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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139331
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】接着剤、及びそれを用いた物品
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/00 20060101AFI20241002BHJP
   C09J 101/00 20060101ALI20241002BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20241002BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J101/00
C09J7/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050219
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 卓真
(72)【発明者】
【氏名】藤原 早季子
(72)【発明者】
【氏名】後居 洋介
(72)【発明者】
【氏名】橋本 賀之
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
【Fターム(参考)】
4J004AA09
4J004AA10
4J004AA14
4J004AA15
4J040BA022
4J040DA051
4J040DF021
4J040ED001
4J040EF121
4J040JA03
4J040PA42
(57)【要約】
【課題】接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤を提供する。
【解決手段】実施形態に係る接着剤は、接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤であって、(A)水系樹脂及び(B)セルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を前記水系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤であって、
(A)水系樹脂及び(B)セルロース繊維を含み、
前記セルロース繊維を前記水系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部含む、接着剤。
【請求項2】
前記水系樹脂が水分散性樹脂を含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記水分散性樹脂がアニオン性水分散性樹脂及び/又はノニオン性水分散性樹脂を含む、請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記セルロース繊維がセルロースナノファイバーを含む、請求項1に記載の接着剤。
【請求項5】
前記セルロース繊維がアニオン性基を有する、請求項1に記載の接着剤。
【請求項6】
プライマーである、請求項1に記載の接着剤。
【請求項7】
第1部材、第2部材、及び、請求項1~6のいずれか1項に記載の接着剤により形成され前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着層、を含む物品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤、及び、それを用いた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リサイクル等の観点から剥離が容易な接着剤が求められている。例えば、特許文献1には、接着強度が高く、剥離に特別な処理が不要である易剥離性接着剤組成物として、セルロースナノファイバーの水分散液を用いることが開示されている。
【0003】
特許文献2には、粘着性及び再剥離性に優れた粘着剤組成物として、改質セルロース繊維と、アクリル系粘着剤等のマトリクス樹脂とを配合してなる粘着剤組成物が開示されている。
【0004】
特許文献3には、せん断力と剥離強度の比が大きい接着剤組成物として、セルロースナノファイバーとともに、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂を含む接着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-025130号公報
【特許文献2】特開2020-076075号公報
【特許文献3】特開2020-152829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1~3には剥離性を持つ接着剤としてセルロース繊維を含むものは開示されているが、それらを接着後に吸水させて剥離させる用途に用いることは記載されていない。
【0007】
本発明の実施形態は、接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 接着後に吸水させて剥離させる用途に用いられる接着剤であって、(A)水系樹脂及び(B)セルロース繊維を含み、前記セルロース繊維を前記水系樹脂100質量部に対して0.1~10質量部含む、接着剤。
[2] 前記水系樹脂が水分散性樹脂を含む、[1]に記載の接着剤。
[3] 前記水分散性樹脂がアニオン性水分散性樹脂及び/又はノニオン性水分散性樹脂を含む、[2]に記載の接着剤。
[4] 前記セルロース繊維がセルロースナノファイバーを含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の接着剤。
[5] 前記セルロース繊維がアニオン性基を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の接着剤。
[6] プライマーである、[1]~[5]のいずれか1項に記載の接着剤。
[7] 第1部材、第2部材、及び、[1]~[6]のいずれか1項に記載の接着剤により形成され前記第1部材と前記第2部材とを接着する接着層、を含む物品。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態に係る接着剤であると、接着後に吸水させることによりセルロース繊維が膨潤するので、容易に剥離させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態に係る接着剤は、(A)水系樹脂と、(B)セルロース繊維とを配合してなるものである。
【0011】
[(A)水系樹脂]
水系樹脂は、接着剤において接着性を発揮する成分(接着剤成分)である。従って、実施形態に係る接着剤は、水系樹脂を含む水系の接着剤にセルロース繊維又はその水分散液を混合したものであるといえる。セルロース繊維を配合することにより、水系樹脂による接着性を維持しながら、吸水時におけるセルロース繊維の膨潤により剥離性を付与することができる。
【0012】
水系樹脂とは、水に分散又は溶解する樹脂をいい、水分散性樹脂及び水溶性樹脂が挙げられる。水系樹脂としては、水分散性樹脂と水溶性樹脂のいずれか一方を用いても又は両者を併用してもよい。好ましくは水分散性樹脂を用いることである。すなわち、一実施形態において、水系樹脂は、水分散性樹脂を含む。その場合、水系樹脂は、水分散性樹脂を主成分とすることが好ましく、水系樹脂100質量%中の水分散性樹脂の量は70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0013】
水分散性樹脂は、水を分散媒として乳化又は分散させてなるエマルジョン又はサスペンジョンを形成する樹脂をいう。従って、水分散性樹脂は、分散質である樹脂が液体であるエマルジョンにおける当該エマルジョンに含まれる樹脂(即ち、水系エマルジョン樹脂)でもよく、分散質である樹脂が固体であるサスペンジョンにおける当該サスペンジョンに含まれる樹脂(即ち、水系サスペンジョン樹脂)でもよい。
【0014】
水分散性樹脂としては、水系エマルジョン樹脂が好ましい。水系エマルジョンは、強制乳化型でもよく、自己乳化型でもよい。強制乳化型とは、界面活性剤にて強制的に乳化されたものをいう。自己乳化型とは、分子内に親水基又は親水性セグメントが付与されることで自己分散型にしたものをいう。
【0015】
水分散性樹脂としては、例えば、水分散性ウレタン樹脂、水分散性アクリル樹脂、水分散性酢酸ビニル樹脂、水分散性ポリエステル樹脂、水分散性ポリエポキシ樹脂、水分散性ポリスチレン樹脂等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0016】
水分散性ウレタン樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるものであり、例として、公知のウレタンエマルジョンを用いることができる。ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。またこれらのポリオールとともに又はその代わりに、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA等の低分子量のポリオールを用いてもよい。
【0017】
ポリイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート(水添MDI)、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、並びにこれらの変性体及び多核体が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0018】
水分散性アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルを単量体として得られる樹脂であり、これら単量体とともにエチレン、スチレン等の他の単量体を用いた共重合体でもよく、例として、公知のアクリルエマルジョンを用いることができる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ベンジル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル等が例示される。
【0019】
水分散性酢酸ビニル樹脂は、酢酸ビニルを単量体として得られる樹脂であり、酢酸ビニルと他の単量体との共重合体でもよく、例として、公知の酢酸ビニルエマルジョンを用いることができる。
【0020】
水分散性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリオールとを脱水縮合してエステル結合を形成させることによって得られる重縮合体であり、例として、公知のポリエステルエマルジョンを用いることができる。
【0021】
水分散性ポリエポキシ樹脂及び水分散性ポリスチレン樹脂についても、特に限定されず、例として、公知のポリエポキシエマルジョン及びポリスチレンエマルジョンを用いることができる。
【0022】
水分散性樹脂は、アニオン性でもよく、ノニオン性でもよく、カチオン性でもよく、これらを適宜に組み合わせてもよい。一実施形態において、水分散性樹脂は、アニオン性水分散性樹脂及び/又はノニオン性水分散性樹脂を含む。その場合、水分散性樹脂は、アニオン性水分散性樹脂及び/又はノニオン性水分散性樹脂を主成分とすることが好ましく、水分散性樹脂100質量%中のアニオン性水分散性樹脂及び/又はノニオン性水分散性樹脂の量は70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0023】
アニオン性水分散性樹脂としては、樹脂にカルボキシ基やスルホン酸基等のアニオン性基が導入された水系エマルジョン樹脂及び/又は水系サスペンジョン樹脂が挙げられる。ノニオン性水分散性樹脂としては、樹脂にポリエチレングリコール等のノニオン性親水基又は親水性セグメントが導入された水系エマルジョン樹脂及び/又は水系サスペンジョン樹脂が挙げられる。カチオン性水分散性樹脂としては、樹脂に第四級アンモニウム塩基等のカチオン性基が導入された水系エマルジョン樹脂及び/又は水系サスペンジョン樹脂が挙げられる。
【0024】
[(B)セルロース繊維]
セルロース繊維としては、数平均繊維径が500nmを超えるμmオーダーのセルロース繊維を用いてもよく、数平均繊維径が500nm以下であるセルロースナノファイバーを用いてもよく、両者を併用してもよい。
【0025】
初期の接着性を阻害しないという観点から、セルロース繊維としては、セルロースナノファイバーを用いることが好ましい。また、接着後に吸水させたときの膨潤度を高めて剥離性の向上効果を高めるという観点から、セルロース繊維としては、セルロースナノファイバーを用いることが好ましい。すなわち、一実施形態において、セルロース繊維は、セルロースナノファイバーを含む。その場合、セルロース繊維は、セルロースナノファイバーを主成分とすることが好ましく、セルロース繊維100質量%中のセルロースナノファイバーの量は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。
【0026】
セルロースナノファイバーの数平均繊維径は、1~500nmであることが好ましく、より好ましくは1.5~200nmであり、更に好ましくは2~100nmであり、更に好ましくは2.5~50nmであり、更に好ましくは3~20nmである。
【0027】
セルロースナノファイバーの平均アスペクト比は、特に限定されないが、10~1000であることが好ましく、より好ましくは50~700であり、更に好ましくは100~500であり、更に好ましくは200~400である。
【0028】
セルロースナノファイバーの数平均繊維径及び平均アスペクト比は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察することにより求めることができる。例えば、セルロースナノファイバーの水分散液をマイカ基板上にキャストした後、原子間力顕微鏡(AFM、株式会社日立ハイテク製)を用いて、AFM画像を10枚撮影し、その中から25本のセルロースナノファイバーを選択し、繊維径と繊維長を計測する。得られた繊維径と繊維長のデータから、それぞれの相加平均を算出して、数平均繊維径[nm]及び数平均繊維長[nm]を求め、下記式に従い平均アスペクト比を算出する。
平均アスペクト比=数平均繊維長[nm]/数平均繊維径[nm]
【0029】
セルロースナノファイバーは、セルロースI型結晶構造を有することが好ましい。セルロースI型結晶構造は天然セルロースの結晶形であり、I型結晶構造を有することにより、セルロース繊維(B)は水不溶性を持ち、水中において繊維形態を保持することができる。セルロースI型結晶構造を有することは、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14°~17°付近と、2θ=22°~23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0030】
セルロース繊維(好ましくはセルロースナノファイバー)としては、アニオン性基が導入されていない未変性のセルロース繊維を用いてもよいが、好ましくはアニオン性基を有するセルロース繊維を用いることである。すなわち、一実施形態において、セルロース繊維はアニオン性基を有することが好ましく、より好ましくは、セルロース繊維として、アニオン性基を有するセルロースナノファイバーを用いることである。アニオン性基を有することにより、接着後に吸水させたときの膨潤度を高めて剥離性の向上効果を高めることができる。
【0031】
アニオン性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらのアニオン性基は、セルロース分子の構成単位であるグルコースユニットに直接結合してもよく、間接的に結合してもよい。間接的に結合する場合、グルコースユニットとアニオン性基との間には、例えば、炭素数1~4のアルキレン基が存在してもよい。アニオン性基は、セルロース分子を構成するすべてのグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよく、あるいは、セルロース分子を構成する一部のグルコースユニットに一つ又は一つ以上結合していてもよい。
【0032】
上記アニオン性基としてのカルボキシ基は、酸型(-COOH)だけでなく、塩型、即ちカルボン酸塩基(-COOX、ここでXはカルボン酸と塩を形成する陽イオン)も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。リン酸基、スルホン酸基、硝酸基、ホウ酸基、及び硫酸基についても、同様に、酸型だけでなく、塩型も含む概念であり、酸型と塩型が混在してもよい。塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等のオニウム塩、1級アミン、2級アミン、3級アミン等のアミン塩等が挙げられる。
【0033】
セルロース繊維がアニオン性基を有する場合、アニオン性基の量は、特に限定されず、例えば、セルロース繊維の乾燥質量あたり、0.5~4.0mmol/gでもよく、1.0~3.0mmol/gでもよい。アニオン性基の量は、例えば、カルボキシ基の場合、0.1~1質量%の濃度に調製したセルロース繊維含有スラリーを60mL調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行い、pHが約11になるまで続け、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記式に従い求めることができる。リン酸基についても、同様の電気伝導度測定により測定することができる。その他のアニオン性基についても公知の方法で測定すればよい。なお、本明細書において「乾燥質量」とは、一分間当たりの質量変化率が0.05%以下になるまで140℃で乾燥させた後の質量のことである。
アニオン性基量(mmol/g)=V(mL)×〔0.05/セルロース繊維質量(g)〕
【0034】
一実施形態において、アニオン性基としてカルボキシ基を有するセルロースナノファイバーとしては、例えば、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基を酸化してなる酸化セルロースナノファイバーや、セルロース分子中のグルコースユニットの水酸基をカルボキシメチル化してなるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーが挙げられる。
【0035】
酸化セルロースナノファイバーとしては、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシ基に変性されたものが挙げられる。酸化セルロースナノファイバーは、木材パルプなどの天然セルロースをN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させ、解繊(微細化)処理することにより得られる。N-オキシル化合物としては、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物が用いられ、例えばピペリジンニトロキシオキシラジカルであり、特に2,2,6,6-テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)又は4-アセトアミド-TEMPOが好ましい。TEMPOで酸化され微細化されたセルロース繊維は、一般にTEMPO酸化セルロースナノファイバー(TOCN)と称されている。なお、酸化セルロースナノファイバーは、カルボキシ基とともに、アルデヒド基又はケトン基を有していてもよい。
【0036】
セルロース繊維を解繊処理してセルロースナノファイバーを得る場合、解繊処理は、アニオン性基を導入してから実施してもよく、導入前に実施してもよい。解繊処理は、例えば、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波分散処理機、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等を用いて、セルロース繊維の水分散液を処理することにより行うことができ、セルロースナノファイバーの水分散液を得ることができる。
【0037】
[接着剤]
実施形態に係る接着剤は、上記の水系樹脂とセルロース繊維とを含む水系接着剤である。そのため、接着剤は、水系樹脂及びセルロース繊維とともに水を含む液状の接着剤である。セルロース繊維は水不溶性であり、分散媒である水中に分散している。水系樹脂については、上記の水分散性樹脂を用いる場合、分散媒である水中に分散している。そのため、この場合、接着剤は、水分散性樹脂及びセルロース繊維を分散媒である水中に分散した状態で含む水分散液である。
【0038】
上記水分散液は、分散媒として水を含むが、分散媒は水のみでもよく、水とともにエタノール、イソプロピルアルコール等の水溶性有機溶媒を効果が損なわれない範囲で含んでもよい。有機溶媒を含む場合、分散媒100質量%における水の量は70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。なお、分散媒は、効果が損なわれない限り、酸やアルカリ、それらの塩を含む水溶液であってもよい。
【0039】
上記接着剤において、水系樹脂100質量部に対するセルロース繊維の量は0.1~10質量部である。セルロース繊維の量が0.1質量部以上であることにより、接着後に吸水させたときの膨潤度を高めて剥離性を向上することができる。また、セルロース繊維の量が10質量部以下であることにより、接着剤の塗工性が良好である。水系樹脂100質量部に対するセルロース繊維の量は、より好ましくは0.2~9質量部であり、更に好ましくは0.3~6質量部であり、更に好ましくは0.5~5質量部であり、更に好ましくは0.6~3質量部である。
【0040】
上記接着剤において、水系樹脂の含有量(濃度)は特に限定されず、例えば、1~70質量%でもよく、5~50質量%でもよい。セルロース繊維の含有量(濃度)も特に限定されず、例えば、0.001~7質量%でもよく、0.005~5質量%でもよい。
【0041】
実施形態に係る接着剤には、上記の水系樹脂、セルロース繊維、及び水の他に、例えば、着色剤、充填剤、防腐剤、消泡剤、造膜助剤、ブロッキング防止剤、流動性改良剤、粘度調整剤、接着性付与剤、導電剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含んでもよい。
【0042】
実施形態に係る接着剤であると、当該接着剤を用いて被着体を接着させた後、乾燥状態にある接着層を吸水させることにより、接着層に含まれるセルロース繊維が膨潤する。これにより、被着体は接着層との界面で剥がれやすくなり、容易に剥離させることができる。接着層への吸水(すなわち、接着層への水の取り込み)は、接着層を含む部分を水に浸けたり、水をスプレーしたりして、接着層を水で処理することにより行うことができる。
【0043】
一実施形態において、上記接着剤は、プライマー(すなわち、下塗り接着剤)として用いることができる。詳細には、上記接着剤をプライマーとして基材上に塗布し、その上に上塗り塗料を塗布して塗膜(中塗りを含む1又は複数の塗膜)を形成する。このようにして得られた製品から基材をリサイクルする際に、プライマーとして形成された接着層を上記のように水で処理して吸水させることにより、接着層を含む塗膜を基材から容易に剥がすことができる。なお、吸水して塗膜を剥がしたとき、接着層は塗膜とともに剥がれてもよく、基材側に接着層が残ってもよい。基材側に接着層が残った場合でも、更に水で処理して吸水させることにより、残った接着層を剥離除去することができ、基材をリサイクルすることができる。また、上記塗膜に接着層が残っている場合、当該塗膜に残った接着層に対して更に水で処理することにより、当該塗膜から接着層を剥離除去し、これにより塗膜をリサイクルしてもよい。
【0044】
上記基材としては、特に限定されず、例えば、ガラス板、コンクリート等の無機基材が挙げられる。また、ポリエステル(PET、PEN等)、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリオレフィン等の合成樹脂からなるフィルム、シート、板等の合成樹脂基材、木質基材などの有機基材が挙げられる。
【0045】
接着剤の塗布方法としては、特に限定されず、例えば、ナイフコータ、ロールコータ、スプレー等の方法によって塗工することができる。
【0046】
接着層の厚みは、特に限定されず、例えば0.1~500μmでもよく、0.5~100μmでもよい。
【0047】
一実施形態に係る物品は、上記接着剤により形成された接着層を備えるものである。すなわち、該物品は、被着体としての第1部材及び第2部材と、これら第1部材と第2部材とを接着する接着層とを備え、該接着層が上記接着剤により形成されている。接着層は、上記接着剤を塗布し、乾燥することにより形成されており、そのため上記接着剤の不揮発分により形成される。
【0048】
上記被着体としての第1部材及び第2部材は、物品の一部をなす材であり、形状は特に限定されない。例えば、第1部材及び第2部材の一方は上記プライマー用途における基材でもよく、もう一方は上塗り塗料により形成される塗膜でもよい。該基材同士を上記接着剤により貼り合わせてもよい。
【実施例0049】
以下に実施例について比較例とともに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
実施例及び比較例で使用した成分の詳細は以下のとおりである。
【0051】
[水系樹脂]
水系樹脂1:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス460」(アニオン性ウレタンエマルジョン/カーボネート系、不揮発分38質量%)
【0052】
水系樹脂2:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス150」(アニオン性ウレタンエマルジョン/エステル・エーテル系、不揮発分30質量%)
【0053】
水系樹脂3:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス210」(アニオン性ウレタンエマルジョン/エステル系、不揮発分35質量%)
【0054】
水系樹脂4:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス500M」(ノニオン性ウレタンエマルジョン/エステル系、不揮発分45質量%)
【0055】
水系樹脂5:第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス620」(カチオン性ウレタンエマルジョン/エステル系、不揮発分30質量%)
【0056】
水系樹脂6:ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール730L」(ノニオン性アクリルエマルジョン、不揮発分46質量%)
【0057】
水系樹脂7:ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール51」(ノニオン性酢酸ビニルエマルジョン、不揮発分50質量%)
【0058】
水系樹脂8:互応化学工業株式会社性「プラスコートRZ-105」(アニオン性ポリエステルエマルジョン、不揮発分25質量%)
【0059】
[セルロース繊維]
セルロース繊維1:下記製造例1により得られた、数平均繊維径3nm、平均アスペクト比300、カルボキシ基量2.0mmol/gのTEMPO酸化セルロースナノファイバー。
[製造例1]
針葉樹パルプ2gに、水150mL、0.25gの臭化ナトリウム、0.025gのTEMPOを加え、充分撹拌して分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が5.2mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10~11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120分)。反応終了後、0.1N塩酸を添加してpH2に調整した後、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維を得た。これに純水を加えてセルロース繊維濃度2質量%に希釈し、10質量%水酸化ナトリウムを添加してpH7に調整した。これを高圧ホモジナイザー(H11、三和エンジニアリング社製)を用いて圧力100MPaで1回処理し、セルロース繊維1を調製した。
【0060】
セルロース繊維2:下記製造例2により得られた、数平均繊維径3nm、平均アスペクト比300、カルボキシ基量2.0mmol/gのTEMPO酸化セルロースナノファイバー。
[製造例2]
中和工程において、水酸化ナトリウムに替えてテトラブチルアンモニウムヒドロキシドを用いた以外は、製造例1と同様の製法でセルロース繊維2を得た。
【0061】
セルロース繊維3:下記製造例3により得られた、数平均繊維径3nm、平均アスペクト比200、リン酸基量2.5mmol/gのリン酸化セルロースナノファイバー。
[製造例3]
特開2020-100845号公報の製造例1に記載の方法で調製した。すなわち、尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを110gの水に溶解させた。その後、針葉樹晒クラフトパルプ100gを添加し、140℃で2時間反応させた。次に、繊維を取り出し、水で洗浄した後、中和剤として2N水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、pHを12~13に調製し、再度水で洗浄した。その後、脱水を行った後に、セルロース繊維濃度が2.0質量%になるように水で希釈した。その後、微細化処理工程として、マイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、10パス)を行うことによって、セルロース繊維3を得た。
【0062】
セルロース繊維4:下記製造例4により得られた、数平均繊維径35nm、平均アスペクト比250の未変性セルロースナノファイバー。
[製造例4]
針葉樹パルプ50.0gを水950.0gに分散させ、家庭用ミキサーで粉砕後、石臼式磨砕機で解繊し、更に水を加えてセルロース繊維濃度が2質量%の水分散液とした。得られた2質量%水分散液にマイクロフルイタイザーによる処理(150MPa、1パス)を行うことでセルロース繊維4を得た。
【0063】
[接着剤の調製]
下記表1に示す配合に従い、水系樹脂のエマルジョン(水系樹脂1~8)とセルロース繊維の水分散液(セルロース繊維1~4)を混合して実施例1~14及び比較例1~3の接着剤を調製した。表1中の配合は、水系樹脂とセルロース繊維の不揮発分としての質量比であり、樹脂の不揮発分を100質量部として示した。各接着剤は、樹脂の不揮発分濃度が10質量%(但し、比較例1では5質量%)となるように水で希釈して調製した。
【0064】
得られた接着剤について、吸水率(質量)、吸水率(厚み)、接着性(吸水前)、及び剥離性(吸水後)を評価した。評価方法は以下のとおりである。
【0065】
[吸水率(質量)]
上記接着剤を離型紙に塗布し、40℃×24時間乾燥して、乾燥膜厚が500μmのフィルムを得た。得られたフィルムを2cm×4cmに切り出して試験片とした。該試験片を23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後の質量(Wd)を測定した。また、該試験片を室温にてイオン交換水に24時間浸漬してから、イオン交換水から取り出し、表面の水滴を拭き取って直ちに試験片の質量(W)を測定した。下記式により、吸水率(質量)を求めた。
吸水率(質量)={(W-Wd)/Wd}×100
【0066】
[吸水率(厚み)]
吸水率(質量)と同様に、試験片を作製し、得られた試験片を23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後に厚み(Dd)を測定した。また、該試験片を室温にてイオン交換水に24時間浸漬し、イオン交換水から取り出した直後に試験片の厚み(D)を測定した。下記式により、吸水率(厚み)を求め、下記評価基準に従い評価した。
吸水率(厚み)={(D-Dd)/Dd}×100
<評価基準>
○:吸水率(厚み)の数値が50以上
△:吸水率(厚み)の数値が20以上50未満
×:吸水率(厚み)の数値が20未満
【0067】
[接着性(吸水前)]
上記接着剤を基材に塗工し、80℃×10分乾燥して、乾燥膜厚が20μmの塗膜を形成した。基材として、実施例1~8及び比較例1~2ではガラス板を用い、実施例9~14及び比較例3ではコロナ処理PETフィルムを用いた。
次いで、塗膜の上に、光硬化樹脂液を塗工し、80℃×10分乾燥して、乾燥膜厚が20μmの光硬化樹脂層を形成して、積層体を得た。光硬化樹脂液としては、光硬化樹脂オリゴマー(第一工業製薬株式会社製「ニューフロンティアR-1220」)に、光重合開始剤(IGM Resins B.V.製「Omnirad 184」)を3質量%にて混合して調製した混合液を用いた。
得られた積層体に紫外線照射し、試験片を作製した。紫外線照射条件は、窒素雰囲気(酸素濃度0.3%)下、ランプを高圧水銀灯80W/cm、積算照度250mJ/cm、ラインスピード5m/min、電力2kWとした。
作製した試験片について、JIS K5400 8.5.2:1990に準拠して碁盤目剥離試験を実施した。碁盤目100点のうち、各層が付着した状態の点数が70以上の場合を「〇」、20以上70未満の場合を「△」、20未満の場合は「×」とした。
【0068】
[剥離性(吸水後)]
接着性(吸水前)と同様に、試験片を作製し、得られた試験片を80℃のイオン交換水に24時間浸漬し、イオン交換水から取り出し、40℃にて24時間乾燥後にJIS K5400 8.5.2:1990に準拠して碁盤目剥離試験を実施した。碁盤目100点のうち、吸水前の試験結果と比較して剥離箇所が30以上増加した場合を「〇」、15以上30未満増加した場合を「△」、15未満の場合を「×」とした。
【0069】
【表1】
【0070】
結果は表1に示すとおりである。実施例1~8及び比較例1~2は基材としてガラス板を用いた例である。この場合、接着剤成分としての水系樹脂1のみを配合しセルロース繊維を配合していない比較例2では、吸水前の接着性には優れていたものの、水に浸漬したときの吸水率が低く、吸水後の剥離性に劣っていた。比較例1では、混合液の粘度が高く塗工が困難であったため、吸水率(質量)、吸水率(厚み)、接着性及び剥離性の評価は実施せず、表1では「-」と表示した。
【0071】
これに対し、水系樹脂1,2とともにセルロース繊維1~4を配合した実施例1~8であると、吸水前の接着性に優れるとともに、水に浸漬した後の厚み変化が大きく、吸水後の剥離性に優れていた。実施例1~3と実施例4との比較により、セルロース繊維の種類については、未変性品よりもアニオン性基を導入したものの方が吸水率(質量)及び吸水率(厚み)が向上していた。また、セルロース繊維の量が多いほど吸水率(質量)及び吸水率(厚み)は向上したが、塗工性は低下する傾向があった。
【0072】
実施例9~14及び比較例3は基材としてPETフィルムを用いた例である。この場合も、接着剤成分としての水系樹脂6のみを配合しセルロース繊維を配合していない比較例3では、吸水前の接着性には優れていたものの、水に浸漬したときの厚みも変化が小さく、吸水後の剥離性に劣っていた。
【0073】
これに対し、水系樹脂3~8とともにセルロース繊維1を配合した実施例9~14であると、吸水前の接着性に優れるとともに、水に浸漬した後の厚み変化が大きく、吸水後の剥離性に優れていた。実施例9~11の比較により、水系樹脂としてのウレタンエマルジョンの種類については、カチオン性よりもノニオン性、ノニオン性よりもアニオン性の方が、吸水前の接着性及び吸水後の剥離性において良好な傾向が見られた。
【0074】
接着性(吸水前)及び剥離性(吸水後)の評価において、いずれの実施例及び比較例についても、接着層と光硬化樹脂層との接着性は良好であり、接着層と光硬化樹脂層との界面での剥離はみられなかった。
【0075】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0076】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。