(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139676
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、電気化学装置、電子装置
(51)【国際特許分類】
C01B 32/00 20170101AFI20241002BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241002BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241002BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241002BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241002BHJP
C01B 33/02 20060101ALI20241002BHJP
C01B 33/029 20060101ALI20241002BHJP
C23C 16/24 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C01B32/00
H01M4/36 A
H01M4/38 Z
H01M4/134
C01B32/05
C01B33/02
C01B33/029
C23C16/24
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023215327
(22)【出願日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】202310320127.0
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】李 若楠
【テーマコード(参考)】
4G072
4G146
4K030
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072GG02
4G072HH04
4G072MM40
4G072RR25
4G072RR30
4G072TT05
4G072TT08
4G072TT09
4G072UU30
4G146AA01
4G146AA15
4G146AB01
4G146AC04A
4G146AC04B
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4G146AD17
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4G146BC16
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA29
4K030CA01
4K030FA10
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB11
5H050FA09
5H050FA17
5H050FA20
5H050GA24
5H050HA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】シリコン系材料の膨張を可能な限り制限し、その長期サイクル安定性と優れた導電性を確保し、最終材料の容量及び初回効率を効果的に改善する、シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、負極シート、電気化学装置及び電子装置を提供する。
【解決手段】シリコン‐炭素複合材料は、非晶質炭素マトリックスと、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料と、を含み、比表面積係数Bが20~1250である。その製造方法は、非晶質炭素マトリックス材料とシリコン源を化学気相成長法により合成してシリコン-炭素複合材料を得ることを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質炭素マトリックスと、前記非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料と、を含み、
下記関係を満たす、シリコン‐炭素複合材料。
B=BA/Ba
Bの値範囲が、20~1250である。
Bは、前記シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数であり、BAは、前記非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、前記シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【請求項2】
下記条件(a)~(c)の少なくとも1つを満足する、請求項1に記載のシリコン‐炭素複合材料。
(a)前記シリコン‐炭素複合材料の前記比表面積係数Bの範囲が、100~900である。
(b)前記非晶質炭素マトリックスの前記比表面積BAの範囲が、500m2/g~2500m2/gである。
(c)前記シリコン‐炭素複合材料の前記比表面積Baの範囲が、2m2/g~25m2/gである。
【請求項3】
下記条件(I)~(II)の少なくとも1つを満足する、請求項1に記載のシリコン‐炭素複合材料。
(I)前記シリコン‐炭素複合材料が、下記関係を満たす。
Pv=Pv1/Pv2
Pvの値範囲が、0.4~120である。
式中、Pvは、前記シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数を表し、Pv1は、前記非晶質炭素マトリックスの細孔容積径を表し、Pv2は、前記シリコン‐炭素複合材料の細孔容積径を表す。
(II)空気雰囲気下で1400℃に加熱した前記シリコン‐炭素複合材料の熱分解による減量の範囲が5%~60%である。
【請求項4】
下記条件(d)~(f)の少なくとも1つを満足する、請求項3に記載のシリコン‐炭素複合材料。
(d)前記シリコン‐炭素複合材料の前記細孔容積係数Pvの範囲が、1~100である。
(e)前記非晶質炭素マトリックスの前記細孔容積径Pv1の範囲が、0.2cm3/g~0.9cm3/gである。
(f)前記シリコン‐炭素複合材料の前記細孔容積径Pv2の範囲が、0.005cm3/g~0.2cm3/gである。
【請求項5】
前記シリコン‐炭素複合材料は、前記非晶質炭素マトリックスの前記表面及び/又は前記内部に付着したナノ金属粒子をさらに含む、請求項1に記載のシリコン‐炭素複合材料。
【請求項6】
非晶質炭素マトリックス材料とシリコン源を化学気相成長法により合成してシリコン-炭素複合材料を得ることを含む、シリコン‐炭素複合材料の製造方法であって、
前記シリコン‐炭素複合材料が、非晶質炭素マトリックスと、前記非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料を含み、
前記シリコン‐炭素複合材料は、下記関係を満たす、シリコン‐炭素複合材料の製造方法。
B=BA/Ba
Bの値範囲が、20~1250である。
Bは、前記シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数であり、BAは、前記非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、前記シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【請求項7】
下記条件(1)~(2)の少なくとも1つを満たす、請求項6に記載のシリコン‐炭素複合材料の製造方法。
(1)前記シリコン源が、モノシラン、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシランから選択される少なくとも1種である。
(2)前記非晶質炭素マトリックス材料が、多孔質非晶質炭素、多孔質非晶質炭素‐金属複合体から選択される少なくとも1種である。
【請求項8】
正極シートと、負極シートと、電解質と、セパレータと、を含み、
前記負極シートが、負極集電体と、前記負極集電体上に配置された負極活物質層と、を含み、前記負極活物質層が、負極活物質を含み、前記負極活物質が、請求項1~5のいずれか1項に記載のシリコン‐炭素複合材料を含む、電気化学装置。
【請求項9】
請求項8に記載の電気化学装置を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の技術分野に関し、特に、シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、電気化学装置、及び電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
さまざまなポータブル電子機器の人気の高まり、電気自動車や再生可能エネルギー貯蔵システムの急速な発展に伴い、今日ではリチウムイオン電池のエネルギー密度、出力密度、サイクル寿命、安全性に対する要件が以前よりも高まっている。現在、一般的なNCM三元系材料(正極)/黒鉛(負極)系リチウムイオン電池のエネルギー密度はその理論的限界に近づいている。負極材料に関して、黒鉛の実際の比容量(最大360mAh/g)は理論上の比容量(372mAh/g)に近い。シリコンは、黒鉛よりもはるかに高い理論比容量(-3600mAh/g)、低い放電プラットフォーム(-0.2Vvs.Li+/Li)、及び豊富な資源のため、広く注目を集めている。しかし、シリコン系負極材料は、リチウムの挿入・脱離過程で体積変化が大きく、材料が粉砕・破損しやすくなり、集電体から剥離しやすくなり、また、界面副反応が継続的に発生するため、サイクル中に材料の比容量が急速に低下するため、シリコン系負極材料の商業化が制限されている。
【0003】
上記の課題を解決するために、ナノスケール、複合材料、中空/多孔質などのシリコン系材料の構造設計が人気の研究テーマとなっている。広く研究されている複合SiOxは、純粋なシリコン材料の膨張をある程度緩衝するが、その初回クーロン効率は約75%にすぎない。プレリチウム化又は黒鉛複合によっても、その初回クーロン効率はわずか約80%~85%にすぎない。これらはいずれも、正極三元層状材料(LiNixCoyMn1-x-yO2)の初回効率88%及び正極リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の初回効率98%よりも低く、負極材料として黒鉛を使用した電池と比較して利点はない。中空/多孔質シリコン材料の表面コーティング層は、しばしば大きな圧力がかかると亀裂や粉砕が発生しやすいと報告されており、材料内部の膨張のために確保されている空間が圧迫されて解放されるものの、材料や電池は充放電中に依然として大きな体積膨張にさらされる。材料と電解質の間の界面副反応は継続するため、材料本来の利点を喪失する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリコン系材料の膨張を構造的に最大限に抑制するシリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、負極シート、電気化学装置及び電子装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来技術の上述の欠点に鑑み、本発明の目的は、シリコン系材料の膨張を構造的に最大限に抑制し、長期サイクル安定性と優れた導電性を確保し、従来技術におけるシリコン系材料の容量と初回効率が低いという課題を解決し、一定の加工性能を確保するための、シリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、負極シート、電気化学装置、電子装置を提供することである。
【0006】
上記及び他の関連する目的を達成するために、本発明の第1の態様は、非晶質炭素マトリックスと、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料とを含むシリコン‐炭素複合材料を提供する。
【0007】
シリコン‐炭素複合材料は下記関係を満たす。
【0008】
B=BA/Ba
【0009】
Bの値範囲は、20~1250である。
【0010】
Bは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数(すなわち、BET係数)であり、BAは、非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【0011】
また、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数の値範囲Bは100~900であり、好ましくは150~500である。
【0012】
また、非晶質炭素マトリックスの比表面積BAの範囲は500m2/g~2500m2/gであり、好ましくは800m2/g~1800m2/gである。
【0013】
また、シリコン‐炭素複合材料の比表面積Baの範囲は2m2/g~25m2/gであり、好ましくは2m2/g~8m2/gである。
【0014】
また、シリコン‐炭素複合材料は、下記関係を満たす。
【0015】
Pv=Pv1/Pv2
【0016】
Pvの値範囲は、0.4~120である。
【0017】
Pvは、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数を表し、Pv1は、非晶質炭素マトリックスの細孔容積径を表し、Pv2は、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積径を表す。
【0018】
また、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数Pvの範囲は1~100であり、好ましくは10~90である。
【0019】
また、非晶質炭素マトリックスの細孔容積径Pv1の値範囲は0.2cm3/g~0.9cm3/gであり、好ましくは0.2cm3/g~0.8cm3/gであり、より好ましくは0.2cm3/g~0.7cm3/gである。
【0020】
また、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積径Pv2の範囲は0.005cm3/g~0.2cm3/gであり、好ましくは0.008cm3/g~0.02cm3/gである。
【0021】
また、空気雰囲気下で1400℃に加熱したシリコン‐炭素複合材料の熱分解による減量は5%~60%であり、好ましくは24%~42%、又は15%~40%である。
【0022】
本発明の第2の態様は、以下のステップを含む、シリコン‐炭素複合材料の製造方法を提供する。非晶質炭素マトリックス材料とシリコン源を化学気相成長法により合成してシリコン-炭素複合材料を得るステップであって、シリコン‐炭素複合材料は、非晶質炭素マトリックスと、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料と、を含む。
【0023】
シリコン‐炭素複合材料は、下記関係を満たす。
【0024】
B=BA/Ba.
【0025】
Bの値範囲は、20~1250である。
【0026】
Bは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数であり、BAは、非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【0027】
また、シリコン源は、モノシラン(SiH4)、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、テトラメチルシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、メチルシリケート、エチルシリケートから選択される少なくとも1種である。
【0028】
また、非晶質炭素マトリックス材料は、多孔質非晶質炭素である。
【0029】
また、非晶質炭素マトリックス材料は、多孔質非晶質炭素‐金属複合体であり、多孔質非晶質炭素‐金属複合体は、多孔質非晶質炭素マトリックスを含み、金属ナノ粒子は、多孔質非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置する。
【0030】
本発明の第3の態様は、負極シートを提供する。負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に配置された負極活物質層と、を含む。負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質は、第1の態様に記載のシリコン‐炭素複合材料及び/又は第2の態様に記載の方法に従って製造されたシリコン‐炭素複合材料を含む。
【0031】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の負極シートを含む電気化学装置を提供する。
【0032】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0033】
以上説明したように、本発明のシリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、負極シート、電気化学装置、並びに電子機器によれば、以下のような効果を奏する。
【0034】
本発明では、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数Bを上記範囲内に制御することにより、長期サイクル安定性を確保し、容量及び初回効率を向上させる。シリコン‐炭素複合材料の比表面積が一定の範囲内にあることを基礎として、比表面積係数が高すぎると、非晶質炭素マトリックスの比表面積が大きくなりすぎ、後続のシリコン材料の導入の均一性が低下し、さらに、その後のシリコン‐炭素複合材料のサイクル安定性が低下する。比表面積係数が低すぎると、非晶質炭素マトリックスの比表面積が小さくなりすぎ、シリコンが導入される活性点が減少し、添加されるシリコンの量の減少につながり、その後完成した材料の容量が低くなり、電池セルの高いエネルギー密度の実現には貢献しない。
【0035】
シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数Pv、シリコン‐炭素複合材料及び非晶質炭素の細孔容積を上記範囲に維持することにより、その後導入されるシリコンの含有量を制御することができ、それによって材料の容量を制御し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能のバランスをとるのに貢献する。
【0036】
シリコン‐炭素複合材料中の各種元素の含有量及び熱分解による減量を上記範囲内に制御することにより、長期サイクル安定性が確保され、容量及び初回効率を向上することができる。熱分解による減量が高すぎ、Cの含有量が高すぎると、材料の高容量及び電池セルの高エネルギー密度を実現することが困難になる。熱分解による減量が少なすぎ、Siの含有量が多すぎると、より良好なサイクル安定性を得ることが困難となる。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、シリコン‐炭素複合材料の構造、比表面積係数B、細孔容積係数Pv、各種元素の含有量、熱分解による減量を制御することにより、シリコン系材料の膨張を最大限に抑制し、長期サイクル安定性と優れた導電性を確保することによって、最終材料の容量と初回効率を効果的に改善し、一定の加工性能維持しつつ、シリコン系負極材料の商業化プロセスを促進する。同時に、本発明のシリコン‐炭素複合材料の製造方法は、単純で操作が容易である。大規模な工業生産に適している。本発明により提供されるシリコン‐炭素複合材料は、負極活物質として使用し、負極活物質層に塗布して負極シートを作製し、その後、正極シート、セパレータ、電解質などと実装して、リチウムイオン電池などの電気化学装置を形成することにより、その電気的性能を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の一実施形態におけるシリコン‐炭素複合材料の概略構造図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、具体例を通じて本発明の実施について説明するが、当業者であれば、本明細書に開示される内容から本発明の他の利点及び効果を容易に理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施形態を通じて実装又は適用されてもよく、本明細書の詳細は、本発明の精神から逸脱することなく、異なる観点及び応用に基づいて修正又は変更されてもよい。
【0040】
本発明の一実施形態は、非晶質炭素マトリックスと、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料と、を含むシリコン‐炭素複合材料を提供する。
【0041】
シリコン‐炭素複合材料は、下記関係を満たす。
【0042】
B=BA/Ba
【0043】
Bの値範囲は、20~1250である。
【0044】
Bは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数であり、BAは、非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【0045】
いくつかの実施形態において、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数Bの値範囲は100~900であり、より好ましくは150~500である。非晶質炭素マトリックスの比表面積BAの値範囲は500m2/g~2500m2/gであり、好ましくは800m2/g~1800m2/gである。シリコン‐炭素複合材料の比表面積Baの値範囲は2m2/g~25m2/gであり、好ましくは2m2/g~8m2/gである。
【0046】
上記実施形態では、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数Bを上記範囲内に制御することにより、長期サイクル安定性を確保し、容量及び初回効率を向上させるのに貢献する。シリコン‐炭素複合材料の比表面積が一定の範囲内にあることを基礎として、比表面積係数が高すぎると、非晶質炭素マトリックスの比表面積が大きくなりすぎ、その後のシリコン材料導入の均一性には役立つが、その後のシリコン-炭素複合材料のサイクル安定性が低下する。比表面積係数が低すぎると、非晶質炭素マトリックスの比表面積が小さくなりすぎ、シリコンが導入される活性点が減少し、添加されるシリコンの量の減少につながり、その後の最終材料の容量は低くなり、電池セルのより高いエネルギー密度の達成には貢献しない。
【0047】
本発明の別の実施形態において、シリコン‐炭素複合材料は下記関係を満たす。
【0048】
Pv=Pv1/Pv2
【0049】
Pvの値範囲は、0.4~120である。
【0050】
Pvは、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数を表し、Pv1は、非晶質炭素マトリックスの細孔容積径を表し、Pv2は、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積径を表す。
【0051】
いくつかの実施形態において、シリコン‐炭素複合材料のPvの値範囲は1~100であり、好ましくは10~90である。非晶質炭素マトリックスの細孔容積径Pv1は0.2cm3/g~0.9cm3/gであり、好ましくは0.2cm3/g~0.8cm3/gであり、より好ましくは0.2cm3/g~0.7cm3/gである。シリコン‐炭素複合材料の細孔容積径Pv2は0.005cm3/g~0.2cm3/gであり、好ましくは0.008cm3/g~0.02cm3/gである。
【0052】
上記の実施形態では、シリコン‐炭素複合材料の細孔容積係数、シリコン‐炭素複合材料と非晶質炭素の細孔容積を上記範囲内に維持することにより、その後のシリコン導入量の制御に役立ち、それによって材料の容量を制御し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能のバランスをとるのに貢献する。
【0053】
本発明の別の実施形態において、空気雰囲気中で1400℃まで加熱されたシリコン‐炭素複合材料の熱分解による減量の範囲は、5%~60%であり、好ましくは24%~42%又は15%~40%である。
【0054】
本発明の別の実施形態では、シリコン‐炭素複合材料において、炭素:シリコンの質量比は3~8:2~7である。
【0055】
上記の実施形態において、シリコン‐炭素複合材料中の各種元素の含有量と熱分解による減量を上記範囲に制御することにより、長期サイクル安定性を確保し、容量及び初回効率を向上させることに貢献する。熱分解による減量が高すぎ、Cの含有量が高すぎると、材料の高容量及び電池セルの高エネルギー密度を達成することが困難になる。熱分解による減量が少なすぎ、Siの含有量が多すぎると、より良好なサイクル安定性を実現することが困難となる。
【0056】
いくつかの実施形態において、非晶質炭素マトリックスは多孔質炭素材料であり、シリコン材料は非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は細孔壁に均一に分布している。
図1は、本発明の実施形態によって提供されるシリコン‐炭素複合材料の概略構造図を示す。非晶質炭素マトリックスは多孔質炭素材料であり、シリコン材料は非晶質炭素マトリックスの細孔壁に均一に分布している。
【0057】
いくつかの実施形態において、シリコン材料は、Si及びSiOxから選択される少なくとも1種である。
【0058】
いくつかの実施形態において、シリコン材料はナノスケールである。また、シリコン材料の粒径は1nm~20nmであり、好ましくは1nm~5nmである。
【0059】
いくつかの実施形態において、シリコン材料は、球状、準球状、又は針状の粒子を含むがこれらに限定されない、ロッド状及び/又は顆粒状である。
【0060】
本発明の別の実施形態において、シリコン‐炭素複合材料は、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に付着したナノ金属粒子をさらに含む。いくつかの実施形態において、非晶質炭素マトリックスは多孔質炭素材料であり、ナノ金属は非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は細孔壁に均一に分布している。シリコン‐炭素複合材料中のナノ金属粒子の質量比は、0%超え~2%であっても良い。ナノ金属粒子は、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、銀、金、錫粒子から選択される少なくとも1種である。ナノ金属粒子の粒径は2nm~5nmである。
【0061】
本発明の一実施形態は、以下のステップを含む、シリコン‐炭素複合材料の製造方法を提供する。非晶質炭素マトリックス材料とシリコン源を化学気相成長法により合成してシリコン-炭素複合材料を得るステップであって、シリコン‐炭素複合材料は、非晶質炭素マトリックスと、非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に位置するシリコン材料と、を含む。
【0062】
シリコン‐炭素複合材料は下記関係を満たす。
【0063】
B=BA/Ba
【0064】
Bの値範囲は、20~1250である。
【0065】
Bは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積係数であり、BAは、非晶質炭素マトリックスの比表面積であり、Baは、シリコン‐炭素複合材料の比表面積である。
【0066】
いくつかの実施形態において、シリコン源は、モノシラン(SiH4)、ジメチルジクロロシラン、トリクロロメチルシランから選択される少なくとも1つである。
【0067】
いくつかの実施形態において、非晶質炭素マトリックス材料は多孔質非晶質炭素である。
【0068】
いくつかの実施形態において、非晶質炭素マトリックス材料は多孔質非晶質炭素‐金属複合体であり、多孔質非晶質炭素‐金属複合体は、多孔質非晶質炭素マトリックスと、多孔質非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に付着したナノ金属粒子と、を含む。
【0069】
いくつかの実施形態において、多孔質非晶質炭素‐金属複合体の製造方法は、次のステップを含む。機械的混合(撹拌など)、液相還元、又は気相還元によって、金属ナノ粒子を多孔質非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部に付着させる。好ましくは、ナノ金属粒子は、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、銀、金、及び錫粒子から選択される少なくとも1つである。具体的には、本発明の実施例において、多孔質非晶質炭素マトリックスの表面及び/又は内部にナノ金属粒子を付着させるために採用される機械的混合法、液相還元法及び気相還元法は従来の周知の技術であり、特別な要件は適用されない。したがって、これ以上の詳細は省略する。
【0070】
本発明の別の実施形態において、シリコン‐炭素複合材料の製造方法は、以下のステップを含む。非晶質炭素マトリックス材料とシリコン源を化学気相成長反応炉内に配置し、キャリアガスとして水素を使用し、希釈ガスとして水素及び/又はアルゴンを使用し、流量1L/min~5L/minで、温度を400℃~600℃に上げて、1時間~20時間反応させた後、熱分解合成することによりシリコン‐炭素複合材料を得る。
【0071】
なお、上記実施形態で説明したシリコン‐炭素複合材料は、上記実施例で説明した方法により製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0072】
本発明の一実施形態は、負極シートを提供する。負極シートは、負極集電体と、負極集電体上に配置された負極活物質層と、を含む。負極活物質層は、負極活物質を含み、負極活物質は、上述の実施形態で説明したシリコン‐炭素複合材料、及び/又は上述の実施形態で説明した方法に従って製造されたシリコン‐炭素複合材料を含む。いくつかの実施形態において、負極活物質は、質量割合で24%~45%のシリコン‐炭素複合材料を含む。
【0073】
本発明の一実施形態は、上記実施形態で説明した負極シート、正極シート、セパレータ、及び電解質を含む電気化学装置を提供する。
【0074】
本発明の実施形態における電気化学装置は、任意の電気化学装置であって良く、例えば、リチウムイオン電池やナトリウムイオン電池であって良いが、これらに限定されるものではない。
【0075】
正極シートは、一般に、正極集電体と、正極集電体上に配置された正極活物質層と、を含み、正極活物質層は、正極活物質を含む。
【0076】
正極活物質としては、一般的に、リチウム含有複合酸化物が挙げられる。具体的な例としては、LiMnO2、LiFeO2、LiMn2O4、Li2FeSiO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi5CO2Mn3O2、LizNi(1-x-y)CoxMyO2(式中、0.01≦x≦0.20、0≦y≦0.20、0.97≦z≦1.20であり、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、Alから選択される少なくとも1種の元素を表す)、LiFePO4及びLizCO(1-x)MxO2(式中、0≦x≦0.1、0.97≦z≦1.20であり、Mは、Mn、Ni、V、Mg、Mo、Nb、Alからなる群から選択される少なくとも1種の元素を表す)が挙げられる。
【0077】
活物質には、一般的に、導電剤やバインダーなどの物質が添加される。添加量は、必要に応じて、正極活物質の総質量の1%~50%、活物質の総質量の55%~76%の範囲で調整することができる。
【0078】
導電剤は、電極の充放電性能を良好にするために使用される試薬である。例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料、導電性カーボンブラック(スーパーP)などのカーボンブラック材料、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなど、カーボン繊維や金属繊維などの導電性繊維、フッ化カーボン粉末、アルミニウム粉末、ニッケル粉末などの金属粉末、酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー、二酸化チタンやポリフェニレン誘導体などの導電性金属酸化物が挙げられる。
【0079】
バインダーは、活物質と導電剤との結合を促進し、活物質と集電体との結合を促進する成分である。通常、バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(PAA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン・ブタジエンゴム、スチレン・プロピレンゴム、フッ素ゴム、各種共重合体から選択することができる。
【0080】
集電体は電極活物質を支持する基材として機能し、通常は厚さ3ミクロン~500ミクロンの金属箔が使用される。導電性が高く、二次電池の系内で化学反応を起こさなければ、材料は特に限定されない。
例えば、材料は、ニッケル、チタン、アルミニウム、銀、ステンレス、炭素などを表面処理して得られる箔材であって良い。集電体の表面は通常平滑であるが、正極活物質と集電体との密着性を向上させるために表面に細線が形成されていても良い。集電体は、箔の他に、フィルム、メッシュ、多孔質、発泡体、不織布等の種々の形態のいずれか1つ又は組み合わせで使用しても良い。
【0081】
セパレータは、正極シートと負極シートとの間に配置され、通常、イオン透過性が高く、機械的強度が高い絶縁フィルムが採用される。セパレータの厚さは通常9μm~18μmであり、細孔径は5μmから300μmであり、空気透過性は180秒/100mL~380秒/100mLであり、空隙率は30%~50%である。セパレータは、耐薬品性と疎水性を備えたポリプロピレン、ガラス繊維又はポリエチレンなどのオレフィン系ポリマーからなるシートや不織布を用いて形成される。
【0082】
リチウムイオン電池で使用される電解質は、一般的に、非水溶媒、リチウム塩、及び添加剤を含む。
【0083】
非水溶媒は、当該分野における従来の非水溶媒であって良く、好ましくはエステル溶媒であり、より好ましくはカーボネート溶媒である。具体的には、カーボネート溶媒は、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、エチルプロピルカーボネート(EPC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)から選択される少なくとも1種であって良い。
【0084】
リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2(LiFSIと略す)、LiClO4、LiAsF6、LiB(C2O4)2(LiBOBと略す)、LiBF2(C2O4)(LiDFOBと略す)、LiN(SO2RF)2、及びLiN(SO2F)(SO2RF)から選択される少なくとも1種であって良い。好ましくは、電解質中のリチウム塩の含有量は5%~20%である。
【0085】
添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、硫酸ビニル(DTD)、硫酸ビニレン、1,3-プロパンスルトン(PS)、1-プロペン1,3-スルトン、及び1,4-ブタンスルトンから選択される少なくとも1種であって良い電解液中の添加剤の通常の添加量は、電解液の1%~4%であり、例えば2%である。
【0086】
いくつかの実施形態において、負極活物質は、シリコン‐炭素複合材料、黒鉛、導電性カーボンブラック、及びバインダーを含む。負極活物質は、質量割合で、シリコン‐炭素複合材料を24%~45%、黒鉛を40%~63%、導電性カーボンブラックを2%~8%、バインダーを2%~18%含有することが好ましい。
【0087】
いくつかの実施形態において、上記実施形態で説明した負極シートの作製方法は、以下の工程を含む。
【0088】
シリコン‐炭素複合材料と黒鉛とを30~50:70~50の質量比で高速混合して負極活物質混合粉末を調製し、次いで、適量の脱イオン水中で導電性カーボンブラックとバインダーとを80~90:2~8:2~18の質量比で十分に撹拌混合して、均一な負極スラリーを形成する。負極スラリーを負極集電体の銅箔の表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスして負極シートを得る。
【0089】
本発明の上述の実施形態において、負極シートの作製プロセスにおける他のプロセス条件及びパラメータの詳細については詳細に説明していないことに留意されたい。当業者であれば、上記実施形態に記載の方法を従来の技術手段及び常識と組み合わせて用いて、負極シートを得ることができる。
【0090】
本発明の一実施形態は、上記実施形態で説明した電気化学装置を含む電子装置を提供する。
【0091】
本発明の実施形態における電子装置は、任意の電子装置であって良く、例えば、ノートブックコンピュータ、ペン入力コンピュータ、モバイルコンピュータ、電子書籍プレーヤー、携帯電話、ポータブルファックス、ポータブルコピー機、ポータブルプリンタ、ヘッドマウントステレオヘッドフォン、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、ポータブルCDプレーヤー、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、電動アシスト自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機、時計、電動工具、懐中電灯、カメラ、家庭用大型蓄電池、リチウムイオンキャパシタなどであるが、これらに限定されない。なお、本発明の電気化学装置は、上記に列挙した電子装置に適用できるだけでなく、エネルギー貯蔵発電所、海上輸送車両、航空輸送車両にも適用可能である。航空輸送車両には、大気圏内の空輸車両と大気圏外の空輸車両が含まれる。
【0092】
なお、本発明の上述の実施形態では、リチウムイオン電池の実装方法及び実装ステップについて詳細に説明していない。当業者は、当該分野における従来の又は一般的な技術手段及び常識に従って正極シートと負極シートを組み合わせて、正極シート、負極シート、電解質及びセパレータを実装し、リチウムイオン電池を形成することができる。
【0093】
以下の特定の実施例は、本発明を詳細に説明するために提供されるものである。また、以下の実施例は、専ら本発明を具体的に説明するために使用され、本発明の保護範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことも理解されたい。本発明の上記内容に従って当業者によってなされるいくつかの本質的でない改良及び調整はすべて、本発明の保護範囲に属する。以下の例における具体的なプロセスパラメータ等は、適切な範囲の一例にすぎない。当業者は、本明細書の説明を通じて適切な範囲内で選択することができ、以下に例示する具体的な数値に限定されるものではない。
【0094】
実施例1
【0095】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0096】
比表面積1000m2/g、細孔容積0.54cm3/gの多孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシラン3L/minで95分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、
反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0097】
実施例2
【0098】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0099】
比表面積800m2/g、細孔容積0.54cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシラン2L/minを95分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0100】
実施例3
【0101】
本実施例にでは、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0102】
比表面積1000m2/g、細孔容積0.2cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシラン5L/minを95分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0103】
実施例4
【0104】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0105】
比表面積1200m2/g、細孔容積0.7cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を600℃に加熱した。温度が安定した後、モノシランを1L/minで60分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0106】
比較例1
【0107】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0108】
比表面積1800m2/g、細孔容積0.68cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシランを1L/minで60分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0109】
比較例2
【0110】
本実施例では、シリコン-炭素複合材料を調製し、具体的な調製プロセスは次のとおりである。
【0111】
比表面積200m2/g、細孔容積0.4cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシランを1L/minで60分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0112】
比較例3
【0113】
比表面積1000m2/g、細孔容積0.12cm3/gの孔質非晶質炭素材料500gを流動層に添加し、窒素ガスを10L/minで導入して材料を流動状態にし、流動層を500℃に加熱した。温度が安定した後、モノシランを1L/minで60分間導入し、流動層の圧力を6kPaに制御した。モノシランガスの導入を停止し、反応生成物が室温まで冷却されるまで不活性ガスを導入し続け、シリコン‐炭素複合材料を得た。
【0114】
実施例5
【0115】
本実施例では、以下の方法に従って、実施例1~4及び比較例1~3のシリコン‐炭素複合材料を用いてリチウムイオン電池を作製した。具体的な工程は以下の通りである。
【0116】
1. 正極シートの作製
【0117】
三元系材料LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2を高速で撹拌混合して正極活物質混合粉末を調製した。導電性カーボンブラック(スーパーP)、導電性カーボンチューブ(CNT)、窒素メチルピロリドン溶剤(NMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を1:0.5:40の質量比で分散し、2時間高速撹拌した。混合された活物質粉末と導電性スラリーとを高速で混合して、所定の粘度を有する正極スラリーを調製した。調製したスラリーをドクターブレードを用いてアルミ箔上に均一に塗布し、送風乾燥炉に入れ、120℃で20分間乾燥した。最後に、乾燥させた電極シートを圧延、切断して正極シートを作製した。
【0118】
2. 負極シートの作製
【0119】
調製したシリコン系材料とD50が10μmの黒鉛とを質量比40:60で高速撹拌混合して負極活物質混合粉末を調製した。次に、スーパーPとPAA(ポリアクリル酸)を適量の脱イオン水中で質量比85:5:10の割合で十分に撹拌混合し、均一な負極スラリーを形成した。負極スラリーを負極集電体の銅箔の表面に塗布し、乾燥し、冷間プレスして負極シートを得た。
【0120】
3. 電解液の調製:
【0121】
有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合物であり、EC、EMC及びDECの体積比は20:20:60である。水分含有量が10ppm未満のアルゴン雰囲気グローブボックス内で、完全に乾燥したリチウム塩(LiPF6)を上記の有機溶媒に溶解し、均一に混合して、LiPF6の濃度が1mol/Lである電解質を得た。
【0122】
4. 絶縁フィルムの作製:
【0123】
厚さ12μmのポリプロピレン絶縁フィルムを選択した。
【0124】
5. 電池の作製:
【0125】
上記のようにして作製した正極シート、セパレータ、負極シートを順次積層し、正極シートと負極シートとの間にセパレータを配置して絶縁機能を持たせた。次に、外側をアルミニウムプラスチックフィルムで包み、真空オーブンに移して120℃で乾燥させ、3.0g/Ahの電解液を注入して密封した。静置、熱間及び冷間プレス、化成、固定、グレーディングを経て、最終的に容量1Ahのパウチ電池(つまり、リチウムイオン電池)を得た。
【0126】
以下の方法に従って、実施例1~4及び比較例1~3のシリコン‐炭素複合材料の粉末試験を行った。具体的には、以下の通りである。
【0127】
1. BET係数と細孔容積の試験方法:
【0128】
脱気槽の試料管に被検試料(80mg~2g)を入れ、試料管内に窒素を加えて300℃で1時間加熱し、表面に吸着したガスを除去した。脱ガスが完了し、被検試料が室温まで冷却された後、被検試料の品質が測定され、秤量された試料管を分析ステーションに設置した。デュワー瓶に液体窒素を充填し、被検試料の質量を分析ファイルに入力した。試験パラメータを設定し、吸着・脱着試験プロセスを実行した。材料の比表面積、細孔容積、その他の情報は、吸脱着等温線により計算された。ここで、多孔質炭素の比表面積をBAとし、細孔容積をPv1とした。シリコン‐炭素複合材料の比表面積をBaとし、細孔容積をPv2とした。
【0129】
2.TG試験法:
【0130】
5mgの被検試料をサンプルチャンバーに設置し、空気雰囲気下で10℃/minの速度で1400℃まで加熱し、質量対温度の曲線を収集した。
【0131】
初期質量をW0として記録し、加熱後の質量をW1として記録した。重量損失は次のとおりである。
【0132】
W損失=(W0-W1)/W0 × 100%
【0133】
実施例1~4及び比較例1~3の粉体試験結果
【0134】
【0135】
以下の方法に従って、実施例5で実装したリチウムイオン電池の電気的特性を次のように試験した。
【0136】
実装したリチウムイオン電池を1C定電流で4.2Vまで充電し、次に4.2V定電圧で0.05Cまで充電し10分間放置し、次に1C定電流で2.8Vまで放電し10分間放置した。上記の充電と放電は充放電プロセスのサイクルであり、このサイクルの放電容量を記録した。充放電プロセスを100サイクル繰り返し、各サイクルの放電容量を記録した。
【0137】
サイクル容量維持率(%)=100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100%
【0138】
電池の質量エネルギー密度(Wh/kg)=初回放電エネルギー/電池質量。
【0139】
実施例1~4及び比較例1~3の粉末から製造したリチウムイオン電池の電気的性能試験結果
【0140】
【0141】
表1において、W損失は主に炭素によるものである。つまり、実際のシリコンの含有量は1-W損失である。
【0142】
表1及び表2のデータ分析からは、シリコン‐炭素複合材料の製造プロセスにおいて、シリコンの充填量は、多孔質非晶質炭素の比表面積及び細孔容積に応じて決定されることが分かる。比表面積が大きく細孔容積が大きいと、細孔内にシリコンが析出する。しかし、比表面積や細孔容積が大きすぎるとシリコンが多くなり、循環が悪くなる。比表面積が大きく細孔容積が小さいと、表面にシリコンが析出し、循環が困難になる。比表面積が小さく細孔容積が大きいと、シリコンの析出量が制限され、シリコンが凝集しやすくなり、循環が困難となる。比表面積が小さく細孔容積が小さいと、シリコンが析出できず、容量損失が大きくなる。
【0143】
実施例1~4のシリコン‐炭素複合材料を用いて作製したリチウムイオン電池は、比較例1、3のシリコン‐炭素複合材料を用いて作製したリチウムイオン電池に比べて、サイクル容量が高く、サイクル容量維持率は、いずれも90%以上である。これは、シリコン‐炭素複合材料の製造プロセスにおいて、多孔質非晶質炭素の比表面積と細孔容積によってシリコンの充填量が決まるためである。比表面積が大きく細孔容積が大きいと、細孔内にシリコンが析出する。しかし、比表面積や細孔容積が大きすぎるとシリコンが多くなり、循環が悪くなる。比表面積が大きく細孔容積が小さいと、表面にシリコンが析出し、循環が困難になる。比表面積が小さく細孔容積が大きいと、シリコンの析出量が制限され、シリコンが凝集しやすくなり、循環が困難となる。比表面積が小さく細孔容積が小さいと、シリコンが析出できず、容量損失が大きくなる。
【0144】
比較例2のシリコン‐炭素複合材料を用いて作製したリチウムイオン電池は、サイクル容量維持率が95.4%であるが、質量エネルギー密度は実施例1~4に比べて著しく低い。これは、多孔質非晶質炭素の比表面積や複合材料のBET係数が小さすぎるため、シリコンが導入される活性点が減少し、添加されるシリコンの量が減少し、その後の最終製品の容量が低下するためであり、電池セルのより高いエネルギー密度を達成することが困難になる。
【0145】
実施例1~4と比較して、比較例1のシリコン‐炭素複合材料の熱分解による減量は低い。これに対応して、比較例1のシリコン‐炭素複合材料を使用することによって得られるリチウムイオン電池のサイクル容量維持率は、実施例1~4に比べて著しく低い。これは、Siの含有量が高すぎるためであり、より優れたサイクル性能の実現が困難となる。
【0146】
まとめると、本発明の実施形態は、シリコン‐炭素複合材料の構造、比表面積係数B、細孔容積係数Pv、各種元素の含有量、熱分解による減量を制御することにより、シリコン系材料の膨張を最大限に抑制し、長期サイクル安定性と優れた導電性を確保することによって、最終材料の容量と初回効率を効果的に改善し、一定の加工性能維持しつつ、シリコン系負極材料の商業化プロセスを促進する。同時に、本発明のシリコン‐炭素複合材料の製造方法は、単純で操作が容易である。大規模な工業生産に適している。本発明で提供されるシリコン‐炭素複合材料は、負極活物質として使用し、負極活物質層に塗布して負極シートを作製し、その後、正極シート、セパレータ、電解質などと実装して、リチウムイオン電池を形成することにより、リチウムイオン電池の電気的性能を大幅に向上させることができ、リチウムイオン電池の開発を促進することができる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明のシリコン‐炭素複合材料及びその製造方法、負極シート、電気化学装置及び電子装置は、シリコン系負極材料の商業化プロセスを促進することができ、大規模かつ工業的な生産に適している。
【0148】
上述の実施形態は、本発明の原理及び効果を例示するものであり、本発明を限定するものではない。当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、上述の実施形態を修正又は変更することができる。したがって、本発明に開示される精神及び技術的思想から逸脱することなく当業者によって行われるすべての同等の修正又は変更は、なおも本発明の特許請求の範囲に含まれるものとする。
【外国語明細書】