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特開2024-139522インクジェットインク組成物及び記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139522
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物及び記録方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20241002BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241002BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09D11/38
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41M5/00 120
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050497
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】浅川 裕太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】水谷 啓
(72)【発明者】
【氏名】松本 友孝
(72)【発明者】
【氏名】香川 靖之
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FB02
2C056FC01
2C056HA46
2H186AB12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB48
4J039AD10
4J039BC09
4J039BC36
4J039BC50
4J039BC57
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE28
4J039EA12
4J039EA36
4J039EA46
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】記録媒体上に記録された画像の耐擦性が良好となると共に、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性が良好となるインクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係るインクジェットインク組成物は、色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、前記水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、前記第1樹脂及び前記第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、前記第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、前記第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2であることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、
前記水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、
前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、
前記第1樹脂及び前記第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、前記第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、前記第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2である、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記複合樹脂粒子は、前記第1樹脂からなる相と前記第2樹脂からなる相とが分離した相分離構造を有し、前記第1樹脂からなる相が前記第2樹脂からなる相に内包されている、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記複合樹脂粒子は、前記第1樹脂と前記第2樹脂の質量比(第1樹脂/第2樹脂)が0.5~2である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記水溶性低分子有機化合物の含有量がインクの総質量に対し30質量%以下であり、前記水溶性低分子有機化合物の総質量に対し、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物が50質量%以上である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項5】
前記複合樹脂粒子は、反応性界面活性剤により分散された樹脂粒子である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項6】
前記反応性界面活性剤は、アニオン性である、請求項5に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項7】
前記反応性界面活性剤は、オキシアルキレン基を有する、請求項5に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項8】
前記複合樹脂粒子は、ソープフリー型樹脂粒子である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項9】
前記複合樹脂粒子は、体積平均粒子径が90~250nmである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項10】
前記複合樹脂粒子が、少なくとも有機アミンまたはアンモニアによって中和された樹脂粒子である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項11】
前記複合樹脂粒子の酸価が5~35mgKOH/gである、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項12】
前記第1樹脂及び前記第2樹脂のガラス転移温度が60~95℃である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項13】
前記インクジェットインク組成物が、前記樹脂粒子の分散剤ではない界面活性剤を1質量%以下含有する、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか一項に記載のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備える、記録方法。
【請求項15】
前記インク付着工程の後に、前記記録媒体を50~110℃で加熱する後乾燥工程を有する、請求項14に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。近年のインクジェット記録方式技術の革新的な進歩により、これまで写真やオフセット印刷が用いられていた高精細な画像記録の分野にもインクジェット記録方式を用いた印刷方法が利用されている。特にインク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に、高品質な画像を記録することができるインクについて種々の提案がなされている。
【0003】
ところで、インク非吸収性または低吸収性の記録媒体上に記録された画像は、色材が記録媒体の内部に染み込み難いため、十分な耐擦性が得られない場合がある。そのため、画像の表面に被膜を形成するための樹脂粒子をインクに添加することによって、耐擦性を向上させようとする検討が行われている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-203077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インク組成物中に含有される樹脂粒子は、画像の表面に被膜を形成するためのものであるため、一般に固着しやすい性質を有している。インクジェットヘッド内に収容されたインク組成物中の樹脂粒子が一度溶解してインクジェットヘッド壁面などに固着すると、ノズルクリーニングを行ったとしてもインクが正常に吐出できなくなり、目詰まり回復性が低下するという問題があった。すなわち、ノズルの目詰まり回復性と画像の耐擦性との間にはトレードオフの関係がある。
【0006】
したがって、記録媒体上に記録された画像の耐擦性が良好となると共に、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性が良好となるインクジェットインク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)、及び該インク組成物を用いた記録方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るインクジェットインク組成物の一態様は、
色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、
前記水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、
前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、
前記第1樹脂及び前記第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、前記第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、前記第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2である。
【0008】
本発明に係る記録方法の一態様は、
上記一態様のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図。
図2】インクジェットヘッドを模式的に示す拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」又は「メタクリル酸~」を意味する。また、「~(メタ)アクリレート」とは、「~アクリレート」又は「~メタクリレート」を意味する。
【0011】
1.インクジェットインク組成物
本発明の一実施形態に係るインクジェットインク組成物は、色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、第1樹脂及び第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2である。
【0012】
インクジェットヘッド内で気泡などにより不吐出が発生したノズルは、インク組成物が圧力室内に滞留し、プラテン等の熱を受けて乾燥が進む。これにより、インク組成物に含まれる樹脂粒子を構成する樹脂がインクジェットヘッド内で溶解し、溶着し目詰まりとなる問題がある。例えば、ノズルプレートでの樹脂溶着はワイピングにより除去できるが、インクジェットヘッド内での樹脂の溶着による目詰まりはワイピングでは解消できない場合がある。また、インクジェットヘッド内での樹脂の溶着による目詰まりは、吸引クリーニングである程度は解消できてもフラッシングでは解消できない場合がある。この様な場合において、インクジェットヘッド内での樹脂の溶着による目詰まりを解消するために吸引クリーニングを行うことは、吸引クリーニングにより印刷を中断させてしまうことがあり、記録生産性の点で不利である。
【0013】
今般、記録媒体上で被膜を形成するための樹脂として複合樹脂粒子を用いることにより、ノズルの目詰まり回復性と画像の耐擦性とを共に向上できることを見出した。当該複合樹脂粒子は、例えば、一方の樹脂と他方の樹脂により構成され、一方の樹脂が他方の樹脂に内包されている構造を有する。複合樹脂粒子の内側に存在する一方の樹脂は、インク中で、インクに含まれる有機溶剤などの樹脂を溶解する成分と接触し難いのに対し、複合樹脂粒子の外側に存在する他方の樹脂は、インク中で該有機溶剤と接触し易い。このとき、外側に存在する他方の樹脂が該有機溶剤に溶解し難いものであると、インクジェットヘッド内で樹脂粒子が溶解して目詰まりの原因となることを抑制できる。また、内側に存在する一方の樹脂が有機溶剤に溶解し易いものであると、記録媒体に付着後、加熱などにより樹脂粒子が変形し、一方の樹脂が内部から外部に出てきて有機溶剤等と接触することで、樹脂粒子が十分に溶解してインク塗膜が平滑化され、記録物の耐擦性が向上する。そして、当該複合樹脂粒子とともに用いる有機溶剤等としては、樹脂溶解性が高いアミド類が好適である。
【0014】
しかしながら、アミド類は、インクが記録媒体に付着後乾燥し難いため、後加熱工程で十分に乾燥せず、記録物の耐擦性が劣ってしまう問題があった。または、十分に乾燥させるために、後加熱工程を長時間行ったり高温度にしたりすることを要した。その一方で、インクに含まれる有機溶剤等におけるアミド類の含有量を少なくすることでインクの乾燥性を向上できるが、従来の複合樹脂粒子ではこのような有機溶剤等に溶解し難く、記録媒体付着後において樹脂粒子を溶解し易くする点で、未だ十分ではなかった。したがって、有機溶剤等におけるアミド類の含有量が少ない場合であっても、複合樹脂粒子の外側に存在する他方の樹脂を有機溶剤に溶解し難いものとし、複合樹脂粒子の内側に存在する一方の樹脂を有機溶剤に溶解し易いものとすることが望まれる。
【0015】
ここで、材料成分の溶解性の指標であるハンセン溶解度パラメーターを用いて、樹脂粒子の設計を変更することが考えられるが、従来のHSP値による設計では、複合樹脂粒子の有機溶剤への溶解性を十分に制御することができなかった。より具体的には、従来のハンセン溶解度パラメータ(HSP値)においては、極性成分δp、水素結合成分δh、分散成分δdを用いているが、これら3成分を加味して複合樹脂粒子を設計する場合、好ましい性能とすることができなかった。
【0016】
そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、分散成分δdは有機溶剤への溶解性と関連性が低いことにより、これを加味した設計では好ましい性能とならなかったことが判明し、ハンセン溶解度パラメーターのうち極性成分δpと水素結合成分δhに着目して、これらの二乗平方根δph(すなわち、δph=√(δp+δh))による設計を行うことで、好ましい複合樹脂粒子が得られることを新たに見出した。
【0017】
すなわち、本実施形態に係るインクジェットインク組成物によれば、複合樹脂粒子における一方の樹脂のδph1を4.0~4.8MPa1/2とし、他方の樹脂のδph2を2.6超3.7未満MPa1/2とすることで、標準沸点が215~290℃のアミド類の含有量が少ない場合であっても、他方の樹脂は溶解し難く、一方の樹脂は溶解し易いものとでき、記録媒体上に記録された画像の耐擦性が良好となると共に、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性が良好となる。
標準沸点が215~290℃のアミド類を特定のアミド類ともいう。
一方の樹脂のδph1が、他方の樹脂のδph2と比べて、特定のアミド類のδphに近いことにより、他方の樹脂は溶解し難く、一方の樹脂は溶解し易いものとできたと推測する。
なお、特定のアミド類は、例えば2-ピロリドンはδphが15.1MPa1/2であり、ε-カプロラクタムはδphが14.4MPa1/2である。特定のアミド類は、δphが10.0~18.0MPa1/2が好ましい。
以下、本実施形態に係るインクジェットインク組成物の各成分について詳細に説明する。
【0018】
1.1 色材
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、色材を含有する。色材としては、特に限定されないが、例えば顔料又は染料が挙げられる。
<顔料>
上記色材のうち顔料は、水に不溶又は難溶であるだけでなく光やガス等に対しても退色しにくい性質を有する。そのため、顔料を用いたインクにより記録された記録物は、耐水性、耐ガス性、耐光性、及び保存安定性が良好となる。顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用可能である。これらの中でも、発色性が良好であって、比重が小さいため分散時に沈降しにくいことから、無機顔料に属するカーボンブラック及び有機顔料のうち少なくともいずれかが好ましい。
【0019】
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、酸化鉄、及び酸化チタンが挙げられる。
【0020】
上記のカーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)が挙げられる。また、カーボンブラックの市販品として、例えば、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上全て商品名、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250(以上全て商品名、デグサ社(Degussa AG)製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700(以上全て商品名、コロンビアカーボン社(Columbian Carbon Japan Ltd)製)、コロンビアンケミカルズ(Columbian Chemicals)製、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12(以上全て商品名、キャボット社(Cabot Corporation)製)が挙げられる。
【0021】
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【0022】
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。
【0023】
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
【0024】
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213が挙げられる。
【0025】
また、シアン、マゼンタ及びイエロー以外のカラーインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントグリーン7、10、C.I.ピグメントブラウン3、5、25、26、C.I.ピグメントオレンジ1、2、5、7、13、1
4、15、16、24、34、36、38、40、43、63が挙げられる。
【0026】
ホワイトインクに使用される顔料としては、例えば、C.I.ピグメントホワイト6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化マグネシウム、及び酸化ジルコニウムの白色無機顔料が挙げられる。当該白色無機顔料以外に、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子などの白色有機顔料を使用することもできる。
【0027】
また、上記の顔料以外に、パール顔料やメタリック顔料を用いることもできる。パール顔料としては、例えば、二酸化チタン被覆雲母、魚鱗箔、酸塩化ビスマス等の真珠光沢や干渉光沢を有する顔料が挙げられる。メタリック顔料としては、例えば、アルミニウム、銀、金、白金、ニッケル、クロム、錫、亜鉛、インジウム、チタン、銅などの単体又は合金からなる粒子が挙げられる。
【0028】
顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
<染料>
上記色材のうち染料としては、以下に限定されないが、例えば、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が挙げられる。染料の具体例として、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
色材の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、特に好ましくは1~5質量%である。
【0031】
1.2 樹脂粒子
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、樹脂粒子を含有する。当該樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子である。当該樹脂粒子において、前記第1樹脂及び前記第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、前記第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、前記第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2である。
【0032】
樹脂粒子の含有量(固形分換算)は、インク組成物の総質量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~12質量%がさらに好ましく、3~10質量%が特に好ましい。さらには4~8質量%が好ましい。樹脂粒子の含有量が上記範囲内であると、耐擦性と目詰まり回復性の両者をバランスよく良好にできる傾向にある。
【0033】
1.2.1 形態
複合樹脂粒子は、第1樹脂からなる相(部分)と第2樹脂からなる相(部分)がお互いに分離した相分離構造を有することが好ましい。
【0034】
複合樹脂粒子の形態としては、第1樹脂と第2樹脂が、それぞれ樹脂粒子の一部と他部を構成するものである。例えば、樹脂粒子の周辺部と中心部を構成する形態や、これ以外の他の形態であっても良い。例えば、第1樹脂と第2樹脂のそれぞれの複合樹脂粒子における位置が単純な構成ではなく複雑に入り組んでいたり、または、第1樹脂からなる部分及び/又は第2樹脂からなる部分が、それぞれ連続しておらず複数に分かれて、複合樹脂粒子を構成する形態であったりしてもよい。また、複合樹脂粒子の、第1樹脂と第2樹脂との境界は、その境界が明確に分かれている場合に限られず、樹脂の組成が第1樹脂から第2樹脂に連続的に変化しているものであってもよい。
【0035】
複合樹脂粒子は、第1樹脂からなる相と第2樹脂からなる相とが分離した相分離構造を有し、第1樹脂からなる相が第2樹脂からなる相に内包されていることが好ましい。複合樹脂粒子がこのような形態であると、インクジェットヘッド内で樹脂粒子が溶解して目詰まりの原因となることをより抑制でき、また、記録媒体に付着後、樹脂粒子がより十分に溶解してインク塗膜が平滑化され、記録物の耐擦性がより向上できる傾向にある。
【0036】
「内包」とは、一方の相が他方の相の内部にあることをいい、一方の相の一部が露出していてもよい。このとき、他方の相中の一方の相の存在位置は、特に限定されず、中心付近又は中心付近からずれた任意の位置に、単一又は複数に分離して存在していてもよい。このような形態として、例えば、コアシェル構造、海島構造が挙げられる。
【0037】
複合樹脂粒子の1形態として、第1樹脂と第2樹脂の他方が複合樹脂粒子の周辺部付近(シェル部)を主に構成し、一方が樹脂粒子の中心部付近(コア部)を主に構成するものを、コアシェル構造の複合樹脂粒子、またはコアシェル樹脂粒子と呼ぶ。ここで、コアシェル樹脂粒子の周辺部を構成する樹脂部をシェル樹脂、中心部を構成する樹脂部をコア樹脂と呼ぶ。コア部が、樹脂粒子の中心部以外の場所にあってもよい。また、樹脂粒子の最表面にコア樹脂からなる部分が一部露出していてもよい。コア部は球状でも非球状でもよい。中でも第1樹脂をコア部とし、第2樹脂をシェル部とするコアシェル樹脂粒子であることが、目詰まり回復性や耐擦性などがより優れる点で好ましい。
【0038】
また、複合樹脂粒子の他の1形態として、第1樹脂と第2樹脂の他方からなる部分の海の中に、一方からなる部分が島状に存在する海島構造の複合樹脂粒子であってもよい。海島構造の複合樹脂粒子において、樹脂粒子の最表面に一方の樹脂からなる部分が一部露出していてもよいし、島が複合樹脂粒子の内部に均一に存在している形態に限らず偏って存在している形態でもよい。また、島の形状は球状や非球状であってよく、島の大きさも様々なものがあってよい。中でも第1樹脂からなる島と第2樹脂からなる海からなる海島構造を有する複合樹脂粒子であることが、目詰まり回復性や耐擦性などがより優れる点で好ましい。
【0039】
複合樹脂粒子は、コアシェル構造又は海島構造の複合樹脂粒子であることが、目詰まり回復性や耐擦性などがより優れる点で好ましい。1つの複合樹脂粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像において、コア部が1個の連続する部分として観察されるものをコアシェル構造とする。コアシェル構造に類似するものの、コア部が連続していない2個以上の部分で観察される場合や、より多数の部分で観察されるものを海島構造とする。コア部と島部については、コア部が1個の場合をコア部と言い、コア部が2個以上やさらに多数の部分に分かれている場合を島部と言う。
【0040】
複合樹脂粒子は、第1樹脂と第2樹脂とを独立して樹脂の特性を制御することができるため、樹脂粒子の溶解性を調整しやすいという観点から好ましい。樹脂の特性としては、例えば本発明におけるδphが挙げられる。また、樹脂のガラス転移点や架橋の程度などの他の樹脂の特性を制御してもよい。例えば、シェル部や海を第2樹脂から構成し、第2
樹脂をインク中で溶解し難い樹脂とすることで、樹脂粒子が記録の際にインク中で溶解し難くなる。また、コア部や島を第1樹脂から構成し、第1樹脂を記録媒体上で溶解し易い樹脂とすることで、記録媒体上で樹脂粒子が溶解しやすい。すなわち、複合樹脂粒子は、第1樹脂をコア部とし、第2樹脂をシェル部とするコアシェル構造、第2樹脂中に第1樹脂が島状に存在する海島構造の、少なくともいずれかを有するものであることが好ましく、この場合、目詰まり回復性や耐擦性がより優れる傾向にある。
【0041】
1.2.2 樹脂成分
<第1樹脂>
複合樹脂粒子の一部を構成する第1樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
【0042】
ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)において、第1樹脂のδph1は、4.0~4.8MPa1/2であるが、4.2~4.8MPa1/2であることが好ましく、4.4~4.8MPa1/2であることがより好ましく、4.5~4.7MPa1/2であることがさらに好ましい。第1樹脂のδph1が上記範囲内であると、複合樹脂粒子が溶解し易くなり、記録媒体上で速やかに溶解して被膜が形成され、画像の耐擦性がより良好となる傾向にある。
【0043】
ここで、本明細書において「ハンセン溶解度パラメーター(HSP値)」は、分散成分(δd)、極性成分(δp)、および水素結合成分(δh)の3成分からなり、凝集エネルギー密度に寄与する材料の溶解性挙動を示す値である。また、本明細書におけるHSP値は、ソフトウェアHSPiP(Hansen Solubility Parameters in Practice)、バージョン5.3.06から計算した溶解度パラメーター(単位:MPa1/2)をいう。
【0044】
なお、第1樹脂の合成に用いた各モノマーのホモポリマーのδphに、各モノマーの全ホモポリマーの総体積数に対する各モノマーのホモポリマーの体積比をかけて、δphを加重平均した値を第1樹脂のδph1とする。第1樹脂のδph1を上記の範囲にするためには、例えば、樹脂を構成するモノマー成分としてδphが上記の範囲内にあるものを用いたり、複数種のモノマーを用いる場合、樹脂のδphが上記の範囲内になるように複数種のモノマーを選択し質量比を決めたりすればよい。
【0045】
第1樹脂のガラス転移温度(以下、「Tg」ともいう。)の下限値は、10℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、63℃以上がさらに好ましく、65℃以上がさらにより好ましく、67℃以上が特に好ましい。上限値は、95℃以下が好ましく、80℃以下が好ましく、75℃以下がより好ましい。第1樹脂のTgが80℃以下であることにより、加熱処理等により記録媒体上で第1樹脂が溶解して被膜が形成されやすいので、画像の耐擦性がより良好となる傾向にある。また、第1樹脂のTgが10℃以上であることにより、加熱したプラテン上をヘッドが走査する場合であっても、インク中で第1樹脂が溶融するのを抑制できるため、目詰まり回復性が良好となる傾向にある。
【0046】
第1樹脂が単独重合体である場合、第1樹脂のガラス転移温度(Tg)は、各種文献(例えばポリマーハンドブック等)に記載されているものを使用することができる。
本発明において「Tg」とは、D.W.Van Krevelenの推算法に基づき計算されるものであり、該推算法は各原子団のガラス転移温度への寄与とその分子量とを基に計算されるものである(D.W. Van Krevelen, Klaas te Nijenhuis, "Properties of Polymers, Fourth Edition" Elsevier Science, 2009)。
本明細書では公知のソフトウェア、BIOVIA Materials Studio 2020(Dassault systems社製)のSynthiaモジュールの値を用いる。一方、第1樹脂が共重合体である場合、第1樹脂のTgは、各種単独重合体のTgn(単位:K)と、モノマーの質量分率(Wn)と
から下記FOX式によって算出することができる。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで、Wn:各モノマーの質量分率、Tgn:各モノマーのホモポリマーのTg(単位:K)、Tg:共重合体のTg(単位:K)
【0049】
第1樹脂のTgを上記範囲のものにするためには、該樹脂の調製に用いるモノマーとしてTgが上記範囲内にあるものを使用したり、式で第1樹脂のTgが上記の範囲になるように樹脂の調製に用いるモノマーを選択したり、質量分率を調整したりすれば良い。
【0050】
第1樹脂としては、アクリル系樹脂が用いられる。アクリル系樹脂は、(メタ)アクリルモノマー単位を少なくとも有する樹脂であり、各種物性値の制御がし易く入手しやすい点で好ましい。(メタ)アクリルモノマー単位の含有率は30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。(メタ)アクリルモノマー単位の含有率は100質量%でも良く、各種物性が得やすい点で、90質量%以下が好ましい。アクリル系樹脂は、(メタ)アクリルモノマー単位と(メタ)アクリルモノマー単位以外の他のモノマー単位とを有する樹脂であってもよく、この場合、樹脂の各種物性値の調整がしやすい点で好ましい。他のモノマー単位としては、ビニルモノマー単位などがあげられる。また、アクリル系樹脂は、芳香族モノマー単位を有することが好ましい。芳香族モノマー単位としては、芳香族ビニルモノマー単位や芳香族(メタ)アクリルモノマー単位があげられ、芳香族ビニルモノマー単位を有する樹脂が好ましい。ここで、第1樹脂の全構成単位を100質量%とした場合、芳香族モノマー単位の構成比率の下限値は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上である。一方、芳香族モノマー単位の含有量の上限値は、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下、特に好ましくは90質量%以下である。第1樹脂における芳香族モノマー単位の含有割合が前記範囲にあると、第1樹脂が溶解したときに粘着力が生じるので、記録媒体と樹脂被膜との密着性が良好となり、結果として画像の耐擦性も良好となる傾向がある。
【0051】
(メタ)アクリルモノマー単位としては、特に限定されないが、ガラス転移点を高くするためや、後述する架橋樹脂とするためには、架橋性成分である二官能以上の(メタ)アクリルモノマー単位を少なくとも一部含んでいても良い。
【0052】
二官能以上の(メタ)アクリルモノマー単位としては、例えば、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0053】
また、第1樹脂は、(メタ)アクリルモノマー単位として単官能(メタ)アクリルモノマー単位を含有していてもよい。単官能(メタ)アクリルモノマー単位としては、例えば、親水性(メタ)アクリレートモノマー単位、炭素数が3以上のアルキル基を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位、環状構造を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位、(メタ)アクリルアミドモノマー単位又はそのN-置換誘導体等が挙げられる。
【0054】
親水性(メタ)アクリレートモノマー単位としては、特に限定されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、α-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレートが好ましい。ここで「親水性」とは、水100mL(20℃)に対する溶解度が0.3g以上であることをいう。
【0055】
炭素数が3以上のアルキル基を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位としては、特に限定されないが、例えば、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ネオペンチル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等の炭素数が3以上のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、ラウリル(メタ)アクリレートが好ましい。ここで「疎水性」とは、水100mL(20℃)に対する溶解度が0.3g未満であることをいう。
【0056】
環状構造を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位としては、特に限定されないが、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
(メタ)アクリルアミドモノマー単位又はそのN-置換誘導体としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド又はそのN-置換誘導体が挙げられる。
【0058】
芳香族モノマー単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0059】
また、第1樹脂は、上記のモノマー単位以外のモノマー単位、例えばカルボン酸モノマー単位等を有していてもよい。第1樹脂がカルボン酸モノマー単位を有することにより、複合樹脂粒子の相対酸価を制御することができる。
【0060】
カルボン酸モノマー単位としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。ここで、「カルボン酸モノマー単位」とは、カルボキシル基と重合性不飽和基を有する重合性モノマー単位をいう。
【0061】
上記モノマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0062】
第1樹脂は架橋されたものであってもよい。架橋されたものとする場合、例えば上述の架橋性成分である二官能以上の(メタ)アクリルモノマー単位を含むものとしたり、(メタ)アクリル基以外の重合性官能基を有する2官能以上のモノマー単位を含むものとしたり、樹脂に架橋構造を付与する架橋剤等を用いて架橋させたものとしたりすればよい。
【0063】
第1樹脂は、限るものでは無いが、架橋性成分の含有率の少ない樹脂とすることが好ましく、架橋性成分を含有する架橋樹脂ではないことがより好ましく、単官能(メタ)アクリルモノマー単位を有する樹脂であることが好ましい。第1樹脂が架橋樹脂以外の樹脂であることにより、記録媒体上で速やかに溶解して被膜が形成されるので、記録媒体への密着性や画像の耐擦性がより良好となる場合がある。
【0064】
なお、単官能(メタ)アクリルモノマー単位としては、特に限定されないが、親水性(メタ)アクリレートモノマー単位、炭素数が3以上のアルキル基を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位、環状構造を有する疎水性(メタ)アクリレートモノマー単位、(メタ)アクリルアミドモノマー単位又はそのN-置換誘導体等が挙げられる。これらの単官能(メタ)アクリルモノマーの具体例としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0065】
<第2樹脂>
複合樹脂粒子の一部を構成する第2樹脂は、下記δph2が下記範囲内であること以外は、前述の第1樹脂と同様のものに、第1樹脂とは独立したものとして、構成することができる。第2樹脂としては、アクリル系樹脂が用いられる。
【0066】
ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)において、第2樹脂のδph2は、2.6超3.7未満MPa1/2であるが、2.7~3.5MPa1/2が好ましく、2.7~3.3MPa1/2であることがさらに好ましく、2.7~3.2MPa1/2であることがより好ましく、2.8~3.1MPa1/2であることがさらに好ましい。第2樹脂のδph2が上記範囲内であると、複合樹脂粒子がインク中では溶解し難くなり、目詰まり回復性が良好となる傾向にある。また、異物抑制や耐擦性やOD値も優れたものにし易い。なお単に○~△(○、△は数値)と記載する場合は、範囲の端の数値を含む意味である。
【0067】
第2樹脂は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。また、第2樹脂の架橋性成分の含有率を第1樹脂より高いものとすることも、複合樹脂粒子がインク中で溶解し難くなり、目詰まり回復性が良好となる傾向にある点で好ましい。
【0068】
第2樹脂のTgの下限値は、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましく、70℃以上がさらに好ましく、75℃以上がさらにより好ましく、80℃以上が特に好ましい。上限値は、110℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、95℃以下がさらにより好ましく、90℃以下が特に好ましい。第2樹脂のTgが110℃以下であることにより、加熱処理等により記録媒体上で第2樹脂が溶解して被膜が形成されるので、画像の耐擦性が良好となる傾向にある。また、第2樹脂のTgが60℃以上であることにより
、加熱したプラテン上をヘッドが走査する場合であっても、インク中で第2樹脂が溶融するのを抑制できるため、目詰まり回復性が良好となる傾向にある。
第1樹脂のTgと第2樹脂のTgの差(第2樹脂のTg-第1樹脂のTg)は、3~25℃が好ましく、5~20℃がより好ましく、10~19℃がさらに好ましく、15~18℃が特に好ましい。
【0069】
第2樹脂のTgは第1樹脂の場合と同様にして求めることができる。
【0070】
第2樹脂としては、第1樹脂と同様に、(メタ)アクリルモノマー単位を有するアクリル系樹脂が用いられる。また、第2樹脂は、第1樹脂と同様に上記のモノマー単位以外のモノマー単位、例えばカルボン酸モノマー単位等を有していてもよい。第2樹脂がカルボン酸モノマー単位を有することにより、複合樹脂粒子の相対酸価を制御することができる。カルボン酸モノマー単位の具体例としては、上記で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0071】
1.2.3 物性
複合樹脂粒子において、第1樹脂と第2樹脂の体積比(v1/v2)による加重平均δph=(v1δph1+v2δph2)/(v1+v2)は3.4~4.1Mpa1/2であることが好ましく、3.5~4.0Mpa1/2であることがより好ましく、3.6~3.9Mpa1/2であることがさらに好ましく、3.6~3.8Mpa1/2であることが特に好ましい。複合樹脂粒子における該加重平均δphが上記範囲内であると、画像の耐擦性がより良好となるとともに、目詰まり回復性がより良好となる傾向にある。
【0072】
第1樹脂のδph1は第2樹脂のδph2よりも高く、1.0Mpa1/2以上高いことが好ましく、1.0~2.0Mpa1/2以上高いことがより好ましく、1.2~2.0Mpa1/2以上高いことがさらに好ましく、1.4~2.0Mpa1/2以上高いことが特に好ましく、1.5~1.8Mpa1/2以上高いことがより特に好ましい。第1樹脂のδph1と第2樹脂のδph2の差が上記範囲内であると、画像の耐擦性がより良好となるとともに、目詰まり回復性がより良好となる傾向にある。
【0073】
複合樹脂粒子は、体積平均粒子径が、90nm~250nmであることが好ましく、190nm~220nmであることがより好ましく、90nm~190nmであることがさらにより好ましく、100nm~160nmであることが特に好ましく、120nm~160nmであることがより特に好ましい。複合樹脂粒子の体積平均粒子径が前記範囲内にあることにより、樹脂の溶解性のバランスに優れたものとなる傾向にある。すなわち、インク中では複合樹脂粒子が溶解し難く、目詰まり回復性がより良好となる。また、記録媒体上に吐出された後では、複合樹脂粒子が溶解し易く速やかに被膜が形成されるので、画像の耐擦性が良好となる。複合樹脂粒子の体積平均粒子径が前記範囲を超えない場合、複合樹脂粒子による光の散乱が大きくなることにより画像のOD値が低下し光沢度が不良となりにくい。なお、「体積平均粒子径」とは、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定した体積基準の平均粒子径を意味する。後述する実施例においては、Nanotrac WAVE II(マイクロトラック・ベル社製)により測定した、複合樹脂粒子の平均粒子径(nm)を用いる。
【0074】
複合樹脂粒子は、第1樹脂と前記第2樹脂の質量比(第1樹脂/第2樹脂)が、0.3~3.5が好ましく、0.4~3.0がより好ましく、0.5~2.0であることがさらに好ましい。さらに、該質量比(第1樹脂/第2樹脂)の下限は、1/1.8以上がより好ましく、1/1.5以上がさらに好ましく、1/1.3以上が特に好ましい。さらに0.8以上が好ましく、1.0以上がより好ましい。
該質量比(第1樹脂/第2樹脂)の上限は、1/0.6以下が好ましく、1/0.7以
下がさらに好ましく、1/0.8以下が特に好ましい。該質量比(第1樹脂/第2樹脂)が上記範囲以上であると、後加熱工程において樹脂粒子が溶解しやすく、耐擦性により優れる傾向にある。また、該質量比(第1樹脂/第2樹脂)が上記範囲以下であると、樹脂粒子がインク中では溶解し難くなり、目詰まり回復性が良好となる傾向にある。
【0075】
第2樹脂の酸価は5~35mgKOH/gであることが好ましく、7~20mgKOH/gであることがより好ましく、10~15mgKOH/gであることがさらに好ましい。複合樹脂粒子の酸価が前記範囲内であると、目詰まり回復性と画像の耐擦性とが共に向上する傾向にある。
【0076】
酸価は、親水性/疎水性の指標となるパラメーターであり、値が大きくなるほど親水性となり、値が小さくなるほど疎水性となる。したがって、複合樹脂粒子の主として最表層を構成する第2樹脂の酸価が前記範囲未満であると、複合樹脂粒子と有機溶剤とが馴染みやすくなり、複合樹脂粒子がインク中で溶解し易くなるので、インクジェットヘッド内での樹脂の溶着により目詰まりし、目詰まり回復性に劣る場合がある。一方、第2樹脂の酸価が前記範囲を超えると、複合樹脂粒子と水とが馴染みやすくなり、記録媒体上に水が揮発せずに残りやすくなるため均質な被膜が形成されず、耐擦性が不良となる場合がある。
【0077】
第2樹脂の酸価は、複合樹脂粒子を構成する第2樹脂についての、モノマー単位の分子量、含有量、モノマー単位に含まれるアニオン性基の数から計算により求めることができる。具体的には複合樹脂粒子を構成する第2樹脂の構成から下記式により計算で求める。
【0078】
(第2樹脂を構成するモノマーのうちのアニオン性基を有するモノマー2の質量部/第2の樹脂を構成する全モノマーの合計の質量部)/モノマー2の分子量)×モノマー2の分子中のアニオン性基数=A1 (式1)
A1×56.11×1000=第2樹脂の酸価(mgKOH/g) (式2)
【0079】
アニオン性基は、カルボキシル基である。第2樹脂を構成するモノマーのうちのアニオン性基を有するモノマーが複数種ある場合は、モノマー毎に式1と同様の式でA2、A3・・と算出し、A1+A2+A3+・・の合計値を式2のA1として同様に算出する。
第2樹脂の酸価は、第1樹脂からなる相が第2樹脂からなる相に内包されている場合において、複合樹脂粒子の最表面に起因する特性が、複合樹脂粒子の最表面を構成する樹脂に起因すると仮定して、第2樹脂から求める。
【0080】
第1樹脂及び第2樹脂のガラス転移温度は60~95℃であることが好ましく、62~88℃であることがより好ましく、64~86℃であることがさらに好ましい。第1樹脂及び第2樹脂のガラス転移温度が上記範囲内であると、樹脂の溶融の抑制と溶解のバランスに優れ、画像の耐擦性がより良好となるとともに、目詰まり回復性がより良好となる傾向にある。
【0081】
1.2.4 合成方法
複合樹脂粒子の合成方法については特に限定されないが、例えば公知の乳化重合法又はこれを適宜に組み合わせることによって合成することができる。具体的には、一括混合重合法、モノマー滴下法、プレエマルション法、シード乳化重合法、多段階乳化重合法(二段乳化重合法等)、転相乳化重合法等が挙げられる。
【0082】
ここで、複合樹脂粒子は、反応性界面活性剤により分散された樹脂粒子であることが好ましい。樹脂粒子に吸着する界面活性剤が脱離した場合、インクと記録媒体の界面に移動してインク塗膜の密着性を阻害し、耐擦性が悪くなることがある。これに対して、反応性界面活性剤は、炭素炭素二重結合を含む化合物であり、かかる二重結合を利用して複合樹
脂粒子と結合することができる。したがって、反応性界面活性剤により分散された樹脂粒子は、樹脂粒子から該界面活性剤が脱離し難くインク塗膜の密着性を阻害しにくいので、耐擦性がより良好になる傾向にある。
【0083】
反応性界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、又は両性のいずれであってもよいが、アニオン性であることが好ましい。反応性界面活性剤がアニオン性であることにより、樹脂粒子の分散安定性がより良好となり、耐擦性や目詰まり回復性により優れる傾向にある。
【0084】
反応性界面活性剤は、オキシアルキレン基を有するものが好ましい。これにより、樹脂粒子の分散安定性がより良好となり、耐擦性や目詰まり回復性により優れる傾向にある。オキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基(-OCHCH-)、オキシプロピレン基(-OCHCHCH-または-OCHCH(CH)-)などが挙げられるが、オキシアルキレン基の炭素数が2~5であることが好ましく、2~3であることがより好ましい。また、オキシアルキレン基は、複数のオキシアルキレン基が結合したポリオキシアルキレン基であってもよい。ポリオキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の繰り返し単位nは2~100であってもよく、2~50であってもよく、2~30であってもよい。
【0085】
反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンー1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンー1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル、α-[2-[( アリルオキシ) -1-( アルキルオキシメチル) ]エチル]-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステル、α-[2-[( アリルオキシ) -1-( アルキルオキシメチル) ]エチル]-ω-ポリオキシエチレン、アルキルアリルスルホコハク酸、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステル、スチレンスルホン酸、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル、スルホエチルメタクリレート、及びそれらの塩が挙げられる。これらの中でも、反応性界面活性剤は、α-[2-[(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)]エチル]-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステル塩、または、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステル塩であることが好ましい。
【0086】
反応性界面活性剤は市販品を用いてもよく、例えば、アデカリアソープSR-10、SR-1025、SR-20、SR-3025(以上商品名、株式会社ADEKA製、α-[2-[(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)]エチル]-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩)、アデカリアソープER-10、ER-20、ER-30、ER-40(以上商品名、株式会社ADEKA製、α-[2-[(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)]エチル]-ω-ポリオキシエチレン)、アクアロンAR-10、AR-1025、AR-20、AR-2020(以上商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)、アクアロンKH-05、KH-10、KH-1025(以上商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)、アクアロンAN-10、AN-30、AN-5065(以上商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル)、ラテムルPD-104、PD-105(以上商品名、花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩)、ラテムルPD-420、PD-430、PD-450(以上商品名、花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル)、エレミノールJS-20(商品名、三洋化成工業株式会社製、
アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム塩)、エレミノールRS-3000(商品名、三洋化成工業株式会社製、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステルナトリウム塩)、スピノマーNaSS(商品名、東ソー・ファインケム株式会社製、スチレンスルホン酸ナトリウム塩)、アントックスMS60(商品名、日本乳化剤株式会社製、ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステルアミン塩)、アントックスMS-2N-D(商品名、日本乳化剤株式会社製、スルホエチルメタクリレートナトリウム塩)などが挙げられる。
【0087】
複合樹脂粒子は、非反応性界面活性剤により分散された樹脂粒子であってもよい。ここで、「非反応性界面活性剤」とは、炭素炭素二重結合を含まない化合物である。非反応性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルカルボン酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル、ポリエチレングリコールのアルキルエーテル、ポリエチレングリコールのアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0088】
非反応性界面活性剤は市販品を用いてもよく、例えば、ハイテノール LA-16、ハイテノール NF-13、ハイテノールNF-08、ハイテノールNF-17、ハイテノール330T、ハイテノールLA-10、DKS NL-600、ノイゲンEA-137、ノイゲンEA-207D、プライサーフA212C、プライサーフA208B(以上、第一工業製薬社製)、ニューコール271A(日本乳化剤社製)、ラテムルWX、ラテムルE-150、エマルゲン1108、エマルゲン1150S-60(以上、花王株式会社製)、DOWFAX 2A1(ダウ・ケミカル社製)、エレミノールCLS-20、エレミノールHB-29、サンモリンOT-70(以上、三洋化成工業社製)等が挙げられる。
【0089】
一方で、複合樹脂粒子は、ソープフリー型樹脂粒子であってもよい。ここで、「ソープフリー型樹脂粒子」とは、界面活性剤などの分散剤を使用せずに、凝集することなく安定な分散状態を保つことが可能な樹脂粒子をいう。このようなソープフリー型樹脂粒子であると、樹脂粒子から界面活性剤が脱離するということが全くないので、インク塗膜の密着性を阻害させることがなく、耐擦性がより良好になる傾向にある。
【0090】
複合樹脂粒子は、少なくとも有機アミンまたはアンモニアによって中和された樹脂粒子であることが好ましい。かかる樹脂粒子であると、耐擦性により優れる傾向にある。有機アミンとしては、例えば、(トリ)メチルアミン、(トリ)エタノールアミン、(トリ)エチルアミン、ジメチルエタノールアミン、モルフォリン等が挙げられる。なお、複合樹脂粒子は、必要に応じて、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリをさらに用いて中和させてもよい。
【0091】
以下、複合樹脂粒子の一例として、第1樹脂によりコア部または島部が構成され、第2樹脂によりシェル部または海部が構成されたコアシェル樹脂粒子または海島構造樹脂粒子の合成方法について詳細に説明する。
【0092】
(合成方法1)
まず、水系媒体を用いた通常の乳化重合法により第1樹脂の粒子を合成する。乳化重合の条件は、公知の方法に準ずればよいが、例えば使用するモノマー全量を100部とした場合に、通常100~500部の水(水系媒体)を使用して重合を行うことができる。重合温度は、-10~100℃が好ましく、-5~100℃がより好ましく、0~90℃がさらに好ましい。また、重合時間は、0.1~30時間が好ましく、2~25時間がより好ましい。乳化重合の方式としては、モノマーを一括して仕込むバッチ方式、モノマーを
分割もしくは連続して供給する方式、モノマーのプレエマルジョンを分割もしくは連続して添加する方式、又はこれらの方式を段階的に組み合わせた方式等を採用することができる。また、通常の乳化重合に用いられる重合開始剤、分子量調節剤、乳化剤等を、必要に応じて1種又は2種以上使用することができる。
【0093】
重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2'-アゾビスイソブチレート、2-カルバモイルアザイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過酸化基を有するラジカル乳化性化合物を含有するラジカル乳化剤、亜硫酸水素ナトリウム、及び硫酸第一鉄等の還元剤を組み合わせたレドックス系を用いることができる。重合開始剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0094】
分子量調節剤としては、特に限定されないが、例えばn-ヘキシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサデシルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン、チオグリコール酸等のメルカプタン類;ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等のキサントゲンジスルフィド類;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラムジスルフィド類;クロロホルム、四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化炭化水素類;ペンタフェニルエタン、α-メチルスチレンダイマー等の炭化水素類;アクロレイン、メタクロレイン、アリルアルコール、2-エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノーレン、α-テルネピン、γ-テルネピン、ジペンテン、1,1-ジフェニルエチレンが挙げられる。分子量調節剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0095】
乳化剤は、前述の反応性界面活性剤(反応性乳化剤)、非反応性界面活性剤(非反応性乳化剤)などの界面活性剤である。
乳化剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤;ポリエチレングリコールのアルキルエステル、ポリエチレングリコールのアルキルエーテル、ポリエチレングリコールのアルキルフェニルエーテル等のノニオン性界面活性剤;親水基と疎水基とラジカル反応性基とを含有する反応性乳化剤;ビニル系重合体、ポリエステル系重合体等の重合体に親水基を導入した高分子乳化剤等を挙げることができる。乳化剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、親水基とは、水に対する親和性が高い原子団のことであり、例えば、ニトロ基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。また、疎水基とは、親水基よりも水に対する親和性が低い原子団のことであり、例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、脂環基、芳香環基、アルキルシリル基、パーフルオロアルキル基等が挙げられる。
樹脂エマルジョンが凝集することなく安定な分散状態を保つことが可能な場合、乳化剤を使用しないソープフリーでも製造可能である。
【0096】
次いで、得られた第1樹脂の粒子の存在下において、第2樹脂用のモノマーを重合させる。具体的には、得られた第1樹脂の粒子をシード粒子として使用した状態で第2樹脂用のモノマーをシード重合させることによって、コアシェル樹脂粒子または海島構造樹脂粒子を形成することができる。例えば、第1樹脂の粒子が分散した水系媒体中に、第2樹脂用のモノマーもしくはそのプレエマルジョン及び必要に応じ架橋剤を一括、分割、又は連続して滴下すればよい。このとき使用する第1樹脂の粒子の量は、第2樹脂用のモノマー100質量部に対して、50~200質量部とすることが好ましい。重合に際して架橋剤
を用いる場合は、第2樹脂を架橋させることができる。
【0097】
架橋剤を用いる場合、架橋剤としては、特に限定されないが、例えばフェノール樹脂やアミノ樹脂等が挙げられる。フェノール樹脂としては、例えば、フェノールやビスフェノールAなどのフェノール類とホルムアルデヒドなどのアルデヒド類とを反応触媒の存在下で縮合反応させて、メチロール基を導入してなるレゾール型フェノール樹脂を挙げることができる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。また、上記樹脂のメチロール基の少なくとも一部をメチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどの炭素原子数1~8のアルコールにてエーテル化したものも使用できる。アミノ樹脂としては、メラミン、尿素、ベンゾグアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等のアミノ成分とアルデヒドとの反応によって得られるメチロール化アミノ樹脂が挙げられる。アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。また、上記樹脂のメチロール基の少なくとも一部をメチルアルコール、エチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどの炭素原子数1~8のアルコールにてエーテル化したものも使用できる。
【0098】
重合に際して重合開始剤、分子量調節剤、乳化剤等を用いる場合には、第1樹脂の粒子の製造時と同様のものを使用することができる。また、重合時間等の条件についても、第1樹脂の粒子の製造時と同様にすればよい。
【0099】
(合成方法2)
次に、第2樹脂の部を先に合成する重合方法について説明する。まず、第2樹脂の部を合成する。具体的には、反応性乳化剤を用いて又はソープフリーで上述の親水性モノマーを含むプレエマルション溶液を調製し、該プレエマルション溶液を重合開始剤及び架橋剤とともに水系媒体中に滴下、重合反応することで第2樹脂の部を合成する。
【0100】
次いで、得られた第2樹脂の部を重合場として、第1樹脂の部を重合し、本実施形態に係るコアシェル樹脂粒子または海島構造樹脂粒子を合成する。具体的には、第2樹脂の部を含有する水系分散媒体中に上述の疎水性モノマーを含むモノマー混合物を滴下し、第1樹脂の部を重合し、コアシェル樹脂粒子または海島構造樹脂粒子とする。なお、第2樹脂の部を重合場とする場合、モノマー混合物には乳化剤を含有させる必要がないため、モノマー油滴として滴下することができる。
【0101】
かかる多段階乳化重合法によれば、反応性乳化剤を用いて又はソープフリーで第2樹脂の部を合成し、乳化剤フリーで第1樹脂の部を合成することができるため、インク組成物中の乳化剤の含有量を容易に0.01質量%以下とすることができる。インク組成物において、含有される乳化剤の含有量が0.01質量%以下であると、インク界面(大気-インクにおける気液界面、インク収容容器等のインク接触部材-インクにおける固液界面)におけるインク成分の凝集が抑制され、保存安定性に優れるため好ましい。また、インク組成物において、含有される乳化剤の含有量が0.01質量%以下であると、起泡性、消泡性に優れるため、インク充填可能な注入口を有するインク収容容器を好ましく用いることができる。ここで、「インク充填可能な注入口を有するインク収容容器」とは、着脱又は開閉可能な注入口を有するインク収容容器のことであり、ユーザーが容易にインク組成物を注入できるようになっている一方で、注入時に泡立ちやすい。なお、注入口の開口面積が20mm以上であるとインク組成物の充填が容易になるため好ましい。このようなインク収容容器は、例えば、特開2005-219483号公報や特開2012-51309号公報に開示されている
【0102】
また、大量の乳化剤を用いてコアシェル樹脂粒子又は海島構造樹脂粒子を合成する場合
であっても、コアシェル樹脂粒子の合成後に過剰な乳化剤を除去することによって、インク組成物に含まれる乳化剤の含有量を0.01質量%以下としてもよい。
【0103】
最後に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、有機アミン、アンモニア等のアルカリ、好ましくは少なくとも有機アミンまたはアンモニアで中和してpHを調整して、必要に応じてろ過することにより、コアシェル樹脂粒子分散液が得られる。合成方法において、モノマーの濃度や重合温度や撹拌速度や重合時間などを調整することで、コアシェル樹脂粒子としたり、海島構造樹脂粒子としたりすることができる。特に第1樹脂の合成の際のこれらの重合条件を調整することが好ましい。
【0104】
このような海島構造樹脂粒子やコアシェル樹脂粒子の製造方法については、例えばColloids and Surfaces A:Physiochemical and
Engineering Aspects 153(1999) 255-270を参考にすればよい。
【0105】
1.3 水溶性低分子有機化合物
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水溶性低分子有機化合物を含有する。該水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含む。
【0106】
水溶性低分子有機化合物において、「水溶性」とは、20℃の水において、溶解度が10質量%超の水溶性を有することをいう。例えば、20℃で、水に該化合物を所定の濃度で混合して攪拌後、目視により、溶け残りが見えたり混合液全体が白濁して見えたりしないものである場合に水に溶けたとする。水に溶けた場合の、水に混合した該化合物の最低濃度が10質量%超である場合に、水溶性とする。溶解度を示すときの質量%は、水と低分子有機化合物を混合した混合液の総質量に対する、低分子有機化合物の質量%である。
【0107】
水溶性低分子有機化合物において、「低分子」とは、分子量が300以下であることをいう。分子量は、250以下が好ましく、200以下がより好ましい。50~200がさらに好ましい。
【0108】
水溶性低分子有機化合物としては、常温単体で液体である有機溶剤であるものであってもよく、常温単体で固体であるものであってもよい。常温単体で固体であるものとしては、融点が常温(25℃)より高いものがあげられる。融点は示差走査熱量分析(DSC)を用いて測定できる。
水溶性低分子有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、樹脂溶解性化合物、浸透性化合物、保湿性化合物が挙げられる。水溶性低分子有機化合物は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0109】
1.3.1 標準沸点が215~290℃のアミド類
水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含む。アミド類は、樹脂溶解性化合物の一種である。なお、樹脂溶解性化合物とは、樹脂を溶解し耐擦過性を向上させる機能をもつ有機化合物であるが、この機能に限定されるものではない。
【0110】
アミド類としては、環状アミド類、非環状アミド類などがあげられる。アミド類としては、例えば、2-ピロリドン(2P)、2-ピペリドン、ε-カプロラクタム(CPL)、N-メチル-ε-カプロラクタム、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ブチルピロリドン、5-メチル-2-ピロリドン、β-プロピオラクタム、ω-ヘプタラクタムなどの環状アミド(ラクタム);N,N
-ジメチルアセトアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアセトアミド、N-メチルアセトアセトアミド、N,N-ジメチルイソ酪酸アミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(DMPA)、3-n-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-メトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-エトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-n-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-iso-プロポキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジエチルプロピオンアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-メチルエチルプロピオンアミドなどの鎖状アミド;が挙げられる。
【0111】
標準沸点が215~290℃のアミド類としては、例えば、2-ピロリドン(標準沸点245℃)、ε-カプロラクタム(標準沸点267℃)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(標準沸点215℃)などが挙げられ、これらから選ばれる1種以上が好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このような化合物であると、樹脂溶解性により優れる傾向にある。
【0112】
標準沸点が215~290℃のアミド類は、常温単体で固体又は液体である化合物が好ましい。このような化合物としては、例えば、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミドなどが挙げられ、これらから選ばれる1種以上が好ましく、ε-カプロラクタムがより好ましい。このような化合物であると、樹脂溶解性により優れる傾向にある。
【0113】
標準沸点が215~290℃のアミド類の分子量は、50~200であることが好ましく、80~150であることがより好ましい。また、該分子量は、下限は90以上がより好ましく、上限は130以下がより好ましい。さらには100~120が好ましい。
分子量が上記範囲内であると、耐擦性により優れる傾向にある。
【0114】
標準沸点が215~290℃のアミド類の標準沸点は、230~290℃がより好ましく、250~290℃がさらに好ましく、250~280℃が特に好ましい。アミド類の標準沸点が上記範囲内であると、後加熱工程において樹脂粒子を十分溶解させる前にアミド類が蒸発してしまうことを抑制し、樹脂粒子が十分に溶解でき、また樹脂粒子の溶解後は速やかに蒸発するため耐擦性により優れる傾向にある。
【0115】
水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含むが、下限は1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上が特に好ましい。上限は8.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以下がより好ましく、6.0質量%以下がさらに好ましく、5.0質量%以下が特に好ましく、4.0質量%以下がより特に好ましい。特定のアミド類を上記範囲内とすることで、耐擦性と目詰まり回復性により優れる傾向にある。
【0116】
1.3.2 その他の水溶性低分子有機化合物
樹脂溶解性化合物としては、上記標準沸点が215~290℃のアミド類以外では、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。樹脂溶解性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。樹脂溶解性化合物を用いることにより、複合樹脂粒子のヘッド、キャビティ内での固着の抑制、並びに、低吸収性又は非吸収性記録媒体に対しての密着性及び耐擦性がより向上する傾向にある。
【0117】
浸透性化合物としては、特に限定されないが、例えば、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール等の好ましくは炭素数4以上のアルカンジオール;アルキレングリコールモノエーテル、アルキレングリコールジエーテル等のグリコールエーテルが挙げられる。浸透性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような浸透性化合物を用いることにより、記録媒体へのインクの埋まり性(ぬれ広がり性)や浸透性がより向上する傾向にある。
【0118】
浸透性化合物の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは0.1~10質量%であり、より好ましくは0.5~8質量%であり、特に好ましくは1.0~5質量%である。浸透性化合物の含有量が前記範囲内であることにより、記録媒体へのインクの埋まり性(ぬれ広がり性)や浸透性がより向上する傾向にある。
【0119】
保湿性化合物としては、特に限定されないが、例えば、グリセリンなどのポリオール化合物(水酸基が3個以上);エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール等の好ましくは炭素数3以下アルカンジオール又は炭素数3以下のアルキレングリコールからなるポリエーテルを骨格とするアルカンジオールが挙げられる。保湿性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような保湿性化合物を用いることにより、インクジェットヘッド内のインクの乾燥がより抑制され、結果として目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0120】
保湿性化合物の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは5~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%であり、特に好ましくは12~23質量%である。保湿性化合物の含有量が前記範囲内であることにより、インクジェットヘッド内のインクの乾燥がより抑制され、結果として目詰まり回復性がより向上する傾向にある。
【0121】
標準沸点が280℃超の水溶性低分子有機化合物の含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは3質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0.5質量%以下である。標準沸点が280℃超の水溶性低分子有機化合物の含有量の下限は0質量%である。標準沸点が280℃超の水溶性低分子有機化合物の含有量が前記範囲内であることにより、乾燥性の点で非吸収性又は低吸収性記録媒体への記録に適したものとなる。標準沸点が280℃超の水溶性低分子有機化合物としては、例えば、グリセリンなどが挙げられる。
【0122】
水溶性低分子有機化合物の含有量がインクの総質量に対し30質量%以下であり、水溶性低分子有機化合物の総質量に対し、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物が50質量%以上であることが好ましい。かかる場合には、乾燥性と溶解性のバランスに優れ、耐擦性と目詰まり回復性がより優れる傾向にある。
水溶性低分子有機化合物の含有量は、インクの総質量に対し30質量%以下が好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、26質量%以下であることがさらに好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。水溶性低分子有機化合物の含有量の下限
は、特に制限されないが、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。さらには20質量%以上が好ましい。
水溶性低分子有機化合物の総質量に対し、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、65質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上が特に好ましい。かかる含有量の上限は、特に制限されないが、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。さらには80質量%以下が好ましい。
標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物の標準沸点は、150~210℃以下がより好ましく、160~200℃以下がさらに好ましく、170~200℃以下が特に好ましい。なお、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物としては、例えば、プロピレングリコール(標準沸点188℃)などが挙げられる。
【0123】
1.4 水
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、水を含有する水系のインクである。「水系」とは、溶媒成分として少なくとも水を含有することをいい、水を主となる溶媒成分として含んでもよい。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を低減したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加等によって滅菌した水を用いると、インクジェットインク組成物を長期保存する場合に細菌類や真菌類の発生を抑制することができる。
【0124】
水の含有量は、液媒体成分中、好ましくは30質量%以上であり、さらに好ましくは30~99質量%である。さらには、好ましくは30~95質量%であり、より好ましくは40~90質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%である。なお、液媒体とは、水や水溶性低分子有機化合物などの溶媒成分である。
【0125】
また、水の含有量は、インク組成物の総質量に対して40質量%以上が好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましい。水の含有量の上限は、特に制限されないが、例えば、インク組成物の総質量に対して好ましくは99質量%以下であり、さらには90質量%以下であり、より好ましくは85質量%以下であり、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0126】
1.5 界面活性剤
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、上述の樹脂粒子の分散剤ではない界面活性剤を含んでいてもよい。このような界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。これらの中でも、アセチレングリコール系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤の少なくとも一方を含むことが好ましい。このような界面活性剤を含有することにより、溶解時間を好ましい範囲に制御しやすい傾向にあり、また、入手しやすく、インク組成物の埋まり性も向上する傾向にある。
【0127】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0128】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S-144、S-145(旭硝子株式会社製);FC-170C、FC-430、フロラード-FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO-100、FSN、FSN-100、FS-300(Dupont社製);FT-250、251(株式会社ネオス製)が挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0129】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-347、BYK-348、BYK-349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
【0130】
界面活性剤のHLBは、好ましくは6~15であり、より好ましくは7~14であり、さらに好ましくは11~14であり、特に好ましくは11~13である。界面活性剤のHLBが前記範囲内であることにより、溶解時間を好ましい範囲に制御しやすい傾向にあり、また、HLBが前記範囲内である界面活性剤は入手しやすく、インク組成物の埋まり性も向上する傾向にある。ここで、「HLB」とは、Hydrophile-Lipophile Balanceの略であり、グリフィン法で定義される。
【0131】
界面活性剤の表面張力は、好ましくは15~45mN/mであり、より好ましくは17.5~40mN/mであり、特に好ましくは20~35mN/mである。界面活性剤の表面張力が上記範囲内であることにより、インク組成物の埋まり性が向上する傾向にある。なお、表面張力(mN/m)は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定することができる。
【0132】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、上述の樹脂粒子の分散剤ではない界面活性剤を1質量%以下含有することが好ましく、0.8質量%以下含有することがより好ましく、0.7質量%以下含有することがさらに好ましい。このような界面活性剤の含有量が上記範囲内であると、耐擦性及び目詰まり回復性により優れる傾向にある。また、かかる界面活性剤の含有量の下限は、特に制限されないが、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
【0133】
1.6 その他の樹脂
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、分散樹脂又は水溶性樹脂等の樹脂を含んでいてもよい。分散樹脂又は水溶性樹脂を含むことにより、得られる画像の光沢性がより向上する傾向にある。分散樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重
合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、酢酸ビニル-マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル-クロトン酸共重合体、酢酸ビニル-アクリル酸共重合体等およびこれらの塩が挙げられる。これらの中でも、スチレン-アクリル酸共重合体が好ましい。共重合体の形態としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体のいずれの形態でも用いることができる。また限るものでは無いがワックスを含んでいてもよい。ワックスとしては、ポリエチレンワックス等のポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等があげられる。
【0134】
ワックスを含有する場合の含有量は、インク組成物の総質量に対し0.01~5質量%が好ましく、0.1~3質量%がより好ましく、0.1~1質量%がさらに好ましく、0.2~0.8質量%が特に好ましく、0.3~0.7質量%がより特に好ましい。
【0135】
1.7 その他の成分
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、保存安定性及びヘッドからの吐出安定性を良好に維持するため、目詰まり改善のため、又はインクの劣化を防止するため、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤などの、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
【0136】
1.8 インクジェットインク組成物の製造方法
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、上述の成分(材料)を任意の順序で混合し、必要に応じてろ過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。ここで、インクが顔料を含有する場合、当該顔料は、あらかじめ溶媒中に均一に分散させた状態に調製してから混合することが、取り扱いが簡便になるため好ましい。顔料をあらかじめ分散させた状態に調製する際に分散樹脂などの分散剤を用いて分散することが好ましい。
【0137】
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。ろ過方法として、例えば、遠心ろ過やフィルターろ過などを必要に応じて行うことができる。
【0138】
1.9 インクジェットインク組成物の物性等
25℃におけるインク組成物の表面張力は、好ましくは20~50mN/mであり、より好ましくは20~40mN/mである。表面張力が前記範囲内にあることにより、吐出安定性が良好となる傾向にある。なお、表面張力は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定することができる。
【0139】
25℃におけるインク組成物の粘度は、好ましくは20mPa・s以下であり、より好ましくは10mPa・s以下である。粘度が前記範囲内にあることにより、吐出安定性が良好となる傾向にある。なお、粘度は、粘度計を用いて測定することができる。
【0140】
本実施形態に係るインクジェットインク組成物は、後述するインクジェット記録方法に用いるインク組成物であったり、後述するインクジェット記録装置に用いるインク組成物であったりしてもよい。
【0141】
2.記録方法
本発明の一実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【0142】
本実施形態に係る記録方法によれば、上述のインクジェットインク組成物を用いることにより、記録媒体上に記録された画像の耐擦性が良好となると共に、インクジェットヘッドのノズルの目詰まり回復性が良好となる。
【0143】
以下、記録媒体、記録装置、各工程の順に説明する。
【0144】
2.1 記録媒体
記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、非吸収性記録媒体が挙げられる。本実施形態に係る記録方法によれば、画像の表面に被膜が形成されることにより耐擦性が付与される。したがって、インクが染み込む吸収性記録媒体よりも、インクが染み込み難い低吸収性記録媒体又はインクが染み込まない非吸収性記録媒体上に記録する場合に耐擦性が良好となるため、本実施形態に係る記録方法を用いることが有利となる。
【0145】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インク組成物の浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙、インク組成物の浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。インクジェット用紙としては、特に限定されないが、具体的には、シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えた用紙が挙げられる。
【0146】
低吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、表面に液体を受容するための塗工層が設けられた塗工紙が挙げられる。塗工紙としては、特に限定されないが、例えば、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙が挙げられる。
【0147】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。
【0148】
ここで、「低吸収性記録媒体」及び「非吸収性記録媒体」は、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msecまでの水吸収量が10mL/m以下である記録媒体をいう。このブリストー法は、短時間での液体吸収量の測定方法として最も普及している方法であり、日本紙パルプ技術協会(JAPAN TAPPI)でも採用されている。試験方法の詳細は「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」に述べられている。
【0149】
また、非吸収性記録媒体又は低吸収性記録媒体は、記録面の水に対する濡れ性によっても分類することができる。例えば、記録媒体の記録面に0.5μLの水滴を滴下し、接触角の低下率(着弾後0.5ミリ秒における接触角と5秒における接触角の比較)を測定することによって記録媒体を特徴付けることができる。より具体的には、記録媒体の性質として、「非吸収性記録媒体」の非吸収性は上記の低下率が1%未満のことを指し、「低吸収性記録媒体」の低吸収性は上記の低下率が1%以上5%未満のことを指す。また、吸収性とは上記の低下率が5%以上のことを指す。なお、接触角はポータブル接触角計 PCA-1(協和界面科学株式会社製)等を用いて測定することができる。
【0150】
2.2 記録装置
本実施形態で用い得るインクジェット記録装置は、上記インク組成物を記録媒体に対して吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドを加熱するヘッド加熱手段と、前記インク組成物が付着した前記記録媒体を乾燥する乾燥手段と、を備えていることが好ましい。
【0151】
図1は、インクジェット記録装置を模式的に示す概略断面図である。図1に示すように、記録装置1は、インクジェットヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備えている。
【0152】
乾燥手段は、インクジェットヘッド2の周囲において、記録媒体に付着したインクを乾燥促進するものである。インク付着工程における乾燥手段である。
乾燥手段は、加熱によるものや、送風によるものがあげられる。乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、通気ファン8、IRヒーター3、プラテンヒーター4、プレヒーター7などが挙げられる。通気ファン8は、温風を送風してもよいし、常温風を送風してもよい。
なお乾燥手段が加熱によるものである場合、該乾燥手段により、インクジェットヘッド2が加熱されてしまう場合がある。
例えば、温風やIRヒーター3によりインクジェットヘッド2が直接加熱される場合や、プラテンヒーター4により加熱した記録媒体を介してインクジェットヘッド2が加熱される場合がある。
または、記録装置はインクジェットヘッド2を加熱するための加熱手段(ヘッド加熱手段)を備えていても良い。
インクジェットヘッド2が加熱されることによりインクジェットヘッド2内のインク組成物は粘度が低下し、良好に吐出されることができる。
一方、インクジェットヘッド2が加熱されることによりインクジェットヘッド2内のインク組成物が熱を受け、目詰まり発生が課題となる。
【0153】
なお、IRヒーター3を用いると、インクジェットヘッド2側から記録媒体を加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など記録媒体の裏面から加熱される場合と比べて、記録媒体の厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、プラテンヒーター4を用いると、インクジェットヘッド2側と反対側から記録媒体を加熱することができる。これにより、インクジェットヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
【0154】
記録装置1は、記録媒体に対してインク組成物が吐出され付着される際に、記録媒体の表面温度が20~70℃となるようにすることが好ましい。加熱による上記乾燥手段を用いる場合は、加熱された記録媒体の表面温度である。
乾燥手段により、記録媒体に付着したインクの乾燥を促進し、画質を高める。また、加熱による乾燥手段により、記録媒体に付着した樹脂粒子をより速やかに溶解し、均質な塗膜を形成することができる。
【0155】
記録装置は、後乾燥手段を備えても良い。後乾燥手段は、インク付着工程より後に、インク組成物が付着した記録媒体を加熱して乾燥するものである。後乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、硬化ヒーター5、温風機構(不図示)、及び恒温槽(不図示)などの手段が挙げられる。乾燥手段が、画像が記録された記録媒体を加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分などがより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれる樹脂粒子によって被膜が形成される。このようにして、記録媒体上においてインク乾燥物が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。
【0156】
なお、上記の「記録媒体を加熱」するとは、記録媒体の温度を所望の温度まで上昇させることを言い、記録媒体を直接加熱することに限られない。
【0157】
記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。乾燥後、冷却ファン6により記録媒体上のインク組成物を冷却することにより、記録媒体上に密着性よく被膜を形成することができる傾向にある。
【0158】
記録装置1は、記録媒体に対してインク組成物が吐出される前に、記録媒体を予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。インク組成物の吐出前に記録媒体がプレ加熱されることにより、記録媒体、特に非吸収性及び低吸収性の記録媒体上に滲みが少ない高画質な画像を形成することができる傾向にある。プレ加熱温度は、80~120℃が好ましい。
【0159】
記録装置1は、記録媒体に付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
【0160】
2.3 記録方法の各工程
<乾燥工程>
本実施形態に係る記録方法は、前述の乾燥手段により、記録媒体に付着したインクを乾燥する乾燥工程を備えていてもよい。
当該工程は、後述するインク付着工程の際に行う工程であり、記録媒体に付着したインク組成物が直ちに乾燥を受ける。一次乾燥工程ともいう。好ましくは、加熱された記録媒体にインクの付着が行なわれる。及び又は、記録媒体に付着したインク滴が、インク滴の付着から0.5秒以内に当該工程による乾燥が開始される。
特に加熱による乾燥手段を用いる工程(加熱工程)を備えていてもよく好ましい。加熱による乾燥工程を加熱工程ともいう。乾燥工程では、記録媒体の表面温度の上限が、好ましくは70℃以下、より好ましくは65℃以下、さらに好ましくは60℃以下、よりさらに好ましくは55℃以下、特に好ましくは53℃以下となるように加熱する。特には50℃以下であり、さらには45℃以下であり、よりさらには43℃以下である。
一方、記録媒体の表面温度の下限が、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、さらには35℃以上、より好ましくは37℃以上、さらに好ましくは38℃以上、特に好ましくは40℃以上となるように加熱する。記録媒体の表面温度が70℃以下であることにより、インクジェットヘッドの加熱が抑制され、印刷中のノズルの抜けが抑制され、目詰まり回復性がより向上する傾向にある。また、記録媒体の表面温度が20℃以上であることにより、記録媒体上のインク組成物のドットが寄り集まってしまい画質が劣化することを抑制でき、画質がより向上する傾向にある。また、記録媒体、特に塩化ビニルのような非吸収性記録媒体上のインク組成物のドットの埋まり性がより向上する。
【0161】
上記の記録装置1を用いる場合、記録媒体の表面温度は、IRヒーター3、プラテンヒーター4、通気ファン8、プレヒーターなどの少なくともいずれかを用いて制御することができる。
【0162】
<インク付着工程>
本実施形態に係る記録方法は、上述のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させる工程(インク付着工程)を備える。例えば上述のヘッド加熱手段によりインクジェットヘッド2を加熱すると、インクジェットヘッド2内のインク組成物は粘度が低下するため、目詰まり回復性が向上する。
【0163】
図2は、インクジェットヘッド2を模式的に示す拡大断面図である。インクジェットヘ
ッド2は、圧力室21と、該圧力室21内のインク組成物に圧力を付与してノズル22から吐出させる素子23を備え、前記圧力室21において、前記ノズル22に向かい前記インク組成物が移動する出口と対向する位置以外の場所に前記素子23が配置されているものである。インクをノズルから押し出す力の点で素子23がノズルの直上にあると樹脂の固着24解消の観点から有利であるが、ヘッドの設計上の理由で好ましくなく、ノズルの直上以外の場所に素子23がある場合、設計上有利であり、このような場合に本発明が特に有用である。素子23は、機械的な変形によりキャビティの容積を変化させる圧電素子などの電気機械変換素子や、熱を発することによりインクに気泡を発生させ吐出させる電子熱変換素子などを用いて形成することができる。
【0164】
圧力室21においてノズル22に連通する出口25と対向する位置は、図2において、出口25の壁から仮に図の上方に向かい線を延長した場合に、延長線及び延長線で囲まれた中の領域である。例えば図2のヘッドであれば、出口25は、インクが吐出する方向に垂直な方向における面積がノズル22と同じである部分である。当該位置以外の場所に素子23が配置されているとは、この領域の少なくとも一部に素子23の少なくとも一部がないことをいう。この場合、圧電素子や圧力室の設計の自由度が高い点で好ましい。
【0165】
インクジェットヘッド2に外部から圧力を付与してノズルからインク組成物を排出させる工程を行うことなく記録を1時間以上行うことが好ましい。ここで、外部から付与する圧力は、吸引(負圧)や、ヘッドの上流から正圧を付与することであり、ヘッド自身の機能によるインク排出(フラッシング)ではない。なお、外部から圧力を付与してインクを排出しない限り、記録は連続でなくてもよく、休止してもよい。この場合、記録の時間の累積時間が1時間以上である。上記記録時間は、好ましくは1~4時間であり、より好ましくは2~3時間である。このような、記録方法であれば、樹脂が比較的固着しやすい状態にあるため、本実施形態の効果をより発揮することができる。また、回の記録に際し、記録中に、インクジェットヘッド2に外部から圧力を付与してノズルからインク組成物を排出させる工程を行わないこととすることが好ましい。さらに、記録の前または後の少なくともいずれかに、インクジェットヘッド2に外部から圧力を付与してノズルからインク組成物を排出させる工程を行うこととすることも好ましい。上記の場合、記録速度を高速にでき、本実施形態の効果をより発揮し、吐出安定性を一層優れた点にできる点で好ましい。
【0166】
<後乾燥工程>
本実施形態に係る記録方法は、上記インク付着工程の後に、後乾燥手段により記録媒体を加熱する後乾燥工程を有していてもよい。後乾燥工程を二次乾燥工程ともいう。後乾燥工程における記録媒体の表面温度は、50~110℃が好ましい。これにより、記録媒体上のインク組成物に含まれる樹脂粒子が、溶解し、埋まり性の良い記録物を形成することができる。後乾燥工程における記録媒体の表面温度は、好ましくは55℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは55℃以上90℃以下であり、より好ましくは60℃以上80℃以下であり、特に好ましくは65~75℃以下である。後加熱工程における記録媒体の最高到達温度を上記範囲内にすることも好ましい。乾燥温度が前記範囲内であることにより、耐擦性がより向上する傾向にある。
【0167】
3.実施例
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下「%」は、特に記載のない限り、質量基準である。
【0168】
3.1 複合樹脂粒子の製造
<樹脂粒子1の製造例1>
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水
350g及び下表1に記載の界面活性剤0.25gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら70℃まで昇温した。内温を70℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム2gを添加し、溶解後、予めイオン交換水40g、下表1に記載の界面活性剤0.25g、メタクリル酸メチル79g、スチレン8g、アクリル酸ブチル11g、メタクリル酸1g、及びアクリルアミド1gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に3時間かけて滴下した(第1樹脂)。滴下終了後、1時間の熟成を行った。熟成終了後、予めイオン交換水80g、下表1に記載の界面活性剤0.25g、スチレン81g、メタクリル酸2-エチルヘキシル15g、メタクリル酸2g、及びアクリルアミド2gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した(第2樹脂)。滴下終了後、3時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と下表1に記載の中和剤とを添加して固形分30重量%、pH8に調整した。得られた粒子はコアシェル構造であった。
<樹脂粒子26の製造例2>
WO2019143341(A1)Example3を参考に調製した。
撹拌機、還流コンデンサー、滴下装置、及び温度計を備えた反応容器に、イオン交換水470g及びアクアロンAR-10(商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)0.22gを仕込み、攪拌下に窒素置換しながら77℃まで昇温した。内温を77℃に保ち、重合開始剤として過硫酸カリウム0.6gを添加し、溶解後、予めイオン交換水30g、アクアロンAR-10 1g、メタクリル酸メチル34.6g、アクリル酸ブチル64g、及びメタクリル酸1.4gを攪拌下に加えて作成した乳化物と、イオン交換水14gに過硫酸カリウム0.3を添加した溶解液を、それぞれ反応溶液内に連続的に6時間かけて滴下した(第1樹脂)。滴下終了後、1時間の熟成を行った。熟成終了後、予めイオン交換水85g、アクアロンAR-10 1.2g、メタクリル酸シクロヘキシル140.5g、アクリル酸シクロヘキシル19.8g、メタクリル酸2-フェノキシエチル28.3g、及びメタクリル酸8.1gを攪拌下に加えて作成した乳化物を、反応溶液内に連続的に4時間かけて滴下した(第2樹脂)。滴下終了後、1時間の熟成を行った。85℃まで昇温し、アクリル酸シクロヘキシルを3.3g添加後、1時間の熟成を行った。70℃まで冷却後、5%アスコルビン酸水溶液13g、5%tert-ブチルヒドロペルオキシド水溶液26gを添加後、1時間の熟成を行った。得られた水性エマルジョンを常温まで冷却した後、イオン交換水と水酸化カリウム水溶液を添加して固形分約30重量%、pH8に調整した。得られた粒子は海島構造であった。
【0169】
上記樹脂粒子1の製造例1を基本とし、用いた各モノマーの種類や質量並びに用いた界面活性剤や中和剤の種類を調整して、下表1の樹脂粒子2~20及び22~25の物性値等を有するコアシェル構造の樹脂粒子を製造した。上記樹脂粒子1の製造例1の第1樹脂を基本とし、下表1の樹脂粒子21の物性値等を有する単一構造の樹脂粒子を製造した。上記樹脂粒子26の製造例2を基本とし、用いた界面活性剤の質量を調製して下表1の樹脂粒子27の物性値等を有する海島構造の樹脂粒子を製造した。得られた複合樹脂粒子の各樹脂について、前述の様にしてガラス転移温度Tg(℃)をそれぞれ算出した。
各樹脂粒子の調製において使用したモノマーを表2に示す。
【0170】
また、上記で得られた複合樹脂粒子をNanotrac WAVE II(マイクロトラック・ベル社製)により測定して、複合樹脂粒子の平均粒子径(nm)を求めた。さらに、複合樹脂粒子における、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)、及び酸価については、上述の「1.インクジェットインク組成物」に記載の方法に従ってそれぞれ求めた。第2樹脂と第1樹脂の質量比は複合樹脂粒子の製造の際に用いたモノマーの質量から求めた。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
上表1について説明を補足する。
「樹脂質量比w1/w2」とは、第1樹脂と第2樹脂の質量比(第1樹脂/第2樹脂)を表す。
【0174】
<界面活性剤>
・界面活性剤a:アデカリアソープSR-10(商品名、株式会社ADEKA製、α-[2-[(アリルオキシ)-1-(アルキルオキシメチル)]エチル]-ω-ポリオキシエチレン硫酸エステルアンモニウム塩)、反応性界面活性剤
・界面活性剤b:ラウリル硫酸ナトリウム、非反応性界面活性剤
・界面活性剤c:アクアロンAR-10(商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化プロペニルフェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)、反応性界面活性剤
・界面活性剤d:アクアロンKH-10(以上商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)、反応性界面活性剤
・界面活性剤e:アクアロンKH-05(以上商品名、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩)、反応性界面活性剤
・界面活性剤f:ラテムルPD-104(商品名、花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム塩、反応性界面活性剤
【0175】
<中和剤>
・TEA:トリエタノールアミン
・NH3:アンモニア
・NaOH:水酸化ナトリウム
・KOH:水酸化カリウム
なお、表1の「NH3/NaOH」は、アンモニアと水酸化ナトリウムの併用(モル比1:1の混合溶液)を表す。
表2に記載した各樹脂粒子の調製において使用したモノマーを下記に示す。
【0176】
<第1及び第2樹脂>
・MMA:メタクリル酸メチル
・ST:スチレン
・BA:アクリル酸n-ブチル
・MAA:メタクリル酸
・AAM:アクリルアミド
・AN:アクリロニトリル
・2EHMA:メタクリル酸2-エチルヘキシル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・CHA:アクリル酸シクロヘキシル
・PHOEMA:メタクリル酸フェノキシエチル
【0177】
3.2 インクジェットインク組成物の調製
各材料を下表3~下表5に示す組成となるように混合し、十分に撹拌することにより、水系インクジェットインク組成物を得た。なお、下表中、数値の単位は質量%であり、合計は100質量%である。
【0178】
【表3】
【0179】
【表4】
【0180】
【表5】
【0181】
上表3~表5について説明を補足する。
【0182】
・CPL(ε-カプロラクタム、平均分子量113.16、常温単体で固体)
・2P(2-ピロリドン、平均分子量85.11、常温単体で液体)
・DMPA(3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、平均分子量131.18、常温単体で液体)
・PG(プロピレングリコール)
・1,2HD(1,2-ヘキサンジオール)
・1,3PD(1,3-プロパンジオール)
・HEP(N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン)
・BYK-348(ビックケミージャパン(株)社製、シリコーン系界面活性剤)
・AQUACER515(ビックケミージャパン(株)社製、ポリエチレン系ワックスエマルジョン)
【0183】
3.3 評価方法
<インクジェット記録方法>
記録装置として、プラテンヒーターと、図2に記載のインクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンター(商品名SC-R5050改造機、セイコーエプソン株式会社製)を用いた。記録装置のヘッドのノズル列(1ノズル列は400個ノズル、300npiノズル密度)の隣接する2ノズル列に上記で調製した各インクジェットインク組成物を充填し、Orajet 3165G-010(オラフォルジャパン(株)、塩ビフィルム)上に吐出し、縦1200dpi×横1200dpiの解像度で、走査回数が8回となるようにシアンベタパターンをインク付着量12mg/inchにて印字した。この印字中における、インクの付着を受ける場所の記録媒体の一次乾燥(乾燥工程)として、プラテンヒーターを、記録媒体の表面温度が40℃になるような設定で作動させた。また、硬化ヒーターを下表6に記載の二次乾燥温度の記録媒体の表面温度になるように設定し、二次乾燥(後乾燥工程)させた。なお、ベタパターンとは、後述するインク付着量となるように均一にインクを付着させたパターンを意味する。
【0184】
<耐擦性>
上記のとおりSC-R5050改造機にインクを充填して、記録媒体にベタパターン(インク付着量12mg/inch)を印刷した。30分室温放置後に、インク付着部を30×150mm矩形に切断し、水で湿らせた平織布を使用して学振式耐擦試験機(荷重500g)で50回擦った際のインクの剥がれ度合を目視観察し、以下の評価基準により評価した。C以上の評価であれば良好な耐擦性が得られているといえる。
(評価基準)
AA:剥がれ無し。
A:評価面積に対し2割未満の剥がれあり。
B:評価面積に対し5割未満の剥がれあり。
C:評価面積に対し5割以上8割未満の剥がれあり。
D:評価面積に対し8割以上の剥がれあり。
【0185】
<目詰まり回復性>
SC-R5050改造機にインクを充填した後、水で湿らせたベンコットでノズル面を叩いて意図的にノズル抜けを発生させた。この状態で、40℃15%環境で2時間空走させた。上記記録条件にて記録後、クリーニングを3回行い、未回復のノズル数をカウントし、以下の評価基準により評価した。1回のクリーニングは、ノズル群から1gのインクを排出させた。なお、ノズル群はノズル列二つで800個のノズルから構成される。B以上の評価であれば良好な目詰まり回復性が得られているといえる。
(評価基準)
AA:ノズル不吐出なし。
A:ノズル不吐出1%未満。
B:ノズル不吐出1%以上3%未満。
C:ノズル不吐出3%以上。
【0186】
<基材熱変形>
上記のとおりSC-R5050改造機にインクを充填して、記録媒体にベタパターン(インク付着量12mg/inch)を印刷した。得られた印刷物に対して目視で基材変形の有無を確認し、以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
A:記録媒体の変形は発生しない。
B:記録媒体の変形が発生するが、許容できる。
C:記録媒体の変形が発生し、許容できない。
【0187】
3.4 評価結果
評価結果を上表1及び下表6に示す。表1の評価結果は、表6の各例においてインクに含む樹脂粒子が異なること以外は組成が同じである実施例1~20、比較例1~7の評価結果の一部を記載したものである。
【0188】
【表6】
【0189】
評価の結果、色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、イ
ンク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、第1樹脂及び第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2であるインクジェットインク組成物である実施例は何れも、耐擦性と目詰まり回復性が共に優れていることが分かった。これに対し、そうではないインクジェットインク組成物である比較例は何れも、耐擦性と目詰まり回復性の何れかが劣っていた。
【0190】
詳細には、実施例1~20の結果より、種々の樹脂粒子において耐擦性と目詰まり回復性が共に優れていた。
なお、実施例1~6の結果より、第1樹脂と第2樹脂の質量比(第1樹脂/第2樹脂)が所定範囲内であると、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
実施例1、7~9の結果より、第1樹脂のδph1及び第2樹脂のδph2が所定範囲内であると、酸価が所定の範囲内であると、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
実施例1、10、11の結果より、樹脂粒子が反応性界面活性剤により分散されている場合、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
実施例1、12,13の結果より、樹脂粒子の体積平均粒子径が所定範囲内であると、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
実施例1、14~16の結果より、少なくとも有機アミンまたはアンモニアによって中和された樹脂粒子であると、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
実施例1、17~20の結果より、種々の反応性界面活性剤を用いた樹脂粒子において耐擦性と目詰まり回復性が優れていた。
【0191】
実施例1、21~24、27~29の結果より、水溶性低分子有機化合物の含有量がインクの総質量に対し所定量以下であり、水溶性低分子有機化合物の総質量に対し、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物が所定量以上であると、耐擦性と目詰まり回復性が特に優れていた。
【0192】
実施例1、25、26の結果より、種々の標準沸点が215~290℃のアミド類を用いて、耐擦性と目詰まり回復を優れたものとできた。
実施例21、22の結果から、後乾燥工程の温度が低い方が、基材熱変形抑制が優れた。このことから、後乾燥工程の温度が比較的低い場合でも、優れた耐擦性が得られる点で、本実施形態のインク組成物が優れていた。
なお表中には記載しなかったが、実施例21において、一次乾燥工程の記録媒体の表面温度を35℃としたこと以外は実施例21と同様にして行ったところ、目詰まり回復性がAであり、パターン中に画質劣化がやや見られた。このことから、一次乾燥工程の温度が比較的高い場合でも、優れた目詰まり回復性が得られる点で、本実施形態のインク組成物が優れていた。
【0193】
これに対して、比較例1~7では、複合樹脂粒子における第1樹脂のδph1や第2樹脂のδph2が所定範囲外であるため、耐擦性と目詰まり回復性の何れかが劣っていた。
なお、比較例4は第2樹脂のδph2が所定範囲超であるため、樹脂粒子の溶解が進んでしまい、目詰まり回復性が劣ったと推測する。比較例5は、第2樹脂のδph2が所定範囲未満であり、親水性が低すぎ、水中での分散安定性が劣り、目詰まり回復性が劣ったと推測する。
【0194】
比較例8~11では、標準沸点が215~290℃のアミド類の含有量が所定範囲外であるため、耐擦性と目詰まり回復性の少なくとも何れかが劣っていた。
【0195】
上述した実施形態から以下の内容が導き出される。
【0196】
インクジェットインク組成物の一態様は、
色材と、樹脂粒子と、水溶性低分子有機化合物と、を含有する水系のインクであって、
前記水溶性低分子有機化合物は、標準沸点が215~290℃のアミド類を、インク組成物の総質量に対し0.5~9.0質量%含み、
前記樹脂粒子は、アクリル系樹脂である第1樹脂及び第2樹脂からなる複合樹脂粒子であり、
前記第1樹脂及び前記第2樹脂は、ハンセン溶解度パラメーターの極性成分δpと水素結合成分δhの二乗平方根δph=√(δp+δh)が、前記第1樹脂のδph1が4.0~4.8MPa1/2であり、前記第2樹脂のδph2が2.6超3.7未満MPa1/2である。
【0197】
上記インクジェットインク組成物の一態様において、
前記複合樹脂粒子は、前記第1樹脂からなる相と前記第2樹脂からなる相とが分離した相分離構造を有し、前記第1樹脂からなる相が前記第2樹脂からなる相に内包されていてもよい。
【0198】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子は、前記第1樹脂と前記第2樹脂の質量比(第1樹脂/第2樹脂)が0.5~2であってもよい。
【0199】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記水溶性低分子有機化合物の含有量がインクの総質量に対し30質量%以下であり、前記水溶性低分子有機化合物の総質量に対し、標準沸点が210℃以下の水溶性低分子有機化合物が50質量%以上であってもよい。
【0200】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子は、反応性界面活性剤により分散された樹脂粒子であってもよい。
【0201】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記反応性界面活性剤は、アニオン性であってもよい。
【0202】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記反応性界面活性剤は、オキシアルキレン基を有していてもよい。
【0203】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子は、ソープフリー型樹脂粒子であってもよい。
【0204】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子は、体積平均粒子径が90~250nmであってもよい。
【0205】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子が、少なくとも有機アミンまたはアンモニアによって中和された樹脂粒子であってもよい。
【0206】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記複合樹脂粒子の酸価が5~35mgKOH/gであってもよい。
【0207】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記第1樹脂及び前記第2樹脂のガラス転移温度が60~95℃であってもよい。
【0208】
上記インクジェットインク組成物のいずれかの態様において、
前記インクジェットインク組成物が、前記樹脂粒子の分散剤ではない界面活性剤を1質量%以下含有してもよい。
【0209】
記録方法の一態様は、
上述のインクジェットインク組成物をインクジェットヘッドから吐出して記録媒体に付着させるインク付着工程を備えるものである。
【0210】
上記記録方法の一態様において、
前記インク付着工程の後に、前記記録媒体を50~110℃で加熱する後乾燥工程を有していてもよい。
【0211】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成、を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0212】
1…記録装置、2…インクジェットヘッド、3…IRヒーター、4…プラテンヒーター、5…硬化ヒーター、6…冷却ファン、7…プレヒーター、8…通気ファン、21…圧力室、22…ノズル、23…素子、24…樹脂の固着、25…出口
図1
図2