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特開2024-139349間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法
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  • 特開-間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139349
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20241002BHJP
   C23C 14/30 20060101ALI20241002BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C23C14/24 U
C23C14/30 A
H01J37/305 Z
C23C14/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050243
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 康司
【テーマコード(参考)】
4K029
5C101
【Fターム(参考)】
4K029AA24
4K029BA05
4K029BA08
4K029CA01
4K029DA03
4K029DA09
4K029DA12
4K029DB11
4K029DB21
4K029DB23
4K029EA01
4K029EA02
4K029EA09
4K029JA01
5C101AA36
5C101BB01
5C101BB08
5C101DD08
5C101DD16
5C101DD18
5C101EE22
5C101EE48
5C101EE53
5C101FF45
5C101FF46
5C101FF59
5C101GG20
(57)【要約】
【課題】蒸着中に容器から液滴が飛散し、基板に付着することを抑制できる間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法を提供する。
【解決手段】間接加熱蒸着装置1は、容器2と、電子ビーム発生源15と、制御部30、40と、を備えている。制御部30、40は、蒸着材料を予備加熱する予備加熱工程を行う。そして、予備加熱工程時に、電子ビーム発生源15の電子ビーム電流を第1予備加熱電流に設定する。その後、電子ビーム発生源15の電子ビーム電流を第1予備加熱電流よりも増加させた第2予備加熱電流に設定し、溶融した蒸着材料4で容器2の内壁面を覆わせる内壁表面改質工程を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着材料が充填される容器と、
前記蒸着材料が充填された容器に対して、前記蒸着材料を蒸発させる電子ビームを照射する電子ビーム発生源と、
前記電子ビーム発生源を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電子ビーム発生源を制御し、基板に前記蒸着材料を蒸着させる蒸着工程の前に、前記蒸着材料を予備加熱する予備加熱工程を行い、
前記予備加熱工程時に、前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流に設定し、
その後、前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を前記第1予備加熱電流よりも増加させた第2予備加熱電流に設定し、溶融した前記蒸着材料で前記容器の内壁面を覆わせる内壁表面改質工程を行う
間接加熱蒸着装置。
【請求項2】
前記容器から蒸発した前記蒸着材料の蒸発粒子による膜厚を計測する膜厚センサを備え、
前記制御部は、前記膜厚センサが計測した膜厚情報に基づいて、前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を制御する膜厚制御部を有する
請求項1に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項3】
前記膜厚制御部は、前記内壁表面改質工程時において、前記膜厚センサでの膜厚情報が予め設定された第1目標レートとなるように、前記電子ビーム発生源の前記電子ビーム電流を制御する
請求項2に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項4】
前記膜厚センサは、
前記蒸着工程時に前記容器から蒸発した前記蒸着材料の蒸発粒子による膜厚を計測する第1膜厚センサと、
前記内壁表面改質工程時に前記容器から蒸発した前記蒸着材料の蒸発粒子による膜厚を計測する第2膜厚センサと、を有する
請求項3に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項5】
前記膜厚制御部は、前記内壁表面改質工程後において、前記第2膜厚センサ又は前記第1膜厚センサでの膜厚情報が予め設定された第2目標レートとなるように、前記電子ビーム発生源の前記電子ビーム電流を制御する
請求項4に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項6】
前記第1膜厚センサ及び前記基板に向かって進行する前記蒸発粒子を遮蔽する第1シャッターと、
前記第2膜厚センサに向かって進行する前記蒸発粒子を遮蔽する第2シャッターと、
前記第1シャッターを開閉可能に支持する第1開閉駆動部と、
前記第2シャッターを開閉可能に支持する第2開閉駆動部と、を備えた
請求項4に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項7】
前記電子ビーム発生源から照射された前記電子ビームを走査する走査コイルを備え、
前記制御部は、前記内壁表面改質工程時に、前記走査コイルを制御し、前記電子ビームを前記容器の底部における外縁部に照射させる
請求項1に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記容器に残る前記蒸着材料の量に応じて、前記内壁表面改質工程における前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を制御する
請求項1に記載の間接加熱蒸着装置。
【請求項9】
蒸着材料が充填される容器と、前記蒸着材料が充填された容器に対して、前記蒸着材料を蒸発させる電子ビームを照射する電子ビーム発生源と、前記電子ビーム発生源を制御する制御部と、を備えた間接加熱蒸着装置の制御方法において、
前記電子ビーム発生源を制御し、前記蒸着材料を予備加熱する予備加熱工程と、
前記予備加熱工程の後に、前記電子ビーム発生源を制御し、基板に前記蒸着材料を蒸着させる蒸着工程と、を含み、
前記予備加熱工程時に、前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流に設定して前記蒸着材料を予備加熱し、
その後、前記電子ビーム発生源の電子ビーム電流を前記第1予備加熱電流よりも増加させた第2予備加熱電流に設定し、溶融した前記着材料で前記容器の内壁面を覆わせる内壁表面改質工程を行う
間接加熱蒸着装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着材料を充填した容器を電子ビーム衝撃(ボンバード)により加熱し、蒸着材料を加熱、蒸発させる間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、真空チャンバー内に基板を配置して、この基板に向けて蒸着源を設置した蒸着装置が知られており、間接加熱蒸着装置としては、蒸着材料を充填した容器に電子ビーム(熱電子)を放出する電子線衝撃型蒸着源がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された間接加熱蒸着装置には、蒸着材料が充填される容器(ライナー)と、蒸着用電子ビーム発生源と、予備加熱用電子ビーム発生源と、蒸着材料供給機構と、を備えた技術が記載されている。蒸着用電子ビーム発生源は、容器に対して、蒸着加熱領域において熱電子を照射する。予備加熱用電子ビーム発生源は、容器に対して予備加熱領域において熱電子を照射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-68958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の間接加熱蒸着装置では、成膜後の基板表面を観察すると、微小な粒が多数存在する場合があり、この粒により膜品質や膜特性を悪化させる一因となっていた。この微小な粒が基板表面に付着する原因としては、成膜中に蒸着材料の蒸発粒子が容器の壁面に液滴として付着し、付着した液滴が、外部からのエネルギーにより容器の壁面から引き離され真空中に飛散する。あるいは、液滴が突沸し、真空中に飛散する。その結果、飛散した蒸着材料が基板表面に付着することが考えられる。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、蒸着中に容器から液滴が飛散し、基板に付着することを抑制できる間接加熱蒸着装置及び間接加熱蒸着装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の間接加熱蒸着装置の一態様は、蒸着材料が充填される容器と、蒸着材料が充填された容器に対して、蒸着材料を蒸発させる電子ビームを照射する電子ビーム発生源と、電子ビーム発生源を制御する制御部と、を備えている。そして、制御部は、電子ビーム発生源を制御し、基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着工程の前に、蒸着材料を予備加熱する予備加熱工程を行う。そして、予備加熱工程時に、電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流に設定する。その後、電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流よりも増加させた第2予備加熱電流に設定し、溶融した蒸着材料で容器の内壁面を覆わせる内壁表面改質工程を行う。
【0008】
また、本発明の間接加熱蒸着装置の制御方法は、電子ビーム発生源を制御し、蒸着材料を予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱工程の後に、電子ビーム発生源を制御し、基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着工程と、を含んでいる。
そして、予備加熱工程時に、電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流に設定して蒸着材料を予備加熱する。その後、電子ビーム発生源の電子ビーム電流を第1予備加熱電流よりも増加させた第2予備加熱電流に設定し、溶融した着材料で容器の内壁面を覆わせる内壁表面改質工程を行う。
【発明の効果】
【0009】
上述のように、本発明の一態様によれば、蒸着中に容器から液滴が飛散し、基板に付着することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の概略構成図である。
図2】本発明の第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の制御方法のタイムチャートを示す図である。
図3】本発明の第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の概略構成図である。
図4】本発明の第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置にかかる走査コイル電流波形の一例を示す図である。
図5】本発明の第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の制御方法のタイムチャートを示す図である。
図6】本発明の第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置及び第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置における電子ビーム電流と蒸着材料の残量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。
なお、各図において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0012】
1.第1実施の形態例
1-1.間接加熱蒸着装置の構成
まず、第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかる間接加熱蒸着装置の構成について、図1を参照して説明する。
図1は、本例の間接加熱蒸着装置の概略構成図である。
【0013】
図1に示す間接加熱蒸着装置1は、容器に充填された蒸着材料を加熱、蒸発させて成膜対象物に蒸着させる装置である。
図1に示すように、間接加熱蒸着装置1は、容器の具体例を示す複数のライナー2と、容器保持部の具体例を示すホルダ3と、支持部材5と、防着カバー7と、真空チャンバー10と、電子源の具体例を示す電子ビーム発生源15と、制御部の具体例を示す電子銃制御部30及び成膜制御システム40と、第1膜厚センサ8と、第2膜厚センサ26と、を備えている。また、間接加熱蒸着装置1は、第1シャッター6と、第2シャッター27と、成膜対象物である基板121を保持する基板保持部120を備えている。
【0014】
ライナー2及びホルダ3、支持部材5、防着カバー7、電子ビーム発生源15、第1膜厚センサ8、第2膜厚センサ26、第1シャッター6、第2シャッター27、基板保持部120は、真空チャンバー10内に設置される。
【0015】
ライナー2は、有底の筒状に形成されており、円形の底部2aと、底部2aの周縁に連続する周壁部2bと、を有している。ライナー2は、モリブデンやタングステン等の高融点材料で形成されている。ライナー2には、蒸着材料4が充填される。蒸着材料4としては、金(Au)や銅(Cu)等の溶融性でイオン化傾向の小さい材料が好適である。
【0016】
また、ライナー2の底部2aには、溝部が形成されている。この底部2aに形成された溝部には、後述する支持部材5に設けた突起が嵌まり込む。なお、底部2aに突起を設け、支持部材5に突起が嵌まり込む溝部を形成してもよい。そして、ライナー2は、支持部材5を介してホルダ3に保持される。
【0017】
なお、ライナー2を円筒状に形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、ライナー2を角筒状に形成してもよい。
【0018】
支持部材5は、筒状に形成されている。支持部材5は、底面部5aと、底面部5aの周縁に連続する側面部5bと、フランジ部5dと、を有している。底面部5aは、円形に形成されている。底面部5aには、開口部5cが形成されている。この底面部5aには、ライナー2が載置される。そして、底面部5aに形成した開口部5cからライナー2の底部2aが露出する。上述したように、底面部5aには、底部2aに設けた溝部に嵌まり込む突起が形成されている。これにより、支持部材5に対するライナー2の位置決めを容易に行うことができる。
【0019】
フランジ部5dは、側面部5bにおける底面部5aとは反対側の端部である上端部に形成されている。そして、フランジ部5dは、側面部5bの上端部から半径方向の外側に向けて突出している。フランジ部5dは、後述するホルダ3の保持用孔3aの縁部に当接する。
【0020】
また、支持部材5における側面部5bの直径は、ライナー2の周壁部2bの直径よりも大きく設定されている。そのため、ライナー2の周壁部2bと支持部材5の側面部5bとの間には、隙間が形成されている。これにより、ホルダ3にライナー2の熱が伝達され難くすることができ、ライナー2の周壁部2bの温度が低下することを防止できる。
【0021】
ホルダ3は、円形の板状に形成されている。ホルダ3は、支持部材5を貫通させる保持用孔3aを有している。複数の保持用孔3aは、円形に形成されており、保持用孔3aの縁部には、支持部材5のフランジ部5dが当接する。ホルダ3の材料は、熱抵抗の大きいものであればよい。したがって、ホルダ3には、ライナー2の熱が伝達され難くなっている。
【0022】
また、ホルダ3に設けられる保持用孔3aの数は、ライナー2の数に合わせて複数設けられる。しかしながら、本発明にかかるホルダ(容器保持部)としては、1つの保持用孔を有し、1つのライナー(容器)を保持するものであってもよい。
【0023】
ホルダ3の中心部には、駆動機構の一具体例を示す回転駆動軸14が接続されている。
回転駆動軸14は、ホルダ3を回転駆動させて、ホルダ3に保持された複数のライナー2を水平方向に移動させる。この回転駆動軸14は、回転機能を損なわないよう冷却される。また、回転駆動軸14は、不図示の回転駆動部により回転する。そして、回転駆動部は、成膜制御システム40の回転制御部43に接続されている。回転駆動部は、後述する成膜制御システム40の回転制御部43の制御のもと駆動する。
【0024】
防着カバー7は、略箱状に形成されており、ホルダ3及びライナー2を覆う。この防着カバー7は、上面板7aと、上面板7aに連続する側面板7bを有している。防着カバー7の上面板7aには、蒸発用開口部7cが形成されている。
【0025】
蒸発用開口部7cは、基板保持部120に保持された基板121と対向する位置に形成されている。蒸着材料4が加熱されて生じる蒸発粒子は、防着カバー7の蒸発用開口部7cを通過する。
【0026】
また、蒸発用開口部7cと基板121との間には、第1シャッター6が配置されている。第1シャッター6は、第1開閉駆動部18により蒸発用開口部7cを開閉可能に支持されている。第1開閉駆動部18は、回転制御部43からの制御信号に基づいて回転駆動する。そして、第1開閉駆動部18が回転駆動することで、第1シャッター6が開閉する。第1シャッター6が閉じている状態では、蒸発用開口部7cを通過した蒸発粒子は、第1シャッター6によって遮られる。また、第1シャッター6が開放されると、蒸発用開口部7cを通過した蒸発粒子が基板121に到達する。
【0027】
基板保持部120は、防着カバー7の上方に配置されている。この基板保持部120は、円形の板状に形成されており、下面において基板121を保持する。また、基板保持部120における上面の中心部には、回転駆動軸が接続されている。回転駆動軸は、基板保持部120を回転駆動させて、基板保持部120に保持された基板121を水平方向に移動させる。また、回転駆動軸は、回転機能を損なわないよう冷却されている。
【0028】
基板121に蒸着膜を付着させる場合には、回転駆動軸によって基板保持部120を回転駆動させて、基板121を蒸発用開口部7cの上方を移動させる。これにより、基板121は、蒸発用開口部7cに対向する位置に配置されたライナー2に対向する。そして、ライナー2に充填された蒸着材料4が加熱された蒸発すると、その蒸発粒子が基板121に堆積する。なお、図1では、基板保持部120が1つの基板121を保持しているが、本発明にかかる基板保持部120としては、複数の基板を保持するものであってもよい。
【0029】
また、基板保持部120における蒸発用開口部7cと対向する位置の近傍には、蒸発粒子により形成される膜厚を計測する第1膜厚センサ8が配置されている。第1膜厚センサ8は、計測した膜厚情報を後述する成膜制御システム40に出力する。成膜制御システム40は、第1膜厚センサ8から取部した膜厚情報に基づいて、蒸着速度及び累積された膜厚(累積膜厚)を計測する。そして、成膜制御システム40は、計測した蒸着速度が予め設定した蒸着速度となるように、電子銃制御部30及び回転制御部43に信号を出力する。
【0030】
第2膜厚センサ26は、ライナー2の斜め上方で、かつ蒸発用開口部7cから離れた位置に配置されている。具体的には、第2膜厚センサ26は、防着カバー7の外側において、蒸発用開口部7cから基板保持部120への蒸気流入に影響しない位置に配置される。そして、第2膜厚センサ26は、ライナー2から蒸発し、防着カバー7から漏れ出た蒸着材料4の蒸発粒子による膜厚を計測する。第2膜厚センサ26は、計測した膜厚情報を後述する成膜制御システム40に出力する。成膜制御システム40は、第2膜厚センサ26から取部した膜厚情報に基づいて、蒸着速度を計測する。そして、成膜制御システム40は、計測した蒸着速度が予め設定した蒸着速度となるように、電子銃制御部30及び回転制御部43に信号を出力する。
【0031】
第2膜厚センサ26の近傍には、第2膜厚センサ26に向かって進行する蒸発粒子を遮蔽する第2シャッター27が配置されている。第2シャッター27は、第2開閉駆動部28により開閉可能に支持されている。第2開閉駆動部28は、回転制御部43からの制御信号に基づいて回転駆動する。そして、第2開閉駆動部28が回転駆動することで、第2シャッター27が開閉する。
【0032】
第2シャッター27が閉じている状態では、ライナー2から第2膜厚センサ26に向かって進行する蒸発粒子を遮蔽する。また、第2シャッター27が開放されると、ライナー2から発生した蒸発粒子が第2膜厚センサ26に到達する。なお、第2シャッター27は、基板保持部120から離れた位置に配置されており、第2シャッター27の開閉動作が蒸発用開口部7cから基板保持部120への蒸気流入に影響しない位置に配置されている。
【0033】
また、ライナー2から第2シャッター27を通過して第2膜厚センサ26に向かって進行する蒸発粒子を第1シャッター6が遮蔽することを防止するために、第1シャッター6を設ける位置を高くする必要がある。その際に、第1シャッター6における蒸発粒子を遮蔽する面は、第1膜厚センサ8及び基板121に向かって進行する蒸発粒子を遮蔽できるように大きくすることが好ましい。
【0034】
次に、電子ビーム発生源15について説明する。
電子ビーム発生源15は、ホルダ3の下方において、ライナー2の回転軌道上の任意の位置に配置されている。これにより、ホルダ3に支持部材5を介して保持されたライナー2が蒸着位置に配置されると、ライナー2の底部2aは、電子ビーム発生源15の上方に位置する。電子ビーム発生源15は、フィラメントと、電界分布を形成するウェネルトとを有している。ウェネルトには、フィラメントを露出させる開口部が形成されている。フィラメントは、タングステン材からなる線材によって形成されている。このフィラメントには、電子銃電源を構成するカソード電源16及び加速電源17が接続されている。
【0035】
カソード電源16は、所定の電流をカソードに供給する。そして、ジュール加熱によりカソードは、熱電子放出が可能な温度に加熱される。加速電源17は、接地されており、アース電位に対して負の高電圧、例えば300V~6kVの電圧が印加される。ホルダ3は、アース電位となっており、ホルダ3に保持されたライナー2は、アース電位となる。
【0036】
そして、加速電源17により電子ビーム発生源15に負の高電圧を印加した後、カソードが熱電子放出可能な温度、例えば2300℃前後に加熱されると、カソードから熱電子が放出される。そして、放出された熱電子は、電子ビーム発生源15の電界によって加速され、電子ビーム25が発生する。この電子ビーム25は、ライナー2の底部2aに照射される。
【0037】
電子ビーム25によりライナー2の底部2aが電子衝撃加熱されると、ライナー2は昇温する。そして、ライナー2からの伝導熱と輻射により蒸着材料4が加熱される。ライナー2の底部2aに対する電子衝撃加熱をある程度持続すると、蒸着材料4は、昇華又は蒸発する。蒸着材料4の蒸発粒子は、防着カバー7の蒸発用開口部7cを通過し、基板121に向かって進行する。その結果、蒸着材料4の蒸発粒子は、基板121に堆積して、所望の厚さの蒸着膜が基板121に付着する。
【0038】
次に、成膜制御システム40について説明する。
成膜制御システム40は、膜厚制御部41と、蒸着装置制御部42と、回転制御部43と、を有している。膜厚制御部41は、第1膜厚センサ8及び第2膜厚センサ26に接続されており、第1膜厚センサ8及び第2膜厚センサ26から膜厚情報を取得する。そして、膜厚制御部41は、第1膜厚センサ8及び第2膜厚センサ26から取部した膜厚情報に基づいて、蒸着速度(蒸着レート)及び累積膜厚を計測する。膜厚制御部41は、蒸着速度が設定値に近づくようフィードバック制御し、電子銃制御部30に信号を出力する。これにより、電子銃制御部30が電子電流を調整することで、基板121への蒸着速度が変化する。
【0039】
また、膜厚制御部41は、蒸着装置制御部42に接続されている。そして、膜厚制御部41は、計測した累積膜厚情報を蒸着装置制御部42に出力する。蒸着装置制御部42は、回転制御部43や電子銃制御部30に接続されている。蒸着装置制御部42は、回転制御部43に制御信号を出力すると共に、電子銃制御部30に成膜工程の設定条件を出力する。また、蒸着装置制御部42は、膜厚制御部41から取得した累積膜厚情報が設定した膜厚値に達すると、回転制御部43に制御信号を出力すると共に、出力停止信号を電子銃制御部30に出力する。
【0040】
また、回転制御部43は、蒸着装置制御部42からの制御信号に基づいて、第1開閉駆動部18及び第2開閉駆動部28に駆動信号を出力する。そして、第1開閉駆動部18及び第2開閉駆動部28は、第1シャッター6及び第2シャッター27の開閉動作を行う。
【0041】
1-2.間接加熱蒸着装置の動作例
次に、上述した構成を有する間接加熱蒸着装置1の動作例について図2を参照して説明する。
図2は、間接加熱蒸着装置1の動作例を示すタイムチャートである。図2における横軸は経過時間を示し、縦軸(第1軸)は電子ビーム発生源15の電子ビーム電流を示し、縦軸(第2軸)は蒸着レート(蒸着速度)を示す。実線は、電子ビーム発生源15の電子ビーム電流を示している。そして、点線は、第1膜厚センサ8で計測される蒸着レートを示し、一点鎖線は、第2膜厚センサ26で計測される蒸着レートを示している。
【0042】
まず、図2に示すように、蒸着装置制御部42は、電子銃制御部30に制御信号を出力し、蒸着材料4を予備加熱する予備加熱工程を行う。そして、電子銃制御部30は、電子ビーム発生源15を制御し、ライナー2に電子ビーム25を照射させる。これにより、電子ビーム25がライナー2の底部2aに電子衝撃する。電子ビーム25が照射されることで、ライナー2に収容された蒸着材料4が予備加熱され、溶融する。
【0043】
このとき、電子銃制御部30は、蒸着装置制御部42で予め設定されたプログラムに従い、電子ビーム発生源15の電子ビーム電流を第1予備加熱電流まで増加させる。そして、電子銃制御部30は、電子ビーム発生源15の出力(電子ビーム電流)が第1予備加熱電流で一定となるように電子ビーム発生源15の出力を制御する。
【0044】
また、電子ビーム発生源15の出力が第1予備加熱電流まで増加し、第1予備加熱電流で保たれると、蒸着装置制御部42は、回転制御部43に制御信号を出力する。なお、蒸着装置制御部42から回転制御部43に制御信号を出力するタイミングは、プログラムで設定された時間経過後に行ってもよい。
【0045】
次に、回転制御部43は、第2開閉駆動部28を駆動し、第2シャッター27を開く。さらに、蒸着装置制御部42は、電子銃制御部30に制御信号を出力し、電子ビーム発生源15の出力を増加させる。これにより、ライナー2に収容された蒸着材料4が蒸発し、ライナー2から蒸発粒子が発生する。そして、ライナー2から発生した蒸発粒子が第2シャッター27で開放された第2膜厚センサ26に到達する。そして、第2膜厚センサ26により、ライナー2から発生した蒸発粒子が計測される。また、第2膜厚センサ26で計測される蒸着レートが上昇する。
【0046】
次に、間接加熱蒸着装置1は、ライナー2の内壁面を蒸着材料4で覆う内壁表面改質工程を行う。この内壁表面改質工程において、第2膜厚センサ26で計測された膜厚情報(蒸着レート)は、膜厚制御部41に出力、すなわちフィードバックされる。そして、膜厚制御部41は、第2膜厚センサ26での膜厚情報(蒸着レート)が予め設定された第1目標レートとなるように、蒸着装置制御部42を介して電子銃制御部30に制御信号を出力する。そして、電子銃制御部30は、膜厚制御部41からの制御信号に基づいて、電子ビーム発生源15を制御する。
【0047】
ここで、ライナー2を構成する高融点金属材料は、単位面積当たりの表面エネルギーが高く、表面が清浄な場合は液体が濡れやすい性質がある、しかしながら、実際は表面が酸化することで表面エネルギーが低下し、濡れ性が低下する。そのため、蒸発した蒸着材料4がライナー2の内壁に付着して液化した際に、ライナー2との接触角が大きくなり、液滴の状態で存在しやすくなる。このライナー2の内壁に接触した液滴は、飛散や突沸が起こりやすい状態であり、基板121に形成した成膜に微小な粒が発生する一因であった。
【0048】
これに対して、溶融した蒸着材料4は、一般にその温度が上昇するにつれて表面エネルギーが低下し、ライナー2との濡れ性が改善する。溶融した蒸着材料4をさらに加熱すると、温度上昇するにつれてライナー2の内壁面に対する接触角は0°に近づく。その結果、毛細管現象によりライナー2の内壁を溶融した蒸着材料4が上部へ這い上がり、ライナー2の内壁面全体が溶融した蒸着材料4で覆われる。
【0049】
このように、本例の間接加熱蒸着装置1の動作例では、蒸着材料4の予備加熱工程時に、第1予備加熱電流よりも大きい第2予備加熱電流で蒸着材料4を加熱することで、ライナー2の内壁面を蒸着材料4で覆う内壁表面改質工程を行っている。そして、蒸着材料4でライナー2の内壁面全体を覆うことで、ライナー2の表面の濡れ性を改善することができる。その結果、ライナー2の表面での接触角を小さくすることができ、後述する蒸着工程中にライナー2の表面に蒸着材料4による液滴が発生することを抑制することができる。
【0050】
さらに、蒸着材料4が、イオン化傾向が小さい元素の場合は酸化しにくく、単位面積当たりの表面エネルギーを高く維持することができる。その結果、上述したライナー2に対して内壁表面改質工程を行うことで、ライナー2の表面の濡れ性改善を向上させることができる。
【0051】
また、ライナー2は、支持部材5に支持されており、ホルダ3に接触していない。また、ライナー2の周壁部2bと支持部材5の側面部5bとの間には、隙間が形成されている。これにより、ホルダ3にライナー2の熱が伝達され難くすることができる。その結果、ライナー2の温度が低下することを防止でき、ライナー2の内壁に蒸着材料4の液滴が付着することを抑制することができる。
【0052】
内壁表面改質工程での第2膜厚センサ26の第1目標レートは、蒸着材料4の溶湯面温度が十分に上昇する蒸着レートに設定する必要がある。そのため、図2に示すように、膜厚制御部41は、第1目標レートとなるように、蒸着装置制御部42を介して電子銃制御部30を制御し、電子ビーム発生源15の電子ビーム電流(出力)を増加させている。その結果、内壁表面改質工程での電子ビーム発生源15の電子ビーム電流(出力)である第2予備加熱電流は、第1予備加熱電流よりも増加している。
【0053】
第2膜厚センサ26で計測された蒸発レートが第1目標レートに到達し、プログラムで設定された所定の時間経過後、間接加熱蒸着装置1は、蒸着工程前の蒸着レート安定化工程及びアイドリング工程を行う。蒸着レート安定化工程において、膜厚制御部41は、蒸着レートが蒸着工程時での第2目標レートとなるように、蒸着装置制御部42を介して電子銃制御部30を制御する。
【0054】
すなわち、膜厚制御部41は、第2膜厚センサ26で計測した蒸着レートが予め設定した第2目標レートとなるように、電子銃制御部30に信号を出力する。電子銃制御部30は、膜厚制御部41からの信号に基づいて、電子電流を調整し、蒸着速度を安定させる。図2に示す例では、電子銃制御部30は、第2予備加熱電流よりも電子ビーム電流を減少させる。
【0055】
ここで、第1膜厚センサ8で計測される蒸着レートと、第2膜厚センサ26で計測される蒸着レートの値は、蒸着源からの相対位置で決定され、一般に余弦分布で互いに関係づけられる。そのため、第2膜厚センサ26で計測される蒸着レートを用いることで、蒸着工程時での第2目標レートに近づけることができる。
【0056】
蒸着レートが蒸着工程時での第2目標レートに到達し、蒸着装置制御部42で設定された所定の時間が経過すると、アイドリング工程を行う。そして、蒸着装置制御部42は、回転制御部43に制御信号を出力する。そして、回転制御部43は、第2開閉駆動部28を駆動し、第2シャッター27を閉じると共に、第1開閉駆動部18を駆動し、第1シャッター6を開く。これにより、第2膜厚センサ26での計測値は0となる。これに対して、蒸着材料4の蒸発粒子は、防着カバー7の蒸発用開口部7cを通過して、第1シャッター6の近傍に配置された第1膜厚センサ8に到達する。そして、膜厚制御部41は、第1膜厚センサ8から取部した膜厚情報に基づいて、蒸着レート(蒸着速度)及び累積された膜厚を計測する。
【0057】
第1シャッター6及び第2シャッター27の開閉動作後は、蒸着レートの挙動が不安定となる。アイドリング工程時では、電子ビーム電流の制御を蒸着レートに基づく制御ではなく、成膜制御システム40は、蒸着レート安定化工程で設定した電子ビーム電流で数秒間維持するように電子銃制御部30に制御信号を出力する。
【0058】
次に、アイドリング工程が終了すると、間接加熱蒸着装置1は、蒸着工程を行う。蒸着工程において、膜厚制御部41は、第1膜厚センサ8から取部した膜厚情報に基づいて、蒸着レート及び累積された膜厚を計測する。そして、膜厚制御部41は、計測した蒸着レートが予め設定した第2目標レートで一定となるように、電子銃制御部30に信号を出力する。電子銃制御部30は、膜厚制御部41からの信号に基づいて、電子電流を調整し、蒸着速度を安定させる。なお、蒸着レート安定化工程及びアイドリング工程によって、電子ビーム電流は、第2目標レートに近づけられているため、蒸着レートを速やかに第2目標レートに到達させることができる。
【0059】
昇華又は蒸発した蒸着材料4の蒸発粒子は、蒸発用開口部7cを通過して、基板保持部120に保持された基板121に到達し、付着(蒸着)する。これにより、基板121に蒸発粒子が堆積し、基板121に所望の膜を形成することが可能となる。
【0060】
また、膜厚制御部41で計測された累積膜厚は、蒸着装置制御部42に出力される。累積膜厚が設定した膜厚値に到達すると、蒸着装置制御部42は、回転制御部43に制御信号を出力する。そして、回転制御部43は、第1開閉駆動部18を駆動し、第1シャッター6を閉じる。また、蒸着装置制御部42は、電子銃制御部30を制御し、電子ビーム発生源15による電子ビーム25の照射を停止する。これにより、間接加熱蒸着装置1の動作が完了する。
【0061】
2.第2の実施の形態例
次に、第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置について図3から図5を参照して説明する。
図3は、第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の概略構成図である。図4は、走査コイル電流波形の一例を示す図である。そして、図5は、第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置の動作例を示すタイムチャートである。
【0062】
この第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1Bが第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1と異なる点は、電子ビーム発生源15に走査コイルを設けた点である。そのため、ここでは、第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1と共通する部分には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0063】
図3に示すように、間接加熱蒸着装置1Bは、電子ビーム発生源15に接続されるカソード電源16及び加速電源17と、走査コイル21と、ブロック22と、アノード24と、走査コイル電流波形制御部32とを備えている。
【0064】
走査コイル21は、電子ビーム発生源15の近傍に配置されている。この走査コイル21は、冷却されたブロック22内に収納されている。走査コイル21には、走査コイル電流波形制御部32が接続されている。走査コイル電流波形制御部32は、走査コイル21に供給する電流の波形(以下、「走査コイル電流波形」という)を制御する。すなわち、走査コイル電流波形制御部32は、走査コイル21を制御し、コイル電流波形を調整する。
【0065】
さらに、走査コイル電流波形制御部32は、電子銃制御部30に接続されている。電子銃制御部30は、蒸着動作の状況に応じて成膜制御システム40から受信した信号を走査コイル電流波形制御部32に出力する。そして、走査コイル電流波形制御部32は、電子銃制御部30を介して成膜制御システム40から出力された信号に基づいて、コイル電流波形を変更する。
【0066】
また、ブロック22の上面には、開口を有するアノード24が固定されている。アノード24は、ライナー2の底部2aと電子ビーム発生源15との間に配置されており、アノード24の開口は、電子ビーム発生源15と所定の距離を空けて対向している。アノード24は、ライナー2からの輻射熱や反射電子による熱負荷を強く受けるため、高融点材料によって形成されている。走査コイル21は、アノード24のライナー2に対向する側に配置されている。そして、走査コイル21は、電流が流れることにより交流磁界を発生する。
【0067】
フィラメントに所定の値の電流が供給されると、フィラメントは、ジュール加熱により熱電子供給が可能な温度、例えば2300℃前後に加熱される。加速電源17によりアース電位に対して負の高電圧を印加すると、フィラメントから放出された熱電子が電子ビーム発生源15とアノード24との間の電界によって加速され、電子ビーム25が発生する。この電子ビーム25は、走査コイル21により生じる交流磁界により偏向され、所定の走査パターンでライナー2に照射される。
【0068】
2-2.間接加熱蒸着装置の動作例
次に、上述した構成を有する間接加熱蒸着装置1Bの動作例について図4及び図5を参照して説明する。
【0069】
図5に示すように、予備加熱工程及び蒸着レート安定化工程、アイドリング工程、蒸着工程では、走査コイル21に供給される電流値は、0Aである。そのため、予備加熱工程及び蒸着レート安定化工程、アイドリング工程、蒸着工程では、第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1と同様に、電子ビーム25は、走査されず、ライナー2の底部2a全体に照射される。
【0070】
また、図4及び図5に示すように、内壁表面改質工程では、成膜制御システム40は、電子銃制御部30を介して、走査コイル電流波形制御部32に信号を出力する。そして、走査コイル電流波形制御部32は、成膜制御システム40から出力された信号に基づいて、コイル電流波形を変更する。
【0071】
図4に示すように、このときの走査コイル電流波形は、ライナー2の底部2aの形状に合わせてリング状に設定される。そのため、電子ビーム25は、底部2aの中央部には照射されずに、底部2aの外縁部のみに集中的に照射される。これにより、ライナー2の周壁部2bを効率的に加熱することでき、ライナー2の内壁面及び内壁面に接触する蒸着材料4を効率よく加熱することができる。
【0072】
ライナー2の内壁面を効率的に加熱することで、図2及び図5に示すうように、内壁表面改質工程での、電子ビーム電流を第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1よりも低減することができる。さらに、内壁表面改質工程中に発生する蒸着材料4の蒸発粒子は、基板121の成膜に寄与せず損失となる。これに対して、第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1Bのように、ライナー2の外縁部のみを集中的に加熱する場合は、ライナー2の底部2aの中央部を加熱する場合と比較して、蒸着材料4の損失を抑制することができる。
【0073】
その他の構成は、第1の実施の形態にかかる間接加熱蒸着装置1と同様であるため、それらの説明は省略する。この第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1Bによっても、上述した第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1と同様の作用効果を得ることができる。
【0074】
3.電子ビーム電流と蒸着材料の残量との関係
次に、図6を参照して電子ビーム電流と蒸着材の残量との関係について説明する。図6は、電子ビーム電流と蒸着材の残量との関係を示す図である。図6における縦軸は電子ビーム電流を示し、横軸は蒸着材料の残量を示している。図6における三角は走査コイル無し(第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1)で蒸着材料4が金(Au)の例を示している。丸は走査コイル有り(第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1B)で蒸着材料4が金(Au)の例を示している。四角は走査コイル無し(第1の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1)で蒸着材料4が銅(Cu)の例を示している。そして、ひし形は走査コイル有り(第2の実施の形態例にかかる間接加熱蒸着装置1B)で蒸着材料4が銅(Cu)の例を示している。
【0075】
ここで、蒸着材料4の熱容量は、ライナー2に収納される量に依存する。そのため、図6に示すように、蒸着材料4の残量が少ない場合は電子ビーム電流を低くし、蒸着材料4の残量が多い場合は電子ビーム電流を高くする必要がある。これに対して、本例の間接加熱蒸着装置1、1Bでは、上述したように、内壁表面改質工程において、第2膜厚センサ26で計測された膜厚情報に基づいて、蒸着レートが一定となるように膜厚制御部41が電子銃制御部30を制御している。すなわち、内壁表面改質工程では、膜厚制御部41により蒸着材料4の溶湯面温度に対応する蒸着レートが一定となっている。その結果、蒸着材料4の残量が変化しても、液滴発生の抑制効果を得るための蒸着材料4の溶湯面温度を維持することができ、確実にライナー2の内壁表面を蒸着材料4で覆うことができる。
【0076】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0077】
上述した実施の形態例では、第2膜厚センサ26を防着カバー7の外側に配置した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、第2膜厚センサ26を防着カバー7の内部に配置してもよい。また、第2シャッター27を設けなくてもよい。
【0078】
さらに、蒸着工程時の基板121への膜厚を第1膜厚センサ8が計測した値を用いて検出する例を説明したが、これに限定されるものではない。第1膜厚センサ8を設けずに第2膜厚センサ26が計測した膜厚情報に基づいて、電子銃制御部30を制御し、蒸着工程時の蒸着レート及び基板121に累積された膜厚を計測してもよい。なお、第2膜厚センサ26よりも基板121の近傍に配置された第1膜厚センサ8を用いることで、膜厚の測定精度を向上させることができる。
【0079】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。
【符号の説明】
【0080】
1、1B…間接加熱蒸着装置、 2…ライナー(容器)、 2a…底部、 2b…周壁部、 3…ホルダ、 3a…保持用孔、 4…蒸着材料、 5…支持部材、 5a…底面部、 5b…側面部、 5c…開口部、 5d…フランジ部、 6…第1シャッター、 7…防着カバー、 7a…上面板、 7b…側面板、 7c…蒸発用開口部、 8…第1膜厚センサ、 10…真空チャンバー、 15…電子ビーム発生源、 16…カソード電源、 17…加速電源、 18…第1開閉駆動部、 21…走査コイル、 22…ブロック、 24…アノード、 25…電子ビーム、 26…第2膜厚センサ、 27…第2シャッター、 28…第2開閉駆動部、 30…電子銃制御部、 32…走査コイル電流波形制御部、 40…成膜制御システム、 41…膜厚制御部、 42…蒸着装置制御部、 43…回転制御部、 120…基板保持部、 121…基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6