(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139548
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】遺伝子発現方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20241002BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241002BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241002BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241002BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241002BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241002BHJP
C12N 15/55 20060101ALI20241002BHJP
C12N 9/16 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C12P21/02 C
C12N15/63 Z ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/55
C12N9/16 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050539
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】保谷 典子
(72)【発明者】
【氏名】大西 徹
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA20
4B065AA26X
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】宿主細胞に目的遺伝子を導入して発現させた後に、不要になった目的遺伝子を宿主細胞から脱落させる動作を簡素化する。
【解決手段】遺伝子発現方法は、宿主細胞に導入して発現させるための目的遺伝子と、特定配列を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現可能に配置されており、特定配列が1つ以上導入された目的遺伝子導入プラスミドを用意し、目的遺伝子導入プラスミドで宿主細胞を形質転換し、宿主細胞を誘導性プロモーターが誘導される条件下で培養し、目的遺伝子およびエンドヌクレアーゼの遺伝子の発現と、エンドヌクレアーゼが特定配列を切断することによる目的遺伝子導入プラスミドの脱落と、を行わせる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子発現方法であって、
宿主細胞に導入して発現させるための目的遺伝子と、特定配列を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現可能に配置されており、前記特定配列が1つ以上導入された目的遺伝子導入プラスミドを用意し、
前記目的遺伝子導入プラスミドで宿主細胞を形質転換し、
形質転換された前記宿主細胞を、前記誘導性プロモーターが誘導される条件下で培養し、前記目的遺伝子および前記エンドヌクレアーゼの遺伝子の発現と、前記エンドヌクレアーゼの遺伝子から発現されたエンドヌクレアーゼが前記特定配列を切断することによる前記目的遺伝子導入プラスミドの脱落と、を行わせる
遺伝子発現方法。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、前記宿主細胞が備える核酸改変用の遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
【請求項3】
請求項2に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、相同組換え反応によって前記宿主細胞が備えるゲノムDNAを改変する酵素の遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
【請求項4】
請求項3に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、λレッドリコンビナーゼシステムをコードする遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
【請求項5】
請求項3に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、2つ以上の前記特定配列を有すると共に、2つの前記特定配列間において、前記宿主細胞のゲノムDNAに相同組換え可能な配列が挿入されたプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
【請求項6】
請求項1に記載の遺伝子発現方法であって、
前記エンドヌクレアーゼの遺伝子として、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の遺伝子発現方法であって、
前記同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターとして、単一の誘導性プロモーターを用いる
遺伝子発現方法。
【請求項8】
請求項7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として、原核細胞を用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
【請求項9】
請求項7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として真核細胞を用い、
前記単一の誘導性プロモーターとして、双方向プロモーターを用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記双方向プロモーターを間に挟んで前記双方向プロモーターの両側に配置されており、前記双方向プロモーターが誘導されたときに同時に発現可能となるように連結されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
【請求項10】
請求項7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として真核細胞を用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されると共に、前記単一の誘導性プロモーターに制御されて同時に転写されるようにリンカーによって互いに接続されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遺伝子発現方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、宿主細胞への遺伝子の導入に関する種々の技術が知られている。例えば、特許文献1には、線状ゲノム導入核酸断片を、相同組換えによって形質転換補助用プラスミドに組み入れて、このプラスミドを宿主に導入した後に、宿主細胞内において、上記線状ゲノム導入核酸断片が有する遺伝子をエンドヌクレアーゼによって形質転換補助用プラスミドから切り出し、切り出した遺伝子を相同組換えによって宿主ゲノムに組み入れる技術が開示されている。上記のように形質転換補助用プラスミドを用いることにより、線状ゲノム導入核酸断片の形質転換効率を高めることが可能になり、また、上記切り出した遺伝子を宿主ゲノムに組み入れることで、所望の遺伝子を安定して宿主細胞に導入することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1に記載の方法において、相同組換えによって所望の遺伝子を宿主ゲノムに組み入れる効率を高める方法としては、例えば、相同組換え反応を促進する酵素の遺伝子(リコンビナーゼ遺伝子)を有するプラスミドをさらに宿主細胞に導入して、宿主細胞内において上記リコンビナーゼ遺伝子を発現させる方法が考えられる。このような場合には、上記所望の遺伝子を宿主ゲノムに組み入れるための相同組換えを行う所望のタイミングで上記リコンビナーゼ遺伝子を発現させて、リコンビナーゼを機能させる必要がある。また、上記所望の遺伝子の相同組換えの終了後に、リコンビナーゼ遺伝子が引き続き発現していると、宿主細胞内で望ましくない組換え反応が進行する可能性があるため、このような不都合を抑えるために、上記所望の遺伝子の相同組換えの終了後には、リコンビナーゼ遺伝子の発現をオフ状態にする必要がある。例えば宿主細胞から上記リコンビナーゼ遺伝子を有するプラスミドを脱落させるならば、リコンビナーゼ遺伝子の発現を確実にオフ状態にできるが、上記プラスミドを脱落させるためには煩雑な操作が必要になり、採用し難い場合がある。そのため、リコンビナーゼ遺伝子を宿主細胞に導入する際に、所望のタイミングでの遺伝子発現と、導入したリコンビナーゼ遺伝子が不要になった後に宿主細胞から脱落させる動作とを、より簡便に行うことが望まれていた。このような課題は、上記のようにリコンビナーゼ遺伝子を宿主細胞に導入して発現させる場合に限らず、何らかの目的遺伝子を宿主細胞に導入して、所望のタイミングで一過的に発現させる場合に共通する課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、遺伝子発現方法が提供される。この遺伝子発現方法は、宿主細胞に導入して発現させるための目的遺伝子と、特定配列を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現可能に配置されており、前記特定配列が1つ以上導入された目的遺伝子導入プラスミドを用意し、前記目的遺伝子導入プラスミドで宿主細胞を形質転換し、形質転換された前記宿主細胞を、前記誘導性プロモーターが誘導される条件下で培養し、前記目的遺伝子および前記エンドヌクレアーゼの遺伝子の発現と、前記エンドヌクレアーゼの遺伝子から発現されたエンドヌクレアーゼが前記特定配列を切断することによる前記目的遺伝子導入プラスミドの脱落と、を行わせる。
この形態の遺伝子発現方法によれば、目的遺伝子導入プラスミドを宿主細胞に導入して誘導性プロモーターを誘導するという簡便な操作により、所望のタイミングで目的遺伝子を発現させると共に、その後、さらなる操作を要することなく目的遺伝子導入プラスミドを脱落させることができる。すなわち、目的遺伝子を発現させた後に、目的遺伝子導入プラスミドを自動的に脱落させて、目的遺伝子の発現をオフ状態にすることができる。
(2)上記形態の遺伝子発現方法において、前記目的遺伝子として、前記宿主細胞が備える核酸改変用の遺伝子を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、所望のタイミングが経過した後に目的遺伝子が発現し続けることを抑制できるため、核酸改変用の遺伝子である目的遺伝子がより長く発現することにより宿主細胞内で望ましくない反応が進行することを抑えることができる。
(3)上記形態の遺伝子発現方法において、前記目的遺伝子として、相同組換え反応によって前記宿主細胞が備えるゲノムDNAを改変する酵素の遺伝子を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、所望のタイミングが経過した後に目的遺伝子が発現し続けることを抑制できるため、相同組換え反応によって宿主細胞が備えるゲノムDNAを改変する酵素の遺伝子である目的遺伝子がより長く発現することにより宿主細胞内で望ましくない反応が進行することを抑えることができる。
(4)上記形態の遺伝子発現方法において、前記目的遺伝子として、λレッドリコンビナーゼシステムをコードする遺伝子を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、所望のタイミングが経過した後に目的遺伝子が発現し続けることを抑制できるため、λレッドリコンビナーゼシステムがより長く作用することにより宿主細胞内で望ましくない反応が進行することを抑えることができる。
(5)上記形態の遺伝子発現方法において、前記目的遺伝子導入プラスミドとして、2つ以上の前記特定配列を有すると共に、2つの前記特定配列間において、前記宿主細胞のゲノムDNAに相同組換え可能な配列が挿入されたプラスミドを用いることとしてもよい。このような構成とすれば、目的遺伝子導入プラスミドを宿主細胞に導入して誘導性プロモーターを誘導することにより、目的遺伝子およびエンドヌクレアーゼ遺伝子が発現され、その後、発現したエンドヌクレアーゼが特定配列を切断したときに、目的遺伝子導入プラスミドから、宿主細胞のゲノムDNAに相同組換え可能な配列が切り出される。そのため、宿主細胞のゲノムDNAと相同組換えさせるための配列を備えるベクターを別途用意して宿主細胞に導入する必要が無く、宿主細胞のゲノムDNAに相同組換えによって核酸配列を導入する際の操作を簡素化することができる。
(6)上記形態の遺伝子発現方法において、前記エンドヌクレアーゼの遺伝子として、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子を用いることとしてもよい。このような構成とすれば、ホーミングエンドヌクレアーゼに対応して選択した特定配列を目的遺伝子導入プラスミドに設けておくことにより、目的遺伝子が発現して作用した後に目的遺伝子導入プラスミドを脱落させる操作を容易に行うことができる。
(7)上記形態の遺伝子発現方法において、前記同時に発現を誘導する誘導性プロモーターとして、単一の誘導性プロモーターを用いることとしてもよい。このような構成とすれば、目的遺伝子導入プラスミドの構成をより簡素化して、目的遺伝子とエンドヌクレアーゼ遺伝子との発現を同時に誘導することができる。
(8)上記形態の遺伝子発現方法において、前記宿主細胞として、原核細胞を用い、前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されているプラスミドを用いることとしてもよい。このような構成とすれば、誘導性プロモーターと目的遺伝子とエンドヌクレアーゼ遺伝子とがオペロンとして機能して、目的遺伝子およびエンドヌクレアーゼ遺伝子は、誘導性プロモーターの誘導によって共にmRNAに転写されて同じタイミングで発現することができる。
(9)上記形態の遺伝子発現方法において、前記宿主細胞として真核細胞を用い、前記単一の誘導性プロモーターとして、双方向プロモーターを用い、前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記双方向プロモーターを間に挟んで前記双方向プロモーターの両側に配置されており、前記双方向プロモーターが誘導されたときに同時に発現可能となるように連結されているプラスミドを用いることとしてもよい。このような構成とすれば、誘導性プロモーターの誘導によって、目的遺伝子とエンドヌクレアーゼ遺伝子とが同じタイミングで転写されて発現することができる。
(10)上記形態の遺伝子発現方法において、前記宿主細胞として真核細胞を用い、前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されると共に、前記単一の誘導性プロモーターに制御されて同時に転写されるようにリンカーによって互いに接続されているプラスミドを用いることとしてもよい。このような構成とすれば、誘導性プロモーターの誘導によって、目的遺伝子とエンドヌクレアーゼ遺伝子とが同じタイミングで転写されて発現することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、遺伝子発現方法を実行するために用いるプラスミドや、一過的に発現させる遺伝子の脱落方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図。
【
図2】目的遺伝子導入プラスミドの概略構成を表す説明図。
【
図3】従来知られる遺伝子発現方法の一例を示す説明図。
【
図4】目的遺伝子導入プラスミドの概略構成を表す説明図。
【
図5】第3実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図。
【
図6】目的遺伝子導入プラスミドの概略構成を表す説明図。
【
図7】第4実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図。
【
図8】従来知られる遺伝子発現方法の一例を示す説明図。
【
図9】大腸菌ゲノム相同組換え用プラスミドの概略構成を示す説明図。
【
図10A】DNA断片のクローニングのために用いたプライマーを示す説明図。
【
図10B】DNA断片のクローニングのために用いたプライマーを示す説明図。
【
図11】酵母ゲノム部位特異的組換え用プラスミドの概略構成を示す説明図。
【
図12A】DNA断片のクローニングのために用いたプライマーを示す説明図。
【
図12B】DNA断片のクローニングのために用いたプライマーを示す説明図。
【
図13】レベル0用のデスティネーションベクターを示す説明図。
【
図14】レベル1用のデスティネーションベクターを示す説明図。
【
図15】切り出し配列等を酵母ゲノムに導入する様子を表す説明図。
【
図16】酵母ゲノムへの導入に用いたレベル1モジュールの構成を示す説明図。
【
図17】DNA断片のクローニングのために用いたプライマーを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図である。また、
図2は、上記遺伝子発現方法で用いる目的遺伝子導入プラスミド10の概略構成を表す説明図である。
【0008】
本実施形態の遺伝子発現方法では、まず、宿主細胞20に導入して発現させるための目的遺伝子12と、特定配列14を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子16とが、単一の誘導性プロモーター18の制御下で発現可能に配置されており、上記特定配列14が1つ以上導入された目的遺伝子導入プラスミド10を用意する(
図1(A)および
図2参照)。本実施形態の遺伝子発現方法は、目的遺伝子導入プラスミド10を宿主細胞20に導入することにより、宿主細胞20において、目的遺伝子導入プラスミド10が備える目的遺伝子12の発現を所望のタイミングで容易にオンオフ制御するものである。以下では、まず、
図2に示す目的遺伝子導入プラスミド10の構成について詳しく説明する。
【0009】
目的遺伝子12は、目的遺伝子導入プラスミド10を用いて宿主細胞20に導入して、所望のタイミングで発現のオンオフ制御を行って、一過的に発現させるための遺伝子である。目的遺伝子12は、例えば、「宿主細胞20が備える核酸改変用の遺伝子」とすることができる。「宿主細胞20が備える核酸改変用の遺伝子」は、例えば、「宿主細胞20が備えるゲノムDNAを改変する遺伝子」、「宿主細胞20が備えるプラスミドを改変する遺伝子」、あるいは、「宿主細胞20が備えるRNAを改変する遺伝子」とすることができる。
【0010】
「宿主細胞20が備えるゲノムDNAを改変する遺伝子」は、例えば、遺伝子組換え反応を促進する酵素の遺伝子とすることができる。具体的には、「相同組換え反応用の遺伝子」、「部位特異的組換え反応用の遺伝子」、あるいは、「ゲノム編集に関連する遺伝子」等を挙げることができる。
【0011】
「相同組換え反応用の遺伝子」は、ゲノムDNAに対するDNA配列の導入を促進する酵素の遺伝子であり、例えば、λファージ由来のλレッドリコンビナーゼシステムをコードする遺伝子、すなわち、exo、bet、gamによって構成される遺伝子とすることができる。あるいは、上記したλファージ由来のリコンビナーゼ遺伝子の相同遺伝子であって、同様の活性を示すリコンビナーゼの遺伝子(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 105, 1626, 2008)とすることができる。上記したλファージ由来のリコンビナーゼ遺伝子等は、大腸菌等の原核細胞において、「目的遺伝子10」として好適に用いられる。
図1では、一例として、目的遺伝子12として、「相同組換え反応用の遺伝子」を用いた場合の遺伝子発現方法について示している。
【0012】
「部位特異的組換え反応用遺伝子」は、ゲノムからのDNA配列の切り出し、または、ゲノムに対するDNA配列の導入を促進する酵素の遺伝子であり、原核細胞、真核細胞を問わず使用される「部位特異的組換え反応用遺伝子」として、以下のように種々のものを挙げることができる。例えば、CreリコンビナーゼとloxP配列とを用いるCre-loxP組換え系における部位特異的組換え反応のためのCre遺伝子とすることができる。また、Creリコンビナーゼを用いる系の他、例えば、Creリコンビナーゼと同様に双方向性チロシンサブファミリーに属するFLPリコンビナーゼ、Rリコンビナーゼ、Dreリコンビナーゼを用いる系も、同様に、種々の生物種を対象として広く用いることができる。また、双方向性チロシンサブファミリーに属するリコンビナーゼのうち、例えば、Dre、VCre、SCre、Vika、Nigriの各リコンビナーゼは、その遺伝子が、いずれもCreリコンビナーゼ遺伝子の相同遺伝子であり、標的配列は異なるものの、作用機構もCreリコンビナーゼとほぼ同じであることが知られている。このような、Creリコンビナーゼ遺伝子の相同遺伝子から得られるリコンビナーゼを用いる場合にも、Creリコンビナーゼを用いる場合と同様に、広い生物種において相同組換え効率を効果的に高めることができて望ましい(Xueying Tian et. al., JBC REVIEWS, 296, 100509, January, 2021)。「部位特異的組換え反応用遺伝子」としては、上記した種々のリコンビナーゼの遺伝子を用いることができる。
【0013】
「ゲノム編集に関連する遺伝子」としては、例えば、ZFN、TALEN、CRISPR-Cas9等のシステムを構成する遺伝子を挙げることができる。ゲノム編集技術は、ターゲット配列近傍のDNAを切断することで修復を活性化し、修復の際に変異を導入したり、ターゲット配列を介した相同組換えを促進したりする技術である。例えば代表的なCRISPR-Cas9のシステムは、標的とするDNA配列と相補的な配列を持つガイドRNA(gRNA)と、DNA切断を行うタンパク質Cas9とにより構成されており、gRNAの転写、Cas9の遺伝子発現を誘導することで、ターゲット配列近傍のDNAを切断することが可能である。
【0014】
その他の「宿主細胞20が備えるゲノムDNAを改変する遺伝子」としては、例えば、トランスポゾンの切り出し酵素(トランスポゼース)の遺伝子とすることもできる。トランスポゼースを用いる場合には、トランスポゼースが認識可能な特異的逆位末端配列間のDNA配列で組換えを起こすことが可能である。また、既述したゲノム編集用のCas9等の酵素はヌクレアーゼの1種であるが、ゲノム編集用以外のヌクレアーゼ、例えば、DNAの片鎖のみ切断してニックを挿入するニッカーゼ、核酸の末端から順に切断する酵素であるエキソヌクレアーゼ、核酸の内部で核酸を切断する酵素であるエンドヌクレアーゼ(制限酵素を含む)等の遺伝子を、目的遺伝子12として用いてもよい。あるいは、2本鎖DNAやRNAの隣接する5'リン酸末端と3'ヒドロキシル末端とのホスホジエステル結合の形成を触媒するDNAリガーゼやRNAリガーゼの遺伝子を、目的遺伝子12として用いてもよい。
【0015】
目的遺伝子12は、上記したような「宿主細胞20が備える核酸改変用の遺伝子」に限定されることなく、さらに他の遺伝子とすることができ、本開示による遺伝子発現方法は、所望のタイミングで一過的に発現させたい種々の遺伝子に適用することができる。
【0016】
本実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10が備える特定配列14、および、この特定配列14を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子16は、特に限定されない。目的遺伝子導入プラスミド10を宿主細胞20に導入してエンドヌクレアーゼ遺伝子16を発現させたときに、発現したエンドヌクレアーゼが目的遺伝子導入プラスミド10を切断することができればよい。エンドヌクレアーゼ遺伝子16がコードするエンドヌクレアーゼとしては、例えば、制限酵素、ホーミングエンドヌクレアーゼ、Cas9ヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ(MN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)等を挙げることができる。ホーミングエンドヌクレアーゼは、イントロンにコードされたエンドヌクレアーゼ(I-という接頭語が付く)であってもよく、インテインに含まれるエンドヌクレアーゼ(PI-という接頭語が付く)であってもよい。ホーミングエンドヌクレアーゼとしては、より具体的にI-CeuI、I-SceI、I-OnuI、PI-PspIおよびPI-SceIを挙げることができる。ホーミングエンドヌクレアーゼは、一般に、制限酵素等に比べて認識配列の長さが長いため、その認識配列が宿主細胞のゲノム上に存在する確率が低く、目的遺伝子導入プラスミド10が備える特定配列14のみを特異的に切断できる可能性がより高く望ましい。なお、Cas9ヌクレアーゼや転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)等はホーミングエンドヌクレアーゼと同様に認識配列が比較的長いが、必要な構成要素がより複雑である。そのため、目的遺伝子導入プラスミド10のサイズを抑えて構成をコンパクト化する観点からも、ホーミングエンドヌクレアーゼが望ましい。
【0017】
特定配列14は、エンドヌクレアーゼ遺伝子16がコードするエンドヌクレアーゼに応じて、当該エンドヌクレアーゼが特異的に認識する配列として適宜設定すればよい。目的遺伝子導入プラスミド10には、1つ以上の特定配列14が導入されているが、
図2では、一例として1つの特定配列14を備える様子を示している。なお、本実施形態では、エンドヌクレアーゼが特異的に認識する特定配列14、および、エンドヌクレアーゼによる切断箇所は、目的遺伝子12、エンドヌクレアーゼ遺伝子16、および誘導性プロモーター18とは異なる箇所に配置されている。
【0018】
本実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10が備える誘導性プロモーター18は、特定の条件下で発現誘導する機能を有していればよく、特に制限されない。例えば、特定の物質の存在下で発現誘導するプロモーター、特定の温度条件で発現誘導するプロモーター、各種ストレスに応答して発現誘導するプロモーター、特定の光により発現誘導するプロモーター等を挙げることができる。用いる誘導性プロモーター18は、宿主細胞20の種類等に応じて、適宜選択すればよい。具体的には、誘導性プロモーター18としては、例えば、GALプロモーター(GAL1/GAL10プロモーター)などのガラクトース誘導性プロモーター、テトラサイクリンまたはその誘導体の添加または除去によって誘導するTet-on/Tet-offシステム系プロモーター、HSP10、HSP60、HSP90などの熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーター等を挙げることができる。また、誘導性プロモーター18としては、銅イオンの添加で活性化するCUP1プロモーターを用いることもできる。さらに、誘導性プロモーター18は、宿主細胞が大腸菌等の原核細胞である場合には、IPTGで誘導されるlacプロモーター、コールドショックで誘導されるcspAプロモーター、アラビノースで誘導されるaraBADプロモーター等を挙げることができる。
【0019】
本実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10では、既述したように、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とが、単一の誘導性プロモーター18の制御下で発現可能に配置されている。宿主細胞20として、大腸菌等の原核細胞を用いる場合には、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とは、
図2に示すように、単一の誘導性プロモーター18の下流において直列に配置すればよい。この場合には、誘導性プロモーター18と目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とはオペロンとして機能して、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とは、誘導性プロモーター18の誘導によって共にmRNAに転写されて発現する。本実施形態では、一般に発現量がより多くなる上流側にエンドヌクレアーゼ遺伝子16を配置しており、下流側に目的遺伝子12を配置しているが、逆の配置にすることも可能である。
【0020】
宿主細胞20として真核細胞を用いる場合には、例えば、誘導性プロモーター18を双方向プロモーターとして、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とを、上記双方向プロモーターを間に挟んで双方向プロモーターの両側に配置し、双方向プロモーターが誘導されたときに発現可能となるように連結することとすればよい。双方向プロモーターとしては、例えば、GALプロモーター(GAL1/GAL10プロモーター)を用いることができる。GALプロモーターは、出芽酵母の GAL1とGAL10との間に位置する配列であり、このプロモーターを用いることで、双方向に同時に2つの遺伝子の転写を誘導することができる。
【0021】
また、宿主細胞20として真核細胞を用いる場合には、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とは、リンカーによって接続することによって、単一の誘導性プロモーター18に制御されて同時に転写されることとしてもよい。このような発現システムはバイシストロニック発現と呼ばれ、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とを接続するリンカーとしては、例えば、配列内リボソーム進入部位(IRES)、あるいは、2Aペプチドを用いることができる。このようなリンカーを用いるならば、リンカーを挟んで上流側の遺伝子のORFから下流側の遺伝子のORFまで転写を一続きに行わせて、2つの遺伝子を同時に発現させることができる。
【0022】
本実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10は、さらに、マーカー遺伝子を含むこととしてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、薬剤耐性マーカー遺伝子や、栄養要求性マーカー遺伝子や、カウンターセレクションマーカー遺伝子を挙げることができる。このようなマーカー遺伝子を含むことで、目的遺伝子導入プラスミド10が導入された宿主細胞を効率的に選択することができる。
図2では、一例として、目的遺伝子導入プラスミド10がカウンターセレクションマーカー遺伝子を含む様子を示している。
【0023】
上記のような本実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10は、従来公知の入手可能な種々のプラスミドに基づいて作製することができる。このようなプラスミドとしては、例えばpRS413、pRS414、pRS415、pRS416、YCp50、pAUR112またはpAUR123などのYCp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pYES2またはYEp13などのYEp型大腸菌-酵母シャトルベクター、pRS403、pRS404、pRS405、pRS406、pAUR101またはpAUR135などのYIp型大腸菌-酵母シャトルベクター、大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119、pTV118N、pTV119N、pBluescript、pHSG298、pHSG396またはpTrc99AなどのColE系プラスミド、pACYC177またはpACYC184などのp15A系プラスミド、pMW118、pMW119、pMW218またはpMW219などのpSC101系プラスミド等)、アグロバクテリウム由来のプラスミド(例えばpBI101等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)などが挙げられる。
【0024】
本実施形態の遺伝子発現方法では、上記のような目的遺伝子導入プラスミド10を用意した後、
図1(A)に示すように、この目的遺伝子導入プラスミド10を用いて宿主細胞20を形質転換する。宿主細胞20としては、原核細胞および真核細胞のいずれを用いることとしてもよい。原核細胞としては、大腸菌や枯草菌等の細菌を挙げることができる。真核細胞としては、糸状菌や酵母等の真菌、植物細胞、および動物細胞を挙げることができる。
【0025】
宿主細胞20に目的遺伝子導入プラスミド10を導入する方法としては、特に限定されず、公知の種々の形質転換方法を採用することができる。例えば、塩化カルシウム法、コンピテントセル法、プロトプラストまたはスフェロプラスト法、電気パルス法等から適宜選択すればよい。
【0026】
図1では、本実施形態の遺伝子発現方法の一例として、λファージ由来のリコンビナーゼ遺伝子のような「相同組換え反応用の遺伝子」を、目的遺伝子12として用いる例を示している。そのため、
図1(A)では、目的遺伝子導入プラスミド10に加えて、さらに、宿主細胞20のゲノムDNA22に導入するためのゲノム導入配列42を備えるゲノム導入用ベクター40を、宿主細胞20に導入している。
【0027】
ゲノム導入用ベクター40が備えるゲノム導入配列42は、ゲノムDNA22に核酸断片を導入する目的に応じて適宜選択することができる。例えば、特定のタンパク質をコードする塩基配列、プロモーターやエンハンサーやターミネーター等の転写調節領域の塩基配列、転移RNA(tRNA)やリボソームRNA(rRNA)等をコードする塩基配列、マーカー遺伝子などの種々の塩基配列、あるいはこれらのうちの少なくとも一部を組み合わせた塩基配列によって構成されることとすればよい。
【0028】
また、ゲノム導入配列42の両端には、宿主細胞20のゲノムDNA22との間で相同組換えを行うための一対の相同配列が配置されている。この相同配列と、宿主細胞20のゲノムDNA22における組換え領域との間は、相同組換え可能な程度に高い配列相同性を有していればよい。上記相同配列と、ゲノムDNA22における組換え領域との間の配列相同性は、例えば、60%以上とすることができ、80%以上とすることが好ましく、90%以上とすることがより好ましく、95%以上とすることがさらに好ましい。また、上記一対の相同配列は、互いに同じ長さであってもよく、異なる長さであってもよい。これらの相同配列の長さは、例えば0.02kb以上とすることができ、0.05kb以上とすることが好ましい。また、上記相同配列の長さは、3kb以下とすることができ、2kb以下とすることが好ましい。上記したゲノム導入配列42は、例えば、特定のタンパク質をコードする場合には、上記した相同配列を利用した相同組換えによってゲノムに22に組み込まれたときに、宿主細胞20内で発現可能な状態で組み込まれることとすればよい。
【0029】
本実施形態の遺伝子発現方法では、
図1(A)に示すように目的遺伝子導入プラスミド10およびゲノム導入用ベクター40を宿主細胞20に導入すると、次に、目的遺伝子導入プラスミド10が備える誘導性プロモーター18が誘導される条件下で宿主細胞20を培養する(
図1(B))。これにより、目的遺伝子12が発現してリコンビナーゼ32が生じると共に、エンドヌクレアーゼ遺伝子16が発現してエンドヌクレアーゼ36が生じる。
【0030】
上記のようにリコンビナーゼ32が生じることにより、ゲノム導入用ベクター40が備えるゲノム導入配列42と、ゲノムDNA22との間の相同組換え反応が促進されて、ゲノム導入配列42がゲノムDNA22に組み込まれる。また、上記のようにエンドヌクレアーゼ36が生じることにより、エンドヌクレアーゼ36が、目的遺伝子導入プラスミド10の特定配列14を認識して目的遺伝子導入プラスミド10を切断する(
図1(C))。目的遺伝子導入プラスミド10は、エンドヌクレアーゼ36によって切断されることにより宿主細胞20から脱落する。そのため、目的遺伝子導入プラスミド10を有することなく、ゲノムDNA22にゲノム導入配列42が組み込まれた宿主細胞20が得られる(
図1(D))。
【0031】
以上のように構成された本実施形態の遺伝子発現方法によれば、目的遺伝子12とエンドヌクレアーゼ遺伝子16とが単一の誘導性プロモーター18の制御下で発現可能に配置されると共に特定配列14が導入された目的遺伝子導入プラスミド10を、宿主細胞20に導入し、誘導性プロモーター18が誘導される条件下で宿主細胞20を培養する。そして、目的遺伝子12およびエンドヌクレアーゼ遺伝子16の発現と、発現されたエンドヌクレアーゼ36が特定配列14を切断することによる目的遺伝子導入プラスミド10の宿主細胞20からの脱落と、を行わせている。そのため、目的遺伝子導入プラスミド10を宿主細胞20に導入して誘導性プロモーター18を誘導するという簡便な操作により、所望のタイミングで目的遺伝子12を発現させると共に、その後、さらなる操作を要することなく目的遺伝子導入プラスミド10を脱落させて、目的遺伝子の発現をオフ状態にすることができる。
【0032】
図3は、従来知られる遺伝子発現方法の一例として、本実施形態の遺伝子発現方法とは異なり、目的遺伝子導入プラスミド10に代えて目的遺伝子導入プラスミド44を用いる例を示す説明図である。目的遺伝子導入プラスミド44は、エンドヌクレアーゼ遺伝子16を有していないこと以外は、
図2に示す目的遺伝子導入プラスミド10と同様の構成を有している。
図3に示す遺伝子発現方法では、目的遺伝子導入プラスミド44とゲノム導入用ベクター40とを宿主細胞20に導入し(
図3(A))、誘導性プロモーター18の誘導条件下で宿主細胞20を培養すると、目的遺伝子12が発現してリコンビナーゼ32が生じる(
図3(B))。その結果、ゲノム導入用ベクター40が備えるゲノム導入配列42と、ゲノムDNA22との間の相同組換え反応が促進されて、ゲノム導入配列42がゲノムDNA22に組み込まれる(
図3(C))。しかしながら、上記相同組換え反応が終了した後にも、目的遺伝子導入プラスミド44が宿主細胞20内に残存する(
図3(D))。そのため、残存する目的遺伝子導入プラスミド44が備える目的遺伝子12がさらに発現して宿主細胞20内で望ましくない反応が進行することを抑えるためには、所望の相同組換え反応の終了後には目的遺伝子導入プラスミド44を脱落させることが望まれる。しかしながら、そのためには、例えばカウンターセレクションやエンドヌクレアーゼによる目的遺伝子導入プラスミド44の切断等を行う必要があり、遺伝子発現方法全体の操作が煩雑化する。これに対して本実施形態の遺伝子発現方法によれば、目的遺伝子導入プラスミド44の脱落のためのさらなる操作が不要になり、遺伝子発現方法全体の操作を簡素化することができる。
【0033】
上記のように、本実施形態の遺伝子発現方法は、目的遺伝子導入プラスミド10を宿主細胞20に導入して、誘導性プロモーター18を誘導するだけで、誘導性プロモーター18によって誘導される目的遺伝子12の発現をオン状態にすると共に、その後、さらなる操作を要することなく自動的にオフ状態にすることができる優れた方法である。従来知られる誘導性プロモーターは、一般に、制御対象遺伝子の発現をオン状態にすること、あるいはオフ状態にすることの一方しか制御できないものが多く、たとえ双方の制御が可能であっても、オン状態からオフ状態への移行の速度が遅く、いずれの誘導性プロモーターも、オン状態からオフ状態への自動的な切り替えができるものは知られていなかった。
【0034】
本実施形態の遺伝子発現方法のように、目的遺伝子導入プラスミド10を用いることで、宿主細胞20を誘導性プロモーター18の誘導条件下で培養するときには、エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12とが同時に転写されて翻訳される。そのため、目的遺伝子12が発現して得られる物質(リコンビナーゼ32)が機能するタイミングと、エンドヌクレアーゼ遺伝子16が発現して得られるエンドヌクレアーゼ36が機能するタイミングとが、ほぼ同時期となる。その結果、目的遺伝子12が発現して得られる物質が機能した後(リコンビナーゼ32による相同組換えが行われた後)、速やかに目的遺伝子導入プラスミド10が切断され、脱落することにより、目的遺伝子12の発現がオフ状態になる。
【0035】
本実施形態の遺伝子発現方法では、上記したように、目的遺伝子12が発現して得られる物質が機能した後に、比較的短い時間で目的遺伝子12の発現が比較的厳格にオフ状態に制御される。そのため、本実施形態の遺伝子発現方法は、目的遺伝子12として、望ましくないタイミングでの遺伝子発現により宿主細胞20で毒性が示される可能性のある遺伝子を用いる場合に、特に有用である。具体的には、例えば、目的遺伝子12が「宿主細胞20が備えるゲノムDNAを改変(修飾を含む)する遺伝子」である場合等であり、このような場合には、目的遺伝子12を含むプラスミドが宿主細胞20内に残存して目的遺伝子12が発現すると、生命の基本的活動であるタンパク発現や細胞分裂に悪影響を及ぼす可能性がある。本実施形態の遺伝子発現方法を用いることにより、不要になった目的遺伝子導入プラスミド10を速やかに自動的に除去できるため、簡便に上記不都合を抑えることができる。
【0036】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態の目的遺伝子導入プラスミド110の概略構成を表す説明図である。第2実施形態の目的遺伝子導入プラスミド110は
図1に示した第1実施形態の遺伝子発現方法において、目的遺伝子導入プラスミド10に代えて用いることができる。
【0037】
第1実施形態では、目的遺伝子12およびエンドヌクレアーゼ遺伝子16が単一の誘導性プロモーター18によって誘導されたが、異なる構成とすることができる。第2実施形態の目的遺伝子導入プラスミド110では、目的遺伝子12およびエンドヌクレアーゼ遺伝子16の各々を誘導するために、個別の誘導性プロモーターが設けられている。すなわち、目的遺伝子導入プラスミド110は、エンドヌクレアーゼ遺伝子16を誘導するための誘導性プロモーター18Aと、目的遺伝子12を誘導するための誘導性プロモーター18Bとを備えている。誘導性プロモーター18Aおよび18Bは、同時に発現を誘導するプロモーターであって、エンドヌクレアーゼ遺伝子16および目的遺伝子12を同時に発現させることができればよい。例えば、誘導性プロモーター18Aおよび18Bは、同一の誘導性プロモーターとすることができる。あるいは、誘導性プロモーター18Aおよび18Bは、一方が他方の相同配列である、あるいは、一方が他方に対して変位が入った配列とする等のように、同じ誘導性を示すが全く同じ配列ではない組み合わせとすることもできる。
【0038】
このように、目的遺伝子導入プラスミド110が、エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12との発現を同時に誘導する1以上の誘導性プロモーターを備えるならば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。例えば、目的遺伝子12が複数の遺伝子によって構成される場合には、目的遺伝子12を構成する遺伝子ごとに、同時に発現を誘導する個別の誘導性プロモーターを設けることとしてもよい。
【0039】
C.第3実施形態:
図5は、第3実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図である。また、
図6は、上記遺伝子発現方法で用いる目的遺伝子導入プラスミド210の概略構成を表す説明図である。第3実施形態では、第1実施形態と共通する構成要素には同じ参照番号を付している。
【0040】
第3実施形態の遺伝子発現方法では、第1実施形態の遺伝子発現方法で用いる目的遺伝子導入プラスミド10に代えて、目的遺伝子導入プラスミド210を用いている。目的遺伝子導入プラスミド210は、
図6に示すように、誘導性プロモーター18、エンドヌクレアーゼ遺伝子16、および目的遺伝子12を、目的遺伝子導入プラスミド10と同様にして備える。さらに目的遺伝子導入プラスミド210は、目的遺伝子導入プラスミド10における単一の特定配列14に代えて、特定配列14、相同配列46、ゲノム導入配列42、相同配列47、特定配列14の順で配置されている核酸配列を備える。ここで、ゲノム導入配列42は、第1実施例のゲノム導入配列42と同様に、宿主細胞20のゲノムDNA22に導入するための配列であり、相同配列46、47は、宿主細胞20のゲノムDNA22におけるゲノム導入配列42を導入すべき箇所の配列の相同配列であり、宿主細胞20にゲノム導入配列42を導入する際にゲノムDNA22との間で相同組換えを行うための配列である。すなわち、第3実施形態では、目的遺伝子導入プラスミド210として、2つの特定配列14を有すると共に、この2つの特定配列14間において、宿主細胞20のゲノムDNA22と相同組換え可能な配列が挿入されたプラスミドを用いている。なお、目的遺伝子導入プラスミド210は、さらに他の箇所に特定配列14を有していてもよく、上記した2つの特定配列14を含めて2つ以上の特定配列14を有していればよい。
【0041】
第3実施形態の遺伝子発現方法では、まず、目的遺伝子導入プラスミド210を宿主細胞20に形質転換し(
図5(A))、誘導性プロモーター18が誘導される条件下で宿主細胞20を培養する(
図5(B))。これにより、目的遺伝子12が発現してリコンビナーゼ32が生じると共に、エンドヌクレアーゼ遺伝子16が発現してエンドヌクレアーゼ36が生じる。
【0042】
上記のようにエンドヌクレアーゼ36が生じることにより、エンドヌクレアーゼ36が、目的遺伝子導入プラスミド210の一対の特定配列14を認識して目的遺伝子導入プラスミド210を2箇所で切断する(
図5(C))。第3実施形態では、
図6に示すように相同配列46、47およびゲノム導入配列42を含む配列を挟んで一対の特定配列14が配置されているため、エンドヌクレアーゼ36によって、相同配列46、47およびゲノム導入配列42を含む配列が目的遺伝子導入プラスミド210から切り出される。相同配列46、47およびゲノム導入配列42を含んで切り出される配列を、「組換え用配列48」とも呼ぶ(
図6参照)。また、上記のようにリコンビナーゼ32が生じることにより、目的遺伝子導入プラスミド210から切り出された組換え用配列48とゲノムDNA22との間の相同組換え反応が促進されて、ゲノム導入配列42がゲノムDNA22に組み込まれる。さらに、上記のようにエンドヌクレアーゼ36が目的遺伝子導入プラスミド210を切断することにより、目的遺伝子導入プラスミド210が宿主細胞20から脱落する。その結果、目的遺伝子導入プラスミド210を有することなく、ゲノムDNA22にゲノム導入配列42が組み込まれた宿主細胞20が得られる(
図5(D))。
【0043】
このような構成とする場合にも、第1実施形態と同様に、目的遺伝子導入プラスミド210を宿主細胞20に導入して誘導性プロモーター18を誘導するという簡便な操作により、所望のタイミングで目的遺伝子12を発現させると共に、その後、目的遺伝子導入プラスミド210を脱落させて、目的遺伝子12の発現をオフ状態にすることを、容易に行うことが可能になる。さらに、第3実施形態によれば、目的遺伝子導入プラスミド210が、目的遺伝子12に加えてさらにゲノム導入配列42を備えると共に、エンドヌクレアーゼ36が目的遺伝子導入プラスミド210を切断する際に、ゲノム導入配列42を備える組換え用配列48が切り出される。そのため、第1実施形態のようにゲノム導入用ベクター40を別途用意して宿主細胞20に形質転換する必要が無く、ゲノムDNA22に核酸断片を導入する操作全体を簡略化することができる。例えば、宿主細胞20として原核細胞を用い、目的遺伝子12としてλファージ由来のリコンビナーゼ遺伝子を用いる場合には、大腸菌におけるプラスミドの形質転換と同程度の簡便な操作(1回の形質転換)により、ゲノムDNAの相同組換えを行うことが可能になる。なお、
図6に示す第3実施形態の目的遺伝子導入プラスミド210は、第1実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10と同様に単一の誘導性プロモーター18を備えることとしたが、第2実施形態と同様に、エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12とが個別の誘導性プロモーターによって誘導されることとしてもよい。エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現するならば、同様の効果を得ることができる。
【0044】
D.第4実施形態:
図7は、第4実施形態の遺伝子発現方法を表す説明図である。第4実施形態では、第1実施形態と共通する構成要素には同じ参照番号を付している。
【0045】
図1および
図2に示した第1実施形態、および、
図5および
図6に示した第3実施形態では、目的遺伝子12としてリコンビナーゼ32を発現する遺伝子を用い、ゲノム導入配列42とゲノムDNA22との間で、相同配列を用いた相同組換えを行わせてゲノムDNA22にゲノム導入配列42を組み込んだ。これに対して第4実施形態の遺伝子発現方法では、目的遺伝子導入プラスミド10が備える目的遺伝子12として、部位特異的組換え反応を促進する酵素の遺伝子を用いて、宿主細胞20のゲノムDNA222から「切り出し配列242」を切り出している。一例として、
図7では、CreリコンビナーゼとloxP配列とを用いるCre-loxP組換え系における部位特異的組換え反応を示している。すなわち、ゲノムDNA222において、切り出し配列242の両端には、loxP配列が配置されている。また、
図2と同様の構成を有する目的遺伝子導入プラスミド10は、目的遺伝子12として、Creリコンビナーゼ遺伝子を備えている。
【0046】
このような第4実施形態では、宿主細胞20に目的遺伝子導入プラスミド10を形質転換し(
図7(A))、誘導性プロモーター18が誘導される条件下で宿主細胞20を培養することで、目的遺伝子12が発現してCreリコンビナーゼ232が生じると共に、エンドヌクレアーゼ遺伝子16が発現してエンドヌクレアーゼ36が生じる(
図7(B))。上記のようにCreリコンビナーゼ232が生じることにより、ゲノムDNA222で部位特異的組換え反応が進行して、切り出し配列242が切り出される。また、エンドヌクレアーゼ36が生じることにより、エンドヌクレアーゼ36が、目的遺伝子導入プラスミド10の特定配列14を認識して目的遺伝子導入プラスミド10を切断する(
図7(C))。その結果、目的遺伝子導入プラスミド10が脱落し、目的遺伝子導入プラスミド10を有することなく、ゲノムDNA222から切り出し配列242が切り出された宿主細胞20が得られる(
図7(D))。
【0047】
このような構成とする場合にも、第1実施形態と同様に、目的遺伝子導入プラスミド10を宿主細胞20に導入して誘導性プロモーター18を誘導するという簡便な操作により、所望のタイミングで目的遺伝子12を発現させると共に、その後、目的遺伝子導入プラスミド10を脱落させて、目的遺伝子12の発現をオフ状態にすることを、容易に行うことが可能になる。
【0048】
図8は、従来知られる遺伝子発現方法の一例として、第4実施形態の遺伝子発現方法とは異なり、目的遺伝子導入プラスミド10に代えて目的遺伝子導入プラスミド44を用いる例を示す説明図である。目的遺伝子導入プラスミド44は、エンドヌクレアーゼ遺伝子16を有していないこと以外は、第4実施形態の目的遺伝子導入プラスミド10と同様の構成を有している。
図8に示す遺伝子発現方法では、目的遺伝子導入プラスミド44を宿主細胞20に導入し(
図8(A))、誘導性プロモーター18の誘導条件下で宿主細胞20を培養すると、目的遺伝子12が発現してCreリコンビナーゼ232が生じる(
図88(B))。その結果、ゲノムDNA222で部位特異的組換え反応が進行して、切り出し配列242が切り出される(
図8(C))。しかしながら、上記部位特異的組換え反応が終了した後にも、目的遺伝子導入プラスミド44が宿主細胞20内に残存する(
図8(D))。そのため、残存する目的遺伝子導入プラスミド44が備える目的遺伝子12がさらに発現して宿主細胞20内で望ましくない反応が進行することを抑えるためには、所望の部位特異的組換え反応の終了後には目的遺伝子導入プラスミド44を脱落させることが望まれ、遺伝子発現方法全体の操作が煩雑化する。これに対して第4実施形態の遺伝子発現方法によれば、目的遺伝子導入プラスミド44の脱落のためのさらなる操作が不要になり、遺伝子発現方法全体の操作を簡素化することができる。
【0049】
なお、第4実施形態においても、
図2に示した構成を有する目的遺伝子導入プラスミド10に代えて、
図4に示した構成を有し、エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12とが個別の誘導性プロモーターの制御下で発現する目的遺伝子導入プラスミド110を用いてもよい。エンドヌクレアーゼ遺伝子16と目的遺伝子12とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現するならば、同様の効果を得ることができる。
【実施例0050】
以下では、本開示を実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。以下に説明する実施例では、
図5を用いて説明した遺伝子発現方法により、原核細胞である大腸菌(Escherichia coli)を宿主細胞20として、「相同組換え反応用の遺伝子」を導入して発現させた結果と、
図7を用いて説明した遺伝子発現方法により、真核細胞である出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を宿主細胞20として、「部位特異的組換え反応用遺伝子」を導入して発現させた結果と、を順に示す。
【0051】
<大腸菌ゲノム相同組換え用の目的遺伝子導入プラスミドの作製>
図9は、大腸菌ゲノム相同組換え用の目的遺伝子導入プラスミドの概略構成を示す説明図である。
図9に示す目的遺伝子導入プラスミドは、
図5の遺伝子発現方法を実施する際に目的遺伝子導入プラスミド210として用いるためのものである。
図9では、
図6に示す目的遺伝子導入プラスミド210が備える各部に対応する部分には同じ参照番号を付している。
図9に示す目的遺伝子導入プラスミドは、ゲノム導入配列42として、相同組換え選抜用のマーカーとして用いるスペクチノマイシン(Sp)耐性遺伝子(SpR)を備え、ゲノム導入配列42を挟んで配置される一対の相同配列46、47(大腸菌ゲノムにおける導入部位の相同配列)として、araA遺伝子およびaraB遺伝子の一部である50bpの配列を備え、さらに、上記相同配列46、47の外側に配置された一対の特定配列14として、I-SceIホーミングエンドヌクレアーゼの認識部位の配列を備える。
【0052】
目的遺伝子導入プラスミドは、さらに、アンヒドロテトラサイクリン(ATet)で発現が誘導されるTet-Onシステム(Microb Biotechnol 1, 2, 15-30, 2008)に必要なtetR遺伝子およびtetAプロモーター(誘導性プロモーター18)と、エンドヌクレアーゼ遺伝子16であるI-SceIと、目的遺伝子12であるλリコンビナーゼオペロン(gam、bet、exo)とを備えており、これらは誘導性の発現カセットを構成する。目的遺伝子導入プラスミドは、さらに、プラスミド保持確認用のマーカーとして用いるための赤色蛍光タンパク質であるmRFP1.1(RFP)遺伝子(Nat Biotechnol 12,1567, 2004) 、およびアンピシリン耐性遺伝子(AmpR)と、カウンターセレクション用のマーカーとして、4-クロロ-D,L-フェニルアラニン(4CP)存在下で細胞死を引き起こすPheS変異遺伝子(Biotechniques 58, 86, 2015)とを、備える。なお、I-SceIとλリコンビナーゼオペロンには、合成のターミネーター(Nat Methods. 10, 354-60, 2013)のBba_B1002 とBba_B1006とが融合されており、PheS変異遺伝子には、合成プロモーター(Anderson promoter collection. http://parts.igem.org./Promoters/Catalog/Anderson)のBBaJ23118と合成ターミネーターのBBa_B1004とが融合されており、RFP遺伝子にはlacプロモーターとλimm21ファージ由来のt0ターミネーターが融合されている。
【0053】
図10Aおよび
図10Bは、上記した目的遺伝子導入プラスミドの作製に必要なDNA断片のクローニングのために用いたプライマーをまとめて示す説明図であり、これらのプライマーを用いて、
図10Aおよび
図10Bに示す各「増幅DNA断片」をPCRにより増幅した。増幅のための鋳型としては、λファージゲノムDNA、pUC19プラスミドもしくは合成DNAを用いた。具体的には大腸菌K12株ゲノムを鋳型として、araA遺伝子のORFの先頭から50bpおよびaraB遺伝子配列のORF末端から50bpを増幅し、ラムダファージゲノムDNAを鋳型として、gam、bet、exo遺伝子を増幅し、pUC19プラスミドを鋳型として、pUC oriを増幅し、合成DNAを鋳型として、SpR(Sci Rep9,10131, 2019)、REP、I-SceI遺伝子(GenBank ID854590、コドンは大腸菌に最適化した)、Tet-Onシステムに必要なtetR遺伝子およびtetAプロモーターを増幅した。上記した各プライマーは、増幅して得た各DNA断片を結合するために、隣接DNA配列と15bp以上重複するようにDNA配列を付加して設計した。上記のようにして目的の各DNA断片を増幅し、NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit(New England Biolabs社製)等を用いて順次DNA断片を結合して、
図9に示す目的遺伝子導入プラスミドを作製した。
【0054】
<目的遺伝子の一過性発現とゲノム相同組換え反応>
市販の大腸菌(DH5α)コンピテントセルに上記目的遺伝子導入プラスミドを形質転換し、アンピシリン耐性を示す細胞を選抜して、プラスミド保持細胞を得た。形質転換されたプラスミド保持細胞は、スペクチノマイシン(Sp)100μg/ml、およびアンヒドロテトラサイクリン(ATet)50ng/mlを含むCIRCLEGROW培地(MP Biomedicals社製)で7時間液体培養して、I-SceI、およびgam、bet、exoの発現を誘導後、Sp、Atet、および4-クロロ-D,L-フェニルアラニン(4CP)を含むLB寒天培地(以下では、「選別用LB寒天培地」とも呼ぶ)で培養した。形質転換に用いたプラスミド上にはRFP遺伝子があることから、プラスミド保持細胞は、RFPの蛍光が検出可能である。一方、リコンビナーゼの作用によってゲノムDNAにインサート(ゲノム導入配列42:SpR)が導入された細胞であって、且つ、プラスミドが脱落した細胞は、Sp耐性を有し、且つ、RFP遺伝子を失っているため、上記「選別用LB寒天培地」で培養したときに白コロニーになる。そのため、上記「選別用LB寒天培地」に生育したコロニーのうちでプラスミドが脱落した白コロニーのみを、ゲノム相同組換え細胞としてカウントした。また、同時に、上記した発現誘導後の細胞を、通常のLB寒天培地でも培養し、培養した細胞総数をカウントした。なお、コロニーの色が白いことによってゲノム相同組換え細胞を判別する際に、カウンターセレクション用の選抜薬剤である4CPを培地に添加する目的は、より精度よくプラスミドを除去するためである。
【0055】
上記プラスミド保持細胞において上記発現の誘導を行った後のゲノム相同組換え効率、および、プラスミド保持率は、以下のようにして算出した。
ゲノム相同組換え効率=選別用LB寒天培地での白コロニー数/LB寒天培地のコロニー数
プラスミド保持率=選別用LB寒天培地での赤コロニー数/LB寒天培地のコロニー数
【0056】
上記のようにして算出した「ゲノム相同組換え効率」は、1.2×10
-4であった。また、選別用LB寒天培地で生育する赤コロニーは観察されなかったため、発現誘導後のプラスミド保持率は、1×10
-8未満であると考えられる。ここで、従来知られるゲノム相同組換えの方法によりゲノム相同組換えを行った例として、例えば、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 5978, 2000において、ゲノム相同組換え効率が1.0~0.1×10
-4程度であることが示されている。なお、上記の従来知られるゲノム相同組換えの方法は、
図3に示すように、相同組換えの後にプラスミドが宿主細胞内に残留する方法である。このように、本開示の遺伝子発現方法によれば、従来知られるゲノム相同組換えの方法と同程度あるいはそれ以上のゲノム相同組換え効率が実現可能であって、且つ、発現誘導後にプラスミドを自動で脱落させることができることが示された。
【0057】
また、上記の従来知られるゲノム相同組換えの方法では、相同組換えを行うλレッドリコンビナーゼシステムをコードする遺伝子の発現のために、本開示の遺伝子発現方法に比べて長時間の誘導を行っている。本開示の遺伝子発現方法は、相同組換えのための目的遺伝子12と共にエンドヌクレアーゼ遺伝子16が誘導され、発現したエンドヌクレアーゼが目的遺伝子導入プラスミド10を切断することによって比較的短時間のうちに目的遺伝子12の発現誘導が終了する。このように、本開示の遺伝子発現方法は、目的遺伝子12の一過性発現を行うものであるにもかかわらず、上記の従来知られるゲノム相同組換えの方法と同等以上のゲノム相同組換え効率が実現できた。誘導の後に短期間で誘導が終了する本開示のような一過性発現のシステムによって高い組換え効率が得られることは、従来の知見からは予想し得ないことであり、本開示の遺伝子発現方法は、このような顕著な効果を奏する新たなシステムであるということができる。
【0058】
なお、「選別用LB寒天培地」での白コロニー20クローンについて、ゲノム相同組換えが行われたことをPCRによって確認すると共に、アンピシリンの感受性を確認することにより、プラスミドが保持されているか否かをさらに確認した。その結果、全ての株において正しく相同組換えが行われ、プラスミドを脱落していることが確認できた。
【0059】
<酵母ゲノム部位特異的組換え用の目的遺伝子導入プラスミドの作製>
図11は、酵母ゲノム部位特異的組換え用の目的遺伝子導入プラスミドの概略構成を示す説明図である。
図11に示す目的遺伝子導入プラスミドは、
図7の遺伝子発現方法を実施する際に目的遺伝子導入プラスミド10として用いるためのものである。
図11では、
図2に示す目的遺伝子導入プラスミドが備える各部に対応する部分には同じ参照番号を付している。
図11に示す目的遺伝子導入プラスミドは、誘導性プロモーター18であるCre発現誘導型プロモーターとして、ガラクトースで発現が誘導されるGAL1/10プロモーターを備え、さらに、上記プロモーターに融合した遺伝子として、エンドヌクレアーゼ遺伝子16であるI-SceIホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子(SCEI)と、目的遺伝子12であるCre遺伝子と、を備える。GAL1/10プロモーターは双方向プロモーターであるため、GAL1/10プロモーターは、I-SceIホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子(SCEI)とCre遺伝子との間に配置されている。目的遺伝子導入プラスミドは、さらに、酵母用選抜用のマーカーとしてノーセオスリシン耐性遺伝子(natR)、大腸菌用プラスミド選抜マーカーとしてアンピシリン耐性遺伝子(AmpR)、緑色蛍光タンパク質であるAvicFP1(GFP)遺伝子(PLoS Biol 18, e3000936(2020)https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3000936)、酵母の自律複製開始配列であるCEN6、ARS4を備える。
【0060】
なお、Cre遺伝子には、CYC1ターミネーターおよびCDS(CoDing Sequence;タンパク質コード領域)が分割されるように、COX5Bのイントロンが融合されている。また、SCEI遺伝子には、CDC53ターミネーターおよびCDSが分割されるように、RPS25Aのイントロンが融合されている。また、GFP遺伝子には、CCW12プロモーターとRPS28Aターミネーターとが融合されており、natR遺伝子にはCYC1プロモーターとLEU2ターミネーターとが融合されている。また、
図11に示す目的遺伝子導入プラスミドは、特定配列14として、I-SceIホーミングエンドヌクレアーゼの認識断部位が1箇所含まれており、I-SceIホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子が発現すると、プラスミドが切断される。
【0061】
図12Aおよび
図12Bは、上記した目的遺伝子導入プラスミドの作製に必要なDNA断片のクローニングのために用いたプライマーをまとめて示す説明図であり、これらのプライマーを用いて、
図12Aおよび
図12Bに示す各「増幅DNA断片」をPCRにより増幅した。増幅のための鋳型としては、S. cerevisiae BY4742株ゲノムDNA、pUC19プラスミドもしくは合成DNAを用いた。具体的には、S. cerevisiae BY4742株ゲノムを鋳型として、CYC1ターミネーター、GAL1/10プロモーター、RPS25Aイントロン、CDC53ターミネーター、CCW12プロモーター、RPS28Aターミネーター、LEU2ターミネーター、およびCYC1プロモーターを増幅した。また、pUC19プラスミドを鋳型として、AmpR遺伝子および複製起点(ori)を増幅した。また、合成DNAを鋳型として、Cre遺伝子(GenBankID AB594821.1)、I-SceI遺伝子(GenBankID 854590、コドンは酵母ゲノムに最適化)、AvicFP1遺伝子(GenBankID QEQ56190.1)、CEN6とARS4(GenBankID U03441.1)、およびnatR遺伝子(GenBankID S60706.1)を増幅した。上記した各プライマーは、増幅して得た各DNA断片を結合するために、隣接DNA配列と15bp以上重複するようにDNA配列を付加して設計した。上記のようにして目的の各DNA断片を増幅し、NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合して、目的遺伝子導入プラスミドを作製した。
【0062】
<切り出し配列導入酵母の作製>
図11に示した目的遺伝子導入プラスミドを用いて
図7の遺伝子発現方法を実施するために、
図7に示した宿主細胞20として、一対のloxP配列に挟まれた切り出し配列242がゲノムDNAに導入された酵母(以下では「切り出し配列導入酵母」とも呼ぶ)を作製した。以下では、切り出し配列導入酵母の製造方法を順次説明する。
【0063】
(クローニング用ベクターの作製)
切り出し配列導入酵母であるCre/loxP導入酵母の製造のために、以下に説明する種々のクローニング用ベクターを作製した。これらのベクターはすべて、Golden Gate法(PLoS ONE 6, e16765, 2011)によって構築した。Golden Gate法は、Type IIS制限酵素およびT4DNAリガーゼを用いて、予め設計した順序で複数のDNA断片をベクターに挿入する、周知の遺伝子集積方法である。Golden Gate法に必要なサブクローニング用のベクターとして、レベル0用およびレベル1用のデスティネーションベクターに相当するベクターを作製した。以下では、レベル0用およびレベル1用のデスティネーションベクターの作製方法を順次説明する。
【0064】
図13は、レベル0用のデスティネーションベクターを示す説明図である。レベル0用のデスティネーションベクターは、
図13に示すように、BsaI認識部位を含むベクターである。レベル0用のデスティネーションベクターを作製する際には、pUC19や合成DNAを鋳型として、目的のDNA断片をPCRで増幅した。PCRで用いたプライマーは、各DNA断片を結合するため隣接DNA配列と15bp以上重複するようにDNA配列を付加されたものを、人工合成して利用した。増幅したPCR断片は、NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kitを用いて順次結合して、レベル0用のデスティネーションベクターを完成させた。
【0065】
図14は、レベル1用のデスティネーションベクターを示す説明図である。
図14に示すように、レベル1用のデスティネーションベクターは、複数種類のベクターのセットであり、各々のベクターは、蛍光タンパクのzFP538遺伝子(NatBiotechnol.17, 969-973, 1999)、および、これを挟んで配置される互いに逆向きのBsaI認識部位を備える。また、レベル1用のデスティネーションベクターの各々は、変異型のloxP配列(Plant J., 7, 649-659, 1995)、後述する配列α、β、および、Golden Gate反応に使用する制限酵素サイトと切断部位の有無や組み合わせや配置がそれぞれ異なっている。これらのレベル1用のデスティネーションベクターは、pUC19および合成DNA(カナマイシン耐性遺伝子も含む)を鋳型として、目的のDNA断片を増幅し、NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kitを用いて順次DNA断片を結合して作製した。ここで、上記した配列α、βは、PCRで増幅して得られた各増幅断片を所望の順序で結合するために、各増幅断片の末端に設けた57bpの相同配列である。配列α、βは、互いに配列の類似性が十分に低ければ、任意の配列を採用することができる。ここでは、酵母のゲノム配列との類似性が少ない人工的な配列を設定しており、配列α、βは、Microb Cell Fact 12, 47(2013)に記載された配列を用いた。
【0066】
(酵母用ベクターセットの作製)
図15は、既述したレベル0用のデスティネーションベクターおよびレベル1用のデスティネーションベクターを用いて作製したレベル1モジュールの相同組換えにより、一対のloxP配列に挟まれた切り出し配列242(
図7参照)を、酵母ゲノムのECM38遺伝子座に導入する様子を表す説明図である。切り出し配列242は、G418耐性遺伝子 (G418マーカー)とRFP遺伝子とを含む。
図15に示すように、酵母用に供試したベクターは、3断片セットで混合して形質転換することにより、それぞれの断片の相同領域(配列α、βのいずれか)間で組換えが起こり、最終的に1断片になって酵母ゲノムに導入されるように設計した。
図15では、酵母ゲノムに導入する1断片を得るための3断片セットを構成する各断片を、結合後の5’側からの順序で、レベル1モジュールA、レベル1モジュールB、レベル1モジュールCとして示している。
【0067】
図16は、
図15に示した酵母ゲノムへの導入に用いたレベル1モジュールの各々の構成を示す説明図である。すなわち、
図16では、レベル1モジュールの各々について、用いたレベル1用デスティネーションベクターの種類(
図14参照)、レベル0モジュールの種類、および、レベル0モジュールインサートの構成をまとめて示している。
図16においてレベル1モジュールV2P386はレベル1モジュールAに相当し、レベル1モジュールV2P694はレベル1モジュールBに相当し、レベル1モジュールV2P319はレベル1モジュールCに相当する。
【0068】
図17は、
図16に示した各レベル1モジュールの作製に必要なDNA断片のクローニングのために用いたプライマーをまとめて示す説明図であり、これらのプライマーを用いて、
図17に示す各「増幅DNA断片」をPCRにより増幅した。各レベル1モジュールを作製する際には、まず、酵母ゲノムと相同組換えを行うためのECM38のタンパク質をコードする領域(CDS)の一部の配列であって、ECM38のORFの最後から約900bpの配列とECM38のCDSの3'側下流300bpを、S. cerevisiae BY4742株ゲノム、または合成DNAを鋳型として、PCRにより増幅した。使用したプライマーは、
図17に示すとおりである。目的のDNA断片をNEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kitを用いて順次結合し、Golden Gate法のレベル0用デスティネーションベクターに相当するベクター(
図13)にサブクローニングし、得られたモジュールをレベル0モジュールのV1P69と命名した。このレベル0モジュールは、レベル1モジュールA(V2P386)を得るために用いるものである。
【0069】
また、ERG11プロモーターとURA3ターミネーターを融合したG418耐性遺伝子(GenBank ID HQ154040.1)(G418マーカー)、および、CCW12プロモーターとRPS28Aターミネーターを融合したRFP遺伝子を、レベル0用デスティネーションベクター(
図13)にサブクローニングし、得られたモジュールをレベル0モジュールのV1P1316と命名した。これは、レベル1モジュールB(V2P319)を得るために用いるものである。
【0070】
また、導入対象となる酵母ゲノムDNAにおけるECM38遺伝子のCDSの3'末端側301bpから、さらに約850bpの範囲の相同組換え領域を含むDNA断片を、レベル0用デスティネーションベクター(
図13)にサブクローニングし、得られたモジュールをレベル0モジュールのV1P70と命名した。このレベル0モジュールは、レベル1モジュールC(V2P319)を得るために用いるものである。
【0071】
上記した各レベル0モジュールのベクターは、
図16に記載された対応するレベル1用デスティネーションベクターとそれぞれGolden Gate 反応(制限酵素はBsaI)を行い、レベル1モジュールを作製した。得られたレベル1モジュールを3種類組み合わせて、酵母ゲノムへの導入に供した。
【0072】
(切り出し配列導入酵母の作製)
「切り出し配列導入酵母」作製用の3種類のレベル1モジュール(V2P386、V2P694、V2P319)から相同組換え用のDNA断片3種類を増幅し、Saccharomyces cerevisiae BY4742株の形質転換を行い、G418を含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。そして、想定通りの相同組換え(
図15参照)を起こした株(Uz4261)を、「切り出し配列導入酵母」としてPCRにて選抜した。なお、上記した切り出し配列導入酵母を得るための形質転換、および、この切り出し配列導入酵母に対して目的遺伝子導入プラスミドをさらに導入するための後述する形質転換は、Akadaらの方法 (BioTechniques 28, 854, 2000) に従って行った。
【0073】
<目的遺伝子の一過性発現と部位特異的組換え反応>
上記のようにして得られた「切り出し配列導入酵母」であるUz4261株に対して、既述した目的遺伝子導入プラスミドを形質転換した株(Uz4267)を作製した。次に、Uz4267株をYPGal(炭素源がガラクトース)寒天培地にシングルコロニーになる濃度でまき、Cre遺伝子(目的遺伝子12)とホーミングヌクレアーゼ遺伝子(エンドヌクレアーゼ遺伝子16)とを同時に誘導させた。
【0074】
上記の誘導により、Cre遺伝子(目的遺伝子12)が発現して酵母ゲノムにおいて部位特異的組換え反応が進行し、また、ホーミングヌクレアーゼ遺伝子(エンドヌクレアーゼ遺伝子16)が発現して目的遺伝子導入プラスミドが切断されることによって目的遺伝子導入プラスミドが脱落すると考えられる。このような反応が期待通りに進行すると、宿主細胞のゲノムDNAに組み込んだ「切り出し配列242」中のRFP遺伝子が失われると共に、目的遺伝子導入プラスミドが有するGFP遺伝子が失われるため、コロニーは白コロニーとなる。これに対して、宿主細胞のゲノムDNAとの間で部位特異的組換え反応が起こることなく目的遺伝子導入プラスミドの脱落のみが進行すると、宿主細胞はRFP遺伝子を保持するため、コロニーは赤コロニーとなる。また、目的遺伝子導入プラスミドの脱落が起こらなかった場合には、GFP遺伝子が発現することによりコロニーは緑コロニーとなる。
【0075】
このようなコロニーの表現型を確認したところ、全コロニーのうちで白コロニーの割合は78.5%であり、赤コロニーの割合は21.5%であった。緑コロニーは観察されなかったため、プラスミドが保持される割合は1%未満であると考えられる。このように、80%近い高い割合のコロニーにおいて、想定通りの反応、すなわち、部位特異的組換えとプラスミドの脱落が同時に起こっていることが確認された。
【0076】
なお、白コロニーの株について、G418感受性およびノーセオスリシン感受性を確認したところ、すべの白コロニーが、上記の感受性を示した。そのため、部位特異的組換え反応が行われ、且つ、プラスミドが脱落したことについての表現型による上記判定は、正確にできていると考えられる。
【0077】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0078】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
遺伝子発現方法であって、
宿主細胞に導入して発現させるための目的遺伝子と、特定配列を特異的に認識するエンドヌクレアーゼの遺伝子とが、同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターの制御下で発現可能に配置されており、前記特定配列が1つ以上導入された目的遺伝子導入プラスミドを用意し、
前記目的遺伝子導入プラスミドで宿主細胞を形質転換し、
形質転換された前記宿主細胞を、前記誘導性プロモーターが誘導される条件下で培養し、前記目的遺伝子および前記エンドヌクレアーゼの遺伝子の発現と、前記エンドヌクレアーゼの遺伝子から発現されたエンドヌクレアーゼが前記特定配列を切断することによる前記目的遺伝子導入プラスミドの脱落と、を行わせる
遺伝子発現方法。
[適用例2]
適用例1に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、前記宿主細胞が備える核酸改変用の遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
[適用例3]
適用例2に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、相同組換え反応によって前記宿主細胞が備えるゲノムDNAを改変する酵素の遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
[適用例4]
適用例3に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子として、λレッドリコンビナーゼシステムをコードする遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
[適用例5]
適用例3または4に記載の遺伝子発現方法であって、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、2つ以上の前記特定配列を有すると共に、2つの前記特定配列間において、前記宿主細胞のゲノムDNAに相同組換え可能な配列が挿入されたプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の遺伝子発現方法であって、
前記エンドヌクレアーゼの遺伝子として、ホーミングエンドヌクレアーゼ遺伝子を用いる
遺伝子発現方法。
[適用例7]
適用例1から6までのいずれか一項に記載の遺伝子発現方法であって、
前記同時に発現を誘導する1以上の誘導性プロモーターとして、単一の誘導性プロモーターを用いる
遺伝子発現方法。
[適用例8]
適用例7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として、原核細胞を用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
[適用例9]
適用例7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として真核細胞を用い、
前記単一の誘導性プロモーターとして、双方向プロモーターを用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記双方向プロモーターを間に挟んで前記双方向プロモーターの両側に配置されており、前記双方向プロモーターが誘導されたときに同時に発現可能となるように連結されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。
[適用例10]
適用例7に記載の遺伝子発現方法であって、
前記宿主細胞として真核細胞を用い、
前記目的遺伝子導入プラスミドとして、前記目的遺伝子と前記エンドヌクレアーゼの遺伝子とが、前記単一の誘導性プロモーターの下流において直列に配置されると共に、前記単一の誘導性プロモーターに制御されて同時に転写されるようにリンカーによって互いに接続されているプラスミドを用いる
遺伝子発現方法。