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  • 特開-研磨液組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139521
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241002BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20241002BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20241002BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
G11B5/84 A
B24B37/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050494
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】多久島 大樹
【テーマコード(参考)】
3C158
5D112
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158AA19
3C158CA01
3C158CA04
3C158CB02
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA02
3C158DA17
3C158EB01
3C158EB29
3C158ED10
3C158ED23
3C158ED26
5D112AA24
5D112GA09
5D112GA14
(57)【要約】
【課題】一態様において、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立できる研磨液組成物を提供する。
【解決手段】本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、水系媒体と、を含有し、成分Aは、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子であり、pHが1以上4以下である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。ここで、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度は、研磨による基板の腐食反応により発生する電子の発生量を電気化学測定装置により測定した電流密度の値である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子(成分A)と、酸(成分B)と、水系媒体と、を含有し、
成分Aは、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子であり、
pHが1以上4以下である、磁気ディスク基板用研磨液組成物。
ここで、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度は、評価対象プレート電極(磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板)が作用極電極として配置され、セル内に参照電極(銀-塩化銀電極)及び対極電極(白金電極)が配置されたプレート電極評価セルと、各電極に接続されたポテンショスタットと、前記評価対象プレート電極に接触可能に配置された研磨パッド(スエードパッド)を有する回転制御体とを備え、前記セル内に電解質(シリカ粒子:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.3質量%、及び水を含み、pHが2.5である研磨液組成物)が前記各電極を浸漬又は接触させるように貯留されている電気化学測定装置を用い、下記ステップで測定される。
・前記電解質の液温約26℃において、前記回転制御体に貼り付けた研磨パッドを作用極と接触させ(印加荷重:300g/cm2±100g/cm2)、前記回転制御体を回転させる(回転数:25rpm)。このとき測定される開回路電圧の値を腐食電位Ecorrとする。
・腐食電位Ecorrから0.5Vアノード側へLSV法(Linear Sweep Voltammetry)を用いて電位を走査したときに観測されるアノード反応の電流曲線に対し、ターフェル・プロット法を用いて電流密度を測定し、この電流密度を動的瞬間腐食速度として算出する。
【請求項2】
成分Aは、前記In-situ電気化学測定において観測される腐食電位Ecorrが、-0.32V超である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Aの平均一次粒子径は1nm以上50nm以下である、請求項1又は2に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
酸化剤(成分C)をさらに含有する、請求項1から3のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項5】
複素環芳香族化合物(成分D)、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物(成分E)、及び、アニオン性水溶性高分子(成分F)から選ばれる少なくとも1種をさらに含有する、請求項1から4のいずれかに記載の研磨液組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する研磨工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、被研磨基板の研磨速度を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、研磨液組成物、並びにこれを用いた基板の製造方法及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気ディスクドライブは小型化・大容量化が進み、高記録密度化が求められている。高記録密度化するために、単位記録面積を縮小し、弱くなった磁気信号の検出感度を向上するため、磁気ヘッドの浮上高さをより低くするための技術開発が進められている。磁気ディスク基板には、磁気ヘッドの低浮上化と記録面積の確保に対応するため、表面粗さ、うねり、端面ダレ(ロールオフ)の低減に代表される平滑性・平坦性の向上とスクラッチ、突起、ピット等の低減に代表される欠陥低減に対する要求が厳しくなっている。
【0003】
このような要求に対して、例えば、特許文献1には、シリカ粒子、酸、酸化剤、水溶性高分子、含窒素有機化合物、及び水を含み、pHが4.0以下の研磨液組成物が開示されている。同文献には、Ni-Pめっきが施された磁気ディスク基板を、前記研磨用組成物に浸漬し、該研磨用組成物から取り出して水で洗浄し、次いでアルカリ性水溶液で洗浄する浸漬-洗浄試験において、研磨液組成物に浸漬する前後の基板の腐食電位の差が所定範囲内であることが記載されている。
特許文献2には、予め溝を形成させた絶縁膜上に銅を電気めっき法を用いて埋め込んだ後、配線形成のための溝部分以外の過剰な銅を除去するための研磨液として、砥粒(例えば、シリカ)、金属酸化剤(例えば、過酸化水素)、銅を溶解させるとともに銅と錯体をつくる化合物(例えば、無機酸、有機酸)、pH調整剤、荷重下における銅の溶解を促進する溶解速度促進剤(例えば、硝酸塩)、及び、非荷重下における銅の溶解を抑制する溶解抑制剤(例えば、ベンゾトリアゾール)を含み、pHが3以下である研磨液が開示されている。
特許文献3には、コバルト含有材料を研磨するための研磨用組成物であって、シリカ等の研磨剤と弱酸除去速度向上剤とアゾール含有腐食阻害剤とpH調整剤とを含み、前記除去速度向上剤、前記腐食阻害剤及び前記pH調整剤がそれぞれ1と18の間のpKaを有し、前記組成物のpHが7と12の間にあり、それぞれ前記組成物の総重量に基づいて約100百万分率未満の硫酸イオン及び約100百万分率未満のハロゲン化物イオンを有する、研磨用組成物が提案されている。
特許文献4には、コバルトを含む層を研磨するための研磨用組成物として、砥粒と第1酸解離定数が2以上である酸又はその塩と防食剤と分散剤とを含み、電気伝導度が3mS/cm以上であり、pHが6.5以上である研磨用組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-128479号公報
【特許文献2】国際公開第2006/30595号
【特許文献3】特開2018-93204号公報
【特許文献4】特開2018-157164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁気ディスクドライブの大容量化に伴い、基板の表面品質に対する要求特性はさらに厳しくなっており、基板表面のスクラッチをいっそう低減できる研磨液組成物の開発が求められている。
さらに、近年では、基板の薄型化も進んでおり、基板の剛性が低下する傾向にある。基板の剛性が低下すると、基板の加工が難しいため、加工条件の緩和が必要となる。しかし、加工条件を緩和(例えば、加工圧の低下)すると、従来のシリカ砥粒では十分な研磨速度を確保できない。
また、一般的に、研磨速度とスクラッチとはトレードオフの関係にあり、一方が改善すれば一方が悪化するという問題がある。
【0006】
そこで、本開示は、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立できる研磨液組成物、並びにこれを用いた磁気ディスク基板の製造方法及び基板の研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と酸(成分B)と水系媒体とを含有し、成分AはIn-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子であり、pHが1以上4以下である、磁気ディスク基板用研磨液組成物に関する。
ここで、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度は、評価対象プレート電極(磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板)が作用極電極として配置され、セル内に参照電極(銀-塩化銀電極)及び対極電極(白金電極)が配置されたプレート電極評価セルと、各電極に接続されたポテンショスタットと、前記評価対象プレート電極に接触可能に配置された研磨パッド(スエードパッド)を有する回転制御体とを備え、前記セル内に電解質(シリカ粒子:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.3質量%、及び水を含み、pHが2.5である研磨液組成物)が前記各電極を浸漬又は接触させるように貯留されている電気化学測定装置を用い、下記ステップで測定される。
・前記電解質の液温約26℃において、前記回転制御体に貼り付けた研磨パッドを作用極と接触させ(印加荷重:300g/cm2±100g/cm2)、前記回転制御体を回転させる(回転数:25rpm)。このとき測定される開回路電圧の値を腐食電位Ecorrとする。
・腐食電位Ecorrから0.5Vアノード側へLSV法(Linear Sweep Voltammetry)を用いて電位を走査したときに観測されるアノード反応の電流曲線に対し、ターフェル・プロット法を用いて電流密度を測定し、この電流密度を動的瞬間腐食速度として算出する。
【0008】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程を含む、磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、被研磨基板の研磨速度を向上させる方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の研磨組成物によれば、一又は複数の実施形態において、研磨速度の向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立できるという効果が奏されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、シリカ粒子の動的瞬間腐食速度を測定するための電気化学測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したとおり、近年、基板の薄型化が進んでおり、基板の剛性が低下する傾向にある。基板の剛性が低下すると、基板の加工が難しいため、加工条件の緩和が必要となる。しかし、加工条件を緩和(例えば、加工圧の低下)すると、従来のシリカ砥粒では十分な研磨速度を確保できなかった。
そこで、本発明者らは、粒子表面に腐食促進作用を有するシリカを用いることで、研磨速度の向上と低スクラッチを両立できることを見出した。
また、シリカ粒子の腐食促進作用は、In-situ電気化学測定により研磨中の動的な瞬間腐食速度を測定することにより検出できることを見出した。
本開示は、腐食促進作用を有する特定のシリカ粒子と酸とを含み、pHが1~4の研磨液組成物を磁気ディスク基板の研磨に用いると、研磨速度を向上しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できるという知見に基づく。
【0013】
従来、被研磨基板に対する研磨液組成物としての腐食速度を測定する方法として、研磨剤組成物中に被研磨基板を浸漬させ、浸漬前後の基板の重量変化から浸漬時間に対する平均の腐食速度を算出する方法(秤量法)が存在する。しかしながら、酸化剤を含む研磨液組成物中での金属の腐食機構は、金属(M)が酸化剤で酸化され(M→M-O)、金属酸化物が金属イオンとして溶解する(M-O→Mn+)機構を取ることが一般的であるが、酸素が結合し基板重量が増える反応と、金属イオンとして溶解し基板重量が減少する反応を一括して、天秤等で重量変化を観測せざるを得なかった。また天秤により重量変化を観測するため、十分な重量変化(数十mg程度の重量変化が必要)が起きるまで、浸漬時間を増やす必要があり、評価に時間がかかるという課題がある。それに対し、In-situ電気化学測定法では、金属が溶解する際に発生する電子を観測するため、金属種の比重にもよるが10-19g程度の基板重量変化から正確に腐食速度を測定することができる。
【0014】
腐食速度を見積もるもう1つの方法として、前記のように被研磨基板を研磨剤組成物へ浸漬し、液中の金属の溶解量をICP-OES(ppmオーダーでの測定が可能)で測定する方法がある。しかしながら固体である砥粒を含んだ状態でICP-OESを測定すると、装置の故障につながる可能性が高く、実用的ではない。また両者の方法いずれにしても静的な平均腐食速度を見積もる手法であって、研磨中の動的な腐食速度を測定することはできない。それに対し、In-situ電気化学測定は動的な腐食速度を観測できる唯一の手法であり、シリカ粒子の研磨中における動的な腐食速度を観測することで本発明に至った。
【0015】
すなわち、本開示は、一態様において、シリカ粒子(成分A)と酸(成分B)と水系媒体とを含有し、成分AはIn-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子であり、pHが1以上4以下である、磁気ディスク基板用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
【0016】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
従来からNi-Pめっき基板の腐食反応は、研磨剤中に含まれる酸・酸化剤及び保護助剤等により、腐食速度を制御していたが、今回新たに、研磨剤中に含まれるシリカ種によっても腐食電位及び腐食速度が変化することを見出した。これはシリカ粒子表面とNi-Pめっき基板界面において発生する、研磨中の摩擦エネルギーや熱エネルギー等によって、酸・酸化剤が粒子及び基板界面付近での腐食反応に寄与していると考えられる。例えば、シラノール基が酸と反応することで脱水縮合し、シロキサン基へと変換され、粒子表面が疎水的表面に変換された結果、粒子-粒子間や粒子-基板間での摩擦力が増し、研磨速度が向上する作用が発現する。また摩擦力が向上すると、熱が発生しやすくなる結果、粒子や基板界面での化学反応も向上する。その結果、酸化剤による基板の酸化反応や腐食反応が進行しやすくなることで高研磨速度を発現できると考えられる。つまり、腐食(酸化)反応が進行する腐食電位及び腐食速度を最適な範囲で有するシリカ粒子を含んだ研磨剤組成物を用いれば、機械研磨力及び化学研磨力が最も優れたバランスで研磨を進行することができ、その結果、実用的な高い研磨速度を有しつつ、スクラッチ抑制に優れる高品質な基板を生産できる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0017】
本開示において、基板表面のスクラッチは、例えば、光学式欠陥検査装置により検出可能であり、スクラッチ数として定量評価できる。スクラッチ数は、具体的には実施例に記載した方法で評価できる。
【0018】
[シリカ粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、砥粒として、シリカ粒子(以下「成分A」ともいう)を含有する。成分Aは、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子である。成分Aは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0019】
本開示において、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度とは、研磨による基板の腐食反応により発生する電子の発生量を電気化学測定装置により測定した電流密度の値である。
ここで、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度は、評価対象プレート電極(磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板)が作用極電極として配置され、セル内に参照電極(銀-塩化銀電極)及び対極電極(白金電極)が配置されたプレート電極評価セルと、各電極に接続されたポテンショスタットと、前記評価対象プレート電極に接触可能に配置された研磨パッド(スエードパッド)を有する回転制御体とを備え、前記セル内に電解質(シリカ粒子:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.3質量%、及び水を含み、pHが2.5である研磨液組成物)が前記各電極を浸漬又は接触させるように貯留されている電気化学測定装置を用い、下記ステップで測定される。
・前記電解質の液温約26℃において、前記回転制御体に貼り付けた研磨パッドを作用極と接触させ(印加荷重:300g/cm2±100g/cm2)、前記回転制御体を回転させる(回転数:25rpm)。このとき測定される開回路電圧の値を腐食電位Ecorrとする。
・腐食電位Ecorrから0.5Vアノード側へLSV法(Linear Sweep Voltammetry)を用いて電位を走査したときに観測されるアノード反応の電流曲線に対し、ターフェル・プロット法を用いて電流密度を測定し、この電流密度を動的瞬間腐食速度として算出する。
前記電気化学測定装置としては、例えば、図1に示すような電気化学測定装置が挙げられる。
作用極電極は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板が挙げられる。該磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板は研磨及び洗浄を実施した基板であってもよい。研磨方法としては、例えば、シリカ粒子を含む研磨液組成物を用いた研磨が挙げられる。具体的には、平均一次粒子径150nmのコロイダルシリカ:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.8質量%を含み、残部が水である研磨液組成物を用いた研磨(例えば粗研磨)や、平均一次粒子径20nmのコロイダルシリカ:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.4質量%を含み、残部が水である研磨液組成物を用いた研磨(例えば仕上げ研磨)が挙げられる。洗浄方法としては、例えば、超音波洗浄及びブラシ洗浄から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記研磨及び洗浄を実施した基板は、さらに耐水性サンドペーパーで研磨した後、基板表面をエタノール及び水ですすぎ洗浄し、乾燥させた基板であってもよい。
研磨パッドは、一又は複数の実施形態において、スエードパッドが挙げられる。スエードパッドとしては、例えば、ポリウレタン製軟質スエードパッドが挙げられる。研磨パッドの圧縮率は、例えば、20%以下が挙げられる。研磨パッドとしては、例えば、ポリウレタン製軟質スエードパッドをダイヤモンドドレスで目開き後、前記電解質で所定時間(例えば、5時間)研磨したパッドを用いてもよい。
【0020】
前記動的瞬間腐食速度は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、170μA/cm2以上であって、200μA/cm2以上が好ましく、240μA/cm2以上がより好ましく、そして、330μA/cm2未満であって、320A/cm2以下が好ましく、300μA/cm2以下がより好ましい。より具体的には、前記研磨時の動的瞬間腐食速度(電流密度)は、170μA/cm2以上330μA/cm2未満であって、200μA/cm2以上320μA/cm2以下が好ましく、240μA/cm2以上300μA/cm2以下がより好ましい。
【0021】
前記In-situ電気化学測定において観測される腐食電位Ecorrは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、-0.32V超が好ましく、-0.25V以上がより好ましく、-0.23V以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、-0.19V以下が好ましく、-0.20V以下がより好ましく、-0.20V未満が更に好ましく、-0.21V以下が更に好ましい。本開示において、腐食電位Ecorrとは、測定系中でのカソード反応及びアノード反応中に消費又は生成される電子量がつり合い、見かけ上電流が流れない電位のことを云う。例えば、本開示の反応系でいえば、ニッケルが酸化溶解する際に発生する電子と、水の電気分解やプロトン及び過酸化水素の還元反応により消費する電子量が釣り合う電位となる。一般的に腐食電位の値が低くなると、その金属種が酸化されやすいことを意味するが、あくまでも酸化のされやすさであり、腐食電位の値だけでは腐食速度を見積もることはできない。例えば、参考文献1「腐食の電気化学測定法の基礎 - 腐食電位- 」(材料と環境,Vol.67, No.1, pp2-8(2018),春名 匠著)や参考文献2「腐食の電気化学と測定法」(水流 徹著)には、腐食電位が上昇し腐食速度が増加する例と、腐食電位が上昇し腐食速度が低下する事例が説明されている。このように、腐食電位の値から腐食速度を見積もることは難しい。本開示における腐食電位Ecorrは、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。
【0022】
成分Aの製造方法としては、一般的な水ガラス法によって製造される。例えば、珪酸アルカリとしては珪酸ナトリウム、珪酸カリウム等を用い、珪酸アルカリの追熟工程、塩基性化合物添加による重合ゾルの製造工程、成長工程を経ることにより成分Aを製造できる。具体体な方法については、実施例にて述べる。
成分Aは、一又は複数の実施形態において、水ガラス法によって製造されたものの中から動的瞬間腐食速度が所定の範囲となるシリカ粒子を選別して用いてもよい。
【0023】
成分Aとしては、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、コロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、粉砕シリカ、それらを表面修飾したシリカ等が挙げられ、これらのなかでもコロイダルシリカが好ましい。
【0024】
成分Aの形状は、球状でも非球状でもよい。
成分Aの使用形態としては、スラリー状の研磨液成分であることが好ましい。
【0025】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上の観点から、1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が更に好ましく、15nm以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、50nm以下が好ましく、40nm以下がより好ましく、30nm以下が更に好ましく、25nm以下が更に好ましい。より具体的には、成分Aの平均一次粒子径は、1nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上40nm以下がより好ましく、10nm以上30nm以下が更に好ましく、15nm以上25nm以下が更に好ましい。本開示において、シリカ粒子の平均一次粒子径は、窒素吸着法(BET法)によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて算出される。平均一次粒子径は、具体的には実施例に記載する方法で測定できる。
【0026】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上の観点から、SiO2換算で、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましく、そして、スクラッチ低減の観点から、SiO2換算で、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。さらに、本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、SiO2換算で、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、3質量%以上10質量%以下が更に好ましい。成分Aが2種以上のシリカ粒子からなる場合、成分Aの含有量は、それらの合計含有量をいう。
【0027】
[酸(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、酸(以下、「成分B」ともいう)を含有する。本開示において、酸の使用は、酸又はその塩の使用を含む。成分Bは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0028】
成分Bとしては、例えば、硝酸、硫酸、亜硫酸、過硫酸、塩酸、過塩素酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、アミド硫酸等の無機酸;有機リン酸、有機ホスホン酸、カルボン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、成分Bは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、無機酸及び有機ホスホン酸を含むことが好ましく、無機酸を含むことがより好ましい。成分B中の無機酸の含有量は、同様の観点から、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、0.8質量%以上が更に好ましい。
無機酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましく、リン酸がより好ましい。
有機ホスホン酸としては、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、HEDPがより好ましい。これらの酸の塩としては、例えば、上記の酸と、金属、アンモニア及びアルキルアミンから選ばれる少なくとも1種との塩が挙げられる。上記金属としては、周期表の1~11族に属する金属が挙げられる。
【0029】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下が更に好ましく、2質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、0.01質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上4質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以上2質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0030】
本開示の研磨液組成物中の成分Aと成分Bとの質量比A/B(成分Aの含有量/成分Bの含有量)は、研磨速度の向上及びスクラッチ低減の観点から、0.5以上が好ましく、1以上がより好ましく、2以上が更に好ましく、4以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の質量比A/Bは、0.5以上10以下が好ましく、1以上8以下がより好ましく、2以上6以下が更に好ましく、4以上6以下が更に好ましい。
【0031】
[水系媒体]
本開示の研磨液組成物に含まれる水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水、又は、水と溶媒との混合溶媒等が挙げられる。上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が挙げられる。水系媒体が、水と溶媒との混合溶媒の場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本開示の効果が妨げられない範囲であれば特に限定されなくてもよく、経済性の観点から、例えば、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、実質的に100質量%が更に好ましい。被研磨基板の表面清浄性の観点から、水系媒体としては、イオン交換水及び超純水が好ましい。本開示の研磨液組成物中の水系媒体の含有量は、成分A、成分B及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0032】
[酸化剤(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、研磨速度向上及びスクラッチの更なる低減の観点から、酸化剤(以下、「成分C」ともいう)をさらに含有してもよい。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0033】
成分Cとしては、研磨速度向上及びスクラッチの更なる低減の観点から、例えば、過酸化物、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、酸素酸又はその塩、金属塩類、硝酸類、硫酸類等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、硝酸鉄(III)、過酢酸、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、硫酸鉄(III)及び硫酸アンモニウム鉄(III)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、研磨速度向上の観点、被研磨基板の表面に金属イオンが付着しない観点、及び入手容易性の観点から、過酸化水素がより好ましい。
【0034】
本開示の研磨液組成物が成分Cを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、研磨速度の更なる向上及びスクラッチの更なる低減の観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、そして、4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、0.01質量%以上4質量%以下が好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0035】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、複素環芳香族化合物(以下、「成分D」ともいう)、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物(以下、「成分E」ともいう)、及び、アニオン性水溶性高分子(以下、「成分F」ともいう)から選ばれる少なくとも1種をさらに含有してもよい。成分D~成分Fについて以下に説明する。
【0036】
[複素環芳香族化合物(成分D)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、複素環芳香族化合物(その塩も含む)(成分D)をさらに含有してもよい。成分Dは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0037】
成分Dとしては、スクラッチの更なる低減の観点から、複素環内に窒素原子を2個以上含む複素環芳香族化合物であることが好ましく、複素環内に窒素原子を3個以上有することがより好ましく、3個以上9個以下が更に好ましく、3個以上5個以下が更に好ましく、3又は4個が更に好ましい。
【0038】
成分Dとしては、一又は複数の実施形態において、1,2,4-トリアゾール、3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、5-アミノ-1,2,4-トリアゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、1H-テトラゾール、5-アミノテトラゾール、1H-ベンゾトリアゾール(BTA)、1H-トリルトリアゾール、2-アミノベンゾトリアゾール、3-アミノベンゾトリアゾール、及びこれらのアルキル置換体若しくはアミン置換体から選ばれる少なくとも1種が好ましい。前記アルキル置換体のアルキル基としては、例えば、炭素数1~4の低級アルキル基が挙げられ、一又は複数の実施形態において、メチル基、エチル基が挙げられる。前記アミン置換体としては、一又は複数の実施形態において、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、1-[N,N-ビス(ヒドロキシエチレン)アミノメチル]トリルトリアゾール等が挙げられる。これらの中でも、スクラッチの更なる低減の観点から、成分Dとしては、1H-ベンゾトリアゾール(BTA)、1H-トリルトリアゾール、2-アミノベンゾトリアゾール、及び3-アミノベンゾトリアゾールから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、1H-ベンゾトリアゾール(BTA)が更に好ましい。
【0039】
本開示の研磨液組成物が成分Dを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、スクラッチの更なる低減の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上の観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.2質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Dの含有量は、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、0.01質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上1質量%以下が更に好ましく、0.02質量%以上0.2質量%以下が更に好ましい。成分Dが2種以上の組合せである場合、成分Dの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0040】
[脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物(成分E)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、脂肪族アミン化合物又は脂環式アミン化合物(成分E)をさらに含有してもよい。スクラッチの更なる低減の観点から、成分Eの分子内の窒素原子数又はアミノ基若しくはイミノ基の併せた数は、2個以上4個以下が好ましい。成分Eは1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0041】
前記脂肪族アミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジブチルアミノ)プロピルアミン、3-(メチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、N-アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN-アミノエチル-N-メチルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく、N-アミノエチルエタノールアミン、N-アミノエチルイソプロパノールアミン、及びN-アミノエチル-N-メチルエタノールアミンから選ばれる少なくとも1種がより好ましく、N-アミノエチルエタノールアミン(AEA)が更に好ましい。
前記脂環式アミン化合物としては、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、ピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、1-アミノ-4-メチルピペラジン、N-メチルピペラジン、及びヒドロキシエチルピペラジン(HEP)から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ヒドロキシエチルピペラジン(HEP)がより好ましい。
【0042】
本開示の研磨液組成物が成分Eを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、スクラッチの更なる低減の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度向上の観点から、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Eの含有量は、0.005質量%以上1質量%以下が好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Eが2種以上の組合せである場合、成分Eの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0043】
[アニオン性水溶性高分子(成分F)]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、アニオン性水溶性高分子(成分F)をさらに含有してもよい。アニオン性水溶性高分子とは、分子内にアニオン性基を有する水溶性高分子である。本開示において、「水溶性」とは、水(20℃)に対して0.5g/100mL以上の溶解度、好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。
成分Fは、一又は複数の実施形態において、スクラッチの更なる低減の観点から、分子内に繰り返し単位とスルホン酸基又はその塩を有するものであり、繰り返し単位の主鎖に芳香環を有する構造であることが好ましい。芳香環としては、例えば、フェノール骨格、ナフタレン骨格が挙げられる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。成分Fは、1種であってもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0044】
成分Fとしては、一又は複数の実施形態において、不飽和カルボン酸由来の構成単位と分子内にスルホン酸基を有するモノマー由来の構成単位を含む共重合体が挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。分子内にスルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸が挙げられる。不飽和カルボン酸由来の構成単位と分子内にスルホン酸基を有するモノマー由来の構成単位を含む共重合体としては、例えば、アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体(AA/AMPS)が挙げられる。
成分Fとしては、一又は複数の実施形態において、スルホン酸基又はその塩を有する芳香族モノマーの縮合物又はその塩、スルホン酸基又はその塩を有する芳香族モノマー由来の構成単位と該構成単位以外の構成単位を含む縮合物又はその塩等が挙げられる。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。
スルホン酸基又はその塩を有する芳香族モノマーの縮合物又はその塩としては、うねりの更なる低減の観点から、主鎖を構成する芳香環の少なくとも1つの水素原子がスルホン酸基に置換された構造を有する縮合物又はその塩が好ましく、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。例えば、フェノールスルホン酸(PhS)のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物(NaS)が挙げられる。
スルホン酸基又はその塩を有する芳香族モノマー由来の構成単位と該構成単位以外の構成単位を含む縮合物又はその塩としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(BisS)とフェノールスルホン酸(PhS)のホルマリン縮合物(BisS/PhS)等が挙げられる。
【0045】
成分Fの重量平均分子量は、うねりの更なる低減の観点から、500以上が好ましく、1000以上がより好ましく、1500以上が更に好ましく、そして、50000以下が好ましく、30000以下がより好ましく、20000以下が更に好ましく、10000以下が更に好ましく、5000以下が更に好ましい。より具体的には、成分Fの重量平均分子量は、500以上50000以下が好ましく、1000以上30000以下がより好ましく、1500以上20000以下が更に好ましく、1500以上10000以下が更に好ましく、1500以上5000以下が更に好ましい。
【0046】
本開示の研磨液組成物が成分Fを含有する場合、本開示の研磨液組成物中の成分Fの含有量は、スクラッチの更なる低減の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、そして、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、本開示の研磨液組成物中の成分Fの含有量は、0.001質量%以上1質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下がより好ましく、0.01質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Fが2種以上の組合せである場合、成分Fの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0047】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、必要に応じてさらにその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、成分A以外の砥粒、成分F以外の高分子、増粘剤、分散剤、防錆剤、塩基性物質、界面活性剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0048】
[研磨液組成物のpH]
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上及びスクラッチ低減の観点から、4以下であって、3.5以下が好ましく、3以下がより好ましく、そして、同様の観点から、1以上であって、1.5以上が好ましく、2以上がより好ましい。同様の観点から、本開示の研磨液組成物のpHは、1以上4以下であって、1.5以上3.5以下が好ましく、2以上3以下がより好ましい。pHは、上述した酸(成分B)や公知のpH調整剤等を用いて調整することができる。本開示において、上記pHは、25℃における研磨液組成物のpHであり、pHメータを用いて測定でき、例えば、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値とすることができる。
【0049】
[研磨液組成物の製造方法]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B及び水系媒体と、さらに所望により任意成分(成分C、成分D、成分E、成分F及びその他の成分)とを公知の方法で配合することにより製造できる。すなわち、本開示は、その他の態様において、少なくとも成分A、成分B及び水系媒体を配合する工程を含む、研磨液組成物の製造方法に関する。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B及び水系媒体、並びに必要に応じて任意成分(成分C、成分D、成分E、成分F及びその他の成分)を同時に又は任意の順に混合することを含む。成分Aは、濃縮されたスラリーの状態で混合されてもよいし、水等で希釈してから混合されてもよい。成分Aが複数種類のシリカ粒子からなる場合、複数種類のシリカ粒子は、同時に又はそれぞれ別々に配合できる。成分Bが複数種類の酸からなる場合、複数種類の酸は同時に又はそれぞれ別々に配合できる。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の好ましい配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の好ましい含有量と同じとすることができる。
【0050】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、使用時、すなわち、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点における前記各成分の含有量をいう。
本開示の研磨液組成物中の各成分の含有量は、一又は複数の実施形態において、各成分の配合量とみなすことができる。
【0051】
本開示の研磨液組成物は、その保存安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造及び輸送コストを更に低くできる点で好ましい。本開示の研磨液組成物の濃縮物は、使用時に、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して使用すればよい。希釈倍率は、希釈した後に上述した各成分の含有量(使用時)を確保できれば特に限定されるものではなく、例えば、10~100倍とすることができる。
【0052】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を製造するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水系媒体を含むシリカ分散液と、成分Bを含む添加剤水溶液と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記シリカ分散液に含まれる水系媒体は、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液には、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の一部が含まれていてもよい。前記シリカ分散液及び前記添加剤水溶液にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(成分C、成分D、成分E、成分F及びその他の成分)が含まれていてもよい。本開示の研磨液キットによれば、研磨速度を向上しつつ、研磨後の基板表面のスクラッチを低減できる研磨液組成物が得られうる。
【0053】
[被研磨基板]
被研磨基板は、一又は複数の実施形態において、磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である。一又は複数の実施形態において、被研磨基板の表面を本開示の研磨液組成物を用いて研磨する工程の後、スパッタ等でその基板表面に磁性層を形成する工程を行うことにより磁気ディスク基板を製造できる。
【0054】
本開示において好適に使用される被研磨基板の材質としては、例えばシリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン等の金属若しくは半金属、又はこれらの合金や、ガラス、ガラス状カーボン、アモルファスカーボン等のガラス状物質や、アルミナ、二酸化珪素、窒化珪素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料や、ポリイミド樹脂等の樹脂等が挙げられる。中でも、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅等の金属及びこれらの金属を主成分とする合金を含有する被研磨基板に好適である。被研磨基板としては、例えば、Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板や、結晶化ガラス、強化ガラス、アルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス等のガラス基板がより適しており、Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板が更に適している。本開示において「Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板」とは、アルミニウム合金基材の表面を研削後、無電解Ni-Pめっき処理したものをいう。
【0055】
被研磨基板の形状としては、例えば、ディスク状、プレート状、スラブ状、プリズム状等の平面部を有する形状や、レンズ等の曲面部を有する形状が挙げられる。中でも、ディスク状の被研磨基板が適している。ディスク状の被研磨基板の場合、その外径は例えば2~100mm程度であり、その厚みは例えば0.4~2mm程度である。
【0056】
[磁気ディスク基板の製造方法]
一般に、磁気ディスクは、研削工程を経た被研磨基板が、粗研磨工程、仕上げ研磨工程を経て研磨され、記録部形成工程にて磁気ディスク化されて製造される。本開示の研磨液組成物は、磁気ディスク基板の製造方法における、被研磨基板を研磨する研磨工程、好ましくは仕上げ研磨工程に使用されうる。すなわち、本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む磁気ディスク基板の製造方法(以下、「本開示の基板製造方法」ともいう)に関する。本開示の基板製造方法は、とりわけ、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造方法に適している。
【0057】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨する工程である。また、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は、その他の一又は複数の実施形態において、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨する工程である。
【0058】
被研磨基板の研磨工程が多段階で行われる場合は、本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程は2段階目以降に行われるのが好ましく、最終研磨工程又は仕上げ研磨工程で行われるのがより好ましい。その際、前工程の研磨材や研磨液組成物の混入を避けるために、それぞれ別の研磨機を使用してもよく、またそれぞれ別の研磨機を使用した場合では、研磨工程毎に被研磨基板を洗浄することが好ましい。さらに、使用した研磨液を再利用する循環研磨においても、本開示の研磨液組成物は使用できる。研磨機としては、特に限定されず、基板研磨用の公知の研磨機が使用できる。
【0059】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程で使用される研磨パッドとしては、特に制限はなく、例えば、スエードタイプ、不織布タイプ、ポリウレタン独立発泡タイプ、又はこれらを積層した二層タイプ等の研磨パッドを使用することができ、研磨速度の観点から、スエードタイプの研磨パッドが好ましい。
【0060】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における研磨荷重は、研磨速度向上の観点から、好ましくは5.9kPa以上、より好ましくは6.9kPa以上、更に好ましくは7.5kPa以上であり、そして、スクラッチ低減の観点から、20kPa以下が好ましく、より好ましくは18kPa以下、更に好ましくは16kPa以下である。本開示の製造方法において研磨荷重とは、研磨時に被研磨基板の研磨面に加えられる定盤の圧力をいう。また、研磨荷重の調整は、定盤及び被研磨基板のうち少なくとも一方に空気圧や重りを負荷することにより行うことができる。
【0061】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程における本開示の研磨液組成物の供給速度は、スクラッチ低減の観点から、被研磨基板1cm2当たり、好ましくは0.05mL/分以上15mL/分以下であり、より好ましくは0.06mL/分以上10mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上1mL/分以下、更に好ましくは0.07mL/分以上0.5mL/分以下である。
【0062】
本開示の研磨液組成物を研磨機へ供給する方法としては、例えばポンプ等を用いて連続的に供給を行う方法が挙げられる。研磨液組成物を研磨機へ供給する際は、全ての成分を含んだ1液で供給する方法の他、研磨液組成物の安定性等を考慮して、複数の配合用成分液に分け、2液以上で供給することもできる。後者の場合、例えば供給配管中又は被研磨基板上で、上記複数の配合用成分液が混合され、本開示の研磨液組成物となる。
【0063】
本開示の基板製造方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いることで、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。
【0064】
[研磨速度を向上する方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含む、被研磨基板の研磨速度を向上させる方法(以下、「本開示の研磨速度向上方法」ともいう)に関する。本開示の研磨速度向上方法によれば、本開示の研磨液組成物を用いることで、研磨速度向上と研磨後の基板表面のスクラッチ低減とを両立できる。
【0065】
本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することは、一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物を被研磨基板の研磨対象面に供給し、前記研磨対象面に研磨パッドを接触させ、前記研磨パッド及び前記被研磨基板の少なくとも一方を動かして研磨することであり、或いは、不織布状の有機高分子系研磨布等の研磨パッドを貼り付けた定盤で被研磨基板を挟み込み、本開示の研磨液組成物を研磨機に供給しながら、定盤や被研磨基板を動かして被研磨基板を研磨することである。本開示の研磨速度向上方法における研磨の方法及び条件は、上述した本開示の基板製造方法と同じ方法及び条件とすることができる。
【0066】
[研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨基板を研磨することを含み、前記被研磨基板は磁気ディスク基板の製造に用いられる基板である、基板の研磨方法(以下、「本開示の研磨方法」ともいう)に関する。本開示の研磨方法における被研磨基板としては、上述した被研磨基板が挙げられ、なかでも、垂直磁気記録方式用磁気ディスク基板の製造に用いる基板が好ましい。本開示の研磨方法は、例えば、仕上げ研磨工程に用いることができる。本開示の研磨方法を使用することにより、研磨後の基板表面のスクラッチが低減された、高品質の磁気ディスク基板を高収率で、生産性よく製造できるという効果が奏されうる。本開示の研磨方法における研磨の方法及び条件は、上述した本開示の基板製造方法と同じ方法及び条件とすることができる。
【実施例0067】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0068】
1.シリカ粒子A1~A7
表1に示すシリカ粒子A1~A7には、以下のものを用いた。
A1の製造例:
3号珪酸ソーダを5%濃度となるように純水で希釈し、限外濾過して、精製水ガラス珪酸液5,000g得た。上記珪酸水溶液400gに純水を600g加え、更に1%濃度のアンモニアを加え、pHを4.8に調整後、2.5時間室温保管し、重合珪酸液約1000gを得た。得られた重合珪酸液1000gに23%濃度のアンモニアを加え、pHを10.6に調整し、液温を90℃まで昇温して、1時間後に珪酸ゾルを得た。得られたゾル100gに20%濃度の3号珪酸ソーダを加え、pHを12.5に調整し、85℃まで昇温し、30分間その状態を保持した。次に上記で残った精製水ガラス珪酸液900gに純水を600g加え、更に1%濃度の硫酸を加えた成長用の珪酸液を作り、これを前記昇温保持したゾルへ6時間かけて添加した。添加完了後、さらに1時間、85℃で保持し、その後室温まで冷却した。得られたシリカゾルをロータリーエバポレーター(EYELA製)で濃縮し、シリカ濃度25%のシリカ分散液(シリカ粒子A1)を得た。
A2の製造例:
3号珪酸ソーダを5%濃度となるように純水で希釈し、限外濾過して、精製水ガラス珪酸液5,000g得た。上記珪酸水溶液400gに純水を600g加え、更に1%濃度のアンモニアを加え、pHを4.8に調整後、2.5時間室温保管し、重合珪酸液約1000gを得た。得られた重合珪酸液1000gに23%濃度のアンモニアを加え、pHを10.6に調整し、液温を90℃まで昇温して、1時間後に珪酸ゾルを得た。得られたゾル100gに20%濃度の3号珪酸ソーダを加え、pHを11.2に調整し、85℃まで昇温し、30分間その状態を保持した。次に上記で残った精製水ガラス珪酸液900gに純水を600g加え、更に1%濃度の硫酸を加えた成長用の珪酸液を作り、これを前記昇温保持したゾルへ6時間かけて添加した。添加完了後、さらに1時間、85℃で保持し、その後室温まで冷却した。得られたシリカゾルをロータリーエバポレーター(EYELA製)で濃縮し、シリカ濃度25%のシリカ分散液(シリカ粒子A2)を得た。
A3の製造例:
3号珪酸ソーダを5%濃度となるように純水で希釈し、限外濾過して、精製水ガラス珪酸液5,000g得た。上記珪酸水溶液400gに純水を600g加え、更に1%濃度のアンモニアを加え、pHを4.8に調整後、2.5時間35℃で保管し、重合珪酸液約1000gを得た。得られた重合珪酸液1000gに23%濃度のアンモニアを加え、pHを10.6に調整し、液温を90℃まで昇温して、1時間後に珪酸ゾルを得た。得られたゾル100gに20%濃度の3号珪酸ソーダを加え、pHを11.2に調整し、85℃まで昇温し、30分間その状態を保持した。次に上記で残った精製水ガラス珪酸液900gに純水を600g加え、更に1%濃度の硫酸を加えた成長用の珪酸液を作り、これを前記昇温保持したゾルへ6時間かけて添加した。添加完了後、さらに1時間、85℃で保持し、その後室温まで冷却した。得られたシリカゾルをロータリーエバポレーター(EYELA製)で濃縮し、シリカ濃度25%のシリカ分散液(シリカ粒子A3)を得た。
A4の製造例:
3号珪酸ソーダを5%濃度となるように純水で希釈し、限外濾過して、精製水ガラス珪酸液5,000g得た。上記珪酸水溶液400gに純水を600g加えpHを3.6に調整後、2.5時間室温保管し、重合珪酸液約1000gを得た。得られた重合珪酸液1000gに23%濃度のアンモニアを加え、pHを10.6に調整し、液温を90℃まで昇温して、1時間後に珪酸ゾルを得た。得られたゾル100gに20%濃度の3号珪酸ソーダを加え、pHを12.5に調整し、85℃まで昇温し、30分間その状態を保持した。次に上記で残った精製水ガラス珪酸液900gに純水を600g加え、更に1%濃度の硫酸を加えた成長用の珪酸液を作り、これを前記昇温保持したゾルへ6時間かけて添加した。添加完了後、さらに1時間、85℃で保持し、その後室温まで冷却した。得られたシリカゾルをロータリーエバポレーター(EYELA製)で濃縮し、シリカ濃度25%のシリカ分散液(シリカ粒子A4)を得た。
A5の製造例:
3号珪酸ソーダを5%濃度となるように純水で希釈し、限外濾過して、精製水ガラス珪酸液5,000g得た。上記珪酸水溶液400gに純水を600g加え、更に1%濃度のアンモニアを加え、pHを4.8に調整後、2.5時間35℃で保管し、重合珪酸液約1000gを得た。得られた重合珪酸液1000gに23%濃度のアンモニアを加え、pHを10.6に調整し、液温を90℃まで昇温して、1時間後に珪酸ゾルを得た。得られたゾル100gに20%濃度の3号珪酸ソーダを加え、pHを12.5に調整し、85℃まで昇温し、30分間その状態を保持した。次に上記で残った精製水ガラス珪酸液900gに純水を600g加え、更に1%濃度の硫酸を加えた成長用の珪酸液を作り、これを前記昇温保持したゾルへ6時間かけて添加した。添加完了後、さらに1時間、85℃で保持し、その後室温まで冷却した。得られたシリカゾルをロータリーエバポレーター(EYELA製)で濃縮し、シリカ濃度25%のシリカ分散液(シリカ粒子A5)を得た。
A6:コロイダルシリカ[扶桑化学工業社製のPL-2]
A7:コロイダルシリカ[日揮触媒化成社製のカタロイドSI-30W]
【0069】
[In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度及び腐食電位Ecorrの測定]
図1に示すポテンショスタットを用いた電気化学装置を用い、下記のようにして動的瞬間腐食速度及び腐食電位を測定した。
まず、電気化学セル内に30℃の恒温槽に12時間保管した電解質を45mL注ぎ、参照電極、対極及び作用極を前記電解質に接触させる。前記各電極をポテンショスタットに接続する。その後、回転制御体に貼り付けた研磨パッドを作用極と接触させ、所定の荷重となるようにジャッキにて天秤の位置を調整し、回転制御体を回転させる。このとき測定した開回路電圧の値を腐食電位Ecorrとする。腐食電位Ecorrから0.5Vアノード側へLSV法(Linear Sweep Voltammetry)を用いて電位を走査したときに観測されるアノード反応の電流曲線に対し、ターフェル・プロット法を用いて電流密度を測定し、この電流密度を動的瞬間腐食速度として算出する。
・電気化学セル:株式会社イーシーフロンティア製、VM3
・ポテンショスタット:BAS社製、電気化学アナライザー、モデル:611D
・電解質:シリカ粒子(ここでは表1に示すシリカ粒子A1~A7のいずれか1種):5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.3質量%、及び水(残部)を含み、pHが2.5である研磨液組成物。なお、研磨液組成物のpHが2.5となるように、水酸化カリウムで適宜pHを調整してよい。
・開回路電圧の測定メソッド:
付属ソフト内の測定メソッドを開回路電圧(OCP)モードにし、測定時間200秒で測定した。測定開始から200秒経過時の開回路電圧値を腐食電位Ecorrとする。なお、電解質の液温で腐食電位の値も変化するため、室温も25~26度となる温度にて測定できる。
・LSV法の測定メソッド:
付属ソフト内の測定メソッドからLSV法を選択する。サンプリング間隔は1mVとし、1mV毎に流れる電流値を観測する。なお、開回路電圧測定同様、電解質の液温により電流密度の値も変動するため、室温も25~26度となる温度にて測定できる。
・ターフェル・プロット法による解析:(比較例1を例に以下に説明する。)
(比較例1)
腐食電位からアノード側へ0.5V電位を走査すると、比較例1の場合、シリカ粒子A6、リン酸、過酸化水素、水、(及び水酸化カリウム)を含むpH2.5の電解質中では、開回路電圧(腐食電位)が-0.32Vとなり、同時に測定開始時の電圧が腐食電位と同じ値である-0.32Vとなる。ここ(腐食電位)から0.5Vアノード側へ0.1mVずつ電位を走査すると、測定終了時の電圧は0.18Vとなる。ここで、腐食反応は作用極表面と研磨パッドを張り付けた回転制御体が接触している場所で起きると仮定し、得られた電流値に対して、反応面積を除する必要がある。本系で用いた電気化学セル(VM3)の作用極の面積は約1.0cm2となるように設計されており、研磨パッドを張り付けた回転制御体の直径が約8mmであるため、研磨パッドと作用極が相互作用できる面積は0.502655cm2となる。この値(面積)を得られた電流値に対して割ると、単位面積当たりの電流値(発生した電子量)が算出される。比較例1の場合、シリカ粒子A6、リン酸、過酸化水素、水(及び水酸化カリウム)を含むpH2.5の電解質中では、開回路電圧(腐食電位)が-0.32V、得られた電流値は0.00007572A、単位面積当たりの電流値は0.00015064A/cm2となる。得られた単位面積当たりの電流値に対して、底を10とした対数(=Log100.00015064=-3.82205925)を取ると、-3.82205925という値が得られる。このとき、仮に単位面積当たりの電流値が負の値が観測された場合は、Log10|単位面積当たりの電流値|のように、正の値に直して対数を取る。-0.32V(開回路電圧)から0.18V(測定終了時の電圧)まで1mV毎に得られた単位面積当たりの電流値に対して対数を取り、縦軸:Log10|単位面積当たりの電流値|と、横軸:電位(例えばー0.50Vから+0.50Vなど、走査した電位が含まれる範囲)の散布図を得る。Nernstの式から導出されるButler-Volmerの式によると、過電圧が大きい場合ので、対極での反応電流を無視でき、Butler-Volmerの式は、ターフェル(Tafel)の式に簡略化できる。つまり本系で言えば、過電圧が大きいとき、カソード反応を無視し、アノード反応電流が腐食反応における電子の発生量、つまりは本開示で定義する動的瞬間腐食反応速度とする。ターフェル法では、一般的に腐食電位から50mV離れると、過電圧が大きいと見なすことができ、カソード反応を無視できる。以上より、-0.32V(腐食電位)に対しアノード側へ50mV離れた電位からアノード側へ100mV離れた電位(つまり-0.3250V~-0.330V)に対するLog10|単位面積当たりの電流値|を求め、この範囲の値に対して、散布図上で線形近似を引く。線形近似式のxに腐食電位の値を代入し、y値を求める。比較例1の場合、シリカ粒子A6、リン酸、過酸化水素、水、(及び水酸化カリウム)を含むpH2.5の電解質では、線形近似式はy=3.7214x-2.5878となり、腐食電位をxに代入すると、y=-3.77864800(=Log10|単位面積当たりの電流値|)となる。Logを外すと10の-3.77864800乗となり、腐食電流密度166.5μA/cm2が算出できる。
なお、線形近似を引くために採用する値の範囲により、腐食電流密度値も変動することを避けるため、本開示では腐食電位からアノード側へ50mV~100mVの値を採用する。
実施例1~8及び比較例2についても、上記比較例1と同様にして、腐食電位及び腐食電流密度を求め、結果を表1に示した。
・作用極:下記被研磨基板を下記条件で仕上げ研磨及び洗浄を実施し、耐水性サンドペーパー(#600、次いで#1000の2段研磨)で研磨した後、基板表面をエタノール及び水ですすぎ洗浄し、乾燥させた基板
・参照電極:銀-塩化銀電極(BAS社製、RE-1B)
・対極:白金電極(BAS社製、型番:012961、コイル状/電極部の長さ23cm、電極部の直径0.5mm)
・研磨パッド:ポリウレタン製軟質スエードパッド(圧縮率:20%以下)をダイヤモンドドレス(#600)で目開き後、前記電解質で5時間研磨したパッド
・測定時の電解質の液温:約26℃
・測定時の回転制御体の回転数:25rpm
・測定時の印加荷重(電子天秤による回転時の実測値):300g/cm2±100g/cm2
<仕上げ研磨>
[被研磨基板]
被研磨基板として、磁気ディスク基板用Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板(Western Digital-Sarawak工場製)を予めシリカ砥粒を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.635mm、外径が97mm、内径が25mmであり、AFM(ブルカー製、Dimension FastScan AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ:0.7mm、平均開孔径:10μm)
研磨液組成物:平均一次粒子径20nmのコロイダルシリカ:5質量%、リン酸:1質量%、過酸化水素:0.4質量%を含み、残部が水である研磨液組成物
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.145mL/分)
下定盤回転数:24rpm
研磨荷重:10.0kPa
研磨時間:6分間
基板の枚数:10枚
<洗浄>
上記研磨後の基板をヒカリ社製洗浄機を用いて以下の工程で洗浄した。
[洗浄条件]
(1)超音波洗浄(5分、430kHz、浸漬液:超純水)
(3)PVAブラシ洗浄(9秒)
(4)超純水すすぎ(9秒)
(5)スピンドライ(9秒)
【0070】
[腐食電流密度の相対値]
シリカ粒子A6の腐食電流密度を100とした相対値を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
2.研磨液組成物の調製(実施例1~8、比較例1~2)
(実施例1~5、比較例1~2の研磨液組成物)
成分A又は非成分A(表1及び表2に示すシリカ粒子A1~A7)、成分B(リン酸)、成分C(過酸化水素)及び水を配合して撹拌することにより、表2に示す実施例1~5及び比較例1~2の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(有効量)は、表2に示すとおりである。水の含有量は、成分A又は非成分Aと成分Bと成分Cとを除いた残余である。
(実施例6~8の研磨液組成物)
成分A(表1及び表2に示すシリカ粒子A1)、成分B(リン酸)、成分C(過酸化水素)、添加剤(成分D:BTA、成分E:AEA、成分F:AA/AMPS)及び水を配合して撹拌することにより、表2に示す実施例6~8の研磨液組成物を調製した。各研磨液組成物中の各成分の含有量(有効量)は、表2に示すとおりである。水の含有量は、成分Aと成分Bと成分Cと添加剤(成分D、成分E、成分F)とを除いた残余である。
【0073】
各研磨液組成物の調製において、成分B、成分C及び添加剤(成分D、成分E、成分F)には以下のものを使用した。
リン酸[和光純薬工業社製、特級](成分B)
過酸化水素[濃度35%、ADEKA社製](成分C)
BTA[1,2,3-ベンゾトリアゾール、東京化成工業社製](成分D)
AEA[N-アミノエチルエタノールアミン、日本乳化剤社製](成分E)
AA/AMPS[アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体、モル比(AA/AMPS):90/10、東亜合成社製、商品名:A6016、重量平均分子量:2000](成分F)
【0074】
3.各パラメータの測定
[シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径]
シリカ粒子(成分A)の平均一次粒子径(nm)は、BET(窒素吸着)法によって算出される比表面積S(m2/g)を用いて下記式で算出した。
平均一次粒子径(nm)=2727/S
シリカ粒子(成分A)の比表面積Sは、下記の[前処理]をした後、測定サンプル約0.1gを測定セルに小数点以下4桁まで精量し、比表面積の測定直前に110℃の雰囲気下で30分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
<前処理>
(a)スラリー状のシリカ粒子(成分A)を硝酸水溶液でpH2.5±0.1に調整する。
(b)pH2.5±0.1に調整されたスラリー状の成分Aをシャーレにとり150℃の熱風乾燥機内で1時間乾燥させる。
(c)乾燥後、得られた試料をメノウ乳鉢で細かく粉砕する。
(d)粉砕された試料を40℃のイオン交換水に懸濁させ、孔径1μmのメンブランフィルタで濾過する。
(e)フィルタ上の濾過物を20gのイオン交換水(40℃)で5回洗浄する。
(f)濾過物が付着したフィルタをシャーレにとり、110℃の雰囲気下で4時間乾燥させる。
(g)乾燥した濾過物(成分A)をフィルタ屑が混入しないようにとり、乳鉢で細かく粉砕して測定サンプルを得た。
【0075】
[アニオン性水溶性高分子(成分F)の重量平均分子量]
成分Fの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定した。
<測定条件>
カラム:TSKgel GMPWXL+TSKgel GMPWXL(東ソー社製)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=7/3(体積比)
温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料サイズ:2mg/mL
検出器:RI
標準物質:ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(重量平均分子量:1,100、3,610、14,900、152,000、POLMER STANDARDS SERVICE社製)
【0076】
[pHの測定]
研磨液組成物のpHは、pHメータ(東亜ディーケーケー社製)を用いて25℃にて測定し、電極を研磨液組成物へ浸漬して2分後の数値を採用した。結果を表1に示す。
【0077】
4.研磨方法
前記のように調製した実施例1~8及び比較例1~2の研磨液組成物を用いて、以下に示す研磨条件にて下記被研磨基板を研磨した。次いで、研磨速度及びスクラッチ数を測定した。
【0078】
[被研磨基板]
被研磨基板として、Ni-Pめっきされたアルミニウム合金基板を予めアルミナ研磨材を含有する研磨液組成物で粗研磨した基板を用いた。この被研磨基板は、厚さが0.8mm、外径が95mm、内径が25mmであり、AFM(Digital Instrument NanoScope IIIa Multi Mode AFM)により測定した中心線平均粗さRaが1nmであった。Ni-Pめっき中におけるNiとPの比率は質量比で88:12であった。
【0079】
[研磨条件]
研磨試験機:スピードファム社製「両面9B研磨機」
研磨パッド:フジボウ社製スエードタイプ(発泡層:ポリウレタンエラストマー、厚さ0.9mm、平均開孔径10μm)
研磨液組成物供給量:100mL/分(被研磨基板1cm2あたりの供給速度:0.076mL/分)
下定盤回転数:32.5rpm
研磨荷重:13.0kPa
研磨時間:6分間
基板の枚数:10枚
【0080】
5.評価
[研磨速度の評価]
研磨前後の各基板1枚当たりの重さを計り(Sartorius社製、「BP-210S」)を用いて測定し、各基板の質量変化から質量減少量を求めた。全10枚の平均の質量減少量を研磨時間で割った値を研磨速度とし、下記式により算出した。研磨速度の測定結果を、比較例2を100とした相対値として表2に示す。
質量減少量(mg)={研磨前の質量(mg)- 研磨後の質量(mg)}
研磨速度(mg/分)=質量減少量(mg)/ 研磨時間(分)
【0081】
[スクラッチの評価]
測定機器:KLA・テンコール社製、「Candela OSA7100」
評価:研磨試験機に投入した基板のうち、無作為に4枚を選択し、各々の基板を10,000rpmにてレーザーを照射してスクラッチ数を測定した。その4枚の基板の各々両面にあるスクラッチ数(本)の合計を8で除して、基板面当たりのスクラッチ数を算出した。スクラッチ数の評価結果を、比較例2を100とした相対値として表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
上記表2に示すとおり、In-situ電気化学測定における動的瞬間腐食速度が170μA/cm2以上330μA/cm2未満であるシリカ粒子を用いた実施例1~8の研磨液組成物は、動的瞬間腐食速度が170μA/cm2未満であるシリカ粒子を用いた比較例1、及び、動的瞬間腐食速度が330μA/cm2以上であるシリカ粒子を用いた比較例2に比べて、研磨速度の向上とスクラッチの低減とを両立できていることがわかった。
また、シリカ粒子の腐食電位Ecorrが-0.23V~-0.21Vである用いた実施例1~3、6~8は、シリカ粒子の腐食電位Ecorrが-0.19Vである実施例4~5に比べて、スクラッチがより低減していた。成分D、成分E、成分Fがそれぞれ添加された実施例6~8は、実施例1よりもスクラッチが低減していた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本開示によれば、例えば、高記録密度化に適した磁気ディスク基板を提供できる。
図1