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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139637
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
A61B3/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050679
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】境原 学
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA01
4C316AA22
4C316AB16
4C316FA01
4C316FA02
4C316FC01
4C316FZ01
(57)【要約】
【課題】被検眼の状態を他覚的に把握することができる眼科装置を提供する。
【解決手段】眼科装置は、等間隔で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標を被検眼Eに提示する視標投影系140(視標チャート143)と、被検眼Eの前眼部像E′を取得する撮像素子159と、撮像素子159が取得した被検眼Eの前眼部像E′を解析して眼振の有無を検出し、この検出結果に基づいて被検眼Eの状態を判定する制御部26と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等間隔で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標を被検眼に提示する視標提示部と、
前記被検眼の画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部が取得した前記被検眼の画像を解析して眼振の有無を検出し、この検出結果に基づいて前記被検眼の状態を判定する制御部と、を備える
ことを特徴とする眼科装置。
【請求項2】
前記視標は、空間周波数画像、被検者の注視を促す図形の何れかからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記視標提示部を制御して、前記図形のサイズ及び移動速度の少なくとも何れかを変化させて前記視標を提示させ、前記視標の変化に伴う前記被検眼の視線方向を時系列で取得し、前記視線方向及び前記視標の移動方向に基づいて眼振の有無を検出し、この検出結果、前記視標のサイズ、前記移動方向及び前記移動速度に基づいて、前記被検眼の状態を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記視標は、背景の色と前記図形の色が、仮性同色となる色の組み合わせである
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記視標提示部は、前記視標の前記図形を、0°~360°から選択される所望の方向に移動させて前記被検眼に提示する
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記被検眼の情報を取得する測定光学系、
前記被検眼の前記測定光学系の光軸上の前眼部像を取得する前記画像取得部、
及び前記視標提示部を備える測定ユニットと、
前記測定ユニットを鉛直方向及び水平方向に移動させ、鉛直方向に平行な軸及び水平方向に平行な軸を回転軸として回転させる駆動機構と、
前記前眼部像が表示される表示部と、
を備える
請求項1~5の何れか一項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検者の眼球の往復運動を誘発させるための視標を含む映像を被検者に提示し、提示された映像の視標を被検者が目で追う際の眼球の動きを計測し、計測された眼球の動きの時系列データを解析して、眼振の有無をグラフ等の出力により客観的に評価する眼科装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この「眼振」は、人間の意思とは無関係に、眼球が往復運動する状態のことをいう。眼振の原因は、弱視、斜視等の被検眼の異常、めまい、脳梗塞等の脳や耳の病気等が原因で起こる場合もあるが、このような異常がなくても、動く乗り物の中から外の景色等を視認しているとき等に起こる、生理的眼振もある。逆に、近視等で物体が見えないとき、被検者が物体を注視していないとき等は、眼球の往復運動を誘発させるような現象があっても、眼振が生じない場合がある。このため、眼振の有無だけでなく、眼振の状態に基づいて、被検眼の状態を他覚的に把握できる技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-250763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の事情に鑑みて為されたもので、被検眼の状態を他覚的に把握することができる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示の眼科装置は、等間隔で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標を被検眼に提示する視標提示部と、前記被検眼の画像を取得する画像取得部と、前記画像取得部が取得した前記被検眼の画像を解析して眼振の有無を検出し、この検出結果に基づいて前記被検眼の状態を判定する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
このように構成された眼科装置では、被検眼の状態を他覚的に把握することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る眼科装置の全体構成を示す斜視図である。
図2】実施例1に係る眼科装置の右眼用測定光学系の詳細構成を示す図である。
図3A図2のフィールドレンズの断面図を模式的に示した図である。
図3B図2の円錐プリズムの断面図を模式的に示した図である。
図4】実施例1に係る眼科装置により、被検眼に提示される移動視標の一例を示す図である。
図5】実施例1に係る眼科装置により、被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図6】被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図7】実施例1に係る眼科装置の表示部の表示画面に表示される画面の一例を示す図である。
図8】被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図9】被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図10】被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図11】被検眼に提示される移動視標の他の例を示す図である。
図12】実施例1に係る眼科装置の動作の一例を示すフローチャートである。
図13】実施例2の眼科装置の全体構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施例1)
本開示の実施例1に係る眼科装置は、図1図3Bを参照して、以下のように説明される。実施例1の眼科装置100は、被検者が左右の両眼を開放した状態で、被検眼Eの眼情報の取得を両眼同時に実行可能な両眼開放タイプの眼科装置である。なお、実施例1の眼科装置100は、片眼を遮蔽したり、固視標を消灯したりすることで、片眼ずつ検査等することも可能となっている。また、眼科装置が両眼開放タイプに限定されるものではなく、片眼ずつ眼情報を取得する眼科装置にも本開示を適用することができる。
【0010】
実施例1の眼科装置100は、任意の自覚検査及び他覚検査を行う装置である。自覚検査では、眼科装置100は、被検者に所定の提示位置で視標等を提示し、この視標等に対する被検者の応答に基づいて検査結果を取得する。この自覚検査は、遠用検査、中用検査、近用検査、コントラスト検査、夜間検査、グレア検査、ピンホール検査、立体視検査等の自覚屈折測定、視野検査等がある。また、他覚検査では、眼科装置100は、被検眼Eに光を照射し、その戻り光の検出結果に基づいて被検眼Eに関する眼情報(眼特性)を測定する。この他覚検査は、被検眼Eの眼情報を取得するための測定と、被検眼E(図2参照)の画像を取得するための撮影とが含まれる。さらに、他覚検査は、他覚屈折測定(レフ測定)、角膜形状測定(ケラト測定)、眼圧測定、眼底撮影、光コヒーレンストモグラフィ(Optical Coherence Tomography:以下、「OCT」という)を用いた断層像撮影(OCT撮影)、OCTを用いた計測等がある。
【0011】
また、実施例1の眼科装置100は、他覚検査として、等間隔(一定間隔)で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標を被検眼に提示し、このときの被検眼の画像を取得し、画像を解析して被検眼の状態を判定する処理を実行する。「等間隔」は、厳密に等間隔であることだけでなく、人間の眼では識別できないほどの誤差を含んでいてもよく、ほぼ等間隔であればよい。
【0012】
[眼科装置の全体構成]
実施例1の眼科装置100は、図1に示されるように、本体部10と、本体部10に設けられた制御部26及び記憶部26aと、検者用コントローラ27と、図示しない被検者用コントローラとを主に備える。本体部10は、基台11と、検眼用テーブル12と、支柱13と、アーム14と、一対の駆動機構(駆動部)15と、一対の測定ヘッド(測定ユニット)16と、額当部17、制御部26とを備える。眼科装置100は、検眼用テーブル12と正対する被検者が、両測定ヘッド16の間に設けられた額当部17に額を当てた状態で、被検者の被検眼Eの情報を取得する。なお、本明細書を通じて、X軸、Y軸及びZ軸は、図1に記すように設定され、被検者から見て、左右方向はX方向とされ、上下方向(鉛直方向)はY方向とされ、X方向及びY方向と直交する方向(測定ヘッド16の奥行き方向)はZ方向とされる。
【0013】
検眼用テーブル12は、検者用コントローラ27や被検者用コントローラを置いたり検眼に用いるものを置いたりするための机であり、基台11により支持されている。検眼用テーブル12は、Y方向での位置(高さ位置)を調節可能に基台11に支持されていてもよい。
【0014】
支柱13は、検眼用テーブル12の後端部でY方向に延びるように基台11により支持されており、先端にアーム14が設けられている。アーム14は、検眼用テーブル12上で駆動機構15を介して両測定ヘッド16を吊り下げるもので、支柱13から手前側へとZ方向に延びている。アーム14は、支柱13に対してY方向に移動可能とされている。なお、アーム14は、支柱13に対してX方向及びZ方向に移動可能とされていてもよい。アーム14の先端には、一対の駆動機構15が吊り下げられ、この一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16を吊り下げて支持している。
【0015】
駆動機構15及び測定ヘッド16は、被検者の左右の被検眼Eに個別に対応すべく対を為して設けられる。以下では個別に述べる際には、駆動機構15は、左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rと称され、測定ヘッド16は、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rと称される。左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15R、並びに左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rは、X方向で双方の中間に位置する鉛直面に関して面対称な構成とされている。
【0016】
左眼用駆動機構15Lは、左眼用測定ヘッド16Lを移動可能に吊り下げている。左眼用駆動機構15Lは、右眼用測定ヘッド16Rを移動可能に吊り下げている。左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rは、制御部26からの制御信号に基づいて、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rを、個別に又は連動して、Y方向(鉛直方向)に移動させ、X方向及びZ方向(水平方向)に移動させる。左眼用駆動機構15L及び右眼用駆動機構15Rは、制御部26からの制御信号に基づいて、左眼用測定ヘッド16L及び右眼用測定ヘッド16Rを、個別に又は連動させて被検眼Eの眼球回旋点を通り鉛直方向(Y方向)に延びる鉛直眼球回旋軸(回転軸)を中心として、X方向(水平方向)に回旋させ、被検眼Eの眼球回旋点を通り水平方向(X方向)に延びる左右一対の水平眼球回旋軸(回転軸)を中心として、Y方向(鉛直方向、上下方向)に回旋(回転)させる。
【0017】
このように、一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16をX方向に回旋させることで、被検眼Eを開散(開散運動)させたり、輻輳(輻輳運動)させたりできる。また、一対の駆動機構15は、一対の測定ヘッド16をY方向に回旋させることで、被検眼Eの視線を下方向に向けさせたり、元の位置に戻させたりできる。これにより、眼科装置100は、被検者に開散運動及び輻輳運動のテストを行わせることや、両眼視の状態で遠点距離での遠用検査から近点距離での近用検査まで様々な検査距離での検査を行わせて、両被検眼Eの各種眼情報を測定することができる。
【0018】
左眼用測定ヘッド16Lは、被検者の左側の被検眼Eの情報を取得し、右眼用測定ヘッド16Rは、被検者の右側の被検眼Eの情報を取得する。
【0019】
各測定ヘッド16は、被検眼Eの眼情報を取得する測定光学系21(個別に述べる際には右眼用測定光学系21R及び左眼用測定光学系21Lとする。)を備えている。各測定ヘッド16は、偏向部材であるミラー18(18L,18R)が備えられ、ミラー18を通じて測定光学系21により対応する被検眼Eの情報が取得される。
【0020】
測定光学系21(左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21R)は、それぞれ提示する視標を切り替えながら視力検査を行う視力検査装置、矯正レンズを切換え配置しつつ被検眼Eの適切な矯正屈折力を取得するフォロプタ、屈折力を測定するレフラクトメータや波面センサ、眼底の画像を撮影する眼底カメラ、網膜の断層画像を撮影する断層撮影装置、角膜内皮画像を撮影するスペキュラマイクロスコープ、角膜形状を測定するケラトメータ、眼圧を測定するトノメータ等が、単独又は複数組み合わされて構成される。
【0021】
右眼用測定光学系21Rの詳細構成は、図2に基づいて、以下のように説明される。図2ではミラー18Rは、省略されている。なお、右眼用測定光学系21Rの詳細構成は、図2に示される構成に限定されない。また、左眼用測定光学系21Lと右眼用測定光学系21Rとは同一の構成である。このため、以下では、左眼用測定光学系21Lの説明は省略され、右眼用測定光学系21Rについてのみ説明される。
【0022】
また、以下の説明では、「眼底共役位置A」は、アライメントが完了した状態での被検眼Eの眼底Efと光学的に略共役な位置であり、被検眼Eの眼底Efと光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。「瞳孔共役位置B」は、アライメントが完了した状態での被検眼Eの瞳孔と光学的に略共役な位置であり、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。
【0023】
右眼用測定光学系21Rは、図2に示すように、Zアライメント系110、XYアライメント系120、ケラト測定系130、視標投影系140、前眼部観察系150、レフ測定投射系160、及びレフ測定受光系170を含む。
【0024】
<前眼部観察系150>
前眼部観察系150は、被検眼Eの前眼部を動画撮影する。前眼部観察系150を経由する光学系において、画像取得部である撮像素子159の撮像面は瞳孔共役位置Bに配置されている。前眼部照明光源151は、被検眼Eの前眼部に平行光束からなる照明光(例えば、赤外光)を照射する。被検眼Eの前眼部により反射された光は、対物レンズ152を通過し、第1ダイクロイックミラー153を透過し、ハーフミラー154を透過し、第1リレーレンズ155及び第2リレーレンズ156を順に通過し、第2ダイクロイックミラー157を透過する。第2ダイクロイックミラー157を透過した光は、第1結像レンズ158により撮像素子159(エリアセンサ)の撮像面に結像される。撮像素子159は、所定のレートで撮像及び信号出力を行う。撮像素子159の出力(映像信号)は、制御部26に入力される。制御部26は、この映像信号に基づく前眼部像E′を表示部30の表示画面30aに表示させる(例えば図7参照)。前眼部像E′は、例えば赤外動画像である。
【0025】
<Zアライメント系110>
Zアライメント系110は、前眼部観察系150の光軸方向(前後方向、Z方向)におけるアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに投射する。Zアライメント光源111から出力された光は、被検眼Eの角膜に投射され、角膜により反射され、第2結像レンズ112によりラインセンサ113のセンサ面に結像される。角膜頂点の位置が前眼部観察系150の光軸方向に変化すると、ラインセンサ113のセンサ面における光の投射位置が変化する。制御部26は、ラインセンサ113のセンサ面における光の投射位置に基づいて被検眼Eの角膜頂点の位置を求め、これに基づき測定光学系21を移動させる駆動機構15を制御してZアライメントを実行する。
【0026】
<XYアライメント系120>
XYアライメント系120は、前眼部観察系150の光軸に直交する方向(左右方向(X方向)、上下方向(Y方向))のアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに照射する。XYアライメント系120は、ハーフミラー154により前眼部観察系150から分岐された光路に設けられたXYアライメント光源121を含む。XYアライメント光源121から出力された光は、ハーフミラー154により反射され、前眼部観察系150を通じて被検眼Eに投射される。被検眼Eの角膜による反射光は、前眼部観察系150を通じて撮像素子159に導かれる。
【0027】
この反射光に基づく像(輝点像)は前眼部像E′に含まれる。制御部26は、輝点像を含む前眼部像E′とアライメントマークとを表示部30の表示画面30aに表示させる。手動でXYアライメントを行う場合、検者等の操作者は、アライメントマーク内に輝点像を誘導するように測定光学系の移動操作を行う。自動でアライメントを行う場合、制御部26は、アライメントマークに対する輝点像の変位がキャンセルされるように、測定光学系21を移動させる駆動機構15を制御する。
【0028】
<ケラト測定系130>
ケラト測定系130は、被検眼Eの角膜の形状を測定するためのリング状光束(赤外光)を角膜に投射する。ケラト板131は、対物レンズ152と被検眼Eとの間に配置されている。ケラト板131の背面側(対物レンズ152側)にはケラトリング光源(図示せず)が設けられている。ケラトリング光源からの光でケラト板131を照明することにより、被検眼Eの角膜にリング状光束が投射される。被検眼Eの角膜からの反射光(ケラトリング像)は撮像素子159により前眼部像E′とともに検出される。制御部26は、このケラトリング像を基に公知の演算を行うことで、角膜の形状を表す角膜形状パラメータを算出する。
【0029】
<視標投影系140>
視標投影系140は、固視標や自覚検査用視標等の各種視標を被検眼Eに提示する。光源141から出力された光(可視光)は、コリメートレンズ142により平行光束とされ、視標チャート143に照射される。視標チャート143は、例えば透過型の液晶パネルを含み、視標を表すパターンを表示する。視標チャート143を透過した光は、第3リレーレンズ144及び第4リレーレンズ145を順に通過し、第1反射ミラー146により反射され、第3ダイクロイックミラー168を透過し、第1ダイクロイックミラー153により反射される。第1ダイクロイックミラー153により反射された光は、対物レンズ152を通過して眼底Efに投射される。光源141、コリメートレンズ142及び視標チャート143は、視標ユニット147を構成し、一体となって光軸方向に移動可能である。
【0030】
自覚検査を行う場合、制御部26は、他覚測定の結果に基づき視標ユニット147を光軸方向に移動させ、視標チャート143を制御する。制御部26は、検者又は制御部26により選択された視標を視標チャート143に表示させる。それにより、当該視標が被検者に提示される。被検者は視標に対する応答を行う。応答内容の入力を受けて、制御部26は、更なる制御や、自覚検査値の算出を行う。例えば、視力測定において、制御部26は、ランドルト環等に対する応答に基づいて、次の視標を選択して提示し、これを繰り返し行うことで視力値を決定する。
【0031】
また、視標チャート143が表示する視標は、検眼に用いられるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ランドルト環、スネレン視標、Eチャート等が好適に挙げられる。また、視標は、ひらがなやカタカナ等の文字、動物や指等の絵等からなる視標、十字視標等の両眼視機能検査用の特定の図形や風景画や風景写真等からなる視標等、様々な視標を用いることができる。また、視標は静止画であってもよいし、動画であってもよい。実施例1の視標チャート143は、液晶パネルを含むため、所望の形状、形態及びコントラストの視標を、所定の検査距離で表示することができ、多角的で綿密な検眼が可能となる。また、眼科装置100は、左右の被検眼Eに対応して2つの視標ユニット147(視標チャート143)を備えているため、視差を与える視標を、所定の検査距離(視標の提示位置)に対応して表示することができ、立体視検査も自然な視軸の向きで、容易かつ精密に行うことが可能となる。
【0032】
また、実施例1では、視標チャート143は、等間隔で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標(以下、「移動視標M」という。)を表示する。この移動視標Mの図形は、等間隔で複数直列に並び、その並び方向に連続して移動できるものであれば、特に限定されず、線、点、文字、記号、数字、風景、模様、動物、植物、キャラクター、マーク等、何れの図形であってもよい。実施例1では、視標チャート143は、図4図6に示されるような、空間周波数画像の一部(一種)である矩形波画像を生成して表示する。
【0033】
この矩形波画像は、空間周波数、つまり周波数に対応する正弦波の一部(一種)である矩形波が濃淡で表された縞模様(矩形波格子)である。矩形波画像は、例えば複数の黒の縦長の線Lが等間隔で複数、線が延びる方向とは直交する方向に直列に並んだ縞模様である。線Lの幅と、線Lの間隔(つまり、白線の幅)は、同一であることが好ましい。また、縞模様の色は、白黒に限定されず、他の色の組み合わせでもよい。この縞模様が、時間の経過とともに一定の移動速度で並び方向(例えば、矢印で示すように、紙面左から右方向)に移動する。このとき、1本の線Lが画面の左端から消失すると、画面の右側から新たに1本の線Lが現れる。これにより、被検眼Eには、常に同じ本数の縦長の線Lが等間隔で提示される。なお、移動視標Mの移動方向は、左から右方向に限定されず、右から左方向でもよい。
【0034】
図4図6は、それぞれ周波数が異なる矩形波画像(縞模様)である。図4に示される矩形波画像は、比較的太い線Lが複数本(図4では6本)、移動しながら常に表示される画像である。図5に示される矩形波画像は、図4に示されるものよりも空間周波数が高く、より細い線Lが複数本(図4では12本)、移動しながら常に表示される画像である。図6に示される矩形波画像は、図5に示されるものよりも空間周波数が高く、さらに細い線Lが複数本(図6では24本)、移動しながら常に表示される画像である。空間周波数を変更することで、矩形波画像の線Lの幅(サイズ)や密度(本数)を変化させることができ、さらには線Lの移動速度を変化(加速、減速)させることができる。
【0035】
このような移動視標Mが被検眼Eに提示されると、被検眼Eが並び方向に移動する線Lを追うことで、眼球が移動視標Mの移動方向に対応した方向(例えば左右方向)に往復運動を繰り返すものとなる。この往復運動が周期的に繰り返されることで、被検眼Eに「眼振」が生じる。つまり、移動視標Mは、被検眼Eの眼振(往復運動)を誘発するための視標といえる。
【0036】
<レフ測定投射系160、レフ測定受光系170>
レフ測定投射系160及びレフ測定受光系170は他覚屈折測定(レフ測定)に用いられる。レフ測定投射系160は、他覚測定用のリング状光束(赤外光)を眼底Efに投射する。レフ測定受光系170は、このリング状光束の被検眼Eからの戻り光を受光する。
【0037】
レフ測定光源161は、発光径が所定のサイズ以下の高輝度光源であるSLD(Superluminescent Diode)光源であってよい。レフ測定光源161は、光軸方向に移動可能であり、眼底共役位置Aに配置される。リング絞り165(具体的には、透光部)は、瞳孔共役位置Bに配置されている。合焦レンズ174は、光軸方向に移動可能である。合焦レンズ174は、制御部26からの制御を受け、焦点位置を変更可能な公知の焦点可変レンズであってもよい。レフ測定受光系170を経由する光学系において、撮像素子159の撮像面は眼底共役位置Aに配置されている。
【0038】
レフ測定光源161から出力された光は、第5リレーレンズ162を通過し、円錐プリズム163の円錐面に入射する。円錐面に入射した光は偏向され、円錐プリズム163の底面から出射する。円錐プリズム163の底面から出射した光は、フィールドレンズ164を通過し、リング絞り165にリング状に形成された透光部を通過する。リング絞り165の透光部を通過した光(リング状光束)は、孔開きプリズム166の反射面により反射され、ロータリープリズム167を通過し、第3ダイクロイックミラー168により反射される。第3ダイクロイックミラー168により反射された光は、第1ダイクロイックミラー153により反射され、対物レンズ152を通過し、被検眼Eに投射される。ロータリープリズム167は、眼底Efの血管や疾患部位に対するリング状光束の光量分布を平均化や光源に起因するスペックルノイズの低減のために用いられる。
【0039】
円錐プリズム163は、瞳孔共役位置Bに可能な限り近い位置に配置されることが望ましい。
【0040】
フィールドレンズ164は、例えば、図3Aに示されるように、被検眼Eの側のレンズ面にリング絞り165が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、フィールドレンズ164は、レンズ面に、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。
【0041】
また、レフ測定投射系160は、フィールドレンズ164が省略された構成を有していてもよい。
【0042】
さらに、円錐プリズム163は、例えば、図3Bに示されるように、第5リレーレンズ162を通過した光が円錐面163aに入射する円錐プリズム163の底面163bにリング絞り165が貼り付けられていてもよい。この場合、例えば、円錐プリズム163は、底面163bに、リング状の透光部が形成されるように遮光膜が蒸着される。また、リング絞り165は、円錐プリズム163の円錐面163aの側にあってもよい。
【0043】
リング絞り165は、所定の測定パターンに対応した形状を有する透光部が形成された絞りであってよい。リング絞り165は、レフ測定投射系160の光軸に対して偏心した位置に透光部が形成されていてよい。また、リング絞り165は、2以上の透光部が形成されていてもよい。
【0044】
眼底Efに投射されたリング状光束の戻り光は、対物レンズ152を通過し、第1ダイクロイックミラー153及び第3ダイクロイックミラー168により反射される。第3ダイクロイックミラー168により反射された戻り光は、ロータリープリズム167を通過し、孔開きプリズム166の孔部を通過し、第6リレーレンズ171を通過する。第6リレーレンズ171を通過した戻り光は、第2反射ミラー172により反射され、第7リレーレンズ173及び合焦レンズ174を通過する。合焦レンズ174を通過した光は、第3反射ミラー175により反射され、第2ダイクロイックミラー157により反射され、第1結像レンズ158により撮像素子159の撮像面に結像される。制御部26は、撮像素子159からの出力を基に公知の演算を行うことで被検眼Eの屈折力値を算出する。例えば、屈折力値は、球面度数、乱視度数及び乱視軸角度を含む。
【0045】
孔開きプリズム166と第6リレーレンズ171との間に、瞳孔上の光束径を制限する絞り(不図示)が配置されている。この絞りの透光部は、瞳孔共役位置Bに配置される。
【0046】
制御部26は、算出された屈折力値に基づいて、眼底Efとレフ測定光源161と撮像素子159の撮像面とが光学的に共役になるように、レフ測定光源161と合焦レンズ174とをそれぞれ光軸方向に移動させる。さらに制御部26は、レフ測定光源161及び合焦レンズ174の移動に連動して視標ユニット147をその光軸方向に移動させる。光源141、コリメートレンズ142及び視標チャート143を含む視標ユニット147と、レフ測定光源161と、合焦レンズ174とは、連動してそれぞれの光軸方向に移動可能であってよい。
【0047】
検者用コントローラ27は、操作者である検者が眼科装置100を操作するために用いられる機器である。検者用コントローラ27は、CPU及び記憶装置等を有するコンピュータを備えた情報処理装置である。実施例1の検者用コントローラ27は、タブレット端末から構成される。なお、検者用コントローラ27は、タブレット端末に限定されず、スマートフォン、その他の携帯情報端末とすることもできるし、ノート型パーソナルコンピュータ、デスクトップ型パーソナルコンピュータ等とすることもできる。また、検者用コントローラ27は、眼科装置100専用のコントローラとすることもできる。
【0048】
実施例1の眼科装置100では、検者用コントローラ27は携帯可能に構成されている。検者は、検者用コントローラ27を、検眼用テーブル12上に配置した状態で操作してもよいし、手に持って操作してもよい。
【0049】
検者用コントローラ27は、タッチパネルディスプレイからなる表示部(表示パネル)30を備えている。この表示部30は、画像等が表示される表示画面30aと、この表示画面30a上に重畳して配置されたタッチパネル式の入力部30bとを備えている。表示部30は、それ自体が、一つの入力部であり、表示部30の表示画面30aは、検者のタッチ操作を含む入力操作を受け入れる入力部30bとして機能する。入力部30bは、検者の指やスタイラスなどによるタッチ操作を検出する検知面としても機能する。
【0050】
検者用コントローラ27は、近距離無線等の通信手段により制御部26と近距離通信可能となっている。検者用コントローラ27は、制御部26から送出される表示制御信号に基づいて、表示画面30aに測定光学系21の撮像素子159が取得した前眼部像E′等の各種画像を表示する。また検者用コントローラ27は、表示画面30a(入力部30b)に対する検者による操作入力を受け入れ、この操作入力に応じた入力情報(制御信号)を制御部26に送出する。
【0051】
検者は、検者用コントローラ27の表示部30に表示される図示しない操作画面を操作することで、眼科装置100に対して眼情報の取得のための指示を入力できる。また、検者は、この操作画面から被検眼Eに提示する視標、移動視標Mを選択することができる。
【0052】
被検者用コントローラは、被検眼Eの各種の眼情報の取得の際に、被検者が応答するために用いられる機器である。被検者用コントローラは、例えば図示しないキーボード、マウス、ジョイスティック、タッチパッド、タッチパネル等を備える。被検者用コントローラは、制御部26と有線又は無線の通信路を介して接続されており、被検者用コントローラに対して為された操作に応じた入力情報(制御信号)を制御部26に送出する。
【0053】
制御部26は、検眼用テーブル12の下方に設けられた情報処理装置である。制御部26は、ROM、HDD等の記憶部26aに記憶されているプログラムを、例えばRAM上に展開することにより、測定ヘッド16及び駆動機構15を含む眼科装置100の各部を統括的に制御する。記憶部26aは、コンピュータプログラムの他、眼情報取得のための各種パラメータ、取得結果、移動視標M等を記憶する。
【0054】
制御部26は、検者用コントローラ27から送信された制御信号に基づいて、駆動機構15及び測定ヘッド16を制御し、測定ヘッド16に被検眼Eの眼情報を測定させ、測定結果を検者用コントローラ27に送信する。
【0055】
また、制御部26は、左眼用測定光学系21L及び右眼用測定光学系21Rの各視標投影系140(視標チャート143)を制御して、被検眼Eの眼振を誘発すべく、被検眼Eに移動視標Mを提示させる。また、制御部26は、視標投影系140に移動視標Mを提示させつつ、前眼部観察系150を制御して、撮像素子159に被検眼Eの前眼部像E′を取得させる。このとき、制御部26は、表示部30を制御して、図7に示されるように、表示画面30aの前眼部像表示領域31a,31bに左右の被検眼Eの前眼部像E′を表示させるとともに、被検眼Eに提示されている移動視標Mを、視標表示領域32に表示させる。視標表示領域32に表示される移動視標Mは、図形が移動していない静止画が好ましいが、検者が移動状態を把握できるように、線Lが移動する動画とすることもできる。
【0056】
制御部26は、撮像素子159で取得した各前眼部像E′を公知の手法を用いて画像解析し、例えば被検眼Eの視線方向を時系列で検出する。このように時系列で検出した視線方向及び、移動視標Mの移動方向に基づいて、制御部26は、被検眼Eの眼振の有無を検出する。被検眼Eの眼振が検出された場合は、被検者が当該移動視標Mを注視していること、つまり見えていることがわかる。これに対して、被検眼Eに眼振が検出されない場合は、近視、白内障、緑内障、その他の被検眼Eの異常、脳等の体の異常、その他の理由によって、被検者が当該移動視標Mを注視していないこと、つまり見えていないこと、又は見ていないことが分かる。また、眼球の往復運動が、移動視標Mの移動方向に沿っていないとき、具体的には、移動視標Mの移動方向が左から右方向であるのに、眼球の往復運動が上下方向である場合は、移動視標Mによって眼振が誘発されたのではなく、被検眼Eの異常等による可能性が考えられる。
【0057】
この現象を利用して、実施例1の眼科装置100は、移動視標Mを用いて被検眼Eの概略的な視力(例えば、球面度数)を他覚的に検出(推定)可能としている。このため、制御部26は、検者からの指示の下、視標投影系140を制御して図4図6に示されるような線Lの幅や本数(ピッチ)の異なる移動視標Mを被検眼Eに提示する。このとき、眼振を誘発しつた移動視標Mについては、被検眼Eは見えている(線Lを識別できている)ため、この移動視標Mを識別できるだけの視力があると推定される。これに対して、眼振を誘発しない移動視標Mについては、被検眼Eは見えていない(線Lを識別できていない)ため、この移動視標Mを識別できるだけの視力がない、つまり視力の限界を超えたことが推定される。
【0058】
ところで、視力は、物体をどれだけ細部まで見分けられるかを数値化したものであり、一般的には2点を分離して認め得る最小の視角(単位は分)の逆数で表される。このため、実施例1の眼科装置100では、予め解析された、移動視標Mに対する識別能力と視力との相関関係に基づいて、図4図6に示される移動視標M、さらに線Lの太さや本数の異なる(矩形波の空間周波数が異なる)移動視標Mと、視力とが対応付けられた対応情報が記憶部26aに記憶されている。この対応情報は、例えば、標準視標であるランドルト環との相関データとすることができるが、これに限定されない。制御部26は、眼振が誘発された移動視標Mに対応する対応情報を記憶部26aから取得し、概略的な視力(被検眼Eの状態)を検出する。
【0059】
より具体的に、制御部26は、視標投影系140にこれらの移動視標Mを順次提示させ、撮像素子159で取得した前眼部像E′を解析して眼振の有無を判定し、眼振を誘発する限界の移動視標Mに対応づけられた視力を、当該被検眼Eの概略視力と判定(推定)する。制御部26は、表示部30を制御して、判定した被検眼Eの概略略視力を、表示画面30aの眼情報表示領域33に表示させる。なお、制御部26は、表示画面30aに前眼部像E′の解析結果、つまり眼振の状態を表すグラフ(例えば、縦軸を視線の移動量とし、横軸を時間としたグラフ)等を表示させてもよい。このような表示画面30aを視認することで、検者は被検眼Eの概略視力を把握でき、眼科装置100を使用した自覚測定又は他覚測定に役立てることができる。
【0060】
また、制御部26は、視標チャート143に移動視標Mの移動と停止を行わせて、それぞれのときの前眼部像E′を解析することで、眼振が移動視標Mの移動によって誘発されたものか、被検眼Eや脳の異常等によって誘発されたものかを判定することもでき、判定結果を表示画面30aに表示することで、検者に病気の可能性、さらには病気の種類を示唆することもできる。
【0061】
また、実施例1の眼科装置100は、左右の被検眼Eに対応して、一対の測定ヘッド16を備えている。このため、制御部26は、一対の測定ヘッド16の視標投影系140を制御して、左右の被検眼Eに、同時に移動視標Mを提示して、両眼視での眼振の有無を検出することもできるし、一方の被検眼Eを遮蔽して、他方の被検眼Eのみに移動視標Mを提示して、片眼ずつ眼振の有無を検出することもできる。
【0062】
また、実施例1の眼科装置100は、移動視標Mを利用して、他の眼情報を取得(推定)することができる。例えば、実施例1の眼科装置100は、色弱の有無、色覚タイプの判別のための検査を行うことができる。この場合、制御部26は、視標チャート143を制御して、仮性同色(混同色)となる色の組み合わせ、つまり色弱がある人には分かりにくい色の組み合せで生成された移動視標Mを表示させる。例えば、視標チャート143は、図4図6に示される矩形波画像を、背景色が緑色、線Lがオレンジ色となるように表示する。これにより、色弱がない被検者は、背景色と線Lとを識別できるため、眼振が誘発される。これに対して、色弱がある被検者は、色覚タイプによっては背景と線Lとを識別できないため、線Lの移動を認識できず、眼振が誘発されない。また、色の組み合わせを変えることで、色弱がない被検者の眼振を誘発させず、色弱がある被検者のみ眼振を誘発させることもできる。色弱の有無や色覚タイプの判別の検査結果は、表示画面30aの所定の領域に表示されることで、これを視認した検者は、被検者の色弱の有無の判断や色覚タイプの判別を、眼科装置100を用いたより詳細な検査に役立てることができる。
【0063】
また、実施例1の眼科装置100は、乱視軸の方向を検査することができる。この場合、制御部26は、視標チャート143を制御して、様々な角度で並んだ線Lからなる移動視標Mを生成し、その並び方向に移動させて、被検眼Eの眼振の有無を検出する。具体的には、制御部26は、図4~6に示されるような縦長の複数の線Lが左右方向に移動する移動視標Mを提示し、左右方向における視力値を取得する。さらに、制御部26は、図8に示されるように、横長の複数の線Lからなる移動視標Mを、空間周波数を変えつつ、上下方向(例えば、紙面上から下方向)に移動させて被検眼Eに提示し、上下方向における視力値を取得する。
【0064】
次いで、制御部26は、図9に示されるように、斜めに複数並んだ線Lからなる移動視標Mを、空間周波数を変えつつ、斜め方向(例えば、紙面左下から右上方向)に移動させて被検眼Eに提示し、斜め方向における視力値を取得する。制御部26は、各角度における視力を比較することで、乱視軸の方向や乱視の度合いを導き出す(推定)する。例えば、最も視力が高いとされた方向に基づいて、倒乱視、直乱視、斜乱視の何れかであるか推定できる。乱視軸の検査結果は、表示画面30aの眼情報表示領域33に表示される。これを視認した検者は被検眼Eの乱視軸の方向や度合いを概略的に把握でき、眼科装置100を使用した自覚測定又は他覚測定に役立てることができる。
【0065】
線Lの傾斜角度及び移動方向は、例えば、放射テストに用いる乱視軸表の各線に対応させた傾斜角度(乱視軸表の線に直交する線Lとする)及び移動方向(線の延びる方向)とすることができる。視標チャート143は、液晶パネルを含むため、0°から360°までの任意の角度で傾斜した線Lを、直列に複数個配置した移動視標Mを生成できるとともに、この移動視標Mを、線Lの並び方向に連続的に移動させて表示することができる。このため、制御部26は、より精度よく乱視軸の方向や乱視の度合いを取得できる。
【0066】
また、実施例1の眼科装置100は、詐盲(故意に視機能に障害があるかのようにふるまうこと。)を判定することもできる。例えば、眼科装置100等を用いて自覚検査で視力を検査したが、検査結果が悪い場合、真に被検眼Eに障害があるのか、詐盲によるものかの判断がつかない場合がある。従来は、詐盲は網膜電図(ERG:Electroretinography)と呼ばれる装置を用いていたため、大掛かりであるとともに、検者や被検者の負担も多かった。しかし、実施例1の眼科装置100は、移動視標Mを用いることで、詐盲をより簡易に検出できる。すなわち、検者は、眼科装置100を操作して被検眼Eに移動視標Mを提示させる。このとき、被検眼Eに眼振が誘発されない場合は、被検者が、真に移動視標Mを視認できないことがわかり、眼振が誘発された場合は、被検者が移動視標Mを視認できていることがわかる。つまり、被検者が故意に視標が見えないふりをしても、被検者の意思とは無関係に眼振が生じることから、詐盲であると判断される。
【0067】
また、詐盲の検査、つまり視標の提示対象が、左被検眼、右被検眼及び両被検眼の何れであるかを被検者に悟らせずに検査する手法として、例えば、特開2016-22128号公報に記載の手法を利用することもできる。この場合、左被検眼又は右被検眼のみ(片眼)で検査する場合は、制御部26は、検査対象でない被検眼Eを遮蔽し、検査対象の被検眼Eに、対応する測定ヘッド16の視標投影系140を制御して移動視標Mを提示させる。これにより、眼科装置100は、被検者にどちらの被検眼Eでの検査であるかを悟られることなく、他覚的に被検眼Eの眼振の有無の検出と、検出結果に基づく詐盲の有無を検出できる。両眼視での検査の場合は、制御部26は、一対の測定ヘッド16の視標投影系140を制御して左右の被検眼Eに移動視標Mを提示させる。これにより、眼科装置100は、両眼視での眼振の有無の検出と、詐盲の有無を検出できる。この検出結果により、検者は、左右何れの被検眼が見えていないか等を把握できる。
【0068】
また、被検者が、自覚検査で実際には視標が見えていないにもかかわらず、推測(あてずっぽう)で言った回答が正解した場合でも、当該視力に対応する移動視標Mを視認させて、眼振の有無を眼科装置100に検出させることができる。これにより、眼振が検出されなかったときは、検者は、被検者が実際には視標が見えていない、つまり、視力検査の結果が不適切であることを把握できる。
【0069】
また、移動視標Mは、図4図9に示される矩形波画像(縞模様)に限定されない。他の異なる移動視標Mとして、例えば、図10に示されるように、被検者の注視を促す図形、具体的には動物やアニメのキャラクターCを、直列に並べたものとすることもできる。キャラクターCは視力に対応付けられた幅及びピッチの縞を有するシマウマとしている。この場合、背景は被検眼では視認できない程度の細く狭いピッチの縞模様とし、キャラクターCと同期して移動させるようにする。背景は、図10のような縞模様に限定されず、灰色で塗りつぶしたものでもよい。「被検者の注視を促す図形」とは、被検者の興味を引く図形、被検者が思わず見てしまう図形等をいう。例えば、線や単純な記号では、幼児等の興味を引かず、視力検査をしようとしても、視標を注視してくれず、円滑に検査できないことがある。このような場合でも、幼児等が好むキャラクターCを移動視標Mに用いることで、幼児等が進んで移動視標Mを注視するので、より円滑な検査が可能となる。また、認知症等で自覚検査が困難な被検者であっても、注視を促す図形からなる移動視標Mを提示することで、眼情報や病気の可能性を把握することが可能となる。なお、図10に示される移動視標Mは、キャラクターCが横方向に一行のみ表示されているが、これに限定されず、上下方向に等間隔で複数行表示してもよい。複数行の場合は、すべてのキャラクターCが同一の速度で同一方向に移動することで、被検眼Eの眼振を誘発できる。また、キャラクターCの大きさや個数(ピッチ)を変化させることで、被検眼Eの眼情報が取得(推定)できる。
【0070】
また、実施例1の眼科装置100は、眼振が移動視標Mによって誘発されたものか、病気等によって起こっているものかを、より詳細に判定できる。制御部26は、視標チャート143を制御して、図11の紙面上図に示されるように、移動視標Mを表示させるとともに、移動しない固視標F(図11では魚の図)を重畳して表示させる。この固視標Fは、図11では移動視標Mの縞模様よりも太い縞模様としている。検者は、この固視標Fを注視するように被検者に指示する。被検眼E等に異常がない被検者が固視標Fを固視すると、固視標Fの周囲で移動視標Mの図形が移動しても、眼振が誘発されない。次いで、図11の紙面下図に示されるように、固視標Fを消して、移動視標Mのみを被検眼Eに提示すると、被検眼Eはその移動方向に往復移動し、眼振が誘発される。これに対して、何等かの異常によって眼振のある被検者の場合は、図11の紙面上図に示されるような移動視標Mと固視標Fの組み合わせの提示によっても、図11の紙面下図に示されるような移動視標Mのみの提示によっても、眼振が誘発されるため、制御部26は、病気等による眼振であると判定できる。
【0071】
上述のような構成の実施例1の眼科装置100で実行される動作の一例は、図12に示されるようなフローチャートを用いて、以下のように説明される。なお、眼科装置100は、電源がオンとなって起動され、制御部26は検者用コントローラ27及び被検者用コントローラと通信可能となっているものとする。
【0072】
検査に際して、検者は、被検者を椅子等に座らせて、眼科装置100と対峙させ、額当部17に額を当てさせる。図12のフローチャートに示される動作は、例えば、被検者が額当部17に額を当てたことをセンサ等が検知したタイミングで、又は検者が操作画面から撮影指示を与えたタイミングで開始される。
【0073】
まず、ステップS1で、制御部26は、左右の測定光学系21に設けられた前眼部観察系150を制御して、左右の被検眼Eの前眼部の撮影を開始させる。制御部26は、検者用コントローラ27の表示部30を制御して、前眼部観察系150の撮像素子159から出力される画像信号に基づく左右の前眼部像(正面像)E′を、表示画面30aに表示させる。
【0074】
次に、検者は検者用コントローラ27の入力部30bからアライメント開始の操作入力を行う。この操作入力に対応する入力情報(制御信号)を受信した制御部26は、ステップS2で、視標投影系140を制御して、視標チャート143の中央位置に固視標(例えば、点光源視標)を表示させ、被検眼Eに提示させる。この状態で、検者は被検者に対して固視標を固視するように指示する。
【0075】
次のステップS3では、被検者に固視標を固視させた状態で、制御部26の制御の下、Zアライメント系110が測定ヘッド16のZ方向のアライメンを行い、XYアライメント系120が測定ヘッド16のX方向及びY方向のアライメントを行う。
【0076】
次のステップS4では、被検眼Eの眼振の有無を検出するべく、検者からの移動視標Mの選択の操作入力を受けて、制御部26は、視標チャート143に、例えば図4に示される移動視標Mを表示させ、被検眼Eに提示させる。また、制御部26は、表示部30を制御して、図7に示すように、表示画面30aの視標表示領域32に移動視標Mを表示させる。
【0077】
次のステップS5で、制御部26は、撮像素子159で取得した前眼部像E′に基づいて、公知の手法で、例えば、瞳孔中心を検出し、この瞳孔中心に基づいて、被検眼Eの視線方向を時系列で検出する。次のステップS6で、制御部26は、被検眼Eの眼振の有無を検出する。具体的には、ステップS5で検出した時系列の視線方向及び、移動視標Mの移動方向に基づいて、視線方向は移動視標Mの移動方向に沿って、往復移動しているか判定する。制御部26は、往復移動があれば、眼振が検出されたとの検出結果を出力し、往復移動がなければ、眼振が検出されないとの検出結果を出力する。
【0078】
次のステップS7で、制御部26は、次の移動視標Mを提示するかを判定する。この判定は、例えば、ステップS6で、眼振があると判定されたときは、被検者は当該移動視標Mが見えているため、図5図6等の、より空間周波数の高い移動視標Mを提示すると判定し(判定:YES)、制御部26は、ステップS4の処理に戻る。これに対して、ステップS6で、眼振がないことが検出されたときは、被検者には当該移動視標Mが見えていないため、これ以上空間周波数の高い移動視標Mを提示しても、眼振が誘発されることがない。このため、制御部26は、次の移動視標Mを提示しないと判定して(判定:NO)、ステップS8へと進む。
【0079】
ステップS7からステップS4に戻ると、制御部26は、視標チャート143に別の移動視標Mを表示させ、ステップS5~S6の処理を行う。制御部26は、ステップS7の判定がNOとなるまで、ステップS4~S6の処理を繰り返す。
【0080】
ステップS8に進むと、制御部26は、すべての移動視標Mに対する眼振の有無の判定結果に基づいて、前述したような手法で被検眼Eの眼情報(例えば、球面度数、色弱の有無、乱視軸等)を取得(推定)する。次のステップS9で、制御部26は、表示部30を制御して、表示画面30aの眼情報表示領域33に、取得した眼情報を表示させる。この表示画面30aを視認した検者は、被検眼Eの眼情報を概略的に把握できる。
【0081】
ここで、検者は眼科装置100に対して終了の指示を入力して検査を終了することもできるが、眼科装置100に以下の処理を行わせることができる。このため、検者は、入力部30bから他覚検査の指示の操作入力を行う。この操作入力を受けて、ステップS10で、制御部26は、左右の測定光学系21を制御して、被検眼Eの他覚検査を行わせる。この他覚検査は、例えば、ケラト測定系130による角膜形状(ケラト)測定、レフ測定投射系160及びレフ測定受光系170による眼屈折力(レフ)測定等が挙げられる。このとき、制御部26は、ステップS8で取得した概略の眼情報に基づいて、被検眼Eに雲霧を掛ける等して、他覚検査を実行することで、より短時間で、かつより適切な測定結果を取得できる。
【0082】
この他覚検査に続いて、検者は、眼科装置100に対して被検眼Eの自覚検査を実行させることができる。検者は、操作画面を操作して、検査距離を変更したり、被検眼Eに提示する視標を選択したりできる。この操作入力を受けて、制御部26は、視標チャート143に、指定された検査距離で、指定された視標を表示させる。このとき、制御部26は、ステップS8で取得した眼情報、ステップS9で取得した他覚検査の結果に基づいて、被検眼Eに提示する視標の位置を変更したり、被検眼Eの前方に矯正レンズを配置したりしてもよい。これにより、眼科装置100は、被検眼Eの眼情報に対応して、より適切な自覚検査を行わせることが可能となる。
【0083】
自覚検査は、被検眼Eに視標を提示した状態で、検者が被検者に視標の見え方を回答させることで行われる。提示している視標及び被検者の回答の正誤に応じて、検者は入力部30bをタッチ操作して球面度数、乱視度数、及び乱視軸の角度等の矯正値を適宜変更する。制御部26は、変更後の矯正値に基づいて測定光学系21を制御する。これにより、測定光学系21による被検眼Eの矯正値が変更され、被検者は、変更後の矯正値での自覚検査を行える。また、自覚検査によって乱視軸の検査を行う場合に、ステップS8で、様々な方向へ移動視標Mを移動させて、乱視軸の方向を検出する処理を実行したときは、制御部26は、この検出結果に基づいて、合焦レンズ174を移動させて雲霧を掛けることで、乱視軸の検査を、より適切かつより効率的に行える。
【0084】
自覚検査が繰り返され、処方が決定し、検者からの終了の操作がされると、プログラムはエンドへと進み、眼科装置100による被検眼Eの眼情報の取得のための動作が終了する。
【0085】
(実施例2)
図13は、実施例2の眼科装置100Aの概略構成を示す平面図である。実施例2の眼科装置100Aは、スマートフォンから構成される。スマートフォンに、本開示のプログラムをインストールすることで、スマートフォンを眼科装置として機能させることができる。なお、眼科装置100Aは、スマートフォンに限定されず、情報処理機能、画像表示機能があればよく、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピュータ等から構成することもできる。
【0086】
図13に示されるように、実施例2の眼科装置100Aは、表示画面30a及び入力部30bを有する表示部30Aと、制御部である演算装置50と、被検眼Eの画像(前眼部像E′)を取得する画像取得部であるカメラ60とを備える。表示部30Aは、演算装置50の制御の下、表示画面30aに移動視標Mを表示する視標表示部としても機能する。複数の移動視標Mは、概略の視力等と対応付けられて演算装置50が有する記憶部に記憶されている。
【0087】
実施例2の眼科装置100Aでは、図示しないメニュー画面等から、検者等の操作者によって、移動視標Mが選択されると、演算装置50は、表示部30を制御して、選択された移動視標Mを表示画面30aに表示させ、被検者に提示させる。このとき、演算装置50は、カメラ60を制御して被検眼Eの画像を取得させ、実施例1と同様の手法で取得した画像を解析して、被検眼Eの眼振の有無を検出する。そして、演算装置50は、眼振の有無の検出結果に基づいて、被検眼Eの眼情報を取得(推定)し、表示画面30aに表示する。これにより、検者は、被検眼Eの概略の眼情報を把握できる。
【0088】
また、実施例2の眼科装置100Aにおいて、演算装置50は、カメラ60で撮影した被検眼Eの画像を、眼科装置100Aに表示してもよいし、近距離無線等を通じて、検者が保持するスマートフォン等に表示させてもよい。この画像を視認することで、検者は、被検眼Eの眼振の有無を確認できる。また、演算装置50は、検者が保持するスマートフォン等に、眼情報の取得結果を表示するようにしてもよく、検者がより適切に被検者の眼情報を把握できる。
【0089】
以上説明したように、実施例1及び実施例2に係る眼科装置100,100Aは、等間隔で直列に並んだ複数の同一の図形が並び方向に連続して移動する視標(移動視標M)を被検眼Eに提示する視標提示部(視標投影系140、表示部30A)と、被検眼Eの画像を取得する画像取得部(撮像素子159、カメラ60)と、画像取得部が取得した被検眼の画像(前眼部像E′)を解析して眼振の有無を検出し、この検出結果に基づいて被検眼Eの状態を判定する制御部(制御部26、演算装置50)と、を備える。
【0090】
この構成により、実施例1及び実施例2に係る眼科装置100,100Aは、被検眼の状態(例えば、眼情報)を他覚的に把握できる。また、実施例1及び実施例2に係る眼科装置100,100Aは、被検眼Eの眼振の有無の検出結果と、移動視標Mの移動方向に基づいて、被検眼Eの状態を簡易に検出でき、検出結果をより詳細な自覚検査や他覚検査に役立てることもできる。また、検者等は、被検眼の眼情報、疾病等を推測することができる。
【0091】
以上、本開示の眼科装置を実施例に基づいて説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0092】
例えば、実施例1に係る眼科装置100は、撮像素子159とは別個に、測定光学系21に被検眼Eの前眼部像E′を異なる方向から撮影して取得する複数のカメラ(いわゆるステレオカメラ)、又は広角カメラ等を備えてもよい。これらのカメラで撮影した画像に基づいて、制御部26は、被検眼Eの眼振の有無をより適切に検出することができ、被検眼Eの状態をより適切に把握できる。
【符号の説明】
【0093】
15 :駆動機構 16 :測定ヘッド(測定ユニット)
21 :測定光学系 26 :制御部
30 :表示部 30A :表示部(視標表示部)
50 :演算装置(制御部) 60 :カメラ(画像取得部)
100 :眼科装置 100A :眼科装置
140 :視標投影系(視標提示部) 159 :撮像素子(画像取得部)
C :キャラクター(図形) E :被検眼
E′ :前眼部像 L :線(図形)
M :移動視標
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13