(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139563
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】温熱具の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20241002BHJP
D04H 1/542 20120101ALI20241002BHJP
D04H 1/55 20120101ALI20241002BHJP
B32B 27/12 20060101ALI20241002BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20241002BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20241002BHJP
B29C 43/58 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B32B5/26
D04H1/542
D04H1/55
B32B27/12
B32B7/027
B29C43/20
B29C43/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050563
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳野 雅之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 陽一
【テーマコード(参考)】
4F100
4F204
4L047
【Fターム(参考)】
4F100AK01
4F100AK01B
4F100AK04
4F100AK04B
4F100AK07
4F100AK07B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA08
4F100DG15
4F100DG15A
4F100DG15C
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100GB41
4F100JA04
4F100JA04A
4F100JA04B
4F100JA04C
4F100JD02
4F204AA03
4F204AC03
4F204AD16
4F204AG03
4F204AH81
4F204AR02
4F204AR06
4F204FA01
4F204FB01
4F204FB22
4F204FG02
4F204FN11
4F204FN15
4L047AA21
4L047AB02
4L047BA09
4L047BB06
4L047CA05
4L047CA06
4L047CA12
4L047CC16
(57)【要約】
【課題】シート状の温熱具の製造において、短時間で突起部成形をする際の通気性シートの通気度変動制御とシート状の温熱具の突起部強度を制御すること。
【解決手段】本発明の製造方法は、積層シート20を、突起部形成用の凸部を有する第一金型11Aと該凸部に対応する凹部を有する第二金型11Bとを用いて加熱及び加圧し、積層シート20に突起部5を成形する加熱変形工程と、突起部5内に発熱材料を充填する充填工程を行う。加熱変形工程は、加熱温度を第二融点の±15℃とし、付加圧力を0.1MPa以上1MPa以下とし、積層シート20の変形開始時からプレスの終了時までの間の、第一金型及び第二金型が停止している時間である移動停止時間を0.5秒以上200秒以下とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突起部を有する温熱具の製造方法であって、
帯状の積層シートを、突起部形成用の凸部を有する第一金型と該凸部に対応する凹部を有する第二金型とを用いて加熱及び加圧することによって、該積層シートに突起部を成形する加熱変形工程と、
前記突起部が形成された前記積層シートの該突起部内に、発熱材料を配する材料充填工程と、を備え、
前記積層シートは、樹脂シートの両面に不織布が積層された構造を有し、
前記樹脂シートは、ポリプロピレン及び/又はポリエチレンを含む、通気性の多孔質シートであり、
前記不織布の構成樹脂の中で最も融点が低い樹脂の融点を第一融点、前記樹脂シートを構成する樹脂の中で最も構成比が高い樹脂の融点を第二融点と定義したときに、第一融点が第二融点よりも低く、
前記加熱変形工程は、
加熱温度を第二融点の±15℃とし、
付加圧力を0.1MPa以上1MPa以下とし、
前記積層シートの変形開始時から、該積層シートにおける前記突起部となる部位を、第一金型の前記凸部と第二金型の前記凹部との間で挟圧するプレスの終了時までの間の、第一金型及び第二金型が停止している時間である移動停止時間を0.5秒以上200秒以下として行う、温熱具の製造方法。
【請求項2】
前記付加圧力を0.3MPa以上とする、請求項1に記載の温熱具の製造方法。
【請求項3】
前記加熱変形工程は、前記積層シートの変形開始時から前記プレスの終了時までの間に、前記凸部による該積層シートの加圧変形を一定時間停止させる変形停止工程を備える、請求項1又は2に記載の温熱具の製造方法。
【請求項4】
前記変形停止工程における一時停止時間が、前記移動停止時間の50%以上100%未満とする、請求項3に記載の温熱具の製造方法。
【請求項5】
前記加熱変形工程では、前記変形停止工程までの前記積層シートの変形量を、該加熱変形工程における該積層シートの最終変形量の50%以上90%以下とする、請求項3乃至4のいずれか一項に記載の温熱具の製造方法。
【請求項6】
前記加熱変形工程で形成する前記突起部は、底面積に対する表面積の割合が百分率で120%以上である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温熱具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突起部を有する温熱具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温熱具として、突起部を有する温熱具が知られており、かかる温熱具の製造方法として、熱可塑性樹脂を含む原料シートに対して、加熱及び加圧を施すことによって突起部を形成した後、該シートに形成した突起部内又は該シートの近傍に発熱材料を配することによって、シート状の温熱具を得る方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、突起部形成用の凸部を有する第一金型と該凸部に対応する凹部を有する第二金型との間で原料シートを加熱及び加圧することによって、突起部を有するシートを形成すること、及び突起部を有するシートと発熱材料を含む本体シートとを重ねて、突起部を有する温熱具を得ることが記載されている。
また特許文献2には、原料シートの加熱及び加圧により形成した、突起部を有するシートの突起部内に発熱材料を配することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-171007号公報
【特許文献2】特開2018-175857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
温熱具の発熱特性を制御するためには、発熱材料に供給される空気量を調整する必要がある。斯かる観点から、突起部を有する温熱具においても、温熱具内に、通気度が所定の範囲に制御された通気性シートを配して、発熱特性、例えば昇温速度、最高温度、発熱持続時間等を制御することが好ましい。
また蒸気を発生させる温熱具も知られており、外部に放出される蒸気量についても、通気度が所定の範囲に制御された通気性シートを配して制御し得ることが好ましい。
しかしながら、突起部を形成した後に開孔する方法では、微細孔を形成することが困難であり、通気度が過大なシートとなり易い。
他方、微細孔を有するシートに後加工で突起部を形成する場合においても、微細孔が塞がる等により通気度が大きく変化したり、形成される突起部の強度、特に先端部の強度が大きく低下したりする等の現象が見られる場合があった。
このように、突起部を有する温熱具においては、突起部を有するシートに適正な範囲の通気度を持たせることと、突起部の潰れを発生させずに、成形する突起部の強度を得ることとを両立させることが望まれるところ、従来の突起部成形の方法では、それらの両立が難しい場合が多く、短時間での突起部形成の場合に、斯かる課題が顕著であった。
【0006】
本発明は、シート状の温熱具の製造において、短時間で突起部成形をする際の通気性シートの通気度変動制御とシート状の温熱具の突起部強度を両立し得る方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、突起部を有する温熱具の製造に関する。
本製造方法は、帯状の積層シートを、突起部形成用の凸部を有する第一金型と該凸部に対応する凹部を有する第二金型とを用いて加熱及び加圧することによって、該積層シートに突起部を成形する加熱変形工程と、前記突起部が形成された前記積層シートの該突起部内に、発熱材料を配する材料充填工程とを備えることが好ましい。
前記積層シートは、樹脂シートの両面に不織布が積層された構造を有することが好ましい。
前記樹脂シートは、ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む、通気性の多孔質シートであることが好ましい。
前記不織布の構成樹脂の中で最も融点が低い樹脂の融点を第一融点、前記樹脂シートを構成する樹脂の中で最も構成比が高い樹脂の融点を第二融点と定義したときに、第一融点が第二融点よりも低いことが好ましい。
前記加熱変形工程は、加熱温度を第二融点の±15℃とすることが好ましい。
前記加熱変形工程は、付加圧力を0.1MPa以上1MPa以下とすることが好ましい。
前記加熱変形工程は、前記積層シートの変形開始時から、該積層シートにおける前記突起部となる部位を、第一金型の前記凸部と第二金型の前記凹部との間で挟圧するプレスの終了時までの間の、第一金型及び第二金型が停止している時間である移動停止時間を0.5秒以上200秒以下として行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シート状の温熱具の製造において、短時間で突起部成形をする際の通気性シートの通気度変動制御とシート状の温熱具の突起部強度を制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)は、本発明のシート状の温熱具の製造方法の一実施形態を模式的に示す図であり、
図1(b)は
図1(a)に示す製造装置において搬送される被加工物の平面図である。
【
図2】
図2(a)乃至(d)は、加熱変形工程を示す図であって、搬送されたシート状の温熱具の材料である積層シートを、加熱しながら第一金型と第二金型でプレスする状態を示す断面図である。
【
図3】
図3は、積層シートの一部を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4(a)は、
図1に示す加熱変形部により突起部が形成された積層シートの斜視図であり、
図4(b)は、
図4(a)の積層シートを突起部の凹部側から視た斜視図である。
【
図5】
図5(a)は、
図1に示す製造方法により得られた温熱具の斜視図であり、
図5(b)は、
図5(a)のI-I線断面図である。
【
図6】
図6は、加熱変形工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の製造方法に好適に用いられる製造装置の一例が示されている。
図1(a)には、温熱具1の製造方法の実施に使用される製造装置10の要部が示されている。
図1(b)には、製造装置10の各部における被加工物の平面図が示されている。製造装置10は、被加工物を所定の一方向に搬送させ、その搬送途中で被加工物に対して、後述する加熱変形工程(
図2参照)、材料充填工程及び積層シート接合工程をこの順で実施して、温熱具を製造するものである。
【0011】
好ましい実施形態においては、被加工物として、積層シート20を用いる。積層シート20は、
図3に示すように、内層22と該内層22の両面に配された外層21,23を有しており、より詳細には、内層22としての樹脂シートの両面に外層21,23としての不織布が積層された構造を有する。内層22を構成する樹脂シートは、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶ)及び/又はポリエチレン(以下、PEと呼ぶ)を構成樹脂とし、且つ通気性を有する多孔質シートである。この通気性の多孔質シート(以下「通気性多孔質シート」ともいう)は、空気は透過させ、水は透過させない性質を有するシートであり、水蒸気透過性を有するものが好ましい。シートについて、通気性を有するか否かは、JIS P8117に準じて測定される通気度が50000秒/100cc以下であるか否かによって判断できる。すなわち、通気度が50000秒/100cc以下のシートは、通気性を有するものとする。
通気性多孔質シートとしては、各種公知のシートを用いることができ、例えば、炭酸カルシウム等の無機フィラーを含む熱可塑性の溶融樹脂をシート状に押し出し、一軸又は二軸延伸して微細孔を形成したシート等を用いることができる。斯かる微細孔は、通気性多孔質シートに設けられた100μm以下の開孔である。
通気性多孔質シートは、JIS P8117:に準拠して測定される通気度が、好ましくは1秒/100cc以上、より好ましくは3秒以上/100cc以上であり、また好ましくは20000秒/100cc以下、より好ましくは10000秒/100cc以下である。
【0012】
内層22を構成する樹脂シートは、PP及び/又はPEを含む。前記樹脂シートは、PP及び/又はPEを主な構成樹脂とすることが好ましく、該樹脂シート全体の質量に対するPP又はPEの質量比は、好ましくは85%以上100%以下、より好ましくは90%以上100%以下、さらに好ましくは95%以上100%以下である。樹脂シートがPP及びPEの両方を含む場合は合計の質量比が前記の範囲であることが好ましい。
PPとしては、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)、及びプロピレンとα-オレフィン等の他の成分との共重合体が挙げられる。
PPの共重合体としては、例えば、プロピレンとエチレンとを含むランダム共重合体等が挙げられる。前記ランダム共重合体としては、エチレンを4.5質量パーセント以下の割合で含むもの等が挙げられる。
PPは、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用いて測定した融解ピーク温度が、140℃以上180℃以下であることが好ましく、150℃以上170℃以下であることがより好ましい。この融解ピーク温度は、無機フィラー等を含まない樹脂単独での値である。
またPEとしては、低密度PE、高密度PE、又は直鎖状低密度PE等が挙げられる。
【0013】
積層シート20としては、内層22として用いる樹脂シートと、外層21,23として用いる不織布とが、以下に示す特定の条件Aを満たすものを用いる。
〔条件A〕
前記不織布の構成樹脂の中で最も融点が低い樹脂の融点を第一融点、前記樹脂シートを構成する樹脂の中で最も構成比が高い樹脂の融点を第二融点と定義したときに、第一融点が第二融点よりも低い。
外層21,23を構成する不織布が同一である場合、該不織布の構成樹脂の中で最も融点が低い樹脂の融点を第一融点とする。例えば、不織布が単一種類のポリオレフィン樹脂からなる単一種類の繊維のみにより形成されている場合、第一融点は、当該ポリオレフィン樹脂の融点である。また不織布が複数種類の樹脂からなる単一種類の複合繊維のみにより形成されている場合、第一融点は、当該複合繊維を構成する樹脂のうち融点が最も低い樹脂の融点である。
他方、不織布が構成樹脂の種類が異なる複数種類の繊維を含む場合、複数種類の繊維のうち、融点が最も低い構成樹脂を含む繊維を選択し、該融点が最も低い樹脂の融点を第一融点とする。ただし、不織布を構成する樹脂のうち、該不織布の質量に対してきわめて少量の樹脂、例えば不織布の質量に対して10%以下の含有量である樹脂は、融点の比較対象とする樹脂から除外する。
2枚の外層21,23を構成する不織布は、構成樹脂が同一の繊維からなることが好ましい。この場合、外層21,23を構成する両不織布は、共通する第一融点を有することになり、前記条件Aを満たし易くなる。2つの外層21,23で第一融点が共通する場合、これら第一融点は、第二融点より低い必要がある。
【0014】
内層22を構成する樹脂シートは、好ましくは単一の樹脂で構成される。その場合、樹脂シートを構成する樹脂の融点が第二融点である。内層22を構成する樹脂は、単一種類の樹脂であっても複数種類の樹脂であってもよい。内層22が複数種類の樹脂で構成される場合、最も構成比が高い樹脂の融点を第二融点とする。ここで、内層22を構成する樹脂シートの構成樹脂が複数種類である形態として、該樹脂シートが、PP、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと呼ぶ)、及びPEから選ばれる2種類以上を含むものが挙げられる。
【0015】
融点は、以下の方法により測定される。
〔融点の測定方法〕
樹脂の融点は、外層21,23及び内層22から樹脂試料を採取し、示差走査型熱量計(セイコーインスツルメンツ株式会社製DSC6200)を用い、細かく裁断した樹脂試料の熱分析を昇温速度10℃/minで行い、樹脂の構成成分の融解ピーク温度を測定する。樹脂試料は、外層21,23及び内層22それぞれから採取した2mg分の繊維試料であり、外層21,23及び内層22それぞれの異なる20箇所から採取する。すなわち20試料ずつ採取する。
外層21,23から採取した20試料の樹脂試料については、前記の示差走査型熱量計を用いて融解ピーク温度を測定する。そして、外層21,23の樹脂試料における最も低い融解ピーク温度(以下、「最低融解ピーク温度」ともいう。)のうち、20試料中3試料以上に現れる最低融解ピーク温度であって、それらのうちの最も低い融解ピーク温度を、第一融点とする。
内層22から採取した20試料の樹脂試料については、前記の示差走査型熱量計を用いて融解ピーク温度を測定する。そして、内層22の樹脂試料における融解ピーク温度のうち、20試料のなかで最も頻出する融解ピーク温度を、第二融点とする。
【0016】
製造するシート状の温熱具の発熱特性、例えば昇温速度、最高温度、及び発熱持続時間の一又は二以上を制御するために、樹脂シートである内層22の通気度を制御する必要がある。
突起部成形時に内層22の樹脂シートを開孔し、通気度を付与する場合であると、外層21,23の不織布及び内層22の樹脂シートの厚みや延伸特性などにより開孔具合が左右されることがある。内層22の開孔具合は、突起部5の発熱性能に影響する。一方、積層シート20に突起部を成形後、内層22の樹脂シートに開孔を行う場合だと、外層21,23の不織布も開孔され、その後実施される後述の材料充填工程で、突起部5に充填する塗料4A等の材料が抜けてしまう場合がある。
そこで、内層22の樹脂シートに、初めから微細孔を有する通気性多孔質シートを使用することで、加熱変形工程で突起部5を成形する時、及び加熱変形工程後に突起部5が成形された後に樹脂シートを開孔する必要がなくなるため、シートの通気度をコントロールすることが可能となる。通気度の測定方法は、実施例において後述する。
【0017】
図1において、符号MDは、被加工物である積層シート20の搬送方向(Machine Direction)を示し、符号CDは、搬送方向MDに直交する搬送直交方向(Cross machine Direction)を示す。積層シート20は帯状をなし、搬送方向MDは積層シート20の長手方向に一致する。
本実施形態の製造装置10は、積層シート20を製造する被加工物構成部15と、被加工物である積層シート20に対して、加熱変形工程を実施する加熱変形部11と、材料充填工程を実施する材料充填部12と、積層シート接合工程を実施する積層シート接合部13とを備える。製造装置10では、搬送方向MDの上流側から下流側に向かって、被加工物構成部15、加熱変形部11、材料充填部12、及び積層シート接合部13が、この順で配置されている。
【0018】
図1(a)に示す実施形態の製造装置10では被加工物構成部15が、不織布である外層21,23を、樹脂シートである内層22の上下に積層させて、帯状の積層シート20を製造する。具体的には、積層シート20の原料である各シート21,22,23は、それぞれ、帯状のシートであって、ロール状に巻回された原反ロール210,220,230の状態で製造装置10の所定位置(被加工物構成部15)に配置されている。被加工物構成部15では、これら複数の原反ロール210,220,230からシート21,22,23を繰り出して合流させて積層し、更に、これをニップ装置16に導入して、厚み方向に圧縮して一体化し、積層シート20を製造する。こうして製造された3層構造の帯状の積層シート20は、加熱変形工程を実施する加熱変形部11に搬送される。この段階の積層シート20は、内層22と外層21,23それぞれとの間に、接着剤が配されていないことが通気性多孔質シートの通気度の担保の点から好ましい。
【0019】
加熱変形工程では、積層シート20を変形させることで、
図4(a)及び(b)に示すような、積層シート20の一方の面側(外層21側)に凸に変形していて他方の面側(外層23側)が凹部50となっている突起部5を形成する。突起部5が突出している面側が、シート状の温熱具1の表面1aとなる面側である〔
図5参照〕。
【0020】
本発明では、突起部5の形状は特に制限されず、例えば、砲弾形状、円錐状、楕円錐状、長円錐状等の錐状、円錐台状、楕円錐台状、長円錐台状等の錐台状とすることができる。図示の形態では、突起部5の形状は円錐形状である。突起部5は、典型的には、図示の形態のように、その先端側に向けて(裏面1bから離れるに従って)先細りの形状を有する。突起部5の先端部は先鋭ではなく、図示の形態のように、丸みを帯びた形状となっていることが好ましい。温熱具1が突起部5を複数備える場合、互いの突起部5は、形状及び/又は寸法が、同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。
また本発明では、突起部5の配置も特に制限されず、例えば、千鳥格子状の他、正方格子状等の配置とすることができる。
【0021】
突起部5の各部の寸法は特に制限されず、シート状の温熱具1の用途等に応じて適宜設定できる。
突起部5の高さH〔
図5(b)参照〕は、例えば2mm以上15mm以下であり、好ましくは3mm以上10mm以下である。
突起部5の直径D〔
図4(b)参照〕は、例えば2mm以上38mm以下であり、好ましくは5mm以上20mm以下である。突起部5の直径Dは、平面視における突起部5の凹部50の直径である。
シート状の温熱具1における積層シート20の厚みT〔
図5(b)参照〕は、例えば0.03mm以上2.6mm以下であり、好ましくは0.08mm以上1.25mm以下である。
【0022】
加熱変形工程を実施する加熱変形部11は、
図1(a)及び
図2(a)乃至(d)に示すように、互いに噛み合う凹凸を有する一対の型である、第一金型11A及び第二金型11Bを備える。本実施形態において、第一金型11Aは、積層シート20の上方に配置され、下方に向けて突出した凸部110を有している。第二金型11Bは、被加工物の下方に配置され、第一金型11Aの凸部110に対応する凹部111を有している。第一金型11A及び第二金型11Bは、周期的に昇降する支持体(図示せず)によって支持されている。第一金型11A及び11Bは、第一金型11Aが下降、第二金型11Bが上昇したときに、第一金型11Aの凸部110が、第二金型11Bの凹部111と嵌合するように配置されている。加熱変形部11は、第一金型11Aを周期的に昇降させることにより、凸部110を凹部111に嵌合させる動作を繰り返す。前記「昇降」は、重力方向の上下運動を意味し、金型11A,11Bに連結された油圧シリンダ又は空気圧シリンダ等の昇降機構(図示せず)により行われる。
第一金型11Aと第二金型11Bは、上下に配する以外の態様で、互いに近接及び離間可能な他の形態で配置されていてもよい。
【0023】
加熱変形部11は、被加工物(積層シート20)を加熱する加熱手段(図示せず)を備える。前記加熱手段は、被加工物の外層21,23及び内層22が熱可塑性樹脂を含むことにより、被加工物を加熱して軟化させるためのもので、被加工物の変形(突起部5の形成)を容易にする。前記加熱手段としては、この種のいわゆるヒートプレスに使用可能な公知のものを特に制限なく用いることができる。
【0024】
加熱変形部11における加熱手段は、例えば、一対の金型11A,11Bである第一金型11Aと第二金型11Bの一方又は両方に加熱手段を内蔵させ、一対の金型11A,11Bによる被加工物の圧縮中に、該加熱手段により被加工物を加熱するようにしてもよい。更に、一対の金型11A,11Bよりも搬送方向MDの上流側に加熱手段を配置して、一対の金型11A,11Bによって圧縮される前の被加工物を該加熱手段により予熱してもよい。
【0025】
一対の金型11A,11Bの噛み合い部、すなわち第一金型11Aの凸部110と第二金型11Bの凹部111とが嵌合し得る部位に、積層シート20を導入して、第一金型11A及び第二金型11Bにより積層シート20を厚み方向に圧縮するとともに、前記加熱手段により積層シート20を加熱することで、
図1(a)に示すとおり、積層シート20の片面に、周辺部よりも突出した突起部5と、突出していない平部(非突出部)6とを含む凹凸形状を付与する。
より詳細には、加熱変形部11によって実施される加熱変形工程は、第一金型11Aの凸部110を押し当て積層シート20を加熱しながら変形させる変形段階と、積層シート20における突起部5となる部位を、第一金型11Aの凸部110と第二金型11Bの凹部111との間で挟圧するプレス段階とを含む。
【0026】
加熱変形工程は、下記の条件1~3を満たすように行われる。
〔条件1〕
加熱温度を第二融点の±15℃とする。すなわち、加熱方法がいずれの方法であっても、積層シート20を加熱する際の加熱温度を、第二融点の±15℃に設定する。第二融点は、前記条件Aに規定されている。加熱変形工程の加熱温度は、前述した加熱手段の設定温度である。加熱温度を、第二融点の±15℃内の所定の温度とする方法としては、第一金型11A及び第二金型11Bの両方を、第二融点の±15℃内の共通する温度に設定することが好ましい。
内層22を構成する樹脂シートの通気性をより確実に確保する観点、及び突起部5の成形性をより向上させる観点から、加熱温度は、第二融点に近いほど好ましい。例えば加熱温度は、第二融点の好ましくは±10℃、より好ましくは±5℃である。
【0027】
〔条件2〕
付加圧力を0.1MPa以上1MPa以下とする。付加圧力は、第一金型11Aの凸部110及び第二金型11Bの凹部111間で積層シート20を挟圧する時の一対の金型11A,11Bを昇降させる昇降機構(空気圧シリンダ等)の推力を、圧力付加面積で除した値(推力/圧力付加面積)である。圧力付加面積は、前記の挟圧する時の金型11における積層シート20との接触面積である。すなわち圧力付加面積は、平面視における突起部5の凹部50の面積と一致する。付加圧力は、一対の金型11A,11Bである第一金型11A及び第二金型11Bによる、積層シート20への付加圧力とも言うことができ、第一金型11Aの凸部110と第二金型11Bの凹部111との間で挟圧するプレス時に、金型11A,11Bによって積層シート20に加える圧力である。
突起部5の強度をより向上させる観点から、付加圧力は、好ましくは0.1MPa以上0.7MPa以下、より好ましくは0.1MPa以上0.4MPa以下である。
【0028】
〔条件3〕
移動停止時間を0.5秒以上200秒以下とする。
移動停止時間とは、第一金型11Aによる積層シート20の変形開始時から、該積層シート20における突起部5となる部位を、第一金型11Aの凸部110と第二金型11Bの凹部111との間で挟圧するプレスの終了時までの間において、第一金型11A及び第二金型11Bが停止している時間である。
移動停止時間を0.5秒以上とすることで、製造される突起部に十分な強度を確保することが可能となり、移動停止時間を200秒以下とすることで、突起部の形成に要する時間の短縮することができ、突起部を有するシートの形成及び温熱具の生産効率を向上させることができる。
移動停止時間は、好ましくは0.5秒以上、より好ましくは1秒以上であり、また好ましくは60秒以下、より好ましくは10秒以下である。
【0029】
加熱変形工程は、第一金型11Aと第二金型11Bとが互いに近づくように、第一金型11A及び第二金型11Bの一方又は双方が、移動を開始した時点から第一金型11Aの凸部110が積層シート20に接触するまでの第1段階、凸部110による押圧により該積層シートが変形を開始した時点(変形開始時)から、積層シート20の突起部5となる部位を変形させつつ凹部111に押し込む第2段階、凸部110の押し込み終了から第一金型11Aを第二金型11Bとは反対側に移動させる離形開始までの第3段階、及び突起部が形成された積層シート20を、第一金型11Aと第二金型11Bとの間から次工程の場所への移動を開始するまでの第4段階とを有している(
図6参照)。第2段階は、積層シート20と凸部110との接触開始から、積層シート20を挟んで凸部110と凹部111とが嵌合するまでの段階であり、該凸部110による凹部111への押し込みによって、積層シート20における突起部5となる部位を変形させる。第3段階は、積層シート20における突起部5となる部位を凸部110と凹部111との間で挟圧(プレス)する。
移動停止時間は、第2段階及び第3段階において第一金型11A(凸部110)及び第二金型11B(凹部111)の移動が停止している時間である。換言すると第2段階及び第3段階において、凸部110及び凹部111が互いに近づく又は離れる移動が停止している時間である。移動停止時間には、第2段階終了時から第3段階終了時までに費やす時間が含まれる。また加熱変形工程が後述する変形停止工程を具備する場合、移動停止時間には、後述する一時停止時間が含まれる。
【0030】
加熱変形工程で形成する突起部5は、積層シート20の片面の突起部5の表面の面積(突起部の外面の面積)を表面積とし、積層シート20の裏面1bの、重力方向の上側の突起部5の起点に位置する突起部5の底面の面積を底面積としたとき、底面積に対する表面積の割合(百分率)が120%以上となるように形成される。この割合〔(表面積/底面)積×100〕を120%以上とすることで、皮膚を押圧したときに押圧された感覚が得られやすくなる等の利点がある。斯かる利点の観点から、前記割合は好ましくは130%以上である。突起部に十分な強度を確保する観点から、底面積に対する表面積の割合は、好ましくは320%以下、より好ましくは200%以下である。
【0031】
加熱変形工程においては、搬送中の積層シート20に突起部5を形成してもよいが、突起部5の形成を容易にして、設計どおりの突起部5を確実に形成する観点から、搬送が停止された状態の積層シート20に突起部5を形成することが好ましい。積層シート20の搬送中に突起部5を成形する場合には、突起部5の突起部形状(凸部形状)に制約が生じるが、搬送が停止された状態で成形する場合には、自在な形状を安定的に加工することが可能である。後者の場合、帯状の積層シート20を搬送方向MDに搬送し、積層シート20における加熱変形工程に供される領域(以下、「突起部形成予定領域」とも言う。)が加熱変形部11(第一金型11A及び第二金型11Bの間)に導入された時点で積層シート20の搬送を停止し、一対の金型11A,11Bによって突起部形成予定領域を圧縮して突起部5を形成する。しかる後、積層シート20の搬送を再開する。温熱具1の製造方法では、積層シート20は搬送方向MDに連続しており、また、積層シート20の突起部形成予定領域は一定の周期で間欠的に加熱変形部11に導入されるので、前記の好ましい形態を実施する場合には、このような、「被加工物(積層シート20)の搬送→停止→突起部形成加工(加熱変形工程)」という一連の動作が繰り返されることになる。製造装置10は、斯かる繰り返し動作を行う間欠加工システムを備えることが好ましい。
【0032】
加熱変形工程は、前述した第2段階の間、すなわち積層シートの変形開始時から前記プレスの開始時までの間に、凸部による積層シートの加圧変形を一定時間停止させる変形停止工程を備えることが好ましい。
変形停止工程においても、積層シート20は加熱し続けることが好ましい。積層シートの変形開始時とは、凸部110による積層シート20の押圧により該積層シートが変形を開始した時点である。前記プレスの開始時とは、積層シート20を挟んで凸部110と凹部111とが嵌合して、且つ凸部110及び凹部111の移動が停止した時点であり、該積層シート20の突起部5となる部位を、凸部110と凹部111との間で挟圧するプレスを開始する時点である。
加熱変形工程が変形停止工程を備える場合、移動停止時間は、第2段階終了時から第3段階終了時までに費やす時間と、第2段階における凸部110による積層シート20の加圧変形を停止させる一時停止時間との合計時間となる。変形停止工程では、一時停止時間を、前記移動停止時間の50%以上100%未満とすることが好ましい。
【0033】
変形停止工程を設けることで、第一金型11Aにより突起部5を成形する際の積層シートへの変形量を分割できるので、積層シート20へのダメージを低減できる。より詳細には、第2段階における凸部110及び凹部111が互いに近づく一連の移動を、一時停止時間を挟んで1回目及び2回目の押し込みに2分割する。この場合、一時停止時間までの凸部110による押し込み(1回目の押し込み)時は、変形量を低くできるため、積層シート20における変形が生じる部分と変形が生じない部分のエッジ(境界)にかかる応力を抑制することができる。一時停止時間後の凸部110による押し込み時(2回目の押し込み時)は、1回目の押し込みによりシートが多少変形されているので、押し込みによるせん断の掛かりが弱くなって、応力が低減され、延伸による積層シート20へのダメージを抑制することができる。このように、変形時の内層の樹脂シートへの延伸によるダメージや加熱及び成形による溶融等のダメージを抑制して所要の通気度を維持しつつ、積層シートの突起部の突起部強度を確保することもでき、通気度変動制御と突起部強度の両立が容易となる。
【0034】
加熱変形工程では、変形停止工程を設けなくてもよい場合がある。例えば、第一金型11Aによる積層シート20への突起部の成形を一定時間停止させる代わりに、第一金型11Aを非常に低速に減速させながら積層シート20を第二金型11Bの凹型に挟圧させ、第一及び第二金型11A,11Bを低速で移動させながら積層シート20を第二金型11Bの凹部111に沿って徐々に変形させながら、プレスしてもよい。積層シート20へのダメージをより低減する観点から、加熱変形工程に変形停止工程を設けない場合、第一金型11A及び第二金型11Bの移動速度(昇降の速度)は、好ましくは15mm/秒以下とすることでき、例えば0mm/秒超1mm/秒以下であってもよい。
なお、加熱変形工程に変形停止工程を設ける場合、第一金型11A及び第二金型11Bの移動速度(昇降の速度)は、好ましくは0mm/秒超30mm/秒以下、より好ましくは15mm/秒超30mm/秒以下、さらに好ましくは25mm/秒以上30mm/秒以下である。
【0035】
変形停止工程後には、第一金型11Aの下降を再開させ、第一金型の凸部110に凹部111を嵌合させて、積層シート20を挟圧し、一対の金型11A,11Bによる圧力付加により、積層シート20に対する突起部5の形成を完結させる(第3段階)。
加熱変形工程では、変形停止工程までの積層シート20の変形量を、該変形停止工程後の積層シート20の変形量、すなわち該シート20の最終変形量の50%以上90%以下とすることが好ましく、50%以上85%以下とすることがより好ましい。前記最終変形量に対する変形停止工程までの積層シート20の変形量の割合〔(変形停止工程までの積層シート20の変形量/前記最終変形量)×100〕を「中間変形率」(%)ともいう。前記最終変形量を100%としたとき、該最終変形量の後半以降(中間変形率が50%以上)に変形停止工程を設ける方が、突起部5の強度の確保がより容易となる。
【0036】
材料充填工程は、加熱変形工程で積層シート20の一方の面に形成された突起部5の凹部50に、積層シート20の他方の面(裏面層3との対向面となる面)側から塗料4A、電解質4B、及び保水材4C(例えば吸水性ポリマー)を含む発熱材料4を充填する工程である。すなわち材料充填工程は、突起部5内に発熱材料4を充填する。
【0037】
本発明で用いる発熱材料4は、被酸化性金属を含んでいてもよく、水を含んでいてもよい。材料充填工程では、発熱材料に含まれる全成分を一回の充填動作で凹部50に充填してもよく、あるいは発熱材料4に含まれる全成分を複数回に分けて凹部50に充填してもよい。
また通常は、凹部50の全体に発熱材料4を充填するが、凹部50における発熱材料の充填量は特に制限されず適宜調整可能である。
【0038】
ハンドリング性の向上の観点から、塗料4Aを凹部50に充填する場合には、被酸化性金属及び水を含むスラリーとして凹部50に充填してもよい。前記スラリーは、被酸化性金属及び水以外の他の成分を含んでいてもよく、該他の成分の好ましい一例として、無機材料の保水材4Cとして使用可能な炭素成分(活性炭等)が挙げられる。このスラリーに、被酸化性金属及び炭素成分が含まれることで、発熱材料4の発熱反応が促進される効果が奏される。
【0039】
材料充填工程において実施可能な発熱材料4の充填動作の一例として、保水材4Cを、塗料4A及び電解質4Bとは別に、凹部50に充填する動作が挙げられる。保水材4Cは、水分を吸収保持するため、保水材4Cを含むスラリーは粘度が比較的高くなる。保水材4Cと塗料4A及び電解質4Bとで凹部50への充填タイミングを異ならせることで、充填する発熱材料4のハンドリング性が向上し、発熱材料4の充填を一層精度よく行うことが可能となる。
【0040】
材料充填工程において実施可能な発熱材料4の充填動作の他の一例として、電解質4Bを、塗料4A及び保水材4Cとは別に、凹部50に充填する動作が挙げられる。これにより、塩化ナトリウムに代表される電解質4Bを用いても、発熱材料4の充填装置をはじめとする製造装置10の金属製部分での錆の発生が一層確実に防止され得る。
【0041】
材料充填工程を実施する材料充填部12は、
図1(a)に示すように、搬送方向MDの上流側から順に、塗料4Aを扱う第1の充填装置12Aと、電解質4Bを扱う第2の充填装置12Bと、保水材4Cを扱う第3の充填装置12Cとを備え、加熱変形工程を経た積層シート20の突起部5の凹部50に、塗料4A、電解質4B、及び保水材4Cをこの順で充填するようになされる。
【0042】
第2の充填装置12Bで扱う電解質4B、及び第3の充填装置12Cで扱う保水材4Cは、何れも乾燥状態であり、典型的には粉体である。したがって材料充填部12による凹部50への発熱材料の充填順序は、「塗料4A(被酸化性金属及び水を含むスラリー)、電解質4B(粉体)、及び保水材4C(粉体)」の順である。本発明では、凹部50への発熱材料4の充填順序はこれに限定されず任意に設定し得るが、粉体に先立ってスラリーを凹部50に充填すると、その後に凹部50に充填した粉体が、凹部50に既に充填されているスラリーの水分を吸収するため、粉体が飛散し難く凹部50からこぼれ難い。このような理由から、本実施形態では、発熱材料4に含まれる成分(塗料4A、電解質4B、及び保水材4C)を3回に分けて、前記の順序で、凹部50に充填する方法を採用している。
【0043】
充填装置12A乃至12Cは何れも、スラリー又は粉体を凹部50に向けて吐出するノズル等の吐出手段120を備える。充填装置12A乃至12Cとしては、積層シート20に対して非接触でスラリー又は粉体を充填し得る公知の充填装置を用いることができる。
充填装置12Aが備える吐出手段120の数は特に制限されず、1個でもよいが、積層シート20において搬送方向MDに一列に配置される凹部50の列の数と同数又はそれ以上であることが好ましい。例えば、本実施形態では
図1(b)に示すように、積層シート20において搬送方向MDに一列に配置される凹部50の列の数は、積層シート20の搬送直交方向CDの中央に位置する一列と、その中央の一列の搬送直交方向CDの両側に位置して、該中央の一列よりも搬送方向MDにおける隣り合う凹部50どうしの間隔が短い二列との計三列であるので、充填装置12Aは、それぞれ、この三列の凹部50の列に対応する3個の吐出手段120を少なくとも備えることが好ましい。これにより、積層シート20の複数の凹部50に効率よくかつ均一に発熱材料4を充填することが一層容易になる。
【0044】
積層シート接合工程は、積層シート20の他方の面(発熱材料4の充填側の面)に裏面層3を形成する被覆シート30を重ねて、積層シート20及び被覆シート30をシールにより接合する工程であり、複数の温熱具1が搬送方向MDに一列に連なった温熱具連続体40(
図1(b)参照)が得られる。
【0045】
積層シート接合工程を実施する積層シート接合部13は、
図1(a)に示すように、裏面層3を形成する被覆シート30の供給機構と、接合装置14とを備える。本実施形態の被覆シート30は帯状のシートであって、ロール状に巻回された原反ロールの状態で製造装置10の所定位置に配置されている。接合装置14としては、融着装置を用いることができる。積層シート接合部13は、被覆シート30の供給機構により、前記原反ロールから被覆シート30を繰り出して、材料充填工程を経て搬送中の帯状の積層シート20における発熱材料4の充填側の面に重ね、これを接合装置14に導入し、積層シート20及び被覆シート30を接合して接合部7を形成して、温熱具連続体40を製造する。
【0046】
こうして積層シート接合工程で製造された温熱具連続体40は、その後、搬送方向MDに搬送されつつ、所定の製品単位サイズに切断される。これにより、枚葉の温熱具1が複数連続的に製造される。
【0047】
以上のような構成の温熱具の製造方法によれば、特に材料充填工程において、積層シート20における突起部5の凹部50に対し、塗料4A、保水材4C及び電解質4Bを含む発熱材料4を充填するので、発熱材料4を予め含むシートを温熱具1の構成部材として使用する方法に比べて、温熱具1の設計の自由度が高く、また、突起部5(凹部50)の形状の如何を問わず、高品質の温熱具1を安定的に製造することができる。
【0048】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例0049】
〔実施例1〕
実施例1では、
図1及び
図2に示す装置を用いてシート状の温熱具1を製造した。
積層シート20には、外層21,23の不織布としてPET繊維60%、低融点PET繊維40%からなる不織布と、内層22の樹脂シートとして微多孔性PPシートとを用いた。なお当該積層シートについて、第二融点(PPの融点)は160℃であり、第一融点(低融点PET)は80℃であった。
積層シート20を1.8m/minの搬送速度で搬送させながら、加熱変形部11(第一金型11A及び第二金型11Bの間)に導入された時点で積層シート20の搬送を停止し、第一金型11A、11Bを用いて積層シート20に対し加熱変形工程を行った。実施例1の加熱変形工程では、変形停止工程を行った。加熱変形工程後、突起部5の内部に発熱材料4を充填する材料充填工程を行い、その後積層シート20の他方の面に被覆シートを重ねて接合した。このようにして得られた温熱具連続体40を、該突起部5が5つ存在するよう枚葉のシートに切断し、シート状の温熱具1を得た〔
図5(a)参照〕。
【0050】
〔実施例2~4〕
実施例2では、変形停止工程における中間変形率〔(変形停止工程までの積層シート20の変形量/前記最終変形量)×100〕を異ならせた点以外は、実施例1と同様の方法で温熱具1を製造した。
実施例3では、条件2の付加圧力を異ならせた点、及び変形停止工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法で温熱具1を製造した。
実施例4では、変形停止工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様の方法で温熱具1を製造した。
実施例5では、変形停止工程における中間変形率を異ならせた点以外は、実施例1と同様の方法で温熱具1を製造した。
【0051】
表1に、各実施例における、加熱変形工程の条件1~3(付加圧力、加熱温度、及び移動停止時間)を示す。表1中、停止回数は、加熱変形工程の第2段階の間に一時停止した回数を示す。移動停止時間は、第2段階終了時から第3段階終了時までに費やす時間であり、一時停止時間の有無によらずに1.0秒とした。実施例1、2及び5における移動停止時間は、変形停止工程の一時停止時間と、第2段階終了時から第3段階終了時までに費やす時間との合計時間である。実施例3及び4における移動停止時間は、第2段階終了時から第3段階終了時までに費やす時間である。
【0052】
〔潰れ率〕
得られたシート状の温熱具1における5つの突起部5の高さHを測定後、これらの突起部5に重りを載せて、約3.18Nの荷重を5つの突起部5に与えた。荷重3.18Nは、温熱具1を身体(腰部等)に着用した時に、該温熱具に加わる想定荷重である。荷重付与後、突起部5の高さHを測定した。そして、荷重付与前の突起部5の高さH0に対する、荷重付与後の突起部5の高さH1の割合〔(H1/H0)×100〕を算出し、これを荷重によって潰れた突起部5の突起潰れ率(%)として算出した。斯かる測定を3個の温熱具で行い、潰れ率(%)の平均値を求めた。その結果を以下の表1に示す。
潰れ率が低いほど、荷重に対する突起部5の突起強度が大きい。
【0053】
〔積層シートの通気度〕
上述した加熱変形工程により突起部5を成形した後の積層シート20の通気度を、自動ガーレ式デンソメータ(安田精機製作所)により測定した。斯かる通気度は、
図5(a)に示す温熱具1における突起部5が形成された箇所及び突起部5以外の箇所を含む全体を測定箇所とした。なお、加熱変形工程前の積層シート20の前記通気度は、2767~4558(秒/100cc)であった。測定結果を下記表1に示す。
また、積層シートの通気度が2000~5000秒/100ccの範囲である場合、温熱具の発熱特性等の製品性能に影響がないことを別途確認した。
【0054】
【0055】
表1に示す結果から、実施例1~5は、温熱具として十分な通気性を有することが示された。特に、積層シート20の通気度は、加熱変形工程前と後とで大きな差がない結果となった。
また、実施例1~5の突起部は、3.18Nの荷重による潰れ率が30%未満と低い結果となった。斯かる結果から、実施例1~5は温熱具として十分な突起部強度を有することが示された。
以上の結果から、実施例1~5の温熱具は、突起部強度及び加工後のシートの通気度の両方に優れることが示された。