理装置、及びそれを備えたエンジンシステムとして、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 :エンジン
13 :オイルパン
14 :連絡管
15 :オイル貯留部
100 :エンジンシステム
S1 :液位センサ
S2 :温度センサ
S3 :抵抗測定センサ
SG :制御装置
SG2 :制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6