(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024139698
(43)【公開日】2024-10-09
(54)【発明の名称】皮膜付銅端子材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20241002BHJP
C25D 3/30 20060101ALI20241002BHJP
C25D 3/38 20060101ALI20241002BHJP
C25D 3/12 20060101ALI20241002BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20241002BHJP
C25D 5/10 20060101ALN20241002BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D3/30
C25D3/38 101
C25D3/12
H01R13/03 D
C25D5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024023852
(22)【出願日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2023049742
(32)【優先日】2023-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】船木 真一
【テーマコード(参考)】
4K023
4K024
【Fターム(参考)】
4K023AA12
4K023AA17
4K023AA19
4K023AB33
4K023BA06
4K023DA02
4K024AA03
4K024AA07
4K024AA09
4K024AA21
4K024AB01
4K024AB02
4K024AB03
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA06
4K024GA03
(57)【要約】
【課題】コネクタとして使用した際の凝着の発生を防止するとともに、挿抜力を安定的に低減した皮膜付銅端子材を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金からなる基材の上に皮膜が形成されるとともに、その皮膜は、表面に0.2μm以上2.0μm以下の平均厚さの錫又は錫合金からなる錫層を有し、皮膜の表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm
-1以上70mm
-1以下で、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金からなる基材と、前記基材の上に形成された皮膜とを有する皮膜付銅端子材であって、
前記皮膜は、表面に0.2μm以上2.0μm以下の平均厚さの錫又は錫合金からなる錫層を有し、
前記皮膜の表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下で、かつ10視野測定時の前記Spcの標準偏差/平均値が30%以下であることを特徴とする皮膜付銅端子材。
【請求項2】
請求項1に記載の皮膜付銅端子材であって、
前記皮膜は、前記錫層の下に銅と錫との合金からなる銅錫合金層を有する
いることを特徴とする皮膜付銅端子材。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の皮膜付銅端子材であって、
前記皮膜は、前記基材に接してニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層を有する
ことを特徴とする皮膜付銅端子材。
【請求項4】
銅又は銅合金からなる基材の上に皮膜が形成された皮膜付銅端子材を製造する方法であって、
前記基材の上に、錫又は錫合金からなる錫めっき層を表面に有するめっき層を形成してなるめっき材を形成するめっき工程と、前記めっき材を加熱してリフロー処理するリフロー工程とを有し、
前記めっき工程における前記錫めっき層の厚さは0.2μm以上3.0μm以下であり、
前記リフロー処理は、めっき材を240℃以上300℃以下のピーク温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉に通板して前記めっき材の材料到達温度を150以上220℃以下とする一次冷却工程と、前記一次冷却工程後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有し、
前記一次冷却工程では、前記めっき材の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付ける
ことを特徴とする皮膜付銅端子材の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の皮膜付銅端子材の製造方法であって、
前記めっき工程では、前記錫めっき層の下に銅又は銅合金からなる銅めっき層を形成することを特徴とする皮膜付銅端子材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の皮膜付銅端子材の製造方法であって、
前記加熱工程における前記めっき材の昇温速度が20℃/秒以上75℃/秒以下である
ことを特徴とする皮膜付銅端子材の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の皮膜付銅端子材の製造方法であって、
前記めっき工程では、前記基材の表面に接触させてニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層を形成することを特徴とする皮膜付銅端子材の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の皮膜付銅端子材の製造方法であって、
前記めっき工程では、前記基材の表面に接触させてニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層を形成することを特徴とする皮膜付銅端子材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や民生機器等の電気配線の接続に使用されるコネクタ用端子、特に多ピンコネクタ用の端子として有用な皮膜付銅端子材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膜付銅端子材として、銅合金からなる基材の上に銅(Cu)めっき層及び錫(Sn)めっき層を形成した後に、ウイスカの発生を抑制するためリフロー処理することにより、表層の錫層の下層に銅錫(CuSn)合金層が形成されたものがある。この皮膜付銅端子材は、接続信頼性が高く、安価に製造できるため、端子材として広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、Cu合金板条からなる母材の表面に、Cu6Sn5相を主体とするCu-Sn合金被覆層と、Sn被覆層がこの順に形成された導電材料が開示されている。この導電材料は、母材表面を、少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上かつ全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下の表面粗さに粗面化し、その母材表面にCuめっき層及びSnめっき層を順に形成した後、リフロー処理することにより製造される。
【0004】
特許文献2には、銅または銅合金からなる基材上の下地層の表面に、多数のCu-Sn系合金の結晶粒からなるCu-Sn系合金層と、最表面において隣接するCu-Sn系合金の結晶粒間の凹部内のSn層とからなる最表層が形成されたSnめっき材が開示されている。このSnめっき材は、最表面においてSn層16が占める面積率が20~80%であり、Sn層16の最大厚さがCu-Sn系合金の結晶粒の平均粒径より小さくなっていると記載されている。
【0005】
しかしながら、錫層(Sn層)は軟らかいことから、接点同士で凝着が起こりやすく、また、接点同士の接触面積が大きくなることでコネクタ挿入時の摩擦力が過大になり、特に多ピン端子などで挿入が困難になるという問題がある。
【0006】
特許文献3には、導電性基体上にNiなどの下地層が設けられ、その上に銅または銅合金の中間層が設けられ、その上にCu-Sn金属間化合物からなる最外層が設けられためっき材料が開示されており、最外層が硬質のCu-Sn金属間化合物層からなるため、端子間の接触圧力を小さくしても、フレッティング現象が起き難いと記載されている。
【0007】
しかし、最外層がCu-Sn金属間化合物層では、高温時に銅(Cu)が拡散して表面に銅の酸化物が形成され易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006-077307号公報
【特許文献2】特開2015-180770号公報
【特許文献3】特開2007-247060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、コネクタとして使用した際の凝着の発生を防止するとともに、挿抜力を安定的に低減した皮膜付銅端子材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の皮膜付銅端子材は、銅又は銅合金からなる基材と、前記基材の上に形成された皮膜とを有し、前記皮膜は、表面に0.2μm以上2.0μm以下の平均厚さの錫又は錫合金からなる錫層を有し、前記皮膜の表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下で、かつ10視野測定時の前記Spcの標準偏差/平均値(CV値)が30%以内である。
【0011】
この皮膜付銅端子材は、表面が錫層からなるため、錫層本来の良好な電気特性を有している。この錫層の平均厚さは0.2μm未満であると、高温時にCuが拡散して表面にCuの酸化物が形成され易くなることから接触抵抗が増加するおそれがあり、2.0μmを超えると、柔軟な錫層によりコネクタとしての使用時の挿抜力が増大し、コネクタの多ピン化に伴う挿抜力の低減を図り難い。錫層の平均厚さは、好ましくは0.3μm以上1.8μm以下である。
【0012】
皮膜表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下としたことにより、動摩擦係数を低減でき、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下としたことにより、その動摩擦係数が安定し、局部的に変動することも抑制される。
【0013】
山頂点の算術平均曲率SpcはISO-25178で規定されており、その値が大きいほど相手端子と接触する点が尖っていることを示す。Spcが10mm-1未満では平坦に近くなるため、コネクタとして相手端子に接触したときの接触面積が大きくなり、動摩擦係数が増大する。Spcが70mm-1を超えると、表面の凹凸が急峻になり過ぎるため、相手端子の掘り起こしが発生する。Spcの標準偏差/平均値が30%を超えると、動摩擦係数に局部的な変動が生じて安定しない。
【0014】
Spcは20mm-1以上60mm-1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0015】
本発明のめっき皮膜付銅端子材において、前記皮膜は、前記錫層の下に銅と錫との合金からなる銅錫合金層を有するとよい。銅錫合金層の平均厚さは、好ましくは0.2μm以上2.5μm以下である。
【0016】
本発明のめっき皮膜付銅端子材において、前記皮膜は、前記基材に接してニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層を有するとよい。
【0017】
ニッケル層は基材からの銅の拡散を防止して、耐熱性を向上させることができる。このニッケル層の平均厚さは0.05μm以上1.0μm以下が好ましい。
【0018】
本発明の皮膜付銅端子材の製造方法は、前前記基材の上に、錫又は錫合金からなる錫めっき層を表面に有するめっき層を形成してなるめっき材を形成するめっき工程と、前記めっき材を加熱してリフロー処理するリフロー工程とを有する。前記めっき工程における前記錫めっき層の厚さは0.2μm以上3.0μm以下である。前記リフロー処理は、めっき材を240℃以上300℃以下のピーク温度まで加熱する加熱工程と、前記加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉に通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、前記一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する。前記一次冷却工程では、前記めっき材の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付ける。
【0019】
錫又は錫合金からなる錫めっき層の厚さが0.2μm未満または3.0μmを超えると、リフロー処理後の錫層の平均厚さが0.2μm未満または2.0μmを超えてしまい、所望の錫層を得ることができない。
【0020】
加熱工程のピーク温度が240℃未満であると錫が均一に溶融せず、ピーク温度が300℃を超えると、銅錫金属間化合物が急激に成長し銅錫合金層の凹凸が大きくなるので好ましくない。
【0021】
リフロー処理の冷却工程において、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉に通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程を設けて錫の融点以下の温度まで冷却し、その後、二次冷却工程において大きい冷却速度で急冷する。
【0022】
一次冷却工程では、所定の炉内温度の冷却炉においてめっき材の表面に所定の冷却風を吹き付けることにより、錫の融点以下の温度で表面形状を適切に制御して、めっき皮膜表面における山頂点の算術平均曲率Spcを10mm-1以上70mm-1以下で、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値(CV値:変動係数)を30%以下にすることができる。
【0023】
この場合、冷却炉の炉内温度が20℃未満では冷却速度が速すぎてSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまい、Spcを70mm-1以下、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を30%以下にすることができない。炉内温度が70℃を超えると錫の融点以下の温度までの冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0024】
めっき材の材料到達温度については、150℃未満では冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。材料到達温度が220℃を超えると錫が半溶融状態のまま二次冷却されてしまい、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。材料到達温度は好ましくは160℃以上210℃以下であり、さらに好ましくは170℃以上200℃以下である。
【0025】
冷却風量が10m3/分未満では、冷却が十分に行われないことでSpcが過小となってしまい10mm-1以上にすることができない。一方、冷却風量が300m3/分を超えると、多量の風が当たることで、溶融した錫が流動してしまいSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。冷却風の温度は、好ましくは30℃以上60℃以下である。
【0026】
次いで二次冷却工程によって急冷して所望の表面形状で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、所望の表面形状を得られない。300℃/秒を超える冷却速度とするのは難しい。
【0027】
本発明の皮膜付銅端子材の製造方法において、前記めっき工程では、前記基材の上に銅又は銅合金からなる銅めっき層を形成した後に、前記錫めっき層を形成してもよい。
【0028】
銅めっき層を形成した場合、加熱工程における前記めっき材の昇温速度は20℃/秒以上75℃/秒以下が好ましい。昇温速度が20℃/秒未満であると、錫が溶融するまでの間に銅原子が錫の粒界中に優先的に拡散し、粒界近傍で銅錫金属間化合物が異常成長するため、所望の銅錫合金層を得ることができない。一方、昇温速度が75℃/秒を超えると、銅錫金属間化合物の成長が不十分なため、やはり所望の銅錫合金層を得ることができない。
【0029】
なお、銅めっき層を形成した場合、加熱工程のピーク温度が240℃未満であると錫が均一に溶融せず、ピーク温度が300℃を超えると、銅錫金属間化合物が急激に成長し銅錫合金層の凹凸が大きくなるので好ましくない。また、二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると銅錫金属間化合物が成長するため、所望の銅錫合金層を得ることができない。
【0030】
本発明の皮膜付銅端子材の製造方法において、前記めっき工程では、前記基材の表面にニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき層を形成するとよい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、端子材の表面をなす錫層表面における山頂点の算術平均曲率Spcを10mm-1以上70mm-1以下とし、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値を30%以下としたことにより、コネクタとして使用した際の凝着の発生を防止するとともに、動摩擦係数を低減するとともにその動摩擦係数が安定し、挿抜力を安定して低減した皮膜付銅端子材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の皮膜付銅端子材の第1実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図1の皮膜付銅端子材の製造途中のめっき材を示す断面図である。
【
図3】本発明の皮膜付銅端子材の第2実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図3の皮膜付銅端子材の製造途中のめっき材を示す断面図である。
【
図5】本発明の皮膜付銅端子材の第3実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図5の皮膜付銅端子材の製造途中のめっき材を示す断面図である。
【
図7】本発明の皮膜付銅端子材の第4実施形態を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図7の皮膜付銅端子材の製造途中のめっき材を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の皮膜付銅端子材の実施形態を説明する。
【0034】
(第1実施形態)
第1実施形態の皮膜付銅端子材1は、
図1に示すように、銅又は銅合金からなる基材2の上に、錫又は錫合金からなる錫層3が積層されてなる皮膜5が形成されている。
【0035】
基材2は帯板状に形成された条材であり、表面が銅又は銅合金からなるものであれば、特に、その組成が限定されるものではない。
【0036】
錫層3は、基材2の上に錫又は錫合金からなるめっき層を形成した後にリフロー処理することにより形成される。
【0037】
錫層3の平均厚さは0.2μm以上2.0μm以下である。錫層3は、その潤滑性によりコネクタとしての挿抜力を低く抑えるとともに、接触抵抗を低減して優れた電気特性を発揮するが、その平均厚さが0.2μm未満では錫の優れた特性を得ることが難しくなる。また、はんだ付け性や耐食性も低下するおそれがある。
【0038】
一方、錫層3の平均厚さが2.0μmを超えると、軟らかいため凝着が生じ易くなり、コネクタとしての使用時の挿抜力が増大し、コネクタの多ピン化に伴う挿抜力の低減を図り難い。この錫層3の平均厚さは望ましくは0.3μm以上1.8μm以下である。
【0039】
そして、この錫層3の表面において、山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1 以上70mm-1以下であり、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値(変動係数:Coefficient of Variation)が30%以下である。
【0040】
この山頂点の算術平均曲率SpcはISO-25178で規定されており、その値が大きいほど、ほかの物体と接触する点が尖っていることを示す。Spcが10mm-1未満では平坦に近くなるため、コネクタとして相手端子に接触したときの接触面積が大きくなり、動摩擦係数が増大する。
【0041】
Spcが70mm-1を超えると、表面の凹凸が急峻になり過ぎるため、相手端子の掘り起こしが発生する。Spcの標準偏差/平均値が30%を超えると、動摩擦係数に局部的な変動が生じて安定しない。Spcは20mm-1以上60mm-1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0042】
以上のように構成された皮膜付銅端子材1の製造方法について説明する。
この皮膜付銅端子材1は、基材2の上に、錫又は錫合金からなる錫めっきを施すことにより、
図2に示すように、基材2上に錫めっき層4を積層しためっき材7を形成した後、リフロー処理することにより形成される。
【0043】
基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にする。
【0044】
錫めっきのためのめっき浴としては、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸第一錫(SnSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1~30A/dm2とされる。この錫めっき層4の膜厚は0.2μm以上3.0μm以下とされる。
【0045】
錫めっき層4の厚さが0.2μm未満または3.0μmを超えると、リフロー処理後の錫層3の平均厚さが0.2μm未満または2.0μmを超えてしまい、所望の錫層3を得ることができない。
【0046】
リフロー処理は、めっき材7を加熱して、錫めっき層4を一旦溶融させた後急冷する。具体的には、めっき材7を、CO還元性雰囲気にした加熱炉内で、錫の融点以上の240℃以上300℃以下の温度に加熱する加熱工程と、加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉に通板してめっき材7の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。
【0047】
この場合、一次冷却工程では、めっき材7の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付けることが行われる。冷却風の温度は30℃以上60℃以下が好ましい。
【0048】
加熱工程を還元性雰囲気で行うことにより、錫めっき層4表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となる。
【0049】
加熱工程のピーク温度が240℃未満であると錫が均一に溶融せず、ピーク温度が300℃を超えると基材2の銅が錫めっき層4に拡散し、基材2と錫層3の界面にボイドが形成され、錫層が剥離する恐れがある。
【0050】
加熱後の冷却工程は二段階とし、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉に通板して前記めっき材7の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程において錫の融点以下まで冷却し、その後、二次冷却工程においてより大きい冷却速度で急冷する。
【0051】
一次冷却工程では、所定の炉内温度の冷却炉においてめっき材7の表面に所定の冷却風を吹き付けることにより、錫の融点以下の温度で表面形状を適切に制御する。これにより、皮膜5(錫層3)表面における山頂点の算術平均曲率Spcを10mm-1以上70mm-1以下、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値(CV値)を30%以下にすることができる。
【0052】
この場合、冷却炉の炉内温度が20℃未満では冷却速度が速すぎて、Spc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまい、Spcを70mm-1以下、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を30%以下にすることができない。炉内温度が70℃を超えると、錫の融点以下の温度に到達するまでの冷却時間が長すぎるため、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0053】
一次冷却工程におけるめっき材7の材料到達温度が150℃未満では、冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。一次冷却工程でめっき材7の温度が220℃以下にまで下がらないと、錫が半溶融状態のまま二次冷却されてしまい、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。一次冷却工程におけるめっき材7の材料到達温度は、好ましくは160℃以上210℃以下であり、さらに好ましくは170℃以上200℃以下である。
【0054】
一次冷却工程における冷却風の風量が10m3/分未満では、冷却が十分に行われないことでSpcが過小となってしまい10mm-1以上にすることができない。一方、冷却風の風量が300m3/分を超えると、多量の風が当たることで、溶融した錫が流動してしまい、Spc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0055】
なお、冷却風は、めっき材7の表面から10cm程度の高さ位置から、めっき材7に垂直に吹き付けられる。
【0056】
次いで、二次冷却工程においてめっき材7を急冷して、所望の表面形状で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、所望の表面形状が得られない。300℃/秒を超える冷却速度とするのは難しい。
【0057】
このように製造されためっき皮膜付銅端子材1の皮膜5は、表面が錫層3からなるため、錫本来の良好な電気特性を有している。また、皮膜5(錫層3)の表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下であるので、動摩擦係数を低減することができる。
【0058】
また、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下とされていることにより、その動摩擦係数が安定し、局部的に変動することも抑制される。
【0059】
したがって、皮膜付銅端子材1をコネクタの端子材として用いることにより、挿抜力を安定して低減させることができ、相手端子との間で凝着が生じることが防止される。
【0060】
(第2実施形態)
第2実施形態の皮膜付銅端子材11は、
図3に示すように、基材2の上に設けられる皮膜12が、銅と錫との合金からなる銅錫合金層13及び錫層14がこの順で積層されてなる。換言すると、皮膜12は、錫層14の下に銅錫合金層13を有する。
【0061】
銅錫合金層13及び錫層14は、後述するように、基材2の上に銅又は銅合金からなる銅めっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施した後、リフロー処理することにより形成される。
【0062】
銅錫合金層13は、0.2μm以上2.5μm以下の平均厚さに形成される。その厚さが0.2μm未満であると、高温環境下で接触抵抗が増大するおそれがある。その厚さが2.5μmを超えると、この銅錫合金層13が硬質であるため、曲げ加工時に割れ発生の原因となる可能性がある。銅錫合金層13は、平均結晶粒径は0.2μm以上1.5μm以下であるのが好ましい。
【0063】
この銅錫合金層13は、下層のCu3Sn層15と、Cu3Sn層15の上に配置されるCu6Sn5層16とから構成されている。Cu3Sn層15は基材2の表面に部分的に形成されており、このため、Cu6Sn5合金層16は、基材2の上のCu3Sn合金層15の上、及びCu3Sn合金層15が存在しない基材2の上の両方にまたがるように形成されている。
【0064】
第1実施形態と同じく、錫層14の平均厚さは0.2μm以上2.0μm以下である。錫層14の厚さが0.2μm未満では高温時に銅が拡散して表面に銅の酸化物が形成され易くなることから、接触抵抗が増加し、接続信頼性の低下を招くおそれがある。また、はんだ付け性や耐食性も低下するおそれがある。
【0065】
一方、錫層14の平均厚さが2.0μmを超えると柔軟な錫層14の下層に存在する銅錫合金層13による表面の下地を硬くする効果が薄れ、コネクタとしての使用時の挿抜力が増大し、コネクタの多ピン化に伴う挿抜力の低減を図り難い。この錫層14の平均厚さは望ましくは0.3μm以上1.8μm以下である。
【0066】
第1実施形態と同じく、錫層14の表面において、山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下であり、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下である。
【0067】
山頂点の算術平均曲率SpcはISO-25178で規定されており、その値が大きいほど、ほかの物体と接触する点が尖っていることを示す。Spcが10mm-1未満では平坦に近くなるため、コネクタとして相手端子に接触したときの接触面積が大きくなり、動摩擦係数が増大する。Spcが70mm-1を超えると、表面の凹凸が急峻になり過ぎるため、相手端子の掘り起こしが発生する。
【0068】
Spcの標準偏差/平均値が30%を超えると、動摩擦係数に局部的な変動が生じて安定しない。Spcは20mm-1以上60mm-1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0069】
以上のように構成された皮膜付銅端子材11の製造方法について説明する。
この皮膜付銅端子材11は、基材2の上に、銅又は銅合金からなる銅めっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施すことにより、
図4に示すように、基材2上に銅めっき層17及び錫めっき層18を積層しためっき材19を形成した後、加熱してリフロー処理することにより形成される。
【0070】
基材2として、銅又は銅合金からなる板材を用意し、この板材に脱脂、酸洗等の処理をすることによって表面を清浄にする。
【0071】
銅めっきは一般的な銅めっき浴を用いればよく、例えば硫酸銅(CuSO4)及び硫酸(H2SO4)を主成分とした硫酸銅浴等を用いることができる。めっき浴の温度は20~50℃、電流密度は1~50A/dm2とされる。このCuめっきにより形成される銅めっき層21の膜厚は0.05μm以上0.50μm以下とされる。
【0072】
錫めっきのためのめっき浴としては、一般的な錫めっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸第一錫(SnSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は15~35℃、電流密度は1~30A/dm2とされる。この錫めっき層18の膜厚は0.2μm以上3.0μm以下とされる。
【0073】
錫めっき層18の厚さが0.2μm未満または3.0μmを超えると、リフロー処理後の錫層14の平均厚さが0.2μm未満または2.0μmを超えてしまい、所望の錫層14を得ることができない。
【0074】
これらめっき処理を施すことにより、基材2の上に銅めっき層17、錫めっき層18が順次積層されためっき材19が形成される。
【0075】
リフロー処理はめっき材19を加熱して、銅めっき層17及び錫めっき層18を一旦溶融させた後、急冷する。具体的には、めっき材19をCO還元性雰囲気にした加熱炉内で20℃/秒以上75℃/秒以下の昇温速度で、240℃以上300℃以下の温度に加熱する加熱工程と、加熱工程の後に、炉内温度が20℃以上70℃以下の冷却炉を通板して前記めっき材の材料到達温度を150℃以上220℃以下とする一次冷却工程と、一次冷却後に100℃/秒以上300℃/秒以下の冷却速度で冷却する二次冷却工程とを有する処理とする。
【0076】
この場合、一次冷却工程ではめっき材19の表面に冷却風を10m3/分以上300m3/分以下の風量で吹き付けることが行われる。冷却風の温度は30℃以上60℃以下が好ましい。
【0077】
加熱工程を還元性雰囲気で行うことにより、錫めっき層18表面に溶融温度の高い錫酸化物皮膜が生成するのを防ぎ、より低い温度かつより短い時間でリフロー処理を行うことが可能となり、所望の銅錫合金構造を作製することが容易となる。
【0078】
加熱工程における昇温速度が20℃/秒未満であると、錫が溶融するまでの間に銅原子が錫の粒界中を優先的に拡散し、粒界近傍で銅錫金属間化合物が異常成長するため、所望の銅錫合金層13を得ることができない。一方、昇温速度が75℃/秒を超えると銅錫金属間化合物の成長が不十分なため、所望の銅錫合金層を得ることができない。
【0079】
加熱工程のピーク温度が240℃未満であると錫が均一に溶融せず、ピーク温度が300℃を超えると、銅錫金属間化合物が急激に成長し銅錫合金層13の凹凸が大きくなるので好ましくない。
【0080】
一次冷却工程では、所定の炉内温度の冷却炉においてめっき材19の表面に所定の炉内温度で所定の冷却風を吹き付けることにより、錫の融点以下の温度で表面形状を適切に制御する。これにより、皮膜12表面における山頂点の算術平均曲率Spcを10mm-1以上70mm-1以下、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値を30%以下にすることができる。
【0081】
この場合、冷却炉の炉内温度が20℃未満では冷却速度が速すぎて、Spc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまい、Spcを70mm-1以下、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を30%以下にすることができない。炉内温度が70℃を超えると錫の融点以下の温度に到達するまでの冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0082】
一次冷却工程におけるめっき材19の材料到達温度が150℃未満では、冷却時間が長すぎるためSpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。一次冷却工程におけるめっき材19の温度が220℃以下にまで下がらないと、錫が半溶融状態のまま二次冷却されてしまい、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。一次冷却工程におけるめっき材19の材料到達温度は好ましくは160℃以上210℃以下であり、さらに好ましくは170℃以上200℃以下である。
【0083】
一次冷却工程における冷却風の風量が10m3/分未満では、冷却が十分に行われないことでSpcが過小となってしまい10mm-1以上にすることができない。一方、冷却風量が300m3/分を超えると、多量の風が当たることで、溶融した錫が流動してしまいSpc、SpcのCV値(標準偏差/平均値)が過大となってしまう。
【0084】
なお、冷却風は、めっき材19の表面から10cm程度の高さ位置から、めっき材19に垂直に吹き付けられる。
【0085】
次いで二次冷却工程においてめっき材19を急冷して、所望の表面形状で完了させる。この二次冷却工程の冷却速度が100℃/秒未満であると、銅錫金属間化合物が過剰に成長するため、所望の銅錫合金層を得ることができない。300℃/秒を超える冷却速度とするのは難しい。
【0086】
このように製造されためっき皮膜付銅端子材11の皮膜12は、銅錫合金層13と錫層14とが凹凸形状の界面により複合構造を形成して、比較的軟らかい錫層14を硬い銅錫合金層13が支持しており、皮膜12の表面における山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下であるので、動摩擦係数を低減することができる。
【0087】
また、10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下とされていることにより、その動摩擦係数が安定し、局部的に変動することも抑制される。
【0088】
したがって、皮膜付銅端子材11をコネクタの端子材として用いることにより、挿抜力を安定して低減させることができ、相手端子との間で凝着が生じることが防止される。
【0089】
(第3実施形態)
第3実施形態の皮膜付銅端子材21は、
図5に示すように、皮膜22が、基材2に接する側にニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層23と、そのニッケル層23の上に積層された錫又は錫合金からなる錫層24とを有する。換言すると、皮膜22は、錫層24の下にニッケル層23を有する。
【0090】
ニッケル層23を備えることにより、基材2からの銅が皮膜22に拡散することを防止して、耐熱性を向上させることができる。
【0091】
このニッケル層23の平均厚さは0.05μm以上1.0μm以下とされる。0.05μm未満では、基材2からの銅の拡散防止効果が低減し、1.0μmを超えると曲げ加工等が困難となるおそれがあるためである。
【0092】
錫層24の表面において、山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1以上70mm-1以下であり、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下であるのは、第1実施形態と同様である。
【0093】
錫層24の表面におけるSpcは20mm-1以上60mm-1以下とするのがより好ましく、Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0094】
このように構成した皮膜付銅端子材21は、基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施すことにより、
図6に示すように基材2上にニッケルめっき層25、錫めっき層26を積層しためっき材27を形成した後、リフロー処理することにより形成される。
【0095】
ニッケルめっき層25を形成するためのニッケルめっきは一般的なニッケルめっき浴を用いればよく、例えば硫酸(H2SO4)と硫酸ニッケル(NiSO4)を主成分とした硫酸浴を用いることができる。めっき浴の温度は20℃以上60℃以下、電流密度は5~60A/dm2以下とされる。このニッケルめっき層25の膜厚は0.05μm以上1.0μm以下とされる。
【0096】
錫めっきの条件及びリフロー処理の条件については、第1実施形態で説明したものと同様である。
【0097】
このように製造した皮膜付銅端子材21は、ニッケル層23を有することから、銅の拡散が防止されて、耐熱性を向上させることができる。
【0098】
(第4実施形態)
第4実施形態の皮膜付銅端子材31では、
図7に示すように、皮膜32が、基材2に接するニッケル又はニッケル合金からなるニッケル層33と、そのニッケル層33の上に積層された銅と錫の合金からなる銅錫合金層34と、銅錫合金層34の上に積層された錫又は錫合金からなる錫層35とを有する。換言すると、皮膜32は、表面の錫層35と、錫層35の下の銅錫合金層34と、銅錫合金層34の下で基材2に接するニッケル層33とを有する。
【0099】
ニッケル層33を設けることにより、基材2からの銅が皮膜32に拡散することを防止して、耐熱性を向上させることができる。
【0100】
ニッケル層33の平均厚さは0.05μm以上1.0μm以下とされる。0.05μm未満では、基材2からの銅の拡散防止効果が低減し、1.0μmを超えると曲げ加工等が困難となるおそれがあるためである。
【0101】
銅錫合金層34は、基材2側に部分的に形成されたCu3Sn合金層36と、その上を覆うように形成されたCu6Sn5合金層37とにより構成される。このため、Cu6Sn5合金層37は、ニッケル層33の上のCu3Sn合金層36の上、及びCu3Sn合金層36が存在しないニッケル層33の上の両方を覆うように形成されている。
【0102】
銅錫合金層34は、平均厚さが0.2μm以上2.5μm以下、平均結晶粒径が0.2μm以上1.5μm以下であるのが好ましい。錫層35は、その平均厚さが0.2μm以上2.0μm以下である。
【0103】
第1実施形態と同様、錫層35の表面において、山頂点の算術平均曲率Spcが10mm-1 以上70mm-1以下であり、かつ10視野測定時のSpcの標準偏差/平均値が30%以下であるのは、第1実施形態と同様である。Spcは20mm-1以上60mm-1以下とするのがより好ましい。Spcの標準偏差/平均値は25%以下がより好ましい。
【0104】
このように構成した皮膜付銅端子材31は、基材2の上に、ニッケル又はニッケル合金からなるニッケルめっき、銅又は銅合金からなる銅めっき、及び錫又は錫合金からなる錫めっきを順に施すことにより、
図8に示すように、基材2上にニッケルめっき層41、銅めっき層42、錫めっき層43を積層しためっき材44を形成した後、リフロー処理することにより形成される。
【0105】
ニッケルめっき、銅めっき及び錫めっきの各条件については、第1実施形態から第3実施形態で説明したものと同様である。
【0106】
これらニッケルめっき層41、銅めっき層42、錫めっき層43を形成しためっき材44について、リフロー処理を実施することにより、皮膜付銅端子材31が形成される。このリフロー処理は第2実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0107】
このように製造した皮膜付銅端子材31は、皮膜32の下層部分にニッケル層33を有することから、銅の拡散が防止されて、耐熱性を向上させることができる。また、銅錫合金層34と錫層35とが凹凸形状の界面を有し、銅錫合金層34が錫層35を支持し、表面の山頂点の算術平均曲率および10視野測定時のCV値が所定の範囲内であるので、動摩擦係数が一様に安定して低い。
【実施例0108】
板厚0.25mmの銅合金板を基材とし、以下のめっき浴条件で各種めっきを施した。
【0109】
(ニッケルめっき)
硫酸ニッケル:300g/L
硫酸:2g/L
液温:45℃
電流密度:20ASD(A/dm2)
【0110】
(銅めっき)
硫酸銅:250g/L
硫酸:50g/L
液温:25℃
電流密度:5ASD
【0111】
(錫めっき)
硫酸錫:75g/L
硫酸:85g/L
添加剤:10g/L
液温:25℃
電流密度:2ASD
【0112】
これらめっきのうち、基材に錫めっき層を形成しためっき材(実施例1,5,9、比較例1,5)、基材に銅めっき層、錫めっき層を順に形成しためっき材(実施例2,6,10、比較例2,6)、基材にニッケルめっき層と錫めっき層を順に形成しためっき材(実施例3,7,11、比較例3)、基材にニッケルめっき層、銅めっき層、錫めっき層を順に形成しためっき材(実施例4,8,12、比較例4,7)をそれぞれ作製し、表1の条件でリフロー処理した。
【0113】
【0114】
得られた試料について、表面の錫層の平均厚さ、山頂点の算術平均曲率Spc、動摩擦係数を測定し、安定性を評価した。
【0115】
[錫層の平均厚さ]
錫層の平均厚さは、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製蛍光X線膜厚計(SEA5120A)にて測定した。
【0116】
銅錫合金層を有する試料においては、最初にリフロー処理後のサンプルの錫を含有する全錫含有層の厚さを測定した後、錫層を除去し、その下層の銅錫合金層を露出させ銅錫合金層の厚さを測定した後、(錫を含有する全錫含有層の厚さ-銅錫合金層の厚さ)を錫層の厚さと定義した。錫を含有する全錫含有層の厚さは、銅錫合金層部分および錫層部分を含むが、錫凝固物は凹凸があるため、平均厚さで算出される。錫層の除去は、銅錫合金層を腐食しない成分からなるめっき被膜剥離用のエッチング液に5分間浸漬することにより行った。
【0117】
[山頂点の算術平均曲率Spc]
レーザー顕微鏡(キーエンス株式会社製VKX-1100、対物レンズ×10)にて10視野について観察し、ISO25178に準拠して視野全画面にてSpcを測定し、SpcのCV値(標準偏差/平均値)を算出した。
【0118】
[動摩擦係数および安定性]
嵌合型のコネクタのオス端子とメス端子の接点部を模擬するように、各試料について内径1.5 mmの半球状のメス試験片と板状のオス試験片を作成した。アイコーエンジニアリング株式会社製の摩擦測定機(横型荷重試験機 型式M-2152ENR)を用い、メス試験片とオス試験片との間に100gf以上500gf以下の荷重をかけた状態で、オス試験片を摺動速度80mm/minで水平方向に10mm引っ張ったときの摩擦力を測定して動摩擦係数を求めた。
【0119】
動摩擦係数は、錫層が厚くなると下の硬い基材、ニッケル層、銅錫合金層の影響を受けにくくなり、軟らかい錫層の影響が大きくなるから、動摩擦係数が高くなる。錫層の平均厚さが1.0μm未満では動摩擦係数が0.3以下、錫層の平均厚さが1.0μm以上1.5μm未満では動摩擦係数が0.4以下、錫層の平均厚さが1.5μm以上では動摩擦係数が0.45以下であった試験片を合格(A)とし、それを超えた試験片を不合格(B)とした。
【0120】
上記方法で30回測定した値の平均値を算出し、30回の測定値が平均値±25%の範囲にあった試験片を安定性「A」、±25%以上の測定値があった試験片を安定性「B」とした。
【0121】
[接触抵抗値]
電気的信頼性を評価するため、大気中で150℃で500時間加熱し、接触抵抗を測定した。測定方法はJIS-C-5402に準拠し、4端子接触抵抗試験機(山崎精機研究所製:CRS-113-AU)により、摺動式(1mm)で0から50gまでの荷重変化-接触抵抗を測定し、荷重を50gとしたときの接触抵抗値で評価した。
【0122】
これらの結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
表1及び表2から明らかなように、実施例はいずれも、錫層平均厚さに応じて動摩擦係数が小さく、動摩擦係数の良好な安定性を示した。例えば実施例8では錫層厚さが1.2μmとやや厚く、硬い下の基材、ニッケル層、銅錫合金層の影響を受けにくく軟らかい錫層の影響を受けやすいが、動摩擦係数は0.37と良好な安定性を示している。
【0125】
これに対して、各比較例は以下のような不具合が認められた。比較例1は、冷却炉の炉内温度が70℃を超えるためSpcのCV値が過大であり、動摩擦係数の安定性が劣る。比較例2は、一次冷却の冷却風量が弱すぎるためSpcが過小であり、めっき同士の真実接触面積が大きくなり、錫層の厚さの割には動摩擦係数が劣っており、安定性が劣る。比較例3は、一次冷却の冷却風量が強すぎるためにSpcが過大なため挿抜試験の際表面の凹凸により突き刺さりが発生するため動摩擦係数が過大となり、またSpcのCV値が過大なため動摩擦係数の安定性が劣る。
【0126】
比較例4は、冷却炉の炉内温度が20℃未満のためSpc、SpcのCV値が過大であり、動摩擦係数が過大で、その安定性が劣る。比較例5は、材料到達温度が150℃未満のためSpcのCV値が過大であり動摩擦係数の安定性が劣る。比較例6は、材料到達温度が220℃を超えるためSpcのCV値が過大であり動摩擦係数の安定性が劣る。比較例7は、一次冷却の冷却風量が強すぎるためSpc、SpcのCV値が過大であり、動摩擦係数が過大で、その安定性が劣る。
【0127】
比較例8は、錫めっき層が薄すぎたため錫層が薄くなり、接触抵抗値が劣る。比較例9は、錫めっき層が厚すぎたため錫層が厚くなり、動摩擦係数が劣る。