(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139645
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】金属樹脂複合体粉末及び無焼結硬化金属成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/10 20220101AFI20241002BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20241002BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20241002BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20241002BHJP
B22F 1/05 20220101ALN20241002BHJP
【FI】
B22F1/10
B22F1/102
B22F9/04 C
B22F1/14
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2023065243
(22)【出願日】2023-03-27
(71)【出願人】
【識別番号】595109708
【氏名又は名称】ナパック株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 政毅
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA06
4K017BA01
4K017BA02
4K017BA03
4K017BA04
4K017BA05
4K017BA06
4K017BA08
4K017BA10
4K017CA07
4K017EA03
4K018AA02
4K018AA03
4K018AA06
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4K018AA10
4K018AA13
4K018AA14
4K018AA19
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA33
4K018AA40
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA07
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA17
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC08
4K018BC12
4K018BC13
4K018BC28
4K018BC29
4K018CA02
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】様々な形状の金属製品は平板、棒状金属塊から打ち抜き、折り曲げ、切削等の工程に適切な加工設備を用いるか、一般的な金属粉末を用いる粉末冶金技術では高圧圧縮成形後高温度で焼結し、加圧力の大きな加圧成形機や大掛かりな焼結炉を用いており、特別過大な設備投資と焼結時の高熱エネルギーを使用しており、脱炭素の観点から逸脱したままである。
【解決手段】分子中に無機質材料と有機質材料に化学結合する複数の反応基を有する化合物で表面処理された金属粉末と硬化反応の途中段階で一定の可塑状態を呈するBステージ(半硬化状態)を有する熱硬化性樹脂をあらかじめ複合化後に解砕分級された金属樹脂複合体粉末とし、再度Bステージ領域で低圧圧縮成形後に焼結工程を必要とせずに非常に低エネルギーで加熱硬化成形体とする材料組成及びその製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の粒径とした金属粉末の表面をカップリング剤により被覆する表面処理工程と、可塑化した熱硬化性樹脂に表面処理された前記金属粉末を混合し固化した複合物を得る混練工程と、固化した前記複合物を解砕して粉体を得る解砕工程と、前記粉体から所定の粒径以上の粗粉を除去して圧縮成形用粉末を得る分級工程とを含むことを特徴とする金属樹脂複合体粉末の製造方法。
【請求項2】
前記カップリング剤を、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、又は酸化グラフェンとした請求項1に記載した圧縮成形用金属樹脂複合体粉末の製造方法。
【請求項3】
前記複合工程は、前記熱硬化性樹脂の硬化温度よりも低いBステージの可塑状態化され、この前記熱硬化性樹脂と表面処理された前記金属粉末を均一に分散させるように混練した後、冷却して固化する請求項1に記載の金属樹脂複合体粉末の製造方法。
【請求項4】
前記複合工程は、前記熱硬化性樹脂を溶剤により溶解して液状化され、表面処理された前記金属粉末を均一に分散させるようにスラリー状態で複合した後、前記溶剤を気化により除去して固化する請求項1に記載の金属樹脂複合体粉末の製造方法。
【請求項5】
前記圧縮成形用粉末は、前記金属粉末に対して前記熱硬化性樹脂を20wt%以下で配合され、前記分級工程により、前記熱硬化性樹脂と前記金属粉末を複合後解砕した粉末の粒径を100μm以下とした請求項1に記載した金属樹脂複合体粉末の製造方法。
【請求項6】
前記金属樹脂複合体粉末は、金型に投入され、前記金型により前記熱硬化性樹脂が可塑状態となるBステージ温度まで加熱して圧縮成形した後、前記金型内で冷却固化され、離型後に前記熱硬化性樹脂の硬化温度雰囲気下で硬化させた後、成形体を得るようにした請求項1に記載した金属樹脂複合体粉末成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結工程を伴わない金属粉末の硬化成形体に使用する金属樹脂複合体粉末及び加熱低圧圧縮成形と熱硬化工程を経て得られる熱硬化金属成形体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、要求特性に応じた形状の金属製品は平板、棒状金属塊から打ち抜き、折り曲げ、切削等の工程に適切な加工設備を用いて造形する。
【0003】
一方、大量生産が求められる製品においては形状に応じた金型を用いて金属粉末を高圧圧縮成形し、高温及び雰囲気が管理された炉内で焼結される粉末冶金で製造される。
【先行技術文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-150648号公報
【特許文献2】特開2011-140535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示されるような粉末冶金の製造工程において使用される圧縮成形工程での加圧力は通常5~9トン/cm2の高圧が必要であり、金属粉末同志は化学的結合をしておらず、次工程として金属粉末同志の結合力を高める為に500℃~1200℃の炉内で昇温~定温~冷却の温度プロファイルを4~6時間程度管理する焼結工程が不可欠であり、エネルギー消費量と脱炭素面で課題がある。
又、成形後の強度は低く次工程の焼結炉へ移行させる際に破損する可能性があり、ハンドリングに注意が必要である。
【0006】
更に、特許文献2に示されるような複数の有機バインダーと金属粉末を複合化ペレットにして射出成形後に特許文献1と同様な焼結工程を行う金属粉末射出成形法(MIM)が行われているが、本工法は射出成形時に不可欠な流動性と形状形成の為に加えたバインダーを焼結工程の前に分解除去する脱脂工程が不可欠で、不活性雰囲気下で含有する複数のバインダーの分解温度に応じて常温から600℃前後迄段階的に昇温排気し、焼結炉では1000℃以上迄昇温する必要がある。
従って脱脂工程と焼結工程に於ける設備と工程管理面を含めて文献1以上の課題がある。
【0007】
本発明の目的とするところは特別な設備、高エネルギーを使用せず、従来の粉末冶金と同等な金属粉末を用いて低加圧成形と低温硬化工程により、粉末冶金及びMIMに比べ大幅な低温・短時間の工数で済みエネルギーコストと環境問題に大きく貢献し、微細な凹凸形状や平滑な表面状態を有する金属製品として最適な加熱硬化成形体とする為に、所定の粒径以上の粗粉をカットした圧縮成形用金属樹脂複合体粉末と熱硬化金属成形体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の材料組成は、分子中に無機質材料と有機質材料に化学結合する複数の反応基を有する化合物で表面処理された金属粉末と硬化反応の途中段階で一定の可塑状態を呈するBステージ(半硬化状態)を有する熱硬化性樹脂を複合化して形成される。
【0009】
金属粉末は、鉄、アルミニウム、タングステン、ステンレス、チタン、亜鉛、すず、銅鉛、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、モリブテン、銀、ネオジウム、白金、金、サマリウムから選ばれる1以上の金属を含むこととしても良い。
上記金属粉末は使用目的に応じて還元法、電解法、アトマイズ法等によって粒子化され所定の粒度分布となる様に一定粒径の粗紛と微粉が除去され、一般的には最大粒径が105~212μmで管理されている。
【0010】
本発明の金属粉末は熱硬化金属成形体の結合力向上の為に粒径100μm以上望ましくは90μm以上の粗紛を分級除去し、熱硬化金属成形体を形成する為に配合する熱硬化樹脂との結合力向上の為に分子中に複数の異なった反応基を持つ表面処理剤を用いて表面処理を行なっている。
【0011】
表面処理された金属粉末は成形時に高い流動性を与えて形状再現性と成形後の固化性を高め高密度化構造とする目的で、エポキシ樹脂やポリエステル樹脂を主成分にアミン系、イソシアネート系硬化剤及び添加材が配合された樹脂成分を20wt%以下の割合で添加混合し、一定の加熱温度で可塑化したペースト状態に於いて混練された複合材を解砕・分級して金属樹脂複合体粉末とする。
【0012】
又は表面処理された金属粉末とエポキシ樹脂やポリエステル樹脂を主成分としアミン系、イソシアネート系硬化剤及び添加材の配合に加えて100℃前後の低温で気化するメチルエチルケトン等の溶剤を加えて均一混合して得られるスラリー状態でドクターブレード等を用いて平板化した後、溶剤成分を気化して得られる板状固化材を解砕・分級して金属樹脂複合体粉末とする。
【0013】
前記の可塑化ペースト混練複合材又は溶媒混合複合材を解砕した後、粗紛をカットした金属樹脂複合体粉末は製品形状に応じて加工された上下ポンチとダイで構成された金型の空間に投入し、Bステージ温度以上で低圧加圧成形した後冷却される。
【0014】
加圧成形を行う設備には金型の昇温と冷却を制御する機構が設けられており、金属樹脂複合体粉末が投入された金型が組み込まれて、熱硬化性樹脂が可塑状態(Bステージ領域)になる熱変形温度の上下温度間をコントロールし、上限域で加圧し、下限域で迄冷却され金型から固化成形体が離型される事が可能な機構を具備する事を特徴とする。
【0015】
加圧成形が行われる上限温度は熱変形温度より10℃上、硬化開始温度の30℃以下の領域、離型が行われる下限温度は熱変形温度より20℃下の領域が望ましく金型内で造形される成形品形状や寸法と生産性に応じて決められる。
【0016】
一般の粉末冶金の圧縮成形においては最終焼結強度を高めるため、通常鉄系材料においては5~9トン/cm2の高圧力が必要とされるのに対して本発明工程では2~3トン/cm2で良く、大型プレス機の投入や金型破損への配慮も不要となる。
【0017】
加熱圧縮成形時の熱硬化性樹脂は一旦流動状態で金型内の金属粒子間を流動充填した後、加圧温度域から冷却される間に金属粒子間の結合材となって成形された形状を維持した固化成形体として圧縮成形金型から離型される。
【0018】
MIMを含めて一般の粉末冶金の成形品においては金属組成に応じて成形後の化学結合を行う為に500℃~1200℃の範囲を4~6時間程度の時間を要する温度プロファイルの焼結が行われるが本発明では樹脂分が接着剤として機能した固化状態で金型から取り出された固化成形体は200℃前後の硬化温度に昇温された恒温槽に10~30分程度静置して樹脂成分が完全硬化した後、槽外に取り出し冷却後目的とする硬化成形体が得られる。
【0019】
恒温槽はバッチ式の汎用乾燥装置等で成形後の成形体を纏めて投入可能であり、通常の粉末冶金成形に比べ設備金額、設置面積や投入エネルギーも大幅に削減出来、焼結炉での温度プロファイル設定や雰囲気制御も不要となる。
【0020】
得られた硬化反応後の成形体表面は金属粉粒子間の結着剤として用いた硬化性樹脂により平滑度が改善され、通常の粉末冶金成形で得られる物成形体表面に比べて平滑な表面を形成する。
【0021】
本発明工法では60~130℃程度の温度領域で硬化性樹脂が可塑化されたBステージ状態で圧縮成形金型内に平方センチメートル当たり2~3トン/cm2で加圧し、硬化性樹脂の流動性による造形と、その後の冷却固化による形状維持を行った後に離型を行い、最終的には160~220℃に10~30分の硬化工程を経て表面が平滑で十分な強度を有する金属成形体が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、分子中に2個以上の異なった反応基を持つカップリング剤を用いて表面処理を行なった金属粉末と熱硬化性樹脂が一定の温度以上に加熱されて可塑化した状態で混合混練して得た金属樹脂複合化材、又は溶剤を用いて金属粉末と熱硬化樹脂の混合材をスラリー状態で分散混合して得たシート状金属樹脂複合化材の溶剤を気化除去した後、解砕分級して得られた金属樹脂複合体粉末を金型に投入して加熱圧縮成形と冷却制御機構を具備したと圧縮成形設備を用いて、Bステージ(可塑化状態)領域での加圧成形と冷却領域での離型を行い、その後200℃前後の恒温槽で短時間の硬化処理を行う事で、表面が平滑な加熱硬化金属成形体を簡便な設備と工程管理で生産し、大幅なエネルギーコスト低減と脱炭素製造を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属樹脂複合体粉末の製造方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の実施形態に係る金属樹脂複合体粉末を用いて得る熱硬化金属成形体の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施の形態にについて、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係る熱硬化金属成形体を得る迄の製造方法を示すフローチャートである。
このフローチャートは、前工程として粉末冶金に使用される金属粉末を所定の粒度分布とする分級工程後、分子中に複数の反応基を有する化合物のカップリング剤を用いて金属粉末の表面処理を行い、金属粉末と熱硬化性樹脂との複合化と解砕後に粗紛をカットした成形用金属粉末組成とする金属樹脂複合体粉末製造工程を示す。
図2は、後工程として該金属樹脂複合体粉末を用いてBステージ(可塑化状態)領域での加熱圧縮成形と冷却領域での離型を行い最終の硬化金属成形体とする製造方法を示すフローチャートである。
【0025】
先ず、通常の粉末冶金に使用される金属粉末の粒度分布を硬化成形体の強度と表面平滑性向上を目的に振動篩や風力分級機を用いて一定粒径以上の粗紛をカットする。
粗紛の分級点は硬化成形体として求められる機械強度や平面平滑性によって選定されるが概ね90μm程度が望ましい。
【0026】
金属粉末は決着剤として用いられるBステージ(半硬化状態)を有する熱硬化性樹脂との結合性を高める為に分子中に無機質材料と有機質材料両者に化学結合する複数の反応基を有する化合物であるカップリング剤で表面処理される。
【0027】
カップリング剤での表面処理工程はアルコール又は水で希釈したアルコール水で希釈混合されたカップリング剤液を混合攪拌装置に投入され攪拌状態にある金属粉末に適量滴下し、攪拌混合時に発生するせん断熱でアルコール及び水分を蒸発させて乾燥完了後、表面処理された金属粉末を混合攪拌装置から排出回収する。
【0028】
他の表面処理として、水媒体に分散されたナノ炭素材料である酸化グラフェンによる表面処理は、水中に投入され撹拌混合状態にある金属粉末に酸化グラフェン溶液を適量添加し、一定時間攪拌混合し、濾紙等を用いてデカンテーションと洗浄を行い、過剰の酸化グラフェンを除去した後、110℃程度で乾燥して表面処理された金属粉末を回収する。
【0029】
加熱圧縮成形時の金型内に於ける流動性と硬化後の粉体間結合及び高密度化された成形体構造とする目的で、表面処理された金属粉末に熱硬化性樹脂が20wt%以下の組成割合で複合化される。
【0030】
熱硬化性樹脂と金属粉末を複合化する工程はBステージの温度領域で加熱により可塑化してペースト状態となる熱硬化性樹脂を二本ロールやニーダーの設備で均一混合混錬を行う工法の他、溶剤を用いて液状化された熱硬化性樹脂と金属粉末を均一撹拌混合してスラリー状態を経てドクターブレード等で平板化した後、溶剤成分を気化除去して得られる板状固化物とする工法も可能である。
【0031】
金属粉末と熱硬化性樹脂の混合組成材は加熱したペースト混練による乾式法あるいは溶剤を用いた湿式法で熱硬化性樹脂が金属粉末表面に介在して金属粉末同士を結合する状態で複合化され、金属粉末の表面を覆う様な状態で圧縮成形用粉末とする為、次工程で解砕した後振動篩等を用いて概ね90μm程度以上の粗紛をカットする。
【0032】
圧縮成形は通常の粉末冶金製造と同様にダイスと上下パンチを用いるが、金型の昇温と冷却を制御する設備が組み込まれたプレス機で行い、熱硬化性樹脂の可塑状態(Bステージ)温度以上と硬化反応が開始する温度以下の領域間で行い、Bステージ領域内で加圧後冷却され、Bステージ温度以下の領域で金型から加熱硬化金属成形体が離型される事が可能な機構を具備する事を特徴とする。
【0033】
加圧は熱硬化性樹脂が可塑状態となる熱変形温度と硬化反応が進行開始する温度の間で行うが熱変形温度の10℃以上、硬化温度の30℃以下が望ましく硬化成形体の寸法・形状や生産性に応じて温度設定を行う。
【0034】
成形圧は熱硬化樹脂が可塑状態となり、金属粉末間の結着剤として含浸する流動性を与える為であり、通常の粉末冶金の4分の1から3分の1程度の大幅に低い値で行う事が可能である。
【0035】
加圧成形後、冷却機構を作動させてダイスと上下パンチの温度を熱硬化性樹脂の熱変形温度以下、望ましくは20℃以下迄降下させた後、金型を開いて成形体を離型回収する。
【0036】
圧縮成形後に金型から取り出された成形体は200℃前後の熱硬化温度にセットされた一般的な恒温槽内に10~30分静置する事で最終の熱硬化金属成形体が得られる。
得られた金属硬化成形体の表面は可塑化状態の加圧成形時での熱硬化性樹脂が所謂スキン層を形成しており、通常の紛末冶金成形体表面に比べて平滑性も格段に優れている。
【0037】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本実施の形態では、低圧圧縮粉末成形で金属製品を造形する為に分子中に2個以上の異なった反応基を有するカップリング剤を用いて表面処理をした金属粉末と特定の温度域(Bステージ)で過疎化し金属粉末の流動性を高める熱硬化性樹脂を結着剤として所定の粒径以上の粗粉をカットした金属樹脂複合体粉末を生産し、金型に投入して低加圧加熱成形後に行う低温硬化工程により得られる表面が平滑な金属硬化成形体が特別な設備、高エネルギーを使用せずに可能である。
従来の粉末冶金加工及び金属射出成形(NIM)の製品に比べ焼結工程を行わない低温硬化で済み、大幅なエネルギーコスト削減と脱炭素問題解消に大きく貢献し、微細な凹凸形状や平滑な表面状態を有する硬化金属成形体が得られる材料組成と製造方法を提供する事が出来る。
【0038】
分子中に2個以上の異なった反応基を有するカップリング剤を用いて金属粉末に行う表面処理は混合攪拌装置に投入され、混合状態にある金属粉末にアルコール及びアルコール水溶液で希釈されたカップリング剤を適量滴下し、攪拌混合時のせん断熱で溶媒を除去する工程や、水中に投入され混合状態にある金属粉に酸化グラフェン溶液を適量添加し濾過回収する簡単な工程で行い、金属粉末と熱硬化性樹脂の結合が強固になる事が容易に得られる。
【0039】
表面処理が為された金属粉末はBステージを有する熱硬化性樹脂の可塑化状態でのペースト混錬や溶剤を用いた湿式混合シート化法等で予め複合化され、解砕後粗紛をカットした粉末として圧縮成形工程に投入され、成形時の高流動性で金型内の微細凹凸形状を転写し、金型からの離型時に余裕ある強度を持ち、最終の熱硬化を経て十分な強度と平滑な表面状態の加熱硬化金属成形体を得ることが出来る。
【0040】
熱硬化樹脂の配合比率は金属粉末の20wt%以下で熱硬化樹脂が硬化温度で反応し冷却固化した加熱硬化金属成形体は高強度で平滑な表面が得られる。
【0041】
金属粉末と複合化された熱硬化樹脂の可塑化された温度域で圧縮成形を行う際の圧力は2~3トン/cm2と低圧で造形が可能である。通常の粉末冶製造の場合には多くの潤滑剤を添加し、5~7トン/cm2が一般的であり、更に大きな圧力を加える事には設備的にも金型強度から限界があり、平滑性にも限界がある。
【0042】
また、本実施の形態では、圧縮成形時の加熱温度は、熱硬化性微の可塑化温度に応じて設定出来、60~130℃の範囲とすることが可能であり、成形・冷却後の最終硬化温度は160~220℃である。又最終の硬化工程は10~30分前後静置すれば良く、本実施の形態では、通常の乾燥器等小型設備が使用出来、大掛かりな焼結炉等が不可欠な粉末冶金工程に比べてエネルギーコストを大幅に低減する事が可能である。
又、粉末冶金に於ける焼結収縮率に比べ収縮が小さく、寸法精度も向上する事が出来る。
【0043】
(他の形態)
上述した本実施形態の樹脂成形金型の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0044】
また、金属粉末は、鉄粉に限らず、アルミニウム、タングステン、ステンレス、チタン、亜鉛、すず、銅、鉛、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、銀、ネオジウム、白金、金等の金属単独、または鉄、アルミニウム、タングステン、ステンレス、チタン、亜鉛、すず、銅、鉛、マグネシウム、クロム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、モリブデン、銀、ネオジウム、白金、金を含む合金、セラミックスから選ばれる1以上の金属またはセラミックスを含むものであっても良い。たとえば、鉄系合金では、合金鋼、工具鋼、ステンレス鋼、ニッケル鋼、ニッケルクロム鋼、クロム鋼、マルエージング鋼等である。また、銅合金、アルミ合金、チタン合金、超硬合金等も使用することができる。
【0045】
熱硬化成形体を形成する為の熱硬化性樹脂との結合力向上の為に金属粉末に行う表面処理剤としてチタネート系、シラン系や酸化グラフェン等の処理剤処理剤を使用する事が可能である。
【0046】
金属粉末に添加するBステージを有する熱硬化性樹脂は可塑化温度が90℃前後であり硬化温度が200℃前後であることが望ましい。
【0047】
また、本実施の形態では、金属粉末と熱硬化性樹脂が熱変形温度領域で混錬される乾式複合化後又は溶剤を用いてスラリー状態とする湿式複合化後、解砕・分級されてなる金属樹脂複合体粉末を金型に投入し圧縮するが圧縮成形時の圧力は2~3トン/cm2である。しかし、金属粉と添加される熱硬化性微粒子の組み合わせによっては圧縮の圧力は2トン/cm2未満であっても良いし、3トン/cm2を超えても良い。
【0048】
また、本実施の形態では、可塑化温度が90℃前後であり硬化温度が200℃前後焼結である。しかし、金属粉末と添加される熱硬化性樹脂の組み合わせによってBステージでの圧縮成形時の温度は、熱変形温度より高く出来れば10℃以上、硬化温度より30℃低い領域である事が望ましく、硬化温度に設定された恒温槽に静置する硬化時間は10~30分である。
【実施例0049】
使用した金属粉末はアトマイズ法で製造された一般的な鉄系金属粒末(ヘガネス社Somaloy:ASC100.29)で下記の粒度分布からなるものである。
【0050】
熱硬化性樹脂との結合性を高める為の金属粉末への表面処理は90μm以上の粗紛をカットした鉄粉を攪拌混合装置に投入し、混合状態でアルコール希釈されたカップリング剤を滴下し、混合時のせん断熱でアルコールを蒸発させて表面処理を行う。
カップリング処理条件は6500gの鉄粉末をヘンシェルミキサーに投入し、62.5gのエタノール中にチタネート系である味の素社のプレンアクト46B12.5gを溶解した処理液を低速回転滴下して行った。
せん断発熱と混合設備の加熱補助でアルコールを蒸発させる為130℃に45分間回転混合を行った後、40℃迄設備の冷却装置で冷却して排出回収を行った。
【0051】
熱硬化性樹脂は東和合成社のエポキシ系・アミン系硬化剤からなるE-150BK14Sを用いて軟化点以上に加熱したホットプレートを用いてペースト状態として上記チタネート系表面処理後の鉄粉を所定の割合になる迄適量分割添加して混合混錬した後冷却する。
混練温度は熱硬化性樹脂E-150BK14Sの軟化点90℃より40℃高い130℃で行い熱硬化性樹脂の添加割合は鉄粉100に対して4,6,8とした。
【0052】
鉄粉と熱硬化性樹脂がペースト状態での混合混錬によって複合化され冷却後、室温で粉砕装置を用いて解砕し90μmの篩を用いて粗紛をカットして元の鉄粉粒径と同等な粒径となる。尚、得られた団子状態の粗紛は再度解砕を繰り替えし90μmの篩を用い、出来るだけ多く回収した。
【0053】
リング形状(外径19mm、内径10mm、厚さ5.5mm)の成形品を金型温度140℃加圧力2トン/cm
2で成形し冷却後離型した未硬化状態の成形体を200℃の恒温槽に15分静置して硬化を完了した。得られた硬化成形体について圧環強度と表面粗さ(Ra、Rz)も測定し、得られた結果を次表に示す。