(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139571
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】糸の摩耗試験機及び耐摩耗性試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/56 20060101AFI20241002BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
G01N3/56 A
G01N19/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050571
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000229852
【氏名又は名称】日本フエルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 祥一郎
(72)【発明者】
【氏名】青木 茂人
(57)【要約】
【課題】製織することなく試験を実施でき、糸の延在方向に交差する方向の摩耗を評価できる糸用摩耗試験機及び耐摩耗性試験方法を提供する。
【解決手段】糸Fの摩耗試験機1は、第1軸線回りに回転可能で第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈する摩擦子3と、第1軸線に交差する線に平行な第2軸線方向に延在し、試験体である糸Fが第2軸線回りに巻回されるべき被巻体5を含み、被巻体5に巻回された糸Fが摩擦子3の外周面に当接可能に構成された糸固定具6とを備える。糸Fは、互いに隣り合う部分が密接するように、被巻体5に巻回される。試験は、被巻体5を回転させず、摩擦子3を回転させることにより行われる。試験中、摩擦子3と被巻体5とを相対的に第2軸線方向に往復移動させると良い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸の摩耗試験機であって、
支持部と
第1軸線回りに回転可能に前記支持部に支持され、前記第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈する摩擦子と、
前記第1軸線に交差する線に平行な第2軸線方向に延在し、試験体である前記糸が前記第2軸線回りに巻回されるべき被巻体を含み、前記被巻体に巻回された前記糸が前記摩擦子の外周面に当接可能に構成された糸固定具と
を備える摩耗試験機。
【請求項2】
前記摩擦子及び前記糸固定具の少なくとも一方は、前記第2軸線方向に往復移動可能に構成され、
前記摩擦子の前記外周面に前記糸を摺動させるべく、前記摩擦子及び前記糸固定具の前記一方を前記第2軸線方向に往復移動させる摺動装置を更に備える、請求項1に記載の摩耗試験機。
【請求項3】
前記第1軸線方向及び前記第2軸線方向は水平面に平行であり、
前記糸固定具は、錘を更に備え、前記摩擦子の上方に配置され、自重によって前記摩擦子に前記糸を押し付けるように構成された、請求項1に記載の摩耗試験機。
【請求項4】
前記摩擦子を受容する水槽を更に備える、請求項1に記載の摩耗試験機。
【請求項5】
前記被巻体は、前記第2軸線を中心線とする円筒形状又は円柱形状を呈する、請求項1に記載の摩耗試験機。
【請求項6】
前記被巻体は、前記第2軸線回りの回転を許容する状態と規制する状態とを選択可能に構成された、請求項5に記載の摩耗試験機。
【請求項7】
製紙用ワイヤーの緯糸の耐摩耗性を評価するために使用される、請求項1に記載の摩耗試験機。
【請求項8】
糸の耐摩耗性試験方法であって、
所定方向に延在する被巻体に前記所定方向回りに前記糸を巻回する工程と、
第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈して前記第1軸線回りに回転可能な摩擦子に、前記所定方向が前記第1軸線に交差する線に平行な第2軸線方向に一致するように、前記被巻体に巻回された前記糸を前記摩擦子の外周面に当接させた状態において、前記第1軸線回りに前記摩擦子を回転させて前記糸を摩耗させる工程と、
前記糸の摩耗を評価する工程と
を備える、耐摩耗性試験方法。
【請求項9】
前記摩耗させる工程は、前記被巻体を前記第2軸線回りに回転させずに行う、請求項8に記載の耐摩耗性試験方法。
【請求項10】
前記摩耗させる工程は、前記摩擦子を回転させるとともに、前記摩擦子及び前記被巻体の少なくとも一方を前記第2軸線方向に往復移動させることを含む、請求項9に記載の耐摩耗性試験方法。
【請求項11】
前記評価する工程は、前記巻回する工程の後かつ前記摩耗させる工程の前に、前記被巻体に巻回された前記糸によって構成される円筒形状をなす糸巻回体の外径を測定することと、前記摩耗させる工程の後に、前記回転させる工程にて前記摩擦子によって摩耗させた部分における前記糸巻回体の外径を測定することと、摩耗前後の前記外径の差に基づいて、前記糸の耐摩耗性を評価することを含む、請求項10に記載の耐摩耗性試験方法。
【請求項12】
前記巻回する工程は、2種類以上の前記糸が前記被巻体の表面に交互に配置されるように、前記被巻体に前記糸を巻回することを含む、請求項8に記載の耐摩耗性試験方法。
【請求項13】
前記摩耗させる工程は、前記糸に液体を噴射させながら行う、請求項8に記載の耐摩耗性試験方法。
【請求項14】
前記巻回する工程は、前記糸の互いに隣り合う部分が密接するように行われる、請求項8に記載の耐摩耗性試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸の摩耗試験機及び糸の耐摩耗性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糸の耐摩耗性を評価する試験機として、例えば、
図8に示すような摩耗試験機101が知られている。摩耗試験機101は、試験体である糸Fの一端側を固定する固定部102と、糸Fの他端側に取り付けられる錘103と、糸Fの中間部分が接触する円筒形状の摩擦子104とを備える。糸Fにおける摩擦子104に接触する部分は、摩擦子104の周方向に延在し、摩擦子の円周の約1/4の区間に当接している。所定の液体を滴下しながら摩擦子104を所定の速度で回転させ、糸が切れるまでの時間が測定される。この時間に基づいて、糸の耐摩耗性が評価される。
【0003】
特許文献1には、平面状の主面を有する摩擦子(評価用試料)に糸を巻回させた円柱形状の回転体を接触させた状態で、回転体を回転させることにより、糸をガイドする部材の耐摩耗性を評価する装置及び方法が記載されている。特許文献1は、円柱部材に巻き付けた糸と接触させる、評価用部材の接触箇所の形状を、円柱部材の外周面といった曲面とする場合、糸が変形して一定の角度に保つことが困難となり、評価結果のバラツキが大きくなり、糸に対する評価用部材の正確な耐摩耗性評価ができないことを課題として挙げている。特許文献1は、その解決手段として、評価用部材のうち糸との接触箇所の形状を平面とすることを教示している。このように、特許文献1は、評価用部材の平面部分(例えば、円盤状部材の軸線方向端面)に、円柱部材に巻き付けられた糸を接触させて、評価用部材を摩耗させる、糸に対する評価用部材の耐摩耗性評価方法を開示している。また、特許文献2には、製織された織物の摩耗試験装置及び方法が記載されている。特許文献2の摩耗試験装置では、製織した織物は支持台に載置され、織物の一端は固定され、もう一端には錘が繋がれ、荷重により引っ張られており、この織物の上に載置された摩擦ロールが、回転しながら前後左右に移動することで、織物を摩耗させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-292999号公報
【特許文献2】特開平5-240760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、
図8に示す摩耗試験機101を用いた試験方法では、滴下する液体によって糸Fの位置がずれ易く、摩耗を正確に評価できないという問題や、試験中に摩耗して細くなった糸Fが錘103による引張力によって伸びるため、伸びやすい糸Fは、伸びの影響を受けて切れ易く、純粋な摩擦による摩耗を評価できないという問題があった。
【0006】
また、糸は、擦る方向により耐摩耗性が異なる。例えば、ナイロンやポリエステル等を素材とする高分子成形物の糸では、製造過程(溶融紡糸や、紡糸後の延伸)の履歴が分子構造に強く反映される。多くの高分子成形物の糸は、延伸しながら製造されるので、分子構造は繊維軸方向に強く配向している。このため、繊維軸に平行に摩擦するのと、繊維軸に垂直に摩擦するのでは耐摩耗性が大きく異なる。例えば、抄紙機のワイヤーパートで使用される抄紙用ワイヤーは、経糸と緯糸とを有する織物であり、走行面側(裏側)にてロールに支持され、製紙面側(表側)にて紙料を載せて、紙料を脱水しながら運搬する。抄紙機用ワイヤーの走行面側がロールの回転により摩耗するが、経糸よりも緯糸の摩耗が大きく、抄紙用ワイヤーの使用限界は、走行面側の緯糸の摩耗状態で決定される。緯糸は、ロールから緯糸の延在方向に直交する方向に摩擦力を受けるので、糸の延在方向に直交する方向に摩耗する。
図8に示す摩耗試験機101による方法及び特許文献1に記載の方法は、糸の延在方向の摩耗を評価するものであるため、抄紙用ワイヤーの緯糸のように、糸の延在方向に直交する方向の耐摩耗性を評価したい場合には、適さない。
【0007】
特許文献2に記載の試験方法は、試験体として織物を使用するため、経糸及び緯糸の双方を用意する必要があって、試験に必要な糸の量が多くなり、また、試験体を作るために製織する必要があった。また、製織しただけでは糸がずれ易いので、糸を固定するために熱セットする必要があるが、糸の素材によっては熱セットによって糸が結晶化するなど糸の性能が変化するおそれがあった。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、製織することなく試験を実施でき、糸の延在方向に交差する方向の摩耗を評価できる糸用摩耗試験機及び耐摩耗性試験方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、糸の摩耗試験機(1,21,31,41)であって、支持部(2,25)と、第1軸線回りに回転可能に前記支持部に支持され、前記第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈する摩擦子(3)と、前記第1軸線に交差する線に平行な第2軸線方向に延在し、試験体である前記糸(F)が前記第2軸線回りに巻回されるべき被巻体(5)を含み、前記被巻体に巻回された前記糸が前記摩擦子の外周面に当接可能に構成された糸固定具(6,22)とを備える。「交差」とは、2つの線が互いに一致しないこと、すなわち、0°より大きく90°以下の角度で交わることを意味する。
【0010】
この態様によれば、回転する摩擦子が、糸Fの延在方向に交差するように糸に擦れるため、糸Fの延在方向に交差する方向の耐摩耗性を評価することができる。試験体である糸は、被巻体に巻き付けられるため、製織せずに試験を実施できる。また、摩擦子を回転可能な円筒又は円柱形状とすることで、摺動可能な板状や周回可能なベルト状とする場合よりも高速に摩擦を与えることができ、糸の延在方向に交差する方向の摩擦に対する摩耗試験を、より高能率に実施することができる。
【0011】
上記の態様の糸の摩耗試験機(1.21,31,41)において、前記摩擦子(3)及び前記糸固定具(6,22)の少なくとも一方は、前記第2軸線方向に往復移動可能に構成され、前記摩擦子の前記外周面に前記糸を摺動させるべく、前記摩擦子及び前記糸固定具の前記一方を前記第2軸線方向に往復移動させる摺動装置(7)を更に備えると良い。
【0012】
この態様によれば、糸固定具を第2軸線方向に往復移動させることにより、共通の摩擦条件で同一の試験体のより多くの箇所に対して摩擦試験を行なうことができ、糸の巻回体には、線状の摩耗が生じ、摩耗箇所の観察が容易になる。また、第2軸線方向に沿って線状に摩耗した複数の点で、糸の厚さの変化を測定してその平均を求めることにより、評価の精度を高めることができる。
【0013】
上記の態様の糸の摩耗試験機(21)において、前記第1軸線方向及び前記第2軸線方向は水平面に平行であり、前記糸固定具(22)は、錘(23)を更に備え、前記摩擦子(3)の上方に配置され、自重によって前記摩擦子に前記糸を押し付けるように構成されても良い。
【0014】
この態様によれば、錘の重さを調整することにより、被巻体に巻回された糸と摩擦子との間の圧力を調整することができる。
【0015】
上記の態様の糸の摩耗試験機(31)において、前記摩擦子(3)を受容する水槽(32)を更に備えても良い。
【0016】
この態様によれば、水槽に液体を注入した状態で試験を行うことにより、水中又は湿潤環境で使用される糸の耐摩耗性を精度よく評価できる。
【0017】
上記の態様の糸の摩耗試験機(1.21,31,41)において、前記被巻体(5)は、前記第2軸線を中心線とする円筒形状又は円柱形状を呈しても良い。
【0018】
この態様によれば、糸が被巻体に密着するように、糸を被巻体に巻回することが容易になり、1箇所での試験終了後に、被巻体を所定の角度回転させることにより、1つの試験体のより多くの箇所に対して、共通の条件の別の個所で試験を行うことができる。糸が互いに密着し、かつ糸が被巻体に密着することにより、試験中に糸が浮いたりする不具合が生じない。
【0019】
上記の態様の糸の摩耗試験機(1.21,31,41)において、前記被巻体(5)は、前記第2軸線回りの回転を許容する状態と規制する状態とを選択可能に構成されても良い。
【0020】
この態様によれば、被回転体の回転を規制した状態で試験を行い、1つの試験体に対して、1箇所で試験を行った後、被回転体を所定の角度だけ回転させて、別の箇所で試験を行うことができる。
【0021】
上記の態様の糸の摩耗試験機(1.21,31,41)は、製紙用ワイヤーの緯糸の耐摩耗性を評価するために使用されると良い。
【0022】
この態様によれば、製紙用ワイヤーの緯糸の耐摩耗性を、実際の使用環境に近似した条件で試験することができる。
【0023】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、糸(F)の耐摩耗性試験方法であって、所定方向に延在する被巻体(5)に前記所定方向回りに前記糸を巻回する工程と、第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈して前記第1軸線回りに回転可能な摩擦子(3)に、前記所定方向が前記第1軸線に交差する線に平行な第2軸線方向に一致するように、前記被巻体に巻回された前記糸を前記摩擦子に当接させた状態において、前記第1軸線回りに前記摩擦子を回転させて前記糸を摩耗させる工程と、前記糸の摩耗を評価する工程とを備える。
【0024】
この態様によれば、回転する摩擦子が、糸の延在方向に交差するように糸に擦れるため、糸Fの延在方向に交差する方向の耐摩耗性を評価することができる。試験体である糸は、被巻体に巻き付けられて固定されるため、製織せずに試験を実施できる。
【0025】
上記の態様において前記摩耗させる工程は、前記被巻体(5)を前記第2軸線回りに回転させずに行うと良い。
【0026】
この態様によれば、糸の延在方向の摩擦の影響を抑え、純粋な糸の延在方向に交差する方向の摩擦に対する耐摩耗性を評価することができる。
【0027】
上記の態様において、前記摩耗させる工程は、前記摩擦子(3)を回転させるとともに、前記摩擦子及び前記被巻体(5)の少なくとも一方を前記第2軸線方向に往復移動させることを含むと良い。
【0028】
この態様によれば、摩耗箇所が線状となり、摩耗箇所の観察及び測定が容易になる。また、摩耗箇所が増加し、同一の試験条件で生じた複数の摩耗箇所を評価できるようになるため、より再現性の高い試験を行なうことができる。
【0029】
上記の態様において、前記評価する工程は、前記巻回する工程の後かつ前記摩耗させる工程の前に、前記被巻体に巻回された前記糸(F)によって構成される円筒形状をなす糸巻回体の外径(T)を測定することと、前記摩耗させる工程の後に、前記回転させる工程にて前記摩擦子(3)によって摩耗させた部分における前記糸巻回体の外径を測定することと、摩耗前後の前記外径の差に基づいて、前記糸の耐摩耗性を評価することを含むと良い。
【0030】
この態様によれば、糸の太さの変化を直接測定する場合よりも、測定対象物が大きいため、測定が容易になる。また、直接測定する場合は、糸を糸巻回体より解す必要が生じる。試験途中の摩耗経過を評価する場合は、一旦糸を解してしまうと再度巻回する際に摩耗位置のずれが発生しやすい。この態様では、糸を解すことなく糸の耐摩耗性を評価できるため、容易に試験途中の経過も評価可能である。
【0031】
上記の態様において、当該耐摩耗性試験方法は、2種類の前記糸(F)を緯糸として含む製紙用ワイヤーの耐摩耗性を評価するために行われ、前記巻回する工程は、前記2種類の前記糸が前記被巻体の表面に交互に配置されるように、前記被巻体に前記糸を巻回することを含んでも良い。
【0032】
この態様によれば、2種類以上の糸の耐摩耗性を、同一試験条件で評価することができるため、より高能率に、より高精度の比較試験を行なうことができる。
【0033】
上記の態様において、前記摩耗させる工程は、前記糸(F)に液体を噴射させながら行っても良い。
【0034】
この態様によれば、液体環境下で使用される糸の耐摩耗性をより精度よく評価できる。また、水槽内では濃淡差が生じるような比重が大きな液体であっても、液体の濃度を一定に保った状態で試験を行える。
【0035】
上記の態様において、前記巻回する工程は、前記糸(F)の互いに隣り合う部分が密接するように行われると良い。
【0036】
この態様によれば、糸の互いに隣り合う部分が密接するように、糸を隙間なく被巻体に巻き付けることで、糸の延在方向に交差する方向の摩擦を糸に与えても、糸の横ずれを抑制することができ、再現性の高い試験を行なうことができる。
【発明の効果】
【0037】
以上の態様によれば、製織することなく試験を実施でき、糸の延在方向に交差する方向の摩耗を評価できる糸用摩耗試験機及び耐摩耗性試験方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】第1実施形態に係る糸用耐摩耗試験機を示す正面図(一部断面)
【
図2】第1実施形態に係る被巻体に糸が巻回された状態を示す正面図
【
図3】第2実施形態に係る糸用耐摩耗試験機を示す正面図(一部断面)
【
図4】第3実施形態に係る糸用耐摩耗試験機を示す正面図(一部断面)
【
図5】第4実施形態に係る糸用耐摩耗試験機を示す正面図(一部断面)
【
図7】試験後の摩耗状態を示す写真(A:ナイロン糸、B:PET糸)
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態に係る摩耗試験機1の正面図である。
図1に示すように、摩耗試験機1は、支持部2と、第1軸線回りに回転可能に支持部2に支持された摩擦子3と、摩擦子3を第1軸線回りに回転させるモーター4と、試験体である糸Fが第2軸線回りに巻回される被巻体5を含む糸固定具6と、糸固定具6を第2軸線方向に往復移動させて摩擦子3上を摺動させる摺動装置7とを備える。第1軸線及び第2軸線は、水平面に平行であることが好ましく、第2軸線は、第1軸線に直交する線と平行である。すなわち、第2軸線は、平面視であれば第1軸線に直交するが、第1軸線に対して上下にずれた位置にある。第1軸線の延在方向(以下、「第1軸線方向」と記す)は、
図1の紙面に直交する方向であり、第2軸線の延在方向(以下、「第2軸線方向」と記す)は、
図1の紙面の左右方向である。
【0040】
支持部2は、試験室に設置された支持台8と、支持台8の上面に立設されて第2軸線方向に互いに対向する1対のフレーム9と、1対のフレーム9の上部間に架け渡されて、第2軸線方向に延在するガイドレール10と、支持台8に固定されて摩擦子3を第1軸線回りに回転可能に支持する軸受部11とを含む。フレーム9の形状は、ガイドレール10を固定できればどのようなものでも良く、例えば、側面視で、支持台8の上面と組み合わさって、三角形や四角形の枠形状をなす。
【0041】
摩擦子3は、第1軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈する。摩擦子3の外周面は、試験される糸Fに比べて十分に耐摩耗性が高くなるように構成される。例えば、摩擦子3は、円筒形状のステンレスを本体とし、その外周面は、セラミック溶射等による表面処理が施されたものであっても良い。
【0042】
糸固定具6は、被巻体5に加えて、第2軸線方向に往復移動可能にガイドレール10に支持されたスライダー12と、スライダー12から下方に延出して下端部にて被巻体5を支持する1対の支持体13とを含む。
【0043】
被巻体5は、第2軸線を中心軸とする円筒又は円柱形状を呈する。被巻体5の外周面に糸Fが第2軸線回りに巻回される。糸Fの両端部は、それ自体は公知の構造によって被巻体5に固定される。例えば、糸Fの両端部は、被巻体5の第2軸線方向の端面に設けられたクリップ構造(図示せず)に固定されても良く、被巻体5の表面に設けられた軸体14等の突起に結び付けられても良い。
【0044】
スライダー12は、第2軸線方向に往復移動可能にガイドレール10に支持されるが、上下方向及び第1軸線方向への移動は規制される。
【0045】
1対の支持体13は、第2軸線方向に互いに対向する平板形状を呈する。被巻体5の第2軸線方向の端面の中心からは、軸体14が突出しており、支持体13には軸体14を受容する受容孔15が設けられている。一方又は双方の支持体13には、第2軸線から径方向にずれた位置に貫通孔16が設けられており、被巻体5の2軸線方向の端面には、周方向に沿って互いに離間した複数の有底孔17が設けられている。被巻体5を第2軸線回りに回転させることにより、貫通孔16に有底孔17を整合させることができる。ピン18を貫通孔16及び有底孔17に嵌合させることにより、被巻体5の第2軸線回りの回転が規制される。
【0046】
摺動装置7は、スライダー12にてガイドレール10に支持された糸固定具6を第2軸線方向に往復移動させることにより、第1軸線回りに回転する摩擦子3に対して、被巻体5に巻回された糸Fを摺動させる。摺動装置7は、往復移動させるためのそれ自体は公知の構造を含み、例えば、スライダクランク機構(図示せず)とこれを駆動するモーター(図示せず)とを含む。
【0047】
摩耗試験機1を用いた耐摩耗性試験方法について説明する。作業員は、以下の作業を行って、糸Fの耐摩耗性を評価する。
【0048】
まず、
図2に示すように、試験体である糸Fを互いに隣り合う部分が密接するように被巻体5に巻回する。被巻体5に巻回する糸Fは、1本でも良く、互いに異なる種類の2本以上の糸Fであっても良い。2種類以上の糸Fを用いる場合には、2種類以上の糸Fが被巻体5の外周面に交互に配置されるように、被巻体5に2種類の糸Fを巻回する。巻回後、糸Fの巻回体の厚さT(糸Fの巻回体の外径)を測定する。
【0049】
次に、
図1に示すように、支持体13に被巻体5を取り付ける。これにより、被巻体5の中心軸線が第2軸線に一致して、被巻体5が摩擦子3の上方に配置され、被巻体5に巻回された糸Fの下部が摩擦子3の上部に当接する。また、貫通孔16及び有底孔17にピン18を嵌合させることにより、被巻体5の第2軸線回りの回転を規制する。
【0050】
次に、摩擦子3の停止回転数を設定後、摩擦子3を第1軸線回りに回転させながら、糸固定具6を第2軸線方向に往復移動させる。摺動装置7は、糸固定具6を、糸Fにおける被巻体5に巻回された部分の第2軸線方向の両端部が摩擦子3に当接する点で折り返させるように、第2軸線方向に往復移動させる。摺動装置7は、糸固定具6を、1分当たり0往復以上120往復以下で往復させる。ここで0往復は、糸固定具6を往復移動させずに固定して試験を行う場合である。なお、糸固定具6の往復速度が速いと、1往復当たりの糸Fの摩擦子3へ接触時間が少なくなり、糸Fの摩耗が進まない。また、糸固定具6の往復速度が速いと、糸Fの材質によっては、実際に製紙用ワイヤーの緯糸として使用した場合の摩耗の程度との相関が小さくなる。このため、糸固定具6の往復速度は、1分当たり約10往復程度が好ましい。モーター4は、摩擦子3を、1分当たり0回より大きく1735回以下の回数で回転させる。
【0051】
摩擦子3の回転数が、設定した停止回転数に達すると、モーター4及び摺動装置7は、摩擦子3及び糸固定具6の駆動を停止する。糸固定具6を第2軸線方向に往復移動させた場合は、糸Fの摩耗は、糸Fの巻回体の外周面の下部に第2軸線方向に沿った直線状に生じる。被巻体5を支持体13から取り外し、摩耗してすり減った部分における糸Fの巻回体の厚さT(糸Fの巻回体の外径)(
図2参照)を測定する。試験前後の糸Fの巻回体の厚さTの差(減少量)から糸Fの耐摩耗性を評価する。また、摩耗面の画像を撮影し、画像から摩耗面の周方向の長さや面積を求め、糸Fの耐摩耗性を評価しても良い。
【0052】
実施形態に係る摩耗試験機1及び耐摩耗性試験方法の作用効果について説明する。
【0053】
摩擦子3が、糸Fの延在方向に直交する方向に擦れるため、糸Fの延在方向に直交する方向の耐摩耗性を評価するのに好適である。
【0054】
仮に、被巻体5を回転させて試験を行う場合には、その回転軸が糸Fの巻回体との中心軸とが少しでもずれていると、摩擦面の接触に振動要素が加わり、摩擦面での摩耗が不均一となる。本方法では、被巻体5を回転させずに試験を行うため、被巻体5の支持体13への固定に高度の精密さが要求されない。また、糸Fの延在方向の摩擦の影響を抑え、純粋な糸Fの延在方向に直交する方向の摩擦に対する耐摩耗性を評価することができる。
【0055】
仮に、摩擦子3をベルト状のものにすると、ベルトの張力を制御する必要が生じる。本方法では、摩擦子3が、円筒又は円柱形状を呈するため、その回転の制御が容易である。
【0056】
円筒又は円柱形状の摩擦子3が糸Fに直交する方向に糸Fに擦れるため、糸固定具6を動かさず、かつ摩擦子3に回転以外の動きを与えない場合は、点状に糸Fが摩耗する。糸固定具6を第2軸線方向に往復移動させることにより、糸Fの巻回体には、線状の摩耗が生じ、摩耗箇所の観察が容易になる。また、また、同一の試験条件で、同一の試験体のより多くの箇所に対して摩擦試験を行なうことができるため、第2軸線方向に沿って線状に摩耗した複数の摩耗箇所で、厚さTの変化を測定してその平均を求めることにより、評価の精度を高めることができる。
【0057】
被巻体5を円筒又は円柱形状とすることにより、糸Fが互いに密着し、かつ糸Fが被巻体5に密着するように、糸Fを被巻体5に巻回することが容易になる。また、1箇所での試験の終了後に、第2回転軸回りの周方向に被巻体5を所定の角度回転させることにより、1つの試験体に対して、共通の条件の別の個所で試験を行うことができる。試験体である糸Fを互いに隣り合う部分が密接するように被巻体5に巻回することにより、糸Fの固定強度が増し、試験精度が高まる。被巻体5が角筒又は角柱形状の場合、糸Fの剛性により角の部分の前後で巻回した糸Fが被巻体5の表面から浮き上がり、試験中に浮き上がった部分を原因とする不具合が生じるおそれがある。この点、被巻体5を円筒又は円柱形状であれば、糸Fが周方向のどの部分においても被巻体5に密着するため、このような不具合は生じない。糸Fの太さを直接測定するのではなく、被巻体5に巻回された糸Fによって構成される円筒形状をなす糸巻回体の外径を測定することにより、測定対象物が大きいため、測定が容易になる。また、糸Fの太さ直接測定する場合は、糸Fを糸巻回体より解す必要が生じる。試験途中の摩耗経過を評価する場合は、一旦糸を解してしまうと再度巻回する際に摩耗位置のずれが発生しやすい。糸巻回体の外径を測定すれば、糸を解すことなく糸Fの耐摩耗性を評価できるため、容易に試験途中の経過も評価可能である。
【0058】
糸Fを製織せずに試験を実施できるため、作業時間が短縮され、糸Fの使用量が削減され、熱セットが不要となって糸Fの変質を防止できる。
【0059】
支持体13に設けられた1つの貫通孔16に整合させる被巻体5の有底孔17を複数の有底孔17の中から選択できる。このため、1つの試験体に対して、複数の箇所で試験を行える。
【0060】
2種類以上の糸Fを被巻体5に巻回する方法は、2種類以上の糸の耐摩耗性を同一試験条件で評価することができるため、より高能率に、より高精度の比較試験を行うことができる。2種類以上の糸Fを被巻体5に巻回する方法は、例えば、従来品の糸Fと新開発の糸Fとの比較試験や、その2種類以上の糸Fが緯糸として混合配置された製紙用ワイヤーの耐摩耗性を評価するのに好適である。
【0061】
次に、本発明に係る第2実施形態を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。
図3は、第2実施形態に係る摩耗試験機21の正面図である。第2実施形態の第1実施形態に対する主な相違点は、糸固定具22が錘23を含む点である。糸固定具22には、1対の支持体13の上端間に架け渡されて水平な上面を有する平板形状の錘載置板24が設けられている。
【0062】
図3に示すように、摩耗試験機21は、支持部25と、第1軸線回りに回転可能に支持部25に支持された摩擦子3と、摩擦子3を第1軸線回りに回転させるモーター4と、試験体である糸Fが第2軸線回りに巻回される被巻体5を含む糸固定具22と、糸固定具22を往復移動させて摩擦子3に摺動させる摺動装置7とを備える。
【0063】
支持部25は、1対のフレーム9と、1対のフレーム9の上部間に架け渡され、第2軸線方向に延在し、互いに錘載置板24を挟んで第1軸線方向に対向する1対のガイドレール26と、支持台8に固定されて摩擦子3を第1軸線回りに回転可能に支持する軸受部11とを含む。1対のガイドレール26は、糸固定具22の第2軸線方向への往復移動をガイドする。1対のガイドレール26は、糸固定具22の第1軸線方向への移動を規制するが、上下方向への移動や、第1軸線回りの回動を規制せず、錘23の荷重が、評価するのに及び糸Fを介して摩擦子3に伝わるように構成されている。糸固定具22は、摺動装置7に連結されることによって、上下方向への移動や、第1軸線回りの回動が規制される。
【0064】
錘23の質量は、500g以上800g以下とするのが好ましい。錘23の重さを調整することによって、被巻体5に巻回された糸Fと摩擦子3との間の圧力を調整することができる。
【0065】
次に、本発明に係る第3及び第4実施形態を説明する。説明に当たって、第1の実施形態と共通する構成は、その説明を省略し同一の符号を付す。
図4は、第3実施形態に係る摩耗試験機31の正面図である。第3実施形態に係る摩耗試験機31は、水槽32を有する点で第1実施形態と相違し、その他の点では第1実施形態と同様の構成を有する。
図5は、第4実施形態に係る摩耗試験機41の正面図である。第4実施形態に係る摩耗試験機41は、シャワーノズル42を有する点で第3実施形態と相違し、その他の点では第3実施形態と同様の構成を有する。
【0066】
図4に示すように、第3実施形態の摩耗試験機31では、水槽32内に、摩擦子3が配置される。水槽32内には、試験される糸Fが使用される環境に似せた液体が注入されている。釣り糸のように、水中で使用される糸Fを試験する場合には、液体の水位は、被巻体5に巻回された糸Fと摩擦子3との接触点よりも上方であることが好ましい。第3実施形態に係る摩耗試験機31は、釣り糸のように液体環境下で使用される糸Fの耐摩耗性試験に好適である。
【0067】
図5に示すように、第4実施形態に係る摩耗試験機41では、第3実施形態と同様に水槽32内に、摩擦子3が配置されるが、第3実施形態と異なり、被巻体5に巻回された糸Fに液体を噴射するシャワーノズル42が設けられている。シャワーノズル42は、フレーム9に取り付けられても良く、支持台8に立設された図示しない柱部材に取り付けられても良い。シャワーノズル42から噴射させる液体が、ガイドレール10やスライダー12に直接当たらないように、シャワーノズル42は配置される。例えば、シャワーノズル42は、ガイドレール10やスライダー12を避けるように、被巻体5の斜め上方に設けられても良い。また、支持体13をスライダー12から水平方向に延出させ、被巻体5の位置をガイドレール10やスライダー12に対して水平方向にずらし、被巻体5の真上にシャワーノズル42を設けても良い。シャワーノズル42から噴射された液体は、水槽32内に貯まる。
【0068】
シャワーノズル42から噴射される液体は、試験される糸Fが使用される環境に似せた液体である。例えば、製紙用ワイヤーの緯糸として使用される糸Fを試験する場合は、濃度0.5%の炭酸カルシウム水懸濁液が、シャワーノズル42から噴射されると良い。水槽32内の液体の水位は、被巻体5に巻回された糸Fと摩擦子3との接触点よりも下である。炭酸カルシウム水懸濁液のように比重の大きい液体は、水槽32中では、粒子が下に沈み、水槽内の上下で濃度に濃淡の差が生じやすい。シャワーノズル42によって液体を供給し、糸Fが水槽32内に溜まる液体に触れないようにすることにより、糸Fに接触する液体の濃度を一定に保つことができる。第4実施形態に係る摩耗試験機41は、製紙用ワイヤーの緯糸のように比重の大きい液体環境下で使用される糸Fの耐摩耗性試験に好適である。
【実施例0069】
発明者は、以下のように、第4実施形態に相当する摩耗試験機41を用いて、直径0.45mmのナイロン糸及びPET(ポリエチレンテレフタレート)糸の耐摩耗性試験を行った。摩擦子3として、第1軸線方向の長さが6cm、直径(外径)5cmのステンレスを素材とする円筒部材を用い、その外周面をセラミック溶射(アルミナ99.5、面粗度:0.8~1.2)で表面処理を行った。被巻体5として、第2軸線方向の長さが6cm、直径(外径)3cmのアルミニウムを素材とする円筒部材を用い、その外周面を硬質アルマイトで表面処理を行った。重炭酸カルシウムを用いて、濃度0.5%の炭酸カルシウム水懸濁液を作成し、シャワーノズル42から被巻体5に巻回された糸Fに向けて炭酸カルシウム水懸濁液を噴射した。摩擦子3の回転速度は、1735rpmであり、糸固定具6の往復速度は、10往復/分とした。
【0070】
図6にナイロン糸とPET糸の、摩擦子3の回転数に応じた減少厚さの変化を示す。
図7は、摩擦子3の30万回転後のナイロン糸とPET糸の摩耗状態を示す写真である。
【0071】
PET糸の方が、ナイロン糸よりも摩耗が大きかった。これは、製紙用ワイヤーの緯糸として、ナイロン糸及びPET糸を使用した時と同じ傾向である。
【0072】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。摺動装置7によって第2軸線方向に往復移動するのは、糸固定具6,22ではなく、摩擦子3であっても良い。第2軸線方向は、第1軸線に90°以外の角度で交差する線と平行であっても良い。第2実施形態と第3実施形態とを組み合わせても良い。被巻体5は、円筒又は円柱形状以外の形状を呈しても良い。例えば、被巻体5は、第2軸線に直交する断面において楕円形の外輪郭を有する筒又は柱形状でも良く、第2軸線を中心軸とする多角形筒又は多角形柱形状でも良く、第2軸線に沿って延在する平板やアングル材であっても良く、第2軸線に直交する断面の外輪郭が第2軸線方向に沿って変化しない形状であることが好ましい。なお、被巻体5の形状は、糸が被巻体5に密着し易いように、円筒、円柱、楕円筒又は楕円柱の形状のように、周方向の全体に渡って角がなく外側に凸に湾曲した形状が好ましい。第1及び第2実施形態において、糸Fに液体を滴下しながら試験を行っても良い。糸Fの摩耗量は、試験前後の糸Fの太さを直接測定することにより求めても良い。試験対象の糸Fの素材、種類及び用途は限定されない。例えば、糸Fは、樹脂糸であっても紡績糸であっても良く、単糸であっても撚糸であっても良く、その用途は、製紙用ワイヤーの緯糸だけでなく、その経糸、製紙用フェルトの基布の緯糸若しくは経糸、又は釣り糸等であっても良い。