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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139685
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】合成装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20241002BHJP
   C07K 1/04 20060101ALI20241002BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20241002BHJP
   C07H 21/04 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
B01J19/00 321
C07K1/04
C12N15/10 Z
C07H21/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024000587
(22)【出願日】2024-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2023049574
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 清人
(72)【発明者】
【氏名】井中 千草
(72)【発明者】
【氏名】津田 雄一郎
【テーマコード(参考)】
4C057
4G075
4H045
【Fターム(参考)】
4C057MM08
4G075AA13
4G075AA61
4G075AA63
4G075BA10
4G075CA02
4G075CA03
4G075DA02
4G075EA06
4G075EB01
4G075FB02
4G075FB06
4G075FB12
4G075FC04
4G075FC17
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA09
4H045FA33
(57)【要約】
【課題】反応性を従来よりも向上させることが可能となる合成装置を提供する。
【解決手段】合成装置70は、複数種類の溶液を選択的に搬送するための送液手段20と、前記送液手段20により搬送された溶液を溜め前記溶液を用いた反応が行われる反応容器10と、前記反応容器10を加熱する機能を有する熱源部26と、前記熱源部26を制御するコントローラ(制御装置77)とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類の溶液を選択的に搬送するための送液手段と、
前記送液手段により搬送された溶液を溜め前記溶液を用いた反応が行われる反応容器と、
前記反応容器を加熱する機能を有する熱源部と、
前記熱源部を制御するコントローラと、
を有する、合成装置。
【請求項2】
前記送液手段による前記反応容器への溶液の搬送経路に加熱部を設ける、
請求項1に記載の合成装置。
【請求項3】
前記送液手段は、前記加熱部が設けられる加熱用配管と、
前記加熱部が設けられない通常配管と、を有する、
請求項2に記載の合成装置。
【請求項4】
前記送液手段は、溶液の搬送経路を前記加熱用配管と前記通常配管のいずれかに切り替える切替機構を有する、
請求項3に記載の合成装置。
【請求項5】
前記熱源部と前記反応容器との間に位置する熱伝達部材を有する、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の合成装置。
【請求項6】
前記熱伝達部材と前記反応容器との間に介在する可撓性及び弾性を有する熱伝達シートを有する、
請求項5に記載の合成装置。
【請求項7】
前記反応容器は、前記溶液を溜め反応が行われる部分として、可視光透過性を有する筒部材を有し、
前記筒部材の外周面は、前記熱伝達部材により覆われている第一面と、露出する第二面と、を有する、
請求項5に記載の合成装置。
【請求項8】
前記反応容器は、前記溶液を溜め反応が行われる部分として、可視光透過性を有する筒部材を有し、
前記筒部材の外周面は、前記熱伝達部材により覆われている第一面と、露出する第二面と、を有する、
請求項6に記載の合成装置。
【請求項9】
前記熱源部は、ペルチェ素子を有し、
前記コントローラは、前記ペルチェ素子に前記反応容器を冷却する機能を持たせるための制御を行う、
請求項5に記載の合成装置。
【請求項10】
前記熱源部は、ペルチェ素子を有し、
前記コントローラは、前記ペルチェ素子に前記反応容器を冷却する機能を持たせるための制御を行う、
請求項6に記載の合成装置。
【請求項11】
前記ペルチェ素子を挟んで前記反応容器と反対側に位置するファンユニットを有する、
請求項9に記載の合成装置。
【請求項12】
前記ペルチェ素子を挟んで前記反応容器と反対側に位置するファンユニットを有する、
請求項10に記載の合成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の発明は、タンパク質、ペプチド、核酸等を化学合成するための合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質、ペプチド、核酸等を化学合成する方法として、反応容器に複数種類の溶液(試薬)を順に供給し、その反応容器内において反応を進める方法がある。例えば、核酸を合成する場合、反応容器内に粒状の担体(ビーズ)を多数設け、その反応容器に、溶液を順次供給しながら、脱トリチル化、カップリング、酸化、及びキャッピングの処理を繰り返し行い、担体に塩基を結合させる。
【0003】
前記のような化学合成に用いられる溶液は数十種類とされることもある。これら溶液を選択的に反応容器へ送り、溶液に含まれる分子材料により目的物(核酸)が生成される。このような化学合成を行うための装置として、例えば特許文献1に開示の合成装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-34290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
医薬として用いる核酸の場合、生体内での安定性が低く、また、副作用、細胞透過性等に課題がある。そこで、核酸塩基を修飾し、前記課題を解決することが試みられている。しかし、修飾部分が立体障害となり、核酸の合成の際に、その反応性が低下し、合成の難易度が高くなる場合がある。
【0006】
前記のような合成装置を用いた合成方法において、反応容器における反応は、従来、常温(室温)の環境で行われている。
本発明の発明者は、反応のために用いる溶液の種類、又は、反応の工程によっては、温度を高めることで反応性が向上する場合があることに着目し、発明を完成させた。
【0007】
本発明は、反応性を従来よりも向上させることが可能となる合成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の合成装置は、複数種類の溶液を選択的に搬送するための送液手段と、前記送液手段により搬送された溶液を溜め前記溶液を用いた反応が行われる反応容器と、前記反応容器を加熱する機能を有する熱源部と、前記熱源部を制御するコントローラと、を有する。
【0009】
前記合成装置によれば、反応容器で溶液の反応が行われる際、コントローラが熱源部を制御して反応容器を加熱することにより、反応性を向上させることが可能となる。
反応容器における溶液を用いた反応に関して、その溶液の種類に応じて、温度を高めることが好ましいステップと、それ以外が好ましいステップとが存在する場合がある。そこで、送液手段が搬送する溶液の種類に基づいて、コントローラは、熱源部を機能させたり、その機能を停止させたりする制御を行う。これにより、温度管理を行うことが望ましいステップにおいて反応性を向上させることが可能となる。
【0010】
(2)前記(1)の合成装置において、好ましくは、前記送液手段による前記反応容器への溶液の搬送経路に加熱部を設ける。
加熱部によって、送液手段により反応容器へ搬送中の溶液を加熱することが可能になる。すなわち、熱源部によって反応容器を加熱して溶液を加熱する前に、加熱部によって溶液を予熱することが可能となる。これにより、熱源部によって反応容器における溶液の温度を、反応が行われる際に好ましいとされる温度に高めるために要する時間を短縮することができる。すなわち、反応容器において反応が行われる際に、好ましいとされる溶液の温度で反応を行う時間を制御することができる。したがって、反応性をより向上させることができる。
【0011】
(3)前記(2)の合成装置において、好ましくは、前記送液手段は、前記加熱部が設けられる加熱用配管と、前記加熱部が設けられない通常配管と、を有する。
溶液の温度を高めることが好ましいステップでは、加熱用配管を通じて溶液を反応容器に搬送し、それ以外が好ましいステップでは、通常配管を通じて溶液を反応容器に送液することが可能になる。これにより、溶液の温度を高めることが好ましいステップとそれ以外が好ましいステップ間でステップの移行を行う際に、加熱用配管を冷却、再加熱することが不要になるため、送液手段が加熱用配管のみを有している場合と比較して、上記ステップの移行を迅速に行うことが可能となる。
【0012】
(4)前記(3)の合成装置における具体的な態様としては、前記送液手段は、溶液の搬送経路を前記加熱用配管と前記通常配管のいずれかに切り替える切替機構を有することが好ましい。
【0013】
(5)前記(1)から(4)のいずれか一つの合成装置において、好ましくは、前記合成装置は、前記熱源部と前記反応容器との間に位置する熱伝達部材を有する。
前記熱伝達部材は、熱源部と反応容器との間で熱交換を行う。熱源部で生じる熱を反応容器に伝達する。熱伝達部材において、蓄熱及び熱の拡散が可能となり、効率が向上する。
【0014】
(6)前記(5)の合成装置において、好ましくは、前記合成装置は、前記熱伝達部材と前記反応容器との間に介在する可撓性及び弾性を有する熱伝達シートを有する。
熱伝達部材及び反応容器が硬質である場合、両者間に隙間が生じ、両者が実質的に接触する面積(有効面積)は減少する可能性がある。この場合、熱伝達部材と反応容器との間の熱伝達効率が低下する。前記熱伝達シートによれば、熱伝達部材と反応容器との間の隙間が解消され、熱伝達効率が向上する。
【0015】
(7)前記(5)又は(6)の合成装置において、好ましくは、前記反応容器は、前記溶液を溜め反応が行われる部分として、可視光透過性を有する筒部材を有し、前記筒部材の外周面は、前記熱伝達部材により覆われている第一面と、露出する第二面と、を有する。
前記構成によれば、前記第一面を通じて、熱源部と反応容器との間で熱伝達が行われ、前記第二面を通じて、反応容器の内部の様子を目視することが可能となる。
【0016】
(8)前記(5)又は(6)の合成装置において、好ましくは、前記熱源部は、ペルチェ素子を有し、前記コントローラは、前記ペルチェ素子に前記反応容器を冷却する機能を持たせるための制御を行う。
前記構成によれば、熱源部は、反応容器の冷却も可能である。自然冷却の場合と比較して、反応容器の温度が迅速に低下する。溶液の反応のための次のステップに、迅速に移行することが可能となる。
【0017】
(9)前記(8)の合成装置において、好ましくは、前記ペルチェ素子を挟んで前記反応容器と反対側に位置するファンユニットを有する。
前記構成によれば、ペルチェ素子が反応容器を冷却する場合に、ファンユニットは、ペルチェ素子の高温側となる気体を送風することが可能となる。ファンユニットが動作することで、反応容器の冷却効率が高まる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、反応容器において、反応性を従来よりも向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の合成装置の一例を示す構成図である。
図2】反応容器及び温度調整ユニットの説明図(正面図)である。
図3】反応容器及び温度調整ユニットの説明図(側面図)である。
図4】反応容器及び温度調整ユニットの説明図(図3におけるIV矢視の断面図)である。
図5】本発明の合成装置の一つのバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔合成装置について〕
図1は、本発明の合成装置の一例を示す構成図である。図1に示す合成装置70は、タンパク質、ペプチド、核酸等を化学合成するための装置である。合成装置70は、反応容器10を備える。反応容器10に複数種類の溶液(試薬)Lが順に供給され、その反応容器10内において化学合成が進められる。核酸を合成する場合、反応容器10内に粒状である担体Bが多数設けられる。担体Bはビーズとも呼ばれ、例えば、ガラス製やポリマー製である。なお、図1において、説明を解りやすくするために担体Bを実際よりも大きく表示している。
【0021】
反応容器10に溶液Lを順次供給しながら、脱トリチル化、カップリング、酸化、及びキャッピングの処理が繰り返し行われ、担体Bから塩基(分子材料)が次々と結合される。化学合成のために用いられる溶液Lは数十種類とされる場合がある。これら溶液Lが選択的(択一的)に反応容器10へ送られ、溶液Lに含まれる分子材料により目的物(核酸)が生成される。反応容器10における溶液の反応性を向上させるために、合成装置70は、反応容器10(反応容器10内の溶液)の温度を調整する機構として、温度調整ユニット25を有する。
【0022】
合成装置70は、用いられる溶液Lと同数の収容容器(試薬瓶)71を設ける領域を有する。収容容器71それぞれに各溶液Lが溜められている。なお、図1では、三つの収容容器71のみが示されていて、その他の収容容器71については図示省略している。各収容容器71は、密閉容器であり、導入管72及び導出管73と繋がっている。
【0023】
合成装置70は、ガスを溜めているタンク78、上流側配管79、導入管72、導出管73、計量容器74、中間配管75、反応容器10、計量機構76、及び制御装置77を備える。制御装置77は、コンピュータにより構成される。タンク78に大気よりも高圧のガス(不活性ガス)が充填されている。このガスは、収容容器71の溶液Lを反応容器10へ搬送するために用いられる他に、反応容器10で担体B及び溶液Lを撹拌するために用いられる。
【0024】
複数の収容容器71と同数の導入管72は、共通する上流側配管79から分岐した配管である。その上流側配管79にレギュレータ80及びバルブ81が設けられている。上流側配管79は、タンク78と接続されていて、タンク78のガスが各収容容器71に供給され、レギュレータ80により各収容容器71の内圧が調整される。ガスにより各収容容器71の内圧が高まり、収容容器71の溶液Lは導出管73から送り出される。各収容容器71と計量容器74との差圧で各収容容器71の溶液Lが導出管73を通じて計量容器74へ圧送される。
【0025】
導出管73それぞれにはバルブ82が設けられている。開状態とするバルブ82が選択されることで、複数の収容容器71の溶液Lの中から所定の溶液Lが選択的に導出管73を通じて計量容器74へ送られる。開状態とするバルブ82の選択は制御装置77によって行われる。本実施形態の場合、一つの溶液Lが選択されて導出管73を通じて計量容器74へ送られる。
【0026】
計量容器74は、各溶液Lを計量するための容器となる。計量容器74の入口領域(開口部)に複数の導出管73が集約して設けられている。導出管73を通じて送られた溶液Lが、計量容器74に導入され、この計量容器74に溜められる。
【0027】
計量機構76は、例えばロードセル等による測定器を有し、計量容器74に溜められる溶液Lを計量する。計量機構76による計量結果は、制御装置77に送信される。制御装置77は、計量結果に基づいてバルブ82の開閉動作制御を行い、規定量の溶液Lを計量容器74において取得する。その規定量の溶液Lが中間配管75を通じて反応容器10へ送られる。
【0028】
計量容器74から反応容器10への溶液Lの供給方式は、ガスによる圧送であり、タンク78のガスが用いられる。その圧送のために、合成装置70は、計量容器74を収容する密閉容器83を備える。密閉容器83とタンク78との間にはガス用の配管84が設けられている。ガス用の配管84に、第二のレギュレータ85及びバルブ86が設けられている。
計量容器74は、密閉容器83内で開口していて、タンク78のガスが密閉容器83に供給されると、密閉容器83内のガスの圧力(内圧)が計量容器74に溜められている溶液Lに作用する。密閉容器83(計量容器74)と反応容器10との差圧で計量容器74の溶液Lが中間配管75を通じて反応容器10へ圧送される。
【0029】
以上より、複数の収容容器71の内から溶液Lが択一的に計量容器74へ送られ、その計量容器74で計量が行われると、その溶液Lは反応容器10へ送られる。その溶液Lは、反応容器10で化学合成に用いられる。その後、溶液Lは排出管87を通じて廃液タンク88へ排出される。
このような反応容器10への溶液Lの供給が、溶液Lの種類を変更しながら繰り返し行われる。複数種類の溶液Lが反応容器10に順に供給され、反応容器10内において化学合成が進められる。
【0030】
溶液Lの種類を変更する際、その変更毎に、反応容器10の内部を洗浄液によって洗浄する。洗浄液は、溶液Lと同様、収容容器に収容されており、ガスを用いた圧送により、反応容器10へ供給される。洗浄に用いられた洗浄液は、廃液タンク88へ排出される。
【0031】
以上のように、合成装置70は、複数種類の溶液Lを選択的(択一的)に搬送するための送液手段20を有する。本実施形態の場合、送液手段20は、ガス圧を用いることによって、収容容器71の溶液Lを反応容器10側となる下流へ圧送する。そのために、送液手段20は、ガスを溜めているタンク78、タンク78に接続の上流側配管79、上流側配管79から分岐し各収容容器71に接続されている複数の導入管72、各収容容器71から溶液Lを導出する導出管73、流量調整用のレギュレータ80、前記ガス用のバルブ81、及び、送液用のバルブ82を有して構成される。
反応容器10は、送液手段20により搬送された溶液Lを溜めることができ、反応容器10において、各種の溶液Lを用いた反応が行われる。
【0032】
〔反応容器10の温度調整ユニット25について〕
図2図3及び図4は、反応容器10及び温度調整ユニット25の説明図である。図2は正面図、図3は側面図、図4図3におけるIV矢視の断面図である。
【0033】
反応容器10は、筒状(図例では円筒状)の筒部材11と、筒部材11の上部及び下部に接続されているフランジ部12とを有する。筒部材11は、溶液Lを溜め内部で反応が行われる部分である。筒部材11は、内部での反応を目視するため可視光透過性を有する。本実施形態の場合、筒部材11は、可視光について透明であるガラス製(例えば、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス)である。
【0034】
上下のフランジ部12それぞれは、フィルタ13を挟んで保持する。フィルタ13は、溶液Lを通過可能とするが前記担体(ビーズ)を通過不能とする。筒部材11の内側であって、上下のフィルタ13の間が、溶液Lによる反応が行われる反応空間となる。
【0035】
合成装置70は、温度調整ユニット25として、反応容器10を加熱する機能を有する熱源部26を有する。制御装置77(図1参照)は、熱源部26を制御するコントローラとして機能する。本実施形態の場合、熱源部26は、ペルチェ素子27を有し、反応容器10の加熱及び冷却が可能である。制御装置77は、ペルチェ素子27に反応容器10を加熱する機能を持たせるための制御と、ペルチェ素子27に反応容器10を冷却する機能を持たせるための制御とを、選択的に行う。
【0036】
ペルチェ素子27は、薄板状に構成されている。制御装置77は、そのペルチェ素子27に対して直流電流の流れる向きを、第一方向とし、ペルチェ素子27のうち筒部材11側の面を加熱面とする。
制御装置77は、ペルチェ素子27に対して直流電流の流れる向きを、加熱に用いる場合と反対にする。これにより、ペルチェ素子27において、加熱面と冷却面とが反対となる。その結果、熱源部26は、反応容器10を冷却する機能を有することができる。
【0037】
合成装置70は、温度調整ユニット25として、更に、熱伝達部材28、熱伝達シート29、及び、ファンユニット30を有する。
熱伝達部材28は、熱伝導性の優れた金属製のブロックであり、例えば銅製の部材である。熱伝達部材28は、熱源部26と筒部材11との間に位置する。本実施形態の場合、熱伝達部材28と筒部材11との間に熱伝達シート29が介在する。
【0038】
熱伝達部材28は(図4参照)、筒部材11の外周面形状に沿った凹面36と、その凹面36と反対側に平面37とを有する。図示しないが、熱伝達部材28の周囲に断熱材が装着されていてもよい。なお、筒部材11は断面円形以外であってもよく、この場合、熱伝達部材28は、凹面36に代えて、その筒部材11の外周面に沿った形状を有する。
熱伝達シート29は、熱伝導性を有することはもちろん、可撓性及び弾性を有する。熱伝達シート29は、例えば、樹脂製(アクリル、シリコン等)のシートである。熱伝達シート29は、熱伝導向上のために添加材を含んでいてもよい。
【0039】
熱伝達部材28は、熱源部26と筒部材11との間で熱交換を行う。熱源部26を筒部材11の加熱用とする場合、熱源部26で生じる熱を筒部材11に伝達する。熱源部26を筒部材11の冷却用とする場合、筒部材11から熱伝達部材28を通じて吸熱する。熱伝達部材28において、蓄熱及び熱の拡散が可能となり、効率が向上する。
【0040】
熱伝達部材28及び筒部材11は硬質である。このため、両者間に隙間が生じ、両者が実質的に接触する面積(有効面積)は減少する可能性がある。この場合、熱伝達部材28と筒部材11との間の熱伝達効率が低下する。本実施形態の場合、熱伝達シート29により、熱伝達部材28と筒部材11との間の隙間が解消され、熱伝達効率が向上する。
【0041】
筒部材11の外周面18は(図4参照)、熱伝達部材28及び熱伝達シート29により覆われている第一面16と、露出する第二面17と、を有する。本実施形態の場合、筒部材11は、周方向についての半分が熱伝達部材28及び熱伝達シート29により覆われている。熱伝達部材28及び熱伝達シート29により覆われていない残りの部分が、露出面となる第二面17を有する。筒部材11の周方向の少なくとも半分が第一面16であるのが好ましい。
【0042】
図4の二点鎖線で示すように、反応容器10は、熱伝達部材28を取り付けている装置筐体(図示せず)に、筒部材11を取り付けるためのホルダ部材15を有していてもよい。ホルダ部材15は、例えば樹脂製であり、筒部材11を保持する。ホルダ部材15は、上のフランジ部12及び下のフランジ部12のうちの一方又は双方と繋がっていてもよい。
【0043】
ホルダ部材15に開口15aが設けられている。筒部材11の外周面18のうち、開口15aから露出する部分が、第二面17となる。第一面16を通じて、熱源部26と筒部材11との間で熱伝達が行われ、第二面17を通じて、反応容器10の内部の様子を目視することが可能となる。
【0044】
ファンユニット30は、ペルチェ素子27を挟んで、反応容器10の筒部材11と反対側に位置する。ペルチェ素子27が筒部材11を冷却する場合に、ファンユニット30は、ペルチェ素子27の高温側となる気体を送風する。ファンユニット30が動作することで、筒部材11の冷却効率が高まる。ファンユニット30は、電動式であり、その動作は制御装置77により制御される。
【0045】
合成装置70は、ファンユニット30により発生する気流を通すダクト32を有する(図3参照)。ダクト32は、通過させる気体を、熱源部26から離れた位置で装置筐体(図示せず)の外に向かって開放する。
反応容器10は、装置筐体(図示せず)に搭載される。その装置筐体内で熱が蓄積されないように、合成装置70は、その装置筐体内の気体を外へ排出する第二のファンユニットを有していてもよい。
【0046】
合成装置70は、攪拌装置31を有する。攪拌装置31は、例えばマグネット式スターラである。攪拌装置31の動作は制御装置77により制御される。攪拌装置31によれば、反応容器10の溶液Lの温度を均一化することが可能となり、また、溶液Lの反応が促進する。
【0047】
また、合成装置70には、図1に示すように、溶液Lを加熱する加熱部91を有しており、この加熱部91は送液手段20による反応容器10への溶液Lの搬送経路に設けられている。すなわち、加熱部91によって、送液手段20により反応容器10へ搬送中の溶液Lが加熱されるようになっている。これにより、熱源部26によって反応容器10を加熱して溶液Lを加熱する前に、加熱部91によって溶液Lを予熱することが可能となる。
【0048】
本実施形態における加熱部91は、反応容器10への溶液Lの搬送経路を形成する配管を加熱するためのものであり、電流により発熱する図示しない電熱線と、電熱線を覆った状態で配管に巻き付けられる布製の図示しないカバー部と、を有している。すなわち、電熱線を覆ったカバー部を配管に巻き付けた状態で、電熱線に電気を流すことにより、配管を加熱して配管に流れる溶液Lを加熱するようになっている。なお、カバー部は布製でなくてもよい。
【0049】
また、送液手段20は、図1に示すように、加熱部91が設けられる加熱用配管92と、加熱部91が設けられない通常配管93と、溶液Lの搬送経路を加熱用配管92と通常配管93のいずれかに切り替える切替機構94と、を有している。すなわち、切替機構94によって加熱用配管92に溶液Lが流れるように溶液Lの搬送経路を切り替えた状態で、加熱部91によって加熱用配管92を加熱することにより、加熱用配管92に流れる溶液Lが加熱されるようになっている。
【0050】
本実施形態において、通常配管93は、前述の中間配管75のことであり、計量容器74から反応容器10への溶液Lの搬送経路を形成しており、この通常配管93に切替機構94で加熱用配管92が連結されている。すなわち、切替機構94は、加熱用配管92における溶液Lの入り口を通常配管93に接続するバルブ95と、加熱用配管92における溶液Lの出口を通常配管93に接続するバルブ96と、を有しており、これらバルブ95、96の開閉状態を切り替えることにより、溶液Lの搬送経路を加熱用配管92と通常配管93のいずれかに切り替えることができるようになっている。したがって、バルブ95、96の開閉状態を切り替えて加熱用配管92に溶液Lが流れるように溶液Lの搬送経路を切り替えると、加熱部91によって加熱された加熱用配管92を通じて溶液Lが加熱されながら反応容器10に搬送され、バルブ95、96の開閉状態を切り替えて加熱用配管92に溶液Lが流れないように溶液Lの搬送経路を切り替えると、加熱部91によって溶液Lが加熱されることなく通常配管93を通じて反応容器10に溶液Lが搬送されるようになっている。
【0051】
〔本実施形態の合成装置70〕
以上のように、本実施形態の合成装置70は、送液手段20と、反応容器10と、熱源部26と、制御装置77とを有する。送液手段20は、複数種類の溶液Lを選択的(択一的)に搬送する。反応容器10は、送液手段20により搬送された溶液Lを溜め、溶液Lを用いた反応が行われる容器である。熱源部26は、反応容器10を加熱する機能を有する。制御装置77は、熱源部26を制御するコントローラとして機能する。
【0052】
例えば、複数種類の溶液Lを用いて反応容器10により核酸を合成する場合、反応のために用いる溶液Lの種類、又は、反応の工程によっては、温度を高めることで反応性が向上する場合がある。本実施形態の合成装置70によれば、反応が行われる際、制御装置77が熱源部26を制御して反応容器10を加熱する。これにより、反応性を向上させることが可能となる。
【0053】
ここで、本実施形態の合成装置70には、送液手段20による反応容器10への溶液Lの搬送経路に加熱部91が設けられているため、送液手段により反応容器へ搬送中の溶液Lを加熱することが可能となる。すなわち、熱源部26によって反応容器10を加熱して溶液Lを加熱する前に、加熱部91によって溶液Lを予熱することが可能となる。これにより、熱源部26によって反応容器10における溶液Lの温度を、反応が行われる際に好ましいとされる温度に高めるために要する時間を短縮することができる。すなわち、反応容器10において反応が行われる際に、好ましいとされる溶液Lの温度で反応を行う時間を制御することができる。したがって、反応性をより向上させることが可能となる。
【0054】
また、反応容器10における溶液Lを用いた反応に関して、その溶液Lの種類に応じて、温度を高めることが好ましいステップと、それ以外が好ましいステップとが存在する場合がある。そこで、送液手段20が搬送する溶液Lの種類に基づいて、制御装置77は、熱源部26を機能させたり、その機能を停止させたりする制御を行う。これにより、温度管理を行うことが望ましいステップにおいて、反応性を向上させることが可能となる。
【0055】
ここで、本実施形態では、送液手段20が、加熱用配管92と、通常配管93と、切替機構94と、を有しているため、溶液Lの種類に応じて、反応容器10への溶液Lの搬送経路を加熱用配管92と通常配管93のいずれかに切り替えることが可能となる。すなわち、溶液Lの温度を高めることが好ましいステップでは、加熱用配管92を通じて溶液Lを加熱しながら反応容器10に搬送し、それ以外が好ましいステップでは、通常配管93を通じて溶液Lを加熱することなく反応容器10に送液することが可能になる。これにより、反応性をより向上させることが可能になる。また、溶液Lの温度を高めることが好ましいステップとそれ以外が好ましいステップ間でステップの移行を行う際に、加熱用配管92を冷却、再加熱することが不要になるため、送液手段20が加熱用配管26のみを有している場合と比較して、上記ステップの移行を迅速に行うことが可能となる。
【0056】
溶液Lの種類を変更する際、反応容器10の洗浄が行われる。温度調整ユニット25によって、反応容器10の温度を高めることで、洗浄液が活性化され、洗浄効率の向上も可能となる。
【0057】
本実施形態の場合、熱源部26は、ペルチェ素子27を有する。制御装置77は、ペルチェ素子27に反応容器10を冷却する機能を持たせるための制御を行う。本実施形態によれば、熱源部26は、反応容器10の加熱の他に、反応容器10の冷却も可能である。自然冷却の場合と比較して、反応容器10の温度が迅速に低下する。溶液Lの反応のための次のステップに、迅速に移行することが可能となる。
熱源部26及び制御装置77によれば、反応容器10内の溶液Lを、常温よりも高い温度に調整したり、常温よりも低い温度に調整したりすることが可能となる。
【0058】
〔その他〕
合成装置70の構成は、図1に示す形態以外であってもよい。例えば、計量機構76は、収容容器71を計量する構成であってもよい。この場合、計量容器74及び密閉容器83を省略し、複数の導出管73を中間配管75の上流側で合流させればよい。また、送液手段20は、複数種類の溶液Lを選択的(択一的)に搬送する機能を有していれば、図示する形態以外であってもよい。
【0059】
前記のとおり、熱源部26は、ペルチェ素子27を有する構成であるが、その他の構成であってもよい。反応容器10の冷却機能が不要である場合、熱源部26はヒータであってもよい。例えば、シート状であるラバーヒータが熱源部26として用いられてもよい。
熱源部26は、冷却用としてペルチェ素子27を有し、加熱用としてペルチェ素子27とは別のヒータを有する構成であってもよい。しかし、本実施形態のようにペルチェ素子27を加熱及び冷却に兼用することで、一つのユニット(熱源部26)により加熱及び冷却が可能となる。
熱源部26を制御するコントローラは、バルブ82等の開閉動作を制御する制御装置77と、別のコンピュータにより構成されていてもよい。この場合、熱源部26のコントローラと制御装置77とは通信可能となる。
【0060】
前記のとおり、合成装置70は、加熱部91を有する構成であるが、図5に示すように加熱部91を有していない構成であってもよい。この場合、合成装置70は、温度調整ユニット25のみによって溶液Lの温度を調整する。
【0061】
前記のとおり、合成装置70は、加熱用配管92と通常配管93を有する構成であるが、通常配管93を有していない構成としてもよい。この場合、計量容器74と反応容器10を加熱用配管93で連結する。
【0062】
前記のとおり、合成装置70は、溶液Lの温度を高めることが好ましいステップでは、熱源部26と加熱部91によって溶液Lを加熱しているが、溶液Lの種類によっては熱源部26と加熱部91のいずれか一方によって溶液Lを加熱するようにしてもよい。
【0063】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の技術的範囲は前述の実施形態に限定されるものではなく、この技術的範囲には特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0064】
10 反応容器
11 筒部材
16 第一面
17 第二面
18 外周面
20 送液手段
26 熱源部
27 ペルチェ素子
28 熱伝達部材
29 熱伝達シート
30 ファンユニット
70 合成装置
77 制御装置(コントローラ)
91 加熱部
92 加熱用配管
93 通常配管
94 切替機構
L 溶液
図1
図2
図3
図4
図5