(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013945
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】分析容器、X線分析方法およびX線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/085 20180101AFI20240125BHJP
【FI】
G01N23/085
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116416
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【弁理士】
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 美郷
(72)【発明者】
【氏名】後藤 和宏
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001BA13
2G001CA01
2G001MA02
2G001NA13
2G001PA18
2G001QA02
2G001RA02
2G001RA04
(57)【要約】
【課題】化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際にその場測定が可能となる分析容器を提供する。
【解決手段】液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析に用いられる分析容器であって、前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、前記流出口は前記側壁の一部に設けられている、分析容器とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析に用いられる分析容器であって、
前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、
前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、
前記流出口は前記側壁の一部に設けられている、
分析容器。
【請求項2】
前記試料は前記液体試料と固体試料とを含み、
前記固体試料が前記内部空間に収容された状態において、前記流出口は前記側壁において前記固体試料の上端よりも上部となる位置に設けられている、
請求項1に記載の分析容器。
【請求項3】
前記流出口を備える前記側壁の外面には、前記流出口から流出する前記液体試料の流れを誘導する誘導部を備える、
請求項1または請求項2に記載の分析容器。
【請求項4】
前記誘導部は、前記流出口を備える前記側壁の前記外面に形成された溝である、
請求項3に記載の分析容器。
【請求項5】
前記内部空間は、第1の内部空間と第2の内部空間とを有し、
前記第1の内部空間は前記底壁の内面を含む空間であり、
前記第2の内部空間は前記第1の内部空間に連なり前記第1の内部空間の上部に位置する空間であり、
前記第1の内部空間における前記一対の透過壁の間隔が、前記第2の内部空間における前記一対の透過壁の間隔よりも小さく、
前記流出口は前記第2の内部空間を構成する前記側壁の一部に設けられている、
請求項1または請求項2に記載の分析容器。
【請求項6】
液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析方法であって、
前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備えた分析容器を用い、
前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、
前記流出口は前記側壁の一部に設けられており、
前記流入口から前記液体試料を流入させると共に前記流出口から前記液体試料を流出させた状態において前記透過X線または前記蛍光X線の強度を測定する、
X線分析方法。
【請求項7】
前記試料は前記液体試料と固体試料とを含み、
前記液体試料はめっき液であり、前記固体試料は被めっき物であり、めっきの進行に伴う前記めっき液の状態の時間変化をその場測定する、
請求項6に記載のX線分析方法。
【請求項8】
液体試料と固体試料とを含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析装置であって、
前記試料を収容する分析容器と、
前記液体試料を貯留する貯留槽と、
前記貯留槽と前記分析容器との間で前記液体試料を循環させるポンプと、を備え、
前記分析容器は、
前記液体試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、
前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、
前記流出口は前記側壁の一部に設けられており、
前記液体試料を循環させた状態において、前記液体試料と前記固体試料の状態の変化をその場測定するための、
X線分析装置。
【請求項9】
前記液体試料はめっき液であり、前記固体試料は被めっき物であり、めっきの進行に伴う前記めっき液の状態の時間変化をその場測定するための、
請求項8に記載のX線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析容器、X線分析方法およびX線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、正極と負極および電解液を含む電池要素のX線分析に関するものである。特許文献1には、薄板状のラミネートセルである試料をin-situ測定に用いるための試料ホルダが開示されている。「in-situ」測定は「その場」測定とも呼ばれる測定である。特許文献1では、電池を分解せずに充放電を行ったままX線分析を行うことを指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
状態の変化をその場測定したい対象物は電池要素に限られない。例えば、めっきの進行に伴うめっき液の状態の変化などもその場測定が望まれる対象である。銅めっきを例にとると、めっき液中の銅イオンは+1と+2の2通りの価数を取ることが知られている。めっき液に含まれている価数が異なる銅の比率を直接調べることは難しい。識別方法の一つに、1価の銅と化合して変色する試薬を滴下して調べる方法がある。しかし、試薬を用いる方法はサンプリングでの測定に限られる。めっき液のような化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能な方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の分析容器は、液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析に用いられる分析容器であって、前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、前記流出口は前記側壁の一部に設けられている。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態における分析方法に用いる分析システムの構成を説明する図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る分析容器の斜視模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す分析容器の正面図、上面図、底面図、側面図を示す図である。
【
図4】
図4は、
図2に示す分析容器の内部空間について説明する図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る分析容器の流出口および誘導部を説明する図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る分析方法を実施するための分析装置の構成を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、各価数の銅における基準スペクトルを示す図である。
【
図8】
図8は、スペクトルのフィッティングについて説明する図である。
【
図9】
図9は、分析結果である価数比率の時間変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、分析結果である
図9の価数比率から2価の銅イオン濃度を求めたグラフである。
【
図11】
図11は、別の分析結果である価数比率の時間変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、分析結果である
図11の価数比率から2価の銅イオン濃度を求めたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
(1)本開示に係る分析容器は、液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析に用いられる分析容器であって、前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、前記流出口は前記側壁の一部に設けられている。
【0009】
上記の分析容器は、XAFS(X-ray Absorption Fine Structure:X線吸収微細構造)法を用いて試料を分析するために用いられる容器である。対象とする試料は液体試料を含む。上記の実施形態によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。すなわち液体試料を流しながらのX線測定が可能となる。本分析容器は、試料を保持する内部空間に液体試料を流し入れるための流入口と液体試料が流れ出るための流出口とを備える。流入口と流出口を利用することにより、分析対象とする液体試料を流しながら、すなわち入れ替えながら分析を行うことが可能となる。
【0010】
XAFS法によるX線分析に用いられる一般的な分析容器は直方体のセルである。セルの上部は蓋により閉じているものと、開口しているものがある。液体試料の分析において、試料はセル内に保持された状態でセルからの出入り無く分析される。分析対象となる試料の状態が時間と共に化学変化を伴う場合、時間を追ってX線分析を行うことで、当該化学変化を知ることができる。しかし、液体試料の補充や循環による変化を知りたい場合には、従来の分析容器においては液体試料を流しながら、あるいは入れ替えながら時間的な分析を行うことはできなかった。本実施形態に係る分析容器は、液体試料を流しながら分析を行うことができる。
【0011】
(2)上記(1)の分析容器において、前記試料は前記液体試料と固体試料とを含み、前記固体試料が前記内部空間に収容された状態において、前記流出口は前記側壁において前記固体試料の上端よりも上部となる位置に設けられていてもよい。
【0012】
上記の実施形態によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。試料として液体試料と固体試料とを含み、試料の状態が時間と共に変化する場合がある。例えば液体試料中の物質と固体試料中の物質が化学反応を起こして別の物質に変化する場合であって、その別の物質の増減をX線分析する状態を分析対象とする。液体試料を補充しつつ変化を測定する必要がある場合に、液体試料の流出口を固体試料よりも下部に設けると、上から下への液体試料の流れをつくることができる。しかし、下部の流出口から流出する流量が補充される流量を上回ってしまう場合には、液体試料の量が不足してしまう。したがって、流出口の大きさにより液体試料の流量が制限されてしまう。一方、流出口を固体試料の上端よりも上部に設けることによって、液体試料の流入量によらず固体試料は常に液体試料中に保持される。
【0013】
(3)上記(1)または(2)の分析容器において、前記流出口を備える前記側壁の外面には、前記流出口から流出する前記液体試料の流れを誘導する誘導部を備えてもよい。
【0014】
上記の実施形態によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。誘導部によって液体試料の流れが誘導され、分析への影響を回避することができる。
【0015】
(4)上記(3)の分析容器において、前記誘導部は、前記流出口を備える前記側壁の前記外面に形成された溝であってもよい。
【0016】
上記の実施形態によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。誘導部の代表的な形態として、分析容器表面に設けた溝が挙げられる。流出した液体試料は溝を通って、あるいは溝に誘導されて下方に流れ落ちる。
【0017】
(5)上記(1)から(4)の分析容器において、前記内部空間は、第1の内部空間と第2の内部空間とを有し、前記第1の内部空間は前記底壁の内面を含む空間であり、前記第2の内部空間は前記第1の内部空間に連なり前記第1の内部空間の上部に位置する空間であり、前記第1の内部空間における前記一対の透過壁の間隔が、前記第2の内部空間における前記一対の透過壁の間隔よりも小さく、前記流出口は前記第2の内部空間を構成する前記側壁の一部に設けられていてもよい。
【0018】
上記の実施形態によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。上記の構成では、第1の内部空間が分析容器の底部に位置する空間であって、X線が透過する部分の透過壁の間隔が小さくなっている。分析容器には比較的大量の液体試料を保持したいが、容器を大きくすると透過壁の間隔が大きくなりすぎる場合がある。上記の分析容器によれば、X線が透過する透過壁の間隔は小さく維持したままで分析容器の容積を大きくすることが可能となる。
【0019】
(6)本開示のX線分析方法は、液体試料を含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析方法であって、前記試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備えた分析容器を用い、前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、前記流出口は一対の前記側壁の一部に設けられており、前記流入口から前記液体試料を流入させると共に前記流出口から前記液体試料を流出させた状態での前記透過X線または前記蛍光X線の強度を測定する。
【0020】
上記の分析方法は、XAFS法によるX線分析において上述の分析容器を用いることによって、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。
【0021】
(7)上記(6)のX線分析方法において、前記試料は前記液体試料と固体試料とを含み、前記液体試料はめっき液であり、前記固体試料は被めっき物であり、めっきの進行に伴う前記めっき液の状態の時間変化をその場測定してもよい。
【0022】
上記の実施形態によれば、めっき液と被めっき物の化学変化をX線分析することができ、めっきの進行をその場測定によって時間的に捉えることが可能となる。めっき製品へのめっき製造プロセスにおいては、めっき液に含まれる金属イオンの価数が品質に影響すると考えられている。めっき製造の現状は、めっき液のサンプリングにより定期的な分析管理が行われている。しかし、試薬によるサンプリング分析では、試薬によって価数が変化している可能性もある。製造プロセスにおける価数の変化を調べる方法が限られているため、プロセス条件の最適化が難しい。本実施形態の分析方法によれば、種々のめっき液において、めっきの進行状態に伴うめっき液中の元素の価数変化をその場測定により分析することが可能となる。変化を正確に把握することにより、製造設備におけるめっき液の管理やプロセスの最適化などが従来以上に精度良く行われる。
【0023】
(8)本開示のX線分析装置は、液体試料と固体試料とを含む試料にX線を照射し、前記X線が前記試料を透過した透過X線の強度または前記X線により前記試料から生じる蛍光X線の強度を測定するX線分析装置であって、前記試料を収容する分析容器と、前記液体試料を貯留する貯留槽と、前記貯留槽と前記分析容器との間で前記液体試料を循環させるポンプと、を備え、前記分析容器は、前記液体試料を収容する内部空間と、前記液体試料の流入口と、前記液体試料の流出口と、を備え、前記内部空間は、前記X線の透過が可能な一対の透過壁と、前記一対の透過壁を連結する側壁と、前記一対の透過壁および前記側壁とにつながる底壁と、に囲まれた空間であり、前記流出口は一対の前記側壁の一部に設けられており、前記液体試料を循環させた状態において、前記液体試料と前記固体試料の状態の変化をその場測定するための、X線分析装置である。
【0024】
上記の分析装置によれば、化学変化を伴う試料の変化をX線分析する際に、その場測定が可能となる。
【0025】
(9)上記(8)のX線分析装置において、前記液体試料はめっき液であり、前記固体試料は被めっき物であってもよい。前記X線分析装置は、めっきの進行に伴う前記めっき液の状態の時間変化をその場測定するものであってもよい。
【0026】
上記の実施形態によれば、めっき液と被めっき物の化学変化をX線分析することができ、めっきの進行をその場測定によって時間的に捉えることが可能となる。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る分析容器、X線分析方法およびX線分析装置が、以下に図面を参照しつつ説明される。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にする目的で表現されており、必ずしも実際の寸法関係等を表すものではない。また、上下の位置関係は、実際に分析容器を使用する状態、すなわち液体試料を保持する状態においての上下関係を意味する。
【0028】
<分析システム>
最初に、本実施形態が対象としているX線分析のシステム構成について説明する。本実施形態で用いられる分析システムはXAFS法を用いて試料を透過した透過X線、あるいは試料から生じる蛍光X線の強度を測定するシステムである。透過法のXAFS法では、X線を試料に入射させて、試料を透過した後のX線の強度を測定する。蛍光法のXAFS法では、試料に入射されたX線によって試料表面から放出される蛍光X線の強度を測定する。
【0029】
図1は本実施形態に用いる分析システム1の構成を説明する図である。
図1は透過法のXAFS法による分析システム1を表している。X線源10は連続したエネルギー範囲のX線11を放出することができる線源である。このようなX線11を利用できる放射光施設としては、例えば、大型放射光施設SPring-8(ビームラインBL01B1、BL14B2、BL16B2)、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター(ビームラインBL11、BL16)が挙げられる。X線11は分析容器20に保持された試料30を透過する。本例では試料30は液体試料31と固体試料32を含む。試料30は液体試料31のみであってもよい。本例の液体試料31がめっき液であり、以下の説明において同一の符号を用いてめっき液31と表すことがある。固体試料32が被めっき物であり、以下の説明において同一の符号を用いて被めっき物32と表すことがある。X線11は試料30であるめっき液31と被めっき物32を透過する。
【0030】
検出器40は試料30を透過したX線11を受光し、X線強度を測定する。検出器40は一定のエネルギー間隔毎にエネルギーを積算することで、所定のエネルギー範囲のX線強度をX線強度分布として求めることができる。エネルギー間隔は例えば0.5eVや1eVである。積算時間は例えば0.1秒以上10秒以下である。検出器41が試料30の前に配置される。検出器41はX線11の強度を測定すると共にX線11を透過させる。検出器41により検出されたX線11の強度と、検出器40により検出されたX線11の強度との差分から、試料30のX線吸収スペクトルを求めることができる。
【0031】
演算器50は検出器40で得られた所定のエネルギー範囲のX線吸収スペクトルを受け取り、分析の目的とする演算を行う。演算結果は図示しない通信ポートからのデータ出力、表示装置や印刷装置からの出力などの形で出力される。演算器50は代表的には汎用のコンピュータおよび既知のソフトウエアにより構成されるが、専用の装置として構成されていても良い。本例では、試料30中の元素の価数比率あるいはその変化を演算する。演算器50は試料30に含まれる固体あるいは液体の元素の価数を、時間を追って測定する。この測定によって、試料30中で進行する化学反応にともなう元素の価数変化を定量的に求めることができる。
【0032】
<分析容器>
分析容器20は、試料30を内部空間120に保持する容器である。分析容器20は、X線11を透過する素材で構成された透過窓を有する。または分析容器20全体がX線11を透過する素材で構成されていてもよい。
図2は、本実施形態としての分析容器20の一例を示す斜視模式図である。
図3は、
図2に示す分析容器20の正面図、上面図、底面図、側面図を示す図である。
図3において点線は、構造の理解を容易にするために加えられた線であって、背後に隠れた線を示している。以下、
図2と
図3を参照して分析容器20の構成を説明する。
【0033】
(構造)
分析容器20は、一対の対向する透過壁111と、一対の側壁112で四方を囲まれ、底部に底壁113を有する略立方体形状の容器である。一対の側壁112は、透過壁111を連結するように設けられている。透過壁111はX線11が透過する部分として、向かい合う平行な部分を一部に有していればよく、他の部分の形状は任意である。本例の分析容器20において、透過壁111は上部と下部において間隔が異なるように構成されている。下部の間隔が狭い部分がX線11の透過窓として用いられる。X線11が透過する部分に試料30が配置される。
【0034】
図4を参照して、分析容器20の構成例をさらに説明する。
図4は、分析容器20の内部空間120について説明するための図である。
図4は
図2に示すA-A視の断面を壁の厚さを省略して各壁の内壁面について模式的に描いた図である。透過壁111は上述のようにX線11の透過部分である下部の間隔が狭くなっている。分析容器20の内部空間120は、第1の内部空間121と第2の内部空間122とを有する。第1の内部空間121は底壁113の内面を含む空間であり、第2の内部空間122は第1の内部空間121に連なり第1の内部空間121の上部に位置する空間である。第1の内部空間121における一対の透過壁111の間隔が、第2の内部空間122における一対の透過壁111の間隔よりも小さくなっている。第1の内部空間121に固体試料32が配置される。液体試料31は、第1の内部空間121から第2の内部空間122にかけて配置される。第2の内部空間122のいずれかの場所に流出口126が設けられるとよい。液体試料31は当該流出口126から外部に流出する。
【0035】
側壁112は本例では平面板状であるが、内部空間120を形成するように透過壁111を連結するように配置されていればよく、形状は任意である。本例の側壁112は、中央部に開口を備える。当該開口は、流出口126として機能する。分析容器20の内部空間120に保持された液体試料31は、流出口126から側壁112の外部へ流出することができる。側壁112の外表面には流出口126に連なるように設けられた誘導部127が設けられている。本例の誘導部127は、側壁112の外表面に形成された溝であり、側壁112の下部に向かって延びている。本例では、流出口126および誘導部127は一対の側壁の両方に設けられている。流出口126は少なくとも1つあれば良く、数は限定されない。本例の流出口126は円形の孔としたが、形状は限定されない。また、流出口126の配置と誘導部127の他の例については後述する。
【0036】
本例の分析容器20は、上部が開口している。上部の開口は流入口125として機能する。液体試料31は、上部の流入口125から内部空間120へ流入することができる。この開口からは、固体試料32も分析容器20の内部へ出し入れすることができる。流入口125は、上部の開口に限定されない。例えば側壁112の上部に別途開口を設けて流入口125としてもよいし、透過壁111の上部に設けられても良い。また、流入口125は単なる開口には限られず、内部空間120に通じる配管が接続されていてもよい。流入口125の数は少なくとも一つあればよい。
【0037】
分析容器20において分析対象となる試料30が液体試料31と固体試料32の場合、流出口126は、固体試料32が収容された状態において、固体試料32の上端よりも上部となる位置に設けられるとよい。液体試料31を補充しつつ変化を測定する必要がある場合に、液体試料31の流出口126を固体試料32よりも下部に設けると、液体試料31は下部の流出口126から流出する。流出する流量が補充される流量を上回ってしまう場合には、液体試料31の量が不足してしまう。流出口126を固体試料32の上端よりも上部に設けることによって、液体試料31の流入量によらず固体試料32は常に液体試料31の中に保持される。
【0038】
(誘導部)
本例の分析容器20は、流出口126を備える側壁112の外面に、流出口126から流出する液体試料31の流れを誘導する誘導部127を備える。本実施形態の誘導部127は、側壁112の外面に形成された溝である。側壁112に設けられた流出口126から流れ出た液体試料31は、側壁112の表面を分析容器20の下部に向けて流れる。この場合、液体試料31は、誘導部127である溝の内部を通って、または誘導部127に沿って流れる。流出口126の位置や流量によっては、流れ出た液体試料31が透過壁111の表面を流れる場合がある。透過壁111の表面を液体試料31が流れると、または透過壁111の表面に液体試料31が付着していると、X線11の透過状態が変化することとなり、正確な分析ができない。そこで、流出口126から流出する液体試料31が透過壁111の表面を流れないように流れの方向を制御するための誘導部127を設けるとよい。
【0039】
流出口126と誘導部127の形状および配置について説明する。
図5は、本実施形態に係る分析容器20の流出口126および誘導部127を例示する図である。
図5には流出口126と誘導部127の3つの構成例が、それぞれ側面と底面の図によって示されている。以下それぞれの例示について説明するが、流出口126と誘導部127の形状や配置はこれらに限定されるものではなく、同様の機能を奏する範囲で種々の変形が可能である。
【0040】
図5のAは、流出口126が側壁112の上端部に設けられている。この場合、分析容器20の上面は蓋によって閉じられていてもよいし、開口した状態でもよい。流入口125の位置は限定されない。側壁112には流出口126を挟むように2本の誘導部127が溝として形成されている。流出口126から流出した液体試料31は、側壁112の外面に沿って流れ落ちる。その際に誘導部127である溝が存在することで、液体試料31は、溝の内部を通って、または溝に沿って下部へ流れることができる。
【0041】
図5のBは、流出口126が側壁112の中央部に設けられている。流入口125の位置は限定されない。側壁112には流出口126を挟むように2本の誘導部127が突起として形成されている。流出口126から流出した液体試料31は、側壁112の外面に沿って流れ落ちる。その際に誘導部127である突起が存在することで、液体試料31は、突起に挟まれた内側の表面を通って下部へ流れることができる。
【0042】
図5のCは、流出口126が側壁112の中央部に設けられている。流入口125の位置は限定されない。側壁112には流出口126に連なるように2本の誘導部127が溝として形成されている。流出口126から流出した液体試料31は、側壁112の外面に沿って流れ落ちる。その際に誘導部127が存在することで、液体試料31は、溝の内部を通って、または溝に沿って下部へ流れることができる。誘導部127としての溝が流出口126に連なっていることで、流出する液体試料31を溝の内部へ誘導しやすくなる。
【0043】
(素材)
分析容器20を構成する材料、特に透過壁111を構成する材料は、X線11の透過率が高く、かつ分析対象とする元素のX線吸収スペクトルと重複するX線吸収スペクトルを呈しない材料であればよい。このような材料としてポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン等を用いることができる。
【0044】
(大きさ)
分析容器20の大きさは、分析対象とする試料30によって選択可能である。X線11の透過の効率等を考慮すると概ね以下の大きさが例示される。
図4を再び参照して、試料30が配置されてX線11の透過窓を構成する第1の内部空間121の幅L3は、10mm以下、さらには5mm未満であると良い。上述の通り幅L3は透過壁111の厚さを除いた内壁間の間隔である。透過壁111の厚さもX線11の透過効率を考慮すると1mm以下であるとよい。第1の内部空間121の高さL1と第2の内部空間122の高さL2、および図示しない奥行き方向である側壁112の間隔は、収容したい内部空間120の容積を決める大きさとして適宜選択することができる。
【0045】
<分析装置>
図6は、本実施形態に係る分析方法を実現する分析装置の構成を説明する模式図である。この分析装置は、無電解めっきの進行状態をX線分析する装置の構成例である。分析容器20、液体試料31、固体試料32は
図1に示される分析システム1に対応しており、図の紙面垂直方向にX線11が試料30を貫くように透過する。分析容器20の上端部は流入口125として開口している。分析容器20の側面には液体試料31の流出口126が設けられている。試料30はめっき液31および被めっき物32である。めっき液31は貯留槽60に貯留されている。めっき液31はポンプ70により汲み上げられ、分析容器20を通って循環する。図中の矢印はめっき液31の流れを示している。めっき液31はポンプ70により第1配管71を通り、第2配管72を通って分析容器20の流入口125へ導かれる。分析容器20の内部空間120において無電解めっきが進行する。めっき液31は流出口126から溢れだし、分析容器20の外面を通って下方に流れる。分析容器20から流れ出ためっき液31は集められ、第3配管73を経由して再び貯留槽60に戻る。貯留槽60にはめっき液31の温度を維持するための保温器65が設けられていてもよい。
図6は、めっき液31の流れを示すのみであり、各部の大きさや容積は図には示されない。実際の分析容器20の容積に比べて貯留槽60の容積は桁違いに大きい。そのため、分析容器20には常に新しいめっき液31が供給されていることと等価な状態が維持される。以上、無電解めっきについて説明したが、本分析装置は電解めっきにも同様に適用できる。金属の電極を分析容器内に配置して、電極と被めっき物との間にポテンショスタット等の電気化学測定装置を接続することで分析が可能である。
【0046】
[分析例]
以下、本開示の分析容器20および分析装置を用いて銅めっきの進行状態をその場測定した例を示す。試料として、銅イオンを含むめっき液31と、被めっき物32としてのパラジウム箔を用いる。被めっき物32の大きさは幅5mm、長さ10mm、厚さ8μmとした。
【0047】
(装置等の構成)
分析には
図1により説明した分析システム1および
図6にて説明した分析装置を用いた。1種以上の銅イオンを含むめっき液31と被めっき物32とを試料として収容する分析容器20を準備した。X線源10は、めっき液31と被めっき物32とを透過するようにX線11を照射する。検出器40は、透過したX線11を受光し、受光したX線11の強度からX線吸収スペクトルを求める。演算器50は、X線吸収スペクトルから試料30に含まれる銅の価数比率を求める。X線11は、エネルギーが8900eV以上9110eV以下の範囲を連続的または離散的に変化するX線である。演算器50は、予め取得された銅イオンおよび金属銅についての基準スペクトルに基づくフィッティングにより、めっき液31に含まれる銅イオンおよび被めっき物32に付着した金属銅の含有比率を演算する。演算器50は当該含有比率の時間変化からめっき液31と被めっき物32との状態変化を定量化する。
【0048】
分析容器20は、材料として厚さ1mmのポリスチレン製セルである。
図4を参照して、第1の内部空間121を構成する透過壁111の間隔L3は4mmである。第1の内部空間121の高さL1は18mm、第2の内部空間122の高さL2は25mmである。第2の内部空間122を構成する側壁112の平行面の間隔は10mm、奥行きは10mmである。これより、実際に分析対象として試料30が保持される内部空間120の容積は約1mLとなる。流入口125は分析容器20の開口部である。流出口126は分析容器20の側壁112において、第1の内部空間121の直上部分に設けた。流出口126は1.5mmφの円形孔である。側壁112には
図5のCに示した形状の2本の溝を誘導部127として形成した。溝の幅はそれぞれ2mmである。ここで、分析容器20の容積、流出口126の孔のサイズなどは、目的とする分析対象に応じて決めることができる。今回の分析では、銅めっき液を対象として、流量30mL/min.での測定を想定したことで上記のサイズとした。第1の内部空間121の底面積に対して流出口126の面積が3%から5%であるとちょうどよいと考えられる。
【0049】
貯留槽60にはめっき液31を約50mL貯留し、35±2℃の範囲で温度を保持した。めっき液31は、酒石酸を13g/L、硫酸銅を7.0g/L、水酸化カリウムを5.0g/L、ホルムアルデヒド10%のホルマリンを100mL/Lの分量で混合し、水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pH12.5に調整した液である。めっき液31中の2価の銅イオン(Cu2+)が被めっき物32の表面において金属銅、すなわち固体の0価の銅(Cu)として析出することでめっきが進行する。めっき液31中には1価の銅がCu+として含まれる。
【0050】
(X線吸収スペクトルの取得)
広範囲のエネルギーでX線を照射できる設備として本測定例では佐賀県立九州シンクロトロン光研究センターBL16を用いた。X線源10からのX線11は、8900eV以上9110eV以下の範囲にX線エネルギーを走査しながら試料30に照射される。
【0051】
試料30を透過したX線11の強度は検出器40により測定される。検出器40により8965eV以上9045eV以下までの区間を、所定のエネルギー間隔毎に一定時間の積算によりデータを取得した。所定のエネルギー間隔は、8965eV以上8970eV以下では1eV刻み、8970eV以上9045eV以下では0.5eV刻みとした。各エネルギーにおける積算時間は1秒間とした。エネルギー間隔および積算時間はこれに限定されるものではなく、測定対象に応じて選択することができる。分析に先立ち、試料30が無い状態でのX線11の強度を測定しておき、試料30を透過したX線11の強度との差分から、試料30によるX線11の吸収値を求めた。なお、蛍光法の場合は試料30に照射する前のX線11の強度と、試料30の表面から放出される蛍光X線の強度とを測定する。このようなエネルギー毎のX線強度から、横軸にエネルギーの値、縦軸に測定強度値から求められるX線吸収値を表したX線吸収スペクトルを取得することができる。
【0052】
得られたX線吸収スペクトルを、演算器50によって分析した。演算器50には、汎用のコンピュータおよび解析ソフト(Athena(Demeterパッケージ))を用いた。まず、得られたX線吸収スペクトルについて8870eV以上8950eV以下の範囲(pre-edge領域と呼ぶ)におけるX線吸収が0となるようにバックグラウンドを差し引いた。次に9135eV以上9700eV以下の範囲(post-edge領域と呼ぶ)におけるX線吸収が1となるように規格化処理を行った。こうして得られたX線吸収スペクトルを以下の説明において測定スペクトルXSと呼ぶ。
【0053】
(基準スペクトルの取得)
分析に先立ち、0価、1価、2価のそれぞれの銅のX線吸収スペクトルを取得した。
図1の分析システム1において、試料30として単一の価数のみの銅を含む試料30を準備して、透過法によりX線吸収スペクトルを測定した。0価の銅としては、厚さ5μmの金属銅の箔を用いた。1価の銅としては、酸化銅(Cu2O)の固体を用いた。2価の銅としては、酸化銅(CuO)の固体を用いた。測定するエネルギー範囲、バックグラウンド処理、規格化処理の方法は測定スペクトルXSの場合と同じである。それぞれについて求めたX線吸収スペクトルを各価数の基準スペクトルと呼ぶ。以下、0価の銅についての基準スペクトルをS0、1価の銅についての基準スペクトルをS1、2価の銅についての基準スペクトルをS2、とそれぞれ表す。
【0054】
図7は各価数の基準スペクトルを示す図である。
図7は、8965eV以上9065eV以下の範囲で求められた基準スペクトルを示す。0価の銅についての基準スペクトルS0、1価の銅についての基準スペクトルS1、2価の銅についての基準スペクトルS2が1枚のグラフに描かれている。縦軸は規格化されたX線吸収値(normalized)、横軸はエネルギー値(Energy(eV))を表す。縦軸および横軸は、他のX線吸収スペクトルの図において同様である。
【0055】
(分析結果1)
図8は、スペクトルのフィッティングを説明する図である。
図8には、測定スペクトルXSが示されている。
図7に示された各価数の基準スペクトルS0、S1、S2のX線吸収値に係数を掛け合わせて足し合わせる計算を行い、最も測定スペクトルXSに一致する比率を求めることが分析結果1の方法である。すなわち、解析ソフトによる線形結合フィッティングにより、XS=a×S0+b×S1+c×S2となる係数a、b、cが求められる。線形結合フィッティングは一般的な最小二乗法に基づくものである。係数a、b、cの合計は1、各係数a、b、cはそれぞれが0以上1以下の値として比率が求められる。本実施形態でのフィッティング範囲は8965eV以上9040eV以下とした。フィッティングの結果得られた各基準スペクトルS0、S1、S2の比率は次の通りであった。
0価(S0):a=0.40
1価(S1):b=0.03
2価(S2):c=0.57
【0056】
図8には、フィッティング結果としての解析結果スペクトルFSが破線により描かれている。また、各価数の基準スペクトルS0、S1、S2は、求められた係数a、b、cをかけた値として示されている。
図8において測定スペクトルXSと解析結果スペクトルFSとは概ね重なって描かれている。すなわち測定スペクトルXSと解析結果スペクトルFSとが非常に精度良く一致していることが確認できた。
【0057】
上記の結果は、試料30に含まれる各価数の銅の比率を示す。この分析を、時間を追って行うことで、0価の銅である金属銅の比率の変化、すなわち銅めっきの進行状態を時間的に把握することが可能である。
【0058】
(分析結果2)
図9は、上述の方法を用いて求めた0価の銅と2価の銅の存在比率をグラフに示したものである。
図9は、分析装置においてポンプ70を稼働させず、めっき液31が流れない状態でのデータである。すなわち、分析容器20の内部空間120に保持されためっき液31および被めっき物32においてめっきが進行する様子を示している。縦軸は価数別の銅の存在比率、横軸は経過時間を表す。0価の銅は被めっき物32に析出した金属銅であり、2価の銅はめっき液31中の銅イオンである。1価の銅については比率が小さいため、この図では省略している。測定開始から1分毎にX線吸収スペクトルを取得して上述のフィッティングを行った。経過時間19分から23分は実験の都合によりデータが欠落している。時間と共に0価の銅の比率が増加して、2価の銅の比率が減少していることがわかる。当該2価の銅イオンの比率から、めっき液31中の2価の銅イオンの濃度を算出したものが
図10である。
図10の縦軸は2価の銅イオンの濃度、横軸は経過時間を表す。時間の経過と共に、めっき液31中の銅イオンの濃度の現象が明らかに分析できている。
【0059】
(分析結果3)
図11は、上記と同様の方法によって求めた0価の銅と2価の銅の存在量をグラフに示したものである。
図11は、分析装置においてポンプ70を稼働させて、めっき液31が循環する状態でのデータである。めっき液31の流量を30mL/min.に設定した。分析容器20の内部空間120に保持されためっき液31および被めっき物32においてめっきが進行する様子を示している。
図9と同様に、縦軸は価数別の銅の存在比率、横軸は経過時間を表す。時間と共に0価の銅の比率が増加しており、2価の銅の比率はほぼ一定であることがわかる。当該2価の銅イオンの比率から、めっき液31中の2価の銅イオンの濃度を算出したものが
図12である。
図12の縦軸は2価の銅イオンの濃度、横軸は経過時間を表す。時間の経過と共に、めっきは進行して析出した金属銅は増加してゆくが、めっき液31中の銅イオンの濃度は一定に保たれている状態が明らかに分析できている。このデータからは、当該流量でめっき液31を流すことで、めっき液31中の銅イオンが減少することなく安定してめっきを継続できることが確認できる。このように、本実施形態の分析容器20を用いてその場測定を行うことで、めっきの進行状態とめっき液31の状態の変化が測定できる。当該分析は、実際の製造設備における効率的なめっき液の管理や状態制御に反映することができる。
【0060】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0061】
1 分析システム
10 X線源
11 X線
20 分析容器
111 透過壁
112 側壁
113 底壁
120 内部空間
121 第1の内部空間
122 第2の内部空間
125 流入口
126 流出口
127 誘導部
30 試料
31 液体試料(めっき液)
32 固体試料(被めっき物)
40 検出器
41 検出器
50 演算器
60 貯留槽
65 保温器
70 ポンプ
71 第1配管
72 第2配管
73 第3配管
XS 測定スペクトル
FS 解析結果スペクトル
S0、S1、S2 基準スペクトル