(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139382
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】粘弾性体の物性予測装置及び物性予測方法
(51)【国際特許分類】
B29B 7/28 20060101AFI20241002BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20241002BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20241002BHJP
B29B 7/18 20060101ALI20241002BHJP
B29B 7/38 20060101ALI20241002BHJP
B29B 7/72 20060101ALI20241002BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20241002BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B29B7/28
B29C48/00
B29C48/92
B29B7/18
B29B7/38
B29B7/72
B29C35/02
B29C33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050288
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】福永 紘平
(72)【発明者】
【氏名】伊田 真悟
【テーマコード(参考)】
4F201
4F202
4F203
4F207
【Fターム(参考)】
4F201AA45
4F201AJ08
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4F202AA45
4F202AB03
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4F207AR11
4F207AR20
4F207KA01
4F207KA17
4F207KM14
(57)【要約】
【課題】 粘弾性体の前工程の影響を考慮して、粘弾性体の物性を予測することが可能な装置を提供する。
【解決手段】 加硫された粘弾性体の物性を予測するための物性予測装置である。この物性予測装置は、少なくとも、粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データが入力される入力部19aと、入力データに基づいて、粘弾性体の加硫後の物性値を予測するための予測部20cと、予測された物性値を出力するための出力部20dとを含む。予測部20cは、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて、入力データから、加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫された粘弾性体の物性を予測するための物性予測装置であって、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データが入力される入力部と、
前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測するための予測部と、
前記予測された物性値を出力するための出力部と、を含み、
前記予測部は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む、
粘弾性体の物性予測装置。
【請求項2】
前記物性値は、損失正接を含む、請求項1に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項3】
前記物性値は、ねじり振動を加えたときのトルクを含む、請求項1に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項4】
前記第1データは、前記粘弾性体の温度と加硫時間との関係を示す温度曲線に、フィッティング可能な予め定められた関数に基づいて特定される、請求項1又は2に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項5】
前記関数は、下記の式(1)~(3)で定義され、
前記第1データは、定数a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2の少なくとも1つを含む、請求項4に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【数1】
ここで、
q(t):加硫時間tの粘弾性体の温度
q0:粘弾性体の初期温度
t:加硫時間
a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2:定数
【請求項6】
前記第2データは、損失正接の最小値、及び/又は、加硫戻りによる前記損失正接の増加分を含む、請求項1又は2に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項7】
前記第2データは、ねじり振動を加えたときのトルクの最大値、及び/又は、加硫戻りによる前記トルクの減少分を含む、請求項1又は2に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項8】
前記入力データは、前記粘弾性体の加硫前の混練条件を特定する第3データをさらに含み、
前記学習済モデルは、さらに、前記複数の粘弾性体のそれぞれの前記第3データを用いて機械学習されている、請求項1又は2に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項9】
前記入力データは、前記粘弾性体の配合を特定する第4データをさらに含み、
前記学習済モデルは、さらに、前記配合が異なる複数の粘弾性体のそれぞれの前記第4データを用いて機械学習されている、請求項1又は2に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【請求項10】
加硫された粘弾性体の物性を予測するための方法であって、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データと含む入力データを、コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測する工程と、
前記コンピュータが、前記予測された物性値を出力する工程とを含み、
前記物性値を予測する工程は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記学習済モデルに、前記入力データを入力して、前記加硫後の物性値を推定する工程とを含む、
粘弾性体の物性予測方法。
【請求項11】
加硫された粘弾性体の物性を予測するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データを入力する手段と、
前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測する手段と、
前記予測された物性値を出力する手段として機能させ、
前記物性値を予測する手段は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む、
コンピュータプログラム。
【請求項12】
加硫された粘弾性体の物性を予測するための学習済モデルの作成方法であって、
互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれについて、少なくとも、加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データ、加硫中の物性の変化を特定する第2データ、及び、加硫後の物性値を、コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、少なくとも、前記複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記粘弾性体の少なくとも前記第1データ及び前記第2データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを作成する工程とを含む、
学習済モデルの作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性体の物性予測装置及び物性予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粘弾性体の物性を予測するための方法が、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、粘弾性体は、ゴム及び樹脂等のポリマーや薬品等を混練し、所定の形状に押し出しする前工程と、その後、押し出された材料を加硫する加硫工程とを経て製造される。これらの混練や押し出し等の前工程は、予め定められた条件に基づいて行われるが、粘弾性体を製造する工場や設備によって微妙に異なる場合がある。そして、前工程の条件の違いは、意外にも加硫中の物性値に無視できないバラつきを生じさせる傾向がある。すなわち、粘弾性体の配合が同一であっても、前工程での条件が異なると、加硫後の物性値が異なる場合がある。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、粘弾性体の前工程の影響を考慮して、粘弾性体の物性を予測することが可能な装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、加硫された粘弾性体の物性を予測するための物性予測装置であって、少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データが入力される入力部と、前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測するための予測部と、前記予測された物性値を出力するための出力部と、を含み、前記予測部は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む、粘弾性体の物性予測装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の粘弾性体の物性予測装置は、上記の構成を採用することにより、粘弾性体の前工程の影響を考慮して、粘弾性体の物性を予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の粘弾性体の物性予測装置のブロック図である。
【
図3】押出機及び押出流路の一例を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の学習済モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】本実施形態の入力工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図10】本実施形態の粘弾性体の物性予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】本実施形態の予測工程の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態の粘弾性体の物性予測装置(以下、「物性予測装置」ということがある。)、及び、粘弾性体の物性予測方法(以下、「物性予測方法」ということがある。)では、加硫された粘弾性体の物性が予測される。
【0011】
[粘弾性体の物性予測装置]
図1は、本実施形態の粘弾性体の物性予測装置11のブロック図である。物性予測装置11は、例えば、コンピュータ10で構成されている。コンピュータ10の一例には、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、及び、クラウドサーバ等が挙げられる。本実施形態のコンピュータ10には、デスクトップ型コンピュータが採用される。
【0012】
本実施形態の物性予測装置11は、例えば、入力装置13と、表示装置14と、演算処理装置15とを含んで構成されている。
【0013】
[入力装置]
入力装置13には、例えば、キーボードや、マウス等が用いられる。このような入力装置13により、演算処理装置15に、物性予測方法の実行に必要な命令等が入力されうる。
【0014】
[表示装置]
表示装置14は、例えば、ディスプレイ装置で構成されている。このような表示装置14により、物性予測方法によって予測された物性値が出力されうる。
【0015】
本実施形態の演算処理装置15は、例えば、各種の演算を行う演算部(CPU)16と、データやプログラム等が記憶される記憶部17と、作業用メモリ18とを含んで構成されている。
【0016】
[記憶部]
記憶部17は、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。本実施形態の記憶部17には、データ部19と、プログラム部20とが含まれている。
【0017】
[データ部]
データ部19は、加硫された粘弾性体の物性の予測に必要なデータ(情報)や、計算結果等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部19には、入力部19aと、物性値記憶部19bと、学習済モデル記憶部19cとが含まれる。入力部19aには、第1入力部21と、第2入力部22と、第3入力部23とが含まれる。これらのデータ部19に入力されるデータの詳細は、後述される。なお、データ部19は、このような態様に限定されるわけではなく、これらの一部が省略されてもよいし、その他のデータが記憶されうるデータ部が含まれてもよい。
【0018】
[プログラム部]
プログラム部20は、加硫された粘弾性体の物性の予測に必要なプログラム(コンピュータプログラム)である。プログラム部(プログラム)20は、演算部16によって実行されることにより、コンピュータ10を、特定の手段として機能させることができる。
【0019】
本実施形態のプログラム部20には、第1取得部20aと、第2取得部20bと、予測部20cと、出力部20dと、学習済モデル作成部20eとが含まれる。これらのプログラム部20の機能の詳細は、後述される。なお、プログラム部20は、このような態様に限定されるわけではなく、これらの一部が省略されてもよいし、その他の機能を有するプログラム部がさらに含まれてもよい。
【0020】
[粘弾性体]
本実施形態の物性予測装置11において、加硫後の物性が予測される粘弾性体は、前工程と、加硫工程とを経て製造される。前工程では、ポリマーや薬品等を混練する混練工程と、所定の形状に押し出す押出工程とが含まれる。一方、加硫工程では、押出工程(前工程)で押し出された材料が加硫される。これにより、粘弾性体が製造される。この加硫された粘弾性体は、例えば、タイヤなどの製品を構成している。
【0021】
ポリマーには、例えば、ゴム及び樹脂等が含まれる。本実施形態のポリマーには、未加硫のゴムが用いられる。ここで、未加硫とは、完全な加硫に至っていない全ての態様を含むもので、いわゆる半加硫の状態は、この「未加硫」に含まれる。ゴムの一例としては、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、又は、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が挙げられる。また、ポリマーとともに混練される薬品の一例としては、カーボンやシリカ等のフィラー、オイル、加工助剤、硫黄又は加硫促進剤が挙げられる。
【0022】
本実施形態の混練工程(前工程)では、例えば、公知の混練機が用いられる。
図2は、混練機2の一例を示す断面図である。本実施形態の混練機2は、筒状に形成されたケーシング2aと、ケーシング2aの内部で回転可能なロータ2b、2bとを含んで構成されている。
【0023】
本実施形態の混練工程では、先ず、混練機2のケーシング2a内に、上記のポリマーや薬品等を含む材料7Aが投入される。次に、混練機2のロータ2b、2bによって、ケーシング2a内の材料7Aが混練される。混練された材料7Aは、ケーシング2aから排出される。
【0024】
混練工程は、予め設定された混練条件に基づいて実施される。混練条件には、例えば、ポリマーや薬品等の投入順序、ロータ2b、2bの回転数、及び、混練後の材料7Aの排出温度(混練停止条件)が含まれる。これらの混練条件は、粘弾性体を製造する工場や、混練機2を含む設備等に応じて適宜設定される。したがって、混練条件は、工場や設備によって微妙に異なる場合がある。
【0025】
次に、本実施形態の押出工程(前工程)では、公知の押出機や押出流路が用いられる。
図3は、押出機3及び押出流路4の一例を示す断面図である。
【0026】
本実施形態の押出機3は、筒状に形成されたバレル3aと、バレル3aの内部で回転可能なスクリュー軸3bとを含んで構成されている。一方、押出流路4は、筒状に形成されており、押出機3の下流側に接続されたヘッド4aと、ヘッド4aの下流側に配されるダイ(口金)4bとを含んで構成されている。
【0027】
本実施形態の押出工程では、先ず、
図2に示した混練機2から排出された材料7Aが、バレル3a内に投入される。次に、スクリュー軸3bの回転によって、バレル3aの材料7Aが押出流路4側に案内される。そして、押出流路4に案内された材料7Aは、ダイ4bを通過することで、所定の形状に成形されて押し出される。
【0028】
押出工程は、予め設定された押出条件に基づいて実施される。押出条件には、例えば、スクリュー軸3bの回転数、スクリュー軸3bの外形Dと長さLとの比L/D、及び、バレル3aを加熱するための設定温度等が含まれる。これらの押出条件は、工場や、押出機3を含む設備等に応じて適宜設定される。したがって、押出条件は、工場や設備によって微妙に異なる場合がある。
【0029】
次に、加硫工程では、例えば、公知の金型が用いられる。
図4は、金型5の一例を示す断面図である。本実施形態の金型5は、第1成形型5aと、第2成形型5b、5cとを含んで構成されている。これらの成形型5a、5b及び5cが嵌め合わされることで、製品を成形しうる成形面5sが形成される。
【0030】
本実施形態の加硫工程では、先ず、
図3に示した押出流路4から所定の形状に押し出された材料7Aを用いて、未加硫の製品6(本例では、タイヤ6A)が形成される。次に、未加硫の製品6が、金型5の内部に投入される。そして、未加硫の製品が加熱されて加硫成形される。これにより、加硫された粘弾性体7を含む製品6(タイヤ6A)が製造される。
【0031】
加硫工程は、予め設定された加硫条件に基づいて実施される。加硫条件には、例えば、粘弾性体7(製品6)が加硫時に受けた熱履歴等が含まれる。これらの加硫条件は、工場や、金型5を含む設備等に応じて適宜設定される。したがって、加硫条件は、工場や設備によって微妙に異なる場合がある。
【0032】
このように、前工程(混練工程及び押出工程)や、加硫工程では、予め定められた条件(混練条件、押出条件及び加硫条件)に基づいて実施されるが、これらの条件は、工場や設備によって微妙に異なる場合がある。
【0033】
上記の特許文献1では、上記の条件のうち、
図4に示した加硫工程での加硫条件(熱履歴)を考慮して、粘弾性体7の加硫後の物性が予測されている。しかしながら、上記の特許文献1では、
図2及び
図3に示した混練工程及び押出工程を含む前工程の条件(混練条件や、押出条件)が考慮されていない。発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、
図2及び
図3に示した前工程での条件の違いが、意外にも、
図4に示した加硫中の物性値に無視できないバラつきを生じさせる傾向があることを知見した。すなわち、たとえ粘弾性体7の配合が同一であっても、前工程での条件が異なると、加硫後の物性値が異なる場合がある。
【0034】
本実施形態の物性予測装置及び物性予測方法では、粘弾性体7の加硫工程の影響(加硫条件)だけでなく、粘弾性体7の前工程の影響(混練条件及び押出条件)も考慮して、加硫された粘弾性体7の物性(本例では、加硫後の物性値)が予測される。
【0035】
予測される加硫後の物性値は、例えば、
図4に示した粘弾性体7や、粘弾性体7を含む製品6(タイヤ6A)の解析の目的に応じて、適宜設定されうる。本実施形態において、加硫後の物性値には、損失正接tanδが含まれる。このような損失正接tanδが予測されることで、例えば、粘弾性体7を含むタイヤ6Aの転がり抵抗性能の評価が可能となる。加硫後の損失正接tanδは、JIS-K6394の規定に準拠し、下記の条件に基づいて、GABO社製動的粘弾性測定装置(イプレクサーシリーズ)で測定された値である。
初期歪:10%
動歪の振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0036】
予測される加硫後の物性値には、ねじり振動を加えたときのトルクTQが含まれてもよい。このようなトルクTQが予測されることで、粘弾性体7を含むタイヤ6Aの耐久性能の評価が可能となる。トルクTQ(加硫後)は、TAインスツルメント社製のARES-G2、又は、JSRトレーディング社製のキュラストメーター7型によって測定された値である。
【0037】
予測される加硫後の物性値には、上記の特許文献1と同様に、例えば、貯蔵弾性率E'、損失弾性率E"、貯蔵せん断弾性率G'、及び、損失せん断弾性率G"等がさらに含まれてもよい。本実施形態では、上記の物性値のうち、損失正接tanδが予測される。
【0038】
本実施形態では、加硫された粘弾性体7の物性の予測に、学習済モデルが用いられる。学習済モデルは、予測対象の粘弾性体7の入力データから、その粘弾性体7の加硫後の物性値を推定するように機械学習させたものである。この入力データには、第1データと、第2データとが含まれる。
【0039】
第1データは、
図4に示した粘弾性体7が加硫時に受けた熱履歴を特定するためのものである。この熱履歴は、上述の加硫条件に含まれており、粘弾性体7の加硫時の反応速度や反応量に影響を与える。したがって、第1データにより、熱履歴(加硫条件)の違いから生じる加硫後の物性値への影響を考慮することが可能となる。第1データの詳細は、後述される。
【0040】
第2データは、
図4に示した粘弾性体7の加硫中の物性の変化を特定するためのものである。上述した発明者らの知見から、加硫中の物性の変化と、
図2及び
図3に示した前工程の条件(混練条件及び押出条件)との間に相関があると考えられる。このような第2データにより、加硫中の物性の変化が特定されることで、前工程の条件の違いから生じる加硫中の物性値への影響や、加硫後の物性値への影響を考慮することが可能となる。第2データの詳細は、後述される。
【0041】
[学習済モデルの作成方法(第1実施形態)]
本実施形態では、物性予測方法の実施に先立って、学習済モデルが作成される。
図5は、本実施形態の学習済モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態において、学習済モデルの作成方法(以下、「作成方法」ということがある。)の各工程は、
図1に示したコンピュータ10によって実行される。したがって、コンピュータ10は、学習済モデルの作成装置12として構成される。
【0042】
[複数の粘弾性体の第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を入力(入力工程)]
本実施形態の作成方法では、先ず、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体7のそれぞれについて、少なくとも、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値が、コンピュータ10に入力される(入力工程S1)。本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値が入力される。これらの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値は、学習済モデルの教師データとして用いられる。
【0043】
本実施形態の入力工程S1では、先ず、
図1に示したプログラム部20に含まれる第1取得部20aが、作業用メモリ18に読み込まれる。第1取得部20aは、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、少なくとも、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を取得するためのプログラムである。この第1取得部20aが、演算部16によって実行されることで、コンピュータ10を、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を取得するための手段として機能させることができる。
【0044】
複数の粘弾性体7は、互いに異なる熱履歴で加硫されていれば、材料(ポリマーや薬品等)の配合が同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。本実施形態では、同一配合、かつ、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体7が用いられる。また、複数の粘弾性体7の合計数は、特に限定されないが、学習済モデルの精度向上と、学習コストの低減との観点から、例えば、30~100個が好ましい。
【0045】
[複数の粘弾性体の熱履歴を特定する第1データを入力]
図6は、本実施形態の入力工程S1の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態の入力工程S1では、先ず、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データが入力される(工程S11)。
【0046】
図7は、熱履歴25を示すグラフである。
図7では、一つの粘弾性体7の熱履歴25が代表して示されている。熱履歴25は、粘弾性体7の温度と加硫時間との関係を示す温度曲線(加硫温度曲線)26で特定される。本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、各粘弾性体7の加硫時の温度が予め定められた時間間隔で測定されることで、熱履歴25(温度曲線26)が取得されうる。粘弾性体7の温度は、例えば、
図4に示した粘弾性体7の内部に埋め込まれた複数の熱電対(図示省略)によって測定されうる。また、粘弾性体7の温度は、汎用の有限要素解析アプリケーションソフト(LSTC社製の LS-DYNA等)を用いた熱伝導計算によって取得されてもよい。複数の粘弾性体7の熱履歴は、本実施形態の作成方法の実施に先立って、
図1に示したコンピュータ10(本例では、データ部19の第3入力部23)に記憶されているのが好ましい。
【0047】
温度曲線26は、第1温度曲線26Aと、第2温度曲線26Bと、第3温度曲線26Cとに区分される。第1温度曲線26Aは、
図4に示した粘弾性体7の加硫を開始してから粘弾性体7の温度を上昇させる時間帯である昇温時T1において、粘弾性体7の温度の変化を示している。第2温度曲線26Bは、昇温時T1の後に粘弾性体7の温度を維持する時間帯である加熱時T2において、粘弾性体7の温度の変化を示している。第3温度曲線26Cは、加熱時T2の後から粘弾性体7を金型5から取り出されるまでの時間帯である放熱時T3において、粘弾性体7の温度の変化を示している。
【0048】
本実施形態の工程S11では、先ず、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫時に受けた熱履歴25(
図7に示す)を特定する第1データが取得される。第1データは、熱履歴25を特定できれば、特に限定されない。本実施形態の第1データは、温度曲線26にフィッティング可能な予め定められた関数に基づいて特定される。このような関数に基づいて、第1データが特定されることで、時々刻々と変化する熱履歴25(温度曲線26)が、一意に特定されうる。
【0049】
関数は、温度曲線26にフィッティングできれば、特に限定されるわけではなく、例えば、上記の特許文献1に記載の式(1)~(2)が用いられてもよい。本実施形態の関数は、下記の式(1)~(3)で定義される。
【数1】
ここで、
q(t):加硫時間tの粘弾性体の温度
q0:粘弾性体の初期温度
t:加硫時間
a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2:定数
【0050】
上記の式(1)は、
図7に示した昇温時T1の第1温度曲線26Aにフィッティングさせるためのものである。上記の式(2)は、加熱時T2の第2温度曲線26Bにフィッティングさせるためのものである。上記の式(3)は、放熱時T3の第3温度曲線26Cにフィッティングさせるためのものである。定数a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2は、フィッティングパラメータである。上記の式(1)~(3)を用いたフィッティングは、例えば、粒子群最適化(PSO(Particle Swarm Optimization))に基づいて、容易に実施されうる。
【0051】
本実施形態では、温度曲線26のフィッティングに、上記の3つの式(1)~(3)が用いられるため、2つの式でフィッティングさせる上記の特許文献1に比べると、より適切なフィッティングが可能となる。
【0052】
本実施形態では、上記の式(1)~(3)を用いたフィッティングにより、定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2が決定される。これらの定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2により、第1温度曲線26A、第2温度曲線26B及び第3温度曲線26Cを含む全ての温度曲線26(熱履歴25)が特定されうる。したがって、熱履歴25を特定する第1データは、定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2の少なくとも1つが含まれるのが好ましい。なお、昇温時T1、加熱時T2及び放熱時T3の全ての温度曲線26(熱履歴25)を適切に特定するために、これらの定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2の全てが、第1データとして決定されるのが好ましい。
【0053】
第1データには、粘弾性体7の加硫前の温度(初期温度)や、金型5から取り出される直前の粘弾性体7の温度(金型開時温度)がさらに含まれてもよい。これらの初期温度と、金型開時温度とが含まれることで、熱履歴25がより適切に特定されうる。
【0054】
本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、第1データ(定数a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2と、初期温度と、金型開時温度とを含む)が特定される。第1データは、
図1に示した第1入力部21(コンピュータ10)に記憶される。
【0055】
[複数の粘弾性体7の加硫中の物性の変化を特定する第2データを入力]
次に、本実施形態の入力工程S1では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫中の物性の変化を特定する第2データが入力される(工程S12)。加硫中の物性の変化は、適宜特定されうる。本実施形態では、粘弾性体7の加硫中の物性と加硫時間との関係を示す曲線から、加硫中の物性の変化が特定される。
【0056】
物性は、加硫中に変化するものであれば、適宜選択される。本実施形態のように、粘弾性体の加硫後の物性値として、損失正接tanδが予測される場合には、加硫中に変化する物性として、損失正接tanδが含まれるのが好ましい。また、加硫後の物性値として、ねじり振動を加えたときのトルクTQが予測される場合には、加硫中に変化する物性として、ねじり振動を加えたときのトルクTQが含まれてもよい。
【0057】
本実施形態の工程S12では、先ず、複数の粘弾性体7と同一配合の試験片がそれぞれ作成される。次に、工程S12では、各試験片について、JISK6300-2に記載されている振動式加硫試験機(JSR社製のキュラストメータ)又はゴム加工試験機(RPA)を用いた試験が実施される。本実施形態では、上述の加硫条件等を考慮して設定された温度(例えば、140~180℃)及び時間(15~25分)に基づいて、試験が実施される。これにより、複数の粘弾性体7について、加硫中の物性の変化(加硫中の物性と加硫時間との関係を示す曲線)がそれぞれ取得されうる。
【0058】
本実施形態では、工場や設備によって微妙に異なる前工程(
図2及び
図3に示す)の条件(混練条件及び押出条件)を考慮するために、これらの異なる条件(混練条件及び押出条件)で混練及び押し出された粘弾性体7が用意される。混練条件としては、例えば、材料の充填率や、ロータの回転数などが挙げられる。押出条件としては、例えば、押出流速や、押出金型形状などが挙げられる。そして、これらの粘弾性体7の試験片が作成され、上記の試験が実施される。これにより、前工程の条件違いから生じる加硫中の物性の変化が取得されうる。複数の粘弾性体7の加硫中の物性の変化は、本実施形態の作成方法の実施に先立って、
図1に示したコンピュータ(本例では、データ部19の第3入力部23)に記憶されているのが好ましい。
【0059】
図8は、加硫中の物性変化を示すグラフである。
図8では、一つの粘弾性体7の熱履歴25が代表して示されている。
図8では、粘弾性体7の加硫中の物性(本例では、損失正接tanδ及びねじり振動を加えたときのトルクTQ)と、加硫時間との関係を示す曲線27が示されている。本実施形態の曲線27には、損失正接を示す第1曲線27Aと、トルクTQを示す第2曲線27Bとが含まれる。これらの曲線27A、27Bにより、加硫時間の経過とともに変化する粘弾性体7の物性を把握することが可能となる。
【0060】
第2データは、粘弾性体7の加硫中の物性の変化を特定できれば、特に限定されない。加硫中の物性として損失正接tanδが取得された場合、第2データには、損失正接の最小値tanδmin、及び/又は、加硫戻りによる損失正接の増加分Δtanδが含まれるのが好ましい。この最小値tanδminによって、加硫中の損失正接tanδの最適値が特定されうる。また、増加分Δtanδによって、過加硫による損失正接tanδの悪化分が特定されうる。さらに、第2データには、損失正接の増加分Δtanδと最小値tanδminとの比(Δtanδ/tanδmin)が含まれてもよい。この比(Δtanδ/tanδmin)よって、過加硫による損失正接tanδの悪化率が特定されうる。これらの第2データが特定されることで、粘弾性体7の加硫中の物性(損失正接tanδ)の変化が特定されうる。
【0061】
加硫中の物性としてトルクTQが取得された場合、第2データには、ねじり振動を加えたときのトルクの最大値TQmax、及び/又は、加硫戻りによるトルクの減少分ΔTQを含むのが好ましい。この最大値TQmaxによって、加硫中のトルクTQの最適値が特定されうる。また、減少分ΔTQによって、過加硫によるトルクTQの悪化分が特定されうる。さらに、第2データには、トルクの減少分ΔTQと最大値TQmaxとの比(ΔTQ/TQmax)が含まれてもよい。この比(ΔTQ/TQmax)によって、過加硫によるトルクTQの悪化率が特定されうる。これらの第2データが特定されることで、粘弾性体7の加硫中の物性(トルクTQ)の変化が特定されうる。
【0062】
本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、損失正接の最小値tanδ
min、増加分Δtanδ及び比(Δtanδ/tanδ
min)と、トルクの最大値TQ
max、減少分ΔTQ及び比(ΔTQ/TQ
max)とが、第2データとして特定される。これにより、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫中の物性(損失正接tanδ及びトルクTQ)の変化が特定されうる。第2データは、
図1に示した第1入力部21(コンピュータ10)に記憶される。
【0063】
[複数の粘弾性体7の加硫後の物性値を入力]
次に、本実施形態の入力工程S1では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫後の物性値が入力される(工程S13)。加硫後の物性値には、学習済モデルを用いて推定(予測)される加硫後の物性値と同一のものが採用されうる。上述したように、本実施形態では、加硫後の物性値として、損失正接tanδが予測される。したがって、工程S13では、複数の粘弾性体7のそれぞれの損失正接tanδが入力される。なお、加硫後の物性値として、ねじり振動を加えたときのトルクTQが予測される場合には、複数の粘弾性体のそれぞれのトルクTQが入力されうる。損失正接tanδ及びトルクTQの測定方法は、上述のとおりである。
【0064】
また、加硫後の物性値として、貯蔵弾性率E'や、損失弾性率E"等が予測される場合には、複数の粘弾性体のそれぞれの貯蔵弾性率E'や、損失弾性率E"等が入力される。これらの物性値は、上記の特許文献1に記載されている方法に基づいて測定されうる。
【0065】
本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれについて、加硫後の物性値(本例では、損失正接tanδ)が取得される。取得された加硫後の物性値は、
図1に示した第1入力部21(コンピュータ10)に記憶される。
【0066】
[学習済モデルを作成]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ10(
図1に示す)が、少なくとも、複数の粘弾性体7のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて機械学習させた学習済モデルを作成する(工程S2)。学習済モデルは、予測対象の粘弾性体7について、少なくとも第1データ及び第2データから、加硫後の物性値を推定するためのものである。本実施形態では、複数の粘弾性体7のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて、学習済モデルが作成される。
【0067】
本実施形態の工程S2では、先ず、
図1に示した第1入力部21に入力された複数の粘弾性体7のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値が、作業用メモリ18に読み込まれる。次に、プログラム部20に含まれる学習済モデル作成部20eが、作業用メモリ18に読み込まれる。学習済モデル作成部20eは、複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いた機械学習により、学習済モデルを作成するためのプログラムである。この学習済モデル作成部20eが、演算部16によって実行されることで、コンピュータ10を、学習済モデルを作成するための手段として機能させることができる。
【0068】
学習済モデルは、加硫後の物性値を特定できれば、適宜作成されうる。
図9は、学習済モデル30の一例を示す図である。
【0069】
本実施形態の学習済モデル30は、動径基底関数(RBF:Radial Basis Function)に基づいて定義されるニューラルネットワークとして構成される。この学習済モデル(RBFネットワーク)30は、入力層31と、出力層32と、中間層33とを含んで構成されており、ガウス関数を重ね合わせていくことで表現される近似応答曲面として定義される。
【0070】
本実施形態の入力層31には、第1データと、第2データとが入力可能に設定されうる。本実施形態の第1データは、定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2と、初期温度と、金型開時温度とが含まれる。本実施形態の第2データには、損失正接の最小値tanδmin、増加分Δtanδ及び比(Δtanδ/tanδmin)と、トルクの最大値TQmax、減少分ΔTQ及び比(ΔTQ/TQmax)とが含まれる。したがって、入力層31には、合計16種類のデータが入力されうる。
【0071】
本実施形態の出力層32は、加硫後の物性値(本実施形態では、損失正接tanδ)が出力可能に設定される。中間層33は、基底関数(ガウス関数)であり、機械学習によって生成される。
【0072】
工程S2では、入力に対する出力と、真の出力(教師データ)との差分を小さくするように、中間層33の基底関数が調整(学習)される。本実施形態において、入力には、複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ及び第2データが用いられる。これにより、これらの入力に対して推定された加硫後の物性値がそれぞれ出力(推定)される。真の出力には、複数の粘弾性体のそれぞれの加硫後の物性値が用いられる。そして、出力(推定)された加硫後の物性値と、実際の加硫後の物性値(真の出力)との差分が小さくなるように、中間層33の基底関数が調整される。学習法には、例えば、勾配法等が用いられる。これにより、予測対象の粘弾性体について、第1データ及び第2データから、加硫後の物性値を推定可能な学習済モデル(近似応答関数)30が作成される。
【0073】
学習済モデル(近似応答関数)30は、RBFネットワークとして構成されることで、入力と出力とが非常に非線形の強い関係であっても、精度良く表現することが可能である。また、学習済モデル30は、教師データ(第1データ、第2データ、及び、加硫後の物性値)に、異常データが含まれていても、ガウス関数の重ね合わせが最小二乗法で行われるため、異常データに振り回されずに応答関数が生成されうる。さらに、学習済モデル30では、通常のニューラルネットワークとは異なり、バックプロパゲーションを必要としないため、計算コストをより小さく抑えることができる。
【0074】
学習済モデル(近似応答関数)30は、例えば、第1データや第2データに含まれていない未知の粘弾性体7の加硫後の物性値を、第1データ及び第2データに含まれる既知の粘弾性体7の加硫後の物性値を用いて補完して予測しうる。したがって、このような学習済モデル30を予め構築しておくことにより、粘弾性体7を実際に製造しなくても、粘弾性体7の加硫後の物性値を予測することが可能となる。
【0075】
学習済モデル30は、例えば、市販のコンピュータソフトウエア(例えば、The MathWorks 社製のMATLABや、ESTECO社製のmodeFRONTIER 等)を用いることによって構築することができる。
【0076】
本実施形態の学習済モデル30は、複数の粘弾性体7が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、加硫中の物性の変化を特定する第2データとを用いて機械学習されている。上述したように、第1データで特定される熱履歴は、
図4に示した加硫工程での加硫条件に含まれている。第2データで特定される加硫中の物性の変化は、
図2及び
図3に示した前工程の条件(混練条件及び押出条件)と相関がある。したがって、学習済モデル30は、加硫工程での加硫条件の違いだけでなく、前工程での条件の違いから生じる加硫中の物性値への影響を考慮して、粘弾性体7の物性値を推定することが可能となる。学習済モデル30は、
図1に示した学習済モデル記憶部19c(コンピュータ10)に記憶される。
【0077】
本実施形態の作成方法では、特許文献1と同様に、ブラインドテストが実施されることで、学習済モデル30の精度が評価されてもよい。そして、精度が良好でない場合には、複数の粘弾性体7とは異なる熱履歴で加硫された新たな粘弾性体7について、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を追加して、学習済モデル30が再作成されるのが好ましい。これにより、予測対象の粘弾性体7の加硫後の物性値を高い精度で推定可能な学習済モデル30が作成されうる。
【0078】
[粘弾性体の物性予測方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態の物性予測方法が説明される。物性予測方法では、予測対象の粘弾性体7について、加硫後の物性値が推定される。
【0079】
本実施形態において、予測対象の粘弾性体7には、
図9に示した学習済モデル30の作成に用いられた複数の粘弾性体のそれぞれとは異なる熱履歴で加硫された粘弾性体が採用されうる。なお、本実施形態の学習済モデル30は、同一配合の複数の粘弾性体7の第1データ等を用いて学習されている。このため、複数の粘弾性体7と同一配合の粘弾性体7が予測対象とされることで、その加硫後の物性値が高い精度で推定されうる。
【0080】
図10は、本実施形態の粘弾性体の物性予測方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態において、物性予測方法の各工程は、
図1に示した物性予測装置11(コンピュータ10)によって実行される。
【0081】
[粘弾性体の入力データを入力]
本実施形態の物性予測方法では、先ず、少なくとも、粘弾性体の第1データと第2データと含む入力データが、コンピュータ10に入力される(工程S3)。本実施形態の入力データは、第1データと第2データとで構成される。第1データは、予測対象の粘弾性体7が加硫時に受けた熱履歴を特定するためのものであり、その詳細については、上述のとおりである。第2データは、予測対象の粘弾性体7の加硫中の物性の変化を特定するためのものであり、その詳細については、上述のとおりである。
【0082】
本実施形態の工程S3では、先ず、
図1に示したプログラム部20に含まれる第2取得部20bが、作業用メモリ18に読み込まれる。第2取得部20bは、予測対象の粘弾性体について、少なくとも第1データと第2データと含む入力データを取得するためのプログラムである。この第2取得部20bが、演算部16によって実行されることで、コンピュータ10を、入力データを取得するための手段として機能させることができる。
【0083】
予測対象の粘弾性体の第1データは、適宜取得されうる。本実施形態では、先ず、予測対象の粘弾性体7の製造が予定されている工場や設備等に基づいて、予測対象の粘弾性体7に予定される温度曲線(加硫温度曲線)26(
図7に示す)が特定される。したがって、本実施形態では、予測対象の粘弾性体7を実際に加硫することなく、第1データが取得されうる。
【0084】
次に、特定された温度曲線26にフィッティング可能な関数に基づいて、第1データが取得される。関数は、上記の式(1)~(3)が用いられる。そして、フィッティングにより特定された定数a、a1、a2、a3、k0、k1、t1及びt2と、初期温度と、金型開時温度とが、第1データとして取得される。
【0085】
予測対象の粘弾性体の第2データは、適宜取得されうる。本実施形態では、予測対象の粘弾性体7の製造が予定される工場や設備等に基づいて、予測対象の粘弾性体7の加硫中の物性の変化(加硫中の物性と加硫時間との関係を示す曲線)が特定される。加硫中の物性の変化の特定は、上述の振動式加硫試験機等を用いた試験を実施して取得されてもよいし、複数の粘弾性体7のそれぞれの第2データを用いて特定されてもよい。
【0086】
次に、加硫中の物性変化に基づいて、損失正接の最小値tanδmin、増加分Δtanδ及び比(Δtanδ/tanδmin)と、トルクの最大値TQmax、減少分ΔTQ及び比(ΔTQ/TQmax)とが特定される。これらの特定された値が、第2データとして取得される。
【0087】
このように、本実施形態の工程S3では、予測対象の粘弾性体7の製造が予定される工場や設備等に基づいて、その粘弾性体の第1データ及び第2データが取得される。取得された第1データと第2データと含む入力データは、
図1に示した第2入力部22(コンピュータ10)に記憶される。
【0088】
[粘弾性体の加硫後の物性値を予測(予測工程)]
次に、本実施形態の物性予測方法では、コンピュータ10が、粘弾性体の第1データと第2データとを含む入力データに基づいて、粘弾性体7の加硫後の物性値を予測する(予測工程S4)。本実施形態の予測工程では、加硫後の物性値の予測に、
図9に示した学習済モデル30が用いられる。
【0089】
本実施形態の予測工程S4では、先ず、
図1に示した第2入力部22に入力された予測対象の粘弾性体7の入力データが、作業用メモリ18に読み込まれる。次に、プログラム部20に含まれる予測部20cが、作業用メモリ18に読み込まれる。予測部20cは、入力データに基づいて、粘弾性体7の加硫後の物性値を予測するためのプログラムである。この予測部20cが、演算部16によって実行されることで、コンピュータ10を、物性値を予測するための手段として機能させることができる。
図11は、本実施形態の予測工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0090】
[学習済モデルを入力]
本実施形態の予測工程S4では、先ず、
図9に示した学習済モデル30が、
図1に示したコンピュータ10に入力される(工程S41)。本実施形態のように、物性予測方法の実施に先立ち、学習済モデル30が作成されている場合には、
図1に示した学習済モデル記憶部19cに入力されている学習済モデル30が用いられる。一方、学習済モデルが作成されていない場合には、
図5及び
図6に示した学習モデルの作成方法の処理手順に基づいて、学習済モデル30が作成される。これにより、物性値を予測するための手段として機能するコンピュータ10(予測部20c)には、学習済モデル30が含まれる。
【0091】
[加硫後の物性を推定]
次に、本実施形態の予測工程S4では、
図1に示したコンピュータ10が、
図9に示した学習済モデル30に入力データを入力して、加硫後の物性値を推定する(工程S42)。本実施形態の工程S42では、予測対象の粘弾性体7の第1データと第2データとを含む入力データが、学習済モデル30に代入される。これにより、予測対象の粘弾性体7の加硫後の物性値が計算(出力)されうる。
【0092】
上述したように、本実施形態の学習済モデル30は、粘弾性体7が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、加硫中の物性の変化を特定する第2データとを用いて機械学習されている。これにより、工程S42では、加硫工程の影響だけでなく、前工程の影響を考慮して、粘弾性体7の物性値が推定されうる。推定された加硫後の物性値は、
図1に示した物性値記憶部19b(コンピュータ10)に入力される。
【0093】
[予測された加硫後の物性値を出力]
次に、本実施形態の物性予測方法では、コンピュータ10が、予測された物性値を出力する(工程S5)。本実施形態の工程S5では、先ず、
図1に示した物性値記憶部19bに入力された加硫後の物性値が、作業用メモリ18に読み込まれる。次に、工程S5では、プログラム部20に含まれる出力部20dが、作業用メモリ18に読み込まれる。出力部20dは、予測された物性値を出力するためのプログラムである。この出力部20dが、演算部16によって実行されることで、コンピュータ10を、予測された物性値を出力するための手段として機能させることができる。
【0094】
予測された加硫後の物性値は、適宜出力されうる。本実施形態の物性値は、
図1に示した表示装置14に表示されるが、図示しないプリンタ等に印刷されてもよい。これにより、予測された物性値を、オペレータ等に知らせることが可能となる。
【0095】
[予測された加硫後の物性値を評価]
次に、本実施形態の物性予測方法では、予測された加硫後の物性値が、良好か否かが評価される(工程S6)。本実施形態では、加硫後の物性値が予め定められた基準を満たしている場合に、良好であると評価される。基準は、例えば、粘弾性体7を含む製品6(タイヤ6A)に求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。また、工程S6では、
図1に示したコンピュータ10によって物性値が評価されてもよいし、オペレータ(図示省略)によって物性値が評価されてもよい。
【0096】
工程S6において、予測された加硫後の物性値が良好である場合(工程S6で「Yes」)、工程S3で入力された入力データ(本例では、第1データ及び第2データ)に基づいて、粘弾性体7(製品6)が製造される(工程S7)。一方、予測された加硫後の物性値が良好でない場合には(工程S6で「No」)、入力データの少なくとも一部が変更されて(工程S8)、予測工程S4~工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態の物性予測方法では、基準を満たす物性値を有する粘弾性体7(製品6)を製造することが可能となる。
【0097】
[学習済モデルの作成方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の作成方法では、
図9に示した学習済モデル30の作成に、同一配合の複数の粘弾性体7の第1データ、第2データ及び加硫後の物性値が用いられたが、このような態様に限定されない。例えば、配合が互いに異なる複数の粘弾性体7の第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて、学習済モデル30が作成されてもよい。これは、前工程の条件(混練条件及び押出条件)の違いだけでなく、配合の違いについても、第2データで特定される加硫中の物性値に影響するとの知見に基づいている。したがって、この実施形態の作成方法では、
図5と同様の手順に基づき、複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて、学習済モデル30が作成される。
【0098】
[粘弾性体の物性予測方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態の物性予測方法では、複数の粘弾性体7と同一配合の粘弾性体7が予測対象とされたが、このような態様に限定されない。例えば、配合が異なる複数の粘弾性体7の第1データ等を用いて作成された学習済モデル30が用いられる場合には、複数の粘弾性体7とは異なる配合の粘弾性体7が予測対象とされてもよい。この場合、前工程の影響や、配合の影響を考慮して、粘弾性体7の物性が予測されうる。
【0099】
[学習済モデルの作成方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態の学習済モデル30は、複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値が用いられて機械学習されたが、このような態様に限定されない。学習済モデル30は、例えば、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値に加えて、さらに第3データを用いて、機械学習されていてもよい。
【0100】
第3データは、加硫前の混練条件を特定するためのものである。混練条件は、例えば、
図3に示したロータ2bの回転数や、混練後の材料7Aの排出温度が含まれる。このような混練条件を特定する第3データが機械学習に用いられることで、第2データで間接的に考慮されていた混練条件の違いを、直接的に考慮して、加硫後の物性値を推定可能な学習済モデル30が作成されうる。
【0101】
この実施形態の作成方法では、
図5に示した入力工程S1において、複数の粘弾性体のそれぞれの第3データ(本例では、ロータ2bの回転数、及び、混練後の材料の排出温度を含む)がさらに入力される。この実施形態では、
図1に示した第1取得部20aが、演算部16によって実行されることで、これらの第3データが取得されうる。取得された第3データは、
図1に示した第1入力部21(コンピュータ10)に記憶される。
【0102】
次に、この実施形態の作成方法では、
図5に示した工程S2において、複数の粘弾性体7のそれぞれの第1データ、第2データ、第3データ及び加硫後の物性値を用いて、学習済モデル30が作成される。この実施形態では、
図1に示した学習済モデル作成部20eが演算部16によって実行されることで、学習済モデル30が作成される。
【0103】
図9に示した学習済モデル30において、入力層31には、第1データ、第2データ及び第3データが設定される。これにより、予測対象の粘弾性体について、第1データ、第2データ及び第3データから、加硫後の物性値を推定可能な学習済モデル(近似応答関数)30が作成される。
【0104】
この実施形態の学習済モデル30は、これまでの実施機形態の学習済モデル30に比べると、混練条件の違いから生じる加硫中の物性値への影響を直接的に考慮して、粘弾性体7の物性値を推定することが可能となる。学習済モデル30は、
図1に示した学習済モデル記憶部19c(コンピュータ10)に記憶される。
【0105】
[粘弾性体の物性予測方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、少なくとも第1データ及び第2データを含む入力データに基づいて、粘弾性体の加硫後の物性値が予測されたが、このような態様に限定されない。例えば、入力データに、粘弾性体7の加硫前の混練条件を特定する第3データがさらに含まれていてもよい。この場合、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値に加えて、さらに第3データを用いて機械学習された学習済モデル30が用いられる。
【0106】
この実施形態の物性予測方法では、
図10に示した工程S3において、粘弾性体の第1データ及び第2データに加えて、第3データ(ロータ2bの回転数、及び、混練後の材料の排出温度を含む)を含む入力データが、コンピュータ10(
図1に示す)に入力される。この実施形態では、
図1に示した第2取得部20bが、演算部16によって実行されることで、第3データが取得される。取得された第3データは、
図1に示した第2入力部22(コンピュータ10)に記憶される。
【0107】
次に、この実施形態の物性予測方法では、
図10に示した予測工程S4において、粘弾性体の第1データ、第2データ及び第3データを含む入力データに基づいて、粘弾性体の加硫後の物性値が予測される。この実施形態では、
図1に示した予測部20cが、演算部16によって実行されることで、加硫後の物性値が予測される。
【0108】
この実施形態の予測工程S4では、第1データ、第2データ、第3データ及び加硫後の物性値を用いて機械学習された学習済モデル30に、予測対象の粘弾性体7の第1データ、第2データ及び第3データを含む入力データが入力される。これにより、この実施形態の予測工程S4では、これまでの実施形態に比べると、混練条件の違いから生じる加硫中の物性値への影響を直接的に考慮して、予測対象の粘弾性体7の加硫後の物性値が推定されうる。推定された加硫後の物性値は、
図1に示した物性値記憶部19b(コンピュータ10)に入力される。
【0109】
[学習済モデルの作成方法(第4実施形態)]
これまでの実施形態の学習済モデル30では、複数の粘弾性体のそれぞれの第1データ、第2データ及び加硫後の物性値を用いて機械学習される態様や、さらに、第3データを用いて機械学習される態様が例示されたが、このような態様に限定されない。学習済モデル30は、例えば、さらに、第4データを用いて機械学習されていてもよい。
【0110】
第4データは、粘弾性体7の配合を特定するためのものである。この第4データには、上記の特許文献1と同様に、粘弾性体7を構成する材料(ポリマーや薬品等)の配合割合が含まれる。このような配合割合を特定する第4データが機械学習に用いられることで、第2データで間接的に考慮されうる配合の違いを、直接的に考慮して、加硫後の物性値を推定可能な学習済モデル30が作成されうる。
【0111】
この実施形態の作成方法では、
図5に示した入力工程S1において、複数の粘弾性体のそれぞれの第4データ(本例では、材料の配合割合を含む)がさらに入力される。この実施形態では、第4データにより、配合違いを考慮することができる。このため、複数の粘弾性体7は、配合が異なっているのが好ましい。
【0112】
この実施形態では、
図1に示した第1取得部20aが、演算部16によって実行されることで、これらの第4データが取得される。取得された第4データは、
図1に示した第1入力部21(コンピュータ10)に記憶される。
【0113】
次に、この実施形態の作成方法では、
図5に示した工程S2において、複数の粘弾性体7のそれぞれの第1データ、第2データ、第4データ及び加硫後の物性値を用いて、学習済モデル30が作成される。この実施形態では、
図1に示した学習済モデル作成部20eが演算部16によって実行されることで、学習済モデル30が作成される。
【0114】
この実施形態の学習済モデル30は、これまでの実施機形態の学習済モデル30に比べると、配合の違いから生じる加硫中の物性値への影響を直接的に考慮して、粘弾性体7の物性値を推定することが可能となる。学習済モデル30は、
図1に示した学習済モデル記憶部19c(コンピュータ10)に記憶される。
【0115】
[粘弾性体の物性予測方法(第4実施形態)]
これまでの実施形態では、少なくとも第1データ及び第2データを含む入力データに基づいて、粘弾性体の加硫後の物性値が予測されたが、このような態様に限定されない。例えば、入力データに、粘弾性体7の配合を特定する第4データがさらに含まれていてもよい。この場合、第1データ、第2データ及び加硫後の物性値に加えて、さらに第4データを用いて機械学習された学習済モデル30が用いられる。
【0116】
この実施形態の物性予測方法では、
図10に示した工程S3において、粘弾性体の第1データ及び第2データに加えて、第4データ(本例では、粘弾性体7の配合を含む)を含む入力データが、コンピュータ10(
図1に示す)に入力される。この実施形態では、
図1に示した第2取得部20bが、演算部16によって実行されることで、第4データが取得される。取得された第4データは、
図1に示した第2入力部22(コンピュータ10)に記憶される。
【0117】
次に、この実施形態の物性予測方法では、
図10に示した予測工程S4において、粘弾性体の第1データ、第2データ及び第4データを含む入力データに基づいて、粘弾性体の加硫後の物性値が予測される。この実施形態では、
図1に示した予測部20cが、演算部16によって実行されることで、加硫後の物性値が予測される。
【0118】
この実施形態の予測工程S4では、第1データ、第2データ、第4データ及び加硫後の物性値を用いて機械学習された学習済モデル30に、予測対象の粘弾性体7の第1データ、第2データ及び第4データを含む入力データが入力される。これにより、この実施形態の予測工程S4では、これまでの実施形態に比べると、配合の違いから生じる加硫中の物性値への影響を直接的に考慮して、粘弾性体7の物性値が推定されうる。推定された加硫後の物性値は、
図1に示した物性値記憶部19b(コンピュータ10)に入力される。
【0119】
この実施形態の入力データには、第1データ、第2データ、第4データ及び加硫後の物性値が含まれたが、このような態様に限定されない。入力データには、例えば、上述の第3データがさらに含まれていてもよい。この場合、学習済モデル30は、さらに、複数の粘弾性体のそれぞれの第3データを用いて機械学習されているのが好ましい。これにより、配合の違いから生じる加硫中の物性値への影響だけでなく、混練条件の違いから生じる加硫中の物性値への影響を直接的に考慮して、予測対象の粘弾性体7の加硫後の物性値が推定されうる。
【0120】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0121】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0122】
[本発明1]
加硫された粘弾性体の物性を予測するための物性予測装置であって、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データが入力される入力部と、
前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測するための予測部と、
前記予測された物性値を出力するための出力部と、を含み、
前記予測部は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む、
粘弾性体の物性予測装置。
[本発明2]
前記物性値は、損失正接を含む、本発明1に記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明3]
前記物性値は、ねじり振動を加えたときのトルクを含む、本発明1に記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明4]
前記第1データは、前記粘弾性体の温度と加硫時間との関係を示す温度曲線に、フィッティング可能な予め定められた関数に基づいて特定される、本発明1ないし3のいずれかに記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明5]
前記関数は、下記の式(1)~(3)で定義され、
前記第1データは、定数a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2の少なくとも1つを含む、本発明4に記載の粘弾性体の物性予測装置。
【数1】
ここで、
q(t):加硫時間tの粘弾性体の温度
q0:粘弾性体の初期温度
t:加硫時間
a、a
1、a
2、a
3、k
0、k
1、t
1及びt
2:定数
[本発明6]
前記第2データは、損失正接の最小値、及び/又は、加硫戻りによる前記損失正接の増加分を含む、本発明1ないし5のいずれかに記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明7]
前記第2データは、ねじり振動を加えたときのトルクの最大値、及び/又は、加硫戻りによる前記トルクの減少分を含む、本発明1ないし6のいずれかに記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明8]
前記入力データは、前記粘弾性体の加硫前の混練条件を特定する第3データをさらに含み、
前記学習済モデルは、さらに、前記複数の粘弾性体のそれぞれの前記第3データを用いて機械学習されている、本発明1ないし7のいずれかに記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明9]
前記入力データは、前記粘弾性体の配合を特定する第4データをさらに含み、
前記学習済モデルは、さらに、前記配合が異なる複数の粘弾性体のそれぞれの前記第4データを用いて機械学習されている、本発明1ないし8のいずれかに記載の粘弾性体の物性予測装置。
[本発明10]
加硫された粘弾性体の物性を予測するための方法であって、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データと含む入力データを、コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測する工程と、
前記コンピュータが、前記予測された物性値を出力する工程とを含み、
前記物性値を予測する工程は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを、前記コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記学習済モデルに、前記入力データを入力して、前記加硫後の物性値を推定する工程とを含む、
粘弾性体の物性予測方法。
[本発明11]
加硫された粘弾性体の物性を予測するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
少なくとも、前記粘弾性体が加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データと、前記粘弾性体の加硫中の物性の変化を特定する第2データとを含む入力データを入力する手段と、
前記入力データに基づいて、前記粘弾性体の加硫後の物性値を予測する手段と、
前記予測された物性値を出力する手段として機能させ、
前記物性値を予測する手段は、少なくとも、互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記入力データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを含む、
コンピュータプログラム。
[本発明12]
加硫された粘弾性体の物性を予測するための学習済モデルの作成方法であって、
互いに異なる熱履歴で加硫された複数の粘弾性体のそれぞれについて、少なくとも、加硫時に受けた熱履歴を特定する第1データ、加硫中の物性の変化を特定する第2データ、及び、加硫後の物性値を、コンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、少なくとも、前記複数の粘弾性体のそれぞれの前記第1データ、前記第2データ及び前記加硫後の物性値を用いて、前記粘弾性体の少なくとも前記第1データ及び前記第2データから、前記加硫後の物性値を推定するように機械学習させた学習済モデルを作成する工程とを含む、
学習済モデルの作成方法。
【符号の説明】
【0123】
19a 入力部
20c 予測部
20d 出力部