(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139615
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
C04B35/66
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050642
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅川(木村) 由美
(72)【発明者】
【氏名】太田 幸佑
(57)【要約】
【課題】 急結を抑制し、可使時間を確保することができると共に、中低温域における強度低下が小さい不定形耐火物を提供すること。
【解決手段】 不定形耐火物は、塩基性骨材と、バインダーとしてリン酸と、添加剤としてポリアクリル酸とクエン酸と、を含み、添加剤として仮焼アルミナ及び/又は塩基性乳酸アルミニウムを含むことがあり、リン酸、ポリアクリル酸及びクエン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量がそれぞれ3.0~11.0質量部、0.1~1.0質量部及び0.5~2.0質量部である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性骨材と、バインダーとしてリン酸と、添加剤としてポリアクリル酸とクエン酸と、を含み、
前記添加剤として仮焼アルミナ及び/又は塩基性乳酸アルミニウムを含むことがあり、
前記リン酸、前記ポリアクリル酸及び前記クエン酸の、前記塩基性骨材、前記仮焼アルミナ及び前記塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量がそれぞれ3.0~11.0質量部、0.1~1.0質量部及び0.5~2.0質量部であることを特徴とする不定形耐火物。
【請求項2】
請求項1に記載の不定形耐火物において、
前記添加剤としてホウ酸をさらに含み、
前記ホウ酸の、前記合計含有量100質量部に対する含有量が2.0質量部以下(0質量部を除く)であることを特徴とする不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩基性骨材と、バインダーとしてリン酸とを含む不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
不定形耐火物のバインダーとしてアルミナセメント等のセメントボンド、リン酸、リン酸塩、珪酸塩等のケミカルボンド、レジンボンド、ピッチボンド、クレーボンド等、各種が知られている。これらのうち、リン酸又はリン酸塩を含む不定形耐火物は、中低温域における強度低下が小さい。特に、リン酸はリン酸塩よりもその効果が大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60-118677号公報
【特許文献2】特開昭57-067070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、マグネシア原料等の塩基性骨材を含むキャスタブル耐火物は、バインダーとしてリン酸を含むと急結のおそれがある(特許文献1)。このため、バインダーとしてリン酸を含む不定形耐火物は、骨材としてアルミナ原料を主に含む場合に限られている(特許文献2)。
【0005】
本開示は上記実状を鑑みてなされたものであり、その目的は、急結を抑制し、可使時間を確保することができると共に、中低温域における強度低下が小さい不定形耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一の態様は、
塩基性骨材と、バインダーとしてリン酸と、添加剤としてポリアクリル酸とクエン酸と、を含み、
前記添加剤として仮焼アルミナ及び/又は塩基性乳酸アルミニウムを含むことがあり、
前記リン酸、前記ポリアクリル酸及び前記クエン酸の、前記塩基性骨材、前記仮焼アルミナ及び前記塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量がそれぞれ3.0~11.0質量部、0.1~1.0質量部及び0.5~2.0質量部であることを特徴とする不定形耐火物に関する。
【0007】
これにより、マグネシア原料等の塩基性骨材を含む不定形耐火物が、バインダーとしてリン酸を含んでも急結が抑制され、可使時間を確保することができると共に、リン酸の、中低温域における強度低下が小さいという効果を発揮することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、ポリアクリル酸とクエン酸がpH緩衝作用を有することが考えられる。
【0008】
本開示の一の態様では、
前記添加剤としてホウ酸をさらに含み、
前記ホウ酸の、前記合計含有量100質量部に対する含有量が2.0質量部以下(0質量部を除く)であることが好ましい。これにより、可使時間を延長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本開示の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本開示の解決手段として必須であるとは限らない。
【0010】
本実施形態の不定形耐火物は、塩基性骨材と、バインダーとしてリン酸と、添加剤としてポリアクリル酸とクエン酸と、を含み、添加剤として仮焼アルミナ及び/又は塩基性乳酸アルミニウムを含むことがあり、リン酸、ポリアクリル酸及びクエン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量がそれぞれ3.0~11.0質量部、0.1~1.0質量部及び0.5~2.0質量部である。これにより、マグネシア原料等の塩基性骨材を含む不定形耐火物が、バインダーとしてリン酸を含んでも急結が抑制され、可使時間を確保することができると共に、リン酸の、中低温域における強度低下が小さいという効果を発揮することができる。
【0011】
<塩基性骨材>
本実施形態の不定形耐火物は、塩基性骨材を含む。塩基性骨材としては、一般に不定形耐火物に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、マグネシア原料、スピネル原料、カルシア原料、ドロマイト原料等が挙げられる。本明細書では塩基性骨材として代表的なマグネシア原料とスピネル原料を使用した。マグネシア原料としては、一般に不定形耐火物に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、電融マグネシア、海水マグネシア、天然マグネシア、電融マグネシアクロム、焼結マグネシアクロム等が挙げられる。スピネル原料としては、一般に不定形耐火物に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、電融スピネル、焼結スピネル等が挙げられる。塩基性骨材の粒度は施工用途に応じて適宜調整することができる。
【0012】
<バインダー>
本実施形態の不定形耐火物は、バインダーとしてリン酸を含む。リン酸は、例えば、75質量%リン酸液を使用してもよいし、リン酸濃度を適宜変更してもよい。リン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は3.0~11.0質量部が好ましく、4.0~6.5質量部がより好ましい。3.0質量部未満では強度が低下し、11.0質量部を超えると混練物の粘性が増大し、好ましくない。なお、リン酸の含有量は、本明細書では、リン酸以外の成分を含む質量(75質量%リン酸液の場合、リン酸以外の25質量%の成分を含むリン酸液全体の質量)を用いて算出する(他の原料も同様)。
【0013】
<ポリアクリル酸>
本実施形態の不定形耐火物は、添加剤としてポリアクリル酸を含む。ポリアクリル酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.1~1.0質量部が好ましく、0.25~0.5質量部がより好ましい。
【0014】
<クエン酸>
本実施形態の不定形耐火物は、添加剤としてクエン酸を含む。クエン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.5~2.0質量部が好ましく、1.0~1.5質量部がより好ましい。
【0015】
ポリアクリル酸とクエン酸を上記の範囲にすることにより、塩基性骨材を含む不定形耐火物がバインダーとしてリン酸を含んでも急結が抑制され、可使時間を確保することができると共に、リン酸の、中低温域における強度低下が小さいという効果を発揮することができる。その理由は必ずしも明らかではないが、ポリアクリル酸とクエン酸がpH緩衝作用を有することが考えられる。
【0016】
<ホウ酸>
本実施形態の不定形耐火物は、添加剤としてホウ酸をさらに含んでもよい。ホウ酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は2.0質量部以下(0質量部を除く)が好ましく、0.5~1.5質量部がより好ましい。これにより、可使時間の延長効果が促進される。
【0017】
<微粉原料>
本実施形態の不定形耐火物は、添加剤として微粉原料をさらに含んでもよい。微粉原料としては、一般に不定形耐火物に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、シリカヒューム、仮焼アルミナ、マグネシア微粉、スピネル微粉等が挙げられる。仮焼アルミナとしては、例えば、平均粒子径10μm以下のアルミナ微粉が挙げられ、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は10.0質量部以下が好ましく、3~8質量部がより好ましい。これにより、混練物の粘性が適切になり、流動性に優れるため、不定形耐火物の形状の自由度を向上させることができる。
【0018】
<その他の添加剤>
本実施形態の不定形耐火物は、その他の添加剤として塩基性乳酸アルミニウムをさらに含んでもよい。塩基性乳酸アルミニウムの、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.2~5質量部が好ましく、2~4質量部がより好ましい。これにより、塩基性骨材の消化(水和による崩壊)を抑制することができる。本実施形態の不定形耐火物は、目的に応じてさらに公知の分散剤、有機繊維、金属繊維等を含んでもよい。
【実施例0019】
以下、本開示の実施例について詳細に説明する。
【0020】
<試料作製>
本開示の実施例には以下の原料を使用した。即ち、塩基性骨材として、マグネシア原料のMgO98質量%の電融マグネシアと、スピネル原料のMgO 25質量%、Al2O3 75質量%の電融スピネルを使用した。リン酸バインダーとして、75質量%リン酸液を使用し、比較のバインダーとして、第1リン酸アルミニウム溶液を使用した。ポリアクリル酸は市販の工業薬品を使用し、クエン酸とホウ酸は市販の試薬を使用した。仮焼アルミナとして、平均粒子径10μm以下のアルミナ微粉を使用した。塩基性乳酸アルミニウムとして、Al2O3 35質量%、乳酸48質量%のものを使用した。
【0021】
不定形耐火物原料の配合を表1に示す。なお、各原料の含有量は、不純物を含む当該原料全体の質量(例えば、75質量%リン酸液の場合、リン酸以外の25質量%の成分を含むリン酸液全体の質量)を用いて算出した。
【表1】
【0022】
不定形耐火物原料に表1に示す量の水を添加、混練して混練物を得た。得られた混練物について、以下の流動性と曲げ強さの評価を行った。
【0023】
<流動性>
JIS R 2521のフロー試験方法に準用し、フローコーンに充填された混練物を振動テーブル上に載置し、フローコーンを抜き去り、1.3Gの振動加速度で60秒間混練物に加振し、振動フロー値を測定した。また、混練物の流動性は、(1)施工性:混練物の性状が良好で施工に適するか、(2)可使時間:流し込みに必要な可使時間を確保できるか、(3)流動性の3項目を確認し、3項目とも優れる場合を優(◎)、優(◎)よりやや劣るが良好な場合を良(○)、良(○)よりやや劣るが使用可能な場合を可(△)、1項目でも問題があり、使用不可能な場合を不可(×)と評価した。凝集や硬化(急結)により測定できなかったものは「N/A」とした。
【0024】
<曲げ強さ>
混練物を40mm×40mm×160mmの型枠に流し込み、50℃で24時間養生し、200℃で24時間加熱して不定形耐火物を得た。不定形耐火物について、JIS R2553に準用し、曲げ強さを測定した。凝集や硬化(急結)により型枠への流し込みができなかったものは「N/A」とした。
【0025】
<評価結果>
評価結果を表1に示す。
【0026】
実施例は、いずれも流動性と曲げ強さに優れる結果となった。実施例3、5は、流動性の評価が可(△)であったものの、使用に問題ない程度であった。一方、比較例は、いずれも流動性と曲げ強さに問題があった。
【0027】
リン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は3.0~11.0質量部が好ましく、4.0~6.5質量部がより好ましかった。これにより、曲げ強さが向上すると共に、混練物の粘性が適切になり、流動性が優れる不定形耐火物を得ることができた。
【0028】
ポリアクリル酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.1~1.0質量部が好ましく、0.25~0.5質量部がより好ましかった。クエン酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.5~2.0質量部が好ましく、1.0~1.5質量部がより好ましかった。これにより、塩基性骨材を含む不定形耐火物が、バインダーとしてリン酸を含んでも急結が抑制され、可使時間を確保することができると共に、リン酸の、中低温域における強度低下が小さいという効果を発揮することができた。その理由は必ずしも明らかではないが、ポリアクリル酸とクエン酸がpH緩衝作用を有することが考えられる。
【0029】
ホウ酸の、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は2.0質量部以下(0質量部を除く)が好ましく、0.5~1.5質量部がより好ましかった。これにより、可使時間の延長効果が促進された。仮焼アルミナの、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は10.0質量部以下が好ましく、3~8質量部がより好ましかった。これにより、混練物の粘性が適切になり、流動性が優れる不定形耐火物を得ることができた。塩基性乳酸アルミニウムの、塩基性骨材、仮焼アルミナ及び塩基性乳酸アルミニウムの合計含有量100質量部に対する含有量は0.2~5質量部が好ましく、2~4質量部がより好ましかった。これにより、塩基性骨材の消化(水和による崩壊)を抑制することができた。
【0030】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれる。例えば、明細書において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えられることができる。また、本実施形態の製造装置等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能である。