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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139418
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】抗菌活性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C12Q1/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050350
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000214537
【氏名又は名称】長谷川香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】富 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】木野 はるか
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 久美子
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA06
4B063QQ06
4B063QQ17
4B063QQ20
4B063QR75
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】評価対象物質から発生する蒸気が有する抗菌活性を定量的に評価できる抗菌活性評価方法を提供する。
【解決手段】以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。(a)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能であって、前記評価対象菌が接種されている接種済固体培地を複数用意する工程、(b1)前記(a)工程で用意した前記接種済固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を前記第1培地に接触させながら前記第1培地に存在する前記評価対象菌を培養する工程、(b2)前記(b1)工程の後、前記第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、(b3)下記計算式1に基づき、前記第1培地における前記評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能であって、前記評価対象菌が接種された接種済固体培地を複数用意する工程、
(b1)前記(a)工程で用意した前記接種済固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を前記第1培地に接触させながら前記第1培地に存在する前記評価対象菌を培養する工程、
(b2)前記(b1)工程の後、前記第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(b3)下記計算式1に基づき、前記第1培地における前記評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【数1】
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌活性評価方法において、
さらに以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(c1)前記(a)工程で用意した前記接種済固体培地のうちの前記第1培地以外の一つを第2培地とし、前記評価対象物質から発生する蒸気を前記第2培地に接触させないこと以外は前記(b1)工程と同じ条件において、前記第2培地に存在する前記評価対象菌を培養する工程、
(c2)前記(c1)工程の後、前記第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(c3)下記計算式2に基づき、前記第2培地における前記評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【数2】
【請求項3】
請求項2に記載の抗菌活性評価方法において、
さらに以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(d1)下記計算式3に基づき、前記(b1)工程の条件における前記評価対象菌に対する前記評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【数3】
【請求項4】
請求項1に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(a)工程は、以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、
(a2)前記固体培地のそれぞれに、前記評価対象菌の懸濁液を同体積で平板塗沫法により接種し、前記接種済固体培地を用意する工程。
【請求項5】
請求項2に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(b2)工程は、以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(b21)前記(b1)工程で培養した後の前記第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(b22)前記(b21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(b23)前記評価対象菌が増殖可能な菌数測定用固体培地を複数用意し、前記菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(b22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(b24)前記(b23)工程で前記希釈液を接種した前記菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(b25)前記(b24)工程の後、コロニーが形成された前記菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(b26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記菌数測定用固体培地において、当該菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第1培地に添加された液体の体積とから下記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数を算出する工程。
【数4】
【請求項6】
以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、
(a2)前記固体培地のそれぞれに、前記評価対象菌の懸濁液を同体積で接種する工程、
(b1)前記(a2)工程で前記評価対象菌を接種した前記固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を前記第1培地に接触させながら前記第1培地に接種した前記評価対象菌を培養する工程、
(b2)前記(b1)工程の後、前記第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(c1)前記(a2)工程で前記評価対象菌を接種した前記固体培地のうちの前記第1培地以外の一つを第2培地とし、前記評価対象物質から発生する蒸気を前記第2培地に接触させないこと以外は前記(b1)工程と同じ条件において、前記第2培地に接種した前記評価対象菌を培養する工程、
(c2)前記(c1)工程の後、前記第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(d2)下記計算式5に基づき、前記(b1)工程の条件における前記評価対象菌に対する前記評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【数5】
【請求項7】
請求項6に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(b2)工程は、以下の(b21)~(b26)工程を含み、
前記(c2)工程は、以下の(c21)~(c26)工程を含む、抗菌活性評価方法。
(b21)前記(b1)工程で培養した後の前記第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(b22)前記(b21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(b23)前記評価対象菌が増殖可能な第1培地菌数測定用固体培地を複数用意し、前記第1培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(b22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(b24)前記(b23)工程で前記希釈液を接種した前記第1培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(b25)前記(b24)工程の後、コロニーが形成された前記第1培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(b26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記第1培地菌数測定用固体培地において、当該第1培地菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該第1培地菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第1培地に添加された液体の体積とから下記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を算出する工程、
【数6】
(c21)前記(c1)工程で培養した後の前記第2培地に液体を添加し、当該第2培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(c22)前記(c21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(c23)前記評価対象菌が増殖可能な第2培地菌数測定用固体培地を複数用意し、前記第2培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(c22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(c24)前記(c23)工程で前記希釈液を接種した前記第2培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(c25)前記(c24)工程の後、コロニーが形成された前記第2培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(c26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記第2培地菌数測定用固体培地において、当該第2培地菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該第2培地菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第2培地に添加された液体の体積とから下記計算式4’に基づき、(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を算出する工程。
【数7】
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の抗菌活性評価方法において、
前記評価対象物質は、香料組成物である、抗菌活性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌活性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の衛生に対する関心が高まり、抗菌および/または除菌を謳った製品が増加しており、特に、芳香剤、ディフューザーまたはスプレーなどにより、抗菌作用および/または除菌作用を有する化合物の気体を拡散させるか、抗菌作用および/または除菌作用を有する化合物を含む液体を噴霧しこの液体から当該化合物の気体を蒸発させることで、空間を抗菌および/または除菌する製品が多く見られるようになった。そのため、空間の抗菌および/または除菌する製品の抗菌活性の評価方法を確立することは喫緊の課題である。
【0003】
これまで、抗菌作用および/または除菌作用の評価方法はいくつか知られている。例えば、特許文献1には、抗微生物活性検出方法であって、被験試料用容器及び供試微生物培養手段の出し入れが可能な開口部を備えた容器本体が内包する空間に、供試微生物が接種された微生物培養手段及び被験試料を並置し、該空間を実質的に外気と遮断して所定時間静置し、ならびに前記微生物の発育(増殖)状態から、被験試料から発生する蒸気が有する抗微生物活性を判定する、工程を含む検出方法、および、前記判定の後、微生物培養手段により微生物を培養して観察し、被験試料の有する静菌および/または殺菌活性を判定する工程をさらに含む検出方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2は抗菌性繊維の発明が記載されているが、その繊維の抗菌性試験法として、菌数測定法およびシャークフラスコ法が記載されている。菌数測定法は、試料(繊維)に菌液を接種して所定の温度で培養した後に、培養前後の菌数を常法により計測する方法である。シャークフラスコ法は、試料(繊維)および菌液を三角フラスコに入れ1時間振盪し、振盪前後の菌数を計測する方法である。
【0005】
特許文献3は、セラミックス製品やガラス製品の被評価面に接種用菌液を接種し、その上に被覆フィルムを被せて蓋をした後、一定条件下で保存する第1工程と、該第1工程後、一定培地を用いて該被評価面及び該被覆フィルムに付着している菌を測定液中に洗い出し、該測定液中の生菌数を測定する第2工程とを有する被評価面の抗菌性評価方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10-108691号公報
【特許文献2】特開平4-156850号公報
【特許文献3】特開2001-299384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、被験試料から発生する蒸気が有する抗菌活性(抗微生物活性ともいい、抗菌活性には静菌(細胞分裂の抑制)と殺菌との両方が含まれる。以下本明細書において同じ。)を測定する方法として有用である。しかしながら、特許文献1における「菌の発育(増殖)が認められたもの/菌の発育が認められなかったもの」とは、一般的に、目視によってコロニー(集落ともいい、細胞生物学にて細菌や培養細胞などが形成する単一細胞由来の集合体(細胞塊)。以下本明細書において同じ。)が出現したかどうかで判断され、コロニーが出現すると菌の発育が認められたものとして、一律で「(抗菌)活性なし」と判定されてしまう。発明者らの検討によれば、被験試料から発生する蒸気が比較的穏やかな抗菌活性を有していると、菌の細胞分裂を抑制した結果、コロニー数(集落数)が同じかほとんど減少せずに、コロニーの大きさが小さくなる場合がある。さらには、実際には、被験試料から発生する蒸気がさらに穏やかな抗菌活性を有していると、コロニー数(集落数)が同じで、かつ、コロニーの大きさもほとんど変化しない場合もある。このような場合、特許文献1に記載の技術にあっては、抗菌作用および/または除菌作用が比較的穏やかな気体試料についてはその抗菌活性を評価することができない。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術は、菌の発育が認められなかったものについて、蒸気のない環境で培養してさらに菌の発育を確認し、菌の発育が認められれば静菌活性を有し、菌の発育が認められなければ殺菌活性を有するとの判断が可能である。しかしながら、前述の通り、特許文献1における「菌の発育が認められたもの/菌の発育が認められなかったもの」とは、目視によってコロニーが出現したかどうかで判断されるため、コロニーが出現しない程度に菌が発育している場合は、「菌の発育が認められなかったもの」と判断されてしまうという問題があった。
【0009】
特許文献2および3に記載の技術は、抗菌性を有する試料(繊維、セラミックスおよびガラス等)に菌液を接種した後に菌数を測定する方法であり、固体試料表面の抗菌活性を測定する方法として有用であるが、当然、気体試料に直ちに適用することはできない。また、このように固体試料表面に接種した菌は、増殖するための栄養がない状態で培養することになるため、固体試料表面の抗菌活性がなくても菌は死滅していく。その結果、日常生活の菌が増殖するような環境において使用される製品に対する抗菌活性の定量的な評価は難しいという問題があった。
【0010】
本発明の課題は、評価対象物質から発生する蒸気が有する抗菌活性を定量的に評価できる抗菌活性評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究の結果、評価対象物質から発生する蒸気が有する抗菌活性を定量的に評価できる抗菌活性評価方法を見出し、本発明の完成に至った。本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次の通りである。
【0012】
[1] 以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能であって、前記評価対象菌が接種された接種済固体培地を複数用意する工程、
(b1)前記(a)工程で用意した前記接種済固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を前記第1培地に接触させながら前記第1培地に存在する前記評価対象菌を培養する工程、
(b2)前記(b1)工程の後、前記第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(b3)下記計算式1に基づき、前記第1培地における前記評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【0013】
【数1】
【0014】
[2] [1]に記載の抗菌活性評価方法において、
さらに以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(c1)前記(a)工程で用意した前記接種済固体培地のうちの前記第1培地以外の一つを第2培地とし、前記評価対象物質から発生する蒸気を前記第2培地に接触させないこと以外は前記(b1)工程と同じ条件において、前記第2培地に存在する前記評価対象菌を培養する工程、
(c2)前記(c1)工程の後、前記第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(c3)下記計算式2に基づき、前記第2培地における前記評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【0015】
【数2】
【0016】
[3] [2]に記載の抗菌活性評価方法において、
さらに以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(d1)下記計算式3に基づき、前記(b1)工程の条件における前記評価対象菌に対する前記評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【0017】
【数3】
【0018】
[4] [1]に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(a)工程は、以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、
(a2)前記固体培地のそれぞれに、前記評価対象菌の懸濁液を同体積で平板塗沫法により接種し、前記接種済固体培地を用意する工程。
【0019】
[5] [2]に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(b2)工程は、以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(b21)前記(b1)工程で培養した後の前記第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(b22)前記(b21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(b23)前記評価対象菌が増殖可能な菌数測定用固体培地を複数用意し、前記菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(b22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(b24)前記(b23)工程で前記希釈液を接種した前記菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(b25)前記(b24)工程の後、コロニーが形成された前記菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(b26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記菌数測定用固体培地において、当該菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第1培地に添加された液体の体積とから下記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数を算出する工程。
【0020】
【数4】
【0021】
[6] 以下の工程を含む、抗菌活性評価方法。
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、
(a2)前記固体培地のそれぞれに、前記評価対象菌の懸濁液を同体積で接種する工程、
(b1)前記(a2)工程で前記評価対象菌を接種した前記固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を前記第1培地に接触させながら前記第1培地に接種した前記評価対象菌を培養する工程、
(b2)前記(b1)工程の後、前記第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(c1)前記(a2)工程で前記評価対象菌を接種した前記固体培地のうちの前記第1培地以外の一つを第2培地とし、前記評価対象物質から発生する蒸気を前記第2培地に接触させないこと以外は前記(b1)工程と同じ条件において、前記第2培地に接種した前記評価対象菌を培養する工程、
(c2)前記(c1)工程の後、前記第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を測定する工程、
(d2)下記計算式5に基づき、前記(b1)工程の条件における前記評価対象菌に対する前記評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【0022】
【数5】
【0023】
[7] [6]に記載の抗菌活性評価方法において、
前記(b2)工程は、以下の(b21)~(b26)工程を含み、
前記(c2)工程は、以下の(c21)~(c26)工程を含む、抗菌活性評価方法。
(b21)前記(b1)工程で培養した後の前記第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(b22)前記(b21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(b23)前記評価対象菌が増殖可能な第1培地菌数測定用固体培地を複数用意し、前記第1培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(b22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(b24)前記(b23)工程で前記希釈液を接種した前記第1培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(b25)前記(b24)工程の後、コロニーが形成された前記第1培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(b26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記第1培地菌数測定用固体培地において、当該第1培地菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該第1培地菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第1培地に添加された液体の体積とから下記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する前記評価対象菌の菌数を算出する工程、
【0024】
【数6】
【0025】
(c21)前記(c1)工程で培養した後の前記第2培地に液体を添加し、当該第2培地に存在する前記評価対象菌を懸濁液として回収する工程、
(c22)前記(c21)工程で得られた前記懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して前記評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、
(c23)前記評価対象菌が増殖可能な第2培地菌数測定用固体培地を複数用意し、前記第2培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、前記(c22)工程で得られた前記希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、
(c24)前記(c23)工程で前記希釈液を接種した前記第2培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、
(c25)前記(c24)工程の後、コロニーが形成された前記第2培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、
(c26)前記(b25)工程で測定した前記コロニー数が30個以上300個以下である前記第2培地菌数測定用固体培地において、当該第2培地菌数測定用固体培地に接種した前記希釈液の希釈倍率および体積と、当該第2培地菌数測定用固体培地に形成された前記コロニー数と、菌懸濁のために前記第2培地に添加された液体の体積とから下記計算式4’に基づき、(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する前記評価対象菌の菌数を算出する工程。
【0026】
【数7】
【0027】
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の抗菌活性評価方法において、
前記評価対象物質は、香料組成物である、抗菌活性評価方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、評価対象物質から発生する蒸気が有する抗菌活性を定量的に評価できる抗菌活性評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示すフロー図である。
図2図2は、本発明の第2および第3の実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示すフロー図である。
図3図3は、本発明の第4の実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示すフロー図である。
図4図4は、本発明の第5の実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示すフロー図である。
図5図5は、本発明の第6の実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示すフロー図である。
図6図6は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を実施するための容器を表す側面図である。
図7図7は、本発明の一実施に係る抗菌活性評価方法の固体培地用意工程を示す模式図である。
図8図8は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の評価対象菌接種工程を示す模式図である。
図9図9は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の評価対象物質蒸気接触培養工程を示す模式図である。
図10図10は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の評価対象物質蒸気接触培養工程を示す模式図である。
図11図11は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の評価対象菌回収工程を示す模式図である。
図12図12は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の評価対象菌回収工程を示す模式図である。
図13図13は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法の希釈液調製工程を示す模式図である。
図14図14は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、香料組成物を接触させないで培養した容器、および第1香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。
図15図15は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、第2香料組成物を接触させながら培養した容器および第3香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。
図16図16は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、第4香料組成物を接触させながら培養した容器および第5香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。
図17図17は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、第6香料組成物を接触させながら培養した容器および第7香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。
図18図18は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、第8香料組成物を接触させながら培養した容器および第9香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。
図19図19は、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した実施例において、香料組成物を接触させないで培養した容器、および第1~第9香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像と、形成されたコロニー数と、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によって算出された菌数とを比較可能に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「本実施の形態に係る抗菌活性評価方法」という場合がある。)について、詳細に説明する。本明細書において、「~」は下限値および上限値を含む範囲を意味し、「濃度」、「%」は特に断りのない限りそれぞれ「質量濃度」、「質量パーセント濃度」を表すものとする。また、本明細書においては、既出の用語および工程名に「前記」を付与しない(例えば、「前記評価対象菌」を「評価対象菌」と、「前記(a)工程」を「(a)工程」とそれぞれ表記する)場合がある。
【0031】
(第1評価方法)
本発明の第1の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第1評価方法」という場合がある。)は、以下の工程を含む。
【0032】
(a)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能であって、評価対象菌が接種された接種済固体培地を複数用意する工程、(b1)(a)工程で用意した接種済固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を第1培地に接触させながら第1培地に存在する評価対象菌を培養する工程、(b2)(b1)工程の後、第1培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(b3)下記計算式1に基づき、第1培地における評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【0033】
【数8】
【0034】
図1は第1評価方法の各工程を示すフロー図である。図1に示すように、第1評価方法において、(a)工程では、細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能である固体培地であって、評価対象菌が接種された接種済固体培地が複数用意される。ここで本実施の形態において「菌数」とは、いわゆる総菌数と同義であり、菌体1つ1つを数えた場合の数である(以下同じ。)。したがって、本実施の形態にあっては、「菌数」と「コロニー数」とは別の概念である。
【0035】
第1評価方法において、「評価対象菌が接種された接種済固体培地」とは、例えば、固体培地(寒天培地)が固化する前に菌と混合して培地を固化して菌を培地に接種する方法(混釈法)や固体培地(寒天培地)が固化してから菌液(菌の懸濁液)を培地表面に滴下した後にコンラージ棒等で塗布する方法(平板塗沫法)など公知の接種方法により固体培地に評価対象菌が接種されていればよく、特に限定されるものではない。ただし、後述するように、(b1)工程において評価対象物質から発生する蒸気を評価対象菌に直接接触させながら培養することが好ましいことから、この場合は、評価対象菌は平板塗沫法により固体培地の表面に接種されていることが好ましい。(b1)工程において評価対象物質から発生する蒸気を接種済固体培地の表面(菌が接種された表面と同一表面)に接触させながら培養すると、評価対象物質から発生する蒸気が評価対象菌に直接接触するので、評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気が奏する抗菌効果を適切に評価できる。また、平板塗沫法によれば、コロニーが全て固体培地(の表面)上に形成されるため、後述するコロニーの観察およびコロニー数の測定が容易になる点で有利である。
【0036】
また、第1評価方法において使用可能な固体培地は、詳細は後述するが公知の固体培地であればよく、特に限定されるものではない(以下、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法において同じ。)。
【0037】
第1評価方法において、また、第1評価方法にあっては、接種された評価対象菌の菌数はそれぞれの固体培地において菌数が一定である必要はない。ただし、後述するように、それぞれの固体培地において菌数が一定であると、抗菌率の計算が簡便になるため好ましい。
【0038】
次に、(b1)工程では、(a)工程で複数用意された接種済固体培地のうちの一つが第1培地として選択され、第1培地に評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら評価対象菌が培養される。これにより、第1培地に存在する評価対象菌に評価対象物質から発生する蒸気が接触している状態で評価対象菌が培養される。ここで、本明細書において「評価対象物質から発生する蒸気」とは、「評価対象物質に含まれる揮発可能な成分の蒸気」を意味し、例えば常温で気体となりうる比較的蒸気圧の高い成分も「評価対象物質から発生する蒸気」に含まれる。逆に、評価対象物質に含まれる比較的蒸気圧の低い成分も評価対象物質に含まれる蒸気圧の高い成分とともに蒸発することから「評価対象物質から発生する蒸気」に含まれる。本実施の形態にあっては、日常生活の菌が増殖するような環境において使用される製品に対する抗菌活性の定量的な評価を課題としているため、製品に含まれる香料組成物等の評価対象物質自体(固体または液体)ではなく、評価対象物質から発生する蒸気(気体)を固体培地に存在する評価対象菌に接触させることが肝要である。
【0039】
次に、(b2)工程では、第1培地に存在する、(b1)工程で評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の菌数が測定される。次に、(b3)工程では、上記計算式1に示すように、(b2)工程で測定された、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数を、(b1)工程で培養する前の第1培地に存在する評価対象菌の菌数で除すことで、第1培地における、評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の増殖率が算出される。
【0040】
ここで、「(b1)工程で培養する前の第1培地に存在する評価対象菌の菌数」は、評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養する直前の菌数であることが望ましい。培養する直前に評価対象菌の菌数を測定することは容易でないため、実際には、(a)工程にて評価対象菌が接種された接種済固体培地を用意してから、(b1)工程にて培養を開始するまでに評価対象菌が培養されないように(評価対象菌の菌数が変化しないように)、例えば、用意した接種済固体培地を冷蔵保管するなどして評価対象菌が培養できない温度にて保管すれば、「(b1)工程で培養する前の第1培地に存在する評価対象菌の菌数」として「接種された評価対象菌の菌数」を用いることができる。
【0041】
本実施の形態において、(評価対象菌の)菌数の測定方法は特に限定されず、例えば、段階希釈法、菌数計算盤による計測法、濁度測定法、重量による測定法、細胞成分や生化学的活性を測定する方法などが挙げられる。段階希釈法は後述の第5評価方法の項目で詳しく述べる。菌数計算盤による計測法は、格子が刻まれた菌数計算盤(血球計算盤など)に微生物の量を測定したい液体(検体)を添加し、顕微鏡で見て、ある区画内の細胞の数を直接数える方法である。濁度測定は、分光光度計を用いて透過光の量を測定し、これを液中に存在する菌数に換算する方法である。重量による測定法は、菌体の重量を測定し、これを菌数に換算する方法である。細胞成分や生化学的活性を測定する方法は、細胞構成成分の量を測定し、これを菌数に換算する方法である。後述するように、生菌数を精度良く測定できることから、段階希釈法が最も好適である。
【0042】
以上より、第1評価方法によれば、評価対象菌が増殖可能な環境下において評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の増殖率が算出されるので、実際の生活環境に近い条件において、評価対象物質から発生する蒸気が評価対象菌の細胞分裂をどのように抑制するかを定量的に評価することができる。
【0043】
前述したように、特許文献1に記載の抗菌活性評価方法にあっては、「菌の発育(増殖)が認められたもの/菌の発育が認められなかったもの」とは、一般的に、目視によってコロニーが出現したかどうかで判断され、コロニー数が同じかほとんど減少せずにコロニーの大きさが小さくなるような場合、さらにはコロニー数が同じかほとんど減少せずにコロニーの大きさもほとんど変わらない場合は、「菌の発育(増殖)が認められたもの」と判断されてしまうという問題があった。
【0044】
この点、第1評価方法によれば、評価対象菌のコロニーが出現したかどうかにかかわらず、評価対象菌の菌数を測定している。その結果、コロニー数およびコロニーの大きさがほとんど変化しない(評価対象物質から発生する蒸気が、評価対象菌の細胞分裂をコロニー数およびコロニーの大きさが減少しない程度に抑制している)場合であっても、評価対象物質から発生する蒸気による評価対象菌の細胞分裂抑制度合いを正しく定量的に評価することができる。
【0045】
また、前述したように、特許文献1に記載の抗菌活性評価方法にあっては、「菌の発育(増殖)が認められたもの/菌の発育が認められなかったもの」とは、一般的に、目視によってコロニーが出現したかどうかで判断され、コロニーが出現しない程度に菌が発育している場合は、「菌の発育が認められなかったもの」と判断されてしまうという問題があった。
【0046】
この点、第1評価方法によれば、評価対象菌のコロニーが出現したかどうかにかかわらず、評価対象菌の菌数を測定している。その結果、コロニーが出現しない程度に菌が増殖している(評価対象物質から発生する蒸気が、評価対象菌の細胞分裂をコロニーが出現しない程度に抑制している)場合であっても、評価対象物質から発生する蒸気による評価対象菌の細胞分裂抑制度合いを正しく定量的に評価することができる。
【0047】
また、前述したように、特許文献2および3に記載の固体試料向けの抗菌活性評価方法にあっては、固体試料表面に菌を接種し、増殖するための栄養がない状態で培養しているため、固体試料表面の抗菌活性がなくても菌は死滅してしまい、抗菌活性の定量的な評価は難しいという問題があった。
【0048】
この点、第1評価方法によれば、評価対象菌が増殖可能な環境下において評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら評価対象菌を培養しているため、評価対象菌の細胞分裂が評価対象物質から発生する蒸気によってのみ抑制されることになる。その結果、日常生活の菌が増殖するような環境において使用される製品に対する、評価対象物質から発生する蒸気による評価対象菌の細胞分裂抑制度合いを定量的に評価することができる。
【0049】
なお、(b1)工程では、第1培地に評価対象物質から発生する蒸気を接触させることができれば第1培地に評価対象物質が染み込んで第1培地に存在する評価対象菌に評価対象物質が接触するため、評価対象菌に対する評価対象物質の抗菌効果を確認することができる。ただし、前述したように、評価対象菌は平板塗沫法により固体培地の表面に接種されており、かつ、(b1)工程では、第1培地の表面に評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら評価対象菌が培養されることが好ましい。これにより、評価対象物質から発生する蒸気が評価対象菌に直接接触するため、評価対象物質の抗菌効果を適切に評価することができる。
【0050】
また、第1評価方法の変形例として、評価対象物質を2以上用意してこれらを同時に評価することもできる。評価対象物質を3つ用意する場合の第1評価方法の変形例としては、以下の工程を含む(後述する第6評価方法の変形例においても同様である。)。なお、以下の(b1A)、(b2A)および(b3A)工程、(b1A)、(b2A)および(b3A)工程、ならびに、(b1A)、(b2A)および(b3A)工程は、(b1)、(b2)および(b3)工程とそれぞれ対応する工程であって、便宜上区別するために名称にアルファベットを追加したものである。
【0051】
(a)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能であって、評価対象菌が接種された固体培地を複数用意する工程、(b1A)(a)工程で用意した固体培地のうちの一つを第1A培地とし、第1評価対象物質から発生する蒸気を第1A培地に接触させながら第1A培地に存在する評価対象菌を培養する工程、(b2A)(b1A)工程の後、第1A培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(b3A)下記計算式1Aに基づき、第1A培地における評価対象菌の増殖率を算出する工程、
【0052】
【数9】
【0053】
(b1B)(a)工程で用意した固体培地のうちの第1A培地以外の一つを第1B培地とし、第1評価対象物質から発生する蒸気に代えて第2評価対象物質から発生する蒸気を第1B培地に接触させること以外は(b1A)工程と同じ条件において、第1B培地に存在する評価対象菌を培養する工程、(b2B)(b1A)工程の後、第1B培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(b3B)下記計算式1Bに基づき、第1B培地における評価対象菌の増殖率を算出する工程、
【0054】
【数10】
【0055】
(b1C)(a)工程で用意した固体培地のうちの第1A培地および第1B培地以外の一つを第1C培地とし、第1評価対象物質から発生する蒸気に代えて第3評価対象物質から発生する蒸気を第1C培地に接触させること以外は(b1A)工程と同じ条件において、第1C培地に存在する評価対象菌を培養する工程、(b2C)(b1C)工程の後、第1C培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(b3C)下記計算式1Cに基づき、第1C培地における評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【0056】
【数11】
【0057】
ここで、第1評価方法の変形例において、評価対象物質を4以上にする場合は、固体培地のうちの第1A培地、第1B培地、第1C培地以外を第1D培地、第1E培地・・・とし、第n評価対象物質(nは自然数。)から発生する蒸気を対応する各固体培地に接触させながら、それ以外は(b1)工程と同じ条件において、各固体培地に存在する評価対象菌を培養すればよい。
【0058】
以上の第1評価方法の変形例において、(b1A)工程では、第1評価対象物質から発生する蒸気を第1A培地に接触させながら評価対象菌を培養し、(b1B)工程では、第1評価対象物質から発生する蒸気に代えて第2評価対象物質から発生する蒸気を第1B培地に接触させること以外は(b1A)工程と同じ条件において評価対象菌を培養し、(b1C)工程では、第1評価対象物質から発生する蒸気に代えて第3評価対象物質から発生する蒸気を第1C培地に接触させること以外は(b1A)工程と同じ条件において評価対象菌を培養することから、(b1A)工程と(b1B)工程と(b1C)工程とを同時に行うことが可能であり、また、培養条件を揃えやすくかつ作業コストを削減できることから(b1A)工程と(b1B)工程と(b1C)工程とを同時に行うことが好ましい。後述するように、同一の部屋(温度、湿度が部屋の中で同じ)に複数の容器を用意し、1つの容器ごとに1つの評価対象物質から発生する蒸気を固体培地に接触させるようにする(容器から評価対象物質から発生する蒸気が漏れないようにすることが重要である。)と、(b1A)工程と(b1B)工程と(b1C)工程とを同時に行うことが容易になり、複数の評価対象物質(の蒸気)の抗菌活性評価を低コストで簡便に行うことができる。
【0059】
(第2評価方法)
本発明の第2の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第2評価方法」という場合がある。)は、第1評価方法に加え、以下の工程を含む。
【0060】
(c1)(a)工程で用意した前記固体培地のうちの第1培地以外の一つを第2培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を第2培地に接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件において、第2培地に存在する評価対象菌を培養する工程、(c2)(c1)工程の後、第2培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(c3)下記計算式2に基づき、第2培地における評価対象菌の増殖率を算出する工程。
【0061】
【数12】
【0062】
図2は第2評価方法および後述する第3評価方法の各工程を示すフロー図である。図2に示すように、第2評価方法において、(c1)工程では、(a)工程で複数用意された固体培地のうちの第1培地以外の一つが第2培地として選択され、第2培地に評価対象物質から発生する蒸気を接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件において第2培地に存在する評価対象菌が培養される。次に、(c2)工程では、(c1)工程で評価対象物質から発生する蒸気を接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件にて培養した、第2培地に存在する評価対象菌の菌数が測定される。次に、(c3)工程では、(c2)工程で測定された、(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する評価対象菌の菌数を、(c1)工程で培養する前の第2培地に存在する評価対象菌の菌数で除すことで、第2培地における、評価対象物質から発生する蒸気を接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件において培養した評価対象菌の増殖率が算出される。
【0063】
以上より、第2評価方法によれば、評価対象菌が増殖可能な環境下において評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の増殖率が算出されるとともに、評価対象物質から発生する蒸気を接触させないこと以外は同じ条件において培養した評価対象菌の増殖率も算出されるため、これらの増殖率を比較することによって、評価対象物質から発生する蒸気による評価対象菌の細胞分裂の抑制効果を、第1評価方法に比べてより精度良く分析し評価することができる。
【0064】
ここで第2評価方法において、(c1)工程にいう(b1)工程と「同じ条件」とは、一般的な培養条件である温度および時間が(b1)工程と(c1)工程とにおいて同じであることを意味する。また、必須ではないが、「同じ条件」に、湿度、気圧その他培養条件に含まれうるパラメーターが同じという条件を含むことが評価の精度を高めるため好ましい。後述の実施例のように、(b1)工程を容器内で行う場合には、「同じ条件」として(c1)工程も(b1)工程と同じ容器内にて、または(b1)工程の容器と同様の形状・体積の容器内にて行うことが好ましい。
【0065】
なお、(a)工程で、評価対象菌が接種された固体培地が複数用意し、これら固体培地のうちの一つを(b1)工程の第1培地と、他の一つを(c1)工程の第2培地と、それぞれしているため、培地の種類は同じである。第1培地に接種した評価対象菌の菌数と第2培地に接種した評価対象菌の菌数とは一致させる必要はないが、評価の精度を高めるため第1培地に接種した評価対象菌の菌数と第2培地に接種した評価対象菌の菌数とは少なくとも同じオーダー(次数)であることが好ましく、具体的には102個以上103個以下で揃えることがより好ましい。
【0066】
なお、第1培地に接種した評価対象菌の菌数と第2培地に接種した評価対象菌の菌数とを一致させる方法としては、後述の第4評価方法のように、第1培地および第2培地に対し、評価対象菌の懸濁液を同体積で接種する方法が一例として挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
また、第1培地に接種された評価対象菌の菌数と第2培地に接種された評価対象菌の菌数とを一致させ、かつ、第1培地(第2培地)に接種された評価対象菌の菌数を30個以上300個以下とした場合には、第2評価方法の変形例として、以下を採用できる。すなわち、第1培地に接種された評価対象菌の菌数と第2培地に接種された評価対象菌の菌数とを一致させ、かつ、第1培地(第2培地)に接種された評価対象菌の菌数を30個以上300個以下とした場合において、(c1)工程では、第2培地に接種された評価対象菌が形成するコロニー数が1つの培地(面積50cm2以上80cm2以下)あたり30個以上300個以下となるまで培養し、当該コロニー数を、第1培地および第2培地に接種された評価対象菌の菌数とみなす。
【0068】
本実施の形態において、評価対象菌は細胞分裂によって増殖するため、1つの評価対象菌が培養された結果、増殖して1つのコロニーを形成する。そのため、全ての菌がそれぞれコロニーを形成できるまで培養すれば、菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数が元々接種した菌数に対応することになる。ここで、全ての菌がそれぞれコロニーを形成できるまで培養できたかどうかの基準となるのが、1つの培地(面積50cm2以上80cm2以下)あたりの培養後のコロニー数が30個以上300個以下であることである。ここで、培地の面積が50cm2以上80cm2以下であるという条件は、培地が通常使用される断面略円形状容器(例えば本実施の形態に係る容器またはシャーレ等)に形成されている場合、この容器の直径が8cm以上10cm以下であることと同義である。また、「1つの培地(面積50cm2以上80cm2以下)あたりの培養後のコロニー数が30個以上300個以下である」という条件は、「培地1cm2あたりのコロニー数が0.375個/cm2以上6個/cm2以下である」といいかえることもできる。したがって、(c1)工程では、第2培地(面積50cm2以上80cm2以下)に接種された評価対象菌が、コロニーを30個以上300個以下形成するまで培養すれば、全ての菌がそれぞれコロニーを形成し、当該コロニー数が、第1培地および第2培地に接種された評価対象菌の菌数(30個以上300個以下)と一致するはずである。
【0069】
その結果、第2評価方法の変形例にあっては、第1培地に接種された評価対象菌の菌数と第2培地に接種された評価対象菌の菌数とを一致させ、かつ、第1培地(第2培地)に接種された評価対象菌の菌数を30個以上300個以下とした場合において、第2培地に形成されたコロニー数が1つの培地(面積50cm2以上80cm2以下)あたり30個以上300個以下となるように培養することによって、当該コロニー数を、第1培地および第2培地に接種された評価対象菌の菌数とみなすことができる。また、第2評価方法の変形例を採用する場合、固体培地に接種された評価対象菌の菌数は既知である必要がないため、この点において有利である。さらに、第2評価方法の変形例において、第1培地および第2培地を透明容器に形成した場合にあっては、さらにコロニーが形成される様子を観察しつつ、その様子と(b3)工程および(c3)工程で算出される評価対象菌の増殖率とを比較できる。すなわち、第1培地(第2培地)に接種する評価対象菌の菌数を30個以上300個以下とすることで、第1培地および第2培地にはコロニー数が最大300個しか形成されないため、各培地のコロニー数から(b3)工程および(c3)工程で算出される評価対象菌の増殖率を予想できるとともに、(b3)工程および(c3)工程で算出された評価対象菌の増殖率が妥当かの検証を行うこともできる。
【0070】
後述の実施例では、第2評価方法の変形例を適用しており、香料組成物を接触させることなく培養した場合(第2培地に相当する)に形成されたコロニー数が235個であったため、この培地に接種した初菌数を235個とみなした。
【0071】
また、前述した第1評価方法の変形例を第2評価方法に適用する場合には、第1評価方法の変形例で使用する第1A培地、第1B培地、第1C培地・・・以外にもう一つ固体培地を用意し、これを第2評価方法における第2培地として使用すればよい。すなわち、第2評価方法の変形例としては、第1A培地、第1B培地・・・は、第1評価対象物質、第2評価対象物質・・・を接触させながら評価対象菌を培養する一方、第2培地は、第1評価対象物質、第2評価対象物質・・・のいずれも接触させずに評価対象菌を培養し、これらの培養条件を揃えるということになる。
【0072】
なお、第1培地(第2培地)に接種する評価対象菌の菌数を30個以上300個以下とするのが難しく、第2評価方法の変形例を適用できない場合であっても、他の菌数測定法を適用すれば、第1培地および第2培地に接種された評価対象菌の菌数を測定できるため、第1評価方法および第2評価方法の実施には何ら問題はない。また、後述の第6評価方法により抗菌率を直接算出する場合には、第1評価方法および第2評価方法の(a)工程で用意した接種済固体培地に存在する評価対象菌の菌数(すなわち培養前の第1培地および第2培地に存在する菌数)が不明であっても実施可能である。
【0073】
(第3評価方法)
本発明の第3の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第3評価方法」という場合がある。)は、第2評価方法に加え、以下の工程を含む。
【0074】
(d1)下記計算式3に基づき、(b1)工程の条件における評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【0075】
【数13】
【0076】
すなわち、図2に示すように、第3評価方法において、(d1)工程では、計算式3に示すように、(b3)工程で算出された、第1培地における、評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の増殖率を、(c3)工程で算出された、第2培地における、評価対象物質から発生する蒸気を接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件において培養した評価対象菌の増殖率で除すことで、細胞分裂の抑制率(例えば0.01、0.001等)が算出される。その後、この細胞分裂の抑制率を1から引いて100を掛けることで、(b1)工程の条件(温度、時間等)における評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率(例えば99%、99.9%)が百分率で算出される。
【0077】
以上より、第3評価方法によれば、評価対象菌が増殖可能な環境下において評価対象物質から発生する蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の抗菌率が算出されるので、評価対象物質から発生する蒸気による評価対象菌の細胞分裂の抑制効果を、第2評価方法に比べてよりわかりやすく定量的に評価することができる。
【0078】
なお、第3評価方法において、抗菌率は百分率で表示すると理解が容易であるが、これに限定されるものではない。
【0079】
(第4評価方法)
本発明の第4の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第4評価方法」という場合がある。)は、以下のように、第1評価方法、第2評価方法または第3評価方法(以下「第1~第3評価方法」という。)の一部の工程を限定するものであって、第1~第3評価方法の(a)工程が以下の工程を含む。
【0080】
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、(a2)固体培地のそれぞれに、評価対象菌の懸濁液を同体積で平板塗沫法により接種し、接種済固体培地を用意する工程。
【0081】
図3は第4評価方法の各工程を示すフロー図である。図3に示すように、第4評価方法において、(a1)工程では、評価対象菌が増殖可能な固体培地が複数用意される。次に、(a2)工程では、(a1)工程で用意された固体培地のそれぞれに、評価対象菌の懸濁液が同体積で(すなわち、一定量ずつ)平板塗沫法により接種される。(a2)工程における「平板塗沫法」は、前述したように、固体培地(寒天培地)が固化してから菌液(菌の懸濁液)を培地表面に滴下した後にコンラージ棒等で塗布する方法を意味する。
【0082】
以上より、第4評価方法によれば、第1~第3評価方法の(a)工程において、接種された前記評価対象菌の菌数がそれぞれ同じである接種済固体培地を複数用意することができる。特に、第4評価方法によれば、各固体培地に接種される菌数を懸濁液の体積(固体培地への滴下量)で容易に調整することができるため、各固体培地に対して、体積あたりの菌数が一定である懸濁液を同体積で接種することで、各固体培地に接種される菌数を同一にすることができる。なお、ここでいう「菌数が同じ」とは、菌数が1個単位で同じであることは要求されず、少なくとも同じオーダー(次数)であって、好ましくは有効数字2桁の精度で同じであることを意味する。
【0083】
また、第4評価方法によれば、評価対象菌は平板塗沫法により固体培地の表面に接種されるため、前述したように(b1)工程において評価対象物質から発生する蒸気を評価対象菌に直接接触させながら培養することができ、その結果、評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気が奏する抗菌効果を適切に評価できる。また、第4評価方法によれば、コロニーが全て固体培地(の表面)上に形成されるため、コロニーの観察およびコロニー数の測定が容易になる。さらに、第4評価方法によれば、評価対象菌は培養後も固体培地(第1培地)の表面に存在しているため、後述の第5評価方法の(b21)工程にて、滅菌水などの液体を第1培地に添加し評価対象菌を洗い出して懸濁液として回収することが容易になる。
【0084】
なお、第4評価方法において、評価対象菌の懸濁液は、時間経過によって評価対象菌が沈殿する可能性があるため、接種前に十分撹拌して、体積あたりの菌数が一定であるような状態で接種する(以下、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法において同じ。)。懸濁液の接種体積は特に限定されないが、接種体積を10~100μLとすると、平板塗沫法による接種が容易に行えるため好ましい。
【0085】
(第5評価方法)
本発明の第5の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第5評価方法」という場合がある。)は、以下のように、第2評価方法の一部の工程を限定するものであって、第2評価方法の(b2)工程が以下の工程を含む。
【0086】
(b21)(b1)工程で培養した後の第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する評価対象菌を懸濁液として回収する工程、(b22)(b21)工程で得られた懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、(b23)評価対象菌が増殖可能な第1培地菌数測定用固体培地を複数用意し、第1培地菌数測定用固定培地のそれぞれに(b22)工程で得られた希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、(b24)(b23)工程で希釈液を接種した第1培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、(b25)(b24)工程の後、コロニーが形成された第1培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、(b26)(b25)工程で測定したコロニー数が30個以上300個以下である第1培地菌数測定用固体培地において、当該第1培地菌数測定用固体培地に接種した希釈液の希釈倍率および体積と、当該第1培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数と、菌懸濁のために第1培地に添加された液体の体積とから下記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数を算出する工程。
【0087】
【数14】
【0088】
図4は第5評価方法の各工程を示すフロー図である。図4に示すように、第5評価方法にあっては、(b21)工程において、(b1)工程で培養した後の第1培地に液体を添加し、当該第1培地に存在する評価対象菌が懸濁液として回収される。(b21)工程では、第1培地に存在する評価対象菌を回収するために、滅菌水などの液体を第1培地に添加し、第1培地の表面に存在する評価対象菌を洗い出して評価対象菌の懸濁液を得る。なお、第1培地には、第1評価方法において評価対象物質から発生した蒸気が接触して蒸気中の成分が第1培地に残存する可能性があるが、次の(b22)工程で相応の倍率で希釈される(コロニー数が測定できる希釈倍率は後述するように105~108倍である)ため、後の(b24)工程での評価対象菌の培養への残存する評価対象物質の影響は無視できるほど小さいことを本発明者らは確認している。
【0089】
次に、(b22)工程において、(b21)工程で得られた懸濁液が段階的に設定した希釈倍率により希釈され、評価対象菌の濃度の異なる希釈液がそれぞれ得られる。ここで「段階的に設定した希釈倍率」とは、所定の差または比率に基づいて設定した希釈倍率を意味し、例えば、(i)10倍、102倍、103倍、104倍・・・、(ii)2倍、22倍、23倍、24倍・・・のように、ある数字を累乗した値を希釈倍率として設定することが好ましく、コロニー数が30個以上300個以下となる菌数測定用固体培地を確実に1つ用意できる観点から(i)が特に好ましい。また、「評価対象菌の濃度」とは、評価対象菌の懸濁液において、体積あたりの菌数を意味する(以下、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法において同じ。)。
【0090】
次に、(b23)工程において、評価対象菌が増殖可能な第1培地菌数測定用固体培地が複数用意され、第1培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、(b22)工程で得られた希釈液のそれぞれが同体積で接種される。ここで、「菌数測定用固体培地」は、便宜上、他の工程で登場する「固体培地」と区別するために「菌数測定用」としたものであって、第4評価方法の(a1)工程で用意される「固体培地」と同じものでも異なるものであってもよい。同様に、「第1培地菌数測定用固体培地」は、便宜上、後述する「第2培地菌数測定用固体培地」と区別するために「第1培地菌数測定用」としたものであって、後述の(c23)工程で用意される「第2培地菌数測定用固体培地」と同じものでも異なるものであってもよい。
【0091】
また、(b23)工程にあっては、評価対象菌の接種方法は特に限定されないが、各希釈液の体積が1mL以上となることが通常であり、このような体積での接種が容易な混釈法、すなわち固体培地(寒天培地)が固化する前に菌と混合して培地を固化して菌を培地に接種する方法により評価対象菌を接種することが好ましい。そのため、(b23)工程において、混釈法により評価対象菌を接種する場合における「固体培地を用意する」とは、(水に溶解する前の)粉末状、顆粒状または(固化前の)液状の固体培地(寒天培地)を用意する、という意味であり、その後、希釈液を(固化前の)液状の固体培地(寒天培地)と混合して評価対象菌が接種された後に、この培地が固化することになる。一方、(b23)工程において、平板塗沫法により評価対象菌を接種する場合における「固体培地を用意する」とは、第4評価方法と同様に、評価対象菌を接種するまでに固化した固体培地を用意する、という意味となる。
【0092】
また、(b23)工程で使用する固体培地の底面積に関し、(b26)工程および後述の(c26)工程において、コロニー数が30個以上300個以下である培地を容易に特定できるようにするために、第1培地菌数測定用固体培地(第2培地菌数測定用固体培地)の底面積を50cm2以上80cm2以下とすることが好ましい。これによりコロニーが30個以上300個以下形成された場合にコロニー同士が目視により区別して観察でき、その結果適切にコロニー数を測定することができる。仮に、第1培地菌数測定用固体培地(第2培地菌数測定用固体培地)の底面積が50cm2未満または80cm2を超える場合には、1cm2あたりのコロニー数が0.375個/cm2以上6個/cm2以下を満たすよう、(b26)工程で特定する培地のコロニー数を調整すればよい。
【0093】
次に、(b24)工程において、(b23)工程で各希釈液を接種した第1培地菌数測定用固体培地のそれぞれが、同一条件で培養される。前述したように、(b24)工程では、次の(b25)工程でコロニー数を適切に測定できるよう、第1培地菌数測定用固体培地のいずれかにおいて、コロニー数が30個以上300個以下となったところ(第1培地菌数測定用固体培地の底面積が50cm2未満または80cm2を超える場合には、1cm2あたりのコロニー数が0.375個/cm2以上6個/cm2以下を満たしたところ)で培養をやめておく必要がある。
【0094】
次に、(b25)工程において、(b24)工程の後、コロニーが形成された第1培地菌数測定用固体培地のコロニー数が測定され、コロニー数が30個以上300個以下である第1培地菌数測定用固体培地が特定される。なお、コロニー数が30個以上300個以下である菌数測定用固体培地が得られなかった場合には、(b22)工程から別の希釈倍率を設定してやり直せばよい。
【0095】
次に、(b26)工程では、(b25)工程において特定されたコロニー数が30個以上300個以下である第1培地菌数測定用固体培地に接種した希釈液の希釈倍率および体積と、菌懸濁のために第1培地に添加された液体の体積と、当該第1培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数とから上記計算式4に基づき、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数が算出される。
【0096】
ここで、計算式4において、「第1培地から回収された懸濁液の体積」ではなく、「菌懸濁のために第1培地に添加された液体の体積」を用いた理由について説明する。前述の通り、(b21)工程では、第1培地に存在する評価対象菌を回収するために、滅菌水などの液体を第1培地に添加し、第1培地の表面に存在する評価対象菌を洗い出して評価対象菌の懸濁液を得る。この際、得られた懸濁液を100%回収することは容易ではないが、菌の懸濁が均一に出来ていれば(すなわち懸濁液の体積あたりの菌数が一定であれば)、以下の式変形をすることができる。
【0097】
【数15】
【0098】
計算式4中、説明のために(項1)~(項4)を付した。(項1)×(項2)×(項3)で得られるのは、第1培地から回収された懸濁液中に存在する菌数となる。ここで、懸濁液の体積あたりの菌数が一定であれば、得られた第1培地から回収された懸濁液中に存在する菌数に(項4)をかけると菌懸濁のために第1培地に添加された液体中に存在する菌数が得られるが、これが(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数に相当する。その結果、(項2)の分子と(項4)の分母とが約分され、計算式4においては、「第1培地から回収された懸濁液の体積」が不要となり、「菌懸濁のために第1培地に添加された液体の体積」がわかればよいことになる。すなわち、菌の懸濁を確実に行いさえすれば、懸濁液を100%回収する必要がなく、また回収した懸濁液の体積に影響されないため、実施が容易になる。
【0099】
また、第5評価方法にあっては、評価対象菌を培養することによって菌数を測定するため、(b21)~(b26)工程によって算出されるのは、懸濁液として回収された(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数のうちの生菌数(生存細胞数)である。一般に、評価対象物質の(蒸気の)抗菌効果には、静菌効果(細胞分裂の抑制)と殺菌効果との両方が含まれる。もし他の方法により、懸濁液として回収された評価対象菌の菌数として生菌数と死菌数との合計を得た際に、その菌数が初菌数と変化がなかった場合は、静菌効果によって細胞分裂が抑制されただけなのか、殺菌されたのかが区別できない。一方、第5評価方法のように生菌数を算出すると、評価対象物質から発生する蒸気によって評価対象菌が殺菌された場合には、初菌数よりも減少した値になるため、第5評価方法にあっては、評価対象物質の殺菌効果も適切に評価することができる。
【0100】
なお、第5評価方法の(b21)~(b26)工程によって算出される評価対象菌の菌数(生菌数)は、コロニー形成単位(CFU:colony forming unit)で表記することもあるが、本明細書では「個」で表記する。
【0101】
ここで、第5評価方法の(b26)工程について、具体例に基づき詳細に説明する。下記表1は、ある評価対象菌に対して第5評価方法を適用した場合の、(b21)工程で回収した懸濁液の体積と、(b23)工程で接種した各希釈液の体積と、(b22)工程で得られた各希釈液の希釈倍率(段階的に設定した希釈倍率)と、(b25)工程で測定された各第1培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数と、(b26)工程で算出された評価対象菌の菌数との関係を示したものである。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示すように、コロニーが形成されたのは希釈倍率が107倍よりも小さい希釈液を接種した第1培地菌数測定用固体培地であり、これらが(b24)工程における「コロニーが形成された第1培地菌数測定用固体培地」に相当する。(b25)工程により「コロニーが形成された第1培地菌数測定用固体培地」のコロニー数が計測され、その結果、(b26)工程において「コロニーが形成された第1培地菌数測定用固体培地」の中から「コロニー数が30個以上300個以下である」という条件に当てはまる希釈倍率が106倍の場合の第1培地菌数測定用固体培地が採用される。その後、当該「第1培地菌数測定用固体培地に接種された希釈液の希釈倍率」、当該「第1培地菌数測定用固体培地に接種された希釈液の体積」、「菌懸濁のために第1培地に添加された液体の体積」、および当該「第1培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数」を計算式4に代入することで、以下の通り、懸濁液として回収された(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の菌数を2.2×109個と算出することができる。
【0104】
【数16】
【0105】
なお、この菌数測定法は、1つの評価対象菌が第1培地菌数測定用固体培地で培養された結果、増殖して1つのコロニーを形成するという前提に立っているため、評価対象菌が細胞分裂によって増殖する必要がある。すなわち、上記結果を元に(b21)工程~(b26)工程を振り返ると、(b1)工程で培養した後の第1培地には評価対象菌が2.2×109個存在したところ、(b21)工程において、菌懸濁のために第1培地に10mLの滅菌水を添加して、評価対象菌がこの滅菌水に均一に懸濁されると、第1培地に添加した滅菌水10mLあたり評価対象菌が2.2×109個であり、このうちの6mL分の評価対象菌(1.34×109個)が懸濁液として回収されたことになる。この懸濁液を上記の各希釈倍率で希釈したが、希釈倍率が106倍の希釈液には、希釈液1mLあたり1.34×109÷6÷106=223個の評価対象菌が存在していたことになる。この希釈倍率が106倍の希釈液を第1培地菌数測定用固体培地に接種して培養すると、1つの菌がその近傍において細胞分裂により増殖して約10万個以上になると、1つのコロニーを形成する。全ての菌がそれぞれコロニーを形成できるまで培養すれば、第1培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数が元々接種した菌数に対応することになる。すなわち、(b24)工程では、この希釈倍率が106倍の希釈液を第1培地菌数測定用固体培地に接種して培養すると、223個のコロニーが形成されることになる。(b25)工程により、この第1培地菌数測定用固体培地のコロニー数が223個と測定され、その結果、(b26)工程により、懸濁液として回収された、(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌が上記計算式4により、2.2×109個と算出できる。ここでは、説明のため、第1培地から回収した懸濁液中の評価対象菌の菌数も算出しているが、前述した通り、第1培地から回収した懸濁液の体積は約分され計算には不要となるため、菌懸濁のために第1培地に添加した液体(滅菌水)の体積がわかれば、計算式4から第1培地に存在する評価対象菌の菌数を直接求めることができる。
【0106】
なお、希釈倍率が107倍の場合は、コロニー数が20個であったため、「コロニー数が30個以上300個以下である」という条件に該当せず採用しない。これは、希釈倍率が107倍の場合は、コロニーが形成されない程度に評価対象菌が増殖している可能性があり、この場合コロニー数には反映されないためである。
【0107】
また、希釈倍率が105倍の場合は、コロニー数が2000個以上であったため、「コロニー数が30個以上300個以下である」という条件に該当せず採用しない。これは、希釈倍率が105倍の場合には、コロニー数が2000個以上であることはわかったが、コロニーが多すぎて正確に数えることが難しいためである。
【0108】
なお、表1では記載を省略したが、希釈倍率が104倍よりも小さい場合のコロニー数は、105倍のときよりもさらに多く、コロニーを数えることが困難であることは言うまでもない。
【0109】
また、第5評価方法は、(b2)工程だけでなく(c2)工程にも当然に適用できる。すなわち、第5評価方法の変形例としては、以下のように、第3評価方法の一部の工程を限定するものとして、第3評価方法の(c2)工程が以下の工程を含む。
【0110】
(c21)(c1)工程で培養した後の第2培地に液体を添加し、当該第2培地に存在する評価対象菌を懸濁液として回収する工程、(c22)(c21)工程で得られた懸濁液を段階的に設定した希釈倍率により希釈して評価対象菌の濃度の異なる希釈液をそれぞれ得る工程、(c23)評価対象菌が増殖可能な第2培地菌数測定用固体培地を複数用意し、第2培地菌数測定用固定培地のそれぞれに、(c22)工程で得られた希釈液のそれぞれを同体積で接種する工程、(c24)(c23)工程で希釈液を接種した第2培地菌数測定用固体培地のそれぞれを、同一条件で培養する工程、(c25)(c24)工程の後、コロニーが形成された第2培地菌数測定用固体培地のコロニー数を測定する工程、(c26)(c25)工程で測定したコロニー数が30個以上300個以下である第2培地菌数測定用固体培地において、当該第2培地菌数測定用固体培地に接種した希釈液の希釈倍率および体積と、菌懸濁のために第2培地に添加された液体の体積と、当該第2培地菌数測定用固体培地に形成されたコロニー数とから下記計算式4’に基づき、(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する評価対象菌の菌数を算出する工程。
【0111】
【数17】
【0112】
第5評価方法の変形例にあっては、評価対象菌を培養することによって菌数を測定するため、(c21)~(c26)工程によって算出されるのは、懸濁液として回収された(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する評価対象菌の菌数のうちの生菌数である。したがって、第5評価方法によって、懸濁液として回収された(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の生菌数を算出した際には、第5評価方法の変形例によって、(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する評価対象菌の生菌数を算出することによって、同一の基準にてこれらを適切に比較・評価することができる。
【0113】
(第6評価方法)
本発明の第6の実施の形態に係る抗菌活性評価方法(以下「第6評価方法」という場合がある。)は、以下の工程を含む。
【0114】
(a1)細胞分裂によって増殖する評価対象菌が増殖可能な固体培地を複数用意する工程、(a2)固体培地のそれぞれに、評価対象菌の懸濁液を同体積で接種する工程、(b1)(a2)工程で評価対象菌を接種した固体培地のうちの一つを第1培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を第1培地に接触させながら第1培地に接種した評価対象菌を培養する工程、(b2)(b1)工程の後、第1培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(c1)(a2)工程で評価対象菌を接種した固体培地のうちの第1培地以外の一つを第2培地とし、評価対象物質から発生する蒸気を第2培地に接触させないこと以外は(b1)工程と同じ条件において、第2培地に接種した評価対象菌を培養する工程、(c2)(c1)工程の後、第2培地に存在する評価対象菌の菌数を測定する工程、(d2)下記計算式5に基づき、(b1)工程の条件における評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率を算出する工程。
【0115】
【数18】
【0116】
図5は第6評価方法の各工程を示すフロー図である。図5に示すように、第6評価方法は、第1評価方法(図1参照)、第2評価方法(図2参照)、第3評価方法(図2参照)および第4評価方法(図3参照)を組み合わせて1つの方法としたものとほぼ同じであるが、第6評価方法にあっては、第1評価方法および第2評価方法の(a)工程で用意した接種済固体培地に存在する評価対象菌の菌数(すなわち培養前の第1培地および第2培地に存在する菌数)が既知である必要がなく、また第4評価方法の(a2)工程で接種する評価対象菌の懸濁液の濃度が既知である必要がない点が異なる。
【0117】
以下、培養前の第1培地および第2培地に存在する菌数、および、懸濁液の濃度(単位体積あたりの菌数)が不明でも構わない理由について説明する。「第3評価方法」の項目で説明したように、(b1)工程の条件における評価対象菌に対する評価対象物質から発生する蒸気の抗菌率は、再掲する計算式3で与えられる。
【0118】
【数19】
【0119】
ここで、計算式3中の第1培地における増殖率は、「第1評価方法」の項目で説明したように、再掲する計算式1で与えられる。
【0120】
【数20】
【0121】
また、計算式3中の「第2培地における増殖率」は、「第2評価方法」の項目で説明したように、再掲する計算式2で与えられる。
【0122】
【数21】
【0123】
ここで、「第4評価方法」の項目で説明したように、(a2)工程では、固体培地のそれぞれに、(体積あたりの菌数が一定である)評価対象菌の懸濁液を同体積で接種していることから、「培養前の第1培地に存在する菌数」と「培養前の第2培地に存在する菌数」とは同じである。したがって、計算式1と計算式2を計算式3に代入して整理すると、以下の計算式5のようになる。
【0124】
【数22】
【0125】
以上より、第6評価方法にあっては、(a2)工程において、固体培地のそれぞれに、評価対象菌の懸濁液を「同体積で」接種する必要はあるものの、培養前の第1培地および第2培地に存在する菌数が既知である必要がなく、第1培地および第2培地に接種した評価対象菌の懸濁液の濃度(単位体積あたりの菌数)が不明でも構わない(問題ない)ため、第1評価方法、第2評価方法、第3評価方法および第4評価方法を組み合わせて1つの方法としたものよりも簡便で工程数の削減が見込める点において有利である。また、図5に示すように、第6評価方法にあっては、第2評価方法における(b3)工程、および第3評価方法における(c3)工程が存在せず(図2参照)、培養後の第1培地に存在する菌数および培養後の第2培地に存在する菌数から直接抗菌率を求めることができ、第3評価方法よりも簡便で工程数の削減が見込める点において有利である。
【0126】
また、第6評価方法、第5評価方法および第5評価方法の変形例を組み合わせると、第6評価方法において、懸濁液として回収された(b1)工程で培養した後の第1培地に存在する評価対象菌の生菌数、および、懸濁液として回収された(c1)工程で培養した後の第2培地に存在する評価対象菌の生菌数を算出することができるため、第6評価方法で算出される抗菌率において、評価対象物質の殺菌効果も適切に評価することができる(詳細は第5評価方法の項目を参照。)。
【0127】
(評価対象菌)
本実施の形態に係る抗菌活性評価方法において、使用可能な(評価可能)な評価対象菌としては、前述したように、細胞分裂によって増殖する細菌(バクテリア)または一部の酵母が挙げられ、例えば、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、表皮ブドウ球菌、アクネ菌、コリネバクテリウム、バチラス(Bacillus)属、肺炎桿菌、腸球菌(エンテロコッカス属)、カンジダ属(酵母)、サッカロマイセス属(酵母)、マラセチア属(皮膚常在酵母、皮膚病菌)が挙げられる。一方、カビなどの多細胞生物では、1つの菌が培養された結果、増殖して1つのコロニーを形成するという条件を満たさず、本実施の形態に係る評価対象菌としては不適である。
【0128】
(固体培地)
本実施の形態に係る抗菌活性評価方法において、使用可能な固体培地は、炭素源、窒素源などの栄養分を含み、評価対象菌の増殖が可能な固体培地であれば、特に限定されず、例えば、評価対象菌が、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、腸炎球菌等である場合には、SCDLP培地、血液寒天培地、チョコレート培地、BRB乳糖寒天培地、ハートインフュジョン培地、ブレインハートインフュジョン培地、SCD培地、普通寒天培地、標準寒天培地が例示できる。また、評価対象菌がカンジダ属、サッカロマイセス属、マラセチア属である場合には、YM培地、サブロー培地、ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)、SD培地、YPD培地が例示できる。
【0129】
本実施の形態に係る固体培地は、さらに、検出対象菌以外の菌を抑制する選択剤を含んでいてもよい。例えば、検出対象が多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどの多剤耐性菌である場合、マッコンキー寒天培地、DHL寒天培地、NAC寒天培地などを使用することもできる。一方、検出対象がバンコマイシン耐性腸球菌である場合、胆汁-エスクリン-アジド寒天培地、KF連鎖球菌寒天培地などを使用することもできる。また、検出対象がバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン中程度耐性黄色ブドウ球菌である場合、マンニット食塩培地、卵黄加マンニット食塩培地、エッグヨーク食塩培地、スタフィロコッカスNo.110培地、ベアード・パーカー寒天培地などを使用することもできる。
【0130】
また、固体培地に用いられる固化剤としては、寒天、アガロースなど通常使用されているものを使用できる。固体培地には、さらに酵素基質が含まれていても本発明には影響しない。
【0131】
(容器)
本実施の形態に係る抗菌活性評価方法における、各種培養工程に使用可能な容器について説明する。本実施の形態に係る容器にあっては、図1に示す第1評価方法、図2に示す第2評価方法および図5に示す第6評価方法の(b1)評価対象物質蒸気接触培養工程において、評価対象物質から発生する蒸気を培地に接触させながら培養するために、培地と評価対象物質とを収容(収納)可能な容器であればよい。具体例としては、培地を形成したシャーレと評価対象物質とを収納できる容器や、培地を形成することができ、かつ所定の高さを有する円筒状の透明容器(後述の実施例参照。)などが例示できる。
【0132】
なお、本実施の形態に係る(b1)評価対象物質蒸気接触培養工程にあっては、培地を形成したシャーレと評価対象物質とを収納できる空間であれば、容器として形成されている必要はなく、部屋などでも実施可能である。また、評価対象物質から発生する蒸気は、自然に蒸発したものを培地表面に接触させることもできるし、また、例えば送気装置などで強制的に培地表面に接触させることもできる。
【0133】
後述の実施例に示すように、実施コストを削減する目的、および/または複数の評価対象物質の評価を同時に行う目的を達するために、底部が透明で、かつ、底面積が50cm2以上80cm2以下(直径8cm以上10cm以下)で高さが10cm以上20cm以下の円筒状容器を用いることが好ましい。底部が透明で、かつ、底面積が50cm2以上80cm2以下(直径8cm以上10cm以下)の容器を用いることで、容器の底部に固体培地(寒天培地)を形成でき、培地に形成されたコロニーを容器の外方から観察し、かつ、コロニー数を測定することができる。また、容器の底面積を50cm2以上80cm2以下(直径8cm以上10cm以下)とすることで、一般的なシャーレ(直径8cm以上10cm以下)と同様に、容器の底部に固体培地(寒天培地)を形成することができ、コロニーが30個以上300個以下形成された場合にコロニー同士が区別して観察でき、その結果適切にコロニー数を測定することができる。さらに、容器の高さを10cm以上20cm以下とすることで、後述の実施例の図9に示すように、容器を倒置して、容器の下部(倒置前の容器の上部に相当)に評価対象物質(を染み込ませたろ紙)を置いて培養することで、容器の上部(倒置前の容器の下部に相当)に形成された固体培地と評価対象物質とが所定の距離をおくことで評価対象物質から発生する蒸気が固体培地(の表面)に適切に接触しながら評価対象菌を培養することができる。また、容器内に評価対象物質から発生した蒸気が飽和することを防ぐため、容器の一部に通気孔を有していてもよいし、容器の下部をわずかに浮かせることで通気させてもよい。
【0134】
本実施の形態に係る容器は、プラスチック等の樹脂、ガラス、アルミまたはステンレスなどが使用可能であるが、内部が観察可能なように透明な材質であり、かつ、内部を無菌的状態にするため、常用される滅菌操作を施すことが可能な材質であることが好ましい。その結果、本実施の形態に係る容器は、操作性、耐衝撃性、耐薬品性等の観点から、後述の実施例で使用する図6に示すようなガラス製で略円筒状の容器が好適である。
【0135】
(評価対象物質)
本実施の形態に係る抗菌活性評価方法にあっては、評価対象物質は揮発可能な成分を含むものであれば特に限定されるものではないが、評価対象物質が、香料組成物であることが好ましい。前述したように、近年、消費者の衛生に対する関心が高まり、抗菌および/または除菌を謳った製品が増加しており、特に、芳香剤、ディフューザーまたはスプレーなどにより、抗菌作用および/または除菌作用を有する化合物の気体を拡散させるか、抗菌作用および/または除菌作用を有する化合物を含む液体を噴霧しこの液体からが当該化合物の気体を蒸発させることで、空間を抗菌および/または除菌する製品が多く見られるようになった。これらの製品の多くは香料組成物が含まれている。香料組成物は揮発性の香料化合物を有効成分としており、もし香料化合物に抗菌効果および/または除菌効果があれば、抗菌剤および/または除菌剤を別途添加する必要がなくなる。以上のことから、香料組成物の抗菌活性の評価方法を確立することは喫緊の課題であって、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法にあっては、これを解決できる。
【0136】
また、空間の抗菌および/または除菌を訴求する製品は、人体に接触する可能性が多いため、安全性(毒性、刺激性および感作性等)を重視し抗菌作用および/または除菌作用が比較的穏やかな製品を求めるケースも増加している。この点、香料組成物の抗菌効果は、他の抗菌剤に比べてマイルドであり、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法が抗菌効果の強弱に関わらずその抗菌効果を適切に評価できる点で、評価対象物質が香料組成物である場合に好適である。
【0137】
本実施の形態において「抗菌活性を有する香料組成物」とは、(i)抗菌活性を有する香料化合物を有効成分として含有する、または(ii)抗菌活性を有する香料組成物としては、抗菌活性を有する(香料化合物ではない)揮発性化合物と、他の香料化合物とを有効成分として含有するものであって、各種物品に添加することができるものをいう。
【0138】
ここで、抗菌活性を有する香料化合物を「有効成分として含有する」とは、所望の抗菌効果を発揮するのに十分な量で含有することを意味する。したがって、本実施の形態において、抗菌活性を有する香料組成物は、抗菌活性を有する香料化合物のみを含有してもよいが、所望の香気を損なわない限りにおいて、他の香料成分や、溶剤等の他の添加物などを含有していてもよい。本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物の形態は特に限定されず、水溶性香料組成物、油溶性香料組成物、乳化香料組成物が例示できる。
【0139】
本実施の形態に係る香料組成物中の抗菌活性を有する香料化合物の濃度(抗菌活性を有する香料化合物を複数含有する場合は、その合計濃度。以下同じ。)は、香料組成物の添加対象に応じて任意に決定できる。本実施の形態に係る香料組成物の全体質量に対する抗菌活性を有する香料化合物の濃度としては、0.1ppt~100%、好ましくは0.001ppm~50%、より好ましくは0.1ppm~10%の範囲内が挙げられる。より具体的には、抗菌活性を有する香料化合物の濃度としては、下限値を0.1ppt、10ppt、100ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、10%、50%のいずれかとし、上限値を100%、50%、10%、1%、1000ppm、100ppm、10ppm、1ppm、100ppb、10ppb、1ppb、100ppt、10ppt、1pptのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせによる範囲内とすることができるが、これらに限定されない。
【0140】
本実施の形態において、抗菌活性を有する香料化合物は特に限定されるものではないが、抗菌活性を有する香料化合物の例としては、シトラール、シンナムアルデヒド、チモール、オクタナール、ぺリルアルデヒド、ゲラニオールが挙げられる。また、抗菌活性を有する精油の例としては、ティートリー油、ラベンダー、タイム、シナモンバーク油、ペパーミント油、パルマローズ油、レモングラス油、ユズ油が挙げられる。
【0141】
また、前述したように、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、抗菌活性を有する香料化合物に加えて、さらに他の任意の化合物または成分を含有し得る。他の任意の化合物または成分として、各種の香料化合物または香料組成物、水溶性高分子化合物(アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、セルロース誘導体、架橋ポリアクリル酸、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジウム等)、油性成分(油脂類、ロウ類、高級アルコール(セチルアルコール(セタノール)、2-ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、2-オクチルドデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、デシルテトラデカノール、ラノリンアルコール等)、炭化水素類(ミネラルオイル、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン)、高級脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ラノリン脂肪酸等)、アルキルグリセリルエーテル(バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコール、イソステアリルグリセリルエーテル等)、エステル類(アジピン酸ジイソプロピル、イソノナン酸イソノニル、リシノール酸オクチルドデシル、10~30の炭素数を有する不飽和脂肪酸コレステリル/ラノステリル、乳酸セチル、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジオクチル、2-エチルヘキサン酸セチル)、シリコーン類)、界面活性剤(イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられ、イオン性界面活性剤には、カチオン性界面活性剤(塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム等)、アニオン性界面活性剤(アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホン脂肪酸塩、ココイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルアミノ酸型界面活性剤、リン酸モノ又はジエステル型界面活性剤、スルホコハク酸エステル等)及び両性界面活性剤(ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ラウリルベタイン等))、糖類、防腐剤(安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、フェノキシエタノール等)、キレート剤、安定剤(フェナセチン、8-ヒドロキシキノリン、アセトアニリド、ピロリン酸ナトリウム、バルビツール酸、尿酸、タンニン酸等)、pH調整剤(クエン酸、酒石酸、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、ピロリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、安息香酸、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、塩基性アミノ酸等)、植物抽出物、ビタミン類、紫外線吸収剤、油溶性色素類、機能性物質、魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類、酵母エキス類、動植物タンパク質類、動植物タンパク分解物類、澱粉、デキストリン、糖類、アミノ酸類、核酸類、有機酸類、溶剤などを例示することができる。各種の香料化合物または香料組成物としては、例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料、平成12年1月14日発行」、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第III部香粧品用香料、平成13年6月15日発行」「日本における食品香料化合物の使用実態調査」(平成12年度厚生科学研究報告書、日本香料工業会、平成13年3月発行)、および「合成香料 化学と商品知識」(2016年12月20日増補新版発行、合成香料編集委員会編集、化学工業日報社)に記載されている合成香料化合物(合成香料)、天然精油、天然香料などを挙げることができる。
【0142】
合成香料化合物の具体例として、炭化水素化合物としては、α-ピネン、β-ピネン、γ-テルピネン、ミルセン、カンフェン、リモネンなどのモノテルペン、バレンセン、セドレン、カリオフィレン、ロンギフォレンなどのセスキテルペン、1,3,5-ウンデカトリエンなどが挙げられる。
【0143】
合成香料化合物の具体例として、アルコール化合物としては、ブタノール、ペンタノール、3-オクタノール、ヘキサノールなどの飽和アルカノール、(Z)-3-ヘキセン-1-オール、プレノール、2,6-ノナジエノールなどの不飽和アルコール、リナロール、ゲラニオール、シトロネロール、テトラヒドロミルセノール、ファルネソール、ネロリドール、セドロール、α-ターピネオール、テルピネン-4-オール、ボルネオールなどのテルペンアルコール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコールが挙げられる。
【0144】
合成香料化合物の具体例として、アルデヒド化合物としては、アセトアルデヒド、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、ヒドロキシシトロネラールなどの飽和アルデヒド、(E)-2-ヘキセナール、2,4-オクタジエナールなどの不飽和アルデヒド、シトロネラール、シトラール、ミルテナール、ペリルアルデヒドなどのテルペンアルデヒド、ベンズアルデヒド、シンナミルアルデヒド、バニリン、エチルバニリン、ヘリオトロピン、p-トリルアルデヒドなどの芳香族アルデヒドが挙げられる。
【0145】
合成香料化合物の具体例として、ケトン化合物としては、2-ヘプタノン、2-ウンデカノン、1-オクテン-3-オン、アセトイン、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン(メチルヘプテノン)などの飽和および不飽和ケトン、ジアセチル、2,3-ペンタンジオン、マルトール、エチルマルトール、シクロテン、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンなどのジケトンおよびヒドロキシケトン、カルボン、メントン、ヌートカトンなどのテルペンケトン、α-イオノン、β-イオノン、β-ダマセノンなどのテルペン分解物に由来するケトン、ラズベリーケトンなどの芳香族ケトンが挙げられる。
【0146】
合成香料化合物の具体例として、フランまたはエーテル化合物としては、フルフリルアルコール、フルフラール、ローズオキシド、リナロールオキシド、メントフラン、テアスピラン、エストラゴール、オイゲノール、1,8-シネオールなどが挙げられる。
【0147】
合成香料化合物の具体例として、エステル化合物としては、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸オクチル、酪酸エチル、イソ酪酸エチル、酪酸イソアミル、2-メチル酪酸エチル、イソ吉草酸エチル、イソ酪酸2-メチルブチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸アリル、ヘプタン酸エチル、カプリル酸エチル、イソ吉草酸イソアミル、ノナン酸エチルなどの脂肪族エステル、酢酸リナリル、酢酸ゲラニル、酢酸ラバンジュリル、酢酸テルぺニル、酢酸テルピニル、酢酸ネリルなどのテルペンアルコールエステル、酢酸ベンジル、サリチル酸メチル、ケイ皮酸メチル、プロピオン酸シンナミル、安息香酸エチル、イソ吉草酸シンナミル、3-メチル-2-フェニルグリシド酸エチルなどの芳香族エステルが挙げられる。
【0148】
合成香料化合物の具体例として、ラクトン化合物としては、γ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトンなどの飽和ラクトン、7-デセン-4-オリド、2-デセン-5-オリドなどの不飽和ラクトンが挙げられる。
【0149】
合成香料化合物の具体例として、酸化合物としては、酢酸、酪酸、イソ吉草酸、カプロン酸、オクタン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの飽和・不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0150】
合成香料化合物の具体例として、含窒素化合物としては、インドール、スカトール、ピリジン、アルキル置換ピラジン、アントラニル酸メチル、トリメチルピラジンなどが挙げられる。
【0151】
合成香料化合物の具体例として、含硫化合物としては、メタンチオール、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、アリルイソチオシアネート、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メチル-2-ブタンチオール、3-メチル-1-ブタンチオール、2-メチル-1-ブタンチオール、3-メルカプトヘキサノール、4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン、酢酸3-メルカプトヘキシル、p-メンタ-8-チオール-3-オンおよびフルフリルメルカプタンなどが挙げられる。
【0152】
天然精油としては、スイートオレンジ、ビターオレンジ、プチグレン、レモン、ベルガモット、マンダリン、ネロリ、ペパーミント、スペアミント、ラベンダー、カモミール、ローズマリー、ユーカリ、セージ、バジル、ローズ、ヒヤシンス、ライラック、ゼラニウム、ジャスミン、イランイラン、アニス、クローブ、ジンジャー、ナツメグ、カルダモン、スギ、ヒノキ、ベチバー、パチョリ、ラブダナムなどが挙げられる。
【0153】
魚肉エキス類、畜肉エキス類、植物エキス類または酵母エキス類などの各種動植物エキスとしては、ハーブまたはスパイスの抽出物、コーヒー、緑茶、紅茶、またはウーロン茶の抽出物や、乳または乳加工品およびこれらのリパーゼおよび/またはプロテアーゼなどの各種酵素分解物などが挙げられる。
【0154】
また、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、抗菌活性を有する香料化合物を公知の方法によって適切な溶媒や分散媒に添加して調製することができる。すなわち、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物の形態としては、抗菌活性を有する香料化合物やその他の成分を水溶性または油溶性の溶媒に溶解した溶液、乳化製剤などが挙げられる。
【0155】
ここで、水溶性溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、アセトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、2-プロパノール、メチルエチルケトン、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどを例示することができる。
【0156】
油溶性溶媒としては、植物性油脂、動物性油脂、精製油脂類(例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの加工油脂や、トリアセチン、トリブチリンなどの短鎖脂肪酸トリグリセリドが挙げられる)、各種精油、トリエチルシトレート、流動パラフィン、リモネン、ミリスチン酸イソプロピル、ジヒドロアビエチン酸メチル(ハーコリン)などを例示することができる。
【0157】
また、乳化製剤とするためには、本件香気徐放化合物を水溶性溶媒および乳化剤と共に乳化して得ることができる。本件香気徐放化合物の乳化方法としては特に限定されるものではなく、従来から香料組成物の乳化に用いられている各種類の乳化剤、例えば、脂肪酸モノグリセリド、脂肪酸ジグリセリド、脂肪酸トリグリセリド、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン、加工でん粉、ソルビタン脂肪酸エステル、キラヤ抽出物、アラビアガム、トラガントガム、グアーガム、カラヤガム、キサンタンガム、ペクチン、アルギン酸およびその塩類、カラギーナン、ゼラチン、カゼインキラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を使用してホモミキサー、コロイドミル、回転円盤型ホモジナイザー、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化処理することにより安定性の優れた乳化液を得ることができる。また、乳化を安定させるため、係る水溶性溶媒は、水の他に、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、ショ糖、グルコース、トレハロース、糖液、還元水飴などの多価アルコール類の1種類または2種類以上の溶媒を添加して使用することができる。
【0158】
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、さらに必要に応じて、香料組成物において通常使用される成分を含有していてもよい。当該成分として、例えば、水、エタノールなどの溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライドなどの香料保留剤を含有していてもよい。
【0159】
<各種物品への使用>
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、各種物品またはそれに用いる香料組成物などに添加して使用することができる。具体的には、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、それ自体を各種物品に添加してもよいし、1種または2種以上の水溶性香料、乳化香料組成物、任意の香料化合物、または、天然精油(例えば、前掲の「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品用香料」、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第III部香粧品用香料」、「日本における食品香料化合物の使用実態調査」、および「合成香料 化学と商品知識」に記載されている香料化合物および/または香料組成物)と併せて各種物品に添加してもよい。
【0160】
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物の添加対象となる物品としては特に限定されないが、具体例としては、飲食品、香粧品、医薬衛生品などの消費財が挙げられる。本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物は、香粧品に添加して使用することが好ましい。
【0161】
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物を添加可能な飲食品は特に限定されないが、例えば、果汁飲料、野菜飲料、スポーツドリンク、ハチミツ飲料、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養ドリンク、滋養ドリンク、乳酸菌飲料、乳飲料などの食系飲料類;緑茶、紅茶、ウーロン茶、ハーブティー、コーヒー飲料などの嗜好飲料類;チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒などのアルコール飲料類;キャラメル、キャンディー、錠菓などの菓子類を挙げることができる。
【0162】
また、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物を添加可能な香粧品または医薬衛生品は特に限定されないが、例えば、石鹸、身体洗剤、浴用剤、洗剤、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント剤、整髪料、化粧水、基礎化粧料、洗顔剤、仕上げ化粧料、皮膚外用剤、衛生用品、制汗剤、デオドラント剤、浴用剤、洗口剤、ハミガキ、香水、コロン、オードトワレ等、人の身なりを清潔に又は美しくするための製品である化粧品やトイレタリー製品;衣料用洗剤、衣料用柔軟剤、衣料用糊剤、住居用洗剤、風呂用洗剤、食器用洗剤、漂白剤、カビ取り剤、床用ワックス、芳香剤、消臭剤、忌避剤、線香、インセンス等、住居や家庭製品の様々な物品の機能又は清潔性を維持するための製品であるハウスホールド製品や環境衛生製品;インク、文具、玩具その他の日用品等の物品などを挙げることができる。
【0163】
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物を飲食品や香粧品などの各種物品に適用する場合において、各種物品中の抗菌活性を有する香料化合物の濃度は、物品の香気や所望の抗菌効果の程度などに応じて任意に決定できる。
【0164】
本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物を香粧品または医薬衛生品に適用した場合の、本実施の形態に係る抗菌活性を有する香料組成物に含まれる抗菌活性を有する香料化合物の濃度の例としては、香粧品または医薬衛生品の全体質量に対して、1ppm~10%、好ましくは10ppm~1%の範囲内が挙げられる。より具体的には、下限値を1ppm、10ppm、100ppm、0.1%、1%のいずれか、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppmのいずれかとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例0165】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0166】
[実施例1]香料組成物の抗菌活性評価(1)
以下、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法を実施して香料組成物の抗菌活性を評価した具体例について説明する。実施例1では、評価対象菌として大腸菌を、後述の実施例2では黄色ブドウ球菌を、それぞれ用いた。
【0167】
<容器>
まず、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法で使用する容器について説明する。図6は、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法を実施するための容器10を表す側面図である。図6に示すように、容器10は、透明なガラス製で略円筒状(直径8cm、長さ18cm、容積900mL)に形成され、長さ方向一端部に開口部11を有している。後述の工程で使用するため、容器10は複数用意した(以下、容器を区別する必要がある場合には、便宜上容器10a、10b、10c・・・のように表記する。)。
【0168】
<培養>
次に、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によって第1~第9香料組成物の抗菌活性を評価した結果について、各工程を図示しながら説明する。図7~13は、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法の各工程を示す模式図である。図14~18は、本実施例において、香料組成物を接触させないで培養した容器、および第1~第9香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像である。図19は、本実施例において、香料組成物を接触させないで培養した容器、および第1~第9香料組成物を接触させながら培養した容器を観察した画像と、形成されたコロニー数と、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によって算出された菌数とを比較可能に示す説明図である。
【0169】
図7に示すように、まず容器10の底部に固体培地(XM-G寒天培地)20を形成した(図3に示す第4評価方法の(a1)固体培地用意工程、または図5に示す第6評価方法の(a1)固体培地用意工程に相当。)。ここで、XM-G寒天培地とは、食品や環境材料中の大腸菌および大腸菌群の検出に用いられる培地であって、食品衛生検査指針2004、環境省告示第62号(2021)に収載されている。より具体的には、XM-G寒天培地は、グラム陰性菌選択培地に2種類の発色酵素基質(X-GLUC、MAGENTA-GAL)が添加されており、大腸菌を青色の発色で、大腸菌群を赤色の発色で判別できる培地である。XM-G寒天培地の組成は、以下の通りである。
【0170】
<XM-G培地の組成:39.3g(培地1L)中>
ペプトン:10.0g
ピルビン酸ナトリウム:1.0g
L-トリプトファン:1.0g
D-ソルビトール:1.0g
塩化ナトリウム :5.0g
リン酸二水素ナトリウム:2.2g
リン酸一水素ナトリウム:2.7g
硝酸カリウム:1.0g
ラウリル硫酸ナトリウム:0.2g
5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-β-D-グルクロニド(X-GLUC):0.1g
5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリル-β-D-ガラクトピラノシド(MAGENTA-GAL): 0.1g
カンテン:15.0g
(pH 7.0±0.2)
【0171】
顆粒状の培地39.3gを精製水1Lに加温溶解し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌した後に、容器10に20mL入れ、これを固化させることによって容器10の底部に固体培地20を形成した。
【0172】
また、この工程を別の容器10にも行い、固体培地20が形成された容器10を複数用意した。
【0173】
次に、図8に示すように、容器10の底部に形成された固体培地20の表面に1つの培地(容器)あたりの菌数が30個以上300個以下となるように、平面塗沫法により大腸菌30の懸濁液100μLを塗布して接種した(図3に示す第4評価方法の(a2)評価対象菌接種工程、または図5に示す第6評価方法の(a2)評価対象菌接種工程に相当。)。また、この工程を固体培地20が形成された別の容器10にも行い、大腸菌30を接種した固体培地20を有する容器10を複数用意した(図1に示す第1評価方法の(a)評価対象菌接種済固体培地用意工程に相当する。)。
【0174】
次に、図9に示すように、用意した容器10のうちの1つ(以下「容器10a」)を開口部11が下向きになるように倒置させ、その後、開口部11の近傍に第1香料組成物を200μL含浸させたろ紙40(以下「ろ紙40a」)を置き、この状態で培養を開始した。この際、ろ紙40aから第1香料組成物が蒸発し、第1香料組成物の蒸気が固体培地20(以下「固体培地20a」)の表面に接触するようにして、大腸菌30(以下「大腸菌30a」)を35℃で1日(24時間)培養した(図1に示す第1評価方法の(b1)評価対象物質蒸気接触培養工程、図2に示す第2評価方法の(b1)評価対象物質蒸気接触培養工程、または図5に示す第6評価方法の(b1)評価対象物質蒸気接触培養工程に相当し、この容器10aの固体培地20aが第1培地に相当する。)。なお、本実施例では、第1香料組成物以外に第2~第9香料組成物を用意し、第1香料組成物に対して行った以上の工程を第2~第9香料組成物に対しても行った。すなわち、第2~第9香料組成物を用意し、第2~第9香料組成物のそれぞれを含浸させたろ紙40b~40iを用意し、第2~第9香料組成物のそれぞれを容器10b~10iの固体培地20b~20iの表面に接触させながら、固体培地20b~20iに存在する大腸菌30b~30iを容器10aと同一の培養条件にて培養した。
【0175】
また、容器10a~10iとは別の容器10(以下「容器10x」)を用意し、図9に示すように、香料組成物を含浸させないろ紙40xを置いたこと以外は容器10a~10iと同じ条件(35℃で1日(24時間))で、固体培地20(以下「固体培地20x」)に存在する大腸菌30(以下「大腸菌30x」)の培養を開始した(図2に示す第3評価方法の(c1)評価対象物質蒸気非接触培養工程、または図5に示す第6評価方法の(c1)評価対象物質蒸気非接触培養工程に相当し、この容器10xの固体培地20xが第2培地に相当する。)。
【0176】
図10に示すように、容器10は透明であるため、長さ方向他端部側から(図10中、白抜き矢印で示す方向から)固体培地20を観察することができ、その際、大腸菌30が形成したコロニーを目視で確認することができた。図14~18に、容器10x(香料組成物なし)、容器10a~10i(第1香料組成物~第9香料組成物)において実際に観察された画像を示す。また、図19には、容器10x(香料組成物なし)、容器10a~10i(第1香料組成物~第9香料組成物)におけるコロニー数の測定結果(図19のその他の値については後述する。)を示した。
【0177】
<培養後の各培地に存在する生菌数の算出>
次に、図11に示すように、培養後の容器10を開口部11が上向きになるように正置させ、菌懸濁のために滅菌水50を開口部11から容器10の内部に合計10mL注ぎ、固体培地20の表面に存在する大腸菌30を滅菌水50により洗い出して懸濁液60とし、続いて図12に示すように、容器10から懸濁液60を8mL回収した(図4に示す第5評価方法の(b21)評価対象菌回収工程に相当。)。
【0178】
次に、図13に示すように、懸濁液60を希釈倍率10倍ずつ段階的に希釈して、希釈液61、62、63・・・(以下略)を調製した(図4に示す第5評価方法の(b22)希釈液調製工程に相当。)。
【0179】
次に、希釈液61、62、63・・・を接種するための菌数測定用固体培地を用意した。ここでは、菌数測定用固体培地として、XM-G寒天培地を用いることとした。顆粒状の培地39.3gを精製水1Lに加温溶解し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌したものを用意し、これを15mLずつ分け、それぞれに希釈液61、62、63・・・を1mLずつ混ぜ、それぞれを各容器101、102、103・・・に入れて固化させることによって、混釈法により接種を行った(図4に示す第5評価方法の(b23)希釈液接種工程に相当する。)。なお、本実施例では各容器101、102、103・・・を底面積が55cm2のシャーレで行ったが、前述の容器10など、培地が形成可能な容器(ただし、底面積が50cm2以上80cm2以下であることが好ましい。)であればよい。
【0180】
次に、図13に示すように、希釈液61、62、63・・・を接種した各容器101、102、103・・・の固体培地を同一条件で培養した(図4に示す第5評価方法の(b24)培養工程に相当する。)。
【0181】
次に、図13に示すように、希釈液61、62、63・・・を接種した各容器101、102、103・・・の固体培地に形成されたコロニー70を目視で観察し、コロニー数を測定した。図13は模式図でありコロニー数を正しく反映していないが、具体例として挙げると、容器101のコロニー数が2000個以上、容器102のコロニー数が190個、容器103のコロニー数が20個となった。これにより、(底面積55cm2あたりの)コロニー数が30個以上300個以下である容器102を特定した(図4に示す第5評価方法の(b25)コロニー数測定工程に相当する。)。
【0182】
次に、特定したコロニー数が30個以上300個以下である容器102において、この容器の固体培地に接種された希釈液の希釈倍率(具体例として107倍)および体積(1mL)と、菌懸濁のために容器10の固体培地20aに添加された滅菌水の体積(10mL)と、当該固体培地に形成されたコロニー数(具体例として190個)とから上記計算式4(具体例として計算式4a)に基づき、大腸菌の菌数を1.9×1010個と算出した(図4に示す第5評価方法の(b26)評価対象菌数算出工程に相当する。)。
【0183】
【数23】
【0184】
なお、ここで算出されたのは、図19に示すように、第1香料組成物の蒸気を接触させながら培養した容器10aの固体培地20aに存在する大腸菌30aの生菌数であり、1.9×1010CFUということもできる。さらに、菌懸濁のために容器10の固体培地20aに添加された滅菌水の体積(10mL)を考慮し、1.9×109CFU/mLということもできる。
【0185】
以上の工程と同様に、第2~第9香料組成物の蒸気を接触させながら培養した容器10b~10iの固体培地20b~20iに存在する大腸菌30b~30iの生菌数を算出した。同様に、第1~第9香料組成物の蒸気を接触させないで培養した容器10xの固体培地20xに存在する大腸菌30xの生菌数を算出した(前述した第5評価方法の変形例である(c21)~(c26)工程に相当する。)。図19には、容器10x(香料組成物なし)、容器10a~10i(第1香料組成物~第9香料組成物)における生菌数の算出結果(図19の増殖率は、次の工程にて説明する。)を示した。
【0186】
<各培地の増殖率の算出>
次に、上記計算式1に基づいて、容器10a~10iの固体培地20a~20iにおける増殖率を算出した。ここでは、容器10aの場合について詳細に説明する。上記計算式1を容器10aに適用すると次の計算式1aのようになる。
【0187】
【数24】
【0188】
ここで、容器10xの固体培地20x(香料組成物なし)に接種した大腸菌の菌数と、容器10a~10iの固体培地20a~20i(第1~第9香料組成物)に接種した大腸菌の菌数とは同じ(固体培地20xおよび固体培地20a~20iに同じ懸濁液を同じ体積で接種しているため。)である。さらに、図19に示すように、固体培地20x(香料組成物なし)に形成されたコロニー数は235個であり、30個以上300個以下の条件を満たしている。その結果、このコロニー数を、固体培地20xおよび固体培地20a~20iに接種した大腸菌の菌数(初菌数)とみなした(前述の第2評価方法の変形例に相当する。)。
【0189】
以上より、培養前の固体培地20aに存在する菌数の代わりに用いる、固体培地20xに形成されたコロニー数と、一つ前の工程で算出した、培養後の固体培地20aに存在する菌数とを計算式1aに代入し、容器10aの固体培地20aにおける増殖率が8.1×107と算出できた。容器10b~10iの固体培地20b~20iにおける増殖率も同様に上記計算式1に基づいて算出することができるため詳細は割愛する(図1に示す第1評価方法における(b3)評価対象菌増殖率算出工程に相当する。)。また、容器10xの固体培地20xにおける増殖率も同様に上記計算式2に基づいて算出することができるため詳細は割愛する(図2に示す第2評価方法における(c3)評価対象菌増殖率算出工程に相当する。)。
【0190】
図19に、以上で算出した容器10x(香料組成物なし)および容器10a~10i(第1~第9香料組成物)の増殖率の算出結果を示した。
【0191】
図19に示すように、従来のように目視によるコロニーの観察、およびコロニー数の測定によれば、香料組成物なし(容器10x)のコロニー数(235個)よりもコロニー数が少ない第2香料組成物(容器10b、コロニー数:0個)、第3香料組成物(容器10c、コロニー数:133個)、第4香料組成物(容器10d、コロニー数:0個)、第6香料組成物(容器10f、コロニー数:177個)、第7香料組成物(容器10g、コロニー数:0個)、第9香料組成物(容器10i、コロニー数:207個)には抗菌効果があることは定性的に評価できる。
【0192】
しかしながら、香料組成物なし(容器10x)のコロニー数(235個)とコロニー数があまり変わらないか、むしろ多い第1香料組成物(容器10a、コロニー数:275個)、第5香料組成物(容器10e、コロニー数:242個)、第8香料組成物(容器10h、コロニー数:243個)については、抗菌効果があるのかどうかが評価できない。また、コロニー数が0であった第2香料組成物(容器10b、コロニー数:0個)、第4香料組成物(容器10d、コロニー数:0個)、第7香料組成物(容器10g、コロニー数:0個)については、一律で「菌の増殖が認められなかったもの」と判断せざるを得ない。
【0193】
それに対して、図19に示すように、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によって算出した各容器の増殖率に着目すると、香料組成物なし(容器10x)の増殖率(9.4×107)に比べて、第1~第9香料組成物のいずれの増殖率も小さいため、第1~第9香料組成物のいずれも抗菌効果があることが定量的に評価できた。特に、前述したように、第1香料組成物(容器10a、コロニー数:275個)、第5香料組成物(容器10e、コロニー数:242個)、第8香料組成物(容器10h、コロニー数:243個)については、香料組成物なし(容器10x)のコロニー数(235個)よりも多かったが、コロニーの大きさは同じようにも、大きくなっているようにも、小さくなっているようにも見え、抗菌効果があるのかどうかが曖昧である。一方、増殖率で判断すると、いずれも香料組成物なしの場合より小さいということがわかり、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法にあっては、抗菌効果を正確に評価できることが示された。
【0194】
また、図19に示すように、コロニー数が0であった第2香料組成物(容器10b、コロニー数:0個)、第4香料組成物(容器10d、コロニー数:0個)、第7香料組成物(容器10g、コロニー数:0個)については、コロニーが出現していないため抗菌効果があることは明白であるものの、抗菌効果の強弱については比較のしようがなかった。一方、増殖率で判断すると、これらの香料組成物の抗菌効果は全く異なる動向であることが判断できた。すなわち、第2香料組成物(容器10b、増殖率:4.3×104)および第7香料組成物(容器10g、増殖率:3.4×105)は、増殖率が1よりも大きく、コロニーが出現しない程度に菌が増殖しており、香料組成物の蒸気が、大腸菌の細胞分裂をコロニーが出現しない程度に抑制しているということがわかった。一方、第4香料組成物(容器10d、増殖率:2.1×10-1)は、増殖率が1よりも小さく、香料組成物が大腸菌を一部殺菌していることがわかった。
【0195】
したがって、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によれば、コロニーが出現しない場合であっても、香料組成物による大腸菌の細胞分裂抑制度合いを正しく定量的に評価することができた。また、香料組成物の蒸気が、大腸菌の細胞分裂をコロニーが出現しない程度に抑制しているという状況は、大腸菌が増殖可能な環境下で測定することによってはじめて評価できることであり、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法は、例えば、日常生活の菌が増殖するような環境において使用される製品に対する抗菌効果の評価に有用であることが示された。
【0196】
また、以上の結果から、第1~第9香料組成物の大腸菌に対する抗菌効果の強弱も、コロニー数やコロニーの大きさなどの曖昧な要素を排除して正しく判定でき、第1~第9香料組成物の抗菌効果の強いものから順に、第4>第2>第7>第3>第9>第6>第1>第5>第8と順位付けすることができた。
【0197】
以上より、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によれば、大腸菌が増殖可能な環境下において各種香料組成物の蒸気を接触させながら培養した大腸菌の増殖率が算出されるので、実際の生活環境に近い条件において、各種香料組成物の蒸気が大腸菌の細胞分裂をどのように抑制するかを定量的に評価できることが示された。
【0198】
なお、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法にあっては、各容器のコロニーの観察およびコロニー数の測定が不要であるが、各容器(培地)あたりの菌数を30個以上300個以下とし、各容器のコロニー数が30個以上300個程度となるように培養することで、従来の定性的評価も同時に行うことができ、評価法の違いによる抗菌活性の比較および検討を行うこともできる。
【0199】
<香料組成物の大腸菌に対する抗菌率の算出>
次に、第1~第9香料組成物の大腸菌に対する抗菌率を算出した。ここでは、第1香料組成物の場合について詳細に説明する。上記計算式3を第1香料組成物に適用すると次の計算式3aのようになる。
【0200】
【数25】
【0201】
このように、第1香料組成物の大腸菌に対する抗菌率が14%と算出できた。
【0202】
また、増殖率を算出せず、菌数から直接抗菌率を求める場合には、上記計算式5を第1香料組成物に適用すると次の計算式5aのようになる。
【0203】
【数26】
【0204】
このように、第1香料組成物の大腸菌に対する抗菌率が14%と算出できた。第2~第9香料組成物の大腸菌に対する抗菌率も同様に上記計算式3または5に基づいて算出することができるため詳細は割愛する(図2に示す第3評価方法の(d1)抗菌率算出工程または図5に示す第6評価方法の(d2)抗菌率算出工程に相当する。)。表2に、以上で算出した第1~第9香料組成物の大腸菌に対する抗菌率の算出結果を示した(表2には、大腸菌との比較が容易になるよう、後述の実施例2で算出する第2~第9香料組成物の黄色ブドウ球菌に対する抗菌率の算出結果も示した。)。
【0205】
【表2】
【0206】
表2に示すように、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によれば、大腸菌が増殖可能な環境下において各種香料組成物の蒸気を接触させながら培養した大腸菌の抗菌率が算出されるので、各種香料組成物の蒸気による大腸菌の細胞分裂の抑制効果を、前述の増殖率よりさらにわかりやすく定量的に評価することができることが示された。
【0207】
また、計算式5aによって、培養後の各培地に存在する菌数から直接抗菌率を求める場合には、計算式3aよりも簡便で工程数の削減を達成することができた。
【0208】
[実施例2]香料組成物の抗菌活性評価(2)
実施例2では、評価対象菌として大腸菌の代わりに黄色ブドウ球菌を用いて、培地を標準寒天培地とし、培養条件を35℃、2日(48時間)とした以外は実施例1と同様に本実施の形態に係る抗菌活性評価方法を適用した。ここで、標準寒天培地とは、食品や水中の生菌数測定に使用される培地であって、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令、食品衛生検査指針(2018)、上水試験方法(2011)、ISO4833-1:2013に収載され、米国公衆衛生協会の生菌数測定法で用いられるPlate Count Agarの組成に準拠している。より具体的には、標準寒天培地は、窒素源(ペプトン)や炭素源(ブドウ糖)、ビタミン源及びミネラル源(酵母エキス)がバランスよく含まれているため幅広い細菌の発育(増殖)支持能を有しており、また、培地色が無色であることからコロニーの有無を確認しやすいため、生菌数の測定に適している。
【0209】
<標準寒天培地23.5g(1L分)中>
カゼイン製ペプトン:5.0g
酵母エキス:2.5g
ブドウ糖:1.0g
カンテン:15.0g
(pH 7.1±0.1)
【0210】
実施例2にあっては、容器10に固体培地20を形成するにあたり、顆粒状の培地23.5gを精製水1Lに加温溶解し、121℃で15分間高圧蒸気滅菌した後に約50℃に保った液状の培地を容器10に20mL入れ、これを固化させることによって容器10の底部に固体培地20を形成した。
【0211】
表2に、実施例1と同様に算出した第2~第9香料組成物の黄色ブドウ球菌に対する抗菌率の算出結果を示した。
【0212】
以上より、本実施の形態に係る抗菌活性評価方法によれば、単細胞生物であれば菌の種類にかかわらず、評価対象菌が増殖可能な環境下において各種香料組成物の蒸気を接触させながら培養した評価対象菌の抗菌率が算出されるので、各種香料組成物の蒸気による評価対象菌の細胞分裂の抑制効果を、定量的に評価することができることが示された。
【符号の説明】
【0213】
10,10a~10i,10x:容器(ガラス瓶)
20,20a~20i,20x:固体培地
30,30a~30i,30x:大腸菌
40,40a~40i,40x:ろ紙
50:滅菌水
60:懸濁液
61,62,63:希釈液
70:コロニー
101,102,103:容器(シャーレ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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