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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139438
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】水性塗料組成物及び防食塗装方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C09D163/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050378
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100203208
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】柾 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】尾西 志央
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 由佳
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB001
4J038KA03
4J038KA08
4J038MA08
4J038NA03
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供する。
【解決手段】(A)水分散型エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)鱗片状顔料、及び(D)水を含む水性塗料組成物であって、(B)アミン硬化剤は少なくとも1種の(B1)水溶性アミンを含み、(C)鱗片状顔料は少なくとも1種の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を含み、塗膜形成成分中の(C)鱗片状顔料の体積濃度が10.0~24.0体積%であり、特定の条件下で測定される対数減衰率が0.60以内であることを特徴とする水性塗料組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水分散型エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)鱗片状顔料、及び(D)水を含む水性塗料組成物であって、
(B)アミン硬化剤は少なくとも1種の(B1)水溶性アミンを含み、
(C)鱗片状顔料は少なくとも1種の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を含み、
塗膜形成成分中の(C)鱗片状顔料の体積濃度が10.0~24.0体積%であり、
水性塗料組成物は、鋼板上に乾燥膜厚が60~80μmとなる量の塗料組成物をアプリケータにより塗装して塗膜を形成し、塗装直後から23℃50%相対湿度の条件下にて1時間経過した塗膜に対して、23℃50%相対湿度の条件下、ナイフエッジタイプの重さ300gの振り子を備えた剛体振り子物性試験機を用いて対数減衰率を測定したときの対数減衰率が0.60以内であることを特徴とする水性塗料組成物。
【請求項2】
塗膜形成成分中の顔料全体の体積濃度は20~36体積%であることを特徴とする、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料の平均粒子径が10~80μmであり、(C)鱗片状顔料中の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料の含有量が50質量%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料がマイカであることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項5】
(B1)水溶性アミンの少なくとも1つがポリエーテル系アミン樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装組成物。
【請求項6】
前記塗料組成物が、周辺温度にて自然乾燥させるための塗料組成物であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗料組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の塗料組成物を被塗装面に塗装することによって、該被塗装面に塗膜を形成し、更に、該塗膜上に、該塗料組成物以外の塗料を塗装することを特徴とする防食塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性塗料組成物及び当該塗料組成物を用いた防食塗装方法に関し、特には、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成可能な水性塗料組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗装物の塗膜劣化に伴う補修において、塗膜の線膨張係数を小さくなるよう調整することで、塗膜の剥離を防ぐことができる塗料組成物が開発されている。
【0003】
特開2018-080332号公報(特許文献1)には、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が3.2×10-5/K以下であることを特徴とする塗料組成物が記載され、かかる塗料組成物によれば、塗膜の剥離を大幅に防ぐことができるため、耐久性に優れ、補修に適した塗膜を形成可能な塗料組成物を提供できることを記載している。
【0004】
特開2019-196417号公報(特許文献2)には、樹脂成分及び顔料を含む塗料組成物であって、前記塗料組成物中に含まれる不揮発分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数が2.5×10-5/K~5.4×10-5/Kであり、前記塗料組成物から厚さ200μmの塗膜を形成させた場合の該塗膜の水蒸気透過度が0.1~1.4g/m・dayであることを特徴とする塗料組成物が記載され、かかる塗料組成物によれば、防食性及び耐剥離性に優れる塗膜を形成可能な塗料組成物を提供できることを記載している。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、不揮発分中に占める顔料の割合を増加させることによって塗膜の線膨張係数を小さくすることができること、そして、顔料の中でも鱗片状の顔料は線膨張係数を小さくする効果が大きいことが記載されている。
【0006】
特許第6945030号公報(特許文献3)では、腐食因子の侵入を抑制するという鱗片状顔料の効果に着目し、鱗片状顔料の配合量の高い塗料組成物について、該塗料組成物から形成される塗膜中において鱗片状顔料の傾き角度の平均を特定の範囲に低下させ、且つ、鱗片状顔料の充填率を特定の範囲に増加させることで、上塗り塗膜の外観を損なわずに、環境遮断性に優れる塗膜を形成できることが記載されている。ここで、鱗片状顔料は、環境遮断性を向上させる観点から、アスペクト比が30~100であることが好ましいこと、そして、鱗片状顔料は、塗膜内での配向性の観点から、平均粒径が10~100μmであることが好ましいことも記載されている。
【0007】
また、近年では、補修の現場でも塗装作業者や居住者の健康被害軽減の観点から溶剤系塗料から水系塗料への転換が行われている。
【0008】
特開2016-186021号公報(特許文献4)には、(A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、(C)粘性調整剤、(D)顔料、及び(E)水を少なくとも含む2液型の水系エポキシ樹脂塗料組成物が記載されている。特許文献4は、鱗片状顔料は、その形状から、水、酸素、塩化物等の腐食因子の侵入を阻害する効果や、塗膜の内部応力を小さくする効果を示し、塗膜の内部応力を小さくすることにより、基材に対する塗膜の付着性を更に向上できること、そして、(D)顔料は、タルク、マイカ、カオリンクレー、ガラスフレーク、及び雲母状酸化鉄よりなる群から選択される、アスペクト比が1.2~100である鱗片状顔料を少なくとも一種含むことが好ましいことも記載している。
【0009】
特開2018-053028号公報(特許文献5)には、エポキシ樹脂と、アミン樹脂とを含む下塗り塗料用二液反応硬化型水性塗料組成物が記載されている。特許文献5は、かかる塗料組成物は、アスペクト比2~1000の鱗片形状の無機粉体を含んでもよく、当該無機粉体を含むことで、得られる下塗り塗膜の耐薬品性が向上しやすいことも記載している。
【0010】
なお、特許文献4及び特許文献5には、鱗片状顔料のアスペクト比が小さすぎると、遮蔽効果が得られにくくなることや、鱗片状顔料のアスペクト比が大きすぎると、塗装作業性が悪くなる場合や、成膜時において鱗片状顔料が適切に配列されない場合があるといった記載もある。
【0011】
特許第5273752号公報(特許文献6)には、エポキシ樹脂エマルジョンを含む主剤とアミン樹脂エマルジョンを含む硬化剤とを含んでなり、特定のずり速度での粘度が調整された水性エポキシ樹脂塗料組成物が記載され、かかる塗料組成物によれば、作業性及び防食性に優れる水性エポキシ樹脂塗料組成物を提供できることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2018-080332号公報
【特許文献2】特開2019-196417号公報
【特許文献3】特許第6945030号公報
【特許文献4】特開2016-186021号公報
【特許文献5】特開2018-053028号公報
【特許文献6】特許第5273752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況下、本発明者は、鱗片状顔料が配合された水性塗料組成物について検討を行ったところ、特定のアスペクト比を有し、剥離抑制性の効果が期待できる鱗片状顔料を含んだ水性塗料組成物を高温高湿の環境下で塗装した場合、塗膜にワレが生じることがあった。鋼構造物の補修では、鋼板同士の接合部(ボルト接合部)の塗装も必要となるが、特にボルト接合部の塗装において塗膜のワレが多く見られた。
【0014】
そこで、本発明の目的は、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる水性塗料組成物を用いた防食塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、水分散型エポキシ樹脂及びアミン硬化剤を含む水性塗料組成物にアスペクト比が30以上の鱗片状顔料を用いることで、塗膜に剥離抑制性を付与する効果が得られることが分かったが、一方で、かかる塗料組成物で塗装されたボルト接合部に対して冷熱サイクル試験を行うと、塗膜にワレが発生することが判明した。この理由の一つとして、アスペクト比の高い鱗片状顔料が多く含まれることによって、塗膜の表層部と内部の間で乾燥性の差異が生じやすいことが考えられる。特に、ボルト接合部の塗装は、形状が複雑であることから厚膜部や薄膜部と膜厚差が生じやすくなるため、塗膜の表層部と内部間における乾燥性の差異が顕著に生じたものと考えられる。また、塗膜の表層部と内部間における乾燥性の差異は、水分散型エポキシ樹脂の硬化にも影響を与える。水分散型エポキシ樹脂の硬化は水の蒸発が進むにつれて進行するので、塗膜表層部での水分散型エポキシ樹脂の硬化よりも塗膜内部での硬化の進行の方が遅くなる。このため、先に硬化した塗膜表層部は、硬化により起こる塗膜内部の収縮に追従することができず、この点もワレの発生の原因となると考えられる。
【0016】
そこで、本発明者は、更に検討を進めたところ、塗膜形成成分中の鱗片状顔料の体積濃度を調整し、アミン硬化剤として水溶性アミンを用い、そして、特定の条件下で測定される対数減衰率を調整することで、ボルト接合部の塗装であっても塗膜のワレの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
従って、本発明の水性塗料組成物は、(A)水分散型エポキシ樹脂、(B)アミン硬化剤、(C)鱗片状顔料、及び(D)水を含む水性塗料組成物であって、(B)アミン硬化剤は少なくとも1種の(B1)水溶性アミンを含み、(C)鱗片状顔料は少なくとも1種の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を含み、塗膜形成成分中の(C)鱗片状顔料の体積濃度が10.0~24.0体積%であり、水性塗料組成物は、鋼板上に乾燥膜厚が60~80μmとなる量の塗料組成物をアプリケータにより塗装して塗膜を形成し、塗装直後から23℃50%相対湿度の条件下にて1時間経過した塗膜に対して、23℃50%相対湿度の条件下、ナイフエッジタイプの重さ300gの振り子を備えた剛体振り子物性試験機を用いて対数減衰率を測定したときの対数減衰率が、0.60以内であることを特徴とする水性塗料組成物である。
【0018】
本発明の水性塗料組成物の好適例において、塗膜形成成分中の顔料全体の体積濃度は20~36体積%である。
【0019】
本発明の水性塗料組成物の他の好適例においては、(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料の平均粒子径が10~80μmであり、(C)鱗片状顔料中の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料の含有量が50質量%以上である。
【0020】
本発明の水性塗料組成物の他の好適例においては、(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料がマイカである。
【0021】
本発明の水性塗料組成物の他の好適例においては、(B1)水溶性アミンの少なくとも1つがポリエーテル系アミン樹脂である。
【0022】
本発明の水性塗料組成物の他の好適例においては、前記塗料組成物が、周辺温度にて自然乾燥させるための塗料組成物である。
【0023】
また、本発明の防食塗装方法は、上述した本発明の水性塗料組成物を被塗装面に塗装することによって、該被塗装面に塗膜を形成し、更に、該塗膜上に、該塗料組成物以外の塗料を塗装することを特徴とする防食塗装方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水性塗料組成物によれば、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成可能な水性塗料組成物を提供することができる。また、本発明の防食塗装方法によれば、かかる水性塗料組成物を用いた防食塗装方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明は、水性塗料組成物及び防食塗装方法に関する。
【0026】
本発明の水性塗料組成物は、水分散型エポキシ樹脂、アミン硬化剤、鱗片状顔料、及び水を含む水性塗料組成物である。本明細書では、この塗料組成物を「本発明の水性塗料組成物」又は「本発明の塗料組成物」とも称する。また、水分散型エポキシ樹脂を(A)成分とし、「(A)水分散型エポキシ樹脂」とも称する。アミン硬化剤を(B)成分とし、「(B)アミン硬化剤」とも称する。鱗片状顔料を(C)成分とし、「(C)鱗片状顔料」とも称する。水を(D)成分とし、「(D)水」とも称する。
【0027】
本明細書において、水性塗料組成物は、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。本発明の塗料組成物に用いる水は、特に制限されるものではないが、水道水やイオン交換水、蒸留水等の純水等が好適に挙げられる。また、塗料組成物を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。本発明の塗料組成物中において、水の量は、20~60質量%であることが好ましく、30~50質量%であることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の塗料組成物中において、塗膜形成成分の量は、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。本明細書において、塗膜形成成分とは、溶媒等の揮発する成分を除いた成分を指し、最終的に塗膜を形成することになる成分であるが、本発明においては、塗料組成物を110℃のオーブンで3時間乾燥させた際に残存する成分を塗膜形成成分として取り扱う。
【0029】
本発明の塗料組成物は、水分散型エポキシ樹脂を含む。ここで、水分散型エポキシ樹脂とは、水中に分散可能なエポキシ樹脂であり、本発明の水性塗料組成物中に分散して存在している。水分散型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂エマルジョン又はエポキシ樹脂ディスパージョンの形態で存在していることが好ましい。本明細書において、樹脂エマルジョンとは、樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる乳濁液を意味し、樹脂ディスパージョンとは、樹脂が水を主成分とする水性媒体中で分散してなる分散液を意味する。エポキシ樹脂エマルジョンは、特に制限されないが、通常の強制乳化方式(乳化剤及び高速撹拌機等を使用する方式)によって、水を主成分とする水性媒体中でエポキシ樹脂を乳化させることにより調製される。ここで、乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル系ノニオン界面活性剤、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体等のポリエーテル類;該ノニオン界面活性剤及び該ポリエーテル類の少なくとも一方とジイソシアネート化合物との付加物等が挙げられる。なお、乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上のブレンドとして用いてもよい。また、エポキシ樹脂エマルジョンの市販品としては、例えば、エポルジョンEA-1、2、3、7、12、20、55、及びHD2(ヘンケルジャパン社製);ユカレジンKE-002、KE-116、E-1022、KE-301C(吉村油化学社製);アデカレジンEM-101-50(アデカ社製);jER W1155R55、jER W3435R67、jER W2821R70(三菱化学社製)等がある。一方、エポキシ樹脂ディスパージョンの市販品としては、例えば、Beckpox EP2381(オルネクス社製);EPI-REZ6530-WH-53(モメンティブ社製)等がある。
【0030】
また、水分散型エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を有する樹脂であり、エポキシ基の反応により硬化させることが可能な樹脂である。エポキシ樹脂は、一般に、基材、特に金属基材に対する付着性が高く、また、基材、特に金属基材の腐食に影響する環境因子(例えば、水、酸素等)から基材を遮蔽する効果(遮蔽効果)もあるため、防食性に優れる樹脂として知られている。
【0031】
水分散型エポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する樹脂であることが好ましく、例えば、多価アルコール又は多価フェノールとハロヒドリンとを反応させて得られるものであり、具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ハロゲン化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ化油、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0032】
水分散型エポキシ樹脂は、変性エポキシ樹脂であってもよい。変性エポキシ樹脂としては、例えば、ウレタン変性エポキシ樹脂、アミン変性エポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、アクリル変性エポキシ樹脂、ポリエステル変性エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0033】
水分散型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100~1,000g/eqであることが好ましく、200~700g/eqであることがより好ましく、400~600g/eqであることが更に好ましい。エポキシ当量が100g/eq以上であると、十分な塗膜物性が得られやすい。一方で、エポキシ当量が1,000g/eq以下であると、レベリング性が低下しにくく、均一な塗膜が得られやすい。エポキシ樹脂のエポキシ当量は、JIS K 7236:2001「エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方」に従って求めることができる。
【0034】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の水分散型エポキシ樹脂の量は、20~60質量%であることが好ましい。水分散型エポキシ樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の塗料組成物は、アミン硬化剤を含む。本明細書において、アミン硬化剤とは、水分散型エポキシ樹脂、特にそのエポキシ基と反応し、硬化反応を促進又は制御するために用いられるアミンである。アミン硬化剤としては、エポキシ基と反応する活性水素を有する樹脂が好ましく、ポリアミン樹脂がより好ましい。ポリアミン樹脂は、1分子中に少なくとも2個のアミノ基を有する樹脂である。ポリアミン樹脂には、例えば、アミン類とアルデヒド類の縮重合によって、アルコール類によるアミン類のエーテル化によって、ヘテロ環構造を持つアミン類(エチレンイミン等)の開環重合によって、アミン類とカルボン酸類の縮合によって、又はアミン類とホルムアルデヒドとケトン類若しくはフェノール類のマンニッヒ反応によって作られる樹脂等がある。ここで、アミン類とカルボン酸類の縮合によって作られる樹脂のように、分子中にアミド結合も有するポリアミン樹脂を「ポリアミドアミン樹脂」又は「ポリアミドアミン」とも称する。また、アルコール類によるアミン類のエーテル化には、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの開環重合を利用することができる。
【0036】
ポリアミン樹脂の製造に使用できるアミン類としては、例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、トリアミノプロパン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂肪族ポリアミン;フェニレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ポリアミン;エチレンイミン等のヘテロ環構造を持つアミン類等が挙げられる。
【0037】
また、ポリアミン樹脂は、変性ポリアミン樹脂であってもよい。変性ポリアミン樹脂とは、アミノ基の一部が変性されたポリアミン樹脂である。アミノ基の変性には、公知の方法が利用でき、例えば、アミノ基のアミド化、アミノ基とカルボニル化合物のマンニッヒ反応、アミノ基とエポキシ基の付加反応等が挙げられる。
【0038】
本発明の塗料組成物において、アミン硬化剤は、少なくとも1種の水溶性アミンを含む。ここで、水溶性アミンとは、水中に溶解可能なアミンであり、本発明の水性塗料組成物中に溶解して存在している。本明細書では、アミン硬化剤としての水溶性アミンを(B1)成分とし、「(B1)水溶性アミン」とも称する。
【0039】
(B1)水溶性アミンは、本発明の塗料組成物中に溶解していることから、水溶性アミンと水分散型エポキシ樹脂の硬化は、アスペクト比の高い鱗片状顔料が多く含まれる場合に起こり得る塗膜の表層部と内部間における乾燥性の差異による影響を受けにくい。従って、(B1)水溶性アミンを用いることで、塗膜のワレの発生を抑制する効果が得られる。
【0040】
(B1)水溶性アミンとしては、エポキシ基と反応する活性水素を有する樹脂が好ましく、ポリアミン樹脂がより好ましい。本発明の塗料組成物においては(B1)水溶性アミンの少なくとも1つがポリエーテル系アミン樹脂であることが好ましい。ポリエーテル系アミン樹脂は、分子内にポリエーテル構造を有するポリアミン樹脂であり、例えば、ポリオキシエチレンジアミンやポリオキシプロピレンジアミン等が挙げられる。ポリエーテル系アミン樹脂以外の(B1)水溶性アミンとしては、例えば、変性ポリアミンや変性ポリアミドアミン等が挙げられる。
【0041】
(B)アミン硬化剤中に占める(B1)水溶性アミンの割合は、5~100質量%であることが好ましい。また、(B)アミン硬化剤中に占める、(B1)水溶性アミンとしてのポリエーテル系アミン樹脂の割合は、5~30質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。
【0042】
(B)アミン硬化剤は、(B1)水溶性アミンとともに、水分散型ポリアミン樹脂を含むことができる。ここで、水分散型ポリアミン樹脂とは、水中に分散可能なポリアミン樹脂である。水分散型ポリアミン樹脂は、エマルジョン又はディスパージョンの形態で存在していることが好ましい。
【0043】
(B)アミン硬化剤の活性水素当量は、80~350g/eqであることが好ましい。なお、本発明の塗料組成物が複数の(B)アミン硬化剤を含む場合、上記「(B)アミン硬化剤の活性水素当量」は、使用される(B)アミン硬化剤の活性水素当量の平均値である。
【0044】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の(B)アミン硬化剤の量は、5~25質量%であることが好ましい。
【0045】
本塗料の水性塗料組成物において、(B)アミン硬化剤の配合割合は、塗膜の硬化乾燥性および防食性等の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、(B)アミン硬化剤の活性水素当量が0.5~2.0当量であることが好ましく、0.7~1.4当量であることがより好ましい。
【0046】
本発明の塗料組成物は、鱗片状顔料を含む。鱗片状顔料は、箔のような薄く平らな形状をした顔料であり、その具体例としては、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、アルミニウム等の金属顔料や、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレー、雲母状酸化鉄等が挙げられる。金属顔料には、ステンレス等の合金の顔料も含まれる。また、鱗片状顔料、例えばタルクやマイカは、酸化チタン等の金属酸化物で表面処理されていてもよい。特に、アルミニウム(アルミフレーク)、ガラスフレーク、マイカは比較的アスペクト比が高いという特徴を有していることから、塗膜の剥離の抑制を目的とした鱗片状顔料として好適であり、中でもマイカは特に好適である。また、鱗片状顔料は、塗膜の剥離抑制に加え、外部からの腐食因子の侵入抑制による防食性向上効果や、塗膜の内部応力を低減する効果も得られる。
【0047】
本発明の塗料組成物において、鱗片状顔料は、少なくとも1種の平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を含む。本明細書では、平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を(C1)成分とし、「(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料」とも称する。
【0048】
(C1)成分の鱗片状顔料は、平均アスペクト比が30以上であることから、塗膜の剥離を抑制する効果を有している。他方で、平均アスペクト比が大きすぎると、塗膜内での鱗片状顔料の配向性が低下するため、(C1)成分の鱗片状顔料の平均アスペクト比は120以下である。(C1)成分の鱗片状顔料は、平均アスペクト比が50~80であることが好ましい。
【0049】
本明細書において、鱗片状顔料の平均アスペクト比は、鱗片状顔料の平均粒子径(D)と平均厚み(T)との比(D/T)をいう。ここで、平均粒子径とは、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される粒度分布から求められる。鱗片状顔料の粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。また、平均厚みとは、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて100個以上の鱗片状顔料の厚みを測定し、これらの厚みの平均値をいう。
【0050】
(C1)成分の鱗片状顔料は、平均粒子径が10~80μmであることが好ましく、15~60μmであることがより好ましい。平均粒子径が10μmより小さいと、剥離抑制効果が得られにくく、80μmより大きいと該塗膜の上に更に塗り重ねた塗膜の外観が悪くなる。
【0051】
(C)鱗片状顔料中の(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料の含有量は50質量%以上であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましい。
【0052】
(C1)成分の鱗片状顔料は、マイカであることが好ましい。
【0053】
(C)鱗片状顔料は、(C1)成分の鱗片状顔料とともに、平均アスペクト比が30未満の鱗片状顔料を含むことが好ましい。本明細書では、平均アスペクト比が30未満の鱗片状顔料を(C2)成分とし、「(C2)平均アスペクト比が30未満の鱗片状顔料」とも称する。
【0054】
(C2)平均アスペクト比が30未満の鱗片状顔料を(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料と併用することで、塗膜内での鱗片状顔料の配向性を改善することができる。(C2)成分の鱗片状顔料は、平均アスペクト比が1.2~30であることが好ましい。
【0055】
(C2)成分の鱗片状顔料は、平均粒子径が3~30μmであることが好ましい。
【0056】
(C)鱗片状顔料中の(C2)平均アスペクト比が30未満の鱗片状顔料の含有量は、0~50質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましい。
【0057】
(C2)成分の鱗片状顔料は、タルクであることが好ましい。
【0058】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の鱗片状顔料の体積濃度は、10.0~24.0体積%であり、12~24体積%であることが好ましい。塗膜形成成分中の鱗片状顔料の体積濃度を24体積%以下とすることで、塗膜の表層部と内部の間で乾燥性の差異が生じることを抑えることができる。
【0059】
本明細書において、塗膜形成成分中の鱗片状顔料の体積濃度は、塗膜形成成分全体の容積の中で、鱗片状顔料全体の容積が占める割合であり、塗膜形成成分を構成する成分の組成及び比重から計算により求めることができる。
【0060】
本発明の塗料組成物は、鱗片状顔料に加えて、さらなる顔料を含むことができる。さらなる顔料としては、特に限定されず、防錆顔料、体質顔料、着色顔料等の、塗料業界において通常使用されている顔料が使用できる。さらなる顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。これらの中でも、防食性の観点から、リン酸系の防錆顔料が好ましい。リン酸系の防錆顔料としては、例えば、リン酸、亜リン酸、ポリリン酸等のリン酸系化合物の塩(マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、アルミニウム塩、リンモリブデン酸塩等)が挙げられる。本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の防錆顔料の量は、例えば0~16質量%である。
【0062】
体質顔料としては、例えば、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の体質顔料の量は、例えば10~40質量%である。
【0063】
着色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、黄鉛、モリブデートオレンジ、群青、紺青、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、ナフトールレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、ジオキサジンバイオレット等が挙げられる。本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の着色顔料の量は、例えば0~30質量%である。
【0064】
本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分中の顔料全体の体積濃度は、20~36体積%であることが好ましく、25~33体積%であることがより好ましい。顔料全体の体積濃度は、塗膜の防食性やボルト部塗装時の割れにも影響する。顔料全体の体積濃度が低すぎると、ボルト部塗装時の割れは発生しにくくなるが、剥離抑制性や防食性が低下し、高すぎるとボルト部塗装時の割れの発生や防食性の低下が起こり得る。
【0065】
本明細書において、塗膜形成成分中の顔料全体の体積濃度は、塗膜形成成分全体の容積の中で、顔料全体の容積が占める割合であり、塗膜形成成分を構成する成分の組成及び比重から計算により求めることができる。塗膜形成成分中の顔料全体の体積濃度は、一般に、顔料体積濃度(PVC:Pigment Volume Concentration)とも称される。
【0066】
本発明の塗料組成物は、鋼板上に乾燥膜厚が60~80μmとなる量の塗料組成物をアプリケータにより塗装して塗膜を形成し、塗装直後から23℃50%相対湿度の条件下にて1時間経過した塗膜に対して、23℃50%相対湿度の条件下、ナイフエッジタイプの重さ300gの振り子を備えた剛体振り子物性試験機を用いて対数減衰率を測定したときの対数減衰率が、0.60以内であり、0.1~0.60であることが好ましく、0.2~0.56であることがより好ましい。ここで、剛体振り子物性試験機として、例えばエー・アンド・デイ社製の剛体振り子物性試験機RPT-3000Wを使用することができる。
【0067】
上記特定した条件で測定される対数減衰率から、塗膜形成過程における粘度の変化を推測することができる。当該水性塗料組成物の構成成分である水分散型エポキシ樹脂とアミン硬化剤は、溶媒が蒸発し、分散粒子が融着し反応することで塗膜を形成する。融着及び反応時には粘度変化が起こることにより対数減衰率が増加する。
【0068】
上記特定した条件で測定される対数減衰率が0.60以内であると、塗膜のワレの発生を抑制することができる。対数減衰率が0.60を超える場合、反応が急激に進行することで、反応部の残存や硬化歪の発生により塗膜に応力が掛かり、割れが発生しやすくなる。一般的に、塗膜の乾燥は内部よりも表層部の方が速いが、塗料組成物に含まれる(C)鱗片状顔料の遮断効果により、内部と表層部の乾燥性の差異が更に大きくなり、塗膜表層と内部の反応性及び乾燥性の差異が大きく、割れが発生しやすくなっていると推測される。また、対数減衰率が小さい場合、反応は緩やかに進行するため割れは発生しにくいが、一方で塗膜の乾燥が遅くなる。このため、乾燥性の観点から、例えば、顔料体積濃度を上げたり、3級アミン等の硬化促進剤を加えたりすることが好ましい。
【0069】
上記特定した条件で測定される対数減衰率を0.60以内とするためには、塗膜形成成分中の鱗片状顔料の体積濃度を10.0~24.0体積%の範囲に調整しつつ、アミン硬化剤として(B1)水溶性アミンを用いることが有効である。また、対数減衰率は、(A)水分散型エポキシ樹脂と(B)アミン硬化剤および、反応に関わる硬化促進剤や硬化遅延剤等の種類や配合量によっても影響を受ける。特に硬化促進剤は、反応を促進し、対数減衰率の値が大きくなるため、添加しないことが好ましい。
【0070】
なお、特開2018-080332号公報(特許文献1)及び特開2019-196417号公報(特許文献2)に記載されるように、塗膜形成成分中に占める顔料の割合を増加させることによって塗膜の線膨張係数を小さくすることができ、また、顔料の中でも鱗片状の顔料は線膨張係数を小さくする効果が大きい。そして、塗膜の線膨張係数を低く設定することで、塗膜の剥離を防ぐ効果を向上させることが可能である。このため、本発明の塗料組成物においても、特許文献1や特許文献2に記載されるように線膨張係数を調整することで、剥離抑制性の効果をより確実に付与することができる。例えば、本発明の塗料組成物の一実施態様において、塗膜形成成分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数は3.2×10-5/K以下、好ましくは2.5×10-5/K以下であり、より好ましくは2.0×10-5/K以下であり、当該線膨張係数の下限値は、例えば、1.5×10-5/K以上である。塗膜形成成分のガラス転移温度以下の温度における線膨張係数の測定方法については、特許文献1や特許文献2に詳細に説明されている。
【0071】
本発明の塗料組成物は、2液型の塗料組成物であることが好ましい。2液型の塗料組成物とは、主剤と硬化剤とからなる塗料組成物である。2液型の塗料組成物は、主剤、硬化剤及び必要に応じて選択される添加剤を塗装時に混合することで調製することができる。本発明では、(A)水分散型エポキシ樹脂を含む剤が主剤であり、(B)アミン硬化剤を含む剤が硬化剤である。(C)鱗片状顔料は、主剤と硬化剤のいずれに含まれていてもよいが、通常、主剤に含まれる。(D)水は、通常、主剤及び硬化剤に含まれるが、主剤のみに使用される場合もある。また、(D)水の一部が、主剤と硬化剤の混合時に添加剤として使用される場合もある。
【0072】
本発明の塗料組成物には、その他の成分として、(A)成分に該当しない樹脂、(B)成分に該当しない硬化剤、分散剤、シランカップリング剤、成膜助剤、凍結防止剤、粘性調整剤、消泡剤、防錆顔料に該当しない防錆剤、表面調整剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、色分かれ防止剤、ツヤ消剤、密着性付与剤、レベリング剤、乾燥剤、触媒、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、殺虫剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【0073】
本発明の塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。本発明の塗料組成物が2液型の塗料組成物である場合、主剤と硬化剤とを予め用意しておき、主剤、硬化剤および必要に応じて添加剤を塗装時に混合することによって調製することができる。主剤及び硬化剤は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製することができる。
【0074】
本発明の塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1~1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05~10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。
【0075】
本明細書において、粘度は、レオメーター(例えば、TAインスツルメンツ社製レオメーターARES)を用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0076】
本発明の塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装)等が利用できる。
【0077】
本発明の塗料組成物の乾燥手段は、周辺温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよいが、本発明の塗料組成物は、周辺温度にて自然乾燥させるための塗料組成物であることが好ましい。周辺温度としては5~35℃程度の温度が想定される。
【0078】
本発明の塗料組成物は、構造物等の新設時の塗装に適用することもでき、また、構造物等の塗り替え又は補修時の塗装に適用することもできる。
【0079】
本発明の塗料組成物は、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成することが可能である。このため、本発明の塗料組成物は、下塗り塗料として好適である。
【0080】
本発明の塗料組成物により塗装される基材は、様々な形状のものがあり、例えば、フィルム状、シート状、板状等の二次元形状基材や複雑形状の立体物である三次元形状基材等がある。基材の表面は、平滑であってもよいし、凹凸を有していてもよい。基材の具体例として、例えば、鋼板、鋼管、条鋼等の鋼材や、鉄塔、橋梁施設、プラント等の鋼構造物等も挙げられる。特に、本発明の塗料組成物は、鋼板同士の接合部(ボルト接合部)の塗装であっても、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成することが可能である。
【0081】
基材は、その表面に、脱脂処理、化成処理、研磨等の前処理や、シーラー、プライマー塗装等が施されていてもよいし、表面の少なくとも一部に旧塗膜が存在していてもよい。旧塗膜は、基材の表面の一部または全部を被覆している場合がある。本明細書において、旧塗膜とは、塗装、特に補修を行う際に既に基材上に存在している塗膜を意味する。
【0082】
基材が表面に旧塗膜を有している場合、旧塗膜を含めた基材表面を本発明の塗料組成物で塗装することができる。旧塗膜が健全であれば、基材表面の旧塗膜を剥離または除去することなく、該旧塗膜上に本発明の塗料組成物を塗布することができる。旧塗膜上には、塵や埃等の汚染物質が付着していることから、汚染物質を除去することで、旧塗膜への新しい塗膜の密着性を向上させることができる。汚染物質の除去方法としては、高圧水洗浄や、ブラスト、ケレン及び布拭き等による洗浄が挙げられる。
【0083】
旧塗膜は、樹脂を含んでいることが好ましく、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂、およびこれらの樹脂を変性した樹脂(変性樹脂)等が挙げられる。樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
旧塗膜には、その他の成分として、顔料、分散剤、表面調整剤、酸化防止剤、可塑剤、防錆剤、溶剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、粘性調整剤、充填剤、消泡剤、荷電制御剤、応力緩和剤、浸透剤、導光材、光輝材、磁性材、蛍光体、紫外線吸収剤、ラジカル捕捉剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0085】
次に、本発明の防食塗装方法について説明する。
【0086】
本発明の防食塗装方法は、上述した本発明の塗料組成物を被塗装面に塗装することによって、該被塗装面上に塗膜を形成し、更に、該塗膜上に、該塗料組成物以外の塗料を塗装することを特徴とする防食塗装方法である。
【0087】
本発明の塗料組成物は、剥離及びワレが発生し難い塗膜を形成することが可能であり、下塗り塗料として好適である。また、本発明の塗料組成物は、(C1)平均アスペクト比が30~120の鱗片状顔料を含むため、環境遮断性も高く、また、さらに防錆顔料を配合することで、防食性をより向上させることもできる。
【0088】
本発明の防食塗装方法において、被塗装面としては、上述の基材の表面が挙げられる。
【0089】
本発明の防食塗装方法において、本発明の塗料組成物から形成された塗膜上に塗装される塗料は、本発明の塗料組成物とは異なる塗料であり、中塗り塗膜又は上塗り塗膜の形成に適した塗料を適宜使用することができる。
【0090】
中塗り塗膜又は上塗り塗膜を形成するための塗料は、本発明の塗料組成物と同様に、水性塗料組成物であることが好ましい。これらの塗料組成物には、樹脂、硬化剤、溶媒、分散剤、シランカップリング剤、成膜助剤、凍結防止剤、粘性調整剤、消泡剤、防錆剤、表面調整剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、色分かれ防止剤、ツヤ消剤、密着性付与剤、レベリング剤、乾燥剤、触媒、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、防腐剤、殺虫剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。
【実施例0091】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0092】
<塗料組成物の調製例>
表1~3に示す配合処方に従い原料を混合して、主剤および硬化剤を調製した。得られた主剤と硬化剤を表1~3に示す混合比率で混合して塗料組成物を調製し、該塗料組成物を評価した。表1~3に示す配合処方及び混合比率は質量基準である。
【0093】
使用した原料は以下の通りである。
(1)(A)水分散型エポキシ樹脂
アデカレジンEM-101-50(ADEKA社製エポキシ樹脂エマルジョン;不揮発分47質量%)
(2)(B)アミン硬化剤
ポリアミン樹脂1:Cardolite NX-8401(Cardolite社製アミン樹脂エマルジョン;不揮発分57質量%)
ポリアミン樹脂2:WD11M60(三菱ケミカル社製水溶性アミン樹脂;不揮発分60質量%)、(B1)水溶性アミン
ポリアミン樹脂3:JEFFAMINE T-403(HUNTSUMAN社製ポリエーテルアミン;不揮発分100質量%)、(B1)水溶性アミン
(3)(C)鱗片状顔料
鱗片状顔料1:マイカA(平均粒子径23μm、平均アスペクト比70)
鱗片状顔料2:マイカB(平均粒子径15μm、平均アスペクト比70)
鱗片状顔料3:マイカD(平均粒子径25μm、平均アスペクト比20)
鱗片状顔料4:マイカE(平均粒子径25μm、平均アスペクト比50)
鱗片状顔料5:マイカF(平均粒子径25μm、平均アスペクト比120)
鱗片状顔料6:タルク(平均粒子径14μm、平均アスペクト比20未満)
(4)添加剤、その他
分散剤:DISPERBYK-190(ビックケミー・ジャパン社製)
シランカップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
成膜助剤:ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル
凍結防止剤:エチレングリコール
粘性調整剤:SNシックナー665T(サンノプコ社製)
消泡剤:SNデフォーマー1312(サンノプコ社製)
硬化促進剤:アンカミンK-34(EVONIC社製3級アミン)
防錆剤:亜硝酸ソーダ
【0094】
塗料組成物の評価
<剥離抑制性>
NEXCO試験方法443(塗料の耐はく離性能試験)に従い、単膜(55~65μm/回を3回塗布)の条件にて試験板を作製し、試験を行った。はく離層保護用エポキシ樹脂塗料には、大日本塗料社製エポオールスマイルを用いた。ヒートサイクル試験〔1サイクルは(i)50℃×0.5h、(ii)定速降温1.5h、(iii)-30℃×0.5h、(iv)定速昇温1.5hからなる〕×30サイクル後のカット部からのはく離幅を計測し、下記の評価基準に従って剥離抑制性を評価した。結果を表1~3に示す。はく離幅が2.0mm以下である場合、剥離抑制性に優れる塗膜である。
(評価基準)
〇:1.0mm以下
△:1.0mmを超え、2.0mm以下
×:2.0mm超過
【0095】
<対数減衰率>
SPCC-SD鋼板上に乾燥膜厚が60~80μmとなるようにアプリケータにて塗料組成物を塗装して塗膜を形成し、塗装直後から23℃50%相対湿度の条件下にて1時間経過した塗膜に対して、23℃50%相対湿度の条件下にて、ナイフエッジタイプの重さ300gの振り子を備えた剛体振り子物性試験機(エー・アンド・デイ社製RPT-3000W)を用いて対数減衰率(単位:なし)を測定した。測定結果を表1~3に示す。
比較例5では、硬化促進剤を用いたことから、対数減衰率の値が高くなったと考えられる。
【0096】
<割れ耐性>
内径23mmの穴を空けた鋼板(3.2mm厚)に、ネジ径M20、首下長さ50mmの六角ハイテンションボルトを取り付け、ボルト接合部を作製した。次いで、ボルト接合部の表面全体に乾燥膜厚が70~80μmとなるように大日本塗料社製水性ジンクリッチペイントを塗布し、23℃50%湿度環境にて24時間乾燥させた。その後、得られた塗膜上に上記<塗料組成物の調製例>で調製された各塗料を乾燥膜厚が60~80μmとなるように刷毛塗り塗装し、23℃50%湿度環境にて7日間乾燥させ、試験体を作製した。試験体をヒートサイクル試験〔1サイクルは(i)50℃×0.5h、(ii)定速降温1.5h、(iii)-30℃×0.5h、(iv)定速昇温1.5hからなる〕に供し、開始後20サイクル時点での試験体を観察し、下記の評価基準に従って評価した。結果を表1~3に示す。
(評価基準)
〇:割れなし
×:割れが発生
【0097】
<乾燥性>
JIS K 5551 7.6に基づき、半硬化乾燥性を評価した。各塗料の乾燥膜厚は60~80μmとした場合の半硬化乾燥性を下記の評価基準に従って評価した。結果を表1~3に示す。
(評価基準)
〇:半硬化までの時間が8時間未満
△:半硬化までの時間が8~16時間
×:半硬化までの時間が16時間を超える
【0098】
<防食性>
JIS K 5551 E種の複合サイクル防食性に従い、乾燥膜厚が55~65μmとなるように試験板を作製し、試験を行った。複合サイクル試験120サイクル後のカット部からの錆膨れ幅を計測し、下記の評価基準に従って評価した。
(評価基準)
〇:カット部からの錆膨れ幅 4mm未満
×:カット部からの錆膨れ幅 4mm以上
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】