(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139391
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】鋳片およびその連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241002BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20241002BHJP
B22D 11/22 20060101ALI20241002BHJP
B22D 11/124 20060101ALI20241002BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20241002BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
B22D11/00 A
B22D11/22 B
B22D11/124 L
C22C38/58
C21D9/00 101W
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050304
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】高屋 慎
(72)【発明者】
【氏名】廣角 太朗
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭平
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MC02
4E004MC22
4E004NA01
4E004NB01
4E004NC01
4E004SC04
4E004SD01
4E004SE01
4E004TB02
(57)【要約】
【課題】Alを0.2質量%以上含有する高Al鋼の鋳片であって、耐割れ感受性に優れた鋳片およびその連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】[Zr]、[Hf]、[Y]、[Al]、[N]をそれぞれ鋳片での含有量(質量%)とした場合に、[Zr]+91/178×[Hf]+91/89×[Y]≧4/3×[Al]×[N]の条件と、[Hf]+[Y]≧0.001%の条件とを満たし、かつ鋳片の表面から深さ方向に5mmの位置における全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率が50%以上とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.02%~0.50%、
Si:0.20%~3.00%、
Mn:0.50%~4.00%、
Al:0.20%~2.00%
N:0.01%以下、
Zr:0%~0.05%、
Hf:0%~0.05%、
Y:0%~0.05%、
Ti:0%~0.002%、
Nb:0%~0.1%、
V:0%~0.1%、
B:0%~0.005%、
Cr:0%~0.1%、
Ni:0%~0.5%、及び
Cu:0%~0.5%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる鋳片であって、
Zr、Hf、Yの含有量が以下の(1)式及び(2)式を満たし、
前記鋳片の表面から深さ方向に5mmの位置における全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率が50%以上であることを特徴とする鋳片。
[Zr]+91/178×[Hf]+91/89×[Y]≧4/3×[Al]×[N] ・・・(1)
[Hf]+[Y]≧0.001% ・・・(2)
ここで、[Zr]、[Hf]、[Y]、[Al]、[N]はそれぞれ前記鋳片での含有量(質量%)を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳片の連続鋳造方法であって、
前記鋳片の曲げ及び矯正を行う際に、表面温度が800℃~1000℃の範囲で曲げ及び矯正を行うことを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記鋳片の表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることを特徴とする請求項2に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、Alを多量に含む鋳片およびその連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高強度鉄鋼材料として、機械特性を向上させるためにAlを多量含有した合金鋼が多く製造されている。しかしながら、Alを多く添加するほど、連続鋳造において鋳片の表層に横ひび割れが生じやすくなり、操業上および製品の品質上の問題となっている。
【0003】
湾曲型または垂直曲げ型の連続鋳造機中の矯正点では、矯正応力が鋳片に付与される。横ひび割れは、鋳片表層の旧オーステナイト粒界に沿って発生することが知られており、AlNやNbC等の析出により脆化したオーステナイト粒界や、旧オーステナイト粒界に沿って生成するフィルム状フェライトに矯正応力が集中することで横ひび割れが発生する。また、この横ひび割れは、特に、オーステナイトからフェライトへの相変態領域よりも少し高い温度域において発生しやすいが、非変態系組成であっても同様に横ひび割れが発生する。したがって、通常は、矯正点では延性が低下する温度域(脆化温度域)を回避するように鋳片の表面温度を制御し、横ひび割れの発生を抑制する方法が採用されている。
【0004】
しかしながら、鋳片の表面温度を制御して脆化温度域を回避するようにすると、操業上大きな制約を受けるため、困難である場合も多い。そこで特許文献1には、Tiを0.010質量%超0.025質量%以下で添加し、鋳片の凝固シェル厚さが10mm~30mmの二次冷却帯上部における鋳片の表面温度をAlNの析出開始温度以上とする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、機械特性をより向上させるために、Alを0.2質量%以上含有する高Al鋼の製造も行われている。Al濃度が増加すると、AlNがより高温から析出し、脆化温度域が拡大する。したがって、Alを0.2質量%以上含有すると脆化温度域が顕著に拡大するため、脆化温度域を回避して曲げ及び矯正を行うことは操業上ほぼ不可能であり、横ひび割れを回避することができない。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では、Al濃度が0.063質量%~0.093質量%の低炭素アルミニウムキルド鋼を対象としており、Alを0.2質量%以上含有する高Al鋼ではその効果が不明である。
【0008】
本発明は前述の問題点を鑑み、Alを0.2質量%以上含有する高Al鋼の鋳片であって、耐割れ感受性に優れた鋳片およびその連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高Al鋼の鋳片での高温脆化がAlNの多量析出が要因であることに着目し、窒化物の析出制御を検討した。具体的にはAlよりもN固定能力の高いZr、Hf、Yを添加した鋼の高温延性を調査した。その結果、これらの元素の添加によって高温延性が大きく改善することを見出した。Zr、Hf、YはそれぞれZrN、HfN、YNまたはこれらの複合窒化物を生成し、Nを固定化するため、AlNの粒界への多量析出を抑制し、高Al鋼の高温脆化を抜本的に改善できることが分かった。
【0010】
特にHf、YはZrよりも窒素との親和力が高く、窒化物の熱的安定が得られる。そのため、Hf及び/またはYを添加することにより、AlNの多量析出をより安定的に抑制することから、より確実に横ひび割れを抑制できることを見出した。
【0011】
以上より、本発明は以下のとおりである。
[1]
質量%で、
C:0.02%~0.50%、
Si:0.20%~3.00%、
Mn:0.50%~4.00%、
Al:0.20%~2.00%
N:0.01%以下、
Zr:0%~0.05%、
Hf:0%~0.05%、
Y:0%~0.05%、
Ti:0%~0.002%、
Nb:0%~0.1%、
V:0%~0.1%、
B:0%~0.005%、
Cr:0%~0.1%、
Ni:0%~0.5%、及び
Cu:0%~0.5%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる鋳片であって、
Zr、Hf、Yの含有量が以下の(1)式及び(2)式を満たし、
前記鋳片の表面から深さ方向に5mmの位置における全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率が50%以上であることを特徴とする鋳片。
[Zr]+91/178×[Hf]+91/89×[Y]≧4/3×[Al]×[N] ・・・(1)
[Hf]+[Y]≧0.001% ・・・(2)
ここで、[Zr]、[Hf]、[Y]、[Al]、[N]はそれぞれ前記鋳片での含有量(質量%)を表す。
[2]
上記[1]に記載の鋳片の連続鋳造方法であって、
前記鋳片の曲げ及び矯正を行う際に、表面温度が800℃~1000℃の範囲で曲げ及び矯正を行うことを特徴とする鋳片の連続鋳造方法。
[3]
前記鋳片の表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることを特徴とする上記[2]に記載の鋳片の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Alを0.2質量%以上含有する高Al鋼の鋳片であって、耐割れ感受性に優れた鋳片およびその鋳片を得るための鋳片の連続鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】Zr、Hf、Yの含有量とAl、Nの含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。まず、本発明の実施形態に係る鋳片の化学組成について説明する。以下の説明において鋳片に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。さらに、不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。また、以下の成分を含む鋳片は、スラブやブルームといった鋼片が挙げられる。
【0015】
<C:0.02%~0.50%>
Cは鋼の強度向上元素であり、C含有量が0.02%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、C含有量が0.50%を超えると硬度が高くなりすぎ、必要な曲げ性を担保できない。したがって、C含有量は0.02%~0.50%とする。
【0016】
<Si:0.20%~3.00%>
Siは鋼の強度向上元素であり、Si含有量が0.20%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、Si含有量が3.00%を超えると溶接性に悪影響を及ぼす。したがって、Si含有量は0.20%~3.00%とする。
【0017】
<Mn:0.50%~4.00%>
Mnは鋼の強度向上元素であり、Mn含有量が0.50%未満であると高強度鋼板としての用途を満たさない。また、Mn含有量が4.00%を超えると、Mnは偏析元素であるため、鋳片や鋼板において強度ムラの発生を引き起こす可能性がある。したがって、Mn含有量は0.50%~4.00%とする。
【0018】
<Al:0.20%~2.00%>
Alは機械特性を向上させるために必要な元素であり、本実施形態では、Alを0.20%以上含むことを前提とする。一方で、Al含有量が2.00%を超えると、後述するようにZr、Hf、Yの含有量も多くする必要があり、無駄にコストアップを招く。したがって、Al含有量は0.20%~2.00%とする。
【0019】
<N:0.01%以下>
Nは通常の精錬工程、連続鋳造工程を経て含まれる元素であり、鋼中で不可避に存在して窒化物を生成し高温延性に悪影響を与えることから、N含有量が少ないほど延性が良い傾向がある。そのため、N含有量は0.01%以下とする。また、Nは少ないほど好ましいが、精錬工程でのコストを踏まえると、N含有量は0.001%以上とすることが好ましい。
【0020】
<Zr:0%~0.05%>
Zrは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、AlNの析出を抑制して高Al鋼の高温延性を大きく改善する。なお、詳細は後述するが、Hf及び/またはYが所定量含有されている場合にはZrは必須ではなく0%であってもよい。一方で、Zr含有量が0.05%を超えると、効果が飽和するのみならず粗大なZr介在物が生成し、圧延工程での疵の起点や材料特性の劣化の原因となるため、Zr含有量は0.05%以下とする。
【0021】
<Hf:0%~0.05%>
Hfは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、AlNの析出を抑制して高Al鋼の高温延性を大きく改善する。なお、詳細は後述するが、Yが所定量含有されている場合にはHfは必須ではなく0%であってもよい。一方で、Hf含有量が0.05%を超えると、効果が飽和するため無駄なコストアップを招く。したがってHf含有量は0.05%以下とする。
【0022】
<Y:0%~0.05%>
Yは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、AlNの析出を抑制して高Al鋼の高温延性を大きく改善する。なお、詳細は後述するが、Hfが所定量含有されている場合にはYは必須ではなく0%であってもよい。一方で、Y含有量が0.05%を超えると、効果が飽和するため無駄なコストアップを招く。したがってY含有量は0.05%以下とする。
【0023】
また、上記以外の残部はFe及び不純物であるが、Feの一部に代えていくつかの成分を含んでもよい。具体的には、本実施形態に係る鋳片は、さらにTi:0%~0.002%、Nb:0%~0.1%、V:0%~0.1%、B:0%~0.005%、Cr:0%~0.1%、Ni:0%~0.5%、及びCu:0%~0.5%を含んでいてもよい。
【0024】
<Ti:0%~0.002%>
Tiは窒素と反応してZrなどとともに複合窒化物を生成し、AlNの生成を抑制して高温延性を改善する。但し、Tiが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。したがって、Ti含有量は0.002%以下とする。
【0025】
<Nb:0%~0.1%>
Nbは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、さらに強度の向上に寄与する元素でもある。但し、Nbが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。さらに生成する窒化物によりAlNと同様に脆化温度域を拡大する。したがって、Nb含有量は0.1%以下とする。
【0026】
<V:0%~0.1%>
Vは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、さらに強度の向上に寄与する元素でもある。但し、Vが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。さらに生成する窒化物によりAlNと同様に脆化温度域を拡大する。したがって、V含有量は0.1%以下とする。
【0027】
<B:0%~0.005%>
Bは鋼中でオーステナイト粒界に偏析し、粒界を強化することで高Al鋼の高温延性を改善する。但し、Bが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。したがって、B含有量は0.005%以下とする。
【0028】
<Cr:0%~0.1%>
Crは窒素と反応して窒化物を生成する元素であり、さらに強度の向上に寄与する元素でもある。但し、Crが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。さらに生成する窒化物によりAlNと同様に脆化温度域を拡大する。したがって、Cr含有量は0.1%以下とする。
【0029】
<Ni:0%~0.5%>
Niは強度および靭性の向上に寄与する元素でもある。但し、Niが過剰に含まれていると効果が飽和し、無駄なコストがかかってしまう。したがって、Ni含有量は0.5%以下とする。
【0030】
<Cu:0%~0.5%>
Cuは微細な粒子として鋼中に存在することにより強度の向上に寄与する。但し、Cuが過剰に含まれていると鋼の材質が劣化する場合がある。したがって、Cu含有量は0.5%以下とする。
【0031】
なお、これらの化学組成を分析する際の試料採取位置は、鋳片の組成を代表する位置として、鋳造方向に垂直な断面の1/4幅部、上面側1/4厚部とし、各元素は公知の手法により分析するものとする。
【0032】
続いて、高Al鋼で横ひび割れを生じさせないための条件について説明する。まず、高Al鋼の連続鋳造では、連続鋳造中の矯正点での矯正応力によって横ひび割れが発生することを防止する必要がある。矯正点で温度を脆化温度域から外れることは困難であることから、矯正点では一般的な温度域で鋳片の矯正を行うことを前提に、本発明者らはZr、Hf、Yを添加することによりどの程度高温延性が改善するかを確認するための高温引張試験を行った。高温引張試験では、コールドクルーシブルを有した高周波誘導加熱型の高温引張試験装置を用い、引張試験片を溶融後冷却速度1.0℃/sで所定の引張温度まで冷却後、所定の引張温度に保持ながら歪速度3.3×10-4(1/s)で破断まで引張を実施した。そして、(試験前の引張試験片の横断面積-破断後の引張試験片の横断面積)/試験前の引張試験片の横断面積×100を断面収縮率(%)として求めた。その結果、Zr、Hf、Yを添加すると特に800~1000℃の温度域において断面収縮率が大きくなり、高温延性が改善されることがわかった。
【0033】
次に、横ひび割れを防止するためにZr、Hf、Yをどの程度添加する必要があるかを確認するための試験を行った。具体的には、引張温度を900℃とし、Al、N、Zr、Hf、Y量の異なる複数のサンプルを用意して高温引張試験を行い、それぞれ断面収縮率(%)を求めた。高温引張試験の具体的な方法は、上述した方法と同様である。なお、目安として、断面収縮率が50%以上であれば横ひび割れが発生しないものとした。
【0034】
試験の結果、Zr、Hf、Yの含有量は、Al含有量とN含有量との積と相関があることがわかり、Zrを基準にZr、Hf、Yをそれぞれモル比に換算することにより、Zr含有量+(91/178)×Hf含有量+(91/89)×Y含有量の値がAl含有量とN含有量との積の4/3倍以上であれば、断面収縮率が50%以上となり、連続鋳造中の矯正点での矯正応力による横ひび割れを防止できることがわかった。
【0035】
以上の実験結果から、本実施形態に係る鋳片においては、以下の(1)式を満たす量のZr、Hf及びYを含むものとする。
[Zr]+91/178×[Hf]+91/89×[Y]≧4/3×[Al]×[N]
・・・(1)
ここで、[Zr]、[Hf]、[Y]、[Al]、[N]はそれぞれ連続鋳造鋳片中の含有量(質量%)を表す。
【0036】
一方で、Hf及び/またはYが極端に少ない場合には、生成した鋳片を加熱して熱間圧延を行うと割れが発生する場合があることが分かった。この理由としては、ZrはAlよりも窒素との親和力が高いものの、HfやYよりも窒素との親和力が低く、窒化物の熱的安定性が十分に得られないからであると考えられる。つまり、Hf及び/またはYの窒化物をある程度含むことによりZr、Hf、Yの窒化物の割合が高くなり、鋳片を加熱して熱間圧延を行った場合でも高い割れ防止効果が得られる。
【0037】
以上の理由から、本実施形態に係る鋳片においては、さらに以下の(2)式を満たす量のHf及び/またはYを含むものとする。
[Hf]+[Y]≧0.001% ・・・(2)
【0038】
図1は、Zr、Hf、Yの含有量とAl、Nの含有量との関係を示す図である。
図1において、直線10は(1)式を充足する境界線を表しており、直線よりも上側は(1)式を充足した条件であることを表している。また、○印は鋳片において横ひび割れが確認されず、かつ熱間圧延後も横ひび割れが確認されなかった例を表し、×印は鋳片または熱延板において横ひび割れが確認された例を表している。
図1に示すように、直線10よりも左側の条件では、プロット11を除いてすべて割れが発生していないことがわかった。なお、プロット11の例はいずれも(1)式は充足するが(2)式は充足していない例であり、いずれも鋳片中には横ひび割れが確認されなったものの、熱間圧延後は横ひび割れが確認された。
【0039】
次に、鋳片中の窒化物について説明する。上述したように、Zr、Hf、YはそれぞれZrN、HfN、YNを生成し、Nを固定化するため、AlNの粒界への多量析出を抑制し、高Al鋼の高温脆化を抜本的に改善できる。したがって、本実施形態に係る鋳片は、横ひび割れの深さの目安として、表面から深さ方向に5mmの位置において、全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率が50%以上であるものとする。好ましくは60%以上であり、より好ましくは75%以上である。
【0040】
ここで、全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率は、以下の方法により測定することができる。まず、鋳片の表面から5mm位置の面を、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)で観察(視野は例えば50μm×50μm)し、円相当径が200nm~5000nmの窒化物を同定する。続いて、同定した窒化物のうち、Zr、Hf、Yの合計が窒化物中において50質量%以上となる窒化物と、そうでない窒化物とに分け、Zr、Hf、Yの合計が窒化物中において50質量%以上となる窒化物の個数を全窒化物の個数で割った値を個数比率として計算する。観察範囲の面積が50mm2以上であれば、鋳片の表面から5mm位置での個数密度とみなすことができる。
【0041】
次に、上述した鋳片の連続鋳造方法について説明する。本実施形態では、脆化温度域を回避する必要がないことから、上述した組成の鋳片に対し、連続鋳造においては特に一般的な方法を用いることができる。なお、上述の実験結果から、鋳片を曲げ及び矯正する際に、鋳片の表面温度が800℃~1000℃となっている状態で曲げ及び矯正を行う場合に、特に効果が顕著になるため好ましい。
【0042】
また、ZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物を安定的に生成させるために、上述した組成の鋳片を冷却する際には、鋳片の表層部における平均冷却速度を60℃/min以下とすることが好ましい。ここで平均冷却速度は1450~1000℃までの平均冷却速度を指し、鋳片の表層部とは、鋳片の幅方向中央部の表面からの深さ方向5mmの位置を指す。測定方法としては、鋳片の幅方向中央部の表面温度を熱電対などにより測定し、深さ方向5mmの位置での平均冷却速度を二次元の伝熱計算により算出する。なお、平均冷却速度が小さすぎると操業時間が無駄に長くなることから、鋳片の表層部における平均冷却速度は5℃/min以上とすることが好ましい。
【実施例0043】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0044】
表1に組成を示す17種類の溶鋼を用意し、それぞれ鋳型に流し込み、連続鋳造機にて連続鋳造を行った。なお、連続鋳造機は、鋳型サイズ250mm厚み×1200mm幅の垂直曲げ型の連続鋳造機を使用し、鋳造速度を1.2m/minとした。また、矯正点では、いずれも鋳片の表面温度を850℃とした。また、平均冷却速度は二次冷却水量によって調整し、急冷の120℃/minと緩冷の60℃/minとの2パターンで実験を行った。
【0045】
以上の条件で作製したそれぞれの鋳片からそれぞれ代表サンプルとして約10mの鋳片を切り出し、鋳片の割れの評価を行った。まず、鋳片の割れは、表裏面を0.7mmグラインダーで研削後、目視で割れの有無を確認した。加えて、目視の結果、割れが発生していなかった鋳片に関しては、無手入れ(グラインダーでの割れチェック無し)で次工程の熱間圧延工程に供し、その後の割れ発生の有無も確認した。具体的には鋳片を1250℃まで加熱し、その後、粗圧延を経て仕上げ圧延温度を930℃として仕上げ圧延を行って板厚を3mmとし、平均冷却速度を600℃/minとして冷却し、熱延板を得た。そして、熱延板表面を目視またはカメラによる疵検査で割れの有無を確認した。鋳片での割れが皆無で、かつ熱間圧延後も割れが発生しなかった場合は「◎」と評価し、鋳片での割れが皆無であったが、熱間圧延後に割れが発生した場合は「△」と評価した。また鋳片で割れが確認された場合は「×」と評価した。実験結果を表2に示す。
【0046】
また、それぞれの鋳片において、鋳片の表面から深さ方向に5mmの位置の面を取り出して鏡面研磨し、10mm×10mmの範囲をSEMで観察して上述した方法により全窒化物中のZrN、HfN、YNもしくはこれらの複合窒化物の合計した個数比率を算出した。さらに、一部の鋳片に関しては、引張温度を900℃として高温引張試験を行い、それぞれ断面収縮率(%)を求めた。高温引張試験の具体的な方法は、上述した方法と同様である。その試験結果も表2に併せて示す。
【0047】
【0048】
【0049】
表2中の下線は、本発明の条件を満たさなかった例である。表2に示すように、(1)式及び(2)式の条件を満たす場合には、AlやNの含有量によらず、鋳片に割れは存在せず、かつ熱間圧延後も割れが発生しなかった。
【0050】
一方、(1)式のみを満たして(2)式を満たさなかった比較例のNo.10、11では、上述した個数密度は50.0%以上であり鋳片に割れは存在しなかったものの、窒化物の熱的安定性が不足していたことから、熱間圧延後の熱延板において割れが発生していた。また、(1)式を満たさなかった比較例のNo.12~17では、上述した個数密度は50.0%未満であり、AlNの生成を抑制できなかったため、鋳片に割れが発生していた。