(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139689
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】組成物、組成物を備える蓄熱材及び食品保冷用具
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20241002BHJP
F25D 3/00 20060101ALI20241002BHJP
F28D 20/02 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
C09K5/06 A ZAB
F25D3/00 A
F28D20/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024014451
(22)【出願日】2024-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2023050235
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 優
【テーマコード(参考)】
3L044
【Fターム(参考)】
3L044AA04
3L044BA01
3L044CA11
3L044DC04
3L044KA01
(57)【要約】
【課題】蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、蓄熱材及び食品保冷用具を提供する。
【解決手段】水と、アミノ酸及び/又はその塩と、無機塩とを含む、蓄熱材用の組成物、前記組成物を含む蓄熱材、及び、食品保冷用具である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、アミノ酸及び/又はその塩と、無機塩とを含む、蓄熱材用の組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸が疎水性アミノ酸である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記無機塩が塩化ナトリウムである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える蓄熱材。
【請求項5】
容器と、前記容器内に収納された請求項1又は2に記載の組成物と、を備える食品保冷用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、組成物を備える蓄熱材及び食品保冷用具に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の温度を保つための蓄熱材の一つに、相変化材料がある。相変化材料は、固相から液相への相変化時の潜熱を利用して温度を一定に保つ機能を有する材料のことを指す。
【0003】
蓄熱材に求められる特性の一つとして、特に生鮮食品用途、冷凍食品用途、又は、医薬品用途にて、比較的低温の温度帯(例えば、-30℃以上-15℃以下等)を保持する機能が挙げられる。
【0004】
このような温度帯に適した蓄熱材として、無機塩の水溶液を用いた蓄熱材がある。例えば-15℃の保持には塩化アンモニウム水溶液、-21℃の保持には塩化ナトリウム水溶液がそれぞれ用いられる。
【0005】
しかしながら、無機塩水溶液を用いた蓄熱材は、固相化させる際に過冷却が生じ、融点よりも更に低い温度(融点から-10℃以下)まで冷却する必要が生じる場合がある。
【0006】
一般的には、蓄熱材の凝固には凍結庫等が用いられる。例えば、過冷却を考慮すると、保冷剤の融点が-21℃付近である保冷剤の凍結には、設定温度が-35℃の凍結庫が必要となる。凍結庫は、設定温度が-25℃のものが多く、設定温度が低温になるほど多くの電力を消費し、更なる設備投資が必要となる場合もある。
過冷却を防止することができれば、融点が-21℃付近である比較的低い保冷剤の凍結においても、-25℃以上で凍結可能となる。これにより、凍結庫の未利用熱エネルギーを有効に使用することができ、省エネ、CO2排出の削減に寄与することができる。また、電力の消費が抑えられ、追加の設備投資も不要となるので、コストも削減することができる。
上記のような理由から、過冷却を解消すべく様々な研究がなされている。例えば、特許文献1では、過冷却防止剤として硫酸ナトリウム10水和塩を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示された硫酸ナトリウムには、1水和塩、7水和塩、10水和塩と種類が多く存在し、それぞれ溶解性等の性質が異なるため、蓄熱材を繰り返し使用した際に過冷却抑制効果の安定性に欠ける。このような技術以外にも、過冷却を解消するために多くの研究がなされているが、十分な性能を有する蓄熱材とすることは困難であった。
【0009】
そこで本発明は、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、蓄熱材及び食品保冷用具の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意検討を行い、特定の成分を含有する組成物によって上記課題を解決可能なことを見出した。即ち、本発明は以下の通りである。
【0011】
本発明の第1の形態は、
水と、アミノ酸及び/又はその塩と、無機塩とを含む、蓄熱材用の組成物である。
【0012】
前記アミノ酸が疎水性アミノ酸であることが好ましい。
前記無機塩が塩化ナトリウムであることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の形態は、
容器と、前記容器内に収納された前記組成物と、を備える蓄熱材である。
【0014】
本発明の第3の形態は、
容器と、前記容器内に収納された前記組成物と、を備える食品保冷用具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、蓄熱材を構成するのに適した、優れた性能を有する組成物、当該組成物を備える蓄熱材及び食品保冷用具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下において、上限値と下限値とが別々に記載されている場合、任意の上限値と任意の下限値とを組み合わせた数値範囲が実質的に開示されているものとする。
【0017】
また、ある化合物が記載されている場合、その異性体も同時に記載されているものとする。
【0018】
特に断らない限り、各種測定は、環境温度を室温(25℃)として実施する。
【0019】
以下、組成物の、成分、物性/性質、用途等について具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0020】
<<<組成物>>>
<<成分>>
本開示の組成物は、水と、アミノ酸及び/又はその塩と、無機塩とを含むことが好ましい。
本開示の組成物は、その他の成分を含んでいてもよい。
以下、それぞれの成分について説明する。
【0021】
<水>
水は、蒸留水、イオン交換水、RO(逆浸透膜)水等の純水や超純水が用いられてもよい。
【0022】
組成物中の水の含有量は、別の成分の濃度等を考慮して調整可能であり、例えば、組成物全量に対して、20.0質量%以上、30.0質量%以上、40.0質量%以上、又は、50.0質量%以上等とすることができ、また、90.0質量%以下、80.0質量%以下、70.0質量%以下等とすることができる。
【0023】
<アミノ酸及びその塩>
アミノ酸及びその塩は、カルボキシル基とアミノ基とを有する化合物であれば特に限定されない。
【0024】
アミノ酸は、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)であってもよいし、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸、又は、極性無電荷アミノ酸等の極性アミノ酸(親水性アミノ酸)であってもよい。アミノ酸塩は、上記アミノ酸の塩であり、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などであってもよい。
アミノ酸又はアミノ酸塩の少なくともいずれか一方が含まれていてもよい。また、アミノ酸及びアミノ酸塩の両方が含まれていてもよい。なお、以下において、単に「アミノ酸の含有量」と表記された場合、「アミノ酸及びアミノ酸塩の合計の含有量」と読み替えてもよい。
【0025】
非極性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン等が挙げられる。
【0026】
酸性アミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等が挙げられる。
【0027】
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、リシン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0028】
極性無電荷アミノ酸としては、例えば、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、システイン、チロシンが挙げられる。
【0029】
アミノ酸は、D体であってもL体であってもよい。
【0030】
アミノ酸は、前述した以外のアミノ酸であってもよい。
【0031】
過冷却抑制の効果をより高めるという観点で、アミノ酸は、水への溶解度がより低いことが好ましい。なかでも、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)が好ましく、特にL-ロイシンがより好ましい。具体的には、アミノ酸の水への溶解度(25℃)の上限値は、30g/100ml以下が好ましく、25g/100ml以下がより好ましく、20g/100ml以下が更に好ましい。アミノ酸の水への溶解度(25℃)の下限値については、特に限定されず、例えば、0.1g/100ml以上、0.5g/100ml以上、1.0g/100ml以上、1.5g/100ml以上である。
【0032】
上記アミノ酸の水への溶解度に関わらず、アミノ酸を添加すると、蓄熱材の冷却時に析出したアミノ酸の結晶が結晶核剤として作用するため、過冷却が抑制される。アミノ酸の水への溶解度がより低ければ(上記範囲内であれば)、アミノ酸の結晶がより析出しやすくなるため、結晶核剤としてより作用しやすくなる。
また、アミノ酸を添加しても、融点の変化、潜熱量の減少が抑制され、蓄熱材性能への影響が少ない。
【0033】
組成物中のアミノ酸の含有量は、例えば、組成物中の水と無機塩との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、又は、0.8質量部以上とすることが好ましく、また、10.0質量部以下、8.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は、1.5質量部以下とすることが好ましい。
【0034】
また、別の観点では、組成物中のアミノ酸の含有量は、例えば、組成物中の水含有量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、0.8質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることが好ましく、また、15.0質量部以下、10.0質量部以下、5.0質量部以下、3.0質量部以下、2.0質量部以下、又は、1.8質量部以下とすることが好ましい。
【0035】
組成物中のアミノ酸の含有量をX質量%とし、アミノ酸(又はアミノ酸塩)の25℃の溶解度をYg/100mlとし、組成物中の水及び無機塩(例えば、塩化ナトリウム)の合計の含有量を100質量部としたときの水の含有量をaw質量%、無機塩(例えば、塩化ナトリウム)の含有量をas質量%としたときに、[X≦(aw-as×2)×Y/100]を満たすことが好ましく、[(aw-as×2)×Y/1500≦X≦(aw-as×2)×Y/100]を満たすことがより好ましい。このような範囲を満たす組成物とすることで、常温において均一な組成物とし易くなり、更には、製造時に均質な製品を製造し易くなる。
【0036】
また、別の観点では、組成物中のアミノ酸の含有量をX質量%とし、アミノ酸(又はアミノ酸塩)の25℃の溶解度をYg/100mlとしたときに、X≦Y×1/3を満たすことが好ましい。アミノ酸の含有量をこのような範囲とすることで、常温において均一な組成物とし易くなる。
【0037】
<無機塩>
無機塩としては、限定されないが、例えば、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物等)、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等が挙げられる。無機塩は、塩化物であることが好ましい。
【0038】
また、無機塩は、アンモニウム塩、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であることが好ましく、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩)であることがより好ましく、カリウム塩又はナトリウム塩であることが更に好ましく、なかでも、塩化ナトリウムが最も好ましい。
【0039】
無機塩の水への溶解度(25℃)は、1g/100g以上、5g/100g以上、10g/100g以上、20g/100g以上、又は、30g/100g以上のものであることが好ましい。この溶解度の上限値は、特に限定されないが、200g/100g、150g/100g、100g/100g、又は、50g/100g等である。
【0040】
組成物中の無機塩の含有量は、組成物全量を100.0質量%としたときに、15質量%以上、18質量%以上、20質量%以上であることが好ましい。上限値としては、特に限定されず、32.0質量%以下、30.0質量%以下、28.0質量%以下であることが好ましい。また、無機塩とアミノ酸との含有量の比は、1:50~1:10の範囲であることが好ましい。より詳細には、組成物中の、無機塩の含有量に対するアミノ酸の含有量の比率(アミノ酸/無機塩)は、0.001以上、0.002以上、0.005以上、0.010以上、又は、0.020以上であることが好ましく、0.100以下、0.080以下、0.070以下、0.060以下、又は、0.050以下であることが好ましい。
【0041】
<その他の成分>
組成物は、増粘剤(ゲル化剤)、ゲル化補助剤、着色剤(染料、顔料)、抗菌剤、粘度調整剤、水以外の有機溶媒等の公知の成分を含んでいてもよい。
【0042】
組成物が増粘剤(ゲル化剤)を含む場合、増粘剤としては、従来公知のものを使用することが可能であり、例えば、多糖類、ゼラチン、ポリアクリル酸(塩)、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0043】
多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース誘導体、アルギン酸、寒天等が挙げられる。また、アルギン酸やカルボキシメチルセルロース等は、ナトリウム塩等の塩類の形態も含む。
【0044】
組成物中の増粘剤の含有量は、組成物が所定の粘度となるように調整可能であり、特に限定されない。組成物中の増粘剤の含有量は、例えば、水と無機塩との合計量を100.0質量部とした場合に、0.1質量部以上、0.5質量部以上、又は、1.0質量部以上とすることができ、また、10.0質量部以下、又は、5.0質量部以下とすることができる。
【0045】
また、組成物は、アミノ酸以外の過冷却防止添加剤を含んでいてもよい。例えば、氷核活性細菌、炭酸カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、硼砂、活性炭、ヨウ化銀、鉱物系等の結晶核剤となりうるものが挙げられる。
【0046】
ただし、本開示の効果を高めるという観点で、組成物中のアミノ酸以外の過冷却防止添加剤の含有量は、組成物中の水と無機塩との合計量を100.0質量部とした場合に、1.0質量部未満、0.5質量部以下、0.2質量部以下、又は、0.1質量部以下とすることが好ましい。
【0047】
<<物性/性質>>
<熱的性質>
本開示の組成物は、その融点を、-17.0℃以下、-18.0℃以下、-20.0℃以下、又は、-21.0℃以下とすることができ、また、-28.0℃以上、-27.0℃以上、又は、-26.0℃以上とすることができる。
【0048】
本開示の組成物の潜熱量(融点における潜熱量)は、100.0J/g以上、120.0J/g以上、140.0J/g以上、又は、160.0J/g以上とすることができる。本開示の組成物の潜熱量の上限値は、特に限定されないが、例えば、400.0J/g以下、300.0J/g以下、又は、200.0J/g以下であってもよい。
【0049】
なお、組成物の融点及び潜熱量は、示差走査熱量測定(DSC)により得られる。具体的には以下の通りである。
組成物をDSC測定用のアルミパンに10mg程度投入し、1℃/分の速度で-50℃まで降温し凝固させた後に、1℃/分の速度で25℃まで昇温する。相変化の際に現れるピークの頂点と面積から融点及び潜熱量を得る。組成物が複数のピーク(融解ピーク)を有する場合、最も低いピーク位置に対応する温度を組成物の融点とする。
【0050】
<粘度>
組成物の粘度は、用途に応じて適宜変更可能であり、特に限定されない。
組成物がゲル成分を含む場合、組成物の粘度を、1.0Pa・s以上、2.0Pa・s以上、5.0Pa・s以上、10Pa・s以上、100Pa・s以上、又は、500Pa・s以上とすることができる。組成物の粘度の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000Pa・s以下である。
【0051】
なお、組成物の粘度は、B型回転粘度計を使用して測定された、25℃の粘度である。
【0052】
<<用途>>
本開示に係る組成物は、蓄熱材用、食品保冷用具用、又は、医薬品保冷用具用とすることが好ましい。
換言すれば、本開示に係る組成物の好ましい形態は、水と、アミノ酸及び/又はその塩と、無機塩と、を含む蓄熱材用、食品保冷用具用、又は、医薬品保冷用具用組成物である。
【0053】
<蓄熱材>
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の一例として、本開示に係る組成物を備える蓄熱材について説明する。
【0054】
蓄熱材は、容器と、容器内に収納された組成物と、を備える。
【0055】
組成物については前述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0056】
組成物は、前述した通り、ゲル化されたもの(ゲル成分を含むもの)であってもよい。ゲル化された組成物を用いることで、容器が破損した際の液体材料の漏れ等を抑制することができる。
【0057】
容器の材質は、組成物の相変化(凝固及び融解)に応じて変形可能な程度の可撓性を有することが好ましい。
【0058】
蓄熱材は、樹脂フィルムや金属フィルム等の変形し易い部材により容器が構成された所謂ソフトタイプであってもよいし、厚みのある樹脂材料(例えば、中空成形体)等の変形し難い部材により構成された所謂ハードタイプであってもよい。
【0059】
蓄熱材は、容器内に少なくとも組成物が封止されていればよく、開閉可能な蓋部等を有するなどして容器を破壊せずに組成物を取り出し或いは注入することが可能なように構成してもよいし、容器を破壊する以外は組成物を取り出し困難なように構成してもよい。
【0060】
蓄熱材の大きさや形状は、蓄熱材の用途に応じて適宜変更可能である。
【0061】
蓄熱材は、容器及び組成物以外の構成要素を含んでいてもよい。
【0062】
<食品保冷用具・医薬品保冷用具>
以下、本開示に係る組成物の具体的な使用方法の他の例として、本開示に係る組成物を備える食品保冷用具、及び、医薬品保冷用具について説明する。
より詳細には、食品保冷用具、及び、医薬品保冷用具は、容器と、容器内に収納されている本開示に係る組成物とを備える。容器は、例えば、箱状の物品であり、容器内部に食品等の保冷対象物を収容可能な空間を有する。容器の内側側面、内側底面、内側上面のいずれかまたは全部に、本開示に係る組成物が収容された組成物収納部が配されている。組成物収納部は、容器から取り外し可能に構成されていてもよいし、容器と一体化されていてもよい。容器は、通常、開閉部を有し、開閉部が操作され、密閉状態又は開放状態となる。容器は、断熱性を有する部材によって構成されることが好ましい。
組成物が凝固している状態で容器内部の空間に食品や医薬品等の保冷対象物を収容することで、保冷対象物を保冷することができる。
食品保冷用具の保冷対象物としては、冷凍食品、アイスクリーム、野菜や果物等の青果品、ハムなどの加工食品等が挙げられる。
医薬品保冷用具の保冷対象物としては、一部の低温保管が必要な医薬品、例えば、血液や検体、ワクチンなどが挙げられる。
【実施例0063】
以下、実施例により、組成物(蓄熱材用組成物)を具体的に説明するが、本発明は以下には限定されない。
【0064】
<<組成物の作製>>
表1に示す各原料を、表1に示す配合量(質量部)にて配合し、攪拌することで、実施例1~10及び比較例1~4に係る組成物を得た。
【0065】
<<測定/評価>>
前述の方法に従って、各組成物の融点及び潜熱(潜熱量)を測定した。また、-25℃の低温槽に常温の組成物(25g)を20時間静置し、組成物の温度変化を確認した。各実施例・比較例の組成物の凝固による発熱が起こった時の温度、すなわち、凍結開始温度を測定した。低温槽に20時間静置した結果、凝固による発熱が起こらなかった組成物については、×と評価した。測定結果を表1に示す。
【0066】
また、各組成物の25℃での溶液状態(均一性)を評価した。25℃の環境で各原料を配合及び攪拌して各組成物を製造する際に、攪拌後に静置して5時間経過した時点における組成物中の溶け残り(固形分)の有無を目視で確認し、溶け残りが無い場合を「均一」、溶け残りが有る場合を「不均一」と評価した。評価結果を表1に示す。
【0067】
【0068】
実施例1~10に係る組成物は、アミノ酸を用いていない比較例1~4に対して、融点から-5℃以上の範囲内の温度で凝固(凍結)が開始したことから、無機塩を含む蓄熱材用の組成物においてアミノ酸は、過冷却抑制の効果がある添加剤であるといえる。
また、実施例1~10に係る組成物は、過冷却抑制成分を用いていない比較例1に対して、潜熱(潜熱量)の減少量がわずかであったことから、無機塩を含む蓄熱材用の組成物においてアミノ酸は、蓄熱材性能の変化への影響が小さいことがわかる。
また、実施例1~3、6~9は、アミノ酸の溶解度と、アミノ酸及び無機塩(塩化ナトリウム)の含有量と、の関係等が好ましい範囲であることから、均一な溶液が得られ易いものであった。