(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139368
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】短鎖パラフィン合成触媒、短鎖パラフィン合成装置、および、短鎖パラフィン製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/83 20060101AFI20241002BHJP
C07C 1/12 20060101ALI20241002BHJP
C07C 9/04 20060101ALI20241002BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
B01J23/83 Z
C07C1/12
C07C9/04
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050271
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 裕之
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA01A
4G169BA01B
4G169BA02A
4G169BA02B
4G169BA04A
4G169BA04B
4G169BA05A
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4G169BA06A
4G169BA07A
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4G169BC02A
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4G169BC03A
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4G169BC10A
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4G169BC43A
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC59A
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BD04A
4G169CB02
4G169CB62
4G169EC22X
4G169EC22Y
4H006AA02
4H006BA08
4H006BA19
4H006BA20
4H006BA55
4H006BB61
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006BE41
4H039CA19
(57)【要約】
【課題】COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造する短鎖パラフィン合成触媒、その触媒を含む短鎖パラフィン合成装置、および、その装置を用いる短鎖パラフィン製造方法を提供すること。
【解決手段】COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するための短鎖パラフィン合成触媒であって、担体と、活性金属とを備え、担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であり、活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である、短鎖パラフィン合成触媒。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するための短鎖パラフィン合成触媒であって、
担体と、
活性金属と
を備え、
前記担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、
前記安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であり、
前記活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、
前記活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である、短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項2】
前記安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび前記安定化元素と、前記活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、
Zrの原子割合が、0.40原子%以上、65.0原子%以下、
前記安定化元素の原子割合が、0.20原子%以上、35.0原子%以下、
Feおよび/またはCoの原子割合が、9.0原子%以上、99.4原子%以下である、請求項1に記載の短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項3】
Na、K、Mo、Ca、Sr、Ba、Ra、および、Cからなる群より選択される少なくとも一つの元素を、さらに含む、請求項1に記載の短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項4】
シリカ、アルミナ、チタニア、セリア、および、ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一つの担体を、さらに含む、請求項1に記載の短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項5】
前記活性金属は、前記担体に担持されるとともに、前記安定化ジルコニア担体に固溶している、請求項1に記載の短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項6】
前記短鎖パラフィンは、メタンと、エタンと、プロパンと、ブタンとを含み、
前記短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和が3体積%以上である、請求項1に記載の短鎖パラフィン合成触媒。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の短鎖パラフィン合成触媒を備える、短鎖パラフィン合成装置。
【請求項8】
COおよび/またはCO2と水素とを、請求項7に記載の短鎖パラフィン合成装置に供給し、反応させて、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を得る合成工程と、
前記反応生成物を冷却し、短鎖パラフィンを含む気体とH2Oを水として含む液体とに分離する第1分離工程と、
前記短鎖パラフィンを含む気体を、未反応ガスと短鎖パラフィンとに分離する第2分離工程と
を備える、短鎖パラフィン製造方法。
【請求項9】
前記合成工程後、前記第1分離工程前であって、前記反応生成物から、H2Oを水蒸気として分離する第3分離工程を、さらに備える、請求項8に記載の短鎖パラフィン製造方法。
【請求項10】
前記第2分離工程後であって、前記未反応ガスを、前記短鎖パラフィン合成装置に再度供給する再供給工程を、さらに備える、請求項8に記載の短鎖パラフィン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短鎖パラフィン合成触媒、短鎖パラフィン合成装置、および、短鎖パラフィン製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二酸化炭素を水素と反応させ、メタンを得るための触媒が知られている。そのような触媒として、例えば、安定化ジルコニア担体にNiを担持させた、メタン化反応用触媒が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のメタン化反応用触媒は、二酸化炭素からメタンを高転換率で製造できるものの、より炭素数の多い炭化水素を製造することは、困難である。
【0005】
本発明は、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造する短鎖パラフィン合成触媒、その触媒を含む短鎖パラフィン合成装置、および、その装置を用いる短鎖パラフィン製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するための短鎖パラフィン合成触媒であって、担体と、活性金属とを備え、前記担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、前記安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であり、前記活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、前記活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である、短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0007】
本発明[2]は、前記安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび前記安定化元素と、前記活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、Zrの原子割合が、0.40原子%以上、65.0原子%以下、前記安定化元素の原子割合が、0.20原子%以上、35.0原子%以下、Feおよび/またはCoの原子割合が、9.0原子%以上、99.4原子%以下である、[1]に記載の短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0008】
本発明[3]は、Na、K、Mo、Ca、Sr、Ba、Ra、および、Cからなる群より選択される少なくとも一つの元素を、さらに含む、[1]または[2]に記載の短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0009】
本発明[4]は、シリカ、アルミナ、チタニア、セリア、および、ゼオライトからなる群から選択される少なくとも一つの担体を、さらに含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0010】
本発明[5]は、前記活性金属は、前記担体に担持されるとともに、前記安定化ジルコニア担体に固溶している、[1]~[4] のいずれか一項に記載の短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0011】
本発明[6]は、前記短鎖パラフィンは、メタンと、エタンと、プロパンと、ブタンとを含み、前記短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和が3体積%以上である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の短鎖パラフィン合成触媒を含む。
【0012】
本発明[7]は、[1]~[6]のいずれか一項に記載の短鎖パラフィン合成触媒を備える、短鎖パラフィン合成装置を含む。
【0013】
本発明[8]は、COおよび/またはCO2と水素とを、[7]に記載の短鎖パラフィン合成装置に供給し、反応させて、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を得る合成工程と、前記反応生成物を冷却し、短鎖パラフィンを含む気体とH2Oを水として含む液体とに分離する第1分離工程と、前記短鎖パラフィンを含む気体を、未反応ガスと短鎖パラフィンとに分離する第2分離工程とを備える、短鎖パラフィン製造方法を含む。
【0014】
本発明[9]は、前記合成工程後、前記第1分離工程前であって、前記反応生成物から、H2Oを水蒸気として分離する第3分離工程を、さらに備える、[8]に記載の短鎖パラフィン製造方法を含む。
【0015】
本発明[10]は、前記第2分離工程後であって、前記未反応ガスを、前記短鎖パラフィン合成装置に再度供給する再供給工程を、さらに備える、[8]または[9]に記載の短鎖パラフィン製造方法を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の短鎖パラフィン合成触媒は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体と、安定化ジルコニア担体に担持される、Feおよび/またはCoを含む活性金属とを備え、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である。そのため、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造することができる。
【0017】
本発明の短鎖パラフィン合成装置は、本発明の短鎖パラフィン合成触媒を備える。そのため、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造することができる。
【0018】
本発明の短鎖パラフィン製造方法は、本発明の短鎖パラフィン合成装置にCOおよび/またはCO2と水素とを供給し、反応させて、主生成物である短鎖パラフィンを含む反応生成物を得る合成工程を備える。そのため、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の短鎖パラフィンの製造方法が採用される短鎖パラフィン製造システム1の一実施形態を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.短鎖パラフィン合成触媒
短鎖パラフィン合成触媒は、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するための触媒であって、担体と、活性金属とを備えている。
【0021】
<担体>
担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含んでいる。担体は、後述する粒子成分を、さらに、含んでいてもよい。
【0022】
[安定化ジルコニア担体]
安定化ジルコニア担体は、少なくとも安定化元素が固溶しており、Zrを主体とする正方晶系および/または立方晶系の結晶構造(単位格子)を有している。
【0023】
安定化ジルコニア担体の結晶構造は、Zrを主体(基本成分)として構成しており、安定化ジルコニア担体の結晶構造の複数の格子点には、主にZrイオン(Zr4+)が配置されている。
【0024】
安定化元素は、安定化ジルコニア担体の結晶構造を、正方晶系および/または立方晶系となるように安定化させている。
【0025】
安定化元素としては、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素である。安定化元素としては、好ましくは、Y、Sm、および、Caが挙げられ、より好ましくは、Yが挙げられる。
【0026】
安定化元素は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0027】
また、安定化ジルコニア担体には、安定化元素に加えて、後述する活性金属が固溶していてもよい。
【0028】
安定化ジルコニア担体の結晶構造に安定化元素または活性金属が固溶すると、結晶構造の複数の格子点のうち一部の格子点が、Zrイオン(Zr4+)から、上記の安定化元素のイオンまたは活性金属のイオンのいずれかに置き換わる。
【0029】
つまり、安定化ジルコニア担体に安定化元素または活性金属が固溶するとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンが、上記の安定化元素イオンまたは活性金属イオンのいずれかに置き換わることである。例えば、安定化ジルコニア担体にFeが固溶するとは、結晶構造の格子点に配置されるZrイオンが、Feイオンに置き換わることである。
【0030】
そのため、安定化ジルコニア担体の複数の格子点には、Zr4+、安定化元素イオン、または、活性金属イオンのいずれか一つが配置されている。このような安定化ジルコニア担体の結晶構造は、好ましくは、ペロブスカイト構造を含んでいる。
【0031】
このような安定化ジルコニア担体は、下記一般式(1)で示される。
【0032】
一般式(1):
【0033】
【0034】
一般式(1)において、xは、例えば、0超過、0.10以上、また、例えば、1未満、好ましくは、0.67以下である。
【0035】
一般式(1)において、yは、例えば、0以上、好ましくは、0.01以上、また、例えば、1未満、好ましくは、0.10以下である。
【0036】
また、安定化ジルコニア担体における結晶格子間隔は、Zr4+、安定化元素イオン、および、活性金属イオンのそれぞれのイオン半径が異なることから、安定化ジルコニア担体に固溶する安定化元素の量に依存して変化する。なお、下記には参考のために、Zr4+、Y3+、Fe2+、Fe3+、Co2+、および、Co3+のイオン半径を示す。
Zr4+:0.079nm
Y3+ :0.090nm
Fe2+:0.061nm
Fe3+:0.055nm
Co2+:0.065nm
Co3+:0.055nm
【0037】
より具体的には、Zrイオンと比較してイオン半径が大きい安定化元素イオンまたは活性金属イオンが、安定化ジルコニア担体に多く固溶すると、安定化ジルコニア担体における結晶格子面間隔は、増加(膨張)する。一方、Zrイオンと比較してイオン半径が小さい安定化元素イオンまたは活性金属イオンが、安定化ジルコニア担体に多く固溶すると、安定化ジルコニア担体における結晶格子面間隔が、低下(縮小)する。
【0038】
安定化ジルコニア担体の結晶構造における[111]面の格子間隔は、例えば、0.2920以上、好ましくは、0.2935nm以上、また、例えば、0.2995nm以下、好ましくは、0.2985nm以下である。なお、安定化元素および活性金属が固溶されていない安定化ジルコニアの結晶構造における[111]面の格子間隔は、正方晶ジルコニアの場合には0.2975nm、立方晶ジルコニアの場合には0.2965nmである。
【0039】
また、安定化ジルコニア担体は、酸素空孔を有している。安定化ジルコニア担体に、安定化元素および活性金属が固溶して、価数が3以下(2価または3価)の安定化元素イオンまたは活性金属イオンが、Zrイオンと置換すると、Zrイオン(Zr4+)が4価であり、安定化元素イオンまたは活性金属イオンが2価または3価であることから、その結晶構造において、酸素の欠陥(欠落)が生じ、酸素空孔が形成される。
【0040】
具体的には、3価の安定化元素イオンおよび/または活性金属イオンがZrイオンと置換する場合、下記一般式(2)に示すクレガー=ビンク式に従って、安定化ジルコニア担体に酸素空孔が形成され、2価の安定化元素イオンおよび/または活性金属イオンがZrイオンと置換する場合、下記一般式(3)に示すクレガー=ビンク式に従って、安定化ジルコニア担体に酸素空孔が形成される。
【0041】
一般式(2):
【0042】
【0043】
一般式(3):
【0044】
【0045】
なお、4価の安定化元素イオンおよび/または活性金属イオンがZrイオンと置換する場合、それらの価数が同一であるため、安定化ジルコニア担体に酸素空孔は形成されない。
【0046】
このような短鎖パラフィン合成触媒における、各原子の原子%は、元素状態を基準とした原子%であり、原料(ジルコニアおよび/またはZrの塩、安定化元素の塩、活性金属の塩、粒子成分の塩、および、添加剤の塩)の仕込量から換算される。(以下同様。)
【0047】
なお、下記において、Feおよび/またはCoを含む活性金属とは、担体に担持されるFeおよび/またはCo含む活性金属と、安定化ジルコニア担体に固溶するFeおよび/またはCoを含む活性金属との総和を示し、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとは、担体に担持されるFeおよび/またはCoと、安定化ジルコニア担体に固溶するFeおよび/またはCoとの総和を示す。(以下同様。)
【0048】
Zrと安定化元素との総和に対して、Zrの原子割合(=Zr/(Zr+安定化元素)×100)は、例えば、40原子%以上、好ましくは、50原子%以上、より好ましくは、60原子%以上、さらに好ましくは、65原子%以上、また、例えば、90原子%以下、好ましくは、80原子%以下、より好ましくは、70原子%以下である。
【0049】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、Zrの原子割合(=Zr/(Zr+安定化元素+Feおよび/またはCo)×100)は、例えば、0.4原子%以上、好ましくは、1.0原子%以上、より好ましくは、5.0原子%以上、さらに好ましくは、10.0原子%以上、とりわけ好ましくは、15原子%以上、また、例えば、65.0原子%以下、好ましくは、55.0原子%以下、より好ましくは、45.0原子%以下、さらに好ましくは、35原子%以下、とりわけ好ましくは、30原子%以下である。
【0050】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、Zrの原子%が上記下限以上あれば、安定化ジルコニア担体において、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を確実に形成することができ、Zrの原子%が上記上限以下あれば、触媒活性に必要な活性金属の配合割合を十分に確保することができる。
【0051】
Zrと安定化元素との総和に対して、安定化元素の原子割合(=安定化元素/(Zr+安定化元素)×100)は、例えば、10原子%以上、好ましくは、20原子%以上、より好ましくは、30原子%以上、また、例えば、60原子%以下、好ましくは、50原子%以下、より好ましくは、40原子%以下、さらに好ましくは、35原子%以下である。
【0052】
Zrと安定化元素との総和に対して、安定化元素の原子%が上記した範囲であれば、安定化ジルコニア担体に酸素空孔を良好に形成でき、後述する短鎖パラフィンの製造方法において、安定化ジルコニア担体が、二酸化炭素分子(CO2)の酸素原子(O)を確実に引き付けることができる。そのため、触媒活性の向上を確実に図ることができ、二酸化炭素から短鎖パラフィンを製造することができる。
【0053】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、安定化元素の原子割合(=安定化元素/(Zr+安定化元素+Feおよび/またはCo)×100)は、例えば、0.2原子%以上、好ましくは、1.0原子%以上、より好ましくは、3.0原子%、さらに好ましくは、6.0原子%以上、また、例えば、35.0原子%以下、好ましくは、30.0原子%以下、より好ましくは、25.0原子%以下、さらに好ましくは、20原子%以下である。
【0054】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、安定化元素の原子%が上記下限以上であれば、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を確実に安定化することができ、安定化元素の原子%が上記上限以下であれば、過剰な安定化元素が所望しない酸化物を形成し、触媒活性を阻害することを抑制できる。
【0055】
[他の担体材料]
他の担体材料は、例えば、上記した安定化ジルコニア担体以外の活性金属を担持させるための担体材料であって、安定化ジルコニア担体と混合して、使用する。
【0056】
他の担体材料として、例えば、粒子成分が挙げられ、粒子成分としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、セリア、および、単斜晶ジルコニアが挙げられ、好ましくは、シリカ、アルミナ、および、チタニアが挙げられる。
【0057】
粒子成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0058】
なお、下記において、粒子成分の原子とは、後述する粒子成分に含まれる原子のうち、酸素以外の原子を示す。例えば、粒子成分がシリカの場合、粒子成分の原子とは、Siである。(以下同様。)
【0059】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、粒子成分との総和に対して、粒子成分の原子割合(=(粒子成分の原子)/(Zr+安定化元素+粒子成分の原子)×100)は、例えば、1.0原子%以上、好ましくは、10.0原子%以上、より好ましくは、30.0原子%以上、さらに好ましくは、50.0原子%以上、とりわけ好ましくは、60原子%以上、また、例えば、100.0原子%未満、好ましくは、90.0原子%以下、より好ましくは、80.0原子%以下、さらに好ましくは、70.0原子%以下である。
【0060】
他の担体材料としては、例えば、ゼオライトも挙げられる。
【0061】
ゼオライトの配合量は、ゼオライトを除く短鎖パラフィン合成触媒を構成する触媒成分(活性金属、担体(安定化元素含む)、および、後述する添加剤)100質量部に対して、例えば、0.3質量部以上、好ましくは、0.5質量部以上、また、例えば、10質量部以下、好ましくは、5質量部以下、より好ましくは、3質量部以下、さらに好ましくは、1質量部以下である。
【0062】
<活性金属>
活性金属は、担体に担持され、さらに、安定化ジルコニア担体に固溶していてもよい。
【0063】
活性金属は、例えば、金属、および、金属酸化物の状態であることが挙げられる。触媒活性の観点から、好ましくは、金属の状態である。
【0064】
活性金属は、Feおよび/またはCoを含む。
【0065】
また、活性金属は、Feおよび/またはCo以外の他の活性金属を含んでもよい。他の活性金属としては、例えば、Ni、Cu、および、Ruが挙げられる。
【0066】
活性金属は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0067】
活性金属がFeおよびCoを含む場合、FeおよびCoの総和に対して、Feの原子割合(=Fe/(Fe+Co)×100)は、例えば、0原子%超過、好ましくは、10.0原子%以上、より好ましくは、20.0原子%以上、また、例えば、100.0原子%未満、好ましくは、90.0原子%以下、より好ましくは、80.0原子%以下である。
【0068】
活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合(=(Feおよび/またはCo)/(Feおよび/またはCo+他の活性金属原子)×100)は、50原子%超過、好ましくは、60原子%以上、より好ましくは、70原子%以上、さらに好ましくは、80原子%以上、とりわけ好ましくは、90原子%以上、最も好ましくは、100原子%である。
【0069】
活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、上記下限以上であれば、炭素数1~4の短鎖パラフィンを確実に製造でき、メタンと、比較的多くの炭素数2~4の短鎖パラフィンとを製造することができる。
【0070】
つまり、活性金属としては、Feおよび/またはCoが主成分である。Feおよび/またはCoが主成分であるとは、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合(=(Feおよび/またはCo)/(Feおよび/またはCo+他の活性金属原子)×100)が、50原子%以上であることを意味する。すなわち、Feが主成分であるとは、活性金属の総和に対して、Feの原子割合が、50原子%以上であることを意味し、Coが主成分であるとは、活性金属の総和に対して、Coの原子割合が、50原子%以上であることを意味し、FeおよびCoが主成分であるとは、活性金属の総和に対して、FeおよびCoの総和の原子割合が、50原子%以上であることを意味する。
【0071】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoの原子割合(=(Feおよび/またはCo)/(Zr+安定化元素+Feおよび/またはCo)×100)は、例えば、9.0原子%以上、好ましくは、15.0原子%以上、より好ましくは、25.0原子%以上、さらに好ましくは、35原子%以上、とりわけ好ましくは、45原子%以上、最も好ましくは、55原子%以上、また、例えば、99.4原子%以下、好ましくは、90原子%以下、より好ましくは、80.0原子%以下、さらに好ましくは、75原子%以下である。
【0072】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoとの総和に対して、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoの総和の原子%が上記下限以上であれば、触媒活性の向上を図ることができ、活性金属に含まれるFeおよび/またはCoの総和の原子%が上記上限以下であれば、Feおよび/またはCoが凝集し、Feおよび/またはCoの分散性が低下することを抑制できる。
【0073】
<添加剤>
短鎖パラフィン合成触媒には、必要に応じて、添加剤を加えることができる。
【0074】
添加剤としては、例えば、反応促進成分、希釈成分、および、バインダーなどが挙げられる。
【0075】
[反応促進成分]
反応促進成分とは、例えば、CO2をCOに部分還元する反応を促進する成分、COから炭素数1~4の短鎖パラフィンを合成する反応を促進する成分、および、短鎖パラフィンの炭素間の結合を促進する成分が挙げられる。
【0076】
反応促進成分としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、モリブデン(Mo)、および、炭素(C)が挙げられる。
【0077】
反応促進成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0078】
アルカリ金属としては、例えば、Na、および、Kが挙げられる。
【0079】
アルカリ土類金属としては、例えば、Ca、Sr、Ba、および、Raが挙げられる。
【0080】
反応促進成分として、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または、モリブデン(Mo)が含まれる場合、合成した短鎖パラフィンにおける、炭素間の結合を促進することができる。
【0081】
また、上記した活性金属として、Feを主成分とする場合、反応促進成分として、炭素(C)が含まれることが好ましい。短鎖パラフィン合成触媒に、FeとCとが含まれる場合、Fe5C2が生成し、COから炭素数1~4の短鎖パラフィンを合成する反応を促進することができる。
【0082】
安定化ジルコニア担体を構成するZrおよび安定化元素と、Feおよび/またはCoを含む活性金属と、反応促進成分と、粒子成分との総和に対して、反応促進成分の原子割合(=(反応促進成分の原子)/(Zr+安定化元素+Feおよび/またはCo+他の活性金属原子+反応促進成分の原子+粒子成分の原子)×100)は、例えば、1.0原子%以上、好ましくは、5.0原子%以上、より好ましくは、8.0原子%以上、また、例えば、30.0原子%以下、好ましくは、20.0原子%以下、より好ましくは、15.0原子%以下である。
【0083】
FeとCとの総和に対して、Cの原子割合(=C/(Fe+C)×100)は、例えば、1原子%以上、好ましくは、3原子%以上、より好ましくは、6原子%以上、また、例えば、40原子%以下、好ましくは、30原子%以下、より好ましくは、20原子%以下である。
【0084】
つまり、短鎖パラフィン合成触媒は、例えば、Na、K、Mo、Ca、Sr、Ba、Ra、および、Cからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含む。短鎖パラフィン合成触媒は、好ましくは、Na、K、および、Cからなる群より選択される少なくとも一つの元素を含み、より好ましくは、Kを含む。
【0085】
[希釈成分]
希釈成分は、後述する短鎖パラフィン合成反応にイナート(不活性)な物質であって、短鎖パラフィン合成触媒に希釈成分を添加することにより、短鎖パラフィン合成触媒の温度制御を容易にすることができる。
【0086】
希釈成分としては、例えば、アルミナ(例えば、α-アルミナ、θ-アルミナ、γ-アルミナなど)、チタニア(例えば、ルチル型チタニア、アナターゼ型チタニアなど)などが挙げられる。
【0087】
希釈成分は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0088】
短鎖パラフィン合成触媒において、短鎖パラフィン合成触媒100質量部に対して、希釈成分の配合量は、例えば、100質量部以上、好ましくは、1000質量部以上、例えば、5000質量部以下である。
【0089】
[バインダー]
バインダーは、例えば、短鎖パラフィン合成触媒を流動床型反応装置に用いる場合に、短鎖パラフィン合成触媒同士を結着させるための結着成分である。
【0090】
バインダーとしては、例えば、ケイ酸塩、チタン酸塩、アルミン酸塩、ジルコン酸塩などが挙げられる。
【0091】
バインダーは、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0092】
なお、バインダーの添加割合は、短鎖パラフィン合成触媒の用途などに応じて任意に選択される。
【0093】
上記した短鎖パラフィン合成触媒、後述する短鎖パラフィン合成システム、後述する短鎖パラフィンの製造方法において、処方、反応条件などを変更することで、COおよび/またはCO2の転換率を調整でき、さらに、製造した短鎖パラフィン中のメタン、エタン、プロパン、および、ブタンの割合を調整することができる。
【0094】
COおよび/またはCO2の転換率としては、例えば、20%以上、好ましくは、30%以上、より好ましくは、40%以上、さらに好ましくは、50%以上、とりわけ好ましくは、60%以上が挙げられる。
【0095】
炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、例えば、1体積%以上、好ましくは、3体積%以上、より好ましくは、5体積%以上、さらに好ましくは、10体積%以上、とりわけ好ましくは、15体積%以上が挙げられる。
【0096】
2.短鎖パラフィン合成触媒の製造方法
次に、短鎖パラフィン合成触媒の製造方法について説明する。
【0097】
短鎖パラフィン合成触媒の製造方法は、原料成分を混合して混合物を調製する工程(混合工程)と、混合物を焼成して活性金属を担持する安定化ジルコニア担体を調製する工程(焼成工程)とを含む。必要に応じて、活性金属を還元する工程(還元工程)を含んでいてもよい。
【0098】
混合工程では、担体成分としての、ジルコニア(ZrO2)および/またはZrの塩と、上記の安定化元素の塩と、活性金属の塩とを、例えば、各原子(Zr、安定化元素および活性金属)の原子割合が上記した範囲となるように混合する。
【0099】
ジルコニアとしては、例えば、低結晶性のZrO2微粒子などが挙げられる。
【0100】
Zrの塩としては、例えば、Zrの硝酸塩(例えば、硝酸ジルコニウム(Zr(NO3)4)、硝酸酸化ジルコニウム(ZrO(NO3)2)など)、Zrの塩酸塩(例えば、塩化酸化ジルコニウム(ZrCl2O)など)、Zrの酢酸塩(例えば、酢酸酸化ジルコニウム(ZrO(C2H3O2)2)など)などが挙げられる。
【0101】
Zrの塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0102】
このようなZrの塩は、市販品を用いることもでき、市販品としては、例えば、硝酸ジルコニウム五水和物(BOCサイエンス社製)、硝酸酸化ジルコニウム二水和物(関東化学社製)、塩化酸化ジルコニウム八水和物(関東化学社製)、酢酸酸化ジルコニウム(第一希元素工業社製)などが挙げられる。
【0103】
Zrの塩としては、好ましくは、Zrの酢酸塩が挙げられ、より好ましくは、酢酸酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0104】
安定化元素の塩としては、例えば、安定化元素の硝酸塩、および、安定化元素の塩化物などが挙げられ、好ましくは、安定化元素の硝酸塩が挙げられ、より好ましくは、Y、Sm、および、Caの硝酸塩が挙げられる。
【0105】
安定化元素の塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0106】
なお、安定化元素の塩は、市販品を用いることもできる。
【0107】
活性金属の塩としては、例えば、活性金属の硝酸塩、および、活性金属の塩化物などが挙げられ、好ましくは、活性金属の硝酸塩が挙げられ、より好ましくは、Fe、および/または、Coの硝酸塩が挙げられる
【0108】
活性金属の塩は、単独で使用してもよく、2種以上併用することもできる。
【0109】
なお、活性金属の塩は、市販品を用いることもできる。
【0110】
原料成分を混合するには、例えば、ジルコニアゾルおよび/またはZrの塩の水溶液に、安定化元素の塩と活性金属の塩とを、各原子(Zr、安定化元素および活性金属)の原子割合が上記の範囲となるように添加して、撹拌混合する。
【0111】
より具体的には、ジルコニアゾルおよび/またはZrの塩の水溶液に、安定化元素の塩を加え、撹拌混合して均一な溶液とした後、活性金属の塩を加え、例えば、1時間以上、また、例えば、30時間以下、撹拌混合する。
【0112】
これによって、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、活性金属の塩とを含有する混合溶液(スラリー)が調製される。
【0113】
次いで、混合溶液を、例えば、恒温乾燥炉により加熱して、余剰な水分を揮発させる。
【0114】
混合溶液の加熱温度としては、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上、また、例えば、200℃以下、好ましくは、170℃以下である。混合溶液の加熱時間としては、例えば、30分以上、好ましくは、1時間以上、また、例えば、10時間以下、好ましくは、3時間以下である。
【0115】
これによって、ジルコニアおよび/またはZrの塩と、安定化元素の塩と、活性金属の塩とを含有する混合物(ハードスラリー)が調製される。
【0116】
次いで、混合物を、必要によりかき混ぜた後、焼成工程において、例えば、電気炉などの加熱炉により焼成する。
【0117】
焼成温度としては、例えば、550℃以上、好ましくは、600℃以上、また、例えば、800℃以下である。
【0118】
焼成温度が上記下限以上であれば、安定化ジルコニア担体の結晶構造を確実に正方晶系および/または立方晶系とすることができ、焼成温度が上記上限以下であれば、安定化ジルコニア担体の比表面積が過度に低下して、触媒活性が低下することを抑制できる。
【0119】
焼成時間としては、例えば、1時間以上、好ましくは、3時間以上、また、例えば、24時間以下である。
【0120】
これによって、混合物が焼成されて、上記一般式(1)で示す安定化ジルコニア担体が形成するとともに、安定化ジルコニア担体に活性金属の酸化物が担持され、短鎖パラフィン合成触媒が調製される。
【0121】
次いで、還元工程を含む場合、短鎖パラフィン合成触媒を、例えば、水素気流により還元処理する。
【0122】
より具体的には、短鎖パラフィン合成触媒を、必要により乳鉢などで粉砕し、ふるいにかけた後、所定の円管内に充填する。
【0123】
ふるいの目開きは、例えば、100μm以下、好ましくは、75μm以下である。
【0124】
そして、その円管内が下記の還元温度となるように、例えば、電気管状炉などの加熱器に加熱するとともに、円管内に水素を流通させる。
【0125】
還元温度としては、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上、また、例えば、600℃以下である。還元時間としては、例えば、2時間以上、好ましくは、3時間以上、また、例えば、10時間以下、好ましくは、5時間以下である。
【0126】
水素の流速は、短鎖パラフィン合成触媒1gに対して、例えば、50mL・min-1・g-1以上、好ましくは、100mL・min-1・g-1以上、また、例えば、500mL・min-1・g-1以下である。
【0127】
以上によって、安定化ジルコニア担体に担持される活性金属の酸化物が、金属状態に還元される。
【0128】
また、還元剤として、一酸化炭素を用いて、短鎖パラフィン合成触媒を還元してもよい。
【0129】
なお、安定化ジルコニア担体に固溶する安定化元素および活性金属は、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態の活性金属により被覆されているため、この還元工程において還元されず、酸化状態が維持される。
【0130】
このような短鎖パラフィン合成触媒は、粒子状を有しているが、例えば、加圧することにより、所定の形状(例えば、円柱形状、角柱形状、中空筒形状など)に形成されてもよい。
【0131】
また、短鎖パラフィン合成触媒は、原料を混合する工程において、上記の粒子成分が添加され、その粒子成分に活性金属が担持されてもよい。
【0132】
さらに、短鎖パラフィン合成触媒は、原料を混合する工程において、上記の反応促進成分、希釈成分、および、バインダーが添加されてもよい。
【0133】
3.短鎖パラフィン合成システム
図1を参照して、本発明の短鎖パラフィン合成触媒を用いた、短鎖パラフィン合成システム1の一実施形態を説明する。短鎖パラフィン合成システム1は、COおよび/またはCO
2と水素とを反応させて短鎖パラフィンを製造する短鎖パラフィン製造設備である。
【0134】
短鎖パラフィン合成システム1は、例えば、短鎖パラフィン合成装置2と、冷却装置3と、第1分離装置4と、第2分離装置5と、原料ガス供給ライン10と、第1ライン11と、第2ライン12と、第3ライン13と、排水ライン14と、短鎖パラフィン排出ライン15とを備える。必要に応じて、第3分離装置6を第1ライン11に介在させてもよく、さらに、循環ライン16を備えてもよい。
【0135】
以降の説明において、上流側および下流側は、ガスの流れ方向における上流側および下流側である。
【0136】
原料ガス供給ライン10は、短鎖パラフィン合成装置2の上流側に位置し、一端が短鎖パラフィン合成装置2と接続され、短鎖パラフィン合成装置2に原料ガスを供給するための配管である。より具体的には、原料ガス供給ライン10は、短鎖パラフィン合成装置2に、COおよび/またはCO2と水素とを含む混合ガスを供給する。なお、COおよび/またはCO2と水素とは、異なる配管から供給してもよく、その場合、原料ガス供給ライン10は、2つの配管からなる。なお、混合ガスは加熱されて、供給されてもよい。
【0137】
短鎖パラフィン合成装置2は、COおよび/またはCO2と水素とを反応させて、主生成物である短鎖パラフィンを含む反応生成物を生成する装置である。短鎖パラフィン合成装置2は、例えば、図示しない、反応器と、短鎖パラフィン合成触媒とを備え、必要に応じて、ジャケットを備える。
【0138】
反応器において、原料ガス供給ライン10から混合ガスが供給され、COおよび/またはCO2と水素とを反応させて、主生成物である炭素数1~4の短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物が生成される。反応生成物は、第1ライン11を介して、冷却装置3に供給される。
【0139】
短鎖パラフィン合成触媒は、反応器内に充填される。COおよび/またはCO2と水素との短鎖パラフィン合成反応を促進する。短鎖パラフィン合成触媒は、上記したように、例えば、活性金属として、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、FeおよびCoを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒が挙げられる。
【0140】
短鎖パラフィン合成触媒は、単独で使用してもよく、2種以上併用することができる。
【0141】
つまり、短鎖パラフィン合成触媒としては、例えば、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、FeおよびCoを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を単独で使用することが挙げられる。また、例えば、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を併用することが挙げられる。
【0142】
Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を併用する場合、反応器に充填する方法としては、例えば、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を区分して充填する方法、および、混合して充填する方法が挙げられる。
【0143】
区分して充填する方法としては、例えば、反応器の上端部分にFeを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を充填し、反応器の下端部分にCoを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を充填する方法が挙げられる。
【0144】
混合して充填する方法としては、例えば、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒とCoを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒とを均一に混合し充填する方法、および、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒とCoを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒との混合比率を調整し、上端側でFeの配合割合を高くし、下端側でCoの配合割合が高くなるようにグラデーションを設けて充填する方法が挙げられる。なお、このようにグラデーションを設けて充填する場合、反応器の上端側から原料ガスが供給されるように、原料ガス供給ライン10を配置し、反応器の下端側から排出されるように、後述する第1ライン11を配置する。
【0145】
Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を併用する場合において、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒、および、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒の混合比率は、特に限定されない。
【0146】
また、短鎖パラフィン合成装置2は、必要に応じて、反応器を冷却するジャケットを備える。より具体的には、ジャケットの中に冷媒を循環させることで、反応器を冷却することができる。
【0147】
ジャケットにより、短鎖パラフィン合成時に発生する反応熱による、反応器の過度な温度上昇を抑制することができる。
【0148】
第1ライン11は、短鎖パラフィン合成装置2と冷却装置3との間に位置し、一端が短鎖パラフィン合成装置2に接続され、他端が冷却装置3に接続される配管である。より具体的には、第1ライン11は、短鎖パラフィン合成装置2から、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を、冷却装置3に供給する。なお、第3分離装置6を備える場合、短鎖パラフィン合成装置2から、反応生成物を、第3分離装置6を経由して、冷却装置3に供給する。
【0149】
第3分離装置6は、第1ライン11間に配置され、反応生成物から、H2Oを水蒸気として分離する装置である。第3分離装置6によって、H2Oが水蒸気として分離された後の反応生成物は、第1ライン11を介して、冷却装置4に供給される。一方、分離された水蒸気と未反応ガスとは、再度、短鎖パラフィン合成装置2に供給されてもよく、後述する他の触媒を充填した反応器に供給されてもよく、排出されてもよい。なお、第3分離装置6によって、分離された水蒸気の経路は、図示しない。
【0150】
第3分離装置6としては、例えば、ゼオライト、シリカ、および/または、炭素で構成される多孔質膜(フィルター)が挙げられる。より具体的には、メタンの分子径(0.38nm)より、やや小さい孔を有する多孔質膜を用い、メタンの分子径以上の分子径を有する短鎖パラフィンと、メタンの分子径より小さい分子径を有する未反応ガスおよび水蒸気とを分離する。
【0151】
第3分離装置6を介することにより、短鎖パラフィン合成装置2から排出された反応生成物中の、H2Oを高温のまま、分離できるため、冷却装置3によって、冷却するエネルギーを削減することができる。
【0152】
冷却装置3は、短鎖パラフィン合成装置2の下流側に位置し、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を、冷却する装置である。第1ライン11を介して供給された、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物が、冷却装置3によって、冷却されると、反応生成物中の水蒸気としてのH2Oが、凝縮し、水となる。そして、H2Oを水として含む液体と、短鎖パラフィンを含む気体とを含む反応生成物は、第2ライン12を介して、第1分離装置4に供給される。
【0153】
冷却装置3では、冷媒として、例えば、冷却用の水およびブライン液が挙げられる。また、例えば、原料ガス供給ライン10より供給されるCOおよび/またはCO2と水素とを含む混合ガスを冷媒として使用し、熱交換させてもよい。
【0154】
第2ライン12は、冷却装置3と第1分離装置4との間に位置し、一端が冷却装置3に接続され、他端が第1分離装置4に接続される配管である。より具体的には、第2ライン12は、冷却装置3から、H2Oを水として含む液体と、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体とを含む反応生成物を、第1分離装置4に供給する。
【0155】
第1分離装置4は、冷却装置3の下流側に位置し、H2Oを水として含む液体と、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体とを含む反応生成物を、液体と気体とに分離する装置である。第2ライン12を介して供給された、H2Oを水として含む液体と、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体とを含む反応生成物は、第1分離装置4により、液体と気体とに分離され、液体は、排水ライン14から回収され、気体は、第3ライン13を介して、第2分離装置5に供給される。
【0156】
第1分離装置4としては、例えば、公知の蒸留装置、および、抽出装置が挙げられる。
【0157】
排水ライン14は、一端が第1分離装置4に接続され、第1分離装置4により分離された、H2Oを水として含む液体を回収する配管である。
【0158】
第3ライン13は、第1分離装置4と第2分離装置5との間に位置し、一端が第1分離装置4に接続され、他端が第2分離装置5に接続される配管である。より具体的には、第3ライン13は、第1分離装置4から、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体を、第2分離装置5に供給する。
【0159】
第2分離装置5は、第1分離装置4の下流側に位置し、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体を、短鎖パラフィンおよび未反応ガスに分離する装置である。第3ライン13を介して供給された、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体は、第2分離装置5により、短鎖パラフィンおよび未反応ガスに分離され、短鎖パラフィンは、短鎖パラフィン排出ライン15から回収され、未反応ガスは、必要に応じて、循環ライン16を介して、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給される。
【0160】
第2分離装置5としては、例えば、公知の蒸留装置、および、抽出装置が挙げられる。
【0161】
短鎖パラフィン排出ライン15は、一端が第2分離装置5に接続され、第2分離装置5により分離された、短鎖パラフィンを回収する配管である。
【0162】
循環ライン16は、一端が第2分離装置5に接続され、他端が短鎖パラフィン合成装置2に接続される配管である。なお、他端は、原料ガス供給ライン10に接続されていてもよい。より具体的には、循環ライン16は、第2分離装置5から、未反応ガスを、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給する。
【0163】
4.短鎖パラフィン製造方法
次いで、上記の短鎖パラフィン合成システム1を用いた、本発明の短鎖パラフィンの製造方法の一実施形態について説明する。
【0164】
短鎖パラフィンの製造方法としては、例えば、COおよび/またはCO2と水素とを、上記の短鎖パラフィン合成装置2に供給し、反応させて、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を得る合成工程と、反応生成物を冷却し、短鎖パラフィンを含む気体とH2Oを水として含む液体とに分離する第1分離工程と、第1分離工程で分離した短鎖パラフィンを含む気体を、未反応ガスと短鎖パラフィンとに分離する第2分離工程とを備える。また、必要に応じて、合成工程後、第1分離工程前であって、反応生成物から、H2Oを水蒸気として分離する第3分離工程を備えてもよく、さらに、第2分離工程後であって、未反応ガスを、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給する再供給工程を備えてもよい。
【0165】
<合成工程>
合成工程は、原料ガス供給ライン10から混合ガスを、短鎖パラフィン合成装置2に供給し、反応させて、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物を得る工程である。
【0166】
短鎖パラフィン製造装置2により炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するには、短鎖パラフィン合成触媒を、混合ガスに接触させる。
【0167】
より具体的には、短鎖パラフィン合成触媒を、上記した充填方法で、反応器に充填した後、その反応器を、常圧下において、下記の反応温度に維持し、混合ガスを反応器に供給する。
【0168】
反応温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上、また、例えば、500℃以下、好ましくは、450℃以下である。
【0169】
短鎖パラフィン合成触媒として、Feを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を単独で使用する場合、反応温度は、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上、より好ましくは、350℃以上、また、例えば、500℃以下、好ましくは、450℃以下である。
【0170】
短鎖パラフィン合成触媒として、Coを主成分とした短鎖パラフィン合成触媒を単独で使用する場合、反応温度は、例えば、100℃以上、好ましくは、150℃以上、また、例えば、400℃以下、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、250℃以下である。
【0171】
混合ガスがCO2および水素ガスを含有する場合、CO2と水素ガスとのモル比は、特に限定されず、例えば、1:4である。また、混合ガスがCOおよび水素ガスを含有する場合、COと水素ガスとのモル比は、特に限定されず、例えば、1:3である。
【0172】
また、混合ガスの流量は、短鎖パラフィン合成触媒1g当たり、例えば、30mL・min-1・g-1以上、好ましくは、50mL・min-1・g-1以上、また、例えば、500mL・min-1・g-1以下、好ましくは、100mL・min-1・g-1以下である。
【0173】
このように、短鎖パラフィン合成触媒と混合ガスとを接触させると、担体が金属酸化物を担持している場合であっても、金属酸化物が、混合ガス中の水素によって還元されて、金属状態に還元される。
【0174】
そして、安定化ジルコニア担体の酸素空孔がCOおよび/またはCO2の酸素原子を引き付けるとともに、担体に担持される金属状態の活性金属が水素を引き付けるため、短鎖パラフィン合成触媒の表面上において、COおよび/またはCO2と水素とが効率よく反応して、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物が生成する。
【0175】
より具体的には、短鎖パラフィン合成触媒1g当たりの短鎖パラフィン収量は、例えば、0.010mmol・s-1・g-1以上、好ましくは、0.250mmol・s-1・g-1以上、さらに好ましくは、0.400mmol・s-1・g-1以上、とりわけ好ましくは、0.500mmol・s-1・g-1以上である。
【0176】
また、このような短鎖パラフィンの製造方法では、短鎖パラフィン合成触媒の表面に担持される金属状態の活性金属が、混合ガスの供給により、短鎖パラフィン合成触媒から剥離して離脱してしまう場合がある。この場合、その剥離部分から露出する安定化ジルコニア担体の活性金属イオンが還元されて金属状態となり、触媒活性点として作用する。
【0177】
<第3分離工程>
第3分離工程は、合成工程後、第1分離工程前であって、合成工程により生成した反応生成物から、H2Oを水蒸気として分離する工程である。
【0178】
合成工程により生成した反応生成物は、第1ライン11の途中で、第3分離装置6を経由することで、H2Oを水蒸気として分離することができる。なお、第3分離装置6によって、H2Oが水蒸気として分離された後の反応生成物は、第1ライン11を介して、冷却装置3に供給される。
【0179】
第3分離工程の方法としては、例えば、多孔質膜を用いた膜分離が挙げられる。
【0180】
<第1分離工程>
第1分離工程は、合成工程により生成した主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物から、H2Oを水として取り除く工程である。
【0181】
合成工程により生成した主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oとを含む反応生成物は、第1ライン11を介して、冷却装置3に供給され、冷却される。
【0182】
冷却前の反応生成物の温度としては、例えば、100℃以上、好ましくは、120℃以上、また、例えば、400℃以下、好ましくは、380℃以下である。
【0183】
生成された反応生成物を冷却することで、水蒸気としてのH2Oが凝縮し、水が生成する。
【0184】
冷却装置における冷却温度としては、例えば、25℃以上、好ましくは、85℃以上、また、例えば、150℃以下、好ましくは、100℃以下である。
【0185】
つまり、冷却後の反応生成物の温度としては、例えば、20℃以上、好ましくは、30℃以上、また、例えば、100℃以下、好ましくは、80℃以下である。
【0186】
なお、冷却装置における圧力は、上記した冷却後の反応生成物の温度おいて、水蒸気としてのH2Oが、液体(水)で存在する圧力であれば、特に限定されない。
【0187】
次いで、冷却により凝縮したH2Oを水として取り除く。より具体的には、冷却装置3から、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体と、H2Oを水として含む液体とを含む反応生成物が、第2ライン12を介して、第1分離装置4に供給され、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体と、H2Oを水として含む液体とが分離される。分離された、H2Oを水として含む液体は、排水ライン14から回収される。
【0188】
第1分離工程の分離方法としては、特に限定されず、公知の方法が挙げられる。公知の分離方法としては、例えば、蒸留、および、抽出が挙げられる。
【0189】
<第2分離工程>
第2分離工程は、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体を、短鎖パラフィンと未反応ガスとに分離する工程である。より具体的には、第1分離装置4によって分離された、短鎖パラフィンおよび未反応ガスを含む気体が、第3ライン13を介して、第2分離装置5に供給され、短鎖パラフィンと未反応ガスとに分離する。分離された、短鎖パラフィンは、短鎖パラフィン排出ライン15から回収される。
【0190】
第2分離工程の分離方法としては、特に限定されず、公知の方法が挙げられる。公知の分離方法としては、例えば、蒸留、および、抽出が挙げられる。また、ラボスケールであれば、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーも挙げられる。
【0191】
<再供給工程>
再供給工程は、第2分離工程後であって、第2分離工程によって分離した未反応ガスを、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給する工程である。より具体的には、第2分離装置5によって分離された、未反応ガスが、循環ライン16を介して、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給される。なお、上述したように、未反応ガスは、循環ライン16から直接短鎖パラフィン合成装置2に供給してもよく、原料ガス供給ライン10を介して、短鎖パラフィン合成装置2に供給してもよい。
【0192】
未反応ガスを、短鎖パラフィン合成装置2に再度供給することで、反応原料として、再利用が可能である。
【0193】
未反応ガスは、必要に応じて、コンプレッサーなどを用いて、昇圧し、短鎖パラフィン合成装置2に供給することができる。
【0194】
(変形例1)
上記した短鎖パラフィン合成システム1は、短鎖パラフィン合成装置2を単独で備えているが、短鎖パラフィン合成装置2を複数備えることもできる(変形例1の多段システム)。なお、変形例1の多段システムは、図示しない。
【0195】
変形例1の多段システムとしては、短鎖パラフィン合成装置2を複数備えていれば、特に限定されない。具体的には、第2の短鎖パラフィン合成装置を第1分離装置4の下流側に備え、第1分離装置によって分離した短鎖パラフィンを含む気体を第2の短鎖パラフィン合成装置に供給するシステム、および、第2の短鎖パラフィン合成装置を第2分離装置5の下流側に備え、第2分離装置5によって分離した未反応ガスを、第2の短鎖パラフィン合成装置に供給するシステムが挙げられる。
【0196】
また、短鎖パラフィン合成装置2を複数備える場合、上記した冷却装置3、第1分離装置4、第2分離装置5、および、第3分離装置6も、それぞれ複数備えてもよい。
【0197】
(変形例2)
上記した短鎖パラフィン合成システム1は、短鎖パラフィン合成装置2を単独で備えているが、他の触媒を充填した反応装置を併用することができる(変形例2の多段システム)。なお、変形例2の多段システムは、図示しない。
【0198】
他の触媒としては、例えば、特開2011-206770号公報、および、特開2013-119526号公報に記載のメタン化触媒が挙げられる。
【0199】
変形例2の多段システムとしては、短鎖パラフィン合成装置2に加えて、他の触媒を充填した反応装置を備えていれば、特に限定されない。具体的には、他の触媒を充填した反応装置を第1分離装置4の下流側に備え、第1分離装置4によって分離した短鎖パラフィンを含む気体を、他の触媒を充填した反応装置に供給するシステム、および、他の触媒を充填した反応装置を第2分離装置5の下流側に備え、第2分離装置5によって分離した未反応ガスを、他の触媒を充填した反応装置に供給するシステムが挙げられる。
【0200】
また、他の触媒を充填した反応装置を備える場合、上記した冷却装置3、第1分離装置4、第2分離装置5、および、第3分離装置6も別途備えてもよい。
【0201】
(変形例3)
上記した短鎖パラフィン合成システム1は、複数の分離装置(第1分離装置4、および、第2分離装置5、さらに、必要に応じて、第3分離装置6)を備えているが、分離装置を単独で備えていてもよい(変形例3のシステム)。
【0202】
変形例3のシステムとしては、例えば、短鎖パラフィン合成装置2と第3分離装置6のみを備えるシステムが挙げられる。短鎖パラフィン合成装置2により生成した、主生成物である短鎖パラフィンと副生成物であるH2Oを含む反応生成物を、第3分離装置6に供給し、第3分離装置により、短鎖パラフィンと短鎖パラフィン以外とに分離し、短鎖パラフィンを回収することができる。
【0203】
変形例3において、第3分離装置6として、例えば、ゼオライト、シリカ、および/または、炭素で構成される多孔質膜(フィルター)を用いることができる。この場合、メタンの分子径(0.38nm)より、やや小さい孔を有する多孔質膜を用いると、メタンの分子径以上の分子径を有する短鎖パラフィンと、メタンの分子径より小さい分子径を有する未反応ガスおよび水蒸気とを分離することができる。また、メタンの分子径より、やや大きく、エタンの分子径より、やや小さい孔を有する多孔質膜を用いると、エタンの分子径以上の分子径を有する短鎖パラフィンと、エタンの分子径より小さい分子径を有するメタン、未反応ガスおよび水蒸気とを分離することができる。
【0204】
メタンの分子径より、やや大きく、エタンの分子径より、やや小さい孔を有する多孔質膜を用いた場合において、短鎖パラフィン(メタンを除く)と分離された、メタン、未反応ガスおよび水蒸気を、別途、メタンを分解する装置に供給することで、メタンをCOおよび/またはCO2と水素とに分解することができ、短鎖パラフィンの合成に再利用することができる。これによって、メタン以外の短鎖パラフィンの割合を高めることができる。
【0205】
<作用効果>
本発明の短鎖パラフィン合成触媒は、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造するための短鎖パラフィン合成触媒であって、担体と活性金属とを備え、担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であり、活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である。そのため、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、メタンと、エタンと、プロパンと、ブタンとを製造することができ、炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、1体積%以上、好ましくは、2体積%以上、より好ましくは、3体積%以上である。
【0206】
より具体的には、本発明の短鎖パラフィン合成触媒は、担体として、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含む。安定化ジルコニア担体の酸素空孔がCOおよび/またはCO2の酸素原子を引き付けるとともに、安定化ジルコニア担体に担持される金属状態の活性金属が水素を引き付けるため、短鎖パラフィン合成触媒の表面上において、COおよび/またはCO2と水素とが効率よく反応して、メタンと、エタンと、プロパンと、ブタンとを製造することができ、炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、1体積%以上である。
【0207】
また、本発明の短鎖パラフィン合成触媒は、活性金属を含み、活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である。そのため、CO2からCOを生成し、さらに、COから、メタンと、エタンと、プロパンと、ブタンとを製造することができ、炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、1体積%以上である。
【実施例0208】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、何ら実施例および比較例に限定されない。また、以下の記載において用いられる配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなど該当記載の上限(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0209】
<短鎖パラフィン合成触媒の調製>
実施例1
ジルコニアヒドロゾル「ZSL-10A」(第一稀元素化学工業製、Zr:10質量パーセント、pH=7.2)を100g取り、表1に示す処方の原子%に応じて、各原料の硝酸塩(富士フィルム和光純薬製、純度99%以上)を混合した。ジルコニアヒドロゾルと、各原料の硝酸塩との混合物を、SiC製るつぼ中で混合し、均一なスラリーを得た。スラリーをマッフル炉の中に入れ、170℃で2時間加熱乾燥し、余剰の水分を揮発させたハードスラリーを作製した。さらに、ハードスラリーをマッフル炉に入れた状態で、マッフル炉の温度を20℃/minの条件で650℃まで昇温し、ハードスラリーを650℃で4時間焼成した。焼成後に得られた灰黒色のバルク状酸化物を、乳鉢ですりつぶし、目開き75μmのふるいにかけ、微粉体状短鎖パラフィン合成触媒前駆体を得た。
【0210】
1/2インチのSUS製チューブに0.5gのグラスウールを所定量敷き詰め、その上に微粉体状短鎖パラフィン合成触媒前駆体を充填し、チューブの周囲を管状炉で囲った。チューブ内に充填された微粉体状短鎖パラフィン合成触媒前駆体の温度が、400℃以上となるように炉の温度を調整した。温度が400℃以上になったのち、チューブの上部から水素を500mL/minの流量で4時間連続的に供給し、微粉体状短鎖パラフィン合成触媒前駆体を活性化させ、短鎖パラフィン合成触媒を得た。次いで、水素の供給を止め、室温程度まで短鎖パラフィン合成触媒の温度を下げ、窒素を100mL/minの流量で1時間流し、別のポートから空気を、空気窒素比が1/20となるように5mL/minの流量で供給し、窒素と空気との混合ガスを合計105mL/minの流量で30分流し続けた。さらに、空気の流量を10mL/minまで供給量を上げ、混合ガスを連続して60分流し続けた。その際、短鎖パラフィン合成触媒の温度が一時的に約40~50℃前後まで上昇し、その後、室温まで戻ることを確認し、チューブから短鎖パラフィン合成触媒を得た。
【0211】
実施例2~9、および、比較例1~14
表1、表3の処方に基づいて、各原料の種類と、各原料の配合割合を変更した以外は、実施例1の短鎖パラフィン合成触媒と同様にして、各短鎖パラフィン合成触媒を調製した。
【0212】
実施例10、11
各原料の種類と、各原料の配合割合は、表1の処方に基づいて変更し、実施例1と均一なスラリーを得るまでの同様の工程とした。得られたスラリーにメソポーラスアルミナ「MCM-41」(Sigma-Aldrich製)粉末(ゼオライト)を、表1に示す、ゼオライト以外の触媒成分100質量部に対する、配合割合(質量部)に応じて加え、24時間攪拌したのち、さらに12時間静置させた。スラリーを、マッフル炉に入れ、170℃で1時間加熱し、一旦マッフル炉から取り出してガラス棒で再度攪拌した。その後、スラリーを再度マッフル炉に入れ、マッフル炉の温度を20℃/minの条件で650℃まで昇温し、ハードスラリーを650℃で4時間焼成した。その後の工程は、実施例1の短鎖パラフィン合成触媒と同様にして、各短鎖パラフィン合成触媒を調製した。
【0213】
実施例12~27
ジルコニアヒドロゾル「ZSL-10A」を100g取り、シリカゾル「スノーテックスOS」(日産化学工業社製、SiO2:20質量パーセント、pH=4.0)、アルミナゾル「AS-520A」(日産化学工業社製、Al2O3:20質量パーセント、pH=4.0)、チタニアゾル「タイノックAM-15、多木化学社製、TiO2:15質量パーセント、pH=4.0)のいずれかを、表2に示す処方の原子割合に応じて加え、最初に混合させたのち、実施例1の短鎖パラフィン合成触媒と同様にして、各短鎖パラフィン合成触媒を調製した。なお、各原料の種類と、各原料の配合割合は、表2の処方に基づいて変更した。
【0214】
<評価>
[短鎖パラフィンの製造]
3/8インチのチューブで作製された全長10cmの小型反応器の中に、0.5gのグラスウールを管の下端側に敷き詰め、その上に、各実施例および各比較例の短鎖パラフィン合成触媒3gを静かに充填した。反応器の周囲に管状炉を配置し、反応器内の触媒温度が各実施例または各比較例の反応温度になるまで加温した。所定の温度に到達したのち、前処理として、水素を156mL/minで2時間流した。その後、水素156mL/minの供給のまま、校正ガスとして窒素を5mL/min、反応原料としてCO2ガスを39mL/minの条件で追加するように供給し、さらに、反応器入口の圧力が0.98 MPaGになるように調整し、4L/g_cat・hの条件下で反応を開始した。反応開始後、14時間連続で運転し、一定間隔で反応器出口のガスをサンプリングし、ガスクロマトグラフィ(Agilent マイクロGC990)を用いて、組成を分析した。表1~7に14時間後の反応器出口のガス中における短鎖パラフィンの酸化物の組成比と、反応前後におけるCO2転換率を示した。転換率は、下記の式に基づいて算出した。
【0215】
CO2転換率(%)=(短鎖パラフィンの体積+一酸化炭素の体積)/原料CO2の体積
【0216】
【0217】
<考察>
実施例1~27では、担体と、活性金属とを備え、担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であり、活性金属は、Feおよび/またはCoを含み、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%超過である。そのため、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、炭素数1~4の短鎖パラフィンを製造でき、比較例と比べて、炭素数2~4の短鎖パラフィンの割合が高く、具体的には、炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、3体積%以上であり、最大29.7体積%である。
【0218】
比較例1~14では、担体と、活性金属とを備え、担体は、安定化元素が固溶し、正方晶系および/または立方晶系の結晶構造を有する安定化ジルコニア担体を含み、安定化元素は、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ca、および、Mgからなる群より選択される少なくとも一つの元素であるが、活性金属が、Feおよび/またはCoを含まない、または、活性金属の総和に対して、Feおよび/またはCoの原子割合が、50原子%以下である。そのため、比較例1~4、6、7、および、9~14では、COおよび/またはCO2を水素と反応させて、プロパン、および/または、ブタンを製造できず、また、比較例1~14では、実施例と比べて、炭素数2~4の短鎖パラフィンの割合が低く、具体的には、炭素数1~4の短鎖パラフィンの総和に対して、エタンと、プロパンと、ブタンとの総和の体積割合は、0.8体積%以下である。