(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139556
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】センサ素子
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20241002BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20241002BHJP
G01N 27/419 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/419 327B
G01N27/419 327E
G01N27/419 327G
G01N27/419 327H
G01N27/416 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050553
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100219690
【弁理士】
【氏名又は名称】堀坂 純美子
(72)【発明者】
【氏名】大西 諒
(72)【発明者】
【氏名】松下 泰大
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BD05
2G004BD15
2G004BE02
2G004BF09
2G004BJ03
2G004ZA04
2G004ZA05
(57)【要約】
【課題】高い耐被水性を有し且つ高い測定精度を維持できるセンサ素子を提供する。
【解決手段】長尺板状の基体部103、及び、基体部103の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通空所15を含む素子本体102と、前記一方端から形成され、素子本体102の表面の前記長手方向の所定の長さを覆う多孔質の保護層90と、を含むセンサ素子101であって、素子本体102は、一方の主面上に配設された空所外電極23を含み、保護層90は、前記一方の主面上において、内層91及び外層92を含み、且つ、前記長手方向に、前記空所外電極23が存在する電極存在領域、及び、それに続く後部領域を含む主領域と、前記一方端から前記電極存在領域までの前部領域とを有し、内層91の前記前部領域の気孔率は、前記主領域の気孔率よりも低く、外層92の気孔率は、内層91の前記前部領域の前記気孔率よりも低い、センサ素子101。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び、前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通空所を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の前記長手方向の所定の長さを覆う多孔質の保護層と、
を含むセンサ素子であって、
前記素子本体は、前記被測定ガス流通空所内に配設された空所内電極、及び、前記空所内電極に対応して、前記素子本体の2つの主面のうちの一方の主面上に前記一方端から所定の間隔をおいて配設された前記基体部の前記長手方向に所定の長さを有する空所外電極を含み、
前記保護層は、
少なくとも前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記素子本体を覆う内層、及び、前記内層よりも外側に位置する外層を含み、且つ、
前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記基体部の前記長手方向に、前記空所外電極が存在する電極存在領域、及び、前記電極存在領域に続く後部領域を含む主領域と、前記基体部の長手方向の前記一方端から前記電極存在領域までの前部領域とを有し、
前記内層の前記前部領域における気孔率は、前記内層の前記主領域における気孔率よりも低く、
前記外層の気孔率は、前記内層の前記前部領域における前記気孔率よりも低い、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【請求項2】
前記内層の前記前部領域における前記気孔率が、前記内層の前記主領域における前記気孔率よりも5体積%以上低い、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記内層の前記前部領域における前記気孔率が、前記内層の前記主領域における前記気孔率よりも10体積%以上低い、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記保護層の前記後部領域は、前記基体部の前記長手方向に、前記被測定ガス流通空所よりも前記基体部の長手方向の前記一方端から遠い位置まで延びている、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記内層の前記気孔率は、前記基体部の長手方向の前記一方端から、前記基体部の長手方向に段階的に又は連続的に高くなっている、請求項1に記載のセンサ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、自動車の排気ガス等の被測定ガス中の対象とするガス成分(酸素O2、窒素酸化物NOx、アンモニアNH3、炭化水素HC、二酸化炭素CO2等)の検出や濃度の測定に使用されている。このようなガスセンサとしては、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子を備えたガスセンサが知られている。
【0003】
このようなガスセンサにおいて、センサ素子への水分の付着に起因する熱衝撃によってセンサ素子の内部構造にクラックが発生することを防止する目的で、センサ素子の表面に多孔質の保護層を形成することが知られている(例えば、特開2016-065852号公報)。すなわち、素子本体と前記素子本体を覆う多孔質の保護層を備えるセンサ素子が知られている。また、例えば、特開2014-098590号公報、及び国際公開WO2020/203029号公報には、多層の保護層が開示されており、保護層には、内側の層と、内側の層よりも気孔率の低い外側の層を含んでいることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-065852号公報
【特許文献2】特開2014-098590号公報
【特許文献3】国際公開WO2020/203029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスセンサが測定対象ガスの測定を行う際には、センサ素子が高温(例えば、800℃程度)になる。このような高温のセンサ素子への水分が付着すると、熱衝撃によってセンサ素子の内部構造にクラックが発生するという問題がある。
【0006】
内側の層(内層)と、内層よりも気孔率の低い外側の層(外層)とを含む保護層(例えば、上述の特開2014-098590号公報、及び国際公開WO2020/203029号公報)において、内層の気孔率を高くすると、保護層の断熱性能は向上する。その結果、センサ素子に水が掛かった(被水)場合のセンサ素子の内部構造のクラックの発生がより抑制されうる。すなわち、センサ素子の耐被水性が向上し得る。また、内層よりも気孔率の低い外層を設けることにより、保護層全体としての構造強度を維持することができる。
【0007】
一方、ガスセンサは、長時間の使用においても、被測定ガス中の測定対象ガス濃度の測定精度を維持することが求められる。
【0008】
そこで、本発明は、高い耐被水性を有し且つ高い測定精度を維持できるセンサ素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、本発明に至った。本発明には、以下の発明が含まれる。
【0010】
(1) 酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び、前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通空所を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の前記長手方向の所定の長さを覆う多孔質の保護層と、
を含むセンサ素子であって、
前記素子本体は、前記被測定ガス流通空所内に配設された空所内電極、及び、前記空所内電極に対応して、前記素子本体の2つの主面のうちの一方の主面上に前記一方端から所定の間隔をおいて配設された前記基体部の前記長手方向に所定の長さを有する空所外電極を含み、
前記保護層は、
少なくとも前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記素子本体を覆う内層、及び、前記内層よりも外側に位置する外層を含み、且つ、
前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記基体部の前記長手方向に、前記空所外電極が存在する電極存在領域、及び、前記電極存在領域に続く後部領域を含む主領域と、前記基体部の長手方向の前記一方端から前記電極存在領域までの前部領域とを有し、
前記内層の前記前部領域における気孔率は、前記内層の前記主領域における気孔率よりも低く、
前記外層の気孔率は、前記内層の前記前部領域における前記気孔率よりも低い、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【0011】
(2) 前記内層の前記前部領域における前記気孔率が、前記内層の前記主領域における前記気孔率よりも5体積%以上低い、上記(1)に記載のセンサ素子。
【0012】
(3) 前記内層の前記前部領域における前記気孔率が、前記内層の前記主領域における前記気孔率よりも10体積%以上低い、上記(1)又は(2)に記載のセンサ素子。
【0013】
(4) 前記保護層の前記後部領域は、前記基体部の前記長手方向に、前記被測定ガス流通空所よりも前記基体部の長手方向の前記一方端から遠い位置まで延びている、上記(1)~(3)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0014】
(5) 前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記内層の前記気孔率は、前記基体部の長手方向の前記一方端から、前記基体部の長手方向に段階的に又は連続的に高くなっている、上記(1)~(4)のいずれかに記載のセンサ素子。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い耐被水性を有し且つ高い測定精度を維持できるセンサ素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】センサ素子101の概略構成の一例を示した斜視図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿うセンサ素子101の断面模式図を含む、センサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
【
図3】多孔質保護層90の構成を示す、
図2と同じ断面における断面模式図である。
図3において、素子本体102の内部における被測定ガス流通空所15、空所内電極及び空所外電極以外の構成は図示を省略している。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿うセンサ素子101の断面模式図である。
図4において、素子本体102の内部における被測定ガス流通空所15(緩衝空間12)以外の構成は図示を省略している。
【
図5】従来のセンサ素子において、酸素の測定精度が低下する原理を示す概念図である。
【
図6】本発明の一実施形態のセンサ素子101において、第1内部空所20内から汲み出された酸素が拡散する様子を示す概念図である。
【
図7】センサ素子の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のセンサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び、前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通空所を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の前記長手方向の所定の長さを覆う多孔質の保護層と、
を含む。
【0018】
前記素子本体は、前記被測定ガス流通空所内に配設された空所内電極、及び、前記空所内電極に対応して、前記素子本体の2つの主面のうちの一方の主面上に前記一方端から所定の間隔をおいて配設された前記基体部の前記長手方向に所定の長さを有する空所外電極を含む。
【0019】
前記保護層は、
少なくとも前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記素子本体を覆う内層、及び、前記内層よりも外側に位置する外層を含み、且つ、
前記空所外電極の存在する前記一方の主面上において、前記基体部の前記長手方向に、前記空所外電極が存在する電極存在領域、及び、前記電極存在領域に続く後部領域を含む主領域と、前記基体部の長手方向の前記一方端から前記電極存在領域までの前部領域とを有し、
前記内層の前記前部領域における気孔率は、前記内層の前記主領域における気孔率よりも低く、
前記外層の気孔率は、前記内層の前記前部領域における前記気孔率よりも低い。
【0020】
以下に、本発明のセンサ素子を備えたガスセンサの実施形態の一例を詳しく説明する。
【0021】
[ガスセンサの概略構成]
本発明のガスセンサの実施形態について、図面を参照して以下に説明する。
図1は、センサ素子101の概略構成の一例を示した斜視図である。
図2は、センサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
図2において、センサ素子101の断面模式図は、
図1のII-II線に沿う断面模式図である。以下においては、
図2を基準として、上下とは、
図2の上側を上、下側を下とし、
図2の左側を先端側、右側を後端側とする。また、
図2を基準として、紙面に垂直な手前側を右、奥側を左とする。
【0022】
図2において、ガスセンサ100は、センサ素子101によって被測定ガス中のNOxを検知し、その濃度を測定する限界電流型のNOxセンサの一例を示している。
【0023】
センサ素子101は、後に詳述する多孔質保護層90を含んでいる。多孔質保護層90は、本発明の保護層に相当する。センサ素子101の、多孔質保護層90を除く部分を、以下において、素子本体102と称する。素子本体102は長尺板状である。
図1に示すように、素子本体102は、2つの主面(上面102a及び下面102b)と、長手方向に沿う2つの側面(左面102c及び右面102d)と、長手方向の2つの端面(先端面102e及び後端面102f)との6面を有する。
【0024】
また、センサ素子101の素子本体102は、後述の被測定ガス流通空所15内に配設された空所内電極、及び、前記空所内電極に対応して、前記素子本体102の2つの主面のうちの一方の主面上に配設された基体部103の前記長手方向に所定の長さを有する空所外電極を含む。なお、被測定ガス流通空所15についても、基体部103の前記長手方向に所定の長さを有している。「前記空所内電極に対応して」とは、前記空所外電極が、固体電解質層を介して前記空所内電極と接するように設けられていることを意味する。
【0025】
本実施形態のセンサ素子101においては、空所内電極として、内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44が設けられている。空所外電極として、上面102a上に素子本体102の先端から所定の間隔をおいて、外側ポンプ電極23が設けられている。
【0026】
センサ素子101は、複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層が積層された構造を有する基体部103を含む、長尺板状の素子である。長尺板状とは、長板状、あるいは、帯状ともいう。基体部103は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。前記6つの層は全て同じ厚みであってもよいし、各層毎に異なる厚みであってもよい。各層の間は、固体電解質からなる接着層を介して接着されており、基体部103には前記接着層を含む。
図2においては、前記6つの層からなる層構成を例示したが、本発明における層構成はこれに限られるものではなく、任意の層の数及び層構成としてよい。
【0027】
センサ素子101の長手方向の一方の端部(以下、先端部という)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10が形成されている。被測定ガス流通空所15、すなわち、被測定ガス流通部は、ガス導入口10から長手方向に、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されている。
【0028】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0029】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(
図2において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、所望の拡散抵抗を付与する形態であればよく、その形態は前記スリットに限定されるものではない。
【0030】
第4拡散律速部60は、1本の横長の(
図2において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとしてスペーサ層5と、第2固体電解質層6との間に設けられる。第4拡散律速部60は、所望の拡散抵抗を付与する形態であればよく、その形態は前記スリットに限定されるものではない。
【0031】
また、被測定ガス流通空所15よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の他方の端部(以下、後端部という)に開口部を有している。基準ガス導入空間43に、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0032】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0033】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。すなわち、基準電極42は、多孔質である大気導入層48と基準ガス導入空間43とを介して、基準ガスと接するように配設されている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内、第2内部空所40内、及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。
【0034】
被測定ガス流通空所15において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口しており、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0035】
本実施形態においては、被測定ガス流通空所15は、センサ素子101の先端面に開口したガス導入口10から被測定ガスが導入される形態であるが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、被測定ガス流通空所15には、ガス導入口10の凹所が存在しなくてもよい。この場合は、第1拡散律速部11が実質的にガス導入口となる。
【0036】
また、例えば、被測定ガス流通空所15は、多孔体を通じて被測定ガスが導入される構成になっていてもよい。
【0037】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0038】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0039】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0040】
結果として、第1内部空所20に導入される被測定ガスの量が所定の範囲になっていればよい。すなわち、センサ素子101の先端部から第2拡散律速部13の全体として、所定の拡散抵抗を付与されていればよい。例えば、第1拡散律速部11が直接第1内部空所20と連通する、すなわち、緩衝空間12と、第2拡散律速部13とが存在しない態様としてもよい。
【0041】
緩衝空間12は、被測定ガスの圧力が変動する場合に、その圧力変動が検出値に与える影響を緩和するために設けられた空間である。
【0042】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空間へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0043】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0044】
主ポンプセル21は、前記被測定ガス流通空所15内に配設された空所内電極の内側主ポンプ電極22と、前記内側主ポンプ電極22とは固体電解質(
図2においては、第2固体電解質層6)を介して接するように配設された空所外電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。外側ポンプ電極23は、素子本体102の2つの主面のうちの上面102a上に配設されている。
【0045】
すなわち、主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0046】
内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20に面して配設されている。すなわち、内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0047】
内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側主ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0048】
主ポンプセル21においては、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を可変電源24により印加して、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0049】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0050】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0051】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0052】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をより高精度に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40及び補助ポンプセル50がない構成とすることもできる。酸素分圧の調整の精度の観点からは、第2内部空所40及び補助ポンプセル50があることがより好ましい。
【0053】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0054】
補助ポンプセル50は、前記被測定ガス流通空所15内の、前記内側主ポンプ電極22よりも前記基体部103の先端部から遠い位置に配設された空所内電極の補助ポンプ電極51と、前記補助ポンプ電極51とは固体電解質(
図2においては、第2固体電解質層6)を介して接するように配設された空所外電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。
【0055】
すなわち、補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、被測定ガス流通空所15内とは異なる位置、例えばセンサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0056】
補助ポンプ電極51は、第1内部空所20内に設けられた内側主ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0057】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側主ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0058】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を可変電源52により印加することによって、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0059】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0060】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0061】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0062】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)がさらに低く制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0063】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定を測定するための空間として設けられている。測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0064】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、前記被測定ガス流通空所15内の、前記補助ポンプ電極51よりも前記基体部103の先端部から遠い位置に配設された空所内電極の測定電極44と、前記測定電極44とは固体電解質(
図2においては、第2固体電解質層6、スペーサ層5及び第1固体電解質層4)を介して接するように配設された空所外電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。
【0065】
すなわち、測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、被測定ガス流通空所15内とは異なる位置、例えばセンサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0066】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。測定電極44は、金属成分として、触媒活性を有する貴金属(例えばPt,Rh,Ir,Ru,Pdの少なくとも1つ)を含む。
【0067】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0068】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0069】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部60を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N2+O2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0070】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0071】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0072】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0073】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、ヒータリード76と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
【0074】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されている電極である。ヒータ電極71を外部電源であるヒータ電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0075】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、ヒータ72に接続していて且つセンサ素子101の長手方向後端側に延びているヒータリード76と、スルーホール73とを介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0076】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できるように温度が調整されていればよい。これらの全域が同じ温度に調整される必要はなく、センサ素子101に温度分布があってもよい。
【0077】
本実施形態のセンサ素子101においては、ヒータ72が基体部103に埋設された態様であるが、この態様に限定されるものでない。ヒータ72は、基体部103を加熱するように配設されていればよい。すなわち、ヒータ72は、上述の主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できる酸素イオン伝導性を発現させる程度に、センサ素子101を加熱できるものであればよい。例えば、本実施形態のように基体部103に埋設されていてもよい。あるいは、例えば、ヒータ部70が基体部103とは別のヒータ基板として形成され、基体部103の隣接位置に配設されていてもよい。
【0078】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72及びヒータリード76の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されている絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0079】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、ヒータ絶縁層74と基準ガス導入空間43とが連通するように形成されている。圧力放散孔75によって、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇が緩和されうる。なお、圧力放散孔75のない構成としてもよい。
【0080】
(保護層)
センサ素子101は、上述の素子本体102と、素子本体102(基体部103)の長手方向の一方端(先端)から形成され、前記素子本体102の表面の前記長手方向の所定の長さLを覆う多孔質保護層90とを含む。ここで、素子本体102の長手方向の一方端は、被測定ガス流通空所15が形成されている側の一方端、すなわち、素子本体102の先端である。素子本体102は、長尺板状であり、素子本体102の上面102a及び下面102bが主面である。また、左面102c及び右面102dを側面、先端面102e及び後端面102fを端面と表記することもある。
【0081】
多孔質保護層90は、少なくとも前記空所外電極(本実施形態において、外側ポンプ電極23)の存在する前記一方の主面(上面102a)上において、素子本体102を覆う内層91、及び、内層91よりも外側に位置する外層92を含む。また、前記一方の主面(上面102a)上において、素子本体102(基体部103)の前記長手方向に、前記空所外電極が存在する電極存在領域、及び、前記電極存在領域の他方端側に続く後部領域を含む主領域と、前記基体部の長手方向の前記一方端から前記電極存在領域までの前部領域とを有している。
【0082】
多孔質保護層90は、多孔体からなる。多孔質保護層90の構成材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライト、チタニア、マグネシア等が挙げられる。これらのいずれかで1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。内層91の構成材料と外層92の構成材料とは、同じものであってもよいし、互いに異なっていてもよい。本実施形態では、多孔質保護層90(内層91及び外層92)はアルミナ多孔質体からなるものとした。
【0083】
本実施形態において、多孔質保護層90は、素子本体102の、素子本体102の先端から長手方向に所定の範囲(
図1において破線で示される部分)を覆っている。より詳細には、多孔質保護層90は、素子本体102の上面102aのうち、素子本体102の先端から長手方向に所定の長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90は、素子本体102の下面102bのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90は、素子本体102の左面102cのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90は、素子本体102の右面102dのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90は、素子本体102の先端面102eの全面を被覆している。
【0084】
内層91は、素子本体102の、少なくとも空所外電極(外側ポンプ電極23)が存在する主面(上面102a)において、素子本体102の先端から長手方向に所定の範囲を覆うように形成されている。本実施形態においては、内層91は、素子本体102の表面のうち、素子本体102の先端から長手方向に所定の長さLの領域の全体を被覆している。外層92は、内層91よりも外側に位置する。本実施形態において、外層92は、前記内層91の表面の全体を覆うように形成されている。すなわち、外層92は、内層91の表面のうち、素子本体102の先端から長手方向に所定の長さLの領域の全体を被覆している。
【0085】
このように、本実施形態においては、多孔質保護層90は、素子本体102の各面(上面102a、下面102b、左面102c、右面102d、及び先端面102e)上のいずれにおいても、内層91及び外層92の2層で構成されている。すなわち、本実施形態において、内層91の素子本体102の先端からの長手方向長さと、外層92の素子本体102の先端からの長手方向長さとは、概ね同じである。なお、以下において、上面102aをポンプ面102aとも称する。また、素子本体102の2つの主面のうちのポンプ面102aと対向する主面(下面102b)を、ヒータ面102bとも称する。
【0086】
図3は、多孔質保護層90の構成を示す、
図2と同じ断面における断面模式図である。
図3において、素子本体102の内部における被測定ガス流通空所15、空所内電極及び空所外電極以外の構成は図示を省略している。また、
図4は、
図3のIV-IV線に沿うセンサ素子101の断面模式図、すなわち、センサ素子101の長手方向に直交する断面模式図である。
図4において、素子本体102の内部における被測定ガス流通空所15(緩衝空間12)以外の構成は図示を省略している。
【0087】
図3に示すように、外側ポンプ電極23は、ポンプ面102aに素子本体102(基体部103)の先端から所定の間隔をおいて配設されている。外側ポンプ電極23は、各内部空所20,40,61からの酸素の汲み出しが可能な位置に配設されていればよい。素子本体102の先端からの前記所定の間隔は特に限定されないが、素子本体102(基体部103)の長手方向において、空所内電極(内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44の少なくともいずれか)に対応する位置に外側ポンプ電極23が配設されていてよい。例えば、各内部空所20,40,61の少なくともいずれかに対応する位置に配設されていてよい。例えば、第1内部空所20に対応する位置に配設されていてよい。第1内部空所20に被測定ガスを導入するための前段部分(ガス導入口10から第2拡散律速部13までの部分)に相当する所定の間隔をおいて配設されていてよい。
【0088】
図3に示すように、素子本体102(基体部103)の長手方向において、素子本体102のポンプ面102a上の多孔質保護層90のうちの、外側ポンプ電極23が存在する領域を電極存在領域90Eと称する。また、素子本体102のポンプ面102a上の多孔質保護層90のうちの、前記電極存在領域90Eの後方に続く領域、すなわち、前記電極存在領域90Eの後端から多孔質保護層90の後端までの領域を後部領域90Pと称する。後部領域90Pは、電極存在領域90Eのうちの前記一方端(先端)から最も遠い位置から多孔質保護層90のうちの前記一方端(先端)から最も遠い位置(多孔質保護層90の後端)までの領域である。前記電極存在領域90Eと前記後部領域90Pとからなる領域を主領域90Mと称する。素子本体102のポンプ面102a上の多孔質保護層90のうちの、素子本体102(基体部103)の先端から前記電極存在領域90Eの先端まで領域を前部領域90Aと称する。すなわち、前部領域90Aは、素子本体102の長手方向の前記一方端(先端)から電極存在領域90Eのうちの前記一方端(先端)に最も近い位置までの前記所定の間隔を占める領域である。つまり、前部領域90Aの後端と電極存在領域90Eの先端は接しており、電極存在領域90Eの後端と後部領域90Pの先端は接している。前部領域90Aの後端と主領域90Mの先端は接している。
【0089】
多孔質保護層90において、内層91のうちの前部領域91Aにおける気孔率は、内層91のうちの主領域91Mにおける気孔率よりも低い。内層91の前部領域91Aは、内層91のうちの、素子本体102の長手方向の前記一方端(先端)から外側ポンプ電極23の前記一方端に近い側の電極一方端(先端)までの所定の長手方向長さ(前記所定の間隔)を占める領域である。また、外層92の気孔率は、内層91の前部領域91Aにおける前記気孔率よりも低い。外層92の気孔率は、通常、内層91のいずれの位置における前記気孔率よりも低い。気孔率については、後に詳述する。
【0090】
図3に示すように、本実施形態の多孔質保護層90において、先端面102e上の内層91は、前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域を有しておらず、主領域91Mと同等の気孔率を有している。また、
図4に示すように、本実施形態の多孔質保護層90において、内層91のうちのポンプ面102a以外の各面102b、102c、102d上の内層91b、91c、91dは、前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域を有しておらず、長手方向の全域にわたって、主領域91Mと同等の気孔率を有している。また、本実施形態の多孔質保護層90において、
図3及び
図4に示される各角部についても、前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域を有しておらず、主領域91Mと同等の気孔率を有している。
【0091】
図2及び
図3に示されるように、多孔質保護層90は、ガス導入口10をも覆っている。しかしながら、多孔質保護層90が多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層90の内部を流通してガス導入口10に到達可能である。従って、測定対象ガスの検出・測定は問題なく行われる。
【0092】
多孔質保護層90は、例えば、ガスセンサの駆動時に、高温のセンサ素子101に水が掛かった場合に、素子本体102の内部構造にクラックが発生することを抑制する役割を果たす。センサ素子101に到達した水は、直接素子本体102の表面には付着せず、多孔質保護層90に付着する。付着した水により多孔質保護層90の表面は急冷されるが、多孔質保護層90の有する断熱効果により、素子本体102に加わる熱衝撃が低減される。その結果、素子本体102の内部構造にクラックが発生することを抑制できる。つまり、センサ素子101の耐被水性が向上する。
【0093】
多孔質保護層90において、内層91は、主として、センサ素子101の表面(多孔質保護層90の表面)から素子本体102への熱伝導を抑制する役割を果たす。すなわち、内層91は、内層91の有する断熱効果により、素子本体102に加わる熱衝撃を低減する機能を有する。また、内層91よりも気孔率の低い外層92は、主として、多孔質保護層90全体としての構造強度を維持する機能を有する。また、外層92は、多孔質保護層90の内部(内層91の内部)に水滴が侵入することを防ぐ機能も有する。これにより、内層91の内部での水滴の蒸発を防ぎ、素子本体102に加わる熱衝撃を低減することができる。
【0094】
また、多孔質保護層90は、外側ポンプ電極23を被覆している。多孔質保護層90は、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割も果たす。
【0095】
本発明者らは、内層及び外層を含む多孔質保護層を備えた従来のセンサ素子において、長時間の連続駆動を行った際に、測定対象ガス(例えば、酸素O2、窒素酸化物NOx等)の測定精度が低下する可能性があることを見出した。特に酸素の測定精度が低下する可能性があると考えられる。
【0096】
本発明者らは、この要因を鋭意検討した。
図5は、従来のセンサ素子において、酸素の測定精度が低下する原理を示す概念図である。
図5においては、説明の便宜上、素子本体102の構成のうち、ガス導入口10、第1内部空所20、内側主ポンプ電極22、及び外側ポンプ電極23を概念的に示している。すなわち、主ポンプセル21の構成を概念的に示している。また、被測定ガスのガス成分のうちの酸素O
2のみを示している。
図5において、多孔質保護層990は、一様な気孔率を有する内層991と、内層991よりも低い気孔率を有する外層92から構成されている。被測定ガスは、ガス導入口10から第1内部空所20内に導入される。被測定ガス中の酸素は、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に電圧を印加することにより、第1内部空所20内から、素子本体102の外部(外側ポンプ電極23の近傍の内層991内)へと汲み出される。その際、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間には第1内部空所20内に導入されたガス中の酸素濃度に応じたポンプ電流が流れる。そのため、このポンプ電流の電流値から被測定ガス中の酸素濃度を測定することができる。
【0097】
内層991は、気孔率が低い外層92に覆われている。そのため、第1内部空所20から外側ポンプ電極23の近傍に汲み出された酸素は、主に内層991内を素子本体102の長手方向に拡散していく。外層92を通り抜けて拡散する酸素も少量存在する(図示省略)。内層991の気孔率は一様であるので、汲み出された酸素は、内層991内を前記長手方向に素子本体102の先端方向及び後端方向のいずれに対しても同程度拡散していくと考えられる。
【0098】
第1内部空所20内から汲み出された後に素子本体102の先端方向に拡散していった酸素は、素子本体102の先端面102eのガス導入口10から再び第1内部空所20内に導入(再導入)されてしまうことがありうる。この場合、被測定ガスに加えて、既に第1内部空所20内から汲み出された酸素が第1内部空所20内に導入されることになる。その結果、第1内部空所20内の酸素濃度は、被測定ガス中の実際の酸素濃度と比べて高くなることが懸念される。上述のとおり、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に流れるポンプ電流の電流値は、第1内部空所20内に導入されたガス中の酸素濃度に応じた値であるので、このポンプ電流の電流値から求めた酸素濃度は、被測定ガス中の実際の酸素濃度よりも高くなってしまう可能性があると考えられる。つまり、酸素濃度の測定精度が低下することが懸念される。また、第1内部空所20内の酸素濃度は、被測定ガス中の実際の酸素濃度よりも高くなることにより、被測定ガス中の酸素以外の測定対象ガス(例えば、NOx)の濃度が被測定ガス中の実際の測定対象ガス濃度よりも相対的に低くなる可能性があると考えられる。その結果、酸素以外の測定対象ガス(例えば、NOx)の測定精度も低下する可能性がある。
【0099】
このような第1内部空所20内から汲み出された酸素の第1内部空所20への再導入が起こる場合には、連続的に起こると考えられる。従って、ガスセンサの駆動時間が長くなればなるほど、第1内部空所20内の酸素濃度が、被測定ガス中の実際の酸素濃度と比べて徐々に高くなっていくことが考えられる。つまり、長時間の連続駆動を行った場合に、測定精度が低下することが懸念される。
【0100】
一方、後端方向に拡散していった酸素は、多孔質保護層990の後端からセンサ素子101の外部空間に放出される。この場合は、上述のような第1内部空所20内から汲み出された酸素の第1内部空所20への再導入は起こらないため、酸素濃度の測定精度は維持される。
【0101】
本発明者らは、さらに鋭意検討の結果、前記保護層(多孔質保護層90)の内層91のうちの前部領域91Aにおける気孔率を、前記前部領域91Aに続く主領域91Mにおける気孔率よりも低くすることにより、上述の再導入の発生を抑制できることを見出した。
図6は、本発明の一実施形態のセンサ素子101において、第1内部空所20内から汲み出された酸素が拡散する様子を示す概念図である。
図6においては、
図5と同様に、説明の便宜上、素子本体102の構成のうち、ガス導入口10、第1内部空所20、内側主ポンプ電極22、及び外側ポンプ電極23を概念的に示している。また、被測定ガスのガス成分のうちの酸素O
2のみを示している。
【0102】
従来のセンサ素子の場合と同様に、第1内部空所20内から汲み出された酸素は、主に内層91内を素子本体102の長手方向に拡散していく。しかしながら、内層91の前部領域91Aにおける気孔率は、内層91の主領域91Mにおける気孔率よりも低いので、素子本体102の先端方向への拡散(破線矢印)が抑制されて、後端方向への拡散(実線矢印)が主となる。後端方向に拡散していった酸素は、多孔質保護層90の後端からセンサ素子101の外部空間に放出される。このように、センサ素子101においては、第1内部空所20内から汲み出された酸素の第1内部空所20への再導入の発生を抑制することができるため、酸素濃度の測定精度を高く維持できうる。前部領域91Aと主領域91Mとに気孔率差をつけることにより、より後端方向への拡散を促進して上記再導入を抑制できるため、酸素濃度の測定精度は高く維持できうる。
【0103】
多孔質保護層90(特に内層91)は、素子本体102のうちのガスセンサの駆動時に高温になる部分を覆うとよい。多孔質保護層90全体の前記長手方向の長さL及び内層91の前記長手方向の長さLAは、ガスセンサ100において素子本体102が被測定ガスに晒される範囲、外側ポンプ電極23の位置、被測定ガス流通空所15の位置、素子本体102の温度分布などに基づいて、素子本体102の先端面から空所外電極(外側ポンプ電極23)の電極後端までの前記長手方向の長さよりも長く、素子本体102の長手方向の全長以下の範囲内で適宜定めるとよい。
【0104】
多孔質保護層90は、素子本体102のうちの、素子本体102の先端から素子本体102の長手方向に、外側ポンプ電極23の電極後端までを少なくとも覆っている。好ましくは、多孔質保護層90は、素子本体102の先端から、被測定ガス流通空所15の後端の位置までを少なくとも覆っているとよい。すなわち、多孔質保護層90の後部領域90P(内層91の後部領域91P)は、基体部103の前記長手方向に、被測定ガス流通空所15よりも基体部103の長手方向の前記一方端(先端)から遠い位置まで延びているとよい。ガスセンサの駆動時において、被測定ガス流通空所15が存在する位置は、通常、固体電解質の酸素イオン伝導性が発現する程度の高温になっている。このような範囲を多孔質保護層90で覆うことにより、素子本体102の高温になっている部分に加わる熱衝撃を効果的に低減することができる。
【0105】
また、例えば、多孔質保護層90は、素子本体102のうちの被測定ガスに晒される部分のほぼ全体を覆っていてもよい。例えば、多孔質保護層90は、素子本体102の先端から基準電極42が形成されている長手方向の位置までをほぼ覆うように形成されていてもよい。あるいは、例えば、素子本体102の先端から基準ガス導入空間43の先端側の側面の長手方向の位置までをほぼ覆うように形成されていてもよい。あるいは、更に後方まで覆っていてもよい。本実施形態においては、2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)及び2つの側面(左面102c及び右面102d)の各面において、多孔質保護層90の長手方向の長さLは全て同じであるが、多孔質保護層90の長手方向の長さLは、2つの主面及び2つの側面において、互いに異なっていてもよい。
【0106】
多孔質保護層90全体の素子本体102の先端からの長手方向の長さLは、素子本体102の構成により異なるが、例えば、7mm以上、9mm以上、あるいは、10mm以上であってよい。また、長さLは、例えば、17mm以下、あるいは、14mm以下であってもよい。本実施形態においては、2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)及び2つの側面(左面102c及び右面102d)の各面において、多孔質保護層90の長手方向の長さLは全て同じであるが、多孔質保護層90の長手方向の長さLは、2つの主面及び2つの側面において、互いに異なっていてもよい。
【0107】
外層92は、多孔質保護層90全体としての構造強度を維持できる程度に内層91を覆っているとよい。
図3に示すように、外層92の素子本体102の先端からの長手方向長さは、内層91の素子本体102の先端からの長手方向長さと同じであってよい。また、外層92は、内層91を完全に覆っていてもよく(外層92の素子本体102の先端からの長手方向長さの方が長い)、内層91の前記長手方向の後端を含む一部が露出していてもよい(内層91の素子本体102の先端からの長手方向長さの方が長い)。本実施形態においては、2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)及び2つの側面(左面102c及び右面102d)の各面において、外層92の長手方向の長さと内層91の長手方向の長さとは同じであるが、外層92の長手方向の長さと内層91の長手方向の長さとの間の大小関係が各面において互いに異なっていてもよい。
【0108】
内層91の厚みは、例えば、200μm以上800μm以下であってよい。本実施形態においては、素子本体102の各面の多孔質保護層90の内層91の厚みは全て同程度の厚みであるが、内層91の厚みは素子本体102の各面において互いに異なっていてもよい。また、外層92の厚みは、例えば、100μm以上400μm以下であってよい。本実施形態においては、素子本体102の各面の多孔質保護層90の外層92の厚みは全て同程度の厚みであるが、外層92の厚みは素子本体102の各面において互いに異なっていてもよい。
【0109】
厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により得られた画像(SEM画像)を用いて、以下のように求める。センサ素子101を、素子本体102の存在する領域(例えば、センサ素子101の幅方向の中央付近)で、センサ素子101の長手方向に切断する。その切断面を樹脂埋めして研磨し、観察試料とする。SEMの倍率を80倍に設定して観察試料の観察面を撮影し、多孔質保護層90の断面のSEM画像を得る。素子本体102の表面に垂直な方向を厚み方向とし、外層92の表面(多孔質保護層90の表面)から内層91との境界面までの距離を導出し、この距離を外層92の厚みとする。また、内層91の表面から素子本体102との境界面までの距離を導出し、この距離を内層91の厚みとする。また、外層92の表面(多孔質保護層90の表面)から素子本体102との境界面までの距離を導出し、この距離を多孔質保護層90の厚みとする。多孔質保護層90の厚みは、導出した外層92の厚み及び内層91の厚みの和を算出して求めてもよい。
【0110】
図3に示すように、多孔質保護層90の前記長手方向の後端付近においては、内層91の厚みは、通常、後端に向かって薄くなっていくことが多い。また、多孔質保護層90の前記長手方向の先端の角部が丸くなっていることが多い。上記の厚みの導出は、多孔質保護層90の厚みが一様な領域(先端部分及び後端部分以外の領域)において行う。
【0111】
次に、多孔質保護層90の内層91の気孔率について、
図3を参照して説明する。
【0112】
上述のとおり、内層91において、内層91の前記前部領域91Aにおける気孔率ρAは、内層91の前記主領域91Mにおける気孔率ρMよりも低い(ρA<ρM)。すなわち、前部領域91Aにおける気孔率ρAの主領域91Mにおける気孔率ρMに対する気孔率差Δρ(=ρA-ρM)が負である(Δρ<0)。
図3に示すように、本実施形態においては、前部領域91A及び主領域91Mがそれぞれ一様な気孔率を有している例を示している。
【0113】
好ましくは、内層91の前記前部領域91Aにおける気孔率ρAは、内層91の前記主領域91Mにおける気孔率ρMよりも5%以上低くてよい。すなわち、前部領域91Aにおける気孔率ρAの主領域91Mにおける気孔率ρMに対する気孔率差Δρ(=ρA-ρM)が-5%以下であってよい(Δρ≦-5%)。このような範囲であれば、主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41によって外側ポンプ電極23の近傍に汲み出された酸素が、素子本体102の先端方向に拡散することをより抑制できる。従って、汲み出された酸素がガス導入口10から被測定ガス流通空所15内に再導入されることをより効果的に防ぐことができる。汲み出された酸素は、主に素子本体102の後端方向に拡散して、多孔質保護層90の後端からセンサ素子101の外部に放出される。さらに好ましくは、気孔率差は気孔率差Δρ(=ρA-ρM)が-10%以下であってよい(Δρ≦-10%)。
【0114】
内層91の前部領域91Aにおける気孔率は、例えば、30体積%以上50体積%以下であってよい。ここで、前部領域91Aにおける気孔率は、前部領域91Aにおける平均気孔率であってよい。内層91の前部領域91Aにおける気孔率は、例えば、30体積%以上45体積%以下、又は30体積%以上40体積%以下であってもよい。
【0115】
また、内層91の前記主領域91Mにおける気孔率は、例えば、40体積%以上80体積%以下であってよい。ただし、内層91の前部領域91Aにおける気孔率よりも高いことを条件とする。ここで、主領域91Mにおける気孔率は、主領域91Mの平均気孔率であってよい。内層91の主領域91Mにおける気孔率は、例えば、40体積%以上70体積%以下、又は40体積%以上60体積%以下であってもよい。
【0116】
なお、内層91のうちの素子本体102のポンプ面102a以外の各面(ヒータ面102b、左面102c、右面102d、先端面102e)上の内層91における気孔率は特に限定されないが、例えば、30体積%以上80体積%以下であってよい。上面102a以外の各面上の内層91における気孔率は、ポンプ面102a上の主領域91Mにおける気孔率と同程度であってもよい。
【0117】
気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により得られた画像(SEM画像)を用いて、以下のように求める。上記の厚みの場合と同様に観察試料を作製し、SEMの倍率を100倍に設定して、多孔質保護層90の内層91の断面のSEM画像を得る。詳細には、内層91の前部領域91Aの全域にわたって複数のSEM画像を得る。それぞれのSEM画像について、「大津の2値化」(判別分析法ともいう)を用いて2値化する。2値化された画像は、アルミナが白で表され、気孔が黒で表される。2値化された画像のアルミナの部分(白)の面積と気孔の部分(黒)の面積を得る。それぞれのSEM画像について、全面積(アルミナの部分の面積と気孔の部分の面積の合計)に対する気孔の部分の面積の割合を算出し、それらの平均値(平均気孔率)を内層91の前記前部領域91Aにおける気孔率として用いてよい。
【0118】
また、内層91の主領域91Mの全域にわたって複数のSEM画像を得る。得られたそれぞれのSEM画像について、上記の前部領域91Aの場合と同様に、全面積(アルミナの部分の面積と気孔の部分の面積の合計)に対する気孔の部分の面積の割合を算出し、それらの平均値(平均気孔率)を内層91の主領域91Mにおける気孔率として用いてよい。
【0119】
内層91の前部領域91Aにおける気孔率として、平均気孔率に替えて、前部領域91Aの長手方向の所定の位置における気孔率を用いてもよい。例えば、前部領域91Aの中央位置における気孔率を用いてもよい。また、内層91の主領域91Mにおける気孔率としては、平均気孔率に替えて、主領域91Mの長手方向の所定の位置における気孔率を用いてもよい。例えば、主領域91Mの中央位置における気孔率を用いてもよい。あるいは、主領域91Mのうちの外側ポンプ電極23の後端側電極端の位置(電極存在領域91Eの後端)における気孔率を用いてもよい。
【0120】
外層92の気孔率は、上述のとおり、内層91のいずれの位置における気孔率よりも低い。外層92の気孔率は、例えば、10体積%以上35体積%以下程度であってよい。ただし、内層91の前部領域91A及び主領域91Mのいずれの位置における気孔率よりも低いことを条件とする。外層92の気孔率についても、上述の気孔率の導出方法を用いて求めることができる。外層92は、観察箇所によらず、実質的に同じ気孔率を有していると考えられる。そのため、ある1つの断面画像を用いて求めた気孔率の値を、外層92における気孔率の値として用いてよい。
【0121】
上記に、本発明の実施形態の例として、被測定ガス中のNOx濃度を検出するセンサ素子101及びセンサ素子101を含むガスセンサ100を示したが、本発明はこの形態に限られない。本発明には、高い耐被水性を維持しつつ、長時間の連続駆動においても高い測定精度を維持するという本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の形態のセンサ素子が含まれ得る。
【0122】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、多孔質保護層90の内層91において、
図3に示すように、前部領域91A及び主領域91Mがそれぞれ一様な気孔率を有している例を示したが、これに限られない。内層91の前部領域91Aにおける気孔率ρAが主領域91Mにおける気孔率ρMよりも低くなっていればよく、内層91は種々の構造をとり得る。
【0123】
例えば、内層91の前部領域91Aにおいて、素子本体102の長手方向に気孔率が異なっていてもよい。例えば、前部領域91Aにおいて、素子本体102の先端から長手方向に気孔率が高くなっていてもよい。あるいは、例えば、先端から長手方向に気孔率が低くなっていてもよい。
【0124】
また、例えば、内層91の主領域91Mにおいて、素子本体102の先端側から長手方向に気孔率が高くなっていてもよい。あるいは、例えば、素子本体102の長手方向に、外側ポンプ電極23が存在する電極存在領域91Eと、電極存在領域91Eの後方に続く後部領域91Pとにおいて互いに気孔率が異なっていてもよい。電極存在領域91Eにおける気孔率は、後部領域91Pにおける気孔率よりも高くてもよいし、低くてもよい。
【0125】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、多孔質保護層90の内層91において、ポンプ面102a以外の各面上の内層91における気孔率は、ポンプ面102a上の主領域91Mにおける気孔率と同程度としたが、これに限られない。素子本体102のポンプ面102a以外の各面(ヒータ面102b、左面102c、右面102d、先端面102e)の少なくとも一面上において、内層91に前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域がさらに存在していてもよい。
【0126】
図4の断面において、内層91のうちのポンプ面102a以外の面上の内層91b、91c、91dのうちの少なくとも1つ以上において、ポンプ面102a上の前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域がさらに存在していてもよい。例えば、
図4の断面において、内層91全体が、ポンプ面102a上の前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域になっていてもよい。すなわち、素子本体102の長手方向において、素子本体102から外側ポンプ電極23の先端までの領域の全周(ポンプ面102a、ヒータ面102b、左面102c、及び右面102d)が、ポンプ面102a上の前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域になっていてもよい。
【0127】
また、例えば、内層91のうちの両側面上の内層91c、91dが、ポンプ面102a上の前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域になっていてもよい。また、例えば、両側面上の内層91c、91dのうちの、上端から被測定ガス流通空所15(緩衝空間12)の下面までの範囲の内層91cu、91duが、ポンプ面102a上の前部領域91Aに相当する気孔率の低い領域になっていてもよい。側面の内層91c、91dを通じて、先端方向への酸素が拡散することをもさらに抑制できるため、より測定精度を高く維持でき得る。
【0128】
また、内層91の気孔率は、素子本体102(基体部103)の長手方向の前記一方端(先端)から、素子本体102(基体部103)の長手方向に段階的に又は連続的に高くなっていてよい。上述の実施形態における内層91は、2段階に気孔率が高くなっていたが、3段階又はそれ以上に段階的に(概ね段階的に)気孔率が低くなっていてもよい。さらには、連続的に(概ね連続的に)気孔率が低くなっていてもよい。
【0129】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、多孔質保護層90は、内層91及び外層92から構成されていたが、これに限られない。内層91と外層92との間に1つ又は複数の中間層が存在してもよい。
【0130】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、多孔質保護層90は、素子本体102の各面のいずれにおいても、内層91及び外層92の2層で構成されていたが、これに限られない。素子本体102のポンプ面102a以外の各面(ヒータ面102b、左面102c、右面102d、先端面102e)の少なくとも一面上において、多孔質保護層90が1層で構成されていてもよい。
【0131】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、外側ポンプ電極23が素子本体102の表面に位置し、多孔質保護層90の内層91は、素子本体102の表面の外側ポンプ電極23に接して形成されていたが、これに限られない。例えば、素子本体102には、2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)上に主面保護層が設けられていてもよい。主面保護層は、素子本体102の主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)及びポンプ面102a上の外側ポンプ電極23に対する異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられる。主面保護層は、例えば、アルミナ等のセラミックスからなる多孔質層である。主面保護層の気孔率は、例えば、20体積%以上40体積%以下程度であってよい。また、主面保護層の厚みは、例えば、5μm~30μm程度であってよい。
【0132】
また、例えば、素子本体102には、内層91を形成する際の下地層がさらに設けられていてもよい。下地層は、素子本体102と内層91との間の密着性をさらに向上させるために設けられる。下地層を設ける場合には、少なくとも素子本体102の2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)上に設けるとよい。下地層は、例えば、アルミナ等のセラミックスからなる多孔質層である。下地層の気孔率は、40体積%以上程度であってよい。例えば、40体積%以上60体積%以下程度であってよい。また、下地層の厚みは、例えば、20μm~60μm程度であってよい。
【0133】
上述の実施形態においては、ガスセンサ100は被測定ガス中のNOx濃度を検出したが、測定対象ガスはNOxに限られない。ガスセンサ100のセンサ素子は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いた構成であればよい。測定対象ガスは、例えば、酸素O2又はNOx以外の他の酸化物ガス(例えば、二酸化炭素CO2、水H2O等)であってもよい。あるいは、アンモニアNH3等の非酸化物ガスであってもよい。
【0134】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、センサ素子101は、
図2に示すように、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所61の3つの内部空所を備え、各内部空所には、内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造であったが、これに限られない。例えば、第1内部空所20及び第2内部空所40の2つの内部空所を備え、第1内部空所20には内側主ポンプ電極22が、第2内部空所40には補助ポンプ電極51及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造としてもよい。この場合、例えば、補助ポンプ電極51と測定電極44との間の拡散律速部として、測定電極44を覆う多孔体保護層を形成してもよい。また、例えば、内部空所の数は、1つでもよいし、4つ以上であってもよい。
【0135】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、外側ポンプ電極23は、主ポンプセル21における外側主ポンプ電極と、補助ポンプセル50における外側補助ポンプ電極と、測定用ポンプセル41における外側測定電極との3つの電極の機能を兼ねていたが、これに限られない。例えば、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極はそれぞれ別の電極として形成されていてもよい。例えば、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極のいずれか1つ以上を外側ポンプ電極23とは別に基体部103の外表面に被測定ガスと接するように設けてもよい。この場合、前部領域とは、素子本体102の長手方向において、素子本体102の先端から、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極のうちの最も先端側に配設された電極の先端までの領域を意味する。また、外側主ポンプ電極、外側補助ポンプ電極、及び外側測定電極のうちの1つあるいは2つを基準電極42が兼ねていてもよい。
【0136】
また、上記の構成以外にも、被測定ガス流通空所15や各電極等の素子本体102の各構成要素は、測定対象ガスの種類、ガスセンサの使用目的や使用環境等に応じて、種々の態様を取り得る。
【0137】
[センサ素子製造方法]
次に、上述のようなセンサ素子の製造方法の一例を説明する。センサ素子101の製造方法においては、まず素子本体102を製造し、その後、素子本体102に多孔質保護層90を形成して、センサ素子101を製造する。
【0138】
以下においては、
図2に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。
図7は、センサ素子の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0139】
(素子本体の製造)
最初に、素子本体102を製造する方法を説明する。まず、6枚のブランクシートを準備する(ステップS1)。ブランクシートは、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含むグリーンシートである。グリーンシートの作製には、公知の成形方法を用いることができる。6枚のグリーンシートそれぞれに、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴等を、パンチング装置による打ち抜き処理などの公知の方法で、予め形成する。これをブランクシートと称する。なお、スペーサ層5に用いるブランクシートには、内部空所等の貫通部も同様の方法で形成する。その他の層にも必要な貫通部を予め形成する。6枚のブランクシートは全て同じ厚みでもよいし、形成する層によって厚みが異なってもよい。
【0140】
第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層に用いるブランクシートに、各層毎に必要な種々のパターンの印刷・乾燥処理を行う(ステップS2)。パターンの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を用いることができる。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いることができる。
【0141】
このような工程を繰り返し、6枚のブランクシートそれぞれに対する種々のパターンの印刷・乾燥が終わると、6枚の印刷済みブランクシートを、シート穴等で位置決めしつつ所定の順序で積み重ねて、所定の温度・圧力条件で圧着させる圧着処理を行い、積層体を形成する(ステップS3)。圧着処理は、公知の油圧プレス機等の積層機で加熱・加圧することにより行う。加熱・加圧する温度、圧力及び時間は、用いる積層機に依存するものであるが、良好な積層が実現できるように、適宜定めることができる。
【0142】
得られた積層体は、複数個の素子本体102を包含している。その積層体を切断して素子本体102の単位に切り分ける(ステップS4)。切り分けられた積層体を所定の焼成温度で焼成し、素子本体102を得る(ステップS5)。焼成温度は、センサ素子101の基体部103を構成する固体電解質が焼結して緻密体となり、かつ、電極等が所望の気孔率を保持する温度であればよい。例えば、1300~1500℃程度の焼成温度で焼成される。
【0143】
(保護層の製造)
次に、素子本体102に多孔質保護層90(内層91及び外層92)を形成する方法を説明する。本実施形態においては、プラズマ溶射により多孔質保護層90を形成する。
【0144】
まず、内層91となるべき溶射膜を形成する。すなわち、素子本体102の所定の領域に予め準備された内層形成用粉末を溶射する(ステップS6)。次に、素子本体102の内層91となるべき溶射膜上に予め準備された外層形成用粉末を溶射する(ステップS7)。その後、脱脂(ステップS8)して、多孔質保護層90(内層91及び外層92)を形成する。
【0145】
内層形成用粉末は、内層91の材質からなり所定の粒度分布を有する原料粉末(本実施形態においてはアルミナ粉末)と、造孔材とを含む。造孔材としては、例えば、テオブロミン等のキサンチン誘導体、アクリル樹脂等の有機樹脂材料、カーボン等の無機材料等を用いることができる。内層形成用粉末は、アルミナ粉末と有機造孔材とを、形成すべき内層91の気孔率に応じた割合で含む。本実施形態においては、ポンプ面102a上の内層91の前部領域91Aの気孔率に応じた第1内層形成用粉末、及びポンプ面102a上の内層91の主領域91Mの気孔率に応じた第2内層形成用粉末を準備する。
【0146】
素子本体102の表面のうちの内層91を形成すべき領域に内層形成用粉末を溶射して溶射膜を形成する(ステップS6)。溶射には、公知のプラズマ溶射技術を用いることができる。具体的には、内層91を形成すべき領域のうちの前部領域91Aを形成すべき領域には、第1内層形成用粉末を溶射して溶射膜を形成する。例えば、素子本体102のうちの前部領域91Aを形成すべき領域以外を邪魔板で覆って(マスキング)、前部領域91Aを形成すべき領域に対して第1内層形成用粉末を溶射するようにしてよい。また、内層91を形成すべき領域のうちの主領域91Mを形成すべき領域には、第2内層形成用粉末を溶射して溶射膜を形成する。また、本実施形態においては、ポンプ面102a以外の各面上の内層91における気孔率は、前記主領域91Mにおける気孔率と同じであるので、ポンプ面102a以外の各面上の内層91を形成すべき領域にも、第2内層形成用粉末を溶射して溶射膜を形成する。例えば、前部領域91Aとなるべき溶射膜と、素子本体102のうちの内層91を形成しない領域とを邪魔板で覆って(マスキング)、マスキングしていない領域に対して第2内層形成用粉末を溶射するようにしてよい。なお、これらの溶射膜の形成順序は適宜決めることができる。また、複数の領域を同時に形成してもよい。
【0147】
次に、外層92を形成する。素子本体102の内層91となるべき溶射膜上の所定の領域に予め準備された外層形成用粉末を溶射して(ステップS7)、外層92を形成する。
【0148】
外層形成用粉末は、外層92の材質からなり所定の粒度分布を有する原料粉末(本実施形態においてはアルミナ粉末)を含む。内層形成用粉末の場合とは異なり、外層形成用粉末は、通常、造孔材を含まない。
【0149】
素子本体102上に形成された内層91となるべき溶射膜の表面のうちの外層92を形成すべき領域に外層形成用粉末を溶射して溶射膜(すなわち外層92)を形成する(ステップS7)。溶射には、公知のプラズマ溶射技術を用いることができる。
【0150】
最後に、形成された内層91となるべき溶射膜を熱処理して脱脂する(ステップS8)。脱脂により、前記溶射膜中の造孔材を消失させて、多孔体からなる内層91を形成する。脱脂工程は、所定の脱脂温度にて行う。脱脂温度は、内層91の膜中の造孔材成分が全て消失し、内層91の多孔体としての構造が維持される温度であればよい。脱脂温度は素子本体102の焼成温度より低くてよい。例えば、400~900℃程度の脱脂温度で脱脂される。脱脂工程においては、造孔材を含まない外層92の溶射膜も同時に熱処理されることになる。
【0151】
上記の製造方法においては、内層形成用粉末の溶射(ステップS6)、外層形成用粉末の溶射(ステップS7)、脱脂(ステップS8)の順に行ったが、内層形成用粉末の溶射(ステップS6)、脱脂(ステップS8)を行い、その後、外層形成用粉末の溶射(ステップS7)を行ってもよい。
【0152】
上記の製造方法においては、プラズマ溶射によって、内層91及び外層92を形成したが、これに限られない。内層91及び外層92を、スクリーン印刷、ディッピング、ゲルキャスト法等の他の方法を用いて形成してもよい。また、内層91及び外層92をそれぞれ別の方法を用いて形成してもよい。
【0153】
得られたセンサ素子101は、センサ素子101の先端部が被測定ガスに接し、センサ素子101の後端部が基準ガスに接するような態様で、所定のハウジングに収容されてガスセンサ100に組み込まれる。
【実施例0154】
以下に、センサ素子を具体的に作製して試験を行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0155】
[1.実施例1~2及び比較例1~2の作製]
上述したセンサ素子101の製造方法に従って、実施例1~2及び比較例1~2のセンサ素子を作製した。具体的には、まず、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmの素子本体102を作製した。その後、多孔質保護層90(内層91及び外層92)をプラズマ溶射にて形成して、センサ素子を作製した。
【0156】
実施例1~2及び比較例1~2のセンサ素子は、前部領域91Aにおける気孔率ρAと主領域91Mにおける気孔率ρMとの間の気孔率差Δρ(=ρA-ρM)が、それぞれ以下に示す値になるようにした。内層91の前部領域91Aにおける気孔率ρA、及び主領域91Mにおける気孔率ρMは、それぞれ上述の気孔率の導出方法を用いて求めた。
【0157】
実施例1のセンサ素子において、気孔率差Δρは-5%とした。前部領域91Aにおける気孔率ρAは約50%、主領域91Mにおける気孔率ρMは約55%であった。
【0158】
実施例2のセンサ素子において、気孔率差Δρは-10%とした。前部領域91Aにおける気孔率ρAは約45%、主領域91Mにおける気孔率ρMは約55%であった。
【0159】
比較例1のセンサ素子において、気孔率差Δρは0%とした。前部領域91Aにおける気孔率ρAは約50%、主領域91Mにおける気孔率ρMは約50%であった。
【0160】
比較例2のセンサ素子において、気孔率差Δρは5%とした。前部領域91Aにおける気孔率ρAは約55%、主領域91Mにおける気孔率ρMは約50%であった。
【0161】
なお、実施例1~2及び比較例1~2のセンサ素子のいずれにおいても、内層91の素子本体102の先端からの長手方向の長さは10mmとし、内層91の厚みは500μmとした。いずれの場合においても、内層91のうち、ポンプ面102a以外の各面上における気孔率は、主領域91Mにおける気孔率ρMと同じとした。
【0162】
また、実施例1~2及び比較例1~2のセンサ素子のいずれにおいても、外層92の素子本体102の先端からの長手方向の長さは10mmとし、外層92の厚みは200μmとした。外層92の気孔率は、25%であった。
【0163】
[2.測定精度の評価]
実施例1~2及び比較例1~2のセンサ素子について、測定精度の評価を行った。被測定ガス中のO2濃度に応じて流れるポンプ電流Ip0を用いて、連続駆動時における測定精度の評価を行った。具体的には、まず、ヒータ72に通電して温度を800℃とし、センサ素子を加熱した。この状態で、大気雰囲気中で通常駆動時のポンプ制御を行った。すなわち、上述のように、主ポンプセル21、補助ポンプセル50、測定用ポンプセル41、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81、及び測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82を作動させた。第1内部空所20内の酸素濃度を所定の一定値に保つように制御し、主ポンプセル21に被測定ガス(ここでは大気)中の酸素濃度に応じたポンプ電流Ip0を流した。この状態で100時間連続駆動した。
【0164】
通常駆動開始時のポンプ電流Ip0(Ip00H)と、連続駆動100時間経過時のポンプ電流Ip0(Ip0100H)とを、それぞれ取得した。ここで、通常駆動開始時とは、センサ素子の温度が安定し、ポンプ電流Ip0の電流値が安定した時点を意味する。次式によりポンプ電流Ip0の変化率(O2信号変化率)を算出した。
【0165】
O2信号変化率(%)=(Ip0100H/Ip00H-1)×100
【0166】
算出したO2信号変化率に基づいて、以下の基準で、O2濃度の測定精度(O2信号精度)を評価した。結果を表1に示す。
【0167】
A:O2信号変化率が±5%以内
B:O2信号変化率が±5%より大きく、±10%以内
C:O2信号変化率が±10%より大きい
【0168】
【0169】
表1に示されるように、実施例1~2はいずれも、比較例1~2と比較して、連続駆動100時間経過後であっても、O2信号精度が高く維持できたことが確認された。また、気孔率差が大きい、すなわち、前部領域91Aにおける気孔率ρAが、主領域91Mにおける気孔率ρMと比べてより低いと、O2信号精度をより高く維持できることが分かった。
【0170】
以上のように、本発明によれば、内層91の前部領域91Aにより、被測定ガス流通空所15内から汲み出された酸素が、内層91を通じてガス導入口10から再度被測定ガス流通空所15に流入することを防ぐことができるため、連続駆動を行った場合であっても高い測定精度を維持できる。従って、素子本体102と内層91との間の密着強度を高く維持しつつ、電極存在領域91bの断熱効果を高く維持できる。従って、高い耐被水性を有し且つ高い測定精度を維持できるセンサ素子を提供することができる。