(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139342
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20241002BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050234
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱 久也
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】山本 博輝
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038DL021
4J038DL031
4J038HA141
4J038JA16
4J038KA06
4J038LA02
4J038MA06
4J038NA12
4J038NA25
4J038PA19
4J038PB01
4J038PB05
4J038PC03
(57)【要約】
【課題】本発明は、基材との密着性、透明性、溶液の分散安定性に優れ、抗菌抗ウイルス効果を有する組成物を提供する事を目的とする。
【解決手段】Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物であって、
前記Si化合物は、アルキルシランの加水分解物であり、
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が0.1質量%以上であり、
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~50nmであり、
前記溶媒は、水及びアルコールを含む、組成物。
【請求項2】
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が1%質量以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~20nmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~10nmである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記Ti化合物は、表面に有機鎖が結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記Ti化合物は、表面にアセチル基、及びアセトキシ基から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機鎖が結合している、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記Ti化合物の含有量は、組成物中、0.01質量%~5質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記Si化合物の含有量は、組成物中、0.01質量%~20質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記Ti化合物と前記Si化合物との組成物中の含有比率は、Si化合物に対して、質量比で、Ti化合物が0.02~20の割合で含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記Ti化合物と前記Si化合物との組成物中の含有比率は、Si化合物に対して、質量比で、Ti化合物が0.1~1の割合で含まれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記Si化合物は、TEOSの加水分解生成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
更に、銀、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
請求項1~13の何れかに記載の組成物から成る、抗菌抗ウイルスコーティング膜。
【請求項15】
Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物の製造方法であって、
(1)溶媒中で、Ti化合物の表面に有機鎖を結合させる工程、及び
(2)溶媒中で、工程(1)で得られた有機鎖が結合しているTi化合物と、Si化合物とを混合し、Si化合物を加水分解させる工程
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン(TiO2)は、光触媒活性を有し、紫外光環境下において、超親水性を示す等、特異的な性能を有する。酸化チタンは、壁紙の防汚コーティング、自動車の消臭コーティング、水素生成触媒等、様々な場面への応用が期待されている。酸化チタンは、紫外光のみで効果を発揮するという弱点を改善すべく、可視光にも応答性を持たす可視光応答性光触媒が開発されている。
【0003】
特許文献1は、無機金属と複合化させる抗菌抗ウイルス剤を開示する。特許文献2は、酸化チタンの粒子径を微細に制御し、可視光に対して透明度を向上させて、基材の意匠性を損なわずに、光触媒効果を付与する光触媒材料を開示する。
【0004】
光触媒酸化チタンは、今後、様々な場面で応用が期待されている材料である。
【0005】
従来、しかし、基材と酸化チタンとの固定化に課題が有る。酸化チタンの長期の使用では、酸化チタンは、擦り減ったり、雨風等の外的要因に因り、基材から剥がれ落ちたりして、酸化チタンの効果が持続しないという問題が有る。
【0006】
そこで、酸化チタンとシリカ系のバインダーとを複合化し、基材との密着性を向上させる事が提案されている。
【0007】
特許文献3、及び4は、酸化チタンとコロイダルシリカ、Si系のバインダー等と複合化して密着力を改善した光触媒を開示する。
【0008】
従来、しかし、表面エネルギー差の違いに因って、液中での酸化チタンの分散安定性が低下し、液の透明性が低下するという課題が有る。液中での酸化チタンの凝集に伴い、液全体の分散安定性が低下し、長期の保管で、液中での酸化チタンの沈殿、分離等が発生し、使用上の問題が有る。バインダー等と複合化した酸化チタンは、バインダーを含まない酸化チタンと比較すると、密着性は改善されているものの、チタニアゾルが凝集しており、そこを起点として、酸化チタンを含む膜に剥がれ、割れ等が生じるという、耐久性に問題が有る。
【0009】
酸化チタンを使用する光触媒は、実装において、透明性、耐久性、溶媒安定性、光触媒活性等を、両立して、発揮させる事が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第6714530号
【特許文献2】特許第6607407号
【特許文献3】特許第7121356号
【特許文献4】特開平09-075243
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、基材との密着性、透明性、溶液の分散安定性に優れ、抗菌抗ウイルス効果を有する組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次のTi化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物を包含する。
【0013】
項1.
Ti(チタン)化合物(チタニアナノ粒子)、Si化合物(ケイ素、Siバインダー)、及び溶媒を含有する組成物であって、
前記Si化合物は、アルキルシランの加水分解物であり、
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が0.1質量%以上であり、
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~50nmであり、
前記溶媒は、水及びアルコールを含む、組成物。
【0014】
項2.
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が1%質量以上である、前記項1に記載の組成物。
【0015】
項3.
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が5質量%以上である、前記項1に記載の組成物。
【0016】
項4.
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~20nmである、前記項1に記載の組成物。
【0017】
項5.
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~10nmである、前記項1に記載の組成物。
【0018】
項6.
前記Ti化合物は、表面に有機鎖が結合している、前記項1に記載の組成物。
【0019】
項7.
前記Ti化合物は、表面にアセチル基、及びアセトキシ基から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機鎖が結合している、前記項1に記載の組成物。
【0020】
項8.
前記Ti化合物の含有量は、組成物中、0.01質量%~5質量%である、前記項1に記載の組成物。
【0021】
項9.
前記Si化合物の含有量は、組成物中、0.01質量%~20質量%である、前記項1に記載の組成物。
【0022】
項10.
前記Ti化合物と前記Si化合物との組成物中の含有比率は、Si化合物に対して、質量比で、Ti化合物が0.02~20の割合で含まれる、前記項1に記載の組成物。
【0023】
項11.
前記Ti化合物と前記Si化合物との組成物中の含有比率は、Si化合物に対して、質量比で、Ti化合物が0.1~1の割合で含まれる、前記項1に記載の組成物。
【0024】
項12.
前記Si化合物は、TEOSの加水分解生成物である、前記項1に記載の組成物。
【0025】
項13.
更に、銀、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する、前記項1に記載の組成物。
【0026】
項14.
前記項1~13の何れかに記載の組成物から成る、抗菌抗ウイルスコーティング膜。
【0027】
項15.
Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物の製造方法であって、
(1)溶媒中で、Ti化合物の表面に有機鎖を結合させる工程、及び
(2)溶媒中で、工程(1)で得られた有機鎖が結合しているTi化合物と、Si化合物とを混合し、Si化合物を加水分解させる工程、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0028】
従来、チタニア粒子と、アルコキシシランの加水分解物であるバインダーとを別々に添加し、基材の密着性を高めてきた。従来の方法は、チタニア粒子の安定性が低下し、凝集を起こし、透明性の低下、液の沈殿等が発生する。
【0029】
本発明は、先ず、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる。次に、そのチタニア粒子とバインダーの原料となるアルコキシシランとを混合し、両者の共存化で、高分散性を維持したまま、加水分解反応を行い、チタニア粒子複合バインダーを作製する。
【0030】
本発明は、新しいプロセスに依って、チタニア粒子を含む組成物を作製する事に依り、従来、課題であったチタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明を表す実施の形態は、発明の趣旨がより良く理解出来る説明であり、特に指定のない限り、発明内容を限定するものではない。
【0033】
本明細書において、「含む」及び「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみから成る(consist essentially of)」、及び「のみから成る(consist of)」の何れも包含する概念である。
【0034】
本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、「A以上、B以下」を意味する。
【0035】
本明細書において、一般に、部、%等の表示を使用する。
【0036】
本明細書において、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0037】
[1]Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物
本発明のTi(チタン)化合物、Si(ケイ素)化合物、及び溶媒を含有する組成物は、
前記Si化合物は、アルキルシランの加水分解物であり、
前記Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が0.1質量%以上であり、
前記Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~50nmであり、
前記溶媒は、水及びアルコールを含む。
【0038】
本発明の組成物では、Ti化合物は、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が、好ましくは、1%質量以上であり、より好ましくは、5質量%以上である。
【0039】
本発明の組成物では、Ti化合物の平均一次粒子径は、好ましくは、1nm~20nmであり、より好ましくは、1nm~10nmである。
【0040】
本発明の組成物では、Ti化合物は、好ましくは、表面に有機鎖が結合しており、より好ましくは、表面にアセチル基、及びアセトキシ基から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機鎖が結合している。
【0041】
本発明の組成物では、Ti化合物の含有量は、組成物中、好ましくは、0.01質量%~5質量%である。
【0042】
本発明の組成物では、Si化合物の含有量は、組成物中、好ましくは、0.01質量%~20質量%である。
【0043】
本発明の組成物では、Ti化合物とSi化合物との組成物中の含有比率は、好ましくは、Si化合物(1質量部)に対して、質量比で、Ti化合物が0.02~20(0.02質量部~20質量部)の割合で含まれ、より好ましくは、Ti化合物が0.1~1(0.1質量部~1質量部)の割合で含まれる。
【0044】
本発明の組成物では、Si化合物は、好ましくは、TEOS(Tetraethyl orthosilicate、Si(OC2H5)4、オルトケイ酸テトラエチル、テトラエトキシシラン)の加水分解生成物である。
【0045】
本発明の組成物では、好ましくは、更に、銀、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する。
【0046】
本発明は、本発明の組成物から成る、抗菌抗ウイルスコーティング膜を包含する。
【0047】
[1-1]Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物
組成物は、Ti化合物(チタニアナノ粒子)、Si化合物、及び溶媒を含み、Si化合物は、Siバインダーであり、アルキルシラン(TEOS等)の加水分解物である。
【0048】
Ti化合物は、好ましくは、表面に有機鎖が結合しており、Ti化合物を示唆熱熱重量同時測定装置に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少が0.1質量%以上である。
【0049】
Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~50nmである。
【0050】
溶媒は、水及びアルコール(1-プロパノール、1-ブタノール等)を含む。
【0051】
Ti化合物、Si化合物(Siバインダー)、及び溶媒を含有する組成物は、チタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【0052】
[1-2]Ti化合物(チタニアナノ粒子)
水、無機酸、遊離した有機酸等は、一般に、200℃以下で、殆ど揮発する。
【0053】
本発明の組成物に含まれるTi化合物(チタニアナノ粒子)は、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセチル基(CH3-C(=O)-、Ac)、アセトキシ基(アセチルオキシ基、CH3-C(=O)-O-、AcO)等が結合しており、200℃~600℃の範囲で、徐々に脱離する。例えば、アセトキシ基の場合、約260℃をピークとして、200~600℃の範囲で、徐々に脱離する。
【0054】
本発明の組成物に含まれるTi化合物は、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる事が出来る。
【0055】
本発明の組成物に含まれるTi化合物は、好ましくは、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子に、アセチル基、アセトキシ基等の有機鎖が結合しており、乾燥、又は焼成時に、チタニアナノ粒子同士の凝集を抑制出来る為、クラック、剥がれ等が起こり難く、塗布性、及び透明性に特に優れる。
【0056】
本発明の組成物に含まれるTi化合物は、クラック、剥がれ等を抑制する事が出来、金属を強固に複合化させ易い結果、可視光触媒活性にも優れる。
【0057】
本発明の組成物に含まれるTi化合物は、乾燥、又は焼成時に、チタニアナノ粒子同士の凝集を抑制出来る為、クラック、剥がれ等の抑制効果が特に優れている。
【0058】
Ti化合物は、好ましくは、表面に存在するチタン原子に、アセチル基、アセトキシ基等の有機鎖が結合している。表面に存在する少なくとも一部のチタン原子にアセチル基、アセトキシ基等の有機鎖が存在している場合、200℃~600℃の範囲で、徐々に離脱する事から、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)に依って、昇温させた場合に200℃以上での質量減少が大きい。
【0059】
Ti化合物は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)に依って、昇温させた場合に200℃以上での質量減少は、表面に存在するチタン原子にアセチル基、アセトキシ基等の有機鎖が結合している数の指標を意味する。
【0060】
Ti化合物は、示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)に依って、600℃まで昇温させた場合の200℃以上における質量減少は、0.1質量%以上であり、好ましくは、1質量%以上であり、より好ましくは、5質量%以上である。Ti化合物の質量減少の上限値は、好ましくは、20質量%である。
【0061】
示差熱熱重量同時測定装置(TG-DTA)の詳細な条件は、雰囲気:空気、昇温速度:3℃/分である。
【0062】
Ti化合物は、好ましくは、表面に存在する少なくとも一部のチタン原子に、アセチル基、アセトキシ基等の有機鎖が結合しているものである。
【0063】
有機鎖は、水溶性、臭気、揮発性、有害性、分解性等の観点から、アセチル基(CH3-C(=O)-)、アセトキシ基(CH3-C(=O)-O-)等である。
【0064】
有機鎖は、前記有機鎖から成る群から選ばれる少なくとも1種の有機鎖が結合していて良く、これらの有機鎖を1種単独で結合しても良く、或は目的に応じて2種以上の有機鎖が結合して良い。
【0065】
Ti化合物の平均一次粒子径は、1nm~50nmであり、より好ましくは、1nm~20nmであり、更に好ましくは、1nm~10nmである。Ti化合物の平均粒子径を、この範囲に調整する事に依り、Ti化合物に、金属(銀、及び銅)を適度、且つより強固に複合化させる事が出来る。チタニアナノ粒子は、可視光触媒活性がより高く、且つ透明性のより高い膜を形成すする事が出来る。Ti化合物は、塗布性に優れる。
【0066】
Ti化合物(チタニアナノ粒子)の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察に依り、測定する。
【0067】
Ti化合物の比表面積は、好ましくは、150m2/g~500m2/gであり、より好ましくは、200m2/g~400m2/gである。Ti化合物の比表面積を、この範囲に調整する事に依り、Ti化合物に、金属(銀及び銅)を、適度、且つより強固に複合化させる事が出来る。Ti化合物は、可視光触媒活性が高い。
【0068】
Ti化合物の比表面積は、BET法に依り、測定する。
【0069】
Ti化合物は、N、Cl、及びS元素の濃度を、何れも、好ましくは、0~5,000ppm、より好ましくは、0~1,000ppmとする事が出来る。Ti化合物のN、Cl、及びS元素の濃度を、この範囲に調整する事に依り、基材の腐食等を抑える事が出来る。Ti化合物のN、Cl、及びS元素の濃度は、TiCl4、TiOSO4等の酸性Ti化合物前駆体由来の不純物が存在しないか、又はごく少量である事を意味している。
【0070】
Ti化合物のN、Cl、及びS元素の濃度は、WDX(蛍光X線)に依り、測定する。
【0071】
Ti化合物の結晶形は、好ましくは、アナターゼ型が好ましく、チタニアナノ粒子は、好ましくは、アナターゼ型以外の結晶形を含まない。Ti化合物は、アナターゼ型を採用する事に依り、Ti化合物は、可視光触媒活性が向上する。Ti化合物は、好ましくは、アナターゼ型以外の結晶形を含まず、アナターゼ型100%である。
【0072】
[1-3]Si(ケイ素)化合物(Siバインダー)
本発明の組成物に含まれるTi化合物(チタニア粒子)は、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる事が出来る。
【0073】
Ti化合物(チタニア粒子)とバインダーの原料となるアルコキシシラン(Si化合物)とを混合し、両者の共存化で、高分散性を維持したまま、加水分解反応を行い、チタニア粒子複合バインダーを作製する事が出来る。
【0074】
本発明の組成物は、チタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【0075】
Si化合物は、アルキルシラン(アルコキシシラン)の加水分解物である。
【0076】
アルキルシラン(アルコキシシラン)は、好ましくは、モノアルコキシシラン、ジアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、テトラエトキシシラン等を用いる。
【0077】
モノアルコキシシランは、好ましくは、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等を用いる。
【0078】
ジアルコキシシランは、好ましくは、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジメトキシメチル-n-オクチルシラン等を用い、より好ましくは、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等を用いる。
【0079】
トリアルコキシシランは、好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリプロポキシシラン、n-プロピルトリイソプロポキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリプロポキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン等を用い、より好ましくは、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン等を用いる。
【0080】
テトラアルコキシシランは、好ましくは、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等であり、より好ましくは、テトラエトキシシラン(オルトケイ酸テトラエチル)、テトラメトキシシラン等を用いる。
【0081】
アルキルシランは、前記アルキルシランから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのアルキルシランを1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0082】
Si化合物は、特に好ましくは、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル、テトラエトキシシラン)の加水分解生成物である。
【0083】
[1-4]溶媒
溶媒は、水及びアルコールを含む。
【0084】
アルコールは、好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の炭素数1~6の脂肪族アルコール、α-テルピネオール等の非脂肪族アルコール;ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)、エチレングリコール-2-エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶媒;1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール等である。
【0085】
組成物の溶媒を変更する事も可能である。遠心分離、ろ過膜等に依り、反応液から水分を除去し、有機溶媒に置換しても良い。
【0086】
アルコールは、前記アルコールから成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのアルコールを1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0087】
[1-5]金属
本発明の組成物では、好ましくは、更に、銀、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する。
【0088】
組成物において、金属(銀、銀塩等)のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化に依り、組成物の塗布性、及び透明性を維持し易く、暗所での抗菌活性、及び抗ウイルス活性、並びに光触媒活性を、特に向上させる事が出来る。
【0089】
銀化合物として銀塩を使用する場合、銀塩は、好ましくは、水溶液が酸性、又は中性の銀塩である。銀塩は、好ましくは、塩化銀(I)、硝酸銀(I)、有機酸銀(乳酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、ミリスチン酸銀(I)等)、硫化銀(I)、酸化銀(I)、リン酸銀(I)、炭酸銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等を用いる。
【0090】
銀塩は、前記銀塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの銀塩を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0091】
銀(銀塩)、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属の使用量は、金属(銀、銀塩等)のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化を容易にし、分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性、及び抗ウイルス活性)、Ti化合物(チタニアナノ粒子)の安定性等の観点から、銀塩中の銀元素の質量に換算して、好ましくは、Ti化合物(チタニアナノ粒子)中の酸化チタンに対して、50質量%以下であり、より好ましくは、0.01質量%~40質量%であり、更に好ましくは、0.01質量%~25質量%である。
【0092】
金属(銀、銀塩等)の使用量を、この範囲に調整する事に依り、金属(銀、銀塩等)のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化を容易にし、塗布性、及び透明性を維持し易く、暗所での抗菌活性、及び抗ウイルス活性、並びに光触媒活性を、特に向上させる事が出来る。
【0093】
[1-6]Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する分散液
本発明の組成物に含まれるTi化合物(チタニア粒子)は、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる事が出来る。
【0094】
Ti化合物(チタニア粒子)とバインダーの原料となるアルコキシシラン(Si化合物)とを混合し、両者の共存化で、高分散性を維持したまま、加水分解反応を行い、チタニア粒子複合バインダーを作製する事が出来る。
【0095】
本発明の組成物は、チタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【0096】
本発明の組成物は、分散性が良い結果、コーティングの耐クラック性に優れる。本発明の組成物は、緻密なチタニアのコーティングも可能に成り、塗布性、及び透明性にも優れる上に、可視光触媒活性にも優れる。
【0097】
組成物では、Ti化合物の含有量は、コーティングの容易さ、コーティングの膜性等の観点から、組成物中、好ましくは、0.01質量%~5質量%である。
【0098】
組成物では、Si化合物の含有量は、コーティングの容易さ、コーティングの膜性等の観点から、組成物中、好ましくは、0.01質量%~20質量%である。
【0099】
組成物では、Ti化合物とSi化合物との組成物中の含有比率は、コーティングの容易さ、コーティングの膜性等の観点から、好ましくは、Si化合物(1質量部)に対して、質量比で、Ti化合物が0.02~20(0.02質量部~20質量部)の割合で含まれ、より好ましくは、Ti化合物が0.1~1(0.1質量部~1質量部)の割合で含まれる。
【0100】
組成物(分散液)のpHは、添加する金属種や金属種の添加量に因って異なり、塗布性の観点から、好ましくは、1~5であり、より好ましくは、2~4である。
【0101】
Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する分散液は、用途に応じて、好ましくは、粘度を調整し、塗料とする。塗料の塗工に、スピンコート、ディップコート、スプレー等に用いる場合、好ましくは、低粘度に調整する。塗料の塗工に、刷毛塗り、スキージ法等に用いる場合、好ましくは、それより粘度を高く調整する。塗料の塗工に、スクリーン印刷に用いる場合、好ましくは、更に粘度を高く調整し、流動性を抑制する。
【0102】
得られる塗膜は、緻密なコーティングを可能とする。
【0103】
本発明は、本発明の組成物から成る、抗菌抗ウイルスコーティング膜を包含する。
【0104】
塗膜を備える塗装製品は、特に制限されず、例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、各種レンズ、構造部材、住宅等建築設備、調理器具、繊維製品、家具、ディスプレイ、ディスプレイ保護フィルム、水回り部材、車両用照明灯のカバー及び窓ガラス、機械装置、又は物品の外装、防塵カバー及び塗装、表示機器、そのカバー、交通標識、各種表示装置、広告塔等の表示物、道路用及び鉄道用等の遮音壁、橋梁、ガードレールの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー等外部で用いられる電子、電気機器の外装部、特に透明部材、ビニールハウス、温室等の外装等である。
【0105】
[2]Ti化合物、Si化合物、及び溶媒を含有する組成物の製造方法
本発明のTi(チタン)化合物、Si(ケイ素)化合物、及び溶媒を含有する組成物の製造方法は、
(1)溶媒中で、Ti化合物の表面に有機鎖を結合させる工程、及び
(2)溶媒中で、工程(1)で得られた有機鎖が結合しているTi化合物と、Si化合物とを混合し、Si化合物を加水分解させる工程、を含む。
【0106】
本発明の製造方法では、先ず、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる。
【0107】
本発明の製造方法では、次に、そのチタニア粒子とバインダーの原料となるアルコキシシランとを混合し、両者の共存化で、高分散性を維持したまま、加水分解反応を行い、チタニア粒子複合バインダーを作製する。
【0108】
本発明の製造方法は、新しいプロセスに依って、チタニア粒子を含む組成物を作製する事に依り、従来、課題であったチタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【0109】
[2-1](1)溶媒中で、Ti化合物の表面に有機鎖を結合させる工程
(コーティング組成物の作製)
本発明の製造方法では、先ず、微細なチタニア表面に有機物を付与する事で、チタニア粒子の分散性を向上させる。
【0110】
工程(1)では、溶媒中で、Ti化合物の表面に有機鎖を結合させる。
【0111】
Ti化合物(チタンを含む物質)は、好ましくは、加熱に依り酸化チタンと成る物質である。チタンを含む物質は、好ましくは、酸化チタン、及び/又は酸化チタン前駆体でありより好ましくは、酸化チタン;水酸化チタン;チタンアルコキシド;三塩化チタン、四塩化チタン等のハロゲン化チタン(特に、塩基で中和したもの);金属チタン等を用いる。
【0112】
チタンを含む物質は、得られるチタニアの分散性、塗布性、及び可視光触媒性の観点から、好ましくは、チタンアルコキシド、水酸化チタン、ハロゲン化チタン(特に、塩基で中和したもの)である。チタンを含む物質は、純度、分散性、塗布性、透明性、及び可視光触媒性の観点から、より好ましくは、チタンアルコキシドである。
【0113】
チタンアルコキシドは、好ましくは、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-ブトキシド、チタンテトラn-プロポキシド、チタンテトラエトキシド等である。チタンアルコキシドは、コスト、副生成物の水溶性、塗布性及び可視光触媒性の観点から、より好ましくは、チタンテトライソプロポキシドである。
【0114】
Ti化合物は、前記Ti化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらのTi化合物を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0115】
Ti化合物の平均粒子径は、好ましくは、100nm以下であり、より好ましくは、50nm以下せある。チタンを含む物質の平均粒子径の下限値は、特に設定されず、好ましくは、1nm程度である。粒径が大きい場合は、好ましくは、遊星ボールミル、ペイントシェーカー等を用いて乾式、又は湿式で、粉砕して用いる。
【0116】
Ti化合物(酸化チタン、金属チタン等の固体)の平均粒子径は、電子顕微鏡(TEM)観察に依り、測定する。
【0117】
分散液中のTi化合物の濃度は、生産性、反応液の粘度、塗布性、透明性及び可視光触媒性の観点から、好ましくは、0.01mol/L~5mol/Lであり、より好ましくは、0.05mol/L~3mol/Lである。
【0118】
反応に使用する酸は、有機酸であり、揮発性のある酸が好ましい事から、好ましくは、化学式CnH2n+1COOH(n=0~3)で示されるモノカルボン酸(炭素数1~4のモノカルボン酸)、炭素数2~3のヒドロキシカルボン酸等を用いる。
【0119】
モノカルボン酸は、揮発性、有害性及び分解性の観点から、好ましくは、n=0のギ酸、及びn=1の酢酸である。
【0120】
ヒドロキシカルボン酸は、好ましくは、グリコール酸、乳酸等であり、水溶性、及び臭気の観点から、より好ましくは、酢酸、グリコール酸、乳酸等である。
【0121】
有機酸は、前記有機酸から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの有機酸を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0122】
有機酸の使用量は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、Ti化合物中のチタン1モルに対して、好ましくは、アシルオキシ基のモル数が0.5モル以上、より好ましくは、1モル以上と成る様に調整する。有機酸の使用量の上限値は、特に制限されず、Ti化合物中のチタン1モルに対して、好ましくは、アシルオキシ基のモル数が10モル以下と成る様に調整する。
【0123】
分散液中の有機酸の濃度は、分散性、塗布性、透明性、可視光触媒性及びコストの観点から、好ましくは、0.02mol/L~10mol/Lであり、より好ましくは、0.1mol/L~7mol/Lである。
【0124】
反応溶媒は、好ましくは、水等の水性溶媒を主成分(好ましくは、50質量%以上)として用いる。反応溶媒は、反応時にアルコール、又はエステルを含んでいても良い。
【0125】
反応溶媒は、チタンテトライソプロポキシドを原料として用いた場合、有機酸との反応に依り、イソプロピルアルコールが生じる。加熱に依り、有機酸のイソプロピルエステルが生じる事が有る。分散液中には、アルコール、又はエステルを投入しても良いし、系中で発生していても良い。アルコール、又はエステルは、100℃以下の開放系における加熱に依り除去しても良いし、減圧に依り除去しても良いし、反応液中に残留していても良い。
【0126】
分散液中にアルコールが含まれる場合、得られるTi化合物(チタニアナノ粒子)の平均粒子径が小さくなる傾向に有り、平均粒子径を制御する為に、意図的にアルコールを添加しても良い。
【0127】
分散液のpHは、装置の腐食や取扱いの安全性、分散性等の観点から、好ましくは、2以上、6未満であり、より好ましくは、2.1~5である。
【0128】
分散液の作製方法は、特に制限されず、Ti化合物、有機酸及び水(溶媒)を同時に混合しても良いし、逐次混合しても良い。量産スケールにおいては、凝集して大きな塊を形成し難く、攪拌を継続し易い観点から、好ましくは、有機酸、及び水(溶媒)を混合した後に、攪拌しながらチタンを含む物質を投入する。ラボスケールにおいては、好ましくは、チタンを含む物質、及び有機酸を混合した後に、攪拌しながら水を投入する。
【0129】
[2-2](追加的に)金属イオンとの複合化させる工程
本発明の製造方法では、追加的に、Ti化合物と金属イオンとの複合化させる事が出来る。工程(1)で得られた分散液と、銀塩とを混合して得た分散液に対して、紫外線照射を行う。
【0130】
銀(銀塩)、銅、及び白金から成る群から選ばれる少なくとも1種の金属の金属イオンに依り、金属(銀、銀塩等)のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化を行い、組成物の分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性、及び抗ウイルス活性)、Ti化合物(チタニアナノ粒子)の安定性を向上させる事が出来る。
【0131】
銀塩は、好ましくは、水溶液が酸性、又は中性の銀塩である。銀塩は、好ましくは、塩化銀(I)、硝酸銀(I)、有機酸銀(乳酸銀(I)、酢酸銀(I)、クエン酸銀(I)、ミリスチン酸銀(I)等)、硫化銀(I)、酸化銀(I)、リン酸銀(I)、炭酸銀(I)、臭化銀(I)、ヨウ化銀(I)等を用いる。
【0132】
銀塩は、前記銀塩から成る群から選ばれる少なくとも1種の化合物を用いて良く、これらの銀塩を1種単独で用いても良く、或は目的に応じて2種以上を混合(ブレンド)して用いても良い。
【0133】
銀塩の使用量は、分散性、透明性、抗微生物活性(抗菌活性、及び抗ウイルス活性)、Ti化合物(チタニアナノ粒子)の安定性等の観点から、銀塩中の銀元素の質量に換算して、好ましくは、分散液に含まれるTi化合物(チタニアナノ粒子)中の酸化チタンに対して、50質量%以下であり、より好ましくは、0.01質量%~40質量%であり、更に好ましくは、0.1質量%~25質量%である。銀塩の使用量を、この範囲に調整する事に依り、銀のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化を行い、塗布性、及び透明性を維持し易く、暗所での抗菌活性、及び抗ウイルス活性、並びに光触媒活性を特に向上させるる事が出来る。
【0134】
紫外光照射は、銀のTi化合物(チタニアナノ粒子)への複合化を容易にし、可視光触媒活性、反応速度、生産性、アスペクト比の制御性、低強度紫外線照射時の耐変色性、高強度紫外線照射時の視認性、及び紫外線停止環境での再透明化等の観点から、好ましくは、室温(20℃)未満で行い、より好ましくは、15℃以下で行う。紫外光照射の温度の下限値は、特に制限されず、常圧で反応する場合、好ましくは、0℃である。
【0135】
紫外光照射の際には、分散液と、銀塩とを十分に反応させる観点から、好ましくは、撹拌する。攪拌の方法は、特に制限されず、常法に従う事が出来る。
【0136】
Ti化合物と金属イオンとの複合化は、空気雰囲気下に行っても良いし、嫌気下で行っても良い。嫌気下は、好ましくは、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下等の不活性ガス雰囲気下等である。
【0137】
分散液のpHは、添加する金属種や金属種の添加量に因って異なり、塗布性の観点から、好ましくは、1~5あり、より好ましくは、2~4である。
【0138】
この後、常法に依り、銀複合化Ti化合物(銀複合化チタニアナノ粒子)を沈殿、及び遠心分離する事等に依り、銀複合化Ti化合物を回収する事が出来る。有機鎖が表面に存在するチタン原子に結合し、銀が表面に複合化されたチタニアナノ粒子を得る事が出来る。
【0139】
[2-3](2)溶媒中で、工程(1)で得られた有機鎖が結合しているTi化合物と、Si化合物とを混合し、Si化合物を加水分解させる工程
(コーティング液の作製)
本発明の製造方法では、次に、そのチタニア粒子とバインダーの原料となるアルコキシシランとを混合し、両者の共存化で、高分散性を維持したまま、加水分解反応を行い、チタニア粒子複合バインダーを作製する。
【0140】
アルコキシシランの加水分解反応は酸性条件下で反応を行う事で、加水分解反応が促進される。分散液のpHは、反応速度、分散安定性の観点から、好ましくは、2以上、6未満であり、より好ましくは、2.1~5である。
【0141】
加水分解は、好ましくは、溶媒が揮発しない様に、蓋をして、分散液を、60℃程度の温度で、12時間程度保持する。
【0142】
加水分解は、好ましくは、常圧下に行い、或は、密閉容器内で加圧下に行う。
【0143】
Ti化合物(チタニア)表面に結合している有機物(アセチル基、アセトキシ基等)とSi化合物(TEOS等のアルキルシラン)とが反応する事で、Ti化合物同士の凝集やSi化合物同士の凝集を抑制することが出来、より均一な透明なコーティング液が得られる。
【0144】
コーティング液は、好ましくは、超音波ホモジナイザーを用いて分散処理を行い、透明な分散液を得ることが出来る。
【0145】
本発明の製造方法は、新しいプロセスに依って、チタニア粒子を含む組成物を作製する事に依り、従来、課題であったチタニアの凝集を改善する事が出来、溶媒安定性、及び密着性を大きく改善する事が出来る。
【実施例0146】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
【0147】
本発明は、以下の具体的な実施例に限定されない。
【0148】
[1]コーティング組成物の作製
[実施例1]
[光触媒酸化チタンの調製方法]
チタンテトライソプロポキシド70gに、酢酸30gを加え攪拌し、その後、水を全量が400gに成る様に加えた後、90分間攪拌した。その後、95℃に加熱し、ホットスターラーにて、9時間攪拌後、均一なチタニアゾルが得られた。得られたゾルに超音波分散を30分行う事で、透明なチタニアゾルを得た。
【0149】
得られたチタニアゾルのTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/分の昇温条件で600℃まで昇温させて測定した処、200℃以上での質量減少率10質量%であった。この200℃以上での質量減少率は、チタニア表面に結合している酢酸由来の有機物である。
【0150】
得られたチタニアゾルの濃度を調整する為、水(溶媒)で希釈しTiO2濃度換算で2質量%のチタニアゾルを得た。得られたチタニアゾルの粒径をTEM観察に依り観察すると、平均粒子径は3nmであった、
[金属イオンとの複合化]
前記TiO2濃度換算で2質量%のチタニアゾルに、重量比換算でAg/TiO2=0.01に成る様に、硝酸銀(I)を添加し、全体が均一に成るまで、よく攪拌を行った。その後、紫外光ランプを24時間照射し、硝酸銀を還元し、銀複合チタニアゾルを得た。
【0151】
[コーティング液の作製]
前記作製した2質量%の銀複合チタニアゾル(Ti化合物)に、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS、Si化合物)、及び1-プロパノール(溶媒、アルコール)を、夫々、9g、0.45g、及び369g添加した。
【0152】
その後、溶媒が揮発しない様に、蓋をして60℃で、12時間保持した。
【0153】
チタニア表面に結合している有機物とオルトケイ酸テトラエチルが反応し、オルトケイ酸テトラエチルの加水分解が進行することで(アルキルシランの加水分解物)、透明なコーティング液が得られた。得られた液を超音波ホモジナイザーにて10min間分散処理を行い透明な分散液を得た。
【0154】
[実施例2]
実施例1において、[光触媒酸化チタンの調製方法]の攪拌時間を1時間に変更し、硝酸銀の代わりに、酢酸銀(I)を用いた事以外は、実施例1と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0155】
[実施例3]
実施例1において、[金属イオンとの複合化]を行わない事以外は、実施例1と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0156】
[実施例4]
実施例3において、TEOSの代わりに、トリメトキシシラン(メチルトリメトキシシラン)を用いた事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0157】
[実施例5]
実施例3において、酢酸の添加量を0.6gに変更した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0158】
[実施例6]
実施例3において、酢酸の添加量を3gに変更した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0159】
[実施例7]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が0.01質量%、全重量に占めるSiバインダー量が0.02質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0160】
[実施例8]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が5質量%、全重量に占めるSiバインダー量が10質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0161】
[実施例9]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が0.2質量%、全重量に占めるSiバインダー量が0.01質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0162】
[実施例10]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が0.2質量%、全重量に占めるSiバインダー量が10質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0163】
[実施例11]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が2質量%、全重量に占めるSiバインダー量が0.1質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0164】
[実施例12]
実施例3において、全重量に占めるTiO2の質量比が0.2質量%,全重量に占めるSiバインダー量が10質量%に成る様に、TEOS、及びチタニアゾルを調整して添加した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0165】
[実施例13]
実施例1において、[光触媒酸化チタンの調製方法]でチタニアゾルを得た。その後、160℃、4時間オートクレーブで水熱反応をする事で、粒径を調整したチタニアゾルを得た。粒子をTEMで確認すると20nmだった。得られたチタニアゾルを用いて実施例3と同様の手法でコーティング液を作製した。
【0166】
[実施例14]
実施例1において、[光触媒酸化チタンの調製方法]でチタニアゾルを得た。その後、240℃、24時間オートクレーブで水熱反応をする事で、粒径を調整したチタニアゾルを得た。粒子をTEMで確認すると50nmだった。得られたチタニアゾルを用いて実施例3と同様の手法でコーティング液を作製した。
【0167】
[実施例15]
実施例3において、1-プロパノールを1-ブタノールに変更した事以外は、実施例3と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0168】
[実施例16]
実施例15において、酢酸30gを硝酸30gに変更した事以外は、実施例15と同様のプロセスで、コーティング液を作製した。
【0169】
[比較例1]
石原産業(ST-01)を、質量濃度で2.5質量%に成る様に、水を添加して、チタニアスラリーを作製した。
【0170】
石原産業(ST-01)のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/分の昇温条件で600℃まで昇温させて測定した処、200℃以上での質量減少率は見られなかった為、表面に有機物が付着していない事が示唆される。
【0171】
その後、実施例1と同様に、オルトケイ酸テトラエチル、及び1-プロパノールを、夫々、9g、9g、369g添加した。得られたコーティング液を超音波ホモジナイザーにて攪拌し半透明な分散液を得た。
【0172】
[比較例2]
石原産業(ST-01)を、質量濃度で2.5質量%に成る様に、水を添加して、チタニアスラリーを作製した。
【0173】
石原産業(ST-01)のTG-DTAを、空気雰囲気下3℃/分の昇温条件で600℃まで昇温させて測定した処、200℃以上での質量減少率は見られなかった為、表面に有機物が付着していない事が示唆される。
【0174】
その後、オルトケイ酸テトラエチル、及び1-プロパノールを、夫々、9g、0.45g、369g添加した。更に、ゾルゲル反応の触媒として、硝酸を0.5mL添加し、反応を開始し、溶媒が揮発しない様に、軽く蓋をして60℃で12時間保持した。得られたコーティング液を超音波ホモジナイザーにて攪拌し半透明な分散液を得た。
【0175】
[2]コーティング組成物の評価
得られたコーティング組成物に関して、夫々、次の評価を行った。
【0176】
[透明性]
実施例、及び比較例で得られたコーティング組成物の透過率(透明性)を、紫外・可視分光測定装置(島津製作所UV3400)に依り測定した。透過率は、400nm~800nmの波長領域の中で、最も高い透過率の値をその組成物の透過率とする。
【0177】
透明性の判定基準は次の通りである。
◎:最も高い透過率が80%以上である。
〇:最も高い透過率が50%以上である。
△:最も高い透過率が20%以上である。
×:最も高い透過率が20%未満である。
【0178】
[分散液の安定性]
実施例、及び比較例で得られたコーティング組成物を、60℃で480時間静置した。静置後の分散液を、目視で確認し、分散安定性を評価した。
【0179】
分散安定性の判定基準は次の通りである。
◎:沈殿、ゲル化等がみられない。
〇:分離が見られるが手で攪拌する事で、容易に分散する。
△:分離が見られるが超音波等の外力を加える事で再分散する。
×:沈殿、ゲル化が生じており、再分散しない。
【0180】
[分散液の密着性]
実施例、及び比較例で得られたコーティング組成物を、スピンコート法にて塗膜を作製した。スピンコートの条件は、2,000rpm、60秒で実施した。その後、60℃で60分乾燥させた。指触で密着性を確認後、JIS K 5600_5_6クロスカット試験の試験方法に則り、密着性を評価した。
【0181】
密着性の判断基準は次の通りである。
◎:塗膜の剥がれが5%以下である。
〇:塗膜の剥がれが20%以下である。
△:塗膜の剥がれが50%以下である。
×:塗膜の剥がれが50%より大きい、あるいは指触の際に剥がれ落ちる。
【0182】
[光触媒の分解活性]
得られた分散液を、厚さ1mmのガラスに塗布(スピンコート)した基板を、120℃で乾燥し、587.6nm(d線:メチレンブルーの吸収ピークに近い波長)の透過率を紫外・可視分光測定装置(島津製作所UV3400)に依り測定した。この透過率をTaとする。
【0183】
続いてメチレンブルー1mmol/Lの溶液を基板に滴下し、乾燥し余分な溶液を除去した後に、587.6nm(d線:メチレンブルーの吸収ピークに近い波長)の透過率を紫外・可視分光測定装置(島津製作所UV3400)に依り測定した。この透過率をTbとする。
【0184】
その後、ブラックライトに依るピーク波長352nm紫外光の照射を行い、1時間毎に測定を行い、Tb/Ta>90%に成る時間を測定し、光触媒の分解活性を評価した。
【0185】
光触媒性の判断基準は次の通りである。
◎:Tb/Ta>90%に成る時間が3時間以内である。
〇:Tb/Ta>90%に成る時間が4時間~12時間である。
△:Tb/Ta>90%に成る時間が13時間~24時間以内である。
×:Tb/Ta>90%に成る時間が25時間以上である。
【0186】
[抗ウイルス性試験]
実施例1、及び2において、乾燥後、Qβファージ(ノンエンベロープウイルス)を用いて、ISO 21702に準じて、暗所下での抗ウイルス性試験を行った。
【0187】
≪抗ウイルス活性値の測定方法≫
5cm角の試験片(抗ウィルス加工品と無加工品)に、ウイルス液を滴下し、4cm角のフィルムで被覆する。
【0188】
この試験片を25℃×7時間静置する。
【0189】
静置後、試験片上のウイルスを洗いだして回収し、ウイルス感染価を測定する。
【0190】
次式(1)に依り、抗ウイルス活性値を算出する。
【0191】
R=Ut-At (1)
R:抗ウイルス活性値
Ut:無加工品の7時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均
At:抗ウイルス加工品の24時間静置後のウイルス感染価(PFU/cm2)の常用対数の平均
【0192】
抗ウイルス性の評価基準は通りである。
◎:抗ウイルス活性値が2以上である。
×:抗ウイルス活性値が2未満である。
【0193】
実施例、及び比較例の表を下記に記す。
【0194】
【0195】
【0196】
【0197】
実施例1~16の組成物は、透明性、密着性、溶媒安定性に優れた良好な組成物を得る事が出来た。実施例1、及び2の組成物は、更に優れた抗菌抗ウイルス性を示す事が明らかと成った。
【0198】
比較例1の組成物は、市販酸化チタンとTEOSを複合したものであり、酸化チタンの凝集と思われる白い沈殿が確認され、透明な組成物を得る事が出来なかった。比較例1の組成物は、反応開始剤の酸成分が無いため反応が進まず、基板に塗布後密着性が無く容易に手で剥がれ落ちた。
【0199】
比較例2の組成物は、市販の酸化チタンにTEOSを複合し、反応開始剤に硝酸を添加して
得られたものであり、酸化チタンの凝集と思われる白い沈殿が確認され、透明な組成物を得る事が出来なかった。比較例2の組成物は、基板に塗布後、手でこすると容易に剥離した為、密着性が低い事が明らかだった。
【0200】
[3]産業上の利用可能性
本発明は、表面に有機鎖を有する酸化チタンを用いてSiバインダーとゾルゲル反応することによって、透明性、密着性、溶媒安定性に優れた良好な組成物を得ることができた。本コーティング剤を用いると様々な基材に光触媒酸化チタンを固定することが可能になり、コーティング層を有する様々な物品の形成が可能になる。