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特開2024-139667生分解性樹脂の処理方法及び生分解性樹脂の処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139667
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】生分解性樹脂の処理方法及び生分解性樹脂の処理システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/65 20220101AFI20241002BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20241002BHJP
【FI】
B09B3/65
B09B3/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023183523
(22)【出願日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2023050043
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】秋元 真也
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 準平
【テーマコード(参考)】
4D004
【Fターム(参考)】
4D004AA07
4D004BA03
4D004CA18
4D004CA34
4D004CB04
4D004CC03
4D004DA03
4D004DA06
4D004DA10
4D004DA20
(57)【要約】
【課題】生分解性樹脂と水以外に添加物を加えることなく、高効率でメタンを生成することができる、生分解性樹脂の処理方法及び処理システムを実現することにある。
【解決手段】生分解性樹脂1を含む廃棄物と水2とを混合し、密閉された分解槽11内で120℃以上の温度にて加水分解して生分解性樹脂1の分解物を含む分解液3を得る分解工程と、難分解性固形分を含む有機廃棄物4と分解液3とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽21内で30℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵工程、とを含む生分解性樹脂の処理方法であって、メタン発酵工程において、メタン発酵槽21内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように有機廃棄物4に分解液3を添加する、生分解性樹脂の処理方法及び処理システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性樹脂を含む廃棄物と水とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解工程と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で30℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵工程、とを含み、
前記メタン発酵工程において、前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液を添加する、生分解性樹脂の処理方法。
【請求項2】
生分解性樹脂を含む廃棄物と水蒸気とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解工程と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で30℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵工程、とを含み、
前記メタン発酵工程において、前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液を添加する、生分解性樹脂の処理方法。
【請求項3】
前記分解工程において、前記生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水又は水蒸気を混合する、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の処理方法。
【請求項4】
前記分解槽は、少なくとも前記分解液と接する部分の材質がオーステナイト系ステンレス鋼で構成される、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の処理方法。
【請求項5】
前記分解工程における加水分解の温度が120℃以上170℃以下である、請求項4に記載の生分解性樹脂の処理方法。
【請求項6】
前記生分解性樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートのうち少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂の処理方法。
【請求項7】
前記分解工程で混合される前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.1質量部以上のポリ乳酸を含む請求項6に記載の生分解性樹脂の処理方法。
【請求項8】
生分解性樹脂を含む廃棄物と水とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解装置と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で20℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵装置とを含み、
前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液が添加される、生分解性樹脂の処理システム。
【請求項9】
生分解性樹脂を含む廃棄物と水蒸気とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解装置と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で20℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵装置とを含み、
前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液が添加される、生分解性樹脂の処理システム。
【請求項10】
前記分解槽に前記生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水又は水蒸気を混合する、請求項8又は9に記載の生分解性樹脂の処理システム。
【請求項11】
前記分解槽は、少なくとも前記分解液と接する部分の材質がオーステナイト系ステンレス鋼で構成される、請求項8又は9に記載の生分解性樹脂の処理システム。
【請求項12】
前記分解槽における加水分解の温度が120℃以上170℃以下である、請求項11に記載の生分解性樹脂の処理システム。
【請求項13】
前記生分解性樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートのうち少なくとも1つを含む、請求項8又は9に記載の生分解性樹脂の処理システム。
【請求項14】
前記分解槽で混合される前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.1質量部以上のポリ乳酸を含む請求項13に記載の生分解性樹脂の処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂の処理方法及び生分解性樹脂の処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスチックに代わる材料に関する研究開発が、近年盛んに行われている。その中でも、再生可能資源で作られたポリ乳酸(PLA)を主成分とする生分解性プラスチックは、微生物の力で分解されるため、環境に優しいバイオマスプラスチックである。バイオマスプラスチックでは、分解されにくい従来のプラスチックに代わり、レジ袋の材料として使用されたり、人体への安全性が高いため、溶ける縫合糸などの医療用材料として用いられたりされている。
【0003】
近年、石油資源の急激な高騰によりバイオマス燃料への需要がますます高まっており、再生可能資源で作られたポリ乳酸等のバイオマスプラスチックを、メタン発酵によりメタンを含むバイオガスへ変換する試みが再度注目されている。
【0004】
特許文献1には、アミン化合物存在下で樹脂含有廃棄物を加温して、モノマーに加水分解する分解槽と、分解槽で得られるモノマーと難分解性固形分を含む有機廃棄物とが供給される発酵槽にてこれらをメタン発酵するメタン発酵部と、を備える廃棄物処理システムが開示されている。このような方法は、廃プラスチックを化学原料や燃料として利用可能なガスとして再生するケミカルリサイクルに比べて、水素及び一酸化炭素を主に含む混合ガスを経ることなくメタンを製造できる。また、難分解性固形分を含む有機廃棄物のメタン発酵を行っている発酵槽にモノマーを供給することで、発酵槽内において、難分解性固形分を含む有機廃棄物のメタン発酵と、モノマーのメタン発酵とを両立でき、効率的なメタン発酵を可能としている。
【0005】
特許文献2には、生分解性酵素、炭酸カルシウム、エタノール及び水を含有する分解液中でポリ乳酸樹脂を分解した後、分解液をメタン発酵させる工程を含む、メタンガスの生成方法が開示されている。この方法では、エタノールを添加しない場合に比べてガス発生量が1.5倍程度増加することが記載されている。また、エタノールと炭酸カルシウムを加えない場合と比べても、ガス発生量が約1.3倍増加することが記載されており、効率的なメタンガス生成方法となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-170390号公報
【特許文献2】特許第5696971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載の廃棄物処理システムは、分解槽にアミン化合物、エタノール、炭酸カルシウム等の添加物が加えられている。そのため、分解槽で生成された分解液を発酵槽に加えた場合に、これらの添加物が発酵槽内のメタン生成菌へ悪影響を及ぼし、メタン生成の効率を低減させる虞があった。
【0008】
本発明の目的は、生分解性樹脂と水又は水蒸気以外に添加物を加えることなく、高効率でメタンを生成することができる、生分解性樹脂の処理方法及び生分解性樹脂の処理システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の特徴構成は、
生分解性樹脂を含む廃棄物と水とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解工程と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で30℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵工程、とを含み、
前記メタン発酵工程において、前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液を添加する点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理方法の特徴構成は、
生分解性樹脂を含む廃棄物と水蒸気とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解工程と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で30℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵工程、とを含み、
前記メタン発酵工程において、前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液を添加する点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの特徴構成は、
生分解性樹脂を含む廃棄物と水とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解装置と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で20℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵装置とを含み、
前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液が添加される点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの特徴構成は、
生分解性樹脂を含む廃棄物と水蒸気とを混合し、密閉された分解槽内で120℃以上の温度にて加水分解して前記生分解性樹脂の分解物を含む分解液を得る分解装置と、
難分解性固形分を含む有機廃棄物と前記分解液とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽内で20℃以上60℃以下の温度にて処理するメタン発酵装置とを含み、
前記メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように前記有機廃棄物に前記分解液が添加される点にある。
【0010】
下水汚泥などの難分解性固形分を含む有機廃棄物のメタン発酵では、難分解性固形分を可溶化してアミノ酸、糖類及び長鎖脂肪酸等の有機物とし、これらの有機物を嫌気性細菌の働きにより有機酸又はアルコール類等の有機化合物に分解して、これらの有機化合物を基にメタンが生成される。
ここで、難分解性固形分の可溶化は、進行速度が遅いため、難分解性固形分を含む有機廃棄物はメタン発酵が進み難い。このため、難分解性固形分を含む有機廃棄物のみを発酵槽にてメタン発酵する場合、発酵槽に対する容積負荷を高くすることができず、容積負荷が低い状態となっており、発酵槽を有効に利用できていない。
しかしながら、本特徴構成によれば、生分解性樹脂と水又は水蒸気とを含む混合物を加水分解して、生分解性樹脂の分解物を含む分解液を生成できる。この分解液は、難分解性固形分を含む有機廃棄物よりもメタン発酵が進行し易い。そのため、難分解性固形分を含む有機廃棄物のメタン発酵を行っているメタン発酵槽に分解液を供給することで、メタン菌が存在する発酵槽内において、難分解性固形分を含む有機廃棄物のメタン発酵(難分解性固形分の可溶化段階及び有機物の酸発酵段階を経て行われるメタンの生成)と、分解液中の生分解性樹脂の分解物のメタン発酵(分解物が有機物である場合には、酸発酵段階を経て行われるメタンの生成、分解物が有機酸である場合には、当該有機酸を基にしたメタンの生成)とを両立できる。そのため、有機廃棄物のみをメタン発酵する場合に比べて、有機廃棄物及び分解液中の分解物から効率よくメタンを製造することができる。
さらに、本特徴構成によれば、生分解性樹脂と水又は水蒸気以外に添加剤を加える必要がないため、添加剤によりメタン発酵が阻害されることなく高効率でメタンを生成することができる。
また、本特徴構成によれば、分解液の有機負荷が上記範囲とされることで、発酵槽内でpHが低下することを防ぎ、メタン発酵に悪影響を与えないため好適である。
【0011】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の更なる特徴構成は、前記分解工程において、前記生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水又は水蒸気を混合する点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの更なる特徴構成は、前記分解槽に前記生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水又は水蒸気を混合する点にある。
【0012】
メタン菌が存在するメタン発酵槽内に水分を多く含む有機廃棄物又は分解液を添加すると、メタン発酵槽内のメタン菌の割合が低下し、メタン発酵が進行し難くなり、メタン発酵槽内で生成される消化汚泥の量が低減する虞がある。その場合、メタン発酵槽内に有機廃棄物又は分解液を投入する前後において、水分を低下させる操作を行う必要があり、処理工程が煩雑となる。
本特徴構成によれば、分解工程において生分解性樹脂に対して適切な量の水を混合した分解液をメタン発酵工程で用いることで、分解液の濃縮を行わなくとも、メタン発酵を効率的に進行させることができる。
【0013】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の更なる特徴構成は、前記分解槽は、少なくとも前記分解液と接する部分の材質がオーステナイト系ステンレス鋼で構成される点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの更なる特徴構成は、前記分解槽は、少なくとも前記分解液と接する部分の材質がオーステナイト系ステンレス鋼で構成される点にある。
【0014】
本特徴構成によれば、耐酸性のあるオーステナイト系ステンレス鋼を分解槽中の分解液と接する部分の材質として用いることで、分解工程で生じる生分解性樹脂由来の酸が分解槽のオーステナイト系ステンレス鋼を腐食することを抑制できる。その結果、分解槽由来の不純物が発酵槽に混入することを抑制できる。
【0015】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の更なる特徴構成は、前記分解工程における加水分解の温度が120℃以上170℃以下である点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの更なる特徴構成は、前記分解槽における加水分解の温度が120℃以上170℃以下である点にある。
【0016】
本特徴構成によれば、分解工程で生じる生分解性樹脂由来の酸が分解槽のオーステナイト系ステンレス鋼を腐食することをより一層抑制できる。その結果、不純物が発酵槽に混入することを抑制できる。
【0017】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の更なる特徴構成は、前記生分解性樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートのうち少なくとも1つを含む点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの更なる特徴構成は、前記生分解性樹脂が、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートのうち少なくとも1つを含む点にある。
【0018】
本特徴構成によれば、上記の生分解性樹脂を用いることにより、分解物が酸を含むため酸発酵が不要となり、分解物を用いたメタン発酵を効率的に進行させることができる。
【0019】
本発明の生分解性樹脂の処理方法の更なる特徴構成は、前記分解工程で混合される前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.1質量部以上のポリ乳酸を含む点にある。
本発明の生分解性樹脂の処理システムの更なる特徴構成は、前記分解槽で混合される前記生分解性樹脂は、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.1質量部以上のポリ乳酸を含む点にある。
【0020】
本特徴構成によれば、分解工程において分解槽には、生分解性樹脂がポリ乳酸以外の生分解性樹脂に加えて所定量のポリ乳酸を含むことで、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂の加水分解を速く進行させることができ、その結果、廃棄物の分解をより速く進行させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態に係る生分解性樹脂の処理方法の概略図である。
図2】本実施形態に係る生分解性樹脂の処理方法のブロックフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、生分解性樹脂の処理方法に関する。本発明は、生分解性樹脂1を含む廃棄物と水2とを混合し、分解槽11内で198kPa以上の圧力の下120℃以上の温度で加水分解して生分解性樹脂の分解物を含む分解液3を得る分解工程S101と、難分解性固形分を含む有機廃棄物4と前記分解液3とを、メタン生成菌が存在するメタン発酵槽21内で所定温度にて処理するメタン発酵工程S102、とを含む。
<生分解性樹脂>
生分解性樹脂1は、生分解性を有する樹脂であればよく、例えば化学合成系樹脂、微生物系樹脂、天然物利用系樹脂などが挙げられる。具体的には、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース類、澱粉類などが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、例えばポリ乳酸(PLA)樹脂誘導体、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂誘導体、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリテトラメチレンアジペート、ジオールとジカルボン酸の縮合物などが挙げられる。ポリヒドロキシアルカノエートとしては、例えば、ポリヒドロキシプロピオン酸、ポリヒドロキシ吉草酸、ポリ-4-ヒドロキシブタン酸、PHBH(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート))、PHBV(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシ吉草酸))、3HB4HB(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート))、PHBP(ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオン酸))などが挙げられる。セルロース類としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロースなどが挙げられる。これらは単独での使用、共重合体での使用、2種以上を組み合わせての使用でもよい。共重合体を形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、L-乳酸、D-乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0023】
本実施形態では、生分解性樹脂1としてポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートを用いている。このように構成することで、これらの分解物が酸を含むため酸発酵が不要となり、分解物を用いたメタン発酵を効率的に進行させることができる。
【0024】
また、生分解性樹脂1は、上記生分解性を有する樹脂と、汎用化学樹脂、添加剤との混合体であってもよい。ここで添加剤としては可塑剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、フィラー、無機充填剤、離型剤、耐電防止剤、香料、滑剤、発泡剤、抗菌・抗カビ剤、核形成剤などが挙げられる。
【0025】
生分解性樹脂1は、好ましくは分解促進剤を含有し、好ましくは生分解性樹脂100重量部に対して分解促進剤を0.10~20重量部、例えば1.0~20重量部含有する。
分解促進剤の使用量が少なすぎると、生分解樹脂の分解を促進させることが困難となる恐れがあり、また、必要以上に多量に使用すると、この樹脂組成物の調整段階或いは成形体として使用に供している段階で生分解性樹脂の分解が始まってしまう恐れがあるからである。
【0026】
ここで、生分解性樹脂1の成形体とは、公知の成形法で成形される成形体であればよい。公知の成形法とは射出成形法、押出成形法、シート成形法、真空成形、圧空成形、圧縮成形、キャスト成形などである。得られる成形体の層構成は単層構造に限らず多層構造であってもよく、多層を構成する層は、二種以上の樹脂のブレンド体でもよく、添加剤との混合体であってもよい。多層成形体は樹脂数に応じた数の押出機や射出機を用いて共押出成形や共射出成形で成形しても良いし、単層成形体又は多層成形体に接着剤、熱圧着や押出コーティング等によってフィルム等を後工程で貼り合わせてもよい。
【0027】
分解促進剤は、好ましくは加水分解により酸を放出し、放出される酸としては、特に0.0050g/ml濃度の水溶液乃至水分散液でのpH(25℃)が4.0以下、特に3.0以下を示すものであり、水と混合したときに容易に加水分解して酸を放出するポリマーが好適に使用される。具体例としては、シュウ酸、マレイン酸、無水マレイン酸、グリコール酸等が挙げられるが、上記のうちシュウ酸およびグリコール酸が好ましい。このような分解促進剤としては、ポリオキサレート、ポリエチレンマレエート、ポリグリコール酸などが挙げられる。好ましい分解促進剤はポリエチレンオキサレート、ポリグリコール酸である。これらはコポリマー、単独での使用、2種以上を組み合わせての使用でもよい。コポリマーを形成する成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、オクタンジオール、ドデカンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ビスフェノールA、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、デカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、アントラセンジカルボン酸などのジカルボン酸;グリコール酸、L-乳酸、D-乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、マンデル酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;グリコリド、カプロラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、ポロピオラクトン、ウンデカラクトンなどのラクトン類などが挙げられる。
【0028】
また、上述した分解促進剤は、そのガラス転移点(Tg)が生分解性樹脂の分解に用いる酵素の失活温度よりも低いものが好適である。このような低ガラス転移点のものを使用することにより、生分解性樹脂の酵素による分解をより迅速に促進させることが可能となる。ガラス転移温度は、例えば、セイコーインスツルメント株式会社製DSC6220(示差走査熱量測定)を用いて測定することができる。
【0029】
尚、生分解性樹脂1に含まれる上記生分解性を有する樹脂以外の物質は、メタン発酵に悪影響を及ぼさない限り特に限定されたものではない。
<水>
配合物に含まれる水2としては、水道水、イオン交換水、井水、蒸留水、超純水等を利用することができる。水2には、生分解性樹脂の分解反応及びメタン発酵反応を妨げなければ、不純物を含んでいてもよい。また、水2は、液体であっても、水蒸気であってもよい。
<分解工程>
本発明の生分解性樹脂の処理方法は、上記の生分解性樹脂1と水2とを含む混合物を、密閉された分解槽11内で所定温度にて加水分解して生分解性樹脂1の分解物を含む分解液3を得る分解工程S101を含む。
【0030】
なお、分解工程S101は、上記の生分解性樹脂1と水2を用いて、密閉された分解槽11内で所定温度にて加水分解する際、水2を水蒸気として供給して分解槽11内で生分解性樹脂1と混合し加水分解してもよいし、分解槽11内に水を存在させて加熱することにより水蒸気とした上で生分解性樹脂1と混合し加水分解してもよい。
【0031】
生分解性樹脂1の分解物とは、ポリマーである生分解性樹脂の基となったオリゴマーおよび/またはモノマー、及び、分解促進剤、汎用化学樹脂、添加剤等が分解された分子等を含むものである。
【0032】
上記の生分解性樹脂1に、ポリ乳酸と比較して加水分解に時間がかかる樹脂が含まれる場合、当該樹脂に加えてポリ乳酸を含ませることで、加水分解にかかる時間を短縮することができる。
すなわち、この場合、生分解性樹脂1は、ポリ乳酸と、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂とを含むことになる。例えば、生分解性樹脂1が、ポリ乳酸とポリブチレンサクシネートとを含む場合、ポリ乳酸とポリヒドロキシ酢酸とを含む場合などである。また、生分解性樹脂1は、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.1質量部以上のポリ乳酸を含むことが好ましく、ポリ乳酸の含有量が0.1質量部よりも少ないと、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂の加水分解の速度が相対的に遅くなる。また、ポリ乳酸以外の生分解性樹脂1.0質量部に対するポリ乳酸の含有量の上限は特に制限はないが、好ましくは、2.0質量部以下のポリ乳酸を含むことがよく、より好ましくは、1.5質量部以下のポリ乳酸を含むことがよく、さらに好ましくは、1.0質量部以下のポリ乳酸を含むことがよい。
【0033】
図1に示すように、分解装置10は分解槽11を備える。分解槽11は、生分解性樹脂1が投入される投入部(図示せず)と、水2が流入する流入部(図示せず)と、分解槽11内の温度を調節する温度調節部(図示せず)と、分解槽11内の圧力を調節する圧力調整部(図示せず)とを備える。分解槽11内の圧力は、生分解性樹脂1の加水分解反応が進行する限り特に制限はないが、800kPa以下であることが好ましい。
【0034】
分解槽11内では、生分解性樹脂1がポリ乳酸(PLA)及びその誘導体である場合には、加水分解により乳酸、分解促進剤等を含む分解液3が生成する。生分解性樹脂1がポリブチレンサクシネート(PBS)及びその誘導体である場合には、コハク酸及び1,4-ブタンジオール、分解促進剤等を含む分解液3が生成する。生分解性樹脂1がポリヒドロキシブチレート(PHB)及びその誘導体である場合には、3-ヒドロキシ酪酸、分解促進剤等を含む分解液3が生成する。
【0035】
分解槽11の材質は、生分解性樹脂1の加水分解が進行することができれば特に制限はないが、PTFE、耐酸性の高いオーステナイト系ステンレス鋼等の耐酸性に優れたものを用いることが好ましい。このようなオーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS316、SUS316L等が挙げられる。
特に、分解槽11の材質としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いる場合は、モリブデンを1.0%以上4.0%以下含むオーステナイト系ステンレス鋼は耐酸性が特に高いため、より好ましい。このようなオーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS316、SUS316L等が挙げられる。
また、分解槽11の材質としてオーステナイト系ステンレス鋼を用いる場合は、ニッケルを8.0%以上含むことが好ましい。このように構成することで、分解槽11の耐腐食性を向上させることができる。
尚、分解槽11を選択する上で分解槽11全体がPTFE、モリブデンを1.0%以上含むオーステナイト系ステンレス鋼等で構成されている必要はなく、分解槽11において、少なくとも分解液と接する部分の材質が、PTFE又はモリブデンを1.0%以上4.0%以下含むオーステナイト系ステンレス鋼等で構成されていればよい。
【0036】
生分解性樹脂1には、ポリ乳酸等の、加水分解されることにより酸を生じるものも含まれる。また、生分解性樹脂1に含まれる分解促進剤には酸が含まれる場合もあり、分解工程S101において分解促進剤由来の酸が分解液に流出することもあり得る。上記の構成とすることで、分解槽11内で生分解性樹脂1が分解する際に分解槽11の材質が腐食されにくい。その結果、分解液に不純物が混入することを抑制でき、メタン発酵に悪影響を与えにくくすることができる。
【0037】
生分解性樹脂1と水2とを混合する際、生分解性樹脂1と水2との比率は、生分解性樹脂1の分解反応が進行する限り特に制限はないが、生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水を含むことが好ましく、1.0質量部以上15質量部以下であることが更に好ましい。生分解性樹脂1.0質量部に対して、水が0.30質量部未満であると、生分解性樹脂1の分解反応が十分に進行しない虞がある。生分解性樹脂1.0質量部に対して、水が20質量部より多く含まれると、生分解性樹脂1の割合が少なくなり、後述するメタン発酵工程においてメタン発酵する生分解性樹脂の量が少なくなり、その結果、得られるメタンの量も少なくなる虞がある。
【0038】
分解工程S101における加水分解反応の温度は、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、加水分解反応の温度の上限は170℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。温度が110℃未満であると、生分解性樹脂1の加水分解反応が進行しない虞がある。温度が160℃を超えると、ステンレスが腐食されやすくなる虞がある。
【0039】
また、分解槽11の材質としてモリブデンを1.0%以上4.0%含むオーステナイト系ステンレス鋼を用いる場合には、分解工程S101における加水分解反応の温度が120℃以上150℃以下であることが好ましい。このような構成とすることで、オーステナイト系ステンレス鋼の腐食速度を、化学工業便覧(第2版)に記載の耐食性あり(0.050~1.0mm/年)又は完全耐食(0.050mm/年以下)とすることができ、分解液に不純物が混ざることを抑制できる。
【0040】
さらに、モリブデンを1.0%以上4.0%含むオーステナイト系ステンレス鋼を用いる場合には、分解工程S101における加水分解反応の温度が120℃以上150℃以下であると、オーステナイトステンレス鋼の腐食速度を、完全耐食(0.050mm/年以下)とすることができ、分解液に不純物が混ざることを更に抑制できるため、より好ましい。
【0041】
また、生分解性樹脂1が分解促進剤を含有する場合には、さらに分解促進剤の作用を発揮する温度条件を考慮して温度を設定することができる。その場合は、例えば(分解促進剤のガラス転移温度-5.0℃)<分解温度<酵素活性を示す温度の上限、を基準とすることができる。例えば、分解促進剤としてポリエチレンオキサレートを使用した場合には例えば37℃の温度条件下で分解を促進することが可能であり、分解促進剤としてポリグリコール酸を使用した場合には例えば45℃とすることにより分解を促進することができる。また、分解液中で生分解性樹脂(2.0cm×2.0cm、厚み100μm)を分解する時間は、好ましくは1日~10日である。より好ましくは、1日~7日である。さらに好ましくは、4日以内である。また、分解液の撹拌条件は特に限りはなく、分解液が均一に撹拌されればよい。
【0042】
上記の工程によって、生分解性樹脂1の分解率が高く、且つ、生分解性樹脂1の分解時における凝集沈殿物の生成を抑制し、効率よくオリゴマーおよび/またはモノマーを生成することができると考えられる。また得られたオリゴマーはモノマーへの分解が可能である。なお、ここでいうオリゴマーとは、モノマーが結合した重合体であって、例えば、ダイマー(二量体)、トライマー(三量体)、テトラマー(四量体)等をいう。また、オリゴマーおよび/またはモノマーは直鎖または側鎖を有するものであってもよい。また、それらオリゴマーおよび/またはモノマーが中和剤や、緩衝液、培地成分、栄養成分などの添加物と反応し、それらとオリゴマーおよび/またはモノマーとの反応物の形態を取っていてもよい。
【0043】
生分解性樹脂1は、生分解性樹脂の成形体であってもよい。この場合、生分解性樹脂1に含まれる汎用化学樹脂、添加剤、分解促進剤、生分解性樹脂1の成形時にブレンドされる樹脂、接着剤、フィルム等を含んでもよい。また、生分解性樹脂1の成形体が生分解性樹脂1を主成分とする皿やコップ等の容器、ストロー、袋、包装等である場合には、これらの表面に飲食物等の有機廃棄物や水分が付着した廃棄物であってもよい。
【0044】
分解液3中には生分解性樹脂1以外の物質が混入していてもよく、当該物質をメタン発酵槽21に投入する前に除去したり、メタン発酵槽21内で除去しながらメタン発酵を進行させたり、発酵工程後の処理液から除去したりすることもできる。
<メタン発酵工程>
本発明の生分解性樹脂の処理方法は、更に難分解性固形分を含む有機廃棄物4と分解工程S101で得られた分解液3とを、メタン菌が存在するメタン発酵槽21内で所定温度にて処理するメタン発酵工程S102を含む。
【0045】
図1に示すように、メタン発酵装置20は、メタン発酵槽21を含む。メタン発酵槽21は、前記分解工程S101で得られた分解液3をメタン発酵槽21に添加する添加部(図示せず)と、難分解性固形分を含有する有機廃棄物4をメタン発酵槽21に供給する有機廃棄物供給部(図示せず)と、メタン発酵槽21内の温度の調節及び保温が可能な温度調節部(図示せず)とを備える。また、メタン発酵槽21は、メタン発酵槽21内の圧力を調節する圧力調節部(図示せず)や、メタン発酵槽21内にメタン菌を供給するメタン菌供給部(図示せず)や、メタン発酵槽21内の分解液3及び有機廃棄物4を混合し撹拌する撹拌部(図示せず)を備えていてもよい。
【0046】
難分解性固形分を含有する有機廃棄物4とは、一又は複数種類の固形状の有機物を含有する廃棄物を意味する。本実施形態において、有機廃棄物は下水汚泥である。
【0047】
分解工程S101で得られた分解液3を、メタン発酵工程S102に供する方法としては、メタン菌供給部を介して分解液3にメタン菌(培養した場合においては培養液を含む)を直接添加する様式でもよいし、メタン菌を先にメタン発酵槽などで培養しておき、添加部を介して分解液3の一部を添加する様式でもよい。また、回分式以外にも、分解液3やメタン菌の培養液を必要に適宜添加する流加式や、連続的に供給する連続式としてもよい。
【0048】
分解液3はメタン発酵槽21内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように、メタン発酵槽21内の有機廃棄物4に添加することが好ましい。この範囲内の分解液をメタン発酵槽21に添加することで、メタン発酵槽21内におけるpHを適切に保つことができる。その結果、メタン化反応を高効率で進行させることができる。
【0049】
CODCrとは、水中の有機物量を示す指標の1つで、重クロム酸カリウムが、対象の被酸化性物質を酸化する際の酸素量のことである。本実施形態では、有機負荷は、生分解性樹脂1の分解物のうち、ポリマーである生分解性樹脂の基となったオリゴマーおよび/またはモノマーに実質的に対応し、より正確には以下の式(1)で算出される。
【0050】
有機負荷 = 分解液投入量(mL/L/日)×乳酸濃度(%)×1.06(gCODCr/g乳酸) ・・・式(1)
尚、分解液の比重は1.0とした。
【0051】
メタン発酵装置20は、メタン発酵槽21を備えており、当該メタン発酵槽21内では、有機廃棄物4(本実施形態では下水汚泥)及び生分解性樹脂1の分解物がメタン発酵されてメタンが生成される。具体的に、メタン発酵の対象が下水汚泥である場合、難分解性固形分の可溶化によって得られる有機物が酸発酵され、これにより得られる有機酸を基にメタンが生成される。一方、メタン発酵の対象が乳酸、コハク酸又は3-ヒドロキシ酪酸である場合、当該乳酸、コハク酸又は3-ヒドロキシ酪酸を基にメタンが生成される。即ち、メタン発酵装置20によれば、下水汚泥のメタン発酵と乳酸、コハク酸又は3-ヒドロキシ酪酸のメタン発酵とを並行して行うことができる。
【0052】
ここで、下水汚泥には難分解性固形分が含まれているため、当該下水汚泥のメタン発酵によってメタンを得るためには、難分解性固形分の可溶化という進行速度の遅い段階を経る必要がある。そのため、メタン発酵槽21において下水汚泥のみのメタン発酵を行う場合、メタン発酵槽21に対する容積負荷が低い状態となっている。一方、分解装置10での加水分解によって得られる分解液3のメタン発酵では、分解液3が有機物である場合及び有機酸である場合のいずれ場合であっても、難分解性固形分の可溶化という段階が不要である。そこで、本実施形態のメタン発酵装置20では、メタン発酵槽21に対する容積負荷が低い状態で下水汚泥のメタン発酵を行っているメタン発酵槽21に、分解液3を供給することで、上記のように下水汚泥のメタン発酵と生分解性樹脂1の分解物のメタン発酵とを両立するように構成している。
【0053】
このようにすることで、下水汚泥のみをメタン発酵する場合にメタン発酵槽21に対する容積負荷が低い状態となるメタン発酵装置20を有効利用して、下水汚泥及びモノマーから効率よくメタンを製造することができる。また、分解物が有機酸である場合、下水汚泥のみのメタン発酵と比較して、可溶化だけでなく酸発酵も不要であり、更に効率よくメタンを生成することができる。
【0054】
本実施形態では、分解液をメタン発酵槽21の下水汚泥(有機廃棄物4)に添加する際、メタン発酵槽21内の容積負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下である状態でメタン発酵を行うように構成されている。
【0055】
分解液3をメタン発酵させるメタン発酵工程S102において、メタン発酵を行う方法は特に限定はされず、湿式でも乾式でもよい。当業者が通常の知識を用いて条件等を適宜設定することができる。
【0056】
メタン菌とは嫌気条件下でメタンを合成する古細菌であり、当該技術分野においてメタン発酵に使用されるものであれば特に限定はされず、例えば(通性嫌気性菌として、クロストリジウム属(Clostridium)、バチルス属(Bacillus)、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)などの炭化水素分解菌、プレクリジウム スプマルム(Plecridium spumarum)、カズセウス セロセヒドロゲニカス(Caduceus cellosaehydrogenicus)、のような繊維分解菌、クロストリジウム属(Clostridium)、プロテウス属(Proteus)、バクテリウム属(Bacterium)、バチルス属(Bacillus)、などのタンパク質分解菌、クロストリジウム クルベリ(Clostridium kluyveri)、などの脂肪分解菌が挙げられる。また、絶対嫌気性細菌としては、メタノコッカス属(Methanococcus)、メタノバクテリウム属(Methanobacterium)、メタノサルシナ属(Methanosarcina)などが挙げられる。これらのメタン発酵菌は一種類以上を用いることができ、メタン発酵を続けることによって、その環境に応じてこれらの一種または複数のメタン発酵菌が作用することで反応が進行する。
【0057】
また、上記のメタン発酵工程S102においては、有機廃棄物4中に食品加工残渣や食品廃棄物など、併せてメタン発酵を行うための他の有機系物質や、メタン菌の増殖や活性を助けるための栄養源などが発酵液中に含まれていてもよい。上記有機系物質のメタン発酵効率を上げるためメタン発酵前に酸分解処理、アルカリ分解処理、熱分解処理、水蒸気分解処理、酵素分解処理、メタン菌以外の微生物による分解処理等の前処理を行ってもよく、これら前処理は複数を組み合わせて行ってもよい。
【0058】
メタン発酵は、撹拌部により必要により適宜攪拌を行いながら行うことができる。また、メタン発酵の温度は特に限定はされず、発酵に適した温度を当業者が適宜設定することができるが、例えば20~80℃、好ましくは35~50℃、例えば37℃とすることができる。その際、恒温槽を使用して適切な温度に保って発酵を行うことが好ましい。
【0059】
また、酸分解処理(酸発酵)、メタン発酵を行う処理時間は、分解した生分解性樹脂の量や、分解液の量や、使用するメタン菌の種類及び発酵温度に応じて、必要な時間を当業者が適宜設定することができるが、例えば1~30日、好ましくは1~20日、さらに好ましくは1~10日程度とすることができる。
【0060】
メタン発酵を行う際には、それと同時に水素発酵、エタノール発酵、乳酸発酵、アセトン・ブタノール発酵等有機物の生分解法を併用して用いることができる。例えば水素発酵を併用して用いる場合、水素・メタン二段発酵の形態を取ることが可能であり、水素発酵により発生した酢酸、酪酸、プロピオン酸、乳酸などの有機酸をメタン発酵に供することにより効率よく水素およびメタンの回収を行うことができる。
【0061】
生成したメタンガスは様々な夾雑物が存在している場合が多く、必要に応じてメタンガスを精製することもできる。ガス精製法としては脱硫、脱窒処理などが挙げられ、これらの処理はガス精製槽などを用いることによりを施すことが可能であり、それによって純度の高いメタンガスを得ることができる。
【0062】
<生分解性樹脂の処理システム>
本発明の生分解性樹脂の処理システムAは、前述した分解装置10とメタン発酵装置20を含む。分解装置10は分解槽11を有し、分解槽11では生分解性樹脂1を含む廃棄物と水2とが加えられて混合される。分解槽11は密閉され、分解温度を120℃以上として内容物を加水分解することで、生分解性樹脂1の分解物を含む分解液3が得られる。
【0063】
メタン発酵装置20はメタン発酵槽21を有し、メタン菌が存在するメタン発酵槽21内で難分解性固形分を含む有機廃棄物4と分解液3とを、30℃以上60℃以下の温度にて処理する。このとき、メタン発酵槽21内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日以上5.0gCODCr/L/日以下となるように、有機廃棄物4に分解液3が添加される。
【0064】
本発明の生分解性樹脂の処理システムAにおいては、分解槽11に生分解性樹脂1.0質量部に対して、0.30質量部以上20質量部以下の水2を混合することが好ましい。
【0065】
このように構成することで、生分解性樹脂に対して適切な量の水を混合した分解液を用いてメタン発酵させることができるため、分解液の濃縮を行わなくとも、メタン発酵を効率的に進行させることができる。
【0066】
分解装置10において、加水分解の温度は120℃以上170℃以下とすることが好ましい。このように構成することで、生分解性樹脂由来の酸が分解槽のオーステナイト系ステンレス鋼を腐食することをより一層抑制できる。その結果、不純物が発酵槽に混入することを抑制できる。
【0067】
回収されたメタンガスは発電、燃料化、高分子合成を行うことで再利用可能である。また、水素発酵、エタノール発酵、乳酸発酵、アセトン・ブタノール発酵などを併用した際にはそれぞれの発酵生成物を同時に獲得することが可能であり、これらについても同様に再利用可能である。得られたメタンガスは通常の方法により回収し、目的に応じた再利用法を取ることができるが、例えば発電に用いる場合はガスホルダーに貯めておいてもよく、直接燃料電池やガス発電機に投入してもよい。また、発酵工程で発生した残渣および排水を肥・飼料化することで、それらについても再利用が可能である。
【0068】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
《ポリ乳酸の加水分解処理》
(試験例1)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)にポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)1.0g、水19gを入れ、密閉状態となるように蓋を閉めた。その後、120℃で48時間、加水分解処理を行った。得られた乳酸水溶液の濃度は、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定した。
【0070】
(試験例2)
加水分解の温度を130℃とした他は、試験例1と同じ条件で試験及び測定を行った。
【0071】
(試験例3)
加水分解の温度を100℃とした他は、試験例1と同じ条件で試験及び測定を行った。
【0072】
(試験例4)
加水分解の温度を110℃とした他は、試験例1と同じ条件で試験及び測定を行った。
【0073】
試験例1-4の結果を表1に示す。試験例1及び2においては、分解液の乳酸濃度が6.3%となった一方で、試験例3及び4においては、分解液の乳酸濃度は0.0%であった。これらの結果から、試験例1及び2においてはポリ乳酸の加水分解が進行するものの、試験例3及び4においてはポリ乳酸の加水分解が進行しないことが分かる。そのため、ポリ乳酸を加水分解するためには、温度を120℃以上とする必要がある。
【0074】
【表1】
【0075】
《分解液の有機負荷とメタン生成量の関係》
(実施例1)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)にポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)4.0g、水16gを入れた配合物を得た。その後、密閉状態となるように蓋を閉め、140℃で48時間加水分解処理を行い、乳酸濃度24.1%の分解液を得た。
【0076】
次に、容量3.0Lのジャーファーメンター(株式会社三ツワフロンテック製、NBC-3000)に、一般的な下水処理場で採取した高温の嫌気性消化汚泥2.0Lを投入し、窒素の流量を1.0L/minとしてヘッドスペースを5分間パージしたのちに蓋を閉め、55℃に加温し、ラボスケールのメタン発酵槽を構築した。
【0077】
メタン発酵槽における滞留時間が20日間となるように、同下水処理場の濃縮汚泥を100mL/日の条件で投入するとともに、余剰汚泥の引き抜きを100mL/日で実施した。この条件でメタン発酵槽を1カ月間運転し、メタン発生量が0.90L/L/日となって安定したことを確認した後に、濃縮汚泥を100mL/日となるように投入するとともに、乳酸濃度24.1%の分解液を、有機負荷が4.3gCODCr/L/日となるように添加した。また、余剰汚泥の引き抜きは、消化槽内の消化汚泥体積が2.0Lを維持するように調節した。このメタン発酵槽を1カ月間運転を継続し、最後の5日間のメタン発生量と、メタン発酵槽内の消化汚泥のpHの平均値を測定した。pH測定器は、コンパクトpHメータ(株式会社堀場製作所製、LAQUAtwin pH-11B)を用いた。その結果を表2に示す。
【0078】
(実施例2)
有機負荷が2.0gCODCr/L/日となるように乳酸濃度24.1%の分解液を添加した他は、実施例1と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表2に示す。
【0079】
(実施例3)
有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように乳酸濃度24.1%の分解液を添加した他は、実施例1と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表2に示す。
【0080】
(実施例4)
有機負荷が0.30gCODCr/L/日となるように乳酸濃度24.1%の分解液を添加した他は、実施例1と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表2に示す。
【0081】
(比較例1)
有機負荷が5.1gCODCr/L/日となるように乳酸濃度24.1%の分解液を添加した他は、実施例1と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表2に示す。
【0082】
(参考例1)
参考例として、有機負荷が0.0gCODCr/L/日となるようにした、すなわち分解液を加えず消化汚泥のみを用いた他は、実施例1と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表2に示す。
【0083】
【表2】
上記の結果から、有機負荷が5.0gCODCr/L/日を超えると、メタン発生量が低下し、分解液を投入する前のメタン発生量を下回った。これは、pHが低下することで、消化汚泥内の菌の有機物分解活性が低下したためである、と考えられる。
【0084】
また、メタン発生量を下水汚泥のみを投入した参考例1のメタン発生量の1.5倍以上とするためには、分解液を有機物負荷0.60gCODCr/L/日以上で投入すればよいことが分かる。
【0085】
《分解液及び水の割合と消化汚泥の蒸発残留物との関係》
(実施例5)
実施例1と同様の方法で、乳酸濃度24.1%の分解液を得た。
【0086】
次に、容量3.0Lのジャーファーメンター(株式会社三ツワフロンテック製、NBC-3000)に、一般的な下水処理場で採取した高温の嫌気性消化汚泥2.0L投入し、ジャーファーメンター内のヘッドスペースを流量1.0L/minの窒素で5分間窒素パージしたのちに蓋を閉め、55℃に加温し、ラボスケールのメタン発酵槽を構築した。
【0087】
メタン発酵槽における滞留時間が20日間となるように、同下水処理場の濃縮汚泥を100mL/日となるように投入するとともに、余剰汚泥の引き抜きを100mL/日で実施した。この条件でメタン発酵槽を1カ月間運転し、メタン発酵槽中の消化汚泥の蒸発残留物割合が4.0%で安定しており、メタン発生量が安定して0.90L/L/日であることを確認した後に、濃縮汚泥を100mL/日となるように投入するとともに、乳酸濃度24.1%の分解液を、有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加した。また、余剰汚泥の引き抜きは、消化槽内の消化汚泥体積が2.0Lを維持するように調節した。このメタン発酵槽を1カ月間運転を継続し、消化汚泥の蒸発残留物割合を測定した。その結果を、表3に示す。
【0088】
(実施例6)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に加えるポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)を0.50g、水を19.5gとする、即ちポリ乳酸(生分解性樹脂)1.0質量部に対して、水を39質量部混合する条件で加水分解を行い、乳酸濃度が3.1%である分解液を得た。その後は、乳酸濃度3.1%の分解液を、メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように、分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加する他は、実施例5と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を、表3に示す。
【0089】
(実施例7)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に加えるポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)を1.0g、水を19gとする、即ちポリ乳酸(生分解性樹脂)1.0質量部に対して、水を19質量部混合する条件で加水分解を行い、乳酸濃度が5.8%である分解液を得た。その後は、乳酸濃度5.8%の分解液を、メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように、分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加する他は、実施例5と同じ条件で加水分解及びメタン発酵を行った。その結果を、表3に示す。
【0090】
(実施例8)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に加えるポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)を2.0g、水を18gとする、即ちポリ乳酸(生分解性樹脂)1.0質量部に対して、水を9.0質量部混合する条件で加水分解を行い、乳酸濃度が11.9%である分解液を得た。その後は、乳酸濃度11.9%の分解液を、メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように、分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加する他は、実施例5と同じ条件で加水分解及びメタン発酵を行った。その結果を、表3に示す。
【0091】
(実施例9)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に加えるポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)を10g、水を10gとする、即ちポリ乳酸(生分解性樹脂)1.0質量部に対して、水を1.0質量部混合する条件で加水分解を行い、乳酸濃度が60.5%である分解液を得た。その後は、乳酸濃度60.5%の分解液を、メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように、分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加する他は、実施例5と同じ条件で加水分解及びメタン発酵を行った。その結果を、表3に示す。
【0092】
(実施例10)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に加えるポリ乳酸ペレット(三井化学株式会社製、LACEA H-100J)を15g、水を5.0gとする、即ちポリ乳酸(生分解性樹脂)1.0質量部に対して、水を0.30質量部混合する条件で加水分解を行い、乳酸濃度が92.3%である分解液を得た。その後は、乳酸濃度92.3%の分解液を、メタン発酵槽内の有機負荷が0.60gCODCr/L/日となるように、分解液投入量を調節してメタン発酵槽に添加する他は、実施例5と同じ条件で加水分解及びメタン発酵を行った。その結果を、表3に示す。
【0093】
(参考例1)
比較のため参考例として、有機負荷が0.0gCODCr/L/日となるようにした、すなわち分解液を加えず消化汚泥のみを用いた他は、実施例5と同じ条件でメタン発酵を行った。その結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
生分解性樹脂1.0質量部に対して、水の量を0.30質量部以上20質量部以下とすれば、分解液を濃縮することなくメタン発酵槽に添加しても、消化汚泥の濃度低下は生じない、すなわちメタン発酵の進行が妨げられないことが分かる。
【0095】
実施例6においては、消化汚泥の蒸発残留物の割合が3.5%となり、他の実施例に比べて消化汚泥の蒸発残留物の割合に低下が見られた。運転を継続すると、消化汚泥中のメタン菌の量が減少し得るため、長期間の運転には適さないものの、短期間の運転であれば生分解性樹脂と水以外に添加物を加えることなく高効率でメタンを生成できる条件であることが分かる。
【0096】
《腐食速度の測定》
(実施例11)
PTFE試料分解容器(三愛科学株式会社製、HU-25)に、実施例1で得られた乳酸濃度24.1%の分解液20mLを加えた。次に、縦20mm、横15mm、厚さ2.5mmのSUS304の試験片を浸漬し、密閉状態となるように蓋を閉め、120℃で30日間、熱処理を行った。30日経過後、試験片の重量減少量から、腐食速度(mm/年)を算出した。その結果を表4に示す。
【0097】
(実施例12)
試験片の材質をSUS316とした他は、実施例11と同じ条件で腐食速度(mm/年)を算出した。その結果を表4に示す。
【0098】
(実施例13)
試験片の材質をSUS316Lとした他は、実施例11と同じ条件で腐食速度(mm/年)を算出した。その結果を表4に示す。
【0099】
(実施例14)
試験片の材質をSUS316とし、温度を140℃とした他は、実施例11と同じ条件で腐食速度(mm/年)を算出した。その結果を表4に示す。
【0100】
(実施例15)
試験片の材質をSUS316とし、温度を160℃とした他は、実施例11と同じ条件で腐食速度(mm/年)を算出した。その結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
上記の結果から、いずれのステンレス鋼を用いても、化学工学便覧(第2版)に記載の完全耐食(0.050mm/年以下)または耐食性あり(0.050mm/年以上0.10mm/年以下)に分類されるため、これらのステンレス鋼を分解槽の材質として用いたとしても耐食性に問題が無いことが分かる。
【0102】
また、モリブデンを1.0%以上含むオーステナイト系ステンレスであるSUS316やSUS316Lは、SUS304と比べ耐食性が良好であることがわかる。
【0103】
更にSUS316の処理温度が150℃以下であれば、ステンレスの腐食速度が0.050mm/年以下で完全耐食の分類となることが分かる。
【0104】
これらの結果から、分解槽の材質としてSUS304、SUS316及びSUS316Lを用い、120℃以上170℃以下で生分解性樹脂の加水分解を行うと、より分解槽の腐食が少なくなり、分解液に分解槽由来の不純物が混入することを抑制できることが分かる。
【0105】
また、分解槽の材質としてSUS316、SUS316Lを用いた場合、加水分解の温度を120℃以上150℃以下とすれば、ステンレスの腐食速度が0.050mm/年以下で完全耐食の分類となるため、高い温度で加水分解を進行させることができ、メタン発酵の効率の面から好ましい。
【0106】
《生分解性樹脂の種類とメタン生成量の関係》
(実施例16)
実施例2においてポリ乳酸4.0gを、ポリブチレンサクシネートのペレット(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ#1001)4.0gとした他は、実施例2と同じ条件でポリブチレンサクシネートの加水分解及びメタン発酵を行い、最後の5日間のメタン発生量を測定した。その結果を表5に示す。
【0107】
(実施例17)
実施例2においてポリ乳酸4.0gを、ポリヒドロキシ酪酸の粉末(住友ファーマフード&ケミカル株式会社製、バイオソフト915)4.0gとした他は、実施例2と同じ条件でポリヒドロキシ酪酸の加水分解及びメタン発酵を行い、最後の5日間のメタン発生量を測定した。その結果を表5に示す。
【0108】
【表5】
以上の結果から、生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネートやポリヒドロキシ酪酸の分解液をメタン発酵に供する場合であっても、メタン発酵によるメタンの生成が可能であることが分かる。
【0109】
(実施例18)
PTFE試料分解容器(三愛科学社製、HU-25)に、ポリ乳酸ペレット(三井化学社製、LACEA H-100J)2g、ポリヒドロキシ酪酸の粉末(住友ファーマフード&ケミカル株式会社製、バイオソフト915)2g、水10gを入れ、密閉状態となるように蓋を閉め、160℃で5時間または10時間の加水分解処理を行い、目開き106μmの金属メッシュを用いて溶け残った残渣を分離し、40℃で16時間乾燥させた後の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0110】
(実施例19)
ポリ乳酸ペレットの投入量を1g、ポリヒドロキシ酪酸の粉末の投入量を3gとした他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0111】
(実施例20)
ポリ乳酸ペレットの投入量を0.5g、ポリヒドロキシ酪酸の粉末の投入量を3.5gとした他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0112】
(実施例21)
ポリ乳酸ペレットの投入量を0.2g、ポリヒドロキシ酪酸の粉末の投入量を3.8gとした他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0113】
(実施例22)
ポリヒドロキシ酪酸の粉末の投入せずに、ポリブチレンサクシネート2gを投入した他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0114】
(実施例23)
ポリヒドロキシ酪酸の粉末の投入量を1g、ポリブチレンサクシネート1gを投入した他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0115】
(実施例24)
処理温度を140℃とした他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0116】
(実施例25)
ポリヒドロキシ酪酸の粉末は投入せずに、ポリブチレンサクシネート2gを投入し、処理温度を140℃とした他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0117】
(実施例26)
《生分解性樹脂PHBHの合成及びPHBHの分解》
肉エキス5g、ペプトン5g、イーストエキス2g、KHPO0.5g、KHPO1.5g、MgSO・7HO0.1gに水を加えて全量1リットルとする培地(pH7.0)を作成し、この培地にアエロモナス ハイドロフィラOL-338株を加えて、30℃で48時間振盪培養した。培養終了後、培養ブロスを遠心分離して菌体を回収した。
【0118】
次に、β-ヒドロキシカプロン酸25.4g、KHPO1.5g、KHPO1.5g、MgSO・7HO0.25g、Tween85 0.5gに水を加えて全量1リットルとする培地(pH7.0)を作成し、この培地に前記菌体を全量加えて、30℃で24時間振盪培養した。培養終了後、菌体を蒸留水及びメタノールで洗浄し、減圧乾燥して乾燥菌体を得た。乾燥菌体をクロロホルムで50℃、2時間抽出処理した。菌体除去後、クロロホルム抽出液にメタノール10倍量を加えて3-ヒドロキシブレート:3-ヒドロキシヘキサノエート=51:49のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(生分解性樹脂PHBH)を沈澱回収した。
《生分解性樹脂PHBHの分解》
ポリヒドロキシ酪酸の粉末は投入せずに、PHBH2gを投入した他は実施例18と同じ条件で乾燥後残渣の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0119】
《PHBH溶解液の発酵》
得られたPHBHの溶解液のCODcrを測定し、50ml容バイアル瓶(マルエム社製)に高温の嫌気性消化汚泥30mlと、PHBH溶解液を0.05gCODとなるように投与し、気相部を窒素パージした上でふたを閉め、20日間、55℃、50rpmで振とう培養し、発生したバイオガス量を測定した。発生したバイオガス量は34mlであった。これは、PLAの溶解液0.05gCODを投与して、上記と同様に20日間振とう培養して発生したバイオガス量が35mlであり、ほぼ同等のバイオガス発生量となった。
【0120】
(実施例27)
《水蒸気による加水分解》
PTFE試料分解容器(三愛科学社製、HU-25)に水4gを入れたのち、1/8インチのPTFE製ボール8gを入れ、ボールの上にポリ乳酸ペレット(三井化学社製、LACEA H-100J)2g、PBSペレット(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ)2g、を配置し、密閉状態となるように蓋を閉め160℃で5時間または10時間の加水分解処理を行い、目開き106μmの金属メッシュを用いて溶け残った残渣を分離し、40℃で16時間乾燥させた後の重量を測定した。その結果を表6に示す。
【0121】
実施例17
実施例2においてポリ乳酸4.0gを、ポリヒドロキシ酪酸の粉末(住友ファーマフード&ケミカル株式会社製、バイオソフト915)4.0gとした他は、実施例2と同じ条件でポリヒドロキシ酪酸の加水分解を行い、5時間経過後及び10時間経過後に分解度合いを確認した。
【0122】
実施例16
実施例2においてポリ乳酸4.0gを、ポリブチレンサクシネートのペレット(昭和高分子株式会社製、ビオノーレ#1001)4.0gとした他は、実施例2と同じ条件でポリブチレンサクシネートの加水分解を行い、5時間経過後及び10時間経過後に分解度合いを確認した。
【0123】
上記の比較試験より、PLAを加えると加水分解がより速く進むことが確認できた。
【0124】
【表6】
表6の実施例17、16において、10時間分解処理後の分解度合いは樹脂投入量のうち50%以上が分解していないが、48時間分解処理後は全て溶解したことを確認している。
【0125】
表6の5時間処理後の分解度合い及び10時間処理後の分解度合いについて、(残渣の重量)÷投入量4gの値が10%未満である場合は〇、10%以上50%未満である場合は△、50%以上である場合は×を記している。
【0126】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
【0127】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明は、生分解性樹脂の処理方法及び生分解性樹脂の処理システムに利用できる。
【符号の説明】
【0129】
1 生分解性樹脂
2 水
3 分解液
4 有機廃棄物
10 分解装置
11 分解槽
20 メタン発酵装置
21 メタン発酵槽
A 生分解性樹脂の処理システム
S101 分解工程
S102 メタン発酵工程
図1
図2