(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139568
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】製紙用フェルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21F 7/08 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
D21F7/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050568
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植出 悠
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055CE38
4L055EA15
4L055EA16
4L055EA19
4L055EA32
4L055EA40
4L055FA08
(57)【要約】
【課題】使用初期から搾水性が非常に良好で、防汚性を損なうことなく、優れた搾水性を維持できる製紙用フェルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】製紙用フェルト1は、基布2と、バット層3と、不織布層4とを備える。不織布層4は、レーヨン100%の不織布をニードルパンチングすることによって形成される。不織布層4のレーヨン繊維は、5~35mmの繊維長を有する。レーヨン100%の不織布は、15~60g/m
2の目付を有することが好ましく、不織布層4は、基布2の直上若しくは直下、又はバット層3の表内層8aと表外層8bとの間に配置されることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、
前記基布の走行面側に配置された裏層及び前記基布の製紙面側に配置された表層を含むバット層と、
前記基布と前記裏層若しくは前記表層との間、又は前記バット層内に配置されたレーヨン繊維100%から構成される不織布をニードルパンチングによって形成された不織布層とを備え、
前記バット層及び前記不織布層は、前記ニードルパンチングにより、前記レーヨン繊維が、前記バット層の内部及び前記基布の内部に分散するように、前記基布に一体化されており、
前記レーヨン繊維は、5~35mmの繊維長を有する、製紙用フェルト。
【請求項2】
前記不織布層は、前記基布に隣接している、請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項3】
前記レーヨン繊維は、捲縮しており、前記不織布においてランダムに配列されている、請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項4】
前記不織布は、15~60g/m2の目付を有する、請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項5】
前記レーヨン繊維は、5~15mmの繊維長を有する、請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項6】
前記レーヨン繊維は、前記バット層を構成するステープルファイバーよりも細い、請求項1に記載の製紙用フェルト。
【請求項7】
基布に、レーヨン繊維100%から構成される不織布とバット層の少なくとも一部となるべきステープルファイバーシートとを重ね、これらを重ね合わせたものに対してニードルパンチングを行うことにより、これらを一体化する工程を備え、
前記レーヨン繊維は、5~35mmの繊維長を有する、製紙用フェルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用フェルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用フェルトは、製紙マシンのプレスパートで使用され、搾水される湿紙を運搬する。湿紙を載せた製紙用フェルトが1対のプレスロールに加圧され、湿紙に含まれる水分が製紙用フェルトに移行することにより、湿紙が搾水される。製紙用フェルトは、経糸及び緯糸が互いに織り込まれた基布と、ニードルパンチングによって基布に一体化されたバット層とを備える。搾水性を向上させるため、製紙用フェルトに他の層を追加することや、バット層の組成を変更することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、親水性不織布の「繊度(太さ)」と「坪量」に着目し、基布より製紙面側(湿紙側)のバット層の中にナイロン製の親水性不織布の層を配置し、親水性不織布の繊維を、親水性不織布よりも製紙面側に位置する部分のバット層の繊維よりも細くするとともに、それらの坪量比を8:1~3:1とすることが提案されている。親水性不織布への毛細管現象による水分移行作用、移行された水分の保持作用が発揮されるため、プレスロールの加圧から解放された後に製紙用フェルトに吸収されていた水分が湿紙に戻る再湿現象が抑制される。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、バット層の「弾性」に着目し、バット層を構成するステープルファイバーとして、6ナイロンの25%未満の弾性を有する「低弾性」なビスコースレーヨン等の再生セルロース繊維とナイロン等のポリマー繊維との混合物を用いることが提案されている。とりわけ湿紙側表面のバット層を構成する繊維としてこのような「低弾性」な再生セルロース繊維を混ぜることにより、製紙用フェルトが加圧後の圧縮された状態から元の厚さに戻るまでの時間が長くなる。このため、湿紙を製紙用フェルトからより早く分離することができ、湿紙の再湿潤を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-143627号公報
【特許文献2】特表2007-516365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の製紙用フェルトのように、不織布層がナイロンのような合成繊維のスパンボンド不織布によって構成される場合、合成繊維のスパンボンド不織布は、繊維間接着力が強いため、ニードルパンチングで崩れずスパンボンド不織布を構成する合成繊維が分散し難く、層として分布する。層として不織布繊維が分布すると、製紙用フェルトは、使用末期でも繊維が脱落しにくいため密度が上昇し、通気度が下がって汚れが蓄積しやすくなる。
【0007】
また、製紙用フェルトの表面は、プレスパートにおいて、洗浄等のシャワーにより毛羽立ちやすく、サクションボックスにより吸引されることから、損傷を受けやすい。このため、特許文献2のように、製紙用フェルトの製紙面側(湿紙側)表面に親水性繊維が配置されると、親水性繊維が使用初期に脱落しやすい。また、バット繊維(バット層を構成するステープルファイバー)として再生セルロース繊維のような親水性繊維を使用すると、製紙面側表面のバット層や内部のバット層などの位置に配置した場合でも、バット繊維がフェルト全体に分散し、親水性繊維同士が密着していないため、水和力が働きにくく水分移行に寄与しにくい。また、1~5dtex程度の微細な親水性繊維同士が接着されていないため、製紙用フェルトが搾水に最適な密度になる前、つまり使用初期に親水性繊維が脱落しやすくなり、使用初期から脱水性能の効果が低減する。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、使用初期から搾水性が非常に良好で、防汚性を損なうことなく、優れた搾水性を維持できる製紙用フェルト及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様に係る製紙用フェルト(1,11,21)は、基布2と、前記基布の走行面側に配置された裏層(7)及び前記基布の製紙面側に配置された表層(8)を含むバット層(3)と、前記基布と前記裏層若しくは前記表層との間、又は前記バット層内に配置されたレーヨン繊維(セルロース)100%から構成される不織布をニードルパンチングによって形成された不織布層(4)とを備え、前記バット層及び前記不織布層は、前記ニードルパンチングにより、前記レーヨン繊維が、前記バット層の内部及び前記基布の内部に分散するように、前記基布に一体化されており、前記不織布を構成するレーヨン繊維は、5~35mmの繊維長を有する。なお、
図7に示すように、バット層及び不織布層の繊維はニードルパンチングによって複雑に交絡し、基布とも複雑に交絡しているため、構造又は特性によりバット層及び不織布層を直接特定することはおよそ実際的でない。このため、「ニードルパンチング」という繊維を交絡させる方法によりバット層及び不織布層を特定した。
【0010】
この態様によれば、レーヨン繊維100%から構成される不織布層に水分が移行しやすい。また、レーヨン100%の不織布の繊維長が5~35mmであるため、ニードルパンチングによりレーヨン繊維が適度に分散し、使用初期は不織布繊維が脱落しにくいものの、使用中に徐々に脱落していき、使用末期には脱落しているため密度上昇が抑えられ、汚れが蓄積されにくい。
【0011】
上記の態様において、前記不織布層(4)は、前記基布(2)に隣接していても良い。
【0012】
この態様によれば、プレス中にシャワーやサクションボックスによる損傷を受けにくくなる。このため、使用初期に不織布繊維が脱落しにくく、搾水性向上の効果が維持される。また、空隙の多い基布層にも微細な不織布繊維が分散することで、バット層と基布層の水圧差を少なくすることができ、湿紙、表層、基布の層と水圧が徐々に変化するような内部構造になる。このため、湿紙から製紙用フェルトの内部へ水分がスムーズに移行しやすくなり、搾水性が向上する。
【0013】
上記の態様において、前記レーヨン繊維は、捲縮しており、前記不織布においてランダムに配列されていると良い。
【0014】
この態様によれば、レーヨン繊維が捲縮していることにより、吸水や抱水に適した繊維間空隙の構造になるので、吸水速度が速くなり、かつ、多くの水分を保持できるようになり、搾水性がより向上する。また、レーヨン繊維が不織布においてランダムに配列されていることにより、ニードルパンチングでレーヨン繊維が基布及びバット層にニードル針によって把持・運搬されやすくなる。このため、レーヨン繊維は、不織布構造がより崩れて基布及びバット層へ分散しやすくなり、使用末期でも密度が上昇しにくくなり、汚れが蓄積されにくくなる。
【0015】
上記の態様において、前記不織布は、15~60g/m2の目付を有すると良い。
【0016】
この態様によれば、搾水性と通気度とのバランスのよい製紙用フェルトとなる。
【0017】
上記の態様において、前記レーヨン繊維は、5~15mmの繊維長を有すると良い。
【0018】
この態様によれば、前記不織布が5~15mmの繊維長のレーヨン繊維100%から構成されるため、ニードルパンチングで不織布構造が崩れやすく、使用末期でも密度が上昇しにくい。そのため、通気度が下がりにくく、汚れが蓄積されにくい。
【0019】
上記の態様において、前記レーヨン繊維は、10~30mmの繊維長を有しても良い。
【0020】
この態様によれば、搾水性が良好となる。
【0021】
上記の態様において、前記レーヨン繊維は、前記バット層を構成するステープルファイバーよりも細いと良い。
【0022】
この態様によれば、レーヨン繊維が基布の隙間内に分散され易くなるため、汚れが蓄積されにくい。
【0023】
本発明のある態様に係る製紙用フェルト(1,11,21)の製造方法は、基布(2)に、レーヨン繊維100%から構成される不織布とバット層(3)の少なくとも一部となるべきステープルファイバーシートとを重ね、これらを重ね合わせたものに対してニードルパンチングを行うことにより、これらを一体化する工程を備え、前記レーヨン繊維は、5~35mmの繊維長を有する。
【0024】
この態様によれば、5~35mmの繊維長を有するレーヨン繊維が基布及びバット層に適度に分散した製紙用フェルトを製造できるため、製紙用フェルトは、使用初期から搾水性が非常に良好で、防汚性を損なうことなく、優れた搾水性を維持できる。
【発明の効果】
【0025】
以上の態様によれば、使用初期から搾水性が非常に良好で、防汚性を損なうことなく、優れた搾水性を維持できる製紙用フェルト及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】第1実施形態に係る製紙用フェルトの模式的断面図(経断面)
【
図2】第2及び第3実施形態に係る製紙用フェルトの模式的断面図(経断面、A:第2実施形態、B:第3実施形態)
【
図3】実施例及び比較例に係る製紙用フェルトの模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の説明において、製紙面側とは、抄紙機に取り付けられた製紙用フェルト1において、湿紙を支持する面の側(外面側)を言い、走行面側とは、抄紙機のロールに支持される面の側(内面側)を言う。
図1~
図3においては、紙面の上方が製紙面側であり、紙面の下方が走行面側である。
【0028】
図1は、第1実施形態に係る製紙用フェルト1の模式的断面図である。製紙用フェルト1は、基布2と、バット層3と、不織布層4とを備える。なお、
図1は模式図であり、各層が他の層と分離して状態で示されているが、実際には、バット層3及び不織布層4を構成する繊維は、ニードルパンチングにより交絡して厚み方向に分散し、基布2と一体化している(
図7参照、
図2及び
図3も同様)。
【0029】
基布2は、経糸5と、経糸5に織り込まれた緯糸6を含む。経糸5及び緯糸6を構成する素材は特に限定されないが、例えば、ポリアミド系樹脂や、ポリエステル系樹脂を使用することができる。ポリアミド系樹脂として、66ナイロン、6ナイロン、12ナイロン、11ナイロン、610ナイロン、612ナイロン等のナイロンが挙げられる。ポリエステル系樹脂は、ジカルボン酸とグリコールとからなるポリエステルであれば特にその種類に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、経糸5及び緯糸6は、互いに同一素材から構成されても、異なる素材から構成されても良い。また、各糸は、各々単一材質で構成されていてもよく、材質が異なる2種以上の材質で構成されていてもよい。経糸5及び緯糸6の糸の種類は、特に限定されないが、例えば、モノフィラメント単糸、モノフィラメント撚糸、マルチフィラメント撚糸、又はそれらの組み合わせであって良い。本実施形態では、基布2は平織の1つの1重織の織布によって構成されているが、基布2は、平織以外の組織で織られていても良く、2重織(経糸5及び緯糸6の一方が上下2段に配置され、他方が1段に配置されて、互いに織り込まれた構造)や3重織(製紙面側と走行面側とが、それぞれ別の経糸5及び緯糸6で構成され、接結糸で1枚に合わせた構造)でも良く、複数の織布が重ねられたものであっても良い。
【0030】
バット層3は、基布2の走行面側に配置された裏層7と、前記基布の製紙面側に配置された表層8とを含む。表層8は、基布2側に配置された表内層8aと、製紙面側に配置された表外層8bとを含む。バット層3は、基布2にステープルファイバーシートをニードルパンチングすることによって形成され、基布2に一体化される。バット層3を構成するステープルファイバーの素材は、特に限定されないが、例えば上記のナイロン等を使用することができる。通常、バット層3を構成するステープルファイバーは、2~150dtex(数値範囲について「x以上y以下」を「x~y」と記す)、好ましくは5~120dtex、より好ましくは9~100dtexの太さを有し、40~100mmの繊維長とを有する。バット層3の太さと繊維長は、製紙用フェルト1に求められる表面性や空隙率等の特性に応じて適切に設定され、紙に接触する表外層8bには、表内層8aよりも、細い繊維が使用される。
【0031】
不織布層4は、基布2と表層8の間であって、基布2の直上に、すなわち、基布2の製紙面側の面に隣接するように配置される。不織布層4は、レーヨン繊維100%から構成される不織布をニードルパンチングすることにより形成される。不織布層4のレーヨン繊維は、5~35mm、好ましくは5~15mmの繊維長を有する。不織布層4を形成するための不織布は、15~100g/m2、好ましくは15~60g/m2の目付を有する。不織布層4のレーヨン繊維は、バット層3を構成するステープルファイバーよりも細く、1~5dtexの太さを有する。不織布層4用の不織布は、バインダー(接着剤)を使用せず、繊維同士が自己融着することによりシートを形成させた不織布で、レーヨン繊維が、機械方向や機械横断方向など特定の方向に整列することなくランダムに配列され、捲縮(クリンプ)数が2.54cm(1インチ当たり)20~30であることが好ましく、熱融着部があっても良い。
【0032】
製紙用フェルト1の製造方法について説明する。作業員は、以下の手順に従って製紙用フェルト1を製造する。まず、基布2を製織する。次に、基布2の製紙面側に不織布層4となるべきレーヨン繊維100%から構成される不織布を重ね、その不織布の製紙面側に表内層8aにおける基布2側の部分8cとなるべきステープルファイバーシート(短繊維シート)を重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第1の仕掛品を作成する。次に、第1の仕掛品の製紙面側に、表内層8aにおける製紙面側の部分8dとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第2の仕掛品を作成する。次に、第2の仕掛品の製紙面側に、表外層8bとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第3の仕掛品を作成する。次に、第3の仕掛品の走行面側に、裏層7となるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化し第4の仕掛品を作成する。次に、第4の仕掛品に、設定寸法に仕上げるための化学処理や特殊加工と、性能向上のための洗浄や樹脂加工とを含む仕上げ工程を実施して、製紙用フェルト1を完成させる。なお、裏層7となるべきステープルファイバーシートのニードルパンチングは、レーヨン繊維100%から構成される不織布のニードルパンチングの前、レーヨン繊維100%から構成される不織布のニードルパンチングと表内層8aの製紙面側の部分8dのニードルパンチングとの間、又は、表内層8aの製紙面側の部分8dのニードルパンチングと表外層8bのニードルパンチングとの間に行っても良い。
【0033】
製紙用フェルト1の作用効果について説明する。レーヨン繊維100%から構成される不織布は、レーヨン繊維のみから構成される不織布であり、合成繊維の不織布や樹脂を混合したレーヨン不織布よりも吸水性が高いため、不織布層4に水分が移行しやすい。このため、製紙用フェルト1の搾水性が向上する。また、レーヨン繊維100%から構成される不織布は、樹脂や、熱融着繊維、接着剤を使用しておらず、適度な結合力で繊維間が接着されている。このため、特に不織布の繊維長が5~35mmの場合は、ニードルパンチングで不織布構造が崩れて、層の形状を保っている箇所と不織布挿入位置周囲に繊維が分散している箇所が形成される。言い換えると、製紙用フェルト1は、基布2と、基布2の少なくとも紙面側に配置されるバット層3とを有し、繊維長が5~35mmのレーヨン繊維が製紙用フェルト1の表面に露出することなく、バット層3の内部および基布2の内部に分散している。このような短繊維のレーヨン繊維を含むレーヨン不織布を用いることで、製紙用フェルト1製造時のニードルパンチングにより、多くのレーヨン繊維が基布2の内部にまで侵入し、使用開始から速やかに製紙用フェルト1内部へ水分を移行させることができる。また、レーヨン繊維が捲縮を有することで、製紙用フェルト1製造時のニードルパンチングにより、レーヨン繊維が分散しすぎず、適度に繊維同士が絡み合っているため、使用時にレーヨン繊維が早急に脱落することも抑制できる。また、このような短繊維のレーヨン繊維を含むレーヨン不織布を用いることで、バット層3と比べて相対的に空隙の多い基布2の空隙を適度に充填することができ、湿紙-基布2間の水圧差が減少し、湿紙-製紙用フェルト1内部間の水分移行がよりスムーズとなり、搾水性を向上させることができる。また、このような形状の不織布層4が配置されている製紙用フェルト1は、使用初期はレーヨン繊維が脱落しにくいものの、使用中に徐々に脱落していき、使用末期には脱落しているため密度上昇が抑えられる。その結果、一定の通気度値を維持するので、汚れが蓄積されにくい。また、レーヨン繊維の太さがバット層3の繊維の太さよりも細いことによっても、レーヨン繊維の基布2及びバット層3への分散性を向上させ、防汚性を高める。
【0034】
不織布層4用のレーヨン繊維は、5~15mmの繊維長を有することが好ましい。このような長さの繊維によって形成された不織布の方が、ニードルパンチングで不織布構造が崩れやすく、使用末期でも密度が上昇しにくい。そのため、通気度が下がりにくく、汚れが蓄積されにくい。
【0035】
不織布層4用の不織布において、レーヨン繊維は、機械方向,機械横断方向など特定の方向に整列することなく、ランダムに配列されていることが好ましい。不織布層4のレーヨン繊維がこのような配列である方が、ニードルパンチングでレーヨン繊維が基布2及びバット層3にニードル針によって把持・運搬されやすくなるので、不織布構造がより崩れて、レーヨン繊維が基布2及びバット層3へ分散しやすくなる。よって、上記同様、使用末期でも密度が上昇しにくくなり、汚れが蓄積されにくくなる。
【0036】
また、不織布層4用のレーヨン繊維は、2.54cm(1インチ)あたり20~30の捲縮数を有することが好ましい。不織布層4のレーヨン繊維の捲縮数がこの範囲である方が、吸水や抱水に適した繊維間空隙の構造になるので、吸水速度が速くなり、かつ、多くの水分を保持できるようになり、搾水性がより向上する。
【0037】
一方、不織布の繊維長が35mmより長い場合は、例え適度な結合力で繊維間が接着されていてもニードルパンチングで不織布構造が崩れにくく、不織布層4の繊維が、基布2やバット層3にほとんど分散しない。すると、不織布層4は、使用末期まで繊維が脱落しにくく、密度が上昇して、通気度が下がり、汚れが不織布層4に蓄積しやすくなる。また、繊維長が5mm以下の場合、その繊維が、ニードルパンチングで製紙用フェルト全体に分散してしまうため、使用初期に繊維が脱落しやすくなる。このため、搾水性の向上効果が短期間に失われる。
【0038】
不織布層4を製紙用フェルト1の表面に近い表層8ではなく、基布2の直上(基布2の製紙面側に隣接して)配置することで、プレス中にシャワーやサクションボックス36(
図4参照)による損傷を受けにくくなる。このため、使用初期に不織布繊維が脱落しにくく、搾水性向上の効果が維持される。また、空隙の多い基布2の層にも微細な不織布繊維が分散することで、バット層3と基布2の層の水圧差を少なくすることができ、湿紙、表層8、基布2の層と水圧が徐々に変化するような内部構造になる。このため、湿紙から製紙用フェルト1の内部へ水分がスムーズに移行しやすくなり、搾水性が向上する。
【0039】
不織布層4用の不織布の目付が多いほど、搾水性は向上するが、通気度は低くなる。通気度が低いと特に使用末期に汚れが蓄積されやすくなる。このため、不織布層4用の不織布の目付は15~100g/m2、好ましくは15~60g/m2とするのが良い。
【0040】
図2を参照して、本発明の第2及び第3実施形態を説明する。
図2(A)は、第2実施形態に係る製紙用フェルト11の模式的断面図であり、
図2(B)は、第3実施形態に係る製紙用フェルト21の模式的断面図である。第2及び第3実施形態の説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。
【0041】
第2実施形態に係る製紙用フェルト11の構成は、不織布層4が、基布2と裏層7の間であって、基布2の直下に、すなわち、基布2の走行面側の面に隣接するように配置される点でのみ第1実施形態と相違する。このように、基布2の直下に不織布層4を配置することにより、直上に配置した場合に比べて不織布層4が製紙面から離れるため、不織布層4のつなぎ部による湿紙表面へのマークが生じ難くなる。このため、製紙用フェルト11は、特に表面性が重要となる紙を製造する製紙マシンで使用するのに好適である。その他の点において、不織布層4が基布2の直下に配置された第2実施形態に係る製紙用フェルト11は、不織布層4が基布2の直上に配置された第1実施形態(
図1参照)と同様の効果を奏する。
【0042】
製紙用フェルト11の製造方法について説明する。作業員は、以下の手順に従って製紙用フェルト11を製造する。まず、基布2を製織する。次に、基布2の走行面側に不織布層4となるべきレーヨン繊維100%から構成される不織布を重ね、その不織布の走行面側に裏層7における基布2側の部分7aとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第1の仕掛品を作成する。次に、第1の仕掛品の走行面側に、裏層7における走行面側の部分7bとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第2の仕掛品を作成する。次に、第2の仕掛品の製紙面側に、表内層8aとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第3の仕掛品を作成する。次に、第3の仕掛品の製紙面側に、表外層8bとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化し第4の仕掛品を作成する。次に、第4の仕掛品に、上記の仕上げ工程を実施して、製紙用フェルト11を完成させる。なお、表内層8aとなるべきステープルファイバーシートのニードルパンチングは、レーヨン繊維100%から構成される不織布のニードルパンチングの前に行っても良い。
【0043】
第3実施形態に係る製紙用フェルト21は、不織布層4が表内層8aと表外層8bとの間に配置された点のみ、第1実施形態と相違する。第3実施形態に係る製紙用フェルト21は第1及び第2実施形態に比べて、不織布層4が基布2から離れているため、不織布繊維が基布2の層内に分散し難くなっている。このため、第3実施形態は、不織布繊維が、基布2の層内に分散することによって生じる効果は、第1実施形態よりも低いと考えられるが、その他の点においては第1実施形態と同様の効果を有する。
【0044】
製紙用フェルト21の製造方法について説明する。作業員は、以下の手順に従って製紙用フェルト21を製造する。まず、基布2を製織する。次に、基布2の製紙面側に表内層8aとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第1の仕掛品を作成する。次に、第1の仕掛品の製紙面側に、不織布層4となるべきレーヨン繊維100%から構成される不織布を重ね、その不織布の製紙面側に表外層8bにおける基布2側の部分8eとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第2の仕掛品を作成する。次に、第2の仕掛品の製紙面側に、表外層8bの製紙面側の部分8fとなるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化した第3の仕掛品を作成する。次に、第3の仕掛品の走行面側に、裏層7となるべきステープルファイバーシートを重ね、ニードルパンチングによりこれらを一体化し第4の仕掛品を作成する。次に、第4の仕掛品に、上記の仕上げ工程を実施して、製紙用フェルト21を完成させる。なお、裏層7となるべきステープルファイバーシートのニードルパンチングは、表内層8aのニードルパンチングの前、表内層8aのニードルパンチングとレーヨン繊維100%から構成される不織布のニードルパンチングとの間、又は、レーヨン繊維100%から構成される不織布のニードルパンチングと表外層8bの製紙面側の部分8fのニードルパンチングとの間に行っても良い。
【実施例0045】
表1及び
図3に示す構成のフェルトサンプルについて搾水試験を行うとともに、各フェルトサンプルに使用した不織布層4,4'の不織布について吸水性評価試験を行った。
【0046】
【0047】
≪吸水性評価試験≫
吸水性評価試験は、JIS L 1907に掲載されている吸水性評価試験(バイレック法)に基づいて実施した。不織布サンプルから25mm×200mmの短冊形の試験片を10枚(機械方向が長手方向とするものと機械横断方向を長手方向とするものとを5枚ずつ)採取し、試験片の端を水に浸漬させ、10分後に毛細管現象で水面から上昇した水の高さ(mm)を測定した。
【0048】
≪搾水試験≫
作業員が以下の作業を行って搾水試験を行った。
【0049】
<フェルトサンプルの製作>
基布2は2層とした。製紙面側に配置された上基布層は、0.2mm径の6ナイロンモノフィラメントの撚糸を経糸5とし、0.25mm径の6ナイロンモノフィラメントの単糸を緯糸6として用いて、1重織組織で織り上げられ、275g/m2の目付を有した。走行面側に配置された下基布層は、0.4mm径の6ナイロンモノフィラメントの単糸を経糸5と0.4mm径の6・10ナイロンモノフィラメントの単糸を緯糸6として用いて、2重織組織で織り上げられ、581g/m2の目付を有した。下基布層に上基布層を重ね、基布2の層とした。
【0050】
裏層7を形成するために基布2の下(走行面側)に平均繊度39dtex、目付150g/m
2の66ナイロンステーブルファイバーシートを配置した。表内層8aを形成するために基布2の上(製紙面側)に平均繊度39dtexの66ナイロンステープルファイバーシートを目付が450g/m
2となるように3枚重ねて配置した。表外層8bを形成するために、表内層8a用のステープルファイバーシートの上に平均繊度22dtexの66ナイロンステープルファイバーシートを目付が200g/m
2となるように2枚重ねて配置した。また、不織布層4,4' (比較例の不織布層を符号「4'」で示す)を形成するための不織布を表1及び
図3に示す位置に挿入した。目付25g/m
2の不織布を使用し、目付50g/m
2以上の不織布層4を形成する場合は、複数枚の不織布を重ねて配置した。これらの基布2、ステープルファイバーシート及び不織布の積層体に対してニードルパンチングを行い、バット層3及び不織布層4,4'を形成し、基布2、バット層3及び不織布層4,4'を絡合一体化させた。針打ち密度は606回/cm
2とした。更にプレス加工を行い、フェルトサンプルを作製した。
【0051】
図3に示すように、実施例1~4及び9、並びに比較例1~4は、第1実施形態のように基布2と表内層8aの間に不織布が配置され、不織布は、表内層8aを形成するステープルファイバーシートと同時に表面(製紙面側)からニードルパンチングされた。実施例5及び6は、第2実施形態のように基布2と裏層7との間に不織布が配置され、不織布は、裏層7を形成するステープルファイバーシートと同時に裏面(走行面側)からニードルパンチングされた。実施例7及び8は、第3実施形態のように表内層8aと表外層8bとの間に不織布が配置され、不織布は、表外層8bを形成するステープルファイバーシートと同時に表面(製紙面側)からニードルパンチングされた。
【0052】
<搾水試験>
・事前準備
図4に試験機の概略図を示す。
(1)各フェルトサンプルを42×20cmの大きさに切り出し、エンドレスベルト状に縫い合わせてフェルト試験体Fとし、プレスロール試験機31に取り付けた。プレスロール試験機31は、フェルト試験体Fを支持するロール32と、フェルト試験体Fに載置された湿紙(水分を含んだ濾紙S)を互いに協働して圧縮するトップロール33及びボトムロール34と、フェルト試験体Fにおけるトップロール33及びボトムロール34を通過して濾紙Sが取り除かれた部分に水をかけるシャワー装置35と、フェルト試験体Fにおけるシャワー装置35を通過した部分から水分を吸引するサクションボックス36とを備える。このプレスロール試験機31は、試験中、1周につき1回、トップロール33とボトムロール34でフェルト試験体F及び濾紙Sをプレス(圧縮)する構造である。取り付けられた各ロール32によりフェルトの表面が外側にも内側にも屈曲するような走行となる。
【0053】
(2)搾水試験中のフェルト試験体Fの厚み変化を少なくするために、事前に走行速度を250m/分、プレス線圧を60kN/mとして、プレス回数が9,000回になるまで、表面側からシャワーしながらフェルト試験体Fを走行させた。
【0054】
・濾紙S
濾紙S(Whatman No.3 φ150mm(坪量約185g/m2))を24時間以上、水に浸漬した後、プレス前水分65%になるように水分調整を行い、湿紙の代わりとした。
【0055】
・試験手順
(1)プレスロール試験機31に取り付けたフェルト試験体Fを、走行速度を40m/分、トップロール33及びボトムロール34によるプレス線圧を50kN/m、シャワー装置35からのシャワー流量4L/分として、サクションボックス36で表面側から水分を吸引しながら走行させた。
【0056】
(2)65%に水分調整した濾紙Sを、連続運転中のフェルト試験体Fの上(プレス入口)にアルミ板とともに置いてトップロール33及びボトムロール34によるプレスを通過させ、通過後にフェルト試験体Fから取り出し、プレス前後の濾紙Sの重量を記録した。
【0057】
(3)濾紙Sを乾燥機で予備乾燥し(60℃で1時間程度)、赤外水分計(熱天秤)を使用して絶乾重量を測定し、プレス前後の濾紙Sの水分を求めた。実施例1~9及び比較例1~4の各々について、1つのフェルト試験体Fで10枚の濾紙Sで試験を行い、その平均値を算出した。
【0058】
・通気度測定
1つのフェルト試験体Fにつき5か所ずつ通気度を測定し、平均値を算出した。
【0059】
吸水性評価試験の結果を表2及び
図5に示す。表2及び
図5に示されるように、レーヨン100%の不織布は、繊維長が10mmであっても30mmであっても、他の素材の不織布よりも吸水性が高かった。実施例9のレーヨン不織布では、機械方向の吸水速度が機械横断方向の吸水速度に比べて明らかに大きかった。一方、実施例1~8で使用したレーヨン不織布では、機械方向と機械横断方向との吸水速度が略同じであった。このような違いが生じた理由は、表1の「繊維の配向」の欄に示されるように、実施例1~8で使用したレーヨン不織布では繊維がランダムに配向されているのに対して、実施例9のレーヨン不織布では繊維が経方向のみに基本配向している影響であると考えられる。
【表2】
【0060】
表3及び
図6に搾水性評価試験の結果を示す。表3及び
図6(A)に示されるように、レーヨン100%の不織布層4を有するフェルト試験体F(実施例1及び9)で運搬されて濾紙Sは、他の不織布層4'を有するフェルト試験体F(比較例1~4)及び不織布層4,4'を有さないフェルト試験体F(比較例5)に比べて、プレス前後の水分差が大きく、搾水性が高かった。表3及び
図6(B)に示すように、不織布層4が基布2の直上に配置されたフェルト試験体F(実施例1~4)及び不織布層4が表内層8aと表外層8bとの間に配置されたフェルト試験体F(実施例7及び8)は、不織布層4が基布2の直下に配置されたフェルト試験体F(実施例5及び6)に比べて、プレス前後の水分差が大きく、搾水性が高かった。また、目付が増えるに従って、プレス前後の水分差が大きく、搾水性が高くなった。
【表3】
【0061】
表4にフェルト試験体Fの通気度測定の結果を示す。通気度の単位は、cm
3/cm
2/sである。表4に示されるように、通気度は、不織布の種類及び位置が共通であれば、目付が増えるにつれて減少した。実施例1~4の結果から判断すると、不織布層4が基布2の直上に配置され、繊維長10mm、レーヨン100%の不織布により不織布層4を形成した場合は、目付が60g/m
2であれば、約20cm
3/cm
2/sの通気度が得られると推定できた。フェルト内に配置する不織布の目付が75g/m
2の実施例3と100g/m
2の実施例4は、フェルト試験体Fの通気度が20cm
3/cm
2/s未満であるため、特に使用末期に汚れが蓄積されやすい。そのため、不織布の目付は60g/m
2以下が好ましい。
【表4】
【0062】
図7(A)及び(B)は、実施例1及び9の緯断面の電子顕微鏡写真であり、
図7(C)及び(D)は、
図7(A)及び(B)の拡大写真である。
図7(A)~(D)から、実施例1及び9では、レーヨン100%の不織布の繊維が基布2の隙間にも分散していることがわかる。また、
図7(C)及び(D)から、実施例1ではレーヨン繊維の捲縮が大きく、実施例1とは異なる製法で不織布が作製された実施例9ではレーヨン繊維の捲縮が小さいことがわかる。なお、実施例2~8の不織布は、実施例1と同様の製法により作成されたため、実施例2~8のレーヨン繊維も、実施例1と同程度に大きな捲縮を有すると言える。
【0063】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。