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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139543
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】音響診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01H 3/00 20060101AFI20241002BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20241002BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01M99/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050528
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文章
(72)【発明者】
【氏名】平手 利昌
(72)【発明者】
【氏名】上地 純平
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
【Fターム(参考)】
2G024AD03
2G024AD25
2G024BA27
2G024CA13
2G024DA09
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA15
2G064AA12
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064AB22
2G064CC02
2G064CC42
2G064CC54
2G064DD08
2G064DD15
(57)【要約】
【課題】容易に電動機の状態を診断可能な音響診断装置を提供する。
【解決手段】実施形態に係る音響診断装置は、取得部と、診断部と、を含む。取得部は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する。診断部は、診断対象データをオクターブ分析して複数の所定の周波数帯域ごとの診断対象データの音圧レベルを示す診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出する。診断部は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲における音圧レベルに基づいて診断対象の電動機の異常を診断する。判定バンド範囲は、複数の所定の周波数帯域のうちの一部である。判定バンド範囲は、第1オクターブバンドスペクトルと第2オクターブバンドスペクトルとの差に基づいて定められる範囲である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する取得部と、
前記診断対象データをオクターブ分析して複数の所定の周波数帯域ごとの前記診断対象データの音圧レベルを示す診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出し、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲における音圧レベルに基づいて前記診断対象の電動機の異常を診断する診断部と、
を備え、
前記判定バンド範囲は、前記複数の所定の周波数帯域のうちの一部であって、第1オクターブバンドスペクトルと第2オクターブバンドスペクトルとの差に基づいて定められる範囲であり、
前記第1オクターブバンドスペクトルは、第1電動機の回転音を録音した第1データをオクターブ分析して得られ、前記第1データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルであり、
前記第2オクターブバンドスペクトルは、前記第1電動機とは異なる第2電動機又は第1データの取得後にさらに運転された後の前記第1電動機の回転音を録音した第2データをオクターブ分析して得られ、前記第2データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである、音響診断装置。
【請求項2】
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における1つのオクターブバンドである、請求項1に記載の音響診断装置。
【請求項3】
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における複数のオクターブバンドである、請求項1に記載の音響診断装置。
【請求項4】
前記診断部は、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した判定値に基づいて、前記診断対象の電動機の異常を診断する、請求項1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。
【請求項5】
前記診断部は、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した値と、A特性補正後の前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した値と、の差を判定値とし、前記判定値に基づいて、前記診断対象の電動機の異常を診断する、請求項1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。
【請求項6】
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における前記複数の所定の周波数帯域のうち、前記診断対象の電動機の周囲からの音の音圧レベルが所定値以上である周波数帯域を含まない、請求項1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。
【請求項7】
前記診断部は、
オクターブ分析における前記複数の所定の周波数帯域のうち、前記判定バンド範囲とは異なる複数の周波数帯域を周囲バンド範囲とし、
前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記周囲バンド範囲における音圧レベルが所定の条件を満たす場合に、前記診断対象の電動機の異常の診断を実行する、請求項1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音響診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機の回転音に基づいて、電動機の状態を診断する音響診断装置がある。例えば、測定した回転音を解析することで、軸受の劣化など、電動機に異常が有ることを判定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2877901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、容易に電動機の状態を診断可能な音響診断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る音響診断装置は、取得部と、診断部と、を含む。前記取得部は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する。前記診断部は、前記診断対象データをオクターブ分析して複数の所定の周波数帯域ごとの前記診断対象データの音圧レベルを示す診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出する。前記診断部は、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲における音圧レベルに基づいて前記診断対象の電動機の異常を診断する。前記判定バンド範囲は、前記複数の所定の周波数帯域のうちの一部である。前記判定バンド範囲は、第1オクターブバンドスペクトルと第2オクターブバンドスペクトルとの差に基づいて定められる範囲である。前記第1オクターブバンドスペクトルは、第1電動機の回転音を録音した第1データをオクターブ分析して得られる。前記第1オクターブバンドスペクトルは、前記第1データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである。前記第2オクターブバンドスペクトルは、前記第1電動機とは異なる第2電動機又は第1データの取得後にさらに運転された後の前記第1電動機の回転音を録音した第2データをオクターブ分析して得られる。前記第2オクターブバンドスペクトルは、前記第2データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、実施形態に係る音響診断装置及び電動機を例示する模式図である。
図2図2は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図3図3は、診断対象の電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図4図4は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図5図5は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図6図6は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図7図7は、オクターブバンドレベルの合計値と判定閾値とを例示するグラフ図である。
図8図8は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図9図9は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図10図10は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図11図11は、オクターブバンドレベルの加算値を例示するグラフ図である。
図12図12は、電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図13図13は、電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図14図14は、オクターブバンドレベルの加算値を例示するグラフ図である。
図15図15は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
本願明細書と各図において、既に説明したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
図1は、実施形態に係る音響診断装置及び電動機を例示する模式図である。
図1では、実施形態に係る音響診断装置100を模式的なブロック図として表している。電動機200は、後述する第1電動機、第2電動機、及び診断対象の電動機の一例である。音響診断装置100は、例えば電動機200の状態を、電動機200の運転音に基づいて診断する装置である。
【0009】
電動機200は、例えばロータ21と回転軸22と軸受23とを有するモータなどの回転機器である。ロータ21は、回転軸22と共に回転する。軸受23は、回転軸22の端部に設けられたベアリングであり、回転軸22を回転可能に支持する。このような電動機200においては、運転時間の経過とともに構成部品が劣化するなど、異常が生じることがある。例えば軸受23は、ロータ21の回転により徐々に劣化し、劣化が進行すると異常振動や異常音を引き起こす。
【0010】
例えば、音響診断装置100は、取得部10と回路部15(診断部11、記憶部12)と出力部13と入力部14とを有する。音響診断装置100には、例えばスマートフォンまたはタブレット端末などの携帯端末を用いることができる。
【0011】
取得部10は、電動機200の回転音を録音したデータを取得する。具体的には、取得部10は、音響診断装置100の周囲の音による空気振動を電気信号である音響信号に変換するマイクロフォンである。または、取得部10は、マイクロフォンによって検出された信号を受信する端子やインターフェースであってもよい。取得部10は、回路部15と通信可能に構成されている。
【0012】
診断部11は、電動機200の回転音を録音したデータを取得部10又は記憶部12から取得する。診断部11は、回転音(回転音を録音したデータ)をオクターブ分析することにより、電動機200の異常を診断する。例えば、診断部11は、電動機200に異常が生じていることを判定する。具体的には、例えば診断部11は、CPU(Central Processing Unit)等を含む演算回路である。診断部11は、音響診断装置100の各機能を制御する制御部を含んでもよい。診断部11は、記憶部12に記憶されたプログラムを読み出して実行し、後述する各種動作をソフトウエアにより実現するように構成され得る。
【0013】
記憶部12は、電動機200の回転音を録音したデータや、診断部11によって実行されるプログラム、診断部11にて処理された後のデータなどを保存することができる。記憶部12は、例えばROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)といった記憶装置である。より具体的には、記憶部12は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み得る。記憶部12は、コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体を含んでいてもよい。
【0014】
出力部13及び入力部14は、回路部15と通信可能に構成されている。入力部14は、使用者が音響診断装置100を操作する操作信号や、各種パラメータ(例えば電動機200の仕様などの診断に用いる情報)を入力する入力手段である。具体的には入力部14は、タッチパネルなどのセンサである。入力部14は、マウスやキーボードなどのユーザインターフェースでもよい。出力部13は、診断結果等を出力可能な出力手段である。具体的には、出力部13は、タッチパネルなど、診断結果等を表示可能なディスプレイである。
【0015】
図2及び図3を参照して、電動機の異常の診断方法の一例を説明する。
図2は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図3は、診断対象の電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図2に表したように、音響診断装置100は、診断対象の電動機の回転音を録音する。すなわち、取得部10は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する(ステップS11)。
【0016】
診断部11は、ステップS11で取得した診断対象データを取得する。診断部11は、その診断対象データ(診断対象の電動機の回転音)をオクターブ分析して、診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出する(ステップS12)。オクターブ分析は、分析対象となる音の、所定の周波数帯域(オクターブバンドと呼ぶ)における音圧レベル(オクターブバンドレベルと呼ぶ)を算出する。
【0017】
図3は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの一例を表している。
横軸は、周波数(Hz)であり、縦軸は、音の強さを表す音圧レベル(dB)である。診断対象のオクターブバンドスペクトルは、複数の所定の周波数帯域(複数のオクターブバンド)ごとの、診断対象データの音圧レベルを表す。
【0018】
オクターブ分析は、定比幅分析である。オクターブバンドは、一定の比率の幅の周波数フィルタ(オクターブバンドフィルタ)によって分割された周波数帯域である。1つのオクターブバンドは、1つの中心周波数を含む周波数帯域である。複数のオクターブバンドのうち、隣り合うオクターブバンドの中心周波数の対数同士の間隔が略一定となる。
【0019】
オクターブバンドスペクトルは、各オクターブバンドにおけるオクターブバンドレベルを示すデータである。例えば図3のように、オクターブバンドスペクトルは、複数のオクターブバンドレベルを含むデータであり、各オクターブバンドレベルは、対応する1つのオクターブバンドにおける音圧レベルを示す。各オクターブバンドの中心周波数ごとに、オクターブバンドレベルがプロットされている。
【0020】
実施例においては、図3に表したように、1つのオクターブバンドの幅は、1/3オクターブとしており、オクターブ分析における複数のオクターブバンド(複数の所定の周波数帯域)は、中心周波数が4Hzのオクターブバンドから中心周波数が10000Hzのオクターブバンドまでの、連続した35のオクターブバンドとしている。ただし、実施形態はこれに限らず、オクターブ分析における1つのオクターブバンドの幅や、複数のオクターブバンドの範囲は、電動機の診断が可能な範囲で任意に選択してよい。例えば、オクターブ分析には、1/Nオクターブバンドフィルタを用いて、オクターブバンドの幅を1/Nオクターブとしてもよい。なお、Nは、1以上の整数である。
【0021】
1つのオクターブバンドにおけるオクターブバンドレベルは、音圧レベルの周波数スペクトルに対して、当該オクターブバンドを透過させるバンドパスフィルタ(オクターブバンドフィルタ)による演算によって得られる。オクターブバンドフィルタやオクターブ分析には、JIS(日本産業規格)で定められた規格を用いてよい。例えば、オクターブバンドフィルタは、JIS C 1514:2002、及び、JIS C 1513:2002において定められている。
【0022】
診断部11は、算出した診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲BRにおける音圧レベルに基づいて、診断対象の電動機の異常を診断する(図2のステップS13)。
【0023】
判定バンド範囲BRは、例えば図3に表したように、複数の所定の周波数帯域のうちの一部の範囲である。図3の例では、判定バンド範囲BRは、中心周波数が630Hzのオクターブバンドと、中心周波数が800Hzのオクターブバンドと、を合わせた範囲である。実施形態はこれに限らず、判定バンド範囲BRは、1つのオクターブバンドのみでもよいし、3以上の複数のオクターブバンドであってもよい。なお、判定バンド範囲BRは、後述するように、例えば電動機の回転音のオクターブ分析によって決定される範囲である。
【0024】
図2に示したステップS13においては、判定バンド範囲BRに含まれるオクターブバンドの音圧レベルの加算値を判定値とする。ある範囲における音圧レベルの加算値は、当該範囲に含まれる全てのオクターブバンドのオクターブバンドレベルを合計した値である。例えば、図3の例では、判定値は、中心周波数が630Hzのオクターブバンドのオクターブバンドレベルと、中心周波数が800Hzのオクターブバンドのオクターブバンドレベルと、の合計である。なお、判定バンド範囲BRが1つのオクターブバンドのみからなる場合、判定値(合計)とは、当該1つのオクターブバンドにおけるオクターブバンドレベルとする。
【0025】
診断部11は、この判定値に基づいて、診断対象の電動機の異常を診断する。具体的には、判定値が、所定の判定閾値以上である場合(ステップS13:YES)、診断部11は、診断対象の電動機に異常が有り、と判定する(ステップS14)。
【0026】
診断部11は、判定値が判定閾値よりも小さい場合(ステップS13:NO)、異常ありと判定しない。この場合、図2に表したように、診断部11は、ステップS11~S13の診断を再び繰り返してもよい。すなわち、診断部11は、診断対象データを再度取得し、再度取得した診断対象データに基づく判定値に基づいて、診断対象の電動機の異常を診断する。あるいは、判定値が判定閾値よりも小さい場合、診断部11は、異常なしと判定してもよい。このように、診断対象の電動機を継続運転しながら、ステップS11~ステップS13のように、回転音を録音して診断を繰り返してもよい。
【0027】
次に、図4及び図5を参照して、判定バンド範囲BR及び判定閾値の決定の一例について説明する。
図4は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図5は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
実施形態において、判定バンド範囲BRは、図5に表したような第1オクターブバンドスペクトルBS1と、第2オクターブバンドスペクトルBS2と、の比較によって定めることができる。
【0028】
図4に表したように、例えば取得部10は、第1電動機の回転音を録音した第1データを取得する(ステップS21)。診断部11は、第1データ(第1電動機の回転音)をオクターブ分析して、第1オクターブバンドスペクトルBS1を算出する(ステップS22)。第1オクターブバンドスペクトルBS1は、複数の所定の周波数帯域(複数のオクターブバンド)ごとの、第1データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである。
【0029】
また、図4に表したように、例えば取得部10は、第2電動機(又は運転後の第1電動機)の回転音を録音した第2データを取得する(ステップS23)。診断部11は、第2データ(第2電動機(又は運転後の第1電動機)の回転音)をオクターブ分析して、第2オクターブバンドスペクトルBS2を算出する(ステップS24)。第2オクターブバンドスペクトルBS2は、複数の所定の周波数帯域(複数のオクターブバンド)ごとの、第2データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである。
【0030】
なお、第1データを取得するときの第1電動機は、例えば初期状態であるとする。すなわち、例えば、第1データは、第1電動機の初期状態における回転音である。初期状態においては、第1電動機に劣化及び異常が生じていないとみなしてもよい。
例えば、回転音やスペクトルが音響診断装置100の記憶部12等に記憶されていない電動機を、初期状態であるとみなしてもよい。この場合、音響診断装置100において最初に録音された回転音のデータを、初期状態における回転音を録音したデータとてもよい。2回目以降に録音された回転音のデータは、初期状態のデータではないとしてもよい。
または、例えば、初期状態は、運転期間(例えば製造後の累積運転期間)が、所定の期間(初期期間)より短い状態である。この初期期間は、任意であるが、例えば電動機に劣化が生じない程度の期間である。
または、公知の方法で異常なし(劣化なし)と判定された電動機を、初期状態であるとみなしてもよい。電動機が初期状態であることを示す情報が、使用者によって音響診断装置100に入力可能であってもよい。
【0031】
第2電動機は、第1電動機とは異なる電動機である。例えば、第2電動機は、劣化又は異常が生じている電動機でよい。例えば、第2電動機は、公知の方法で異常有り(劣化有り)と判定された電動機を用いてもよい。第2電動機は、運転期間(例えば製造後の累積運転期間)が所定の期間(劣化期間)以上の電動機でもよい。この劣化期間は、任意であるが、例えば電動機に劣化が生じる程度の期間である。
【0032】
あるいは、第2データは、第1データの取得後にさらに運転された後の第1電動機の回転音を録音したデータであってもよい。例えば、第2データを取得するときの第1電動機は、初期状態ではない。第2データは、例えば第1データの取得後にさらに所定の期間以上運転後の第1電動機の回転音を録音したデータである。なお、所定の期間以上運転後の電動機とは、継続運転期間が当該所定の期間以上、または累積運転期間が当該所定の期間以上の電動機でよい。当該所定の期間は、上述の初期期間より長く、例えば電動機に劣化が生じる期間とすることができる。
【0033】
第1電動機及び第2電動機のそれぞれは、例えば診断対象の電動機とは異なる電動機でよい。あるいは、診断対象の電動機は、後述する図9の例のように、第1データ及び第2データの取得後に、さらに運転後の第1電動機であってもよい。すなわち、第1電動機は、診断対象の電動機であってもよい。
【0034】
例えば診断部11は、第1オクターブバンドスペクトルBS1と第2オクターブバンドスペクトルBS2との差に基づいて判定バンド範囲BRを決定する(ステップS25)。
【0035】
例えば、図5に表したように、オクターブ分析における複数のオクターブバンドのうち、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルと、第2オクターブバンドスペクトルのオクターブバンドレベルと、の差が所定の閾値よりも大きい、1又は複数のオクターブバンドを、判定バンド範囲BRとする。この所定の閾値は、任意であるが、例えば6dB以上とすることができる。
【0036】
図5の例においては、中心周波数が500Hzのオクターブバンドから、中心周波数が5000Hzのオクターブバンドまでの、連続した11のオクターブバンドにおいて、第2オクターブバンドスペクトルBS2のオクターブバンドレベルが、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルよりも大きい。中心周波数が500Hzのオクターブバンドから、中心周波数が5000Hzのオクターブバンドまでの範囲を、判定バンド範囲BRとすることができる。
【0037】
例えば、第1オクターブバンドスペクトルBS1の判定バンド範囲BRにおけるオクターブバンドレベルの合計(加算値)を基準値とする。異常診断に用いる判定閾値は、この基準値に基づいて定めることができる。例えば、判定閾値は、基準値よりも所定の第1値大きい値とする。この第1値は、任意であるが、例えば6dBであり、この例では10dBとする。
【0038】
あるいは、初期状態における診断対象の電動機の回転音を録音したデータ(初期データ)に基づいて、基準値を決定してもよい。すなわち、例えば、初期データをオクターブ分析した、初期状態のオクターブバンドスペクトルを算出する。初期状態のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲BRにおけるオクターブバンドレベルの合計を、基準値として判定閾値を定めてもよい。
【0039】
以上、実施形態に係る音響診断装置における、異常の診断の例を説明した。
ところで、従来は、聴感により異常音を検知し、その後に加速度センサによって異常振動を計測、解析することによって電動機の異常部位の診断を行う場合があった。また、例えば、軸受の劣化など電動機の状態を診断するには、運転時の振動や回転音を測定し、その波形の特徴パラメータを計算する方法や、波形の時系列データを周波数分析する方法が考えられる。振動加速度を測定して異常を判定する場合、振動全体の大きさを示すオーバーオールを計算し、これが判定閾値を超えたら、電動機に異常ありと判定する。あるいは、周波数スペクトルの特定周波数の振幅に着目して、これが判定閾値を超えたら、異常ありと判定する方法もある。
【0040】
しかし、回転音を測定して電動機の異常を判定する場合、話し声や作業音など回転音以外の音、いわゆるノイズが混入することが多く、回転音全体の大きさを示すオーバーオールでは異常判定が困難な場合がある。また、上記の様々な音が混合した回転音の場合、周波数毎に判定閾値を設けることは、複雑であり困難な場合がある。例えば、周囲の騒音が大きいと、正常な電動機の回転音の大きさと、軸受異常のある電動機の回転音の大きさと、の間に有意差を見出すことが困難な場合がある。例えば、周囲の騒音が大きい場合、回転音の周波数スペクトルにおいては、正常な電動機の振幅の方が軸受異常のある電動機の振幅よりも大きい周波数と、軸受異常のある電動機の振幅の方が正常な電動機の振幅よりも大きい周波数と、が混在し、周波数毎に判定閾値を設けることも容易ではない場合がある。このように、測定した回転音にノイズが混入すると、診断が困難となったり、診断の精度が低下したりすることが考えられる。
【0041】
これに対して、実施形態においては、第1オクターブバンドスペクトルBS1と第2オクターブバンドスペクトルBS2との比較により、オクターブ分析における複数のオクターブバンドのうちの一部を、判定バンド範囲BRとして設定する。判定バンド範囲BRにおける音圧レベルによって、診断対象の電動機の異常を診断する。これにより、例えば、電動機の異常を判定する閾値を容易に定義できる。例えば、回転音にノイズが含まれても電動機の異常を判定することができる。例えば、異常音が発生しやすい周波数帯域である判定バンド範囲BRの音圧レベルに着目して診断することで、劣化や異常が生じたときの音圧レベルの変化を見分けやすい。実施形態によれば、より容易に電動機の状態が診断可能となる。
【0042】
次に、図6及び図7を参照して、判定バンド範囲BR及び判定閾値の決定の別の例について説明する。
図6は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図6は、第1オクターブバンドスペクトルBS1及び第2オクターブバンドスペクトルBS2の別の例を表している。第1オクターブバンドスペクトルBS1は、第1電動機の初期状態における回転音のオクターブバンドスペクトルである。第2オクターブバンドスペクトルBS2は、第1データの取得後にさらに継続運転された後の、第1電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルである。
【0043】
この例では、複数のオクターブバンドは、第1バンド範囲BR1と、第2バンド範囲BR2と、を含む。第1バンド範囲BR1は、第2バンド範囲BR2とは、連続しない範囲である。例えば、第1バンド範囲BR1及び第2バンド範囲BR2は、それぞれ、第1オクターブバンドスペクトルBS1と第2オクターブバンドスペクトルBS2との差が所定の閾値よりも大きい範囲を含む範囲である。具体的には、第1バンド範囲BR1は、中心周波数が63Hzのオクターブバンドから中心周波数が250Hzのオクターブバンドまでの範囲である。第2バンド範囲BR2は、中心周波数が630Hzのオクターブバンドから中心周波数が1000Hzのオクターブバンドまでの範囲である。
【0044】
第1バンド範囲BR1に含まれる少なくとも一部のオクターブバンドにおいて、第2オクターブバンドスペクトルBS2のオクターブバンドレベルは、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルよりも大きい。この例では、中心周波数が80Hzから200Hzのオクターブバンドのそれぞれにおいて、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルと、第2オクターブバンドスペクトルBS2のオクターブバンドレベルと、の差は、所定の閾値よりも大きい。
【0045】
同様に、第2バンド範囲BR2に含まれる少なくとも一部のオクターブバンドにおいて、第2オクターブバンドスペクトルBS2のオクターブバンドレベルは、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルよりも大きい。この例では、中心周波数が630Hz及び800Hzのオクターブバンドのそれぞれにおいて、第1オクターブバンドスペクトルBS1のオクターブバンドレベルと、第2オクターブバンドスペクトルBS2のオクターブバンドレベルと、の差は、所定の閾値よりも大きい。
【0046】
この場合、判定バンド範囲BRは、第1バンド範囲BR1と、第2バンド範囲BR2と、を含む範囲としてもよい。このように、判定バンド範囲BRは、互いに連続しない、複数のバンド範囲を含んでもよい。この場合、図7及び図8に関して説明するように、複数のバンド範囲のそれぞれについて、判定閾値を定め、異常の診断を行ってもよい。
【0047】
図7は、オクターブバンドレベルの合計値と判定閾値とを例示するグラフ図である。
「初期状態1」は、第1オクターブバンドスペクトルBS1の第1バンド範囲BR1に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値である。
「継続運転1」は、第2オクターブバンドスペクトルBS2の第1バンド範囲BR1に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値である。
「初期状態2」は、第1オクターブバンドスペクトルBS1の第2バンド範囲BR2に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値である。
「継続運転2」は、第2オクターブバンドスペクトルBS2の第2バンド範囲BR2に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値である。
【0048】
例えば「初期状態1」の値を基準値として、第1判定閾値を定める。この例では、第1判定閾値は、「初期状態1」よりも10dB大きい値とされ、「継続運転1」よりも大きい。また、例えば「初期状態2」の値を基準値として、第2判定閾値を定める。この例では、第2判定閾値は、「初期状態2」よりも10dB大きい値とされ、「継続運転2」よりも大きい。
【0049】
図8は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
図8は、第1判定閾値及び第2判定閾値を用いた診断の例を表す。
取得部10は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する(ステップS31)。診断部11は、診断対象データをオクターブ分析して、診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出する(ステップS32)。
【0050】
診断対象のオクターブバンドスペクトルの第1バンド範囲BR1に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの合計(加算値)が、第1判定閾値以上の場合(ステップS33:YES)、診断部11は、第1バンド範囲において異常有り、と判定する(ステップS34)。この場合、診断部11は、電動機に異常有りと判定して、処理を終了してもよい。
【0051】
例えば、診断対象のオクターブバンドスペクトルの第1バンド範囲BR1に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの合計(加算値)が、第1判定閾値よりも小さい場合(ステップS33:NO)、ステップS35が実行される。
【0052】
診断対象のオクターブバンドスペクトルの第2バンド範囲BR2に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値が、第2判定閾値以上の場合(ステップS35:YES)、診断部11は、第2バンド範囲において異常あり、と判定する(ステップS36)。この場合、診断部11は、電動機に異常有りと判定して、処理を終了してもよい。
【0053】
例えば、診断対象のオクターブバンドスペクトルの第2バンド範囲BR2に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルの加算値が、第2判定閾値よりも小さい場合(ステップS35:NO)、再び診断対象データが取得され(ステップS31)、新たな診断対象データについて、ステップS32以降の処理が実行されてもよい。
【0054】
このように、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの音圧レベルに基づいて、複数のバンド範囲の少なくとも一部において、異常の診断を実行してもよい。すなわち、診断部11は、例えば、各バンド範囲において、診断対象のオクターブバンドスペクトルの音圧レベルに基づく判定値が所定の閾値以上の場合に、そのバンド範囲において異常ありと判定する。診断部11は、複数のバンド範囲の少なくともいずれかにおいて、または、複数のバンド範囲の全てにおいて、異常有りと判定した場合に、電動機に異常有りと判定する。
【0055】
なお、図7及び図8においては、複数のバンド範囲のそれぞれにおいて異常を判定したが、実施形態はこれに限らない。例えば、複数のバンド範囲のそれぞれにおける音圧レベルの加算値を合計することで、1つの判定値及び判定閾値を定めてもよい。この場合には、図2に関して説明したフローと同様に1つの判定値及び判定閾値を用いて、異常を診断することができる。すなわち、例えば、第1オクターブバンドスペクトルBS1において、第1バンド範囲BR1内の音圧レベルの加算値と、第2バンド範囲BR2内の音圧レベルの加算値と、の合計を基準値として、判定閾値を定める。そして、例えば、診断対象のオクターブバンドスペクトルにおいて、第1バンド範囲BR1内の音圧レベルの加算値と、第2バンド範囲BR2内の音圧レベルの加算値と、の合計を判定値とする。
【0056】
実施形態の具体的な実施例について、さらに説明を続ける。
図9は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
この例では、バンド範囲R異常の初期値、及び判定閾値T異常の初期値が設定される(ステップS61)。初期値は、記憶部12に保持されていても良いし、使用者が入力してもよい。初期値は、任意に設定することが可能であるが、例えば使用者の経験に基づいて定められる。
【0057】
ステップS62において、電動機の回転音を録音する。例えば、取得部10は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する。なお、この例では、診断対象の電動機は、上述の第1データ及び第2データを取得する電動機と同じとしている。
【0058】
ステップS62において録音した回転音信号(診断対象データ)をオクターブ分析して、オクターブバンドスペクトルSPEC(診断対象のオクターブバンドスペクトル)を得る(ステップS63)。
【0059】
診断対象の電動機が初期状態の場合(ステップS64:YES)、言い換えれば、例えば回転音が最初に録音された音である場合、オクターブバンドスペクトルSPECをオクターブバンドスペクトルSPEC初期として保持する(ステップS65)。そして、ステップS66の処理へ進む。
【0060】
一方、診断対象の電動機が初期状態ではない場合(ステップS64:NO)、言い換えれば、例えば回転音が2回目以降に録音された音である場合、ステップS67が実行される。バンド範囲R異常及び判定閾値T異常のそれぞれがステップS61で設定した初期値から更新されている場合(ステップS67:YES)、ステップS66の処理へ進む。
【0061】
バンド範囲R異常及び判定閾値T異常のそれぞれがステップS61で設定した初期値から更新されていない場合(ステップS67:NO)、ステップS68が実行される。
【0062】
オクターブバンドスペクトルSPECとオクターブバンドスペクトルSPEC初期とに差が認められる範囲が無い場合(ステップS68:NO)、すなわち差が所定の閾値以下の場合、ステップS66の処理へ進む。
【0063】
オクターブバンドスペクトルSPECとオクターブバンドスペクトルSPEC初期とに差が認められる範囲がある場合(ステップS68:YES)、すなわち差が所定の閾値よりも大きい場合、その範囲に基づいてバンド範囲R異常を更新する(ステップS69)。すなわち、例えば、診断対象の電動機の継続運転後の第2オクターブバンドスペクトルBS2(オクターブバンドスペクトルSPEC)と、診断対象の電動機の初期状態の第1オクターブバンドスペクトルBS1(オクターブバンドスペクトルSPEC初期)と、の差が閾値よりも大きい範囲を、新たな判定バンド範囲BR(バンド範囲R異常)として決定する。
【0064】
そして、オクターブバンドスペクトルSPEC初期において、更新されたバンド範囲R異常内のオクターブバンドレベルを加算して基準値ST異常を得る(ステップS70)。基準値ST異常に基づいて、判定閾値T異常を更新する(ステップS71)。そして、ステップS66の処理へ進む。
【0065】
ステップS66においては、オクターブバンドスペクトルSPECにおいてバンド範囲R異常内のオクターブバンドレベルを加算して判定値Aを得る。そして、判定値Aが、判定閾値T異常以上の場合(ステップS72:YES)に、診断対象の電動機に異常有りと判定する。判定値Aが、判定閾値T異常より小さい場合(ステップS72:NO)、再びステップS62からの処理が実行される。
【0066】
すなわち、バンド範囲R異常及び判定閾値T異常が初期値から更新されていない場合は、初期値のバンド範囲R異常及び判定閾値T異常に基づいて、異常の診断が行われる。一方、バンド範囲R異常及び判定閾値T異常が更新された場合は、更新された新たなバンド範囲R異常及び判定閾値T異常に基づいて、異常の診断が行われる。
【0067】
このように実施形態においては、異常の診断の途中において、音圧レベルに差がより生じやすい範囲に、バンド範囲R異常を変更してもよい。これにより、より容易に電動機の状態が診断可能となる。
【0068】
判定バンド範囲BRの別の例について説明する。
図10は、電動機のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
図10に表したオクターブバンドスペクトルBSa及びオクターブバンドスペクトルBSbは、それぞれ、診断対象のオクターブバンドスペクトルの例である。オクターブバンドスペクトルBSaは、診断対象データを録音するときの診断対象の電動機の周囲環境からの騒音が小さい場合(無い場合)である。オクターブバンドスペクトルBSbは、周囲環境からの騒音が大きい場合である。
【0069】
この例では、中心周波数が100Hz以下のオクターブバンドにおいて、オクターブバンドスペクトルBSaのオクターブバンドレベルと、オクターブバンドスペクトルBSbのオクターブバンドレベルと、に大きな差が生じている。そこで、例えば、判定バンド範囲BRを、中心周波数が125Hz以上のオクターブバンドを含み、中心周波数が100Hz以下のオクターブバンドを含まない範囲としてもよい。
【0070】
このように、判定バンド範囲BRは、オクターブ分析における複数の所定の周波数帯域(複数のオクターブバンド)のうち、診断対象の電動機の周囲からの音の音圧レベルが所定値以上である周波数帯域を含まないように決定してもよい。これにより、診断対象の電動機の周囲環境からの騒音の影響を抑制することができる。
【0071】
例えば、オクターブバンドスペクトルBSa及びオクターブバンドスペクトルBSbの一方は、電動機の初期状態における回転音を録音した第1データのオクターブバンドスペクトル(第1オクターブバンドスペクトル)でもよい。オクターブバンドスペクトルBSa及びオクターブバンドスペクトルBSbの他方は、第1データの取得後にさらに運転された後の当該電動機の回転音を録音した第2データのオクターブバンドスペクトル(第2オクターブバンドスペクトル)でもよい。この例では、第2データは、当該電動機の第1データの録音後の累計運転期間が所定期間(例えば1日程度)未満であるときの、回転音でもよい。判定バンド範囲BRは、オクターブバンドスペクトルBSaとオクターブバンドスペクトルBSbとの差が所定値以上となるオクターブバンドを含まないように設定してもよい。この所定値は、任意であるが、周囲環境からの騒音の影響を抑制できるように適宜定めるができ、例えば6dB以上とすることができる。
【0072】
または、例えば、回転音を録音する際に電動機を設置する設置位置の周囲からの環境音を、電動機を運転せずに事前に録音してもよい。当該環境音をオクターブ分析して、環境音のオクターブバンドスペクトルを得る。判定バンド範囲BRは、環境音のオクターブバンドスペクトルの音圧レベルが所定値以上であるオクターブバンドを含まない範囲としてもよい。この所定値は、任意であるが、周囲環境からの騒音の影響を抑制できるように適宜定めることができる。
【0073】
判定値及び判定閾値の別の例について説明する。
図11は、オクターブバンドレベルの加算値を例示するグラフ図である。
図11は、各電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルにおいて、中心周波数が20Hzのオクターブバンドから中心周波数が12500Hzのオクターブバンドまでの周波数範囲におけるオクターブバンドレベルの加算値(合計値)を表す。
【0074】
「正常A1」及び「正常B1」は、それぞれ、劣化又は異常が生じていない電動機におけるオクターブバンドレベルの加算値を表す。「正常A1」と「正常B1」とは、回転音を録音したときの電動機の周囲環境において異なる。「異常1」は、軸受に劣化又は異常が生じている電動機におけるオクターブバンドレベルの加算値を表す。
【0075】
「正常A2」は、「正常A1」を算出したオクターブバンドスペクトルをA特性補正した後のスペクトルにおける加算値である。同様に、「正常B2」は、「正常B1」を算出したオクターブバンドスペクトルをA特性補正した後のスペクトルにおける加算値である。「異常2」は、「異常1」を算出したオクターブバンドスペクトルをA特性補正した後のスペクトルにおける加算値である。
【0076】
電動機に劣化又は異常が生じていない場合には、A特性補正前のオクターブバンドレベルの加算値と、A特性補正後のオクターブバンドレベルの加算値と、の差が比較的大きい。一方、電動機に劣化又は異常が生じている場合には、特性補正前のオクターブバンドレベルの加算値と、A特性補正後のオクターブバンドレベルの加算値と、の差が比較的小さい。
【0077】
そこで、例えば、オクターブバンドレベルの加算値の、A特性補正の前後における差を用いて異常の診断を行ってもよい。例えば、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲BRにおける音圧レベルを合計した値と、A特性補正後の診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲BRにおける音圧レベルを合計した値と、の差を判定値とする。診断部11は、その判定値に基づいて、診断対象の電動機の異常を診断する。
【0078】
例えば、判定閾値は、第1電動機の初期状態における回転音のオクターブバンドスペクトル(初期バンドスペクトル)に基づいて定めることができる。例えば、初期スペクトルの判定バンド範囲におけるオクターブバンドレベルの加算値と、当該初期スペクトルのA特性補正後の判定バンド範囲におけるオクターブバンドレベルの加算値と、の差(初期補正差)に基づいて、判定閾値を定める。例えば、初期補正差よりも、任意の所定値(例えばd3dB以下程度)だけ小さい値を、判定閾値とする。診断部11は、上述の判定値と判定閾値との大小関係に基づいて、電動機の異常の診断を行う。診断部11は、例えば、判定値が判定閾値よりも小さい場合に、異常有りと判定する。なお、A特性補正は、JIS規格(例えばJIS C 1509)に基づいて実行される。例えば、A特性と呼ばれる周波数重み付けの補正値は、JIS C 1509-1:2017に記載されている。
【0079】
次に、回転音を録音するときの電動機の周囲環境からの音(ノイズとなる騒音)による、オクターブバンドスペクトルへの影響について説明する。
図12は、電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
オクターブバンドスペクトルBSc(1.5kW)は、第1正常高出力電動機の回転音をオクターブ分析したオクターブバンドスペクトルである。オクターブバンドスペクトルBSc(0.4kW)は、第1正常低出力電動機の回転音をオクターブ分析したオクターブバンドスペクトルである。オクターブバンドスペクトルBSc(1.5kW)を与える回転音を録音したときの第1正常高出力電動機の周囲環境は、オクターブバンドスペクトルBSc(0.4kW)を与える回転音を録音したときの第1正常低出力電動機の回転音を録音したときの周囲環境と等しい。なお、第1正常高出力電動機は、出力が1.5kWの、劣化及び異常が生じていない正常な電動機である。第1正常低出力電動機は、出力が0.4kWの、劣化及び異常が生じていない正常な電動機である。
【0080】
図13は、電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルを例示するグラフ図である。
オクターブバンドスペクトルBSd(1.5kW)は、第2正常高出力電動機の回転音をオクターブ分析したオクターブバンドスペクトルである。オクターブバンドスペクトルBSd(0.4kW)は、第2正常低出力電動機の回転音をオクターブ分析したオクターブバンドスペクトルである。オクターブバンドスペクトルBSd(1.5kW)を与える回転音を録音したときの第2正常高出力電動機の周囲環境は、オクターブバンドスペクトルBSd(0.4kW)を与える回転音を録音したときの第2正常低出力電動機の周囲環境と異なる。なお、第2正常高出力電動機は、出力が1.5kWの、劣化及び異常が生じていない正常な電動機である。第2正常低出力電動機は、出力が0.4kWの、劣化及び異常が生じていない正常な電動機である。
【0081】
周囲環境が等しい場合とは、例えば、ノイズとなる騒音のレベルが実質的に同じ場合をいい、周囲環境が異なるとは、騒音のレベルが異なることをいう。
【0082】
図12に示されたように、中心周波数が20Hzのオクターブバンドから中心周波数が100Hzのオクターブバンドまでの周波数帯域BRaにおいて、オクターブバンドスペクトルBSc(1.5kW)のオクターブバンドレベルと、オクターブバンドスペクトルBSc(0.4kW)のオクターブバンドレベルと、の差は、比較的小さい。
一方で、図13に示されたように、当該周波数帯域BRaにおいて、オクターブバンドスペクトルBSd(1.5kW)のオクターブバンドレベルと、オクターブバンドスペクトルBSd(0.4kW)のオクターブバンドレベルと、の差は、比較的大きい。
【0083】
図14は、オクターブバンドレベルの加算値を例示するグラフ図である。
図14は、各電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルにおいて、上述の周波数帯域BRaにおけるオクターブバンドレベルの加算値(合計値)を表す。
【0084】
「1.5kW正常c」は、図12に示したオクターブバンドスペクトルBSc(1.5kW)における加算値であり、79dBである。「0.4kW正常c」は、図12に示したオクターブバンドスペクトルBSc(0.4kW)における加算値であり、80dBである。「1.5kW正常d」は、図13に示したオクターブバンドスペクトルBSd(1.5kW)における加算値であり、68dBである。「0.4kW正常d」は、図13に示したオクターブバンドスペクトルBSd(0.4kW)における加算値であり、59dBである。
【0085】
このように、周囲環境が異なると、所定のバンド範囲のオクターブバンドレベルの加算値に差が現れるため、周囲環境が異なったことを判定できる。そこで、診断部11は、例えば診断対象の電動機の周囲環境の騒音の有無(大小)を判定してもよい。例えば、診断部11は、騒音が無い(小さい)場合に、異常の診断を実行する。
【0086】
例えば、診断部11は、オクターブ分析における複数の所定の周波数帯域(複数のオクターブバンド)のうち、一部の周波数帯域を、周囲バンド範囲BRSとして設定する。周囲バンド範囲BRSは、判定バンド範囲BRとは異なる周波数帯域である。例えば、図13のように、騒音の有無で加算値に差が生じる周波数帯域BRaを、周囲バンド範囲BRSとする。診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの、周囲バンド範囲BRSにおける音圧レベルに基づいて、診断対象の電動機の異常の診断を実行するか否か判定する。例えば、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの周囲バンド範囲BRSにおけるオクターブバンドレベルが所定の条件を満たす場合に、診断対象の電動機の異常の診断を実行する。これにより、例えば、周囲環境によって診断の精度が低下することを抑制できる。
【0087】
周囲の環境を判定し、電動機の異常を診断する例について説明する。
図15は、実施形態に係る音響診断装置の動作を例示するフローチャートである。
診断対象の電動機の運転開始後、診断部11は、オクターブバンドレベルを加算するバンド範囲R異常(判定バンド範囲BR)を定義する(ステップS81)。なお、この例では、診断対象の電動機とは異なる、第1電動機及び第2電動機の回転音から、バンド範囲R異常を予め定めてもよい。例えば、正常な第1電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルと、異常が生じた第2電動機の回転音のオクターブバンドスペクトルと、を比較して、バンド範囲R異常を定義してもよい。
【0088】
その後、取得部10は、診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する(ステップS82)。
診断部11は、ステップS82で取得された診断対象データをオクターブ分析して、オクターブバンドスペクトルSPEC(診断対象のオクターブバンドスペクトル)を得る(ステップS83)。
【0089】
その後、診断対象の電動機が初期状態でない場合(ステップS84:NO)、ステップS71が実行される。診断対象の電動機が初期状態の場合(ステップS84:YES)、オクターブバンドスペクトルSPECをオクターブバンドスペクトルSPEC初期として保持する(ステップS85)。
【0090】
そして、オクターブバンドスペクトルSPEC初期において、バンド範囲R異常内のオクターブバンドレベルを合計して基準値ST異常を得る(ステップS86)。基準値ST異常に基づいて判定閾値T異常を定義する(ステップS87)。
【0091】
さらに、診断部11は、複数のオクターブバンドのうちの一部であって、バンド範囲R異常以外の1又は複数のオクターブバンドを、バンド範囲R周囲(周囲バンド範囲BRS)として設定する(ステップS88)。
【0092】
診断部11は、オクターブバンドスペクトルSPEC初期の、バンド範囲R周囲に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルを合計した合計値(基準値ST周囲)を得る(ステップS89)。診断部11は、基準値ST周囲に基づいて判定閾値T周囲(周囲判定閾値)を定義する(ステップS90)。例えば、基準値ST周囲は、判定閾値T周囲よりも所定の値、大きい値とされる。この所定の値は、任意であるが、周囲の環境を判定できるように適宜定めればよい。その後、診断部11は、ステップS82からの処理を再び実行する。
【0093】
ステップS91において、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルSPECの、バンド範囲R周囲に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルを合計した合計値(判定値A周囲)を得る。そして、診断部11は、判定値A周囲が判定閾値T周囲以上の場合(ステップS92:YES)には、ステップS82からの処理を再び実行する。
【0094】
判定値A周囲が判定閾値T周囲未満の場合(ステップS92:NO)には、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルSPECの、バンド範囲R異常に含まれるオクターブバンドのオクターブバンドレベルを合計した合計値(判定値A異常)を得る(ステップS93)。
【0095】
診断部11は、判定値A異常が判定閾値T異常未満の場合(ステップS94:NO)には、ステップS82からの処理を再び実行する。判定値A異常が判定閾値T異常以上の場合(ステップS94:YES)、診断部11は、診断対象の電動機に異常有り、と判定する。
【0096】
以上説明したように、診断部11は、診断対象のオクターブバンドスペクトルの周囲バンド範囲BRS(バンド範囲R周囲)における音圧レベルを合計した周囲判定値(判定値A周囲)が、所定の周囲判定閾値(判定閾値T周囲)未満の場合に、診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲(バンド範囲R異常)における音圧レベルに基づいて、診断対象の電動機の異常を診断する。
【0097】
一方で、診断部11は、周囲判定値が周囲判定閾値以上となるオクターブバンドスペクトルについては、診断対象の電動機の異常の診断を実行しない。つまり、診断部11は、ステップS92:YESの場合、ステップS93及びステップS94を実行しない。この場合には、診断部11は、再度、継続運転中の診断対象の電動機の回転音を取得し(ステップS82)、周囲環境の判定(ステップS91及びステップS92)を繰り返す。すなわち、診断部11は、周囲判定値が周囲判定閾値以上の場合には、診断対象データを再度取得し、再度取得した診断対象データに基づく周囲判定閾値に基づいて、診断対象の電動機の異常の診断を実行するか否かを判定する。
【0098】
図15の例では、診断部11は、診断対象の電動機の初期状態における回転音を録音した初期データをオクターブ分析して、初期状態のオクターブバンドスペクトルSPEC初期を算出する。初期状態のオクターブバンドスペクトルSPEC初期は、複数のオクターブバンドごとの初期データの音圧レベルを示す。そして、診断部11は、初期状態のオクターブバンドスペクトルSPEC初期の、周囲バンド範囲BRS(バンド範囲R周囲)の音圧レベルを合計した基準値ST周囲に基づいて、周囲判定閾値(判定閾値T周囲)を決定する。実施形態は、これに限らず、例えば、診断対象の電動機とは異なる第1電動機から得られた第1オクターブバンドスペクトルの周囲バンド範囲BRSに含まれるオクターブバンドの音圧レベルを合計して基準値を算出し、この基準値に基づいて周囲判定閾値を決定してもよい。
【0099】
なお、実施例において、各回転音を録音する際に各電動機は所定の負荷に接続された状態でよい。ただし、各回転音を録音する際に各電動機は負荷に接続しなくてもよい。各電動機には、互いに同じ品種の電動機(設計上同じ仕様の電動機)を用いてよい。
【0100】
また、実施形態は、上述の各フローチャートにおいて説明した音響診断方法を、コンピュータに実行させる音響診断プログラムであってもよい。音響診断装置100(診断部11等)は、音響診断プログラムに基づいて、上述の各処理を実行する。但し、実施形態に係る音響診断方法の一部又は全部は、プログラムを必要としないハードウェアの動作に基づいて実行してもよい。
また、プログラムは、上述の方法をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態(コンピュータに設けられた形態)に限ることなく、コンピュータに読み取り可能な記録媒体の形態であってもよい。記録媒体としては、例えば、CD-ROM(-R/-RW)、光磁気ディスク、HD(ハードディスク)、DVD-ROM(-R/-RW/-RAM)、FD(フレキシブルディスク)、フラッシュメモリ、これらに類する記録媒体、及び、その他各種ROM、RAM等を用いることができる。コンピュータまたは組み込みシステムが読み取り可能な記録媒体であれば、その記憶形式は何れの形態であってもよい。コンピュータは、この記録媒体からプログラムを読み込み、このプログラムに基づいてプログラムに記述されている指示をCPUで実行させれば、上述した実施形態と同様な動作を実現することができる。もちろん、コンピュータがプログラムを取得する場合または読み込む場合はネットワークを通じて取得または読み込んでもよい。
また、記録媒体からコンピュータや組み込みシステムにインストールされたプログラムの指示に基づきコンピュータ上で稼働しているOS(オペレーティングシステム)や、データベース管理ソフト、ネットワーク等で動作するMW(ミドルウェア)などが実施形態を実現するための各処理の一部を実行してもよい。
さらに、実施形態における記録媒体は、コンピュータあるいは組み込みシステムと独立した記録媒体に限らず、LANやインターネット等により伝達されたプログラムをダウンロードして記憶または一時記憶した記録媒体も含まれる。また、記録媒体は1つに限らず、複数の記録媒体から実施形態における処理が実行される場合も、実施形態における記録媒体に含まれる。記録媒体の構成は何れの構成であってもよい。
なお、実施形態におけるコンピュータまたは組み込みシステムは、記録媒体に記憶されたプログラムに基づき、実施形態における各処理を実行するためのものであって、パーソナルコンピュータ、マイクロコンピュータ等の1つからなる装置、あるいは、複数の装置がネットワーク接続されたシステム等の何れの構成であってもよい。
また、実施形態におけるコンピュータとは、パーソナルコンピュータに限らず、情報処理機器に含まれる演算処理装置、マイクロコンピュータ等も含み、プログラムによって実施形態における機能を実現することが可能な機器、装置を総称している。
【0101】
実施形態によれば、容易に電動機の状態を診断可能な音響診断装置が提供できる。
【0102】
実施形態は、以下の構成を含んでいてよい。
(構成1)
診断対象の電動機の回転音を録音した診断対象データを取得する取得部と、
前記診断対象データをオクターブ分析して複数の所定の周波数帯域ごとの前記診断対象データの音圧レベルを示す診断対象のオクターブバンドスペクトルを算出し、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの判定バンド範囲における音圧レベルに基づいて前記診断対象の電動機の異常を診断する診断部と、
を備え、
前記判定バンド範囲は、前記複数の所定の周波数帯域のうちの一部であって、第1オクターブバンドスペクトルと第2オクターブバンドスペクトルとの差に基づいて定められる範囲であり、
前記第1オクターブバンドスペクトルは、第1電動機の回転音を録音した第1データをオクターブ分析して得られ、前記第1データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルであり、
前記第2オクターブバンドスペクトルは、前記第1電動機とは異なる第2電動機又は第1データの取得後にさらに運転された後の前記第1電動機の回転音を録音した第2データをオクターブ分析して得られ、前記第2データの音圧レベルを示すオクターブバンドスペクトルである、音響診断装置。
(構成2)
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における1つのオクターブバンドである、構成1に記載の音響診断装置。
(構成3)
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における複数のオクターブバンドである、構成1に記載の音響診断装置。
(構成4)
前記診断部は、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した判定値に基づいて、前記診断対象の電動機の異常を診断する、構成1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。
(構成5)
前記診断部は、前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した値と、A特性補正後の前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記判定バンド範囲における音圧レベルを合計した値と、の差を判定値とし、前記判定値に基づいて、前記診断対象の電動機の異常を診断する、構成1~3のいずれか1つに記載の音響診断装置。
(構成6)
前記判定バンド範囲は、オクターブ分析における前記複数の所定の周波数帯域のうち、前記診断対象の電動機の周囲からの音の音圧レベルが所定値以上である周波数帯域を含まない、構成1~5いずれか1つに記載の音響診断装置。
(構成7)
前記診断部は、
オクターブ分析における前記複数の所定の周波数帯域のうち、前記判定バンド範囲とは異なる複数の周波数帯域を周囲バンド範囲とし、
前記診断対象のオクターブバンドスペクトルの前記周囲バンド範囲における音圧レベルが所定の条件を満たす場合に、前記診断対象の電動機の異常の診断を実行する、構成1~6のいずれか1つに記載の音響診断装置。
【0103】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:取得部
11:診断部
12:記憶部
13:出力部
14:入力部
15:回路部
21:ロータ
22:回転軸
23:軸受
100:音響診断装置
200:電動機
、A周囲、A異常:判定値
BR:判定バンド範囲
BR1:第1バンド範囲
BR2:第2バンド範囲
BRS:周囲バンド範囲
BRa:周波数帯域
BS1:第1オクターブバンドスペクトル
BS2:第2オクターブバンドスペクトル
BSa、BSb、BSc、BSd:オクターブバンドスペクトル
BSc(0.4kW)、BSc(1.5kW)、BSd(0.4kW)、BSd(1.5kW):オクターブバンドスペクトル
周囲、R異常:バンド範囲
S11~S14、S21~S25、S31~S36、S61~S74、S81~S94:ステップ
SPEC初期、SPEC:オクターブバンドスペクトル
ST異常、ST周囲:基準値
異常、T周囲:判定閾値
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