(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024013966
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/39 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01N21/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116456
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】503063168
【氏名又は名称】東京ガスエンジニアリングソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】安部 健
(72)【発明者】
【氏名】原 毅
(72)【発明者】
【氏名】南田 知厚
(72)【発明者】
【氏名】配川 知之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 数行
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB01
2G059CC04
2G059CC13
2G059EE01
2G059GG01
2G059GG09
2G059HH08
2G059HH09
2G059JJ04
2G059JJ22
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲で変調させた光を用いて検出対象ガスの存在を検出する場合と比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くする。
【解決手段】ガス検出装置は、検出対象となる空間に、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲で予め定められた基本周波数により波長を変調させた光を照射する照射部と、空間を通過した光に基本周波数よりも高次の周波数を有する成分が含まれることを認識し、空間における検出対象ガスの存在を検出する検出部とを備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象となる空間に、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲で予め定められた基本周波数により波長を変調させた光を照射する照射部と、
前記空間を通過した前記光に前記基本周波数よりも高次の周波数を有する成分が含まれることを認識し、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出する検出部と
を備えるガス検出装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記空間を通過した前記光に含まれる前記基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する成分を認識し、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記基本周波数により変調された前記光の波形に対する、前記空間を通過した当該光の波形の歪みに基づいて、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項4】
前記照射部は、前記検出対象ガスの前記光吸収スペクトルが有する光吸収ピークを含み且つ当該光吸収ピークの頂点からずれた位置に中心波長を有する前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項5】
前記照射部は、前記検出対象ガスの前記光吸収スペクトルが有する光吸収ピークであって、波形が頂点に対して左右非対称な当該光吸収ピークを含む前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置。
【請求項6】
前記照射部は、前記光吸収ピークの頂点に中心波長を有する前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項5に記載のガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1には、所定の周波数(fm)で周波数変調された光を被測定ガスに入射して得られた、被測定ガスの吸収特性を帯びた光信号の基本波信号(周波数fm)と2倍波信号(周波数2fm)とからガス濃度を測定するガス濃度測定処理装置が開示されている。このガス濃度測定処理装置では、被測定ガスであるメタンガスの吸収スペクトルで透過率が極小となる波長に中心周波数を設定して周波数変調された光を被測定ガスに入射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検出対象ガスの光吸収スペクトルにおける光吸収ピークの頂点に中心波長を有し、中心波長を中心として光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲で変調させた光を検出対象となる空間に照射して、検出対象ガスを検出する場合を考える。この場合、検出対象ガスの種類等によっては、光吸収スペクトルにおいて波形が対称な光吸収ピークが少ない場合があり、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲が狭くなるおそれがある。
本発明は、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲で変調させた光を用いて検出対象ガスの存在を検出する場合と比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、検出対象となる空間に、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲で予め定められた基本周波数により波長を変調させた光を照射する照射部と、前記空間を通過した前記光に前記基本周波数よりも高次の周波数を有する成分が含まれることを認識し、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出する検出部とを備えるガス検出装置である。
請求項2に記載の発明は、前記検出部は、前記空間を通過した前記光に含まれる前記基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する成分を認識し、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置である。
請求項3に記載の発明は、前記検出部は、前記基本周波数により変調された前記光の波形に対する、前記空間を通過した当該光の波形の歪みに基づいて、当該空間における前記検出対象ガスの存在を検出することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置である。
請求項4に記載の発明は、前記照射部は、前記検出対象ガスの前記光吸収スペクトルが有する光吸収ピークを含み且つ当該光吸収ピークの頂点からずれた位置に中心波長を有する前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置である。
請求項5に記載の発明は、前記照射部は、前記検出対象ガスの前記光吸収スペクトルが有する光吸収ピークであって、波形が頂点に対して左右非対称な当該光吸収ピークを含む前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載のガス検出装置である。
請求項6に記載の発明は、前記照射部は、前記光吸収ピークの頂点に中心波長を有する前記波長範囲で変調させた前記光を照射することを特徴とする請求項5に記載のガス検出装置である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲で変調させた光を用いて検出対象ガスの存在を検出する場合と比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、基本周波数の2倍の周波数を有する成分に基づいて検出対象ガスの存在を検出しない場合と比べて、検出対象ガスの検出精度を向上させることができる。
請求項3に記載の発明によれば、基本周波数により変調された光の波形に対する、検出対象となる空間を通過した光の波形の歪みに基づいて検出対象ガスの存在を検出しない場合と比べて、検出対象ガスを簡易な処理で検出することができる。
請求項4に記載の発明によれば、照射部が、光吸収ピークの頂点に中心波長を有する波長範囲で変調させた光を照射すると比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くすることができる。
請求項5に記載の発明によれば、照射部が、波形が頂点に対して左右非対称な光吸収ピークを含まない波長範囲で変調させた光を照射する場合と比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くすることができる。
請求項6に記載の発明によれば、照射部が、光吸収ピークの頂点に中心波長を有しない波長範囲で変調させた光を照射する場合と比べて、照射部により照射される光の波長の調整が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態が適用されるガス検出装置の使用態様を示した図である。
【
図2】本実施形態が適用されるガス検出装置の構成の一例を示した図である。
【
図3】検出対象ガスの光吸収スペクトルの一例を示す図である。
【
図4】光出射部であるフォトダイオードに対して、出射制御部による制御に基づいて入力される電流の時間変化を示す図である。
【
図5】光出射部から出射される光の波長および出力の時間変化を示す図である。
【
図6】
図5に示した条件で光出射部から出射された光を検出対象ガスであるジフルオロメタンが存在する空間に照射した場合に、空間で反射した光を受光した受光部から出力される電気信号の一例を示した図である。
【
図7】検出対象ガスの光吸収スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[実施形態1]
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態が適用されるガス検出装置1の使用態様を示した図である。
本実施形態のガス検出装置1は、検出対象となる空間Sに予め定められた波長範囲の光を照射する。また、ガス検出装置1は、検出対象となる空間Sで壁や地面等の反射面Tにより反射した反射光の一部を受光する。そして、ガス検出装置1は、受光した反射光の強度等に基づいて、検出対象となる空間Sに、ガス検出装置1による検出対象であるガスが存在するか否かを判断する。以下では、ガス検出装置1による検出対象であるガスを、「検出対象ガス」と表記する場合がある。本実施形態では、ガス検出装置1から出射される赤外光の光路上の空間が、検出対象ガスの検出対象となる空間Sである。
ガス検出装置1により検出する検出対象ガスとしては、特に限定されるものではないが、例えば、フルオロカーボン類、一酸化炭素、二酸化炭素、エチレン、メタン、エタン、プロパン、イソブタン、ブタン、プロピレン、アンモニア、硫化水素、フッ化水素等のガスが挙げられる。また、フルオロカーボン類として具体的には、ジフルオロメタン(冷媒番号:R32)、ペンタフルオロエタン(冷媒番号:R125)、1,1,1-トリフルオロエタン(冷媒番号:R143a)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(冷媒番号:R134a)、1,1-ジフルオロエタン(冷媒番号:R152a)、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(冷媒番号:R1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(冷媒番号:R1234ze)、トランス-1,2-ジフルオロエチレン(冷媒番号:HFO1132(E))、トリフルオロエチレン(冷媒番号:HFO1123)等が挙げられる。
【0009】
詳細については後述するが、
図1に示すように、検出対象となる空間Sに検出対象ガスGが存在する場合、ガス検出装置1から照射された光の一部が検出対象ガスGに吸収される。ガス検出装置1は、反射光の受光結果から、検出対象ガスGによる光の吸収があることを認識し、空間Sにおける検出対象ガスGの存在を検出する。
【0010】
図2は、本実施形態が適用されるガス検出装置1の構成の一例を示した図である。
本実施形態のガス検出装置1は、光を出射する光出射部11と、光出射部11から出射され空間S(
図1参照)で反射した光(反射光)を受光する受光部12とを備えている。また、ガス検出装置1は、反射光を受光部12に集光させるレンズ13を備えている。また、ガス検出装置1は、光出射部11から出射される光の波長を調整するためのテストを行うテスト部15を備えている。また、ガス検出装置1は、光出射部11、受光部12およびテスト部15の制御を行う制御部20を備えている。
【0011】
本実施形態のガス検出装置1は、光を出射する光出射部11と、光出射部11から出射され空間Sで反射された光を受光する受光部12とが一体となっている。これにより、検出対象ガスを遠隔から検出することができる。
なお、ガス検出装置1は、光出射部11と受光部12とが別体であってもよい。この場合、検出対象となる空間Sを挟んで光出射部11と受光部12とが対向するように配置することで、検出対象ガスを検出することができる。
【0012】
光出射部11は、検出対象となる空間Sに光を照射する照射部の一例であって、例えば、レーザダイオードにより構成される。光出射部11は、予め定められた波長範囲の光を出射する。付言すると、本実施形態の光出射部11は、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な範囲で予め定められた基本周波数(1f)により波長を変調させた光を出射する。なお、光出射部11により出射される光の波長範囲や波長の変調については、後段にて詳細に説明する。
【0013】
光出射部11から出射された光は、その一部が、テスト部15の後述するハーフミラー151を通過して、ガス検出装置1の外部へ照射される。また、光出射部11から出射された光は、その一部が、ハーフミラー151により反射され、テスト部15の後述するテスト用セル152を通過して、後述するテスト用受光部153で受光される。
【0014】
受光部12は、例えば、フォトダイオードにより構成される。受光部12は、光出射部11から出射されて、空間Sに存在する壁や地面等の反射面Tで反射した光(反射光)の一部を、レンズ13を介して受光する。また、受光部12は、受光した光の強度に応じた電気信号を、制御部20の後述する検出部23に出力する。なお、受光部12から出力される光の強度に応じた電気信号については、後段にて詳細に説明する。
【0015】
レンズ13は、例えばフレネルレンズにより構成され、光出射部11から出射され空間Sで反射した光(反射光)を、受光部12の受光面に集光する。
【0016】
テスト部15は、上述したように、光出射部11から出射される光の波長を調整するために用いられる。テスト部15は、光出射部11から出射された光の一部を透過するとともに一部を反射するハーフミラー151を備えている。また、テスト部15は、内部に検出対象ガスが封入され、ハーフミラー151で反射された赤外光が通過するテスト用セル152を備えている。さらに、テスト部15は、テスト用セル152を通過した赤外光を受光するテスト用受光部153を備えている。テスト用受光部153は、例えばフォトダイオードからなり、受光した赤外光の強度に応じた電気信号を制御部20の後述する波長調整部25に出力する。
【0017】
制御部20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)により構成されるコンピュータ装置である。CPUは、ROMや不図示の記憶装置等に記憶された各種プログラムをRAMにロードして実行することにより、制御部20の後述する各機能を実現する。RAMは、CPUの作業用メモリ等として用いられるメモリであり、ROMは、CPUが実行する各種プログラム等を記憶するメモリである。
【0018】
制御部20は、光出射部11による光の出射を制御する出射制御部21を備えている。また、制御部20は、受光部12から出力された電気信号に基づいて、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出する検出部23を備えている。また、制御部20は、テスト部15のテスト用受光部153から出力された電気信号に基づいて、光出射部11から出射される光の波長を調整する波長調整部25を備えている。また、制御部20は、検出部23による検出対象ガスの検出結果に応じて、検出対象となる空間Sに検出対象ガスが存在する旨の情報を出力する出力部27を備えている。
【0019】
出射制御部21は、光出射部11を制御して、予め定められた波長範囲の光を出射させる。
出射制御部21は、光出射部11を制御して、予め定められた波長(以下、中心波長と表記する場合がある。)を中心として、予め定められた基本周波数(例えば10kHz)で予め定められた波長(例えば±数十~数百pm)だけ変調させた光を出射させる。付言すると、出射制御部21は、光出射部11を制御して、中心波長を中心として上下に予め定められた幅を有する波長範囲の光を出射させる。
また、詳細については後述するが、本実施形態では、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲の光が光出射部11から出射されるように、上述した中心波長が定められている。
【0020】
ここで、光出射部11がレーザダイオードからなる場合、光出射部11から出射される光の波長は、光出射部11に供給される電流値および光出射部11の温度等に応じて変化する。出射制御部21は、光出射部11から出射される光の波長が予め定められた範囲の波長となるように、予め定められた基本周波数で、光出射部11に供給される電流値を制御するとともに、光出射部11の温度を制御する。
【0021】
検出部23は、受光部12による受光結果から検出対象となる空間Sにおいて光の吸収があることを認識し、空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出する。
上述したように、検出対象となる空間Sに検出対象ガスが存在する場合と存在しない場合とで、受光部12にて受光される光(反射光)の強度が変化し、受光部12から検出部23へ出力される電気信号が変化する。検出部23は、受光部12から電気信号を取得し、取得した電気信号に基づいて、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出する。
また、検出部23は、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスの存在として、例えば、検出対象ガスの濃度(ppm)と、空間Sに存在する検出対象ガスの厚みD(m)(
図1参照)との積であるコラム密度(ppm・m)を算出する。
【0022】
詳細については後述するが、検出対象となる空間Sに検出対象ガスが存在する場合、光出射部11から出射された光の一部が検出対象ガスに吸収されることで、光出射部11から出射された光の周波数である基本周波数よりも高次の周波数の成分を有する光が生じる。検出部23は、受光部12から取得した電気信号を取得し、空間Sを通過した光における高次の周波数を有する成分に基づいて、検出対象ガスの存在を検出する。
【0023】
波長調整部25は、テスト部15のテスト用受光部153から電気信号を取得し、取得した電気信号に基づいて、光出射部11から出射される光の波長を調整する。
上述したように、テスト部15のテスト用セル152には、検出対象ガスが封入されており、テスト用受光部153には、光出射部11から出射されテスト用セル152を通過した後の光が受光される。付言すると、テスト用受光部153には、検出対象ガスにより所定の波長を有する光が吸収された後の光が受光される。
【0024】
上述したように、本実施形態では、光出射部11から予め定められた波長範囲の光が出射されると、光の一部が検出対象ガスに吸収されることで、光出射部11から出射された光の周波数である基本周波数よりも高次の周波数の成分を有する光が生じる。その一方で、光出射部11から出射される光の波長が予め定められた波長範囲からずれている場合、基本周波数よりも高次の周波数の成分を有する光は生じにくい。
【0025】
波長調整部25は、テスト用受光部153から取得した電気信号における、予め定められた高次の周波数の成分に基づいて、光出射部11から出射された赤外光の波長が、予め定められた特定波長を中心とした波長範囲からずれているか否かを判断する。そして、波長調整部25は、光出射部11から出射された赤外光の波長が特定波長を中心とした波長範囲からずれている場合には、光出射部11から出射される赤外光の波長が特定波長を中心とした波長範囲に一致するように、光出射部11の温度および光出射部11へ供給する電流値を算出し、出射制御部21に出力する。
出射制御部21は、波長調整部25から取得した温度および電流値に基づいて光出射部11を制御することで、光出射部11から予め定められた特定波長を中心とした波長範囲の赤外光が出射されるようにする。
【0026】
出力部27は、検出部23による検出結果に応じて、検出対象となる空間Sに検出対象ガスが存在する旨を示す情報を出力する。この例では、出力部27は、検出部23により算出された、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスのコラム密度が予め定められた基準値を超える場合に、検出対象ガスが存在する旨の情報を出力する。
【0027】
出力部27による出力態様は特に限定されない。出力部27は、例えば、出力装置(不図示)の一例としてPCやタブレット端末等のコンピュータ装置に、検出対象となる空間Sに検出対象ガスが存在する旨を示す情報を出力し、これらの表示画面に検出対象ガスが存在する旨のメッセージ等を表示させることができる。また、出力部27は、出力装置の一例としてガス検出装置1自身やガス検出装置1の外部に設けられた警告ランプ等を点灯させることで、検出対象ガスが存在する旨を知らせてもよい。また、出力部27は、例えば、出力装置の一例としてガス検出装置1やガス検出装置1の外部に設けられたスピーカ等を介して、音声により検出対象ガスが存在する旨を知らせてもよい。
【0028】
続いて、本実施形態のガス検出装置1において、光出射部11から出射される光の波長について、詳細に説明する。
ここで、検出対象となる空間Sにおいて検出対象ガスの検出をする場合、例えば、検出対象ガスの光吸収スペクトルにおける吸収ピークを含む波長範囲の光を、検出対象となる空間Sに照射する。このような場合に、検出対象ガスの検出精度を高くする観点、または、空間Sで反射し受光部12で受光された電気信号の処理を容易にする観点等から、検出対象ガスの光吸収スペクトルにおける吸収ピークの頂点を中心として、光吸収スペクトルの波形が対称となるような波長範囲で変調させた光を、検出対象となる空間Sに照射する。
しかしながら、検出対象ガスの種類等によっては、光吸収スペクトルにおいて波形が対称な光吸収ピークが少ない場合があり、検出対象となる空間Sに照射して検出対象ガスの検出に用いる光として選択可能な波長の範囲が狭くなるおそれがある。
【0029】
これに対し、本実施形態では、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲で予め定められた基本周波数により波長を変調させた光を、検出対象となる空間Sに照射する。そして、検出対象となる空間Sを通過した光に含まれる、基本周波数よりも高次の周波数を有する成分に基づいて、空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出する。
まず、出射制御部21による制御により光出射部11から出射される光について説明する。
【0030】
図3は、検出対象ガスの光吸収スペクトルの一例を示す図である。
図3では、検出対象ガスの一例としてジフルオロメタンの光吸収スペクトルにおける、波長1724nmから波長1726nmの範囲を示している。また、
図3には、検出対象ガスの光吸収スペクトルに加えて、本実施形態の光出射部11により出射される光の波長範囲W1を併せて示している。
図4は、光出射部11であるフォトダイオードに対して、出射制御部21による制御に基づいて入力される電流の時間変化を示す図である。
図5は、光出射部11から出射される光の波長および出力の時間変化を示す図である。
【0031】
図3に示すように、検出対象ガスの一例であるジフルオロメタンは、波長1725.3nmに頂点を有するピークP1と、波長1724.7nmに頂点を有するピークP2と、ピークP1とピークP2との間の波長1725.0nmに極小値を有する谷Vとを有する。
なお、本実施形態において、光吸収スペクトルのピークとは、波長が大きくなるに従い光吸収スペクトルの傾きが正から負へ変化し、吸収強度が極大値を取る点である。
【0032】
本実施形態の光出射部11は、出射制御部21による制御に基づいて、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲として、検出対象ガスであるジフルオロメタンの光吸収スペクトルが有するピークP1を含み且つこのピークP1の頂点からずれた位置である波長1725.2nmに中心波長を有する波長範囲W1で変調させた光を出射する。
なお、光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲とは、予め定められた中心波長を挟んで、低波長側の光吸収スペクトルの波形と、高波長側の光吸収スペクトルの波形とが一致しない波長範囲を意味する。
【0033】
この例では、出射制御部21は、
図4に示すように、予め定められた基本周波数として10kHzの周期で出力を変調させて、光出射部11に電流を供給する。なお、出射制御部21により光出射部11に供給される電流の値は、光出射部11から出射される波長が所望の波長となるように、波長調整部25により調整されたものである。
これにより、光出射部11は、波長1725.2nmを中心として±230pmの波長範囲(1724.97nm~1725.43nmの波長範囲)W1で、予め定められた基本周波数として10kHzの周期で波長を変調された光を出射する。
図3に示すように、検出対象ガスの一例であるジフルオロメタンの光吸収スペクトルは、波長範囲W1において、中心波長である波長1725.2nmを挟んで低波長側の波形と高波長側の波形とが一致していない。
【0034】
ここで、光出射部11がフォトダイオードである場合、光出射部11から出射される光の強度は、光出射部11に供給される電流の大きさに比例する。したがって、光出射部11から出射される光の出力は、
図5に示すように、出射制御部21により供給される電流の大きさに応じて、基本周波数である10kHzの周期で変動する。付言すると、光出射部11から出射される光は、波長と出力とが、基本周波数として10kHzの周期で同調して変化している。
【0035】
続いて、空間Sに検出対象ガスが含まれる場合に、空間Sで反射した光(反射光)を受光した受光部12から出力される電気信号、および受光部12から出力された電気信号に基づいて検出部23が行う処理について説明する。
図6は、
図5に示した条件で光出射部11から出射された光を検出対象ガスであるジフルオロメタンが存在する空間Sに照射した場合に、空間Sで反射した光(反射光)を受光した受光部12から出力される電気信号の一例を示した図である。
【0036】
ここで、従来のように、光出射部11により検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲の光を空間Sに照射した場合、空間Sに検出対象ガスが存在すると、光出射部11から出射された光の一部が吸収されることで、基本周波数の2倍の周波数を有する光が生じる。
これに対し、本実施形態のように、光出射部11により検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲の光を空間Sに照射した場合、空間Sに検出対象ガスが存在すると、光出射部11から出射された光の一部が吸収されることで、上述した基本周波数よりも高次の周波数を有する光が生じる。付言すると、光出射部11により検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲の光を空間Sに照射した場合、基本周波数の2倍の周波数を有する光に加えて、基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する光が生じる。
【0037】
そして、空間Sを通過した光を受光した受光部12から出力される電気信号は、基本周波数を有する成分と、基本周波数よりも高次の周波数を有する成分とを合成した波形を有する。
この例では、
図6に示すように、空間Sを通過した光を受光した受光部12から出力される電気信号は、基本周波数(10kHz)を有する成分、基本周波数の2倍の周波数(20kHz)を有する成分、基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数(30kHz、40kHz、50kHz…)を有する成分等を合成した波形を有する。
【0038】
本実施形態の検出部23は、上述したように、受光部12から取得した電気信号から、空間Sを通過した光に基本周波数よりも高次の周波数を有する成分、より好ましくは基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する成分が含まれることを認識し、検出対象ガスの存在を検出する。
検出部23が、受光部12から取得した電気信号から高次の周波数を有する成分を認識する方法としては、特に限定されない。例えば、検出部23は、受光部12から取得した電気信号を公知の信号処理技術を用いて、基本周波数を有する成分(基本周波数成分)、基本周波数の2倍の周波数(20kHz)を有する成分(2次高調波成分)、基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する成分(n次高調波成分)に分離する。そして、検出部23は、分離した成分のうち、予め定められたn次高調波成分の信号強度に基づいて、検出対象ガスの存在を検出する。付言すると、検出部23は、受光部12から取得した電気信号を分離した成分のうち、基本周波数成分の信号強度に対するn次高調波成分の信号強度の比率に基づいて、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスのコラム密度を算出する。
【0039】
ここで、光出射部11から出射され検出対象ガスが存在する空間Sを通過した光を受光した受光部12から出力される電気信号の波形は、検出対象ガスの種類や光出射部11から出射される光の波長範囲等によって異なる。したがって、検出部23が検出対象ガスの検出に用いるn次高調波成分の次数(nの値)については、検出対象ガスの種類や光出射部11から出射される光の波長範囲等に応じて定めればよい。
検出部23は、受光部12が取得した電気信号に含まれる高次の周波数を有する成分の中から、異なる複数の次数の周波数を有する成分の信号強度に基づいて、検出対象ガスの存在を検出してもよい。
図6に示した例では、検出部23は、例えば、3次高調波成分(n=3)の信号強度に基づいて、検出対象ガスであるジフルオロメタンの存在を検出することができる。
【0040】
他の観点から捉えると、本実施形態の検出部23は、基本周波数を有する光出射部11から出射される光の波形(例えば
図5における出力の波形)に対し、空間Sを通過した光を受光した受光部12から出力される電気信号の波形(例えば
図6の波形)の歪みに基づいて、空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出してもよい。
上述したように、空間Sに検出対象ガスが存在する場合には、光出射部11から出射された光の一部が吸収され基本周波数よりも高次の周波数を有する光が生じることで、空間Sを通過した光を受光した受光部12から出力される電気信号にn次高調波成分が生じる。空間Sに存在する検出対象ガスが多いほど、受光部12から出力される電気信号に含まれるn次高調波成分が多くなることから、受光部12から出力される電気信号の波形の歪みが大きくなる。検出部23は、受光部12から出力される電気信号の波形の歪みの大きさを評価し、歪みの大きさに基づいて、検出対象となる空間Sにおける検出対象ガスのコラム密度を算出する。
【0041】
検出部23が電気信号の波形の歪みの大きさを評価する方法としては、特に限定されない。検出部23は、例えば、受光部12から出力された電気信号を分離して得られた基本周波数成分、2次高調波成分、n次高調波成分(nは3以上の整数)のそれぞれを二乗平均し、それらを合算した値(二乗平均の合算値)に基づいて、電気信号の波形の歪みの大きさを評価することができる。なお、空間Sに存在する検出対象ガスが多いほど、受光部12から出力される電気信号における2次高調波成分、n次高調波成分(nは3以上の整数)の比率が多くなるため、二乗平均の合算値が大きくなる傾向がある。
【0042】
[実施形態2]
続いて、本発明の実施形態2について説明する。なお、以下の説明では、実施形態1と同様の構成については同じ符号を用い、ここでは詳細な説明は省略する。
上述した実施形態1では、光出射部11は、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲として、検出対象ガスの光吸収スペクトルが有するピークを含み且つピークの頂点からずれた位置に中心波長を有する波長範囲で変調させた光を出射する。これに対し、実施形態2では、光出射部11が、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲として、検出対象ガスの光吸収スペクトルが有する、波形が頂点に対して左右非対称な光吸収ピークを含み、且つこの光吸収ピークの頂点に中心波長を有する波長範囲で変調させた光を出射する点で、実施形態1とは異なる。
【0043】
図7は、検出対象ガスの光吸収スペクトルの一例を示す図である。
図7では、検出対象ガスの一例としてジフルオロメタンの光吸収スペクトルにおける、波長1724nmから波長1726nmの範囲を示している。なお、
図7に示す検出対象ガスの光吸収スペクトルは、
図3に示す光吸収スペクトルと同じである。また、
図7には、検出対象ガスの光吸収スペクトルに加えて、本実施形態の光出射部11により出射される光の波長範囲W2を併せて示している。
【0044】
本実施形態の光出射部11は、出射制御部21による制御に基づいて、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲として、検出対象ガスであるジフルオロメタンの光吸収スペクトルが有する、波形が頂点に対して左右非対称なピークP1を含み、且つピークP1の頂点の波長である波長1725.3nmに中心波長を有する波長範囲W2で変調させた光を出射する。
なお、検出対象ガスの光吸収スペクトルが有する、波形が頂点に対して左右非対称なピークとしては、
図7に示した例のように谷Vを挟んだ近傍に別のピークP2を有するピークP1の他、頂点に対して低波長側と高波長側とで傾きが異なるピーク、頂点に対して低波長側または高波長側に1または複数の肩ピークを有するピーク等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0045】
図示は省略するが、本実施形態においても実施形態1と同様に、光出射部11により検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲の光を空間Sに照射した場合、空間Sに検出対象ガスが存在すると、光出射部11から出射された光の一部が吸収されることで、上述した基本周波数よりも高次の周波数を有する光が生じる。
そして、検出部23は、実施形態1と同様に、受光部12から取得した電気信号から、空間Sを通過した光に基本周波数よりも高次の周波数を有する成分、より好ましくは基本周波数のn倍(nは3以上の整数)の周波数を有する成分が含まれることを認識し、検出対象ガスの存在を検出することができる。
【0046】
実施形態2では、光出射部11が、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲として、左右非対称なピークの頂点を中心波長とした波長範囲の光を出射することで、波長調整部25による波長を調整する制御が容易になる。
すなわち、検出対象ガスによる光の吸収量は、光吸収スペクトルにおける吸収ピークの頂点の波長において最も多くなる。そして、光出射部11から出射される光の波長が吸収スペクトルにおける吸収ピークの頂点の波長と一致する場合、検出対象ガスにより光が吸収されることで、検出対象ガスが封入されているテスト用セル152を通過する光の強度が最も小さくなる。
波長調整部25は、テスト用セル152を通過しテスト用受光部153で受光される光の強度が最も小さくなるような波長が中心波長となるように、光出射部11の温度および光出射部11へ供給する電流値を算出し、出射制御部21に出力すればよい。
【0047】
以上説明したように、ガス検出装置1では、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲で予め定められた基本周波数により波長を変調させた光を、検出対象となる空間Sに照射する。そして、検出対象となる空間Sを通過した光に含まれる、基本周波数よりも高次の周波数を有する成分に基づいて、空間Sにおける検出対象ガスの存在を検出する。このような構成を採用することで、検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が対称な波長範囲で変調させた光を用いて検出対象ガスの存在を検出する場合と比べて、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として選択可能な波長の範囲を広くすることができる。さらにその結果、検出対象ガスの検出に用いる光の波長として、検出対象ガスによる吸収強度の高い吸収ピークを含む波長を選択することが可能となり、ガス検出装置1による検出対象ガスの検出精度を向上させることができる。
【0048】
なお、上述した各実施形態では、ガス検出装置1による検出対象ガスとしてジフルオロメタンを例示したが、検出対象ガスの種類は問わない。
また、上述した各実施形態では、ガス検出装置1による検出対象ガスの検出に用いる光として赤外光を用いる場合を例示したが、これに限られない。検出対象ガスによる吸収を有し、且つ検出対象ガスの光吸収スペクトルの波形が非対称な波長範囲の光であれば、ガス検出装置1による検出対象ガスの検出に用いる光として、赤外光以外の波長域の光を用いてもよい。
【0049】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限るものではない。また、本発明による効果も、上述した実施の形態に記載されたものに限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1…ガス検出装置、11…光出射部、12…受光部、13…レンズ、15…テスト部、20…制御部、21…出射制御部、23…検出部、25…波長調整部、27…出力部、151…ハーフミラー、152…テスト用セル、153…テスト用受光部