IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社トプコンの特許一覧

<>
  • 特開-眼科装置 図1
  • 特開-眼科装置 図2
  • 特開-眼科装置 図3
  • 特開-眼科装置 図4
  • 特開-眼科装置 図5
  • 特開-眼科装置 図6
  • 特開-眼科装置 図7
  • 特開-眼科装置 図8
  • 特開-眼科装置 図9
  • 特開-眼科装置 図10
  • 特開-眼科装置 図11
  • 特開-眼科装置 図12
  • 特開-眼科装置 図13
  • 特開-眼科装置 図14
  • 特開-眼科装置 図15
  • 特開-眼科装置 図16
  • 特開-眼科装置 図17
  • 特開-眼科装置 図18
  • 特開-眼科装置 図19
  • 特開-眼科装置 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139449
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/15 20060101AFI20241002BHJP
   A61B 3/10 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
A61B3/15
A61B3/10 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050394
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川口 達也
(72)【発明者】
【氏名】山部 将
(72)【発明者】
【氏名】新井 慎平
(72)【発明者】
【氏名】沖川 滋
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA09
4C316AB11
4C316AB16
4C316FA06
4C316FB21
4C316FB26
4C316FY04
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】様々な被検者で固視位置を変えた場合であってもオートアライメントを実行できる眼科装置を提供すること。
【解決手段】眼科装置Aの前眼部カメラ22は、測定光学系50の対物レンズ51の外周領域に配置され、異なる方向から被検眼Eを同時に撮影する3個以上のカメラを有する。制御部60は、3個以上のカメラから取得される3以上の画像に基づいて、被検眼Eと本体部20との相対位置関係を調整する制御を行うアライメント制御部63を備える。アライメント制御部63は、3以上の画像から被検眼Eの瞳孔Pを検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、瞳孔検出の成功数毎に分けて設定された算出処理により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出し、三次元現在座標を三次元目標座標に収束させる本体部20の移動指令をXYZ駆動部18に出力するオートアライメント部632を有する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顎受け部に被検者が顎を支持した状態で被検眼の眼特性を測定する測定光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、前記被検者の前眼部撮影により前眼部画像を取得する前眼部カメラと、前記本体部を三次元方向に移動させる駆動部と、装置各部を制御する制御部と、を備える眼科装置であって、
前記前眼部カメラは、前記測定光学系の対物レンズの外周領域に配置され、異なる方向から前記被検眼を同時に撮影する3個以上のカメラを有し、
前記制御部は、前記3個以上のカメラから取得される3以上の画像に基づいて、前記被検眼と前記本体部との相対位置関係を調整する制御を行うアライメント制御部を備え、
前記アライメント制御部は、前記3以上の画像から前記被検眼の瞳孔を検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、瞳孔検出の成功数毎に分けて設定された算出処理により瞳孔中心の三次元現在座標を算出し、前記三次元現在座標を三次元目標座標に収束させる前記本体部の移動指令を前記駆動部に出力するオートアライメント部を有する
ことを特徴する眼科装置。
【請求項2】
請求項1に記載された眼科装置において、
前記3個以上のカメラは、3つの前眼部画像を取得する3個のカメラであり、
前記オートアライメント部は、前記3つの前眼部画像から前記被検眼の瞳孔を検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、3画像で瞳孔検出成功と2画像で瞳孔検出成功と1画像で瞳孔検出成功とに分けて設定された算出処理により前記瞳孔中心の三次元現在座標を算出する
ことを特徴する眼科装置。
【請求項3】
請求項2に記載された眼科装置において、
前記オートアライメント部は、前記1画像で瞳孔検出成功の場合、瞳孔検出に失敗した2画像を合成した合成画像を生成し、前記合成画像と成功した前記1画像と合わせた2画像により前記瞳孔中心の三次元現在座標を算出し、
前記合成画像の生成は、瞳孔検出に失敗した2画像のうち、片方の失敗画像をもう一方の失敗画像の視点に視点変換することで視点変換画像を作成し、前記視点変換画像と前記もう一方の失敗画像とを合成することにより生成する
ことを特徴する眼科装置。
【請求項4】
請求項2に記載された眼科装置において、
前記3個のカメラは、前記対物レンズの光軸を通ってレンズを上下方向に2分割する水平分割線より下側領域に配置される左カメラと右カメラと下カメラであり、
前記オートアライメント部は、前記3画像で瞳孔検出成功の場合、規定の2画像により前記瞳孔中心の三次元現在座標を算出し、
前記規定の2画像は、右眼測定時に前記左カメラからの前眼部画像と前記下カメラからの前眼部画像とし、左眼測定時に前記右カメラからの前眼部画像と前記下カメラからの前眼部画像とする
ことを特徴する眼科装置。
【請求項5】
請求項2に記載された眼科装置において、
前記オートアライメント部は、前記3画像で瞳孔検出成功の場合、好適な2画像を抽出して前記瞳孔中心の三次元現在座標を算出し、
前記好適な2画像は、前記3画像に映っている瞳孔の円形度と面積を算出し、前記3画像の中から最も前記円形度が低い、もしくは、前記面積が設定範囲外と判断された1画像を排除することで抽出した2画像とする
ことを特徴する眼科装置。
【請求項6】
請求項2に記載された眼科装置において、
前記オートアライメント部は、前記3画像で瞳孔検出成功の場合、3通りの組み合わせ2画像から前記瞳孔中心の三次元現在座標をそれぞれ算出し、
最終的な前記瞳孔中心の三次元現在座標は、算出された3つの前記瞳孔中心の三次元現在座標の平均値、又は、平均値に最も近い中央値を選択したものとする
ことを特徴する眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検眼と装置光学系との間の位置合わせを好適に行うことが可能な眼科装置を提供することを目的とし、前眼部カメラとして、対物レンズの両側位置にステレオカメラを配置し、被検眼の前眼部を異なる方向から同時に撮影する眼科装置が知られている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-248376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、顎受け部に被検者が顎を支持した状態で被検眼の眼特性を測定する際、被検者が変わる毎に被検眼の位置がずれるため、被検眼と本体部(=装置光学系)との相対位置関係を調整するアライメント制御(位置合わせ制御)が必要である。
【0005】
しかし、撮影画角が広角の眼底カメラやOCT(「Optical Coherence Tomography」の略)などの場合、撮影画角の広角化に伴う光学的な制約から対物レンズのレンズ径が大きくなり、レンズ径が小さい場合の作動距離に比べ、作動距離が狭くなる。作動距離が狭くなると、2個のカメラで構成されるステレオカメラのカメラ取付け見込み角度が、レンズ径が小さい場合のカメラ取付け見込み角度に比べて鋭角になる。ここで、「作動距離」とは、対物レンズのレンズ端面から被検眼の前眼部端面までの距離をいい、ワーキングディスタンスと呼ばれる。
【0006】
このため、ステレオカメラにより撮影される被検眼の瞳孔の形状が細長い楕円形状になったり、瞼や睫毛の映り込みにより瞳孔が隠れてしまうケラレが生じたりし、前眼部画像から瞳孔検出ができなくなる確率が、作動距離が狭くなるほど高くなる。特に、被検眼の固視位置を鼻側から耳側に変えたり耳側から鼻側に変えたりすると、被検眼の瞳孔の位置も変わり、瞳孔検出を失敗する可能性が高くなる。よって、様々な被検者で被検眼の視線を定める固視標の位置を変えた場合において、ステレオカメラにより取得される2つの前眼部画像からの瞳孔検出成功を条件として実行される瞳孔に対するオートアライメントができないことがある、という課題がある。
【0007】
本開示は、上記課題に着目してなされたもので、様々な被検者で固視位置を変えた場合であっても瞳孔に対するオートアライメントを実行できる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の眼科装置は、顎受け部に被検者が顎を支持した状態で被検眼の眼特性を測定する測定光学系を内蔵する本体部と、前記本体部に設けられ、前記被検者の前眼部撮影により前眼部画像を取得する前眼部カメラと、前記本体部を三次元方向に移動させる駆動部と、装置各部を制御する制御部と、を備える。前記前眼部カメラは、前記測定光学系の対物レンズの外周領域に配置され、異なる方向から前記被検眼を同時に撮影する3個以上のカメラを有する。前記制御部は、前記3個以上のカメラから取得される3以上の画像に基づいて、前記被検眼と前記本体部との相対位置関係を調整する制御を行うアライメント制御部を備える。前記アライメント制御部は、前記3以上の画像から前記被検眼の瞳孔を検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、瞳孔検出の成功数毎に分けて設定された算出処理により瞳孔中心の三次元現在座標を算出し、前記三次元現在座標を三次元目標座標に収束させる前記本体部の移動指令を前記駆動部に出力するオートアライメント部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の眼科装置では、3以上の画像から瞳孔検出の成功数が判断され、瞳孔検出の成功数毎に分けて設定された算出処理により瞳孔中心の三次元現在座標が算出される。よって、瞳孔中心の三次元現在座標の算出が、全ての画像での瞳孔検出成功を条件とする算出ではなく瞳孔検出の失敗を許容する算出処理になる。このため、様々な被検者で固視位置を変えた場合であっても瞳孔に対するオートアライメントを実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の眼科装置を顎受け部側から斜め方向に視た外観構成を示す斜視図である。
図2】実施例1の眼科装置をコントロールパネル側から斜め方向に視た外観構成を示す斜視図である。
図3】実施例1の眼科装置を顎受け部側から本体部の正面を視た外観構成を示す正面図である。
図4】実施例1の眼科装置の内蔵品及び付属品の概要構成を示す側面図である。
図5】実施例1の眼科装置において前眼部カメラが取り付けられた対物レンズユニットを示す斜視図である。
図6】実施例1の眼科装置において前眼部カメラが取り付けられた対物レンズユニットを示す正面図である。
図7】実施例1の眼科装置において前眼部カメラが取り付けられた対物レンズユニットを示す図6のB-B線による横断平面図である。
図8】実施例1の眼科装置における制御系構成を示すブロック図である。
図9】実施例1の眼科装置により被検眼の前眼部像、眼底像、眼底断層像の何れかを撮影するときの基本操作の流れを示すフローチャートである。
図10】実施例1のオートアライメント部により実行される瞳孔に対するオートアライメント処理の流れを示すフローチャートである。
図11】対物レンズを標準レンズ径とした場合の作動距離と広角レンズ径とした場合の作動距離の違いを示す説明図である。
図12】対物レンズが標準レンズ径である場合のステレオカメラの取付け角度と広角レンズ径である場合のステレオカメラの取付け角度の違いを示す説明図である。
図13】鼻側を固視している場合に対物レンズが広角のステレオカメラ(右カメラ、左カメラ)からの前眼部画像の一例を示す前眼部画像図である。
図14】耳側を固視している場合に対物レンズが広角のステレオカメラ(右カメラ、左カメラ)からの前眼部画像の一例を示す前眼部画像図である。
図15】3個のカメラからのあおり撮影による被検眼の前眼部撮影状態を示す正面説明図である。
図16】3個のカメラからのあおり撮影による被検眼の前眼部撮影状態を示す側面説明図である。
図17】実施例1のオートアライメント処理における1画像で瞳孔検出成功の場合の瞳孔中心の三次元現在座標の算出作用を示す算出作用説明図である。
図18】実施例2のオートアライメント部により実行される瞳孔に対するオートアライメント処理の流れを示すフローチャートである。
図19】実施例3のオートアライメント部により実行される瞳孔に対するオートアライメント処理の流れを示すフローチャートである。
図20】実施例3での三次元現在座標の算出においてX座標値とY座標値とZ座標値の平均値を採用する例(a)と中間値を採用する例(b)を示す座標値表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示に係る眼科装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1~3に基づいて説明する。実施例1~3は、被検眼の前眼部像、被検眼の眼底像、被検眼の眼底断層像を観察、撮影及び記録し、電子画像として診断のために提供する眼科装置への適用例である。なお、各図面において、被検眼を基準として眼科装置の本体部に対峙したときの左右方向(水平方向)の左右軸をX軸で示し、上下方向(鉛直方向)の上下軸をY軸で示し、X軸及びY軸と直交する前後方向(奥行き方向)の前後軸をZ軸で示す。
【実施例0012】
[装置全体構成(図1図4)]
眼科装置Aは、“3次元眼底像撮影装置”と呼ばれ、図1図4に示すように、架台部10と、本体部20と、顎受け部30と、コントロールパネル部40と、測定光学系50と、制御部60と、を備える。
【0013】
眼科装置Aは、被検眼Eの眼底像を取得する眼底カメラと、被検眼Eの眼底断層像を取得するOCTと、を含む。ここで、「眼底カメラ」とは、被検眼Eの奥にある網膜や視神経、毛細血管などの眼底状態を画像化し、眼底像を撮影するカメラをいう。「OCT」とは、光の干渉を利用して被検眼Eの眼底に存在する網膜の断層を画像化し、眼底断層像を撮影する光干渉断層計をいう。
【0014】
架台部10は、高さ調整が可能な図外の検眼用テーブルTなどに載置される。架台部10の上面位置には、本体部20がX軸、Y軸、Z軸の三軸方向に移動可能に支持される。架台部10の前面位置には、顎受け部30が固定される。架台部10の側面位置には、電源スイッチ11と、電源インレット12と、USB端子13と、LAN端子14とが設けられる。なお、USBは「Universal Serial Bus」の略であり、LANは「Local Area Network」の略である。USB端子13は、外部メモリ接続用端子であり、図4に示すように、HDD(「Hard Disk Drive」の略)やUSBメモリなどが接続される。LAN端子14は、LANケーブル15を介して専用ソフトウェアなどがインストールされているパーソナルコンピュータ16が接続される。
【0015】
架台部10の内部空間には、図4に示すように、電源部17と、XYZ駆動部18と、が内蔵される。電源部17には、電源スイッチ11と電源インレット12とUSB端子13とLAN端子14などを含む。XYZ駆動部18は、アライメント制御において架台部10に対して本体部20を移動させるとき、本体部20をXYZ軸の三軸方向に駆動するモータ及びモータ駆動回路を有するモータアクチュエータである。
【0016】
本体部20は、顎受け部30が固定される架台部10に対してXYZ駆動部18によりX軸方向とY軸方向とZ軸方向に移動可能に設けられる。本体部20は、顎受け部30に被検者が顎を支持した状態で被検眼Eの眼特性を測定する測定光学系50が、全体を覆う本体カバー21に内蔵される。本体カバー21の背面上部位置には、図1,2,4に示すようにコントロールパネル部40が配置される。本体カバー21の内部空間には、図4に示すように、測定光学系50以外に制御部60が内蔵される。
【0017】
本体カバー21の前面位置には、図3に示すように、中央部に被検眼Eと対峙する測定光学系50において、広角の画角を得るために従来に比べて拡大したレンズ径による対物レンズ51を有する。そして、対物レンズ51の周辺部に、前眼部カメラ22と、周辺固視灯23と、前眼部観察フィルター24と、を有する。
【0018】
前眼部カメラ22は、被検者の前眼部撮影により被検眼Eを含む前眼部画像を取得する動画カメラであり、測定光学系50の対物レンズ51の外周領域に配置される複数個のカメラである。複数個のカメラとしては、図3に示すように、水平分割線HLより下側領域に配置される3個のカメラ(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)を備えている。なお、前眼部カメラ22に関する詳細な説明は後述する。
【0019】
周辺固視灯23は、点灯することによって被検眼Eの視線を固定させるために用いられる固視灯であり、対物レンズ51の外周位置に等間隔で8個配置される。前眼部観察フィルター24は、前眼部観察や前眼部OCTのときに光量調整するために用いられる偏光フィルターであり、左カメラ22aの外側位置と右カメラ22bの外側位置の縦方向にそれぞれ2個(合計4個)配置される。
【0020】
顎受け部30は、架台部10に固定された顎受け支持部31に対して高さ位置(Y軸方向の位置)が調整可能に設けられ、被検者の顎を支持する。顎受け部30は、内蔵された顎受け駆動部32により昇降する昇降ロッド30aと、該昇降ロッド30aの上端位置に固定された顎受け台30bと、該顎受け台30bの両側位置に設けられた顎受け紙止めピン30cと、を有している。顎受け駆動部32は、アライメント制御において顎受け支持部31(=架台部10)に対して顎受け部30をY軸方向に移動させるとき、昇降ロッド30aをY軸方向に駆動するモータ及びモータ駆動回路を有するモータアクチュエータである。
【0021】
顎受け支持部31は、T字形状の両端部位置に、顎受け部30に顎を支持した被検者の顔を3方向で囲う形状による顔支持フレーム部33が固定される。顔支持フレーム部33のうちY軸方向に延びる一対の垂直フレームには、被検眼Eの高さ位置の目安となる高さマーク33aが設けられている。顔支持フレーム部33のうち一対の垂直フレームの上端を結ぶ水平フレームには、シリコーンゴムなどで形成された着脱可能な額当て面33bが設けられている。さらに、顔支持フレーム部33のうち水平フレームの中央上部位置には、多段階に折り曲げ可能なアーム34が設けられ、アーム34の先端部に外部固視標35が設けられている。
【0022】
コントロールパネル部40は、本体カバー21の背面上部位置に配置され、前眼部カメラ22からの被検眼Eの前眼部画像や測定光学系50からの被検眼Eの前眼部観察像などをカラー表示する表示画面41を有している。表示画面41は、表示されたボタン像や画像などを検者が指によって接触操作することが制御部60への入力操作になるタッチパネルになっている。コントロールパネル部40の本体部20に対する連結支持部42は、表示画面41を本体部20に対して全周方向の何れの位置にも設定可能であると共に、表示画面41の傾斜角度も自由に設定可能な折れ曲げ支持と回転支持の組み合わせ支持構造にしている。つまり、本体部20に備えるコントロールパネル部40は、検者が被検者の傍に寄り添って眼特性の検査を行うときに用いられる。このため、検者が眼科装置Aの周囲のどこの位置にいても表示画面41を検者にとって操作しやすい位置と向きに配置にすることができる機能を連結支持部42によって確保している。
【0023】
ここで、検者が眼特性の検査を、被検者から離れた位置からの遠隔操作により行うときは、例えば、図2に示すように、コントロールパネル部40と同等の入力操作機能に加えて本体部20との通信機能を備える遠隔操作用タブレット40’が用いられる。よって、遠隔操作用タブレット40’にもタッチパネルによる表示画面41’を有している。
【0024】
測定光学系50は、顎受け部30に被検者が顎を支持した状態で被検眼Eの眼特性を測定するもので、図4に示すように、対物レンズ51を有する眼底カメラユニット52と、OCTユニット53と、を有している。眼底カメラユニット52は、照明光学系と撮影光学系とを含み、多数のレンズや撮像素子などにより被検眼Eの眼底像を取得する眼底カメラを構成するユニットである。OCTユニット53は、波長可変光源やファイバカプラなどにより被検眼Eの眼底断層像を取得するOCTを構成するユニットである。なお、測定光学系50によって被検眼Eの眼底像と眼底断層像を観察・撮影できる以外に、被検眼Eの前眼部像を観察・撮影できる。
【0025】
制御部60は、コントロールパネル部40の表示画面41へのタッチ操作などを含む各種の入力操作に基づいて、装置各部(眼底カメラユニット52、OCTユニット53、顎受け部30、本体部20など)を制御する。制御部60は、ハードウェア構成として、図4に示すように、制御基板60aと、CPU基板60bと、画像ボード60cと、を有している。
【0026】
[対物レンズユニット構成(図5図7)]
対物レンズユニット70は、図5図7に示すように、対物レンズユニットケース71と、対物レンズ51と、カメラセットホルダー72と、前眼部カメラ22(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)と、を備えている。さらに、対物レンズユニット70は、前眼部カメラ22に付属するカメラ用撮影ライト25(左カメラ用撮影ライト25a、右カメラ用撮影ライト25b、下カメラ用撮影ライト25c)を備えている。ここで、対物レンズユニット70とは、測定光学系50の対物レンズ51に、前眼部カメラ22とカメラ用撮影ライト25を一体に組付けて構成したユニットをいう。
【0027】
対物レンズユニットケース71は、本体部20に内蔵されている眼底カメラユニット52の眼底カメラユニットケース54に対し取り付けられている。この対物レンズユニットケース71は、短円筒形状によるケース部材であり、図7に示すように、円筒内面71aに対物レンズ51が組付け固定され、被検眼E側の円筒端面に形成された円環状段差面71bにカメラセットホルダー72が組付け固定されている。なお、対物レンズユニットケース71のうち、対物レンズ51と前眼部カメラ22とカメラ用撮影ライト25とを除いた部分は、製品段階において本体カバー21により覆われる。
【0028】
対物レンズ51は、光軸OAを共通にした第1レンズ51aと第2レンズ51bとの組み合わせレンズにより構成されている。第1レンズ51aは、被検眼Eと対峙する手前側位置に配置されている。第2レンズ51bは、第1レンズ51aの奥側位置に配置されている。
【0029】
カメラセットホルダー72は、3個の前眼部カメラ22と4個のカメラ用撮影ライト25が予め組付け固定された状態で、対物レンズユニットケース71の円環状段差面71bに組付けて固定される円環状ホルダー部材である。前眼部カメラ22としては、測定光学系50の対物レンズ51の外周位置であって、対物レンズ51の光軸OAを通ってレンズを上下方向に2分割する水平分割線HLを引いたとき、水平分割線HLより下側領域に3個のカメラを配置している。カメラ用撮影ライト25は、前眼部カメラ22を構成する3個それぞれのカメラの隣接位置に4個有する。
【0030】
ここで、前眼部カメラ22としては、凸レンズと凹レンズの組み合わせレンズによるレンズユニットと、撮像素子によるイメージセンサーと、を備える小型カメラが用いられている。また、カメラ用撮影ライト25としては、被検眼Eに向けて赤外光を照射することで、撮影された前眼部画像において瞳孔Pの部分とそれ以外の部分との輝度差を拡大する赤外線LED(「Light Emitting Diode」の略)が用いられている。
【0031】
前眼部カメラ22を構成する3個のカメラは、対物レンズ51の光軸OAを通ってレンズを左右方向に2分割する垂直分割線VLを引いたとき、垂直分割線VLに対して線対称による左右位置に配置される左カメラ22aと右カメラ22bを有する。左カメラ22aと右カメラ22bは、図7に示すように、被検眼Eと対物レンズ51との距離が目標とする作動距離WDであるとき、2つのカメラレンズ光軸LA,LAが被検眼Eの瞳孔中心Poの目標位置で交わるように、X軸・Y軸・Z軸に対して三次元方向の上向き傾斜角度を持たせて配置されている。左カメラ22aと右カメラ22bは、図6に示すように、水平分割線HLからのあおり角度θ(瞳孔Pを見上げる仰角)が5度~15度の範囲になる下側領域に配置している。なお、あおり角度θの好ましい角度は、水平分割線HLから10度前後の角度設定としている。
【0032】
前眼部カメラ22を構成する3個のカメラは、左カメラ22aと右カメラ22b以外に、垂直分割線VLの線上の位置に配置される下カメラ22cを有する。下カメラ22cは、左カメラ22aと右カメラ22bと同様に、被検眼Eと対物レンズ51との距離が目標とする作動距離WDにあるとき、カメラレンズ光軸LAが被検眼Eの瞳孔中心Poの目標位置で交わるように、Y軸・Z軸に対して二次元方向の上向き傾斜角度を持たせて配置されている。
【0033】
カメラ用撮影ライト25は、左カメラ22aに付属する左カメラ用撮影ライト25aと、右カメラ22bに付属する右カメラ用撮影ライト25bと、下カメラ22cに付属する下カメラ用撮影ライト25cと、を備えている。左カメラ用撮影ライト25aは、左カメラ22aから上方に隣接する位置に1個設けられている。右カメラ用撮影ライト25bは、右カメラ22bから上方に隣接する位置に1個設けられている。下カメラ用撮影ライト25cは、下カメラ22cの左右に隣接する位置に2個設けられている。カメラと撮影ライトの組み合わせセットは、図6に示すように、カメラセットホルダー72に対して予め組付けられた状態でビス止め固定することにより、対物レンズ51の外周を取り囲む円環領域に配置されている。
【0034】
前眼部カメラ22を構成する3個のカメラは、図6に示すように、対物レンズ51の外周に沿う円形環状領域のうち、水平分割線HLより上側の上側円弧領域UAを除いた領域に配置している。また、対物レンズ51の外周に沿う円形環状領域のうち、水平分割線HLより下側の左下円弧領域DL及び右下円弧領域DRを除いた領域に配置している。なお、前眼部カメラ22を4個以上のカメラにより構成する場合も、上側円弧領域UA、左下円弧領域DL及び右下円弧領域DRを除いた領域にカメラを配置するのが好ましい。
【0035】
上側円弧領域UAを除く理由は、上側円弧領域UAにカメラを配置すると、被検眼Eの瞼や睫毛で瞳孔Pが隠れるケラレが発生し易いことによる。なお、実施例1の本体部20はXYZ軸方向に直線運動のみを行う。これに対し、例えば、Y軸回りにスイング運動する機能とX軸回りにチルト運動する機能の少なくとも一方を付加した本体部とした場合には、上側円弧領域UAにカメラを配置すると、スイング動作やチルト動作により被検者の額と接触干渉し易くなることによる。
【0036】
左下円弧領域DL及び右下円弧領域DRを除く理由は、左下円弧領域DL及び右下円弧領域DRにカメラを配置すると、作動距離が狭い場合に被検者の鼻と接触し易くなることによる。なお、スイング機能とチルト機能の少なくとも一方を付加した本体部とした場合には、左下円弧領域DL及び右下円弧領域DRにカメラを配置すると、スイング動作やチルト動作により被検者の鼻や頬と接触干渉し易くなることによる。
【0037】
[制御系構成(図8)]
眼科装置Aの制御系構成は、図8に示すように、コントロールパネル部40(表示画面41)と、測定光学系50(眼底カメラユニット52、OCTユニット53)と、制御部60と、を有している。
【0038】
制御部60は、眼底カメラユニット52及びOCTユニット53を制御する主制御部61と、必要データを記憶しておく記憶部62と、アライメント制御部63と、を備えている。アライメント制御部63は、前眼部カメラ22により取得された前眼部画像に基づいて被検眼Eと本体部20(本体部20に有する対物レンズ51)との相対位置関係を調整するアライメント制御を行う。アライメント制御部63は、顎受け高さ調整部631と、オートアライメント部632と、マニュアルアライメント部633と、を有している。
【0039】
アライメント制御部63は、前眼部カメラ22(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)により被検者の顔の左前眼部と右前眼部のそれぞれを3方向から撮影することで前眼部画像を取得する。また、測定光学系50により右眼と左眼を撮影することで前眼部観察像を取得する。アライメント制御部63は、XYZ駆動部18と顎受け駆動部32の少なくとも一方へ出力する駆動指令により、被検眼Eと本体部20に設けられた対物レンズ51との相対位置関係の調整を行う。ここで、XYZ駆動部18と顎受け駆動部32の使い分けは、調整移動量がXZ軸方向移動量のみであればXYZ駆動部18を用いる。一方、調整移動量にY軸方向移動量を含む場合は、XYZ駆動部18の移動許容範囲より顎受け駆動部32のY軸移動許容範囲が広いため、XYZ駆動部18と顎受け駆動部32を使い分ける。例えば、Y軸移動の際、顎受け高さ調整では顎受け駆動部32を用い、オートアライメントではXYZ駆動部18を用いる。
【0040】
顎受け高さ調整部631は、画面表示される前眼部画像に被検眼Eが映っていることが確認されると、被検眼Eの瞳孔Pの位置が前眼部画像の中央部付近に存在するように顎受け駆動部32により顎受け部30の高さを調整する。この顎受け高さ調整は、検者がコントロールパネル部40に表示されている前眼部観察像と前眼部画像を見ながら、表示画面41に対する検者のマニュアル操作で行われる。具体的操作は、表示画面41に表示された前眼部観察像において、前眼部観察像の表示枠内に瞳孔Pが入るように、表示されている瞳孔Pを検者がタップ操作する。次いで、表示画面41に表示された撮影眼に近い方のカメラが取得した前眼部画像において、瞳孔表示ラインを目安に顎受け部30の高さマーク33aを被検眼Eの高さに合わせるように、表示されている顎受け上下動ボタンを検者がタッチ操作することで行われる。
【0041】
オートアライメント部632は、3個の左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22cによって同時に取得される前眼部画像からの瞳孔検出に基づき、本体部20に対する瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する。そして、三次元現在座標を三次元目標座標に収束させる本体部20の移動指令をXYZ駆動部18に出力することで、本体部20の位置を自動調整する瞳孔Pに対するオートアライメント制御が実行される。
【0042】
ここで、瞳孔検出は、前眼部画像を輝度の高低をあらわす輝度画像に変換する画像処理をし、変換した輝度画像において最も輝度が低い円形状の瞳孔Pを検出することにより行われる。例えば、輝度画像において最も輝度が低い領域の円形度と領域面積を算出し、円形度算出値が円形判定閾値以上で、かつ、領域面積算出値が瞳孔判定閾値以上であるときは、瞳孔検出成功と判定する。なお、「円形度」とは、面積と周囲長の関係から求められる円らしさを表す指標値であり、円形度=4πS/L(Sは面積、Lは周囲長)の式により算出される。一方、最も輝度が低い領域の円形度条件と領域面積条件のうち、少なくとも一方の条件が成立しないときは、瞳孔検出失敗と判定する。
【0043】
次に、瞳孔中心Poの三次元現在座標の算出を説明する。例えば、左カメラ22aと右カメラ22bからの前眼部画像により瞳孔検出が成功した場合、瞳孔中心Poと、左カメラ位置と、右カメラ位置と、の3点を結ぶ三角形を三次元空間に描く。そして、描いた三角形に対して、既知のカメラ取付けスパンと、既知のカメラ取付け位置と、公知の三角関数とを用いることで、瞳孔中心Poの位置を表す三次元現在座標(xo,yo,zo)が算出される。瞳孔中心Poの三次元目標座標は、XY座標面において対物レンズ51の光軸OAと瞳孔Pの中心とが一致し、かつ、Z軸方向に既定の作動距離WDだけ離れた位置を目標位置とし、瞳孔中心Poの三次元目標座標(xt,yt,zt)が予め決められる(図7を参照)。
【0044】
マニュアルアライメント部633は、オートアライメント制御に失敗したとき、又は、検者が積極的にマニュアル操作を選択したとき、検者による表示画面41への手動操作により調整する瞳孔Pに対するマニュアルアライメント制御を実行する。マニュアルアライメント制御では、オートアライメント画面に表示されているマニュアルモードボタンをタップすると、撮影眼の自動調整を中止し、手動で撮影眼の調整を行う「マニュアル調整モード」へ移行する。「マニュアル調整モード」では、表示画面41に表示されている2つの前眼部画像の瞳孔マークをタップ操作する。このタップ操作に基づくXYZ駆動部18の駆動により、前眼部画像の中央位置に2つの瞳孔マークが重なって配置されるように、XYZ軸アライメント調整が行われる。
【0045】
[被検眼画像の撮影処理動作(図9)]
制御部60において実行される被検眼画像(例えば、前眼部像、眼底像、眼底断層像の何れかの画像)を撮影するときの撮影処理動作を、図9に示すフローチャートを参照しながら説明する。なお、撮影処理動作は、電源スイッチをオンにした眼科装置Aによる被検者が確定したらスタートする。
【0046】
ステップS1では、スタートに続き、患者(=被検者)を特定する氏名や患者IDによる患者登録をし、ステップS2へ進む。ここで、患者IDとは、被検者の眼科検査に係る個人情報を管理するための識別番号であり、年齢や性別やフォローアップのための過去の検査情報などを含めることができる。
【0047】
ステップS2では、ステップS1での患者登録に続き、検者によるマニュアル操作により顎受け高さを調整し、ステップS3へ進む。この顎受け高さ調整は、アライメント制御部63の顎受け高さ調整部631によって行われる。
【0048】
ステップS3では、ステップS2での顎受け高さ調整に続き、撮影種別の選択をし、ステップS4へ進む。この撮影種別の選択は、コントロールパネル部40の表示画面41に表示される撮影アイコン選択画面から撮影モード(前眼部像撮影モード、眼底像撮影モード、眼底断層像撮影モードなど)の何れかをタッチ操作により選択することで行われる。なお、撮影種別の選択と併せて、表示ボタンのタッチ操作により撮影眼が選択される。
【0049】
ステップS4では、ステップS3での撮影種別の選択に続き、被検眼E(=撮影眼)の瞳孔Pに対するオートアライメント(自動調整)を実行し、ステップS5へ進む。このオートアライメントは、アライメント制御部63のオートアライメント部632によって実行される(図10を参照)。なお、オートアライメントに失敗したときや検者が積極的に希望したときは、瞳孔Pに対するオートアライメント(自動調整)に代え、瞳孔Pに対するマニュアルアライメント(手動調整)がマニュアルアライメント部633により行われる。
【0050】
ステップS5では、ステップS4のオートアライメント、或いは、ステップS7でのプレビュー確認NGに続き、自動的に焦点調整するオートフォーカスを行い、ステップS6へ進む。このオートフォーカスにおいては、前眼部像撮影モードのとき被検眼Eの前眼部に対して焦点の調整をし、眼底像撮影モード及び眼底断層像撮影モードのとき被検眼Eの眼底に対して焦点の調整をする。
【0051】
ステップS6では、ステップS5でのオートフォーカスに続き、被検眼画像(例えば、前眼部像、眼底像、眼底断層像の何れかの画像)を撮影し、ステップS7へ進む。この撮影では、表示画面41に表示される撮影画面にて「OKボタン」をタップ操作したら今回の撮影をし、次の撮影に移行する。そして、1回の撮影毎に撮影画像のプレビューが表示される。
【0052】
ステップS7では、ステップS6での撮影に続き、撮影画像のプレビューを確認し、プレビュー確認OKと判断したらステップS8へ進み、プレビュー確認NGと判断したらステップS5へ戻る。つまり、プレビュー確認NGと判断したら、ステップS6へ戻って再びオートフォーカスを行い、ステップS7にてプレビュー確認OKと判断されるまで、ステップS6にて撮影を試みることができる。
【0053】
ステップS8では、ステップS7でのプレビュー確認OKとの判断に続き、撮影画像を記憶部62に保存し、エンドへ進む。
【0054】
[瞳孔に対するオートアライメント処理動作(図10)]
オートアライメント部632にて実行される瞳孔Pに対するオートアライメント処理動作を、図10を参照しながら説明する。このオートアライメント処理は、図9のステップS4にて実行されるもので、ステップS3の撮影種別の選択に続いて開始される。
【0055】
ステップ101では、オートアライメント開始、或いは、ステップS107でのXYZ移動、或いは、ステップS114でのNO判断に続き、前眼部カメラ(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)から画像を取得し、ステップS102へ進む。
【0056】
ステップS102では、ステップS101での前眼部画像の取得に続き、取得した3つの前眼部画像から瞳孔中心Poを特定し、ステップS103へ進む。ここで、「前眼部画像から瞳孔中心Poを特定する」とは、前眼部画像から瞳孔Pが検出できたことを条件とし、検出された瞳孔Pの中心位置を特定することをいう。
【0057】
ステップS103では、ステップS102での瞳孔中心Poの特定に続き、3画像で瞳孔検出が成功したか否かが判断される。YES(3画像で瞳孔検出が成功した)の場合はステップS104へ進み、NO(3画像で瞳孔検出が成功していない)の場合はステップS108へ進む。
【0058】
ステップS104では、ステップS103での3画像で瞳孔検出が成功したとの判断に続き、瞳孔検出成功の3画像のうち、規定の2画像から三次元現在座標を算出し、ステップS105へ進む。ここで、「規定の2画像」とは、右眼測定時に左カメラ22aからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像とし、左眼測定時に右カメラ22bからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像としている。
【0059】
ステップS105では、ステップS104、又は、ステップS109、又は、ステップS112での三次元現在座標の算出に続き、目標座標と現在座標の差を計算し、ステップS106へ進む。ここで、目標座標と現在座標の差の計算では、X軸座標値とY軸座標値とZ軸座標値のそれぞれの目標座標と現在座標の差を計算する。
【0060】
ステップS106では、ステップS105での目標座標と現在座標の差の計算に続き、目標座標と現在座標の差が、閾値以下か否かが判断される。YES(差が閾値以下)の場合はオートアライメント終了へ進み、NO(差が閾値を超えている)の場合はステップS107へ進む。ここで、閾値は、X軸の座標値差とY軸の座標値差とZ軸の座標値差のそれぞれに対し、現在座標が目標座標に収束していることを示す値に設定される。
【0061】
ステップS107では、ステップS106での差が閾値を超えているとの判断に続き、本体部20をXYZ移動し、ステップS101へ戻る。ここで、「XYZ移動」とは、X軸の座標値差とY軸の座標値差とZ軸の座標値差をそれぞれ目標移動量とし、XYZ駆動部18の駆動により本体部20をXYZ軸方向に移動させることをいう。
【0062】
ステップS108では、ステップS103での3画像で瞳孔検出が成功していないとの判断に続き、2画像で瞳孔検出が成功したか否かが判断される。YES(2画像で瞳孔検出が成功した)の場合はステップS109へ進み、NO(2画像で瞳孔検出が成功していない)の場合はステップS110へ進む。
【0063】
ステップS109では、ステップS108での2画像で瞳孔検出が成功したとの判断に続き、瞳孔検出成功の2画像から三次元現在座標を算出し、ステップS105へ進む。
【0064】
ステップS110では、ステップS108での2画像で瞳孔検出が成功していないとの判断に続き、1画像で瞳孔検出が成功したか否かが判断される。YES(1画像で瞳孔検出が成功した)の場合はステップS111へ進み、NO(3画像で瞳孔検出が成功していない)の場合はステップS113へ進む。
【0065】
ステップS111では、ステップS110での1画像で瞳孔検出が成功したとの判断に続き、瞳孔検出に失敗した2画像を合成した合成画像(1画像)を生成し、ステップS112へ進む。ここで、「合成画像」は、瞳孔検出に失敗した2画像のうち、片方の失敗画像をもう一方の失敗画像の視点に視点変換することで視点変換画像を作成し、視点変換画像ともう一方の失敗画像とを合成することにより生成される。
【0066】
ステップS112では、ステップS111での合成画像(1画像)の生成に続き、合成画像と成功した1画像と合わせた2画像により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出し、ステップS105へ進む。
【0067】
ステップS113では、ステップS110での3画像で瞳孔検出が成功していないとの判断に続き、3画像での瞳孔検出失敗回数Nを設定し、ステップS114へ進む。ここで、3画像での瞳孔検出失敗回数Nは、ステップS113を通過する毎に前回値に+1が加算される。
【0068】
ステップS114では、ステップS113でのNの設定に続き、3画像での瞳孔検出失敗回数Nが設定回数Nsを超えているか否かが判断される。YES(N>Ns)の場合はステップS115へ進み、NO(N≦Ns)の場合はステップS101へ戻る。ここで、設定回数Nsは、10以下の数回の値に設定される。
【0069】
ステップS115では、ステップS114でのN>Nsであるとの判断に続き、オートアライメント失敗を検者に通知し、オートアライメントを終了する。なお、オートアライメント失敗が通知された検者は、例えば、マニュアルモードボタンをタップすることで、瞳孔Pに対するマニュアルアライメントへ移行する。
【0070】
[背景技術(図11図14)]
前眼部カメラとして2個のカメラで構成されるステレオカメラを用いた場合の背景技術を、図11図14を参照しながら説明する。前眼部カメラとして、対物レンズの左右外側位置のうち、水平分割線上であって垂直分割線に対称な位置に左カメラと右カメラを配置した前眼部ステレオカメラを備える眼科装置を比較例とする。この比較例のうち、例えば、撮影画角が標準画角による眼科装置などの場合であって、図11に示すように、レンズ径が小さな第1対物レンズを用いるものを比較例1とする。一方、比較例のうち、例えば、撮影画角が広角の眼底カメラやOCTなどの場合であって、図11に示すように、撮影画角の広角化に伴う光学的な制約から第2対物レンズのレンズ径が、比較例1のレンズ径より大きなものを比較例2とする。
【0071】
まず、比較例1と比較例2とで対物レンズのレンズ端面から被検眼Eの前眼部までの作動距離WDを対比する。作動距離WDは、図11に示すように、レンズ径が大きい比較例2の第2作動距離WD2が、レンズ径が小さい比較例1の第1作動距離WD1に比べて狭くなる。そして、撮影画角の広角化が進み、第2対物レンズのレンズ径が大きくなればなるほど、第2作動距離WD2がさらに狭くなってゆくという関係になる。
【0072】
そして、比較例1と比較例2とで左カメラと右カメラを繋ぐカメラ連結線に対するレンズ光軸の傾斜角度であるカメラ取付け見込み角度αを対比する。カメラ取付け見込み角度αは、図12に示すように、第2作動距離WD2による比較例2のカメラ取付け見込み角度α2が、第1作動距離WD1による比較例1のカメラ取付け見込み角度α1(>α2)に比べて鋭角になる。このように、作動距離WDが狭くなればなるほど、カメラ取付け見込み角度αの鋭角化が進んで小さな角度になる。
【0073】
このため、ステレオカメラにより撮影される被検眼Eの瞳孔Pの形状が細長い楕円形状になったり、被検眼Eの瞼や睫毛の映り込みにより瞳孔Pが隠れてしまうケラレが生じたりし、前眼部画像から瞳孔検出ができなくなる確率が、作動距離WDが狭くなるほど高くなる。特に、被検眼Eの固視位置を鼻側から耳側に変えたり耳側から鼻側に変えたりすると、被検眼Eの瞳孔の位置も変わり、瞳孔検出を失敗する可能性が高くなる。
【0074】
例えば、鼻側を固視している被検者の左眼(被検眼)に対して右カメラと左カメラから取得される前眼部画像を検証する。被検者の左眼にて鼻側を固視している場合、右カメラから取得される左眼(被検眼)の前眼部画像には、図13の上部に示すように、瞳孔Pが撮影されていない。これは、耳側に配置される右カメラから左眼を狙った場合は、左眼の瞳孔Pが鼻側に移動しているため、右カメラによって瞳孔Pを捉えることができないことによる。一方、左カメラから取得される左眼(被検眼)の前眼部画像には、図13の下部に示すように、瞳孔Pが円形に近い形で撮影される。これは、鼻側に配置される左カメラから左眼を狙った場合は、左眼の瞳孔Pが鼻側に移動しているため、左カメラによって瞳孔Pを正面側から捉えることができることによる。
【0075】
例えば、耳側を固視している被検者の左眼(被検眼)に対して右カメラと左カメラから取得される前眼部画像を検証する。被検者の左眼にて耳側を固視している場合、右カメラから取得される左眼(被検眼)の前眼部画像には、図14の上部に示すように、瞳孔Pの一部が瞼によって隠れるケラレが発生する。これは、耳側に配置される右カメラから左眼を狙った場合は、左眼の瞳孔Pが耳側に移動しているが、カメラ取付け見込み角度が鋭角な右カメラによって瞳孔Pを捉えようとしても手前の瞼の映り込みによって瞳孔Pが隠れることによる。一方、左カメラから取得される左眼(被検眼)の前眼部画像には、図14の下部に示すように、瞳孔Pが細長い楕円形状で撮影されるか、又は、瞳孔Pが撮影されない。これは、鼻側に配置される左カメラから左眼を狙った場合は、左眼の瞳孔Pが耳側に移動しているため、左カメラから瞳孔Pをうまく捉えることができないことによる。
【0076】
よって、様々な被検者で被検眼Eの視線を定める固視標の位置を変えた場合において、取得される2つの前眼部画像からの瞳孔検出が共に成功することを条件として実行されるオートアライメントができないことがある。つまり、瞳孔検出の失敗が許されず、2つの前眼部画像の両方から瞳孔Pを検出できないと、瞳孔Pに対するオートアライメントが実行できない。
【0077】
[前眼部カメラによる瞳孔検出作用(図15図16)]
上記背景技術の課題に対し、前眼部カメラ22の設置数を、瞳孔検出の失敗が許容される数にすると、瞳孔検出の成功確率を上げることができる点に着目した。この着目点にしたがって、前眼部カメラ22は、測定光学系50の対物レンズ51の外周領域に配置される3個以上のカメラ(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)を有する構成を採用した。
【0078】
さらに、前眼部カメラ22の配置を、前眼部画像からの瞳孔検出に有利な位置へのカメラ配置にすると、瞳孔検出の成功確率を上げることができる点に着目した。この着目点にしたがって、前眼部カメラ22は、対物レンズ51の光軸OAを通ってレンズを上下方向に2分割する水平分割線HLより下側領域に配置される3個のカメラ(左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22c)を含む構成を採用した。
【0079】
水平分割線HLより下側領域に配置される3個のカメラを含む構成にすると、左カメラ22aと、右カメラ22bと、下カメラ22cからは、図15及び図16に示すように、上向きに被検眼Eを狙うあおり撮影により瞳孔Pが捉えられる。よって、対物レンズ51と被検眼Eとの作動距離WDが狭くても、被検眼Eの瞼や睫毛の映り込みにより瞳孔Pが隠れるケラレを抑えることが可能であり、前眼部画像からの瞳孔検出を有利にするカメラ配置になる。
【0080】
このように、前眼部カメラ22は、瞳孔検出の失敗が許容されるカメラ設置数であるし、瞳孔検出に有利なカメラ配置としている。したがって、様々な被検者で被検眼Eの視線を定める固視標の位置を変えた場合において、取得される3つの前眼部画像からの瞳孔検出が成功する確率が、前眼部カメラをステレオカメラとする比較例に比べ上がる。
【0081】
[瞳孔に対するオートアライメント処理作用(図10)]
上記背景技術の課題に対し、前眼部カメラ22を3個以上のカメラ数にしたとき、瞳孔検出に成功した数毎に分けて瞳孔中心Poの現在位置を算出すると、瞳孔検出の成功確率を上げることができる点に着目した。この着目点にしたがって、オートアライメント部632で実行される瞳孔Pに対するオートアライメント処理作用を、図10を参照しながら瞳孔検出成功数により分けて説明する。
【0082】
(3画像での瞳孔検出成功)
3画像で瞳孔検出が成功したときは、図10のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS104へと進む。ステップS104では、規定の2画像により、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。ステップS104からは、ステップS105→ステップS106へと進み、ステップS106にて差が閾値を超えていると、ステップS107へ進み、本体部20のXYZ移動をし、ステップS101での前眼部カメラ22からの画像取得に戻る。ステップS106にて差が閾値以下であると、オートアライメントを終了する。
【0083】
このように、3画像で瞳孔検出が成功したときは、被検眼Eの右眼測定時には、耳側の左カメラ22aからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像を規定の2画像として瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。また、被検眼Eの左眼測定時には、耳側の右カメラ22bからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像を規定の2画像として瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。よって、3画像で瞳孔検出成功の場合は、右眼測定時であるか左眼測定時であるかにかかわらず、瞳孔Pを捉えるのに有利な耳側と下側から撮影される前眼部画像に基づいて、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0084】
(2画像での瞳孔検出成功)
2画像で瞳孔検出が成功したときは、図10のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS108→ステップS109へと進む。ステップS109では、瞳孔検出に成功した2画像により、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。ステップS109からは、ステップS105→ステップS106へと進み、ステップS106にて差が閾値を超えていると、ステップS107へ進み、本体部20のXYZ移動をし、ステップS101での前眼部カメラ22からの画像取得に戻る。ステップS106にて差が閾値以下であると、オートアライメントを終了する。
【0085】
このように、2画像で瞳孔検出が成功したときは、被検眼Eの右眼測定時には、被検眼Eを右眼のときに瞳孔検出に成功した2つの前眼部画像を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。また、被検眼Eの左眼測定時には、被検眼Eを左眼のときに瞳孔検出に成功した2つの前眼部画像を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0086】
(1画像での瞳孔検出成功)
1画像で瞳孔検出が成功したときは、図10のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS108→ステップS110→ステップS111→ステップS112へと進む。ステップS111では、瞳孔検出に失敗した2画像を用いて合成画像を生成し、ステップS112では、生成した合成画像と瞳孔検出に成功した1画像との2画像により、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。ステップS112からは、ステップS105→ステップS106へと進み、ステップS106にて差が閾値を超えていると、ステップS107へ進み、本体部20のXYZ移動をし、ステップS101での前眼部カメラ22からの画像取得に戻る。ステップS106にて差が閾値以下であると、オートアライメントを終了する。
【0087】
このように、1画像で瞳孔検出が成功したときは、被検眼Eの右眼測定時であるか、被検眼Eの左眼測定時であるかにかかわらず、瞳孔検出に失敗した2画像を用いて生成した合成画像と、瞳孔検出に成功した1画像と、による2画像を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0088】
(3画像での瞳孔検出失敗)
3画像の何れも瞳孔検出に失敗したときは、図10のフローチャートにおいて、ステップS101→ステップS102→ステップS103→ステップS108→ステップS110→ステップS113→ステップS114へと進む。ステップS114では、3画像での瞳孔検出失敗回数Nが設定回数Nsを超えているか否かが判断される。そして、ステップS114でNO(N≦Ns)と判断されている間は、ステップS101へ戻り、改めて前眼部カメラ22からの画像を取得し、再度、瞳孔検出成功数が判断される。但し、ステップS114でYES(N>Ns)と判断されると、ステップS114からステップS115→オートアライメント終了へと進む。
【0089】
このように、3画像の何れも瞳孔検出に失敗したときは、1回の失敗でオートアライメントの実行を断念するのではなく、オートアライメントの実行機会が複数回与えられる。つまり、3画像の何れも瞳孔検出に失敗したときは、改めて前眼部カメラ22からの新たな画像を取得することで、オートアライメントを実行する機会を、ステップS114にてN>Nsと判断されるまでの間、複数回(=Ns回)与えることができる。
【0090】
上記のように、前眼部カメラ22を瞳孔検出の失敗が許容される3個のカメラ数にしたとき、瞳孔検出成功毎に分けて瞳孔中心Poの現在位置を算出している。つまり、瞳孔中心Poの三次元現在座標の算出が、3画像の全ての画像での瞳孔検出成功を条件とする算出ではなく、瞳孔検出の失敗を許容する算出処理としている。このため、瞳孔Pに対するオートアライメントを実行する確率が上がり、様々な被検者で固視位置を変えた場合であっても瞳孔Pに対するオートアライメントを実行できる。
【0091】
[1画像で瞳孔検出成功の場合の三次元現在座標の算出作用(図17)]
三角関数を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出するには、3個の左カメラ22a、右カメラ22b、下カメラ22cによって同時に取得される前眼部画像から少なくとも2つの瞳孔検出が成功し、三角形を描くことができることを基本条件とする。このため、1画像で瞳孔検出成功のときには、基本条件が成立せず、三角関数を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出できない。
【0092】
これに対し、1画像で瞳孔検出成功のとき、瞳孔検出失敗の2画像のうち1画像の瞳孔Pの一部のみがケラレにより隠れているような場合があり、この場合は瞳孔Pの一部を埋める補填ができたら2画像で瞳孔検出成功として扱うことができる点に着目した。この着目点を反映し、瞳孔検出に失敗した2画像を用いて生成した合成画像と、瞳孔検出に成功した1画像と、による2画像を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出するようにした。具体的な1画像で瞳孔検出成功の場合の三次元現在座標の算出作用を、図17を参照して説明する。
【0093】
まず、図17(a)に示すように、被検眼である右眼を耳側の左カメラ22aにより撮影した1つの前眼部画像を瞳孔検出成功画像とする(右端画像)。そして、右眼を鼻側の右カメラ22bにより撮影した前眼部画像(左端画像)と、右眼を下側の下カメラ22cにより撮影した前眼部画像(中間画像)と、を瞳孔検出失敗画像とする。
【0094】
次に、図17(b)に示すように、右眼を鼻側の右カメラ22bにより撮影した前眼部画像(左端画像)を、下カメラ22cからの前眼部画像の視点に合わせて視点変換する画像処理を施し、視点変換画像を作成する。ここで、視点変換する画像としては、瞳孔検出に失敗した2画像にて円形度と領域面積を対比したとき、より円形度が低い側や領域面積が狭い側が選択される。つまり、瞳孔検出に失敗した2画像のうち、円形度が高い側や領域面積が広い側を瞳孔検出成功として扱うときのベース画像として残す。
【0095】
次に、図17(c)に示すように、右カメラ22bにより撮影した前眼部画像の視点変換画像(左端画像)と、下カメラ22cからの前眼部画像と、を合成する画像合成処理を施し、1つの合成画像を作成する。この合成画像は、検出失敗と判定された2つの瞳孔Pが互いに重なり合って生成される瞳孔画像になり、例えば、瞳孔Pの一部のみがケラレにより隠れているような場合に瞳孔Pの一部を埋める画像になる。このため、瞳孔中心Poの座標を計算するとき、瞳孔検出が成功した下カメラ22cからの前眼部画像として取り扱うことができる。
【0096】
次に、図17(d)に示すように、作成された合成画像から得られた瞳孔位置のXY座標を計算する(左端画像)。瞳孔検出成功の左カメラ22aにより撮影した前眼部画像から得られた瞳孔位置のXY座標を計算する(右端画像)。そして、2つの画像から瞳孔中心位置の三次元現在座標を算出し、算出した座標値を瞳孔中心Poの三次元現在座標として採用する。このように、1画像で瞳孔検出成功のとき、瞳孔検出失敗の2画像による合成画像と、瞳孔検出に成功した1画像と、による2画像を用い、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0097】
以上説明したように、実施例1の眼科装置Aにあっては、下記に列挙する効果を奏する。
(1)眼科装置Aは、本体部20と、前眼部カメラ22と、XYZ駆動部18と、制御部60と、を備える。前眼部カメラ22は、測定光学系50の対物レンズ51の外周領域に配置され、異なる方向から被検眼Eを同時に撮影する3個以上のカメラを有する。制御部60は、3個以上のカメラから取得される3以上の画像に基づいて、被検眼Eと本体部20との相対位置関係を調整する制御を行うアライメント制御部63を備える。アライメント制御部63は、3以上の画像から被検眼Eの瞳孔Pを検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、瞳孔検出の成功数毎に分けて設定された算出処理により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出し、三次元現在座標を三次元目標座標に収束させる本体部20の移動指令をXYZ駆動部18に出力するオートアライメント部632を有する。
このため、様々な被検者で固視位置を変えた場合であっても瞳孔Pに対するオートアライメントを実行することができる。
【0098】
(2)3個以上のカメラは、3つの前眼部画像を取得する3個のカメラである。オートアライメント部632は、3つの前眼部画像から被検眼Eの瞳孔Pを検出できた画像数である瞳孔検出成功数を判断し、3画像で瞳孔検出成功と2画像で瞳孔検出成功と1画像で瞳孔検出成功とに分けて設定された算出処理により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する。
このため、前眼部カメラ22を3個にしたとき、3画像と2画像での瞳孔検出成功に限らず、1画像での瞳孔検出成功を含めて瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出でき、瞳孔Pに対するオートアライメントを実行する確率をより高くすることができる。
【0099】
(3)オートアライメント部632は、1画像で瞳孔検出成功の場合、瞳孔検出に失敗した2画像を合成した合成画像を生成し、合成画像と成功した1画像と合わせた2画像により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する。合成画像の生成は、瞳孔検出に失敗した2画像のうち、片方の失敗画像をもう一方の失敗画像の視点に視点変換することで視点変換画像を作成し、視点変換画像ともう一方の失敗画像とを合成することにより生成する。
このため、1画像で瞳孔検出成功のとき、瞳孔検出失敗の2画像による合成画像と、瞳孔検出に成功した1画像と、による2画像を用いて瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出することができる。
【0100】
(4)3個のカメラは、対物レンズ51の光軸OAを通ってレンズを上下方向に2分割する水平分割線HLより下側領域に配置される左カメラ22aと右カメラ22bと下カメラ22cである。オートアライメント部632は、3画像で瞳孔検出成功の場合、規定の2画像により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する。規定の2画像は、右眼測定時に左カメラ22aからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像とし、左眼測定時に右カメラ22bからの前眼部画像と下カメラ22cからの前眼部画像とする。
このため、3画像で瞳孔検出成功の場合、右眼測定時であるか左眼測定時であるかにかかわらず、瞳孔Pを捉えるのに有利な耳側と下側から撮影される前眼部画像に基づいて、精度良く瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出することができる。
【実施例0101】
実施例2は、3画像で瞳孔検出成功の場合、好適な2画像を抽出し、瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する例である。なお、オートアライメント部632により実行される瞳孔Pに対するオートアライメント処理の流れを示すフローチャート(図18)以外については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0102】
以下、図18を参照し、実施例2の瞳孔Pに対するオートアライメント処理動作を説明する。なお、ステップS204を除き、ステップS201~ステップS203、ステップS205~ステップS215は、図10のステップS101~ステップS103、ステップS105~ステップS115とそれぞれ対応するステップであるので説明を省略する。
【0103】
ステップS204では、ステップS203での3画像で瞳孔検出が成功したとの判断に続き、瞳孔検出成功の3画像のうち、好適な2画像から三次元現在座標を算出し、ステップS205へ進む。ここで、「好適な2画像」とは、3画像に映っている瞳孔Pの円形度と面積を算出し、3画像の中から最も瞳孔円形度が低い、もしくは、瞳孔面積が設定範囲外と判断された1画像を排除することで抽出した2画像としている。設定範囲としては、例えば、上限は大きいとされる瞳孔径8mmの1.2倍の径による瞳孔面積、下限は小さいとされる瞳孔径2mmの0.5倍の径(1mm)による瞳孔面積などが設定される。これによって、瞳孔面積が設定範囲より小さな面積になった場合に限らず、誤検出により瞳孔面積が設定範囲より大きな面積になった場合も排除できる。また、瞳孔円形度が低い画像と瞳孔面積が設定範囲外の画像が別の画像であった場合、瞳孔円形度が高い方がより確からしい位置が得られるため、瞳孔面積が設定範囲外の画像を排除することを選択してもよい。
【0104】
3画像での瞳孔検出成功したときの瞳孔Pに対するオートアライメント処理作用説明する。3画像で瞳孔検出が成功したときは、図18のフローチャートにおいて、ステップS201→ステップS202→ステップS203→ステップS204へと進む。ステップS204では、好適な2画像により、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0105】
このように、3画像で瞳孔検出が成功したときは、3画像に映っている瞳孔Pの円形度と面積を算出し、3画像の中から最も瞳孔円形度が低い、もしくは、瞳孔面積が設定範囲外と判断された1画像を排除することで抽出した2画像が好適な2画像とされる。よって、3画像で瞳孔検出成功の場合は、3画像の中から、瞳孔Pを捉えるのに不利な1画像を排除することで、1画像を排除した後に残った瞳孔Pを捉えるのに有利な2画像に基づいて、瞳孔中心Poの三次元現在座標が算出される。
【0106】
以上説明したように、実施例2の眼科装置Aにあっては、実施例1の(1)~(3)の効果に加え、下記の効果を奏する。
(5)オートアライメント部632は、3画像で瞳孔検出成功の場合、好適な2画像を抽出して瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する。好適な2画像は、3画像に映っている瞳孔Pの円形度と面積を算出し、3画像の中から最も瞳孔円形度が低い、もしくは、瞳孔面積が設定範囲外と判断された1画像を排除することで抽出した2画像とする。
このため、3画像で瞳孔検出成功の場合、3画像の中から、瞳孔Pを捉えるのに不利な1画像を排除することで、1画像を排除した後に残った瞳孔Pを捉えるのに有利な2画像に基づいて、精度良く瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出することができる。
【実施例0107】
実施例3は、3画像で瞳孔検出成功の場合、3通りの組み合わせ2画像から瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する例である。なお、オートアライメント部632により実行される瞳孔Pに対するオートアライメント処理の流れを示すフローチャート(図19)以外については、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
【0108】
以下、図19を参照し、実施例3の瞳孔Pに対するオートアライメント処理動作を説明する。なお、ステップS303を除き、ステップS301、ステップS302、ステップS304~ステップS315は、図10のステップS101、ステップS102、ステップS104~ステップS115とそれぞれ対応するステップであるので説明を省略する。
【0109】
ステップS304では、ステップS303での3画像で瞳孔検出が成功したとの判断に続き、3通りの組み合わせ2画像から3つの三次元現在座標を求め、平均/中央値等の統計値を基に最終的な三次元現在座標を算出し、ステップS305へ進む。ここで、「最終的な三次元現在座標」とは、図20(a)に示すように、算出された3つの瞳孔中心Poの三次元現在座標の平均値を計算し、平均値を最終的な三次元現在座標として採用する。又は、図20(b)に示すように、算出された3つの瞳孔中心Poの三次元現在座標のうち、平均値に最も近い中央値を選択し、選択値を最終的な三次元現在座標として採用する。
【0110】
3画像での瞳孔検出成功したときの瞳孔Pに対するオートアライメント処理作用説明する。3画像で瞳孔検出が成功したときは、図19のフローチャートにおいて、ステップS301→ステップS302→ステップS303→ステップS304へと進む。ステップS304では、3通りの組み合わせ2画像から3つの三次元現在座標を求められ、平均/中央値等の統計値を基に最終的な三次元現在座標が算出される。
【0111】
このように、3画像で瞳孔検出が成功したときは、3通りの組み合わせ2画像から3つの三次元現在座標が求められる。そして、求められた三次元現在座標の統計値(平均値、中間値)が、最終的な瞳孔中心Poの三次元現在座標として採用される。よって、3画像で瞳孔検出成功の場合は、3通りの組み合わせ2画像から求められた3つの三次元現在座標から、バラツキによる最大値や最小値を排除する統計値(平均値、中間値)により決めた三次元現在座標が採用される。
【0112】
以上説明したように、実施例3の眼科装置Aにあっては、実施例1の(1)~(3)の効果に加え、下記の効果を奏する。
(6)オートアライメント部632は、3画像で瞳孔検出成功の場合、3通りの組み合わせ2画像から瞳孔中心Poの三次元現在座標をそれぞれ算出する。最終的な前記瞳孔中心の三次元現在座標は、算出された3つの前記瞳孔中心の三次元現在座標の平均値、又は、平均値に最も近い中央値を選択したものとする。
このため、3画像で瞳孔検出成功の場合、3通りの組み合わせ2画像から求められた3つの三次元現在座標から、バラツキによる最大値や最小値を排除する統計値(平均値、中間値)により決めた三次元現在座標を採用することで、精度良く瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出することができる。
【0113】
以上、本開示の眼科装置を実施例1~3に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0114】
実施例1~3では、前眼部カメラ22として、水平分割線HLより下側領域に、左カメラ22aと右カメラ22bと下カメラ22cによる3個のカメラが配置される例を示した。しかし、前眼部カメラとしては、対物レンズの外周領域に3個以上のカメラが配置されるものであれば、実施例1のカメラ数やカメラ配置に限定されない。つまり、前眼部カメラとしては、4個以上のカメラを配置しても良いし、また、水平分割線より下側領域以外にカメラを配置しても良い。
【0115】
実施例1~3では、オートアライメント部632として、3つの前眼部画像から瞳孔検出成功数を判断し、3画像・2画像・1画像で瞳孔検出成功との3パターンに分けて設定された算出処理により、瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する例を示した。しかし、オートアライメント部としては、3つの前眼部画像から瞳孔検出成功数を判断し、3画像・2画像で瞳孔検出成功との2パターンに分けて設定された算出処理により、瞳孔中心の三次元現在座標を算出する例としても良い。この場合、2画像で瞳孔検出失敗の場合、前眼部カメラからの画像取得に戻って瞳孔検出成功数の判断を行う機会を少なくとも複数回与える処理にする。
【0116】
実施例1~3では、オートアライメント部632として、3画像のうち1画像で瞳孔検出成功の場合、瞳孔検出に失敗した2画像の合成画像を生成し、合成画像と成功した1画像と合わせた2画像により瞳孔中心Poの三次元現在座標を算出する例を示した。しかし、オートアライメント部としては、例えば、4つの前眼部画像が取得されるとき、4画像のうち1画像で瞳孔検出に成功した場合、失敗した3画像の中から2画像を選択して合成画像を生成するようにしても良い。さらに、4つの前眼部画像が取得されるとき、全ての4画像で瞳孔検出に失敗したとき、失敗画像を2画像と2画像に分け、それぞれの合成画像を2つ生成する例としても良い。
【0117】
実施例1~3では、眼科装置として、眼底カメラユニットとOCTユニットを併せて備える眼科装置Aへの適用例を示した。しかし、眼科装置としては、眼科装置Aへの適用に限られるものではない。例えば、眼底カメラユニットのみを備える眼科装置にも適用できる。また、OCTユニットのみを備える眼科装置にも適用できる。さらに、補償光学技術によって眼の光学収差を補正することにより高い解像度で観察できる装置である補償光学レーザー検眼鏡(AOSLO:「Adaptive Optics Scanning Laser Ophthalmoscope」の略)にも適用できる。このように、前眼部画像からの瞳孔検出に基づき、被検眼と本体部との相対位置関係を調整するアライメント制御を行う眼科装置であれば、様々な眼科装置に対して適用することができる。
【0118】
実施例1~3では、眼科装置として、架台部10に対して本体部20がXYZ軸の三次元方向に直線運動する装置例を示した。しかし、眼科装置としては、XYZ軸の三次元方向への直線運動に加え、Y軸回りにスイング運動する機能を付加した本体部とする装置へも適用できる。さらに、XYZ軸の三次元方向に直進運動に加え、X軸回りにチルト運動する機能を付加した本体部とする装置へも適用できる。勿論、XYZ軸の三次元方向への直線運動に加え、Y軸回りにスイング運動する機能とX軸回りにチルト運動する機能を共に付加した本体部とする装置へも適用できる。
【符号の説明】
【0119】
A 眼科装置
18 XYZ駆動部
20 本体部
22 前眼部カメラ
22a 左カメラ
22b 右カメラ
22c 下カメラ
30 顎受け部
32 顎受け駆動部
50 測定光学系
51 対物レンズ
60 制御部
63 アライメント制御部
632 オートアライメント部
E 被検眼
P 瞳孔
Po 瞳孔中心
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20