(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139688
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】プラズマ源
(51)【国際特許分類】
H01J 27/14 20060101AFI20241002BHJP
H01J 27/20 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
H01J27/14
H01J27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008117
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023050019
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 穂香
(72)【発明者】
【氏名】藤田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】平井 裕也
(57)【要約】
【課題】チャンバ内を通過する磁束の向きを調整できるようにする。
【解決手段】プラズマが生成されるチャンバ10と、チャンバ10に設けられて電子を放出するカソード20と、チャンバ10の周囲に設けられて、チャンバ10内に磁束を通過させる電磁石30とを備え、電磁石30が、コイルCと、コイルCが通電されることで発生する磁束をチャンバ10内に到達させる複数の磁束通過部材30xとを有し、少なくとも1つの磁束通過部材30xの使用態様が変更可能であるようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマが生成されるチャンバと、
前記チャンバに設けられて電子を放出するカソードと、
前記チャンバの周囲に設けられて、前記チャンバ内に磁束を通過させる電磁石とを備え、
前記電磁石が、
コイルと、
前記コイルが通電されることで発生する磁束を前記チャンバ内に到達させる複数の磁束通過部材とを有し、
少なくとも1つの前記磁束通過部材の使用態様が変更可能であることを特徴とするプラズマ源。
【請求項2】
前記使用態様が、前記磁束通過部材の向き、寸法、位置、又は、有無であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ源。
【請求項3】
前記電磁石が、
前記カソード側と前記カソードとは反対側とに設けられて、前記チャンバを挟み込む一対の磁極部材を前記磁束通過部材として有し、
一方又は両方の前記磁極部材の前記チャンバを向く端面が、前記カソードと前記カソードに対向配置されている部材との対向方向に対して傾いていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ源。
【請求項4】
一方又は両方の前記磁極部材が、前記端面の前記対向方向に対する傾きが変わるように回転可能であることを特徴とする請求項3記載のプラズマ源。
【請求項5】
前記電磁石が、
先端部に一方の前記磁極部材が設けられている第1ヨーク要素と、
先端部に他方の前記磁極部材が設けられている第2ヨーク要素と、
前記第1ヨーク要素の基端部及び前記第2ヨーク要素の基端部を接続するとともに、前記コイルが巻回されるコア要素とをそれぞれ前記磁束通過部材として有し、
前記第1ヨーク要素の前記基端部から前記先端部までの長さと、前記第2ヨーク要素の前記基端部から前記先端部までの長さが互いに異なることを特徴とする請求項3記載のプラズマ源。
【請求項6】
前記第1ヨーク要素又は前記第2ヨーク要素の一方又は両方が、前記基端部から前記先端部までの長さを変更可能に構成されていることを特徴とする請求項5記載のプラズマ源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマ源の一例としては、特許文献1に示されたイオン注入装置に使用されるイオン源がある。このイオン源は、チャンバ内に設けられたカソードとリフレクタとを対向配置させるとともに、チャンバの周囲に設けられた電磁石を用いてチャンバ内に磁束を通過させることで、カソードから放出される電子をリフレクタに向かわせるように構成されている。
【0003】
上述した構成において、チャンバ内にプラズマ生成用ガスを供給することで、電子がプラズマ生成用ガスを電離させてプラズマが生成され、チャンバに形成された引出口からイオンビームが引き出される。
【0004】
従来の構成では、チャンバ内を通過する磁束の向きが決まっており、カソードから放出される電子や磁束に補足されるプラズマ中のイオンが、例えばリフレクタの中心部に多く当たる場合は、中心部が局所的に消耗することになる。
【0005】
また、電子やイオンが、例えばリフレクタの中心部からずれた箇所に多く当たる場合は、リフレクタは全体が均一に消耗するのではなく、そのずれた箇所が局所的に消耗することになる。つまり、従来の構成では、リフレクタの全体を均一に消耗させることができなかった。
【0006】
これらの結果、リフレクタを頻繁に交換する必要があった。
【0007】
なお、局所的な消耗が生じる問題は、リフレクタに限って生じるものではなく、例えばスパッタターゲットがカソードに対向配置されている場合には、そのスパッタターゲットにおいても共通して生じる問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題を解決するものであり、チャンバ内を通過する磁束の向きを調整できるようにし、カソードに対向配置されているリフレクタやターゲットなどの部材を均一に消耗できるようにすることを主たる目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係るプラズマ源は、プラズマが生成されるチャンバと、前記チャンバに設けられて電子を放出するカソードと、前記チャンバの周囲に設けられて、前記チャンバ内に磁束を通過させる電磁石とを備え、前記電磁石が、コイルと、前記コイルが通電されることで発生する磁束を前記チャンバ内に到達させる複数の磁束通過部材とを有し、少なくとも1つの前記磁束通過部材の使用態様が変更可能であることを特徴とするものである。
【0011】
このように構成されたプラズマ源によれば、電磁石を構成する磁束通過部材の使用態様を変更することができるので、これによりチャンバ内を通過する磁束の向きを変えることができる。
その結果、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を調整することが可能となり、ひいてはカソードに対向配置されているリフレクタやターゲット等の部材を均一に消耗させることができる。
【0012】
具体的な前記使用態様としては、前記磁束通過部材の向き、寸法、又は、有無である態様を挙げることができる。
これならば、チャンバ内を通過する磁束を種々の向きに変えることができ、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布の調整の自由度が向上する。
【0013】
前記電磁石が、前記カソード側と前記カソードとは反対側とに設けられて、前記チャンバを挟み込む一対の磁極部材を前記磁束通過部材として有し、一方又は両方の前記磁極部材の前記チャンバを向く端面が、前記カソードと前記カソードに対向配置されている部材との対向方向に対して傾いている構成であってもよい。
この構成によれば、一方又は両方の磁極部材の端面が対向方向に対して傾いているので、これらの磁極部材により形成されるチャンバ内の磁束の通過する向きを、対向方向に対して傾けることができる。
従って、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を、リフレクタ表面やターゲット表面の狙った箇所が消耗するように調整することが可能となる。
【0014】
また、一方又は両方の前記磁極部材が、前記端面の前記対向方向に対する傾きが変わるように回転可能である構成としてもよい。
この構成によれば、磁極部材を回転させることでチャンバ内を通過する磁束の向きを変えることができるので、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布の調整作業が容易となる。
【0015】
前記電磁石が、先端部に一方の前記磁極部材が設けられている第1ヨーク要素と、先端部に他方の前記磁極部材が設けられている第2ヨーク要素と、前記第1ヨーク要素の基端部及び前記第2ヨーク要素の基端部を接続するとともに、コイルが巻回されるコア要素とをそれぞれを前記磁束通過部材として有し、前記第1ヨーク要素の前記基端部から前記先端部までの長さと、前記第2ヨーク要素の前記基端部から前記先端部までの長さが互いに異なる構成としてもよい。
この構成によれば、第1ヨーク要素と第2ヨーク要素との基端部から先端部までの長さが異なるので、一対の磁極部材の対向方向である磁極対向方向を上述した対向方向に対して傾かせることができ、これらの磁極部材により形成されるチャンバ内の磁束の通過する向きを、対向方向に対して傾けることができる。
従って、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を、リフレクタ表面やターゲット表面の狙った箇所が消耗するように調整することが可能となる。
【0016】
前記第1ヨーク要素又は前記第2ヨーク要素の一方又は両方が、前記基端部から前記先端部までの長さを変更可能に構成されていることが好ましい。
このような構成であれば、第1ヨーク要素又は第2ヨーク要素の長さを変えることでチャンバ内を通過する磁束の向きを変えることができるので、カソードから放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布の調整作業が容易である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、チャンバ内を通過する磁束の向きを調整することができ、カソードに対向配置されている部材を全体的に均一に消耗させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ源の構成を示す模式的な断面図。
【
図2】同実施形態のプラズマ源における、チャンバ及びその周辺の構成を示す模式的な断面図。
【
図3】同実施形態のプラズマ源における、
図2のI-I線での断面図。
【
図4】同実施形態のプラズマ源における、磁極部材を示す斜視図。
【
図5】その他の実施形態に係るプラズマ源の構成を示す模式的な断面図。
【
図6】その他の実施形態に係るプラズマ源の構成を示す模式的な断面図。
【
図7】その他の実施形態に係るプラズマ源の構成を示す模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るプラズマ源の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は本実施形態のプラズマ源100の構成を示す模式的な断面図である。
本実施形態のプラズマ源100は、イオン注入装置等のイオンビーム照射装置を構成するものであり、所定のイオンを含むイオンビームを発生させるものである。
なお、本発明におけるプラズマ源は、インビーム照射装置に使用されるものに限らず、プラズマ照射装置に使用されるものであってもよい。
【0021】
図1に示すように、プラズマ源100は、内部でプラズマが生成されるチャンバ10と、チャンバ10内に電子を放出するカソード20と、チャンバ10内を通過する磁束を生じさせる電磁石30とを備えている。また、本実施形態におけるプラズマ源100は、カソード20に対向配置される部材である対向部材40をさらに備えている。本実施形態における対向部材40は、チャンバ10内のイオンや電子によりスパッタリングされて所定のイオンを放出するスパッタターゲットである。
【0022】
対向部材40は、カソード20に対向する面がチャンバ10の内部にあるように配置されるものであればよく、スパッタターゲットに限定されるものではない。対向部材40は、例えば、カソード20から放出された電子を反射するためのリフレクタであってもよい。また、プラズマ源100のより具体的な一実施態様としては、アルミニウムイオンを含むイオンビームを発生させるものであって、スパッタリングターゲットである対向部材40がアルミニウムを含む材料で形成されている態様を挙げることができる。
【0023】
図2は、プラズマ源100における、チャンバ10及びチャンバ10の周辺の構成を示す模式的な断面図である。また、
図3は、プラズマ源100の
図2のI-I線における模式的な断面図である。なお、
図3では、後述する磁束通過部材30xのうち、第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び磁極部材31のみが示されている。
図2及び
図3に示すように、チャンバ10は、チャンバ10の一つの側壁に形成されたビーム引出口11を有する。
【0024】
図3に示すように、プラズマ源100は、チャンバ10の外側において、ビーム引出口11と対向するように配置された引出電極50を備えている。本実施形態におけるビーム引出口11は長方形の開口をなす。また、チャンバ10は、直方体形状をなす。なお、ビーム引出口11及びチャンバ10の形状は本実施形態の形状に限定されるものではない。
【0025】
チャンバ10のビーム引出口11が形成された側壁と対向する側壁には、ガス導入口12が形成されており、ガス導入口12を介して、例えばフッ素などを含むイオン化ガスがチャンバ10内に導入される。
【0026】
図1~
図3及び
図5~
図7に示されたX軸、Y軸、Z軸は互いに垂直である。本実施形態においては、
図3に示されるチャンバ10の長手方向LはZ軸に平行である。また、
図3に示されるように、本実施形態においては、イオンビームはチャンバ10からX軸に平行な方向に引き出される。
【0027】
図2に示すように、カソード20は、チャンバ10の長手方向Lの一端側に設けられており、本実施形態ではチャンバ10の長手方向一端側の側壁部13(
図2及び
図3においては上壁部13)に設けられている。また、カソード20は、加熱されることによってチャンバ10内に熱電子を放出する陰極部材21と、当該陰極部材21を加熱するフィラメント22とを有する。
【0028】
図1に示すように、電磁石30は、チャンバ10の周囲に設けられ、チャンバ10内を通過する磁束を発生させるものであり、通電されて起磁力を発生させるコイルCと、このコイルCが通電されることで発生する磁束をチャンバ10内に到達させる複数の磁束通過部材30xとを有している。
【0029】
電磁石30は、チャンバ10の長手方向Lについてチャンバ10を挟み込む一対の磁極部材31と、これらの磁極部材31を保持するとともに、チャンバ10の周囲に設けられた本体32と、本体32が有するコア要素323に巻回されたコイルCとを備えており、一対の磁極部材31及び本体32それぞれが磁束通過部材30xである。なお、本実施形態のプラズマ源100は、この電磁石30に特徴があるので、詳細は以下で述べる。
【0030】
図2及び
図3に示すように、スパッタターゲットである対向部材40は、チャンバ10内においてカソード20に対向するように配置されており、カソード20から放出された電子やチャンバ10内で生成されたプラズマ中のイオン(荷電粒子)によってスパッタリングされて例えばアルミニウムイオンなどを放出する。対向部材40は、例えば回転体形状をなすものである。なお、この回転体形状は、対向部材40が未使用の状態(スパッタリングされる前の状態)における形状である。
【0031】
すなわち、この対向部材40は、チャンバ10の長手方向Lの他端側に設けられており、ここではチャンバ10の長手方向他端側の側壁部14(
図2及び
図3においては下壁部14)に例えば螺子等の固定部材60を用いて固定されている。
【0032】
本実施形態のプラズマ源100は、カソード20から放出された電子やチャンバ10内に生成したイオンを対向部材40表面の所望箇所に向かって進ませようとするものである。具体的には、電子やイオンを対向部材40表面の中心部に向かって進ませようとする場合、その進ませようとする狙い方向は、カソード20と、このカソード20に対向配置されている部材の対向方向D、すなわちカソード20と対向部材40との対向方向Dとなる。一方、電子やイオンを対向部材40表面における中心部よりも外側に向かって進ませようとする場合、その進ませようとする狙い方向は、対向方向Dに対して傾いた方向となる。
【0033】
この対向方向Dは、カソード20から放出される電子の主たる放出方向であり、ここではチャンバ10の長手方向Lに沿った方向である。なお、本実施形態においては、対向方向D及び長手方向Lは図中のZ軸に平行である。
【0034】
本実施形態のプラズマ源100は、上述した電磁石30を構成する磁束通過部材30xの使用態様が変更可能であることを特徴とするものである。
【0035】
本実施形態における磁束通過部材30xの使用態様とは、磁束通過部材30xの向き、寸法、又は、有無の少なくとも1つを示す概念であり、言い換えれば、本実施形態のプラズマ源100は、磁束通過部材30xの向きを変更可能、磁束通過部材30xの寸法を変更可能、又は、磁束通過部材30xの有無を変更可能に構成されたものである。
【0036】
より詳細に説明すると、本実施形態の電磁石30は、上述した通り、一対の磁極部材31と本体32とコイルCとを有している。そして、
図1に示すように、本体32が、一方の磁極部材31が設けられている第1ヨーク要素321と、他方の磁極部材31が設けられている第2ヨーク要素322と、第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322を接続するとともに、コイルCが巻回されるコア要素323とを有している。
【0037】
この構成において、コイルCに通電して起磁力を発生させると、コア要素323で発生した磁束が、第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び、磁極部材31を介してチャンバ10内に到達する。従って、少なくとも第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び、磁極部材31は、磁束通過部材30xである。
【0038】
そして、これらの第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び、磁極部材31の少なくとも1つが、使用態様を変更可能に構成された磁束通過部材30xである。
【0039】
以下では、説明の便宜上、第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及びコア要素323を説明した後に、磁極部材31について説明する。
【0040】
第1ヨーク要素321は、対向方向Dと直交する方向に延びており、その先端部a1に一方の磁極部材31が取り付けられている。
【0041】
図1に示すように、第2ヨーク要素322は、第1ヨーク要素321と平行に延びており、その先端部a2に他方の磁極部材31が取り付けられている。
【0042】
コア要素323は、対向方向Dと平行に延びており、第1ヨーク要素321の基端部b1と第2ヨーク要素322の基端部b2を接続するものである。
【0043】
なお、第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び、コア要素323は、一体的に設けられていても良いし、一部又は全部が別体であっても良い。
【0044】
本実施形態では、
図1に示すように、コア要素323を通過するとともに、コイルCの中心軸に沿った基準仮想線Aを想定した場合に、この基準仮想線Aから第1ヨーク要素321の先端部a1までの長さと、基準仮想線Aから第2ヨーク要素322の先端部a2までの長さが互いに異なる。なお、この基準仮想線Aは、この実施形態では、第1ヨーク要素321の基端部b1及び第2ヨーク要素322の基端部b2を通過している。
【0045】
ここでは、第1ヨーク要素321の先端部a1が、基準仮想線Aを基準としてチャンバ10よりも遠い側に位置しており、第2ヨーク要素322の先端部a2が、基準仮想線Aを基準としてチャンバ10よりも近い側に位置している。
【0046】
つまり、第1ヨーク要素321の先端部a1と第2ヨーク要素322の先端部a2とは、対向方向Dと直交する方向で、基準仮想線Aからの距離が異なる位置に設けられている。
【0047】
上述した構成により、第1ヨーク要素321の先端部a1と第2ヨーク要素322の先端部a2とを結ぶ第1仮想線A1がチャンバ10を通り、且つ、対向方向Dに対して傾いている。
【0048】
第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方は、基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さを、言い換えれば基準仮想線Aから先端部a1、a2までの長さを変更可能に構成されている。
【0049】
本実施形態における第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322は、図中のY軸に沿って配置されており、本実施形態のプラズマ源100は、基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さをY軸に平行な方向に変更可能である。言い換えれば、本実施形態のプラズマ源100は、対向方向D(Z軸に平行)及びイオンビームを引き出す方向(X軸に平行)に垂直な方向について第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322の長さをそれぞれ変更可能である。
【0050】
より具体的に説明すると、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方の全体が、コア要素323に着脱可能に設けられている。
【0051】
上述した構成により、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方として、基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さが異なるものを予め準備しておき、これらの中からコア要素323に取り付けるものを選択することで、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方の基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さを変更することができる。
【0052】
また、長さを変更可能とする別の実施態様としては、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方は、基端部b1、b2から先端部a1、a2に向かって着脱可能に配列された複数の磁性体(ここでは、軟鉄)からなり、言い換えれば、その磁性体の配列数を変更可能に構成されていても良い。
【0053】
これにより、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方は、磁性体の配列数を変更することで、基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さを段階的に変更することができる。
【0054】
次に、磁極部材31について説明する。
【0055】
図4は、本実施形態における一つの磁極部材31を示す斜視図である。
一対の磁極部材31は、
図1に示すように、チャンバ10を挟み込む位置に設けられており、具体的には、一方の磁極部材31がカソード20側に設けられており、他方の磁極部材31がカソード20とは反対側に設けられている。
【0056】
これらの磁極部材31は、上述した本体32とは別部材であり、ここでは本体32と同じ材質である軟鉄などからなる磁性体である。ただし、磁極部材31は、本体32と一体的に設けられていても良いし、本体32とは別の材質からなる磁性体(例えば、永久磁石)であっても良い。
【0057】
本実施形態では、上述したように、第1ヨーク要素321の先端部a1と第2ヨーク要素322の先端部a2とが、基準仮想線Aと直交する方向で、基準仮想線Aからの距離が異なる位置に設けられており、これらの第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322それぞれの先端部a1、a2に磁極部材31が設けられていることから、一方の磁極部材31と他方の磁極部材31とを結ぶ第2仮想線A2がチャンバ10を通り、且つ、対向方向Dに対して傾いている。
【0058】
各磁極部材31は、
図2及び
図4に示すように、例えば断面が四角状や円状などであり、柱状をなす磁性体を中心軸に対して傾斜した傾斜面で切り欠いた形状であり、この実施形態では、その切り欠かれた端面311がチャンバ10を向くように配置されている。
【0059】
すなわち、磁極部材31のチャンバ10を向く端面311は、対向方向Dに対して傾いており、本実施形態では、この傾斜面と対向方向Dとのなす角度θを変更可能にしてある。
【0060】
より具体的に説明すると、一方の磁極部材31は、第1ヨーク要素321に着脱可能に設けられており、他方の磁極部材31は、第2ヨーク要素322に着脱可能に設けられている。
【0061】
上述した構成により、磁極部材31として予め準備した種々の形状のものを用いることができ、端面311の傾きの異なる複数の磁極部材31を準備しておくことにより、これらの中から使用する磁極部材31を選択することで、端面311と対向方向Dとのなす角度θを変更することができる。
【0062】
以下、このプラズマ源100の使用方法を簡単に説明する。
【0063】
まずは、従来の通り、チャンバ10内を通過する磁束が対向方向Dに沿って形成されている想定でプラズマ源100を運転する。
【0064】
その後、対向部材40の消耗箇所を確認する。そして、その消耗箇所が対向部材40の表面で不均一に消耗していたら、最も消耗が少ない箇所に磁束が向くように一又は複数の磁束通過部材30xの使用態様を変更することで、その変更後は、対向部材40をより均等に消耗させることができる。
【0065】
このように構成された本実施形態のプラズマ源100によれば、電磁石30を構成する磁束通過部材30xの使用態様を変更することができるので、これによりチャンバ10内を通過する磁束の向きを変えることができる。
その結果、カソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を調整することが可能となり、カソード20に対向配置されている対向部材40が局所的に消耗してしまうことを防ぐことができる。
【0066】
また、磁束通過部材30xである第1ヨーク要素321、第2ヨーク要素322、及び、磁極部材31の使用態様を変更することができるので、チャンバ内を通過する磁束を種々の向きに変えることができ、カソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布の調整の自由度の向上を図れる。
【0067】
さらに、一対の磁極部材31の端面311が対向方向Dに対して傾いているので、これらの磁極部材31により形成される磁束の通過する向きを対向方向Dに対して傾けることができる。
これにより、カソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を、対向部材40表面の狙った箇所が消耗するように調整することが可能となる。
【0068】
加えて、第1ヨーク要素321の基端部b1から先端部a1までの長さと、第2ヨーク要素322の基端部b2から先端部a2までの長さが互いに異なり、第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322それぞれの先端部a1、a2に磁極部材31を設けているので、これらの磁極部材31の対向方向である磁極対向方向を対向方向Dに対して傾かせることができ、これらの磁極部材31により形成される磁束の通過する向きを対向方向Dに対して傾けることができる。
これにより、上述したように、カソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を、対向部材40表面の狙った箇所が消耗するように調整することが可能となる。
【0069】
そのうえ、第1ヨーク要素321及び第2ヨーク要素322が、基端部b1、b2から先端部a1、a2までの長さを変更可能に構成されているので、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の長さを変えることでチャンバ10内を通過する磁束の向きを変えることができ、カソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布の調整作業が容易である。
【0070】
本実施形態におけるプラズマ源100においては、プラズマ源100の使用に伴って対向部材40の一部分が局所的に消耗した場合であっても、磁束通過部材30xの使用態様を変更し、続いて対向部材40の消耗が少ない箇所が消耗するようにチャンバ10内のカソード20から放出された電子の進む方向、プラズマ中のイオンの進む方向、或いは、プラズマ分布を調整することができる。
その結果、対向部材40全体を略均一に消耗させることができるようになり、対向部材40の交換頻度を低減することも可能となる。
【0071】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0072】
例えば、端面311が対向方向Dに対して傾斜した磁極部材31が設けられていれば、基準仮想線Aから第1ヨーク要素321の先端部a1までの長さと、基準仮想線Aから第2ヨーク要素322の先端部a2までの長さが互いに等しくても構わない。
【0073】
また、
図5に示すように、基準仮想線Aから第1ヨーク要素321の先端部a1までの長さと、基準仮想線Aから第2ヨーク要素322の先端部a2までの長さが互いに異なれば、前記実施形態で述べた磁極部材31が設けられていなくても良い。
【0074】
さらに、前記実施形態では磁極部材31が対向方向Dに対して傾斜した端面311を有していたが、第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の一方又は両方の先端部a1、a2が、対向方向Dに対して傾斜した端面を有していても良い。
【0075】
前記実施形態では、一対の磁極部材31それぞれが本体32に着脱可能である態様を説明したが、一方の磁極部材31のみが本体32に着脱可能であっても良いし、一対の磁極部材31それぞれが本体32と一体的に設けられて着脱不能であっても良い。
【0076】
さらに、一方又は両方の磁極部材31が、対向方向Dに対する対向面の傾きが変わるように回転可能であっても良い。
このような構成であれば、磁極部材31を回転させることでチャンバ10内を通過する磁束の向きを変えることができるので、電子の進む方向の調整作業が容易である。
【0077】
そのうえ、一対の磁極部材31は、前記実施形態ではそれぞれの端面311が互いに対向するように設けられていたが、
図6に示すように、それぞれの端面311が反対を向くように設けられていても良い。
【0078】
また、コイルCが巻回されるコア要素323が配置される位置は本実施形態の位置に限定されず、例えば、本実施形態における第1ヨーク要素321又は第2ヨーク要素322の位置にあってもよい。
【0079】
前記実施形態では電磁石30を構成する磁束通過部材30xの使用態様を変更可能にする場合について説明したが、磁束通過部材30xとしては、
図7に示すように、電磁石30とは別の磁束が通過する第2の磁束通過部材70であっても良い。
この第2の磁束通過部材70についても、コイルCの起磁力によりコア要素323で発生した磁束をチャンバ10内に到達させるものであり、その使用態様が変更可能なものである。この場合、電磁石30を構成する磁束通過部材30xの使用態様については、変更可能であっても良いし、変更不能であっても良い。
【0080】
このような構成であっても、第2の磁束通過部材70の使用態様を変更することで、チャンバ10内を通過する磁束の向きを変えることができ、その結果、カソード20から放出された電子の進む方向を、例えば対向部材40の例えば中心部に向かうように調整することが可能となり、対向部材40が局所的に消耗してしまうことを防ぐことができる。
【0081】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0082】
100・・・プラズマ源
10 ・・・チャンバ
20 ・・・カソード
30 ・・・電磁石
30x・・・磁束通過部材
31 ・・・磁極部材
311・・・端面
32 ・・・ヨーク
321・・・第1ヨーク要素
322・・・第2ヨーク要素
323・・・コア要素
40 ・・・対向部材
D ・・・対向方向