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特開2024-139565ポリアミック酸、ポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139565
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ポリアミック酸、ポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241002BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C08G73/10
H05K1/03 610N
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050565
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】堀 敦史
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043PA19
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB01
4J043UA041
4J043UA122
4J043UA151
4J043UA232
4J043UB121
4J043XA04
4J043XA19
4J043YA06
4J043YA08
4J043ZA04
4J043ZA12
4J043ZA32
4J043ZA43
4J043ZA46
4J043ZB11
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】低誘電特性及び高耐熱性を示すポリイミドを形成可能であり、且つ成膜性が良好なポリアミック酸、並びに、これを用いて作製したポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)テトラカルボン酸二無水物と、(B)少なくとも2つのジアミンとの重付加反応物であるポリアミック酸であって、前記(B)少なくとも2つのジアミンは、(B1)フルオレン骨格を有するジアミンと、(B2)ダイマージアミンとを含むことを特徴とするポリアミック酸。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラカルボン酸二無水物と、(B)少なくとも2つのジアミンとの重付加反応物であるポリアミック酸であって、
前記(B)少なくとも2つのジアミンは、(B1)フルオレン骨格を有するジアミンと、(B2)ダイマージアミンとを含むことを特徴とするポリアミック酸。
【請求項2】
前記(B1)フルオレン骨格を有するジアミンが、以下の式(1)で示される構造を有する、請求項1に記載のポリアミック酸。
【化1】

(式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C~Cアルキル基又はC~Cハロゲン化アルキル基を表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアミック酸と、(C)有機溶媒とを含有するポリアミック酸組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリイミドを含むポリイミドフィルム。
【請求項6】
請求項5に記載のポリイミドフィルムを備えるプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電特性及び高耐熱性を示すポリイミドを形成可能であり、且つ成膜性が良好なポリアミック酸、並びに、これを用いて作製したポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット等のモバイル型通信機器、コンピュータやカーナビゲーション等の電子機器を構成する絶縁材料には高い絶縁耐圧と耐熱性が求められている。ポリイミドは、一般的に酸二無水物と芳香族ジアミン化合物とから合成されたポリアミック酸をイミド化したポリマーであり、耐熱性、機械的特性、絶縁性に優れているため、このような絶縁材料に広く用いられている。
【0003】
また、近年では高速で大容量の次世代高周波無線用のプリント配線板の開発が行われており、多層配線構造を有する回路基板の採用により信号の高速伝送を可能としている。ポリイミドは多層配線構造の層間絶縁膜に用いられるが、一般的なポリイミドは、誘電率等の誘電特性が高いため、信号の伝送に遅延が生じ高速化の障害となる。さらに、誘電率が高いと静電容量が大きくなるため、高速通信(高周波)での使用において絶縁膜近辺の配線が発熱し、プリント配線板の故障等の原因にもなる。
【0004】
このような高周波への対応のため、低誘電特性を示すポリイミドの要求が高まっている。例えば、特許文献1には、特定の構造を有する芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを用いて作製したポリイミドが低誘電率を示し、耐熱性にも優れていることが開示されている。
【0005】
また、ジアミン成分にフルオレン骨格を導入することで、イミド基濃度を減少させ、分子全体の極性を低減し、ポリイミドを低誘電率化する方法も知られている。例えば、特許文献2には、酸無水物として無水トリメリット酸クロライドを用い、ジアミンとして9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンを用いたポリイミドは高い耐熱性と低い比誘電率を示すことが開示されている。
【0006】
しかしながら、フルオレン骨格を有するポリアミック酸組成物は、一般に、成膜性が十分でない傾向があり、良好な特性を有するポリイミドフィルムを得ることができないことがある。そのため、高耐熱性、低誘電特性を示すポリアミドを形成できるだけでなく、良好な成膜性も示すポリアミック酸を提供するがことが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10-152559号公報
【特許文献2】特開2005―298625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、低誘電特性及び高耐熱性を示すポリイミドを形成可能であり、且つ成膜性が良好なポリアミック酸、並びに、これを用いて作製したポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、(A)テトラカルボン酸二無水物と、(B)少なくとも2つのジアミンとの重付加反応物であるポリアミック酸であって、前記(B)少なくとも2つのジアミンは、(B1)フルオレン骨格を有するジアミンと、(B2)ダイマージアミンとを含むことを特徴とするポリアミック酸である。
【0010】
本発明の一実施態様において、前記(B1)フルオレン骨格を有するジアミンが、以下の式(1)で示される構造を有する。
【化1】

(式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C~Cアルキル基又はC~Cハロゲン化アルキル基を表す。)
【0011】
本発明の他の態様は、上記ポリアミック酸と、(C)有機溶媒とを含有するポリアミック酸組成物である。
【0012】
本発明の他の態様は、上記ポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドである。
【0013】
本発明の他の態様は、上記ポリイミドを含むポリイミドフィルムである。
【0014】
本発明の他の態様は、上記ポリイミドフィルムを備えるプリント配線板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低誘電特性及び高耐熱性を示すポリイミドを形成可能であり、且つ成膜性が良好なポリアミック酸、並びに、これを用いて作製したポリアミック酸組成物、ポリイミド、ポリイミドフィルム及びプリント配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明のポリアミック酸は、(A)テトラカルボン酸二無水物と、(B)少なくとも2つのジアミンとの重付加反応物であり、(B)少なくとも2つのジアミンが、(B1)フルオレン骨格を有するジアミンと、(B2)ダイマージアミンとを含んでいる。すなわち、本発明のポリアミック酸及びそれを用いて形成されるポリイミドは、フルオレン骨格とダイマー骨格とを有している。ジアミン成分としてフルオレン骨格を有するジアミンしか含まれない場合、ポリアミック酸に十分な成膜性が付与されず、一方で、ジアミン成分としてダイマー骨格を有するジアミンしか含まれない場合、低誘電特性を示すポリイミドを形成することはできるものの、ポリイミドに十分な耐熱性が付与されず、機械的特性も劣ってしまう。本発明では、ポリアミック酸がフルオレン骨格とダイマー骨格の両方を有することにより、低誘電特性及び高耐熱性を示すポリアミドを形成できると共に、フルオレン骨格に由来するポリアミック酸の不十分な成膜性が改善され、良好な成膜性を示すポリアミック酸を実現することができる。
【0017】
(A)テトラカルボン酸二無水物
本発明のポリアミック酸は、酸二無水物成分として、分子中にテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位を有する。テトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物、及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物のいずれであってもよく、一分子中に二個の酸無水物基を有している。テトラカルボン酸二無水物は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、3-カルボキシメチルシクロペンタン-1,2,4-トリカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-5-カルボキシメチル-2,3,6-トリカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ペンタシクロ[8.2.1.14,7.02,9.03,8]テトラデカン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2-カルボキシメチル-2,5,6-トリカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボキシエチル-2,5,6-トリカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0019】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2-エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4-フェニレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3,3a,4,5,9b-ヘキサヒドロ-5(テトラヒドロ-2,5-ジオキソ-3-フラニル)ナフト[1,2-c]フラン-1.3-ジオン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0020】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0021】
これらのテトラカルボン酸二無水物のうち、酸二無水物成分は芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましく、芳香族テトラカルボン酸二無水物の中でもピロメリット酸二無水物であることが好ましい。
【0022】
(B)ジアミン
本発明のポリアミック酸は、ジアミン成分として、少なくとも2つのジアミンに由来する構造単位を有しており、ジアミン成分の1つが(B1)フルオレン骨格を有するジアミンに由来する構造単位を有している。このようなフルオレン骨格を有するジアミンは、以下の式(1)で示される構造を有することが好ましい。式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、C~Cアルキル基又はC~Cハロゲン化アルキル基を表す。R~Rはそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
【化2】
【0024】
~Cアルキル基は、C~Cアルキル基であることが好ましく、エチル基又はメチル基であることがより好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。C~Cハロゲン化アルキル基は、上記C~Cアルキル基の水素原子を上記ハロゲン原子で置換したハロゲン化アルキル基等が挙げられる。
【0025】
~Rは、水素原子又はC~Cアルキル基であることが好ましく、R~Rがいずれも水素原子であることが特に好ましい。
【0026】
式(1)で表されるフルオレン骨格を有するジアミンの好ましい例としては、下記式(1-1)で表される化合物、すなわち9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレンが挙げらる。
【0027】
【化3】
【0028】
本発明のポリアミック酸は、他のジアミン成分として、(B2)ダイマージアミンに由来する構造単位を有している。ここで、ダイマージアミンとは、不飽和脂肪酸の二量体として得られる環式又は非環式ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH-NH)又はアミノ基(-NH)に置換されている脂肪族ジアミンを意味する。ポリアミック酸がダイマージアミンに由来する構造単位を有することにより、得られるポリイミドに低誘電特性を付与することができる。ダイマージアミンは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
ダイマー酸とは、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる二塩基酸である。ダイマー酸から誘導される脂肪族ジアミンは、例えばオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和脂肪酸を重合させてダイマー酸とし、これを還元したのち、アミノ化することにより得られる。このようなダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物であることが好ましい。
【0030】
ダイマージアミンの市販品としては、コグニクスジャパン社製の「バーサミン(登録商標)551」、「バーサミン(登録商標)552」、クローダジャパン社製の「PRIAMINE(登録商標)1073」、「PRIAMINE(登録商標)1074」、「PRIAMINE(登録商標)1075」等が挙げられる。
【0031】
また、本発明のポリアミック酸においては、全ジアミン成分に対する(B1)フルオレン骨格を有するジアミンのモル比は、特に限定されるものはないが、0.25以上であることが好ましく、0.50以上であることがより好ましい。
【0032】
テトラカルボン酸二無水物に対するジアミンのモル比[(B)/(A)]は、特に限定されるものではないが、0.90~1.10であることが好ましく、0.95~1.05であることがより好ましく、0.97~1.03であることがさらに好ましく、0.98~1.02であることが特に好ましい。
【0033】
<ポリアミック酸及びポリアミック酸組成物>
(C)有機溶媒
本発明のポリアミック酸は、公知の一般的な方法により合成できる。例えば、(C)有機溶媒中でテトラカルボン酸とジアミンとを反応させることにより、ポリアミック酸組成物(ポリアミック酸溶液)が得られる。ポリアミック酸の重合に使用する有機溶媒は、モノマー成分としてのテトラカルボン酸二無水物とジアミンを溶解し、かつ重付加反応により生成するポリアミック酸を溶解できるものであれば、特に限定されるものではない。このような有機溶媒としては、テトラメチル尿素、N,N-ジメチルエチルウレア等のウレア系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、テトラメチルスルホン等のスルホン系溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化アルキル系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;フェノール、クレゾール等のフェノール系溶媒;シクロペンタノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、p-クレゾールメチルエーテル等のエーテル系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリアミック酸の溶解性及び反応性を高める観点から、有機溶媒は、アミド系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒及びエーテル系溶媒からなる群から選択されることが好ましく、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒が好ましい。
【0034】
テトラカルボン酸二無水物成分の全量のモル数とジアミン成分の全量のモル数とのモル比を調整することにより、ポリアミック酸の分子量を調整できる。ポリアミック酸の分子量(重量平均分子量)は、特に限定されるものではないが、有機溶媒への溶解性の観点から10,000以上100,000以下であることが好ましい。ポリアミック酸の重量平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算値より求めることができる。
【0035】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重付加反応によるポリアミック酸の合成は、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気中で実施することが好ましい。不活性雰囲気中で、有機溶媒中にテトラカルボン酸二無水物及びジアミンを溶解させ、混合することにより重付加反応が進行する。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの添加順序は特に限定されない。例えば、ジアミンを有機溶媒中に溶解又はスラリー状に分散させて、ジアミン溶液とし、テトラカルボン酸二無水物をジアミン溶液中に添加してもよい。テトラカルボン酸二無水物及びジアミンは、固体の状態で有機溶媒に直接添加してもよく、別途有機溶媒に溶解又はスラリー状に分散させた状態で添加してもよい。
【0036】
重付加反応の温度条件は特に限定されるものではないが、解重合によるポリアミック酸の分子量低下を抑制する観点から、反応温度は100℃以下が好ましく、重付加反応を適度に進行させる観点から、反応温度は20~80℃がより好ましい。反応時間は1~72時間の範囲で任意に設定すればよく、必要に応じてさらに室温で一晩放置してもよい。
【0037】
本発明のポリアミック酸組成物を調製する場合における溶液の粘度は、成膜性の観点から、500 mPa・s以上あることが好ましい。また、本発明のポリアミック酸組成物におけるポリアミック酸の濃度は、15質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましい。特に、ポリアミック酸の濃度が25質量%以上であれば、ポリアミック酸を用いてポリイミド塗膜を形成する際の生産性を高めることができる。また、ポリアミック酸の濃度の上限は、ポリアミック酸を有機溶媒に十分に溶解させる観点から50質量%以下であることが好ましく、30質量%であることがさらに好ましい。
【0038】
ポリアミック酸及び当該ポリアミック酸を用いて形成されるポリイミドに加工特性や各種機能性を付与するために、ポリアミック酸組成物に様々な有機又は無機の低分子或いは高分子化合物を配合してもよい。例えば、ポリアミック酸組成物は、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤、シランカップリング剤等を含んでいてもよい。微粒子は、有機微粒子及び無機微粒子のいずれでもよく、多孔質や中空構造であってもよい。
【0039】
<ポリイミド>
ポリアミック酸をポリイミドに変換する方法は特に限定されるものではないが、上記のようにして得られたポリアミック酸を脱水閉環する(イミド化する)ことによりポリイミドを製造することができる。脱水閉環(イミド化)の方法は、加熱により脱水閉環させる熱イミド化、公知の脱水閉環触媒を使用して化学的に閉環する化学イミド化等の公知の方法を採用することができる。
【0040】
熱イミド化の場合、加熱温度は、120~350℃が好ましく、150~250℃がより好ましい。加熱時間は、0.5~3時間が好ましく、1~2時間がより好ましい。化学イミド化の場合、脱水閉環触媒としては、例えば、ピリジン、トリエチルアミン、無水酢酸等を用いることができる。この際、反応温度は、20~250℃の任意の温度を選択することができる、100℃以下であることが好ましく、反応時間は0.5~3時間であることが好ましい。イミド化は、空気下、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中のいずれで行ってもよいが、透明性の高いポリイミド膜を得るためには、減圧下、又は窒素等の不活性ガス中行うことが好ましい。
【0041】
ポリイミドの分子量(重量平均分子量)は、特に限定されるものではないが、得られるポリイミドの低誘電特性、成膜性、有機溶媒への溶解性の観点から10,000以上100,000以下であることが好ましい。ポリイミドの重量平均分子量は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー(GPC)測定による標準ポリスチレン換算値より求めることができる。
【0042】
<ポリイミドフィルム>
本発明のポリイミドフィルムは、上述して得られたポリイミドを含む。このようなポリイミドフィルムを製造する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上述のポリアミック酸組成物を、基板(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ウレタン、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)又は、ポリカーボネートなどのプラスチックフィルム、ガラス板、ステンレス板、極薄銅箔を含めた銅板、アルミニウム板など)上に膜上に塗布し、その後、乾燥、加熱して溶媒を除去すると共に脱水閉環(イミド化)する方法、あるいは、ポリアミック酸をポリイミドに変換して得られたポリイミドを有機溶媒に溶解し、ポリイミド溶液を基板上に膜上に塗布して溶媒を乾燥除去する等が挙げられる。基板への塗布方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の塗布方法を適用できる。
【0043】
ポリイミドフィルムの厚さは特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜選択することができる。ポリイミドフィルムの厚さは、10~100μmであることが好ましく、20~30μmであることがより好ましい。ポリイミドフィルムの厚さは、ポリアミック酸組成物中の各成分の固形分濃度、粘度を適宜調整することにより、容易に制御することができる。
【0044】
<プリント配線板>
本発明のポリイミドフィルムは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレイ、半導体部品、光学部材等の各種部材用のフィルムとして好適に用いられる。ポリイミドフィルムは絶縁性を示すため、プリント配線板の絶縁基板として好適に適用される。また、ポリイミドフィルムは、絶縁性を示す薄くてフレキシブルなフィルムであるため、フレキシブルプリント配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)と呼ばれる屈曲性のある回路基板のベースフィルムとしての適用にも有効である。
【実施例0045】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1~2、比較例1~3>
下記表1に示す各ジアミンが溶解した有機溶媒を下記表1に示す配合割合にてセパラブルフラスコに投入し、次いで、下記表1に示すテトラカルボン酸二水和物を下記表1に示す配合割合にてこの順で投入し、得られた混合物を50℃で3.5時間撹拌し、さらに室温にて24時間撹拌させて、実施例1~2、比較例1~3にて使用するポリアミック酸組成物を調製した。調製したポリアミック酸組成物を後述する試験片作製工程を用いて基板上に塗工し、試験片を作製した。作製した試験片を用いて下記表1に示す各特性をそれぞれ評価した。評価結果を表1に示す。尚、下記表1に示す各成分の配合量は、特に言及されない限り質量部を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1中の各成分についての詳細は以下の通りである。
(A)テトラカルボン酸ニ無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
(B1)フルオレン骨格ジアミン
BAF:9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン
(B2)ダイマージアミン
PRIAMINE(登録商標)1075:クローダジャパン社製、ダイマージアミン
(B3)芳香族ジアミン
4,4-ODA:4,4-オキシジアニリン
(C)有機溶媒
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0049】
<試験片作製工程>
基板としてのPETフィルム(日栄化工社製「加工工程用微粘着シート PET75」、厚さ75μm)をイソプロピルアルコールで表面処理(脱脂処理)した後、バーコーターを用いて、当該基板上に実施例1~2及び比較例1~3で調製したポリアミック酸組成物をそれぞれ塗布し、次いで、150℃で1時間、さらに180℃で30分の熱処理を行って熱硬化させることにより、基板上に所定の厚さを有する硬化塗膜(ポリイミド膜)を形成し、試験片を作製した。
【0050】
<評価>
(1)成膜性
試験片作製工程において、硬化塗膜の厚さが50μm±10μmになるように試験片を作製した。形成された硬化塗膜を目視で確認し、塗膜の凝集や割れが観察されず、塗膜の靭性が十分な場合を「〇」、塗膜の凝集や割れは観察されないものの、塗膜の靭性が十分ではない場合を「△」、塗膜の凝集や割れが観察される場合を「×」としてそれぞれ評価した。
【0051】
(2)ガラス転移温度Tg及び熱膨張係数CTE
試験片作製工程において、硬化塗膜の厚さが50μm±10μmになるように試験片を作製した。次いで、形成された硬化塗膜を基板から剥がし所定の大きさに切断した試料について、熱機械分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、「TMA/SS6000」)を用いて、ガラス転移温度Tg[℃]及び熱膨張係数CTEα1(0℃-100℃)を測定した。
【0052】
(3)耐熱分解性
試験片作製工程において、硬化塗膜の厚さが30μm±10μmになるように試験片を作製した。得られた試験片を細かく裁断した試料について、熱重量分析装置(日立ハイテクサイエンス社製、熱重量測定装置「STA 7200RV」)を用いて、昇温速度を10℃/分として空気雰囲気下で5%重量減少する温度を測定し、耐熱分解温度(Td5)[℃]として評価した。
【0053】
(4)誘電率及び誘電正接
試験片作製工程において、硬化塗膜の厚さが25μm±10μmになるように試験片を作製した。次いで、key sight technologies社製のネットワークアナライザと空洞共振器を用いて、空洞共振法により、得られた試験片を50mmの長さ、1.75mmの幅になるように切断した試料について、測定温度25℃、測定湿度50RH%、周波数10GHzの条件にて誘電率及び誘電正接をそれぞれ測定した。
【0054】
(5)弾性率
試験片作製工程において、硬化塗膜の厚さが50μm±10μmになるように試験片を作製した。次いで、形成された硬化塗膜を基板から剥がし所定の大きさに切断した試料について、SHIMAZU社製オートグラフを用いて、引っ張り速度5mm/分の条件で弾性率を測定した。
【0055】
表1に示すように、テトラカルボン酸二無水物と、フルオレン骨格を有するジアミン及びダイマージアミンの両方を含むジアミンとを重付加反応させて得られたポリアミック酸を用いた実施例1~2では、いずれも成膜性の評価が「△」以上であることから、良好な成膜性を示すポリアミック酸を作製することができた。また、高いガラス転移温度Tg及び低い熱膨張係数CTEを示し、さらには、誘電率及び誘電正接も低いことから、低誘電特性及び高耐熱性を示すポリイミドを作製することができた。
【0056】
一方、ジアミン成分として、フルオレン骨格を有するジアミン及びダイマージアミンのいずれも含まず、一般的な芳香族ジアミンを使用した比較例1では、成膜性は優れていたものの、実施例1~2よりも誘電率及び誘電正接がいずれも高く、所望とする低誘電特性を示すポリイミドを作製することができなかった。尚、比較例1では高い誘電特性を示したため、他の特性については測定/評価をしなかった。
【0057】
また、ジアミン成分として、フルオレン骨格を有するジアミンを含まず、ダイマージアミンのみを使用した比較例2では、成膜性に優れ、誘電率及び誘電正接もいずれも低い値を示したものの、実施例1~2よりも、ガラス転移温度Tgが低く、さらには熱膨張係数CTEも高いため、所望とする高耐熱性を示すポリイミドを作製することができなかった。
【0058】
また、ジアミン成分として、ダイマージアミンを含まず、フルオレン骨格を有するジアミンのみを使用した比較例3では、塗膜の凝集や割れが観察され、良好な成膜性を示すポリアミック酸を作製することができなかった。尚、比較例3では塗膜の凝集や割れが観察されたため、ポリイミドを作製することができず、他の特性については測定/評価をしなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のポリアミック酸は、良好な成膜性を示すだけでなく、低誘電特性及び高耐熱性を示し、さらには良好な機械的強度を示すポリイミドを形成できるので、このようなポリイミドを用いて作製したポリイミドフィルムは、例えば、プリント配線板の絶縁基板、特にフレキシブルプリント配線板のベースフィルムとしての利用価値が高い。