(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139364
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】溶接ワイヤ用矯正装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
B23K9/12 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050267
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】梅原 悠
(57)【要約】
【課題】ワイヤのターゲット性の向上と、ワイヤ送給抵抗の低減と、矯正装置の小型化と、を達成可能な溶接ワイヤ用矯正装置を提供する。
【解決手段】数式C
in=L
in/[{(δ
in+t)/g
in}
2]によって算出される入口側ワイヤ変形パラメータC
inが1150~1500であると共に、数式C
out=L
out/[{(δ
out+t)/g
out}
2]によって算出される出口側ワイヤ変形パラメータC
outが4300~49000であるように、n個の矯正ロールが位置しており、数式F=(L
in/C
in+L
out/C
out)×nによって算出される溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが0.037未満であるように、n個の矯正ロールが位置している。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の矯正ロールで構成されるロール群を2組備え、前記2組のロール群に溶接ワイヤを通過させることで前記溶接ワイヤの曲がりを矯正する溶接ワイヤ用矯正装置であって、
前記ロール群を構成する複数の前記矯正ロールは、前記溶接ワイヤが通過する矯正路を挟んで対向するように前記溶接ワイヤの通過方向に沿って所定の配置間隔Lを隔て配置されており、
前記2組のロール群は、前記矯正路を挟む対向方向が互いに異なるように配置されており、
それぞれの前記ロール群において、複数の前記矯正ロールは前記溶接ワイヤの通過方向に順次第1ロール、第2ロール、・・・、第nロールが配設され、これらn個(nは4以上の整数)のロールにより、前記溶接ワイヤに対し交互に逆方向の曲げ変形が与えられてその巻癖が矯正され、
前記溶接ワイヤの直径をt(mm)とし、
第1ロール、第2ロール及び第3ロールによる入口側ロール噛込量をδin(mm)とし、
第1ロールと第3ロールとの間の軸間距離を2Lin(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第1ロール及び第3ロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第2ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である入口側弦長をgin(mm)とし、
第(n-2)ロール、第(n-1)ロール及び第nロールによる出口側ロール噛込量をδout(mm)とし、
第nロールと第(n-2)ロールとの間の軸間距離を2Lout(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第(n-2)ロール及び第nロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第(n-1)ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である出口側弦長をgout(mm)としたとき、
数式Cin=Lin/[{(δin+t)/gin}2]によって算出される入口側ワイヤ変形パラメータCinが1150~1500であると共に、数式Cout=Lout/[{(δout+t)/gout}2]によって算出される出口側ワイヤ変形パラメータCoutが4300~49000であるように、n個の前記矯正ロールが位置しており、
数式F=(Lin/Cin+Lout/Cout)×nによって算出される溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが0.037未満であるように、n個の前記矯正ロールが位置している、
溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項2】
前記矯正ロールの半径rは、7mm未満である
請求項1記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項3】
前記矯正ロールの半径rは、5mm以上である
請求項1記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項4】
複数の前記矯正ロールの配置間隔Lは、8.75mm以下である、
請求項1記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項5】
複数の前記矯正ロールの配置間隔Lは、5mmより大きい、
請求項1記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項6】
第1ロールと第nロールとの間の軸間距離Lallは、35mm以下である、
請求項1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項7】
第1ロールと第nロールとの間の軸間距離Lallは、20mmより大きい、
請求項1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項8】
前記溶接ワイヤは、ソリッドワイヤである、
請求項1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項9】
n=5である、
請求項1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【請求項10】
それぞれの前記ロール群の全長Nは、60mmより大きく、110mm以下である、
請求項1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤ用矯正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク溶接等の金属溶接では、溶接トーチに送給された溶接ワイヤがアーク熱によって溶融し消耗する。したがって、溶接トーチにおける消耗量に応じて、溶接ワイヤを溶接トーチに連続的に送給しなくてはならない。
【0003】
この溶接ワイヤは、スプールに巻回された状態やパックに収納された状態から引き出されて溶接トーチに送給されるが、引き出された溶接ワイヤには巻癖がついて曲がったり捩れたりしている。このように巻癖がついた溶接ワイヤをそのまま溶接トーチに送給すると、ワイヤ先端部狙い位置の正確さ(以下、ターゲット性という)が悪化してしまう。そこで従来より、溶接時に良好なターゲット性を得るために、巻癖がついた溶接ワイヤ(以下、単にワイヤともいう)を溶接ワイヤ用矯正装置(以下、単に矯正装置ともいう)によって直線状に矯正した後、溶接トーチに送給することが行われている。
【0004】
このような矯正装置は、溶接ロボットのロボットアーム上における送給装置直前の位置に設けられてもよく、パックから溶接ワイヤが引き出された直後の位置に設けられてもよく、パックと溶接ロボットに設置された送給装置との間の位置に設けられてもよい。なお、矯正装置が送給装置の直後に設置されると、溶接ワイヤが座屈する可能性があるため、好ましくない。
【0005】
ワイヤが矯正装置通過後に長距離を送給されると、再度ワイヤの曲がりや捩れなどの癖を持ってしまうため、ワイヤのターゲット性の向上のためには、ワイヤ矯正位置はアーク点に近いことが好ましく、したがって、矯正装置は送給装置の直前、例えばロボットアーム上に設けられることがより好ましい。また、矯正装置は、いずれの位置に設置される場合でも、設置空間の大きさや形状による制約を受けにくくするために小型であることが望まれる。特に、ロボットアーム上に設けられる場合、矯正装置は、溶接ロボットの可動域を制限しないように小型であることが望まれる。
【0006】
特許文献1に記載の溶接ワイヤ用矯正装置においては、複数の矯正ロールの直径として、従来の矯正装置では用いられていなかった20mm以下という小さな値が採用されている。このように矯正ロールを小径とすることで、矯正装置を小型化する効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のように、直径20mm以下の小径ロールを用いることで矯正装置を小型化した場合であっても、溶接ロボットの可動域によっては矯正装置が溶接ブースまたは安全柵と干渉してしまうため、ロボットアーム上に矯正装置を設けられない場合があった。そのため、矯正装置のさらなる小型化が望まれている。
【0009】
また、矯正装置は複数の矯正ロールを用いてワイヤを塑性変形させているため、ワイヤの送給抵抗が増加する傾向にある。送給抵抗が高すぎると、溶接ワイヤを送給する際の送給抵抗が高くなり、溶接ワイヤが滑らかに送給することができず、溶接不良になる恐れがある。そのため、矯正装置の送給抵抗は低いことが望ましい。上記矯正ロールによる溶接ワイヤの塑性変形の変位量を小さくすることにより、矯正装置による溶接ワイヤの送給抵抗を低くすることができる。一方で、溶接ワイヤの塑性変形の変位量をある一定以上に小さくすると、矯正装置による溶接ワイヤの矯正効果も小さくなるため、ターゲット性が悪化してしまう可能性もある。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ワイヤのターゲット性の向上と、ワイヤ送給抵抗の低減と、矯正装置の小型化と、を達成可能な溶接ワイヤ用矯正装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、溶接ワイヤ用矯正装置に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 複数の矯正ロールで構成されるロール群を2組備え、前記2組のロール群に溶接ワイヤを通過させることで前記溶接ワイヤの曲がりを矯正する溶接ワイヤ用矯正装置であって、
前記ロール群を構成する複数の前記矯正ロールは、前記溶接ワイヤが通過する矯正路を挟んで対向するように前記溶接ワイヤの通過方向に沿って所定の配置間隔Lを隔て配置されており、
前記2組のロール群は、前記矯正路を挟む対向方向が互いに異なるように配置されており、
それぞれの前記ロール群において、複数の前記矯正ロールは前記溶接ワイヤの通過方向に順次第1ロール、第2ロール、・・・、第nロールが配設され、これらn個(nは4以上の整数)のロールにより、前記溶接ワイヤに対し交互に逆方向の曲げ変形が与えられてその巻癖が矯正され、
前記溶接ワイヤの直径をt(mm)とし、
第1ロール、第2ロール及び第3ロールによる入口側ロール噛込量をδin(mm)とし、
第1ロールと第3ロールとの間の軸間距離を2Lin(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第1ロール及び第3ロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第2ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である入口側弦長をgin(mm)とし、
第(n-2)ロール、第(n-1)ロール及び第nロールによる出口側ロール噛込量をδout(mm)とし、
第nロールと第(n-2)ロールとの間の軸間距離を2Lout(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第(n-2)ロール及び第nロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第(n-1)ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である出口側弦長をgout(mm)としたとき、
数式Cin=Lin/[{(δin+t)/gin}2]によって算出される入口側ワイヤ変形パラメータCinが1150~1500であると共に、数式Cout=Lout/[{(δout+t)/gout}2]によって算出される出口側ワイヤ変形パラメータCoutが4300~49000であるように、n個の前記矯正ロールが位置しており、
数式F=(Lin/Cin+Lout/Cout)×nによって算出される溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが0.037未満であるように、n個の前記矯正ロールが位置している、
溶接ワイヤ用矯正装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワイヤのターゲット性の向上と、ワイヤ送給抵抗の低減と、矯正装置の小型化と、を達成可能な溶接ワイヤ用矯正装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、パックから引き出された溶接ワイヤが本実施形態による溶接ワイヤ用矯正装置を通過して溶接ロボットの溶接トーチに送給される過程を、概略的に説明する概略図である。
【
図4】
図4は、
図2Aに示す矯正装置に溶接ワイヤを通過させた状態を、矯正装置の正面から見た図である。
【
図5】
図5は、矯正装置の第1ロール群を拡大して示す拡大図である。
【
図6】
図6は、第1ロール群及び第2ロール群における矯正ロールの配置と溶接ワイヤの押込量との関係を概念的に示す概念図である。
【
図7】
図7は、溶接ワイヤが第1ロール{第(n-2)ロール}及び第3ロール(第nロール)の溝底に接するように直線状に配置されたと仮定した場合の概念図である。
【
図8A】
図8Aは、矯正ロールの半径が比較的大きい場合の、矯正ロールと溶接ワイヤとの関係を示す概念図である。
【
図8B】
図8Bは、矯正ロールの半径が
図8Aに比べて小さい場合の、矯正ロールと溶接ワイヤとの関係を示す概念図である。
【
図9A】
図9Aは、矯正ロールの配置間隔が比較的大きい場合の、矯正ロールと溶接ワイヤとの関係を示す概念図である。
【
図9B】
図9Bは、矯正ロールの配置間隔が
図9Aに比べて小さい場合の、矯正ロールと溶接ワイヤとの関係を示す概念図である。
【
図12】
図12は、実施例1~4におけるターゲット性及び送給抵抗に関する試験結果を示す図である。
【
図13A】
図13Aは、比較例1~5におけるターゲット性及び送給抵抗に関する試験結果を示す図である。
【
図13B】
図13Bは、比較例6~10におけるターゲット性及び送給抵抗に関する試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る溶接ワイヤ用矯正装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の構成をその具体例のみに限定するためのものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、本実施形態の開示内容のみに限定されるものではない。
【0015】
本発明の実施形態による溶接ワイヤ用矯正装置1を説明する前に、
図1を参照して、溶接トーチ20へ送給される溶接ワイヤWの矯正過程について説明する。
図1は、パック3から引き出された溶接ワイヤWが本実施形態による溶接ワイヤ用矯正装置1を通過して溶接ロボット2の溶接トーチ20に送給される過程を、概略的に説明する概略図である。
【0016】
図1を参照して、溶接ワイヤWは、例えば輪状に巻き取られて巻回された状態でパック3に収納されており、パック3の上端から引き出される。
【0017】
溶接ワイヤWとしては、例えばソリッドワイヤを用いることができる。すなわち、本実施形態の溶接ワイヤ用矯正装置1は、主にソリッドワイヤの巻癖や捩れを矯正するために好適に用いられる。
【0018】
パック3から引き出された溶接ワイヤWは、例えば、溶接ロボット2のアーム先端に設けられた溶接トーチ20へ送給されるが、溶接トーチ20の手前で本実施形態による溶接ワイヤ用矯正装置1を通過する。
【0019】
溶接ワイヤWは、溶接ワイヤ用矯正装置1を通過することよって、パック3内での収納に起因する巻癖や捩れが解消し、巻癖や捩れの無いほぼ直線状の溶接ワイヤWとなる。直線状となった溶接ワイヤWは、送給装置4によってアーク溶接等を行う溶接トーチ20に送給されて、溶接トーチ20の先端を通過する。この溶接トーチ20の先端にはコンタクトチップ8が設けられる。
【0020】
このとき、溶接ワイヤWの部分ごとに様々な巻癖や捩れが残っていると、巻癖の度合いや捩れ方の度合いにより、溶接ワイヤWの先端が溶接トーチ20による狙い位置からばらついてしまうという、いわゆる「ワイヤ振れ」が生じる。この「ワイヤ振れ」が生じると、ワイヤのターゲット性が悪化し、溶接ワイヤWは正しい溶接線をアークで溶融させることができなくなり、ビード蛇行や融合不良などの溶接欠陥を引き起こし、良好な溶接継手が得られなくなる。そこで、ワイヤ振れを抑制してターゲット性を向上するために、溶接ワイヤWを直線状に矯正する溶接ワイヤ用矯正装置1は、非常に重要な役割を果たすものである。
【0021】
図1において、溶接ワイヤ用矯正装置1(以下、矯正装置1という)は、溶接ロボット2のロボットアーム上の位置P1に設けられているが、パック3から溶接ワイヤWが引き出された直後の位置P2に設けられてもよく、パック3と溶接ロボット2の間の位置P3に設けられてもよい。しかしながら、ワイヤの送給抵抗の低減や、ワイヤのターゲット性の向上のためには、ワイヤ矯正はアーク点に近いことが好ましく、したがって、矯正装置1はロボットアーム上の位置P1に設けられることがより好ましい。矯正装置1は、いずれの位置P1,P2,P3に設置される場合でも、設置空間の大きさや形状による制約を受けにくくするために小型であることが望まれる。特に、位置P1等のロボットアーム上に設けられる場合、矯正装置1は、溶接ロボット2の可動域を制限しないように特に小型であることが望まれる。
【0022】
以下、
図2A及び
図2Bを参照しながら、矯正装置1の構成について説明する。
図2Aは、矯正装置1を正面から見た正面図であり、
図2Bは、
図2Aに示す矯正装置1を、紙面に向かったときの上方から見た状態、つまり、矯正装置1の上面側の状態を示す上面図である。
【0023】
図2Aを参照して、矯正装置1は、フレーム10と、フレーム10の両端に設けられた2つのガイドパイプ(以下、ガイド体という)11a,11bと、複数の矯正ロール12で構成される2組のロール群である第1ロール群13a及び第2ロール群13bと、第1ロール群13a及び第2ロール群13bの各々を支持しフレーム10に固定される2つの台座である第1台座14a及び第2台座14bと、を備える。この矯正装置1は、第1ロール群13a及び第2ロール群13bに溶接ワイヤWを通過させることで当該溶接ワイヤWの曲がりを矯正するものである。図示の例では、第1台座14aと第2台座14bとの間に隙間が介在しているが、第1台座14aと第2台座14bとは互いに当接してもよい。
【0024】
フレーム10は、長方形の平板面を有する板状の部材であって、その平板面の長手方向に沿った両端に、該平板面に対してほぼ垂直に設けられた略同一な平板状の2つの壁板15a,15bを有している。2つの壁板15a,15bは、平板面に対して同じ方向に向かってほぼ垂直となるように設けられており、互いに対向してほぼ平行となっている。
【0025】
ガイド体11a,11bは、管体であって該管体の長手方向に沿った貫通孔を有する部材である。ガイドパイプ11a,11bの貫通孔は、溶接ワイヤWの直径tに比べて十分に大きな直径を有する孔である。
【0026】
図2Aに示すように、ガイド体11a,11bは、互いの貫通孔の軸心をほぼ一致させて壁板15a,15bを貫通しつつ壁板15a,15bに保持されている。ガイド体11aは壁板15aに保持されており、ガイド体11bは壁板15bに保持されている。
【0027】
フレーム10の外部、例えば、
図2Aの紙面に向かって右側から一方のガイド体11aの貫通孔を通過した溶接ワイヤWは、他方のガイド体11bへ向かってほぼ一直線状にフレーム10内を通過し、他方のガイド体11bの貫通孔を通ってフレーム10の外部へ出て行く。このとき、フレーム10内で溶接ワイヤWが通過する通路は、
図2A及び
図2Bにおいて一点鎖線で示す直線であり矯正路Tという。
【0028】
第1ロール群13a及び第2ロール群13bの各々は、後述する5つの矯正ロール12によって構成されており、当該5つの矯正ロール12が、矯正路Tを挟んで対向するように、当該溶接ワイヤWの通過方向に沿って所定の配置間隔Lを隔てて配置されている。第1ロール群13a及び第2ロール群13bの構成を説明する前に、矯正ロール12の構成について詳しく説明する。
【0029】
矯正ロール12は、
図6のように、溶接ワイヤWの直径tよりも大きな厚みを有する円板形状を有し、該円板形状の軸心を中心として回転可能な部材である。本実施形態では、矯正ロール12は、内輪(以下、インナーレースという)、外輪(以下、アウターレースという)及び転動体を有する転がり軸受等のベアリングで構成される。矯正ロール12は例えばステンレス製である。
【0030】
したがって、矯正ロール12は、インナーレース、アウターレース及び転動体を有する軸受を構成する部材で構成され、矯正ロール12の回転軸心に沿ったアウターレースの厚みは溶接ワイヤWの直径tよりも大きい。
【0031】
図3Aは、矯正ロールの正面図であり、
図3Bは、矯正ロールの上面図である。なお、
図3Bにおいては、矯正ロール12を固定するためのボルトBの図示を省略している。
図3A及び
図3Bに示すように、矯正ロール12のアウターレースの外周面には、該アウターレースの周方向に沿って、つまり該アウターレースの回転方向に沿って全周にわたって溝が形成されている。以下、この溝を矯正溝Gという。
【0032】
矯正溝Gの断面形状は任意であって、円弧、U字、矩形及びV字等が例示される。図示の例では、矯正溝Gの断面形状は半円弧である。矯正溝Gの上端Guは、溶接ワイヤWが矯正溝Gの壁面と接触する位置よりも十分に上方にあり、該矯正溝Gの開口幅GLは、溶接ワイヤWの直径tよりも若干大きい程度が好ましい。矯正溝Gの開口幅GLを直径tよりも若干大きくなる程度に形成すれば、矯正溝Gの上端Guは、矯正溝G内での溶接ワイヤWの過度なぶれや振動を抑制する押さえ部として働くことができる。
【0033】
図2A及び
図2Bを参照しながら、第1ロール群13a及び第2ロール群13bについて説明する。
【0034】
第1及び第2ロール群13a,13bそれぞれにおいて、複数の矯正ロール12は溶接ワイヤWの通過方向(
図2A及び
図2B中、右側から左側)に順次第1ロール12a、第2ロール12b、・・・、第nロールが配設され、これらn個のロールにより、溶接ワイヤWに対し交互に逆方向の曲げ変形が与えられてその巻癖が矯正される。nは4以上の整数とする。なお、図示の例では、n=5であり、複数の矯正ロール12は、溶接ワイヤWの通過方向に順次配設された、第1ロール12a、第2ロール12b、第3ロール12c,第4ロール12d、第5ロール12eを含む。矯正ロール12の数をn=5とすることにより、溶接ワイヤWのターゲット性を安定させつつ、溶接ワイヤ用矯正装置1を小型にすることができる。
【0035】
第1ロール群13aは、上述の5つの矯正ロール12を、矯正ロール12の回転方向である各矯正ロール12の矯正溝Gの形成方向が矯正路Tの形成方向に沿うように配置することによって構成されている。その5つの矯正ロール12の配置について以下に説明する。
【0036】
第1ロール群13aの5つの矯正ロール12の各々は、
図2Aの紙面に向かったときの上下方向において、一点鎖線で示す矯正路Tの上方に2つの矯正ロール12b,12dが配置され、下方に3つの矯正ロール12a,12c、12eが配置されている。上方の2つの矯正ロール12は矯正路Tに沿って所定の軸間距離2Lを空けて配置されており、下方の3つの矯正ロール12も同様に矯正路Tに沿って所定の軸間距離2Lを空けて配置されている。また、上方の矯正ロール12と下方の矯正ロール12は、互いに矯正溝Gによって正反対の方向である
図2Aの上下方向から矯正路Tを挟むように対向している。
【0037】
第1ロール群13aの5つの矯正ロール12の各々は、矯正路Tを挟んで対向する矯正ロール12と矯正路Tに対して垂直方向に対向するのではなく、矯正路Tに対して斜め方向に対向するように配置されている。つまり、上方の2つの矯正ロールである第2ロール12b,第4ロール12dの各々は、下方で隣り合う矯正ロールである第1ロール12a,第3ロール12c,第5ロール12eの軸間距離2Lのほぼ中央に対応する位置で矯正路Tに向かうように配置されている。言い換えれば、下方の3つの矯正ロールである第1ロール12a,第3ロール12c,第5ロール12eは、隣り合う矯正ロールである第1ロール12a,第3ロール12c,第5ロール12eの軸間距離2Lの中央に対応する位置において上方の2つの矯正ロールである第2ロール12b,第4ロール12dが矯正路Tに対向するように配置されている。すなわち、複数の矯正ロール12の配置間隔Lは、上方又は下方で隣り合う矯正ロール21の軸間距離2Lの半分である。なお、配置間隔Lとは、各矯正ロール12aと12b、12bと12c、12cと12d、12dと12e、それぞれの軸心間の矯正路Tに沿った間隔をいい、それぞれ等しくても異なる値でもよい。
【0038】
なお、詳細は後述するが隣り合う第1ロール群13aの5つの矯正ロール12の軸間距離2Lのうち、ワイヤ入口側の第1ロール12aと第3ロール12cとの間の軸間距離2Lを特に2Linと記載し、ワイヤ出口側の第5ロール12eと第3ロール12cとの間の軸間距離2Lを特に2Loutと記載する。
【0039】
上述のように5つの矯正ロール12が配置される第1ロール群13aは、第1台座14aによって支持されている。第1台座14aは、例えばフレーム10と同じ材質で構成された直方体の部材であり、一つの側面でフレーム10に接して当該フレーム10に固定される。第1台座14aは、フレーム10と接する面とは反対側の側面である、つまり、フレーム10と接する面と平行な側面である支持面A1上に、第1ロール群13aを支持する。
【0040】
第1ロール群13aの各矯正ロール12は、インナーレースを貫通すると共に第1台座14aの支持面A1に予め設けられたボルト穴に螺合するボルトBを介して、該支持面A1上に支持される。このとき、各矯正ロール12は、支持面A1から一定の距離を保持するスペーサSを該支持面A1との間に挟んで支持面A1上に支持されてもよい。スペーサSを用いる場合、支持面A1のボルト穴に螺合するボルトBの頭部と支持面A1に接するスペーサSとによって矯正ロール12のインナーレースが挟まれるので、各矯正ロール12が第1台座14aの支持面A1上に支持される。
【0041】
第1台座14a上と各矯正ロール12の間に適切な厚みのスペーサSを設置して各矯正ロール12を保持すれば、第1台座14aをフレーム10に固定することによって、第1ロール群13aを矯正路Tに対する上述の位置に配置することができる。
【0042】
図2Bは、
図2Aに示す矯正装置1を紙面に向かったときの上方から見た状態を示す図であるが、
図2Bに示すように、第1ロール群13aの各矯正ロール12は、矯正溝Gが矯正路Tとほぼ重なるように配置されている。
【0043】
以上に説明したように、第1ロール群13aを構成する各矯正ロール12は、第1台座14aに対して所定位置に固定されると共に、第1台座14aがフレーム10の所定位置に固定されるので、第1ロール群13aを構成する各矯正ロール12の配置位置は、フレーム10内において固定される。したがって、第1ロール群13aは、フレーム10内における各矯正ロール12の配置位置の変更を必要としない無調整型であるといえる。
【0044】
第2ロール群13bは、第1ロール群13aと同様に第1ロール12a、第2ロール12b、・・・、第5ロール12eからなる、5つの矯正ロールによって構成されており、第1台座14aとほぼ同じ構成の第2台座14bの支持面A2に支持されている。つまり、第2ロール群13bは、第1ロール群13aとほぼ同様の構成を有して、第1ロール群13aと同様に無調整型であり、第2ロール群13bを構成する各矯正ロール12は、矯正溝Gによって、互いに向かい合う方向に矯正路Tを挟むように対向している。
【0045】
第2ロール群13bが第1ロール群13aと異なる点は、次のとおりである。第2ロール群13bは、第2ロール群13bの各矯正ロール12が矯正路Tを挟んで対向する方向が、第1ロール群13aの各矯正ロール12の対向方向と異なるように配置されている。具体的に、第2ロール群13bの各矯正ロール12の対向方向は、第1ロール群13aの各矯正ロール12の対向方向に対してほぼ90°回転した向きとなっている。
【0046】
上述の第2ロール群13bの配置を実現するために、第2ロール群13bを支持する第2台座14bは、第2ロール群13bを支持する支持面A2に隣接する側面でフレーム10と接し、第1ロール群13aと隣り合うようにフレーム10に固定される。
【0047】
図2Bに示すように、第2ロール群13bの各矯正ロール12は、矯正路Tを挟んで該矯正路Tに対して斜め方向に対向し、
図2Aに示すように、矯正溝Gが矯正路Tとほぼ重なるように配置されている。つまり、第1ロール群13a及び第2ロール群13bにおいて、矯正路Tに対する各矯正ロール12の配置は90°回転したのみでありほぼ同じである。
【0048】
図4及び
図5を参照して、上述の第1ロール群13a及び第2ロール群13bを備える矯正装置1と矯正路Tを通過する溶接ワイヤWとの関係を説明する。
図4は、
図2Aに示す矯正装置1に溶接ワイヤWを通過させた状態を、矯正装置1の正面から見た図である。
図5は、矯正装置1の第1ロール群13aを拡大して示す拡大図である。
【0049】
図4に示すように、例えば、フレーム10の外部から一方のガイドパイプ11aの貫通孔を通過した溶接ワイヤWは、矯正路Tに沿って、第1ロール群13a及び第2ロール群13bを通過して、他方のガイドパイプ11bへ向かってほぼ一直線状にフレーム10内を通過し、他方のガイドパイプ11bの貫通孔を通ってフレーム10の外部へ出て行く。第1ロール群13a及び第2ロール群13bを通過した溶接ワイヤWは、第1ロール群13a及び第2ロール群13bの各ロール群の5つの矯正ロール12から、正反対の方向の押圧力を交互に受けることとなる。
【0050】
図5に示す第1ロール群13aの拡大図を参照すると、溶接ワイヤWは、第1ロール群13aの5つの矯正ロール12と順に接触することによって、
図5の紙面に向かって上方からの押圧力と下方からの押圧力を交互に受けて、上下に僅かに湾曲していることがわかる。さらに、溶接ワイヤWは、第2ロール群13bにおいて、第1ロール群13aで受けた押圧力の方向とは約90°異なる方向から、つまり、溶接ワイヤWの通過方向に対して右方からの押圧力と左方からの押圧力を交互に受けて、左右に僅かに湾曲することとなる。
【0051】
このように、第1ロール群13a及び第2ロール群13bを通過することで上下又は左右に交互に湾曲した溶接ワイヤWは、第2ロール群13bを通過したときにはほぼ直線状となって矯正装置1の外へ引き出される。
【0052】
上述の第1ロール群13a及び第2ロール群13bについての説明では、主に、矯正路Tに沿った方向における各矯正ロール12の配置について述べたが、次に、各矯正ロール12の矯正路Tに対する対向方向における配置について、以下に詳細に説明する。
【0053】
図6を参照しながら、各矯正ロール12の対向方向における配置を含む第1ロール群13a及び第2ロール群13bの構成について詳しく説明する。
図6は、第1ロール群13a及び第2ロール群13bにおける矯正ロール12の配置と溶接ワイヤWの押込量との関係を概念的に示す概念図である。
【0054】
図6に示すように、第1ロール群13a及び第2ロール群13bの構成である各矯正ロール12の対向方向における位置関係について、隣り合う矯正ロール12の軸間距離2L、矯正ロール12の直径2r、溶接ワイヤWの直径t、及び矯正ロール12の噛込量δの4つのパラメータを用いて説明する。
【0055】
隣り合う矯正ロール12の軸間距離2Lは、当該隣り合う矯正ロール12の回転中心である軸心間の距離であり、軸間距離2Lの半分を矯正ロール12の配置間隔Lとする。矯正ロール12の直径2rは、矯正ロール12の軸心から矯正溝Gの溝底Gbまでの距離の2倍である。よって、矯正ロール12の軸心から溝底Gbまでの距離はロール半径rとなる。
【0056】
本実施形態の矯正ロール12の半径rは、7mm未満が好ましく、6.5mm以下がより好ましく、6mm以下がさらに好ましい。7mm未満の半径rを有する小径の矯正ロール12を用いることで、矯正装置1全体を小型化できる。逆に、矯正ロール12の半径rが7mm以上である場合、適正な溶接ワイヤWの変形が得られず且つ溶接ワイヤ用矯正装置1が大型化してしまう。また、矯正ロール12の半径rが小さくなるに従ってベアリング径も小さくする必要があるが、径が小さいベアリングの定格荷重は低いため、ベアリング寿命の低下や、負荷に耐えられず回転不良が発生する可能性がある。したがって、矯正ロール12の半径rは、5mm以上であることが好ましく、5.5mm以上がより好ましく、6mm以上がさらに好ましい。
【0057】
溶接ワイヤWの直径tは、溶接ワイヤWの線径であり、例えば直径tとして0.8mm以上1.6mm以下が想定される。しかしながら、直径tは、上記数値範囲に限定されず任意である。
【0058】
図6に示すように、矯正ロール12の噛込量δは、上述の矯正路Tを挟んで対向する2つの矯正ロール12の溝底Gbを矯正路Tに沿って見たときの、当該矯正ロール12の重なりの量を表す値である。矯正路Tに沿って見ると、2つの矯正ロール12の溝底Gbが矯正路Tに向かって侵入するように重なっており、この重なりの分だけ矯正ロール12が噛み合っているといえるので、矯正ロール12の重なりの量を矯正ロール12の噛込量δという。
【0059】
入口側の第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cによるロール噛込量δを、入口側ロール噛込量δin(mm)と呼ぶことがある。図示の例では、第1ロール12a及び第3ロール12cが、第2ロール12bとの対向方向(
図2Aにおける上下方向)における同一位置に配置されるので、第1ロール12aと第2ロール12bとの対向方向における重なり量と、第3ロール12cと第2ロール12bとの対向方向における重なり量とは、等しい。したがって、第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cによる入口側ロール噛込量δin(mm)は、第1ロール12aと第2ロール12bとの対向方向における重なり量、又は、第3ロール12cと第2ロール12bとの対向方向における重なり量ということができる。
【0060】
出口側の第3ロール12c、第4ロール12d及び第5ロール12eによるロール噛込量δを、出口側ロール噛込量δout(mm)と呼ぶことがある。図示の例では、第3ロール12c及び第5ロール12eが、第4ロール12dとの対向方向(
図2Bにおける上下方向)における同一位置に配置されるので、第3ロール12cと第4ロール12dとの対向方向における重なり量と、第4ロール12dと第5ロール12eとの対向方向における重なり量とは、等しい。したがって、第3ロール12c、第4ロール12d及び第5ロール12eによる出口側ロール噛込量δout(mm)は、第3ロール12cと第4ロール12dとの対向方向における重なり量、又は、第5ロール12eと第4ロール12dとの対向方向における重なり量ということができる。
【0061】
このとき、噛込量δは、対向する2つの矯正ロール12の溝底Gbが、矯正路Tに向かって侵入するように重なっていれば正の値をとり、矯正路Tにほぼ平行な同一線上にあれば0(ゼロ)である。さらに、対向する2つの矯正ロール12の溝底Gbが矯正路Tにほぼ平行な同一線上になく且つ上述のように重なってもいないとき、これら2つの矯正ロール12の溝底Gbはこの同一線から離れて互いに間隔を空けた状態となるので、噛込量δは、この間隔に対応する距離の分だけ負の値をとる。
【0062】
以上から、
図6に示すように、矯正ロール12による溶接ワイヤWの押込量(δ+t)は、噛込量δと直径tの和となる。
【0063】
第1及び第2ロール群13a,13bそれぞれにおいて、複数の矯正ロール12は、予めワイヤ変形パラメータCが所定の範囲内となるように配置されて、それらの位置が固定されている。したがって、本実施形態において、矯正ロールの位置調整ねじ等は設けられていない。
【0064】
本実施形態におけるワイヤ変形パラメータCの算出方法について、
図7を参照して説明する。ワイヤ変形パラメータCは、例えば、第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cのように、ワイヤWの通過方向に連続する3個のロールを基準にして、算出することができる。連続する3個のロールによるワイヤ変形パラメータCは、下記式(1)によって算出することができる。
【0065】
C=L/[{(δ+t)/g}2]・・・式(1)
ただし、L,δ,t,gは以下の通りである。
L:矯正ロールの配置間隔
δ:噛込量
t:溶接ワイヤの直径
g:溶接ワイヤが第1ロール{第(n-2)ロール}及び第3ロール(第nロール)に接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第2ロール{第(n-1)ロール}のうち溶接ワイヤと重なる部分の弦長
【0066】
図7は、溶接ワイヤWが第1ロール12a{第(n-2)ロール}及び第3ロール12c(第nロール)の溝底Gbに接するように直線状に配置されたと仮定した場合の概念図である。このような場合、第2ロール12b{第(n-1)ロール}は、第1ロール12a{第(n-2)ロール}及び第3ロール12c(第nロール)との対向方向において、溶接ワイヤWと押込量(δ+t)分だけ重なる部分を有することになる。第2ロール12bのうち溶接ワイヤWと重なる部分の弦長は、符号gで示されている。この弦長gは、第2ロール12bと溶接ワイヤWと重なる部分の、溶接ワイヤWの供給方向(
図7の左右方向)の寸法ともいうことができる。なお、
図7において、弦長gは、下記式(2)によって算出することができる。
【0067】
【0068】
ただし、cosθは以下の通りである。
【0069】
【0070】
なお、ワイヤ変形パラメータCに関する上記式(1)は、以下のように、発明者の鋭意研究の結果導出されたものである。
【0071】
矯正ロール12がワイヤWに及ぼす局所的な応力について、本実施形態では、ワイヤWの曲げ変形に寄与する応力σ1という考え方と、矯正ロール12の押し込み量に寄与する応力σ2という考え方との、二通りの考え方で整理する。本実施形態では、ワイヤWの曲げ変形σ1に係る荷重は、曲げ変形の縦横比(δ+t)/Lに影響すると考え、矯正ロール12の押し込み量に寄与するσ2に係る荷重は、押し込み量(δ+t)に影響すると考えた。すなわち、σ1に係る荷重を示す指標として、曲げ変形の縦横比(δ+t)/Lを代用し、σ2に係る荷重を示す指標として、押し込み量(δ+t)で代用している。また、本実施形態では、σ1およびσ2は、矯正ロール12と溶接ワイヤWの接触面積Jに対する応力を矯正ロール12がワイヤWに及ぼす局所的な応力として考える。ここで、接触面積Jは、矯正ロール12のロール径や弦長gに影響すると考えられるが、本実施形態においては、後述するμ1およびμ2の応力指標の精度の観点から弦長gを接触面積Jの代用としている。本実施形態においては、上述の荷重または接触面積の代用となる要素から導出されるσ1の指標を応力指標μ1とし、σ2の指標を応力指標μ2として以下の式(3)のように示す。
【0072】
【0073】
発明者は、応力指標μ1と応力指標μ2のバランスが適正でないと、ワイヤWに対し、適正な塑性変形が生じなくなり、良好なターゲット性が得られないことを見出した。例えば、応力指標μ1の場合、矯正ロール12の配置間隔Lを減少させると応力指標μ1は増大するが、押し込み量(δ+t)が過小であれば応力指標μ2は減少する。これは、矯正ロール12の押し込み量が十分でないことにより、ワイヤが十分に塑性変形を起こさないことを示唆している。また、押し込み量(δ+t)が増大すると応力指標μ2は増大するが、矯正ロール12の配置間隔Lが過大であると、応力指標μ1は減少する。これは、ワイヤの曲がりが十分でないことにより、ワイヤWが適正な塑性変形を起こさないことを示唆している。すなわち、応力指標μ1と応力指標μ2のバランスを適正に調整することによって、ワイヤWに対し、十分な塑性変形を生じさせることができる。
【0074】
本実施形態においては、応力指標μ1と応力指標μ2のバランスを示すパラメータを、応力指標μ1と応力指標μ2の積で示す。なお、応力指標μ1と応力指標μ2のバランスを示すパラメータは、応力指標μ1と応力指標値μ2の積を対数で表示しても良いし、積の逆数で表示してもよい。
【0075】
本実施形態では、値の見やすさの観点から、式(4)で示すμ1とμ2の積の逆数の関数をワイヤ変形パラメータCとして採用した。
【0076】
【0077】
矯正装置1における入口側ワイヤ変形パラメータCinは、第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cの位置関係から上記式(1)に基づいて算出される。すなわち、第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cの配置間隔をLinとし、入口側ロール噛込量をδinとし、溶接ワイヤWの直径をtとし、溶接ワイヤWが第1ロール12a及び第3ロール12cに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第2ロール12bのうち溶接ワイヤWと重なる部分の弦長である入口側弦長をginとしたとき、入口側ワイヤ変形パラメータCinは数式Cin=Lin/[{(δin+t)/gin}2]によって算出される。
【0078】
矯正装置1における出口側ワイヤ変形パラメータCoutは、第3ロール12c、第4ロール12d及び第5ロール12eの位置関係から上記式(1)に基づいて算出される。すなわち、第3ロール12c、第4ロール12d及び第5ロール12eの配置間隔をLoutとし、出口側ロール噛込量をδoutとし、溶接ワイヤWの直径をtとし、溶接ワイヤWが第3ロール12c及び第5ロール12eに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第4ロール12dのうち溶接ワイヤWと重なる部分の弦長である入口側弦長をgoutとしたとき、出口側ワイヤ変形パラメータCoutは数式Cout=Lout/[{(δout+t)/gout}2]によって算出される。
【0079】
なお、上記ワイヤ変形パラメータCは、値が小さい程、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が増大し、値が大きい程、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が減少する。ワイヤ変形パラメータCの値が過小であると、溶接ワイヤWに対する塑性変形の変位量が過剰となり、溶接ワイヤに対してかえって線癖を与えることにより、ターゲット性が悪化する。また、ワイヤ変形パラメータCの値が過大であると、溶接ワイヤWに対する塑性変形の変位量が不十分となり、ターゲット性が悪化する。
【0080】
また、上記のパラメータCinおよびCoutが、いずれも所定の範囲内であっても、両方の値が小さい場合、すなわち矯正ロール12による溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が大きい場合、溶接ワイヤWを送給する際の送給抵抗が高くなり、溶接ワイヤWを滑らかに送給することができず、溶接不良になる可能性がある。そこで発明者は、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFと、溶接ワイヤWの送給抵抗と、の相関を見出した。溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFは、下記式(5)によって算出される。
【0081】
F=(Lin/Cin+Lout/Cout)×n
・・・式(5)
ただし、Lin,Cin,Lout,Cout,nは以下の通りである。
Lin:第1ロールと第3ロールとの間の軸間距離2Linの二分の一
Cin:入口側ワイヤ変形パラメータ
Lout:第nロールと第(n-2)ロールとの間の軸間距離2Loutの二分の一
Cout:出口側ワイヤ変形パラメータ
n:矯正ロールの個数
【0082】
なお、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFに関する上記式(5)は、以下のように、発明者の鋭意研究の結果導出されたものである。
【0083】
矯正装置1において生じる送給抵抗をf、溶接ワイヤを送給した距離をlとすると、矯正装置1を通過するために溶接ワイヤWに与えられた仕事量wは、w=flとなる。ベアリングを回転させる摩擦力は小さいため無視すると、この仕事量wは全て、溶接ワイヤWの塑性変形に用いられるはずであるので、前記送給抵抗fは、溶接ワイヤWに加わった応力および塑性変形の変位量に応じて増減する。そのため、矯正装置1において生じる送給抵抗fは、溶接ワイヤWの入口側の応力の指標μ1×μ2=1/Cinと、出口側の応力の指標μ1×μ2=1/Coutに応じて増減すると考えられる。
【0084】
溶接ワイヤWが塑性変形を起こす領域、すなわちロール配置間隔Lが広くなるほど、塑性変形されるワイヤWが長くなるため、送給抵抗も大きくなることが予想される。また、矯正ロールの個数が増えるほど、送給抵抗も大きくなることが予想される。
【0085】
以上から、本実施形態では、矯正装置1で生じる溶接ワイヤWの送給抵抗の指標として、式(5)で表される送給抵抗パラメータFを定義した。
【0086】
ワイヤ変形パラメータCと、ワイヤ変形パラメータCを構成する各種パラメータL、δ、t、gと、の関係について
図8A~
図9Bを参照して説明する。
【0087】
図8Aは、矯正ロール12の半径rが比較的大きい、例えば7mm以上の場合の、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの関係を示す概念図である。
図8Bは、矯正ロール12の半径rが
図8Aに比べて小さい、例えば7mm未満の場合の、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの関係を示す概念図である。
図9Aは、矯正ロール12の配置間隔Lが比較的大きい、例えば8.75mmより大きい場合の、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの関係を示す概念図である。
図9Bは、矯正ロール12の配置間隔Lが
図9Aに比べて小さい、例えば8.75mm以下の場合の、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの関係を示す概念図である。
【0088】
図8Bに示すように矯正ロール12の半径rが
図8Aに比べて小さい場合、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの接触面積Jは小さくなる。なお上記式(2)に基づけば、半径rが小さくなる程、弦長gも小さくなる。さらに、
図9Bに示すように矯正ロール12の配置間隔Lが
図9Aに比べて小さい場合、矯正ロール12と溶接ワイヤWとの接触面積Jは小さくなる。すなわち、矯正ロール12の半径rを小さくした場合(弦長gを小さくした場合)や、矯正ロール12の配置間隔Lを短くした場合、接触面積Jが小さくなることで、溶接ワイヤWに局所的な負荷がかかり易くなる。また、図示しないが、噛込量δや溶接ワイヤWの直径tを大きくした場合は、押込量(δ+t)が大きくなるので、当然ながら、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量や送給抵抗も増大する。何れの場合(半径rや配置間隔Lを小さくした場合や、噛込量δや直径tを大きくした場合)においても、ワイヤ変形パラメータCは小さくなる。
【0089】
逆に、矯正ロール12の半径rを大きくした場合(弦長gを大きくした場合)や、矯正ロール12の配置間隔Lを長くした場合、接触面積Jが大きくなることで、溶接ワイヤWに局所的な負荷がかかり難くなる。したがって、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量や送給抵抗は減少する。また、図示しないが、噛込量δや溶接ワイヤWの直径tを小さくした場合は、押込量(δ+t)が小さくなるので、当然ながら、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量や送給抵抗は減少する。何れの場合(半径rや配置間隔Lを大きくした場合や、噛込量δや直径tを小さくした場合)においても、ワイヤ変形パラメータCは大きくなる。
【0090】
そこで、本実施形態においては、ワイヤ変形パラメータCと溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFとを適切な範囲に設定することで、溶接ワイヤのターゲット性と、送給抵抗の低減と、を両立している。
【0091】
ここで、入口側ワイヤ変形パラメータCinの下限は1150が好ましく、1200がより好ましく、1300であることがさらに好ましく、上限は1500であることが好ましく1450であることがより好ましく、1400であることがさらに好ましい。出口側ワイヤ変形パラメータCoutは、下限は4300であることが好ましく、4400であることがより好ましく、4500であることがさらに好ましく、上限は特に設ける必要はないが、49000であることが好ましく、38400であることがより好ましく、10000であることがより好ましく、8000であることがより好ましく、7000であることがさらに好ましい。入口側ワイヤ変形パラメータCin及び出口側ワイヤ変形パラメータCoutをこのような好適な範囲を満たすように設定することで、ターゲット性が良好な溶接ワイヤ用矯正装置1とすることができる。
【0092】
なお、入口側ワイヤ変形パラメータCinが上記下限から外れ、Cin<1150である場合、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が過多となり、溶接ワイヤWに対して矯正装置の出口側の矯正ロール12で矯正しきれないほどの線癖を与えることにより、ターゲット性が悪化してしまう。また、出口側ワイヤ変形パラメータCoutが上記下限から外れ、Cout<4300である場合、出口側の矯正ロールでの溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が過多となり、溶接ワイヤに対して過剰な線癖を与えることにより、ターゲット性が悪化してしまう。
【0093】
また、入口側ワイヤ変形パラメータCin及び出口側ワイヤ変形パラメータCoutが上記上限から外れ、1500<Cinや49000<Coutである場合、溶接ワイヤWの塑性変形の変位量が不足し、ターゲット性が悪化してしまう。このような場合、溶接時に溶接ワイヤWの先端部でワイヤ振れが発生し、溶接品質が不安定になることがある。
【0094】
溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFの下限は、特に指定はないが、0.014以上であることがより好ましく、0.017以上であることがより好ましく、0.021以上であることがさらに好ましい。溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFの上限は、0.037未満であることがより好ましく、0.036以下であることがさらに好ましい。溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが上限から外れ、0.037≦Fである場合、送給抵抗が増大してしまう。
【0095】
なお、本実施形態においては、位置調整ねじ等によって矯正ロール12の位置を調整する必要がないので、常に安定した良好な矯正効果を得ることができる。
【0096】
なお、図示の例においては各ロール群13a,13bにおける矯正ロール12の数をn=5個としたが、本発明においては、矯正ロール12の数nを4個以上の任意の数で設定することができる。一般的な例として、矯正装置がn個のロールを有しているとき、第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cの位置関係等によって、入口側ワイヤ変形パラメータCinを算出することができる。また、第(n-2)ロール、第(n-1)ロール及び第nロールの位置関係等によって、出口側ワイヤ変形パラメータCoutを算出することができる。
【0097】
本実施形態の複数の矯正ロール12の半径rは、5mm以上であることが好ましく、5.5mm以上であることがより好ましく、6mm以上であることがさらに好ましい。また、矯正ロール12の半径は、7mm未満であることが好ましく、6.5mm以下であることがより好ましく、6mm以下であることがさらに好ましい。このような半径rとすることで、矯正装置1を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータC及び溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFを良好な数値とすることができる。
【0098】
本実施形態の複数の矯正ロール12の配置間隔Lは、5mmより大きいことが好ましく、6mm以上であることがより好ましく、7mm以上であることがさらに好ましい。また、矯正ロール12の配置間隔Lは、8.75mm以下であることが好ましく、8.5mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることがさらに好ましい。このような配置間隔Lとすることで、矯正装置1を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータC及び溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFを良好な数値とすることができる。
【0099】
また、第1及び第2ロール群13a,13bのそれぞれにおいて、最も入口側に位置する第1ロール12aと、最も出口側に位置する第5ロール12eと、の間の軸間距離Lallは、35mm以下であることが好ましく、34mm以下であることがより好ましく、33mm以下であることがさらに好ましい。また、軸間距離Lallは、20mmより大きいことが好ましい。軸間距離Lallは、配置間隔Lと、各ロール群13a,13bに含まれる矯正ロール12の個数nと、の関係式で表すことができ、Lall=L×(n-1)である。すなわち、図示の例ではn=5であるので、Lall=4Lである。軸間距離Lallを上記範囲内に設定することにより、矯正装置1を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータCを良好な数値とすることができる。
【0100】
なお、図示の例においては、矯正ロール12の個数はn=5個であったが、矯正ロール12の個数を変更した場合であっても、最も入口側に位置する第1ロール12aと、最も出口側に位置する第nロールと、の間の軸間距離Lallは上記好適な範囲内に設定することが好ましい。
【0101】
また、矯正装置1の第1ロール群13a及び第2ロール群13bの全長N(
図1及び
図2参照)は、110mm以下であることが好ましく、105mm以下であることがより好ましく、100mm以下であることがさらに好ましい。ここで、矯正装置1の第1ロール群13a及び第2ロール群13bの全長Nとは、溶接ワイヤWの通過方向における、第1台座14aの入口側面と第2台座14bの出口側面との間の長さである。このように、矯正装置1は、全長Nが110mm以下であり小型であるため、設置空間の大きさや形状による制約を受けにくく、且つ、位置P1(
図1参照)等のロボットアーム上に設けられる場合に溶接ロボット2の可動域を広くすることができる。
【0102】
また、矯正装置1の第1ロール群13a及び第2ロール群13bの全長Nは、60mmより大きいことが好ましい。
【0103】
また、入口側の第1ロール12a、第2ロール12b及び第3ロール12cによる入口側ロール押込量(δin+t)は、0.35mm以下であることが好ましい。
【0104】
また、入口側ロール押込量(δin+t)は、0.10mm以上であることが好ましい。
【0105】
また、出口側の第(n-2)ロール、第(n-1)ロール及び第nロールによる出口側ロール押込量(δout+t)は、0.1mm以下であることが好ましい。
【0106】
また、出口側ロール押込量(δout+t)は、0mm以上であることが好ましい。
【0107】
本実施形態で示した第1ロール群13a及び第2ロール群13bは、同一構造、同一条件のパラメータであるが、本発明の範囲で第1ロール群13aと第2ロール群13bを異なる構造、異なる条件としても本発明の効果を満たす。例えば、第1ロール群13a及び第2ロール群13bは、入口側ワイヤ変形パラメータCinが1150~1500の範囲であれば相違してもよく、出口側ワイヤ変形パラメータCoutが4300~49000の範囲であれば相違してもよく、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが0.037未満の範囲であれば相違してもよい。
【0108】
[実施例]
以下、実施例に係る溶接ワイヤ用矯正装置1によって溶接ワイヤWを矯正した場合の試験結果について、比較例による試験結果と比較しながら具体的に説明する。
【0109】
図10は、ターゲット性試験装置の概要図である。
図10に示すようにターゲット性試験装置において、矯正装置1は、送給装置4内に配置されている。また、コンジットケーブル5は、その片端部がパック3の出口側に接続されており、その他端部が送給装置4内の矯正装置1に接続されている。したがって、溶接ワイヤWはコンジットケーブル5内を通過し、送給装置4内の矯正装置1に挿通されている。送給装置4の出口側には、コンジットケーブル6を介して溶接トーチ7が接続されており、この溶接トーチ7の先端にはコンタクトチップ8(以下、チップ8という)が設けられる。
【0110】
このように構成されたターゲット性試験装置においては、送給装置4を駆動させると、パック3から引き出された溶接ワイヤWは、コンジットケーブル5内を進行し、矯正装置1に供給されてその巻癖が矯正される。その後、送給装置4及びコンジットケーブル6を介して溶接トーチ7のチップ8に送出される。
【0111】
このチップ8から送出された溶接ワイヤWをチップ8先端から突出させ、チップ8先端から150mmの箇所で、溶接ワイヤWのX方向及びY方向における座標位置を測定することで、溶接ワイヤWのターゲット性を試験した。X方向及びY方向とは、チップ8が延びる、
図10の上下方向に対して垂直の方向である。XY座標位置の測定回数は100回以上であり、溶接ワイヤWは測定後に毎回、チップ8出口で切断した。
【0112】
実施例及び比較例で用いた矯正装置1は全て、矯正ロール12が等しい配置間隔Lで配置されており、第1ロール群13a及び第2ロール群13bの矯正ロール12が、同一形状の第1台座14a及び第2台座14bに、それぞれ同一の配置で固定されている。
【0113】
図11は、送給抵抗試験装置の概要図である。
図11に示すように送給抵抗試験装置において、矯正装置1は、送給装置4内に配置されている。また、コンジットケーブル5は、その片端部がパック3の出口側に接続されており、その他端部が送給装置4内の矯正装置1に接続されている。したがって、溶接ワイヤWはコンジットケーブル5内を通過し、送給装置4内の矯正装置1に挿通されている。溶接ワイヤWは、送給装置4の出口側から送出される。なお、コンジットケーブル5は、その中途部分にて直径300mmで2回転巻回されており、これによって、送給抵抗を増加させて測定し易くしている。
【0114】
送給装置4は、不図示のロードセルを含んでおり、当該ロードセルによって溶接ワイヤWの送給抵抗を測定する。溶接ワイヤWの送給速度を11m/minに設定して測定した。
【0115】
以下の表1には、実施例1~4及び比較例1~10における試験条件が示されている。
【0116】
【0117】
ターゲット性試験及び送給抵抗試験においては、実施例1~4及び比較例1~9でそれぞれ異なる矯正装置1を用いた。比較例10においては、矯正装置1を用いなかった。矯正装置1はそれぞれ、溶接ワイヤWの直径tと、ロール12の半径rと、ロール12の配置間隔Lと、第1及び第nロールの間の軸間距離Lallと、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutと、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが種々の値となるように、複数の矯正ロール12の位置が調整されている。
【0118】
また、溶接ワイヤWは、直径tが1.2mmであるソリッドワイヤが用いられた。
【0119】
図12は、実施例1~4におけるターゲット性及び送給抵抗に関する試験結果を示す図である。
図13A及び
図13Bは、比較例1~10におけるターゲット性及び送給抵抗に関する試験結果を示す図である。
図12、
図13A及び
図13Bには、溶接ワイヤWの位置をXY座標でプロットした図が示されている。溶接ワイヤWのターゲット性の良否判断は、プロット図において、X方向の最大値と最小値の差であるΔx(mm)と、Y方向の最大値と最小値の差であるΔy(mm)と、が共に15mm以下(Δx≦15mmかつΔy≦15mm)である場合に、ターゲット性が良好であると判断し、それ以外の場合にはターゲット性が良好ではないと判断した。
【0120】
また、
図12、
図13A及び
図13Bには、送給装置4のロードセルで測定した溶接ワイヤWの送給抵抗も示されている。送給抵抗が1.15kgf以下である場合には、良好であると判断し、それ以外の場合には良好ではないと判断した。
【0121】
図12、
図13A及び
図13Bにおいて、Δx及びΔyが共に15mm以下であり、かつ送給抵抗が1.15kg以下の場合は、ワイヤのターゲット性向上とワイヤ送給抵抗の低減が両立されていると判断し、「判定:○」と記載した。それ以外の場合は、「判定:×」と記載した。
【0122】
表1に示すように、実施例1~4においては、ロール12の半径rと、ロール12の配置間隔Lと、第1及び第nロールの間の軸間距離Lallと、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutと、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFと、が全て上述した望ましい範囲内{5.0≦r<7.0(mm)、5.0<L≦8.75(mm)、20<Lall≦35(mm)、1150≦Cin≦1500、4300≦Cout≦49000、F<0.037}であった。また、矯正装置1の第1ロール群13a及び第2ロール群13bの全長Nが110mm以下であるので、装置の小型化も実現されている。このような実施例1~4においては、Δx≦15mmかつΔy≦15mmであり、溶接ワイヤWのターゲット性が良好であると同時に、送給抵抗が1.15kgf以下であり良好であった。このように、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutと、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFと、を適切な範囲に設定することで、ワイヤのターゲット性の向上と、ワイヤ送給抵抗の低減と、矯正装置の小型化と、を達成可能となることが明らかとなった。
【0123】
一方、比較例10においては、矯正装置1が用いられておらず、溶接ワイヤWの巻癖の矯正がなされていないため、Δx及びΔyは共に15mmを大きく超える値となり、溶接ワイヤWのターゲット性は悪かった。なお、矯正装置1が用いられていないため、送給抵抗は0.71kgfであり低かった。
【0124】
比較例1においては、ロール12の半径rと、ロール12の配置間隔Lと、第1及び第nロールの間の軸間距離Lallと、が上述した望ましい範囲{5.0≦r<7.0(mm)、5.0<L≦8.75(mm)、20<Lall≦35(mm)}から外れていた。したがって、矯正装置が大型となってしまう。また、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutとは、望ましい範囲{1150≦Cin≦1500、4300≦Cout≦49000}であったものの、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFは望ましい範囲(F<0.037)から外れていた。したがって、Δx≦15mmかつΔy≦15mmでありワイヤのターゲット性は確保できている一方、ワイヤ送給抵抗が増大し、1.15kgf超となってしまう。
【0125】
比較例2~9においては、ロール12の半径rと、ロール12の配置間隔Lと、第1及び第nロールの間の軸間距離Lallと、が上述した望ましい範囲内{5.0≦r<7.0(mm)、5.0<L≦8.75(mm)、20<Lall≦35(mm)}であるため、矯正装置は小型化される。
【0126】
しかしながら比較例2~9において、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutと、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFと、が全て上述した望ましい範囲内{1150≦Cin≦1500、4300≦Cout≦49000、F<0.037}であるものは無く、したがって、溶接ワイヤの良好なターゲット性とワイヤ送給抵抗の低減と、の両者を満足するものは無かった。
【0127】
すなわち、比較例4,5,7,8,9においては、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutとは、望ましい範囲{1150≦Cin≦1500、4300≦Cout≦49000}であったものの、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFは望ましい範囲(F<0.037)から外れていた。したがって、ワイヤのターゲット性が良好である一方、ワイヤ送給抵抗が増大し、1.15kgf超となってしまう。
【0128】
また、比較例2,3においては、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFは望ましい範囲(F<0.037)であったものの、入口側ワイヤ変形パラメータCinが望ましい範囲(1150≦Cin≦1500)から外れていた。したがって、ワイヤの送給抵抗は1.15kgf以下と低減されている一方、Δx及びΔy共に15mm超となりワイヤのターゲット性が悪化してしまう。
【0129】
比較例6においては、入口側ワイヤ変形パラメータCinと、出口側ワイヤ変形パラメータCoutと、溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFと、が全て望ましい範囲から外れており、ワイヤ送給抵抗は1.15kgf超であり、Δx及びΔy共に15mm超であり、ワイヤのターゲット性が悪化し、ワイヤの送給抵抗が増大してしまう。
【0130】
ところで、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積等は、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0131】
例えば、第1ロール群13aは第1台座14aを介して配置され、第2ロール群13bは第2台座14bを介して配置されていた。しかし、例えば第1ロール群13aについて、第1台座14aを用いなくても、フレーム10にボルト穴を形成し、スペーサSの長さを十分に長くすれば、ボルトBをフレーム10のボルト穴に直接螺合させることによって、第1ロール群13aを矯正路Tに対する上述の位置に配置することができる。
【0132】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0133】
(1) 複数の矯正ロールで構成されるロール群を2組備え、前記2組のロール群に溶接ワイヤを通過させることで前記溶接ワイヤの曲がりを矯正する溶接ワイヤ用矯正装置であって、
前記ロール群を構成する複数の前記矯正ロールは、前記溶接ワイヤが通過する矯正路を挟んで対向するように前記溶接ワイヤの通過方向に沿って所定の配置間隔Lを隔て配置されており、
前記2組のロール群は、前記矯正路を挟む対向方向が互いに異なるように配置されており、
それぞれの前記ロール群において、複数の前記矯正ロールは前記溶接ワイヤの通過方向に順次第1ロール、第2ロール、・・・、第nロールが配設され、これらn個(nは4以上の整数)のロールにより、前記溶接ワイヤに対し交互に逆方向の曲げ変形が与えられてその巻癖が矯正され、
前記溶接ワイヤの直径をt(mm)とし、
第1ロール、第2ロール及び第3ロールによる入口側ロール噛込量をδin(mm)とし、
第1ロールと第3ロールとの間の軸間距離を2Lin(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第1ロール及び第3ロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第2ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である入口側弦長をgin(mm)とし、
第(n-2)ロール、第(n-1)ロール及び第nロールによる出口側ロール噛込量をδout(mm)とし、
第nロールと第(n-2)ロールとの間の軸間距離を2Lout(mm)とし、
前記溶接ワイヤが第(n-2)ロール及び第nロールに接するように直線状に配置されたと仮定した場合に、第(n-1)ロールのうち前記溶接ワイヤと重なる部分の弦長である出口側弦長をgout(mm)としたとき、
数式Cin=Lin/[{(δin+t)/gin}2]によって算出される入口側ワイヤ変形パラメータCinが1150~1500であると共に、数式Cout=Lout/[{(δout+t)/gout}2]によって算出される出口側ワイヤ変形パラメータCoutが4300~49000であるように、n個の前記矯正ロールが位置しており、
数式F=(Lin/Cin+Lout/Cout)×nによって算出される溶接ワイヤ送給抵抗パラメータFが0.037未満であるように、n個の前記矯正ロールが位置している、
溶接ワイヤ用矯正装置。
(1)によれば、ワイヤのターゲット性の向上と、ワイヤ送給抵抗の低減と、矯正装置の小型化と、を達成可能な溶接ワイヤ用矯正装置を提供できる。
【0134】
(2) 前記矯正ロールの半径rは、7mm未満である
(1)記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(2)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0135】
(3) 前記矯正ロールの半径rは、5mm以上である
(1)又は(2)記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(3)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0136】
(4) 複数の前記矯正ロールの配置間隔Lは、8.75mm以下である、
(1)~(3)のいずれか1つ記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(4)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0137】
(5) 複数の前記矯正ロールの配置間隔Lは、5mmより大きい、
(1)~(4)のいずれか1つ記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(5)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0138】
(6) 第1ロールと第nロールとの間の軸間距離Lallは、35mm以下である、
(1)~(5)のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(6)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0139】
(7) 第1ロールと第nロールとの間の軸間距離Lallは、20mmより大きい、
(1)~(6)のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(7)によれば、矯正装置を小型化しながら、ワイヤ変形パラメータを良好な数値とすることができる。
【0140】
(8) 前記溶接ワイヤは、ソリッドワイヤである、
(1)~(7)のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(8)によれば、ソリッドワイヤの巻癖や捩れを矯正するために好適に用いることができる。
【0141】
(9) n=5である、
(1)~(8)のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(9)によれば、溶接ワイヤのターゲット性を安定させつつ、溶接ワイヤ用矯正装置を小型できる
【0142】
(10)それぞれの前記ロール群の全長Nは、60mmより大きく、110mm以下である、
(1)~(8)のいずれか1つに記載の溶接ワイヤ用矯正装置。
(10)によれば、矯正装置は設置空間の大きさや形状による制約を受けにくく、ロボットアーム上に設けられる場合に溶接ロボットの可動域を広くすることができる。
【符号の説明】
【0143】
1 溶接ワイヤ用矯正装置
2 溶接ロボット
3 パック
4 送給装置
5,6 コンジットケーブル
7 溶接トーチ
8 コンタクトチップ
10 フレーム
11a,11b ガイドパイプ
12 矯正ロール
12a 第1ロール
12b 第2ロール
12c 第3ロール
12d 第4ロール
12e 第5ロール
13a 第1ロール群
13b 第2ロール群
14a 第1台座
14b 第2台座
15a,15b 壁板
20 溶接トーチ
A1,A2 支持面
B ボルト
C ワイヤ変形パラメータ
Cin 入口側ワイヤ変形パラメータ
Cout 出口側ワイヤ変形パラメータ
F 溶接ワイヤ送給抵抗パラメータ
G 矯正溝
Gb 溝底
Gu 上端
GL 開口幅
gin 入口側弦長
gout 出口側弦長
L 配置間隔
2Lin 第1ロールと第3ロールとの間の軸間距離
2Lout 第nロールと第(n-2)ロールとの間の軸間距離
Lall 第1ロールと第nロールとの間の軸間距離
M 矯正装置の全長
N 第1ロール群及び第2ロール群の全長
r 矯正ロールの半径
2r 矯正ロールの直径
P1,P2,P3 位置
S スペーサ
T 矯正路
t 溶接ワイヤの直径
W フラックス入りワイヤ(溶接ワイヤ)
δin 入口側ロール噛込量
δout 出口側ロール噛込量
(δ+t) 押込量