(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139687
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法
(51)【国際特許分類】
B09C 1/02 20060101AFI20241002BHJP
B09B 3/70 20220101ALI20241002BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20241002BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241002BHJP
【FI】
B09C1/02 ZAB
B09B3/70
B09B3/40
C02F1/28 D
C02F1/28 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005265
(22)【出願日】2024-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2023049346
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390023249
【氏名又は名称】国際航業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001335
【氏名又は名称】弁理士法人 武政国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 徹朗
(72)【発明者】
【氏名】今井 由香里
【テーマコード(参考)】
4D004
4D624
【Fターム(参考)】
4D004AA41
4D004AB08
4D004AC07
4D004CA22
4D004CA35
4D004CA40
4D004CA47
4D004CB31
4D004CC03
4D004CC12
4D004DA01
4D004DA02
4D004DA11
4D004DA20
4D624AA10
4D624AB11
4D624BA02
4D624DA03
4D624DB20
(57)【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわち従来技術に比して低コストでPFAS類に汚染された土壌や地下水を浄化することができる土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、有機ふっ素化合物を原位置で浄化する方法であって、注水工程と揚水工程を備えた方法である。このうち注水工程では、アルカリ性の注水液を地盤に注水し、揚水工程では注水工程で注水液を地盤に注水した後、地下水を揚水する。そして、地盤に注水された注水液によって土壌に吸着した有機ふっ素化合物が解離するとともに地下水に溶解し、これにより揚水工程で地下水を揚水すると溶解した有機ふっ素化合物を回収することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ふっ素化合物を原位置で浄化する方法であって、
アルカリ性の注水液を、地盤に注水する注水工程と、
前記注水工程で前記注水液を地盤に注水した後、地下水を揚水する揚水工程と、を備え、
地盤に注水された前記注水液によって、土壌に吸着した有機ふっ素化合物が地下水に溶解し、
前記揚水工程では、地下水を揚水することによって溶解した有機ふっ素化合物を回収し得る、
ことを特徴とする土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項2】
あらかじめ設定されたpH許容値となるように、前記注水液を生成する注水液生成工程を、さらに備え、
前記注水工程では、前記pH許容値とされた前記注水液を注水する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項3】
監視井戸で地下水のpHを計測することによって、有機ふっ素化合物の系外拡散を監視する拡散監視工程を、さらに備え、
前記監視井戸は、地下水流における下流側に配置され、
前記拡散監視工程では、計測されたpHがあらかじめ定めたpH上限値を超えるときに、有機ふっ素化合物が系外拡散したと判断する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項4】
前記注水工程では、複数個所に配置された注水井戸のうち1又は2以上の該注水井戸を利用して前記注水液を地盤に注水し、
前記揚水工程では、複数個所に配置された揚水井戸のうち1又は2以上の該揚水井戸を利用して地下水を揚水し、
前記揚水工程で揚水された地下水のpHを計測することによって、系内における前記注水液の拡散状況を確認する効果確認工程を、さらに備え、
前記注水工程では、前記効果確認工程の計測結果に応じて、利用する前記注水井戸、該注水井戸ごとの注水量、又は該注水井戸における注水深度を、変更したうえで前記注水液を注水し、
前記揚水工程では、前記効果確認工程の計測結果に応じて、利用する前記揚水井戸、又は該揚水井戸ごとの揚水量を、変更したうえで地下水を揚水する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項5】
水処理装置を用いて、前記揚水工程で揚水された地下水から有機ふっ素化合物を除去する除去工程を、さらに備え、
前記除去工程では、揚水された地下水を前記水処理装置で処理し、
前記注水工程では、前記除去工程で有機ふっ素化合物が除去された地下水を利用した前記注水液を注水する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項6】
前記水処理装置は、活性炭を具備し、
前記除去工程では、揚水された地下水を中性又は弱酸性にしたうえで、前記水処理装置で処理する、
ことを特徴とする請求項5記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【請求項7】
地盤内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことで、土壌を加温する土壌加温工程を、さらに備え、
前記注水工程では、前記土壌加温工程によって加温された状態の地盤に注水し、
前記揚水工程では、前記土壌加温工程によって地盤が加温された状態で地下水を揚水する、
ことを特徴とする請求項1記載の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、土壌や地下水に存在する有機フッ素化合物(PFAS)類を原位置にて浄化する技術に関するものであり、より具体的には、アルカリ性の注水液を注水するとともに地下水を揚水することによってPFASを回収する土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PFASとは、ペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物のことで、代表的なペルフルオロオクタン酸(PFOA)やペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)など、およそ4700種類以上ある有機フッ素化合物群の総称である。このPFASは、撥水性と撥油性の双方の特性を併せ持ち、また熱や薬品に強く、自然界ではほとんど分解しない、などの特性も持つもので、撥水剤や表面処理剤、乳化剤、消火剤、コーティング剤など幅広い分野で1940年代頃から利用されてきた。ところが近年では、PFASは難分解性でしかも生物蓄積があるため問題視されるようになり、特に欧米を中心に規制強化の動きが進みつつある。
【0003】
昨今では我が国においても、地下水や公共用水域等でのPFOSとPFOAの存在が顕在化するなど社会の関心も高まりつつあり、水質汚濁防止法ではPFOSとPFOAが要監視項目に指定され暫定の指針値が示されるとともに、PFHxSが要調査項目に指定されている。さらに、PFOSとPFOAは、2023年2月1日より水質汚濁防止法の指定物質に指定され事故時の措置などが義務づけられた。また今後は、全国的な調査も進められ、国内の多くの場所から指針値を超過する濃度でPFOSやPFOAが確認されることも予想され、さらに近い将来においては土壌に対する基準が設定されることも十分考えられる。
【0004】
一方、PFAS類に汚染された土壌や地下水の浄化については、日本国内ではその対応事例はなく、海外においても限定的であってその多くは実験室レベルの技術である。近時の新聞報道等では、国内の水道水源や水道水中においてもPFAS類が確認されており、浄水場での対応だけではなく、その供給源となっている土壌や地下水の調査や対策も必要とされている。そこで、PFAS類に汚染された土壌や地下水の浄化する技術について、いくつか提案されるようになった。例えば特許文献1では、土壌を加温し、加温により発生した汚染水蒸気に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)を分解する技術について提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される技術は、土壌温度の上昇に伴い水蒸気の発生や水の体積膨張、水の粘性低下が生じることによって地下水そのものの流動性が高まり、その結果、間隙水に含まれる有機フッ素化合物の回収効率も増大する点において、極めて好適な技術である。他方、PFAS類の溶解度は温度に対し安定しており、積極的にPFAS類を地下水に溶解させる技術ではないことから、PFAS類を含む地下水を回収するという点においてはより効果的な技術が望まれていた。
【0007】
本願発明の課題は、従来が抱える問題を解決することであり、すなわち従来技術に比してより効果的にPFAS類に汚染された土壌や地下水を浄化することができる土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
PFASは、「ヒドロキシ基」や「カルボキシ基」、「スルホ基」など官能基を有していることが多く、国内で要監視項目や要調査項目となっているPFAS類は、カルボキシ基あるいはスルホ基など酸性の解離基を有するものである。そこで本願発明は、PFASを含む地下水や土壌にアルカリ成分を添加することによってPFAS類が有する官能基の解離を促進し、これによりPFAS類が地下水に溶解して揚水によるPFAS類の回収効率が向上する、という点に着目したものであり、従来にはなかった発想に基づいてなされた発明である。
【0009】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、有機ふっ素化合物を原位置で浄化する方法であって、注水工程と揚水工程を備えた方法である。このうち注水工程では、アルカリ性の注水液を地盤に注水し、揚水工程では注水工程で注水液を地盤に注水した後、地下水を揚水する。そして、地盤に注水された注水液によって土壌に吸着した有機ふっ素化合物が地下水に溶解し、これにより揚水工程で地下水を揚水すると溶解した有機ふっ素化合物を回収することができる。
【0010】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、注水液生成工程をさらに備えた方法とすることもできる。この注水液生成工程では、あらかじめ設定されたpH許容値となるように、注水液を生成する。この場合、注水工程では、pH許容値とされた注水液を注水する。
【0011】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、注水過程による汚染地下水の拡散監視工程をさらに備えた方法とすることもできる。この拡散監視工程では、監視井戸で地下水のpHを計測することによって、有機ふっ素化合物の系外拡散を監視する。なお監視井戸は、地下水流における下流側に配置される。また拡散監視工程では、計測されたpHがあらかじめ定めたpH上限値をこえるときに、有機ふっ素化合物が系外拡散したと判断する。
【0012】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、効果確認工程をさらに備えた方法とすることもできる。この効果確認工程では、揚水工程で揚水された地下水のpHを計測することによって、系内における注水液の拡散状況を確認する。この場合、注水工程では、複数個所に配置された注水井戸のうち1又は2以上の注水井戸を利用して注水液を地盤に注水し、揚水工程では、複数個所に配置された揚水井戸のうち1又は2以上の揚水井戸を利用して地下水を揚水する。また注水工程では、効果確認工程の計測結果に応じて、利用する注水井戸や注水井戸ごとの注水量、注水井戸における注水深度を変更したうえで注水液を注水し、揚水工程では、効果確認工程の計測結果に応じて、利用する揚水井戸や揚水井戸ごとの揚水量を変更したうえで地下水を揚水する。
【0013】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、除去工程をさらに備えた方法とすることもできる。この除去工程では、水処理装置を用いて揚水工程で揚水された地下水から有機ふっ素化合物を除去する。この場合、注水工程では、除去工程で有機ふっ素化合物が除去された地下水を利用した注水液を注水する。
【0014】
本願発明の有機ふっ素化合物浄化方法は、活性炭を有する水処理装置を用いて、揚水工程で揚水された地下水から有機ふっ素化合物を除去する方法とすることもできる。この場合、除去工程では、揚水された地下水を中性あるいは弱酸性にしたうえで、水処理装置によって処理する。そして、注水工程では、除去工程で有機ふっ素化合物が除去された地下水を利用した注水液を注水する。
【0015】
本願発明の有機ふっ素化合物浄化方法は、土壌加温工程をさらに備えた方法とすることもできる。この土壌加温工程では、地盤内に構築された3以上の電極井戸に印加して土壌に電流を流すことで土壌を加温する。この場合、注水工程では土壌加温工程によって加温された状態の地盤に注水し、揚水工程では土壌加温工程によって地盤が加温された状態で地下水を揚水する。したがって、注水液そのものを加温する必要はない。
【発明の効果】
【0016】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法には、次のような効果がある。
(1)PFASを含む地下水や土壌にアルカリ成分を添加することによってPFAS類が有する官能基の解離が促進し、その結果、揚水によるPFAS類の回収効率が向上する。
(2)監視井戸で地下水のpHを計測する場合、有機ふっ素化合物の系外拡散を監視することができ、系外に拡散したことをリアルタイムに把握することができる。その結果、注水による汚染地下水の拡散を未然に防止することができる。
(3)揚水工程で揚水された地下水のpHを計測する場合、注水液が系内全体に行き渡るように効率的に注水や揚水を行うことができる。
(4)揚水工程で揚水された地下水から有機ふっ素化合物を水処理装置で除去する場合、その揚水した地下水を注水液として再利用することができる。
(5)pHの計測はリアルタイムで実施することができるため、注水や揚水工程に即時にフィードバックできる。これにより、浄化期間や浄化コストを短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法を実施するためのPFAS浄化装置の一例を模式的に示すモデル図。
【
図2】注水井戸と揚水井戸、監視井戸の配置例を模式的に示す平面図。
【
図3】本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図4】(a)は電気抵抗加熱法を利用した土壌加温装置を模式的に示す断面図、(b)は三角形を形成するように平面配置された電極井戸を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法の実施の例を、図に基づいて説明する。
【0019】
PFAS(有機フッ素化合物)類は、撥水性と撥油性の双方の特性を併せ持ち、また比重が大きく、自然状態では化学的にも生物学的にもほとんど分解しない。そのため、一旦、地下に浸透すると、表層の不飽和帯に留まらず深部まで浸透し、その過程で土粒子の細孔部に入り込み、その結果、長期にわたり帯水層土壌に存在し続けることが想定される。本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、このように地中(特に、土壌や地下水)に含まれるPFASを原位置にて回収するものである。
【0020】
本願発明の発明者は、撥水性と撥油性など一般的に知られるPFAS類の特性に着目するのではなく、その物理化学的な特性に着目してPFAS類を回収するという着想を得た。PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)、PFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)といったPFAS類は、SOOHやCOOHといったスルホ基やカルボキシ基の官能基を有している。この官能基は原子や分子が解離するとイオンとなり、これに伴ってPFAS類は地下水に溶解する。とはいえ自然状態で解離が進むのは極めて限定的であり、したがってPFAS類が地下水に溶解する量は期待できるほど多くない。
【0021】
そこで発明者は、注水と揚水によるPFAS類の回収に加え、官能基であるスルホ基やカルボキシ基の解離を促進すべくPFAS類にアルカリ成分を与えることとした。すなわち、水に炭酸塩や重炭酸塩、アンモニアなど水溶性のアルカリ成分を添加することによって注水用の溶液(以下、単に「注水液」という。)を生成し、このアルカリ性とされた注水液を地盤に注水するわけである。これにより、官能基の解離が進む結果、PFAS類が地下水に溶解し、その地下水を揚水することでPFAS類を回収するわけである。
【0022】
図1は、本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法を実施するためのPFAS浄化装置100の一例を模式的に示すモデル図である。この図に示すようにPFAS浄化装置100は、地盤内に構築される注水井戸101、揚水井戸102、及び監視井戸103と、地上に設置される注水液生成装置104、水処理装置105、揚水井戸用計測装置106、及び監視井戸用計測装置107と、揚水用ポンプ108を含んで構成することができる。なお揚水用ポンプ108は、揚水井戸102内に配置する(
図1では左側の揚水井戸102)こともできるし、地上に配置する(
図1では右側の揚水井戸102)こともできる。また後述するようにPFAS浄化装置100は、地盤内に構築される電極井戸109と、地上に設置される電源装置110を含んで構成することもできる。
【0023】
図2は、注水井戸101と揚水井戸102、監視井戸103の配置例を模式的に示す平面図である。この図に示すように、対象サイトPS内を網羅するように揚水井戸102を配置し、対象サイトPSの中央付近に注水井戸101を配置し、対象サイトPSのうち地下水の流向における下流側に監視井戸103を配置するとよい。もちろん
図2に示すような配置に限らず、その対象サイトPSや浄化目的などに応じて注水井戸101や揚水井戸102、監視井戸103を適宜設計して配置することができる。また
図2では、注水井戸101を9箇所に、揚水井戸102を4箇所に、監視井戸103を1箇所にそれぞれ配置しているが、1又は2以上の注水井戸101や揚水井戸102、監視井戸103を適宜設計して配置することができる。さらに、浄化期間中に、注水井戸101と揚水井戸102を入れ替えることもできる。
【0024】
土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法を実施する手順について、
図3を参照しながら説明する。
図3は、土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法の主な工程の流れを示すフロー図である。この図に示すように、はじめに注水や揚水などに関するいわゆる施工計画を立案する(
図3のStep201)。例えば、注水井戸101や揚水井戸102、監視井戸103を設置する数やその配置を計画することができる。また注水に関しては、配置された複数の注水井戸101のうち使用する注水井戸101や、単位時間当たりに注水する量(以下、単に「注水量」という。)、注水井戸101ごとの注水する深度(以下、単に「注水深度」という。)などを計画することができる。揚水に関しては、配置された複数の揚水井戸102のうち使用する揚水井戸102や、単位時間当たりに揚水する量(以下、単に「揚水量」という。)などを計画することができる。
【0025】
施工計画を立案すると、炭酸塩や重炭酸塩、アンモニアなど水溶性のアルカリ成分を水に添加することによって注水液を生成する(
図3のStep202)。ここで利用する水は、水道水や河川水など種々の水源のものを利用することができ、また後述するように揚水井戸102から揚水された地下水を利用することもできる。注水液を生成するにあたっては、生成された注水液があらかじめ設定されたpH範囲(以下、「pH許容値」という。)となるように生成するとよい。すなわち、pHを計測しながら徐々に量を増やすようにアルカリ成分を添加するわけである。なおpH許容値としては、7.0を超える10.0以下の範囲で設定し、特に8.5以上で9.0以下の範囲で設定することが望ましい。
【0026】
注水液を生成するすると、施工計画にしたがって注水井戸101から地盤に対して注水液を注水していく(
図3のStep203)。ここで注水する手法としては、注水井戸101をスクリーン井戸とした手法のほか、地盤改良の薬液注入技術(例えば、ダブルパッカー工法)や高圧噴射攪拌(例えば、CCP工法)を用いることもできる。
【0027】
注水液の注水を開始すると、揚水井戸102内(あるいは地上)に配置された揚水用ポンプ108を利用して地下水を揚水していく(
図3のStep204)。既述したように、アルカリ性とされた注水液を地盤に注水することによって、官能基であるスルホ基やカルボキシ基の解離が進む結果、PFAS類は地下水に溶解していく。そして、PFAS類が溶解した地下水を揚水することによって、PFAS類を回収することができるわけである。
【0028】
地下水を揚水すると、地上では水処理装置105を利用して地下水からPFAS類を除去する(
図3のStep205)。この水処理装置105は、地上まで揚水された地下水からPFAS類を除去する装置であり、従来用いられている種々の装置を利用することができる。例えば、活性炭を有する水処理装置105を利用し、地上まで揚水された地下水を活性炭に通すことによってPFAS類を除去することもできる。この場合、揚水された地下水を中性あるいは弱酸性にしたうえで、水処理装置によって処理する(活性炭に通す)とよい。PFAS類が除去された後の地下水は、種々の基準値を満たしていることを確認したうえで対象サイトPS外(系外)に排出することもできるし、注水液を生成するためにいわば再利用することもできる。
【0029】
土壌汚染対策法では、浄化対策実施中に監視井戸103で水質モニタリングを実施し、汚染地下水が拡散していないことを確認するよう定めている。一方、既往の規制物質と異なり短期間で分析可能な簡易分析法が確立されていないこともあり、PFAS類の分析には数週間要することから、濃度上昇を確認した時点では既にPFAS類が対象サイトPSの外側に拡散(以下、「系外拡散」という。)した状況となっていることも十分考えられる。そこで本願発明では、PFAS類を直接的に把握するのではなく、地下水のpHを測定することによってPFAS類の系外拡散を監視する(
図3のStep206)こととした。すなわち、アルカリ性の注水液が系外拡散している状況は、PFAS類も系外拡散している状況であると推認するわけである。具体的には、監視井戸用計測装置107を使用して監視井戸103内の地下水のpHを測定し、その測定値(pH)があらかじめ定めた値(以下、「pH上限値」)を超えるときに、PFAS類が系外拡散したと判断する。さらにpHの計測は、リアルタイム(常時監視)の実施が可能であり、しかも遠隔での確認も可能なため、汚染地下水の拡散を未然に防止することができる。
【0030】
対象サイトPSのPFAS類を全体的に回収するためには、注水された注水液が対象サイトPS全体に行き渡る状態が望ましい。そこで本願発明では、浄化作業中(注水~揚水)に、事前に立案した施工計画の妥当性を判断する(
図3のStep207)こととした。具体的には、揚水井戸用計測装置106を使用して揚水井戸102の地下水のpHを測定し、その測定値(pH)があらかじめ定めた値(以下、「効果確認値」という。)を超える(以上となる)ときは、その揚水井戸102の周辺に存在するPFAS類は有効に回収されていると判断する。一方、揚水井戸用計測装置106による測定値(pH)が「効果確認値」以下となる(未満となる)ときは、その揚水井戸102の周辺に存在するPFAS類は有効に回収されていないと判断する。そして、全て揚水井戸102に係る測定値(pH)が「効果確認値」を超えていると(
図3のStep208のYes)、事前に立案した施工計画で浄化作業を継続する。これに対して、PFAS類を有効に回収されていない揚水井戸102が検出されると(
図3のStep208のNo)事前に立案した施工計画を変更し(
図3のStep209)、新たな施工計画で浄化作業を再開する。例えば、利用する注水井戸101を変更したり、注水井戸101ごとの注水量や注水深度を変更したり、あるいは利用する揚水井戸102を変更したり、揚水井戸102ごとの揚水量を変更したりしたうえで、浄化作業を再開する。さらに、浄化期間中に、注水井戸101と揚水井戸102を入れ替えることもできる。
【0031】
(土壌加温装置)
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、土壌を加温したうえで、注水井戸101から地盤に対して注水液を注水し、揚水井戸102を通じて地下水を揚水することもできる。土壌を加温するにあたっては、電気抵抗加熱法を利用するとよい。
図4は電気抵抗加熱法を利用した土壌加温装置を模式的に示す図であり、(a)はその断面図、(b)はその平面図である。この電気発熱法は、土壌自体を発熱させるため均一に加温でき、しかも温度コントロールも容易であり、また電流が流れやすい(電気抵抗の低い)粘土層(高濃度の汚染が存在する場合が多い)の方が昇温しやすく、さらに熱効率が優れているため熱伝導(ヒーター)に比べ昇温にかかる消費電力を低減することができ、さらに土壌自体が昇温しているため、注水液の温度を上げる必要がなく、注水や揚水中も加温状態が維持できるといった特長を有している。
【0032】
図4(a)に示すように土壌加温装置は、対象範囲の土壌内に構築された電極井戸109と、地上に設置された電源装置110を含んで構成される。この電極井戸109は鋼製のケーシングで形成されており、電源装置110によって各電極井戸109のケーシングに三相交流電圧を印加することで、電極井戸109間に電流が流れ、その結果、途中の土壌にジュール熱が発生し、すなわち土壌を昇温させることができる。そのため各電極井戸109は、対象範囲の土壌を取り囲むように3以上の箇所に設置する必要があり、例えば
図4(b)に示すように複数の三角形を形成するように配置するとよい。なおこの図に示す4つの三角形はそれぞれ一辺が約3.5mの正三角形となっているが、もちろんこれに限らず種々の形状となるよう電極井戸109を配置することができる。
【0033】
土壌を加温するにあたっては、まず電源装置110によって各電極井戸109のケーシングに三相交流電圧を印加し、土壌が計画した温度(以下、「計画温度」という。)になるまで昇温する。そして土壌が計画温度まで昇温すると、その温度を維持するように土壌加温装置による加温を継続する。土壌が計画温度にされると、注水井戸101から地盤に対して注水液を注水し(
図3のStep203)、揚水井戸102内(あるいは地上)に配置された揚水用ポンプ108を利用して地下水を揚水していく(
図3のStep204)。この間も印加電圧を調整することで、計画温度を維持する。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明の土壌地下水中の有機ふっ素化合物浄化方法は、PFOSやPFOAといったPFAS類有機フッ素化合物が製造され、使用され、排出され、あるいは副生成される操業地(あるいは操業跡地)や不法投棄場所等で利用することができる。本願発明が、我が国の環境改善にとって極めて有益であることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献が期待できる発明といえる。
【符号の説明】
【0035】
100 PFAS浄化装置
101 (PFAS浄化装置の)注水井戸
102 (PFAS浄化装置の)揚水井戸
103 (PFAS浄化装置の)監視井戸
104 (PFAS浄化装置の)注水液生成装置
105 (PFAS浄化装置の)水処理装置
106 (PFAS浄化装置の)揚水井戸用計測装置
107 (PFAS浄化装置の)監視井戸用計測装置
108 (PFAS浄化装置の)揚水用ポンプ
109 (PFAS浄化装置の)電極井戸
110 (PFAS浄化装置の)電源装置
PS 対象サイト