(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139358
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】駆動回路及び高分子分散型液晶装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/133 20060101AFI20241002BHJP
G02F 1/1334 20060101ALI20241002BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G02F1/133 505
G02F1/1334
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050252
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金子 恵太
【テーマコード(参考)】
2H088
2H189
2H193
【Fターム(参考)】
2H088EA33
2H088GA10
2H088MA20
2H189AA04
2H189HA07
2H189HA16
2H189LA08
2H189MA15
2H193ZB51
2H193ZC01
2H193ZQ13
(57)【要約】
【課題】高分子分散型液晶装置の透明導電膜間に流れる電流の値を適切に制限することで、透明導電膜の破壊を抑制しつつ、着色及び導通不良の発生を抑制する。
【解決手段】透明導電膜がそれぞれ設けられた一対の透明基材の間に高分子分散型液晶が充填された高分子分散型液晶パネルを駆動する駆動回路は、位相が互いに異なるパルス状の一対の交流電圧を生成する交流電圧生成回路と、前記一対の交流電圧を一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する経路に設けられ、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を制限する電流制限回路と、を有し、前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を、前記高分子分散型液晶パネルのワーストでの動作環境において前記透明導電膜間に駆動電圧を印加したときに前記透明導電膜間に流れる定常電流以上であって、前記透明導電膜が破壊する破壊電流以下に制限する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明導電膜がそれぞれ設けられた一対の透明基材の間に高分子分散型液晶が充填された高分子分散型液晶パネルを駆動する駆動回路であって、
位相が互いに異なるパルス状の一対の交流電圧を生成する交流電圧生成回路と、
前記一対の交流電圧を一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する経路に設けられ、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を制限する電流制限回路と、を有し、
前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を、前記高分子分散型液晶パネルのワーストでの動作環境において前記透明導電膜間に駆動電圧を印加したときに前記透明導電膜間に流れる定常電流以上であって、前記透明導電膜が破壊する破壊電流未満に制限すること
を特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜に流れる電流を、前記透明導電膜に印加される電圧の正側の振幅と負側の振幅との電圧差が生じない値に制限すること
を特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を、前記高分子分散型液晶パネルのワーストでの動作環境において前記定常電流の1.1倍以上であって、前記破壊電流の0.9倍以下に制限すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の駆動回路。
【請求項4】
透明導電膜がそれぞれ設けられた一対の透明基材の間に高分子分散型液晶が充填された高分子分散型液晶パネルと、
位相が互いに異なるパルス状の一対の交流電圧を生成する交流電圧生成回路と、
前記一対の交流電圧を一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する経路に設けられ、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を制限する電流制限回路と、を有し、
前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を、前記高分子分散型液晶パネルのワーストでの動作環境において前記透明導電膜間に駆動電圧を印加したときに前記透明導電膜間に流れる定常電流以上であって、前記透明導電膜が破壊する破壊電流未満に制限すること
を特徴とする高分子分散型液晶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回路及び高分子分散型液晶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電膜がそれぞれ設けられた一対の透明基材の間に高分子分散型液晶が充填された液晶層を有する高分子分散型液晶装置が知られている。この種の高分子分散型液晶装置は、駆動回路により一対の透明導電膜間に交流電圧を印加したときに光を透過する状態となり、駆動回路による交流電圧の印加を停止したときに光を散乱する状態となる(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-144303号公報
【特許文献2】特開平8-262416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交流電圧を印加する交流駆動の高分子分散型液晶装置では、透明導電膜間に印加する印加電圧が切り替わる毎に透明導電膜間に過渡電流が流れる。過渡電流が所定の上限値より大きくなると透明導電膜が破壊するおそれがあるため、高分子分散型液晶装置の駆動回路には電流制限回路が設けられ、過渡電流が上限値未満になるように制限される。
【0005】
一方、湿度が高い環境下で高分子分散型液晶装置を使用する場合、高分子分散型液晶膜が吸水することで、高分子分散型液晶膜のインピーダンスが低下し、印加電圧の切り替えにより過渡電流が発生した後にもリーク電流が定常電流として流れ続ける。定常電流が大きくなり、電流制限値以上の定常電流の透明導電膜間への印加が電流制限回路により制限された場合、電流制限回路の回路特性の変動により交流電圧の正側の振幅と負側の振幅との差が大きくなる。正側の振幅と負側の振幅との差が大きい状態で交流電圧が印加され続けると、透明導電膜が着色するおそれがあり、透明導電膜に導通不良が発生するおそれがある。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、高分子分散型液晶装置の透明導電膜間に流れる電流の値を適切に制限することで、透明導電膜の破壊を抑制しつつ、透明導電膜の着色及び導通不良の発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施の形態の駆動回路は、透明導電膜がそれぞれ設けられた一対の透明基材の間に高分子分散型液晶が充填された高分子分散型液晶パネルを駆動する駆動回路であって、位相が互いに異なるパルス状の一対の交流電圧を生成する交流電圧生成回路と、前記一対の交流電圧を一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する経路に設けられ、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を制限する電流制限回路と、を有し、前記電流制限回路は、一対の前記透明導電膜にそれぞれ供給する電流を、前記高分子分散型液晶パネルのワーストでの動作環境において前記透明導電膜間に駆動電圧を印加したときに前記透明導電膜間に流れる定常電流以上であって、前記透明導電膜が破壊する破壊電流以下に制限することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、高分子分散型液晶装置の透明導電膜間に流れる電流の値を適切に制限することで、透明導電膜の破壊を抑制しつつ、透明導電膜の着色及び導通不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施形態に係る高分子分散型液晶装置の例を示す全体構成図である。
【
図2】
図1の電流制限回路に対して入出力される電圧の動作波形の例を示すタイミング図である。
【
図3】
図1の高分子分散型液晶フィルムが吸水していないときの透明導電膜に印加される電圧と透明導電膜間に流れる電流の例を示す図である。
【
図4】
図1の高分子分散型液晶フィルムが吸水したときの透明導電膜に印加される電圧と透明導電膜間に流れる電流の例を示す図である。
【
図5】
図4の電圧波形において、正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅との差の例を示す図である。
【
図6】
図1の透明導電膜への印加電圧の正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅との差と、透明導電膜の着色との関係を示す図である。
【
図7】
図6の評価に使用したサンプルのシート抵抗と黄変度との関係を示す図である。
【
図8】透明導電膜に不具合が発生しない電流制限値の範囲を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。以下では、電圧線を示す符号は、電圧線に供給される電圧又は電圧線を流れる電流を示す符号としても使用される場合がある。以下に示す実施形態に含まれる部材の形状、大きさ、長さ、厚さの比率等は、説明の明確化のため誇張している場合がある。
【0010】
図1は、一実施形態に係る高分子分散型液晶装置の例を示す全体構成図である。
図1に示す高分子分散型液晶装置10は、高分子分散型液晶フィルム20と、高分子分散型液晶フィルム20を駆動する駆動回路30とを有する。高分子分散型液晶フィルム20は、高分子分散型液晶パネルの一例である。
【0011】
高分子分散型液晶フィルム20は、互いに対向して配置される一対の透明基材22a、22bと、透明基材22a、22bの対向面にそれぞれ設けられた透明導電膜21a、21bとを有する。また、高分子分散型液晶フィルム20は、透明導電膜21a、21bの対向部分の隙間に充填された絶縁性の樹脂23及び絶縁性の高分子分散型液晶24を有する。透明導電膜21a、21bの端部には、FPC(Flexible Printed Circuits)電極25a、25bがそれぞれ圧着されている。FPC電極25a、25bは、駆動線OUTa、OUTbを介して駆動回路30の出力端子に接続される。
【0012】
駆動回路30は、交流電圧生成回路31と電流制限回路32とを有する。電流制限回路32は、交流電圧生成回路31が生成する交流電圧を透明導電膜21a、21bに供給する経路に設けられる。交流電圧生成回路31は、例えば、商用電源ACに接続され、商用電源ACからの交流電圧に基づいて、相補のパルス状の駆動電圧/Va、Vaと、相補のパルス状の駆動電圧/Vb、Vbとを生成する。
【0013】
電流制限回路32は、駆動電圧/Va、Vaに基づいて駆動線OUTaに出力する駆動電圧を生成し、駆動電圧/Vb、Vbに基づいて駆動線OUTbに出力する駆動電圧を生成する。この際、電流制限回路32は、駆動電圧VOUTa、VOUTbの駆動線OUTa、OUTbへの出力時に、駆動線OUTa、OUTbにそれぞれ流れる最大電流を予め設定された上限電流に制限する。
【0014】
そして、高分子分散型液晶装置10は、図示しない操作スイッチがオンされたとき、透明導電膜21a、21bに印加する相補のパルス状の駆動電圧(交流電圧)を駆動回路30に出力させる。高分子分散型液晶24の液晶分子の配列は、電圧の印加を受けている間、規則的になり、光を透過する非散乱状態になる。
【0015】
高分子分散型液晶装置10は、操作スイッチがオフされたとき、駆動回路30に、透明導電膜21a、21bに印加する駆動電圧の生成を駆動回路30に停止させる。高分子分散型液晶の液晶分子の配列は、電圧の印加を受けない場合、液晶分子の配列が不規則になり、光を透過せずに散乱する散乱状態になる。これにより、高分子分散型液晶装置10は、操作スイッチのオン/オフにより、光の透過と遮断とが切り替え可能なシャッタとして機能させることができる。
【0016】
図2は、
図1の電流制限回路32に対して入出力される電圧の動作波形の例を示すタイミング図である。
図1に示した交流電圧生成回路31は、駆動電圧/Vaのロウレベル期間と駆動電圧Vaのハイレベル期間とが重複しないように、駆動電圧/Va、Vaを生成する。交流電圧生成回路31は、駆動電圧/Vbのロウレベル期間と駆動電圧Vbのハイレベル期間とが重複しないように、駆動電圧/Vb、Vbを生成する。
【0017】
駆動線OUTaは、駆動電圧/Vaがロウレベルの期間にハイレベルに駆動され、電圧VOUTaはハイレベルになる。駆動線OUTaは、駆動電圧Vaがハイレベルの期間にロウレベルに駆動され、電圧VOUTaはロウレベルになる。
【0018】
駆動線OUTbは、駆動電圧/Vbがロウレベルの期間にハイレベルに駆動され、電圧VOUTbはハイレベルになる。駆動線OUTbは、駆動電圧Vbがハイレベルの期間にロウレベルに駆動され、電圧VOUTbはロウレベルになる。
【0019】
図2に示すように、駆動電圧/Va、Vbは、互いに逆相であり、駆動電圧Va、/Vbは、互いに逆相である。電流制限回路32は、位相が互いに異なる出力電圧VOUTa、VOUTbを生成する機能を有するとともに、
図3で説明する電流の最大値を制限する機能を有する。すなわち、電流制限回路32は、出力電圧VOUTa、VOUTbの極性を交互に切り替えながら、出力電圧VOUTa、VOUTbを透明導電膜21a、21bに印加しつつ、駆動線VOUTa、VOUTbに流れる電流の最大値を制限することができる。なお、出力電圧VOUTa、VOUTbの周波数は、例えば、60Hz(周期=16.7ms)である。
【0020】
図3は、
図1の高分子分散型液晶フィルム20が吸水していないときの透明導電膜21a、21bに印加される電圧と透明導電膜21a、21b間に流れる電流の例を示す図である。
図3の電圧波形は、
図2の出力電圧VOUTa、VOUTbのいずれかを示す。
図3の電流波形は、出力電圧VOUTa、VOUTbのいずれかに対応して駆動線OUTa、OUTbのいずれかに流れる電流を示す。
【0021】
図3(A)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTaに制限される場合の例を示す。
図3(B)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTbに制限される場合の例を示す。例えば、電流制限値LMTaは、電流制限値LMTbのほぼ半分である。以下では、
図3が駆動線OUTaの電圧及び電流を示すものとして説明する。
【0022】
電流制限値は、
図1の電流制限回路32により設定される。駆動線OUTaの電圧VOUTaがハイレベル又はロウレベルに駆動されたときに、透明導電膜21a、21b間に流れる過渡電流の最大値は、電流制限値で制限される。なお、電流制限値を設定しない場合、透明導電膜21a、21b間に破壊電流以上の過渡電流が流れると、透明導電膜21a、21bが破壊されることが分かっている。
【0023】
電流制限値の設定により、透明導電膜21a、21b間を流れる過渡電流を、透明導電膜21a、21bが破壊される破壊電流より小さくすることができる。すなわち、過渡電流密度が透明導電膜21a、21bの耐電流密度を超えることを抑制することができる。この結果、透明導電膜21a、21bの破壊を抑制することができる。
【0024】
駆動線OUTaの電圧VOUTaがハイレベル又はロウレベルに駆動されている期間において、透明導電膜21a、21b間に過渡電流が流れた後の静的なリーク電流は、定常電流と称される。高分子分散型液晶フィルム20が吸水していないとき、定常電流はほぼ0mAである。このため、高分子分散型液晶フィルム20が吸水していないとき、電流制限値LMTa、LMTbの違いによる有意差はなく、高分子分散型液晶装置10に不具合は発生しない。
【0025】
図4は、
図1の高分子分散型液晶フィルム20が吸水したときの透明導電膜21a、21bに印加される電圧と透明導電膜21a、21b間に流れる電流の例を示す図である。
【0026】
図3と同様に、
図4の電圧波形は、
図2の出力電圧VOUTa、VOUTbのいずれかを示す。
図4の電流波形は、出力電圧VOUTa、VOUTbのいずれかに対応して駆動線OUTa、OUTbのいずれかに流れる電流を示す。また、
図3と同様に、
図4(A)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTaに制限される場合の例を示し、
図4(B)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTbに制限される場合の例を示す。
【0027】
図4は、例えば、60℃、湿度90%の吸水環境下で、高分子分散型液晶装置10を500時間動作させた後の電圧電流特性を示す。60℃、湿度90%の吸水環境は、例えば、高分子分散型液晶装置10のカタログ仕様に設定されたワーストの動作環境である。
【0028】
高分子分散型液晶フィルム20が吸水した場合、透明導電膜21a、21b間に流れるリーク電流が増加するため、定常電流が増加する。
図4に示す例では、定常電流は電流制限値LMTaより大きくなる。しかし、
図4(A)では、透明導電膜間に流れる定常電流は、電流制限値LMTaにより制限され、電流制限値LMTaより小さくなる。
【0029】
例えば、電流制限値LMTa、LMTbは、電流制限回路32に設けられるダイオードと抵抗とを使用して、ダイオードの順方向電圧VRと抵抗の抵抗値Rとの比VR/Rで求まる電流値に設定される。なお、ダイオードは、トランジスタのpn接合を利用して形成されてもよく、抵抗は、トランジスタの拡散抵抗を利用して形成されてもよい。
【0030】
電流制限値を小さくした場合、電流制限回路32に搭載されるトランジスタ等の素子の製造ばらつきにより、正側のパルスを生成する回路と負側のパルスを生成する回路とに特性差が現れ、正側の振幅と負側の振幅とがずれてしまう。この結果、正側のパルスの振幅(ほぼ26V)は、負側のパルスの振幅(ほぼ29V)より3V程度低くなってしまう。
【0031】
図4(B)に示すように、電流制限値が定常電流より大きい値LMTbに設定された場合、定常電流は制限されない。このため、高分子分散型液晶フィルム20が吸水した場合にも、
図4(B)では電流制限回路32の特性の変動は少なく、ハイレベル電圧(正側のパルスの振幅)及びロウレベル電圧(負側のパルスの振幅)ともほぼ29Vになる。
【0032】
図5は、
図4の電圧波形において、正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅との差を示す図である。
図3と同様に、
図5(A)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTaに制限される場合の例を示し、
図5(B)は、電流制限回路32により電流の最大値が電流制限値LMTbに制限される場合の例を示す。
【0033】
電流の最大値が電流制限値LMTaに制限される
図5(A)では、出力電圧VOUTa、VOUTbの正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅の差は3V程度になる。正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅とに差が発生した場合、振幅が大きい負側の透明導電膜がイオン性物質で還元されやすくなり、透明導電膜全体が着色(黄変)し、透明導電膜のシート抵抗が上昇するという問題が発生する。なお、高分子分散型液晶装置10の実際の動作では、各透明導電膜21a、21bには、正のパルスと負のパルスとが交互に印加されるため、正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅とに差が発生した場合、透明導電膜21a、21bの両方がイオン性物質で還元され、黄変してしまう。
【0034】
一方、電流の最大値が電流制限値LMTbに制限される場合、出力電圧VOUTa、VOUTbの正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅の差はほとんど発生しない。このため、透明導電膜がイオン性物質で還元されることはなく、黄変は発生しない。すなわち、電流制限回路32による電流制限を、高分子分散型液晶フィルム20のワーストでの動作環境での定常電流以上に設定することで、透明導電膜21a、21bの着色を抑制することができる。
【0035】
図6は、
図1の透明導電膜21a、21bへの印加電圧の正側のパルスの振幅と負側のパルスの振幅との差と、透明導電膜21a、21bの黄変度との関係を示す図である。
図6は、
図4と同じ条件(60℃、湿度90%)で電流制限値を電流制限値LMTa、電流制限値LMTbにそれぞれ設定した複数の高分子分散型液晶フィルム20のサンプルを250時間および500時間動作させたときの評価結果を示す。
【0036】
図6より、電流の制限値が、定常電流より小さい電流制限値LMTaに設定されることで振幅の差が大きくなると、黄変が発生しやすくなることが分かる。一方、電流の制限値が、定常電流より大きい電流制限値LMTbに設定されることで振幅の差が発生しない場合、黄変はほとんど発生しないことが分かる。すなわち、透明導電膜21a、21bに流れる電流を、駆動電圧VOUTa、VOUTbの正側の振幅と負側の振幅との電圧差が生じない電流に制限することで、透明導電膜21a、21bの着色を抑制することができる。
【0037】
図7は、
図6の評価に使用したサンプルのシート抵抗と黄変度との関係を示す図である。電流制限値を値LMTaに設定することで、黄変が発生したサンプルでは、シート抵抗も上昇する。また、電流制限値を値LMTaに設定したサンプルのうちの1つで、シート抵抗の上昇に起因すると思われる透明導電膜の導通不良が発生した。透明導電膜の導通不良は、駆動電圧VOUTa、VOUTbの正側の振幅と負側の振幅との電圧差により、吸水の影響を受けやすい高分子分散型液晶フィルム20の透明導電膜がイオン成分により劣化することで発生すると考えられる。
【0038】
図8は、透明導電膜に不具合が発生しない電流制限値の範囲を示す図である。
図3から
図7に示した様々な評価に基づいて、電流制限値を定常電流以上であって、破壊電流未満に設定した場合、不具合は発生しないことが分かった。
【0039】
なお、電流制限回路32に搭載されるトランジスタ等の素子の特性は、製造ばらつきにより変動し、電圧変動及び温度変動によっても変動する。このため、透明導電膜21a、21bの破壊をより確実に抑制し、透明導電膜21a、21bの着色及び導通不良の発生をより確実に抑制するためには、電流制限値は、ワーストの動作環境での定常電流の1.1倍以上であって、破壊電流の0.9倍以下に設定されることが好ましい。
【0040】
以上、この実施形態では、電流制限回路32により、透明導電膜21a、21bにそれぞれ供給する電流を、高分子分散型液晶フィルム20のワーストでの動作環境での定常電流以上であって、破壊電流未満に制限する。これにより、透明導電膜21a、21bの破壊を抑制しつつ、透明導電膜21a、21bの着色及び導通不良の発生を抑制することができる。
【0041】
透明導電膜21a、21bに流れる電流を、駆動電圧VOUTa、VOUTbの正側の振幅と負側の振幅との電圧差が生じない電流に制限することで、透明導電膜21a、21bの着色及び導通不良の発生を抑制することができる。
【0042】
電流制限値を、ワーストの動作環境での定常電流の1.1倍以上であって、破壊電流の0.9倍以下に設定することで、透明導電膜21a、21bの破壊をより確実に抑制することができ、透明導電膜21a、21bの着色及び導通不良の発生をより確実に抑制することができる。
【0043】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、本発明は、具体的に開示された実施の形態に限定されるものではなく、これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
10 高分子分散型液晶装置
20 高分子分散型液晶フィルム
21a、21b 透明導電膜
22a、22b 透明基材
23 樹脂
24 高分子分散型液晶
25a、25b FPC電極
30 駆動回路
31 交流電圧生成回路
32 電流制限回路
AC 商用電源
DRNa、DRNb 負側ドライバ
DRPa、DRPb 正側ドライバ
IOUTa、IOUTb 電流
OUTa、OUTb 駆動線
Va、/Va、Vb、/Vb 駆動電圧
VOUTa、VOUT 駆動電圧