(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139365
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スポット溶接部の破断を予測する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050268
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【弁理士】
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】大川 陽子
(72)【発明者】
【氏名】鎮西 将太
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AA17
2G061AB01
2G061BA04
2G061CA01
2G061CB01
2G061CB19
2G061DA11
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】予測精度を向上させることが可能なスポット溶接部の破断を予測する方法を提供すること。
【解決手段】方法が、少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力と、スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、スポット溶接部の破断を予測することを備える。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力と、前記スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、前記スポット溶接部の破断を予測する、方法。
【請求項2】
前記応力が、曲げ方向の荷重に加えて、せん断方向の荷重および剥離方向の荷重の少なくともいずれかが前記スポット溶接部に印加されて破断するタイミングにおける応力である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つの条件で前記荷重を測定した測定結果と、前記荷重の測定と同じ条件で前記スポット溶接部の破断を考慮せずに実施される有限要素解析の解析結果とを比較して、前記タイミングに対応する前記有限要素解析の解析結果を抽出し、抽出された前記有限要素解析の解析結果から前記条件毎に前記応力を算出する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記荷重の測定が、L字継手引張試験により実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記応力毎に算出された前記破断関数の関数値の合計値が最小になるように、前記破断クライテリア関数を設定する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記破断関数が、下記式(1)~(4):
[式(1)において、σ
n、σ
bおよびτは前記応力であり、S
Nは剥離方向の前記破断クライテリア関数であり、S
Bはせん断方向の前記破断クライテリア関数であり、S
Sは曲げ方向の前記破断クライテリア関数であり、式(2)~(4)において、N
Dは前記ナゲット径であり、tは前記板厚であり、A~Iは定数である]
により規定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記定数A~Iが相互に異なる数値であり、前記応力から決定される、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接部の破断を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、破断強度パラメータを有限要素法によりスポット溶接周りの変形をモデル化した破断予測式に導入してスポット溶接部破断を判定する、スポット溶接部の破断予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、十字型引張試験および/またはせん断型引張試験を基に破断強度パラメータが算出される。このため、曲げ方向の荷重を考慮することができず、予測精度が低下する場合がある。
【0005】
本発明は、予測精度を向上させることが可能なスポット溶接部の破断を予測する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の方法は、
少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力と、前記スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、前記スポット溶接部の破断を予測する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、予測精度を向上させることが可能なスポット溶接部の破断を予測する方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の一実施形態の装置を示すブロック図。
【
図3】L字継手引張試験の試験体の一例を示す正面図。
【
図4】U字引張試験と同じ条件で実施される有限要素解析の試験体モデルの一例を示す斜視図。
【
図5】L字引張試験と同じ条件で実施される有限要素解析の試験体モデルの一例を示す斜視図。
【
図6】破断荷重の測定結果の一例と、有限要素解析の解析結果の一例とを重ね合わせたグラフ。
【
図7】剥離応力、曲げ応力およびせん断応力を3軸とした空間にプロットした破断時応力と、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断限界とを示すグラフ。
【
図8】本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度と、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度とを比較した第1のグラフ。
【
図9】本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度と、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度とを比較した第2のグラフ。
【
図10】本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度と、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度とを比較した第3のグラフ。
【
図11】本発明に係る破断クライテリア関数を用いて、スポット溶接部の破断を考慮して有限要素解析を行った結果の一例を示すグラフ。
【
図12】破断クライテリア関数の設定処理を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の種々の態様について説明する。
【0010】
本発明の第1態様の方法は、
少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力と、前記スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、前記スポット溶接部の破断を予測する。
【0011】
本発明の第2態様の方法は、
前記応力が、曲げ方向の荷重に加えて、せん断方向の荷重および剥離方向の荷重の少なくともいずれかが前記スポット溶接部に印加されて破断するタイミングにおける応力である。
【0012】
本発明の第3態様の方法は、第1態様または第2態様の方法において、
少なくとも1つの条件で前記荷重を測定した測定結果と、前記荷重の測定と同じ条件で前記スポット溶接部の破断を考慮せずに行う有限要素解析の解析結果とを比較して、前記タイミングに対応する前記有限要素解析の解析結果を抽出し、抽出された前記有限要素解析の解析結果から前記条件毎に前記応力を算出する。
【0013】
本発明の第4態様の方法は、第3態様の方法において、
前記荷重の測定が、L字継手引張試験により実施される。
【0014】
本発明の第5態様の方法は、第3態様または第4態様の方法において、
前記応力毎に算出された前記破断関数の関数値の合計値が最小になるように、前記破断クライテリア関数を設定する。
【0015】
本発明の第6態様の方法は、第1態様~第5態様のいずれかの方法において、
前記破断関数が、下記式(1)~(4):
[式(1)において、σ
n、σ
bおよびτは前記応力であり、S
Nは剥離方向の前記破断クライテリア関数であり、S
Bはせん断方向の前記破断クライテリア関数であり、S
Sは曲げ方向の前記破断クライテリア関数であり、式(2)~(4)において、N
Dは前記ナゲット径であり、tは前記板厚であり、A~Iは定数である]
により規定される。
【0016】
本発明の第7態様の方法は、第6態様の方法において、
前記定数A~Iが相互に異なる数値であり、前記応力から決定される。
【0017】
以下、本開示の一例を添付図面に従って説明する。以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、本開示の適用物、または、本開示の用途を制限することを意図するものではない。図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは必ずしも合致していない。
【0018】
本発明の方法は、例えば、
図1に示す装置1により実施される。装置1は、プロセッサ11、記憶部12、通信部13、取得部14および予測部15を備える。取得部14および予測部15は、例えば、記憶部12に記憶されている所定のプログラムをプロセッサ11が実行することにより実現される。
【0019】
プロセッサ11は、例えば、CPU、MPU、GPU、DSP、FPGAまたはASICを含む。記憶部12は、例えば、内部記録媒体または外部記録媒体で構成されている。内部記録媒体は、不揮発メモリ等を含む。外部記録媒体は、ハードディスク(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)または光ディスク装置等を含む。通信部13は、例えば、サーバ等の外部装置との間でデータの送受信を行うための通信回路または通信モジュールで構成されている。
【0020】
取得部14は、少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力(以下、破断時応力という。)を取得するように構成されている。破断時応力は、例えば、次に示すように算出される。
【0021】
クーポン試験を実施して、スポット溶接部が破断するタイミングにおける荷重(以下、破断荷重という。)を測定する。クーポン試験は、例えば、試験装置200を用いて、少なくとも1つの条件で実施される。本実施形態では、クーポン試験として、
図2に示す試験体110を用いるU字継手引張試験と、
図3に示す試験体120を用いるL字継手引張試験とが実施される。U字継手引張試験およびL字継手引張試験において、試験体110、120は、評価材111、121と相手材112、122とが重ねられてスポット溶接された部材であり、スポット溶接部100を有する。評価材111および相手材112は、略U字に折り曲げられた同一形状の鋼板で構成されている。評価材121および相手材122は、略L字に折り曲げられた同一形状の鋼板で構成されている。U字継手引張試験では、引張方向をゼロ度から90度まで例えば15度刻みで変えることができる。このため、様々なせん断方向および剥離方向の組合せの荷重をスポット溶接部100に印加することができる。L字継手引張試験では、スポット溶接部100に曲げ方向の荷重を印加することができる。つまり、クーポン試験により、せん断方向および剥離方向の荷重がスポット溶接部に印加されたときの破断荷重と、曲げ方向の荷重がスポット溶接部に印加されたときの破断荷重とが測定される。クーポン試験の試験結果に関する情報は、例えば、有線若しくは無線通信によりまたは手動で外部装置300にデータとして入力される。本実施形態では、クーポン試験の試験結果に関する情報には、破断荷重の測定結果に加えて、クーポン試験で用いられた試験体110、120のスポット溶接部100のナゲット径および厚さ寸法tに関する情報が含まれる。スポット溶接部100のナゲット径は、評価材111、121および相手材112、122がスポット溶接により溶けて固まった部分の直径である。
【0022】
破断荷重の測定と同じ条件で有限要素解析を実施する。本実施形態では、有限要素解析は、クーポン試験と同じ条件で外部装置300において実施される。外部装置300は、同じ構成および同じ寸法の試験体モデルに対して同じ試験を行った場合について有限要素解析を実施する。
図4に、U字継手引張解析の試験体モデル130の一例を示し、
図5に、L字継手引張解析の試験体モデル140の一例を示す。
図4では、試験体モデル130周辺の治具133についてもモデル化している。各解析モデルにおけるスポット溶接部101(
図5に示す)は,評価材131、141および相手材132、142をビーム要素で繋いだ要素で、有限要素解析が開始されると、ビーム要素がソリッド要素に自動変換される。有限要素解析では、スポット溶接部101の破断は考慮されず、試験体モデルの変形に従ってスポット溶接部101内の応力が増えていくような荷重変位関係となる。
【0023】
破断荷重の測定結果と有限要素解析の解析結果とを比較し、スポット溶接部が破断したタイミングに対応する有限要素解析の解析結果を抽出する。スポット溶接部では、負荷の印加に従って荷重が高くなっていき、破断すると荷重が低下することから、荷重変位関係において荷重が最大となるタイミングを「スポット溶接部が破断したタイミング」として判断する。
【0024】
抽出された有限要素解析の解析結果には、例えば、剥離方向荷重、せん断方向荷重および曲げモーメントが含まれる。破断時応力は、例えば、抽出された3種類の荷重をナゲット面積で除算することで算出される。破断時応力は、破断荷重が測定された条件毎に算出される。言い換えると、実施された全てのクーポン試験で測定された破断荷重の各々に対して、破断時応力が算出される。
【0025】
図6に、破断荷重の測定結果の一例と、有限要素解析の解析結果の一例とを重ね合わせたグラフを示す。
図6において、クーポン試験により測定された荷重を実線で示し、有限要素解析の解析結果を一点鎖線で示している。スポット溶接部101の荷重を「L1」で示し、剥離方向荷重を「L2」で示し、せん断方向荷重を「L3」で示し、曲げモーメントを「L4」で示している。
図6には、3つの条件で実施されたクーポン試験の結果が示されている。
図6に示す例では、スポット溶接部101の荷重L1が各回のクーポン試験の結果から得られた破断荷重の平均値(
図6中、破線で示す)であるときの剥離方向荷重L2、せん断方向荷重L3および曲げモーメントL4から、破断時応力が算出される。算出された破断時応力に関する情報は、例えば、有線若しくは無線通信によりまたは手動で装置1にデータとして入力される。取得部14は、装置1に入力されたデータから破断時応力を取得する。
【0026】
予測部15は、破断時応力と破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、スポット溶接部の破断を予測するように構成されている。破断クライテリア関数は、スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む関数であり、例えば、次に示すように設定される。
【0027】
取得部14で取得された破断時応力を下記式1に代入する。下記式1において、σ
n、σ
bおよびτは、それぞれ剥離方向、せん断方向および曲げ方向の破断時応力であり、S
N、S
BおよびS
Sは、それぞれ剥離方向、せん断方向および曲げ方向の破断クライテリア関数である。
【数1】
【0028】
上記式1に、下記式2~4を代入する。下記式2~4において、N
Dはスポット溶接部のナゲット径であり、tはスポット溶接部の板厚であり、A~Iは定数である。
【数2】
【数3】
【数4】
【0029】
上記式1の関数値fは、破断関数とのフィッティング精度が良好であるほどゼロに近づく。このため、取得された破断時応力毎に関数値fを算出し、算出された全ての関数値fの合計値が最小になるように、破断クライテリア関数を設定する。
【0030】
例えば、破断クライテリア関数の設定は、定数A~Iを破断時応力から決定することで行われる。具体的には、上記式1に、取得された破断時応力と、定数A~Iに適当な数字を入れた上記式2~4とを代入し、取得された破断時応力毎に関数値fを算出する。算出された全ての関数値fを合計し、最小二乗法により、関数値fの合計値が最小になるA~Iの値を計算し探索する。探索された数値を定数A~Iとして決定する。
【0031】
図7に、剥離方向の破断時応力σ
n、曲げ方向の破断時応力σ
bおよびせん断方向の破断時応力τを3軸とした空間にプロットした破断時応力(σ
n,σ
b,τ)と、定数の破断クライテリアS
N、S
B、S
Sを用いた場合の破断限界とを示す。
図7において、破断限界は曲面Rとして示され、曲面Rの各軸の頂点がS
N,S
B,S
Sとなっている。破断クライテリアS
N、S
B、S
Sが定数である場合、スポット溶接部に加えられた曲げ方向の荷重と、スポット溶接部のナゲット径および厚さ寸法との影響を考慮できず、破断時応力のプロットが、破断限界を示す曲面Rから乖離している。つまり、定数の破断クライテリアS
N、S
B、S
Sを用いた場合、スポット溶接部の破断予測精度が低くなることが分かった。本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合、破断クライテリアS
N、S
B、S
Sが、スポット溶接部に加えられた曲げ方向の荷重と、スポット溶接部のナゲット径および厚さ寸法とにより変化する。
【0032】
図8~
図10に、本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度と、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度とを比較したグラフを示す。
図8~
図10において、本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度を黒丸で示し、定数の破断クライテリアを用いた場合の破断関数に対するフィッティング精度を白丸で示す。
図8~
図10から明らかなように、定数の破断クライテリアを用いた場合に比べて、本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の方が、破断関数の関数値fがゼロに近くなることが分かった。つまり、破断クライテリアを関数とし、スポット溶接部のナゲット径および評価材の板厚の影響を考慮することで、破断関数に対するフィッティング精度が向上することが分かった。
【0033】
図11に、本発明に係る破断クライテリア関数を用いて、スポット溶接部の破断を考慮して有限要素解析を行った結果の一例を示す。
図11において、3つの異なるスポット溶接部に加えられた荷重を実線で示し、本発明に係る破断クライテリア関数を用いて予測されたスポット溶接部の破断荷重を一点鎖線で示し、定数の破断クライテリアを用いて予測されたスポット溶接部の破断荷重を点線で示す。
図11から明らかなように、定数の破断クライテリアを用いた場合に比べて、本発明に係る破断クライテリア関数を用いた場合の方が、スポット溶接部の破断荷重をより高い精度で予測できることが分かった。
【0034】
図12を参照して、破断クライテリア関数の設定処理について説明する。一例として、
図12に示すステップS2およびS3の処理は、プロセッサ11が記憶部12に記憶されている所定のプログラムを実行することで実施される。
【0035】
図12に示すように、スポット溶接部の破断荷重が測定される(ステップS1)。スポット溶接部の破断荷重は、例えば、少なくとも1つの条件でクーポン試験を実施することにより測定される。測定される破断荷重には、少なくともスポット溶接部に曲げ方向の負荷が印加されたときの破断荷重が含まれる。
【0036】
ステップS1で測定されたスポット溶接部の破断荷重を用いて、スポット溶接部の破断時応力が算出される(ステップS2)。スポット溶接部の破断時応力は、実施されたクーポン試験の条件毎に、例えば、次に示すように算出される。
・ステップS1で実施したクーポン試験と同じ条件でスポット溶接部の破断を考慮せずに有限要素解析が実施される。有限要素解析は、ステップS1と同時またはステップS1よりも先に実施されてもよい。
・ステップS1で測定された破断荷重と実施された有限要素解析の結果とが比較され、クーポン試験においてスポット溶接部が破断したタイミングに対応する有限要素解析の解析結果が抽出される。
・抽出された有限要素解析の解析結果に含まれる荷重をスポット溶接部のナゲット面積で除算して、スポット溶接部の破断時応力が算出される。
【0037】
算出されたスポット溶接部の破断時応力は、取得部14により取得される。取得部14は、スポット溶接部の破断時応力に加えて、スポット溶接部のナゲット径および評価材の板厚寸法を取得する。取得されたスポット溶接部の破断時応力から、予測部15が破断クライテリア関数を設定し(ステップS3)、破断クライテリアの設定処理が終了する。破断クライテリア関数は、例えば、破断時応力毎に算出された全ての上記式1の関数値fの合計値が最小になるように定数A~Iを破断時応力から決定することで、設定される。
【0038】
本発明の方法によれば、次のような効果を発揮できる。
【0039】
本発明の方法は、少なくとも曲げ方向の荷重が印加されてスポット溶接部が破断するタイミングにおける応力(破断時応力)と、スポット溶接部のナゲット径および板厚をパラメータとして含む破断クライテリア関数とで算出される破断関数により、スポット溶接部の破断を予測する。このような構成により、スポット溶接部に加えられる曲げ方向の荷重に加えて、スポット溶接部のナゲット径および厚さ寸法を考慮した上で、スポット溶接部の破断を予測できる。その結果、予測精度を向上させることが可能なスポット溶接部の破断を予測する方法を実現できる。
【0040】
本発明の方法は、次に示す複数の構成のいずれか1つまたは複数の構成を任意に採用できる。このような構成を採用することにより、予測精度を向上させることが可能なスポット溶接部の破断を予測する方法をより確実に実現できる。
【0041】
判断時応力が、曲げ方向の荷重に加えて、せん断方向の荷重および剥離方向の荷重の少なくともいずれかがスポット溶接部に印加されて破断するタイミングにおける応力である。
【0042】
少なくとも1つの条件で破断荷重を測定した測定結果と、破断荷重の測定と同じ条件でスポット溶接部の破断を考慮せずに実施される有限要素解析の解析結果とを比較する。スポット溶接部が破断するタイミングに対応する有限要素解析の解析結果を抽出し、抽出された有限要素解析の解析結果から条件毎に破断時応力を算出する。
【0043】
破断荷重の測定が、L字継手引張試験により実施される。
【0044】
破断時応力毎に算出された破断関数の関数値の合計値が最小になるように、破断クライテリア関数を設定する。
【0045】
破断関数が、下記式(1)~(4):
[式(1)において、σ
n、σ
bおよびτは破断時応力であり、S
Nは剥離方向の破断クライテリア関数であり、S
Bはせん断方向の破断クライテリア関数であり、S
Sは曲げ方向の破断クライテリア関数であり、式(2)~(4)において、N
Dはナゲット径であり、tは板厚であり、A~Iは定数である]
により規定される。
【0046】
定数A~Iが相互に異なる数値であり、破断時応力から決定される。
【0047】
本発明の方法は、コンピュータに実行させることができる。つまり、本発明には、本発明の一態様の方法をコンピュータに実行させるためのプログラム、および、本発明の一態様の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記憶するコンピュータ可読性の記憶媒体が含まれる。
【0048】
本発明の方法は、次に示すように構成することができる。
【0049】
破断関数および破断クライテリア関数は、上記式1~4で規定される場合に限らず、他の数式で規定されてもよい。
【0050】
破断時応力は、クーポン試験による破断荷重の測定結果と、有限要素解析の解析結果とに基づいて算出される場合に限らず、他の方法により算出されてもよい。
【0051】
有限要素解析は、外部装置300において実施される場合に限らず、装置1で実施されてもよい。
【0052】
荷重の測定は、U字継手引張試験およびL字継手引張試験により実施される場合に限らず、他の試験により実施されてもよい。
【0053】
破断クライテリア関数は、定数A~Iを破断時応力から決定することにより設定される場合に限らず、他の方法により設定されてもよい。
【0054】
前記様々な実施形態または変形例のうちの任意の実施形態または変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせまたは実施例同士の組み合わせまたは実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態または実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【0055】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【符号の説明】
【0056】
1 装置
11 プロセッサ
12 記憶部
13 通信部
14 取得部
15 予測部
100、101 スポット溶接部
110、120 試験体
111、121 評価材
112、122 相手材
130、140 試験体モデル
131、141 評価材
132、142 相手材
133 治具
200 試験装置
300 外部装置