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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139422
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】磁性体、磁石および磁性粉末
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/047 20060101AFI20241002BHJP
   H01F 1/053 20060101ALI20241002BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241002BHJP
   B22F 3/00 20210101ALN20241002BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241002BHJP
   C22C 19/07 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
H01F1/047
H01F1/053
B22F1/00 Y
B22F3/00 F
B22F3/00 C
C22C38/00 303A
C22C19/07 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050356
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 圭祐
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018AA24
4K018BA04
4K018BA13
4K018BB04
4K018BD01
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA21
4K018KA45
4K018KA46
5E040AA11
5E040AA14
5E040AA19
5E040AB06
5E040BD01
5E040CA01
5E040HB15
5E040NN01
5E040NN06
5E040NN12
5E040NN15
(57)【要約】
【課題】 飽和磁化および保磁力が高い磁性体を提供する。
【解決手段】 A元素およびB元素を有する六方晶系の結晶構造を有する磁性体である。A元素がFe、Co、Ni、Cu、Zn、TiおよびAlから選択される1種以上、B元素がP、Si、S、B、CおよびNから選択される1種以上である。磁性体が第1相と、第2相と、を有する。第1相が結晶構造を有する。第1相が少なくともFeおよびPを含む。原子数基準で第1相におけるA元素の合計含有割合をCA1、第1相におけるB元素の合計含有割合をCB1として、1.50≦CA1/CB1<4.00である。Fe、CoおよびNiをM元素とし、原子数基準で前記第1相におけるM元素の合計含有割合をCM1、前記第2相におけるM元素の合計含有割合をCM2として、{CM2/(1-CM2)}<{CM1/(1-CM1)}である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
A元素およびB元素を有する六方晶系の結晶構造を有する磁性体であり、
A元素がFe、Co、Ni、Cu、Zn、TiおよびAlから選択される1種以上、B元素がP、Si、S、B、CおよびNから選択される1種以上であり、
前記磁性体が第1相と、第2相と、を有し、
前記第1相が前記結晶構造を有し、
前記第1相が少なくともFeおよびPを含み、
原子数基準で前記第1相におけるA元素の合計含有割合をCA1、前記第1相におけるB元素の合計含有割合をCB1として、
1.50≦CA1/CB1<4.00であり、
Fe、CoおよびNiをM元素とし、原子数基準で前記第1相におけるM元素の合計含有割合をCM1、前記第2相におけるM元素の合計含有割合をCM2として、
{CM2/(1-CM2)}<{CM1/(1-CM1)}である磁性体。
【請求項2】
前記磁性体の断面における前記第2相の面積割合が5%以上30%以下である請求項1に記載の磁性体。
【請求項3】
前記第2相がY、La、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される1種以上を含む請求項1または2に記載の磁性体。
【請求項4】
前記第2相の少なくとも一部が、Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る請求項1または2に記載の磁性体。
【請求項5】
前記第2相がA元素を含む請求項1または2に記載の磁性体。
【請求項6】
請求項1または2に記載の磁性体を含む磁石。
【請求項7】
請求項1または2に記載の磁性体を含む磁性粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体、磁石および磁性粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、Fe-P-B系の微粉末磁石に関する発明が記載されている。
【0003】
特許文献2には、Fe、CoおよびPを含有する強磁性超微粒子に関する発明が記載されている。
【0004】
非特許文献1には、(Fe,Co)2(P,Si)単結晶を永久磁石材料として用いる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58-84955号公報
【特許文献2】特開平2-180003号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Yibole, B.Lingling-Bao, J.Y.Xu, H.Alata, O.Tegus, W.Hanggai, N.H.van Dijk, E.Brueck, F. Guillou, Acta Materialia, 221,(2021)117388
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、飽和磁化および保磁力が高い磁性体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明の磁性体は、A元素およびB元素を有する六方晶系の結晶構造を有する磁性体であり、
A元素がFe、Co、Ni、Cu、Zn、TiおよびAlから選択される1種以上、B元素がP、Si、S、B、CおよびNから選択される1種以上であり、
前記磁性体が第1相と、第2相と、を有し、
前記第1相が前記結晶構造を有し、
前記第1相が少なくともFeおよびPを含み、
原子数基準で前記第1相におけるA元素の合計含有割合をCA1、前記第1相におけるB元素の合計含有割合をCB1として、
1.50≦CA1/CB1<4.00であり、
Fe、CoおよびNiをM元素とし、原子数基準で前記第1相におけるM元素の合計含有割合をCM1、前記第2相におけるM元素の合計含有割合をCM2として、
{CM2/(1-CM2)}<{CM1/(1-CM1)}である。
【0009】
前記磁性体の断面における前記第2相の面積割合が5%以上30%以下であってもよい。
【0010】
前記第2相がY、La、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される1種以上を含んでもよい。
【0011】
前記第2相の少なくとも一部が、Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回ってもよい。
【0012】
前記第2相がA元素を含んでもよい。
【0013】
本発明の磁石は、上記の磁性体を含む。
【0014】
本発明の磁性粉末は、上記の磁性体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1のSEM画像である。
図2】比較例5のSEM画像である。
図3】実施例1の元素マッピング画像である。
図4】比較例5の元素マッピング画像である。
図5】実施例1のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
【0017】
本実施形態に係る磁性体は、A元素およびB元素を有する六方晶系の結晶構造を有する磁性体である。A元素がFe、Co、Ni、Cu、Zn、TiおよびAlから選択される1種以上、B元素がP、Si、S、B、CおよびNから選択される1種以上である。
【0018】
当該六方晶系の結晶構造は空間群P62mである。
【0019】
当該六方晶系の結晶構造は、A元素として少なくともFeを含んでもよく、B元素として少なくともPを含んでもよい。
【0020】
当該六方晶系の結晶構造は、A元素として少なくともFeおよびCoを含んでいてもよい。また、第1相11が有する六方晶系の結晶構造は、B元素として少なくともPおよびSiを含んでいてもよい。
【0021】
当該六方晶系の結晶構造の組成が原子数基準で(Fe1-xCoxm(P1-ySiy)であってもよい。0≦x≦0.9を満たしていてもよく、0≦y≦0.6を満たしていてもよく、1.9≦m≦2.0を満たしていてもよい。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る磁性体1は、第1相11と第2相12と、を有する。なお、図1は後述する実施例1のSEM画像である。
【0023】
図1に示すように、第2相12は複数の第1相11の間に存在してもよい。
【0024】
第1相11は、上記の六方晶系の結晶構造を有する。第1相11は、少なくともFeおよびPを含む。第1相11が上記の六方晶系の結晶構造を有することを確認する方法には特に制限はない。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて確認することができる。
【0025】
原子数基準で第1相11におけるA元素の合計含有割合をCA1、第1相11におけるB元素の合計含有割合をCB1として、1.50≦CA1/CB1<4.00である。
【0026】
A1/CB1が小さすぎる場合、すなわち第1相11に含まれるA元素が少なすぎる場合には、磁性体1の飽和磁化が小さくなり、磁性体1を含む磁石の飽和磁束密度が小さくなる。CA1/CB1が大きすぎる場合、すなわち第1相11に含まれるA元素が多すぎる場合には、軟磁性を有する成分、例えばα-Fe等のA元素の単体が析出しやすくなる。その結果、磁性体1の保磁力が小さくなり、磁性体1を含む磁石の保磁力が小さくなる。
【0027】
第1相11がFeを有さない場合には、磁性体の飽和磁化および保磁力が小さくなり、当該磁性体を含む磁石の飽和磁束密度および保磁力が小さくなる。第1相11がPを有さない場合には、磁性体の保磁力が小さくなり、当該磁性体を含む磁石の保磁力が小さくなる。
【0028】
Fe、CoおよびNiをM元素とする。Fe、CoおよびNiはA元素の中で比較的、強磁性を有しやすい元素である。そして、原子数基準で第1相11におけるM元素の合計含有割合をCM1、第2相12におけるM元素の合計含有割合をCM2として、{CM2/(1-CM2)}<{CM1/(1-CM1)}である。
【0029】
すなわち、第2相12が第1相11と比較してM元素の含有割合が低い。そのため、第2相12が第1相11よりも強磁性を有しにくくなる。このようにすることで、第2相12の磁気分断作用が十分に確保でき、磁気特性、特に保磁力を向上させることができる。
【0030】
{CM1/(1-CM1)}には特に制限はない。例えば1.50以上4.00未満であってもよい。{CM2/(1-CM2)}には特に制限はない。例えば1.00以上2.50未満であってもよい。
【0031】
{CM1/(1-CM1)}-{CM2/(1-CM2)}≧0.01であってもよい。
【0032】
図2に示すように磁性体2が第2相12を有さない場合には、保磁力が低下しやすくなる。なお、図2は後述する比較例5のSEM画像である。
【0033】
磁性体1における第2相12の含有割合には特に制限はない。例えば、磁性体1の断面における第2相12の面積割合が5%以上30%以下であってもよい。
【0034】
第2相12の面積割合が小さすぎる場合には、磁気分断作用が十分に発揮されにくい。その結果、保磁力が低下する。第2相12の面積割合が大きすぎる場合には第1相11の磁化を有効に活用しにくい。その結果、磁性体の飽和磁化が低下し、磁性体を含む磁石の飽和磁束密度が低下する。
【0035】
第2相12の組成には特に制限はない。第2相12がA元素を含んでいてもよく、B元素を含んでいてもよい。
【0036】
第2相12がY、La、Ce、Pr、NdおよびSmから選択される1種以上を含んでいてもよく、Ceを含んでもいてもよい。以下、Y、La、Ce、Pr、NdおよびSmをR元素と呼ぶことがある。第2相12がR元素を含むことで、第2相12が非磁性となりやすくなる。その結果、第2相12の磁気分断作用が強くなり、磁気特性、特に保磁力を向上させやすくなる。
【0037】
第2相12におけるR元素の含有割合には特に制限はない。例えば、第2相12におけるR元素の含有割合が合計で1原子%以上30原子%以下であってもよい。
【0038】
第2相12がAl、MgおよびSnから選択される1種以上を含んでもよい。そして、第2相12の少なくとも一部が、Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回っていてもよく80原子%以上であってもよい。
【0039】
Al、MgおよびSnは比較的、融点が低い金属元素である。これらの元素を多く含む第2相12は、第1相11の周囲を低温で覆うことができる。その結果、第2相の磁気分断作用が効率的に発揮されやすくなり、保磁力を向上させやすくなる。
【0040】
Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相12の含有割合には特に制限はない。例えば、磁性体1の断面におけるAl、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相12の面積割合が3%以上30%以下であってもよい。
【0041】
本実施形態に係る磁性体は磁石に含まれていてもよく、磁性粉末に含まれていてもよい。磁性体の形状、磁石の形状、磁性粉末の形状には、いずれも特に制限はない。
【0042】
以下、本実施形態に係る磁性体1の観察方法について説明する。
【0043】
まず、磁性体1を切断して断面を得る。断面の位置については特に制限はない。また、断面を必要に応じて表面処理してもよい。例えば鏡面研磨してもよい。
【0044】
次に、SEM-EDSを用いて断面を観察する。図1に示すように第1相11と第2相12とでは明るさが異なることにより、第1相11と第2相12とを区別することができる。観察範囲の大きさおよび倍率には特に制限はなく、各相の組成、面積割合等が適切に観察できる大きさおよび倍率とすればよい。
【0045】
また、第1相11と第2相12との区別にはEDSによる組成分析を必要により併用してもよい。図3図1と同等な観察範囲についてEDSを用いて組成分析を行い作成したFeマッピング画像と、Pマッピング画像と、Ceマッピング画像と、SEMにより得られる電子線像(SEM画像)と、を重ね合わせたマッピング画像である。図4図2の近傍の観察範囲についてEDSを用いて組成分析を行い作成したFeマッピング画像と、Pマッピング画像と、を重ね合わせたマッピング画像である。
【0046】
図1および図3より、磁性体1では第1相11がFeおよびPを多く含み、第2相12がCeを多く含むことが分かる。図2および図4より、磁性体2ではFeおよびPを多く含む第1相11のみが含まれることが分かる。
【0047】
また、第2相として互いに組成等が異なる複数種類の第2相が磁性体に含まれる場合がある。その場合においても、SEM画像の明るさの違い、EDSによる組成分析等を適宜行うことにより、複数種類の第2相を区別することができる。
【0048】
また、磁性体が磁性粉末である場合には、当該磁性粉末から圧粉体を作製し、当該圧粉体の断面をSEM-EDSを用いて観察してもよい。
【0049】
以下、各相における各元素の含有割合の測定方法について説明する。
【0050】
まず、各元素の含有割合を測定するために十分な大きさの観察画像を設定し、SEM-EDSを用いて観察する。そして、各相について少なくとも2点以上、好ましくは5点以上の測定点を設定する。そして、各測定点における各元素の含有割合をEDSの点分析により測定する。各測定点における各元素の含有割合を平均することで各相における各元素の含有割合を算出する。
【0051】
図5には図1の一部を拡大したSEM画像を示す。例えば、図5に示すように第1相11の組成を測定するための測定点♯1、♯2を設定し、第2相12の組成を測定するための測定点♯3、♯4を設定する。
【0052】
磁性体1におけるCA1/CB1、{CM2/(1-CM2)}、{CM1/(1-CM1)}等の各種パラメータは、各相における各元素の含有割合を用いて適宜、算出する。
【0053】
磁性体1に複数種類の第2相12が含まれる場合には、各種類の第2相12におけるM元素の合計含有割合を算出する。そして、各種類の第2相12におけるM元素の合計含有割合を各種類の第2相12の面積割合で加重平均することにより、CM2を算出する。そして、磁性体1における{CM2/(1-CM2)}を算出する。
【0054】
以下、本実施形態に係る磁性体の作製方法について詳しく説明していくが、磁性体の製造方法はこれに制限されず、その他の公知の方法を用いてもよい。
【0055】
(方法1)
まず、主に第1相を構成する原料(原料1)の組成、および、主に第2相を構成する原料(原料2)の組成を設定する。複数種類の第2相を有する磁性体を作製する場合には、目的とする各第2相の組成に応じて各原料2の組成を設定する。さらに、原料1と、原料2と、の混合比を設定する。原料2の割合を増やすほど、最終的に得られる磁性体における第2相の含有割合が増加する傾向にある。
【0056】
上記の方法で設定した組成を有する原料1および原料2を上記の方法で設定した混合比で混合して得られる混合物の組成となるように、準備した各原料を秤量する。各原料としては、具体的には、各元素の単体、各元素を含む化合物、および/または、各元素を含む合金を適宜、準備する。各原料の形状には特に制限はない。例えば粉末形状であってもよい。
【0057】
次に、秤量した各原料を混合する。具体的な混合方法には特に制限はない。
【0058】
次に、メルトスパン法により混合した各原料からリボンを得る。具体的には、まず、混合した各原料を加熱し、溶融させて溶湯を得る。具体的な溶融方法には特に制限はない。例えば、混合した各原料を石英管ノズルに入れて高周波加熱により加熱してもよい。また、溶融時の雰囲気にも特に制限はない。例えばAr雰囲気等の不活性雰囲気としてもよいが、製造コストを下げる観点からは空気中などの活性雰囲気としてもよい。
【0059】
次に、溶湯を冷却ロールに射出することによりリボンを得る。冷却ロールの材質には特に制限はない。例えば銅製の冷却ロールであってもよく、モリブデン製の冷却ロールであってもよい。冷却ロールの回転速度には特に制限はない。例えば1000rpm以上5000rpm以下であってもよい。
【0060】
得られたリボンの断面をSEM-EDSで観察すると、リボンが第1相および第2相を有する磁性体であることが確認でき、得られたリボンが本実施形態に係る磁性体であることが確認できる。
【0061】
本実施形態に係る磁性体を有する磁性粉末を得る方法には特に制限はない。例えば、リボンを粉砕してもよい。リボンを粉砕する方法にも特に制限はない。例えばロッドミルまたはスタンプミルでリボンを粉砕する。
【0062】
磁性粉末に含まれる粉末粒子の粒子径には特に制限はない。例えば平均粒子径が0.5μm以上10μm以下であってもよい。また、磁性粉末に含まれる粉末粒子のうち、個数割合で99%以上の粉末粒子の粒子径が50nm以上であってもよく、磁性粉末に含まれる全ての粉末粒子の粒子径が50nm以上であってもよい。なお、1個の粉末粒子にはA元素およびB元素を有する六方晶系の結晶構造を有する結晶が複数個、含まれることが通常である。したがって、粉末粒子の粒子径と当該結晶の結晶粒径とは異なる。
【0063】
本実施形態に係る磁性体を有する磁石を得る方法には特に制限はない。例えば、リボンを粉砕して得られる磁性粉末を金型に入れて加圧して成形体を得てから焼結することにより焼結体(焼結磁石)が得られる。加圧時の圧力には特に制限はない。例えば20MPa以上200MPa以下であってもよい。焼結温度および焼結時間についても特に制限はない。例えば焼結温度が600℃以上1200℃以下であってもよく、焼結時間が0.2時間以上24時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気にも特に制限はない。例えばAr雰囲気等の不活性雰囲気としてもよいが、製造コストを下げる観点からは空気中などの活性雰囲気としてもよい。
【0064】
また、磁性粉末と樹脂とを混合して加圧することによりボンド磁石が得られる。
【0065】
上記の成形体を粉砕して本実施形態に係る磁性体を有する磁性粉末を得ることもできる。上記の焼結体(焼結磁石)を粉砕して本実施形態に係る磁性体を有する磁性粉末を得ることもできる。
【0066】
(方法2)
以下、方法1とは異なる磁性体の製造方法について説明する。特に、Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相を有する磁性体の製造方法について説明する。特に記載のない点については、方法1と同様である。
【0067】
まず、主に第1相を構成する原料(原料1)の組成、および、主に第2相を構成する原料(原料2)の組成を設定する。さらに、原料1と、原料2と、の混合比を設定する。
【0068】
方法1とは異なり、この時点では、主にAl、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相を構成する原料2の原料を原料1の原料と混合しない。なお、その他の第2相を構成する原料2の原料がある場合には、方法1と同様に原料1の原料と混合する。
【0069】
以下、リボンを粉砕して粉末を得るまでの工程は方法1と同様である。
【0070】
次に、主にAl、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相を構成する原料2の組成を有する合金粉末を別途、準備する。当該合金粉末は、1000℃程度で溶融する合金粉末である。当該合金粉末を準備する方法には特に制限はない。当該合金粉末の粒径には特に制限はないが、リボンを粉砕して得られる粉末の粒径と同等としてもよい。
【0071】
次に、リボンを粉砕して得られた粉末と、当該合金粉末と、を上記の混合比で混合する。その後、混合して得られた粉末を金型に入れ、加圧して成形体を得てから焼結する。得られた焼結体(焼結磁石)の断面をSEM-EDSで観察すると、焼結体(焼結磁石)が第1相11および第2相12を有する磁性体であることが確認でき、本実施形態に係る磁性体であることが確認できる。さらに、Al、MgおよびSnの合計含有割合が50原子%を上回る第2相12が含まれることも確認できる。
【0072】
加圧時の圧力には特に制限はない。例えば20MPa以上200MPa以下であってもよい。焼結温度および焼結時間についても特に制限はない。例えば焼結温度が600℃以上1200℃以下であってもよく、焼結時間が0.2時間以上24時間以下であってもよい。焼結時の雰囲気にも特に制限はない。例えばAr雰囲気等の不活性雰囲気としてもよいが、製造コストを下げる観点からは空気中などの活性雰囲気としてもよい。
【0073】
上記の焼結体(焼結磁石)は本実施形態に係る磁性体を有する磁石である。また、本実施形態に係る磁性体を有する磁性粉末を得るためには、当該焼結体(焼結磁石)を粉砕すればよい。粉砕する方法には特に制限はない。また、当該焼結体(焼結磁石)を粉砕して得られる磁性粉末を樹脂と混合して加圧することによりボンド磁石を作製することも可能である。
【0074】
本実施形態に係る磁性体、磁石等の用途には特に制限はない。本実施形態に係る磁石はフェライト磁石と比較して磁気特性が高い。本実施形態に係る磁石は希土類磁石と比較して原材料が安価であり、原料コストが低くなりやすい。さらに、本実施形態に係る磁石は希土類磁石と比較して製造時の雰囲気中の酸素濃度を高くしやすく、製造コストを低くしやすい。さらに、本実施形態に係る磁石は耐食性も高い。
【0075】
本実施形態に係る磁性体、磁石等は、上記の特徴を有することから、例えばモータ、発電機、アクチュエーターに好適に用いられる。
【実施例0076】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0077】
(実験例1:実施例1~18、比較例1~7)
(試料作製)
表1に示す組成を有する原料1と、表2に示す組成を有する原料2-1と、を表4に示す混合比で混合して得られる混合物の組成と同組成のリボンが得られるように粉末形状の原料を秤量し、混合して混合粉を得た。粉末形状の原料としては、具体的には、表1、表2に示す各元素の単体、各元素を含む化合物、および/または、各元素を含む合金を適宜準備した。
【0078】
実験例1では、原料2-1をP2-3(Ce単体)とし、原料1の組成を変化させ原料1と原料2-1との混合比を変化させた。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
次に、メルトスパンにより上記の混合粉からリボンを得た。具体的には、まず、上記の混合粉を溶融用の石英管ノズルに入れて加熱し、溶融させた。次に、混合粉全体が溶融して溶湯となった段階で、回転速度3000rpmの冷却ロールに溶湯を射出してリボンを得た。冷却ロールは銅製のものを用いた。
【0084】
次に、リボンを粉砕して粉末形状の磁性材料を得た。粉砕にはビーズミルを用いた。磁性材料の粒子径は平均が0.6μm程度であり、最小値が50nm以上となるようにした。
【0085】
次に、粉末形状の磁性材料からバルク磁石(焼結磁石)を作製した。具体的には、まず、粉末形状の磁性材料を金型に投入し、100MPaで加圧して成形体を得た。次に、成形体をAr雰囲気中、1000℃で1時間加熱することにより焼結させてバルク磁石を作製した。
【0086】
次に、リボンを粉砕した方法と同一の方法でバルク磁石を粉砕して改めて粉末形状の磁性粉末を得た。磁性材料の粒子径は平均が0.6μm程度であり、最小値が50nm以上となるようにした。
【0087】
(磁気特性)
バルク磁石を粉砕して得られた磁性材料の磁気特性は振動型磁力計(VSM)を用いて評価した。具体的には、磁性材料に対して±1600kA/mの外部磁場を印加し、磁性材料の磁化を測定した。飽和磁化σsは、+1600kA/mの外部磁場を印加したときの磁性材料の磁化とした。保磁力Hcは磁化を0とするために必要な負の外部磁場の絶対値とした。結果を表7に示す。
【0088】
σsは70.0A・m2/kg以上である場合を良、60.0A・m2/kg以上70.0A・m2/kg未満である場合を可、60.0A・m2/kg未満である場合を不可とした。
【0089】
Hcは40.0kA/m以上である場合を良、35.0kA/m以上40.0kA/m未満である場合を可、35.0kA/m未満である場合を不可とした。
【0090】
粉砕前のバルク磁石の飽和磁束密度JsはBHトレーサーを用いた点以外は粉末形状の磁性材料の飽和磁化σsと同条件で測定した。粉砕前のバルク磁石の保磁力HcJはBHトレーサーを用いた点以外は粉末形状の磁石材料のHcと同条件で測定した。結果を表7に示す。
【0091】
Jsは590mT以上である場合を良、580mT以上590mT未満である場合を可、580mT未満である場合を不可とした。
【0092】
HcJは50.0kA/m以上である場合を良、35.0kA/m以上50.0kA/m未満である場合を可、35.0kA/m未満である場合を不可とした。
【0093】
(微細構造、各相の組成)
各相の同定は、各試料のバルク磁石について、断面を鏡面研磨し、SEM-EDSで観察することにより行った。EDSによる元素マッピングにより、第1相および第2相を同定した。また、画像解析により第2相の面積割合を算出した。
【0094】
また、同定した第1相、第2相のそれぞれにおいて、十分な数の測定点における点分析を行った。点分析により得られた各測定点の組成を平均することで、各試料における第1相の組成および第2相の組成を算出した。結果を表5~表7に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
【表6】
【0097】
【表7】
【0098】
所定の微細構造および各相の組成を有する実施例1~18は磁気特性が良好であった。これに対し、CA1/CB1が小さすぎる比較例1はσsが低下した。CA1/CB1が大きすぎる比較例2はHcが低下した。第2相が含まれなかった比較例5はHcが低下した。第1相がFeを含まなかった比較例6はσsおよびHcが低下した。第1相がPを含まずCA1/CB1が大きすぎた比較例7はHcが低下した。
【0099】
以下、上記の実施例1および比較例5についての観察結果を示す。
【0100】
図1には実施例1の磁性体1(バルク磁石)のSEM画像を、図2には比較例5の磁性体2(バルク磁石)のSEM画像を、図3には、実施例1の磁性体1の元素マッピング画像を、図4には比較例5の磁性体2の元素マッピング画像を、それぞれ示す。図1に示す磁性体1は第1相11と第2相12とを有する。これに対し、図2に示す磁性体2は第1相11のみを有する。
【0101】
図1の黒い部分は磁性体1の範囲外である部分である。磁性体1の観察範囲を設定する際に磁性体の端の部分に観察範囲を設定したため、磁性体の範囲外である部分もSEM画像に含まれている。
【0102】
図2の黒い部分は第1相11同士の間に存在する空隙である。
【0103】
図5図1の一部を拡大したSEM画像である。第1相の組成の測定点の一部である♯1および♯2の位置、および、第2相の組成の測定点の一部である♯3および♯4の位置を示している。図5に示すように各相の組成の測定点を設定し、各測定点の組成を測定している。
【0104】
(実験例2:実施例19~28、実施例33~34)
表8に示す混合比で表1に示す組成を有する原料1と、表2に示す組成を有する原料2-1と、表2に示す組成を有する原料2-2と、を混合して得られる混合物の組成と同組成のリボンが得られるように粉末形状の原料を秤量し、混合して混合粉を得た。以下、実験例1と同条件で実施した。
【0105】
実験例2および後述する実験例3では、原料1をP1-1(Fe0.60Co0.050.25Si0.10(原子数比))とし、原料2の組成および混合比等を変化させた。主に磁化を発現させる第1相の組成に与える影響が大きい原料1の組成を固定したことに伴い、磁気特性の評価基準を実験例1から細分化した。結果を表9~表13に示す。
【0106】
σsは85.0A・m2/kg以上である場合をA、80.0A・m2/kg以上85.0A・m2/kg未満である場合をB、75.0A・m2/kg以上80.0A・m2/kg未満である場合をC、70.0A・m2/kg以上75.0A・m2/kg未満である場合をD、60.0A・m2/kg以上70.0A・m2/kg未満である場合をE、60.0A・m2/kg未満である場合をFとして表に示す。A、B、C、D、E、Fの順に優れた評価であり、A~Eである場合を良好とした。
【0107】
Hcは55.0kA/m以上である場合をA、45.0kA/m以上55.0kA/m未満である場合をB、40.0kA/m以上45.0kA/m未満である場合をC、35.0kA/m以上40.0kA/m未満である場合をD、35.0kA/m未満である場合をEとして表に示す。A、B、C、D、Eの順に優れた評価であり、A~Dである場合を良好とした。
【0108】
Jsは620mT以上である場合をA、600mT以上620mT未満である場合をB、590mT以上600mT未満である場合をC、580mT以上590mT未満である場合をD、580mT未満である場合をEとして表に示す。A、B、C、D、Eの順に優れた評価であり、A~Dである場合を良好とした。
【0109】
HcJは55.0kA/m以上である場合をA、50.0kA/m以上55.0kA/m未満である場合をB、40.0kA/m以上50.0kA/m未満である場合をC、35.0kA/m以上40.0kA/m未満である場合をD、35.0kA/m未満である場合をEとして表に示す。A、B、C、D、Eの順に優れた評価であり、A~Dである場合を良好とした。
【0110】
(実験例3:実施例29~32、35~42)
まず、表8に示す混合比で表1に示す組成を有する原料1と、表2に示す組成を有する原料2-1と、表2に示す組成を有する原料2-2と、を混合して得られる混合物の組成と同組成のリボンが得られるように粉末形状の原料を秤量し、混合して混合粉を得た。
【0111】
実験例1と同様に混合粉からリボンを得て粉砕することで粉末形状の磁性材料を得た。
【0112】
次に、表3に示す組成を有する原料2-3の合金粉末を準備した。合金粉末の粒径は粉末形状の磁性材料の粒径と同等となるようにした。そして、粉末形状の磁性材料と、表3に示す組成を有する原料2-3の合金粉末と、を表8に示す混合比で混合した。
【0113】
例えば、実施例39では、粉末形状の磁性材料の組成は、質量比で原料1-1:原料2-1:原料2-2=92:3:2である混合比で原料1-1、原料2-1および原料2-2を混合した組成であった。そして、質量比で粉末形状の磁性材料:原料2-3=97:3である混合比で粉末形状の磁性材料と原料2-3の合金粉末とを混合させた。
【0114】
以下、実験例1、2と同様の方法でバルク磁石を作製した。さらに、リボンを粉砕した方法と同一の方法でバルク磁石を粉砕して磁性粉末を得た。そして、バルク磁石を粉砕して得られた磁性粉末に対して、実験例2と同様の方法および評価基準で磁気特性を評価した。さらに、実験例2と同様の方法で粉砕前のバルク磁石の磁気特性を評価した。結果を表9~表13に示す。
【0115】
微細構造の観察および各相の同定は、各試料のバルク磁石について、断面を鏡面研磨し、SEM-EDSで観察することにより行った。結果を表9~表13に示す。
【0116】
【表8】
【0117】
【表9】
【0118】
【表10】
【0119】
【表11】
【0120】
【表12】
【0121】
【表13】
【0122】
所定の微細構造および各相の組成を有する実施例19~42は磁気特性が良好であった。
【符号の説明】
【0123】
1…(第1相と第2相とを有する)磁性体
2…(第1相のみを有する)磁性体
11…第1相
12…第2相
図1
図2
図3
図4
図5