(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139552
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】船舶の制御システム、及び、船舶を制御するための方法
(51)【国際特許分類】
B63H 20/00 20060101AFI20241002BHJP
B63H 20/08 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B63H20/00 803
B63H20/08 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050543
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】井上 宏
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀彦
(57)【要約】
【課題】駆動源の負荷により船舶における不具合を早期に発見する。
【解決手段】制御システムは、船舶推進器と、負荷センサと、コンピュータとを備える。負荷センサは、船舶推進器の駆動源の負荷データを検出する。コンピュータは、船舶の不具合を判定するための判定ロジックを記憶している。コンピュータは、負荷データを取得する。コンピュータは、判定ロジックを参照して負荷データに基づいて船舶の不具合を判定する。判定ロジックは、異物付着判定ロジックと、プロペラマッチング判定ロジックと、着水判定ロジックとの少なくとも1つを含む。異物付着判定ロジックは、船舶への異物の付着を判定する。プロペラマッチング判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定する。ダンパ滑り判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定する。着水判定ロジックは、船舶の着水を判定する。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の制御システムであって、
駆動源を含み、前記船舶に取り付けられる船舶推進器と、
前記駆動源の負荷を示す負荷データを検出する負荷センサと、
前記船舶の不具合を判定するための判定ロジックを記憶しており、前記負荷データを取得し、前記判定ロジックを参照して前記負荷データに基づいて前記船舶の不具合を判定するコンピュータと、
を備え、
前記判定ロジックは、
前記船舶への異物の付着を判定する異物付着判定ロジックと、
前記船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定するプロペラマッチング判定ロジックと、
前記船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定するダンパ滑り判定ロジックと、
前記船舶の着水を判定する着水判定ロジックと、
の少なくとも1つを含む、
制御システム。
【請求項2】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記負荷センサは、
前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサと、
エンジン回転速度を検出するエンジン速度センサと、
を含み、
前記コンピュータは、
前記吸気圧と前記エンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得し、
前記吸気圧と前記エンジン回転速度とに基づいて、前記船舶の不具合を判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記コンピュータは、
前記船舶の初期状態における船速と前記駆動源の負荷との関係を示す初期負荷データを記憶しており、
前記船舶の船速を取得し、
前記異物付着判定ロジックにより、前記船舶の定常航行中に、前記駆動源の負荷が、前記船速に対する前記初期負荷データが示す負荷よりも所定値以上、高い場合に、前記船舶に異物が付着していると判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記船舶の積荷の重さを示す積荷データを取得し、
前記異物付着判定ロジックにより、前記積荷データを考慮して、前記船舶に異物が付着しているかを判定する、
請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記負荷センサは、
前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサと、
エンジン回転速度を検出するエンジン速度センサと、
を含み、
前記コンピュータは、
前記吸気圧と前記エンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得し、
前記プロペラマッチング判定ロジックにより、前記船舶の定常航行中に、前記吸気圧と前記エンジン回転速度とが所定範囲外である場合に、前記船舶推進器において前記プロペラがマッチングしていないと判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記負荷センサは、
前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧センサと、
エンジン回転速度を検出するエンジン速度センサと、
を含み、
前記コンピュータは、
前記吸気圧と前記エンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得し、
前記ダンパ滑り判定ロジックにより、前記吸気圧と前記エンジン回転速度に対して、前記負荷が、所定値以上、低下している場合に、前記船舶推進器においてプロペラダンパが滑っていると判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記エンジンの出力を制御するために操作されるスロットル操作部材をさらに備え、
前記負荷センサは、エンジン回転速度を検出するエンジン速度センサを含み、
前記コンピュータは、
前記エンジン回転速度と、前記スロットル操作部材の操作量とを、前記負荷データとして取得し、
前記着水判定ロジックにより、前記スロットル操作部材の操作量が一定にも関わらず、前記エンジン回転速度が、所定値以上、上昇した場合に、前記船舶が着水したと判定する、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項8】
船舶を制御するための方法であって、
前記船舶は、駆動源を有する船舶推進器を含み、
前記方法は、
前記駆動源の負荷を示す負荷データを取得することと、
前記船舶の不具合を判定するための判定ロジックを参照して、前記負荷データに基づいて前記船舶の不具合を判定することと、
を備え、
前記判定ロジックは、
前記船舶への異物の付着を判定する異物付着判定ロジックと、
前記船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定するプロペラマッチング判定ロジックと、
前記船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定するダンパ滑り判定ロジックと、
前記船舶の着水を判定する着水判定ロジックと、
の少なくとも1つを含む、
方法。
【請求項9】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記エンジンの吸気圧とエンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得することと、
前記吸気圧と前記エンジン回転速度とに基づいて、前記船舶の不具合を判定すること、
を備える、
請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記船舶の初期状態において、船速と前記駆動源の負荷との関係を示す初期負荷データを記録することと、
前記船舶の船速を取得することと、
前記異物付着判定ロジックにより、前記船舶の定常航行中に、前記駆動源の負荷が、前記船速に対する前記初期負荷データが示す負荷よりも所定値以上、高い場合に、前記船舶に異物が付着していると判定すること、
を備える請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記船舶の積荷の重さを示す積荷データを取得することと、
前記異物付着判定ロジックにより、前記積荷データを考慮して、前記船舶に異物が付着しているかを判定すること、
を備える請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記エンジンの吸気圧とエンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得することと、
前記プロペラマッチング判定ロジックにより、前記船舶の定常航行中に、前記吸気圧と前記エンジン回転速度とが所定範囲外である場合に、前記船舶推進器において前記プロペラがマッチングしていないと判定すること、
を備える請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記駆動源は、エンジンを含み、
前記エンジンの吸気圧とエンジン回転速度とを、前記負荷データとして取得することと、
前記ダンパ滑り判定ロジックにより、前記吸気圧と前記エンジン回転速度に対して、前記負荷が所定値以上、低下している場合に、前記船舶推進器においてプロペラダンパが滑っていると判定すること、
を備える請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記駆動源は、エンジンを含み、
エンジン回転速度と、前記エンジンの出力を制御するために操作されるスロットル操作部材の操作量とを、前記負荷データとして取得することと、
前記着水判定ロジックにより、前記スロットル操作部材の操作量が一定にも関わらず、前記エンジン回転速度が、所定値以上、上昇した場合に、前記船舶が着水したと判定すること、
を備える請求項8に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から7のいずれかに記載の制御システムを備える船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の制御システム、及び、船舶を制御するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶に搭載されたコントローラが、船舶の各種の機器から、機器の状態を示す状態データを検出し、状態データに基づいて、船舶の不具合を判定するシステムが知られている。例えば、特許文献1では、船舶情報収集装置が、船舶に搭載されている。船舶情報収集装置は、各種の機器の船舶情報を取得し、船舶情報の値に基づいて、不具合の発生を判定する。船舶情報収集装置は、陸上のサーバと通信可能であり、不具合が発生したと判定した場合に、サーバに船舶情報を送信する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したシステムでは、コントローラは、不具合を判定するための判定ロジックを記憶している。コントローラは、判定ロジックを参照して、状態データに基づいて、不具合の発生を判定する。例えば、船舶情報収集装置は、振動計の検出値を取得し、検出値が閾値より大きいときに、不具合が発生していると判定する。
【0005】
しかし、船舶において発生する不具合には様々なものがある。例えば、船舶にフジツボなどの異物が付着した場合には、船舶への水の抵抗が大きくなり、燃費が低下する。しかし、フジツボは徐々に船舶に付着するため、船舶のユーザがフジツボの付着を早期に気づくことは困難である。
【0006】
また、船舶推進器にはプロペラが取り付けられる。その際、船舶、或いは船舶推進器にマッチしていないプロペラが取り付けられた場合には、船舶推進器の性能を最大限に発揮することはできない。しかし、船舶のユーザが、プロペラが船舶及び船舶推進器にマッチしていないことに気づくことは困難である。
【0007】
また、船舶推進器には、プロペラダンパを介してプロペラがプロペラシャフトに取り付けられる。プロペラダンパは、例えばゴムなどの弾性体で形成されており、使用、或いは経年により劣化する。プロペラダンパが劣化すると、プロペラとプロペラシャフトとの間に滑りが発生することがある。その場合、エンジン回転速度の上昇に対して船速が適切に上昇しない。しかし、船舶のユーザが、プロペラダンパの滑りに気づくことは困難である。
【0008】
また、波がある程度高い環境下で航走する場合、船舶が一時的に水面から離れることもある。そのような場合、着水時に船舶が衝撃を受ける。そのような環境下で頻繁に運転される場合には、船舶において不具合が発生することがある。しかし、船舶を修理、或いはメンテナンスするディーラーが、船舶が着水により衝撃を受けた頻度を把握することは困難である。そのため、ディーラーが、不具合の原因を把握することは容易ではない。
【0009】
本発明の目的は、駆動源の負荷により船舶における不具合を早期に発見することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る船舶の制御システムは、船舶推進器と、負荷センサと、コンピュータとを備える。船舶推進器は、駆動源を含み、船舶に取り付けられる。負荷センサは、駆動源の負荷を示す負荷データを検出する。コンピュータは、船舶の不具合を判定するための判定ロジックを記憶している。コンピュータは、負荷データを取得する。コンピュータは、判定ロジックを参照して負荷データに基づいて船舶の不具合を判定する。判定ロジックは、異物付着判定ロジックと、プロペラマッチング判定ロジックと、着水判定ロジックとの少なくとも1つを含む。異物付着判定ロジックは、船舶への異物の付着を判定する。プロペラマッチング判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定する。ダンパ滑り判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定する。着水判定ロジックは、船舶の着水を判定する。
【0011】
本発明の他の態様に係る方法は、船舶を制御するための方法である。船舶は、船舶推進器を含む。船舶推進器は、駆動源を有する。当該方法は、駆動源の負荷を示す負荷データを取得することと、船舶の不具合を判定するための判定ロジックを参照して、負荷データに基づいて船舶の不具合を判定することと、を備える。判定ロジックは、異物付着判定ロジックと、プロペラマッチング判定ロジックと、着水判定ロジックとの少なくとも1つを含む。異物付着判定ロジックは、船舶への異物の付着を判定する。プロペラマッチング判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定する。ダンパ滑り判定ロジックは、船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定する。着水判定ロジックは、船舶の着水を判定する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、判定ロジックを参照して負荷データに基づいて船舶の不具合が判定される。判定ロジックは、船舶への異物の付着を判定する異物付着判定ロジックと、船舶推進器におけるプロペラのマッチングを判定するプロペラマッチング判定ロジックと、船舶推進器におけるプロペラダンパの滑りを判定するダンパ滑り判定ロジックと、船舶の着水を判定する着水判定ロジックと、の少なくとも1つを含む。そのため、これらの不具合の少なくとも1つについて、船舶のユーザ、或いはディーラーが、早期に気づくことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図6】船舶推進器の制御系を示すブロック図である。
【
図7】クランクセンサとカムセンサとによる位相の検出方法を示す図である。
【
図8】実施形態に係る船舶の制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】船舶コンピュータの構成を示すブロック図である。
【
図10】異物付着判定ロジックにおける正常負荷領域と現在の負荷領域との一例を示す図である。
【
図11】異物付着判定ロジックにおける積荷データの一例を示す図である。
【
図12】プロペラマッチング判定ロジックにおける正常負荷領域と現在の負荷領域との一例を示す図である。
【
図13】ダンパ滑り判定ロジックにおける正常負荷領域と現在の負荷領域との一例を示す図である。
【
図14】着水判定ロジックにおける正常負荷領域と現在の負荷データとの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る船舶100を示す斜視図である。船舶100の船尾には、船舶推進器1が取り付けられる。船舶推進器1は、船舶100を推進させるスラストを発生させる。本実施形態において、船舶推進器1は、船外機である。船舶推進器1は、ブラケット2を介して、船舶100に取り付けられる。
【0015】
図2は、船舶推進器1の側面図である。
図2に示すように、船舶推進器1は、駆動源10と、駆動軸11と、プロペラ軸12と、シフト機構13とを含む。駆動源10は、駆動源として、船舶100を推進させる推進力を発生させる。駆動源10は、エンジンである。駆動源10は、クランク軸14を含む。クランク軸14は、鉛直方向に延びている。クランク軸14には、フライホイール15が接続されている。駆動源10は、スタータモータ16を含む。スタータモータ16は、クランク軸14に接続されており、駆動源10を始動させる。
【0016】
図3は、駆動源10の模式的断面図である。
図3に示すように、駆動源10は、ピストン17とコンロッド18とを含む。ピストン17は、コンロッド18を介してクランク軸14に接続されている。駆動源10は、燃焼室21と、吸気ポート22と、排気ポート23とを含む。吸気ポート22と排気ポート23とは、燃焼室21に連通している。駆動源10は、吸気管24と、排気管25と、吸気バルブ26と、排気バルブ27とを含む。
【0017】
吸気管24は、吸気ポート22に接続されている。吸気バルブ26は、吸気ポート22を開閉する。排気管25は、排気ポート23に接続されている。排気バルブ27は、排気ポート23を開閉する。駆動源10は、排気カム軸28と吸気カム軸29とを含む。排気カム軸28と吸気カム軸29とは、
図2に示すタイミングベルト30を介して、クランク軸14に接続されている。吸気バルブ26は、吸気カム軸29によって駆動される。排気バルブ27は、排気カム軸28によって駆動される。
【0018】
駆動源10は、スロットル弁31と、燃料噴射装置32と、点火装置33とを含む。スロットル弁31は、吸気管24に取り付けられている。スロットル弁31の開度が変更されることにより、燃焼室21へ送られる混合気の量が調整される。燃料噴射装置32は、吸気管24に取り付けられている。燃料噴射装置32には、デリバリパイプ34が接続されている。デリバリパイプ34内は所定の圧力に維持されており、燃料は、デリバリパイプ34を介して燃料噴射装置32に供給される。燃料噴射装置32は、燃料を吸気管24内に噴射する。点火装置33は、燃焼室21内に挿入されており、燃料に点火する。
【0019】
図2に示すように、駆動軸11は、クランク軸14に接続されている。駆動軸11は、鉛直方向に延びている。駆動軸11は、駆動源10から下方へ延びている。プロペラ軸12は、船舶推進器1の前後方向に延びている。プロペラ軸12は、シフト機構13を介して、駆動軸11に接続されている。プロペラ軸12には、プロペラダンパ20を介して、プロペラ19が接続される。プロペラダンパ20は、ゴムなどの弾性体製である。シフト機構13は、駆動軸11からプロペラ軸12へ伝達される動力の回転方向を切り換える。
【0020】
図4A及び
図4Bは、シフト機構13の拡大図である。
図4A及び
図4Bに示すように、シフト機構13は、駆動ギア35と、前進ギア36と、後進ギア37と、ドッグクラッチ38と、シフトアクチュエータ39とを含む。駆動ギア35は、駆動軸11に接続されている。駆動ギア35と、前進ギア36と、後進ギア37とは、それぞれベベルギアであり、互いに噛み合っている。前進ギア36と後進ギア37とは、プロペラ軸12に対して空転可能に、プロペラ軸12と同軸に配置されている。ドッグクラッチ38は、前進位置と、後進位置と、中立位置とに移動可能である。
【0021】
図4Aは、前進位置のドッグクラッチ38を示している。ドッグクラッチ38は、前進位置において、前進ギア36をプロペラ軸12に係合させ、後進ギア37をプロペラ軸12から解放する。それにより、シフト機構13は、プロペラ軸12が前進方向に回転するように、駆動軸11の回転をプロペラ軸12に伝達する。
図4Bは、後進位置のドッグクラッチ38を示している。ドッグクラッチ38は、後進位置において、後進ギア37をプロペラ軸12に係合させ、前進ギア36をプロペラ軸12から解放する。それにより、シフト機構13は、プロペラ軸12が後進方向に回転するように、駆動軸11の回転をプロペラ軸12に伝達する。
【0022】
中立位置は、前進位置と後進位置との間に位置する。ドッグクラッチ38は、中立位置において、前進ギア36と後進ギア37とを、プロペラ軸12から解放する。それにより、駆動軸11の回転は、プロペラ軸12に伝達されない。シフトアクチュエータ39は、ドッグクラッチ38を前進位置と中立位置と後進位置とに移動させる。それにより、ドッグクラッチ38とギア35-37との係合と解放とが切り替えられる。シフトアクチュエータ39は、例えば電動モータを含む。シフトアクチュエータ39は、シフト部材40を介してドッグクラッチ38に接続される。
【0023】
図2に示すように、船舶推進器1は、チルト機構41を含む。チルト機構41は、船舶100に取り付けられる。チルト機構41は、チルト軸42と、チルトアクチュエータ43とを含む。チルト機構41は、船舶推進器1をチルト軸42回りに回動可能に支持する。チルトアクチュエータ43は、例えば油圧シリンダである。チルトアクチュエータ43は、電動シリンダなどの他のアクチュエータであってもよい。
図5A及び
図5Bに示すように、チルトアクチュエータ43は、船舶推進器1をチルト軸42回りに回動させる。
【0024】
図6は、船舶推進器1の制御系を示すブロック図である。
図6に示すように、船舶推進器1は、ECU(Engine Control Unit)50を含む。ECU50は、駆動源10を制御する電子制御装置である。ECU50は、CPU等のプロセッサ51と、記憶装置52とを含む。記憶装置52は、例えばRAM及びROMなどのメモリを含む。記憶装置52は、HDD、或いはSSDなどのストレージを含んでもよい。記憶装置52は、船舶推進器1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。プロセッサ51は、プログラム及びデータに基づいて、船舶推進器1を制御する。
【0025】
船舶推進器1は、負荷センサ49を含む。負荷センサ49は、駆動源10の負荷を示す負荷データを検出する。負荷センサ49は、エンジン速度センサ53と、船速センサ54と、スロットル開度センサ55と、吸気圧センサ59とを含む。エンジン速度センサ53は、エンジン回転速度を検出する。エンジン速度センサ53は、エンジン回転速度を示す信号をECU50に出力する。船速センサ54は、船速を検出する。船速センサ54は、船速を示す信号をECU50に出力する。スロットル開度センサ55は、スロットル開度を検出する。スロットル開度センサ55は、スロットル開度を示す信号をECU50に出力する。吸気圧センサ59は、吸気管24内の吸気圧を検出する。吸気圧センサ59は、吸気管24内の吸気圧を示す信号をECU50に出力する。船舶推進器1は、排気圧センサ60を含む。排気圧センサ60は、排気管25内の排気圧を検出する。排気圧センサ60は、排気管25内の排気圧を示す信号をECU50に出力する。
【0026】
船舶推進器1は、クランクセンサ56とカムセンサ57とを含む。クランクセンサ56は、クランク軸14の位相を検出する。
図7に示すように、クランク軸14に接続されたフライホイール15の表面には、複数の突起部141が規則的に配列されている。フライホイール15の表面は、欠落部142を含む。欠落部142は、突起部141が形成されておらず、隣り合う突起部141の間隔が他の突起部141の間隔と異なる部分である。クランクセンサ56は、磁気センサであり、複数の突起部141の通過を検出する。なお、
図7では、複数の突起部141のうちの一部にのみ符号141が付されている。クランクセンサ56は、欠落部142を検出することで、クランク軸14の位相を検出する。クランクセンサ56は、クランク軸14の位相を示す信号をECU50に出力する。
【0027】
カムセンサ57は、排気カム軸28の位相を検出する。排気カム軸28の表面には、複数の突起部281が規則的に配列されている。ただし、排気カム軸28の表面は、欠落部282を含む。欠落部282は、突起部281が形成されておらず、隣り合う突起部281の間隔が他の突起部281の間隔と異なる部分である。カムセンサ57は、磁気センサであり、排気カム軸28に形成された複数の突起部281の通過を検出する。なお、
図7では、複数の突起部281のうちの一部にのみ符号281が付されている。カムセンサ57は、欠落部282を検出することで、排気カム軸28の位相を検出する。カムセンサ57は、排気カム軸28の位相を示す信号をECU50に出力する。
【0028】
船舶推進器1は、燃料圧センサ58を含む。燃料圧センサ58は、デリバリパイプ34内の燃料の圧力を検出する。燃料圧センサ58は、デリバリパイプ34内の燃料の圧力を示す信号をECU50に入力する。
【0029】
船舶推進器1は、シフト位置センサ61を含む。シフト位置センサ61は、ドッグクラッチ38の位置(以下、シフト位置と呼ぶ)を検出する。シフト位置センサ61は、ドッグクラッチ38が、前進位置と中立位置と後進位置とのいずれに位置しているかを、シフト位置として検出する。シフト位置センサ61は、シフト位置を示す信号をECU50に出力する。
【0030】
船舶推進器1は、チルトスイッチ62とチルト位置センサ63とを含む。チルトスイッチ62は、オペレータによって操作可能である。チルトスイッチ62の操作に応じて、チルトアクチュエータ43が駆動されることで、船舶推進器1がチルト軸42回りに回動する。チルト位置センサ63は、チルト軸42回りの船舶推進器1のチルト位置を検出する。チルト位置センサ63は、チルト軸42回りの船舶推進器1のチルト位置を示す信号をECU50に出力する。なお、チルト軸42回りの船舶推進器1のチルト位置により、チルト軸42回りの船舶推進器1の回動速度が算出される。
【0031】
図8は、実施形態に係る船舶100の制御システム200の構成を示す模式図である。
図8に示すように、制御システム200は、通信装置3と、機器システム4と、船舶コンピュータ5とを含む。通信装置3と、機器システム4と、船舶コンピュータ5とは、船舶100に搭載されている。通信装置3は、船舶100から遠隔に配置されたサーバ6と無線通信を行う。例えば、通信装置3は、モバイル通信網300を介して、外部のサーバ6及びユーザ端末7とデータ通信可能である。ユーザ端末7は、例えばパーソナルコンピュータである。ユーザ端末7は、スマートホン或いはタブレットなどのモバイルコンピュータであってもよい。モバイル通信網300は、例えば3G、4G、或いは5Gなどのモバイル通信システムのネットワークである。
【0032】
機器システム4は、船舶100に搭載される電気機器を含む。例えば、機器システム4は、上述したECU50を含む。機器システム4は、スロットル・シフト操作装置64を含む。スロットル・シフト操作装置64は、船舶推進器1のエンジン回転速度を調整するために、オペレータによって操作可能である。また、スロットル・シフト操作装置64は、船舶推進器1の前進・後進を切り替えるために、オペレータによって操作可能である。
【0033】
スロットル・シフト操作装置64は、スロットル操作部材65を含む。スロットル操作部材65は、中立位置から、前進位置と後進位置とに操作可能である。スロットル操作部材65は、駆動源10の出力を制御するために操作される。スロットル操作部材65は、例えばレバーである。スロットル操作部材65は、スイッチ、或いはジョイスティックなどの他の部材であってもよい。スロットル・シフト操作装置64は、スロットル操作部材65の操作位置を示すスロットル信号を出力する。ECU50は、スロットル・シフト操作装置64からのスロットル信号を受信する。ECU50は、スロットル操作部材65の操作位置に応じて、シフト機構13を制御する。それにより、プロペラ軸12の回転方向が、前進方向と後進方向とに切り替えられる。また、ECU50は、スロットル操作部材65の操作位置に応じて、スロットル開度と燃料噴射量とを制御することで、エンジン回転速度を制御する。
【0034】
機器システム4は、ステアリングアクチュエータ66と、ステアリング操作装置67とを含む。ステアリングアクチュエータ66は、船舶推進器1を左右に旋回させることで、船舶推進器1の舵角を変更する。ステアリングアクチュエータ66は、例えば電動モータである。或いは、ステアリングアクチュエータ66は、電動ポンプと油圧シリンダとを含んでもよい。
【0035】
ステアリング操作装置67は、船舶推進器1の舵角を調整するために、オペレータによって操作可能である。ステアリング操作装置67は、例えばステアリングホイールである。或いは、ステアリング操作装置67は、ジョイスティックなどの他の操作装置であってもよい。ステアリング操作装置67は、中立位置から左右に操作可能である。ステアリング操作装置67は、ステアリング操作装置67の操作位置を示すステアリング信号を出力する。ステアリング操作装置67の操作位置に応じてステアリングアクチュエータ66を制御することで、船舶推進器1の舵角が制御される。
【0036】
機器システム4は、バッテリ68とバッテリセンサ69とを含む。バッテリ68は、機器システム4に電力を供給する。バッテリセンサ69は、電流計と電圧計とを含む。バッテリセンサ69は、バッテリ68の電圧と電流とを検出する。バッテリセンサ69は、バッテリ68の電圧と電流とを示す信号を船舶コンピュータ5に出力する。
【0037】
機器システム4は、始動スイッチ71とキルスイッチ72とを含む。始動スイッチ71とキルスイッチ72とは、オペレータによって操作可能である。始動スイッチ71は、スタータモータ16を駆動することで、駆動源10を始動する。スタータモータ16は、バッテリ68からの電力によって駆動される。キルスイッチ72は、通常はオフ状態に維持されている。キルスイッチ72がオフ状態で、駆動源10の駆動が可能となる。キルスイッチ72は、オン状態に操作されることで、駆動源10を停止させる。例えば、キルスイッチ72がオン状態では、点火装置33への電力の供給が停止される。
【0038】
機器システム4は、ディスプレイ73と入力装置74とを含む。ディスプレイ73は、船舶推進器1に関する情報を表示する。ディスプレイ73は、ディスプレイ73に入力される画像信号に応じた画像を表示する。入力装置74は、ユーザによる入力を受け付ける。入力装置74は、ユーザによる入力を示す入力信号を出力する。入力装置74は、例えばタッチパネルである。ただし、入力装置74は、ハードウェアキーを含んでもよい。
【0039】
機器システム4は、CAN(Controller Area Network)75を含む。機器システム4に含まれる電気機器は、CAN75を介して、互いに通信可能に接続されている。
【0040】
船舶コンピュータ5は、CPU等のプロセッサ76と記憶装置77とを含む。記憶装置77は、RAM及びROMなどのメモリを含む。記憶装置77は、HDD或いはSSDなどのストレージを含んでもよい。記憶装置77は、機器システム4を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。プロセッサ76は、プログラム及びデータに従って、機器システム4を制御する。例えば、船舶コンピュータ5は、船舶コンピュータ5は、入力装置74からの入力信号に応じて、機器システム4を制御する。船舶コンピュータ5は、ディスプレイ73に画像信号を出力することで、ディスプレイ73に所望の画像を表示させる。
【0041】
船舶コンピュータ5は、ECU50と通信可能に接続されている。船舶コンピュータ5は、ECU50を介して、船舶推進器1の状態を示す状態データを取得する。例えば、船舶コンピュータ5は、エンジン回転速度と、船速と、スロットル開度とを、状態データとして取得する。船舶コンピュータ5は、排気カム軸28の位相とクランク軸14の位相とを、状態データとして取得する。船舶コンピュータ5は、燃料圧と、吸気圧と、排気圧とを、状態データとして取得する。船舶コンピュータ5は、シフト位置とチルト位置とを、状態データとして取得する。
【0042】
また、船舶コンピュータ5は、CAN75を介して、機器システム4の他の機器の状態を示す状態データを取得する。例えば、船舶コンピュータ5は、バッテリ68の電圧と電流とを、状態データとして取得する。船舶コンピュータ5は、キルスイッチ72がオン状態であるのかオフ状態であるのかを、状態データとして取得する。
【0043】
図9に示すように、船舶コンピュータ5は、船舶100の不具合を判定するための判定ロジック80を記憶している。判定ロジック80は、それぞれに対応する不具合を判定するためのアルゴリズムを含む。船舶コンピュータ5は、判定ロジック80を参照して、状態データに基づいて船舶100の不具合を判定する。以下、船舶100の不具合を判定する方法について説明する。
【0044】
船舶コンピュータ5は、判定ロジックを参照して、駆動源10の負荷データに基づいて、船舶100の不具合を判定する。駆動源10の負荷データは、上述した状態データのうち、エンジン回転速度と、船速と、スロットル操作部材65の操作量と、吸気圧とを含む。判定ロジックは、異物付着判定ロジック81と、プロペラマッチング判定ロジック82と、ダンパ滑り判定ロジック83と、着水判定ロジック84とを含む。
【0045】
異物付着判定ロジック81は、現在の負荷データが示す吸気圧とエンジン回転速度とに基づいて、フジツボなどの異物の船舶への付着を判定する。詳細には、船舶コンピュータ5は、異物付着判定ロジック81により、現在の負荷データを初期負荷データと比較することで、異物の付着を判定する。初期負荷データは、船舶100の初期状態における船速と駆動源10との負荷との関係を示す。
【0046】
図10は、初期負荷データが示す正常負荷領域A1と、現在の負荷データが示す現在の負荷領域B1との一例を示す図である。初期負荷データは、船舶100の初期状態におけるエンジン回転速度と吸気圧との関係を規定する。現在の負荷データは、船舶100の現在のエンジン回転速度と吸気圧との関係を規定する。なお、
図10において、N1とP1とは、アイドリング時のエンジン回転速度と吸気圧である。N3とP3とは、スロットル開度が全開時のエンジン回転速度と吸気圧である。N2は、N1とN3との間の値であり、P2は、P1とP3との間の値である。
【0047】
正常負荷領域A1は、船舶100の初期状態において、十分にゆっくりと船舶100の速度を上昇させたときのエンジン回転速度と吸気圧との定常領域を示す。この定常領域は、船舶100による個体差がある。そのため。船舶コンピュータ5は、PDI(Pre Delivery Inspection:出荷前検査)時のエンジン回転速度と吸気圧との定常領域を、初期負荷データとして記憶しておく。
【0048】
船舶コンピュータ5は、船舶100の定常航行中に、現在の負荷データを取得する。船舶コンピュータ5は、現在の負荷データが示す負荷が、初期負荷データが示す負荷よりも所定値以上、高い場合に、船舶100に異物が付着していると判定する。例えば、
図10に示すように、船舶コンピュータ5は、複数の現在の負荷データから現在の負荷領域B1を算出する。船舶コンピュータ5は、現在の負荷領域B1が、正常負荷領域A1よりも所定値以上、高い場合に、船舶コンピュータ5は、船舶100に異物が付着していると判定する。すなわち、船舶コンピュータ5は、現在の負荷データが示す負荷が、初期負荷データが示す負荷よりも定常的に、所定値以上、高い場合に、船舶100に異物が付着していると判定する。
【0049】
また、船舶コンピュータ5は、船舶100の積荷の重さを示す積荷データを取得する。船舶コンピュータ5は、積荷データを考慮して、船舶100に異物が付着しているかを判定する。
図11は、積荷データの一例を示す図である。
図11に示すように。積荷データは、船舶100の加速時の船速カーブC1で示される。船舶コンピュータ5は、正常時の船速カーブC1を記憶している。正常時の船速カーブC1は、PDI時の船速カーブに相当する。
【0050】
船舶コンピュータ5は、
図11に示すように、現在の船速から、現在の船速カーブC2を算出する。船舶コンピュータ5は、現在の船速カーブC2が示す極低速時の加速度が、正常時の船速カーブC1が示す極低速時の加速度よりも所定値以上低い場合に、船舶100が重荷状態であると判定する。船舶コンピュータ5は、現在の船速カーブC2が示す極低速時の加速度が、正常時の船速カーブC1が示す極低速時の加速度よりも所定値以上低くない場合には、船舶100が軽荷状態であると判定する。船舶コンピュータ5は、船舶100が軽荷状態であり、且つ、現在の負荷データが示す負荷が、初期負荷データが示す負荷よりも所定値以上、高い場合に、船舶100に異物が付着していると判定する。それにより、重荷によって船舶100の加速が低下している場合に、異物が付着していると誤判定することが抑えられる。
【0051】
プロペラマッチング判定ロジック82は、船舶推進器1におけるプロペラ19のマッチングを判定する。船舶コンピュータ5は、プロペラマッチング判定ロジック82により、船舶100の定常航行中に、現在の負荷データが正常負荷領域外である場合に、船舶推進器1においてプロペラ19がマッチングしていないと判定する。
【0052】
プロペラマッチングの正常負荷領域は、船舶推進器1においてプロペラ19がマッチングしている場合の吸気圧とエンジン回転速度との定常領域を示す。プロペラマッチングの正常負荷領域は、スロットル開度を全開とした場合の吸気圧とエンジン回転速度との定常領域を示す。プロペラマッチング判定ロジック82は、スロットル開度を全開とした場合の現在の負荷領域に基づいて、プロペラ19のマッチングを判定する。
【0053】
図12は、プロペラマッチングの正常負荷領域A2の一例を示す図である。
図12に示すように、船舶コンピュータ5は、現在の負荷領域B2aが、正常負荷領域A2外である場合には、プロペラ19がマッチングしていないと判定する。現在の負荷領域B2aでは、スロットル開度が全開であるときのエンジン回転速度が、正常負荷領域A2のエンジン回転速度よりも低い。そのため、船舶コンピュータ5は、プロペラ19のピッチ、或いは径が大きすぎると判定する。
【0054】
また、
図12に示すように、船舶コンピュータ5は、現在の負荷領域B2bが、正常負荷領域A2外である場合には、プロペラ19がマッチングしていないと判定する。現在の負荷領域B2bでは、スロットル開度が全開に到達する前に、エンジン回転速度が、正常負荷領域A2のエンジン回転速度に到達している。そのため、船舶コンピュータ5は、プロペラ19のピッチ、或いは径が小さすぎると判定する。
【0055】
ダンパ滑り判定ロジック83は、船舶推進器1におけるプロペラダンパ20の滑りを判定する。船舶コンピュータ5は、ダンパ滑り判定ロジック83により、現在の負荷データが示す駆動源10の負荷が、初期負荷データが示す駆動源10の負荷よりも所定値以上、低下している場合に、船舶推進器1においてプロペラダンパ20が滑っていると判定する。
【0056】
例えば
図13に示すように、現在の負荷領域B3が、正常負荷領域A3よりも所定値以上、低い場合に、船舶コンピュータ5は、プロペラダンパ20が滑っていると判定する。すなわち、船舶コンピュータ5は、現在の負荷データが示す負荷が、初期負荷データが示す負荷よりも定常的に、所定値以上、低い場合に、プロペラダンパ20が滑っていると判定する。なお、正常負荷領域A3は、上述した正常負荷領域A1と同じであってもよい。
【0057】
着水判定ロジック84は、船舶100の着水を判定する。船舶コンピュータ5は、着水判定ロジック84により、スロットル操作部材65の操作量が一定にも関わらず、エンジン回転速度が、所定値以上、上昇した場合に、船舶100が水面から離れた後着水したと判定する。例えば、
図14に示すように、現在の負荷データが、正常負荷領域A4内の第1負荷L1から、正常負荷領域A1外の第2負荷L2に変化し、その後、正常負荷領域A4内に戻った場合に、船舶100が着水したと判定する。第2負荷L2は、第1負荷L1よりもエンジン回転速度が所定値以上、高い。
【0058】
なお、正常負荷領域A4は、上述した正常負荷領域1と同じであってもよい。また、船舶コンピュータ5は、所定の運転条件が満たされている場合に、上述した着水判定ロジック84による船舶100の着水を判定してもよい。所定の運転条件は、エンジン回転速度が所定の回転速度閾値以上であること、シフト位置が前進位置であること、船速が所定の速度閾値以上であることを含む。
【0059】
船舶コンピュータ5は、不具合が発生していると判定した場合には、ディスプレイ73に不具合の通知を表示する。船舶コンピュータ5は、不具合が発生していると判定した場合には、サーバ6に不具合の通知を送信する。或いは、船舶コンピュータ5は、不具合が発生していると判定した場合には、ユーザ端末7に不具合の通知を送信する。
【0060】
以上説明した本実施形態に係る船舶100の制御システム200では、判定ロジックを参照して負荷データに基づいて船舶100の不具合が判定される。判定ロジックは、船舶100への異物の付着を判定する異物付着判定ロジック81と、船舶推進器1におけるプロペラ19のマッチングを判定するプロペラマッチング判定ロジック82と、船舶推進器1におけるプロペラダンパ20の滑りを判定するダンパ滑り判定ロジック83と、船舶100の着水を判定する着水判定ロジック84とを含む。そのため、これらの不具合について、船舶100のユーザ、或いはディーラーが、早期に気づくことができる。
【0061】
なお、船舶コンピュータ5は、サーバ6から、判定ロジック80の更新データを取得する。船舶コンピュータ5は、更新データにより、判定ロジック80を更新する。そして、船舶コンピュータ5は、更新された判定ロジック80を参照して、状態データに基づいて船舶100の不具合を判定する。それにより、船舶コンピュータ5は、最新の判定ロジック80を用いて、不具合を判定することができる。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0063】
船舶推進器1は、船外機に限らず、船内外機、或いはジェット推進器などの他の推進器であってもよい。船舶推進器1の構造は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。駆動源10は、エンジンに限らず、電動モータであってもよい。
【0064】
状態データは、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。状態データによる船舶100の不具合の判定は、上記の実施形態ものに限らず、変更されてもよい。例えば、異物付着判定ロジック81と、プロペラマッチング判定ロジック82と、ダンパ滑り判定ロジック83と、着水判定ロジック84とのうちの一部が省略されてもよい。船速は、エンジン回転速度に応じて変化する。従って、上述した判定ロジック81-84では、駆動源10の負荷としてエンジン回転速度が用いられているが、エンジン回転速度に代えて船速が用いられてもよい。
【0065】
状態データによる船舶100の不具合の判定は、船舶コンピュータ5に限らず、サーバ6によって行われてもよい。その場合、船舶コンピュータ5は、通信装置3を介して、サーバ6に状態データを送信する。サーバ6は、上述した判定ロジック80を記憶しており、判定ロジック80により、船舶100の不具合を判定する。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、駆動源の負荷により船舶における不具合を早期に発見することができる。
【符号の説明】
【0067】
1:船舶推進器
3:通信装置
5:船舶コンピュータ
6:サーバ
10:駆動源
49:負荷センサ
53:エンジン速度センサ
59:吸気圧センサ
65:スロットル操作部材