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  • 特開-希土類ボンド磁石 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139696
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】希土類ボンド磁石
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20241002BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20241002BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20241002BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241002BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241002BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20241002BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20241002BHJP
   B22F 1/05 20220101ALN20241002BHJP
【FI】
H01F1/057 180
H01F1/055 180
H01F1/059 160
B22F1/00 Y
B22F3/00 C
B22F3/02 M
B22F1/14 650
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024021609
(22)【出願日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2023049910
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】大河原 遊
(72)【発明者】
【氏名】幸村 治洋
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AA11
4K018AA27
4K018BA05
4K018BA18
4K018BB01
4K018BB04
4K018BC12
4K018BC32
4K018CA02
4K018CA08
4K018CA09
4K018FA08
4K018FA25
4K018KA46
4K018KA63
4K018KA70
5E040AA03
5E040AA04
5E040AA06
5E040BB05
5E040CA01
5E040NN04
5E040NN06
5E040NN15
(57)【要約】
【課題】磁気特性の大きな低下を招くことなく、圧環強度と電気抵抗とが高い希土類ボンド磁石を提供すること。
【解決手段】希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含んだ希土類ボンド磁石であって、前記希土類磁石粉末は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末であり、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、前記樹脂硬化物は、前記希土類ボンド磁石100重量%中に、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれ、前記希土類ボンド磁石は、空孔率が5%未満であり、圧環強度が60MPa以上であり、電気抵抗率が100μΩ・m以上である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含んだ希土類ボンド磁石であって、
前記希土類磁石粉末は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末であり、
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記樹脂硬化物は、前記希土類ボンド磁石100重量%中に、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれ、
前記希土類ボンド磁石は、空孔率が5%未満であり、圧環強度が60MPa以上であり、電気抵抗率が100μΩ・m以上である、
希土類ボンド磁石。
【請求項2】
希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含んだ希土類ボンド磁石であって、
前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、
前記樹脂硬化物は、前記希土類ボンド磁石100重量%中に、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれ、
前記希土類磁石粉末の粒径が45μm以下であり、
前記希土類磁石粉末の表面は、リンを含む化合物によって被膜されている、
希土類ボンド磁石。
【請求項3】
前記希土類磁石粉末は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末である、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項4】
前記希土類磁石粉末は、異方性Nd-Fe-B系磁石粉末である、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項5】
前記希土類磁石粉末は、等方性Sm-Fe-N系磁石粉末である、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項6】
前記希土類磁石粉末は、異方性Sm-Fe-N系磁石粉末である、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項7】
前記希土類磁石粉末は、異方性SmCo系磁石粉末である、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂は、導電性を有する、
請求項2に記載の希土類ボンド磁石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類永久磁石は優れた磁気特性を有することから、モータなどの回転機器、一般家電製品、音響機器、医療機器、一般産業機器など、幅広い分野で応用されている。特に、希土類磁石粉末と、その粉末の結合を担うバインダー(樹脂)とから得られる希土類ボンド磁石は、形状自由度が高いため、上記機器の小型化や高性能化などに貢献している。この希土類ボンド磁石として、希土類磁石粉末にNd-Fe-B系磁石粉末と、バインダーに熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂とからなる希土類ボンド磁石が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の希土類ボンド磁石において、希土類磁石粉体として、Nd-Fe-B系の急冷磁石粉体を用い、バインダーである樹脂としては、エポキシ樹脂を用い、エポキシ樹脂を2.5wt%程度混合している。
【0004】
また、希土類ボンド磁石を高速回転するモータに組み込んだ場合、希土類ボンド磁石を取り付けたロータに大きな遠心力が作用し、希土類ボンド磁石が破損して飛散する虞がある。飛散防止手段として、希土類ボンド磁石に強化プラスチック製の保護カバーを設ける構成が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6-314605号公報
【特許文献2】特開平8-107641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載されたような強化プラスチック製の保護カバーを、特許文献1に記載されたような希土類ボンド磁石に設けた場合、希土類ボンド磁石の飛散を防止することができるが、ロータの重量が増加しイナーシャが大きくなる、部品点数が増加すると共に装着作業工程が増えることによってコスト増となる等の問題がある。このため、希土類ボンド磁石の機械的強度(圧環強度)を高くする必要がある。
【0007】
また、希土類ボンド磁石は、希土類系焼結磁石に比べて、磁石粉末同士の間に絶縁物である樹脂が存在していることから、電気抵抗が高いという利点がある。しかし、従来のNd-Fe-B系磁石粉末と2wt%~3wt%の樹脂を含んだ希土類ボンド磁石を高速回転するモータに組み込んで使用した場合、電気抵抗が必ずしも大きくないため、渦電流損が大きくなり、モータ効率が低下するという問題がある。このため、電気抵抗を高くする必要がある。
【0008】
上述のように、熱硬化性樹脂を含んだ希土類ボンド磁石を高速回転するモータに用いた構成では、希土類ボンド磁石に対して、さらなる改善の余地がある。
【0009】
このため、本発明の目的は、希土類ボンド磁石の磁気特性の大きな低下を招くことなく、圧環強度と電気抵抗とが高い希土類ボンド磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含んだ希土類ボンド磁石であって、上記希土類磁石粉末は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末であり、上記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、上記樹脂硬化物は、上記希土類ボンド磁石100重量%中に、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれ、上記希土類ボンド磁石は、空孔率が5%未満であり、圧環強度が60MPa以上であり、電気抵抗率が100μΩ・m以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、希土類ボンド磁石の磁気特性の大きな低下を招くことなく、圧環強度と電気抵抗とが高い希土類ボンド磁石が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、希土類磁石ボンドにおける、希土類磁石粉末、熱硬化性樹脂の樹脂硬化物および空孔の割合(Vоl%)を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0014】
<実施形態1>
実施形態1の希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含む。上記希土類磁石粉末は、等方性Nd(ネオジム)-Fe(鉄)-B(ホウ素)系磁石粉末である。等方性Nd-Fe-B系磁石粉末としては、マグネクエンチ社製のMQP-14-12(商品名)、MQP-8-5(商品名)、MQP-10-8.5HD(商品名)、MQP-11-8(商品名)、MQP12-8HD(商品名)等が挙げられる。
【0015】
これに代えて、例えば、超急冷法により製造したNd-Fe-B系磁石粉末であってもよい。具体的には、Nd-Fe-B系合金を、減圧下またはアルゴン雰囲気中で、高周波誘導加熱して溶解させる。次に、溶解させた合金の溶湯を銅製の回転ロール上に噴射して超急冷(高速冷却)し、リボン状の薄帯片を作製する。次に、この薄帯片を、例えば数mm~数十mm程度に破断した後、粉砕機などで粉砕して粉末を得る。この粉砕した粉末を所定のメッシュを有するふるいを用いて分級した後、これに熱処理を行い、希土類磁石粉末を作製できる。この希土類磁石粉末は、各結晶粒の磁化容易軸の方向が一方向に揃っていないため、磁気的に等方性である。
【0016】
また、上記希土類磁石粉末は、粒径が45μm以上175μm未満の範囲にあることが好ましい。また、上記希土類磁石粉末は、粒径が45μm以上75μm未満の範囲にあってもよく、上記希土類磁石粉末は、粒径が75μm以上175μm未満の範囲にあってもよい。このような粒径範囲の調整は、所定のメッシュを有するふるいを用いた分級により行える。
【0017】
実施形態1の希土類ボンド磁石に含まれる熱硬化性樹脂の樹脂硬化物は、具体的にはエポキシ樹脂の樹脂硬化物である。即ち、上記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂である。
【0018】
上記希土類ボンド磁石100重量%中に、上記樹脂硬化物は、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれる。また、上記希土類磁石粉末は、93.5重量%以上95重量%未満の量で含まれる。なお、実施形態1の希土類ボンド磁石中では、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とは均一に混合された状態であることが好ましい。また、従来、熱硬化性樹脂を用いたボンド磁石を作製する場合、バインダーの比率は2重量%以上3重量%以下の量で用いられている。
【0019】
実施形態1の希土類ボンド磁石は、空孔率が5%未満である。このように、実施形態1の希土類ボンド磁石は、熱硬化性樹脂の樹脂硬化物が上記の量で含まれているため、空孔率が低くなり、圧環強度が高くなる。即ち、実施形態1の希土類ボンド磁石は、圧環強度が60MPa以上である。さらに、実施形態1の希土類ボンド磁石は空孔率が低く、相対的に希土類磁石粉末の占める体積割合が高くなっているため、磁気特性の低下も抑えられている。
【0020】
また、実施形態1の希土類ボンド磁石は、熱硬化性樹脂の樹脂硬化物が上記の量で含まれているため、電気抵抗が高い。即ち、実施形態1の希土類ボンド磁石は、電気抵抗率が100μΩ・m以上である。
【0021】
実施形態1の希土類ボンド磁石は、例えば以下のようにして作製できる。まず、上記希土類磁石粉末と、上記希土類ボンド磁石中で上記樹脂硬化物を構成する成分(上記樹脂硬化物の原料成分)とを所定の配合比率で混合してコンパウンドを作製する。なお、上記希土類磁石粉末と、上記樹脂硬化物の原料成分との配合割合は、作製後の希土類ボンド磁石における上記希土類磁石粉末と上記樹脂硬化物との割合と同じであると考えられる。上記樹脂硬化物の原料となる成分としては、バインダーである熱硬化性樹脂(例えばエポキシ樹脂)の他、硬化剤が挙げられる。さらに、コンパウンドの作製の際には、滑剤(例えばステアリン酸カルシウム)を少量添加してもよい。具体的には、滑剤は、上記希土類磁石粉末および上記樹脂硬化物の原料成分の合計100重量%に対して、0.02重量%以上0.5重量%未満の量で配合してもよい。
【0022】
次に、コンパウンドを金型のキャビティに充填し、所定の圧力を加えて圧縮してグリーン体を作製する。次いで、金型から取り出したグリーン体をオーブンにセットし、所定温度で所定時間、熱硬化させて、上記希土類磁石粉末および上記樹脂硬化物を含むキュア体(熱硬化体)を作製する。また、キュア体表面に酸化防止のための防錆手段を施すことが好ましい。防錆手段としては、電着塗装、スプレー塗装等の公知の手段を施すことができる。このようにして、実施形態1の希土類ボンド磁石が得られる。
【0023】
<実施形態2>
実施形態2は、希土類磁石粉末が小さい場合でも、希土類ボンド磁石の磁気特性の大きな低下を防止することを課題の一つとしている。
【0024】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、実施形態2に係る希土類ボンド磁石は、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含んだ希土類ボンド磁石であって、前記希土類磁石粉末は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末であり、前記熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂であり、前記樹脂硬化物は、前記希土類ボンド磁石100重量%中に、5重量%を超え6.5重量%以下の量で含まれ、前記希土類磁石粉末の粒径が45μm以下であり、前記希土類磁石粉末の表面は、リンを含む化合物によって被膜されている。実施形態2においても、実施形態1と同様に、希土類ボンド磁石は、空孔率が5%未満であることが好ましく、環強度が60MPa以上であることが好ましく、電気抵抗率が100μΩ・m以上であることが好ましい。
【0025】
希土類磁石粉末は、粉砕後にリン酸塩処理を施すことによって、磁石粉末の酸化劣化を防止することができる。これによって、希土類ボンド磁石の磁気特性の大きな低下を防止することができる。
【0026】
さらに、上述したリン酸塩処理を行った場合、希土類磁石粉末の粒径を0μmより大きく、45μm以下とした場合でも、希土類ボンド磁石の磁気特性の大きな低下を防止することなく、希土類ボンド磁石を提供することができる。
【0027】
さらに、希土類磁石粉末はNd-Fe-B急冷磁粉に限定せず、等方性Sm-Fe-Nや異方性Sm-Fe-N、異方性Nd-Fe-B磁粉(商品名d-HDDR)、SmCo磁粉(異方性磁粉を粉砕したもの)であってもよい。
【0028】
さらに、熱硬化性樹脂は、導電性エポキシ樹脂であってもよい。この場合、防錆処理のため磁石へ通電させて導電性エポキシ樹脂を塗布させる電着塗装という工程において、磁石自体に導電性を備えているため、電着塗装が付きやすく、電着塗装の成膜性を良好にすることができる。希土類磁石粉末および熱硬化性樹脂の樹脂硬化物ならびに希土類ボンド磁石の製造方法について、上記以外は、実施形態1と同様である。
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例は、実施形態1に対応する。
【0030】
[実施例]
<希土類ボンド磁石の作製>
希土類磁石粉末として、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末を用いた。等方性Nd-Fe-B系磁石粉末として、マグネクエンチ社製のMQP-14-12(商品名)を用意した。MQP-14-12の粒径は、75μm以上150μm未満、45μm以上75μm未満の2つのグループに分級して用意した。この際、所定のメッシュを有するふるいを用いて分級した。
次に、上記2つのグループそれぞれについて、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末と、バインダーであるエポキシ樹脂および硬化剤を含む樹脂硬化物の原料成分(ペルノック社製、型番XW2310)とを、所定の配合比率で混合してコンパウンドを作製した。ここで、希土類磁石粉末と樹脂硬化物の原料成分との配合比率は、全体重量を100重量%として、樹脂硬化物の原料成分を2.5重量%、希土類磁石粉末を97.5重量%とした。さらに、樹脂硬化物の原料成分を5重量%、希土類磁石粉末を95重量%とした場合、樹脂硬化物の原料成分を5.5重量%、希土類磁石粉末を94.5重量%とした場合、樹脂硬化物の原料成分を6重量%、希土類磁石粉末を94重量%とした場合、樹脂硬化物の原料成分を6.5重量%、希土類磁石粉末を93.5重量%とした場合、樹脂硬化物の原料成分を7.5重量%、希土類磁石粉末を92.5重量%とした場合についても、コンパウンドを作製した。なお、コンパウンドは、溶剤に溶解した樹脂硬化物の原料成分と、希土類磁石粉末とを混合し、溶剤を蒸発させた後、解砕し、分級して作製した。コンパウンドは、全て同じ粒径で作製し、金型のキャビティへの充填における流動性の条件を同一とした。
次に、コンパウンドを金型のキャビティに充填し、所定の圧力(成形圧:面圧5ton/cm2)を加えて圧縮してグリーン体を作製した。グリーン体は、直径Φ10mm、高さ7mmの円柱形状であった。
次に、金型から取り出したグリーン体をオーブンにセットし、所定温度(150℃)で所定時間、熱硬化させてキュア体(熱硬化体)を作製した。キュア体は、直径Φ10mm、高さ7mmの円柱形状であった。このように、グリーン体とキュア体とでは、大きさの変化は見られなかった。
次に、キュア体表面に酸化防止のための防錆手段(具体的には電着塗装)を施した。
このようにして、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂の樹脂硬化物とを含む希土類ボンド磁石(試料1~12)を作製した。ここで、試料3~5、9~11は、実施例であり、試料1、2、6、7、8、12は、比較例である。
【0031】
<評価方法>
(空孔率)
真密度に対する見かけ密度から空孔率を算出した。評価基準は、以下のとおりである。
○:空孔率が5%未満である。
△:空孔率が5%以上15%未満である。
×:空孔率が15%以上である。
【0032】
(圧環強度)
JIS Z2507に基づいて圧環強度を測定した。評価基準は、以下のとおりである。
◎:圧環強度が100MPa以上である。
○:圧環強度が60MPa以上100MPa未満である。
△:圧環強度が50MPa以上60MPa未満である。
×:圧環強度が50MPa未満である。
【0033】
(電気抵抗率)
電気抵抗率は、四探針方式を使って測定した。磁石サンプル形状はΦ10mm高さ7mmであり、評価数N5の平均の電器抵抗率を求めた。評価基準は、以下のとおりである。
◎:電気抵抗率が100μΩ・m以上である。
○:電気抵抗率が10μΩ・m以上100μΩ・m未満である。
△:電気抵抗率が10μΩ・m未満である。
【0034】
(総合評価)
試料1~12において、総合評価を行った。評価基準は、以下のとおりである。
○:圧環強度および電気抵抗率の評価結果がともに◎である。
×:上記以外の場合。
試料1~12の評価結果を下記表1~表2に示す。表1において、磁粉粒径(μm)の「45-75」は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末の粒径が45μm以上75μm未満の範囲にあることを示す。また、表2において、磁粉粒径(μm)の「75-150」は、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末の粒径が75μm以上150μm未満の範囲にあることを示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1は、試料1~6を示し、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末の粒径が45μm以上75μm未満の範囲にある希土類ボンド磁石の評価を示している。樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%の試料1では空孔率が15%以上あり、圧環強度、電気抵抗(表面抵抗率)ともに評価△であった。これは樹脂硬化物の原料成分量が従来の希土類ボンド磁石とほぼ同じであることに因る。また、樹脂硬化物の原料成分量が7.5重量%の試料6では、バインダーの一部がキャビティから漏れ出してしまい、作製上、問題となるため、評価しなかった。これは樹脂硬化物の原料成分量が多すぎることに因る。
樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%、5重量%、7.5重量%の試料以外の試料3~5における評価は、いずれの項目も◎となっている。このため、表1に示す試料3~5の総合評価は、〇の評価となっている。
表1の結果から、希土類ボンド磁石における空孔率が減少するに伴い、圧環強度、電気抵抗率が高くなっていることがわかる。実施例である試料3~5では、圧環強度、電気抵抗率ともに高くすることができる。
なお、樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%である試料1(比較例)に比べて、試料3~5は、樹脂硬化物の原料成分量が増加しているため、磁石粉末の充填比率が僅かに低下しているが、試料1(比較例)の希土類ボンド磁石の磁気特性に比べて僅かな低下であり、遜色ない程度の磁気特性が得られることを確認している。
【0037】
【表2】
【0038】
表2は、試料7~12を示し、等方性Nd-Fe-B系磁石粉末の粒径が75μm以上150μm未満の範囲にある希土類ボンド磁石の評価を示している。樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%の試料7では空孔率が15%以上あり、圧環強度、電気抵抗率ともに評価△であった。これは樹脂硬化物の原料成分量が従来の希土類ボンド磁石とほぼ同じであることに因る。また、樹脂硬化物の原料成分量が7.5重量%の試料12では、バインダーの一部がキャビティから漏れ出してしまい、作製上、問題となるため、評価しなかった。これは樹脂硬化物の原料成分量が多すぎることに因る。
樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%、5重量%、7.5重量%の試料以外の試料9~11における評価は、いずれの項目も◎となっている。このため、表2に示す試料9~11の総合評価は、〇の評価となっている。
表2の結果から、希土類ボンド磁石における空孔率が減少するに伴い、圧環強度、電気抵抗率が高くなっていることがわかる。実施例である試料9~11では、圧環強度、電気抵抗率ともに高くすることができる。
なお、従来と同様に樹脂硬化物の原料成分量が2.5重量%である試料7(比較例)に比べて、試料9~11は、樹脂硬化物の原料成分量が増加しているため、磁石粉末の充填比率が僅かに低下しているが、試料7(比較例)の希土類ボンド磁石の磁気特性に比べて僅かな低下であり、遜色ない程度の磁気特性が得られることを確認している。
【0039】
また、図1は、希土類磁石ボンドにおける、希土類磁石粉末、熱硬化性樹脂の樹脂硬化物および空孔の割合(Vоl%)を示した図である。具体的には、試料1~6について示している。試料3~5では、空孔の割合が減っており、圧環強度が高くなることが分かる。また、試料3~5では、希土類磁石粉末の割合は殆ど減っておらず、磁気特性の低下が抑制されていることが分かる。なお、空孔率は、以下のようにして求めた。磁粉の密度7.6[g/cm3]、樹脂比重0.92[g/cm3](うち有機溶剤MEKを含む)から試作した磁石の真密度を算出した。真密度に占める磁粉と樹脂との体積比を求め、あまりを空孔率とした。
図1