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特開2024-139693繊維の分離方法およびモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139693
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】繊維の分離方法およびモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 17/02 20060101AFI20241002BHJP
   D06M 11/155 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20241002BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20241002BHJP
【FI】
B29B17/02
D06M11/155
D06M13/148
D06M13/17
D06M13/224
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024018768
(22)【出願日】2024-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2023050111
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】坂田 翔
【テーマコード(参考)】
4F401
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4F401AA13
4F401AA22
4F401BA13
4F401CA26
4F401EA79
4F401FA04
4F401FA04Z
4L031AA15
4L031AA17
4L031AA18
4L031BA13
4L031BA33
4L033AA05
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA12
4L033BA14
4L033BA21
(57)【要約】
【課題】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を分離する繊維の分離方法、および前記分離方法で得られたこれら繊維を用いた繊維の製造方法を提供すること。
【解決手段】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する工程を含む、前記繊維混合物から前記繊維混合物が含む繊維を分離する、前記繊維の分離方法、および、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する分離工程と、前記分離工程で分離した、前記繊維を含む原料を紡糸する工程を含む、繊維の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する工程を含む、前記繊維混合物から前記繊維混合物が含む繊維を分離する、繊維の分離方法。
【請求項2】
前記混合液の比重が1.25g/cm以上1.45g/cm以下である、請求項1に記載の分離方法。
【請求項3】
前記混合液中の前記非イオン系界面活性剤の濃度が0.05質量%以上5質量%以下である、請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項4】
前記非イオン系界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む、請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項5】
前記混合液中の前記塩化カルシウムの濃度が31質量%以上45質量%以下である、請求項1または2に記載の分離方法。
【請求項6】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する分離工程と、前記分離工程で分離した、前記繊維を含む原料を紡糸する工程を含む、繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を分離する繊維の分離方法に関する。詳細には人工毛髪に用いられる繊維のリサイクルに有用な、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を分離する繊維の分離方法に関する。
さらに本発明はモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にかつら、ヘアーピース、人形用頭飾等に用いられる人工毛髪用繊維として、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、塩化ビニリデン系繊維、ポリエステル系繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維等が使用されている。
なかでもモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維はその特性から人工毛髪用繊維として広く用いられている。
【0003】
塩化ビニル系樹脂は、自己消火性、耐薬品性などに優れており、繊維にした場合にも、その優れた性質を持ち得る。人工毛髪として様々な形状で頭部に装着した場合、自己消火性は安全性の上で重要な必要特性である。
加えて塩化ビニル系繊維を使用した人工毛髪は、その外観や触感が人毛に類似するという特徴を有し、美容特性からも重用されている。(例えば、特許文献1)
【0004】
一方、アクリロニトリルとハロゲン化ビニルおよび/またはハロゲン化ビニリデンを共重合したモダクリル樹脂から得られるモダクリル繊維は、触感、艶およびボリューム感が人毛に良く似ており、かつ櫛通りが良いといった長所を有しているため、人工毛髪用繊維として非常に優れた特性を具備している。(例えば、特許文献2および3)
【0005】
またポリエチレンテレフタラートに代表されるポリエステル系樹脂を主成分とするポリエステル系繊維は耐熱性に優れることから、ヘア―アイロン等の美容熱器具を用いたカールセット等が可能であるため、様々なヘアスタイルに適応することができる点で人工毛髪用繊維として優れた特性を有している。(例えば、特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2008-026538号公報
【特許文献2】特開2002-227018号公報
【特許文献3】特開2003-328222号公報
【特許文献4】国際公開第2005-056894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような人工毛髪は品質の向上とともに、人毛と遜色のない「自然さ」を備えつつあり、その市場は拡大している。したがって人工毛髪の生産量も年々、増加しており、劣化等により廃棄される人工毛髪の量も大きくなってきている。
近年、環境に対する問題意識の高まりから合成繊維においてもリサイクル性を有することが求められていることから、人工毛髪に用いられる繊維のリサイクル工程において回収・細断された種々の繊維混合物を素材ごとに分別するための方法が必要である。
【0008】
しかしながら、人工毛髪は前記のとおりモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維等の種々の繊維を原料としており、廃棄にあたっては、これらの繊維が混合された状態となっている。従って、リサイクルにあたっては、これらの繊維を分別する必要がある。
特にモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維は人工毛髪に占める割合が多く、この三つの繊維を分別することは重要である。
【0009】
したがって本発明の目的は、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を分離する繊維の分離方法を提供することである。
特に本発明の目的は、前記繊維の分離方法において、より簡便で低コストの分離方法を提供することである。
また本発明は前記方法により分離されたモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維またはポリエステル系繊維を用いた、これら繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を比重の違いにより分離する方法では、分離に用いる液の比重を適正化するだけでは、比重に反し液の上方に浮遊してしまう繊維が発生し、これら繊維を十分に分離することはできないことが判明した。本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を行ったところ、比重を適正化するための化合物の種類と特定の種類の界面活性剤を併用することによって、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維が十分に分離されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、
[1]
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する工程を含む、前記繊維混合物から前記繊維混合物が含む繊維を分離する、繊維の分離方法、
に関する。
【0012】
また本発明は、
[2]
前記混合液の比重が1.25g/cm以上1.45g/cm以下である前記[1]に記載の分離方法、
[3]
前記混合液中の前記非イオン系界面活性剤の濃度が0.05質量%以上5質量%以下である前記[1]または[2]に記載の分離方法、
[4]
前記非イオン系界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルを含む、前記[1]から[3]のいずれかに記載の分離方法、および
[5]
前記混合液中の前記塩化カルシウムの濃度が31質量%以上45質量%以下である前記[1]から[4]のいずれかに記載の分離方法、
に関する。
【0013】
さらに本発明は、
[6]
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する分離工程と、前記分離工程で分離した前記繊維を含む原料を紡糸する工程を含む、繊維の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維、およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む繊維混合物から、これら繊維を分離する繊維の分離方法が提供される。特に本発明によれば、前記繊維の分離方法において、より簡便で低コストの分離方法が提供される。
また分離されたモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維またはポリエステル系繊維を用いたこれら繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明の繊維の分離方法(以下、「本分離方法」とも記す。)はモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水を含む混合液とを混合する工程を含み、前記繊維混合物から前記繊維混合物が含む繊維を分離する、前記繊維を分離する。
すなわち本分離方法は、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を含む混合物の場合はモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を、モダクリル繊維とポリエステル系繊維を含む混合物の場合はモダクリル繊維とポリエステル系繊維を、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維を含む混合物の場合は塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維を、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維を含む混合物の場合はモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維を分離する方法である。
【0016】
本分離方法において用いられるモダクリル繊維は、前記のとおり、アクリロニトリルとハロゲン化ビニルおよび/またはハロゲン化ビニリデンを共重合したモダクリル樹脂から得られる繊維である。
本分離方法において用いられる塩化ビニル系繊維は、塩化ビニルの単独重合体、または、塩化ビニルを主成分とする共重合体である塩化ビニル系樹脂から得られる繊維である。
本分離方法において用いられるポリエステル系繊維はポリアルコールと多価カルボン酸との縮重合体であるポリエステル系樹脂から得られる繊維である。前記ポリアルコールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。
前記多価カルボン酸としては、テレフタル酸 、2,6-ナフタレンジカルボン酸が挙げられる。ポリエステル系繊維としてはエチレングリコールとテレフタル酸との縮重合体であるポリエチレンテレフタレート樹脂から得られるポリエチレンテレフタレート繊維が好ましい。
【0017】
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を含む混合物(以下、「本繊維混合物」とも記すことがある。)は、これら繊維を用いた人工毛髪が劣化または消耗等により廃棄された、回収およびリサイクルの対象であるモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を含む混合物であり、これら繊維以外の成分を含んでいてもよい。
モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維以外の成分としては、人工毛髪を含むウィッグ、かつら、付け毛等が含む樹脂以外の部材やその破砕物、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維以外の樹脂からなる繊維や成形品等が挙げられる。モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維以外の樹脂からなる繊維としては、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維が挙げられる。
【0018】
本繊維混合物が前記モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維以外の成分を含んでいる場合、予めこれら成分を除去し、本分離方法に供するのが好ましい。
例えば、本繊維混合物がモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維であり、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を含む混合物が金属や金属塩を含む場合は、金属や金属塩を溶解、磁力等によりモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を含む混合物から分離する方法が挙げられる。
またモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を含む混合物がポリプロピレン繊維またはナイロン繊維を含む場合、これら繊維を静電分離法等によりモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維を含む混合物から分離する方法が挙げられる。
【0019】
本繊維混合物がモダクリル繊維とポリエステル系繊維、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維、またはモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維のいずれかを含む場合も、金属や金属塩、他の繊維をこれらの混合物から前記と同様の方法で分離できる。
【0020】
前記以外の成分もその形態、原料等に応じて、適切な分離方法で前記本繊維混合物から分離後、混合物を本分離方法に供するのが好ましい。
【0021】
本分離方法にて、本繊維混合物がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維以外の成分を含む場合、本繊維混合物は本繊維混合物の全質量を100質量%として、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維よりなる群から選択される少なくとも2種を合計で70質量%以上含むのが好ましく、80質量%以上含むのがより好ましく、95質量%以上含むのがさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。本繊維混合物がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維を含む場合、これらの繊維の合計量は本繊維混合物の全質量を100質量%として、前記範囲であるのが好ましい。
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維の場合、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維の比率は、質量比率でモダクリル繊維の質量を1として、塩化ビニル系繊維の質量は0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下がさらに好ましい。
【0022】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維とポリエステル系繊維の場合、モダクリル繊維とポリエステル系繊維の比率は、質量比率でモダクリル繊維の質量を1として、ポリエステル系繊維の質量は0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下がさらに好ましい。
【0023】
本繊維混合物中に含まれる繊維が塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の場合、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の比率は、質量比率で塩化ビニル系繊維の質量を1として、塩化ビニル系繊維の質量は0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下がさらに好ましい。
【0024】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の場合、モダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の比率は、質量比率でモダクリル繊維の質量を1として、塩化ビニル系繊維の質量は0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下がさらに好ましい。また同様にポリエステル系繊維の質量は0.1以上10以下が好ましく、0.5以上5以下がより好ましく、0.8以上1.2以下がさらに好ましい。
【0025】
前記本繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水を含む混合液(以下、「本混合液」とも記す。)とを混合する。
本混合液は、繊維の分離効率および分離後の繊維の洗浄の観点から塩化カルシウムおよび非イオン系界面活性剤が均一に溶解した水溶液の状態になっていることが好ましい。
本混合液が含有する塩化カルシウムは、本混合液の比重を本繊維混合物に含まれる繊維が分離するのに適切な比重となるように調整する役割を有していると考えられる。
詳細は不明であるが、塩化カルシウム以外の無機塩、例えば炭酸カリウムでは非イオン系界面活性剤との相溶性が十分でないと考えられ、本繊維混合物中の繊維の分離は不十分である。
【0026】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維の場合、本混合液の比重をモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維が分離するのに適切な比重にするという観点から、本混合液の比重は1.25g/cm以上1.40g/cm以下が好ましく、1.27g/cm以上1.36g/cm以下がより好ましく、1.28g/cm以上1.32g/cm以下がさらに好ましく、1.29g/cm以上1.31g/cm以下が特に好ましい。
【0027】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維とポリエステル系繊維の場合、本混合液の比重をモダクリル繊維とポリエステル系繊維が分離するのに適切な比重にするという観点から、本混合液の比重は1.25g/cm以上1.45g/cm以下が好ましく、1.30g/cm以上1.43g/cm以下がより好ましく、1.35g/cm以上1.42g/cm以下がさらに好ましく、1.39g/cm以上1.41g/cm以下が特に好ましい。
【0028】
本繊維混合物中に含まれる繊維が塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の場合、本混合液の比重を塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維が分離するのに適切な比重にするという観点から、本混合液の比重は1.35g/cm以上1.45g/cm以下が好ましく、1.37g/cm以上1.43g/cm以下がより好ましく、1.38g/cm以上1.42g/cm以下がさらに好ましく、1.39g/cm以上1.41g/cm以下が特に好ましい。
【0029】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の場合、本混合液の比重をモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維が分離するのに適切な比重にするという観点から、本混合液の比重は1.25g/cm以上1.45g/cm以下が好ましく、1.30g/cm以上1.43g/cm以下がより好ましく、1.35g/cm以上1.42g/cm以下がさらに好ましく、1.39g/cm以上1.41g/cm以下が特に好ましい。
【0030】
本混合液中の塩化カルシウムの含有量は、塩化カルシウムが本混合液に溶解する範囲が好ましく、本混合液の比重の観点から、本混合液の質量を100質量%として、31質量%以上34質量%以下がより好ましい。
【0031】
本混合液が含有する非イオン系界面活性剤は、界面活性剤のうちイオンに解離する基を持たない物質の総称である。非イオン系界面活性剤としてはエーテル型、エステル型、エーテルエステル型等が知られている。
エーテル型の非イオン系界面活性剤は、高級アルコールやアルキルフェノールなど水酸基をもつ原料に、主として酸化エチレンを付加させて得られる界面活性剤である。エーテル形の非イオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびその他のエーテル型が知られている。
【0032】
エステル型の非イオン系界面活性剤はグリセリン、ソルビトール、しょ糖などの多価アルコールと脂肪酸がエステル結合した構造を有している。エステル型の非イオン系界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルおよびしょ糖脂肪酸エステルが知られている。
【0033】
エーテルエステル型の非イオン系界面活性剤はグリセリンやソルビトールなどの多価アルコールと脂肪酸とからなるエステルに酸化エチレンを付加し得られる界面活性剤である。分子中にエステル結合とエーテル結合の両方を有している。
【0034】
これら非イオン系界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンフィトスタノールエーテル、ポリオキシエチレンコレスタノールエーテル、アルキルグリセリルエーテル変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、等が挙げられる。
【0035】
前記非イオン系界面活性剤のなかでも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリイソステアレート等が挙げられる。
前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの中でも、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレートが好ましい。
【0036】
本混合液は前記非イオン系界面活性剤を1種または2種以上含んでいても良い。本混合液が含む非イオン系界面活性剤の少なくとも1種は前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートおよびポリオキシエチレンソルビタンモノオレートの少なくともいずれか一方を含んでいるのがより好ましい。
【0037】
前記非イオン系界面活性剤を本混合液が含有することで、繊維のぬれ性、本混合液の表面張力、および本混合液と繊維表面との親和性等が改良されると考えられ、その結果、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維が十分に分離されると考えられる。
【0038】
本混合液中の前記非イオン系界面活性剤の濃度は、分離効率の観点から、0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上2.5質量%以下がより好ましく、0.2質量%以上1.25質量%以下がさらに好ましい。
複数種の非イオン系界面活性剤を本混合液が含有する場合、前記濃度は本混合液が含有する非イオン系界面活性剤の合計の濃度である。
【0039】
本混合液が含有する界面活性剤はカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤および両性界面活性剤等も知られているが、本分離方法では非イオン系界面活性剤以外の他の界面活性剤だけでは、十分な分離効果が得られない。
【0040】
本分離方法は前記本繊維混合物と前記本混合液とを混合することで、本繊維混合物中に含まれる各繊維に分離する。
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維の場合、モダクリル繊維は塩化ビニル系繊維に比べて比重が小さいので、モダクリル繊維は本混合液の上部に浮遊し、塩化ビニル系繊維は本混合液の下部に沈降する。
【0041】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維とポリエステル系繊維の場合、モダクリル繊維はポリエステル系繊維に比べて比重が小さいので、モダクリル繊維は本混合液の上部に浮遊し、ポリエステル系繊維は本混合液の下部に沈降する。
本繊維混合物中に含まれる繊維が塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の場合、塩化ビニル系繊維はポリエステル系繊維に比べて比重が小さいので、塩化ビニル系繊維は本混合液の上部に浮遊し、ポリエステル系繊維は本混合液の下部に沈降する。
【0042】
本繊維混合物中に含まれる繊維がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の場合、比重はモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の順に大きくなる。したがって、(A)モダクリル繊維は本混合液の上部に浮遊し、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維は本混合液の下部に沈降する、または(B)モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維が本混合液の上部に浮遊し、ポリエステル系繊維が本混合液の下部に沈降する場合が多い。
(A)の場合は、例えば先ずモダクリル繊維を分離し、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維の混合物を再度前記方法で分離することで三種の繊維を分離することができる。
(B)の場合は、例えば先ずポリエステル系繊維を分離し、モダクリル繊維と塩化ビニル系繊維の混合物を再度前記方法で分離することで三種の繊維を分離することができる。
【0043】
前記本繊維混合物と前記本混合液とを混合する際に、必ずしも、予め、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水を混合した液を調製しておく必要はなく、本繊維混合物と塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水を順次、混合してもよいし、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水のいずれか二種の混合液と本繊維混合物とを混合し、さらに残りの一種を混合してもよい。混合の方法としては塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水を混合して均一に溶解した水溶液を調製し、これと本繊維混合物とを混合するのが好ましい。
また、前記本繊維混合物と前記本混合液とを混合の際、本混合液を複数回に分けて添加してもよいし、前記本繊維混合物を複数回に分けて添加してもよい。
必要であれば塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤および水のいずれかを、前記本繊維混合物と前記本混合液とを混合後、追加してもよい。
【0044】
分離効果を十分に高めるために、本繊維混合物と本混合液とを混合し、撹拌するのが好ましい。撹拌は通常、室温で行われ、例えば20℃以上60℃以下の温度で行われる。
撹拌は通常用いられる撹拌子、撹拌翼等の攪拌機で行われる。
撹拌の回転数は例えば、300rpm以上で行えばよく、500rpm以上が好ましい。回転数の上限は、繊維への損傷等を避ける観点から、1500rpm以下が好ましく、1000rpm以下がより好ましい。
【0045】
本分離方法は前記本繊維混合物と前記本混合液との混合後は、より明確に前記のとおりの比重差により本繊維混合物に含まれる各繊維が本混合液中で十分に分離するように、混合後の本混合液を静置する工程を含むのが好ましい。
静置の時間は本繊維混合物中に含まれる繊維の分離状況に応じて、適宜、設定すればよいが、例えば、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。また分離効率の観点から、静置の時間は48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
静置の温度は前記撹拌の温度をそのまま保持してもよいし、冷却して撹拌の温度より低くしても良い。
【0046】
前記のようにして、例えば、モダクリル繊維は本混合液の上部に浮遊し、塩化ビニル系繊維は本混合液の下部に沈降し、両繊維が分離される。
したがって、本繊維混合物に含まれる繊維が分離された本混合液の上部液と下部液を別々に回収することで、それぞれの繊維を含んだ液を回収することができる。
【0047】
本分離方法は例えば、攪拌機付きの分離用槽に前記本繊維混合物と前記本混合液を投入して両者を混合し、必要に応じて撹拌、静置を行い、本繊維混合物に含まれる繊維を分離用槽の上部と下部に分離する方法が挙げられる。分離後は分離用槽の上部および下部より液を抜き出して各繊維を回収すればよい。分離用槽の上部の液は分離用槽からオーバーフローさせて回収してもよい。
また本分離方法は例えば、前記本繊維混合物と前記本混合液とを混合後、本混合液をゆっくり送液しながら本混合液を上部と下部に分流し、それぞれを別々に回収する方法も例示できる。
本繊維混合物がモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維の3種の繊維を含む場合、前記の方法を組み合わせることで、各繊維を回収すればよい。
また回収された繊維は、更に粉砕、溶融、再成形等により、他の形態としてもよいし、繊維として人工毛髪に使用してもよいし、他の用途に用いてもよい。
回収された繊維または樹脂は他の回収された繊維または樹脂と混合して、新たな用途に供してもよいし、未使用の繊維または樹脂と混合して使用してもよい。
【0048】
分離した本繊維混合物に含まれる繊維を含む液は、それぞれ乾燥等により、繊維のみを更に回収してもよい。本繊維混合物に含まれる繊維をそれぞれ回収することで、新たなモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維が得られる。
したがって、本発明の繊維の製造方法(以下、「本製造方法」とも記す。)は、前記本繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を含む混合液とを混合する分離工程と、前記分離工程で分離した、前記繊維を含む原料を紡糸する工程を含む。
【0049】
本製造方法において、本繊維混合物が少なくともモダクリル繊維を含む場合、モダクリル繊維の製造方法(以下、「本製造方法I」とも記す。)は少なくともモダクリル繊維を含む本繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を混合する分離工程と、前記分離工程で分離した前記繊維混合物に含まれるモダクリル繊維を含む原料を紡糸する工程を含む。
本繊維混合物が少なくとも塩化ビニル系繊維を含む場合、塩化ビニル系繊維の製造方法(以下、「本製造方法II」とも記す。)は少なくとも塩化ビニル系繊維を含む本繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を混合する分離工程と、前記分離工程で分離した前記塩化ビニル系繊維を含む原料を紡糸する工程を含む。
また本繊維混合物が少なくともポリエステル系繊維を含む場合、ポリエステル系繊維の製造方法(以下、「本製造方法III」とも記す。)は少なくともポリエステル系繊維を含む本繊維混合物と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を混合する分離工程と、前記分離工程で分離した前記ポリエステル系繊維を含む原料を紡糸する工程を含む。
【0050】
本製造方法Iにおいて、少なくともモダクリル繊維を含む本繊維混合物(以下、「本繊維混合物I」とも記す。)から分離されたモダクリル繊維は、後述する紡糸により得られるモダクリル繊維の品質が一定に保たれる観点から、粉砕等によって、大きさをできるだけ均一にすることが好ましい。
粉砕の方法は、前記の観点から粉砕後のモダクリル繊維の大きさができるだけ均一となるように、粉砕機、粉砕方法および粉砕にかけるエネルギーを設定すればよい。効率的に粉砕する目的で、分離されたモダクリル繊維を一旦、破砕し、その後、粉砕してもよい。
【0051】
粉砕の方法は例えば、衝撃粉砕、凍結粉砕、機械的粉砕等の粉砕方法が挙げられる。粉砕装置は市販の粉砕装置が用いられる。
【0052】
本繊維混合物Iから前記分離工程で分離されたモダクリル繊維を含む原料を紡糸する。紡糸の方法は、例えば、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸、溶融紡糸のいずれの方法でもよい。生産性が高いことなどから湿式紡糸または溶融紡糸により紡糸するのが好ましい。各紡糸の条件は各紡糸の方法に応じて適宜設定される。
【0053】
分離されたモダクリル繊維を含む原料としては、分離したモダクリル繊維と本繊維混合物Iが含む本繊維混合物中の残りの繊維とを含む液から前記残りの繊維を回収した残りの液を前記原料としてもよいし、分離したモダクリル繊維と前記残りの繊維とを含む液からモダクリル繊維のみを回収し、回収したモダクリル繊維を前記原料としてもよい。
回収の方法は前記のとおりである。
【0054】
乾式紡糸、湿式紡糸または乾湿式紡糸により紡糸する場合、前記分離工程で分離されたモダクリル繊維を含む原料を溶媒と混合して紡糸原液とする。
紡糸原液とする場合、用いる溶媒は水または有機溶媒が用いられる。有機溶媒は、例えばジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、アセトンなどの極性溶媒やグリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類、およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物、更にはこれら溶媒同士、あるいはこれら溶媒と水との混合物などが例示される。とりわけジメチルスルホキシドが低温溶解性、低毒性、低腐食性などの観点から好ましい。
また分離したモダクリル繊維と本繊維混合物Iが含む本繊維混合物I中の残りの繊維とを含む液から前記残りの繊維を回収した残りの液をそのまま紡糸原液としてもよい。
【0055】
紡糸工程に次いで必要であれば乾燥工程、乾延伸工程、熱処理工程に供してもよい。
乾燥工程では、好ましくは180℃以下で乾燥すればよく、さらに乾延伸することにより繊維の機械的性能を高めることができる。乾延伸条件は前記により得られたモダクリル繊維の性状、特に融点や所望の水中溶解温度に応じて適宜選定できる。乾燥工程後の乾延伸の延伸倍率は1.1から12倍程度とするのが好ましく、乾延伸温度は100から180℃とするのが好ましい。工程通過性と乾延伸の効果の点から乾延伸温度は100から180℃、特に収縮率の観点から110から170℃がさらに好ましい。
【0056】
前記乾延伸後、熱処理工程にて120から180℃の温度で熱処理を行なうことが好ましい。熱処理工程と前記乾延伸は同工程で行なってもよい。
前記のようにして少なくともモダクリル繊維を含む本繊維混合物からモダクリル繊維が製造できる。
【0057】
本製造方法IIおよび本製造方法IIIにおいても、本製造方法Iと同様に、少なくとも塩化ビニル系繊維を含む本繊維混合物(以下、「本繊維混合物II」とも記す。)、または少なくともポリエステル系繊維を含む本繊維混合物(以下、「本繊維混合物III」とも記す。)と、塩化カルシウム、非イオン系界面活性剤、および水を混合して塩化ビニル系繊維またはポリエステル系繊維を分離後、得られた塩化ビニル系繊維またはポリエステル系繊維を含む原料を紡糸する工程を含む。
また本製造方法IIおよびIIIにおける紡糸方法についても、本製造方法Iと同様に、乾式紡糸、湿式紡糸、乾湿式紡糸および溶融紡糸等の公知の方法で紡糸することができる。
粉砕の方法、紡糸の方法等は前記と同じである。
【0058】
前記本製造方法Iにおいて、紡糸工程における原料は前記分離工程により分離されたモダクリル繊維と、例えば、別途、製造されたモダクリル樹脂または回収されたモダクリル繊維を併用してもよい。
前記本製造方法IIにおいて、紡糸工程における原料は前記分離工程により分離された塩化ビニル系繊維と、例えば、別途、製造された塩化ビニル系樹脂または回収された塩化ビニル系繊維を併用してもよい。
また前記本製造方法IIIにおいて、紡糸工程における原料は前記分離工程により分離されたポリエステル系繊維と、例えば、別途、製造されたポリエステル系樹脂または回収されたポリエステル系繊維を併用してもよい。
【0059】
以上、本分離方法、本製造方法に関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本分離方法、本製造方法は前記実施形態の構成において、他の任意の工程を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の工程と置換されていてもよい。
【実施例0060】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。しかしながら本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
実施例及び比較例において、下記繊維を長さ5mmにカットしたものを用いた。
・モダクリル繊維:
株式会社カネカ製、製品名「Afrelle」、単繊維繊度46dtex、比重1.29
・塩化ビニル系繊維(以下、PVC繊維とも記す。):
株式会社カネカ製、製品名「ADM」、単繊維繊度72dtex、比重1.39
・ポリエステル系繊維(以下、PET繊維とも記す。):
株式会社カネカ製、製品名「Futura」、単繊維繊度65dtex、比重1.47
また、調製した混合液の比重は、JIS K 0061:2001に準じて測定した。
【0062】
実施例A1
<混合液の調製>
32質量部の塩化カルシウム(富士フイルム和光純薬製)に67.5質量部のイオン交換水を添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、室温にて700rpmで10分間攪拌して塩化カルシウム水溶液を調製した。これに、0.5質量部の非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(富士フイルム和光純薬製)を添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、45℃にて700rpmで1時間攪拌して塩化カルシウム32質量%、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート0.5質量%を含む混合液を調製した。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.297であった。
【0063】
<PVC繊維の浸漬試験>
前記で得られた混合液の50gに、PVC繊維を0.1g添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、室温にて700rpmで1分間攪拌した後、常温で24時間静置した。
PVC繊維は全て液の底に沈降した。
【0064】
実施例A2および比較例A1からA7
比重調整塩、界面活性剤、濃度を表1に示した種類、量を用いた以外は、実施例A1と同様にして、混合液を調製し、PVC繊維の浸漬試験を行った。
【0065】
<モダクリル繊維とPVC繊維の分離試験>
実施例B1
実施例A1と同様にして、混合液を調製し、前記で得られた混合液200gに、モダクリル繊維を0.1g、PVC繊維を0.1g添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、室温にて700rpmで1分間攪拌した後、常温で24時間静置し、繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.297であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊し、PVC繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0066】
実施例B2
実施例A2と同様にして混合液を調製し、実施例B1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.303であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊し、PVC繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0067】
比較例B1
比較例A1と同様にして混合液を調製し、実施例B1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.300であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊したが、多くのPVC繊維も液面に浮遊したため、分離を行うことができなかった。
【0068】
前記PVC繊維の浸漬試験結果を表1に、および前記モダクリル繊維とPVC繊維の分離試験の結果を表2に示した。表1および表2中、液調製の結果、均一な水溶液が調製された場合は○、塩水溶液に界面活性剤が溶解せず、均一な水溶液が調製できなかった場合を×とした。均一な水溶液が調製できなかった混合液では、液中に溶け残りが多いため、比重を測定することができなかった。
表1中、PVC繊維の挙動を目視にて確認し、全てのPVC繊維が液の底に沈降していれば○、液面に浮遊するPVC繊維があれば×とした。また表2中、モダクリル繊維とPVC繊維の分離を目視にて確認し、両繊維が分離されていれば○、両繊維が分離されていなければ×とした。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
<PET繊維の浸漬試験>
実施例C1からC2および比較例C1からC7
PVC繊維に代えてPET繊維を用い、比重調整塩、界面活性剤、濃度を表3に示した種類、量を用いた以外は、実施例A1と同様にして、混合液を調製し、PET繊維の浸漬試験を行った。
【0072】
<モダクリル繊維とPET繊維の分離試験>
実施例D1
実施例C1と同様にして混合液を調製し、前記で得られた混合液200gに、モダクリル繊維を0.1g、PET繊維を0.1g添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、室温にて700rpmで1分間攪拌した後、常温で24時間静置し、繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.396であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊し、PET繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0073】
実施例D2
実施例C2と同様にして混合液を調製し、実施例D1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.393であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊し、PET繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0074】
比較例D1
比較例C1と同様にして混合液を調製し、実施例D1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.393であった。
モダクリル繊維は全て液面に浮遊したが、多くのPET繊維も液面に浮遊したため、分離を行うことができなかった。
【0075】
<PVC繊維とPET繊維の分離試験>
実施例E1
実施例C1と同様にして、混合液を調製し、前記で得られた混合液200gに、PVC繊維を0.1g、PET繊維を0.1g添加し、撹拌機(アズワン株式会社製、型番「RSH-4DR」)を用い、室温にて700rpmで1分間攪拌した後、常温で24時間静置し、繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.396であった。
PVC繊維は全て液面に浮遊し、PET繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0076】
実施例E2
実施例C2と同様にして混合液を調製し、実施例E1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.393であった。
PVC繊維は全て液面に浮遊し、PET繊維は全て液の底に沈降し、分離を行うことができた。
【0077】
比較例E1
比較例C1と同様にして混合液を調製し、実施例E1と同様に繊維の分離試験を行った。得られた混合液は均一な水溶液の状態にあり、比重は1.393であった。
PVC繊維は全て液面に浮遊したが、多くのPET繊維も液面に浮遊したため、分離を行うことができなかった。
【0078】
前記PET繊維の浸漬試験結果を表3に、および前記モダクリル繊維とPET繊維の分離試験の結果を表4に示した。また前記PVC繊維とPET繊維の分離試験の結果を表5に示した。表3から表5中、液調製の結果、均一な水溶液が調製された場合は○、塩水溶液に界面活性剤が溶解せず、均一な水溶液が調製できなかった場合を×とした。均一な水溶液が調製できなかった混合液では、液中に溶け残りが多いため、比重を測定することができなかった。
【0079】
表3中、PET繊維の挙動を目視にて確認し、全てのPET繊維が液の底に沈降していれば○、液面に浮遊するPET繊維があれば×とした。また表4中、モダクリル繊維とPET繊維の分離を目視にて確認し、両繊維が分離されていれば○、両繊維が分離されていなければ×とした。また表5中、PVC繊維とPET繊維の分離を目視にて確認し、両繊維が分離されていれば○、両繊維が分離されていなければ×とした。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
前記結果から、本分離方法を用いることでモダクリル繊維と塩化ビニル系繊維、塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維、および塩化ビニル系繊維とポリエステル系繊維を簡便かつ低コストで十分に分離できることが分かる。
また分離後のモダクリル繊維、塩化ビニル系繊維およびポリエステル系繊維は、前記方法で回収することで再び各繊維に供することができる。