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  • 特開-スタッド溶接電源 図1
  • 特開-スタッド溶接電源 図2
  • 特開-スタッド溶接電源 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139377
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】スタッド溶接電源
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/073 20060101AFI20241002BHJP
   B23K 9/20 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B23K9/073 550
B23K9/20 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050281
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(72)【発明者】
【氏名】大村 正治
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA13
4E082EA02
(57)【要約】
【課題】スタッド径、スタッドボルト及び母材表面の状態により、パイロット電流を調整しないとアークスタートが失敗する課題がある。
【解決手段】スタッド溶接電源の操作パネルのボタン及び調整ツマミの操作により、パイロット電流を任意の値に設定できる機能を設ける。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイロット電流を任意の値に設定できること、
を特徴とするスタッド溶接電源。
【請求項2】
パイロット時間を任意の値に設定できること、
を特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッド溶接電源のスタート性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッド溶接電源では、従来のサイリスタを用いた主回路方式から、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いたインバータ方式を用いた主回路に切り替わっており、従来よりも細かい溶接電流制御が可能となっている(例えば、先行文献1)。また、インバータ方式を用いた主回路により、同一のスタッド溶接電源にて細径から太径のスタッドボルトに適用できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許公報第2660019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スタッド径、スタッド及び母材表面の状態により、パイロット電流を調整しないとアークスタートが失敗する課題がある。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、アークスタートの失敗を防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
パイロット電流を任意の値に設定できること、
を特徴とするスタッド溶接電源である。
【0007】
上述した課題を解決するために、請求項2の発明は、
パイロット時間を任意の値に設定できること、
を特徴とする請求項1に記載のスタッド溶接電源である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、アークスタートの失敗を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1に係るスタッド溶接電源の操作パネルの操作方法である。
図2】本発明の実施の形態1に係るスタッド溶接電源のタイミングチャートである。
図3】本発明の実施の形態2に係るスタッド溶接電源のタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
〔実施の形態1〕
図1は、操作パネル及び本発明の実施の形態1に係る操作パネルの操作方法であり、同図(a)は操作パネルであり、同図(b)は操作パネルの操作方法を示す。以下、同図を参照して動作について説明する。
【0012】
図1は、スタッド溶接電源の操作パネル6の操作方法である。同図を用いてパイロット電流の設定手順を説明する。同図の番号を付した部品の名称及び機能は次のとおりである。
1:溶接電流表示・・・溶接電流の設定値、実測値、及び各種情報を表示。
2:溶接時間表示・・・溶接時間の設定値、実測値、及び各種情報を表示。
3:溶接電流調整ツマミ・・・溶接電流の設定、及び各種パラメータ値の調整。
4:溶接時間調整ツマミ・・・溶接時間の設定、及び各種パラメータ値の調整。
5:内部機能キー・・・内部機能設定への切り替え。
【0013】
パイロット電流の設定手順は次のとおりである。
1)内部機能キー5を3秒間長押して、内部機能設定モードに切り替える。
2)溶接電流表示1が「F1」(内部機能設定モード1)となるように溶接電流調整ツマミ3を回す。
3)パイロット電流を80Aに設定する場合は、溶接時間表示2が「80」となるように溶接時間調整ツマミ4を回す。
4)設定後、内部機能キー5を3秒間長押し、内部機能設定モードを終了する。
【0014】
図2は、実施の形態1に係るスタッド溶接電源のタイミングチャートである。同図aは起動信号を示し、同図bは溶接ガン駆動を示し、同図cは溶接電流を示し、同図dはスタッドボルトの引上げ距離を示す。同図を用いてスタッド溶接電源の動作について説明する。
【0015】
t0:時刻t0において、図2aに示すとおりスタッド溶接電源が起動されると、同時に図2bに示すとおり溶接ガン駆動を行ない、図2cに示すとおり母材とスタッドボルト間にパイロット電流Ipが流れる。しかし、溶接ガンのソレノイドを駆動しても実際にスタッドボルトが引き上がり始めるまでには、図2dに示すとおり引上げ遅動時間Tdが存在し、実際にスタッドボルトが引き上がりを開始するのは、時刻t1である。
【0016】
t1~t2:溶接ガン駆動から引上げ遅動時間Td経過した時刻t1において、図2dに示すとおりスタッドボルトが引き上がり始め、時刻t2時点において、略設定された引上げ距離に達する。この時刻t2において、同図bに示すとおり溶接電流はパイロット電流Ipから溶接電流Iwへ移行を開始する。
【0017】
t2~t3:時刻t2から時刻t3までのスロープ時間Tsにて、図2cに示すとおり溶接電流をパイロット電流Ipから溶接電流Iwへ徐々に上昇させていき、スタッドボルト先端と母材間に発生しているアークのアーク長を伸ばしていく。
【0018】
t3~t4:時刻t3から時刻t4まで期間、スタッドボルトと母材間に発生したアークにより、母材を溶融させ溶融池を形成する。
【0019】
t4~t5:時刻t4において、スタッドボルトを母材の溶融池に押し込むため、同図bに示すとおり溶接ガン駆動を停止するが、同図dに示すとおりスタッドボルトが実際に下がり始めるまで引下げ遅動時間Tuが存在する。
【0020】
t5~t7:溶接ガン駆動を停止した時刻t4から引下げ遅動時間Tu経過後の時刻t5において、同図dに示すとおりスタッドボルトは下がり始め、時刻t6において母材と同一面まで押し下げられ、その後設定された押下げ距離まで母材に押し込まれる。溶接ガン駆動を停止した時刻t4から母材に押し込みが安定する時刻t7まで間(ポストヒート時間Tf)、スタッドボルトと母材の接合部の溶接不良を防ぐ目的で同図cのとおり溶接電流Iwを流している。
【0021】
t7以降:同図aに示すとおり時刻t7以降も起動信号が入力されているが、ポストヒート時間Tfが経過しているので、溶接シーケンスは終了し、新たなスタッドボルトが溶接ガンに装着され、再度起動信号が入力されるまでは、スタッド溶接電源は、同図cのとおり溶接電流の出力を停止する。
【0022】
パイロット電流Ipを調整する効果について説明する。スタッドボルト径が細い場合は、パイロット電流を抑制してパイロット期間中のスタッドボルトと母材に発生しているアークの強さを抑えないと過度にアーク長が長くなり、アークが消弧しアークスタートが失敗する。スタッドボルト径が太い場合は、パイロット電流を増加させてパイロット期間の入熱を大きくしないと、スタッドボルトを引き上げてパイロットから溶接電流に移行する際、パイロット期間の入熱が足らず、アークスタートが失敗する。
【0023】
母材及びスタッドボルトが錆びている場合や母材表面が黒皮等の酸化膜で覆われている場合、母材とスタッドボルト先端の接触抵抗が高くなる。そのため、パイロット電流を増加させてパイロット期間の入熱を大きくしないと、スタッドボルトを引き上げてパイロットから溶接電流に移行する際、アークスタートを失敗する。
【0024】
母材表面が亜鉛や亜鉛とアルミの合金でメッキされている場合は、パイロット電流を抑制してパイロット期間の入熱を抑制しないと、スタッドボルトを引き上げてパイロット電流から溶接電流に移行する際、母材表面をメッキしている融点の低い亜鉛やアルミが過度に蒸発し、フェルール内に蒸気として留まるため、溶接部に気泡が残留する溶接欠陥を生じる。また、母材表面に水分が付着している場合も、母材表面の水分が蒸発して同様の溶接欠陥を生じる。
【0025】
以上のとおり、スタッドボルト径や母材及びスタッドボルトの表面状態により、ユーザーは個別にパイロット電流を調整できることが望まれている。
【0026】
〔実施の形態2〕
実施の形態1と同じ図1にて、パイロット時間の設定手順を説明する。
1)内部機能キー5を3秒間長押して、内部機能設定モードに切り替える。
2)溶接電流表示1が「F2」(内部機能設定モード2)となるように溶接電流調整ツマミ3を回す。
3)パイロット時間を100mSに設定する場合は、溶接時間表示2が「100」となるように溶接時間調整ツマミ4を回す。
4)設定後、内部機能キー5を3秒間長押し、内部機能設定モードを終了する。
【0027】
図3は、実施の形態2に係るスタッド溶接電源のタイミングチャートである。同図(1)は適用スタッド径が太径用の溶接ガンのタイミングチャートであり、同図(2)は適用スタッド径が細径用の溶接ガンのタイミングチャートでる。同図aは起動信号を示し、同図bは溶接ガン駆動を示す。同図(1)cは、太径用の溶接ガンの溶接電流を示し、同図(1)dは太径用の溶接ガンのスタッドボルトの引上げ距離を示す。同図(2)cは細径用の溶接ガン溶接電流を示し、同図(2)dは細径用の溶接ガンスタッドボルトの引上げ距離を示す。なお、同図(1)及び同図(2)において、スタッド溶接電源起動と溶接ガン駆動開始は、同図a及び同図bの時刻t0である。同図を用いてスタッド溶接電源の動作について説明する。
【0028】
t0:時刻t0において、同図aに示すとおりスタッド溶接電源が起動されると、同時に同図bに示すとおり溶接ガンが駆動される。
【0029】
t1、t10:スタッドボルトを引き上げるため溶接ガンを駆動するが、細径用の溶接ガンの場合は、同図(2)dに示すとおり引上げ遅動時間Td2後の時刻t10においてスタッドボルトが引き上がり始めるが、太径用の溶接ガンの場合は、同図(1)dに示すとおり引上げ遅動時間Td2より長い引上げ遅動時間後Td1後の時刻t1においてスタッドボルトが引き上がり始める。
【0030】
t2、t20:同図(1)d及び同図(2)dに示すとおり細径用の溶接ガンの引上げ距離L2は太径用の溶接ガンの引上げ距離L1と比較して短くてよい。また、細径用の溶接ガンは太径用の溶接ガンに比べて応答速度が速いため、所定の引上げ距離に達するのは、細径用の溶接ガンの場合、同図(2)dに示すとおり時刻t20であるが、太径用の溶接ガンの場合、同図(1)dに示すとおり時刻t20より遅れた時刻t2の時点となる。太径用の溶接ガンと細径用の溶接ガンにて、同じパイロット時間Tpにしていたのでは、パイロット期間中に入熱を増大しないといけない太径スタッドボルトと入熱を抑制しないといけない細径スタッドボルトにおいて、パイロット期間中の入熱量が逆転してしまう。そのため、同図(1)c及び同図(2)cに示すとおり太径用の溶接ガンの場合は、細径用の溶接ガンのパイロット時間Tp2よりも長いパイロット時間Tp1に設定する必要がある。
【0031】
スタッド溶接電源のインバータ化により、細径から太径までの広範囲なスタッドボルトを同一スタッド溶接電源にて溶接可能となり、ユーザーでは使用するスタッド径に適した溶接ガンを使い分けており、使用する溶接ガンに応じてパイロット時間を設定できることが要望されおり、実施の形態2ではこの要望に応えることができる。
図1
図2
図3