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特開2024-139658ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム
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  • 特開-ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム 図1
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  • 特開-ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム 図3
  • 特開-ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム 図4
  • 特開-ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139658
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】ホウ素と陽子を用いるミューオン触媒核融合システム
(51)【国際特許分類】
   G21B 1/01 20060101AFI20241002BHJP
【FI】
G21B1/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023150635
(22)【出願日】2023-09-18
(71)【出願人】
【識別番号】714009083
【氏名又は名称】西沢 克弥
(72)【発明者】
【氏名】西沢 克弥
(57)【要約】
【課題】公知のミューオン触媒核融合において、水素・重水素D・三重水素T等の核融合燃料物質でなく核融合後の生成物質であるヘリオウムにミューオンが付着・捕捉・トラップされ触媒核融合が停止する課題があった。ミューオンが核融合燃料物質でなく核融合後の生成物質に補足されミューオン触媒核融合反応が進みにくい問題を解決したいと考えた。また中性子を発生しにくい系も考案したい。
【解決手段】ミューオン触媒核融合において原子核が核融合する際に、核融合により生成した物質の原子核の電荷が、核融合燃料となる原子の原子核の電荷より小さい特徴を持つ、核融合反応系を用いる。具体的には核融合燃料に陽子とホウ素を用いるミューオン触媒核融合系を提案する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核融合反応によって生成した原子・粒子の原子核の電荷が、核燃料物質の原子の原子核の電荷より小さい特徴を持つ、核融合反応系を用いる、ミューオン触媒核融合システム。
【請求項2】
前記核融合燃料は陽子とホウ素又はリチウムであって、前記核融合反応によって生成した原子・粒子はヘリウム・アルファ線である、請求項1に記載のミューオン触媒核融合システム。
【請求項3】
前記ホウ素又はリチウムは液体の状態である請求項2に記載のミューオン触媒核融合システム。
【請求項4】
核融合反応によって中性子を生じにくい特徴を持つ系であって、
前記核融合燃料は陽子とホウ素を用い、前記核融合反応によって生成した原子・粒子はヘリウム・アルファ線である、
請求項1に記載のミューオン触媒核融合システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力に関連する考案・発明である。本発明はミューオン触媒核融合システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1のようにミューオン触媒核融合方式(ミュオン触媒核融合)が公知である。
【0003】
重水素Dや三重水素Tを含む水素分子を液体とし、そこへミューオンを投入しミューオンが核融合の触媒のようにふるまい核融合反応をさせる。しかし水素分子では核融合後の原子核の電荷が水素原子の+1からヘリウム原子の+2に増え、+2の電荷をもつ核・へリウム核・アルファ粒子核によりミューオンがクーロン力的に捕捉・トラップされて前記ミューオン触媒核融合が停止する(反応しにくくさせる)課題があった。
【0004】
非特許文献2によれば、陽子とホウ素を用いる熱核融合方式が公知である。熱核融合炉ではD-T、D-D反応で核融合炉を放射化させうる高エネルギーの中性子線が問題になっており、その解決の例として中性子を放出しない、しにくい、陽子とホウ素を用いる系(P-11B系、陽子ホウ素系)が検討されている。前記P-11B系を熱核融合炉で行う場合、熱核融合を起こさせる温度がD-T系より10倍高温にする必要がある課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高エネルギー加速器研究機構KEK、ミュオン触媒核融合[インターネット、WEBページ、URL:https://www2.kek.jp/imss/msl/muon-tour/fusion.htmll、令和5年9月18日閲覧]
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献2】核融合科学研究所NIFS、先進的核融合燃料を使った核融合反応の実証- 中性子を生成しない軽水素ホウ素反応を利用したクリーンな核融合炉への第一歩 -[インターネットWEBページ、URL:https://www.nifs.ac.jp/news/researches/230309-01.html、令和5年9月18日閲覧]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、水素原子・水素分子を用いるミューオン触媒核融合の系において、ミューオンがクーロン力的に捕捉・トラップされて前記ミューオン触媒核融合が停止する(反応しにくくさせる)問題である。また、ミューオン核融合において重水素Dや三重水素T等を用いる系では核融合炉や核融合システムの部材を放射化する虞のある中性子が発生するが、中性子の発生しない系があってもよいかもしれない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ミューオン触媒核融合において核融合前の燃料物質である水素原子にミューオンを近づけて核融合させたいが、核融合後の原子核のヘリウム原子核は核融合前の水素原子核よりも電荷が増えてミューオンを捕捉しやすくなる。そこで本発明ではその電荷の変化を逆にする系として、陽子とホウ素を用いる系を実施例1として図1に開示する。またそれを搭載した宇宙船3・輸送機器3の想定例を図5に記載する。
【0009】
図5の意図として恒星間惑星間を航行する宇宙船や宇宙探査ロボット3は太陽光・恒星の光の届かない、惑星間・恒星間においても宇宙船に搭載された燃料を用いて発電や推進する事が求められうる。その動力源として、宇宙の真空環境を用い、粒子加速器を稼働させミューオンや陽子を生成させ核融合炉・核融合推進器を構成出来ればと考えた背景がある。
【0010】
また中性子が出る可能性はあるものの、本発明の別の視点での実施例(実施例2)として、陽子ホウ素を用いる系に限定しない例として、陽子とリチウムを用いる系等も開示する。リチウムの系を開示する意図としては、リチウムは融点がホウ素より低く、加熱して液体リチウムにしやすい。他方ホウ素を用いる系はホウ素の融点として摂氏2000度超える高温に加熱する必要がある。
【0011】
本発明は、陽子ホウ素による核融合反応系(P-11B系)において、核融合燃料となるホウ素の原子核の電荷が+5であり、核融合後に生じるヘリウムの電荷が+3であることに着目する。P-11B系はホウ素からヘリウムへと核融合反応する時に原子核の電荷が減少する系である。(*他方、D-T系は先述のように核融合後に電荷が増加する系でありトラップが起きる。)
【0012】
本願の図1では次の反応を想定している。(実証されていない)
1.+1の電荷をもつ陽子がー1の電荷をもつミューオンを補足した+5の電荷をもつホウ素原子核(ホウ素を含むミュオン分子)に入射し核融合反応する・反応を促す。
2.核融合により、1個の陽子と1個ホウ素から+3の電荷をもつ3個のヘリウム・アルファ線とエネルギーが生成される。
3.ミューオンは生成後の+3のヘリウムにトラップされるよりは、ミューオンの周囲に多量にバルクに存在する+5の電荷をもつホウ素にトラップされることを好む(電気的に引き寄せられる)と考える。
4.ミューオンはヘリウムよりはホウ素近傍に留まるようになり、ミュ‐オンをトラップしホウ素は(ミュオン分子化し陽子が電気的に接近しやすく核融合しやすくなり)入射した陽子により核融合してを繰り返し、陽子とホウ素による核融合反応をミューオンが触媒する。
【0013】
本発明又は考案では、陽子ホウ素による核融合反応系(P-11B系)において、核融合燃料となるホウ素が電荷が5(+5)であり、核融合後に生じるヘリウムの電荷が3(+3)であるから、ミューオンと陽子をホウ素のターゲットに照射しミューオン触媒核融合を起させようとする系(図1)を提案する。
*本願はアイデアの段階であり実証はされていないが、P-11B系では燃料はホウ素の+5の電荷をもっており生成後のヘリウムの+2の電荷よりは負電荷のミューオンを強く補足・トラップしやすい系であると仮定して出願を行う。*この逆の系、公知の水素・D-T系ミューオン触媒核融合システムでは負電荷のミューオンはヘリウムに補足されやすい。
【0014】
*本願考案・発明は陽子ホウ素の核融合の系を例として示したが、発明の範囲を限定しないように、より一般的に本発明の条件を開示すると、原子核が融合する際に生成した物質の電荷が核融合燃料となる原子の電荷より小さい系であれば良いかもしれない。*例えば図2に記載のような反応式の系が考えられる。図2の例のようにホウ素BやリチウムLiを用いる系であってもよい。
【0015】
●本願のホウ素やリチウムは常温より加熱し液体として用いてよい。例えば液体リチウムを用いてよい。
既存のミューオン触媒核融合系では冷却された液体水素(融点は摂氏マイナス250度)を用いるが、それに対し液体リチウムは融点が摂氏180度程度であるので、液体水素に比べ液体リチウムのほうが液体化してミューオンのターゲット部に用いたいときに液体化しやすい利点があるかもしれない。
●ホウ素についても融点は摂氏2070度であり、沸点は4000度でリチウムと比べ温度は高いものの液体ホウ素としてミューオンと陽子が照射されるターゲット部に用いることができる。ターゲット部ではミューオン触媒核融合が原子核の電荷が+5のホウ素や+3のリチウムを核融合燃料として用い起きることを期待している。前記ミューオン触媒核融合後に原子核の電荷が+2であるヘリウム・アルファ線が生成され系より放出される。(ホウ素と陽子を用いる系は図1、陽子・中性子とリチウムを用いる系は図3に開示する。)
【0016】
本発明は原子核が前記核融合する際に生成した物質(図1のHe、アルファ線)の電荷が核融合燃料となる原子(図1のB)の電荷より小さい系をミューオン触媒核融合システムに用いることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、P-11B系の持つ中性子を放出しない核融合システムであって、核融合時に放射化された物質が出にくい可能性があるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1はホウ素と陽子を用いたミューオン触媒核融合システム1F-SYSの説明図である。
図2図2は原子核が核融合する際に、核融合により生成した物質の原子核の電荷が、核融合燃料となる原子の原子核の電荷より小さい特徴を持つ、核融合反応系の例である。(図2は説明の資料であって、図2に記載のすべての例が本願発明に用いられるわけではないが、該特徴を持つ反応系の例として記載する。例えば図2において陽子とホウ素、陽子とリチウムを用いる系がある。)
図3図3はリチウムと陽子を用いたミューオン触媒核融合システム1F-SYSの説明図である。
図4図4は既存のDやTを持ちいたミューオン触媒核融合方式と本願陽子とBやLiを用いたミューオン触媒核融合方式の比較説明図である。(図4上段D、Tによる方式、図4下段は本願の陽子とB、Liによる方式)
図5図5は本願1F-SYSを含む核融合反応炉1Rや核融合応用推進器1THとその応用例。*例えば、空中・宇宙空間・惑星間・恒星間を推進・移動する宇宙船3・探査ロボット3に1F-SYSが搭載されていてよい。宇宙船3は加速器によりミューオン・陽子・中性子を生成し核燃料のBやLiを採取保管し前記核融合反応させHeアルファ線等を3の後方に放出した反作用により推進させる宇宙船があってもよい。*3は宇宙船に限らず各種輸送機器、航空機・宇宙機、船舶・潜水艦、車両・自動車、ロボット、各種産業機械、宇宙探査ロボットでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は実施例1である。ミューオン触媒核融合の前記トラップ問題に着目し、図1のM1やT1、B1に記載のように、ホウ素を用いるミューオン触媒核融合システムを考案した。図1の実際に利用する形態として太陽光の届かない惑星間・恒星間を移動する宇宙船や探査ロボット3の形態を図5に記載する。
【実施例0020】
図1は、燃料F1やターゲット部T1にホウ素を用いる本発明装置・システムの実施例の説明図である。
*本系はミューオンや陽子を用いるため、加速器等設備が必要になる点もある。加速器の駆動には真空を要する。宇宙空間に加速器を配置する場合は宇宙空間の真空を用いてよい。
【実施例0021】
図2は、燃料F1やターゲット部T1にリチウムを用いる本発明装置・システムの実施例の説明図である。
リチウムはホウ素より融点が低い。
【産業上の利用可能性】
【0022】
ホウ素やリチウム等の資源を確保する必要はあるものの、核融合による電源を作る事ができるかもしれない。本願発明は真空の必要な加速器などを用い、噴射速度が高くなると想定されるアルファ線を生じるので、図5のように真空である宇宙空間を航行する宇宙船の推進装置に用いてもよいかもしれない。
【符号の説明】
【0023】
図1図3
1F-SYS:ホウ素と陽子を用いる核融合反応を利用したミューオン触媒核融合システムの説明図。
M1:ミューオン生成手段、ミューオンを核融合燃料ターゲットT1に投入照射する手段。例:ミューオン生成可能な粒子加速器を用いた系
P1:陽子生成手段、陽子を核融合燃料ターゲットT1に投入照射する手段。例:陽子を加速しターゲットに打ち込み・照射可能な粒子加速器。ホウ素陽子核融合反応系における核融合燃料の要素。N1:中性子生成手段、中性子を核融合燃料ターゲットT1に投入照射する手段。例:中性子を加速しターゲットに打ち込み・照射可能な粒子加速器。A1:粒子加速器A1。
T1:核融合燃料を含むターゲット部。核融合燃料T1、F1。
B1:T1のうちホウ素を用いる部分。ホウ素ターゲット。ホウ素は溶融していてもよい。
L1:T1のうちリチウムを用いる部分。リチウムターゲット。リチウムは溶融した液体リチウムでもよい。
EX1:核融合後の生成物EX1。図1図3等においては核融合後に生成するヘリウムHe・アルファ線。
図5
1R:核融合炉である1F-SYS。1F-SYSを含む核融合炉。アルファ線のエネルギーを電力エネルギーに変換する発電部が備えられててもよい。
図5には明記されていないが、1F-SYS、1Rにより生じた核融合由来の電力を、ミューオン発生部M1や陽子発生部P1に供給し、ミューオンや陽子を発生させることに用いてよい。該電力を本発明のシステムやシステム各部の駆動に用いてよい。
1TH:1F-SYSを含む核融合応用推進装置、推力発生装置。
1TH-NZ: 1THのノズル部。核融合後の生成物EX1がエネルギー持つヘリウム、アルファ線であるときに前記アルファ線を放出するノズル部。推力偏向装置・ノズルでもよい。該アルファ線を推進剤に照射し、推進剤を加熱させ噴射してもよい。*1TH-NZとは別に、1Rで生じた電力を用いてイオン推進器や光子レーザーを放出した反動で推進する推進装置を稼働してもよい。
【0024】
<その他>本願では核燃料物質(例:B、Li)の原子核の正電荷が核融合後生成物(例:He)よりも大きくなっている系を用いることで、負電荷をもつミューオンを核燃料物質の原子の原子核にとどめるようとしている。核融合生成物より核融合燃料にミューオンが位置するほうがクーロン力・電荷・電場・電気的に安定となる意図を持っている。
【0025】
本願の考案、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行なうことができる。
図1
図2
図3
図4
図5